特許第6585156号(P6585156)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6585156退行性神経疾患の予防または治療のためのグラフェンナノ構造体ベースの薬学的組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6585156
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】退行性神経疾患の予防または治療のためのグラフェンナノ構造体ベースの薬学的組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/44 20060101AFI20190919BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20190919BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20190919BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20190919BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20190919BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20190919BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20190919BHJP
   A61P 21/02 20060101ALI20190919BHJP
   A61K 47/06 20060101ALI20190919BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20190919BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20190919BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20190919BHJP
【FI】
   A61K33/44
   A61P25/00
   A61P25/14
   A61P25/16
   A61P25/28
   A61P3/10
   A61P9/10
   A61P21/02
   A61K47/06
   A61K47/10
   A61K47/44
   A61K47/68
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-503755(P2017-503755)
(86)(22)【出願日】2015年4月3日
(65)【公表番号】特表2017-510650(P2017-510650A)
(43)【公表日】2017年4月13日
(86)【国際出願番号】KR2015003385
(87)【国際公開番号】WO2015152688
(87)【国際公開日】20151008
【審査請求日】2018年4月2日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0040400
(32)【優先日】2014年4月4日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】513246872
【氏名又は名称】ソウル大学校産学協力団
【氏名又は名称原語表記】SEOUL NATIONAL UNIVERSITY R&DB FOUNDATION
(73)【特許権者】
【識別番号】398076227
【氏名又は名称】ザ・ジョンズ・ホプキンス・ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ホン、ビョン ヒ
(72)【発明者】
【氏名】ユ、ゼ ミン
(72)【発明者】
【氏名】ゴ、ハンソク
(72)【発明者】
【氏名】キム、ドンフン
【審査官】 小堀 麻子
(56)【参考文献】
【文献】 Adv Mater,2012年,Vol.24,p.1722-1728
【文献】 Adv Mater,2012年,Vol.24,p.1748-1754
【文献】 J Neurochem,2008年,Vol.104,p.457-468
【文献】 Nanoscale,2012年,Vol.4,p.7322-7325
【文献】 基礎老化研究,2013年,Vol.37, No.1,p.7-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 33/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェン量子ドット(graphene quantum dots)を有効成分として含む、退行性神経疾患の予防または治療のための薬学的組成物。
【請求項2】
薬学的に許容可能な担体または賦形剤をさらに含む、請求項1に記載の退行性神経疾患の予防または治療のための薬学的組成物。
【請求項3】
前記退行性神経疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、HIV認知症、脳卒中、老人性全身性アミロイドーシス、一次性全身性アミロイドーシス、二次性全身性アミロイドーシス、2型糖尿病、筋萎縮性アミロイドーシス、血液透析関連アミロイドーシス、伝達性海綿状脳症及び多発性硬化症からなる群より選択される、請求項1に記載の退行性神経疾患の予防または治療のための薬学的組成物。
【請求項4】
前記担体または賦形剤は、ワセリン、ラノリン、ポリエチレングリコール、アルコール及びこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項2に記載の退行性神経疾患の予防または治療のための薬学的組成物。
【請求項5】
前記グラフェン量子ドットは、1nm〜20nmの範囲のサイズを有する、請求項1に記載の退行性神経疾患の予防または治療のための薬学的組成物。
【請求項6】
前記グラフェン量子ドットは、タンパク質のミスフォールディング(misfolding)によるフィブリルの形成を抑える、請求項1に記載の退行性神経疾患の予防または治療のための薬学的組成物。
【請求項7】
前記グラフェン量子ドットは、ミスフォールディングされたタンパク質の転移(transmission)を抑える、請求項1に記載の退行性神経疾患の予防または治療のための薬学的組成物。
【請求項8】
前記グラフェン量子ドットは、体内に蓄積されないものである、請求項1に記載の退行性神経疾患の予防または治療のための薬学的組成物。
【請求項9】
前記グラフェン量子ドットの末端にある作用基に神経タンパク質をターゲティングする物質が結合されたものを含む、請求項1に記載の退行性神経疾患の予防または治療のための薬学的組成物。
【請求項10】
前記グラフェン量子ドットは、遠赤外線レーザの照射によって光熱効果を示す、請求項1に記載の退行性神経疾患の予防または治療のための薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、グラフェンナノ構造体(graphene nanostructure)を有効成分として含む退行性神経疾患の予防または治療のための薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質のミスフォールディング(misfolding)は、正常なタンパク質の機能の消失をもたらすだけでなく、非正常なタンパク質が細胞内に蓄積されることによって毒性を引き起こし、これにより、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、ルー・ゲーリック病、癌、嚢胞性線維症、2型糖尿病のような種々の疾病がもたらされることが知られている。即ち、タンパク質恒常性(proteostasis)がまともに作用しないことにより、タンパク質のミスフォールディングと細胞内の非正常な蓄積をもたらしてしまうのである。
【0003】
退行性神経疾患の発病は、その原因が未だ100%明らかになったわけではないが、神経タンパク質の凝集が主な要因であるという事実は既に良く知られている。フィブリル構造で作られたタンパク質は、周辺のニューロンに次第に転移(transmission)され、結局、脳の特定部分のニューロンを全て壊死させることによって、その部分が担当する機能を行えなくする。パーキンソン病の場合、ドーパミンという神経伝達物質を生成するニューロンが次第に壊死していきながら病状が進行する。現在、パーキンソン病の患者に処方されている最も一般的な薬物はSinemetという薬品であり、これを始めとする他のパーキンソン病治療剤は、疾病を根本的に治療したり、進行を遅らせる機能をするよりは、神経細胞内でドーパミンに変化するレボドパ(Levodopa,L−DOPA)を投入することによって症状の一時的な緩和のみを達成する。結局、病状の進行によって薬物の効果が減少し、死亡に至る。
【0004】
タンパク質のミスフォールディングに関する研究として進行された抗アミロイド化合物(anti−amyloid compound)の種類の1つであるコンゴーレッド(Congo Red)などは、タンパク質のミスフォールディングによるフィブリルの形成を防ぐ効果はあるが、体への毒性が大きく、ミスフォールディングされたタンパク質の転移を抑えて疾患の進行を遅らせる効果まではないという短所がある。また、従来の薬物は、そのサイズが均一な1つの形態に特定されるため、熱力学的な側面(entropy)から見ると、病気の治療について格別な利点を示していない。
【0005】
よって、タンパク質のミスフォールディングを治療するために様々な研究が行われているが(韓国公開特許第10−2009−0019790号公報)、体への毒性がなく、しかも優秀な抑制能力を示す治療剤については未だに大きな成果がなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願は、グラフェンナノ構造体を有効成分として含む退行性神経疾患の予防または治療のための薬学的組成物を提供する。
【0007】
しかし、本願が解決しようとする課題は、上記した課題に限定されるものではなく、記述されていない他の課題は、以下の記載から当業者に明確に理解されることができるはずである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の一側面は、グラフェンナノ構造体を有効成分として含む退行性神経疾患の予防または治療のための薬学的組成物を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本願の具体例に係るグラフェンナノ構造体を有効成分として含む退行性神経疾患の予防または治療のための薬学的組成物は、グラフェンナノ構造体を退行性神経疾患の予防及び治療に使用する最初の試みである。グラフェンナノ構造体は、体への毒性がなく、体に蓄積されることもなく、タンパク質のミスフォールディングによるフィブリルの形成を80%まで抑えるなどの卓越した効能を示し、ミスフォールディングされたタンパク質の転移を抑えて病状の進行を遅らせることにも効果的である。また、従来の治療剤とは異なり、グラフェンナノ構造体は1つの形態に特定されるものではなく、それぞれのグラフェンナノ構造体毎に分子量、分子式、形態などが何れも異なるので、熱力学的な側面から見て結晶の形成自体を妨げ、疾患の根本的な治療が可能である。それだけでなく、グラフェンナノ構造体は、UV−vis領域で蛍光を表し、適切にかかる蛍光の強度を調節すれば、体内で薬物として作用するグラフェンナノ構造体がどのように動くのか追跡(tracking)することができるという長所がある。または、グラフェンナノ構造体の末端に結合された作用基に神経タンパク質をターゲティングする物質を連結させて神経タンパク質を追跡することができるという長所がある。かかる方式でグラフェンナノ構造体を神経タンパク質の近くまで誘導した後、細胞へのダメージが少ない遠赤外線レーザを照射すれば、グラフェンナノ構造体の光熱効果によりフィブリル化及び凝集現象を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本願の一実施例に係るグラフェン量子ドットのTEM及びAFMのイメージである。
図2】本願の一実施例に係るグラフェン量子ドットのPL分析結果を示すグラフである。
図3】本願の一実施例に係るグラフェン量子ドットのFT−IR分析結果を示すグラフである。
図4】本願の一実施例に係るグラフェン量子ドットのゼータ電位測定結果を示すグラフである。
図5】本願の実施例に係るグラフェンナノ構造体のフィブリル化抑制効果を示す。
図6a】本願の実施例に係るグラフェンナノ構造体によるニューロンの生存率を分析した結果(グラフ)を示す。
図6b】本願の実施例に係るグラフェンナノ構造体によるニューロンの生存率を分析した結果(イメージ)を示す。
図7a】本願の実施例に係るグラフェンナノ構造体の活性酸素種産生抑制活性を示す8−OHGの染色分析結果(イメージ)を示す。
図7b】本願の実施例に係るグラフェンナノ構造体の活性酸素種産生抑制活性を示す8−OHGの染色分析結果(グラフ)を示す。
図8a】本願の実施例に係るグラフェンナノ構造体のa−syn転移抑制を確認するための実験模式図である。
図8b】本願の実施例に係るグラフェンナノ構造体のa−syn転移抑制を確認した結果を示すイメージである。
図9】本願の実施例に係るグラフェンナノ構造体によるフィブリル化抑制のTEM分析結果を示す。
図10】本願の一実施例に係るグラフェン量子ドットによるフィブリル化抑制のAFM分析結果を示す。
図11a】本願の実施例に係るグラフェンナノ構造体によるフィブリル化抑制の高解像TEM分析結果を示す。
図11b】本願の実施例に係るグラフェンナノ構造体によるフィブリル化抑制の高解像TEM分析結果を示す。
図12】本願の実施例に係るグラフェンナノ構造体の注入後のPFFsの状態をBN−PAGEで分析した結果を示す。
図13】本願の一実施例に係るグラフェンナノ構造体とコンゴーレッドの発光特性を示すイメージである。
図14】本願の一実施例に係るグラフェンナノ構造体の光熱特性を示すグラフである。
図15】本願の一実施例により製造されたサンプルのFT−IRスペクトルを示す。
図16】本願の一実施例により製造されたサンプルの蛍光発光測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の属する技術分野において通常の知識を有する者が容易に実施できるように本願の具体例及び実施例を詳しく説明する。
【0012】
ところが、本願は、様々な異なる形態で具体化されることができ、ここで説明する具体例及び実施例に限定されるものではない。そして、図面において、本発明を明確に説明するために、説明とは関係ない部分は省略しており、明細書全体に亘って類似した部分に対しては類似した図面符号を付けている。
【0013】
本願の明細書全体において、ある部材が他の部材の『上に』位置しているという場合、これは、ある部材が他の部材に接している場合だけでなく、両部材の間にまた他の部材が存在する場合も含む。
【0014】
本願の明細書全体において、ある部分がある構成要素を『含む』という場合、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。本願の明細書全体において使用される程度の用語『約』、『実質的に』などは、言及された意味に固有の製造及び物質許容誤差が提示される場合、その数値で、またはその数値に近接した意味として使用され、本願の理解を助けるために、適確であるか絶対的な数値が言及された開示内容を非良心的な侵害者が不当に用いることを防止するために使用される。本願の明細書全体において使用される程度の用語『〜(する)ステップ』または『〜のステップ』は、『〜のためのステップ』を意味していない。
【0015】
本願の明細書全体において、マーカッシュ形式の表現に含まれた『これらの組み合わせ』という用語は、マーカッシュ形式の表現に記載された構成要素からなる群より選択される1つ以上の混合または組み合わせを意味するものであり、前記構成要素からなる群より選択される1つ以上を含むことを意味する。
【0016】
本願の明細書全体において、『グラフェン量子ドット(graphene quantum dots,GQDs)』は、酸化グラフェン(graphene oxides)や還元酸化グラフェン(reduced graphene oxides)のナノサイズの断片を意味する。
【0017】
本願の明細書全体において、『グラフェン』という用語は、複数の炭素原子が互いに共有結合により連結されて多環芳香族分子を形成したものを意味し、前記共有結合により連結された炭素原子は、基本繰り返し単位として6環を形成するが、5環及び/又は7環をさらに含んでも良い。
【0018】
本願の明細書全体において、『酸化グラフェン』という用語は、グラフェンオキサイド(graphene oxides)とも呼ばれ、『GOs』と略称されることもあり得る。グラフェン上にカルボキシル基、ヒドロキシル基、またはエポキシ基などの酸素を含有する作用基が結合された構造を含み得るが、これに限定されるものではない。
【0019】
本願の明細書全体において、『還元酸化グラフェン』という用語は、還元過程を経て酸素の割合が減った酸化グラフェンを意味し、還元されたグラフェンオキサイド(reduced graphene oxides)とも呼ばれ、『rGOs』と略称されることもあり得るが、これに限定されるものではない。
【0020】
以下、本願の具体例を詳しく説明したが、本願は、これに限定されるものではない。
【0021】
本願の第1の側面は、グラフェンナノ構造体(graphene nanostructure)を有効成分として含む退行性神経疾患の予防または治療のための薬学的組成物を提供する。
【0022】
本願の一具体例において、前記薬学的組成物は、薬学的に許容可能な担体または賦形剤をさらに含み得るが、これに限定されるものではない。前記薬学的に許容可能な担体または賦形剤は、薬学的組成物で使用可能なものであれば制限なしに使用でき、例えば、ワセリン、ラノリン、ポリエチレングリコール、アルコール及びこれらの組み合わせからなる群より選択されたものを含み得るが、これに限定されるものではない。
【0023】
本願の一具体例において、前記退行性神経疾患は、タンパク質のミスフォールディングに係わる疾患であり、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、HIV認知症、脳卒中、老人性全身性アミロイドーシス、一次性全身性アミロイドーシス、二次性全身性アミロイドーシス、2型糖尿病、筋萎縮性アミロイドーシス、血液透析関連アミロイドーシス、伝達性海綿状脳症及び多発性硬化症からなる群より選択されたものであり得るが、これに限定されるものではない。
【0024】
本願の一具体例において、前記グラフェンナノ構造体は、グラファイト、グラフェンまたはグラフェン量子ドットを含み得るが、これに限定されるものではない。
【0025】
前記グラフェン量子ドットは、例えば、約1nm〜約20nm、約5nm〜約20nm、約10nm〜約20nm、約15nm〜約20nm、約1nm〜約15nm、約1nm〜約10nm、または約1nm〜約5nmの範囲のサイズであり得るが、これに限定されるものではない。
【0026】
本願の一具体例において、前記グラフェンナノ構造体は、約1nm〜約100nm、例えば、約10nm〜約100nm、約30nm〜約100nm、約50nm〜約100nm、約70nm〜約100nm、約90nm〜約100nm、約1nm〜約90nm、約1nm〜約70nm、約1nm〜約50nm、約1nm〜約30nm、または約1nm〜約10nmの範囲の様々なサイズのグラフェンナノ構造体を含み得るが、これに限定されるものではない。
【0027】
本願の一具体例において、前記グラフェンナノ構造体は、タンパク質のミスフォールディング(misfolding)によるフィブリルの形成を抑え、且つ、ミスフォールディングされたタンパク質の転移(transmission)を抑えることができるが、これに限定されるものではない。
【0028】
本願の一具体例において、前記グラフェンナノ構造体は、体内に蓄積されず、体への毒性がない。
【0029】
本願の一具体例において、前記グラフェンナノ構造体は、フィブリル状態のタンパク質によるミトコンドリア機能障害を防ぐ機作を通じてニューロン内における活性酸素種の産生を抑えるものであり得るが、これに限定されるものではない。
【0030】
本願の一具体例において、前記グラフェンナノ構造体の末端にある作用基に神経タンパク質をターゲティングする物質、例えば、抗アミロイド物質であるコンゴーレッドやアミロイド検出染料(detecting dye)であるチオフラビン(thioflavin)TまたはSなどが結合されたものを含み得るが、これに限定されるものではない。
【0031】
本願に係る前記作用基は、酸素原子を含有する作用基として−OH、−COOH、−C=Oなどであり得るが、これに限定されるものではない。
【0032】
本願の一具体例において、前記グラフェンナノ構造体は、遠赤外線レーザの照射によって光熱効果を示すものであり得るが、これに限定されるものではない。
【0033】
本願の一具体例において、本願の薬学的組成物は、グラフェンナノ構造体の末端に結合された作用基に神経タンパク質をターゲティングする物質を連結させて神経タンパク質を追跡することができるという長所がある。かかる方式でグラフェンナノ構造体を神経タンパク質の近くまで誘導した後、細胞へのダメージが少ない遠赤外線レーザを照射すれば、グラフェンナノ構造体の光熱効果によりフィブリル化及び凝集現象を抑制することができる。
【実施例】
【0034】
以下、本願の実施例を通じてより具体的に説明するが、本実施例によって本願の範囲が限定されるものではない。
【0035】
製造例1
GQDsは、2012年Nano Lettersに発表された論文[Nano lett,12,844−849(2012)]を参考にして製造した。カーボンファイバを、硫酸と窒酸を3:1の割合で混合した溶液に入れた後、80℃で24時間加熱した(thermo−oxidation process)。反応が終了した後、透析過程、真空濾過などを通じて精製し、Rotovapで最終的にパウダー状のGQDsを収得した。このように作られたGQDsは、構造的に非常に様々なサイズ(約5nm〜約20nm)を有する粒子の形態で収得された(図1)。製造されたGQDsの他の特徴としては、UVランプで蛍光を示し(放出:490nm及び550nm)(JASCO FP−8300 Fluorescence Spectrometer)(図2)、808nmのNIRレーザを照射すると光熱(photothermal)効果を示した。FT−IR分析スペクトル(Thermo Scientific Nicolet iS 10 FT−IR Spectrometer)を見ると、GQDsの末端のカルボキシル基(−COOH)が1724cm−1で、芳香族C=Cピークが1614cm−1で観測された(図3)。最後に、ゼータ電位(Malvern Zetasizer Nano ZS)を通じて分析した表面の電荷は約−20mVであることが示された(図4)。
【0036】
製造例2
前記製造されたグラフェンナノ構造体(GQDs)の末端にある作用基に神経タンパク質をターゲティングする物質であるコンゴーレッドを結合した物質を下記の反応式のように反応させて製造した。前記コンゴーレッドの量を異ならせることで(100μg/mL、250μg/mL及び500μg/mL)、サンプル1、2、及び3をそれぞれ製造した。
【化1】
【0037】
実験例1
グラフェン量子ドットのフィブリル化抑制効果を、PFFs(pre−formed fibrils)というアルファシヌクレイン(alpha−synuclein)実験モデルを使用して決定した。具体的に、PFFsをニューロンに注入した後、一週間程経過するとフィブリルが形成され、これは、結局、ニューロンの壊死を誘発した。フィブリル化はアルファシヌクレインのリン酸化をもたらし、これは、図5に示すように染色されたイメージとして確認することができる。PFFs(1μg/mL)のみをニューロンに注入した際は稠密であったp−a−syn(phosphorylated alpha−synuclein)が、GQDs(1μg/mL)を注入すると、殆ど何も注入していない水準までなくなることが確認された(図5)。図5から分かるように、p−a−synを約80%まで減少させており、これは、事実上、殆ど完全にフィブリル化を抑える水準であると解釈されることができる。また、ニューロンの生存率も約20%程増加した(図6b)。GQDsのみを注入した場合のニューロンの生存率(TUNEL検定で分析)は、むしろPBS培地のみを注入した場合よりも良い結果となり、GQDsにニューロンへの毒性がないことが確認された(図6a及び図6b)。図6aの左側は損傷された細胞が赤の染色で表示されるタネル検定であり、中間部分は細胞核内のDNAが青の染色で表示されるDAPI染色であり、右側はこれらの定量(quantification)である。
【0038】
また、使用されたグラフェンナノ構造体がフィブリル状態のタンパク質によるミトコンドリア機能障害を防ぐ機作を通じてニューロン内における活性酸素種の生成を抑えることに関する実験として、一次培養されたニューロンを8−OHG(DNA酸化の主な産物である8−oxo−2'−deoxyguanosine)で染色し、分析した(図7a)。図7aから分かるように、活性酸素種の影響により生成される8−OHGの量が、グラフェンナノ構造体を注入することによって顕著に減ったことが確認された。ミトコンドリア機能障害に関する実験は、細胞の基礎呼吸速度(basal respiratory rate)、最大呼吸速度(maximal respiratory rate)及びミトコンドリアのComplex Iの活性の分析により確認された(図7b)。図7bのグラフに示されるように、PFFsのみをニューロンに注入した場合は、ミトコンドリアの呼吸速度が顕著に低下し、Complex Iの活性も減少したが、GQDsとPFFsを共にニューロンに注入した場合は正常な水準に回復することが確認された。この実験例におけるミトコンドリア機能障害に関する分析結果は、図6bのニューロンの生存率と符合する重要な結果であると思われる。
【0039】
実験例2
単にフィブリル化を抑え、ニューロンの生存率を高めることも重要であるが、退行性神経疾患の治療及び疾病の進行速度を遅らせるためには、周辺のニューロンに転移(transmission)されることを防ぐことが非常に重要である。その事実を確認するために、マイクロ流体デバイス(microfluidic device)をセットし、GQDsをどのチャンバ内に注入した場合に転移される過程を防ぐことができるかを確認した。図8aは簡単な実験の模式図であり、図8bはその実験結果を示すものである。C1(chamber 1)の場合、1つ目のチャンバにあるニューロンにGQDsを注入し、C2(chamber 2)の場合、2つ目のチャンバにあるニューロンにGQDsを注入した後、アルファシヌクレインのフィブリル化が周辺のニューロンに広がることを確認した。GQDsなしにPFFsのみがある陽性対照群の場合、フィブリル化が進行されたアルファシヌクレインが1つ目から3つ目のチャンバまで転移されたことが観察された。次に、1つ目のニューロンにGQDsを注入したデバイスの場合、そもそもフィブリル化があまり進行されておらず、それにより、2つ目及び3つ目のニューロンでもアルファシヌクレインのフィブリル化が殆ど観測されなかった。最後に、中間のニューロンにGQDsを注入したデバイスでは、1つ目のチャンバではある程度フィブリル化が進行されたが、GQDsが注入されている2つ目のニューロンからはその量が確実に減少し、続いて最後のニューロンでは殆どフィブリル化が進行されていないことが観察された。このデバイスにおいて、陽性対照であるPFFsのみを注入したデバイスと比べて初期フィブリル化の程度が異なるのは、デバイスに内在したエラーであり、GQDsがデバイス上で各ニューロン毎に完璧に分離されることができなかったためであると思われる。
【0040】
実験例3.
細胞内の実験と同様な方式でサンプリングを進行し(1μg/mLのGQDsと1μg/mLのPFFsを37℃でインキュベーションした後、シリカ基材上にサンプリング)、GQDsによるフィブリル化の抑制をOM(optical microscope)によって分析した結果、PFFsのみをインキュベーションした場合は、フィブリルの凝集と予想される大きな固まりが観察されたのに対し(図9の(a)及び(b))、GQDsを共にインキュベーションした場合は、GQDsとアルファシヌクレインオリゴマが絡まれているようなイメージが観察された(図9の(c)及び(d))。本結果の総アルファシヌクレイン及びGQDsの量が多すぎたし、これらの構造を明確に明かす程に鮮明なイメージではなかったが、2つのサンプルの結果が明らかに異なることは確認することができた。
【0041】
OM分析の際に準備したサンプリングと同様な方式でサンプリングを準備し、GQDsによるフィブリル化の抑制をAFM(atomic force microscope)によって分析した結果、PFFのみをインキュベーションした場合は、フィブリルとPFFsが凝集したレビー小体(lewy body)の形成が観察されたのに対し(図10の(b))、GQDsを共にインキュベーションした場合は、GQDsとアルファシヌクレインオリゴマが絡まれているようなイメージが観察された(図10の(d))。
【0042】
前記OM及びAFM分析のような方法でTEM(transmission electron microscopy)グリッド上にサンプリングし、高解像透過電子顕微鏡(high resolution−transmission electron microscope)によって分析した。図11aは、PFFsのみをTEM grid上にサンプリングし、分析したデータである。イメージから分かるように、非常に厚く長いフィブリルバンドルが形成されていることが観察された。これに対し、GQDsを共に注入したサンプルでは、AFMイメージで見られたようにGQDsとアルファシヌクレインオリゴマが絡まれているようなイメージが得られた(図11b)。
【0043】
図9図11bにおけるイメージが、PFFsにGQDsを注入した場合と注入しなかった場合とで格段な違いがあったものの、このようなイメージは乾燥した状態で得られたものであるため、GQDsを注入した後の正確なPFFsの状態を表すには限界があった。より詳しい分析のためにBN−PAGE(blue native polyacrylamide gel electrophoresis)によって分析した結果、驚くべき点が確認された(図12)。図12において、1番は陰性対照としてGQDsのみを注入した場合であり、2番及び4番のコラムはPFFsのみを注入した場合であり、3番及び5番のコラムはPFFsにGQDsを共に注入したサンプルであって、ゲルを流した結果、GQDsを注入した場合に、アルファシヌクレイン単位体(14.46kDa)に該当する領域に多量が検出されたことが確認できた。これは、PFFsにGQDsを注入すれば、PFFsのフィブリル化を防ぐだけでなく、むしろ単位体に戻るということを示す非常に重要なデータである。
【0044】
実験例4
前記製造例1で製造されたGQDsとコンゴーレッド溶液(対照群)に赤外線レーザを照射して、蛍光発光現象を暗い所で撮影し、その結果を図13に示した。
【0045】
また、NIRレーザを照射した際、コンゴーレッドや蒸留水(distilled water)に比べて高い光熱効果を示し、GQDの濃度(500μg/mL、250μg/mL、100μg/mL)に応じて、濃度の増加する程、温度が増加することを図14に示した。
【0046】
実験例5
様々な試料(前記製造例1及び2で製造されたGQDs、サンプル1、サンプル2、サンプル3及び比較例としてコンゴーレッド溶液)を用いてFT−IR分析、蛍光発光測定実験を行った。
【0047】
FT−IR分析スペクトルを示した図15を見ると、コンゴーレッド(congo red,CR)の−NHピークである3419cm−1では、コンゴーレッド濃度の増加に従ってピークが減少しており、GQDsの末端のカルボキシル基(−COOH)の1710cm−1ピークでも、コンゴーレッド濃度の増加に従ってピークが減少しており、ペプチド結合(−CONH)ピークである1660cm−1は、GQDsとコンゴーレッドの結合により次第に生成されており、芳香族C=Cピークである1614cm−1ピークは、予想通りに全てのサンプルで維持された。
【0048】
一方、前記試料の波長による蛍光発光特性を測定して図16に示した。ここで、コンゴーレッドは対照群として使用されており、サンプル1の蛍光発光ピークが最も高く示された。
【0049】
上述した本願の説明は例示のためのものであり、本願の属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本願の技術的思想や必須の特徴を変更せずに他の具体的な形態で容易に変形可能であるということを理解できるはずである。それゆえ、上記した実施例は全ての面において例示的なものであり、限定的なものではないと理解すべきである。例えば、単一型で説明されている各構成要素は分散して実施されることもでき、同様に、分散したものと説明されている構成要素も結合された形態で実施されることができる。
【0050】
本願の範囲は、上記の詳細な説明よりは後述する特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の意味及び範囲、並びにその均等概念から導出される全ての変更または変形された形態が本願の範囲に含まれることと解釈されなければならない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6a
図6b
図7a
図7b
図8a
図8b
図9
図10(a)】
図10(b)】
図10(c)】
図10(d)】
図11a
図11b
図12
図13
図14
図15
図16