(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6585164
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】バッテリの動作範囲を管理する方法
(51)【国際特許分類】
H02J 7/00 20060101AFI20190919BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20190919BHJP
G01R 31/374 20190101ALI20190919BHJP
G01R 31/382 20190101ALI20190919BHJP
G01R 31/385 20190101ALI20190919BHJP
G01R 31/387 20190101ALI20190919BHJP
G01R 31/392 20190101ALI20190919BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20190919BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20190919BHJP
【FI】
H02J7/00 B
H02J7/00 P
H02J7/00 Y
H01M10/48 301
H01M10/48 P
G01R31/374
G01R31/382
G01R31/385
G01R31/387
G01R31/392
B60L3/00 S
B60L50/60
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-513214(P2017-513214)
(86)(22)【出願日】2015年9月2日
(65)【公表番号】特表2017-535230(P2017-535230A)
(43)【公表日】2017年11月24日
(86)【国際出願番号】FR2015052318
(87)【国際公開番号】WO2016038276
(87)【国際公開日】20160317
【審査請求日】2017年12月21日
(31)【優先権主張番号】1458508
(32)【優先日】2014年9月10日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】サン−マルクー, アントワーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ドロベル, ブリュノ
【審査官】
早川 卓哉
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−220391(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0184913(US,A1)
【文献】
特開2007−057385(JP,A)
【文献】
特開2001−228226(JP,A)
【文献】
特開2012−103131(JP,A)
【文献】
特開2014−096958(JP,A)
【文献】
特表2009−500603(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J7/00−7/12
H02J7/34−7/36
H01M10/42−10/48
G01R31/36−31/396
B60L1/00−3/12
B60L7/00−13/00
B60L15/00−15/42
B60L50/00−58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリの充電状態の最低レベル(BSOCmin)から最高レベル(BSOCmax)までの範囲を許容動作範囲としてバッテリの充電状態を管理する方法であって、
バッテリ出力に関する健全性(SOHP)を推定するステップであって、バッテリ出力に関する健全性により、許容動作範囲の全体にわたって最低限の出力レベルを供給するバッテリの容量が特徴づけられるステップと、
バッテリ出力に関する健全性の低下に対してバッテリの充電状態の最低レベルが上昇するように、バッテリ出力に関する健全性(SOHP)の推定値に応じてバッテリの充電状態の最低レベル(BSOCmin)を決定するステップと、
バッテリエネルギーに関する健全性(SOHE)を推定するステップであって、バッテリエネルギーに関する健全性により、許容動作範囲の全体にわたって最低限のエネルギーレベルを供給するバッテリの容量が特徴づけられるステップと、
バッテリエネルギーに関する健全性の低下に対してバッテリの充電状態の最高レベルが上昇するように、バッテリエネルギーに関する健全性の推定値に応じてバッテリの充電状態の最高レベル(BSOCmax)を決定するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
バッテリ出力に関する健全性の低下に対してバッテリの充電状態の最高レベルが上昇するように、バッテリ出力に関する健全性(SOHP)の推定値に応じてバッテリの充電状態の最高レベル(BSOCmax)を決定するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
バッテリの寿命開始時にバッテリの充電状態の最低レベル(BSOCmin)を低下させることを含むステップを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
バッテリの寿命開始時にバッテリの充電状態の最高レベル(BSOCmax)を低下させることを含むステップを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
バッテリ出力に関する健全性(SOHP)の推定は、所与の温度条件及び充電状態条件下におけるバッテリの内部抵抗と、新品時のバッテリの同一条件下における内部抵抗値とを比較することを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
バッテリの充電状態の最低レベル(BSOCmin)から最高レベル(BSOCmax)までの範囲を許容動作範囲としてバッテリの充電状態を管理する装置であって、
バッテリ出力に関する健全性(SOHP)を推定する手段であって、バッテリ出力に関する健全性により、許容動作範囲の全体にわたって最低限の出力レベルを供給するバッテリの容量が特徴づけられる手段と、
バッテリ出力に関する健全性の低下に対してバッテリの充電状態の最低レベルが上昇するように、バッテリ出力に関する健全性(SOHP)の推定値に応じてバッテリの充電状態の最低レベル(BSOCmin)を決定することが可能である処理手段と、
バッテリエネルギーに関する健全性(SOHE)を推定する手段であって、バッテリエネルギーに関する健全性により、許容動作範囲の全体にわたって最低限のエネルギーレベルを供給するバッテリの容量が特徴づけられる手段と、
前記処理手段は、バッテリエネルギーに関する健全性の低下に対してバッテリの充電状態の最高レベルが上昇するように、バッテリエネルギーに関する健全性の推定値に応じてバッテリの充電状態の最高レベル(BSOCmax)を決定することが可能である、装置。
【請求項7】
前記処理手段は、バッテリ出力に関する健全性の低下に対してバッテリの充電状態の最高レベルが上昇するように、バッテリ出力に関する健全性の推定値に応じてバッテリの充電状態の最高レベル(BSOCmax)を決定し得る、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
バッテリと、請求項6または7に記載のバッテリの許容動作範囲を管理する装置とを備える、自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池の動作範囲を管理する方法に関する。
【0002】
排他的にではないが、想定される利用分野の1つは、具体的には電気自動車、ハイブリッド自動車または充電式ハイブリッド自動車で使用されるリチウムイオンバッテリの管理である。このタイプのバッテリは、公称電圧を供給するように設計された、再充電可能な電気化学システムを含む複数の蓄電池またはセルを備える。
【背景技術】
【0003】
バッテリの動作範囲は、充電及び放電の両方に関して、このバッテリの充電状態(SOC)の許容範囲に相当する。この動作範囲は、一方では、バッテリにそれを上回る上昇が許容されていない充電状態に相当する最高充電状態によって特徴づけられ、また他方では、バッテリにそれを下回る下降が許容されていない充電状態である最低充電状態によって特徴づけられる。
【0004】
最高許容充電状態は、例えばバッテリの電極間で測定され得る、充電終止電圧またはカットオフ電圧によって規定される。この電圧は実際、バッテリを形成するセルの充電限界を表している。言い換えれば、これは、充電が実際に終了したことを判定するために、各セルの電極間の最高電圧が充電終了時に到達しなければならない値である。充電終止電圧が高い場合には、バッテリの寿命開始時において利用可能なエネルギーは増大するが、これに対してバッテリの経年劣化は早くなる。したがって、充電終止電圧を管理するため、短期間にバッテリによって提供されるエネルギーレベルとバッテリの耐久性との間で、妥協点を見出すことが必要である。
【0005】
バッテリの最低充電状態を管理するという問題が、同様に重大であることは理解されよう。実際、最低充電状態が高すぎる場合、ユーザが利用可能なエネルギーは、必要最低エネルギーレベルに対して望ましいレベルのものではない。一方、最低充電状態が低すぎる場合、ある利用例、具体的には低温を伴う条件においては、バッテリが、必要最低出力レベルを供給できないレベルの充電状態になってしまうリスクがある。したがって、バッテリの最低許容充電状態を管理するため、ユーザに対して保証したい望ましいエネルギーレベルと、冷間時を含むバッテリの動作範囲全体にわたる、バッテリの利用可能な放電出力との間で、妥協点を見つけることもまた必要である。
【0006】
したがって、主にセルと専用のBMS(バッテリ管理システム)コンピュータからなるバッテリシステムは、性能について言えば、寿命開始時のみならず何年か後にも、必要最低エネルギーレベルが保証されなければならないし、寿命開始時のみならず何年か後にも、動作範囲全体にわたって、必要最低出力レベルが保証されなくてはならない。
【0007】
特許文献WO2012074406は、温度、電気ネットワーク及び充電器のタイプといった種々の条件に適合させてバッテリを充電することを確実にするため、充電器に対して提供するための修正可能な充電アルゴリズムをBMSが決定できる、電気自動車のバッテリの充電の管理方法を開示している。この方法によって、公称条件における望ましいエネルギーレベルまで、バッテリを充電することが可能になる。しかし、前記方法では、利用可能なエネルギーレベルに影響し得る「分散」の原因全てを管理することはできない。実際、困難のうちの1つは、所定の充電終止電圧においてユーザが利用可能なエネルギーは、主として以下の3つの要素に関して、同じではないという事実にある。
− バッテリの温度。このため、バッテリの温度が低いほど、セルの内部抵抗は大きくなり、この充電終止電圧から放電され得るエネルギーの量はより小さくなる。
− バッテリの経年。バッテリの健全性が劣化するほど、バッテリ内の利用可能容量(A.hで表される)は制限され、この充電終止電圧から放電され得るエネルギーの量は小さくなる。
− 最高充電量を有するセルの充電状態と、最低充電量を有するセルの充電状態との差として規定される、セルの不均衡。このため、セルの不均衡が大きいほど、この充電終止電圧から放電され得るエネルギーの量は小さくなる。なぜならば、最低のセルが他のセルよりも速く放電終止電圧の限界(最低充電状態)に到達するからである。
【発明の概要】
【0008】
したがって、発生する問題であって本発明が解決を目指す1つの問題は、バッテリの動作範囲の管理方法を提供し、バッテリの経年に沿って、厳密に必要な必要最低エネルギーレベルと必要最低出力レベルが保証され得るようにすることである。
【0009】
この目的のため、本発明は、バッテリの許容動作範囲の管理方法を提供する。前記許容動作範囲は、バッテリの充電状態の、最低レベルと最高レベルとの間に限定されており、前記方法は、前記バッテリの出力に関する健全性を推定するステップを含み、前記出力に関する健全性は、前記動作範囲の全体にわたって必要最低出力レベルを供給するようにバッテリの容量を特徴づけ、前記方法は、出力に関する健全性が低下するときに前記充電状態の最低レベルが上昇するように、前記出力に関する健全性の推定値に応じて前記バッテリの前記充電状態の最低レベルを決定するステップをさらに含むことを特徴とする。
【0010】
したがって、バッテリの出力に関する健全性に応じて充電状態の最低許容レベルを調整するおかげで、経年に伴うバッテリの許容放電出力の漸減を補償することが可能になる。
【0011】
有利には、本方法は、出力に関する健全性が低下するときに前記充電状態の最高レベルが上昇するように、前記バッテリの前記出力に関する健全性の推定値に応じて前記バッテリの前記充電状態の最高レベルを決定するステップをさらに含み得る。有利には、これによって経年に伴う許容放電出力の漸減を補償することが可能になる。
【0012】
有利には、バッテリ容量の減少を補償するため、方法は以下のステップもまた含み得る。
− 前記バッテリのエネルギーに関する健全性であって、前記動作範囲の全体にわたって必要最低エネルギーレベルを供給するように、前記バッテリの容量を特徴づける前記エネルギーに関する健全性を推定するステップ、
− エネルギーに関する健全性が低下するときに前記充電状態の最高レベルが上昇するように、前記バッテリの前記エネルギーに関する健全性の推定値に応じて前記バッテリの前記充電状態の最高レベルを決定するステップ。
【0013】
別の有利な特徴によると、バッテリの寿命全体にわたって厳密に必要な必要最低出力レベルが保証され得るようにするため、方法は、前記バッテリの寿命開始時において前記バッテリの前記充電状態の最低レベルを低下させることを含むステップを含み得る。
【0014】
別の有利な特徴によると、バッテリの動作範囲を限定することによって、寿命開始時にバッテリの劣化を制限し得るようにするため、方法は、前記バッテリの寿命開始時において前記バッテリの前記充電状態の最高レベルを低下させることを含むステップもまた含み得る。
【0015】
有利には、前記バッテリの前記出力に関する健全性の推定は、所与の温度条件及び充電状態条件におけるバッテリの内部抵抗と、バッテリの新品時の前記条件下における前記内部抵抗値とを比較することを含む。
【0016】
別の態様によると、本発明は、プロセッサによって実行されたときに、本発明の方法のステップを行う命令を含む、コンピュータプログラムに関する。
【0017】
上記のバッテリの動作範囲の管理方法は、例えばマイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、または他の手段といった、デジタル処理手段によって実装され得る。有利には、本方法は専用のバッテリシステムコンピュータ(BMS)によって実装され得る。
【0018】
この目的のため、バッテリの許容動作範囲を管理する装置もまた提供される。前記許容動作範囲は、バッテリの充電状態の、最低レベルと最高レベルとの間に限定されており、前記装置は、前記バッテリの出力に関する健全性を推定する手段を含み、前記出力に関する健全性は、前記動作範囲の全体にわたって必要最低出力レベルを供給するように前記バッテリの容量を特徴づけ、処理手段は、前記バッテリの出力に関する健全性が低下するときに前記充電状態の最低レベルが上昇するように、前記出力に関する健全性の推定値に応じて前記バッテリの前記充電状態の最低レベルを決定することが可能である。
【0019】
有利には、前記処理手段は、前記バッテリの出力に関する健全性が低下するときに前記充電状態の最高レベルが上昇するように、前記バッテリの前記出力に関する健全性の推定値に応じて前記バッテリの前記充電状態の最高レベルを決定し得る。
【0020】
好ましくは、装置は、前記バッテリのエネルギーに関する健全性であって、前記動作範囲の全体にわたって必要最低エネルギーレベルを供給するように、前記バッテリの容量を特徴づける前記エネルギーに関する健全性を推定する手段を含み、前記処理手段は、前記バッテリのエネルギーに関する健全性が低下するときに前記充電状態の最高レベルが上昇するように、前記バッテリの前記エネルギーに関する健全性の推定値に応じて前記バッテリの前記充電状態の最高レベルを決定することが可能である。
【0021】
この装置は、例えば1または複数のプロセッサを備え得るか、または1または複数のプロセッサと一体化され得る。
【0022】
本発明は、バッテリと、上記のような、前記バッテリの許容動作範囲の管理デバイスとを備える自動車にもまた関する。
【0023】
本発明の他の特徴と利点は、完全に非限定的な例として示される後述の本発明の具体的実施形態の記載を読み、添付図面を参照することで、明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、いわゆる基準バッテリの、バッテリの経年に応じた許容動作範囲を表すグラフと、並行して、これもまた経年に応じた、環境温度(例えば25°C)においてユーザが利用可能なエネルギーを表すグラフと、冷間時の充電状態の最低許容レベルにおいて利用可能な出力を表すグラフの例を示す。
【
図2】本発明の第1の手法による、厳密に必要な望ましい性能レベル(利用可能なエネルギー及び利用可能な出力)の供給を可能にする、バッテリの許容動作範囲の管理の例を示す、
図1と同様のグラフである。
【
図3】第1の手法と組み合わされ得る、本発明の第2の手法による、バッテリの許容動作範囲の管理の例を示す、
図1と同様のグラフである。
【
図4】バッテリの出力に関する健全性を推定するための実施形態を示すグラフである。
【
図5】バッテリの利用可能放電出力を決定するための実施形態を示すグラフである。
【
図6】バッテリの経年に応じた、充電状態の最低許容レベルのマップの一例を示すグラフである。
【
図7】バッテリの経年に応じた、充電状態の最高許容レベルのマップの一例を示すグラフである。
【
図8】バッテリのエネルギーに関する健全性に応じて、充電終止電圧を決定する一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本書の残りの部分で使用される変数を、以下に列挙する。
N:バッテリ内のセルの数である。
V
icell:i番目のセルの電圧である(単位は[V])。
V
maxcell=max(V
icell,i∈1..N):最高セル電圧である(単位は[V])。
V
mincell=max(V
icell,i∈1..N):最低セル電圧である(単位は[V])。
BSOC:バッテリの充電状態である(SOCはState Of Chargeの略、単位は[%])。
OCV:セルの無負荷電圧である(単位は[V])。所与のBSOC値及び所与の温度に、OCVのレベルが対応する。
BSOC
min:充電状態の最低レベルであり、バッテリはそれを下回る下降は許容されていない(単位は[%])。
BSOC
max:充電状態の最高レベルであり、バッテリはそれを上回る上昇は許容されていない(単位は[%])。
Q
max:バッテリの総容量である(単位は[A.h.])。
SOHE:バッテリのエネルギーに関する健全性である(単位は[%])。エネルギーに関する健全性は、必要最低エネルギーレベルを供給するためのバッテリの容量を表し、これ以降、基準温度(例えば25°C)、一定の基準電流(例えば1C)で、カットオフ電圧(例えば2.5V)に到達するまで、所与のバッテリの寿命において、満充電されたバッテリが放電し得るエネルギーと、バッテリの新品時の同条件下における、バッテリが放電し得るエネルギーとの間の比率によって規定される。このように、寿命開始時にはこの比率は100%であり、徐々に低下する。実際、バッテリの使用と経年の間に生じる物理的及び化学的な不可逆的変化の結果、バッテリの健全さ(性能)はバッテリの寿命の間に漸進的に劣化する傾向があり、最終的にはバッテリはそれ以上使用できない状態に至る。このようにSOHEは、バッテリの健全性と、新品のバッテリと比較した、利用可能なエネルギーという具体的な性能を供給するバッテリの容量とを示している。
DCR
icell:セルの内部抵抗である(単位は[ohm])。
SOHP:バッテリの出力に関する健全性である(単位は[%])。出力に関する健全性は、必要最低出力レベルを供給するためのバッテリの容量を表し、これ以降、基準温度(例えば−20°C)、基準充電状態(例えばBSOC=20%)で、所与のバッテリの寿命におけるバッテリの10秒間の内部抵抗と、バッテリの新品時の同条件下における内部抵抗との間の比率によって規定される。したがって、この比率は寿命の開始時には100%であり、次第に低下する(少なくとも、バッテリの一定の経年レベルを超えた場合)。このようにSOHPは、バッテリの健全性と、新品のバッテリと比較した、許容される利用可能な放電出力という具体的な性能を供給するバッテリの容量とを示している。
【0026】
バッテリの許容動作範囲は、常に、BMSシステムによって規定される。バッテリの許容動作範囲は、場合によっては温度に依存することもある。既定では、
図1のグラフに示されるように、最低充電状態レベルBSOC
minと最高充電状態レベルBSOC
maxとの間に限定されるこの許容動作範囲は、当初、バッテリの経年に応じた変化はしないと考えられ得る。言い換えれば、許容される最低充電状態レベルBSOC
minと最高充電状態レベルBSOC
maxは、バッテリの経年に対して固定のままである。
【0027】
このケースで、バッテリの容量が、環境温度における最低期間(通常2年間)の必要最低エネルギーレベルと、冷間時(通常−20°C)のBSOC
minにおける必要最低出力レベルとを同時に保証するようにサイズ決めされている場合には、
図1のグラフに示すように、バッテリの寿命開始時に、ユーザが冷間時(通常−20°C)のBSOC
minにおける利用可能出力の余剰と、環境温度における利用可能エネルギーの余剰とを両方有することが理解される。
【0028】
こうして、
図2のグラフに示されるように、バッテリの動作範囲の管理を最適化する第1の方法は、バッテリの寿命全体にわたって厳密に必要な必要最低出力レベルを保証するための、バッテリの寿命開始時におけるBSOC
minの下位レベルを規定することである。この手法に加えて、ユーザが利用可能なエネルギーを、
図1に示されるバッテリの動作範囲の構成と同じレベルに保ちながら、BSOC
maxを低下させることもまた可能である。充電状態の最大許容レベルをこうして低下させることによって、バッテリの耐久性を顕著に改善することが可能になる。なぜならば、少なくともバッテリの寿命開始時において、バッテリが(実際にはバッテリを劣化させる)高充電状態にある時間がより少なくなるからである。対照的に、バッテリの寿命開始時においては、環境温度における経年に応じたユーザ利用可能エネルギーを示す
図2のグラフに表されるように、ユーザは、必要最低エネルギーレベルに対して不要な利用可能エネルギーの余剰を、未だに有している可能性がある。こうして、最適化のこの第1の方法によって、バッテリの寿命全体にわたって、必要最低出力レベルに対して、利用可能な出力に関して厳密に必要な望ましい性能レベルを保証することが可能になるが、必要最低エネルギーレベルに対して、厳密に必要な利用可能エネルギーに関する望ましい性能レベルを供給することは、可能にならない。
【0029】
したがって、
図3のグラフに示されるように、バッテリの動作範囲の管理を最適化する第2の方法は、バッテリの寿命全体にわたって、必要最低エネルギーレベルに対して厳密に必要なユーザの利用可能エネルギーを保証するため、バッテリの寿命開始時におけるBSOC
maxをさらに低下させることである。充電状態の最大許容レベルBSOC
maxをこのようにさらに低下させることによって、バッテリの耐久性を顕著に改善することが可能になる。なぜならば、少なくともバッテリの寿命開始時において、バッテリが(実際にはバッテリを劣化させる)高充電状態にある時間がさらに少なくなるからである。この最適化の第2の方法は、バッテリの耐久性をさらに増大させるため、上記の最適化の第1の方法と組み合わされ得る。
【0030】
上記に関して、好適な一実施形態によると、BMSシステムは、経年に伴うバッテリの許容放電出力の漸減が補償されるように、バッテリの出力に関する健全性SOHPに応じてバッテリの充電状態の最低許容レベルBSOC
minを調整するロジックを実装するように設計されている。より正確には、バッテリの寿命全体にわたって必要最低出力レベルを保証するため、充電状態の最低許容レベルは、限界値に到達するまでバッテリの経年の進行に応じて上昇させられる。
図2及び
図3に示すように、利用可能な放電出力の減少を補償するため、バッテリの経年が進むほど、充電状態の最低レベルBSOC
minを上昇させることが一層必要になる。言い換えると、バッテリの出力に関する健全性が低下するときに、充電状態の最低レベルは上昇する。
【0031】
さらに、BMSシステムは好ましくは、バッテリの総容量の減少が補償され、耐久性を維持しながら十分長期の間にわたって必要最低エネルギーレベルが維持されるように、バッテリのエネルギーに関する健全性SOHEに応じてバッテリの充電状態の最高許容レベルBSOC
maxを調整するロジックを実装するように設計される。
【0032】
こうして、本発明によれば、(経年に依存する)バッテリの出力に関する健全性の計算に基づいて、バッテリにそれを下回る下降が許容されていない充電状態の最低レベルが管理される。バッテリの出力に関する健全性の計算の一般原理が、
図4に関連して示される。このように、時点t1とt2との間に限定される期間、例えば10秒間に等しい期間中の電流の変動ΔI
batが、セル電圧の変化ΔV
cellと比較される。これらの2つの変化の間の比率は、セルの見かけの抵抗RESISTANCE
apparentcellに相当する。この抵抗が特定の周波数帯域にわたって決定されている場合、代わりにセルのインピーダンスが参照されるであろうことは、留意されよう。この情報に基づいて、この見かけの抵抗と、このセルが新品であれば同条件下で有したであろう内部抵抗の値RESISTANCE
NEWcellとを比較するために、BMSシステムが提供される。こうして実際には、バッテリの出力に関する健全性SOHPは、BMSシステムによって以下のように計算される。
SOHP=RESISTANCE
NEWcell/RESISTANCE
apparentcell、こうして、セルの内部抵抗の増加を特徴づける比率が規定される。
【0033】
温度及び充電状態の範囲全体にわたって有効な単一のSOHP値の決定を選択するのが可能であるか、または、バッテリの温度に応じたSOHP値の決定を選択するのが可能である。
【0034】
こうして、バッテリの出力に関する健全性の推定値に応じてバッテリの充電状態の最低許容レベルを決定するために、BMSシステムが提供される。
【0035】
利用可能な放電出力は、一方では、カットオフ電圧レベルV
minより下に低下することなく、また他方では、最大放電電流I
bat_MAXを超過することなしに、バッテリが供給できる出力の最大値に相当する。
【0036】
こうして数学的には、あるレベルの充電状態から利用可能な放電出力は、以下のようにして計算され得る。
【0037】
このように、
図5に関連して示されるように、利用可能な放電出力は、バッテリの内部抵抗に直接依存する。寿命開始時におけるバッテリの内部抵抗レベルDCRBOLと共に、バッテリの出力に関する健全性SOHPが考慮に入れられる場合、以下が得られる。
【0038】
バッテリの経年に伴う、バッテリの出力に関する健全性SOHPの低下が、所与の充電状態における利用可能な出力の低下をもたらすことが見える。このように、経年を経たバッテリ、即ち100%未満のSOHPを有するバッテリに関して、必要最低出力レベルを保証するためには、無負荷電圧OCVを上昇させ、その結果、充電状態の最低レベルBSOC
minを上昇させることが必要である。
【0039】
このように、各温度に関して(冷間時はなおさら)、またSOHPの各レベルに関して、充電状態の最低レベルBSOC
minを決定することが可能であり、それによって必要最低出力が保証され得る。したがって、
図6に示すように、経年に応じて、具体的にはバッテリの出力に関する健全性SOHPの進行に応じて、充電状態の最低許容レベルBSOC
minのマップを推論することが可能である。そこから、バッテリの出力に関する健全性が低下するときに充電状態の最低許容レベルが上昇するということが見える。
【0040】
BMSシステムは、バッテリのエネルギーに関する健全性SOHEを推定するためにもまた提供される。バッテリのエネルギーに関する健全性を推定する方法は、幾つかある。例えば、この推定のために、特許“METHOD AND APPARATUS OF ESTIMATING STATE OF HEALTH OF BATTERY” (US2007/0001679 A1)に記載された方法、または文献“R. Spotnitz, “Simulation of capacity fade in lithium ion batteries”, Journal of Power Sources 113 (2003) 72−80”に記載された方法のうちの1つが用いられ得る。
【0041】
上記では、バッテリの寿命全体にわたって厳密に必要な必要最低出力レベルを保証するため、充電状態の最低許容レベルBSOC
minを出力に関する健全性SOHPに応じて調整することである最適化の第1の方法に加えて、
図1に示す基準動作範囲の構成に関するものと同量のエネルギーを維持するため、充電状態の最高許容レベルBSOC
maxを出力に関する健全性SOHPに応じて調整することもまた可能であることが分かっている。したがって、第1の概算として、
図7に示すように、バッテリの寿命全体にわたって、BSOC
maxとBSOC
minとの間の充電状態の乖離を一定に維持することが望ましいと考えることができる。低充電状態時の1アンペア時が高充電状態時の1アンペア時よりも多くのエネルギーを含んでいる限り、バッテリの出力に関する健全性SOHPのみに基づいて充電状態の最高許容レベルBSOC
maxを決定し続けるという原理を維持しながら、BSOC
maxとBSOC
minとの間の乖離を僅かに調整することが可能である。
【0042】
上記の、バッテリの動作範囲の管理を最適化する第2の方法の文脈において、バッテリの充電状態の最高許容レベルBSOC
maxは、厳密に必要な必要エネルギーレベルを保証するために決定される。即ち、バッテリの充電状態の最高許容レベルBSOC
maxは、もはやバッテリの出力に関する健全性SOHPに応じては決定されず、バッテリのエネルギーに関する健全性SOHEに応じて決定される。これを行うため、BMSに実装されるマップVcutOff=f(SOHE)によって、上記の方法で推定されたSOHEに基づいて充電終止電圧VCutOffを決定することが可能になり、
図8に示すように、充電終止電圧VCutOffを上昇させることによって、バッテリの容量の減少(バッテリのエネルギーに関する健全性SOHEの低下)を補償することが可能になる。こうして、バッテリの寿命全体にわたって一定の必要最低エネルギーレベルを保証するため、充電終止電圧、(及びそれによって)充電状態の最高許容レベルは、限界値に到達するまでバッテリの経年の進行(エネルギーに関する健全性の低下)に応じて上昇させられる。
【0043】
こうして、バッテリの充電状態の最高許容レベルBSOC
maxは、上記のように、バッテリのエネルギーに関する健全性SOHEに応じてのみならず、バッテリの出力に関する健全性SOHPに応じても決定されることができる。これがなされるのは、上記のように、バッテリの出力に関する健全性SOHPの低下に従って、充電状態の最低レベルBSOC
minが上昇するという事実を考慮に入れるためであり、こうしてユーザには、基準動作範囲にわたって同じエネルギーレベルが維持される。これを行うためには、SOHPの進行とSOHEの進行との間に相関関係が存在するという事実を考慮することが有用であり得る。この相関関係は、セル上で実施された(オフラインの)テストに基づいて、経験的に決定され得る。言い換えれば、バッテリにそれを上回る上昇が許容されていない充電状態の最高レベルを管理するために、BMSシステムは、SOHPの計算のみに応じてか、SOHEの計算のみに応じてか、または両者(SOHP及びSOHE)の組合せに応じて充電状態の最高許容レベルBSOC
maxを調整する、ロジックを実装するように設計される。
【0044】
このように、本発明による、バッテリの動作範囲を管理するための最適な方策によれば、寿命の開始時に、バッテリ(即ちバッテリの動作範囲)を、充電状態の最低許容レベルと充電状態の最高許容レベルとの両者に関して厳密に必要なものに制限することで、厳密に必要な必要最低エネルギーレベル及び必要最低出力レベルを保証することが可能になる。車両が使用される当初の何年間かは、この方策によれば、バッテリにそれを下回る下降が許容されていない充電状態の最低レベルを徐々に上昇させることで、利用可能な放電出力の減少を補償することが可能になる。さらに、寿命開始時にバッテリの動作範囲を制限することと、経年に応じて充電終止電圧(したがって充電状態の最高許容レベル)を徐々に上昇させることによって、車両が使用される当初の何年間かに、バッテリの容量の減少を補償することも、また可能になる。有利には、この方策によれば、少なくとも当初の何年間かは、(利用可能な出力及び利用可能なエネルギーという点で)バッテリが劣化しているという事実を覆い隠すことが可能になる。また、寿命開始時にバッテリの劣化を制限することもまた可能になる。なぜならば、バッテリが制限された動作範囲で(低下された充電終止電圧で)使用されるからである。