特許第6585209号(P6585209)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6585209
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】人工気道装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 16/04 20060101AFI20190919BHJP
【FI】
   A61M16/04 Z
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-40401(P2018-40401)
(22)【出願日】2018年3月7日
(62)【分割の表示】特願2016-80254(P2016-80254)の分割
【原出願日】2011年10月6日
(65)【公開番号】特開2018-108455(P2018-108455A)
(43)【公開日】2018年7月12日
【審査請求日】2018年4月5日
(31)【優先権主張番号】1115456.4
(32)【優先日】2011年9月7日
(33)【優先権主張国】GB
(31)【優先権主張番号】1017453.0
(32)【優先日】2010年10月15日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】516045573
【氏名又は名称】テレフレックス、ライフ、サイエンシーズ、アンリミテッド、カンパニー
【氏名又は名称原語表記】TELEFLEX LIFE SCIENCES UNLIMITED COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブレイン,アーチボルド・イアン・ジェレミー
【審査官】 竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】 特表平07−509154(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/100419(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 16/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の肺換気を容易にするための人工気道装置であって、1つの気道チューブと、1つの胃排液チューブと、前記気道チューブの一端に設けられるマスクとを備え、マスクは、バックプレートを含み、喉頭口の外周の周りに封止を形成することが可能な周囲構造を有し、周囲構造は、マスクの中空内部空間または内腔とマスクの内腔に開放される気道チューブとを囲い、マスクは、食道を離れる胃内容物の排液チューブへの通路となるアトリウムを含み、該アトリウムは、バックプレートによって規定され、規定する部品は、前記バックプレートの壁部であり、前記気道チューブは、前記胃排液チューブの外壁に包囲された空間の内側に取り付けられる、人工気道装置。
【請求項2】
壁部は外皮と内皮とを含む、請求項に記載の人工気道装置。
【請求項3】
アトリウムは前記外皮と前記内皮との間に形成される、請求項に記載の人工気道装置。
【請求項4】
内皮はアトリウムへの入口を含む、請求項またはに記載の人工気道装置。
【請求項5】
皮は、デュロメータにおいて気道チューブの材料よりも柔らかい弾性的に変形可能な材料から形成される、請求項からのいずれか1項に記載の人工気道装置。
【請求項6】
外皮は胃排液チューブの一部を含み、内皮は気道チューブの一部を含む、請求項からのいずれか1項に記載の人工気道装置。
【請求項7】
胃排液チューブの前記一部は一体に形成された部分である、請求項に記載の人工気道装置。
【請求項8】
気道チューブの前記一部はマスクの内腔と流体連通するボアを含む、請求項に記載の人工気道装置。
【請求項9】
気道チューブは胃排液チューブ内の空間を2つの胃導管に分離する、請求項に記載の人工気道装置。
【請求項10】
前記または各胃排液チューブは拡張可能な材料を含む、請求項またはに記載の人工気道装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工気道装置に関し、特定的には胃逆流からの保護を提供しようとするこのような装置に関する。
【背景技術】
【0002】
少なくとも70年にわたり、細長いチューブとチューブの遠位端の近くに取り付けられた膨張可能なバルーンとを含む気管内チューブが、意識不明の患者の気道を確保するために使用されてきた。操作時において、気管内チューブの遠位端は、患者の口を介して挿入され、患者の気管に入る。ひとたび位置決めされると、気管の内側を封止するようにバルーンが膨張する。この封止が確立された後、チューブの近位端に正圧を加え、患者の肺を換気させてもよい。バルーンと気管の内側との間の封止により、誤嚥から肺が保護される(たとえば、封止により、腹部から吐き戻される物が患者の肺に誤嚥されることが防止される)。
【0003】
これらは大きく奏功していたが、気管内チューブはいくつかの大きな欠点を抱えている。気管内チューブの主な欠点は、チューブを適切に挿入することの困難さに関する。気管内チューブを患者に挿入することは、高度な技能が求められる手順である。熟練の施術者であっても、気管内チューブの挿入が困難または不可能な場合がある。十分に素早く患者の気道を確保することが不可能であったため、多くの場合において、気管内チューブを挿入することの困難さは、不幸にも患者の死を招いていた。気管内チューブの挿入には、患者の頭および首を動かし、さらに患者の顎を強制的に大きく開くことが通常は必要となる。これらの必要とされる動作は、首の負傷に苦しむ患者に気管内チューブを挿入する際には困難なものとなり、望ましくない。
【0004】
ラリンジアルマスク装置は、意識不明の患者の気道を確保するために有用な公知の装置であり、気管内チューブに関連する上記の難点に対処しようとするものである。
【0005】
気管内チューブとは対照的に、ラリンジアルマスク装置を患者に挿入して気道を確保することは比較的容易である。ラリンジアルマスク装置は、不適切に挿入したとしても気道を確保する傾向がある点において、「寛容な」装置といえる。このため、ラリンジアルマスク装置は、「救命」装置として考えられる場合が多い。ラリンジアルマスク装置は、患者の頭、首、および顎の動作が比較的小さい状態で挿入され得る。これに加え、ラリンジアルマスク装置は、繊細な気管の内側と接触する必要なくして患者の肺を換気させ、気道チューブの内径は、気管内チューブの内径よりも通常はかなり大きい。ラリンジアルマスク装置は、気管内チューブと同程度に咳をしにくくさせない。主としてこれらの利点により、ラリンジアルマスク装置は近年において需要が高まっている。
【0006】
米国特許第4,509,514号には、ラリンジアルマスク装置が開示されている。このラリンジアルマスク装置は、全てではないがほとんどのラリンジアルマスク装置を構成する基本部品、すなわち患者の喉頭の後ろに容易に適合するように形成される中空マスク部分の内部に一端が開放する気道チューブからなる。マスクの周囲は、使用時に喉頭の開口の周りを封止するカフによって形成されている。これにより、効果的に気道を確保することができる。
【0007】
米国特許第4,995,388号(図7から図10)、米国特許第5,241,956号、および米国特許第5,355,879号に例示されるように、胃排出ドレナージのための特定の設備を有するラリンジアルマスク装置が開発された。これらの装置は、マスク
が所定の位置に置かれた際に上部食道括約筋の上端に位置するようにマスクの遠位端に位置する端部を有する小径のドレナージチューブが通常は組み込まれており、チューブは、患者の口から外に延在するのに十分な長さを有し、上部食道括約筋から胃排出物を能動的または受動的に取り除くことができる。代替的な提案によれば、ドレナージチューブは、マスクの遠位端を越えて食道自体の中に延在してもよい(米国特許第4,995,388号、図7および図11)。
【0008】
このような装置は、逆流した物を摘出するのに通常は有用であるが、胃の内容物が患者の肺に誤嚥されることを防ぐのに常に十分に有効ではない。特に、単なる胃内容物の逆流による胃排出ではなく、患者の嘔吐による胃排出である場合、嘔吐された物の実質的な圧力は、特定の場合において、たとえドレナージチューブが設けられていても、マスクが完全に外れてしまうのに十分なものとなり得て、人工気道の完全性に対して影響を及ぼす可能性がある、および/または嘔吐物が患者の肺に誤嚥される可能性がある。
【0009】
理解されるように、嘔吐によってマスクが外れてしまう可能性は、米国特許4,509,514に開示されるようなドレナージチューブを特徴としないマスクに固有である。
【0010】
特に、マスクに胃ドレナージが備わっていない場合、および胃ドレナージチューブが設けられている場合であっても、食道から嘔吐物を効果的に排出することができなければ、食道に圧力が蓄積するリスクが伴い、死に至る可能性がある。たとえば、マスクが喉頭に詰まった場合などに、このようなことが起こり得る。
【0011】
たとえば米国特許第4,995,388号(図7から図10)、米国特許第5,241,956号、および米国特許第5,355,879号に基づいて設計された、以前のラリンジアルマスクには、食道から昇ってくる液体を受け入れるチャネルが設けられ、チャネルの直径はほぼ一定であり、上部食道括約筋として知られる生体構造の収縮した領域の直径に等しい。このような装置は、ひとたび括約筋の領域に対して押し付けられると、食道から昇ってくる液体が装置のチューブを通る際にほぼ同じ速度を維持する状態をもたらす。このような装置は、正しく位置決めされた場合、食道ではなく括約筋の生体構造を模倣し、液体が逆流する間は流量が小さく圧力が高い状態が優勢となる。しかしながら、このような装置の位置は望ましくない。なぜなら、食道の開口と連通するドレナージチューブを有するこのような装置の主な目的は、食道から昇ってくる胃液が装置の側部の周りに漏洩することを避けることであり、このような漏洩は、これらの液体による喉頭の汚染のリスクをもたらし、結果として患者への重大なリスクを伴うからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
さらに、胃ドレナージチューブが設けられた既存の装置は、食道括約筋の直径ほどの大きさの直径を有するチューブを含んでいない。このため、ドレナージチューブに入る液体の速度を高めることができるのみであり、上記のように狭いチューブ内で圧力が減少することとなり、高圧領域からの液体が装置の遠位端を括約筋から遠ざける傾向がある。
【0013】
本発明は、上記の先行技術に関連する課題を改善しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、患者の肺換気を容易にするための人工気道装置が提供され、人工気道装置は、気道チューブと、胃排液チューブと、少なくとも1つの気道チューブの一端に設けられるマスクとを備え、マスクは、バックプレートを含み、喉頭口の外周の周りに封止を形成することが可能な周囲構造を有し、周囲構造は、マスクの中空内部空間または内腔とマスクの内腔に開放される気道チューブとを囲い、マスクは、食道を離れる胃内容物の
胃排液チューブへの通路となるアトリウムを含む。理解されるように、アトリウムは、物の逆流または嘔吐が起こった場合にマスクが外れてしまうリスクを実質的に減らす可能性のある拡大された空間または導管を提供し、気道の完全性が維持され、これにより、胃への空気混入のリスクを最小限に抑える可能性がある。
【0015】
アトリウムは、バックプレートの一部によって規定されるのが好ましい。特に、規定する部分は、バックプレートの壁部であるのが好ましい。これにより、胃導管をもたらすために既存のマスク構造を利用するコンパクトな構成が提供される。壁部は、外皮と内皮とを含んでもよく、アトリウムは皮の間に形成され、皮は、挿入を補助するために、デュロメータにおいて気道チューブの材料よりも柔らかい弾性的に変形可能な材料から形成されてもよい。
【0016】
特に好ましい実施形態において、外皮は胃排液チューブの一部を含み、内皮は気道チューブの一部を含み、既存の構造を再び利用する。胃排液チューブの上記部分は、製造を支援するために、チューブと一体に形成されてもよく、気道チューブの上記部分は、マスクの内腔と流体連結するボアを含んでもよい。
【0017】
従来より、ラリンジアルマスクの構成においては、生体構造内に適合するようにコンパクトな構造を設けながらも気体の通路のためのボアを出来る限り大きく保つことが最も重要であるとこれまで考えられてきたという主な理由により、気道チューブ内のチューブとして胃ドレインが設けられている。現在の場合においては、気道としての性能を損なうことなく気道チューブを胃排液チューブ内に取り付けることができ、より大きい胃排液導管、および2つ以上の胃排液導管を設けることができるという利点が付加されることが偶然に分かった。本発明の一実施形態において、気道チューブは、胃排液チューブ内の空間を2つの胃導管に分離するように取り付けられてもよい。
【0018】
発明の第2の局面によれば、患者の肺換気を容易にするための人工気道装置が提供され、人工気道装置は、気道チューブと、胃排液チューブと、少なくとも1つの気道チューブの一端に設けられたマスクとを含み、マスクは、バックプレートを含み、喉頭口の外周の周りに封止を形成することが可能な周囲構造を有し、周囲構造は、マスクの中空内部空間または内腔とマスクの内腔に開放される気道チューブとを囲い、装置は、装置が患者から取り外された時に内容物を目視により検査することができるように適合される。これは、透明または半透明のバックプレート壁部の外皮を設けることによって実現されてもよい。これにより、閉塞の原因をユーザが容易に発見することができる。
【0019】
発明の第3の局面によれば、患者の肺換気を容易にするための人工気道装置が提供され、人工気道装置は、気道チューブと、胃排液チューブと、気道チューブの一端に設けられるマスクとを含み、マスクは、バックプレートと胃ドレナージ導管とを含み、喉頭口の外周の周りに封止を形成することが可能な周囲構造を有し、周囲構造は、マスクの中空内部空間または内腔とマスクの内腔に開放される気道チューブとを囲い、胃ドレナージ導管は入口を含み、入口の口は、装置が原位置にある場合に患者の食道括約筋の軸に対して実質的に垂直に取り付けられるように形成される。これにより、食道括約筋に対するより効果的な封止の実現が補助される。
【0020】
このため、上記の配置の利点は、たとえば、バックプレートにチューブまたは管状の構造を含む従前の構造よりも単純な製造を含む。さらに、バックプレートチューブを伴う以前の構造と比較した場合にバックプレートの剛性が小さくなっており、挿入の容易さが補助される。この方法でバックプレートによってもたらされる導管を有することにより、特に、緩やかに曲げることのできる弾性的に変形可能な材料から導管の外皮または両方の皮が形成される場合において、嘔吐時における装置の変移が起こりにくくなるように、大き
く拡張可能な容量を有する導管が提供される。
【0021】
装置は、複数の胃排液チューブを含んでもよく、チューブの各々はアトリウムと流体連結される。これにより、使用時において、チューブの一方に対して吸引を行うことができる。装置が2つの排液チューブを含むことが特に好ましい。1つのみの胃排液チューブが従前の装置において使用されていた場合においては、吸引が行われると食道括約筋などの生体構造における繊細な構造に損傷が起こり得ることが分かった。現在の設計においては、複数の胃排液チューブを設けることにより、アトリウム内の胃物質を取り除くために一方のチューブに対して吸入を行った場合に、他方の胃チューブが空気を生体構造ではなくアトリウムに確実に引き込む。
【0022】
装置が2つの胃排液チューブを含む場合、チューブは気道チューブを間に設けて横並びで取り付けられ、装置の使用時に患者の舌を収容するために取り付けられるポケットを排液チューブと気道チューブとが合わせて規定するのが好ましい。これにより、装置が患者にとってより苦痛のないものとなる。気道チューブが(望ましくは)排液チューブより硬い材料を含む場合、気道チューブは、排液チューブに対する支持を提供し、咬合阻止器の必要性をなくす。これにより、製造が簡易化され、費用が抑えられる。
【0023】
代替的な実施形態において、装置は、アトリウムと液体連結する単一の胃排液チューブを含んでもよい。排液チューブは、緩やかに曲げられる折り畳み可能な材料を含むのが好ましい。排液チューブは、支持のために、気道チューブの表面上、または気道チューブの周りに取り付けられてもよい。
【0024】
周囲構造は、膨張可能なカフまたは膨張可能でないカフを含むのが好ましい。周囲構造が膨張可能なカフを含む場合において、バックプレートがカフの上に位置して接着され、収縮時にカフが上に折り畳まれ、カフが平坦にまとめられるように促されるのが好ましい。
【0025】
発明は、添付の図面を参照して、例示によってさらに記載される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明に係る装置を示す前面図である。
図2図1の装置を示す後面図である。
図3図1の装置を示す側面図である。
図4】本発明に係る装置の一部を概略的に示す横断面図である。
図5図1の装置を示す縦断面図である。
図6図1の装置を示す展開図である。
図7】本発明に係る装置の代替的な実施形態を示す後面図である。
図8】本発明に係るさらなる代替的な実施形態を示す後面3/4斜視図である。
図9図8の装置を示す縦断面図である。
図10図8の装置を示す縦断面図である。
図10a図10の線1から線6に沿った横断面図である。
図10b図10の線1から線6に沿った横断面図である。
図10c図10の線1から線6に沿った横断面図である。
図10d図10の線1から線6に沿った横断面図である。
図10e図10の線1から線6に沿った横断面図である。
図10f図10の線1から線6に沿った横断面図である。
図11図8の装置を示す展開図である。
図12図8の装置の一部を示す前面3/4斜視図である。
図13図12の一部を示す平面図である。
図14図13のX−X線に沿った横断面図である。
図15図12の一部を示す後面3/4斜視図である。
図16図12の一部の後端面図である。
図17図8の装置の一部を示す前面斜視図である。
図18図17の一部を示す側面図である。
図19図17の一部を示す端面図である。
図20図8の装置の一部を示す平面図である。
図21図20のY−Y線に沿った横断面図である。
図22図20のZ−Z線に沿った縦断面図である。
図23図20の一部を示す平面斜視図である。
図24図20の一部を示す裏平面斜視図である。
図25図20の一部を示す前端面図である。
図26図8の装置の一部を示す裏平面図である。
図27図26のA−A線に沿った縦断面図である。
図28図26のB−B線に沿った横断面図である。
図29図26の一部を示す前面図である。
図30図26の一部を示す前面斜視図である。
図31図26の一部を示す平面斜視図である。
図32図26の一部を示す裏平面斜視図である。
図33図26の一部を示す後面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下の例示的な実施形態の記載において、同様の部品に対しては、明細書を通して同じ参照番号が概して付与される。
【0028】
図面を参照すると、患者の肺換気を容易にするための人工気道装置1が例示される。人工気道装置1は、気道チューブ2と、胃排液チューブ3と、気道チューブ2の一端に設けられるマスク4とを含み、マスク4は、バックプレート5を含み、喉頭口の外周の周りに封止を形成することが可能な周囲構造6を有し、周囲構造6は、中空内部空間7またはマスク4の内腔とマスクの内腔に開放される少なくとも1つの気道チューブ2とを囲い、マスクは、食道を離れる胃内容物の胃排液チューブ3への通路となるアトリウム8を含む。
【0029】
便宜のために、図1に例示される装置の表面は、ここでは前面といい、図2に例示される装置の表面は、図1に示される表面の反対側であり、後面という。標準的な慣習に基づき、使用時において患者から延在する装置1の部分を近位端といい(ユーザに最も近いという意味)、他方の端部をここでは遠位端という。
【0030】
特に図1から図6を参照すると、例示される装置1は、気道チューブ2の両側部に取り付けられて接着された2つの胃排液チューブ3を含む。装置の挿入が容易となり、原位置にある装置を収容するために必要な生体構造内の空間が最小となるように折り畳み可能とするために、排液チューブ3は、十分に柔らかく弾性的に変形可能な材料から形成されるのが好ましい。一例として、胃排液チューブ3の材料は、ショアーデュロメータにおいて硬さが20から30であるのが好ましい。折り畳み可能でなく、図3に例示されるような予備成形された固定の湾曲部を有するように、気道チューブ2は、排液チューブ3より硬い材料から形成される。一例として、気道チューブ2は、ショアーデュロメータにおいて硬さが80であってもよい。気道チューブ2は、その長さ方向における部分2aが排液チューブの後面側に突出するように、排液チューブに接着される。理解されるように、これによって前方側に中空部またはポケット2bが形成される。排液チューブおよび気道チューブは、任意の公知の適切な材料から形成されてもよい。
【0031】
気道チューブ2は、その遠位端において、マスク4に取り付けられる。気道チューブ2とマスク4とは、一体または別個に形成されてもよい。特に図5および図6から、気道チューブ2が2cにおいてマスク4の近位端に向けて終端することがわかる。このため、マスク4は、気道チューブの材料によって非常に硬く作られることが難点とはならない。マスク4は、排液チューブ3と一体に形成されたバックプレート5を含む。本発明の1つの注目すべき特徴は、バックプレートの構成である。当業者によって理解されるように、「バックプレート」の用語は、本技術分野において使用される場合は、組み立てられた装置においてカフによって囲まれ、患者の体内において装置が原位置にある場合に喉頭領域と咽頭領域とを分離するマスクの一部を意味する。気体の供給は、バックプレート内の穴を通じて、穴を規定するバックプレートの部分と気道チューブとの間の流体密封接続を介して行われる。ある公知の配置において、バックプレートおよび気道チューブは、一体に形成されており、これは特に便利な配置である。従来技術において、バックプレートは、通常は平坦な構造ではなく椀形状またはドーム形状の構造であることから、用語は形状の全体を表わすものではない。
【0032】
記載される本実施形態において、バックプレート5は、図4に概略的に示されるように、内皮5aと外皮5bとを含み、これらの間には空間が形成される。このように規定される空間は、アトリウム8であり、近位側からは排液チューブ3が出て、遠位側から入り口8aが入る(図2に示される)。このため、アトリウム8は、単一の胃入口8aと2つの胃排液チューブ3とを接続するマニホールドと見なすことができる。マスク4を構成する1つの方法は、図6に示され、胃排液チューブ3とバックプレート5とが一体に形成されることが図から見てとれる。装置1の構成についての理解を助けるために、バックプレート5および排液チューブ3が形成される材料は、この例示においては透明であることが理解されるであろう。
【0033】
上記のように、マスク4は、この実施形態では概して公知の形態を有する膨張可能なカフの形態である周囲構造6を含む。カフ6は、その近位端に膨張線6aを含み、遠位端には、ボアを介して内部穴6c(図2)と連通する胃入口穴6bを含む。ボアは、折り畳み可能なチューブによって規定される。スナップまたは「ジップロック」構成など、カフが膨張するまでチューブを折り畳んだまま維持するための手段を設けてもよい。図6の展開図を参照すると、カフ6の後面の材料によって内皮5aと外皮5bとの間に橋が形成され、胃入口穴6bがカフに入り込む箇所以外でアトリウム8の前面側を閉じるように、カフ6の後面がバックプレート5に接着されることが示される。このため、胃入口6bが穴6cを介してアトリウム8と液体の通路を形成することが示される。代替的な構成の方法において、カフ6には、アトリウム8の前面を形成する穴にわたってウェブが形成されてもよい。
【0034】
図7を参照すると、装置1の代替的な実施形態が例示される。この実施形態において、装置は、アトリウム8内において遠位端で終わる柔らかく曲げやすいスリーブの形態の単一の胃ドレイン3を含み、構成についての全ての他の特徴は、上記の第1の実施形態と同じである。
【0035】
使用時において、装置1は患者に挿入され、従来技術の装置と同様に気道が確保される。挿入は、胃入口穴6bと患者の食道括約筋とが接触する箇所においてもたらされ、これらの間に液体の通路が確立される。嘔吐または逆流が起こった場合、上記の胃にアクセスするラリンジアルマスクと同様に、食道からの物が胃入口穴6bに入る。しかしながら、以前の装置とは異なり、2つのバックプレート皮5a,5bの間に形成されるアトリウム8に物は入り、アトリウム8の容積は、入口穴6bの容積よりも大きい。バックプレート5を有するラリンジアルマスクを構成し、その中に胃内容物のためのアトリウムまたは導管8を形成することは、既存のマスク構造を使用するための効率性および経済性の高い方
法であることがわかる。機能の実行が求められるまでは生体構造内に占める空間を最小化するように胃排液チューブを拡張可能な材料から形成することは、有利である。なぜなら、装置の挿入が容易となり、装置が適所にある場合、特に装置が長期にわたって適所に残される場合において、繊細な生体構造に対する外傷が小さくなるからである。胃排液チューブを構成する柔らかい材料からアトリウム8が形成されるようにこれらの特徴が組み合わされると、さらなる利点が得られる。なぜなら、マスクは、挿入時の外傷を避けるために十分に柔らかく、嘔吐時の圧力によって拡張できるような大きな容積のアトリウム8を提供することができるからである。このような拡張により、マスクが原位置にある場合において喉の後壁部に対してばねのように作用するドーム(図4)のように外皮5bの前面側が変形し、喉頭に対してカフ6が押し込まれ、装置の封止した状態の維持が補助される。
【0036】
図8から図33を参照すると、本発明に係る装置1のさらなる代替的な実施形態が例示される。この実施形態は、以下に記載されるようないくつかの重要な点において上記の実施形態とは異なる。しかしながら、実施形態によって具現化される概念は、上記の実施形態に適用されてもよく、その逆もまた同じである。
【0037】
特に図8および図9を参照すると、患者の肺換気を容易にするための人工気道装置1が例示され、人工気道装置1は、気道チューブ2と、胃排液チューブ3と、気道チューブ2の一端に設けられるマスク4とを含み、マスク4は、バックプレート5を含み、喉頭口の外周の周りに封止を形成することが可能な周囲構造6を有し、周囲構造6は、マスク4の中空内部空間7または内腔とマスクの内腔に開放される少なくとも1つの気道チューブ2とを囲い、マスクは、食道を離れた胃内容物の胃排液チューブ3への通路となるアトリウム8を含む。
【0038】
装置1が他のラリンジアルマスク装置と同様であることが分かる。しかしながら、図11の展開図から、装置1が、胃排液チューブと気道チューブとバックプレートとの組み合わせ部品100、内部バックプレート壁部110、および周囲構造120を含む3つの主要部品、ならびに入口リング130およびコネクタ140を含む2つの副部品を含むことが分かる。
【0039】
図26から図33を参照し、胃排液チューブと気道チューブとバックプレートとの組み合わせ部品100が記載される。この組み合わせ部品100は、プレカーブチューブ101からなる。チューブ101は、断面が円形ではなく、従前の特許において教示されるように平坦な断面を有し、歯間の隙間への挿入および適合が容易となる。チューブ101は、近位端101dから遠位端101eに延在する、平坦な後面101aおよび前面101bと、湾曲した側壁部101cとを有する。後面における近位端101dに向け、固定タブ102が取り付けられ、端部にはプレート102aが取り付けられる(図33)。プレート102aは、気道導管107が延在する気道穴の両方に3つの穴と、2つの胃穴102bとを含む。遠位端において組み合わせ部品100は、長手軸に対して傾斜して切り込まれ、たとえば成形によって一体に形成された広がり外側バックプレート部品104が設けられる。代替的に、広がりバックプレート部品104は、特に透明または半透明の材料から別個に形成することができる。バックプレート部品104は、周囲リップ104aを含む。最後に、組み合わせ部品100は、遠位端から近位端に延在する実質的に同軸で取り付けられた内部チューブを含み、内部チューブは、内部空間を2つの胃導管106および気道導管107に効果的に分離する。従来技術の構成とは異なり、これによって気道導管107が胃排液導管内に収容されることとなる。図27に示される長手方向の断面図において、気道導管107は、筒状のコネクタ延長部109においてその遠位端で終わることが分かる。
【0040】
図20から図25を参照すると、内部バックプレート壁部110が例示されている。内部バックプレート壁部110は、側壁部111とフロア部112とを有する浅い皿の形態である概して楕円形の本体を含む。楕円形の皿の遠位端または狭い端部において、側壁部111は、フロア部112の中央線と概して整合して遠位方向に延在する、中に形成される筒状の穴111aを有する。筒状の穴111aは、筒状の穴のボアの軸の角度が約20度となるように、フロア部112の面に対して上方に傾斜している。中央線に沿って、皿のフロア部112は、より広い近位端に向けて長手方向に延在する凸面を形成するように隆起し、チューブ接合部113という筒状構造としてこの近位端で終橋する。チューブ接合部113は、ボア113aを含み、フロア部112の上方面と下方面(示される)との間に接続通路を提供する。チューブ接合部113は、側壁部111に合流して側壁部111を2つに分け、フロア部112に対して約45度で上方に向けて傾斜し、図24に示されるように、側壁部111を所定距離だけ越えて近位で終端する。
【0041】
図12から図16を参照すると、周囲構造120が例示されており、この実施形態では、膨張可能なカフの形態である。多くの他のラリンジアルマスク装置とは異なり、カフ120は、装置の残りの部分とは別個の部品として一体に形成され、製造および装置1への取り付けの両方がより容易となる。カフ120は、狭い遠位端120aと、より広い近位端120bと、中央の楕円形の貫通穴120cとを有する概して楕円形の本体を含む。このため、カフはリングのようであることが分かる。図14の断面図から分かるように、楕円形の本体は、壁部123を含む。壁部123は、遠位端の断面が概して円形であるが、近位端120bにおいて後面に形成される一体形成の延長部121のおかげで近位端において深く不規則に形成される。この後面延長部121は、取り付け面122の近位部分を規定する(図11および図12)。取り付け面122は、後面においてリングの内周部の周り全体を近位端から遠位端に延在する。遠位端120aにおいて、カフは、筒状の貫通ボア121を有し、その軸は、楕円の中央線と整合して延在し、上図14に見られるように、本体の面に対して、すなわち前面側から後面側に向けて、または装置1の使用時において生体構造における喉頭側から咽頭側に向けて、上方に傾斜して延在する(図14のLおよびP)。結果として、カフの壁部123を通る円形断面の穴が得られる。カフの近位端120bは、ボアおよびカフの内部に嵌め込まれるポート124を含む。
【0042】
図17から図19を参照すると、入口リング130が例示されている。入口リング130は、チューブのボア132の軸「J」に対して垂直に切り込まれた近位端131を有する筒状の断面を有するチューブである。遠位端133は、ボア132の軸「J」に対して斜めに切り込まれ、示されるように、切り込み部は前面側から後面側に戻る。斜めに切り込まれた遠位端132は、真っ直ぐな切り込みではなく、浅い湾曲を有する。筒状部の壁部は、筒状部の長さにわたって延在して各端部において開く小さい開通ボア134を含む。
【0043】
図11は、装置1の部品がどのように嵌め合わされるかを例示し、図8および図9と組み合わせて示すのに最も有用である。これらの図から、組み合わせ部品100と内部バックプレート壁部110とが組み合わされてバックプレート5が形成され、バックプレート5内の空洞またはアトリウム8の形態で導管が規定されることがわかる。周囲部分120は、この実施形態においては膨張可能なカフであり、バックプレート5が収まるように取り付け面122に対して接着することにより、バックプレート5に取り付けられる。コネクタ130は、カフ壁部内において筒状ボア121を通り、筒状の穴111aと接続して固定される。
【0044】
上記のように、図8から図33の実施形態は、いくつかの重要な点において従来技術の装置とは異なる。たとえば、この装置において、気道チューブ107が胃排液チューブ内に収容されるのに対して、従来技術の装置ではその逆となる。期待と反して、胃チューブ
を有する装置において最も重要なことは、胃内容物の流れが妨げられず、上部食道括約筋の周りに形成された封止が破壊されないことであることが分かった。この構成は、この目的を達成するために生体構造内の空間を最も良好に利用する構成である。同様に、従来の装置の簡易な一体の断面を有する導管とは対照的にアトリウム8を設けて胃液流を受けることにより、実際は上部食道括約筋に対する中空の漏れ止めプラグであるマスクの上に低流量かつ高容量の逃げ道が設けられる。本発明のこの実施形態の装置1は、合流する液体のための十分に容量の大きい逃げ経路を提供しながら、ユーザがこのようなプラグを適所に置き、保持することができる。さらに、記載されたように後方に傾斜した胃入口ポートを設けることによって、大きな荷重を受けた場合、特にアトリウムがすぐ上流に設けられた場合において、上部食道括約筋のまわりの封止を無傷のままとなるように補助されることがわかった。
【0045】
このため、上記の実施形態が、新規かつ創造的な方法で従来技術の装置に係る課題に対処するものであることがわかる。
【0046】
上記の実施形態の特徴は、本発明の範囲内におけるさらなる実施形態に組み合わせてもよい。さらに、本発明は、例示的な実施形態に関連して上で記載される例示的な材料および方法に限定されるものではなく、任意の適切な材料または構成を採用してもよい。たとえば、カフは柔らかく柔軟なシリコーンゴムのシートを使用して形成されてもよいが、ラテックスまたはPVCなどの他の材料を使用してもよい。材料としてのPVCは、単一での使用が意図される実施形態に特に適している一方で、シリコーンゴムの使用は、必須ではないが、幾つかの医療的手順において再使用されることを意図した実施形態において好ましい。
【0047】
さらに、当業者に理解されるように、本発明の様々な特徴が、幅広い範囲の異なるラリンジアルマスク装置に適用可能であり、本発明は、上記のタイプのマスクの例示的な実施形態に限定されるものではない。たとえば、本発明の局面は、マスク穴にわたる喉頭蓋上昇棒を特徴とするラリンジアルマスク装置に適用してもよく、このバーは、気道チューブを介して挿入される気管内チューブまたは他の長手方向に延在する構成要素を挿入した場合に穴から離れる方向に患者の喉頭蓋を上昇させるように操作され、マスク穴を通ってマスクの中空部または内腔に合流する。本発明の局面は、本発明の範囲に対して限定または制限を加えることなく、装置が穴棒を特徴としているか否かに関わらず、たとえば、単一または再利用可能な装置装置、気管内チューブまたはそれに類似のチューブをマスクの気道チューブを介して咽頭に導入される「挿管」装置、光ファイバ視聴装置を含む装置などに適用してもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
図10a
図10b
図10c
図10d
図10e
図10f
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