【氏名又は名称原語表記】Centre Luxembourgeois de Recherches pour le Verre et la Ceramique (C.R.V.C.) SARL
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
当該分野で、被覆製品が断熱ガラス(IG)窓ユニット、車両の窓などのような窓の用途に使用されることが知られている。特定の例において、焼き戻し、曲げ、などの目的のためには、このような被覆製品の熱処理(例えば、焼き戻し処理、熱曲げ、及び/又は熱強化)が好ましいことが知られている。典型的には、被覆製品の熱処理(HT)に必要な温度は、少なくとも580℃であり、さらに好ましくは少なくとも約600℃、より好ましくは少なくとも620℃である。このような高い温度では(例えば、約5〜10分以上置いた場合)、しばしばコーティングが破壊及び/又は劣化し、又は予測できない変化が生じる。したがって、必要に応じて、コーティングを著しく損傷させない予測可能な方法で、コーティングがこのような熱処理(例えば、焼き戻し処理)に耐えられることが好ましい。
【0003】
特定の例において、被覆製品の設計者は、所望の可視光線透過率、所望の色、低放射率(又は放射力)、及び低シート抵抗(R
s)の組合せを試みている。このような被覆製品は、低放射率(low−E)及び低シート抵抗の特徴によって、相当量のIR放射を防ぎ、例えば、車両又は建物内の好ましくない温度上昇を減らすことができる。
【0004】
参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7,521,096号には、銀系のIR反射層の下では亜鉛酸化物(ZnO)接触層を用いて、下の銀(Ag)系赤外線反射層の上では、NiCrO
xの接触層に続いて中心スズ酸化物(SnO
2)誘電体層を使用する低放射率コーティングが開示されている。銀IR反射層の下のZnO接触層は、銀を成長させるための優れた構造的特性を提供し、ZnOは、特定の例において、コーティングの化学的、環境的及び機械的耐久性を劣化させることが分かった。また、厚いSnO
2誘電体層は、SnO
2、ZnOとAgとの間に粗い界面を形成して耐久性を劣化させ、伝達される色に影響を及ぼし得る熱処理の際の応力及び微細結晶体を示すことが分かった。
【0005】
米国特許第5,557,462号には、SiN/NiCr/Ag/NiCr/SiN/NiCr/Ag/NiCr/SiNの層スタックを有する低放射率コーティングが開示されている。しかし、同第5,557,462特許の被覆製品は、少なくとも63%の高い可視光線透過率を有するように設計される。同第5,557,462特許の3欄、12〜15行では可視光線透過率が70%未満(一体型被覆製品)及び63%未満(IG窓ユニット)であることは好ましくないことを示している。したがって、同第5,557,462特許では、可視光線透過率が63%未満の被覆製品と異なることを示している。また、米国特許第8,173,263号で説明されるように、同第5,557,462号の特許の被覆製品は、熱処理の際のシート抵抗(R
s)が約3〜5から10をはるかに超えるまで上昇するために熱処理することができず、ヘイズが生じる傾向があり、ガラス側の反射率ΔE
*値が5.0超であるため好ましくない。
【0006】
したがって、ガラス側の反射率ΔE
*値が約5.0以下、さらに好ましくは約4.5以下を実現するために、(i)低い可視光線透過率、(ii)優れた耐久性、及び(iii)熱処理の際の熱安定性のうちの1つ以上によって特徴づけられる被覆製品を提供することが好ましい。
【0007】
用語ΔE
*(及びΔE)は、当該技術で理解されており、Hunter et.al.、The Measurement of Appearance、2
nd Ed.Cptr.9の162頁以下を参照[ジョン・ワイリー&サンズ、1987]に報告されるだけでなく、ASTM 2244−93に、ΔE
*を決定するための様々な技術と共に報告される。当該技術で用いられたように、ΔE
*(及びΔE)は、熱処理後の、又は熱処理による製品の反射率及び/又は透過率(したがって、色の出現)の変化(又は不足)を適切に表現する方法である。ΔEは、「ab」技術又はHunter技術(下付文字「H」を用いることで指定)によって算出されてもよい。ΔEは、Hunter LabのL、a、bスケール(又はL
h、a
h、b
h)に対応する。同様に、ΔE
*は、CIE LABスケールのL
*、a
*、b
*に対応する。いずれも、有用なものと考慮され、本発明の目的に一致する。例えば、Hunter et.al.に報告されているように、L
*、a
*、b
*スケールとして公知された長方形座標/スケール技術(CIE LAB 1976)を使用してもよく、L
*は(CIE 1976)明度ユニットであり;a
*は(CIE 1976)赤緑色ユニットであり;b
*は(CIE 1976)黄青色ユニットであり;L
*0 a
*0 b
*0及びL
*1 a
*1 b
*1の間の距離ΔE
*は、[(ΔL
*)
2+(Δa
*)
2+(Δb
*)
2]
1/2であり、ΔL
*=L
*1−L
*0;Δa
*=a
*1−a
*0;Δb
*=b
*1−b
*0;下付文字「0」は、熱処理前のコーティング(被覆製品)を示し、下付文字「l」は、熱処理後のコーティング(被覆製品)を示し;使用された数値(例えば、a
*、b
*、L
*)は、前記(CIE LAB 1976)L
*、a
*、b
*の座標技術によって算出されたものである。例えば、ガラス側の反射率ΔE
*が測定されれば、ガラス側の反射率a
*、b
*及びL
*が使用される。同様に、ΔEは、前記ΔE
*式(すなわち、[ΔE
*=(ΔL
*)
2+(Δa
*)
2+(Δb
*)
2]
1/2)で、a
*、b
*、L
*をHunter Lab値(a
h、b
h、L
h)に交換することによって算出してもよい。上記で定義したΔE
*と同一概念を使用する任意の他の技術によって算出されたものに変換する場合の同等の数値も、本発明の範囲内、及びΔE
*の定量化の範囲内である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書の被覆製品は、複数の用途、例えば、IG窓ユニット、積層窓ユニット(例えば、車両又は建物の用途に使用)、車両の窓、単体建築物の窓、住宅の窓、及び/又は1つ又は複数のガラス基板を含む任意のその他の適切な用途で用いてもよい。
【0014】
本発明の特定の実施形態において、コーティングは、2つの銀スタックを含む。例えば、
図1を参照すると、本発明の特定の実施形態において、ガラス基板によって支持されるコーティングを含む被覆製品が提供され、コーティングは、銀を含むか又は本質的に銀からなる第1赤外線(IR)反射層9及び第2赤外線(IR)反射層19(第1IR反射層9は、第2IR反射層19よりガラス基板1に近く位置する)と;銀を含む第1IR反射層9下に直接接触して位置するNiCrを含む第1接触層7、銀を含む第1IR反射層9上に直接接触して位置する第2接触層11と;NiCrを含む第2接触層11上に直接接触して位置するシリコン窒化物を含む誘電体層14と;シリコン窒化物を含む層14上に直接接触して位置するNiCrを含む第3接触層17と;NiCrを含む第3接触層17に直接接触して位置する銀を含む第2IR反射層19と;第2IR反射層19上に直接接触して位置するNiCrを含む第4接触層21と;を含み、銀を含む第2IR反射層19は、少なくとも銀を含む第1IR反射層9と同じくらい厚い。特定の好ましい実施形態において、銀を含む第2IR反射層19は、銀を含む第1IR反射層9より厚い場合、さらに好ましくは第2IR反射層19は、銀を含む第1IR反射層9より少なくとも10オングストローム(Å)さらに厚い場合(さらに好ましくは少なくとも20オングストロームさらに厚い)、驚くほどに有利な結果が達成され得ることが分かっている。コーティングは、
図1に示されたように、シリコン窒化物の又はこれを含む3つの誘電体層3,14,24を含む。また、コーティングは、酸化ジルコニウム及び/又は酸窒化ジルコニウムの又はこれを含む層(例えば、オーバーコート)27を含む。特定の実施形態において、酸化ジルコニウム及び/又は酸窒化ジルコニウムの又はこれを含む層27は、コーティング中の銀を含むIR反射層9,19のうちの1つ又は両方より薄い。本発明の特定の実施形態において、銀を含むIR反射層9,19の各々は、酸化ジルコニウム及び/又は酸窒化ジルコニウムの又はこれを含む層27の少なくとも2倍程厚く、さらに好ましくは少なくとも3倍程厚い。本発明の特定の実施形態において、コーティングは、銀などの又はこれを含む、ただ2つのIR反射層9,19を含む。
【0015】
光学特性及び熱的特性に加えて耐久性を向上させ、熱処理前後に重大な構造的変化を防ぐために、本発明の特定の実施形態に係る被覆製品は、シリコン窒化物又はそれを含む中心誘電体層14を有し、下部接触層7,17は(ZnOではなく)NiCrを基盤とする。層(7,11,17及び/又は21)に金属性のNiCr又は実質的に金属性のNiCr(場合により部分的に窒化される)を用いて(銀の下にZnO下部接触層、及び/又は銀の上に非常に酸化されたNiCr上部接触層を使用する場合に比べて)化学的、機械的、及び環境的耐久性を向上させることが分かった。非晶質状態のシリコン窒化物を含む層14をスパッタリング蒸着すれば、コーティング及び熱処理状態で非晶質状態であるため、コーティングの全体の安定性を助けることも分かっている。例えば、1時間の間に65℃の5%のHClは、米国特許7,521,096のコーティングを除去する一方で、
図1及び本明細書に記載の例に示したコーティングは、HClの試験を耐えるであろう。高温高湿の環境下では、2日間露出された特許7,521,096のコーティングに比べて、10日間露出された本明細書の実施例及び
図1のコーティングの損傷がさらに少ない。「ブリックウォッシュ(brick wash)」に使用されたような高い腐食性の化学物質に対する腐食耐性は、特定のIG及び積層実施形態において、エッジを除去する必要を無くす。同様に、機械的な摩擦試験、熱サイクル試験、及び塩水噴霧試験に対して、本明細書に記載されたコーティングの例は、特許7,521,096より優れていることが分かった。また、上部Ag系IR反射層19を下部Ag系IR反射層9より厚くすると、コーティングの特定の光学特性が改善されることが分かっている。本明細書で検討された比較的低いΔE
*値によって、コーティングは、コーティングされたまま又は熱処理されたまま用いられてもよい。例えば、コーティング30は、(
図2に示したように)IG窓ユニットの表面#2に位置する場合、熱処理による低いガラス側反射率ΔE
*値は、被覆製品が熱処理(例えば、焼き戻し処理)前後に肉眼で観察されたものと略同一の透過率及び色特性を有し、光学特性にかなり影響を及ぼさずにコーティングされたり、又は熱処理されたまま用いることができることを示す。
【0016】
図1のような本発明の特定の実施形態において、複数のIR反射層(例えば、離れた2つの銀系層)を有する、熱処理された被覆製品又は非熱処理された被覆製品は、シート抵抗(R
s)を5.0以下(好ましくは4.0以下、さらに好ましくは3.0以下)に実現可能である。本明細書に記載された用語「熱処理」及び「熱処理すること」は、ガラス含有製品の焼き戻し処理、熱曲げ及び/又は熱強化を得るために十分な温度まで製品を加熱することを意味する。この定義は、焼き戻し、曲げ及び/又は熱強化を得るために、例えば、少なくとも約580℃、さらに好ましくは少なくとも約600℃の温度でオーブン又は炉内で十分な期間の間被覆製品を加熱することを含む。特定の例において、上記HTは少なくとも約4又は5分の間実施されてもよい。本発明の他の実施形態において、被覆製品は熱処理しても、熱処理しなくてもよい。
【0017】
図1は、本発明の実施例の非限定的な実施形態による被覆製品の側断面図である。被覆製品は基板1(例えば、厚さが約1.0から10.0mm、さらに好ましくは約1.0から3.5mmの、透明、緑色、青銅色、又は青緑色のガラス基板)及び基板1上に直接又は間接的に提供される低放射率コーティング(又は層システム)30を含む。コーティング(又は層システム)30は、例えば、Si
3N
4、又は、ヘイズ減少用のSiリッチ型のシリコン窒化物、又は、本発明の他の実施形態において、任意の異なる適切な化学量論シリコン窒化物であり得る下部誘電体シリコン窒化物層3、下部接触層7(これは、下部IR反射層9と接触する)、第1伝導性、及び好ましくは金属性又は実質的に金属性の赤外線(IR)反射層9、上部接触層11(IR反射層9に接触)、誘電体シリコン窒化物系及び/又はシリコン窒化物含有層14、下部接触層17(これは、IR反射層19に接触する)、第2伝導性、及び好ましくは金属性又は実質的に金属性のIR反射層19、上部接触層21(IR反射層19に接触する)、Si
3N
4、ヘイズ減少用のSiリッチ型、又は、本発明の他の実施形態において、任意の異なる適切な化学量論シリコン窒化物であり得る誘電体シリコン窒化物層24、酸化ジルコニウム(例えば、ZrO
2)及び/又は酸窒化ジルコニウムのような材料の又はそれを含むオーバーコート層27を含む。「接触」層7,11,17,21は、各々IR反射層(例えば、Ag系層)に接触する。前記層(3〜27)は、ガラス又はプラスチック基板1上に提供される低放射率コーティング30を構成する。層(3〜27)は、本発明の特定の実施形態において、基板1上にスパッタ蒸着してもよく、それぞれの層は、必要に応じて1つ以上の対象を用いて真空でスパッタ蒸着される(スパッタリング対象は、セラミック又は金属であってもよい)。金属性又は実質的に金属性の層(例えば、層7,9,11,17,19,21)は、アルゴンガス含有の雰囲気でスパッタリングされるが、窒化された層(例えば、層3,7,11,14,17,21,24)は、窒素及びアルゴンガスの混合物を含有する雰囲気でスパッタリングされる。接触層7,11,17,21は、本発明の異なる例示的な実施形態において、窒化されても、されていなくてもよい。
【0018】
一体型の例として、被覆製品は、
図1に示すように1つのガラス基板1だけを含む。しかし、本明細書に記載された一体型被覆製品は、積層された車両フロントガラス、IG窓ユニットなどの装置に使用してもよい。IG窓ユニットに関しては、IG窓ユニットは、2つの離隔したガラス基板を含んでもよい。例示のIG窓ユニットは、例えば、米国特許文献第2004/0005467号に図示して記載され、その全体内容は参照により本明細書に組み込まれる。
図2には、例示のIG窓ユニットが示され、これは、スペーサ、シール剤40等によって別のガラス基板2に結合されている、
図1に示したコーティングされたガラス基板1を含み、間隙50がこれらのガラス基板の間に設けられている。IGユニットの実施形態において、基板の間の間隙50は、特定の例としてアルゴン(Ar)などの気体で充填してもよい。例示のIGユニットは、一対の離隔した透明なガラス基板を含み、それぞれの厚さは約3〜4mmであって、2つの基板のうちの1つは、特定の例としてコーティング30でコーティングされ、基板の間の間隙50は約5mmから30mm、さらに好ましくは約10から20mm、最も好ましくは約16mmであってもよい。特定の例において、低放射率コーティング30は、間隙に対向するいずれかの基板の内側表面に設けられてもよい(コーティングは、
図2では、間隙50に対向する基板1の内側の主面上に配置されているが、間隙50に対向する基板2の内側の主面上に配置することもできる)。基板1又は基板2は、建物の外側でのIG窓ユニットの最も外側の基板であってもよい(例えば、
図2において、基板1は建物の外側に最も近い基板であり、コーティング30は、IG窓ユニットの表面#2上に提供される)。
【0019】
本発明の特定の実施形態において、接触層7,11,17,21のうちの1つ、2つ、3つ、又は4つの全ては、NiCr(Ni:Crの任意の適切な比率)又はこれを含んでもよく、窒化されても(NiCrN
x)窒化されなくてもよい。特定の実施形態において、このようなNiCrを含む層7,11,17,21のうちの1つ、2つ、3つ、又は4つの全ては、実質的に又は完全に酸化されない。特定の実施形態において、層7,11,17,21は(微量のその他の要素が存在し得るが)全てが金属性NiCr又は実質的に金属性のNiCrであってもよい。特定の実施形態において、NiCr系層7,11,17,21のうちの1つ、2つ、3つ、又は4つの全ては、0〜10%の酸素、さらに好ましくは0〜5%の酸素、最も好ましくは0〜2%の酸素(原子%)を含んでもよい。特定の実施形態において、このような層7,11,17,21のうちの1つ、2つ、3つ、又は4つの全ては、0〜20%の窒素、さらに好ましくは1〜15%の窒素、最も好ましくは約1〜12%の窒素(原子%)を含んでもよい。NiCr系層(7,11,17及び/又は21)は、ステンレス鋼、Moなどのその他の物質でドープしてもよく、しなくてもよい。銀系IR反射層9,19の下のNiCr系接触層(7及び/又は17)を使用すれば、(層7,17がZnOの場合と比較して)被覆製品の耐久性が向上することが分かった。
【0020】
本発明の特定の実施形態において、誘電体層3,14,24は、シリコン窒化物であるかシリコン窒化物を含んでもよい。シリコン窒化物層3,14,24は、特に被覆製品の熱処理性を向上させて、任意の熱処理(例えば、焼き戻し処理など)中にその他の層を保護してもよい。シリコン窒化物層3,14,24のうちの1つ以上は、化学量論形態(すなわち、Si
3N
4)であったり、本発明の他の実施形態におけるSiリッチ型のシリコン窒化物であってもよい。Siリッチシリコン窒化物含有層(3及び/又は14)において、遊離Si(free−Si)が存在すると、例えば、熱処理(HT)中にガラス1から外側に移動するナトリウム(Na)のような特定の原子が銀に到達して損傷を進める前に、Siリッチシリコン窒化物含有層によって特定の原子を効率的に遮断することができる。したがって、本発明の特定の実施形態において、SiリッチSi
xN
yがHT中に損傷する銀層の量を減らして、シート抵抗(R
s)を満足な水準で減少させたり同程度に保持させたりできることが分かる。また、本発明の特定の任意の実施形態において、層(3、14、及び/又は24)でSiリッチSi
xN
yは、熱処理(HT)中に損傷(例えば、酸化)する銀及び/又はNiCrの量を低減できることが分かる。特定の実施形態において、Siリッチシリコン窒化物が使用される場合、蒸着されたSiリッチシリコン窒化物層(3,14,及び/又は24)は、Si
xN
y層により特徴づけられ、x/yは、0.76から1.5、さらに好ましくは0.8から1.4、より好ましくは0.82から1.2であってもよい。本発明の特定の実施形態において、本明細書に検討されたシリコン窒化物層の一部及び/又は全部をステンレス鋼又はアルミニウムなどのその他の物質でドープしてもよい。例えば、本明細書で検討されたシリコン窒化物層3、14、24の一部及び/又は全体は、本発明の特定の実施形態において、約0から15%のアルミニウム、さらに好ましくは約1から10%のアルミニウムを選択的に含んでもよい。層3、14、24のシリコン窒化物は、本発明の特定の実施形態において、アルゴン及び窒素ガスを有する雰囲気で対象Si又はSiAlをスパッタリングすることにより蒸着できる。特定の例で、少量の酸素が、シリコン窒化物層に提供されてもよい。
【0021】
赤外線(IR)反射層9,19は好ましくは実質的に又は完全に金属性及び/又は伝導性を有し、銀(Ag)、金、又は、任意のその他の適切なIR反射物質を含んだり、基本的にこれらによって構成されてもよい。IR反射層9,19は、コーティングが低放射率(low−E)及び/又は良好な太陽光制御特徴を有するように助ける。
【0022】
例示されたコーティングの上部又は下部に、その他の層がまた設けられてもよい。したがって、層システム又はコーティングが基板1「上に」ある、又は基板1「によって指示される」(直接又は間接的に)としても、その間に他の層が設けられてもよい。したがって、例えば、
図1のコーティングは、層3と基板1との間にその他の層が設けられても、基板1「上にある」又は基板1「によって支持される」と見ることができる。また、特定の実施形態において、例示されたコーティングの特定の層は除かれてもよいが、本発明の特定の実施形態の全体の思想を逸脱しない範囲で、その他の層が各種の層の間に添加されるか、本発明のその他の実施形態において、各種の層は分離されてもよく、分離した領域の間にその他の層が添加されてもよい。
【0023】
本発明の他の実施形態において、様々な厚さ及び材料が層に使用されるが、
図1の実施形態におけるガラス基板1上の、ガラス基板から外部へ向かう順で、各層の例示の厚さ及び材料は次の通りである(物理的厚さを記載する)。
【0025】
銀を含む第2IR反射層19は、少なくとも銀を含む第1IR反射層9と同じくらい厚い。特定の好ましい実施形態において、銀を含む第2IR反射層19は、銀を含む第1IR反射層9より厚い場合、さらに好ましくは第2IR反射層19は、銀を含む第1IR反射層9より少なくとも10オングストローム(Å)厚い場合(さらに好ましくは少なくてとも20オングストローム厚い場合)、驚くほどに有利な結果が達成され得ることが分かっている。
【0026】
特定の実施形態において、酸化ジルコニウム及び/又は酸窒化ジルコニウムの又はこれを含む層27は、コーティング30中の銀を含むIR反射層9,19の各々より薄い。本発明の特定の実施形態において、銀を含むIR反射層9,19の各々は、酸化ジルコニウム及び/又は酸窒化ジルコニウムの又はこれを含む層27の少なくとも2倍程厚く、さらに好ましくは少なくとも3倍程厚い。
【0027】
特定の実施形態において、中心のシリコン窒化物系層14は、その他のシリコン窒化物系層3,24の各々より厚く、好ましくは少なくとも100オングストローム程、さらに好ましくは少なくとも300オングストローム程、最も好ましくは400オングストローム程厚い。また、特定の実施形態において、シリコン窒化物系層3,14,24の各々は、酸化ジルコニウムを含む層27の少なくとも2倍程厚く、さらに好ましくは少なくとも3倍、最も好ましくは少なくとも4倍又は5倍程厚い。
【0028】
コーティング30は、単一銀系の低放射率コーティングに比べて内側及び外側の反射率が減少して優れた耐久性を提供する。しかし、ΔE
*値は、一般的に4〜5の範囲である。コーティング及びコーティングを含む被覆製品は、透過及び反射時に明るい青色に見えるように設計されてもよいが、選択的HT後に少し、より中性であってもよい。
【0029】
本発明の特定の実施形態において、本明細書に記載された被覆製品は、一体型で測定される場合(任意の熱処理前及び/又は後)、表2に記載された、以下の光学及び太陽光特性を有してもよい。本明細書に記載されたシート抵抗(R
s)は、全てのIR反射層(例えば、銀系層9,19)を考慮する。「熱処理前」は、焼きなましされたままであるが、本明細書に記載した焼き戻し処理などの高温熱処理前を意味することに留意されたい。
【0032】
上記から、熱処理(例えば、焼き戻し処理)は、被覆製品の可視光線透過率を少し増加させることが理解することができる。
【0033】
本発明の特定の積層実施形態において、焼き戻し処理に十分な程度まで任意に熱処理され、IGユニットを形成するためにまた他のガラス基板に結合された、本明細書の被覆製品は、
図2に示したような構造において、上述された光学/太陽光特性を有してもよい(例えば、2つのガラスシートはそれぞれ、6mmの厚さの透明ガラスであり、その間に90/10の比率のアルゴン/空気で満たされて16mmの間隙を有する)。このようなIG窓ユニットは、本発明の特定の実施形態において、約20〜55%の可視光線透過率を有してもよい。
【0034】
以下の実施例は、単に例示の目的で提供されるものであって、特に記載がない限り、限定を意図するものではない。
【0035】
(実施例1〜3)
次の実施例1〜3は、層の厚さに対して上記のチャートで「実施例」のカラムに示されたそれぞれの層の厚さを有し、
図1に記載された概略的な層スタックを有するように6mmの厚さの透明(clear/transparent)なガラス基板上へのスパッタコーティングによって行われた。
【0036】
図1に示したような一体型のコーティングされた製品に対して測定された実施例1〜3の光学特性が以下に記載される。以下の表の測定値は全て、熱処理前の値である。「f」はフィルム反射率、すなわち被覆製品のフィルム側からの反射率であり、「g」はガラス側反射率を意味する。
【0038】
前記実施例から理解されるように、一体型で測定された被覆製品は、好ましい低い可視光線透過率を有し、非常に好ましいガラス側反射色(reflective color)を有し得る。特に、一体型a
*g(ガラス側反射率a
*色)は約−1から−5の好ましい範囲内にあり、b
*g(ガラス側反射率b*色)は約−5から−10の好ましい範囲内にある。また、ガラス側反射率(R
gY)は10%未満、好ましくは9%以下の点において優れていた。特に被覆製品が
図2に示されたようなIG窓ユニットに配置される場合に、これらは好ましい特性である。
【0039】
焼き戻し処理後に一体型被覆製品に対して測定された実施例1〜3の光学特性が下に記載されている。
【0041】
上記の実施例から理解されるように、一体型で測定された被覆製品は、好ましい低い可視光線透過率を有し、非常に好ましいガラス側反射色を有し得る。特に、一体型a
*g(ガラス側反射率a
*色)は、約0から−2の、実施例2〜3において好ましい範囲内にあり、b
*g(ガラス側反射率b
*色)は、約−8から−12の、実施例2〜3において好ましい範囲内にある。また、ガラス側反射率(R
gY)は、10%未満の点で優れていた。特に被覆製品が
図2に示されたようなIG窓ユニットに配置される場合、これらは好ましい特性である。
【0042】
実施例1〜3の被覆製品を含む、すなわち、被覆製品が
図2に示したようにIG窓ユニットに位置する場合の(ガラス側反射率値が外側からのものを示すように、IGユニットの表面#2上にある)IG窓ユニットの光学特性を下に記載する。このような値は、IGユニットで使用される熱処理されていない(すなわち、焼き戻し処理されていない)被覆製品に対するものである。
【0044】
本発明は、最も実用的で好ましい実施形態であると考えられるものに関して説明してきたが、本発明は、開示された実施形態に限定されるものではなく、添付する特許請求の範囲の思想と範囲内に含まれる様々な変更及び同等の配置を含むものと理解されるべきである。
(実施態様1)
ガラス基板によって支持されるコーティングを含む被覆製品において、
前記コーティングは、
銀を含む第1赤外線(IR)反射層及び第2赤外線(IR)反射層であって、前記第1IR反射層は、前記第2IR反射層より前記ガラス基板にさらに近く位置する第1赤外線(IR)反射層及び第2赤外線(IR)反射層と、
前記銀を含む第1IR反射層上に直接接触するように位置するNiCrを含む第1接触層と、
前記NiCrを含む第1接触層上に直接接触するように位置するシリコン窒化物を含む誘電体層と、
前記シリコン窒化物を含む層上に直接接触して位置するNiCrを含む第2接触層と、
前記NiCrを含む第2接触層上に直接接触して位置する前記銀を含む第2IR反射層と、
前記第2IR反射層上に直接接触して位置するNiCrを含む第3接触層と、
前記NiCrを含む第3接触層上に直接接触して位置するシリコン窒化物を含むまた他の誘電体層と、
前記シリコン窒化物を含むまた他の誘電体層上に直接接触して位置する酸化ジルコニウムを含む層と、を含み、
前記銀を含む第2IR反射層は、前記銀を含む第1IR反射層より厚く、
前記銀を含む第1IR反射層及び第2IR反射層の各々は、前記酸化ジルコニウムを含む層の少なくとも2倍程厚く、
前記被覆製品は、一体型で測定された可視光線透過率が60%以下である、被覆製品。
(実施態様2)
前記銀を含む第1IR反射層及び第2IR反射層の各々は、前記酸化ジルコニウムを含む層の少なくとも3倍程厚い、実施態様1に記載の被覆製品。
(実施態様3)
前記銀を含む第1IR反射層及び第2IR反射層の各々は、前記酸化ジルコニウムを含む層の少なくとも4倍程厚い、実施態様1に記載の被覆製品。
(実施態様4)
前記酸化ジルコニウムを含む層は、窒素をさらに含む、実施態様1〜3のいずれか一項に記載の被覆製品。
(実施態様5)
前記銀を含む第2IR反射層は、前記銀を含む第1IR反射層より少なくとも10Å厚い、実施態様1〜4のいずれか一項に記載の被覆製品。
(実施態様6)
前記銀を含む第2IR反射層は、前記銀を含む第1IR反射層より少なくとも20Å厚い、実施態様1〜5のいずれか一項に記載の被覆製品。
(実施態様7)
前記銀を含む第2IR反射層は、前記銀を含む第1IR反射層より少なくとも30Å厚い、実施態様1〜6のいずれか一項に記載の被覆製品。
(実施態様8)
前記NiCrを含む第1接触層上に直接接触して位置する前記シリコン窒化物を含む誘電体層は非晶質である、実施態様1〜7のいずれか一項に記載の被覆製品。
(実施態様9)
前記NiCrを含む第1接触層は、実質的に金属性、又は金属性であり、約5%(原子%)以下の酸素を含む、実施態様1〜8のいずれか一項に記載の被覆製品。
(実施態様10)
前記NiCrを含む第2接触層は、実質的に金属性、又は金属性であり、約5%(原子%)以下の酸素を含む、実施態様1〜9のいずれか一項に記載の被覆製品。
(実施態様11)
前記NiCrを含む第3接触層は、実質的に金属性、又は金属性であり、約5%(原子%)以下の酸素を含有する、実施態様1〜10のいずれか一項に記載の被覆製品。
(実施態様12)
前記第1接触層、第2接触層、及び/又は第3接触層は、窒素をさらに含有する、実施態様1〜11のいずれか一項に記載の被覆製品。
(実施態様13)
前記被覆製品は、一体型で測定された可視光線透過率が約20〜60%である、実施態様1〜12のいずれか一項に記載の被覆製品。
(実施態様14)
前記被覆製品は、焼き戻し処理されずに、一体型で測定された可視光線透過率が約20〜55%である、実施態様1〜13のいずれか一項に記載の被覆製品。
(実施態様15)
前記被覆製品は、焼き戻し処理される、実施態様1〜13のいずれか一項に記載の被覆製品。
(実施態様16)
前記被覆製品は、熱処理され、ガラス側反射率ΔE*値は、熱処理によって5.0以下である、実施態様15に記載の被覆製品。
(実施態様17)
前記被覆製品は、熱処理され、ガラス側反射率ΔE*値は、熱処理によって4.5以下である、実施態様16に記載の被覆製品。
(実施態様18)
前記銀を含む第1IR反射層は、厚さが110〜145Åであり、前記銀を含む第2IR反射層は、厚さが150〜215Åである、実施態様1〜17のいずれか一項に記載の被覆製品。
(実施態様19)
前記酸化ジルコニウムを含む層は、厚さが25〜50Åである、実施態様1〜18のいずれか一項に記載の被覆製品。
(実施態様20)
前記コーティングは、シート抵抗(Rs)が4.0Ω/□以下である、実施態様1〜19のいずれか一項に記載の被覆製品。
(実施態様21)
実施態様1〜20のいずれか一項に記載の被覆製品、及び前記被覆製品に結合されるまた他のガラス基板を含む、IG窓ユニット。
(実施態様22)
ガラス基板によって支持されるコーティングを含む被覆製品において、
前記コーティングは、
銀を含む第1赤外線(IR)反射層及び第2赤外線(IR)反射層(前記第1IR反射層は、前記第2IR反射層より前記ガラス基板にさらに近く位置する)と、
前記銀を含む第1IR反射層上に直接接触して位置する第1接触層と、
前記第1接触層上に直接接触して位置するシリコン窒化物を含む誘電体層と、
前記シリコン窒化物を含む層上に直接接触して位置する第2接触層と、
前記第2接触層上に直接接触して位置する前記銀を含む第2IR反射層と、
前記第2IR反射層上に直接接触して位置する第3接触層と、
前記第3接触層上に直接接触して位置するシリコン窒化物を含むまた他の誘電体層と、
前記シリコン窒化物を含むまた他の誘電体層上に直接接触して位置する酸化ジルコニウムを含む層と、を含み、
前記銀を含む第2IR反射層は、前記銀を含む第1IR反射層より厚く、
前記銀を含む第1IR反射層及び第2IR反射層の各々は、前記酸化ジルコニウムを含む層の少なくとも2倍程厚く、
前記被覆製品は、一体型で測定された可視光線透過率が60%以下である、被覆製品。