特許第6585250号(P6585250)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6585250
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】乳化分散液
(51)【国際特許分類】
   B01F 17/00 20060101AFI20190919BHJP
【FI】
   B01F17/00
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-155282(P2018-155282)
(22)【出願日】2018年8月22日
【審査請求日】2018年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】500039865
【氏名又は名称】株式会社 美粒
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100112911
【弁理士】
【氏名又は名称】中野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】中野 満
【審査官】 櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−6909(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0054272(US,A1)
【文献】 国際公開第2017/110295(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体液と、
前記媒体液に溶解しない乳化分散材料と、
薄膜グラファイトと、
カーボンナノチューブと、を含む乳化分散液であって、
前記乳化分散材料は、前記薄膜グラファイトで囲まれた状態で前記媒体液中に分散し、前記薄膜グラファイトの表面に前記カーボンナノチューブが付着したことを特徴とする乳化分散液。
【請求項2】
媒体液と、
前記媒体液に溶解しない乳化分散材料と、
カーボンナノチューブと、を含む乳化分散液であって、
前記乳化分散材料は、前記カーボンナノチューブで囲まれた状態で前記媒体液中に分散したことを特徴とする乳化分散液。
【請求項3】
さらに増粘剤を含む、請求項1または2に記載の乳化分散液。
【請求項4】
前記増粘剤は、水溶性高分子であることを特徴とする請求項3に記載の乳化分散液。
【請求項5】
前記乳化分散材料は、油、または親油性の物質を含む油であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の乳化分散液。
【請求項6】
前記油は、鉱物油または流動パラフィンであることを特徴とする請求項5に記載の乳化分散液。
【請求項7】
前記油の融点は、前記薄膜グラファイトおよび/または前記カーボンナノチューブの融点より低いことを特徴とする請求項5に記載の乳化分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化分散液に関し、特に、薄膜グラファイトを乳化剤に用いた乳化分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
液体または固体の乳化分散材料を媒体液中に乳化または分散させて乳化分散液を製造する場合、一般に乳化剤として界面活性剤が用いられる。例えば、界面活性剤を用いることにより、水の中に油を乳化分散できることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、乳化分散液が人体と接触する可能性がある場合、例えば乳化分散液が化粧品や食品である場合、界面活性剤が人体にとって有害なことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018−83769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これに対して、人体に有毒な場合がある界面活性剤に代えて、グラフェン等の薄膜グラファイトを乳化剤として用いて乳化分散液を作製することを検討した。しかしながら、乳化分散材料を乳化または分散させて乳化分散液を作製しても、時間の経過と共に薄膜グラファイト同士が凝集し、安定した乳化分散液が得られないという問題があった。
【0006】
そこで、発明者は鋭意研究の結果、薄膜グラファイトを乳化剤として用いると共に、更にカーボンナノチューブを加えることで、薄膜グラファイト同士の凝集を防止できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明は、界面活性剤に代えて薄膜グラファイト等を乳化剤に用いた乳化分散液の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、媒体液と、媒体液に溶解しない乳化分散材料と、薄膜グラファイトと、カーボンナノチューブと、を含む乳化分散液であって、乳化分散材料は、薄膜グラファイトで囲まれた状態で媒体液中に分散し、薄膜グラファイトの表面にカーボンナノチューブが付着したことを特徴とする乳化分散液である。
【0009】
また、本発明は、媒体液と、媒体液に溶解しない乳化分散材料と、カーボンナノチューブと、を含む乳化分散液であって、乳化分散材料は、カーボンナノチューブで囲まれた状態で媒体液中に分散したことを特徴とする乳化分散液でもある。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかる乳化分散液では、界面活性剤に代えて薄膜グラファイトやカーボンナノチューブを乳化剤として用いることにより、人体と接触しても安全な乳化分散液を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態にかかる油粒子の乳化状態を説明する概略図である。
図2】本発明の実施の形態にかかる乳化分散液の概略図である。
図3】本発明の実施の形態にかかる乳化分散液を、ドラッグ/マテリアルデリバリーシステムに用いた場合の概略図である。
図4】本発明の実施の形態にかかる乳化分散液製造システムのシステム構成図である。
図5図4示す乳化分散液製造システムを構成する第1、第2乳化分散装置の構成を示す模式図である。
図6】本発明の実施の形態にかかる乳化工程を示す概略図である。
図7図4に示す乳化分散液製造システムを構成する多段圧力温度制御装置の構成を示す模式図である。
図8】多段圧力温度制御装置内での乳化分散液の位置的な圧力変化の態様を示すグラフである。
図9】本発明の実施の形態にかかる乳化分散液の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態にかかる乳化分散液は、媒体液と、媒体液に溶解しない乳化分散材料と、薄膜グラファイトと、カーボンナノチューブ(CNT)とを基本構成とする乳化分散液であって、図1に示すように、乳化分散材料(例えば油粒子)は、薄層化、微細化した薄膜グラファイト(黒鉛)で囲まれ、薄膜グラファイトの表面に解繊されたカーボンナノチューブが付着した状態で媒体液中に分散している。
【0013】
媒体液としては、例えば水、メタノール、エタノール等が用いられ、乳化分散材料には、鉱物油または流動パラフィンのような油が用いられる。油は、酸化シリコン(SiOx)等の他の物質を含んでも良い。このように親油性の物質を加えることにより、この物質の分配液としても使用できる。なお、乳化分散材料の融点は、薄膜グラファイトおよびカーボンナノチューブの融点より低いことが好ましい。
【0014】
図3は、本発明の実施の形態にかかる乳化分散液を、ドラッグ/マテリアルデリバリーシステムに用いた場合の概略図である。乳化分散材料(例えば油)に親油性の薬物や疎水性の物質を混ぜることにより、これらの薬物や物質を保持、分配することができる。例えば、酸化シリコンを混ぜることにより、電池の電極材料への応用が可能となる。
【0015】
グラフェン等の薄膜グラファイトは、親油性、疎水性を有する。このために、乳化分散液が薄膜グラファイトを含むことにより、乳化分散材料の表面に、これを囲むように薄膜グラファイトが付着し、この状態で媒体液中に分散させることができる。即ち、薄膜グラファイトは界面活性剤の代わりに乳化剤として機能する。
【0016】
一方で、薄膜グラファイトは凝集しやすいという性質を有するため、乳化分散材料の表面を覆う薄膜グラファイト同士が凝集する。本発明の実施の形態では、図2に示すように、乳化分散液が解繊されたカーボンナノチューブを含み、このカーボンナノチューブは薄膜グラファイトの表面に付着する。そして薄膜グラファイトにカーボンナノチューブが付着することにより、これがスペーサとして機能して、乳化分散材料を囲む薄膜グラファイト同士が接触することを妨げ、薄膜グラファイト同士の凝集が防止できる。
【0017】
なお、薄膜グラファイトは、グラファイトが剥離され、球状の乳化分散材料の表面を囲むことができる程度に薄膜になったグラファイトであり、例えば、単層〜数十層、好ましくは単層から数層のグラファイトである。例えば、長さが10〜20μmで、4〜30層程度のグラファイトである。
【0018】
また、カーボンナノチューブは、解繊されたシングルカーボンナノチューブまたはマルチカーボンナノチューブであり、グラファイトの表面に容易に付着する程度に解繊され、分断されていることが好ましい。
【0019】
乳化分散液は、さらに、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、キサンタンガム等の増粘剤(分散剤)を含むことが好ましい。媒体液が水の場合、増粘剤には水溶性高分子が用いられる。このような増粘剤を用いることにより、カーボンナノチューブ同士の凝集を抑制し、グラファイトの表面上に均一にカーボンナノチューブを付着させることができる。
【0020】
また、本発明の実施の形態にかかる乳化分散液は、媒体液と、媒体液に溶解しない乳化分散材料と、カーボンナノチューブとを含む乳化分散液であって、乳化分散材料は、カーボンナノチューブで囲まれた状態で媒体液中に分散したものでも良い。
【0021】
この場合においても、乳化分散液は、さらに、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、キサンタンガム等の増粘剤(分散剤)を含むことが好ましい。増粘剤を含むことにより、カーボンナノチューブ同士の凝集を抑制することができる。
【0022】
このように、本発明の実施の形態にかかる乳化分散液では、界面活性剤に代えて薄膜グラファイトを乳化剤として用いることにより、薄膜グラファイトが乳化分散材料の回りを囲み、乳化分散材料を媒体液中に分散または乳化させることができる。さらに、カーボンナノチューブが薄膜グラファイトの表面に付着することで、これがスペーサとして機能し、乳化分散材料の周囲を覆う薄膜グラファイト同士が凝集するのを防止できる。これにより人体と接触しても安全で、かつ安定した乳化分散液を提供できる。
【0023】
また、カーボンナノチューブを乳化剤として用いた場合も、カーボンナノチューブが乳化分散材料の回りを囲み、乳化分散材料を媒体液中に分散または乳化させることができる。これにより人体と接触しても安全で、かつ安定した乳化分散液を提供できる。
【0024】
本発明の実施の形態にかかる乳化分散液は、人体と接触する化粧品や食品の他、機械用の潤滑剤、電池材料等にも使用できる。特に、機械加工の潤滑剤としては、従来から潤滑油を乳化して水に分散させた水溶性潤滑剤が用いられるが、高い廃棄コストが問題となっている。これに本発明の実施の形態にかかる乳化分散液では、界面活性剤を使用しないため廃棄コストが安価になる。
【0025】
続いて、本発明の実施の形態にかかる乳化分散液の製造方法について、図4〜9を参照しながら説明する。なお、乳化分散液の製造に使用する装置および方法は、同一出願人の特許第5791142号および特許第5972434号に詳しく記載されている。
【0026】
図4は、全体がSで表される、本発明の実施の形態にかかる乳化分散液の製造に使用する乳化分散液製造システムの構成図である。図4に示すように、乳化分散液製造システムSでは、原料である混合液又は製品である乳化分散液の流れ方向に対して、上流側から下流側に向かって順に、混合液供給タンク1と、混合液圧送ポンプ2と、熱交換器3と、混合液加圧ポンプ4と、第1乳化分散装置5と、第1添加剤供給ポート6と、第2乳化分散装置7と、第2添加剤供給ポート8と、多段圧力温度制御装置9とが直列に配設されている。
【0027】
混合液供給タンク1内には、媒体液と、媒体液に溶解しない乳化分散材料とを含む混合液が貯留されている。ここでは、
媒体液: 水 125g
乳化分散材料:流動パラフィン 5g
乳化剤: 薄膜グラファイト 0.3g
多層カーボンナノチューブ(MWCNT) 0.6g
増粘剤: カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC) 0.3g
を混合液として混合液供給タンク1内に貯留する。
【0028】
混合液供給タンク1内には攪拌機(図示せず)が付設され、この攪拌機は、媒体液中に乳化分散材料が巨視的にはほぼ均一に分布するように、混合液を常時攪拌している。なお、ここで「乳化分散材料」は、媒体液中に乳化又は分散させるべき材料を意味する。
【0029】
混合液供給タンク1内の混合液は、混合液圧送ポンプ2により、所定の流量で、熱交換器3を経由して混合液加圧ポンプ4に供給される。熱交換器3は、適当な伝熱媒体、例えばスチーム、高温の水(例えば80〜100℃)、高温の鉱油(例えば、100〜500℃)等を用いて、混合液を、乳化分散材料が水の中で乳化分散するのに適した所定の温度となるように加熱する。熱交換器3としては、例えば、2重管式熱交換器、コイル式熱交換器、プレート式熱交換器等を用いることができる。また、場合によっては、混合液を加熱するのではなく、冷却することもある。この場合は、伝熱媒体として、例えば低温の水(例えば0〜5℃)、低温の冷媒(例えば−20〜0℃)等を用いればよい。なお、混合液の温度を調節する必要がなければ、熱交換器3を省いてもよい。
【0030】
混合液加圧ポンプ4は、混合液圧送ポンプ2から熱交換器3を経由して供給される混合液を、例えば30〜300MPa(300〜3000バール)に加圧して下流側に吐出する。ここでは、100MPaに加圧する。そして、混合液加圧ポンプ4から吐出された高圧の混合液は、この高圧を維持しつつ、まず第1乳化分散装置5に供給される。第1乳化分散装置5は、後で詳しく説明するように、ジェット流による液・液せん断により、乳化分散材料、薄膜グラファイト、および多層カーボンナノチューブを媒体液中に乳化分散させて乳化分散液を生成し、これを下流側に排出する。乳化分散材料等の一部が媒体液中に乳化分散しなかった場合、この乳化分散材料等は、後で説明する第2乳化分散装置7により乳化分散させられる。なお、ここで「乳化分散液」は、乳化させるべき材料及び/又は分散させるべき材料が媒体液中に乳化又は分散している液体(例えば、エマルジョン、サスペンション等)を意味する。
【0031】
このように、乳化分散材料、薄膜グラファイト、および多層カーボンナノチューブを、第1乳化分散装置5を通過させることにより、乳化分散材料は、薄層化、微細化した薄膜グラファイトに囲まれ、薄膜グラファイトの表面に解繊されたカーボンナノチューブが付着した状態で媒体液中に分散し、乳化分散液となる。
【0032】
第1乳化分散装置5から排出された乳化分散液は、第1添加剤供給ポート6を通って第2乳化分散装置7に供給される。第2乳化分散装置7は、第1乳化分散装置5によって生成された乳化分散液中に乳化分散していない乳化分散材料等が存在する場合、この乳化分散材料を、基本的には第1乳化分散装置5と同様の液・液せん断により媒体液中に乳化分散させ、乳化分散材料が完全に乳化分散している乳化分散液を生成し、これを下流側に排出する。なお、乳化分散材料が第1乳化分散装置5によって十分に乳化分散する場合は、第2乳化分散装置7を省いてもよい。
【0033】
第2乳化分散装置7から排出された乳化分散液は、第2添加剤供給ポート8を経由して多段圧力温度制御装置9に供給される。なお、本発明の実施の形態にかかる乳化分散液の作製には、第1添加剤供給ポート6および第2添加剤供給ポート8から、添加剤は加えない。
【0034】
多段圧力温度制御装置9は、後で詳しく説明するように、第2乳化分散装置7内の乳化分散液と第1乳化分散装置5内の乳化分散液とに対して所定の背圧をかけ、第1、第2乳化分散装置5、7の内部におけるバブリングの発生を防止するとともに、生成された乳化分散液の圧力を段階的ないしは漸次的に減圧し、多段圧力温度制御装置9の出口部における乳化分散液の圧力を、乳化分散液を大気圧下に解放してもバブリングが発生しない程度の圧力、例えば大気圧にまで低下させる。
【0035】
図5は、第1乳化分散装置5の構造を模式的に示す図である。なお、第2乳化分散装置7の構造及び機能は、図5に示す第1乳化分散装置5と実質的には同様であるので、説明の重複を避けるため、以下では第1乳化分散装置5の構成及び機能を中心に説明する。図5に示すように、第1乳化分散装置5は、互いに直列に接続された、ノズル部材11と、円筒形の通路部材12と、略円柱形の本体部13とを備えている。
【0036】
ここで、ノズル部材11と通路部材12と本体部13とは、これらの中心軸が一直線となるように、すなわち同軸状となるように配置されている。本体部13は、混合液ないしは乳化分散液の流れ方向(図5中の位置関係では右向き)に関して、上流側から下流側に向かって順に並ぶ第1〜第3細孔部材14〜16を備えている。第1〜第3細孔部材14〜16は、それぞれ、該第1〜第3細孔部材14〜16をその中心軸方向に貫通する円柱形の第1〜第3細孔17〜19を有している。なお、第1〜第3細孔部材14〜16は、リング状のシール部材20を介して相互に接続されている。
【0037】
ここで、第1〜第3細孔部材14〜16の第1〜第3細孔17〜19の内直径をそれぞれd、d、dとすれば、各内直径d、d、dは、d>d>dの関係を満たすように設定されている。ここで、円筒形の通路部材12の内直径は、dより大きい値に設定されている。なお、通路部材12の内直径はdと同一であってもよい。また、各シール部材20の内直径はdより大きい値に設定されている。なお、第1〜第3細孔部材14〜16の内直径は、混合液ないしは乳化分散液の性状に応じて、例えば0.4〜4mmの範囲内で好ましく設定され、その長さは例えば4〜40mmの範囲内で好ましく設定される。また、ノズル部材11の内直径は、混合液ないしは乳化分散液の性状に応じて、例えば0.1〜0.5mmの範囲内で好ましく設定され、ノズル長さは例えば1〜4mmの範囲内で好ましく設定される。シール部材20の内直径は、例えば2〜8mmの範囲内で好ましく設定される。
【0038】
第1乳化分散装置5においては、比較的小径の第1細孔部材14ないしは第1細孔17は、比較的大径の通路部材12内の混合液に対して所定の背圧をかける。また、最も小径の第3細孔部材16ないしは第3細孔19は、最も大径の第2細孔部材15ないしは第2細孔18内の混合液ないしは乳化分散液に対して所定の背圧をかける。前記のとおり、リング状のシール部材20の内直径は、最も大径の第2細孔部材15ないしは第2細孔18の内直径d2より大きいので、混合液ないしは乳化分散液の圧力を瞬間的に緩和することにより、第1〜第3細孔部材14〜16が、それぞれ独立した減圧作用を生じさせることを可能にする。
【0039】
第1乳化分散装置5においては、最も強いせん断が生ずる通路部材12に対して、この強いせん断によって生じようとするバブリングを防止するのに十分な背圧をかけることができる。また、最も小径の第3細孔部材16ないしは第3細孔19は、最も大径の第2細孔部材15による圧力緩和に対して、この圧力緩和によりバブリングが生じない背圧をかける。なお、第3細孔部材16の下流側でこれと連通する、第1添加原料供給ポート6への円筒形の接続部材21の内直径は、第3細孔部材16ないしは第3細孔19の内直径d3に対して十分に大きくなっている。
【0040】
かくして、混合液加圧ポンプ4によって、例えば30〜300MPa(300〜3000バール)、ここでは100MPaの高い圧力に加圧された混合液は、ノズル部材11により、高速のジェット流に変換されて通路部材12内に噴出する。通路部材12内に噴出したジェット流は、周囲に存在する混合液に強いせん断力を加えて乳化分散材料の乳化分散、多層グラファイトの剥離、カーボンナノチューブの解繊を起こす。そして、混合液のジェット流自体は、その運動エネルギを失いつつ第1〜第3細孔部材14〜16内に流入し、第1〜第3細孔部材14〜16内に存在する混合液にせん断力を加え、同じく乳化分散材料等の乳化分散を生じさせて乳化分散液を生成する。これにより、周囲を薄膜グラファイトに囲まれ、その表面にカーボンナノチューブが付着した鉱物油が水の中に乳化分散する。
【0041】
なお、第1〜第3細孔部材14〜16は、軸心部を通過する混合液のジェット流と、その周囲に存在する混合液との間における液・液せん断により、ジェット流の運動エネルギがせん断エネルギや熱エネルギに変換され、その運動エネルギが次第に失われる小径の細孔を有するものである。第1〜第3細孔部材14〜16ないしは第1〜第3細孔17〜19の内直径及び段数の設定は、バブリングを発生させることなく強力な乳化分散作用を生じさせる上で極めて重要な要素である。
【0042】
このように、第1、第2乳化分散装置5、7には、混合液加圧ポンプ4によって混合液に高圧がかけられるので、第1、第2乳化分散装置5、7内で混合液に強いせん断力を加えることができ、乳化分散材料、グラファイト、カーボンナノチューブを十分に微粒化、剥離、解繊することができる。また、後で説明する多段圧力温度制御装置9によって第1、第2乳化分散装置5、7に背圧がかけられるので、第1、第2乳化分散装置5、7内におけるバブリングの発生を防止することができる。
【0043】
図6に、21、第2乳化分散装置5、7内で混合液にせん断力を加えた場合の油、CNT、およびグラファイトの変化を示す。乳化分散材料である油(例えば流動パラフィン)は、微細化されて油粒子となる。多層カーボンナノチューブ(MWCNT)は、解繊されたカーボンナノチューブ(CNT)となる。また、乳化剤であるグラファイトは、剥離されて薄膜グラファイトとなる。この場合、カーボンナノチューブは、グラファイトの層間に侵入し、グラファイトの剥離剤としても機能する。
【0044】
なお、図5に示す第1〜第3細孔部材14〜16は、それぞれ、内直径が互いに異なる単一の円筒部材で構成されている。しかしながら、第1〜第3細孔部材14〜16を、それぞれ、複数(例えば2〜3個)の円筒部材で構成してもよい。この場合、各細孔部材14〜16において、各円筒部材間にはシール部材20を介設するのが好ましい。
【0045】
図7は、多段圧力温度制御装置9の構造を模式的に示す図である。多段圧力温度制御装置9は、第2乳化分散装置7から第2添加原料供給ポート8を経由して供給される乳化分散液を受け入れ、乳化分散液の圧力を段階的ないしは漸次的に低下させるととともに、第1、第2乳化分散装置5、7内の乳化分散液に背圧をかける。また、多段圧力温度制御装置9は、せん断力による乳化分散により高温となった乳化分散液を、所定の温度、例えば室温(20〜30℃)まで冷却する。また、乳化分散液の温度ひいては粘度を制御することにより、補助的に圧力低下を制御する。
【0046】
図7に示すように、多段圧力温度制御装置9は、乳化分散液の流れ方向(図7中の位置関係では右向き)に関して上流側から下流側に向かって順に直列に接続された第1〜第3制御部23〜25を備えている。ここで、第1制御部23は、その内部を冷却水(伝熱媒体)が流通する第1外套26と、この第1外套26の内部に配置されその内部を乳化分散液が流通する第1伝熱管29とを有している。第2制御部24は、その内部を冷却水が流通する第2外套27と、この第2外套27の内部に配置されその内部を乳化分散液が流通する第2伝熱管30とを有している。第3制御部25は、その内部を冷却水が流通する第3外套28と、この第3外套28の内部に配置されその内部を乳化分散液が流通する第3伝熱管31とを有している。
【0047】
多段圧力温度制御装置9においては、第1〜第3伝熱管29〜31は、いずれもその横断面が円形であり、連通部材35を介して互いに直列に接続されている。なお、乳化分散液の流れ方向に関して、第1伝熱管29の上流側の端部及び第3伝熱管31の下流側の端部は、それぞれ連通部材35を介して、これらの上流側及び下流側の配管に接続されている。
【0048】
多段圧力温度制御装置9において、第1〜第3伝熱管29〜31の内直径、全長及び全体的形状ないしは配管形状(パイピング、コンフィギュレーション)は、第1〜第3伝熱管29〜31の圧力低下をそれぞれΔP〜ΔPとすれば、第1〜第3伝熱管29〜31内を流れる乳化分散液の流速、密度及び粘度等の物性を考慮した上で、ΔP>ΔP>ΔPの関係を満たすように設定されている。すなわち、所定の物性ないしは組成の乳化分散液が得られるように、第1〜第3伝熱管29〜31内を流れる乳化分散液の温度、流速、密度及び粘度を好ましく設定した上で、ΔP>ΔP>ΔPの関係を満たすように、第1〜第3伝熱管29〜31の内直径、全長及び全体的形状ないしは配管形状を決定する。
【0049】
なお、このように多段圧力温度制御装置9の第1〜第3伝熱管29〜31の圧力低下ΔP〜ΔPを、ΔP>ΔP>ΔPの関係を満たすように設定するのは、本願発明者が、多段圧力温度制御装置9の第1〜第3伝熱管29〜31における圧力低下の種々の組合せについてバブリングの発生の有無を実験により確認した結果に基づくものである。この実験により、バブリングが発生しない圧力低下の組合せは、上記条件を満たす場合のみであり、この条件を満たさない組合せではバブリングが発生することが判明した。
【0050】
前記のとおり、第1〜第3伝熱管29〜31の内直径、全長及び全体的形状ないしは配管形態は、乳化分散液の流速、密度及び粘度等の物性に応じて、ΔP>ΔP>ΔPの関係を満たすように設定されるが、第1〜第3伝熱管29〜31における圧力低下量ΔP〜ΔPは、以下で説明する手法により算出ないしは推算することができる。
【0051】
<乳化分散液が層流の場合>
まず、第1〜第3伝熱管29〜31内を乳化分散液が層流で流れる場合の圧力低下量ΔP〜ΔPの算出手法を説明する。この場合は、第1〜第3伝熱管29〜31の内直径をそれぞれD〜Dとし、第1〜第3伝熱管29〜31の相当長さをそれぞれLe〜Leとし、第1〜第3伝熱管29〜31内の乳化分散液の流速をそれぞれU〜Uとし、第1〜第3伝熱管29〜31内の乳化分散液の粘度をそれぞれμ〜μとし、重力換算係数をg(9.8kg・m/Kg・sec2)とすれば、圧力低下量ΔP〜ΔPは、それぞれ、下記の式1〜3、すなわちハーゲン・ポアズイユ(Hagen-Poiseuille)の式により算出することができる。

ΔP=32・U1・Le1・μ1/(g・D1)・・・・・・・・・・・・・・・式1
ΔP=32・U2・Le2・μ2/(g・D2)・・・・・・・・・・・・・・・式2
ΔP=32・U3・Le3・μ3/(g・D3)・・・・・・・・・・・・・・・式3
【0052】
なお、ここで「相当長さLe」は、種々の形態の実際の伝熱管の圧力低下ないしは圧力損失と同一の圧力低下ないしは圧力損失を生じさせる、上記伝熱管と内直径が同一の直管の長さを意味する(乳化分散液が乱流で流れる後記の場合も同様)。つまり、本発明では、種々の管継ぎ手等を有しかつ種々の全体形状をもつ種々の伝熱管を、同一の圧力低下を生じさせる直管に置き換える(同一視する)ことにより、ハーゲン・ポアズイユの式を利用することができるようにしている。なお、種々の形態の管ないしは管継ぎ手の「相当長さ」の算出方法は、当業者にはよく知られているので、その詳しい説明は省略する。第1〜第3伝熱管29〜31の断面が円形でない場合、例えば楕円、正方形、矩形等である場合は、上記内直径D〜Dに代えて「相当直径(4×管断面積/浸辺長)」を用いればよい(乳化分散液が乱流で流れる後記の場合も同様)。
【0053】
このように、第1〜第3伝熱管29〜31内の乳化分散液の流れが層流である場合、すなわちレイノルズ(Reynolds)数がおおむね2300以下である場合、第1〜第3伝熱管29〜31における圧力低下ないしは圧力損失は、第1〜第3伝熱管の内面の粗面度にかかわらず、それぞれ上記式1〜式3、すなわちハーゲン・ポアズイユの式で算出することができる。なお、例えば、乳化分散液の粘度μが3.6kg/m・hr(1センチポイズ)であり、密度ρが1000kg/mであり、流速Uが1800m/hr(0.5m/秒)である場合において、伝熱管の内直径Dを0.002m(2mm)とすれば、伝熱管内の乳化分散液の流れのレイノルズ数は下記のとおり1000であり、したがって乳化分散液の流れは層流である。

Re=D・U・ρ/μ=0.002×1800×1000/3.6=1000
【0054】
かくして、第1〜第3伝熱管29〜31内に乳化分散液を層流で流す場合は、まず第1〜第3伝熱管29〜31内を流れる乳化分散液の温度、流速、密度及び粘度を設定した上で、上記式1〜式3を利用して第1〜第3伝熱管29〜31の圧力低下量ΔP〜ΔPがΔP>ΔP>ΔPの関係を満たすように、第1〜第3伝熱管29〜31の内直径、全長及び全体的形状ないしは配管形状を決定すればよい。
【0055】
<乳化分散液が層流の場合>
次に、第1〜第3伝熱管29〜31内を乳化分散液が乱流で流れる場合の圧力低下量ΔP〜ΔPの算出手法を説明する。この場合、第1〜第3伝熱管29〜31が平滑管であれば、第1〜第3伝熱管29〜31における圧力低下ΔP〜ΔPは、それぞれ、下記の式4〜6、すなわちカルマン・ニクラーゼ(Karman-Nikuradse)の式により算出することができる。なお、この乳化分散液製造システムSでは、第1〜第3伝熱管29〜31にはすべて平滑管、例えば内壁面の粗度がガラス管の粗度と同程度である平滑なステンレススチール管、銅管等を用いている。
【0056】
ΔP=4・f1・[(ρ1・U12/(2・g)]・(Le1/D1)・・・・・・・・・・・式4
但し 1/f10.5=4・log[(D1・U1・ρ1/μ1)・f10.5]−0.4

ΔP=4・f2・[(ρ2・U22/(2・g)]・(Le2/D2)・・・・・・・・・・・式5
但し 1/f20.5=4・log[(D2・U2・ρ2/μ2)・f20.5]−0.4

ΔP=4・f3・[(ρ3・U32/(2・g)]・(Le3/D3)・・・・・・・・・・・式6
但し 1/f30.5=4・log[(D3・U3・ρ3/μ3)・f30.5]−0.4
【0057】
なお、式4〜式6において、ρ〜ρは、それぞれ、第1〜第3伝熱管29〜31内を流れる乳化分散液の密度である。また、f〜fは、第1〜第3伝熱管29〜31の管摩擦係数であり、第1〜第3伝熱管29〜31が平滑管であるので、レイノルズ数のみの関数である。その他の記号の意味は、乳化分散液が層流で流れる場合と同一である。
【0058】
このように、第1〜第3伝熱管29〜31内の乳化分散液の流れが乱流である場合、すなわちレイノルズ(Reynolds)数がおおむね2300を超える場合、第1〜第3伝熱管29〜31における圧力低下ないしは圧力損失は、第1〜第3伝熱管29〜31が平滑管であれば、それぞれ上記式4〜式6、すなわちカルマン・ニクラーゼの式で算出することができる。なお、例えば、乳化分散液の粘度μが3.6kg/m・hr(1センチポイズ)であり、密度ρが1000kg/mであり、流速Uが3600m/hr(1m/秒)である場合において、伝熱管の内直径Dを0.003m(3mm)とすれば、伝熱管内の乳化分散液の流れのレイノルズ数は下記のとおり3000であり、したがって乳化分散液の流れは乱流である。

Re=D・U・ρ/μ=0.003×3600×1000/3.6=3000
【0059】
かくして、第1〜第3伝熱管29〜31内に乳化分散液を乱流で流す場合は、まず第1〜第3伝熱管29〜31内を流れる乳化分散液の温度、流速、密度及び粘度を設定した上で、上記式4〜式6を利用して第1〜第3伝熱管29〜31の圧力低下量ΔP〜ΔPがΔP>ΔP>ΔPの関係を満たすように、第1〜第3伝熱管29〜31の内直径、全長及び全体的形状ないしは配管形状を決定すればよい。
【0060】
前記のとおり、多段圧力温度制御装置9においては、第1〜第3伝熱管29〜31の内直径、全長及び全体的形状ないしは配管形状は、乳化分散液の粘度及び密度を考慮しつつ、第1〜第3伝熱管29〜31の圧力低下ΔP〜ΔPがΔP>ΔP>ΔPの関係を満たすように好ましく決定されるが、この実施形態では、第1伝熱管29及び第2伝熱管30はコイル状の管(蛇管)である。
【0061】
そして、第1伝熱管29では、その圧力低下量ΔPを最大にするために、内直径は比較的小さく、管全長は比較的長く、コイル直径は比較的小さく、コイルピッチは比較的小さく設定されている。すなわち、第1伝熱管29は、コイル直径が小さい、密に巻かれたコイル状の管である。他方、第2伝熱管30では、その圧力低下量ΔPを最小にするために、内直径は比較的大きく、管全長は比較的短く、コイル直径は比較的小さく、コイルピッチは比較的小さく設定されている。すなわち、第2伝熱管30は、コイル直径が大きい、疎に巻かれたコイル状の管である。
【0062】
また、第3伝熱管31は、全体的形状ないしは配管形状が矩形波の形状の管、すなわち矩形の凹凸を繰り返す形状の管である。そして、この第3伝熱管31は、図4中にその一部を拡大して示しているように、複数の直管37が各折れ曲がり部でそれぞれ90°エルボ38を用いて接続された組立体構造のものである。ここで、第3伝熱管31の全長、直管37の内直径、90°エルボ38の形状は、該第3伝熱管31における圧力低下量ΔPが、第1伝熱管29の圧力低下量ΔPより小さく、かつ第2伝熱管30の圧力低下量ΔPより大きくなるように好ましく設定されている。なお、第3伝熱管31は、分解してその内部を容易に清掃することができる。
【0063】
第1〜第3伝熱管29〜31の寸法ないしは全体的形状の一例を以下に示す。
<第1伝熱管>
内直径D 1mm
管全長L 5m
相当長さLe 6m
全体的形状 コイル状(蛇管)
コイル直径:50mm
コイルピッチ:15mm
【0064】
<第2伝熱管>
内直径D 3mm
管全長L 3m
相当長さLe 3.5m
全体的形状 コイル状(蛇管)
コイル直径:100mm
コイルピッチ:30mm
【0065】
<第3伝熱管>
内直径D 2mm
管全長L 4m
相当長さLe 4.5m
全体的形状 矩形波状
1つの矩形の幅:10mm
1つの矩形の長さ:20mm
【0066】
図8に、多段圧力温度制御装置9の第1〜第3制御部23〜25(第1〜第3伝熱管29〜31)における乳化分散液の位置的な圧力変化の一例を示す。図5に示すように、多段圧力温度制御装置9内では、乳化分散液の圧力は段階的ないしは漸次的に低下し、第3制御部25(第3伝熱管31)の出口部では、大気圧ないしはほぼ大気圧となっている。このように、多段圧力温度制御装置9内では、乳化分散液の圧力が段階的ないしは漸次的に低下させられ急激ないしは瞬時の圧力低下が起こらないので、乳化分散液が乳化分散液製造システムSから外部に排出される際に、乳化分散液中にバブリングが発生しない。また、乳化分散液製造システムSから外部に排出される乳化分散液の温度を好ましく制御することができる。このため、実質的に界面活性剤を用いることなく、乳化分散液の製品としての品質を高めることができ、かつ、エネルギの損失を低減してエネルギ効率を高めることができる。
【0067】
多段圧力温度制御装置9は、第1、第2乳化分散装置5、7に対して必要な背圧、すなわちバブリングの発生を防止することができる背圧を設定することができる一方、この背圧を段階的ないしは漸次的に減圧して最終的には大気に解放してもバブリングが発生しない圧力まで低下させることができる。その際、第1〜第3伝熱管29〜31の内直径ないしは相当内直径と、全長(管長)ないしは相当長さと、全体的形状とを好ましく組み合せることにより、背圧あるいは背圧の減圧度に高い自由度でもって対応することができる。
【0068】
なお、この乳化分散液製造システムSにおいては、水あるいはその他の種々の媒体液(例えば、メタノール、エタノール、あるいはこれらの水溶液等)を用いることができるが、これらの媒体液を臨界状態として乳化分散材料を乳化分散させてもよい。例えば、媒体液が水であり、乳化分散材料がグリセロリン脂質であるレシチンある場合は、およそ次のような工程で乳化分散材料を乳化分散させればよい。
【0069】
すなわち、まず混合液供給タンク1内に、所定量の水及びレシチン並びにその他の必要な添加剤を入れて攪拌機(図示せず)で攪拌し、巨視的ないしはマクロ的には媒体液である水の中にレシチン及び添加剤の微粒子がほぼ均一に分布している混合液を調製する。そして、この混合液を圧送ポンプ2により所定の流量で熱交換器3を経由して、混合液加圧ポンプ4に供給する。ここで、熱交換器3及び混合液加圧ポンプ4により、混合液を、媒体液である水の臨界温度である374.2℃以上の温度(例えば400℃)に昇温するとともに、水の臨界圧力である218.4気圧以上の圧力(例えば1000気圧)に昇圧して、混合液を臨界状態にする。
【0070】
そして、臨界状態となっている混合液を、第1乳化分散装置5さらには第2乳化分散装置7に供給する。なお、必要であれば、第1、第2添加剤供給装置6、8から所定の添加剤を添加する。媒体液である水が臨界状態となっているので、レシチン等の非水溶性の乳化分散材料は水の中に乳化又は分散しやすい状態となっている。このような状態で、混合液が第1乳化分散装置5内に、さらには第2乳化分散装置7内に高速で噴射されるので、強いせん断力によってレシチン等の非水溶性の乳化分散材料の乳化分散が促進される。このため、界面活性剤を用いることなく、媒体液である水の中に、レシチン等の非水溶性の乳化分散材料を乳化分散させることができる。
【0071】
その際、多段圧力温度制御装置9によって、第1、第2乳化分散装置5、7内の高温・高圧の混合液ないしは乳化分散液に背圧がかけられるので、第1、第2乳化分散装置5、7ではバブリングは発生しない。第2乳化分散装置7から排出された乳化分散液は、多段圧力温度制御装置9内で所定の温度(例えば室温)まで冷却され、かつ段階的ないしは漸次的に所定の圧力(例えば大気圧)まで減圧される。乳化分散液は、このように冷却されかつ段階的ないしは漸次的に減圧されるので、圧力温度制御装置9内あるいは圧力温度制御装置9から外部に排出されたときにバブリングは発生しない。かくして、臨界状態で混合液にせん断力をかけて乳化分散を行った後、良好な乳化分散状態を維持しながら、バブリングを発生させることなく、最終製品を得ることができる。
【0072】
以上の工程により、本発明の実施の形態にかかる乳化分散液を得ることができる。図9は、乳化分散液製造システムSで作製した乳化分散液の顕微鏡写真である。顕微鏡写真中、白丸部分が乳化分散材料である流動パラフィン(油粒子)であり、その周囲は黒色の薄膜グラファイトで囲まれている。ここでは流動パラフィンの直径は1〜10μm程度である。薄膜グラファイトの周囲にはカーボンナノチューブが付着し、薄膜グラファイト同士の凝集を防止している。
【0073】
本発明の実施の形態では、乳化分散液製造システムSに混合液を1回通過させた場合について説明したが、必要に応じて複数回通過させても良い。複数回通過させることにより、乳化分散材料をより微細化することが可能となる。
【0074】
また、ここでは、媒体液(水)、乳化分散材料(流動パラフィン)、乳化剤(グラファイト、多層カーボンナノチューブ、および増粘剤(CMC)を混合液として混合液供給タンク1に入れたが、予め、乳化分散材料以外の、媒体液、乳化剤(グラファイト)、および多層カーボンナノチューブからなる混合液を乳化分散液製造システムSに通した後に、乳化分散材料を加えて、上述の工程を行っても構わない。これにより予めグラファイトの剥離、多層カーボンナノチューブの解繊を行い、乳化分散工程を効率良く行うことができる。
【0075】
なお、媒体液と、乳化分散材料と、カーボンナノチューブとを含む乳化分散液の場合も、これらの混合液を乳化分散液製造システムSに通すことで、乳化分散材料がカーボンナノチューブで囲まれた状態で媒体液中に分散した乳化分散液が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明にかかる乳化分散液は、人体と接触する化粧品や食品の他、機械用の潤滑剤、電池材料等に利用できる。
【符号の説明】
【0077】
S 乳化分散液製造システム、1 混合液供給タンク、2 圧送ポンプ、3 熱交換器、4 混合液加圧ポンプ、5 第1乳化分散装置、6 第1添加剤供給ポート、7 第2乳化分散装置、8 第2添加剤供給ポート、9 多段圧力温度制御装置、11 ノズル部材、12 通路部材、13 本体部、14 第1細孔部材、15 第2細孔部材、16 第3細孔部材、17 第1細孔、18 第2細孔、19 第3細孔、20 シール部材、21 接続部材、23 第1制御部、24 第2制御部、25 第3制御部、26 第1外套、27 第2外套、28 第3外套、29 第1伝熱管、30 第2伝熱管、31 第3伝熱管、35 連通部材、37 直管、38 90°エルボ。
【要約】
【課題】界面活性剤に代えて薄膜グラファイト等を乳化剤に用いた乳化分散液を提供する。
【解決手段】乳化分散液が、媒体液と、媒体液に溶解しない乳化分散材料と、薄膜グラファイトと、カーボンナノチューブとを含み、この乳化分散材料は、薄膜グラファイトで囲まれた状態で媒体液中に分散し、薄膜グラファイトの表面にカーボンナノチューブが付着する。また、乳化分散液が、媒体液と、媒体液に溶解しない乳化分散材料と、カーボンナノチューブとを含み、乳化分散材料は、カーボンナノチューブで囲まれた状態で媒体液中に分散する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9