【実施例】
【0056】
(実施例1)
若年マウス:4から6週齢のnu/nuメス胸腺欠損マウスを、国立癌研究所−Frederick Cancer Centerから入手し、換気式ケージで維持した。実験はInstitutional Animal Care及びUse Committee認可のプロトコールの下で行い、研究における動物の適切且つ人道的使用のための制度的なガイドラインにしたがった。投与前に、PU24FClの溶液を、50μLのビヒクル(1:1:1の割合の、PBS:DMSO:EtOH)中、望ましい濃度で調製した。PU24FClの、タウのリン酸化に対する短期の効果を規定するためにデザインした実験では、マウス(1時間点あたり2匹)を、PU24FCl 200mg/kg又はビヒクル単独で処置した。屠殺の時間点に脳を回収し、直ちに瞬間凍結した。タンパク質分析用に、脳をSDS溶解バッファー(50mM Tris pH7.4、2%SDS)でホモジナイズした。長期投与の研究用には、マウス(n=5)を1日おきに30日間、PU24FClの示された投与量で処置した。全ての動物に対して、体重及び行動の変化をモニターした。マウスを、最終PU24FClの注射8時間後、CO
2安楽死によって屠殺した。脳を、上記に記載したように回収し、処理加工した。タンパク質を、ウエスタンブロットによりさらに分析した。
【0057】
若年及び胎仔の脳においてタウのリン酸化は増強され(50)、ADに罹患した脳に類似する(51、52)。さらに、4〜6週齢の胸腺欠損ヌードマウスは、関連する疾患のエピトープでタウのリン酸化を発現している可能性がある。最初のin vivoの実験で、これらの動物の脳におけるHsp90の短期の変調を評価した。PU24FClの1投与量(200mg/kg)をこれらのマウスに腹腔内投与し、0、6、12、24、36、及び48時間後に動物を屠殺した。脳全体を溶解バッファーでホモジナイズし、S202/T205のタウのリン酸化をウエスタンブロットにより評価した。このエピトープにおけるタウのリン酸化の突発が、投与12時間後に観察され、直後に基底レベルに低下した(
図1A)。脳組織における薬物レベルをLC−MSによって分析し、約24時間後にスパイクのある、治療上関連のあるレベルが脳組織に存在することが示された(
図1B)。これら同じマウスにおいて、PU24FClは、肝臓、血清、及び子宮から速やかに一掃された。
【0058】
第2の実験で、本発明者らは、PU24FClで30日間、隔日処置したタウのリン酸化マウスに対するHsp90長期阻害の効果を分析し、これらの動物において顕著な毒性又は体重の喪失は観察されなかった。
図2に見られるように、S202/T205のタウのリン酸化における有意な低下が、全ての処置マウスにおいて明らかであった。Hsp90の短期と長期の変調との間の効果におけるこのような相違が、Hsp90によってシャペロンされた他のタンパク質に対して記録されている。Hsp90阻害薬での細胞の処置により、長期の時間経過にわたってRaf−1の分解が引き起こされ、短期間投与した場合にはRaf−1活性の一過性の突発が引き起こされた(53)。同様の証拠が、RNA依存性キナーゼPKRの活性に対して実証されており、PKRはGMで短期の処置時に活性となっている(54)。これらの所見は、Hsp90が、これらのキナーゼの基底のシグナリングを制限するように作用し得ることを示唆している。さらなる例は、ステロイドホルモン受容体の制御に見出される。Hsp90は、典型的にはホルモン結合の結果として2量体化をマスクし、シャペロンの相互作用が中断されるまでステロイドホルモン受容体のDNA結合を阻害する。このように、シャペロンから剥がされたステロイドホルモン受容体は、ホルモンの非存在下で2量体化及びDNA結合に対して能力がある(55)。Hsp90のこの機能は、全てのそのクライアントタンパク質に対して当てはまらないことがあるが、p35/cdk5の場合には、Hsp90は複合体の内因性の活性を抑制する同様の役割を果たすことがあり、一方、タウと相互作用する用意ができているプライムされた立体配座に保持する。
【0059】
長期処置の実験におけるタウのリン酸化における低下は、p35の発現における60から70%の低減に関連づけられた(
図2)。さらに、誘導性のHsp70の発現における増大が、これらのマウスで観察された(
図2)。脳全体におけるcdk5の発現は、影響を受けなかった。cdk5タンパク質は、哺乳動物組織及び培養細胞系統に広く分布しており、数多くの他のタンパク質と複合しており、各会合は多様な細胞の役割を果たしている。cdk5/p35に関連するキナーゼ活性は、大脳皮質においてのみ実証されている(56、57)。免疫沈降したcdk5活性をADの脳で試験した場合、前頭前野皮質において上昇することが見出された(58)。p35/cdk5の局在が皮質に限定されていることが、Hsp90の阻害に際して脳全体における全cdk5の発現が変更しなかった理由を説明し得る。他のコンパートメントに局在するcdk5が引き起こした高いバックグラウンドのために、ウエスタンブロットによるcdk5の安定状態における小さな変化をモニターすることが不可能になった可能性がある。これらの結果は、脳におけるHsp90によるcdkの管理は、p35/cdk5複合体の活性の制御に制限される可能性があることも示唆し得る。
【0060】
(実施例2)
トランスジェニックマウス:この試験では、突然変異のヒトタウを過剰発現するJNPL3系(59)トランスジェニックマウス(P301L、4R0N)を用いた。マウスはヘテロ接合性であり、参考文献59に公開されるように、C57BL/DBA2/SWからなる混合のハイブリッドの遺伝的バックグラウンド上にあった。これらのマウスは、基底終脳、間脳、脳幹、及び脊髄にNFTを発症し、>12カ月齢のマウスではジストニア、麻痺、及び死をもたらす脊髄における変性を伴う重篤な病理を有する。9カ月齢のオスJNPL3マウス(n=2)を、5日間、PU−DZ8又はビヒクルで腹腔内処置した。最終の処置の12時間後にマウスを、麻酔下、頚椎脱臼によって屠殺した。
【0061】
タウのリン酸化に対するHsp90の効果をさらに実験するために、本発明者らは、突然変異の(P301L)タウタンパク質を発現するJNPL3系マウスを用いた(59)。遺伝的分析により、タウ遺伝子における突然変異がFTDP−17に関連付けられている(60、61)。20を超える明らかな病原性の突然変異が同定されており、P301Lが、タウオパシーにおける最も一般的な突然変異として同定されている(33)。JNPL3マウスは、タウのリン酸化及びNFTの発生において、年齢、及び遺伝子の投与量依存性の増大を表している(59、62)。JNPL3におけるタウタンパク質は、主にヒトであり、複数の部位でリン酸化されている:T181(AT270)、S202/T205(AT8)、T212(AT100)、T231(AT180)、S262、S396/S404、S409、及びS422(59、62)。若年胸腺欠損ヌードマウスにおける実験に一致して、水溶性PU24FCl誘導体であるPU−DZ8で、9カ月齢オスJNPL3マウスを5日間処置(2)すると、脳全体におけるp35レベルは低減し、推定上のcdk5部位であるS202/T205及びT212でタウのリン酸化の著しい軽減がもたらされた。p35発現の度合いは、リン酸化の軽減に言い換えられる。p35レベルにおける50%の低減は、S202/T205(AbAT−8)に対してほぼ同様の効果ということになるが、T212/S214(AbAT−100)に対して殆ど完全にリン酸化を低減する。PHFにおけるタウと会合しているT231(AbAT−180)のタウのリン酸化に対しては著しい効果はなく、濃縮体(63、64)が、p35発現において50%低減して見られた。しかし、コントロールと比べて効果がより顕著であり、p35の発現が約20%に低減したマウスでは、S202/T205及びT212/S214におけるタウのリン酸化に対して著しい効果、並びにT231に対して50%の低減が観察された。本発明者らは、T181では著しい量のタウのリン酸化を検出することができず、部位は、PHF、濃縮体、及び神経フィラメントにおいて過剰リン酸化されていることが見出された(65)。繰り返すと、cdk5の脳全体の発現は、影響を受けなかった(
図3)。
【0062】
薬理学的に関連のあるレベルのPU−DZ8が、これらの脳において記録された。
【0063】
(実施例3)
6.5カ月齢のJNPL3メスマウスを、5日/週で30日間、Hsp90阻害薬であるPU−DZ8(
図5)若しくはビヒクルで処置し、或いは時間ゼロで屠殺した。1グループあたりn=4。脳を、皮質下及び皮質の領域で分割し、Greenberg及びDaviesの抽出プロトコールを用いて処理加工した(77)。サルコシル可溶性の分画(S1)を、p35及びHsp70に対してWBによって分析し、AT8によって認識されるS202及びT205、AT270によって認識されるT181、AT180によって認識されるT231など、ADの脳において異常に過剰リン酸化されていることが見出されたタウのエピトープに対して分析した。これらは推定上のcdk/p35部位である。タンパク質のバンドをHsp90に対して標準化し、相対的な単位としてプロットした。結果を
図8A及びBに示す。タウの病原性のリン酸化を特徴とするタウオパシーは異常なキナーゼ活性によることもあるので、hsp90阻害薬が有効である、というのは、hsp90は病原性のある部位でタウをリン酸化することが知られているcdk5の活性化因子であるp35タンパク質の発現に影響を及ぼし、したがってこの部位でタウのリン酸化を軽減するからである。
【0064】
(実施例4)
6カ月齢のJNPL3メスマウスを、Hsp90阻害薬であるPU−DZ8(75mg/kg)でIP処置し、
図9に示すように様々な時間に屠殺した。脳を、皮質下及び皮質の領域で分割し、Greenberg及びDaviesの抽出プロトコールを用いて処理加工した(77)。皮質下の領域から抽出されたサルコシル可溶性の分画(S1)を、p35、cdk5、変異タウ(HT7)、Hsp90、及びHsp70に対してWBによって分析した。タンパク質のバンドをアクチンに対して標準化し、非処置のマウスからの相対的な変化としてプロットした。
図9は、DZ8を1投与量投与した後の、突然変異のタンパク質であるmタウ(HT7)の分解を示している。これはまた、シャペロンのレベル(hsp70増大)及びキナーゼ発現(p35レベル)における変化も示している。
【0065】
(実施例5)
COS−7細胞に、WT及びmタウに対応するcDNAをトランスフェクトし、細胞をPU24FClで24時間さらに処置した。細胞を溶解し、タンパク質内容物をウエスタンブロットによって分析した。結果を
図10に示す。示したように、変異タウ(P301L)は、Hsp90阻害薬であるPU24FClに対して非常に感受性であるが、WTタウは同様の投与量の薬物によって影響を受けない。
【0066】
(実施例6)
本発明による化合物であるHsp90阻害薬がHsp90に結合する能力を、Chiosisら(WO2005012482、66、67、68)が開発した蛍光偏光アッセイを用いて試験した。SK−N−SH神経芽細胞腫細胞を、Hsp90阻害薬で24時間処置し、Hsp70のレベルを、Chiosisら(WO2005012482、69)が開発した表現型の細胞ベースのアッセイによって検出した。結果を
図11A及びBにまとめてある。示したように、阻害薬はSK−N−SH神経芽細胞腫細胞においてストレス反応を誘発し、Hsp90阻害薬によるHsp70の誘発は、Hsp90シャペロンのATP制御ポケットへの結合におけるこれらの効力に相関する。
【0067】
(実施例7)
胎仔性原発性ラット皮質ニューロン、並びに、p35単独(COS−7/p35)又はp35及びタウの両方(COS−7/p35/タウ)のいずれかに対応するcDNAをトランスフェクトしたCOS−7細胞は、異常のニューロンのキナーゼ活性を研究するのに、関連ある実験システムである、というのは、推定上のcdk5部位におけるタウのリン酸化は、これらの細胞、並びに胎仔及び若年の脳において増強され(50、52)、ADに罹患している脳におけるリン酸化に類似しているからである(50)。ヒトWTタウ(COS−7/タウ)又は第7染色体に連鎖する前頭側頭型認知症及びパーキンソニズムに特徴的なP301L突然変異を内部に持つタウ(COS−7/タウP301L)のいずれかに対応するcDNAをトランスフェクトしたCOS−7細胞は、その正常の対応物に比べて、突然変異のタンパク質に対するHsp90阻害の効果を区別するのに用いることができる細胞モデルである。
【0068】
タウオパシーにおいてHsp90が果たす役割をさらに試験するために、本発明者らは、PU24FCl及び17−(アリルアミノ)−17−デメトキシゲルダナマイシン(17AAG)の両方を使用し、1次ニューロン及びCOS−7細胞の培養物において、cdk5/p35及びタウP301Lの両方に対するこれらの効果を調査した。1次ニューロンの培養物は、胎生17日のラット胎仔の大脳皮質に由来しており、先に記載してあるように維持した(105)。タンパク質の定常状態に対する、及びタウのリン酸化に対する、PU24FClの効果を決定するために、培養6日目にPU24FClを加え、示したように細胞を37度でインキュベートした。10%FBS及びペニシリン/ストレプトマイシン(それぞれ50単位及び50μg/ml)を含むDMEM中で増殖させたCOS−7細胞を、FuGENE6試薬(Roche Molecular Biochemicals、Indianapolis、IN)を用いることによって、p35、及びWTタウ又はP301L突然変異を内部に持つタウのいずれかを過剰発現するように、一過性にトランスフェクトした。トランスフェクト12時間後、示された濃度のPU24FClとともに、細胞を24時間インキュベートした。インキュベート後、細胞を収集し、2%SDSで溶解し、得られたサンプルをウエスタンブロッティングによって分析した。
【0069】
cdk5によるタウのリン酸化は、ニューロン特異的なタンパク質であるp35又はp39の1つとの複合体の形成による活性化によって開始する。しかし、高度に関連しているイソ型のp39の抑制ではなく、アンチセンスのオリゴヌクレオチド処置によるp35の抑制のみが、選択的にcdk5活性を低減した。さらに、cdk5タンパク質ではなくp35のレベルが、cdk5活性に対して律速的である。それと一致して、本発明者らは、p35の細胞発現に対するHsp90阻害の影響を評価した。PU24FClによる投与量及び時間依存性のp35の分解が、免疫ブロット及び免疫蛍光の技術によって1次ニューロンにおいて検出され、同様にCOS−7/p35及びCOS−7/p35/タウ細胞において検出された。Hsp90に対するこの化合物の親和性に一致して、約1〜5μMのPU24FClで効果が見られ、10μMのHsp90阻害薬で最大であった。外因性に導入されたp35は、内因性のタンパク質よりもHsp90阻害に対して感受性であり、Hsp90腫瘍性タンパク質との類似性によって、タウオパシーにおける異常なタンパク質の緩衝作用及び安定化がHsp90を取り込むことによって遂行され得ることを示唆していた。Hsp90の阻害によるp35レベルの低減は、cdk5の基質であるヒストン−H1を用いて測定して、cdk5/p35複合体の活性に影響を及ぼし、正常のタウタンパク質の発現に影響を及ぼさずにADの脳においてリン酸化されることが示されている推定のcdk5のタウのリン酸化を低減した。しかし、mタウは、WTタウの発現を妨害しなかったPU24FClの濃度に感受性であった。Hsp90阻害に対して、WTタウに比べて高いmタウの感受性は、Hsp90の突然変異の腫瘍タンパク質のクライアントの観察された不安定さに一致している。p35及びmタウに対する類似の効果が、17AAGで観察された。正常のタウの活性を制御するいくつかのキナーゼ及びホスファターゼ(PKA、CK−1、CK−2、PP−1−α、PP−1−γ、及びPP2A)の発現はHsp90阻害薬によって影響を受けないので、PU24FClのニューロンタンパク質に対する効果は、詳細に明らかにされ、選択的である。
【0070】
Hsp90阻害薬によるHsp70の誘発は、いくつかの神経変性疾患モデルで記述されている(12、16、19)。Hsp70の発現は、Hsp90によって間接的に制御されている(7)。したがって、1次ニューロン又はトランスフェクトしたCOS−7細胞のいずれかをPU24FClで処置すると、Hsp70における投与量依存性の増大をもたらした。Hsp70の誘発は、p35及びmタウの両方をやはり変調するPU24FClの投与量で起こり、異常なタンパク質の分解及び熱ショック反応の誘発は、両方ともPU24FClによるHsp90阻害の直接的な結果であることを示唆していた。
【0071】
(実施例8)
Hsp90がこれらp35及びmタウの安定性を維持するのに直接的な役割を果たすか否かを調べるために、本発明者らは、PU24FClによるHsp90機能の阻害がこれらの半減期に影響を及ぼすか否かを試験した。1次ニューロンの培養物を、シクロヘキシミドの存在下、阻害薬又はビヒクルで処置した。タンパク質レベルの定量により、内因性p35の半減期は、ビヒクルの存在下で120分であり、PU24FClをシステムに加えると60分に低減することが実証された。外因性p35は内因性タンパク質よりも、COS−7/p35/タウ細胞及び1次ニューロンの両方に関して、内因性タンパク質よりも不安定であり、半減期が大幅に短い(t
1/2=ビヒクルの存在下で60分、及びPU24FClの存在下で30分)。mタウに対して同様の結果が観察され、Hsp90阻害薬の存在下タンパク質の50%が2〜4時間で分解され、ビヒクル処置細胞におけるmタウの半減期は10時間を超えた。阻害薬は、WTタウのレベルに影響がなかった。さらに、mタウ及びp35は、Hsp70の誘発がシクロヘキシミドによって阻止された場合でも、PU24FCl処置時に分解された。これらの所見は、Hsp90を、p35及び変異タウ両方の安定性の直接的且つ重要な制御因子として強力に位置付けるものである。
【0072】
(実施例9)
Hsp90が、タンパク質複合体の形成によって、これらのタンパク質の安定性を制御するのか否かを試験するために、本発明者らは、Hsp90又はその推定上のクライアントタンパク質のいずれかに選択的に結合する、いくつかの化学的及び免疫学的ツールを用いた。Hsp90の、p35及びmタウとの会合が観察された。細胞を、コントロールのIgGと免疫精製した場合には、著しい会合は観察されなかった。Hsp90のコシャペロンであるCdc37は、いくつかのシャペロン−キナーゼの集合と会合することが見出され、Lamphereらの以前の観察と一致して(106)、p35−免疫精製した複合体に非存在であった。細胞をPU24FClと前処置すると、Hsp90のp35との相互作用を変更した。
【0073】
上記に示した細胞モデルは、Hsp90と異常なニューロンのタンパク質との間の相互作用は、分子レベルで可能であることを実証している。しかし、トランスフェクションによるタンパク質の外来性の導入は、細胞のタンパク質含有量を不安定化し、Hsp90による異質のタンパク質の安定性の制御を強要する。したがって、内因性の環境におけるHsp90の、タウP301L及びP35との相互作用を評価するために、本発明者らは、タウオパシーの動物モデルから得た脳のホモジネートを使用した。突然変異の(P301L)ヒトタウ(hタウ)タンパク質を発現するJNPL3系統のマウスは、タウのリン酸化及び不溶性のタウ沈着における年齢、性別、及び遺伝子の投与量依存性の増大を示した。これらの脳においてHsp90と会合しているタンパク質を単離するために、本発明者らは、10カ月齢のJNPL3メスマウス(n=4)から得た脳ホモジネートを使用し、ストレプトアビジンビーズ上に固定化したビオチン化PU誘導体、又は特異的な抗Hsp90抗体のいずれかを使用した。PUビーズによって単離したHsp90は、mタウに特異的に結合した。タンパク質のフォールディングを促進する上で分子シャペロンと協力することが見出されているユビキチンE3リガーゼである熱ショック類似70−相互作用性タンパク質のC末端の存在も、Hsp90複合体において同定されており、Saharaら(62)の所見と一致していた。Hsp90抗体は、p35及びそのキナーゼパートナーであるcdk5と複合しているシャペロンを特異的に同定した。まとめると、これらのデータは、直接的なタンパク質複合体の形成により、p35及びmタウの安定性の制御因子として、Hsp90を位置付けるものである。
【0074】
(実施例10)
JNPL3脳Hsp90への結合。アッセイバッファー(HFB)は、20mM HEPES(K)pH7.3、50mM KCl、5mM MgCl
2、20mM Na
2MoO
4、0.01%NP40を含んでいた。各々を使用する前に、0.1mg/mLウシγグロブリン(BCG)(Panvera Corporation、Madison、WI)及び2mM DTT(Fischer Biotech、Fair Lawn、NJ)を新たに加えた。特異的なHsp90のリガンドであるGM−cy3Bを先に報告されている通りに合成し(10)、DMSO中に溶解して10μM溶液を形成した。脳を、プロテアーゼ及びホスファターゼの阻害薬を加えたHFBでホモジナイズした。GM−cy3B(3nM)を増大量の脳ホモジネートで処置した飽和曲線を記録した。Hill及びScatchardのプロット分析の実験を構築して、飽和に到達するのに必要とされる少量の脳ホモジネートでは、他の細胞材料からの相互作用は除外されることを示した。それに対して90%を超えるGM−cy3Bが平衡時(24時間)に結合するHsp90であった脳ホモジネートの量を、競合試験用に選択した。競合実験には、各96ウェルは、最終体積100μLの、3nM GM−cy3B、脳ホモジネート、及び試験した阻害薬(DMSOに初期保存)を含んでいた。プレートを、4℃、24時間、シェーカー上に放置し、mPにおける蛍光偏光の値を記録した。EC
50値を、50%のGM−cy3Bが置き換えられた競合物質の濃度として決定した。蛍光偏光の測定を、AnalystGT機器(Molecular Devices、Sunnyvale、CA)上で行った。GM−cy3Bに対して、565nmのダイクロイックミラーとともに、545nmの励起フィルター、及び610から675nmの発光フィルターを用いた。測定を、黒色96ウェルマイクロタイタープレートで行った。
【0075】
図12は、この手順を用いて決定した、JNPL3脳抽出物におけるPU−DZ8、PU24FCl、及び17AAGのhsp90に対する結合親和性を示す。示したように、PU−DZ8に対するEC
50は、他の化合物に対するEC
50よりも低い(PU24FClに対する822.6nM、及び17AAGに対する98.40nMに対して、46.71nM)。
【0076】
図5の化合物を用いて、同じ手順を繰り返した。これらの化合物に対して決定したEC
50値を表1に示す。様々なプリン骨格の化合物による、神経芽細胞腫細胞におけるHsp70の誘発を測定した。hsp70の誘発に対する効力は、hsp90の結合親和性に対応している。
【表1】
【0077】
(実施例11)
PU−DZ8脳レベルの評価。化合物の濃度を、タンデム高速液体クロマトグラフィー−マス/マススペクトロメトリー(HPLC/MS/MS)を用いて、MRMモードによって決定し、定量した。脳断片の重量を量り、等張食塩水ですすぎ、ガーゼで水分を取り、次いで移動相(アセトニトリル(ACN)/0.1%ギ酸=1.2/2.8、v/v)でホモジナイズした。内部標準としてハロペリドールを加えた。PU−DZ8を塩化メチレンに抽出し、有機層を分離し、真空下で速やかに乾燥し、移動相で再構成した。Shimadzu LCシステム及び96ウェルプレートオートサンプラーと連結したAPI4000(商標)LC/MS/MS(Applied Biosystems)で化合物の分析を行った。LC分離用に、Gemini C18カラム(粒子サイズ5μ、内径50×4.6mm)を用いた。分析物を、均一濃度の条件下、4分間、流速0.4mL/分で溶出した。
【0078】
PU−DZ8の1投与量(75mg/kg)を、2.5〜4カ月齢のメスマウス(n=32)に腹腔内(i.p.)投与し、0から36時間の間隔で動物を屠殺した。これらのマウスの皮質下及び皮質の領域から、凝集なしのタウ(S1)及び不溶性タウ(P3)の分画の両方を調製した。脳におけるPU−DZ8レベルは、4時間で0.35μg/g(約700nM)に到達し、薬理学的に関連性のある投与量が、投与後少なくとも12時間保持された(0.2μg/g、約390nM)。結果を
図13に示す。
【0079】
図13は、PU−DZ8が、i.p.投与の75mg/kgの1投与量のPU−DZ8を投与後、JNPL3トランスジェニックマウスの脳において、薬理学的に関連性のある濃度に到達したことを示している。これは、PU−DZ8は、PU24FClよりもずっと速やかに脳組織に到達することを示している(
図1B)。
【0080】
(実施例12)
「第17染色体に連鎖する前頭側頭型認知症及びパーキンソニズム(FTDP−17)」と呼ばれる一団のタウオパシーでは、トランスフォーメーションが第17染色体上のヒトタウのイソ型におけるいくつかの突然変異によって引き起こされ、ADにおけるものに類似した凝集したタウの蓄積をもたらし、またそれを特徴としている(10、11)。20を超える特徴的な病原性の突然変異が同定されており、P301Lがタウオパシーにおける最も一般的な突然変異である。
【0081】
Hsp90制御からのmタウ及びp35の放出が、正常ニューロンの活性を回復し、毒性タウの凝集物の排除をもたらすか否かを調べるために、本発明者らはタウオパシーのJNPL3マウスモデルを使用した。JNPL3マウスの脳組織は溶解性の異なるタウタンパク質を含んでおり、これらをバッファー抽出可能(S1)、高濃度の塩で抽出可能(S2)、及びサルコシル不溶性(P3)の分画に分離にすることができる。S1分画は50〜60kDaのヒトタウタンパク質を含んでいるが、ヘミ接合性のメスにおいて3カ月という早期に、64kD及びそれより高い分子量のサルコシル不溶性タウタンパク質が、JNPL3マウスの皮質下の脳領域で検出されている。これらは、T181、S202/T205、T212、及びT231などの複数の部位で、リン酸化された不溶性の毒性タウを含んでいる(37、38)。
【0082】
マウスのJNPL3系統に存在するヒトタウP301LがHsp90阻害に感受性の標的であるか否かを調べるために、動物を、脳関門透過性のHsp90阻害薬であるPU−DZ8で処置した。この薬剤は、PU24FClの、効力の高い水溶性誘導体である(EC50JNPL3脳Hsp90=70nM)。PU−DZ8の1投与量(75mg/kg)を、2.5〜4カ月齢のメスマウス(n=32)に腹腔内(i.p.)投与し、0から36時間の間隔で動物を屠殺した。これらのマウスの皮質下及び皮質の領域から、凝集なしのタウ(S1)及び不溶性タウ(P3)の分画の両方を調製した。ヒトタウのレベルを、ヒト特異的抗タウ抗体(HT−7)で免疫ブロッティングすることによって評価した。投与4時間後、Hsp90阻害薬は、皮質下の脳領域に存在する、可溶性の前駆体プールのmタウにおける有意な低減を誘発し(4時間のP=0.0031)、これらの効果は36時間まで維持された(8時間のP=0.0066、12時間0.0030、24時間0.0111、及び36時間0.042)(
図14A)。本発明者らは、次に、タウ凝集物(P3分画)に存在するmタウの安定性が、Hsp90によってさらに制御されるか否かを、4から6カ月齢のマウスのグループ(n=15)で試験した。
図14Bで実証するように、不溶性のタウ(P<0.0001)及び過剰リン酸化されたタウ(P=0.001)の有意の減少が、Hsp90阻害薬を投与しなかったマウス(n=7)に比べて、処置マウス(n=8)に観察された。
【0083】
cdk5発現において有意な変化は検出されず、脳におけるHsp90によるcdk5の管理は、p35/cdk5複合体の活性を制御することに制限され得ることを示していた。悪性細胞においてHsp90によって厳重に制御されている、それぞれ細胞の生存及び増殖の経路における結節タンパク質である、Akt及びRaf−1の発現は、PU−DZ8によって変更されなかった。
【0084】
Hsp90阻害薬によるmタウ及びp35の変調の動力学を試験するためにデザインされた実験用に、動物にPBS中(6%DMSO)PU−DZ8 75mg/kgを腹腔内(i.p.)投与した。PU−DZ8投与後、示された時間に、マウスをCO2安楽死によって屠殺した。脳半球を、皮質−辺縁(皮質、扁桃体、及び海馬)、並びに皮質下の(大脳基底核、間脳、脳幹、及び小脳)領域に分け、ドライアイス上で速やかに凍結し、−80℃で貯蔵し、処理加工した。要約すると、各脳片の重量を量り、プロテアーゼ及びホスファターゼの阻害物質を含むTris緩衝食塩水(TBS)(25mM Tris−HCl、pH7.4、150mM NaCl、1mM EDTA、1mM EGTA、5mM ピロリン酸ナトリウム、30mM β−グリセロリン酸、30mM フッ化ナトリウム、1mM フッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF))の3容量でホモジナイズした。ホモジネートを、4℃、27000gで15分間遠心分離した。上清をS1分画として回収し、ペレット(P1)を3容量の塩/ショ糖バッファー(0.8M NaCl、10%ショ糖、10mM Tris/HCl、pH7.4、1mM EGTA、1mM PMSF)で再びホモジナイズし、上記同様遠心分離した。得られたペレットを廃棄し、上清をサルコシル(Sigma、St Louis、MO、USA、最終濃度1%)と、37℃で1時間インキュベートした。次いで、サルコシル混合液を、4℃、15000gで30分間遠心分離した。上清(S2分画)を回収し、ペレット(P3)をTBS中2%SDS50μLで再懸濁し、ウエスタンブロッティング用に−80℃で貯蔵した。タンパク質をウエスタンブロットによって分析した。
【0085】
図14Aは、JNPL3マウス脳における可溶性の変異タウのレベルに対する、PU−DZ8の1投与量の、短期投与の効果を示す図である。2.5〜4カ月齢のマウスの皮質下の脳領域を表す。ヒトタウのレベルを、Hsp90のレベルに標準化した。
図14Bは、JNPL3マウスの脳における不溶性の変異タウのレベルに対する、PU−DZ8の1投与量の、短期投与の効果を示す。4、8、12、及び24時間、PU−DZ8(75mg/kg)で処置した6カ月齢のマウスの皮質下の脳領域から抽出した不溶性タウ(P3)分画の分析を表す。
【0086】
(実施例13)
mタウの変調が、マウスに毒性であることなしに、Hsp90阻害薬でのより長い処置期間にわたって維持され得るか否かを調べるために、JNPL3マウスをこれらの物質に30日間曝露した。6.5カ月齢のJNPL3メスマウス(n=10)に、ビヒクル(n=5)、又はHsp90阻害薬であるPU24FCl(200mg/kg)若しくはPU−DZ8(75mg/kg)の1つ(n=5)を、毎日、1週間あたり5回のスケジュールでi.p.投与し、阻害薬の投与量の最終投与の8時間後に動物を屠殺した。動物の体重、毛生、食欲、及び姿勢において著しい変化がないことによって明らかなように、毒性は観察されなかった。さらに、屠殺時の肉眼による検査時には、肉眼で観察できる内部臓器の損傷は検出されなかった。これらのマウスの皮質下の脳領域から抽出したS1分画及びP3分画の両方を、mタウの発現及びリン酸化について分析した。前駆タンパク質のプール(S1分画)(hタウ、P<0.0001)及び毒性の凝集物(P3分画)(T231におけるリン酸化したタウ、P=0.0034)の両方におけるタウの発現及びリン酸化における有意の低減、並びにS1分画におけるp35の低減が、Hsp90阻害薬で処置したマウスに観察された。
【0087】
まとめると、可溶性のプール、及びHsp90阻害薬による凝集形態の両方におけるタウの分解の動力学が速やかなことは、Hsp90が毒性のタウ凝集物を制御し、その形成及び蓄積を促進することが示唆される。これらのデータは、また、Hsp90阻害薬を、毒性の凝集物の形成を防ぐため、及びすでに凝集した毒性のタウを可溶化するための両方で、タウオパシーの処置において用いることができることを示唆するものである。
【0088】
図15は、毒性のタウ凝集物における過剰リン酸化のタウに対する、PU−DZ8の長期投与の効果を示す。
【0089】
(実施例14)
タウオパシーにおいて、トランスフォーメーションは、過剰リン酸化され、凝集したタウの蓄積をもたらすタウタンパク質における異常を特徴とする(5〜7)。アルツハイマー病(AD)では、タウの過剰リン酸化は、いくつかのキナーゼ、特にサイクリン依存性タンパク質キナーゼ5(cdk5)及びグリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(gsk3β、病原性の部位上のタウのリン酸化をもたらす)の異常な活性化によってもたらされる病原プロセスであることが示唆されている。ADにおいて過剰リン酸化されたタウは、ミスフォールドされ、微小管からの純粋な解離を経験し、毒性のタウ凝集物を形成すると考えられている(9、10)。cdk5によるタウのリン酸化は、ニューロン特異的なタンパク質であるp35又はp39の1つとの複合体形成による活性化によって開始する(22、23)。しかし、高度に関連するイソ型のp39の抑制ではなく、アンチセンスのオリゴヌクレオチド処置によるp35の抑制だけが、cdk5活性を選択的に低減する(24)。さらに、cdk5タンパク質ではなくp35のレベルは、cdk35活性に対して律速的である(25)。それと一致して、本発明者らは、p35発現に対するHsp90阻害の影響を評価した。
【0090】
本発明者らは、1次ニューロン、並びにCOS−7/p35及びCOS−7/p35/タウ細胞におけるPU24FClによるp35の投与量及び時間依存的の分解を検出した。p35単独(COS−7/p35)、又はp35及びタウの両方(COS−7/p35/タウ)のいずれかに対応するcDNAをトランスフェクトした、ラット胎仔性1次皮質ニューロン及びCOS−7細胞が、cdk5/p35活性及び安定性に対して、並びに推定上のcdk5部位におけるタウのリン酸化にも対してこれらの阻害薬を評価することを可能にする細胞のシステムである。これらは、異常なニューロンのキナーゼ活性を研究するための関連ある実験上のシステムである、というのは、これらの部位でのタウのリン酸化は、胎仔及び若年の脳において増強され(20)、ADに罹患している脳に類似しているからである(21)。さらに、cdk5の活性化因子であるp35をトランスフェクトしたCOS−7細胞は、病原性の部位でリン酸化されたタウを発現する(21)。Hsp90に対するこの化合物の親和性と一致して、約1〜5μMのPU24FClで効果が見られ、10μMのHsp90阻害薬で最高であった。外因性に導入したp35は、内因性のタンパク質よりもHsp90の阻害に対してより感受性であり、Hsp90腫瘍性タンパク質に対する類似性によって、タウオパシーにおける異常タンパク質の緩衝及び安定化が、Hsp90を取り込むことによって遂行し得ることが示唆された。cdk5の基質であるヒストン−H1を用いて測定して、Hsp90の阻害によるp35のレベルの低減は、cdk5/p35複合体の活性に影響を及ぼした。
【0091】
p35発現の低減が、タウのリン酸化の低減をもたらすか否かを調べるために、本発明者らは、3つの推定上のcdk5部位、即ちS202/T205、T231、及びT181上のタウのリン酸化を測定した(26、27)。これらの部位は、ADの脳において異常にリン酸化されていることが示されている(28)。PU24FClは、これらの部位上で、正常タウタンパク質の発現に影響を及ぼすことなしに、投与量依存性の様式でリン酸化を低減する。p35レベル及び活性に対して観察されるように、効果は阻害薬5μMで明白であり、10μMで最高であった。さらに、p35分解の動力学は、タウのリン酸化における低減に観察された物に類似していた。
【0092】
WTタウの環境における、Hsp90阻害のp35に対するin vivoの効果を調べるために、本発明者らはhタウマウスを使用した(41)。hタウマウスは、ADの早期に生じるものに匹敵する分布を有するタウの病理を発症する。hタウマウスにおけるタウの病理の大多数は、皮質の脳領域に位置する。これらのマウスは、6つのイソ型の非変異のヒトタウを発現するが、AD様のタウの病理を発症する。これらのマウスの皮質のホモジネートから調製した熱安定性の分画(S1)は、推定上のcdk5部位でリン酸化されたタウの年齢に関連した蓄積を示している。本発明者らは、これらの脳におけるHsp90の阻害は、p35の発現における低減及びその結果としてのタウのリン酸化の軽減をもたらし得るか否かを試験した。4及び8〜10カ月齢のhタウメスマウス(n=10)に、ビヒクル又は1投与量のPU−DZ8(75mg/kg)のいずれかをi.p.投与し、投与4時間又は8時間後に動物を屠殺した。凝集物のないタウ(S1)分画をこれらのマウスの皮質領域から調製し、ヒトのタウのレベルを、3リピートドメインのタウ(RD3)に特異的な抗体での免疫ブロッティングによって評価した。1次ニューロン培養物及びWTタウをトランスフェクトした細胞に対する実験との類似性によって、Hsp90阻害薬は可溶性のWTタウの発現に効果がなかった。しかし、p35レベルにおける時間依存性の有意な低減(P=0.0019)(
図16A)及び抗体CP13によって検出したSer202上のタウのリン酸化の軽減(P=0.0078)は両方とも、Hsp90阻害薬の投与8時間後に明らかであった(
図16B)。モノクローナル抗体CP13は、タウの凝集が蓄積する早期及びより進行した段階の両方において、タウの病理を検出するのに一般的に用いられる(41)。まとめると、これらのデータは、WT及び変異タウを異常にリン酸化する傾向があるキナーゼ複合体としてp35/cdk5を位置づけており、Hsp90を、両方のタウの環境におけるその活性の調節因子として示唆している。
【0093】
図16Aは、アルツハイマー患者に類似する、病原性に過剰リン酸化されたWTタウを発現するhタウマウスにおけるp35に対するPU−DZ8の効果を示している。
図16Bは、アルツハイマー患者に類似する、病原性に過剰リン酸化されたWTタウを発現するhタウマウスにおけるPU−DZ8タウのリン酸化の効果を示している。
(参考文献)
以下の参考文献を本明細書に引用し、その全文が参照として本明細書に組み入れられる。
また本発明の好ましい態様には以下が含まれる。
(1)神経変性疾患の処置のための方法であって、そのような処置を必要とする個体にHsp90を阻害するプリン骨格の化合物の治療有効量を投与するステップを含み、化合物が脳に送達されるような化合物及び投与様式が選択される方法。
(2)化合物が血液脳関門を越える、(1)に記載の方法。
(3)プリン骨格の化合物が、それに対してさらなるアリール環又はヘテロアリール環が8位又は9位でリンカーによって結合しているプリン部分を含む化合物であり、化合物が全体として、Hsp90のN末端ポケット内に受け止められるのに必要な柔軟性及び置換基を有する、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)さらなるアリール環又はヘテロアリール環が、9位に結合しており、4’位及び5’位のみで置換されている、(3)に記載の方法。
(5)プリン骨格の化合物が、一般構造:
【化1】
[式中、
Rは、水素;N又はOなどのヘテロ原子を場合により含む、C1からC10アルキル、アルケニル、アルキニル、又はアルコキシアルキル基であり、
Y1及びY2は、Y1及び/又はY2がOである場合は二重結合が欠損している、又は環のアリールの性質を保持するように再構成されるという条件で、独立に、C、N、S、又はOであり、
X4は、水素、ハロゲン、例えば、F、又はCl、又はBrであり、
X3は、CH2、CF2、S、SO、SO2、O、NH、又はNR2であり、式中R2はアルキルであり、
X2は、ハロゲン、アルキル、ハロゲン化アルキル、アルコキシ、ハロゲン化アルコキシ、ヒドロキシアルキル、ピロリル、場合により置換されているアリールオキシ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、カルバミル、アミド、アルキルアミド、ジアルキルアミド、アシルアミノ、アルキルスルホニルアミド、トリハロメトキシ、トリハロ炭素、チオアルキル、SO2−アルキル、COO−アルキル、NH2、OH、又はCNであり、
X1は、X1が5’位における少なくとも1つの置換基を表す場合は5’位における前記置換基はX2と同じ選択、即ちC1からC6アルキル若しくはアルコキシから選択されるという条件で、アリール基上のもう1つの置換基を表し、又はX1は式−X−Y−Z−を有し、式中X、Y、及びZは、独立に、単結合又は二重結合によって連結しており原子価を満たすのに好適な水素置換のあるC、N、S、又はOであり、Yは(CH2)2であってよく、X及びZの一方はアリール環の5’位で結合しており、他方は4’位に結合している]
を有する、(3)に記載の方法。
(6)右側のアリール基が2’及び5’位のみで置換されている、(5)に記載の方法。
(7)右側のアリール基が2’、4’、及び5’位で置換されている、(5)に記載の方法。
(8)X、Y、及びZの少なくとも1つが炭素原子である、(5)に記載の方法。
(9)X1が−O−(CH2)n−O−であり、式中nが1又は2である、(8)に記載の方法。
(10)X2がハロゲンである、(9)に記載の方法。
(11)X2がBr又はIである、(10)に記載の方法。
(12)Rが、窒素ヘテロ原子を含むアルキル基である、(9)に記載の方法。
(13)Rが、3−イソプロピルアミノプロピル、3−(イソプロピル(メチル)アミノ)プロピル、3−(イソプロピル(エチル)アミノ)プロピル、3−((2−ヒドロキシエチル)(イソプロピル)アミノ)プロピル、3−(メチル(プロプ−2−イニル)アミノ)プロピル、3−(アリル(メチル)アミノ)プロピル、3−(エチル(メチル)アミノ)プロピル、3−(シクロプロピル(プロピル)アミノ)プロピル、3−(シクロヘキシル(2−ヒドロキシエチル)アミノ)プロピル、3−(2−メチルアジリジン−1−イル)プロピル、3−(ピペリジン−1−イル)プロピル、3−(4−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン)−1−イル)プロピル、3−モルホリノプロピル、3−(トリメチルアンモニオ)プロピル、2−(イソプロピルアミノ)エチル、2−(イソブチルアミノ)エチル、2−(ネオペンチルアミノ)エチル、2−(シクロプロピルメチルアミノ)エチル、2−(エチル(メチル)アミノ)エチル、2−(イソブチル(メチル)アミノ)エチル、又は2−(メチル(プロプ−2−イニル)アミノ)エチルである、(12)に記載の方法。
(14)Rが3−イソプロピルアミノプロピルである、(13)に記載の方法。
(15)X2がハロゲンである、(13)に記載の方法。
(16)X2がBr又はIである、(15)に記載の方法。
(17)X4がハロゲンである、(9)に記載の方法。
(18)X2がハロゲンである、(17)に記載の方法。
(19)X2がBr又はIである、(18)に記載の方法。
(20)Rが、窒素ヘテロ原子を含むアルキル基である、(17)に記載の方法。
(21)Rが、3−イソプロピルアミノプロピル、3−(イソプロピル(メチル)アミノ)プロピル、3−(イソプロピル(エチル)アミノ)プロピル、3−((2−ヒドロキシエチル)(イソプロピル)アミノ)プロピル、3−(メチル(プロプ−2−イニル)アミノ)プロピル、3−(アリル(メチル)アミノ)プロピル、3−(エチル(メチル)アミノ)プロピル、3−(シクロプロピル(プロピル)アミノ)プロピル、3−(シクロヘキシル(2−ヒドロキシエチル)アミノ)プロピル、3−(2−メチルアジリジン−1−イル)プロピル、3−(ピペリジン−1−イル)プロピル、3−(4−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン)−1−イル)プロピル、3−モルホリノプロピル、3−(トリメチルアンモニオ)プロピル、2−(イソプロピルアミノ)エチル、2−(イソブチルアミノ)エチル、2−(ネオペンチルアミノ)エチル、2−(シクロプロピルメチルアミノ)エチル、2−(エチル(メチル)アミノ)エチル、2−(イソブチル(メチル)アミノ)エチル、又は2−(メチル(プロプ−2−イニル)アミノ)エチルである、(20)に記載の方法。
(22)Rが3−イソプロピルアミノプロピルである、(21)に記載の方法。
(23)X2がハロゲンである、(21)に記載の方法。
(24)X2がBr又はIである、(23)に記載の方法。
(25)Rが末端アルキンである、(9)に記載の方法。
(26)Rがプロピニルである、(25)に記載の方法。
(27)X2がハロゲンである、(26)に記載の方法。
(28)プリン骨格の化合物が、式:
【化2】
を有する、(1)に記載の方法。
(29)プリン骨格の化合物が、式:
【化3】
[式中、
Rは、2’位に連結して8又は10員環を形成する、N又はOなどのヘテロ原子を場合により含む、アルキル、アルケニル、アルキニル、又はアルコキシアルキル基であり、
Y1及びY2は、Y1及び/又はY2がOである場合は二重結合が欠損している、又は環のアリールの性質を保持するように再構成されるという条件で、独立に、C、N、S、又はOであり、
X4は、水素、ハロゲン、例えば、F、又はCl、又はBrであり、
X3は、CH2、CF2、S、SO、SO2、O、NH、又はNR2であり、式中R2はアルキルであり、
X2は、Rの部分であり、
X1は、X1が5’位における少なくとも1つの置換基を表す場合は5’位における前記置換基はX2と同じ選択、即ちC1からC6アルキル若しくはアルコキシから選択されるという条件で、アリール基上のもう1つの置換基を表し、又はX1は式−X−Y−Z−を有し、式中X、Y、及びZは、独立に、単結合又は二重結合によって連結しており原子価を満たすのに好適な水素置換のあるC、N、S、又はOであり、Yは(CH2)2であってよく、X及びZの一方はアリール環の5’位で結合しており、他方は4’位に結合している]
を有する、(1)又は(2)に記載の方法。
(30)プリン骨格の化合物が、式:
【化4】
を有する、(1)に記載の方法。