特許第6585341号(P6585341)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6585341低温で熱硬化する塗料組成物、複層塗膜形成方法および複層塗膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6585341
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】低温で熱硬化する塗料組成物、複層塗膜形成方法および複層塗膜
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/00 20060101AFI20190919BHJP
   C09D 161/28 20060101ALI20190919BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20190919BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20190919BHJP
   C09D 167/00 20060101ALI20190919BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20190919BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20190919BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20190919BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20190919BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20190919BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20190919BHJP
   B32B 27/38 20060101ALI20190919BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   C09D133/00
   C09D161/28
   C09D7/63
   C09D5/00 D
   C09D167/00
   C09D175/04
   C09D163/00
   C09D7/62
   B05D7/24 301R
   B32B27/30 A
   B32B27/36
   B32B27/38
   B32B27/40
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-214499(P2014-214499)
(22)【出願日】2014年10月21日
(65)【公開番号】特開2016-79343(P2016-79343A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000225854
【氏名又は名称】楠本化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】特許業務法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 俊介
(72)【発明者】
【氏名】俵谷 隆志
(72)【発明者】
【氏名】有馬 朋子
【審査官】 仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−068179(JP,A)
【文献】 特開昭63−256168(JP,A)
【文献】 特開2001−205175(JP,A)
【文献】 特開2014−125558(JP,A)
【文献】 特開平06−088056(JP,A)
【文献】 特開2001−329227(JP,A)
【文献】 特開平08−266995(JP,A)
【文献】 特開平05−263035(JP,A)
【文献】 特開平11−267585(JP,A)
【文献】 特開昭54−095637(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 133/00
C09D 5/00
C09D 161/28
C09D 163/00
C09D 167/00
C09D 175/04
B05D 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2層以上に塗料を塗り重ねる積層方法において、下層部に、塗膜形成性樹脂および有機リン酸エステルを含む塗料組成物を塗装し、硬化させずに、続いて、
上層部に、下記成分(I)、(II)および(III):
(I)数平均分子量が2,000〜10,000で、水酸基価が70〜120mgKOH/gである熱硬化性アクリル樹脂
(II)数平均分子量が1,000〜1,500で、イミノ基およびメチロール基を有するn−ブチルエーテル化メラミン樹脂
(III)下式
【化1】
(式中、R1は炭素数1〜10のアルキル基であり、R2は水素または炭素数1〜10のアルキル基である。)
で表わされる有機リン酸エステル
を含む塗料組成物を塗り重ね、塗り重ねられた複層を同時に加熱し硬化させることを特徴とする複層塗膜形成方法であって、
下層部の有機リン酸エステルが、上記式(1)で表される有機リン酸エステルであり、下層部の塗料組成物が、有機リン酸エステルを塗膜形成性樹脂固形分に対してリン元素換算量で0.3〜2.5重量%含有し、
上層部の塗料組成物が、熱硬化性アクリル樹脂(I)を固形分で50〜70重量%、メラミン樹脂(II)を固形分で30〜50重量%、有機リン酸エステル(III)を(I)と(II)との合計の樹脂固形分に対してリン元素換算量で0.1〜2.5重量%含有することを特徴とする、複層塗膜形成方法。
【請求項2】
下層部の塗膜形成性樹脂が、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂およびこれらの2種類以上の組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の複層塗膜形成方法。
【請求項3】
有機リン酸エステル(III)に加えて、光輝性顔料あるいは着色顔料を配合した塗料組成物を下層に用い、透明な塗料組成物を上層に用いる請求項1または2の何れかに記載の複層塗膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は基材にコーティングするための低温焼付の反応性組成物、それを用いた2層以上の塗膜形成方法及び複層塗膜に関する。更に詳しくは、本発明は、耐溶剤性、硬化性および外観性に優れた塗膜を得るための塗料組成物、該塗料組成物を用いた塗装方法および該塗装方法により得られる硬化塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車塗装など工業用塗装には主として焼き付け型塗料が用いられている。近年、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素の排出量削減のために種々の取り組みがされているが、塗装工程において焼き付け温度を低温化することはその有効な手段の一つである。
【0003】
低温硬化塗料としては、イソシアネート化合物あるいはブロックしたイソシアネート化合物を用いたものが検討されている。例えば、特許文献1には、アクリルポリオールおよびブロックイソシアネートを必須成分とし、これにブロック解離触媒およびメラミン樹脂を加えた組成物が提案されているが、その硬化温度は110℃以上である。また、特許文献2では、アクリルポリオール、活性メチレンでブロックしたイソシアネート、メラミン樹脂および強酸触媒を含む組成物が提案されているが、この塗料組成物は、強酸触媒が用いられていることにより塗料の安定性が劣る。加えて、上記2例ともにイソシアネート化合物が必須成分とされているが、イソシアネート化合物の使用は安全衛生面から好ましくない。
【0004】
そこで、硬化剤にイソシアネート化合物を用いず、メラミン樹脂のみを硬化剤として含む低温硬化塗料が検討され、例えば、特許文献3により、ガラス転移温度が0℃以下である熱硬化性アクリル樹脂とメラミン樹脂とを組み合わせた塗料が提供された。この塗料は、120℃の焼き付けで満足できる塗膜物性を与えるが、焼付温度の更なる低下が望まれる。
【0005】
一方、自動車塗装などにおいては、金属の腐食防止や耐久性および塗膜の美観を合わせ持たせるために、例えば下塗り、中塗りおよび上塗りから成る複層塗膜を形成することが行われる。その際、できるだけ焼き付け回数を減らすことは工程短縮とともに二酸化炭素排出量削減にも有効であるので、複数の層を、各層ごとに焼き付けを行うことなく塗り重ね、塗り重ねたのちに該複層を同時に焼き付ける方法が実用化されてきている。この方法は他の工業塗装分野にも今後広まるものと予想されるが、複層に塗装された膜を低温で同時に硬化させ、満足する複層塗膜物性を得るために、その形成方法の更なる検討が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−101995号公報
【特許文献2】WO2013/008879パンフレット
【特許文献3】特開昭61−143472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、特定のアクリル樹脂、特定のメラミン樹脂および特定の触媒を選択することにより、低温硬化性に優れ、塗膜物性に優れ、毒性が低い塗料組成物を提供し、更に、その塗料組成物を用いた塗膜形成方法および複層塗膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、(I)数平均分子量が2,000から10,000で、水酸基価が70から120mgKOH/gである熱硬化性アクリル樹脂、(II)数平均分子量が1,000から1,500で、イミノ基およびメチロール基を有するn−ブチルエーテル化メラミン樹脂、および(III)(1)式
【0009】
【化1】
【0010】
(式中、R1は炭素数1〜10のアルキル基であり、R2は水素または炭素数1〜10のアルキル基である。)
で表わされる有機リン酸エステル、を含んでいる塗料組成物が優れた低温硬化性を提供することを見出し、本発明に至った。
【0011】
本発明はまた、2層以上の塗料を塗り重ねる積層方法において、下層部に上記成分(III)に示された有機リン酸エステル化合物を含有する塗料組成物を塗装し、該下層部が未硬化の状態で、その上に上記(I)および(II)を含有する塗料組成物か、あるいは上記(I)、(II)および(III)を含有する塗料組成物を塗り重ね、塗り重ねた複数層を同時に加熱し硬化させることを特徴とする複層塗膜形成方法を提供する。本発明はまた、前記方法により得られた多層塗膜を提供する。
【0012】
本発明を以下詳細に説明する。
【0013】
本発明に用いる熱硬化性アクリル樹脂(I)を構成する単量体成分としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル等のメタクリル酸エステル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル等の活性水素を有するアクリル酸エステル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシブチル等の活性水素を有するメタクリル酸エステル、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等の不飽和アミド、およびスチレン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、ビニルトルエングリシジルメタクリレート等のその他の重合性モノマーが挙げられ、それらを組み合わせて重合させて得られるアクリルポリオールを用いる。
【0014】
熱硬化性アクリル樹脂は、数平均分子量が2,000から10,000で、水酸基価が70から120mgKOH/g(固形分換算)のものが好ましい。水酸基は、成分(II)のメラミン樹脂との反応点と考えられる。数平均分子量が2,000未満および/または水酸基価が70mgKOH/g未満であると、低温硬化した際、架橋が不足して十分な塗膜物性が得られず、また数平均分子量が10,000を越えると粘度が上がり、塗料の不揮発分が低下する、あるいは平滑性が低下して優れた外観が得られなくなる傾向がある。また、水酸基価が120mgKOH/gを超えると塗料の安定性が劣る。
【0015】
上記熱硬化性アクリル樹脂(I)を加熱硬化させるために、メラミン樹脂(II)を必要とする。本発明に用いるn−ブチルエーテル化メラミン樹脂(II)は、通常、メラミンにホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド等のホルムアルデヒドを付加反応あるいは付加縮合反応させて得られたものに、1価のアルコールで部分的にエーテル化して得られるものであって、官能基として、イミノ基およびメチロール基を有し、かつn−ブチルエーテル化されたものである。その数平均分子量は1,000から1,500のものが好ましい。更に好ましくは数平均分子量が1,300から1,500のものである。数平均分子量が1,000未満であると、低温硬化した塗膜の耐溶剤性および鉛筆硬度が劣る。また数平均分子量が1,500を超えると、塗料の不揮発分や安定性が低下し好ましくない。
【0016】
本発明に用いる有機リン酸エステル(III)は、(1)式においてR1が炭素数1〜10のアルキル基であるものである。好ましくは炭素数1〜8のアルキル基であるもの、更に好ましくは炭素数1〜4のアルキル基であるものである。R1のアルキル基の炭素数が10を超えると、耐溶剤性および鉛筆硬度が劣る。
【0017】
一般的に、メラミン樹脂を硬化剤とした塗料系においては、硬化触媒としてスルホン酸系化合物が用いられるが、本発明においては、強酸(pKaが1以下)であるスルホン酸系化合物は低温硬化性に劣るので適しておらず、むしろ弱酸(pKaが1以上)で、かつ(1)式のR1のアルキル基の炭素数が10以下のリン酸エステル化合物が適している。
【0018】
具体的な有機リン酸エステルとしては、メチルアシッドホスフェイト、エチルアシッドホスフェイト、イソプロピルアシッドホスフェイト、ブチルアシッドホスフェイト、2−エチルヘキシルアシッドホスフェイト、イソデシルアシッドホスフェイト等のモノエステル、またそれらのジエステル、あるいはモノエステルとジエステルの混合物が挙げられる。
【0019】
これらの有機リン酸エステルはアミン化合物と反応させて用いることもできる。アミン化合物としては、アンモニア、メチルアミン等の一級アミン、ジ−n−プロピルアミン、ジメチルアミン等の二級アミン、トリエチルアミン、ジメチルアミノエタノールやジエチルヒドロキシアミン等の三級アミン、n−ブチルアミン、ジエチルアミン等の脂肪族アミン、ピペリジン、モルホリン、N−エチルピペリジン、N−エチルモルホリン、ピリジン等のヘテロ環状アミン、ベンジルアミン、N−メチルアニリン、N,N−ジメチルアミン等の芳香族アミン等々を挙げることができ、これらのアミン化合物を1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0020】
熱硬化性アクリル樹脂とn−ブチルエーテル化メラミン樹脂との比率は、熱硬化性アクリル樹脂(I)を固形分で50〜70重量%、メラミン樹脂(II)を固形分で30〜50重量%が好ましい。メラミン樹脂が30重量%未満であると反応点が少なく、硬化塗膜の耐溶剤性、鉛筆硬度など塗膜物性が低下する。また、メラミン樹脂が50重量%を超えるとメラミン樹脂の自己縮合反応が進み、硬化塗膜は硬く脆くなり好ましくない。
【0021】
有機リン酸エステルの比率は、熱硬化性アクリル樹脂(I)とメラミン樹脂(II)との合計樹脂固形分に対して0.5〜10重量%(あるいはリン元素換算量0.1〜2.5重量%)が好ましい。0.5重量%未満の場合は、ゲル分率が低下するなど十分な塗膜物性が得られない。また、10重量%を超えると塗料の安定性が低下する。
【0022】
この他に、本発明の熱硬化性塗料組成物には、塗料として常用される原料を配合することができる。光輝性顔料として、アルミニウム、マイカ、ニッケル、亜鉛、ビスマス、グラファイト等が用いられ、着色顔料として酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック、モリブデンレッド、プルシアンブルー、コバルトブルー、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キ
ナクリドン顔料、イソインドリン顔料、スレン顔料、ペリレン顔料、ジオキサジン顔料、ジケトピロロピロール顔料等の無機あるいは有機系顔料を配合できる。更に、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、珪酸などの体質顔料も配合できる。また、ベンゾフェノン、ベンゾトリアゾール、トリアジン系等の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン等の光安定剤や酸化防止剤が、特に屋外で使用される被塗物に塗装される塗料に配合される。また、シリコーンなどの表面調整剤、増粘剤なども使用できる。
【0023】
本発明の組成物は溶剤型塗料、水性塗料に用いることができる。溶剤型塗料であれば、希釈剤として有機溶剤が用いられる。水性塗料であれば、希釈剤としての水以外に、中和剤や乳化剤などを必要により配合できる。
【0024】
本発明の塗料組成物を用いる複層塗膜形成方法においては、例えば、2層を積層する場合には、上層に本発明の塗料組成物を用い、下層に塗膜形成性樹脂および有機リン酸エステル(III)を含む塗料組成物を用いて、2層を同時に加熱硬化させる。一般に、触媒を有する塗料組成物の貯蔵安定性は、含有する触媒量に依存する傾向にある。本発明の塗料組成物においても、触媒量が多すぎると塗料の貯蔵安定性は低下することが予想される。一方、必要な触媒量が存在しなければ低温での硬化が進まない。
【0025】
また、硬化させずに連続的に2層を塗り重ねた場合、硬化時にはその界面を中心に上層下層の成分が混ざることが発生する。そこで、上層の塗膜物性を確保する上で、下層の塗料中に上層の硬化触媒を潜在させ、加熱硬化時に下層から上層に触媒が移行することによって、上層の塗料組成物の低温硬化を促進させる方法が有効である。上層に本発明の(I)および(II)を含有する塗料組成物か、あるいは本発明の(I)、(II)および(III)を含有する塗料組成物を用いた場合に、その下層に塗膜形成性樹脂と触媒(III)を含有する塗料組成物を用いる。下層の組成物には必要により硬化剤を含んでもよいが、触媒(III)は下層の組成物の硬化反応には触媒効果がなくてよい。塗膜形成性樹脂としては特に限定されないが、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂あるいはこれらの樹脂を2種類以上用いることができる。
【0026】
本発明を以下の具体的実施例により、更に詳細に説明する。
【実施例および比較例】
【0027】
(製造例1)熱硬化性アクリル樹脂(I)−1の合成
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素吹き込み管、滴下ロートを取り付けた4ツ口フラスコ内を窒素雰囲気下にし、ソルベッソ150(協栄ケミカル(株)製)/n−ブタノール=8/2の混合溶液を80重量部加え、110℃に加温する。110℃に達したらスチレン20重量部、メタクリル酸2−エチルヘキシル32重量部、アクリル酸2−エチルヘキシル10重量部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル18重量部、アクリル酸4−ヒドロキシブチル8重量部、メタクリル酸3重量部、及びt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート27重量部の混合物を2時間かけて加える。添加終了後、110℃で60分熟成し、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート2重量部を加えてさらに110℃で90分熟成した。得られた樹脂の数平均分子量は2,800、水酸基価は120mgKOH/g(固形分換算)、酸価は20mgKOH/g(固形分換算)、ガラス転移点は10℃、SP値は9.8、不揮発分は60重量%であった。
【0028】
(製造例2)熱硬化性アクリル樹脂(I)−2の合成
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素吹き込み管、滴下ロートを取り付けた4ツ口フラスコ内を窒素雰囲気下にし、ソルベッソ150(協栄ケミカル(株)製)/n−ブタノール=8/2の混合溶液を80重量部加え、110℃に加温する。110℃に達したらスチレン20重量部、メタクリル酸2−エチルヘキシル33重量部、アクリル酸2−エチルヘキ
シル10重量部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル18重量部、アクリル酸4−ヒドロキシブチル8重量部、メタクリル酸3重量部、及びt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート26重量部の混合物を2時間かけて加える。添加終了後、110℃で60分熟成し、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート2重量部を加えてさらに110℃で90分熟成した。得られた樹脂の数平均分子量は3,200、水酸基価は120mgKOH/g(固形分換算)、酸価は20mgKOH/g(固形分換算)、ガラス転移点は10℃、SP値は9.8、不揮発分は60重量%であった。
【0029】
(製造例3)熱硬化性アクリル樹脂(I)−3の合成
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素吹き込み管、滴下ロートを取り付けた4ツ口フラスコ内を窒素雰囲気下にし、ソルベッソ150(協栄ケミカル(株)製)/n−ブタノール=8/2の混合溶液を80重量部加え、110℃に加温する。110℃に達したらスチレン21重量部、メタクリル酸2−エチルヘキシル40重量部、アクリル酸2−エチルヘキシル11重量部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル17重量部、アクリル酸4−ヒドロキシブチル5重量部、メタクリル酸3重量部、及びt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート21重量部の混合物を2時間かけて加える。添加終了後、110℃で60分熟成し、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート2重量部を加えてさらに110℃で90分熟成した。得られた樹脂の数平均分子量は4,000、水酸基価は95mgKOH/g(固形分換算)、酸価は20mgKOH/g(固形分換算)、ガラス転移点は10℃、SP値は9.5、不揮発分は60重量%であった。
【0030】
(製造例4)熱硬化性アクリル樹脂(I)−4の合成
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素吹き込み管、滴下ロートを取り付けた4ツ口フラスコ内を窒素雰囲気下にし、ソルベッソ150(協栄ケミカル(株)製)/n−ブタノール=8/2の混合溶液を80重量部加え、110℃に加温する。110℃に達したらスチレン31重量部、メタクリル酸2−エチルヘキシル39重量部、アクリル酸2−エチルヘキシル13重量部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル10重量部、アクリル酸4−ヒドロキシブチル7重量部、メタクリル酸3重量部、及びt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート15重量部の混合物を2時間かけて加える。添加終了後、110℃で60分熟成し、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート2重量部を加えてさらに110℃で90分熟成した。得られた樹脂の数平均分子量は5,600、水酸基価は70mgKOH/g(固形分換算)、酸価は20mgKOH/g(固形分換算)、ガラス転移点は10℃、SP値は9.3、不揮発分は60重量%であった。
【0031】
(製造例5)熱硬化性アクリル樹脂(I)−5の合成
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素吹き込み管、滴下ロートを取り付けた4ツ口フラスコ内を窒素雰囲気下にし、ソルベッソ150(協栄ケミカル(株)製)/n−ブタノール=8/2の混合溶液を80重量部加え、105℃に加温する。110℃に達したらスチレン30重量部、メタクリル酸2−エチルヘキシル38重量部、アクリル酸2−エチルヘキシル12重量部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル10重量部、アクリル酸4−ヒドロキシブチル8重量部、メタクリル酸4重量部、及びt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート10重量部の混合物を1時間半かけて加える。添加終了後、105℃で60分熟成し、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート8重量部を加えてさらに105℃で90分熟成した。得られた樹脂の数平均分子量は7700、水酸基価は70mgKOH/g(固形分換算)、酸価は20mgKOH/g(固形分換算)、ガラス転移点は11℃、SP値は9.3、不揮発分は60重量%であった。
【0032】
(実施例1〜23、比較例1〜10)
実施例及び比較例に用いた熱硬化性アクリル樹脂、メラミン樹脂および有機リン酸エステルを各表1、表2および表3に示した。
【0033】
【表1】
【0034】
(数平均分子量)下記の装置を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)測定によるポリスチレン基準の数平均分子量である。
装置 :東ソー(株)HLC−8120GPC
カラム :東ソー(株)TSKgel GMHXL ×2
TSKgel G2500HXL ×1
TSKgel G2000HXL ×1
キャリアー:テトラヒドロフラン
流速 :1.0mL/min
温度 :40℃
検出方法 :示差屈折率計
【0035】
(水酸基価)水酸基価は下式により算出した。
【0036】
【数1】
【0037】
(酸価)酸価は下式により算出した。
【0038】
【数2】
【0039】
(ガラス転移点)ガラス転移点(Tg)は次のFOX式を用いて計算されるものをいう。
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+…+Wi/Tgi+…+Wn/Tgn
上記FOX式においては、Tgは、n種類のモノマーからなるポリマーのガラス転移温度(K)であり、Tg(1、2、i、n)は、各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度(K)であり、W(1、2、i、n)は、各モノマーの質量分率であり、W1+W2+…+Wi+…+Wn=1である。
【0040】
(SP値)高分子溶液(熱硬化性アクリル樹脂1gを良溶媒(アセトン)20mlで希釈)に貧溶媒(水、ヘキサン)を滴下し、濁りを生じるまでに要した貧溶媒の量を求め、下式からSP値を算出した。
【0041】
【数3】
【0042】
φ1:貧溶媒(水)のSP値(=23.4)
δ1:濁りを生じるまでに要した水の体積分率
δg:良溶媒(アセトン)のSP値(=9.7)
φ2:貧溶媒(ヘキサン)のSP値(=7.3)
δ2:濁りを生じるまでに要したヘキサンの体積分率
水、アセトン、ヘキサンのSP値は、HSPiPのデータベース数値から引用した。
【0043】
(不揮発分)試料約1gを予め重さを量ってある金属製蒸発皿に採取し、精密化学天秤にて精秤する。それらの試料を120±2℃に保った熱風循環式乾燥機に入れ1時間加熱する。その後、取り出して室温まで放冷し、再び精密化学天秤にて重さを量り、残量を求め、不揮発分(=(加熱後の残量(g)/試料の質量(g))×100)を算出する。
【0044】
【表2】
【0045】
表2に示す各原料は、以下のものを用いた。
U−VAN20SE60、U−VAN125・・・・・三井化学(株)製
Resimene CE−7103・・・・・INEOS Melamines製
サイメル303・・・・・日本サイテックインダストリーズ(株)製
【0046】
【表3】
【0047】
表3に示す各原料は、SC有機化学(株)製のものを用いた。
PhoslexA−12、18は、固体のため、ソルベッソ150(協栄ケミカル(株)製)/n−ブタノール=8/2の混合溶液で固形分25%に希釈して使用した。
【0048】
容器に、表4、5および6に示すクリヤー塗料配合に記載の組成材料を秤量し、ホモデ
ィスパーで2分間撹拌して、クリヤー塗料を得た。
【0049】
リン酸亜鉛処理を施した厚さ0.8mmの鋼板に、クリヤー塗料を乾燥塗膜の厚さが約25μmになるように塗装し、80〜100℃で30分間焼き付けた。表4、5および6に示す数字は固形分の重量部を表わす。また、有機リン酸エステルの( )内の数値は、リン元素換算量を示す。
【0050】
(塗膜性能試験および評価方法)
塗膜硬度:JIS K5400 8.4.1試験機法により塗膜硬度を測定し、塗膜の破壊による評価を行った。
耐溶剤性:キシレン2mlを試験板上にスポット状に乗せ、25℃で30分間放置後、塗膜の外観を目視で判定した。評価は以下の基準で行った。
◎・・・・・良好
○・・・・・わずかな形跡
×・・・・・膨れ
××・・・・塗膜が溶解
ゲル分率:ゲル分率は、硬化塗膜をアセトン/エタノール=1/1混合液でソックスレー抽出器を用いて2時間還流抽出させたときの未溶解部分の重量の抽出前重量に対する値を算出し、以下の基準で評価を行った。
◎・・・・・91%以上
○・・・・・86〜90%
×・・・・・85%以下
【0051】
【表4】
【0052】
【表5】
【0053】
(実施例24〜36、比較例11〜15)
容器に、表7および8に示す上層塗料配合に記載の組成材料を秤量し、ホモディスパーで2分間撹拌して、上層塗料を得た。同様に、容器に、表7および8に示す下層塗料配合に記載の組成材料を秤量し、ホモディスパーで2分間撹拌して、3種の下層塗料、下層−1、下層−2および下層−3を得た。
【0054】
リン酸亜鉛処理を施した厚さ0.8mmの鋼板に、下層塗料を乾燥塗膜の厚さが約25μmになるように塗装し、60℃で10分間予備乾燥させ、次に、上層塗料を乾燥塗膜の厚さが約25μmになるように塗装し、80℃で30分間焼き付けた。
【0055】
表7および8に示す数字は固形分の重量部を表わす。また、有機リン酸エステルの( )内の数値は、リン元素換算量を示す。
【0056】
【表6】