(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6585392
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】微細藻類用培地
(51)【国際特許分類】
C12N 1/00 20060101AFI20190919BHJP
C12N 1/12 20060101ALI20190919BHJP
C12N 1/13 20060101ALI20190919BHJP
C12P 7/18 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
C12N1/00 G
C12N1/12 B
C12N1/13
C12P7/18
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-118913(P2015-118913)
(22)【出願日】2015年6月12日
(65)【公開番号】特開2017-100(P2017-100A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年4月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】米田 久成
(72)【発明者】
【氏名】菅野 雅皓
【審査官】
金田 康平
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−057989(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0322799(US,A1)
【文献】
PNAS, 2013; 110 (4), pp1249-1254
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00− 1/38
C12P 1/00−41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPI(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルトイオンを0.10mg/Lから0.50mg/L含む、シアノバクテリア用培地においてシアノバクテリアを培養する工程を含む、シアノバクテリアの培養方法であって、シアノバクテリアがシネココッカス属であり、かつ外因性核酸を導入した2,3−ブタンジオールを生産する遺伝子組み換え株であり、培地1L当たりの2,3−ブタンジオールの生産量が400mg/L以上である、培養方法。
【請求項2】
シアノバクテリア用培地に無機炭素化合物が添加されている、請求項1に記載の培養方法。
【請求項3】
シアノバクテリア用培地が少なくとも窒素源を含む、請求項1又は2に記載の培養方法。
【請求項4】
シアノバクテリア用培地が更にビタミン類、無機塩類及び微量金属のうちの少なくとも1種以上を含む、請求項1から3の何れか一項に記載の培養方法。
【請求項5】
コバルトイオンが硝酸コバルト(II)として含まれている、請求項1から4の何れか一項に記載の培養方法。
【請求項6】
シアノバクテリアがシネココッカス・エロンガタス(Synechococcus elongatus)PCC7942、又はシネココッカス種(Synechococcus sp.)PCC7002である、請求項1から5の何れか一項に記載の培養方法。
【請求項7】
光量子束密度10〜2000μmol/m2/sの条件下で培養する、請求項1から6の何れか一項に記載の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細藻類を効率的に培養し、物質生産を行うための培地および培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真正細菌であるシアノバクテリア(ラン藻)や真核生物である珪藻や緑藻などは、一般に微細藻類と呼ばれ、酸素発生型光合成を行う微生物として知られている。
微細藻類は光合成を行うことにより、環境中の二酸化炭素や窒素、リン酸およびその他の無機物質を取り込んで増殖し、それに伴って細胞内では、タンパク質やアミノ酸、炭水化物、脂質など、様々な物質が合成されている。
【0003】
言い換えれば、微細藻類は、無機炭素成分から有機化学物質を生産させるための有用な手段の一つである。微細藻類は、菌体を乾燥させて食料や飼料として用いたり、あるいは菌体からアスタキサンチン、βスカロテン又はドコサヘキサエン酸などの有用な化学成分を抽出するなど、幅広い用途で利用されてきている。さらに、近年では、微細藻類が蓄積する油脂を石油や天然ガスなどに代わる再生可能なエネルギー資源として利用することの期待が高まっており、脂質として軽油に近い炭化水素成分を生産する微細藻類の開発が活発になっている。
【0004】
一方、エタノール、n−ブタノール、イソブタノール又はブタンジオールなどのアルコール類、アセトン、エチレンあるいは乳酸などの低分子化合物は、脂肪酸などに比べて培養液中からの抽出や精製が容易であり、また、エネルギー資源として利用できるだけでなく、化成品や医薬中間体、溶剤などとして応用用途展開も幅広いため、生産ターゲットとして大きく期待されている。しかしながら、微細藻類は、上記のような低分子化合物は生産しないか、あるいは生産する場合でも極少量である。上記のような低分子化合物を微細藻類により高生産させるためには、代謝工学や合成生物学と呼ばれる分野の技術開発が必要である。
【0005】
これらの技術開発においては、微細藻類に外来の遺伝子を導入することにより代謝経路を改変し、光合成により固定化した二酸化炭素を所望の物質生産に結び付けている。中でも2,3−ブタンジオールは細胞毒性が低く、メチルエチルケトンやブタジエンなどの有用化合物への変換が可能であることから、有用な光合成生産ターゲット中間体としての開発が行われている(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2014/052920号公報
【特許文献2】国際公開WO2014/092562号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2013, 110, 1249-1254.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、二酸化炭素または炭酸イオンなどの無機成分のみを炭素成分として、光独立栄養で上記の化合物を生産させようとした場合、光合成により固定された二酸化炭素の分配が非常に重要な問題となってくる。照射する光の光量子数増強や波長の最適化、炭酸濃度の増強、温度条件の最適化などの物理的パラメーターの変更により、物質生産量を上げることは可能であるが、その際、同時に細胞増殖速度も著しく上がってしまい、却って培養液の生育不良・死滅を早めてしまう結果となってしまう。
【0009】
このような課題を解決するために、物質生産能のみを向上・あるいは維持させ、増殖を抑制することにより、細胞あたりの物質生産性向上を行い、長期培養に結び付けることが求められている。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、微細藻類を用いた光合成による化学物質生産において、物質生産性を向上させるための培地および培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、コバルトイオンを高濃度に含む培地を用いて微細藻類を培養した場合に、微細藻類の生育を抑制し化合物の生産性を向上できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)コバルトイオンを0.10mg/Lから0.50mg/L含む、微細藻類培養用培地。
(2)少なくとも窒素源を含む、(1)に記載の微細藻類培養用培地。
(3)更にビタミン類、無機塩類及び微量金属のうちの少なくとも1種以上を含む、(1)又は(2)に記載の微細藻類培養用培地。
(4)コバルトイオンが硝酸コバルト(II)として含まれている、(1)から(3)の何れかに記載の微細藻類培養用培地。
(5)微細藻類が外因性核酸を導入した遺伝子組み換え株である、(1)から(4)の何れかに記載の微細藻類培養用培地。
(6)微細藻類がシアノバクテリアである、(1)から(5)の何れかに記載の微細藻類培養用培地。
(7)微細藻類が2,3−ブタンジオールを生産する株である、(1)から(6)の何れかに記載の微細藻類培養用培地。
(8)微細藻類がシネココッカス属である、(1)から(7)の何れかに記載の微細藻類培養培地。
(9) 微細藻類がSynechococcus elongatus PCC7942、Synechococcus sp. PCC7002,又はSynechocystis sp. PCC6803のいずれかである、(1)から(8)の何れかに記載の微細藻類培養培地。
(10)(1)から(9)の何れかに記載の微細藻類培養用培地において微細藻類を培養する工程を含む、微細藻類の培養方法。
(11)微細藻類培養用培地に無機炭素化合物が添加されている、(10)に記載の微細藻類の培養方法。
(12)光量子束密度10〜2000μmol/m
2/sの条件下で培養する、(10)又は(11)に記載の微細藻類の培養方法。
(13)培地1L当たりの2,3−ブタンジオールの生産量が400mg/L以上である、(10)から(12)の何れかに記載の微細藻類の培養方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の培地及び培養方法によれば、物質生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明について、以下具体的に説明する。
本発明における微細藻類は、真核生物および原核生物を含む広義の微細な藻類を広く意味し、好ましくは「光合成機能を有する微細な微生物」を指し、より好ましくは「光合成機能を有する直径100μm以下の微生物」を指す。微細藻類は、淡水性でも海水性でもよいが、好ましくは淡水性である。淡水性微細藻類とは、淡水または汽水で取得された株、および淡水または汽水で生育しうる株、およびそれらの変異株を示す。淡水とは総塩濃度が0.05重量パーセント以下の水溶液を指し、汽水とは総塩濃度が0.05重量パーセントから5重量パーセント濃度の水溶液を指す。
【0015】
微細藻類としては、具体的には、ボトリオコッカス属(Botryococcus)、クラミドモナス属(Chlamydomonas)、クロレラ属(Chlorella)、クロロコックム属(Chlorococcum)、シュードコリシスチス属(Pseudochoricystis)、コリシスチス属(Choricystis)、ドナリエラ属(Dunaliella)、ユードリナ属(Eudorina)、ネオクロリス属(Neochloris)、ヘマトコッカス属(Haematococus)、セネデスムス属(Scenedesmus)などの緑藻植物、ナンノクロロプシス属(Nannochloropsis)などの不等毛植物、ユーグレナ属(Euglena)などのユーグレナ植物、アナベナ属(Anabaena)、アルテロスピラ属(Arthrospira)、ノストック属(Nostoc)、オスシラトリア属(Oscillatoria)、シゾトリックス属(Schizothrix)、スキトネマ属(Scytonema)、シネココッカス属(Synechococcus)、シネコシスティス属(Synechocystis)、スピルリナ属(Spirullina)、トリポスリクス属(Tolypothrix)などのシアノバクテリア(ラン藻)に含まれるものを挙げることが出来るが、これに限定されるものではない。
微細藻類として好ましくはシアノバクテリアであり、特に好ましくは、Synechococcus elongatus PCC7942、Synechococcus sp. PCC7002,又はSynechocystis sp. PCC6803を使用することができる。
【0016】
これらの微細藻類は、湖沼や海洋から単離し培養することにより取得してもよいが、例えば、Synechococcus sp. PCC7002株はATCCよりATCC27264として、Synechocystis sp. PCC6803はATCC27184としてアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)や、独立行政法人製品評価技術基盤機構のバイオテクノロジーセンター(NBRC)に挙げられるような生物遺伝資源保管機関より購入あるいは分譲を受けることにより、入手することができる。
【0017】
本発明で用いる微細藻類は、野生型株でもよいし、外因性核酸(外来遺伝子とも言う)を導入した遺伝子組み換え株でもよいが、遺伝子組み換え株が好ましい。外因性核酸を導入した遺伝子組み換え株としては、DNAやRNAなどの外因性核酸の導入により、光合成培養中に化学物質を生産できるよう遺伝子改変された株が好ましい。
【0018】
外因性核酸の導入方法は、当分野においてよく知られた方法を用いることができる。例えば、外因性遺伝子を組み込んだ核酸の断片、あるいは外因性遺伝子を組み込んだ市販のベクター(プラスミドベクターまたはウイルスベクター)を微細藻類の培養液に直接加え、微細藻類の生来の遺伝子取り込み能力を利用して微細藻類に取り込ませる方法や、電気的、化学的又は物理的に微細藻類を処理し、より取り込みやすい状態にしてから、外因性核酸を微細藻類に導入する方法などが挙げられる。
【0019】
所望により外因性核酸を導入した微細藻類により生産される化合物は、ピルビン酸を経由して代謝物として細胞内外に生産させうるものであり、ピルビン酸の他にも乳酸、酢酸、エタノール、アセトイン、ジアセチル、1−ブタノール、ブチルアルデヒド、2−ブタノール、メチルエチルケトン、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、コハク酸、2,3−ブタンジオール、イソブチルアルコール、イソブチルアルデヒド、1−プロパノール、プロピオンアルデヒド、イソプロピルアルコール、アセトン、1,3−プロパンジオール等が含まれるが、上記に限定されるものではない。
【0020】
上記の化合物は、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、NMR、IRなど当業者に公知の手法で検出及び定量することができる。
【0021】
次に本発明の培地について説明する。
本発明の培地は、当分野にとってよく知られた培地を用いることができる。
本発明における培養は、無機炭素化合物を唯一の栄養源として生育させる光独立栄養条件での培養を主に意図しているが、これに限定されるものではなく、生育に必要な炭素成分としては、無機炭酸塩によって炭酸イオンとして間接的に、および/または炭酸ガスとして液体培地に吹き込むことにより直接的に供給することができる。無機炭酸塩の例としては、例えば炭酸水素ナトリウムが挙げられ、液体培地中における濃度は一般的には0〜500mMであり、好ましくは50〜200mMであり、より好ましくは50〜100mMである。
【0022】
炭酸ガスは好ましくは1〜30容量%、より好ましくは5〜10容量%の濃度の炭酸ガスを培地に分散させることによって直接的に供給される。
【0023】
微細藻類用の培地としては、例えば窒素源、緩衝剤、ビタミン類、無機塩類、微量金属に挙げられる化合物を含み、例えば表1に示す、BG11培地(ATCC medium616)、表2に示すSOT培地、表3に示すA+培地(ATCC medium 957)などが挙げられ、これらの培地は例えばシアノバクテリア類の培養に用いられるが、これに限定されるものではない。
【0024】
また、当分野で一般的に用いられる手法として、導入する外因性核酸に薬剤耐性遺伝子が含まれる場合は、導入した薬剤耐性遺伝子に対応した抗生物質を、培地に添加することができる。このような抗生物質の例としては、アンピシリン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ストレプトマイシン、スペクチノマイシンなどが挙げられる。
【0025】
本発明の培地は、上記の例に挙げた培地に対して、更に高濃度のコバルトイオンを含む。 本発明の培地におけるコバルトイオンの濃度は0.10mg/Lから0.50mg/Lである。コバルトイオンの濃度の濃度を上記の範囲内にすることにより、高い物質生産性を達成することができる。
【0026】
コバルトイオンの濃度は当業者に公知の任意の方法で分析することができる。例えばイオンクロマトグラフィー、原子吸光光度分析、融合結合プラズマ質量分析(ICP-MS)が挙げられるが、本明細書の後記する実施例においては、融合結合プラズマ質量分析を用いた分析値を用いている。
【0027】
培地として調整するために添加するコバルトの種類は問わないが、例えば酢酸コバルト(II)、酸化コバルト(II)、塩化コバルト(II)、硝酸コバルト(II)、硫酸コバルト(II)、水酸化コバルト(II)、四酸化三コバルト(II、III)、フッ化コバルト(II)、臭化コバルト(II)、ヨウ化コバルト(II)、シュウ酸コバルト(II)、ギ酸コバルト(II)、二酸化コバルトリチウム(III)、ジクロロビス(エチレンジアミン)コバルト(III)、ヘキサアンミンコバルト(III) クロリド、炭酸コバルト(II)、シアノコバラミン、ヒドロキソコバラミン、メチルコバラミン、アデノシルコバラミン等の塩類や錯体が挙げられ、それらの水和物であってもよい。中でも硝酸コバルト(II)が好ましい。
【0028】
微細藻類を培養するための条件としては、典型的な繁殖条件を採用できる。培養温度は好ましくは5〜75℃であり、より好ましくは20〜40℃、さらに好ましくは30〜37℃である。光は自然光(太陽光)、白熱灯、蛍光灯、LEDを含む様々な光源によって照射され、光量子束密度(μmol/m
2/s)を用いて規定され、好ましくは0〜5000μmol/m
2/s、 より好ましくは10〜2000μmol/m
2/s、更に好ましくは50〜200μmol/m
2/sである。常時照射条件が好ましいが、周期的な明暗照射であってもよい。
【0029】
本発明の培地を用いて微細藻類を培養して2,3−ブタンジオールを生産した場合、培地1L当たりの2,3−ブタンジオールの生産量は好ましくは400mg/L以上であり、より好ましくは500mg/L以上であり、さらに好ましくは550mg/L以上であり、特に好ましくは570mg/L以上である。
【0030】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
[実施例1]
まず、シネココッカス・エロンガタス(Synechococcus elongatus)PCC7942の野生株はアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション、ATCCよりATCC39912として購入し 、2,3-ブタンジオール生産株をOliver,J.W., Machado,I.M., Yoneda,H., Atsumi,S., 2013.Cyanobacterial conversion of carbon dioxide to 2,3-butanediol. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 110, 1249-1254.に記載の方法で作製した。
【0032】
2,3-ブタンジオール生産株を作製するのに使用した外因性核酸(外来遺伝子)としては、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)由来のアセト酪酸合成遺伝子(alsS)、エロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)由来のアセト酪酸脱炭酸酵素遺伝子(alsD)、クロストリジウム・ベイジェリンキ(Clostridiumbeijerinckii)由来のアルコール脱水素酵素遺伝子(adh)である。
【0033】
次に、表1に示すBG11培地に終濃度20mMとなるようHEPES-KOH(2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸カリウム)を加えて調整したのち、終濃度10mg/Lとなる硫酸ゲンタマイシン、終濃度10mg/Lとなるチアミン塩酸塩、および終濃度50mMとなる炭酸水素ナトリウムを加え、更にCo(NO
3)
2・6H
2Oを終濃度が0.494mg/L(コバルトイオン濃度0.10mg/L)となるように加え、培地を作製した。培地の作製に当たっては、融合結合プラズマ質量分析によって、Co(NO
3)
2・6H
2O以外の試薬・精製水にコバルトイオンが含まれていないことを予め確認した。波長730nmの吸光度で計測する光学濁度(OD730)が0.1になるようにシアノバクテリア細胞を上記培地50mlに希釈し、200mlのバッフル付三角フラスコにて(撹拌速度100rpm、光量子束密度55μmol/m
2/sに、培養温度30℃)の条件にて培養した。24時間培養後、5mlの培地を抜き取り、10規定の塩酸でpHを調整したのち、終濃度1mMとなるよう発現誘導剤IPTG(イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド)を加え、誘導を開始し、新たに同成分の培地5mlを加えて培養を継続した。同様の培地交換作業は24時間置きに行った。IPTG添加後72時間経過後、培養液を遠心し、細胞を沈殿させ、培養上清に含まれる2,3−ブタンジオールの濃度をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、840mg/Lの2,3−ブタンジオールを生産した。
【0034】
[比較例1]
培養にBG11培地(Co(NO
3)
2・6H
2O終濃度0.0494mg/L)(コバルトイオン濃度0.01mg/L)を用いる以外は実施例1と同様の条件で培地を作製し、更に実施例1と同様の条件で2,3−ブタンジオール生産実験を行ったところ、310mg/Lの2,3−ブタンジオールを生産した。
【0035】
[実施例2]
表1に示すBG11培地の組成に、終濃度10mg/Lとなる硫酸ゲンタマイシン、終濃度10mg/Lとなるチアミン塩酸塩、および終濃度50mMとなる炭酸水素ナトリウムを加え、更にCo(NO
3)
2・6H
2O水溶液を終濃度0.494mg /L)(コバルトイオン濃度0.10mg/L)となるように加え、培地を作製した。波長730nmの吸光度で計測する光学濁度(OD730)が0.4になるように2,3−ブタンジオール生産シアノバクテリア細胞を上記培地10mlに希釈し、50mlの組織培養フラスコにて(撹拌速度100rpm、光量子束密度55μmol/m
2/s
2に、培養温度30℃、)5%CO
2を10ml/minにて吹き込みながら培養を行った。24時間培養後、終濃度1mMとなるようIPTGを加え、誘導を開始した。誘導開始から72時間経過後、培養液の一部を孔径0.2μmのメンブレンフィルターにてろ過し、上清を得たのち、含まれる2,3−ブタンジオールの濃度をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、573mg/Lの2,3−ブタンジオールを生産した。
【0036】
[実施例3]
培養にBG11培地(Co(NO
3)
2・6H
2O終濃度2.47mg/L)(コバルトイオン濃度0.50mg/L)を用いる以外は実施例2と同様の条件で培地を作製したのち、更に実施例2と同様の条件で2,3−ブタンジオール生産実験を行ったところ、582mg/Lの2,3−ブタンジオールを生産した。
【0037】
[比較例2]
培養にBG11培地(Co(NO
3)
2・6H
2O終濃度0.0494mg/L)(コバルトイオン濃度0.01mg/L)を用いる以外は実施例2と同様の条件で培地を作製し、更に実施例2と同様の条件で2,3−ブタンジオール生産実験を行ったところ、291mg/Lの2,3−ブタンジオールを生産した。
【0038】
[比較例3]
培養にBG11培地(Co(NO
3)
2・6H
2O終濃度4.94mg/L)(コバルトイオン濃度1.00mg/L)を用いる以外は実施例2と同様の条件で培地を作製し、更に実施例2と同様の条件で2,3−ブタンジオール生産実験を行ったところ、39mg/Lの2,3−ブタンジオールを生産した。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の培地及び培養方法は、微細藻類における化学物質生産の分野で好適に利用できる。