特許第6585405号(P6585405)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6585405放射性汚染水貯留方法及び放射性汚染水貯留装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6585405
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】放射性汚染水貯留方法及び放射性汚染水貯留装置
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/06 20060101AFI20190919BHJP
   G21F 9/22 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   G21F9/06 G
   G21F9/22 A
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-143489(P2015-143489)
(22)【出願日】2015年7月17日
(65)【公開番号】特開2017-26394(P2017-26394A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2018年4月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100158540
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 博生
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100176876
【弁理士】
【氏名又は名称】各務 幸樹
(74)【代理人】
【識別番号】100187768
【弁理士】
【氏名又は名称】藤中 賢一
(72)【発明者】
【氏名】山下 岳史
(72)【発明者】
【氏名】田中 良明
(72)【発明者】
【氏名】中井 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】浅井 克彦
【審査官】 大門 清
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−096810(JP,A)
【文献】 特開2015−125072(JP,A)
【文献】 特開2015−105920(JP,A)
【文献】 特開昭48−100343(JP,A)
【文献】 特開平05−220467(JP,A)
【文献】 特開平9−178892(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G21F 9/04
G21F 9/22
G21D 1/00
C02F 1/00
C23F11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性ストロンチウムを含む放射性汚染水をタンクに貯留する方法であって、
上記タンク内に貯留される上記汚染水のpHを7以下に制御することにより、上記タンクに生じる錆の初期生成物である水酸化鉄(III)への上記放射性ストロンチウムの吸着を抑制することを特徴とする放射性汚染水貯留方法。
【請求項2】
上記汚染水のpH制御範囲の下限を6以上とする請求項1に記載の放射性汚染水貯留方法。
【請求項3】
上記放射性汚染水を中間タンクに貯留する工程と、
この中間タンクに貯留される汚染水を上記タンクに移送する工程と
を備えており、
上記中間タンクに貯留される汚染水に対して上記pH制御を行う請求項1又は請求項2に記載の放射性汚染水貯留方法。
【請求項4】
上記放射性汚染水を上記タンクに直接移送する工程を備えており、
上記直接移送工程での配管内で上記pH制御を行う請求項1又は請求項2に記載の放射性汚染水貯留方法。
【請求項5】
上記pH制御として、二酸化炭素含有ガスのバブリングを用いる請求項1から請求項のいずれか1項に記載の放射性汚染水貯留方法。
【請求項6】
放射性ストロンチウムを含む放射性汚染水をタンクに貯留する装置であって、
上記汚染水を貯留するタンクと、
上記タンク内に貯留される汚染水のpHを7以下に制御することにより、上記タンクに生じる錆の初期生成物である水酸化鉄(III)への上記放射性ストロンチウムの吸着を抑制する機構と
を備えることを特徴とする放射性汚染水貯留装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性汚染水貯留方法及び放射性汚染水貯留装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性セシウム、放射性ストロンチウム等の放射性汚染物質を含有する汚染水、例えば事故後の原子力発電所における炉心冷却用循環水、廃水等は、環境破壊を防止するために放射性汚染物質を基準値以下に低減しなければ排出することが許されない。このため、事故後の原子力発電所では、余剰となった原子炉冷却水を回収した汚染水が多数のタンクに貯留されている。
【0003】
これらの汚染水を貯留するタンクには耐用期間があるため、使用期限近くのタンクは順次解体する必要がある。このようなタンクを解体するためには、タンクを構成する部材に含まれる放射性汚染物質量を十分に低下させる必要がある。
【0004】
このような汚染水を貯留するタンクとして、複数の板材を溶接により接合した溶接型タンクや、複数の板材の周縁に配設したフランジ間をボルトで締結して形成されたボルト締め型タンクが用いられる。このようなタンクの上記板材としては、例えばSS400等の一般構造用圧延鋼板が用いられる。また、このような汚染水を貯留するタンクは、腐食防止のため、一般的には内面が樹脂等によりコーティングされている。
【0005】
しかし、タンク内面のコーティングの剥離や損傷等により、貯留される汚染水とタンクを構成する鋼材とが接触すると錆が生じる。この錆に放射性汚染物質が取り込まれる可能性があり、放射性汚染物質が錆に取り込まれた場合、この錆から放射性汚染物質を除去する必要があるため、タンクの解体時に鋼材の除染作業が必要となる。このような除染作業を省略できるように、錆への放射性汚染物質の取り込みを抑制することが望まれる。ここで、例えばタンク内の汚染物質を除去する装置として、タンクの内壁面に沿って移動しながらタンク内壁面に付着した汚染物質を除去する装置が提案されている(特開平10−2995号公報参照)。しかし、この公報に記載の除染装置を用いても、鋼材の内部まで形成されている錆から放射性汚染物質を除去することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−2995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、放射性汚染水を貯留するタンクに生じる錆への放射性ストロンチウムの取り込みを抑制する放射性汚染水貯留方法及び放射性汚染水貯留装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
水酸化鉄(III)の各種イオンを吸着する性質を利用して、溶液中で共存する放射性核種等の水酸化鉄(III)への吸着により、上記放射性核種等を共沈させる水酸化第二鉄凝集法が知られている。本発明者らは、この水酸化第二鉄凝集法における現象を解析し鋭意検討した結果、タンクに貯留される汚染水のpHを7以下とすることで、ストロンチウムの錆への取り込みを抑制できることを見出した。すなわち、水酸化第二鉄凝集法において、水酸化鉄(III)粒子表面には、溶液のpHに応じて生成するヒドロキソ鉄(III)イオン(Fe(OH)及びFe(H))が吸着する。水酸化鉄(III)粒子表面にこれらのヒドロキソ鉄(III)イオンが吸着すると、電気二重層が形成され、水酸化鉄(III)粒子表面が正又は負に帯電してゼータ電位が生じる。この水酸化鉄(III)粒子のゼータ電位は、溶液のpHが7を超えると負の値となるため、溶液中に正電荷を帯びたストロンチウムイオンが存在する場合、ストロンチウムが水酸化鉄(III)粒子に吸着する。このストロンチウムが吸着した水酸化鉄(III)は、経時的な脱水による結晶化で錆の一種である針鉄鉱(goethite)に変化するが、この針鉄鉱に変化する際に、ストロンチウムが針鉄鉱の結晶中に取り込まれる。本発明者らは、これらのことより、タンクに貯留される汚染水のpHを7以下とすることでストロンチウムの水酸化鉄への吸着を抑制でき、その結果、ストロンチウムの錆への取り込みを抑制できることを見出した。
【0009】
すなわち、上記課題を解決するためになされた発明は、放射性汚染水をタンクに貯留する方法であって、上記タンク内に貯留される汚染水のpHを7以下に制御することを特徴とする放射性汚染水貯留方法である。
【0010】
当該放射性汚染水貯留方法は、タンクに貯留される放射性汚染水のpHを7以下に制御するので、錆の初期生成物である水酸化鉄へのストロンチウムの吸着を抑制できる。その結果、当該放射性汚染水貯留方法により、水酸化鉄から変化する針鉄鉱やマグネタイトなどの錆へのストロンチウムの取り込みが抑制される。その結果、タンクの解体時における鋼材の除染作業を省略又は軽減できる。
【0011】
上記汚染水のpH制御範囲の下限としては、6が好ましい。このように、汚染水のpH制御範囲を上記下限以上とすることにより、タンク内面等の腐食を抑制できる。
【0012】
上記タンク内に貯留される汚染水に対して上記pH制御を行うとよい。タンク内に貯留される汚染水は基本的にタンクが解体されるまで移送されないので、このようにタンク内に貯留される汚染水に対してpH制御を行うことにより、制御後の汚染水のpHの変動を小さくでき、汚染水のpHを制御し易い。
【0013】
上記放射性汚染水を中間タンクに貯留する工程と、この中間タンクに貯留される汚染水を上記タンクに移送する工程とを備えているとよく、上記中間タンクに貯留される汚染水に対して上記pH制御を行うとよい。このように、上記タンクに移送する前の中間タンクに貯留される汚染水に対してpH制御を行うことにより、pH制御後の汚染水が上記タンクに移送されるので、上記タンク内における水酸化鉄へのストロンチウムの吸着をより確実に抑制できる。
【0014】
上記放射性汚染水を上記タンクに直接移送する工程を備えているとよく、上記直接移送工程での配管内で上記pH制御を行うとよい。このように、上記タンクに移送する前の配管内の汚染水に対してpH制御を行うことにより、pH制御後の汚染水が上記タンクに移送されるので、タンク内における水酸化鉄へのストロンチウムの吸着をより確実に抑制できる。また、上記汚染水を上記タンクに直接移送することにより、上記タンクへの移送前の汚染水を一時貯留する設備が必要なく、汚染水を貯留するための設備を小型化できる。
【0015】
上記pH制御として、二酸化炭素含有ガスのバブリングを用いるとよい。このように、二酸化炭素含有ガスのバブリングによりpH制御を行うことで、攪拌機を用いずに汚染水を攪拌できるので、汚染水のpHをより短時間で均一に制御し易い。
【0016】
また上記課題を解決するためになされた別の発明は、放射性汚染水をタンクに貯留する装置であって、上記汚染水を貯留するタンクと、上記タンク内に貯留される汚染水のpHを7以下に制御する機構とを備えることを特徴とする放射性汚染水貯留装置である。
【0017】
当該放射性汚染水貯留装置は、タンクに貯留される放射性汚染水のpHを7以下に制御する機構を備えるので、錆の初期生成物である水酸化鉄へのストロンチウムの吸着を抑制できる。その結果、当該放射性汚染水貯留装置は、水酸化鉄から変化する針鉄鉱やマグネタイトなどの錆へのストロンチウムの取り込みを抑制でき、タンクの解体時における鋼材の除染作業を省略又は軽減できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の放射性汚染水貯留方法及び放射性汚染水貯留装置は、上述のように、放射性汚染水を貯留するタンクに生じる錆への放射性ストロンチウムの取り込みを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第一実施形態に係る放射性汚染水貯留装置の構成を示す模式図である。
図2】本発明の第二実施形態に係る放射性汚染水貯留装置の構成を示す模式図である。
図3】本発明の第三実施形態に係る放射性汚染水貯留装置の構成を示す模式図である。
図4】水酸化鉄(III)粒子のゼータ電位及び90Srの共沈率のpH変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明に係る放射性汚染水貯留装置及び放射性汚染水貯留方法の実施形態について詳説する。
【0021】
〔第一実施形態〕
図1に示す当該放射性汚染水貯留装置は、放射性汚染水Cをタンク1に貯留する装置である。当該放射性汚染水貯留装置は、上記汚染水Cを貯留するタンク1と、タンク1内に貯留される汚染水CのpHを7以下に制御するpH制御機構2とを主に備える。
【0022】
<タンク>
放射性汚染水Cを貯留するタンク1は、特に限定されないが、事故後の原子力発電所において放射性物質を含む汚染水を貯留するために使用され、複数の板材の周縁に配設したフランジ間をボルトで締結して形成されたボルト締め型タンクが想定される。
【0023】
タンク1の平均内径の下限としては、特に限定されないが、3mが好ましく、5mがより好ましい。一方、タンク1の平均内径の上限としては、25mが好ましく、20mがより好ましい。タンク1からの汚染水排出時に用いる排出ポンプの排水能力の関係でタンク1の高さが制限されるため、タンク1の平均内径が上記下限に満たないと、タンク容量を所定以上に大きくできず汚染水Cを貯留するためのタンク1の数が増加するおそれがある。逆に、タンク1の平均内径が上記上限を超えると、pH調整時にタンク1内の汚染水CのpHが均一となるまでの時間が長くなり、pH調整後のpH確認までの時間が長くなるおそれがある。なお、「平均内径」とは、タンク内部の水平方向の最小寸法とこれに直交する水平方向の寸法との平均値を意味する。
【0024】
また、タンク1の平均高さの下限としては、3mが好ましく、5mがより好ましい。一方、タンク1の平均高さの上限としては、25mが好ましく、20mがより好ましい。タンク1の平均高さが上記下限に満たないと、汚染水Cの貯留可能な容量に対してタンク1の設置面積が大きくなるため、設置面積に対する貯留効率が低下するおそれがある。また、タンク1内の汚染水Cの状態確認等はタンク1の上部のマンホールから行うため、タンク1の平均高さが上記上限を超えると、タンク1内の汚染水Cの状態確認がし難くなるおそれがある。
【0025】
また、このようなタンク1に貯留される汚染水Cは、典型的には事故後の原子力発電所における炉心冷却用循環水、廃水等の放射性物質を含む汚染水、特に放射性ストロンチウムを含む放射性汚染水とされる。
【0026】
タンク1に貯留される汚染水Cの汚染物質濃度としては、特に限定されないが、例えば500Bq/cc以上500,000Bq/cc以下とされる。
【0027】
なお、タンク1内に貯留される上記汚染水Cは、図示していないが汚染水供給配管によりタンク1内に供給される。この汚染水供給配管は、例えばタンク1の上部のマンホールから差し込まれ、汚染水Cをタンク1内に供給する。
【0028】
<pH制御機構>
pH制御機構2は、図1に示すようにpHセンサー3、pH調整剤供給装置4及びpH調整剤供給管5を有する。
【0029】
(pHセンサー)
pHセンサー3は、タンク1内の汚染水CのpHを測定する。このpHセンサー3は、例えばタンク1の上部のマンホールから吊り下げられ、タンク1内の汚染水C中に配設される。
【0030】
上記pHセンサー3としては、ISFET(Ion Sensitive Field Effect Transistor)等の半導体式のpHセンサーやガラス電極式のpHセンサーなどを用いることができる。
【0031】
(pH調整剤供給装置)
pH調整剤供給装置4は、排出口よりpH調整剤を排出する。
【0032】
(pH調整剤供給管)
pH調整剤供給管5は、一端がpH調整剤供給装置4の排出口に接続され、他端がタンク1内の汚染水C中に配設される。このpH調整剤供給管5を介して、pH調整剤供給装置4から排出されたpH調整剤が汚染水C中へ投入される。
【0033】
pH制御機構2は、まずpHセンサー3でタンク1内の汚染水CのpHを測定し、その測定結果に応じて、タンク1内に貯留される汚染水CのpHを制御する。具体的には、pH制御機構2は、タンク1内に貯留されている汚染水CのpHが7を超える場合、pH調整剤供給装置4及びpH調整剤供給管5によりタンク1内に貯留されている汚染水C中へpH調整剤を投入し、汚染水CのpHを7以下に下げるよう調整する。また、タンク1内に貯留されている汚染水CのpHが7以下の場合、pH制御機構2は、pH調整剤供給装置4及びpH調整剤供給管5によるpH調整剤の投入を行わない。このようにして、pH制御機構2は、タンク1内に貯留されている汚染水CのpHを7以下に制御する。なお、pH調整剤を投入する場合、pH制御機構2は、汚染水CのpHを7以下に下げるために、例えばpHセンサー3で測定される汚染水CのpH及び汚染水Cの貯留量より求められる量のpH調整剤をpH調整剤供給装置4及びpH調整剤供給管5により汚染水C中に投入する。
【0034】
pH制御後のタンク1内の汚染水CのpHの下限としては、6が好ましく、6.5がより好ましい。一方、pH制御後のタンク1内の汚染水CのpHの上限としては、7である。タンク1内面等の腐食は酸化還元電位や温度等の影響を大きく受けるが、タンク1内の汚染水CのpHが上記下限に満たないと、タンク1内面等の腐食が促進されるおそれがある。また、タンク1内の汚染水CのpHが上記下限に満たないと、pH調整剤の添加量が増加しpH制御のための処理コストが過大となるおそれがある。なお、汚染水CのpHが上記下限未満であっても水酸化鉄へのストロンチウムの吸着抑制効果は得られるが、汚染水CのpHが4以下になると錆の発生が促進される。逆に、タンク1内の汚染水CのpHが上記上限を超えると、水酸化鉄の粒子表面にストロンチウムが吸着し、錆へのストロンチウムの取り込みを十分に抑制できないおそれがある。
【0035】
汚染水CのpHを7以下に調整するpH調整剤として、固体、液体及び気体のいずれの状態のものも用いることができる。これらの中でも、汚染水Cへの溶解及び拡散性を考慮すると、液体及び気体のものが好ましい。
【0036】
液体のpH調整剤としては、例えば炭酸、硫酸、塩酸等が挙げられる。これらの中でも、腐食が生じ難い点においてアニオンに腐食性を有しないもの、すなわち炭酸及び硫酸が好ましい。
【0037】
気体のpH調整剤としては、入手が容易な点及び常温で取り扱い易い点において二酸化炭素含有ガスが好ましい。また、このような気体のpH調整剤を用いる場合、気体をバブリングさせて汚染水C中に投入することが好ましい。例えば管を汚染水C中に差し込み、この管内に適切な流量の気体を流し込むことで、この管の先端からの気体の吐出により汚染水C中で気体をバブリングさせることができる。このように気体のバブリングを用いることで、攪拌機を用いずに汚染水Cを攪拌できる。その結果、投入した気体のpH調整剤が汚染水Cに溶解し易くなり、汚染水CのpHをより短時間で均一になるよう調整することができる。従って、二酸化炭素含有ガスのバブリングを用いて汚染水CのpHを調整することが好ましい。
【0038】
上述したように、当該放射性汚染水貯留装置は、pH制御機構2によりタンク1に貯留されている汚染水CのpHを7以下に制御するので、ストロンチウムの水酸化鉄への吸着を抑制できる。その結果、当該放射性汚染水貯留装置は、上記タンク1に生じる錆への放射性ストロンチウムの取り込みを抑制できる。
【0039】
[放射性汚染水貯留方法]
続いて、図1の放射性汚染水貯留装置において行われる本発明の第一実施形態に係る放射性汚染水貯留方法について説明する。
【0040】
当該放射性汚染水貯留方法は、放射性汚染水Cをタンク1に貯留する方法である。当該放射性汚染水貯留方法は、上記タンク1内に貯留される汚染水Cに対してpHを7以下に制御する。すなわち、当該放射性汚染水貯留方法は、上記タンク1内に貯留される汚染水Cに対してpHを7以下に制御する工程(pH制御工程)を備える。
【0041】
<pH制御工程>
上記pH制御工程は、タンク1内に貯留される汚染水CのpHを測定する工程(pH測定工程)と、タンク1内に貯留される汚染水CのpHを調整する工程(pH調整工程)とを有する。
【0042】
(pH測定工程)
上記pH測定工程では、pHセンサー3によりタンク1内に貯留されている汚染水CのpHを測定する。
【0043】
(pH調整工程)
上記pH調整工程では、上記pH測定工程で測定されたタンク1内の汚染水CのpHに基づいて、pH制御機構2によりタンク1内の汚染水CのpHを調整する。
【0044】
上記pH制御工程によりタンク1内の汚染水CのpHを制御した後、タンク1は略密封状態とされる。その後、上記汚染水Cはタンク1が解体されるまで略密封状態で保管されるので、タンク1内の汚染水CのpHはほとんど変化せず、7以下のpHが維持される。
【0045】
また、タンク1内に貯留されている汚染水Cは、基本的にタンク1が解体されるまで移送されることなくタンク1内で保管される。当該放射性汚染水貯留方法は、このようにタンク1内に貯留されている汚染水Cに対してpH制御を行うため、制御後の汚染水のpHの変動を小さくでき、汚染水のpHを制御し易い。
【0046】
また、より確実に錆への放射性ストロンチウムの取り込みを抑制するために、ストロンチウムの水酸化鉄への吸着が進行する前、つまり汚染水Cのタンク1内への貯留後、比較的早い時間に上記pH調整工程を実施することが好ましい。一方、ストロンチウムの水酸化鉄への吸着がある程度進行した後でも、汚染水CのpHを7以下に調整することで、ストロンチウムイオンの溶離や水酸化鉄の溶解を進行させることができる。従って、ストロンチウムが水酸化鉄へ吸着されている場合でも、上記pH調整工程を実施することにより、上記タンク1に生じる錆への放射性ストロンチウムの取り込みの抑制効果が得られる。
【0047】
〔第二実施形態〕
図2に示す当該放射性汚染水貯留装置は、放射性汚染水Cをタンク1に貯留する装置である。当該放射性汚染水貯留装置は、上記汚染水Cを貯留するタンク1と、このタンク1に移送する汚染水Cを一時貯留する中間タンク11と、中間タンク11に貯留される汚染水CのpHを7以下に制御するpH制御機構12と、中間タンク11に貯留される汚染水Cをタンク1へ移送する汚染水供給配管13及び供給ポンプ14とを主に備える。
【0048】
<中間タンク>
中間タンク11は、タンク1に貯留する汚染水Cをタンク1へ移送する前に一時貯留するタンクである。当該放射性汚染水貯留装置では、この中間タンク11内に一時貯留される汚染水CのpHが制御される。この中間タンク11としては、例えばタンク1と同様の構造のものを用いることができる。つまり、複数の板材の周縁に配設したフランジ間をボルトで締結して形成されたボルト締め型タンクを用いることができる。
【0049】
タンク1の容量に対する中間タンク11の容量の比の下限としては、1/20が好ましく、1/10がより好ましい。一方、上記容量の比の上限としては、6/5が好ましく、1がより好ましい。上記容量の比が上記下限に満たないと、タンク1に貯留される汚染水Cの量に対して中間タンク11でpH制御できる量が小さすぎるため、タンク1に貯留する汚染水CのpH制御に要する時間が長くなりすぎるおそれがある。逆に、上記容量の比が上記上限を超えると、タンク1の容量に比べて中間タンク11の容量が必要以上に大きく、中間タンク11が無用に大型となるおそれがある。
【0050】
中間タンク11の平均内径の下限としては、特に限定されないが、3mが好ましく、5mがより好ましい。一方、中間タンク11の平均内径の上限としては、25mが好ましく、20mがより好ましい。中間タンク11からの汚染水移送時に用いる供給ポンプ14の移送能力の関係で中間タンク11の高さが制限されるため、中間タンク11の平均内径が上記下限に満たないと、タンク11の容量を所定以上に大きくできずタンク1への汚染水Cの移送回数が増加するおそれがある。逆に、中間タンク11の平均内径が上記上限を超えると、pH調整時に中間タンク11内の汚染水CのpHが均一となるまでの時間が長くなり、pH調整後のpH確認までの時間が長くなるおそれがある。
【0051】
また、中間タンク11の平均高さの下限としては、3mが好ましく、5mがより好ましい。一方、中間タンク11の平均高さの上限としては、25mが好ましく、20mがより好ましい。中間タンク11の平均高さが上記下限に満たないと、汚染水Cの貯留可能な量に対して中間タンク11の設置面積が大きくなるため、設置面積当たりのpH制御可能な容量効率が低下するおそれがある。また、中間タンク11内へのpH調整剤の投入は中間タンク11の上部のマンホールから行うため、中間タンク11の平均高さが上記上限を超えると、中間タンク11内へのpH調整剤の投入がし難くなるおそれがある。
【0052】
なお、中間タンク11に貯留される上記汚染水Cは、図示していないが汚染水供給配管13とは別の配管により中間タンク11内に供給される。この配管は、例えば中間タンク11上部のマンホールから差し込まれ、汚染水Cを中間タンク11内に供給する。
【0053】
<pH制御機構>
pH制御機構12は、図2に示すようにpHセンサー15、pH調整剤供給装置16及びpH調整剤供給管17を有する。なお、pHセンサー15、pH調整剤供給装置16及びpH調整剤供給管17として、例えば第一実施形態のpHセンサー3、pH調整剤供給装置4及びpH調整剤供給管5と同様の機能を有するものを用いることができる。pH制御機構12を構成するこれらの部材は、第一実施形態のタンク1とは異なる中間タンク11に設置されるため、pH制御機構2を構成する部材と同一のものを使用できるとは限らないが、同一の機能を有するのでこれらの部材の説明を省略する。
【0054】
pH制御後の中間タンク11内の汚染水CのpHの下限としては、6が好ましく、6.5がより好ましい。一方、pH制御後の中間タンク11内の汚染水CのpHの上限としては、7である。タンク1内面等の腐食は酸化還元電位や温度等の影響を大きく受けるが、中間タンク11内の汚染水CのpHが上記下限に満たないと、この汚染水C移送後のタンク1内面等の腐食が促進されるおそれがある。また、中間タンク11内の汚染水CのpHが上記下限に満たないと、pH調整剤の添加量が増加し、pH制御のための処理コストが過大となるおそれがある。逆に、中間タンク11内の汚染水CのpHが上記上限を超えると、汚染水Cがタンク1へ移送された後、タンク1内において水酸化鉄の粒子表面にストロンチウムが吸着し、錆へのストロンチウムの取り込みを十分に抑制できないおそれがある。
【0055】
<汚染水供給配管及び供給ポンプ>
汚染水供給配管13は、一端が中間タンク11内部に配設され、他端がタンク1内部に配設される。この汚染水供給配管13の途中に供給ポンプ14が配設される。この汚染水供給配管13及び供給ポンプ14により、中間タンク11内に貯留されるpH制御後の汚染水Cがタンク1内へ移送される。これにより、タンク1に貯留される汚染水CのpHは7以下に制御される。
【0056】
供給ポンプ14の吐出圧力及び吐出水量等の仕様は、タンク1に対する必要な給水圧力及び給水量が得られるよう、汚染水供給配管13における圧力損失及びタンク1の配設高さまでの水頭等を考慮して選択される。
【0057】
このように、当該放射性汚染水貯留装置は、pH制御機構12によりタンク1へ移送する前の中間タンク11に貯留されている汚染水CのpHを7以下に制御するので、汚染水Cがタンク1へ移送された直後から水酸化鉄へのストロンチウムの吸着が抑制される状態にできる。その結果、当該放射性汚染水貯留装置は、上記タンク1に生じる錆への放射性ストロンチウムの取り込みをより確実に抑制できる。
【0058】
[放射性汚染水貯留方法]
続いて、図2の放射性汚染水貯留装置において行われる本発明の第二実施形態に係る放射性汚染水貯留方法について説明する。
【0059】
当該放射性汚染水貯留方法は、タンク1に移送する汚染水Cを一時貯留する中間タンク11において貯留される汚染水Cに対してpH制御を行うことにより、上記タンク1内に貯留される汚染水CのpHを7以下に制御する。
【0060】
具体的には、当該放射性汚染水貯留方法は、放射性汚染水Cを中間タンク11に貯留する工程(中間タンク貯留工程)と、中間タンク11に貯留される汚染水Cに対してpHを7以下に制御する工程(pH制御工程)と、中間タンク11に貯留される汚染水Cをタンク1に移送する工程(汚染水移送工程)とを備える。
【0061】
<中間タンク貯留工程>
上記中間タンク貯留工程では、タンク1に移送する前の汚染水Cを中間タンク11に貯留する。この汚染水Cは、図示していないが汚染水供給配管13とは別の配管によりタンク11内に供給される。
【0062】
<pH制御工程>
上記pH制御工程は、中間タンク11内に貯留される汚染水CのpHを測定する工程(pH測定工程)と、中間タンク11内に貯留される汚染水CのpHを調整する工程(pH調整工程)とを有する。
【0063】
(pH測定工程)
上記pH測定工程では、pHセンサー15により中間タンク11内に貯留されている汚染水CのpHを測定する。
【0064】
(pH調整工程)
上記pH調整工程では、上記pH測定工程で測定された中間タンク11の汚染水CのpHに基づいて、pH制御機構12により中間タンク11内の汚染水CのpHを調整する。
【0065】
<汚染水移送工程>
上記汚染水移送工程では、pH制御工程でpHを7以下に制御した中間タンク11内の汚染水Cをタンク1へ移送する。具体的には、供給ポンプ14が汚染水供給配管13を介して中間タンク11内の汚染水Cをタンク1内へ移送する。これにより、タンク1に貯留される汚染水CのpHは7以下に制御される。また、汚染水移送工程では、供給ポンプ14が汚染水Cをタンク1内へ移送した後、タンク1は略密封状態とされる。その後、汚染水Cはタンク1が解体されるまでタンク1で保管される。
【0066】
なお、上記中間タンク貯留工程、pH制御工程及び汚染水移送工程は、バッチ処理で行ってもよいし、連続処理で行ってもよい。これらの3つの工程を連続処理で行う場合、例えば汚染水供給配管13内を移送中の汚染水CのpHが7以下となるよう、中間タンク11への汚染水Cの供給量、pH調整剤の投入量及び供給ポンプ14による汚染水Cの移送量が調整される。
【0067】
また、例えば中間タンク貯留工程をバッチ処理で行い、中間タンク貯留工程後にpH制御工程及び汚染水移送工程を連続処理で行ってもよい。この場合、タンク1へ移送される汚染水CのpHは後から移送される汚染水Cほど低くなるので、例えばタンク1内に貯留された後の汚染水CのpHが7以下となるよう、pH調整剤の投入量及び供給ポンプ14による汚染水Cの移送量が調整される。
【0068】
また、例えば中間タンク貯留工程及びpH制御工程を連続処理で行った後に、汚染水移送工程をバッチ処理で行ってもよい。この場合、例えばタンク1への移送前の中間タンク11内の汚染水CのpHが7以下となるよう、中間タンク11への汚染水Cの供給量及びpH調整剤の投入量が調整される。
【0069】
このように、当該放射性汚染水貯留方法は、タンク1へ移送する前の中間タンク11に貯留されている汚染水CのpHを7以下に制御するので、汚染水Cがタンク1へ移送された直後から水酸化鉄へのストロンチウムの吸着が抑制される状態にできる。その結果、当該放射性汚染水貯留方法により、タンク1での水酸化鉄へのストロンチウムの吸着をより確実に抑制できる。
【0070】
〔第三実施形態〕
図3に示す当該放射性汚染水貯留装置は、放射性汚染水Cをタンク1に貯留する装置である。当該放射性汚染水貯留装置は、上記汚染水Cを貯留するタンク1と、汚染水Cをこのタンク1に直接移送する汚染水供給配管25内で汚染水CのpHを7以下に制御するpH制御機構22とを主に備える。
【0071】
<pH制御機構>
pH制御機構22は、図3に示すようにpH調整剤供給装置23、pH調整剤供給管24、汚染水供給配管25及びpHセンサー26を有する。なお、pH調整剤供給装置23として、例えば第一実施形態のpH調整剤供給装置4と同様の機能を有するものを用いることができる。このpH調整剤供給装置23は、pH調整剤を汚染水供給配管25内へ供給する点で第一実施形態とは異なるため、pH調整剤供給装置4と同一のものを使用できるとは限らないが、同一の機能を有するのでpH調整剤供給装置23の説明を省略する。
【0072】
(汚染水供給配管)
汚染水供給配管25は、事故後の原子力発電所における炉心冷却用循環水、廃水等の汚染水Cを直接タンク1へ移送する配管である。
【0073】
(pH調整剤供給管)
pH調整剤供給管24は、一端がpH調整剤供給装置23の排出口に接続され、他端が汚染水供給配管25の途中に接続される。このpH調整剤供給管24を介して、pH調整剤供給装置23から排出されたpH調整剤が、汚染水供給配管25内を移送中の汚染水Cへ投入される。
【0074】
(pHセンサー)
pHセンサー26は、汚染水供給配管25内を移送中又は移送前の汚染水CのpHを測定する。このpHセンサー26は、例えば汚染水供給配管25内を移送中の汚染水Cと当接するように、汚染水供給配管25内の下部側に配設される。なお、汚染水供給配管25内を移送中の汚染水CのpHがわかればよいので、pHセンサー26は、事故後の原子力発電所における炉心冷却用循環水、廃水等の汚染水CのpHを直接測定する箇所に配設されてもよい。
【0075】
上記pHセンサー26としては、例えば第一実施形態のpHセンサー3と同様のものを用いることができる。
【0076】
pH制御機構22は、まずpHセンサー26で汚染水供給配管25内を移送中又は移送前の汚染水CのpHを測定し、その測定結果に応じて、汚染水供給配管25内を移送中の汚染水CのpHを制御する。具体的には、pH制御機構22は、pH調整剤供給装置23及びpH調整剤供給管24により汚染水供給配管25内の汚染水C中へpH調整剤を投入し、汚染水供給配管25内を移送中の汚染水CのpHを7以下に下げるよう調整する。また、汚染水供給配管25内を移送中又は移送前の汚染水CのpHが7以下の場合、pH制御機構22は、pH調整剤供給装置23及びpH調整剤供給管24によるpH調整剤の投入を行わない。このようにして、pH制御機構22は、汚染水供給配管25内を移送中の汚染水CのpHを7以下に制御する。
【0077】
pH制御後の汚染水供給配管25内を移送中の汚染水CのpHの下限としては、6が好ましく、6.5がより好ましい。一方、pH制御後の上記汚染水CのpHの上限としては、7である。タンク1内面等の腐食は酸化還元電位や温度等の影響を大きく受けるが、pH制御後の上記移送中の汚染水Cが上記下限に満たないと、タンク1内面等の腐食が促進されるおそれがある。また、pH制御後の上記移送中の汚染水Cが上記下限に満たないと、pH調整剤の添加量が増加しpH制御のための処理コストが過大となるおそれがある。逆に、pH制御後の上記汚染水Cが上記上限を超えると、汚染水Cがタンク1へ移送された後、タンク1内において水酸化鉄の粒子表面にストロンチウムが吸着し、錆へのストロンチウムの取り込みを十分に抑制できないおそれがある。
【0078】
汚染水供給配管25内を移送中の汚染水CのpHを7以下に調整するpH調整剤として、第一実施形態の放射性汚染水貯留装置で用いるpH調整剤と同様のものを用いることができる。
【0079】
また、気体のpH調整剤を用いて、この気体をバブリングさせて汚染水C中に投入してもよい。例えばpH調整剤供給装置23から適切な流量で気体のpH調整剤を排出させることで、pH調整剤供給管24の他端からのpH調整剤の吐出により汚染水供給配管25内の汚染水C中で気体をバブリングさせることができる。このように気体のバブリングを用いることで、汚染水供給配管25内を移送中の汚染水CにpH調整剤が溶解し、pH調整された汚染水Cがタンク1に貯留される。
【0080】
このように、当該放射性汚染水貯留装置は、pH制御機構22によりタンク1に移送される前に汚染水CのpHを7以下に制御するので、汚染水Cがタンク1へ移送された直後から水酸化鉄へのストロンチウムの吸着が抑制される状態にできる。その結果、当該放射性汚染水貯留装置は、上記タンク1に生じる錆への放射性ストロンチウムの取り込みをより確実に抑制できる。
【0081】
[放射性汚染水貯留方法]
続いて、図3の放射性汚染水貯留装置において行われる本発明の第三実施形態に係る放射性汚染水貯留方法について説明する。
【0082】
当該放射性汚染水貯留方法は、タンク1に汚染水Cを直接移送する汚染水供給配管25内で汚染水Cに対してpH制御を行うことにより、上記タンク1内に貯留される汚染水CのpHを7以下に制御する。
【0083】
具体的には、当該放射性汚染水貯留方法は、放射性汚染水Cをタンク1に直接移送する工程(直接移送工程)と、上記直接移送工程での汚染水供給配管25内で移送される汚染水Cに対してpH制御を行う工程(pH制御工程)とを備える。
【0084】
<直接移送工程>
上記直接移送工程では、汚染水供給配管25が汚染水Cをタンク1に直接移送する。このように、当該放射性汚染水貯留方法では、タンク1に貯留させる汚染水Cを中間タンク等に一時貯留させない。
【0085】
<pH制御工程>
上記pH制御工程は、汚染水供給配管25内を移送中又は移送前の汚染水CのpHを測定する工程(pH測定工程)と、汚染水供給配管25内を移送中の汚染水CのpHを調整する工程(pH調整工程)とを有する。
【0086】
(pH測定工程)
上記pH測定工程では、pHセンサー26により汚染水供給配管25内を移送される汚染水CのpHを測定する。
【0087】
(pH調整工程)
上記pH調整工程では、上記pH測定工程で測定された汚染水供給配管25内を移送中又は移送前の汚染水CのpHに基づいて、pH制御機構22により汚染水供給配管25内を移送中の汚染水CのpHを調整する。
【0088】
このように、当該放射性汚染水貯留方法は、汚染水供給配管25内でpHを制御した後の汚染水Cをタンク1へ移送するので、汚染水Cがタンク1へ移送された直後から水酸化鉄へのストロンチウムの吸着が抑制される状態にできる。その結果、当該放射性汚染水貯留方法により、タンク1での水酸化鉄へのストロンチウムの吸着をより確実に抑制できる。また、当該放射性汚染水貯留方法は、タンク1への移送前の汚染水Cを一時貯留する設備が必要ないので、汚染水Cを貯留するための設備を小型化できる。
【0089】
[その他の実施形態]
上記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、上記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて上記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0090】
例えば、上記実施形態では、pH調整前の汚染水のpHより求められる量のpH調整剤を汚染水中に投入することとした。しかし、このように予め求めた量のpH調整剤を投入するのではなく、放射性汚染水貯留装置が、pH調整剤を投入しつつpH調整後の汚染水のpHを測定し、汚染水が所定のpHまで低下したときにpH調整剤の投入を停止するようにしてもよい。このようにpH調整後の汚染水のpHに応じてpH調整剤の投入を制御することで、所望の範囲のpHとなるよう汚染水のpHを制御し易くなる。なお、第一実施形態及び第二実施形態の放射性汚染水貯留装置では、pH制御前の汚染水のpH測定用のpHセンサーをpH調整後の汚染水のpHの測定に用いてもよい。
【0091】
また、上記実施形態では、pH調整前の汚染水のpHをpHセンサーにより測定することとしたが、その他の方法によりpH調整前の汚染水のpHを取得してもよい。例えば汚染水に含まれる海水の割合が判明している等により汚染水のpHが予測できるような場合、この予測される汚染水のpHを用いてもよい。具体的には、この予測される汚染水のpHに基づいて汚染水のpHを調整するために必要なpH調整剤の量が求められる。なお、この場合には、汚染水のpHを測定する必要がないのでpHセンサーを省略できる。
【0092】
また、上記第二実施形態及び第三実施形態では、汚染水を保管するためのタンク(以下、汚染水貯留タンクと呼ぶ)へ移送する前の汚染水のpHを制御することとしたが、上記汚染水貯留タンクに貯留されている汚染水を中間タンクに移送して汚染水のpHを制御してもよい。例えば汚染水貯留タンクに貯留されている汚染水のpHが7を超える場合に、この汚染水を中間タンクに移送し、この中間タンク内へ移送された汚染水のpHを7以下に調整するとよい。また例えば、中間タンクに移送する際の配管内又は一旦中間タンクに移送した汚染水を再度汚染水貯留タンクへ移送する際の配管内で、移送中の汚染水のpHを7以下に調整してもよい。このようにしてpHを調整した汚染水を中間タンクから汚染水貯留タンクへ移送することで、汚染水貯留タンク内に貯留される汚染水のpHを7以下に制御することができる。このようにすることで、例えば中間タンクの設置前に汚染水貯留タンク内に貯留されていた汚染水についてもpHを7以下に制御することができ、汚染水貯留タンクに生じる錆への放射性ストロンチウムの取り込みを抑制できる。
【実施例】
【0093】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0094】
<水酸化鉄とストロンチウムイオンとの相互作用の考察>
タンク内面の腐食部のような塗膜下腐食では、腐食生成物として水酸化鉄が付着すると考えられる。この水酸化鉄とストロンチウムイオンとの相互作用について考察した。
【0095】
水酸化鉄(III)の各種イオンを吸着する性質を利用して、溶液中で共存する放射性核種等の水酸化鉄(III)への吸着により、上記放射性核種等を共沈させる水酸化第二鉄凝集法が知られている。この水酸化第二鉄凝集法において、水酸化鉄(III)粒子表面には、溶液のpHに応じて生成するヒドロキソ鉄(III)イオン(Fe(OH)及びFe(H))が吸着する。水酸化鉄(III)粒子表面にこれらのヒドロキソ鉄(III)イオンが吸着すると、電気二重層が形成され、水酸化鉄(III)粒子表面が正又は負に帯電してゼータ電位が生じる。水酸化鉄(III)粒子が負に帯電した場合、溶液中に正電荷を帯びたストロンチウムイオンが共存すると、正負の電荷によって相互に引力が働き、水酸化鉄(III)粒子にストロンチウムイオンが吸着し、共沈する。
【0096】
また、『木村捷二郎、筒井天尊、「凝集沈殿法による放射性廃水の処理(I)」、保健物理、11、13〜19(1976)、p.13−19』において、図4に示すような水酸化鉄(III)粒子のゼータ電位及び90Srの共沈率とpHとの関係があることが報告されている。pHが約7以上の領域では、水酸化鉄(III)粒子表面のゼータ電位は負の値を示すため、水酸化鉄(III)粒子はストロンチウムイオンの正電荷と引き合い、90Srは水酸化鉄(III)粒子と共沈する。一方、図4よりpHが約7以下では共沈率は0に近い値である。従って、pHが約7以下では、ストロンチウムは水酸化鉄に吸着し難いと考えられる。
【0097】
一方、塗膜下腐食では、カソード部がアノード部よりpHが高く、アノード部で溶出した鉄イオンはカソード部の高pHと接触し、腐食生成物である水酸化鉄(III)が生成される。このときのpHは7以上8.2以下程度になるため、90Srが水酸化鉄(III)に吸着して共沈すると推定される。図4より、pH7〜8.2では最大20%程度のストロンチウムが腐食生成物と共沈、すなわち水酸化鉄(III)に吸着する可能性があると考えられる。これらのことより、本発明者らは、タンクに貯留される汚染水のpHを7以下とすることでストロンチウムの水酸化鉄への吸着を抑制でき、その結果、ストロンチウムの錆への取り込みを抑制できることを見出した。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の放射性汚染水貯留方法及び放射性汚染水貯留装置は、放射性汚染水を貯留するタンクに生じる錆への放射性ストロンチウムの取り込みを抑制できるので、特に事故後の原子力発電所において発生した汚染水を貯留する目的で配設された汚染水タンクのために好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0099】
1 タンク
2、12、22 pH制御機構
3、15、26 pHセンサー
4、16、23 pH調整剤供給装置
5、17、24 pH調整剤供給管
11 中間タンク
13、25 汚染水供給配管
14 供給ポンプ
C 汚染水
図1
図2
図3
図4