(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなボビンを被装着体にねじ留めする際には、貫通孔の周辺部にねじの締結トルクに伴う応力が生じる。この応力による疲労がボビンに蓄積することによりボビンの亀裂や破損等を引き起こす虞があるため、応力を緩和させる何らかの対策が必要となる。
【0005】
1つの案として、固定部が設けられている両脚部をより太く形成するという手段が考えられる。これによりボビンの強度を向上させることが可能ではあるが、そのトレードオフとして、ボビンの外周面と両脚部とが接続する面積が広くなることにより巻線が巻き回される面積は必然的に狭くなる。その結果、巻線のターン数が減少し、インダクタとしての性能を確保することが困難となる。
【0006】
そこで本発明は、巻線が巻き回されるスペースを確保しながら、被装着体へのねじ留め時の締結トルクに伴い生じる応力を緩和することができるインダクタの提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の解決手段を採用する。
【0008】
すなわち、本発明は、磁性材で形成されたコアと、コアの周囲に設けられた樹脂部材とを備えている。樹脂部材は、コアが収容される収容部と、締結部材を受け入れる複数の腕部とを有している。そして、少なくとも1つの腕部は、収容部の外面を基端として外方に延び、基端部から締結部材を貫通させる固定孔が設けられた先端部に向かいその幅が末広がりに形成されている。
【0009】
少なくとも1つの腕部は、収容部の外面を基端として外方に延びており、腕部が延びた先に形成される先端部には締結部材を受け入れる固定孔が設けられている。基端部と先端部との間で両者を連絡する部位を中間部とし、この中間部を収容部の周方向にみた長さを腕部の幅とすると、腕部の幅は基端部寄りの位置において最も小さく、外方に延びるにつれて徐々に大きく形成されている。先端部寄りの位置における腕部の幅は、固定孔を包含しうる大きさ、すなわち固定孔の直径よりも大きく形成されており、腕部は基端部を経て先端部の幅に向かいその幅を広げながら延び出たいわば扇形の形状を成している。腕部の基端部寄りの位置における幅が先端部寄りの位置における幅よりも小さく(腕部の根元付近が先端部よりも細く)形成されることにより、基端部寄りの位置と先端部寄りの位置とで同じ幅に形成され或いは基端部寄りの位置でより大きく形成される場合と比較し、インダクタを被装着体に締結させる際に締結トルクに伴い腕部に生じる応力が小さくなる。その結果、応力による疲労が樹脂部材に蓄積しにくくなる。
【0010】
したがって、この形態によれば、腕部の基端部寄りの位置における幅を先端部寄りの位置より小さく形成することにより得られる応力緩和作用によって、樹脂部材の耐久性を向上させることができる。その結果、応力に伴う疲労が樹脂部材に蓄積することにより生じ得る亀裂や破損を抑制できるため、長期間に亘り安定的にインダクタの性能を発揮させることができ、その信頼性を維持することが可能となる。
また、腕部の基端部寄りの位置における幅が小さく(根元が細く)形成されれば、その分だけ収容部の外面における腕部に接続していない面積が大きくなる。したがって、腕部がこのような形状に形成されることにより、インダクタに所望の性能を発揮させるための十分な巻線スペースを収容部の外面に確保することが可能となる。
【0011】
また、少なくとも1つの腕部は、基端部と先端部との間に延びる中間部が収容部の外面と固定孔の中心点との間を最短で結ぶ仮想線を境にして対称に形成されている。
【0012】
腕部における中間部の形状が仮想線を境に対称になるとは、見方を変えると、腕部が外周面の径方向に延びていると捉えることができる。このように形成された樹脂部材は、径方向から反れて延びている、すなわち中間部の形状が仮想線を境に対称にならない腕部を有する場合よりも、インダクタを被装着体に締結させる際に腕部に生じる応力が小さくなる。したがって、この形態によれば、少なくとも1つの(好ましくは全ての)腕部を径方向に延ばすことでより大きな応力緩和作用が得られ、樹脂部材の耐久性をより一層向上させることができる。
【0013】
または、少なくとも1つの腕部が、収容部の外面と固定孔の中心点との間を最短で結ぶ仮想線に対し所定範囲内の角度をなして外方に延びている。
【0014】
腕部が収容部の外面と固定孔の中心点との間を最短で結ぶ仮想的な線に対し所定範囲内の角度をなして収容部の外面から延びている場合、所定範囲を超えた角度をなして収容部の外面から延びている場合に比べて、インダクタを被装着体に締結させる際に腕部に生じる応力が小さくなる。したがって、この形態によれば、少なくとも1つの(好ましくは全ての)腕部を仮想線に対し所定範囲内の角度をなして形成することでより大きな応力緩和作用が得られ、樹脂部材の耐久性をより一層向上させることができる。
【0015】
好ましくは、腕部が仮想線に対してなす所定範囲内の角度が0°を超え35°以下である。
【0016】
腕部が仮想線に対し0°を超え35°以下の角度をなして収容部の外面から延びている場合に、特に優れた応力緩和作用が得られることが解析結果から判っている。したがって、腕部にこの範囲内の角度を適用して樹脂部材を形成することにより、その耐久性をさらに向上させることができる。
【0017】
より好ましくは、腕部がその最大幅が固定孔の直径より大きく形成されている。
【0018】
仮に腕部の最大幅が固定孔の直径と同じ、或はそれより小さく形成されている場合、固定孔を取り囲んで締結部材を受け付ける樹脂部材の厚みまでを併せて考慮すると、先端部は収容部の外面から延びた腕部の端部で水平方向に膨れ出たような形状となる。このとき、先端部と中間部とが接続する領域は、腕部の最大幅が固定孔の直径より大きく形成されている場合に比べて狭くなる。そして、締結部材で締結する際に接続領域にかかるモーメントは、接続領域が広いほど小さくなり、これに伴って生じる応力も小さくなる。
【0019】
したがって、腕部の最大幅が固定孔の直径より大きく形成されていることにより、先端部と中間部との接続領域が広くなり、締結時に生じる応力を緩和させる作用を得ることが可能となる。
【0020】
また、他の形態においては、コアが樹脂部材と一体に成形されている。
【0021】
この形態によれば、巻線が巻き回される収容部がコアの外面に密着するため、樹脂部材とコアとの間に間隙が生じない。よって、収容部と蓋部とで構成される2パーツ型のボビンよりも亀裂や破損が起こりにくく高い強度を得ることができる。また、外形寸法が同一の2パーツ型ボビンと比べ、間隙が生じない分だけ大きな容積のコアを収容することができる。言い換えると、コアの寸法が同一である場合には、2パーツ型ボビンよりも樹脂部材の外形寸法を小さくしつつコアとしての同等の性能を発揮することが可能となる。
【0022】
さらに、樹脂部材は、収容部と腕部とが一体に成形されている。このとき腕部は、締結部材による締結力を受ける固定金具が固定孔の内側に埋め込まれた状態に成形されていてもよい。
【0023】
収容部と腕部とが一体に成形されることにより、インダクタが用いられる被装着体に装着される際に締結部材を貫通させる固定孔までを含め樹脂部材を1つの金型のみで成形することができる。したがって、生産コストの低減に寄与することが可能となる。
また、腕部の成形過程で固定孔の内側に固定金具が埋め込まれていれば、固定孔の強度はより一層高められるだけでなく、腕部の成形後に固定金具を別途嵌め込むといった組立作業が不要なため、生産効率の向上を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明のインダクタによれば、収容部の外面に巻線を巻き回すためのスペースを確保しつつ、インダクタを被装着体に固定させる際に締結部材のトルクに伴い生じる応力を緩和させることができる。これにより、樹脂部材への応力による疲労蓄積を抑制して樹脂部材の耐久性を向上させ、長期間に亘りインダクタの信頼性を維持することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、添付の図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態ではインダクタの一例としてコイルを取り上げるが、本発明はこの例示に限定されるものではない。また、発明の理解を容易とするために、図面上の表現には若干の誇張やデフォルメが含まれる場合がある。
【0027】
図1は、一実施形態のコイル1を表す斜視図である。
コイル1は、樹脂で形成されたボビン2内にトロイダルコア4(
図1では隠れている)を収容し、ボビン2の外面に沿って巻線20(一部にのみ符号を付す)を巻き回した構成である。このためボビン2は収容部6を有しており、この収容部6は環状に形成されてその内部にトロイダルコア4を収容する空間を有している。また、ボビン2は2つの腕部10を有しており、これら腕部10は、収容部6の外周面28から外方(側方)に延びている。コイル1は、電子部品として被装着体に装着され、例えばねじ等の締結部材により固定された状態で使用される。なお、本実施形態のコイル1においてはコアとしてトロイダルコア4を用いるが、コアの形状は環状に限定されず、例えば角が円弧状に形成された正方形や長方形でもよい。
【0028】
腕部10は、上記のようにコイル1を固定するための部位である。このため、腕部10の端部にはそれぞれ固定孔12が形成されており、各固定孔12には金属製のカラー14が埋め込まれている。コイル1は、これら固定孔12(具体的にはカラー14)を通じて被装着体へのねじ留めが可能となっている。また、各腕部10の端部には固定孔12に隣接して位置決め孔16が形成されている。これら位置決め孔16は、ねじ留め時に被装着体との位置決めを行うためのものである。
【0029】
より詳細には、腕部10は、平板状をなす2枚の絶縁壁18及び支持壁24を有しており、このうち2枚の絶縁壁18は、収容部6の外周面28に基端が接続されて外方に延びている。支持壁24は、2枚の絶縁壁18の間に挟まれる位置に設けられて腕部10の芯部を成しており、その基端は同じく外周面28に接続されている。なお、外周面28において絶縁壁18及び支持壁24はいずれも、コイル1の中心軸線の方向に立ち上がるようにして配置されている。また、
図1には示されていないが、絶縁壁18と支持壁24との間には、これらと直交する方向に拡がる板状の部位が形成されている。
【0030】
腕部10の先端部分には軸受盤26が形成されており、この軸受盤26はコイル1の中心軸線と直交する方向(収容部6の端面と並行)に拡がる平板状をなしている。上記の固定孔12及び位置決め孔16は、軸受盤26を厚み方向に貫通して形成されている。なお軸受盤26は、支持壁24及びその両側の絶縁壁18の各端部同士をつなぐ連結部22に接続し、支持壁24と絶縁壁18とによって支持されている。
【0031】
図2は、一実施形態のコイル1に巻線20が施される前の状態を表す斜視図である。
図2中、収容部6の上端面30t及び外周面28を形成する樹脂の一部を破断して示すように、収容部6内にはトロイダルコア4が内面に密接した状態で収容されている。トロイダルコア4は、ダストコアや純鉄、センダスト、フェライト、アモルファス、積層鋼板等の磁性材料により形成されている。トロイダルコア4の外面上には、PPS(ポリフェニレンスルファイド)等の熱可塑性樹脂により収容部6が形成されている。収容部6の周面は、概ね0.8〜1.5mm程度の厚みとなるよう形成されているが、求められる強度に応じて望ましい厚みを適宜選択し形成することができる。
【0032】
本実施形態のコイル1においては、インサート成形を通じてボビン2とトロイダルコア4とが一体成形されており、その成形過程でボビン2に収容部6及び腕部10が樹脂成形される。このため、完成状態でみてボビン2の収容部6とトロイダルコア4との間には間隙が存在しない。ボビン2の腕部10にはさらに、固定孔12の内側に配置されたカラー14もまた一体成形されており、カラー14は固定孔12内に予め埋め込まれて密着している。つまり、樹脂製のボビン2は、金属製のトロイダルコア4及びカラー14と一体成形されている。
【0033】
一体成形においては、本実施例で用いたPPS以外にも、例えばエボキシ樹脂や不飽和ポリエステル系樹脂、ウレタン樹脂、BMC(バルクモールディングコンパウンド)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)等の樹脂を用いることが可能である。
なお、一体成形については詳しく後述する。また、これ以降の説明において特に断らない限りは、巻線20が巻き回される前の状態のコイル1について説明することとする。
【0034】
図3は、一実施形態のコイル1を表す平面図である。
収容部6は、上述したように環状に形成されており、上端面30tの外周及び内周が略正円に形成されている。収容部6の外周上には2つの腕部10が略等間隔に配置されており、各々が外方に延びるようにして設けられている。
図3中、収容部6及びカラー14の中心を通る一点鎖線(IV−IV線)との関係から明らかなように、各腕部10は、外周の径方向に対し角度を成して収容部6の外周面28から延びている。径方向に対して各腕部10がなす角度は、所定範囲内の角度に設定されている。なお、この角度の大きさについては詳しく後述する。
【0035】
腕部10の固定孔12は、上記のようにコイル1を被装着体に固定させる際に用いられる。固定孔12の内側に埋め込まれたカラー14は、ねじ留めの際に固定孔12を補強する。カラー14は樹脂や鉄、合金等により形成されている。また、位置決め孔16を用いた位置決めは、例えば、被装着体に設けられたボスを位置決め孔16に貫通させることで行うことができる。
【0036】
各腕部10に1つずつ設けられた位置決め孔16は、それぞれ形状が異なり、このうち1つは略正円、もう1つは楕円状に形成されている。このように、1つの位置決め孔16については若干の遊びを持たせた形状としておくことで、多少の位置ずれを許容してボスを貫通させ易くし、コイル1の被装着体への装着を容易にしている。
【0037】
なお、本実施形態のコイル1においては、固定孔12が略正円状に形成されているが、固定孔の形状はこれに限定されず、この内側に埋め込まれるカラー14の形状や被装着体における空間上の制約等に応じて好ましい形状を適宜選択可能である。例えば、固定孔12は、楕円形や矩形の他、多角形に形成されてもよい。
【0038】
図4は、一実施形態のコイル1を正面側からみた図である。ここでは、
図4中(A)にコイル1の正面図を示し、
図4中(B)に縦断面図を示す。
図4中(A):腕部10の絶縁壁18は、その基端が収容部6の外周面28の高さ方向でみた全域に拡がっており、基端から先端に向けて先細った形状をなしている。軸受盤26は、絶縁壁18の先細った先端部分に接続されている。
【0039】
また、絶縁壁18は、外周面28の下端位置では基端からある程度先までを等幅(同じ高さ)に形成されており、この等幅な部分は収容部6の下端面30bより張り出して下方に延びている。こうした形状は、収容部6の内部に収容されるトロイダルコア4と収容部6の外面に巻き回される巻線20(
図4では不図示)との絶縁距離を確保するためのものである。なお、絶縁距離の確保については、改めて後述する。
【0040】
収容部6の端面30と外周面28との間に連なる隅角部である外周角34gは、略円弧状の滑らかな曲面に形成されている。この形状により、巻線20に損傷を与えずに外周面28に沿って巻線20を巻き回すことができる。
【0041】
図4中(B):ここには、コイル1を収容部6とカラー14の中心点を通過する線で高さ方向に切断した場合の断面(
図3中のIV−IV線に沿う断面)を示す。この図からも明らかなように、トロイダルコア4は、収容部6の内面に隙間なく密着した状態で収容されている。また、カラー14は、腕部10が備える軸受盤26に形成された固定孔12の内側面に密着している。ボビン2は、予めトロイダルコア4及びカラー14がセットされた金型を用いてインサート成形されることにより、トロイダルコア4及びカラー14と共に一体に成型されている。そのため、ボビンとコアを別体とした構造とは異なり、収容部6とトロイダルコア4との間には隙間が生じることなく、これらの間は収容部6を形成する樹脂で埋め尽くされている。
【0042】
本実施形態に対する比較例として、収容部とキャップ部とで構成される2パーツ型ボビンを用いた場合は、コアを収容した後もボビンとの間に多少の空間が維持され続ける。この空間の存在により、ボビンの巻線に対する強度はボビンを形成する樹脂の厚みに依存することとなるため、割れや損傷の懸念が付き纏う。これに対し、本実施形態のコイル1のようにボビン2とトロイダルコア4が一体成形されていれば、両者の間に隙間が生じないため前述のような懸念から解放される。さらに、一体成形されたボビン2は、隙間がない分だけより大きな容積のトロイダルコア4を収容することができる。言い換えると、コアの寸法が2パーツ型ボビンと同一である場合には、ボビンの外形寸法をより小さくしつつコアとしての同等の特性を発揮することが可能となる。
【0043】
本実施形態においては、トロイダルコア4とボビン2に加えカラー14も一体成形されている。これにより、成形に用いる金型が1つだけで済む上に、ボビン2の成形と同時にカラー14が固定孔12を形成する樹脂に密着するため、ボビンとカラーを別途組み立てる場合と比較して製造効率の向上及びコストの削減を図ることができる。また、固定孔12にカラー14が設けられることにより固定孔12が補強され、孔の強度がより一層高められる。
【0044】
図5は、一実施形態のコイル1を底面側からみた図である。ここでは、
図5中(A)にコイル1の底面図を示し、
図5中(B)に底面側からみた斜視図を示す。
図5中(A):絶縁壁18と外周面28との間に連なる隅角部の下端においては、絶縁壁18が下端面30bよりも下方に張り出し、下端面30bの外周角34gに被さるようにして形成されている。
【0045】
図5中(B):この図に示されるように、収容部6の外周面28には部分的に開口8が形成されており、開口8は、ちょうど2枚の絶縁壁18と支持壁24に挟まれる位置(1つの腕部10あたり2箇所)で、その下端寄りに位置している。開口8は、樹脂で被覆されずに外部に開いているため、収容部6に収容されたトロイダルコア4の表面は開口8を通じて外部に露出している。このような開口8は、ボビン2をインサート成形する際に必然的に生じたものである。
【0046】
〔開口に伴う絶縁距離の確保〕
図6は、一実施形態のコイル1を開口8が形成されている位置において高さ方向に切断した場合の縦断面図(
図3中のVI−VI線に沿う断面図)である。この図では、収容部6の外面に開口8が生じる経緯についての理解を容易にするために、インサート成形に用いる成形金型MDのうち、収容部6の下方を形成する部位のみを二点鎖線で示したが、実際にはボビン2全体を覆う形状を成している。
【0047】
ボビン2をインサート成形する過程において、まず成形金型MDの所定の位置にトロイダルコア4がセットされ、その後にボビン2を形成する樹脂が成形金型MDの上方から射出充填される。予め成形金型MDには、その内部でトロイダルコア4を位置決めするための爪が両側に2つずつ形成されている。樹脂が上方から射出されることにより、トロイダルコア4が樹脂の射出圧で下方に押さえつけられるため、トロイダルコア4をその下側に位置する爪のみで安定して支持することができる。このように成形された結果として形成される成形金型MDの爪とトロイダルコア4との接点(爪の跡に相当)が開口8となる。トロイダルコア4は成形金型MDの爪により下方から支持されていたため、開口8は外周面28の下端寄りに形成される。充填された樹脂が固化したら、トロイダルコア4及びカラー14と一体に成形されたボビン2、すなわち巻線20が施される前段階のコイル1が成形金型MDから取り出される。このとき、成形金型MDとトロイダルコア4との接点となっていた開口8を覆うものがなくなり、トロイダルコア4が外部に露出することとなる。
【0048】
このようにしてトロイダルコア4が外部に露出するため、ボビン2に巻き回す巻線20との間には十分な絶縁距離を確保する必要が生じる。そこで、本実施形態のボビン2においては、周方向でみて開口8の両側に2枚の絶縁壁18を設け、開口8と巻線20の巻き回し領域とを隔離させている。これにより、各種安全規格に規定されている絶縁距離を確保することが可能となる。
【0049】
ところで、腕部10は、被装着体へコイル1を装着させる上で用いられる軸受盤26を収容部6に連結させる役割を担っており必要不可欠である。絶縁壁18もまた、上述のようにトロイダルコア4と巻線20との間の絶縁距離を確保する役割があり、欠かせない部材である。仮に腕部10と絶縁壁18とを個別に設けた場合、それぞれが外周面28に接続するためのスペースが必要となる。この場合、個々に割かれるスペースの分だけ収容部6に巻線20を施すスペースが縮小し、結果として巻線20のターン数が減少するため、コイルとしての性能低下は避けられない。また、腕部10は軸受盤26を支持するためだけに存在することとなり、その根元部分はデッドスペースになる。
【0050】
そこで、本実施形態のコイル1においては、絶縁壁18が腕部10の根元を兼ねることにより、デッドスペースとなり得る部位を有効活用すると同時に、外周面28のうち開口8を挟んだ必要最小限の領域以外は巻線20のための領域に充てることを可能としている。これにより、収容部6に巻線20を巻き回すスペースを十分に確保して、コイルとしての所望の性能を発揮させることが可能となる。
【0051】
〔腕部の形状〕
図7は、一実施形態における腕部10の形状を説明する平面図である。
【0052】
この図に示されるように、2つの腕部10は、収容部6の外周面28を基端として外方に延びている。各腕部10は、支持壁24を挟んで両側に2枚の絶縁壁18f,18bを有しており、収容部6からみて反時計回りとなる側の位置に前方絶縁壁18fが、時計回りとなる側の位置に後方絶縁壁18bが設けられている。2枚の絶縁壁18f,18bは外方に向かうにつれ相互間の距離が大きくなるように配置されている。以下、この図の説明においては、各部位に対し平面視した状態での形状を描写することとする。
【0053】
腕部10は、大別して基端部、中間部、先端部の3部位に分類することができる。各部位の理解を容易とするために、
図7の左側に示された腕部10に対し異なるパターンによる染色を施している。
【0054】
ここで、「先端部」とは小さな網掛けで示された領域であり、腕部10のうち装着盤26を有している部位を指す。「基端部」は大きな網掛けで示された、腕部10の基端及びその周辺部までを含めた腕部10のいわば根元を形成する領域である。より具体的には、前方絶縁壁18fの外側直線部のうち外周面28に最も近い点a
1を通り先端部と2枚の絶縁壁18f,18bとの各接点同士を結ぶ線分(a
Max−b
Max)に平行な直線と後方絶縁壁18bの外側直線部との交点をb
1とし、さらに外周面28と2枚の絶縁壁18f,18bとの各接点をa
0,b
0としたときに、弧(a
0−b
0)から線分(a
1−b
1)に亘る領域が基端部に当たる。そして、基端部と先端部との間を延びる「中間部」が両者を連絡している。中間部は、線分(a
1−b
1)から弧(a
Max−b
Max)に亘るグレーで染色された領域である。以下、中間部における2枚の絶縁壁18f,18bの相互間距離のことを「腕部の幅」と表すこととする。
【0055】
2枚の絶縁壁18f,18bは、中間部においては何れも直線のみで形成されているのに対し、基端部の外周面28寄りの位置においては曲線的な形状に仕上げられている。これはボビン2の成形上の都合(成形し易さ等)を考慮して採用されたものであり、この形状に限定されない。
【0056】
本実施形態においては、腕部10の幅が、中間部と基端部との境界(a
1−b
1)で最小となり、中間部と先端部との境界点を結ぶ線分(a
Max−b
Max)で最大となるように形成されている。つまり、点a
1,b
1から外方(外周面28から離間する方向)に等距離ずつ移動していくと、各地点における線分(a
N−b
N)の長さ、すなわち腕部10の幅は次第に大きくなる。なお、最大幅(a
Max−b
Max)は、固定孔12の直径が収まる大きさに形成されている。
【0057】
このように腕部10の幅が先端部寄りの位置よりも基端部寄りの位置でより小さく形成されることにより、先端部寄りの位置と同じ或はこれより大きく形成される場合に比べ、腕部10が外周面28に接続する領域が必然的に狭くなる。つまり、腕部10と接続する領域が狭くなる分だけ、外周面28に巻線20を巻き回すスペースを広く確保することが可能となる。
【0058】
また、各腕部10は、収容部6から径方向(放射状)に延びる仮想線に対し所定範囲内の角度θを成して形成されている。より具体的には、角度θは以下の関係で表される。例えば、上端面30tの中心点O及び軸受盤26に設けられた固定孔12の中心点Pの2点を通る直線をL
Pとする。直線L
Pは、外周面28と固定孔12の中心点との間を最短で結ぶ仮想線に一致する。このとき、前方絶縁壁18fを平面視した外側の直線部に重なる直線L
Aは、基準となる直線L
P(以下、同様の直線を「仮想線」と称する場合がある。)に対して角度θで交差した関係にある。
【0059】
コイル1はその完成後に被装着体に固定される都合上、固定孔12(カラー14)を配置する位置が予め指定されている。そこで、これらの位置は動かさないという前提の下で、腕部10をいかなる態様で収容部6に接続させればねじの締結時にかかるトルクに対して生じる応力を緩和できるかを考慮しながら、腕部10が収容部6から延びる態様、すなわち直線L
Pと直線L
Aとの交差角度θを調整する。
【0060】
上述のようにして腕部10の基端部の幅を調整すると共に角度θを所定範囲内の角度に設定することにより、コイル1のねじ留め時の締結トルクに伴い生じる応力の緩和作用が得られると同時に、コイルとしての所望の性能を発揮するために必要な巻線スペースを確保することができる。これにより、応力に伴うボビン2への疲労蓄積を回避してその耐久性を向上させると同時に、長期間に亘りコイル1の信頼性を維持することが可能となる。
【0061】
なお、本実施形態の腕部10が仮想線L
Pに対し成す角度θ、及び、腕部10の最小幅(a
1−b
1)の大きさには、実験及び解析に基づいて好ましい応力緩和作用が得られた値が適用されている。以下、解析結果について詳述する。
【0062】
〔腕部の角度による応力の変化〕
図8及び9は、腕部10が外周面28から延びる態様(仮想線に対する腕部10の交差角度θ)によるねじ留めに伴い生じる応力の大きさや発生箇所の違いを説明する図である。腕部10がどのような態様で外周面28から延びた場合に応力がより小さくなるか、言い換えると、より大きな応力緩和作用が得られるか、を分析するために、腕部10の形状(特に交差角度θ)を様々に異ならせた態様のボビン2を用意し、これらをねじ留めする際に生じる応力の解析を行った。応力の緩和作用が大きければそれだけ応力による疲労がボビン2に蓄積されにくく、したがってボビン2の耐久性が高いことを意味する。
【0063】
図8及び9中(A)〜(D)における左側の図は、外周面28に対する腕部10の接続態様を示している。右側の図は、ねじ留めに伴いボビン2の各所に生じた応力の大きさを色の濃淡で示した分布図である。周囲より色の濃い箇所ではより大きな応力が生じ、周囲より色の淡い箇所ではより小さな応力が生じたことを示している。(B)〜(D)には応力の生じ方に共通点がみられた態様のボビンが分類されており、分類毎に特に大きな応力が生じる傾向がみられた箇所に対し各分布図中に○印を付して示した。
【0064】
なお、何れの態様においても、腕部10の最小幅には一定の太さを確保し、角度θのみを異ならせて形成した。また、コイル1が被装着体に固定される際には、複数のねじが同時に締結されることはなく、1つずつ順番に締結される。こうした実際の利用シーンに則して、応力の解析に先立ち事前に左側に設けられた腕部10の軸受盤26をねじ留めして固定させた。その上で、右側に設けられた腕部10の軸受盤26をねじ留めする際にボビン2の各所に生じる応力の解析を行った。
【0065】
〔A:腕部が径方向に延びている場合〕
図8中(A):2つの腕部10が収容部6の径方向に延びているボビン2をねじ留めする際に生じた応力の分布を示している。径方向に延びるとは、各腕部10が有する2枚の絶縁壁18が仮想線を境にして対称となる位置に配置されており、各腕部10の中間部における延伸方向の中心線が収容部6の中心点O及び固定孔の中心点Pを通る仮想線に重なることを意味する。このように形成された態様においては腕部10の中心線が仮想線に平行に形成されているため、便宜上「角度θ=0°」と表現することとする。
【0066】
右側に示されている応力の分布図は、この態様のボビン2で生じた応力を解析した結果得られたものである。絶縁壁18全体が淡色で表されていることから、この態様のボビン2をねじ留めする際には絶縁壁18のほぼ全域に小さな応力が生じたことが分かる。また、軸受盤26と絶縁壁18との接続箇所の色が周囲に比べやや濃い目に表れており、この部分でより大きな応力が生じたことが分布図からみて取れる。この態様のボビン2で発生した応力の最大値は32.5MPaであり、これ以降に説明する全態様の中で最も小さな値が解析された。
【0067】
〔B:θ=5〜20°の場合〕
図8中(B):角度θが5〜20°に形成されたボビン2の各態様を示している。これ以降に説明する各態様は、いずれも2つの腕部10が収容部6から径方向には延びておらず、各腕部10が仮想線に対し角度を成している。そこで、以降の態様においては、前方絶縁壁18fが仮想線に対して成す角度をθとして捉えることとし、θが5°刻みで異なる角度に形成されたボビン2を用いて解析を行った。
【0068】
これらの態様のボビン2をねじ留めする際に生じた応力は、腕部10が径方向に延びた
図8中(A)の態様における場合と同様の傾向を示した。応力の大きさに多少の相違はあるものの応力の発生傾向や集中箇所は共通しており、軸受盤26と絶縁壁18との接続箇所付近において大きめの応力が集中している。各態様において生じた応力の最大値は、角度θが5°のときに36.5MPa、10°のときに40.0MPa、15°のときに33.8MPa、20°のときに37.5MPaであった。これらを腕部10が径方向に延びた態様における場合と比較してみると、大きくても約1.2倍程度の応力値に留まっており、応力緩和作用が十分に得られていることが分かる。
【0069】
〔C:θ=25〜35°の場合〕
図9中(C):角度θが25〜35°に形成されたボビン2の各態様と、これらのボビン2をねじ留めする際に生じた応力分布の傾向を示している。
【0070】
これらの態様のボビン2においては、これまでの態様とは応力の集中箇所に変化が見られた。
図8中(A)及び(B)の態様においては軸受盤26と絶縁壁18との接続箇所付近に大きな応力が集中していたのに対し、(C)の態様においては、右側の応力分布図に示されるように絶縁壁18と外周面28との接続箇所を高さ方向でみた中央部により大きな応力が集中的に生じた。この応力分布図はθ=30°の態様によるものであり、角度θが大きく形成されるにつれて集中箇所の色の濃度は徐々に濃くなったが、応力の発生傾向や集中箇所には特筆すべき変化が見られなかった。各態様において生じた応力の最大値は、角度θが25°のときに35.6MPa、30°のときに34.2MPa、35°のときに39.9MPaを示し、(B)の態様による応力値と近似する範囲内に落ち着いていた。よって、これらの態様によっても良好な応力緩和作用を得られている。
【0071】
上述した応力の集中箇所の変化は、角度θが大きく形成されるにつれて腕部の長さ(平面視した腕部10の基端中点からカラー中心点Pまでの距離)が必然的に長く形成されることに起因すると考えられる。前述したように、コイル1の被装着体への装着位置は予め決められていることから、コア(収容部)と固定孔(カラー)の位置は変えずに腕部の形状を調整する必要がある。この条件下でより大きな角度θが適用されれば、腕部の長さは必然的により長くなる。その結果、ねじ留め時に腕部10の基端部、そのうち特に腕部10の外面を成す絶縁壁18と外周面28との接続箇所にかかるモーメントがより大きくなると共に、この位置に生じる応力もより大きくなることから、角度θが大きく形成されるにつれて応力の集中箇所がトルク発生箇所の周辺である軸受盤26と絶縁壁18との接続箇所付近から腕部10の根元にあたる絶縁壁18と外周面28との接続箇所付近に移動したものと考えられる。
【0072】
〔D:θ=40〜48°の場合〕
図9中(D):角度θが40〜48°に形成されたボビン2の各態様と、これらのボビン2をねじ留めする際に生じた応力分布の傾向を示している。
【0073】
これらの態様では、応力の発生傾向や集中箇所は
図9中(C)の態様における場合と似通っているが、応力の集中範囲はさらに拡大している。(C)の態様では絶縁壁18と外周面28との接続箇所を高さ方向でみた中央部に集中していたのに対し、(D)の態様では中央部に留まらずさらにその上下方向にまで集中範囲が広がっている。各態様において生じた応力の最大値は、角度θが40°のときに46.7MPa、45°のときに48.3MPa、48°のときに61.7MPaであり、(C)までの態様と比較し応力値が急激に上昇したのが分かる。この結果は、(D)の態様によっては芳しい応力緩和作用が得られ難いことを示している。
【0074】
なお、応力値の解析を行った角度θの最大値は48°である。
図9中(D)に示されるように、角度θが48°のとき後方絶縁壁18bは外周面28に正接した状態にある。ここで角度θをさらに大きく形成しようとすると、(A)〜(D)の各態様の腕部10において設定した一定の最小幅を確保することができず、腕部10の根元をより細く形成せざるを得ない。言い換えると、角度θを48°より大きく形成しつつ腕部10の一定の最小幅を維持するためには、ボビン2全体の形状を調整しなければならない。その場合、様々な設計事項が(A)〜(D)の各態様とは相違することとなり比較条件が揃わないため、応力の解析を行う態様は角度θ=48°までとした。
【0075】
〔応力緩和作用が得られる角度の範囲〕
図10は、角度θの異なるボビンをねじ留めする際に生じた応力の最大値を示すグラフであり、
図8及び9中(A)〜(D)に示された態様による解析結果をまとめたものである。
図10のグラフにおいて、縦軸は最大応力(単位:MPa)を、横軸は腕部10に適用された角度θ(単位:°)を示している。応力の解析は、角度θが0〜48°の範囲内及び−30°に調整された各態様のボビン2を用いて行った。なお、角度θ=0°は既に述べたように便宜上の表現であり、0°を超える角度θとは角度の形成基準が異なるため、グラフにおいては0°に対し括弧を付して示した。
【0076】
様々な角度において生じた最大応力を解析した結果、最も小さな値が得られたのは角度θが0°の場合であった(32.5MPa)。角度θを徐々に大きくすると、これに伴い最大応力が上昇していくのが分かる。角度θが35°以下の場合は、最大応力の変化が緩やかであり、何れの角度においても最大応力が40MPa以下に収まっている。ところが、角度θが35°を超えると上昇傾向がこれまでより急になり、35°(39.9MPa)から40°(46.7MPa)を経て45°(48.3MPa)へと、角度が僅か10°広がる間に最大応力は8.4MPaもの上昇を示している。
【0077】
このように、ボビン2をねじ留めする際に生じた最大応力は角度θ=0°のときに最も小さな値を示し(32.5MPa)、この態様によって特に顕著な応力緩和作用が得られた。また、角度θ=35°以下の態様において発生した応力は、0°の態様から得られた最小値の約1.2倍以下の範囲内に落ち着いており、これらの態様によっても十分に良好な応力緩和作用が得られることが分かった。
【0078】
〔角度θが形成される向きについて〕
図8及び9に示された各態様のボビン2は、何れも前方絶縁壁18fが仮想線に対して反時計回りに角度θを成している。これらの態様は、右ねじを用いてねじ留めがなされる想定の下で、角度θがねじ留め時の締結トルクに逆らう方向に形成されたものである。これに対して逆方向、すなわち前方絶縁壁18fが仮想線に対し時計回りに角度θを成して形成されたボビン(図示されていない)を用いた場合に生じる応力についても解析を行った。その結果、角度θを時計回りに30°としたボビンに生じた最大応力は39.1MPaとなり、
図8中(C)に示したθ=30°(反時計回りに30°)に形成した場合(39.9MPa)と同程度の応力が生じることが分かった。
【0079】
この結果に鑑みれば、角度θを締結トルクと同じ方向/逆らう方向のいずれの向きに形成しても、これに伴い生じる応力に大差はなく、いずれも同程度の角度において同程度の応力緩和作用を得られるということができる。よって、角度θを形成する向きはいずれかの方向に限定されず、角度θが所定範囲内の大きさに設定されてさえいれば良好な応力緩和作用が得られる。言い換えると、角度θが所定範囲内の大きさに設定されたボビンについては、ねじの回転方向を問わず右/左ねじの何れを用いてねじ留めを行った場合でも生じる応力が抑制され良好な応力緩和作用を得ることが可能である。
【0080】
なお、
図8及び9に示した各態様のボビン2は、何れも同一形状の腕部10を2つ有しており、双方の腕部10は所定範囲内に属する同じ角度θを成して形成されているが、これに限定されず、各腕部10に所定範囲内の異なる角度を適用することが可能である。例えば、一方の腕部10がなす角度を15°とし、他方の腕部10がなす角度を20°としてボビン2を形成してもよい。
【0081】
〔腕部の幅の形成態様による応力値の変化〕
図11は、腕部が収容部6の径方向に延びている場合の幅の形成態様による最大応力の変化、すなわち応力緩和作用の違いを説明する図である。この図の説明においては、各部位に対し平面視した状態での形状を描写することとする。なお、腕部50,70,90における中間部の範囲を把握し易くするために、各図中の左側に示された腕部の対象領域に染色を施した。右側の腕部は染色されていないが対象領域は左側の腕部と同様である。
【0082】
図11中(A):腕部の基端部寄りの位置における幅が先端部寄りの位置に比べ小さく形成された、いわば中間部が扇形状に形成された2つの腕部50を有するボビン42の平面図である。ボビン42は、
図8中(A)に示された態様のボビン2と同一形状のものである。
【0083】
この図に示されるように、腕部50は外周面28上の弧(c
0−d
0)を基端として収容部6の径方向に延びている。腕部50は、仮想線L
Qに沿って延びた支持壁64を挟み両側の等間隔となる位置に2枚の絶縁壁58f,58bが配置されている。腕部50における中間部は、線分(c
1−d
1)から弧(c
Max−d
Max)に亘るグレーに染色された領域である。腕部50の幅は、中間部と基端部との境界(c
1−d
1)で最小となり、中間部と先端部との境界の両端を結ぶ線分(c
Max−d
Max)で最大となる。ここで、最大幅(c
Max−d
Max)は、固定孔52の直径が収まる大きさに形成されている。つまり、点c
1及び点d
1から等距離ずつ外方に移動していくと、各地点における線分(c
N−d
N)の長さは次第に大きくなり、腕部50においては常に「線分(c
1−d
1)<線分(c
N−d
N)」の関係式が成り立つ。
【0084】
図8〜10の解析結果にも示されているように、この形態のボビン42を被装着体にねじ留めする際に生じた最大応力は32.5MPaであった。この値は、中間部が扇形状に形成されつつ仮想線に対し角度を成して形成された腕部を有する複数の異なる態様のボビン2と比較した中での最小値に当たり、中間部が扇形状に形成された態様のボビンの中では最も高い応力緩和作用が得られることが分かっている。
【0085】
図11中(B):腕部の幅が基端部寄りの位置から先端部寄りの位置まで一定の最小幅に形成された2つの腕部70を有するボビン62の平面図である。 腕部70は腕部50に対する第1の比較例であり、腕部70の幅は
図11中(A)の腕部50における最小幅(c
1−d
1)に等しい。支持壁84を挟んで等間隔となる位置に配置された2枚の絶縁壁78f,78bは相互に平行に延びるため、点x
1,y
1から等距離ずつ外方に移動した各地点を結ぶ線分(x
N,y
N)の長さは変化せず、腕部70においては常に「線分(x
1−y
1)=線分(x
N−y
N)」の関係式が成り立つ。
【0086】
ボビン62を被装着体にねじ留めする際には、80.9MPaもの最大応力が生じた。この値は
図11中(A)のボビン42に生じた最大応力(32.5MPa)の約2.5倍に相当し、非常に大きな応力値であると判断することができる。なお、2つのボビン42,62は、各々が有する腕部50,70における幅の形成態様のみが異なり、その他は全て同一の要件で形成されている。
よってこの比較結果から、腕部の幅を先端部寄りの位置で固定孔の直径が収まる大きさとし、ここから基端部寄りの位置に向かうにつれて徐々に小さく形成することにより、ねじ留め時に生じる最大応力を約6割も軽減させることが可能であることが分かった。
【0087】
図11中(C):腕部の幅が基端部寄りの位置から先端部寄りの位置まで一定の最大幅に形成された2つの腕部90を有するボビン82の平面図である。腕部90は腕部50に対する第2の比較例であり、腕部90の幅は
図11中(A)の腕部50における最大幅(c
Max−d
Max)に等しい。支持壁104を挟んで等間隔となる位置に配置された2枚の絶縁壁98f,98bは相互に平行に延びるため、点s
Max,t
Maxから等距離ずつ内方に移動した各地点を結ぶ線分(s
N,t
N)の長さは変化せず、腕部90においては常に「線分(s
N−t
N)=線分(s
Max−t
Max)」の関係式が成り立つ。
【0088】
ボビン82を被装着体にねじ留めする際に生じた最大応力は31.0MPaであり、
図11中(A)のボビン42に生じた最大応力(32.5MPa)よりさらに小さな値を示した。2つのボビン42,82は、各々が有する腕部50,70における幅の形成態様のみが異なり、その他は全て同一の要件で形成されている。
よってこの結果から、腕部の幅が最大幅で一定に形成されたボビン82は、中間部が扇形状に形成されたボビン42と比較して、より高い応力緩和作用が得られるということができる。
【0089】
しかしながら、ボビン82は腕部90の幅が最大幅で一定した形状であるため、腕部90が外周面28に接続する領域がボビン42の場合よりも広く、したがって外周面28に巻線20を巻き回すスペースが必然的に狭くなる点で課題が残されている。ボビン82を用いたコイル81は、ボビン42を用いたコイル41に比べて巻線20のターン数が少なくコイルとしての性能が劣ることとなるためである。
【0090】
腕部の根元を太く(基端部及び基端部寄りの位置における幅を大きく)形成することでより優れた応力緩和作用が得られたとしても、そのトレードオフとしてコイルとして性能が削がれるのでは本末転倒である。ボビンの形状は、コイルとしての所望の性能を確保しつつ良好な応力緩和作用を得ることができる形状がより好ましい。
【0091】
ここでボビン42とボビン82との比較結果を改めて検討してみると、ボビン42で生じた最大応力はボビン82の場合より僅かに大きいものの両者の間に大差はなく、いずれの形態によっても顕著な応力緩和作用が得られている。ボビン42はさらに、腕部50の根元が細く形成されていることにより外周面28に巻線スペースをより広く確保することを可能としている。したがって、ボビン42(コイル41)によれば、コイル性能の確保と良好な応力緩和(ひいてはボビンの耐久性向上)の両立を図れるため、総合的にみてこの形態がより一層好ましいということができる。
【0092】
〔変形例〕
図12は、2つの腕部がそれぞれ仮想線に対し所定範囲内の異なる角度をなして延びている形態のボビン102(コイル101)を表す平面図である。図中左側に示された腕部10には
図7のボビン2が有する腕部10と同一のもの、図中右側に示された腕部50には
図11中(A)のボビン42が有する腕部50と同一のものがそれぞれ配されている。
【0093】
上述した
図8〜10の解析結果を踏まえると、ボビン102をねじ留めする際には、腕部10と腕部50とで異なる大きさの応力が生じる。腕部50に生じる応力は腕部10に生じる応力よりも小さく、より大きな応力緩和作用が得られる。そのため、ボビン102に生じる応力の合計値は、両腕とも収容部6の径方向に延びている場合よりは大きくなるが、両腕に所定範囲内の角度が適用されている場合よりは小さくなる。したがって、この形態によっても良好な応力緩和作用が得られ、結果としてボビン102は優れた耐久性を発揮することが可能となる。
【0094】
以上のように、本実施形態のコイル1によれば、腕部10が収容部6の径方向に延びて仮想線を境に中間部が対称に形成されている、或は、腕部10(前方絶縁壁18f)が仮想線に対し所定範囲内の角度θをなして収容部6から外方に延びていることにより、コイル1が被装着体に対して固定させる際にねじ留めする際の締結トルクに伴い生じる応力を緩和させる作用が得られる。これにより、ボビン2への応力による疲労の蓄積を回避しボビン2の耐久性が発揮されるため亀裂や破損等の心配がなく、長期間に亘ってコイル1の信頼性を維持することが可能となる。
【0095】
また、腕部10(前方絶縁壁18f)が仮想線に対して成す角度θを0<θ≦35°の範囲内に形成することにより、良好な応力緩和作用が得られ、ボビン2の耐久性ひいてはコイル1の信頼性において顕著な効果を発揮することができる。
【0096】
そして、ボビン2がトロイダルコア4及びカラー14と一体に成形されることにより、ボビン2の成形に用いる金型が1つだけで済む上に、ボビン2の成形後にトロイダルコア4及びカラー14を別途埋め込む作業が不要となるため、製造効率の向上及びコストの削減を図ることができる。さらには、ボビン2とトロイダルコア4との間に空間が存在しないため巻線20の巻き回しに対して強度を発揮し収容部6への亀裂の発生を回避でき、カラー14によって固定孔12が補強されるためボビン2(コイル1)の被装着体へのねじ留め時に孔の強度を発揮することが可能となる。
【0097】
なお、本発明は上述した実施形態に制約されることなく、種々に変形して実施することが可能である。
【0098】
上述の実施形態のコイル1においては、カラー12及びトロイダルコア4と共に一体成形されたボビン2を用いているが、カラー12及びトロイダルコア4は必ずしも一体に成形されている必要はない。例えば、予め成形されたボビンに対してカラーを別途嵌め込んでもよく、また、ボビンについても、収容部と蓋部とで構成される2パーツ型のボビンにコアを収容してもよい。
【0099】
また、腕部10が径方向に延びない態様においては、前方絶縁壁18fが仮想線に対して成す角度をθとして捉えたが、これに限定されず腕部10の他の部位を基準として角度の定義を行うことも可能である。例えば、支持壁24が仮想線に対して成す角度や2枚の絶縁壁18f,18bから等距離にある中心線が仮想線に対して成す角度等をθとして捉え腕部10の角度を形成してもよい。但しその場合には、良好な応力緩和作用が得られる角度の閾値も自ずと変化することは言うまでもない。
【0100】
実施形態として説明したコイル1,41,101は、インダクタの一例として取り上げたものだが、これに限定されるものではなく例えばリアクトル等にも適用可能である。また、コアの形状は環状に限定されず、例えば角が円弧状に形成された正方形や長方形でもよい。巻線20の巻き回し方についても、コイルとしての性能を発揮できれば上述の実施形態とは異なる巻き方を選択することも可能である。
【0101】
さらに、腕部10は2本に限定されない。ボビン2の強度、巻線20を巻き回すスペース及び絶縁距離を確保してインダクタとしての所望の性能を発揮可能な形状に形成することができるならば、3本以上の腕部10を設けても構わない。この場合、少なくとも1つの腕部が所定の角度で外周面28に接続しているだけでも、ねじ留め時に生じる応力を緩和する作用が得られ、強度を高めることが可能となる。
【0102】
固定孔12の内側にカラー14を一体成形することにより固定孔12の強度を向上させているが、十分な強度が得られる場合には、カラー14を用いずに固定孔12のみで固定部材を受け入れてもよい。また、固定孔12の近傍に形成されている位置決め孔16は、必須の構成ではなく状況により設けなくてもよい。これらを設ける場合でも上述の実施形態における位置に限定されず、適宜好ましい位置を選択可能である。