特許第6585424号(P6585424)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6585424
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】脱気缶及び脱気缶製造方法
(51)【国際特許分類】
   B65D 8/20 20060101AFI20190919BHJP
   B21D 51/26 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   B65D8/20 A
   B21D51/26 M
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-168167(P2015-168167)
(22)【出願日】2015年8月27日
(65)【公開番号】特開2017-43393(P2017-43393A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2018年6月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】505440295
【氏名又は名称】北海製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉山 憲嗣
(72)【発明者】
【氏名】中村 一也
(72)【発明者】
【氏名】右近 譲
【審査官】 新田 亮二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−024735(JP,A)
【文献】 米国特許第01766173(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 8/20
B21D 51/26
B21D 51/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端部にフランジ部を有する有底筒状の缶体と、前記缶体に被冠された缶蓋とを備え、
前記缶蓋は、外周端部に、前記フランジ部から間を存し、且つ、外周端が前記フランジ部の先端縁より内方に位置するように巻き込んだ環状のカール部を有し、
前記カール部は、前記缶体に対して前記缶蓋が上方に移動して前記カール部の先端部が前記フランジ部に当接したときに、前記フランジ部と前記缶蓋の前記外周端部との間に間隙を形成して前記缶体の内部と外部とを通気自在にする通気部を有し、
前記カール部は、前記フランジ部の上方及び側方で、全周に亘って巻き込まれ、
前記通気部は、前記フランジ部の下方における巻き込み量該通気部以外の部分における該巻き込み量よりも小さく、側面視で直線となる直線部と、前記直線部の周方向両側に形成され、側面視で前記直線部に近づくほど該巻き込み量が小さく形成された一対の傾斜部とを有していることを特徴とする脱気缶。
【請求項2】
請求項1に記載の脱気缶であって、
前記カール部は、前記フランジ部の上方及び側方で、全周に亘って均一に巻き込まれていることを特徴とする脱気缶。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の脱気缶であって、
前記カール部の周方向における前記直線部の長さは、前記カール部の周方向における前記傾斜部の一方の長さよりも長いことを特徴とする脱気缶。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の脱気缶であって、
前記直線部は、前記フランジ部の上方及び側方でのみ巻き込まれていることを特徴とする脱気缶。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の脱気缶であって、
前記カール部は、複数の通気部を有し、
隣接する前記通気部同士の間隔が、等しいことを特徴とする脱気缶。
【請求項6】
上端部にフランジ部を有する有底筒状の缶体に缶蓋を被冠する被冠工程と、
クリンチャーセグメントに形成された溝に、前記缶蓋を被冠した前記缶体を圧接転動させて、前記缶蓋の外周端部を前記フランジ部から間を存し、且つ、前記缶蓋の外周端が前記フランジ部の先端縁より内方に位置するように巻き込んでカール部を形成して、前記缶体に前記缶蓋を仮止めする仮止め工程とを備え、
前記カール部は、前記缶体に対して前記缶蓋が上方に移動して前記カール部の先端部が前記フランジ部に当接したときに、前記フランジ部と前記缶蓋の前記外周端部との間に間隙を形成して前記缶体の内部と外部とを通気自在にする通気部を有し、
前記通気部は、前記フランジ部の下方における巻き込み量該通気部以外の部分における該巻き込み量よりも小さく、側面視で直線となる直線部と、前記直線部の周方向両側に形成され、側面視で前記直線部に近づくほど該巻き込み量が小さく形成された一対の傾斜部とを有し、
前記仮止め工程は、前記フランジ部の上方及び側方では、前記缶蓋の外周端部を、全周に亘って巻き込み、前記フランジ部の下方では、前記缶蓋の外周端部を、前記通気部の前記直線部における巻き込み量が前記通気部以外の部分における巻き込み量よりも小さくなるように巻き込むとともに、前記直線部の前記傾斜部の巻き込み量が前記直線部に近づくほど小さくなるように巻き込んで、前記カール部を形成することを特徴とする脱気缶製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶詰の内容物の保存効果を高めるために缶内部の脱気が行われる脱気缶及び脱気缶製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、缶詰製品、特に魚肉や惣菜等を内容物とする食缶としては、缶内部を真空として内容物の保存効果を高めるために、缶体に缶蓋を仮止めした脱気缶を形成し、次いで巻締を行なう方法で製造されてきた。
【0003】
この種の脱気缶は、内容物が充填された缶体に缶蓋を被冠し、弧状のクリンチャーセグメント等を用いて、缶体に缶蓋を仮止めして形成される。その後、その脱気缶は、バキュームシーマーによって缶内部を脱気して缶蓋の巻締が行われる。
【0004】
図8に示すように、従来用いられているクリンチャーセグメント100では、その内周側の側面に形成されたカール部形成溝101に、缶蓋を被冠した缶体を圧接転動させた際に、缶蓋の外周端部に、缶体の上端縁に形成されているフランジ部から間隙を存してフランジ部の先端縁より内方に向かって断面略円弧形状に巻き込んだカール部を形成する。
【0005】
クリンチャーセグメント100では、カール部形成溝101の途中に、カール部形成溝101よりも上方及び側方において深く削られ、下方を切り落とされたような形状の切欠き部102が形成されている。そのため、クリンチャーセグメント100を用いて形成された脱気缶には、巻き締めの行われていない通気部が形成される。
【0006】
カール部が形成されることによって、缶蓋は、缶体に固着されることなく、カール部によりフランジ部に緩く掛止され、仮止めされた状態とされる。このように缶蓋が仮止めされた缶体は、バキュームシーマーに備えられた真空室内に収容され、通気部から缶体内部の空気が吸引されて脱気された状態で最終的な巻き締めが行われる(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
このように、従来の脱気缶では、脱気缶の形成時に缶蓋の外周端部の一部において巻き締めを行わないことによって通気部が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−126932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に記載のような従来の脱気缶では、通気部から缶体内部の空気が吸引されて脱気された状態で最終的な巻き締めが行われる際には、脱気缶の製造工程で巻き締めを行わずに形成された通気部における巻き込み量と、巻き締めが行われている通気部以外の領域における巻き込み量とが異なることになる。
【0010】
その結果、従来の脱気缶では、最終的な巻き締めを行った後に、通気部が形成されていた領域に痕跡が残り、その領域は所望の寸法とならず、外観が損なわれるおそれがあった。
【0011】
特に、近年用いられているアルミニウム製の缶蓋は、従来用いられているスチール製の缶蓋よりも変形の痕跡が残り易いため、外観が損なわれやすくなっていた。
【0012】
また、従来の脱気缶では、外観の美観をある程度確保するために、通気部を缶体の周方向において小さく形成していた。しかし、巻き締め装置の巻き締め工程の作業速度の向上や充填物の多様化に伴って、通気部を小さく形成した場合には、脱気時に内容物による目詰まりが生じてしまうおそれがあった。
【0013】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、最終的な巻き締めを行っても外観が損なわれにくく、且つ、脱気時の目詰まりが生じにくい脱気缶及び脱気缶製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明の脱気缶は、上端部にフランジ部を有する有底筒状の缶体と、缶体に被冠された缶蓋とを備え、缶蓋は、外周端部に、フランジ部から間を存し、且つ、外周端がフランジ部の先端縁より内方に位置するように巻き込んだ環状のカール部を有し、カール部は、缶体に対して缶蓋が上方に移動してカール部の先端部がフランジ部に当接したときに、フランジ部と缶蓋の外周端部との間に間隙を形成して缶体の内部と外部とを通気自在にする通気部を有し、カール部は、フランジ部の上方及び側方で、全周に亘って巻き込まれ、通気部は、フランジ部の下方における巻き込み量その通気部以外の部分におけるその巻き込み量よりも小さく、側面視で直線となる直線部と、直線部の周方向両側に形成され、側面視で直線部に近づくほどその巻き込み量が小さく形成された一対の傾斜部とを有していることを特徴とする。
【0015】
本発明の脱気缶では、フランジ部の上方及び側方において、カール部に対して、通気部の形成されている部分も含めて全周に亘って巻き込みを行っている。すなわち、缶体に対する缶蓋の仮止め工程の段階で、通気部の形成された領域においてもある程度の巻き込みを行っている。その結果として、本発明の脱気缶は、従来の脱気缶よりも、最終的な巻き込みを行った際の通気部における巻き込み量と通気部以外の領域における巻き込み量が近い量となる。
【0016】
そのため、本発明の脱気缶によれば、通気部から缶体内部の空気が吸引されて脱気された状態で最終的な巻き締めを行った際にも、通気部が形成されていた領域に痕跡が残りにくく、所望の寸法が得やすく、外観が損なわれにくい。
【0017】
さらに、本発明の脱気缶によれば、外観を維持しつつ、通気部を大きくすることができるので、従来の脱気缶よりも、脱気時における目詰まりが生じにくい。
【0018】
また、本発明の脱気缶においては、カール部は、フランジ部の上方及び側方で、全周に亘って均一に巻き込まれていることが好ましい。
【0019】
フランジ部の上方及び側方におけるカール部の巻き込み量を均一にすれば、フランジ部の上方及び側方において凹凸が形成されないため、従来の脱気缶よりも、さらに外観が良くなる。
【0020】
また、本発明の脱気缶としては、カール部の周方向における直線部の長さは、カール部の周方向における傾斜部の一方の長さよりも長くなるように構成してもよい。
【0021】
また、本発明の脱気缶としては、直線部は、フランジ部の上方及び側方でのみ巻き込まれているように構成してもよい。
【0022】
また、本発明の脱気缶においては、カール部は、複数の通気部を有し、隣接する通気部同士の間隔が、等しいことが好ましい。
【0023】
本発明の脱気缶は、フランジ部の上方及び側方において、カール部に対して、通気部の形成されている部分も含めて全周に亘って均一に巻き込みを行っている。そのため、本発明の脱気缶は、従来の脱気缶とは異なり、通気部を周方向のいずれの位置に設けても、十分に缶蓋と缶体とを固定しやすい。
【0024】
そのため、複数の通気部を等間隔に設けるようにすれば、脱気時に脱気缶が傾いて一つの通気部に詰まりが生じてしまったとしても、他の通気部から脱気を行うことができるので、脱気性能を安定させることができるようになる。
【0025】
また、上記目的を達成するために、本発明の脱気缶製造方法は、上端部にフランジ部を有する有底筒状の缶体に缶蓋を被冠する被冠工程と、クリンチャーセグメントに形成された溝に、缶蓋を被冠した缶体を圧接転動させて、缶蓋の外周端部をフランジ部から間を存し、且つ、缶蓋の外周端がフランジ部の先端縁より内方に位置するように巻き込んでカール部を形成して、缶体に缶蓋を仮止めする仮止め工程とを備え、カール部は、缶体に対して缶蓋が上方に移動してカール部の先端部がフランジ部に当接したときに、フランジ部と缶蓋の外周端部との間に間隙を形成して缶体の内部と外部とを通気自在にする通気部を有し、通気部は、フランジ部の下方における巻き込み量その通気部以外の部分におけるその巻き込み量よりも小さく、側面視で直線となる直線部と、直線部の周方向両側に形成され、側面視で直線部に近づくほどその巻き込み量が小さく形成された一対の傾斜部とを有し、仮止め工程は、フランジ部の上方及び側方では、缶蓋の外周端部を、全周に亘って巻き込み、フランジ部の下方では、缶蓋の外周端部を、通気部の直線部における巻き込み量が通気部以外の部分における巻き込み量よりも小さくなるように巻き込むとともに、直線部の傾斜部の巻き込み量が直線部に近づくほど小さくなるように巻き込んで、カール部を形成することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本実施形態に係る脱気缶の概略構成を示す斜視図。
図2図1の脱気缶のカール部及びフランジ部の形状を拡大して示す断面図であり、2Aは脱気前における通気部以外の部分を示し、2Bは脱気時における通気部以外の部分を示し、2Cは脱気前における通気部を示し、2Dは脱気時における通気部を示す。
図3図1の脱気缶の概略構成を示す模式的に示す底面図。
図4図1の脱気缶の製造に用いるクリンチャーセグメントの構成を示す斜視図。
図5図4のクリンチャーセグメントの平面図。
図6図4のクリンチャーセグメントの一部を拡大して示す斜視図。
図7図4のクリンチャーセグメントによる図1の脱気缶の形成工程における缶蓋の外周端部の形状の変化を示す断面図であり、7Aは初期形状(図4のA−A線断面図)、7Bは通気部以外の形状(図4のB−B線断面図)、7Cは通気部の形状(図4のC−C線断面図)を示す。
図8】従来のクリンチャーセグメントの一部を拡大して示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
まず、図1図3を参照して、本実施形態の脱気缶1の構成について説明する。
【0028】
図1に示すように、脱気缶1は、有底筒状の缶体10と、缶体10に被冠され、仮止めされた缶蓋11とを備えている。
【0029】
缶蓋11は、外周端部に、缶体10の上端部に設けられたフランジ部12から間隔を存して、フランジ部12の先端縁より内方に向かって巻き込んだ環状のカール部13を有している。
【0030】
図2A〜Dに示すように、カール部13の、フランジ部12の上方及び側方における巻き込み量は、全周に亘って均一となっている。一方で、カール部13の、フランジ部12の下方における巻き込み量は、通気部14が形成された部分(図2C,2D)では、通気部14が形成されていない部分(図2A,2B)に比べ、小さくなっている。
【0031】
具体的には、図2A図2C(又は、図2B図2D)から明らかなように、缶体10のフランジ部12の上方におけるカール部13の湾曲の程度(すなわち、上方における巻き込み量)は、通気部14が形成されていない部分(図2A,2B)と通気部14が形成された部分(図2C,2D)とにおいて、同一となっている。
【0032】
また、缶体10のフランジ部12の側方(図2においては図面左側)におけるカール部13の湾曲の程度(すなわち、側方における巻き込み量)は、通気部14が形成されていない部分(図2A,2B)と通気部14が形成された部分(図2C,2D)とにおいて、同一となっている。
【0033】
また、缶体10のフランジ部12の下方におけるカール部13の湾曲の程度(すなわち、下方における巻き込み量)は、通気部14が形成されていない部分(図2A,2B)に比べ、通気部14が形成された部分(図2C,2D)では、小さくなっている。
【0034】
カール部13の通気部14が形成されていない部分では、脱気缶1の脱気工程の際に、缶体10に対して缶蓋11が上方に移動して(図2Aの状態から図2Bの状態に変化して)、缶蓋11のカール部13の先端部13aが、缶体10のフランジ部12に当接する。
【0035】
一方、通気部14では、脱気缶1の脱気工程の際に、缶体10に対して缶蓋11が上方に移動して(図2Cの状態から図2Dの状態に変化して)、通気部14が形成された領域以外の領域で缶蓋11のカール部13の先端部13aが缶体10のフランジ部12に当接したときに、缶体10のフランジ部12と缶蓋11の外周端部(すなわち、カール部13の先端部13a)との間に間隙を形成して、缶体10の内部と外部とを通気自在にする。
【0036】
図3に示すように、脱気缶1では、通気部14は、3つ設けられており、隣接する通気部14同士の間隔が等しくなる(120°間隔となる)ように設けられている。
【0037】
そのため、本実施形態の脱気缶1は、脱気する際に脱気缶1が傾く等の理由から内容物が偏ってしまい一つの通気部14に詰まりが生じてしまったとしても、他の通気部14から脱気を行うことができるので、脱気性能を安定させることができるようになっている。
【0038】
なお、通気部14の数は、必ずしも3つに限定されるものではなく、2つ又は4つ以上であっても構わない。ただし、脱気性能を確保するためには3つ以上とすることが好ましい。また、通気部14同士の間隔も、必ずしも等間隔とする必要はなく、缶体の形状等に応じて適宜形成位置を変更してもよい。
【0039】
通気部14は、フランジ部12の下方における巻き込み量を、カール部13のうちの通気部14以外の部分における、下方における巻き込み量よりも小さくして形成された直線部14aと、直線部14aの両側に形成され、直線部14aに近づくほどその巻き込み量が小さくなる一対の傾斜部14bとを有している。カール部13の周方向における直線部14aの長さは、傾斜部14bの一方の長さよりも長い。
【0040】
通気部14の大きさは、直径90mm程度の缶体の場合には、一方の傾斜部14bの直線部14aとは離れた側の端部から、他方の傾斜部14bの直線部14aとは離れた側の端部までの長さが15mm程度となるように構成されている。すなわち、本実施形態の脱気缶1の通気部14は、従来の脱気缶の通気部の大きさ(3mm〜5mm程度)に比べ、非常に大きく形成されている。
【0041】
これは、本実施形態の脱気缶1では、フランジ部12の上方及び側方において、カール部13に対して、通気部14の形成されている部分も含めて全周に亘って均一に巻き込みを行っているためである。そのような巻き込みを行うことによって、脱気缶1は、通気部14の形状を一対の傾斜部14bの間に直線部14aを設けた周方向に長い形状としても、十分に缶蓋と缶体とを固定することができるようになっている。
【0042】
脱気缶1は、上端部にフランジ部12を有する有底筒状の缶体10に、缶蓋11を被冠した後、缶体10への被冠状態を維持した缶蓋11の外周端部を、後述するクリンチャーセグメント2に沿って圧接転動して仮止めを行うことによって形成される。
【0043】
そこで、以下においては、図4図7を参照して、脱気缶1を形成するクリンチャーセグメント2及びそれを用いた製造方法について説明する。
【0044】
まず、図4図6を参照して、クリンチャーセグメント2の形状について説明する。
【0045】
図4に示すように、脱気缶1を形成する際に用いられるクリンチャーセグメント2は、弧状をしている。なお、本発明におけるクリンチャーセグメントは、本実施形態のクリンチャーセグメント2のように、同心円の一部からなる円弧状が装置的に好適であるが、そのような円弧状に限られず、缶体を圧接転動し得る溝の形成可能な形状であれば他の形状であってもよい。
【0046】
クリンチャーセグメント2の内周側の側面には、カール部13を形成するための5つのカール部形成溝20(図4では最も手前側の1つが不図示。図5参照。)と、各カール部形成溝20の間に設けられた4つの通気部形成溝21(図4では最も手前側の1つが不図示。図5参照。)と、両端部に設けられた2つのテーパ状の案内溝22とを有している。
【0047】
また、クリンチャーセグメント2の周方向の長さは、図5に示すように、缶体10及び缶蓋11が約1.3〜1.5回転した際に、その缶蓋11の外周端部の全周に亘って圧接可能な長さに形成されている(図5参照)。
【0048】
そのため、クリンチャーセグメント2の1つ目〜3つ目の通気部形成溝21では、脱気缶1に設けられた3つの通気部14が形成される。クリンチャーセグメント2の4つ目の通気部形成溝21には、1つ目の通気部形成溝21によって形成された通気部14が再度当接する。
【0049】
カール部形成溝20は、脱気缶1のカール部13に対応する凹部として形成されている。そのため、缶蓋11の外周端部のうち、カール部形成溝20に圧接された部分には、断面略円弧形状のカール部13が形成される(図2A,B参照。)。
【0050】
通気部形成溝21は、図6に示すように、通気部14の直線部14aに対応する凹部である直線部形成溝21a、及び、直線部形成溝21aとカール部形成溝20との間に設けられ、通気部14の傾斜部14bに対応する凹部である傾斜部形成溝21bを有している。なお、「直線部」とは、脱気缶1が当接する側から見て直線となる部分という意味である。そのため、本実施形態における直線部14aは、平面視においては、カール部形成溝20と同じ曲率の弧状となっている。
【0051】
直線部形成溝21a及び傾斜部形成溝21bの周方向の深さ(図5において径方向の深さ。すなわち、フランジ部12の側方における長さ。)は、カール部形成溝20の深さと一致するように形成されている。
【0052】
また、直線部形成溝21a及び傾斜部形成溝21bの上側の面(図6において図面上方側の面。すなわち、フランジ部12の上方における面。)は、カール部形成溝20の上側の面と一致するように形成されている。
【0053】
そのため、缶蓋11の外周端部のうち、直線部形成溝21aと傾斜部形成溝21bとに圧接された部分では、フランジ部12の上方及び側方における巻き込み量は、カール部形成溝20によってカール部13の形成された部分と同一となる。
【0054】
一方、直線部形成溝21aの下側の面(図6において図面下方側の面。すなわち、フランジ部12の下方における面。)は、カール部形成溝20の下側の面よりも下方となるように形成されている。傾斜部形成溝21bの下側の面は、カール部形成溝20の下側の面から直線部形成溝21aの下側の面に向かって徐々に傾斜するように形成されている。
【0055】
そのため、缶蓋11の外周端部のうち、直線部形成溝21aと傾斜部形成溝21bとに圧接された部分では、フランジ部12の下方における巻き込み量は、カール部形成溝20によってカール部13の形成された部分よりも小さくなる。その結果、その部分に、直線部14aと傾斜部14bとを備えた断面略円弧状の通気部14が形成される(図2C,D参照。)。
【0056】
次に、図5及び図7を参照して、脱気缶1の形成工程(すなわち、缶体10に対する缶蓋11の仮止め工程)について説明する。なお、図7においては、理解を容易にするために、溝(空間)であるカール部形成溝20、通気部形成溝21の直線部形成溝21a及び傾斜部形成溝21bについては、それらの溝を形成する壁面のうち、下側の面から引き出し線を描いている。
【0057】
脱気缶1を製造する場合には、まず、缶体10に缶蓋11を被冠させる(被冠工程)。次に、缶体10のフランジ部12及び缶蓋11の外周端部をクリンチャーセグメント2の案内溝22に沿って案内させる(図7A参照)。その後、缶体10及び缶蓋11をクリンチャーセグメント2の内周面に沿って圧接転動させると(図5参照)、脱気缶1が形成される(仮止め工程)。
【0058】
この工程を経ることにより、缶蓋11の外周端部のうち、カール部形成溝20に圧接された部分では、図7Bに示すように、フランジ部12の上方、側方及び下方において、所定の量の巻き込みが行われる。その結果、その部分に、カール部13が形成される。
【0059】
また、缶蓋11の外周端部のうち、通気部形成溝21に圧接された部分では、図7Cに示すように、フランジ部12の上方及び側方において、他の部分と同様に所定の量の巻き込みが行われ、フランジ部12の下方において、他の部分よりも少ない量の巻き込みが行われる。その結果、カール部13の下方に、通気部14が形成される。
【0060】
上記説明した脱気缶1では、フランジ部12の上方及び側方において、カール部13に対して、通気部14の形成されている部分も含めて全周に亘って巻き込みを行っている。すなわち、缶体10に対する缶蓋11の仮止め工程の段階で、通気部14の形成された領域においてもある程度の巻き込みを行っている。その結果として、最終的な巻き込みを行った際にも、通気部14における巻き込み量と通気部14以外の領域における巻き込み量が、従来の脱気缶1よりも近い量となる。
【0061】
そのため、脱気缶1によれば、通気部14から缶体10内部の空気が吸引されて脱気された状態で最終的な巻き締めを行った際にも、通気部14が形成されていた領域に痕跡が残りにくく、所望の寸法が得やすく、外観が損なわれにくい。
【0062】
以上、図示の実施形態について説明したが、本発明はこのような形態に限られるものではない。
【0063】
例えば、上記実施形態においては、通気部14を、直線部14aと一対の傾斜部14bとで構成している。また、カール部13の周方向における直線部14aの長さは、傾斜部14bの一方の長さよりも長くなるように構成されている。しかし、本発明の通気部としては、直線部と傾斜部とを一体的に緩やかなカーブを描く形状としてもよいし、傾斜部を直線部よりも長く形成してもよい。
【0064】
また、上記実施形態においては、カール部13を、フランジ部12の上方及び側方における巻き込み量を全周に亘って均一としているが、必ずしも巻き込み量を均一にしなくてもよい。
【0065】
また、上記実施形態においては、通気部14の直線部14aをわずかに巻き込んだ形状としているが、直線部における巻き込み量を0としてもよい。
【0066】
また、上記実施形態においては、脱気缶1を製造するための方法として、クリンチャーセグメント2を用いた製造方法を説明した。しかし、本発明の脱気缶及び脱気缶製造方法はそのような製造方法に限定されるものではなく、カール部の下方に設けられた直線部及び傾斜部を有する通気部を形成できるものであればよい。例えば、上記実施形態で図示したクリンチャーセグメントとは異なる形状のクリンチャーセグメントを用いてもよい。
【符号の説明】
【0067】
1…脱気缶、2,100…クリンチャーセグメント、10…缶体、11…缶蓋、12…フランジ部、13…カール部、13a…先端部、14…通気部、14a…直線部、14b…傾斜部、20,101…カール部形成溝、21…通気部形成溝、21a…直線部形成溝、21b…傾斜部形成溝、22…案内溝、102…切欠き部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8