特許第6585433号(P6585433)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6585433
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】筆記具用油性インク組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/17 20140101AFI20190919BHJP
   B43K 8/02 20060101ALI20190919BHJP
   B43K 7/00 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   C09D11/17
   B43K8/02 110
   B43K7/00
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-172763(P2015-172763)
(22)【出願日】2015年9月2日
(65)【公開番号】特開2017-48317(P2017-48317A)
(43)【公開日】2017年3月9日
【審査請求日】2018年6月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】大谷 美江
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 賢二
【審査官】 緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−021494(JP,A)
【文献】 特開平10−245518(JP,A)
【文献】 特開2012−116945(JP,A)
【文献】 特開2005−068389(JP,A)
【文献】 特開2015−108110(JP,A)
【文献】 特開平10−306232(JP,A)
【文献】 特開2012−025827(JP,A)
【文献】 特開2009−275096(JP,A)
【文献】 特開2005−068251(JP,A)
【文献】 特表2011−521092(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/17
B43K 7/00
B43K 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、アルコール類、グリコールエーテル類から選ばれる1種以上と、アルミニウム顔料と、トコフェノール及び/又はトコトリエノールとを含有することを特徴とする筆記具用油性インク組成物。
【請求項2】
請求項1記載の筆記具用油性インク組成物を搭載したことを特徴とする筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム顔料を用いた筆記具用油性インク組成物における経時的な光沢感の低下を抑制してなる筆記具用油性インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アルコール類やグリコールエーテル類を主たる溶剤として用いた、いわゆる油性系筆記具としてアルミニウム顔料(アルミニウムペースト)を配合したインク組成物は数多く知られている。
【0003】
例えば、(a)平均粒子径が1〜10μmである真鍮顔料又はアルミニウム顔料からなるる金属粉顔料、(b)必要によりポリエーテルリン酸エステル、(c)プロピレングリコールモノメチルエーテル及びブチルセロソルブを含有する溶剤、(d)アセトフェノン−アルデヒド樹脂又は軟化点100℃以上のフェノール樹脂、(e)ワックスディスパージョン、(f)必要により変性ウレア及び/又は硫酸エステル系アニオン活性剤を含有してなる筆記具用油性金属光沢インク組成物が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載のインク組成物を用いた筆記具は、描線の光沢感を付与することができるものであるが、長期間保存後において光沢性が低下するという課題が生じやすいものである。特に、アルミニウム顔料において、インク膜の表層に配列するリーフィングタイプと呼ばれるアルミニウム顔料を使用した場合には、特に上記光沢性の低下の傾向が生じやすいものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−102310号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の課題等に鑑み、これを解消しようとするものであり、アルミニウム顔料を用いた筆記具用油性インク組成物における経時的な光沢感の低下を抑制してなる筆記具用油性インク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記従来の課題等に鑑み、鋭意研究を行った結果、少なくとも、アルコール類、グリコールエーテル類から選ばれる1種以上と、アルミニウム顔料と、特定成分とを含有することなどにより、上記目的の筆記具用油性インク組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明は、次の(1)及び(2)に存する。
(1) 少なくとも、アルコール類、グリコールエーテル類から選ばれる1種以上と、アルミニウム顔料と、トコフェノール及び/又はトコトリエノールとを含有することを特徴とする筆記具用油性インク組成物。
(2) 上記(1)記載の筆記具用油性インク組成物を搭載したことを特徴とする筆記具。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アルミニウム顔料を用いた筆記具用油性インク組成物における経時的な光沢感の低下を抑制してなる筆記具用油性インク組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。
本発明の筆記具用油性インク組成物は、少なくとも、アルコール類、グリコールエーテル類から選ばれる1種以上と、アルミニウム顔料と、トコフェノール及び/又はトコトリエノールとを含有することを特徴とするものである。
【0011】
本発明に用いるアルコール類、グリコールエーテル類は、溶媒として用いるものであり、アルコール類としては、例えば、メチルアルコール(メタノール)、エチルアルコール(エタノール)、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、tert−アミルアルコール、ベンジルアルコールなどが挙げられる。
グリコールエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノフェニルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノフェニルエーテルルなどのグリコールエーテル類が挙げられる。
これらアルコール類、グリコールエーテル類は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0012】
これらのアルコール類、グリコールエーテル類の合計含有量は、インク組成物全量に対して、40〜95質量%(以下、単に「質量%」を「%」という)、好ましくは、50〜80%が望ましい。
【0013】
本発明に用いるアルミニウム顔料は、一般にアルミニウムをボールミルやアトライターミル中で粉砕媒液の存在下、粉砕助剤を用いて粉砕、摩砕して製造され、油性インク用の顔料等として用いられているものであれば、その製造法、性状(粉状、ペースト状等)、粒子の大きさ(平均粒子径、厚み)などは、特に限定されるものではなく、例えば、インク膜の表層に配列するリーフィングタイプ、インク膜内で一様に分散配列するノンリーフィングタイプ(樹脂コーティングタイプを含む)などが挙げられる。具体的には、油性インク用として市販されているものを使用することができる。
【0014】
用いることができるアルミニウム顔料としては、例えば、13G、13GH、15GH(以上、リーフィングタイプ)、FD−4070、FW−610(以上、ノンリーフィングタイプ)〔以上、旭化成ケミカルズ社製〕、0700M、0870MS(以上、リーフィングタイプ)、2172、1200M(以上、ノンリーフィングタイプ)〔以上、東洋アルミニウム社製〕等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0015】
これらのアルミニウム顔料の含有量(固形分)は、インク組成物全量に対して、1〜25%、好ましくは、3〜15%が望ましい。
このアルミニウム顔料の含有量が1%未満であると、光沢性が不十分であり、一方、25%を越えると、インクの安定性が損なわれる場合がある。
【0016】
本発明に用いるトコフェノール、トコトリエノールは、アルミニウム顔料を用いた場合の長期間保存後等における光沢性の低下を抑制するために含有するものである。
用いるトコフェノール、トコトリエノールには、天然型の化合物(d−体)、非天然型の化合物(l−体)、これらの等量混合物等であるラセミ体(dl−体)などの区別があることが知られている。天然型の化合物(d−体)やラセミ体(dl−体)は、食品添加物等として用いられるものもあることから好ましい。
具体的に用いることができるトコフェノールとしては、d−体、ラセミ体(dl−体)などのα−トコフェノール、β−トコフェノール、γ−トコフェノール及びδ−トコフェノール、これらの混合物であるミックストコフェノールなどが挙げられる。
トコトリエノールとしては、d−体、ラセミ体(dl−体)などのα−トコトリエノール、β−トコトリエノール、γ−トコトリエノール及びδ−トコトリエノールなどが挙げられる。
これらのトコフェノール、トコトリエノールは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0017】
これらのトコフェノール及び/又はトコトリエノールの含有量は、インク組成物全量に対して、0.1〜5%、好ましくは、0.1〜1%が望ましい。
この含有量が、インク組成物全量に対し、0.1%未満であると、本願発明の目的とする効果が得られず、一方、5%を越えると効果が変わらないがコスト面等で好ましくない。
【0018】
本発明の筆記具用インク組成物には、上述した成分に加えて、更に、本発明では必要に応じて、種々の添加剤、例えば、樹脂、その他の色材、並びに、界面活性剤、潤滑剤、増粘剤、防錆剤などを含有することができる。使用する添加剤は本発明の筆記具用油性インク組成物を用いる筆記具(サインペン用、マーキングペン用、ボールペン用等)の態様に応じて種々変更することができる。
【0019】
本発明に用いることができる樹脂としては、油性インクに用いられる樹脂であれば、特に限定されるものでないが、例えば、ケトン樹脂、アルキルフェノール(ノボラック)樹脂、マレイン酸樹脂又はその変性マレイン酸樹脂、テルペンフェノール樹脂などから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
これらの樹脂は、市販品を用いることができ、ケトン樹脂では、ケトンレジンK−90(荒川化学工業社製)、Tego VariPlus SK(Evonik Industries社製)などが挙げられ、アルキルフェノール(ノボラック)樹脂では、タマノル510(荒川化学工業社製)などが挙げられ、マレイン酸樹脂又はその変性マレイン酸樹脂では、マルキード33(荒川化学工業社製)などが挙げられ、テルペンフェノール樹脂では、YSポリスターS145(ヤスハラケミカル社製)などが挙げられる。
これらの樹脂の含有量は、インク粘度、インクの流出性などの点から、インク組成物全量に対して、3〜50%、好ましくは、10〜30%が望ましい。
【0020】
本発明に用いることができるその他の色材としては、上記アルミニウム顔料の光沢感等の本発明の効果を阻害しない範囲で、適宜量、補色用等として、従来より油性インクなどに用いられる色材、例えば、慣用されている顔料、染料が挙げられる。
顔料としては、例えば、アゾ系顔料、縮合ポリアゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、金属錯塩顔料、チオインジゴ顔料、染料レーキ顔料、蛍光顔料等の有機顔料及びカーボンブラック等の無機顔料が挙げられ、更に、表面を樹脂コーティングで加工した加工顔料、例えば、マイクロリスAタイプ各種、ASブラック、ASブルー、IKレッド等も使用することができる。
また、染料としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エタノールなどに溶解するものであれば、特に限定されず、例えば、アルコール可溶性染料、スピリットソルブル染料等のソルベント染料、ロイコ染料などを挙げることができる。
これらの色材は、単独で又は2種以上混合して使用することもできる。
【0021】
この筆記具用油性インク組成物を製造するには、従来から知られている方法が採用可能であり、例えば、アルコール類、グリコールエーテル類から選ばれる1種以上と、アルミニウム顔料と、トコフェノール及び/又はトコトリエノールと、上記各添加剤を所定量配合し、ホモミキサー、もしくはディスパー等の攪拌機により攪拌混合することによって得られる。更に必要に応じて、ろ過や遠心分離によってインク組成物中の粗大粒子を除去してもよい。
【0022】
このように構成される本発明の筆記具用油性インク組成物は、繊維芯又はプラスチック芯を有するマーキングペン、フェルトペンなどのサインペン、ボールペンなどの筆記具に搭載して好適に用いることができる。
【0023】
このように構成される本発明の筆記具用油性インク組成物が、何故、アルミニウム顔料を用いた筆記具用油性インク組成物における経時的な光沢感の低下を抑制し、経時的な光沢感が良好となるか否かは不明ではあるが、用いるトコフェノール、トコトリエノールの酸化防止作用によるためと推測される。しかしながら、後述の如く、酸化防止効果を有する他の添加剤が同様の効果を示すわけではない。
本発明の筆記具用油性インク組成物及びこれを搭載した筆記具では、本発明の効果を発揮せしめる持続効果が極めて優れており、しかも、その効果の発現期間・持続時間も長く、経時的な安定性にも優れたものとなる。
【実施例】
【0024】
次に、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。
【0025】
〔実施例1〜6及び比較例1〜4〕
下記表1に示す配合処方にしたがって、常法により各筆記具用油性インク組成物(全量100質量%)を調製した。
【0026】
得られた各筆記具用油性インク組成物について、ペン体(ユニアルコールペイントマーカー「PXA−200銀、三菱鉛筆社製)に充填し、50℃、20%RHの条件下で8週間保存した。
このペン体で筆記した描線の光沢度をデジタル変角光沢計(スガ試験機株式会社社製、UGV−5)の入射角60度、受光角60度で経時試験前後の光沢度(保存前の初期光沢度と経時後光沢度)を測定した。経時試験前後の光沢度の差(数値)が小さい程、光沢感の低下がなく、経時的な光沢感が良好となることを示す。
これらの結果を下記表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
上記表1の結果から明らかなように、本発明となる実施例1〜6は、本発明の範囲が外となる比較例1〜4に較べて、アルミニウム顔料を用いた筆記具用油性インク組成物における経時的な光沢感の低下を抑制し、光沢感は初期と遜色なく、良好となることが確認された。
実施例及び比較例を具体的にみると、実施例1〜5の結果からも、アルミニウム顔料として、リーフィングタイプを用いたものであっても、経時的にも光沢感が良好であるのに対して、比較例1〜3の結果から、トコフェノール、トコトリエノールを用いないもの、また、比較例4の酸化防止作用を有するブチルヒドロキシアニソールを用いたものでは、本発明の効果を発揮しないことが判った。
【産業上の利用可能性】
【0029】
サインペンやマーキングペン、ボールペンなどの筆記具、特にペイントマーカーと呼ばれる筆記具などに好適な筆記具用油性インク組成物が得られる。