特許第6585437号(P6585437)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6585437
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】筆記具用水性インク組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/16 20140101AFI20190919BHJP
   B43K 7/00 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   C09D11/16
   B43K7/00
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-175924(P2015-175924)
(22)【出願日】2015年9月7日
(65)【公開番号】特開2017-52832(P2017-52832A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2018年6月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】溝口 達也
(72)【発明者】
【氏名】平山 暁子
【審査官】 緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−231132(JP,A)
【文献】 特開2004−224892(JP,A)
【文献】 特開2005−204620(JP,A)
【文献】 特開2003−201433(JP,A)
【文献】 特開平08−012916(JP,A)
【文献】 特開2015−096561(JP,A)
【文献】 特開2000−281957(JP,A)
【文献】 特開2000−160091(JP,A)
【文献】 特開2014−070126(JP,A)
【文献】 特開2011−042771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/16
B43K 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、グリシンベタインと、二糖以上の糖アルコールを含有し、該二糖以上の糖アルコールは、二糖以上の糖アルコール全量に対し、五糖以上の糖アルコールが50質量%以上で構成されていることを特徴とする筆記具用水性インク組成物。
【請求項2】
請求項に記載の筆記具用水性インク組成物を搭載したことを特徴とする筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経時安定性、低温安定性を損なわず、描線の滲みが発生せず、描線乾燥性に優れた筆記具用水性インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、水性インク組成物を使用した筆記具において、描線の乾燥速度を向上させる方法としては、例えば、1)特定物性の多価アルコール及び/又はグリコールエーテル類を特定量含有する水性ボールペン用インク組成物(例えば、特許文献1参照)、2)特定のポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含有する水性ボールペン用インク組成物(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【0003】
しかしながら、上記特許文献1及び2に記載の特定物性の多価アルコールやグリコールエーテル類、特定のポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどの水溶性有機溶剤は、インクの経時安定性や低温安定性を低下させる傾向がある。また、上記特許文献2に記載の特定のポリオキシアルキレンアルキルエーテルを用いたインクは、描線が若干滲みやすくなることがあった。
【0004】
一方、グリシンベタイン等を用いた水性インク組成物としては、例えば、1)ガラス転移温度が0℃以下の造膜性樹脂粒子と、染料で染色された着色樹脂粒子と造膜抑制剤と水を含有し、造膜抑制剤としてグリシンベタイン等を用いた筆記用消しゴム消去性水性インク組成物(例えば、特許文献3参照)、2)着色剤と水と、アミノ酸、アミノ酸塩及びアミノ酸誘導体から選ばれる1種もしくは2種以上とから少なくともなる液状化粧料、並びに、筆ペン、マーカーなどの筆記具用インクに好適な液状組成物(例えば、特許文献4参照)が知られている。
【0005】
しかしながら、上記特許文献3に記載の技術は、筆記用消しゴム消去性水性インク組成物において、グリシンベタイン等を造膜抑制剤として用いるものであり、また、上記特許文献4に記載の技術は、グリシンベタイン等のアミノ酸塩などを吐出向上剤として用いるものであり、本発明の経時安定性、低温安定性を損なわず、描線の滲みが発生せず、描線乾燥性に優れた筆記具用水性インク組成物を提供するものとは、その発明の目的・課題、技術思想(構成及びその作用効果)が相違するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−193688号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献2】特開2002−53788号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献3】特開2003−55593号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献4】特開平5−295292号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の課題などに鑑み、これを解消しようとするものであり、経時安定性、低温安定性を損なわず、描線の滲みが発生せず、描線乾燥性に優れた筆記具用水性インク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記従来の課題等に鑑み、鋭意研究を行った結果、少なくとも、グリシンベタインと、特定の糖アルコールを含有せしめることにより、上記目的の筆記具用水性インク組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0009】
すなわち、本発明は、次の(1)〜(3)に存する。
(1) 少なくとも、グリシンベタインと、二糖以上の糖アルコールを含有することを特徴とする筆記具用水性インク組成物。
(2) 二糖以上の糖アルコール全量に対し、五糖以上の糖アルコールが50質量%以上で構成されていることを特徴とする請求項1記載の筆記具用水性インク組成物。
(3) 上記(1)又は(2)に記載の筆記具用水性インク組成物を搭載したことを特徴とする筆記具。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、経時安定性、低温安定性を損なわず、描線の滲みが発生せず、描線乾燥性に優れた筆記具用水性インク組成物及びその筆記具用水性インク組成物を搭載した筆記具が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。
本発明の筆記具用水性インク組成物は、少なくとも、グリシンベタインと、二糖以上の糖アルコールを含有することを特徴とするものである。
【0012】
本発明に用いるグリシンベタイン〔別名:トリメチルグリシン、(CH(CH)CHCOO〕は、安定化剤として用いるものであり、二糖以上の糖アルコールと共に用いることにより、筆記具用水性インク組成中に配合してもインク性能の低下等を招くことがなく、経時安定性に優れた機能を発揮せしめて、本発明の効果を効果的に発揮せしめるものである。
【0013】
このグリシンベタインの含有量は、インク組成物全量に対して、好ましくは、0.5〜10質量%(以下、「質量%」を「%」という)、更に好ましくは、1〜5%とすることが望ましい。
この含有量が0.5%未満であると、本発明の効果を発揮することができず、一方、10%超過であると、本発明の効果はそれほど変わらず、むしろ粘度増加による筆記性能の低下、描線のかすれなどをもたらすこととなる。
【0014】
本発明に用いる二糖以上の糖アルコールは、上記グリシンベタインとの併用により、相乗的に作用して、経時安定性、低温安定性を損なわず、描線の滲みが発生せず、描線乾燥性に優れた性能を発揮せしめるものとなる。
用いることができる二糖以上の糖アルコールとしては、例えば、イソマルチトール、マルチトール、ラクチトール等の二糖アルコール、マルトトリイトール、イソマルトトリイトール、パニトール等の三糖アルコール、オリゴ糖アルコール等の四糖以上の糖アルコール、二糖以上の糖アルコールからなる還元澱粉糖化物、還元澱粉分解物が例示でき、好ましくは、マルチトール、イソマルトトリイトール、二糖以上の糖アルコールからなる還元澱粉糖化物、還元澱粉分解物の使用が望ましく、本発明の効果を更に効果的に発揮せしめる点から、特に、二糖以上の糖アルコール全量に対し、五糖以上の糖アルコールが50質量%以上で構成されているものが望ましい。
【0015】
上記二糖以上の糖アルコールからなる還元澱粉糖化物、還元澱粉分解物としては、例えば、市販のエスイー20(物産フードサイエンス社製、五糖以上の糖アルコール約5〜20%含有)、エスイー600(物産フードサイエンス社製、五糖以上の糖アルコール約1〜5%含有)などが挙げられ、また、二糖以上の糖アルコール全量に対し、平均重合度が5以上の糖アルコールが50%以上で構成されている糖アルコールとしては、例えば、H−PDX〔五糖以上の糖アルコール約75%含有(五糖;6.4%、六糖;10%、七糖;58.5%)、松谷化学工業社製)、エスイー100(物産フードサイエンス社製、五糖以上の糖アルコール約64〜82%含有)などが挙げられる。
なお、エリスリトール、マンニトール、ソルビトール、キシリトール等の単糖の糖アルコールでは、本発明の効果を発揮できないものとなる。
【0016】
これらの二糖以上の糖アルコールの含有量は、インク組成物全量に対して、好ましくは、0.5〜10%、更に好ましくは、1〜5%とすることが望ましい。
この含有量が0.5%未満であると、本発明の効果を発揮することができず、一方、10%超過であると、本発明の効果はそれほど変わらず、描線のかすれなどをもたらすこととなる。
【0017】
本発明の筆記具用水性インク組成物は、上記各成分の他、残部(溶媒)として水(水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水など)で調製され、上記各成分以外にも、好ましくは、着色剤、水溶性有機溶剤を含有することができ、更に、例えば、分散剤、潤滑剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤もしくは防菌剤、水溶性樹脂、樹脂エマルションなどの任意成分を本発明の効果を損なわない範囲で適宜含有せしめることができる。
【0018】
本発明に用いる着色剤としては、水に溶解もしくは分散する染料、酸化チタン等の従来公知の無機系および有機顔料系、顔料を含有した樹脂粒子顔料、樹脂エマルションを染料で着色した疑似顔料、蛍光顔料、白色系プラスチック顔料、シリカや雲母を基材とし表層に酸化鉄や酸化チタンなどを多層コーティングした顔料等を本発明の効果を損なわない範囲で使用することができる。
染料としては、例えば、エオシン、フオキシン、ウォーターイエロー#6−C、アシッドレッド、ウォーターブルー#105、ブリリアントブルーFCF、ニグロシンNB等の酸性染料;ダイレクトブラック154、ダイレクトスカイブルー5B、バイオレットB00B等の直接染料;ローダミン、メチルバイオレット等の塩基性染料、蛍光染料などが挙げられる。
【0019】
無機系顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレンおよびペリノン顔料、ニトロソ顔料などが挙げられる。より具体的には、カーボンブラック、チタンブラック、亜鉛華、べんがら、アルミニウム、酸化クロム、鉄黒、コバルトブルー、酸化鉄黄、ビリジアン、硫化亜鉛、リトポン、カドミウムエロー、朱、カドミウムレッド、黄鉛、モリブデードオレンジ、ジンククロメート、ストロンチウムクロメート、ホワイトカーボン、クレー、タルク、群青、沈降性硫酸バリウム、バライト粉、炭酸カルシウム、鉛白、紺白、紺青、マンガンバイオレット、アルミニウム粉、真鍮粉等の無機顔料、C.I.ピグメントブルー17、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー17、C.I.ピグメントブルー27、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド22、C.I.ピグメントレッド38、C.I.ピグメントレッド48、C.I.ピグメントレッド49、C.I.ピグメントレッド53、C.I.ピグメントレッド57、C.I.ピグメントレッド81、C.I.ピグメントレッド104、C.I.ピグメントレッド146、C.I.ピグメントレッド245、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー3、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー34、C.I.ピグメントイエロー55、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー95、C.I.ピグメントイエロー166、C.I.ピグメントイエロー167、C.I.ピグメントオレンジ5、C.I.ピグメントオレンジ13、C.I.ピグメントオレンジ16、C.I.ピグメントバイオレット1、C.I.ピグメントバイオレット3、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントバイオレット23、C.I.ピグメントバイオレット50、C.I.ピグメントグリーン7等が挙げられる。
【0020】
蛍光顔料としては、従来公知のものが適宜使用でき、例えば、硫化亜鉛、ケイ酸亜鉛、硫化カドミウム、硫化ストロンチウム、タングステン酸カルシウム等の無機蛍光顔料や高分子化合物を染色した有機蛍光顔料が挙げられる。
有機蛍光顔料としては、具体的には、NKWシリーズ(日本蛍光化学社製)、シンロイヒカラーベースSWシリーズ、SFシリーズ(シンロイヒ社製)、ビクトリアイエローG−20などのビクトリアシリーズ(御国色素社製)等が挙げられる。
これらの着色剤は、一種もしくは二種以上を混合して使用することができる。
これらの着色剤の含有量は、インク組成物全量に対して、0.1〜60%で適宜調整することが可能である。
【0021】
本発明に用いる水溶性有機溶剤としては、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール類、ホルムアミドおよびその誘導体などのアミド類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類など、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、ジプロピレングリコールn−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルブチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールターシャリーブチルエーテルなどのエーテル類が挙げられ、これらは一種もしくは二種以上を混合して使用することができる。
これらの水溶性有機溶剤の含有量は、インク組成物全量に対して、1〜30%、好ましくは、5〜25%とすることが望ましい。
【0022】
上記着色剤に顔料を用いた場合には、分散剤を使用することが好ましい。この分散剤は、顔料表面に吸着して、水との親和性を向上させ、水中に顔料を安定に分散させる作用をするものであり、ノニオン、アニオン界面活性剤や水溶性樹脂が用いられる。好ましくは水溶性高分子が用いられる。
潤滑剤としては、顔料の表面処理剤にも用いられる多価アルコールの脂肪酸エステル、糖の高級脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステル、アルキル燐酸エステルなどのノニオン系や、高級脂肪酸アミドのアルキルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩などのアニオン系、ポリアルキレングリコールの誘導体やフッ素系界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンなどが挙げられる。
【0023】
pH調整剤としては、アンモニア、尿素、モノエタノーアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンや、トリポリリン酸ナトリウム、炭酸ナトリウムなとの炭酸やリン酸のアルカリ金属塩、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水和物などが挙げられる。また、防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロへキシルアンモニウムナイトライト、サポニン類など、防腐剤もしくは防菌剤としては、フェノール、ナトリウムオマジン、安息香酸ナトリウム、ベンズイミダゾール系化合物などが挙げられる。
【0024】
水溶性樹脂としては、例えば、ポリアクリル酸、水溶性スチレン −アクリル樹脂、水溶性スチレン・マレイン酸樹脂、水溶性マレイン酸樹脂、水溶性スチレン樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコ−ル、水溶性エステル−アクリル樹脂、エチレン−マレイン酸共重合体、ポリエチレンオキサイド、水溶性ウレタン樹脂等などが挙げられる。
樹脂エマルションとしては、例えば、アクリル系エマルション、酢酸ビニル系エマルション、ウレタン系エマルション、スチレン−ブタジエンエマルション、スチレンアクリロニトリルエマルションなどが挙げられる。
これらの水溶性樹脂および樹脂エマルションは、一種もしくは二種以上を混合して使用することができる。
【0025】
本発明の筆記具用水性インク組成物は、上記グリシンベタイン、二糖以上の糖アルコール、その他の各成分を筆記具用(ボールペン用、マーキングペン用)インクの用途に応じて適宜組み合わせて、ホモミキサー、ホモジナイザーもしくはディスパー等の攪拌機により攪拌混合することにより、更に必要に応じて、ろ過や遠心分離によってインク組成物中の粗大粒子を除去すること等によって調製することができる。
【0026】
また、本発明の筆記具用水性インク組成物は、ボールペンチップ、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップなどのペン先部を備えたボールペン、マーキングペン等の筆記具に搭載される。
ボールペンとしては、例えば、上記組成の筆記具用水性インク組成物を、直径が0.18〜2.0mmのボールを備えた水性ボールペン体に充填することにより作製することができる。
【0027】
用いる水性ボールペン体として、直径が上記範囲のボールを備えたものであれば、特に限定されず、特に、上記水性インク組成物を金属製、または、ポリプロピレンチューブなどの樹脂製のインク収容体に充填し、先端のステンレスチップ(ボールは超鋼合金)を有するリフィールの水性ボールペンに仕上げたものが望ましい。また、上記インク収容体内に収容された水性インク組成物とは相溶性がなく、かつ、該水性インク組成物に対して比重が小さい物質、例えば、ポリブテン、シリコーンオイル、鉱油等をインク追従体として収容してもよい。
なお、ボールペン、マーキングペンの構造は、特に限定されるものでなく、例えば、軸筒自体をインク収容体として該軸筒内に上記構成の筆記具用水性インク組成物を充填したコレクター構造(インク保持機構)を備えた直液式のボールペン、マーキングペンであってもよいものである。
【0028】
このように構成される本発明の筆記具用水性インク組成物が、何故、経時安定性、低温安定性を損なわず、描線の滲みが発生せず、描線乾燥性に優れた機能を発現するのかは下記のように推測することができる。
すなわち、筆記具用水性インク組成物において、グリシンベタイン、または、二糖以上の糖アルコールの単独配合では低温安定性に劣るなどのインク性能の低下が見られたが、本発明の筆記具用水性インク組成物では、少なくとも、グリシンベタインと、二糖以上の糖アルコールを併用することにより、それぞれの化合物の有する官能基が、インク中の不溶成分である顔料等の表面に対し、補い合うように吸着することで凝集を防ぎ、経時安定性、低温安定性を損なわず、描線の滲みが発生せず、描線乾燥性に優れた機能を発現せしめるものと推測される。
本発明の筆記具用水性インク組成物は、本発明の効果を発揮せしめる持続効果が極めて優れており、しかも、その効果の発現期間・持続時間も長く、更にグリシンベタインと二糖以上の糖アルコールは水溶性であるために経時的な安定性にも優れたものとなる。
【実施例】
【0029】
次に、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。
【0030】
〔実施例1〜6及び比較例1〜4〕
下記表1に示す配合処方にしたがって、常法により各筆記具用水性インク組成物を調製した。
得られた各筆記具用水性インク組成物(全量100質量%)について、下記方法により筆記具としてボールペンを作製し、下記各評価方法により、経時安定性、低温安定性(筆記性、流動性)、描線の滲み、描線乾燥性について評価した。
下記表1に実施例1〜6及び比較例1〜4の配合処方とその各評価結果を示す。
【0031】
(筆記具:水性ボールペンの作製)
上記で得られた各インク組成物を用いて水性ボールペンを作製した。具体的には、ボールペン〔三菱鉛筆株式会社製、商品名:シグノUM−100〕の軸を使用し、内径4.0mm、長さ113mmポリプロピレン製インク収容管とステンレス製チップ(超硬合金ボール、ボール径0.7mm)及び該収容管と該チップを連結する継手からなるリフィールに上記各水性インクを充填し、インク後端に鉱油を主成分とするインク追従体を装填し、水性ボールペンを作製した。
【0032】
(経時安定性の評価方法)
上記で得た実施例1〜6及び比較例1〜4で製造した各インク組成物を装填してボールペン(試験試料、n=5本、以下同様)を用いて、50℃/湿度65%の条件下でキャップをして3ヶ月間放置し、ISO規格(14145−1)に準拠した筆記用紙(以下同様)に手書きで筆記し、下記評価基準で評価した。
評価基準:
◎:初筆からかすれることなく筆記できる。
○:初筆のカスレは10cm未満で、その後良好に筆記できる。
△:初筆のカスレが20cm未満で、その後良好に筆記できる。
×:初筆のカスレが20cm以降も継続する。
【0033】
(低温安定性の評価方法)
上記で得た実施例1〜6及び比較例1〜4で製造した各インク組成物を装填してボールペンを用いて、−10℃の環境下に3日間保存して上記筆記性の評価基準で低温下における筆記性を評価した。
また、上記で得た実施例1〜6及び比較例1〜4で製造した各インク組成物をガラス製バイアル瓶に充填し蓋を閉め、−10℃の環境下に3日間保存し、下記評価基準で低温下における流動性を評価した。
評価基準:
◎:流動性があり、低温保存前の粘度と同等である。
○:流動性があるが、低温保存前の粘度と比べ増粘がみられる。
△:流動性があるが、一部凝集がみられる。
×:流動性がなく、凝集がみられる。
【0034】
(描線の滲みの評価方法)
上記で得た実施例1〜6及び比較例1〜4で製造した各インク組成物を装填してボールペンを用いて、筆記用紙に手書きで長さ約25cmの線を描いて、描線の滲みについて目視で下記評価基準にて官能評価した。
評価基準:
◎:滲みが全くなし
○:終筆部に若干滲みあり
△:終筆部に滲みあり
×:描線・終筆部に滲みあり
【0035】
(描線乾燥性の評価方法)
上記で得た実施例1〜6及び比較例1〜4で製造した各インク組成物を装填してマーキングペンを用いて、筆記用紙に手書きで長さ約25cmの線を描いた。一定時間ごとに筆記線直角方向に指サック(コクヨ株式会社製、事務用指サック・メク−2)を装着した指で軽く擦り、筆記線が擦りとられたり延びたりしなくなった最短の時間を「筆記線の乾燥時間」とし、下記評価基準で評価した。
評価基準:
◎:3秒以内
○:6秒以内
△:10秒以内
×:20秒以上
【0036】
【表1】
【0037】
上記表1を考察すると、本発明範囲となる実施例1〜6は、経時安定性、低温安定性を損なわず、描線の滲みが発生せず、描線乾燥性に優れた筆記具用水性インク組成物となることが判った。
これに対して、本発明の範囲外となる比較例1〜4では、本発明の効果を発揮できないことが判る。具体的に見ると、比較例1では、グリシンベタインの単独配合であり、比較例2は二糖以上の糖アルコールの単独配合であり、比較例3はグリシンベタイン、二糖以上の糖アルコールを共に用いない場合であり、比較例4は単糖の糖アルコール(マンニトール)を用いた場合であり、これらの場合は、本発明の効果を発揮できないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
水性のボールペンなどに好適な筆記具用水性インク組成物が得られる。