特許第6585438号(P6585438)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6585438
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】電気絶縁体および高電圧機器
(51)【国際特許分類】
   H01B 3/00 20060101AFI20190919BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20190919BHJP
   C08K 3/30 20060101ALI20190919BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   H01B3/00 A
   C08L101/00
   C08K3/30
   C08K3/08
【請求項の数】11
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-177376(P2015-177376)
(22)【出願日】2015年9月9日
(65)【公開番号】特開2016-148016(P2016-148016A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2018年3月5日
(31)【優先権主張番号】特願2015-24084(P2015-24084)
(32)【優先日】2015年2月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原川 崇
(72)【発明者】
【氏名】廣島 聡
(72)【発明者】
【氏名】澤 史雄
【審査官】 北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−179417(JP,A)
【文献】 特表2003−526202(JP,A)
【文献】 特開2012−199089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 3/00
C08K 3/08
C08K 3/30
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体と、
前記誘電体中に分散され、外部からのエネルギーを受けて発光する発光体と、
前記誘電体と前記発光体との間に設けられ、前記誘電体および前記発光体に化学的に結合する結合層と、を具備し、
前記結合層は、前記発光体側から第1の層および第2の層をこの順に有し、前記第1の層は、メルカプト基およびアルコキシル基を有する化合物からなり、前記第2の層は、アミノ基およびアルコキシル基を有する化合物からなることを特徴とする電気絶縁体。
【請求項2】
前記誘電体が樹脂材料からなることを特徴とする請求項1記載の電気絶縁体。
【請求項3】
前記発光体が可視光を発光することを特徴とする請求項1または2記載の電気絶縁体。
【請求項4】
前記発光体が硫化亜鉛を母体とする蛍光体であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の電気絶縁体。
【請求項5】
前記蛍光体が銅を付活剤として含有することを特徴とする請求項4記載の電気絶縁体。
【請求項6】
前記蛍光体がアルミニウムを付活剤として含有することを特徴とする請求項4または5記載の電気絶縁体。
【請求項7】
前記蛍光体が結晶化していることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項記載の電気絶縁体。
【請求項8】
前記発光体を、前記誘電体と前記発光体との合計中、0.1〜90体積%含有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載の電気絶縁体。
【請求項9】
前記発光体が酸素原子を有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項記載の電気絶縁体。
【請求項10】
前記発光体が硫黄原子を有することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項記載の電気絶縁体。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項記載の電気絶縁体を有することを特徴とする高電圧機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電気絶縁体および高電圧機器に関する。
【背景技術】
【0002】
高電圧機器においては、金属導体等を絶縁するために電気絶縁体が用いられている。高電圧機器は数十年間といった長期にわたって使用されることから、これに用いられる電気絶縁体にも長期にわたって使用できることが求められる。
【0003】
電気絶縁体の劣化原因として、電気トリーが知られている。電気トリーは、電気絶縁体への課電により、その内部において炭化が樹枝状に伸展するものである。炭化した部分は導電率が低下することから、電気絶縁体を貫通するように炭化が伸展したときに電気絶縁体の寿命となる。
【0004】
炭化の伸展を抑制する方法として、電気絶縁体中に無機粒子を含有させる方法が知られている。無機粒子として、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、アルミナ水和物、窒化アルミニウム等が用いられる。このような方法によれば、炭化が伸展するときの先端部分における電界が緩和されることから炭化の伸展が抑制される。
【0005】
また、炭化の伸展を抑制する別の方法として、電気絶縁体中にナノ粒子を含有させる方法が知られている。ナノ粒子として、層状シリケート化合物、酸化物系化合物、窒化物系化合物等が用いられる。このような方法によれば、炭化が伸展するときの先端部分における分岐が多くなり、炭化が伸展するときの経路が増加することから炭化の伸展が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−13227号公報
【特許文献2】特開2010−93956号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】福士慶滋、電気学会論文誌A、Vol.97 No.9、pp.465−471、1997
【非特許文献2】東芝レビュー、vol.59 No.7(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、炭化の伸展を抑制する方法として、電気絶縁体中に無機粒子等を含有させる方法が知られている。しかし、上記方法の場合、炭化の伸展を効果的に抑制するには、電気絶縁体における無機粒子等の含有割合を高くする必要がある。このように電気絶縁体における無機粒子等の含有割合を高くした場合、電気絶縁体の製造に用いられる原料混合物である電気絶縁体用材料の粘度が増加し、また電気絶縁体の加工性や靭性が低下するおそれがある。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、炭化の伸展が抑制された電気絶縁体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態の電気絶縁体は、誘電体と、該誘電体中に分散され、外部からのエネルギーを受けて発光する発光体と、誘電体と発光体との間に設けられ、誘電体および発光体に化学的に結合する結合層と、を具備する。結合層は、発光体側から第1の層および第2の層をこの順に有し、第1の層は、メルカプト基およびアルコキシル基を有する化合物からなり、第2の層は、アミノ基およびアルコキシル基を有する化合物からなる
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態の電気絶縁体を示す断面図である。
図2】実施形態の結合層を有する電気絶縁体を示す断面図である。
図3】実施形態の第1の層と第2の層とからなる結合層を有する電気絶縁体を示す断面図である。
図4】実施例における絶縁破壊時間の測定方法を説明する図である。
図5】実施例における絶縁破壊時間(90%破壊確率)の測定結果を示す図である。
図6】実施例における変動係数の測定結果を示す図である。
図7】実施例における絶縁破壊時間(1%破壊確率)の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
図1は、実施形態の電気絶縁体を示す断面図である。
【0013】
電気絶縁体10は、誘電体11と、該誘電体11中に粒子状に分散された発光体12とを有する。このような電気絶縁体10によれば、例えば、一方の主面側(図中、上側)から他方の主面側(図中、下側)に向けて炭化経路21が伸展するとき、この炭化経路21を伸展させるエネルギーが発光体12により光22に変換され、電気絶縁体10の外部に放出される。
【0014】
これにより、炭化経路21を伸展させるエネルギーが低減され、炭化経路21の伸展が効果的に抑制される。また、炭化経路21の伸展が効果的に抑制されることから、発光体12の含有量を少なくでき、電気絶縁体10の加工性や靭性が良好になるとともに、その製造に用いられる原料混合物である電気絶縁体用材料の粘度も低下する。
【0015】
なお、従来の電気絶縁体は、発光しない無機粒子が誘電体中に分散されたものであり、炭化経路を伸展させるエネルギーが電気絶縁体の内部で分散され、該エネルギーは電気絶縁体の外部には放出されない。このように、従来の電気絶縁体については、炭化経路を伸展させるエネルギーが外部に放出されないことから、炭化経路の伸展を抑制する効果は必ずしも高くない。また、従来の電気絶縁体については、炭化経路の伸展を十分に抑制するためには無機粒子の含有量を多くすることが必要であり、電気絶縁体の加工性や靭性が低下しやすいとともに、その製造に用いられる原料混合物である電気絶縁体用材料の粘度も増加しやすい。
【0016】
誘電体11の構成材料としては、通常、樹脂材料が好適に用いられる。樹脂材料としては、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂のいずれでもよい。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニール樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、尿素樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。
【0017】
樹脂材料の中でも、熱硬化性樹脂が好ましく、特にエポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂としては、炭素原子2個と酸素原子1個からなる三員環を1分子中に2個以上有するエポキシ化合物と、これを硬化させる化合物(硬化剤)との組み合わせが好ましい。
【0018】
エポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂等のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリジジルエステル型エポキシ樹脂、ヒダントイン型エポキシ樹脂のような複素環式エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0019】
硬化剤としては、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤、ポリメルカプタン系硬化剤、ポリアミノアミド系硬化剤、イソシアネート系硬化剤、ブロックイソシアネート系硬化剤等が挙げられる。これらの硬化剤の配合量は、硬化剤の種類、電気絶縁体の物性等を考慮して、適宜設定することができる。
【0020】
アミン系硬化剤としては、脂肪族アミン類、ポリエーテルポリアミン類、脂環式アミン類、芳香族アミン類等が挙げられる。脂肪族アミン類としては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ヘキサメチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、2,5−ジメチルヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘクサメチレン)トリアミン、ペンタエチレンヘキサミン、N−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、トリ(メチルアミノ)ヘキサン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、テトラ(ヒドロキシエチル)エチレンジアミン等が挙げられる。ポリエーテルポリアミン類としては、トリエチレングリコールジアミン、テトラエチレングリコールジアミン、ジエチレングリコールビス(プロピルアミン)、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシプロピレントリアミン類等が挙げられる。脂環式アミン類としては、メタセンジアミン、イソホロンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルジシクロヘキシル)メタン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、N−アミノエチルピペラジン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、ノルボルネンジアミン等が挙げられる。芳香族アミン類としては、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノ−1,2−ジフェニルエタン、2,4−ジアミノジフェニルスルホン、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジエチルジメチルジフェニルメタン、テトラクロロ−p−キシレンジアミン、m−キシレンジアミン、p−キシレンジアミン、2,4−ジアミノアニソール、2,4−トルエンジアミン、m−アミノフェノール、m−アミノベンジルアミン、ベンジルジメチルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、トリエタノールアミン、メチルベンジルアミン、α−(m−アミノフェニル)エチルアミン、α−(p−アミノフェニル)エチルアミン、α,α′−ビス(4−アミノフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン等が挙げられる。
【0021】
酸無水物系硬化剤としては、ドデシル無水コハク酸、ポリアジピン酸無水物、ポリアゼライン酸無水物、ポリセバシン酸無水物、ポリ(エチルオクタデカン二酸)無水物、ポリ(フェニルヘキサデカン二酸)無水物、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルハイミック酸、テトラヒドロ無水フタル酸、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、エチレングリコールビストリメリテート、グリセロールトリストリメリテート、無水ヘット酸、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸無水物、無水ナジック酸、無水メチルナジック酸、5−(2,5−ジオクソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸無水物、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物、1−メチル−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物等が挙げられる。
【0022】
フェノール系硬化剤としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、4,4′−ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、1,4−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4′−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビフェニルノボラック、4,4′−ジヒドロキシビフェニル、2,2′−ジヒドロキシビフェニル、10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、フェノールノボラック、ビスフェノールAノボラック、o−クレゾールノボラック、m−クレゾールノボラック、p−クレゾールノボラック、キシレノールノボラック、ポリ−p−ヒドロキシスチレン、ヒドロキノン、レゾルシン、カテコール、t−ブチルカテコール、t−ブチルヒドロキノン、フルオログリシノール、ピロガロール、t−ブチルピロガロール、アリル化ピロガロール、ポリアリル化ピロガロール、1,2,4−ベンゼントリオール、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,3−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、1,8−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、2,4−ジヒドロキシナフタレン、2,5−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,8−ジヒドロキシナフタレン、前記ジヒドロキシナフタレンのアリル化物またはポリアリル化物、アリル化ビスフェノールA、アリル化ビスフェノールF、アリル化フェノールノボラック、アリル化ピロガロール、トリフェニルメタンノボラック、ジシクロペンタジエンフェノールノボラック等が挙げられる。
【0023】
発光体12は、自身(発光体12)の外部からのエネルギーを受けて発光するものが用いられる。エネルギーとしては、炭化経路21を伸展させる各種のエネルギーが挙げられる。このようなものとしては、例えば、電子の運動エネルギー、放電エネルギー等が挙げられるが、必ずしもこれらのものに限定されない。
【0024】
発光体12は、可視光を発光することが好ましい。可視光のエネルギーは炭化経路21を伸展させるエネルギーよりも小さいことから、発光体12が炭化経路21を伸展させるエネルギーを吸収して発光しやすくなる。
【0025】
なお、発光体12は、可視光を発光するとともに、可視光以外の光を発光してもよい。例えば、発光体12は、可視光と紫外光とを同時に発光するものでもよい。発光の少なくとも一部に可視光が含まれていれば、炭化経路21を伸展させるエネルギーを吸収して発光しやすくなる。
【0026】
また、発光には、可視光領域(波長380〜780nm)の全体が含まれる必要はなく、可視光領域の少なくとも一部が含まれていればよい。可視光領域の一部が含まれていれば、炭化経路21を伸展させるエネルギーを吸収して発光しやすくなる。
【0027】
発光体12としては、公知の蛍光体が好適に用いられる。このような蛍光体としては、ZnS、ZnS:Ag,Al、ZnS:Cu,Al、YS:Eu、BaMgAl1017:Eu、ZnSiO:Mn、(Y,Gd)BO:Eu等が好適に用いられる。なお、蛍光体の記載において、「:」の前は母体を示し、後は付活剤を示す。蛍光体の中でも、付活剤を含有するものが好適に用いられる。
【0028】
蛍光体は、結晶化していることが好ましい。蛍光体の発光効率は、結晶構造の乱れにより低下する。特に、蛍光体の表面付近については、結晶構造の乱れが発生しやすく、発光効率が低下しやすい。このため、発光効率の低下を抑制して炭化の伸展を効果的に抑制する観点から、蛍光体は結晶化していることが好ましい。
【0029】
発光体12の平均粒径は、0.1μm以上が好ましい。平均粒径が0.1μm以上になると、発光特性が良好になるために好ましい。発光特性の観点から、平均粒径は、0.5μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましい。また、発光体12の平均粒径は、50μm以下が好ましい。50μm以下になると、電気絶縁体10の全体が均一に発光するために好ましい。均一に発光させる観点から、平均粒径は、30μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。なお、平均粒径は、球相当体積を基準とした粒度分布を測定し、累積分布をパーセント(%)で表した時の50%に相当する粒子径(メジアン径)である。
【0030】
発光体12の含有量は、誘電体11と発光体12との合計中、0.1体積%以上が好ましい。発光体12の含有量が0.1体積%以上である場合、発光体12の含有量が十分に多くなるために、炭化経路21を伸展させるエネルギーが効果的に低減される。発光体12の含有量は、炭化経路21を伸展させるエネルギーを低減する観点から、0.2体積%以上がより好ましく、0.3体積%以上がさらに好ましい。
【0031】
一方、発光体12の含有量が90体積%以下である場合、電気絶縁体10の製造に用いられる原料混合物である電気絶縁体用材料の粘度が低くなり、また電気絶縁体10の加工性や靭性が良好になる。発光体12の含有量は、電気絶縁体用材料の粘度、電気絶縁体10の加工性や靭性等の観点から、50体積%以下がより好ましく、10体積%以下がさらに好ましい。
【0032】
電気絶縁体10は、必要に応じて、かつ本発明の趣旨に反しない限度において、誘電体11および発光体12に加えて、これら以外の成分を含有できる。このような成分として、発光体12以外の無機粒子、誘電体11と発光体12との密着性を向上させる表面処理剤等が挙げられる。
【0033】
発光体12以外の無機粒子として、マイカ、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、酸化カルシウム、酸化チタン、三酸化ビスマス、二酸化セリウム、一酸化コバルト、酸化銅、三酸化鉄、酸化ホルミウム、酸化インジウム、酸化マンガン、酸化錫、酸化イットリウム、酸化亜鉛等の無機粒子が挙げられる。発光体12以外の無機粒子の含有量は、電気絶縁体10の全体中、30体積%以下が好ましく、20体積%以下がより好ましく、10体積%以下がさらに好ましい。
【0034】
表面処理剤としては、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等のカップリング剤が挙げられる。
【0035】
電気絶縁体10は、高電圧機器に好適に用いられる。高電圧機器として、真空遮断器、真空断路器、回転電機等が挙げられる。電気絶縁体10は、真空遮断器、真空断路器等における開閉機構、金属導体等の電気的絶縁性を確保するために好適に用いられる。また、電気絶縁体10は、回転電機におけるコイル等の電気的絶縁性を確保するために好適に用いられる。
【0036】
電気絶縁体10は、例えば、誘電体11の構成材料と発光体12とを少なくとも含有する原料混合物である電気絶縁体用材料を製造した後、この電気絶縁体用材料を所定の形状に成形することにより、または所定の部分に含浸させることにより、製造することができる。
【0037】
電気絶縁体用材料は、誘電体11の構成材料の全成分と発光体12とを一度に混合して製造してもよいし、誘電体11の構成材料の一部の成分と発光体12と混合した後、これに誘電体11の構成材料の残りの成分を混合して製造してもよい。例えば、誘電体11の構成材料がエポキシ化合物と硬化剤とからなる場合、エポキシ化合物と発光体12と混合した後、硬化剤を混合することにより、発光体12が均一に分散されるために好ましい。
【0038】
電気絶縁体用材料の成形は、一般注型法、加圧ゲル化法等により行われる。
【0039】
一般注型法の場合、まず加熱した金型内に注型対象物を設置する。注型対象物として、真空遮断器、真空断路器等の高電圧機器における開閉機構、金属導体等が挙げられる。この金型内に、電気絶縁体用材料を金型温度と同程度の温度まで加熱して注入する。この金型を加熱・真空炉の中に入れ、金型に電気絶縁体用材料を注入するときに巻き込まれた気泡を取り除く。その後、金型から注型対象物を取り外し、必要に応じて加熱により電気絶縁体用材料を完全に硬化させる。これにより、注型対象物の表面が電気絶縁体により覆われた注型物が得られる。
【0040】
加圧ゲル化法の場合、まず加熱した金型内に注型対象物を設置する。注型対象物として、真空遮断器、真空断路器等の高電圧機器における開閉機構、金属導体等が挙げられる。この金型の内部を減圧した後、電気絶縁体用材料を金型温度と同程度の温度まで加熱して注入する。注入後、金型の注入口から圧力を加える。その後、金型から注型対象物を取り外し、必要に応じて加熱により電気絶縁体用材料を完全に硬化させる。これにより、注型対象物の表面が電気絶縁体により覆われた注型物が得られる。
【0041】
また、高圧回転電機向けとして、含浸方式による電気絶縁体用材料と、プリプレグ方式による電気絶縁体用材料の製造方法がある。高圧回転電機の製造は、例えば、以下のようにして行われる。まず、複数の素線を束ねた導体の外周に集成マイカテープ等の絶縁テープを巻き回して固定子コイルとする。その後、この固定子コイルを固定子鉄心のスロットに挿入する。含浸方式では真空加圧含浸により電気絶縁体用材料を含浸させて硬化させるなどの手段がある。一方、プリプレグ方式では、絶縁テープ中に電気絶縁用材料が半硬化の状態で存在するので、含浸せず加熱液圧方式によって成形・硬化させるなどの手段がある。
【0042】
(結合層)
実施形態の電気絶縁体10においては、さらに炭化経路の伸展を抑制するために、誘電体11と発光体12との間に、これらに化学的に結合する結合層を設けることが好ましい。通常、このような結合層は発光体12の表面を覆うように設けられ、外側が誘電体11に結合するとともに、内側が発光体12に結合する。結合層の構成は、以下に示すように発光体12の表面状態や組成に応じて決定されることが好ましい。
【0043】
(発光体12の表面にヒドロキシル基がある場合、または発光体12が酸素原子を有する場合)
発光体12の表面にヒドロキシル基がある場合、または発光体12が酸素原子を有する場合、図2に示すようにアミノ基およびアルコキシル基を末端に有する化合物からなる結合層13を設けることが好ましい。
【0044】
表面にヒドロキシル基が形成される発光体12としては、ZnS、ZnS:Ag,Al、ZnS:Cu,Al、YS:Eu、BaMgAl1017:Eu、ZnSiO:Mn、(Y,Gd)BO:Eu等が挙げられる。また、表面にヒドロキシル基が形成されやすい発光体12として、酸素原子を有するものが挙げられ、YS:Eu、BaMgAl1017:Eu、ZnSiO:Mn、(Y,Gd)BO:Eu等が挙げられる。
【0045】
アミノ基およびアルコキシル基を末端に有する化合物としては、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤が挙げられる。以下、アミノ基およびアルコキシル基を末端に有する化合物を結合層用化合物と記して説明する。
【0046】
通常、発光体12においては、その組成にかかわらず、酸化により表面にヒドロキシル基が形成される。特に、酸素原子を有する発光体12においては、表面にヒドロキシル基が形成されやすい。発光体12の表面にヒドロキシル基が形成されている場合、結合層用化合物を被覆したとき、発光体12のヒドロキシル基と結合層用化合物のアルコキシル基とが反応して、アミノ基が外側となるように発光体12に結合層用化合物が結合する。
【0047】
一般に、アミノ基は誘電体11を形成するエポキシ樹脂等と反応しやすい。従って、上記したようにアミノ基が外側となるように配置されることで、発光体12どうしの間にエポキシ樹脂等からなる誘電体11が入り込みやすくなる。このようにして誘電体11と発光体12との親和性が向上することにより、誘電体11における発光体12の分散性が向上する。これにより、炭化経路21が発光体12に接触する確率が高くなり、さらに炭化経路21を伸展させるエネルギーが低減されて炭化経路21の伸展が抑制される。
【0048】
このような結合層13は、以下のようにして形成することができる。
【0049】
まず、発光体12の表面を結合層用化合物により被覆する。このような被覆は、以下のようにして行われる。まず、結合層用化合物を溶媒に溶解させた被覆液に発光体12を加えて、必要に応じて加熱を行いながら混合する。そして、濾過等の方法により、被覆液から発光体12を分離して乾燥させる。
【0050】
その後、このようにして被覆された発光体12と誘電体11の構成材料とを混合して電気絶縁体用材料を製造する。さらに、この電気絶縁体用材料を所定の形状に成形する。これにより、誘電体11と発光体12との間にこれらに化学的に結合する結合層13を形成することができる。
【0051】
(発光体12が硫黄原子を有する場合)
発光体12が硫黄原子を有する場合、酸素原子の有無にかかわらず、図3に示すように、メルカプト基およびアルコキシル基を末端に有する化合物からなる第1の層14ならびにアミノ基およびアルコキシル基を末端に有する化合物からなる第2の層15からなる結合層16を設けることが好ましい。
【0052】
硫黄原子を有する発光体12としては、ZnS、ZnS:Ag,Al、ZnS:Cu,Al、YS:Eu等が挙げられる。
【0053】
第1の層14を構成するメルカプト基およびアルコキシル基を末端に有する化合物としては、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤が挙げられる。以下、メルカプト基およびアルコキシル基を末端に有する化合物を第1の層用化合物と記して説明する。
【0054】
第2の層15を構成するアミノ基およびアルコキシル基を末端に有する化合物としては、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤が挙げられる。以下、メルカプト基およびアルコキシル基を末端に有する化合物を第2の層用化合物と記して説明する。
【0055】
発光体12が硫黄原子を有する場合、第1の層用化合物により被覆したとき、発光体12の硫黄原子と第1の層用化合物のメルカプト基とが反応して、アルコキシル基が外側となるように発光体12に第1の層用化合物が結合する。このような結合について、発光体の硫黄原子と第1の層用化合物のメルカプト基とが置換するという報告がある(Y.−q.Wang,W.−s.Zou/Talanta85(2011)469−475)。
【0056】
その後、第1の層用化合物が被覆された発光体12に第2の層用化合物を被覆すると、第1の層用化合物のアルコキシル基と第2の層用化合物のアルコキシル基とが反応して、アミノ基が外側となるように第1の層用化合物に第2の層用化合物が結合する。
【0057】
一般に、アミノ基は誘電体11を形成するエポキシ樹脂等と反応しやすい。従って、上記したようにアミノ基が外側となるように配置されることで、発光体12どうしの間にエポキシ樹脂等からなる誘電体11が入り込みやすくなる。このようにして誘電体11と発光体12との親和性が向上することにより、誘電体11における発光体12の分散性が向上する。これにより、炭化経路21が発光体12に接触する確率が高くなり、さらに炭化経路21を伸展させるエネルギーが低減されて炭化経路21の伸展が抑制される。
【0058】
このような結合層16については、既に説明した結合層13に比べて、炭化経路を伸展させるエネルギーが低減されて炭化経路の伸展が抑制される。この理由については必ずしも明らかではないが、以下のように考えられる。すなわち、発光体12を構成する硫黄原子との結合を利用することにより、発光体12と結合層16との結合確率が高まり、結果として誘電体11と発光体12とが強固に結合しやすくなる。これにより、発光体12どうしの間に誘電体11が入り込むことによる発光体12の分散性が向上することから、炭化経路を伸展させるエネルギーが低減して炭化経路の伸展が抑制されると考えられる。
【0059】
このような結合層16は、以下のようにして形成することができる。
【0060】
まず、発光体12の表面を第1の層用化合物および第2の層用化合物の順に被覆する。このような被覆は、以下のようにして行われる。まず、第1の層用化合物を溶媒に溶解させた第1の被覆液に発光体12を加えて、必要に応じて加熱を行いながら混合する。さらに、第2の層用化合物を溶媒に溶解させた第2の被覆液を加えて、必要に応じて加熱を行いながら混合する。そして、濾過等の方法により、第1の被覆液および第2の被覆液から発光体12を分離して乾燥させる。
【0061】
その後、このようにして被覆された発光体12と誘電体11の構成材料とを混合して電気絶縁体用材料を製造する。さらに、この電気絶縁体用材料を所定の形状に成形する。これにより、誘電体11と発光体12との間にこれらに化学的に結合する結合層16を形成することができる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明の実施形態を実施例に基づいて詳細に説明する。 なお、本発明の実施形態はこれらの実施例に限定されない。
【0063】
(実施例1)
エポキシ化合物としてビスフェノールA型エポキシ樹脂を主成分とする樹脂(ナガセケムテックス社製、商品名:CY221)と、発光体として結晶化したZnS粒子(堺化学工業社製、平均粒径7μm)とを混合して、エポキシ化合物および発光体の混合物を得た。混合としては、自転・公転ミキサー(シンキー社製、商品名:AR−250)を用いて、20分間の混合を行った後、10秒間の脱泡を行った。なお、上記発光体は、近紫外発光以上のエネルギーを吸収して、約500nm付近にブロードな発光ピークを有する緑色光を発光するものである。
【0064】
次に、上記したエポキシ化合物および発光体の混合物に、硬化剤として変性ポリアミンを主成分とする硬化剤(ナガセケムテックス社製、商品名:HY2967)を混合して、試験材料を製造した。混合としては、自転・公転ミキサー(シンキー社製、商品名:AR−250)を用いて、5分間の混合を行った後、1分間の脱泡を行った。
【0065】
なお、本実施例の試験材料については、エポキシ化合物100質量部に対して硬化剤を35質量部とした。また、発光体の含有量は、エポキシ化合物および硬化剤からなる誘電体と発光体との合計中、0.8体積%となるようにした。
【0066】
(実施例2)
結晶化したZnS:Cu,Al(堺化学工業社製、平均粒径7μm)に発光体を変更するとともに、発光体の含有量をエポキシ化合物および硬化剤からなる誘電体と発光体との合計中0.3体積%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして試験材料を製造した。
【0067】
(実施例3)
結晶化したZnS:Cu,Al(堺化学工業社製、平均粒径7μm)に発光体を変更するとともに、発光体の含有量をエポキシ化合物および硬化剤からなる誘電体と発光体との合計中0.8体積%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして試験材料を製造した。
【0068】
(比較例1)
発光体を含有させないこと以外は、実施例1と同様にして試験材料を製造した。
【0069】
次に、実施例および比較例の試験材料について、図4に示すような試験片30および測定装置40を用いて絶縁破壊時間を測定した。
【0070】
試験片30は、以下のようにして製造した。
スライドガラス31上に、絶縁性のスペーサ32、33を対向して配置した。スペーサ32、33の厚さは、それぞれ0.3mmとした。一方のスペーサ32上には、接地電極34として厚さが11μmのアルミ箔を配置した。他方のスペーサ33上には、対向電極35として先端曲率を5μm以下とした直径50μmのタングステン線(ニラコ社製、商品名:W−461107)を配置した。
【0071】
その後、スペーサ32とスペーサ33との間に試験材料36を流し込んだ。この際、気泡を巻き込まないように、試験材料36を慎重に流し込んだ。また、観察が容易になるように、試験材料36上にカバーガラス37を配置した。スライドガラス31とカバーガラス37との間隔は、間隔を調整するための図示しないスペーサにより、0.6mmに調整した。
【0072】
最後に、顕微鏡で観察しながら対向電極35であるタングステン線を操作して、接地電極34であるアルミ箔と対向電極35であるタングステン線との間隔を0.4mmに調整した。調整後、24時間放置して試験材料36を硬化させた。これにより、試験片30を製造した。
【0073】
測定装置40は、試験片30を撮影するためのマイクロスコープ41(KEYENCE社製、商品名:VH−Z75)と、この試験片30を撮影した動画を保存する制御装置42(KEYENCE社製、商品名:VHX−500)とを有するものとした。
【0074】
絶縁破壊時間の測定は、以下のようにして行った。
まず、表面における放電を防ぐために、試験片30をフロリナート(住友3M社製、商品名:FC−3283)中に配置した。そして、対向電極35であるタングステン線側に商用交流電圧を印加するとともに、接地電極34であるアルミ箔側を接地した。その後、電圧を0.6kV/secの条件で上昇させ、電圧が6kVに到達したところでその状態を維持した。
【0075】
そして、接地電極34であるアルミ箔と対向電極35であるタングステン線との間の様子をマイクロスコープ41により撮影して、これを制御装置42により動画として保存した。この保存された動画において、対向電極35であるタングステン線側に電気トリーが発生してから、この電気トリーが接地電極34であるアルミ箔側に達するまでの時間を測定して絶縁破壊時間とした。
【0076】
図5に、このようにして測定された絶縁破壊時間の結果を示す。なお、図5に示す絶縁破壊時間は、測定された絶縁破壊時間をワイブルプロット整理したときに得られる90%破壊確率での信頼区間95%の下限値を比較したものであり、比較例1の絶縁破壊時間を基準にして示したものである。
【0077】
図5から明らかなように、発光体を含有する場合、発光体を含有しないものに比べて絶縁破壊時間が長くなる。また、付活剤を含有する場合、付活剤を含有しないものに比べて絶縁破壊時間が長くなる。また、発光体の含有量が多くなるほど、絶縁破壊時間が長くなる。
【0078】
具体的には、実施例1のように発光体としてZnSを0.8体積%含有する場合、比較例1に比べて絶縁破壊時間が3%長くなる。また、実施例2のように発光体としてZnS:Cu,Alを0.3体積%含有する場合、比較例1に比べて絶縁破壊時間が23%長くなる。さらに、実施例3のように発光体としてZnS:Cu,Alを0.8体積%含有する場合、比較例1に比べて絶縁破壊時間が86%長くなる。
【0079】
(実施例4)
エポキシ化合物としてビスフェノールA型エポキシ樹脂を主成分とする樹脂(京セラケミカル社製、商品名:TVB2623)と、硬化剤としてアミン系硬化剤(京セラケミカル社製、商品名:TVB2624)とを、質量比で2:1となるように混合して、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物に発光体として結晶化したZnS:Cu,Al(堺化学工業社製、平均粒径3.6μm)を混合して試験材料を製造した。混合としては、自転・公転ミキサー(シンキー社製、商品名:AR−250)を用いて、20分間の攪拌を行った後、10秒間の脱泡を行った。なお、発光体の含有量は、エポキシ化合物および硬化剤からなる誘電体と発光体との合計中、0.8体積%となるようにした。
【0080】
(実施例5)
常温中、エタノール、純水、および結合層用化合物を三角フラスコ中において混合して、結合層を形成するための被覆液を得た。結合層用化合物には、アルコキシル基とアミノ基を有する3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業社製、商品名:KBE−903)を用いた。
【0081】
次に、この被覆液中に実施例4と同様の発光体を加えて、70℃で1時間混合した。その後、被覆液を濾過して発光体を分離した。さらに、この分離された発光体を80℃で1〜2時間乾燥させて、結合層用化合物により被覆された発光体を得た。
【0082】
別途、エポキシ化合物としてビスフェノールA型エポキシ樹脂を主成分とする樹脂(京セラケミカル社製、商品名:TVB2623)と、硬化剤としてアミン系硬化剤(京セラケミカル社製、商品名:TVB2624)とを質量比で2:1となるように混合して樹脂組成物を得た。
【0083】
その後、被覆が行われた発光体と樹脂組成物とを混合して試験材料を製造した。発光体の含有量は、エポキシ化合物および硬化剤からなる誘電体と発光体との合計中、0.8体積%となるようにした。また、混合としては、自転・公転ミキサー(シンキー社製、商品名:AR−250)を用いて、20分間の混合を行った後、10秒間の脱泡を行った。
【0084】
(実施例6)
常温中、エタノール、純水、および第1の層用化合物を三角フラスコ中において混合して、結合層における第1の層を形成するための第1の被覆液を得た。第1の層用化合物には、アルコキシル基とメルカプト基を有する(3−メルカプトプロピル)トリメトキシシラン(東レダウコーニング社製、商品名:SH−6062)を用いた。
【0085】
別途、常温中、エタノールおよび第2の層用化合物を三角フラスコ中において混合して、結合層における第2の層を形成するための第2の被覆液を得た。第2の層用化合物には、アルコキシル基とアミノ基を有する3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン(東京化成工業社製、商品名:A0774)を用いた。
【0086】
次に、第1の被覆液中に実施例4と同様の発光体を加えて、70℃で1時間混合した。さらに、この発光体が加えられた第1の被覆液に第2の被覆液を加えて、70℃で1時間混合した。その後、第1の被覆液および第2の被覆液を濾過して発光体を分離した。さらに、この分離された発光体を80℃で1〜2時間乾燥させて、第1の層用化合物および第2の層用化合物により被覆された発光体を得た。
【0087】
別途、エポキシ化合物としてビスフェノールA型エポキシ樹脂を主成分とする樹脂(京セラケミカル社製、商品名:TVB2623)と、硬化剤としてアミン系硬化剤(京セラケミカル社製、商品名:TVB2624)とを質量比で2:1となるように混合して樹脂組成物を得た。
【0088】
その後、被覆が行われた発光体と樹脂組成物とを混合して試験材料を製造した。発光体の含有量は、エポキシ化合物および硬化剤からなる誘電体と発光体との合計中、0.8体積%となるようにした。また、混合としては、自転・公転ミキサー(シンキー社製、商品名:AR−250)を用いて、20分間の混合を行った後、10秒間の脱泡を行った。
【0089】
次に、実施例4〜6の試験材料を厚さ2mmの板状に硬化させて試験片とした。
なお、実施例5の試験片については、発光体と誘電体との間に、3−アミノプロピルトリエトキシシランからなり、発光体および誘電体に結合する結合層が形成されている。また、実施例6の試験片については、発光体と誘電体との間に、発光体側から順に(3−メルカプトプロピル)トリメトキシシランからなる第1の層および3−(2アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシランからなる第2の層を有し、発光体および誘電体に結合する結合層が形成されている。
【0090】
これらの試験片について、切断後、この切断面にArイオン加工を行った。Arイオン加工には、日本電子社製のクロスセクションポリッシャ(IB−09020)を用いた。その後、Arイオン加工が行われた切断面についてSEM観察を行った。
【0091】
観察像は、発光体と誘電体との二値画像とした。そして、この二値画像を用いて発光体の分散を求めた。発光体の分散は、二値画像上で発光体の重心間の二等分線によってできる面積分布によって評価した(ボロノイ分割法)。
【0092】
図6に、面積分布の変動係数(標準偏差/平均値)を示す。変動係数は、ばらつきの指標となるものであり、その値が小さいほど分散性が高いことを表す。結合層を有する実施例5、6の試験片については、結合層を有しない実施例4の試験片に比べて変動係数が小さく、分散性に優れることがわかる。
【0093】
ここで、実施例5の試験片については、酸素原子を有する発光体に形成されるヒドロキシル基と結合層用化合物のアルコキシル基とが反応することにより、アミノ基が外側となるように発光体に結合層用化合物が結合している。また、この結合層用化合物のアミノ基が誘電体を構成するエポキシ樹脂と反応して結合している。このようにして発光体と誘電体との間にこれらに結合する結合層が形成されることにより、発光体どうしの間に誘電体が入り込みやすくなり、発光体の分散性が向上していると考えられる。
【0094】
実施例6の試験片については、発光体の硫黄原子と第1の層用化合物のメルカプト基とが反応することにより、アルコキシル基が外側となるように発光体に第1の層用化合物が結合している。また、第1の層用化合物のアルコキシル基と第2の層用化合物のアルコキシル基とが反応することにより、アミノ基が外側となるように第1の層用化合物に第2の層用化合物が結合している。さらに、この第2の層用化合物のアミノ基が誘電体を構成するエポキシ樹脂と反応して結合している。
【0095】
このようにして発光体と誘電体との間にこれらに結合する結合層が形成されることにより、発光体どうしの間にエポキシ樹脂からなる誘電体が入り込みやすくなり、発光体の分散性が向上していると考えられる。特に、実施例6の試験片については、発光体を構成する硫黄原子との結合を利用することから、実施例5の試験片に比べて、発光体の分散性が向上していると考えられる。
【0096】
次に、実施例4、5の試験材料について、既出の方法により絶縁破壊時間を測定した。図7に、このようにして測定された絶縁破壊時間の結果を示す。なお、図7では、測定された絶縁破壊時間をワイブルプロット整理したときに得られる1%破壊確率での信頼区間95%の下限値を比較した。また、図7では、実施例4の試験材料の結果を基準にして示した。
【0097】
図7に示されるように、実施例5の試験材料については、実施例4の試験材料に比べて、絶縁破壊時間が長くなることがわかる。
【0098】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0099】
10…電気絶縁体、11…誘電体、12…発光体、13…結合層、14…第1の層、15…第2の層、16…結合層、30…試験片、31…スライドガラス、32,33…スペーサ、34…接地電極、35…対向電極、36…試験材料、37…カバーガラス、40…測定装置、41…マイクロスコープ、42…制御装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7