特許第6585451号(P6585451)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6585451燃料電池用ゴムガスケットおよび燃料電池シール体の製造方法、並びにそれに用いられる水系離型剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6585451
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】燃料電池用ゴムガスケットおよび燃料電池シール体の製造方法、並びにそれに用いられる水系離型剤
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/60 20060101AFI20190919BHJP
   B29C 33/02 20060101ALI20190919BHJP
   B29C 35/02 20060101ALI20190919BHJP
   H01M 8/0286 20160101ALI20190919BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20190919BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20190919BHJP
【FI】
   B29C33/60
   B29C33/02
   B29C35/02
   H01M8/0286
   C08J3/24 ZCES
   !H01M8/10 101
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-192577(P2015-192577)
(22)【出願日】2015年9月30日
(65)【公開番号】特開2017-65042(P2017-65042A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2018年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】林 宏和
(72)【発明者】
【氏名】山本 健次
(72)【発明者】
【氏名】北 晋次
【審査官】 山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−115149(JP,A)
【文献】 特開2013−199055(JP,A)
【文献】 特開2003−145588(JP,A)
【文献】 特開2009−094056(JP,A)
【文献】 特開昭61−278154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00−33/76
B29C 35/02
H01M 8/0286
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用ゴムガスケットの成形用金型の内周面に、下記(A)および(B)成分を含有する導電率3.7〜7857μ/cmの水系離型剤を、その塗工膜の乾燥後の厚みが0.001〜10μmとなるよう塗布した後、上記金型内でゴム組成物の架橋成形を行うことを特徴とする燃料電池用ゴムガスケットの製造方法。
(A)1分子中にフッ素含有基と、ホスホン基,スルホン基,カルボキシル基,またはエーテル基である親水基とを有する化合物。
(B)水。
【請求項2】
上記(A)成分である化合物が、ホスホン酸塩に由来の化合物、スルホン酸塩に由来の化合物、カルボン酸塩に由来の化合物、およびエーテル化合物からなる群から選ばれた少なくとも一つである、請求項記載の燃料電池用ゴムガスケットの製造方法。
【請求項3】
上記水系離型剤の固形分濃度が0.0047〜10重量%である、請求項1または2記載の燃料電池用ゴムガスケットの製造方法。
【請求項4】
金型内周面に対する上記水系離型剤の塗工を、その塗工膜の乾燥後の重量が、400mm×200mmの面積当たり、0.0001036〜1.4504gとなるよう塗布して行う、請求項1〜のいずれか一項に記載の燃料電池用ゴムガスケットの製造方法。
【請求項5】
上記金型として、その内周面にニッケル表面処理がなされた金型を用いる、請求項1〜のいずれか一項に記載の燃料電池用ゴムガスケットの製造方法。
【請求項6】
上記ゴム組成物として、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合ゴム(EPDM)およびエチレン−プロピレン共重合ゴム(EPM)の少なくとも一方をポリマーとするエチレン−プロピレン系ゴム組成物を用いる、請求項1〜のいずれか一項に記載の燃料電池用ゴムガスケットの製造方法。
【請求項7】
上記エチレン−プロピレン系ゴム組成物の架橋剤として、有機過酸化物を用いる、請求項記載の燃料電池用ゴムガスケットの製造方法。
【請求項8】
燃料電池構成部材と燃料電池用ゴムガスケットとが一体化してなる燃料電池シール体の製造方法であって、燃料電池用ゴムガスケットの成形用金型の内周面に、下記(A)および(B)成分を含有する導電率3.7〜7857μ/cmの水系離型剤を、その塗工膜の乾燥後の厚みが0.001〜10μmとなるよう塗布した後、燃料電池構成部材を上記金型内に配置し、上記金型内で、ゴム組成物を、燃料電池構成部材に接触させた状態で架橋成形することを特徴とする燃料電池シール体の製造方法。
(A)1分子中にフッ素含有基と、ホスホン基,スルホン基,カルボキシル基,またはエーテル基である親水基とを有する化合物。
(B)水。
【請求項9】
下記(A)および(B)成分を含有し、導電率が3.7〜7857μ/cmの範囲であることを特徴とする燃料電池用ゴムガスケット成形型用水系離型剤。
(A)1分子中にフッ素含有基と、ホスホン基,スルホン基,カルボキシル基,またはエーテル基である親水基とを有する化合物。
(B)水。
【請求項10】
上記(A)成分である化合物が、ホスホン酸塩に由来の化合物、スルホン酸塩に由来の化合物、カルボン酸塩に由来の化合物、およびエーテル化合物からなる群から選ばれた少なくとも一つである、請求項記載の燃料電池用ゴムガスケット成形型用水系離型剤。
【請求項11】
上記水系離型剤の固形分濃度が0.0047〜10重量%である、請求項9または10記載の燃料電池用ゴムガスケット成形型用水系離型剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用ゴムガスケットおよび燃料電池シール体の製造方法、並びにそれに用いられる水系離型剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、ガスの電気化学反応により電気を発生させ、発電効率が高く、排出されるガスがクリーンで環境に対する影響が極めて少ない。なかでも固体高分子型燃料電池は、比較的低温で作動させることができ、大きな出力密度を有する。このため、発電用、自動車用電源等、種々の用途が期待される。
【0003】
固体高分子型燃料電池においては、膜電極接合体(MEA)等をセパレータで挟持したセルが発電単位となる。MEAは、電解質となる高分子膜(電解質膜)と、電解質膜の厚さ方向両面に配置された一対の電極触媒層(燃料極(アノード)触媒層、酸素極(カソード)触媒層)と、からなる。一対の電極触媒層の表面には、さらにガスを拡散させるための多孔質層が配置される。燃料極側には水素等の燃料ガスが、酸素極側には酸素や空気等の酸化剤ガスがそれぞれ供給される。供給されたガスと電解質と電極触媒層との三相界面における電気化学反応により、発電が行われる。固体高分子型燃料電池は、上記セルを多数積層したセル積層体を、セル積層方向の両端に配置したエンドプレート等により締め付けて構成される。
【0004】
セパレータには、各々の電極に供給されるガスの流路や、発電の際の発熱を緩和するための冷媒の流路が形成される。例えば、各々の電極に供給されるガスが混合すると、発電効率が低下する等の問題が生じる。また、電解質膜は、水を含んだ状態でプロトン導電性を有する。このため、作動時には、電解質膜を湿潤状態に保つ必要がある。したがって、ガスの混合、ガスおよび冷媒の漏れを防止すると共に、セル内を湿潤状態に保持するためには、MEAおよび多孔質層の周囲や、隣り合うセパレータ間のシール性を確保することが重要となる。これらの構成部材をシールするシール部材としては、例えば、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合ゴム(EPDM)、エチレン−プロピレン共重合ゴム(EPM)等からなるゴムガスケットが提案されている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−94056号公報
【特許文献2】特開2010−146781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のような燃料電池用ゴムガスケットは、燃料電池の発電性、ガスケットの接着性、ガスケットの寸法精度に悪影響を与えないよう、離型剤無しで、ニッケル表面処理がなされた金型を用いて成形することが好ましいとされてきた。
【0007】
しかしながら、上記のように離型剤を使用しない手法では、上記ガスケットの成形を繰り返し行うことにより、ガスケット材料のゴムが金型表面(金型内周面)に密着してニッケル表面処理が機能しなくなり、金型の耐久性が低くなるという問題がある。そのため、上記手法は、金型のメンテナンス費用が増大する傾向にある。
【0008】
また、本発明者らが、従来使用されている離型剤に関する検討を行ったところ、例えば、溶剤系のフッ素系離型剤は、ガスケットと燃料電池構成部材の界面に存在し、接着性に悪影響を与えることから、ガスケットと燃料電池構成部材との接着が低下するといった問題があるため、その使用が困難であった。また、シリコーン系離型剤は、Si成分が移行し、発電に悪影響を与える問題がある。また、ワックス系離型剤は、厚膜(30〜50μm)でしか塗布することができなく、しかも、ワックス系離型剤自体の分子間結合が弱いことに起因し、その塗膜が破壊されて層間剥離しやすいために、ガスケットの寸法精度を悪化させる問題がある。さらに、これらの離型剤は、金型表面に塗布した後、容易に洗浄できないものも多いことから、金型汚染や、そのメンテナンス費用の増大の要因となる。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、燃料電池の発電性、ガスケットの接着性、ガスケットの寸法精度に悪影響を与えずに、金型の耐久性等を向上させることのできる、燃料電池用ゴムガスケットおよび燃料電池シール体の製造方法、並びにそれに用いられる水系離型剤の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、燃料電池用ゴムガスケットの成形用金型の内周面に、下記(A)および(B)成分を含有する導電率3.7〜7857μ/cmの水系離型剤を、その塗工膜の乾燥後の厚みが0.001〜10μmとなるよう塗布した後、上記金型内でゴム組成物の架橋成形を行う、燃料電池用ゴムガスケットの製造方法を第1の要旨とする。
(A)1分子中にフッ素含有基と、ホスホン基,スルホン基,カルボキシル基,またはエーテル基である親水基とを有する化合物。
(B)水。
【0011】
また、本発明は、燃料電池構成部材と燃料電池用ゴムガスケットとが一体化してなる燃料電池シール体の製造方法であって、燃料電池用ゴムガスケットの成形用金型の内周面に、下記(A)および(B)成分を含有する導電率3.7〜7857μ/cmの水系離型剤を、その塗工膜の乾燥後の厚みが0.001〜10μmとなるよう塗布した後、燃料電池構成部材を上記金型内に配置し、上記金型内で、ゴム組成物を、燃料電池構成部材に接触させた状態で架橋成形する、燃料電池構成部材の製造方法を第2の要旨とする。
(A)1分子中にフッ素含有基と、ホスホン基,スルホン基,カルボキシル基,またはエーテル基である親水基とを有する化合物。
(B)水。
【0012】
また、本発明は、下記(A)および(B)成分を含有し、導電率が3.7〜7857μ/cmの範囲である燃料電池用ゴムガスケット成形型用水系離型剤を第3の要旨とする。
(A)1分子中にフッ素含有基と、ホスホン基,スルホン基,カルボキシル基,またはエーテル基である親水基とを有する化合物。
(B)水。
【0013】
すなわち、本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、燃料電池の発電性、ガスケットの接着性、ガスケットの寸法精度に悪影響を与えない離型剤を選定し、その離型剤を金型に塗布することにより、金型の耐久性を向上させることを検討し、各種実験を重ねた。その結果、1分子中にフッ素含有基と親水基を含有する化合物が離型剤の場合、非常に薄膜に塗布しやすく、しかも、このように非常に薄く塗布しても、良好な離型性が得られ、金型の耐久性を向上させることができることを突き止めた。さらに、上記化合物が離型剤の場合、ガスケットを構成するゴムとのなじみが良く、ガスケットと燃料電池構成部材の界面に存在しにくいために、ガスケットと燃料電池構成部材の接着に悪影響を与えないことを突き止めた。しかしながら、上記のような離型剤を用いた場合であっても、金型成形されるガスケットが燃料電池用ゴムガスケットであるときには、その離型剤の導電性に起因し、燃料電池の発電への悪影響が認められた。したがって、燃料電池用ゴムガスケットの成形用離型剤においては、この点の改善も求められる。そして、上記の離型剤の導電性の高さの大きな要因として、その希釈に通常使用される水道水に含まれる、Na,Ca等の金属イオン成分が挙げられることを突き止めた。そして、上記希釈に用いる溶媒も、イオン交換水等の、金属イオン成分が少ない水を使用し、離型剤の導電率を、3.7〜7857μs/cmといった非常に低い値に設定することにより、所期の目的が達成できることを見いだし、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0014】
このように、本発明の燃料電池用ゴムガスケットおよび燃料電池シール体の製造方法では、その成形用金型の内周面に、1分子中にフッ素含有基および親水基を有する化合物と水とを含有する導電率3.7〜7857μs/cmの水系離型剤が塗布される。このことから、燃料電池の発電性、ガスケットの接着性、ガスケットの寸法精度に悪影響を与えずに、金型の耐久性等を向上させることができる。なお、ガスケットの接着性は、ガスケットを成形させながら燃料電池構成部材等の相手部材と接着させる場合と、成形されたガスケットを燃料電池構成部材と後接着させる場合とがあるが、双方とも良好な接着性を得ることができる。また、上記化合物は親水基を含有しているため、水に対しての分散が良く、そのため、金型表面に付着した水系離型剤を洗浄する際も、容易に水洗浄することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】燃料電池シール体の一例を示す断面図である。
図2】燃料電池用ゴムガスケットを使用した一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0017】
本発明の燃料電池用ゴムガスケットの製造方法は、先に述べたように、燃料電池用ゴムガスケットの成形用金型の内周面に、下記(A)および(B)成分を含有する導電率3.7〜7857μs/cmの水系離型剤を塗布した後、上記金型内でゴム組成物の架橋成形を行うことにより、行われる。
(A)1分子中にフッ素含有基と親水基とを有する化合物。
(B)水。
【0018】
上記のように、水系離型剤には、その導電率が3.7〜7857μs/cmのものが使用される。そして、本発明の製造方法における作用効果の観点から、好ましくは、導電率が3.7〜1100μs/cmの水系離型剤が使用され、より好ましくは、導電率が3.7〜733μs/cmの水系離型剤が使用される。なお、上記のような非常に低い導電率に設定するには、その希釈に用いる溶媒も、イオン交換水等の、金属イオン成分が少ない水を使用する必要がある。また、上記導電率は、例えば、横河電機社製の導電率計であるパーソナルSCメータ SC72により測定することができる。
【0019】
上記(A)成分である化合物は、特に、その化合物の有する親水基が、ホスホン基(アミノリン酸基)、スルホン基(スルホン酸基)、カルボキシル基、またはエーテル基(エーテル結合を有するもの)であることが、ガスケットを構成するゴムとのなじみが良く、ガスケットと燃料電池構成部材の界面に存在しにくいために、ガスケットと燃料電池構成部材の接着に悪影響を与えない傾向が顕著に出るため、好ましい。
【0020】
上記のような親水基を有する化合物としては、具体的には、ホスホン酸塩に由来の化合物、スルホン酸塩に由来の化合物、カルボン酸塩に由来の化合物、エーテル化合物があげられ、これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なお、上記のように「…に由来の化合物」としているのは、上記ホスホン酸塩等が水に溶解されイオン解離されたものを、(A)成分の化合物として規定しているためである。
【0021】
上記(A)成分の化合物は、より具体的には、下記の一般式(1)で表される。
【0022】
【化1】
【0023】
上記式(1)において、m,nは整数である。Mは、H,K,NH4,NH(CH33である。なかでも、より発電に悪影響を与えないようにするには、Mは、H,Kが好ましい。
【0024】
また、上記水系離型剤は、その固形分濃度が0.0047〜10重量%であることが、ガスケットと燃料電池構成部材の接着への影響の観点から好ましく、同様の観点から、上記水系離型剤の固形分濃度は、より好ましくは0.07〜1.4重量%の範囲である。
【0025】
そして、金型内周面に対する上記水系離型剤の塗工を、その塗工膜の乾燥後の厚みが0.001〜10μmとなるよう塗布して行うことが、ガスケットの寸法精度等の観点から好ましく、同様の観点から、上記水系離型剤の塗工膜の乾燥後の厚みは、より好ましくは0.001〜1μmの範囲である。
【0026】
また、金型内周面に対する上記水系離型剤の塗工を、その塗工膜の乾燥後の重量が、400mm×200mmの面積当たり、0.0001036〜1.4504gとなるよう塗布して行うことが、ガスケットの寸法精度等の観点から好ましく、同様の観点から、上記水系離型剤の塗工膜の乾燥後の重量は、より好ましくは、400mm×200mmの面積当たり0.000259〜0.0518gの範囲である。
【0027】
また、上記金型として、その内周面にニッケル表面処理がなされた金型を用いることが、離型性を高める観点から、好ましい。
【0028】
本発明の燃料電池用ゴムガスケットの形成材料として用いられるゴム組成物としては、そのポリマーとして、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合ゴム(EPDM)やエチレン−プロピレン共重合ゴム(EPM)といったエチレン−プロピレン系ゴム、シリコーンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、水素添加アクリロニトリル−ブタジエンゴム(H−NBR)等を用いたものがあげられる。なかでも、耐候性、耐酸性の観点から、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合ゴム(EPDM)やエチレン−プロピレン共重合ゴム(EPM)といったエチレン−プロピレン系ゴムが好ましく用いられる。また、上記エチレン−プロピレン系ゴム組成物を用いる場合、その架橋剤として、有機過酸化物を用いることが、固体高分子膜の電解質膜表面触媒への影響の観点から好ましい。また、上記ゴム組成物においては、ポリマーや架橋剤の他にも、加硫促進剤、加硫助剤、老化防止剤、プロセスオイル等を必要に応じて適宜に配合することも可能である。
【0029】
なお、上記ゴムガスケットのみを製造するのであれば、先に述べたように、その成形用金型の内周面に、前記特定の水系離型剤を塗布した後、上記金型内でゴム組成物の架橋成形を行うことにより、製造することが可能であるが、例えば、燃料電池構成部材である、金属セパレータ、膜電極接合体(MEA)といったものと、上記ゴムガスケットとを一体化して、燃料電池シール体を製造するのであれば、以下のようにして製造することができる。すなわち、燃料電池用ゴムガスケットの成形用金型の内周面に、下記(A)および(B)成分を含有する導電率3.7〜7857μs/cmの水系離型剤を塗布した後、燃料電池構成部材を上記金型内に配置し、上記金型内で、ゴム組成物を、燃料電池構成部材に接触させた状態で架橋成形するといった製造方法である。なお、本製造方法における各要件ないし各構成要件の好適な範囲のものは、前記の、燃料電池用ゴムガスケットの製造方法に準ずる。
(A)1分子中にフッ素含有基と親水基とを有する化合物。
(B)水。
【0030】
ここで、燃料電池シール体の一例を図1に示す。図1は、複数枚のセルが積層されてなる燃料電池における単一のセル1を主として示したものであり、セル1は、MEA2と、ガス拡散層(GDL)3と、ガスケット4aと、セパレータ5と、接着層6を備えているが、先の製造方法に基づき、ガスケット4aと、セパレータ5等とを接着剤レスで一体化するのであれば、上記接着層6は不要となる。
【0031】
MEA2は、図示しないが、電解質膜を挟んで積層方向両側に配置されている一対の電極からなる。電解質膜および一対の電極は、矩形薄板状を呈している。上記MEA2を挟んで積層方向両側には、ガス拡散層3が配置されている。上記ガス拡散層3は、多孔質層で、矩形薄板状を呈している。
【0032】
上記セパレータ5は、チタン等の金属製のものが好ましく、導通信頼性の観点から、DLC膜(ダイヤモンドライクカーボン膜)やグラファイト膜等の炭素薄膜を有する金属セパレータが特に好ましい。上記セパレータ5は、矩形薄板状を呈しており、長手方向に延在する溝が合計六つ凹設されており、この溝により、セパレータ5の断面は、凹凸形状を呈している。セパレータ5は、ガス拡散層3の積層方向両側に、対向して配置されている。ガス拡散層3とセパレータ5との間には、凹凸形状を利用して、電極にガスを供給するためのガス流路7が区画されている。そして、固体高分子型燃料電池等の燃料電池の作動時には、燃料ガスおよび酸化剤ガスが、各々ガス流路7を通じて供給される。
【0033】
上記ガスケット4aは、矩形枠状を呈している。そして、上記ガスケット4aは、MEA2やガス拡散層3の周縁部、およびセパレータ5に接着され、MEA2やガス拡散層3の周縁部を封止している。なお、図1において、ガスケット4aは、上下に分かれた2個の部材を使用しているが、両者を合わせた単一のガスケットであっても差し支えない。
【0034】
さらに、本発明の製造方法により得られた燃料電池用ゴムガスケットを用いた他の使用例を図2に示す。図2は、矩形薄板状を呈し、長手方向に延在する溝が合計六つ凹設された、上述の断面凹凸形状を呈するセパレータ5の周縁部に、接着層6を介して、矩形状で断面凸部形状のリップ4bが設けられてなる部材である。そして、上記リップ4bとして、本発明の燃料電池用ゴムガスケットが用いられる。なお、図2に示す部材において、セパレータ5とリップ4bとが接着層6を介さず直接接着された態様もあげられる。
【実施例】
【0035】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、その要旨を超えない限り、これら実施例に限定されるものではない。
【0036】
まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示す離型剤(i)〜(iv)、および溶媒(α)〜(γ)を準備した。
【0037】
〔離型剤(i)〕
下記の式(2)で示される化合物を主成分とするフッ素水系離型剤(フリリースGP−10、ネオス社製)
【0038】
【化2】
【0039】
〔離型剤(ii)〕
下記の式(3)で示される化合物を主成分とするフッ素水系離型剤(フタージェント212M、ネオス社製)
【0040】
【化3】
【0041】
〔離型剤(iii)〕
フッ素溶剤系離型剤(スミモールドF1、住鉱潤滑剤社製)
【0042】
〔離型剤(iv)〕
シリコーン系離型剤(キュアコートRM1412、中京化成工業社製)
【0043】
〔溶媒(α)〕
イオン交換樹脂により不純物を取り除いた、イオン交換水。
【0044】
〔溶媒(β)〕
有機溶媒(ブタン)
【0045】
〔溶媒(γ)〕
水道水
【0046】
[実施例1〜9、比較例1〜6]
後記の表1〜表2に示す組合せで、離型剤と溶媒とを混合し、同表に示す導電率および固形分濃度の離型剤液を調製した。なお、離型剤液の導電率は、液の状態で、導電率計(パーソナルSCメータ SC72、横河電機社製)により測定した。
そして、上記離型剤液に関し、下記の基準に従い、各特性の評価を行った。これらの結果を後記の表1〜表2に併せて示した。
なお、各特性の評価に際し、金型内周面等に上記離型剤液を塗布する場合、後記の表1〜表2に示す塗工膜厚み(塗工膜の乾燥後の厚み)、塗工膜重量(塗工膜の乾燥後の、400mm×200mmの面積当たりの重量)となるよう、塗布した。また、各特性の評価に使用されるゴム組成物としては、EPDM(住友化学社製、エスプレン505)100重量部と、軟化剤(出光興産社製、ダイアナプロセスPW−150)20重量部と、GPF級カーボンブラック(キャボットジャパン社製、ショウブラックIP200)45重量部とを、バンバリーミキサーを用いて120℃で5分間混練した後、その混練物を冷却し、さらに、有機過酸化物(日油社製、パーヘキサC−40)5重量部と、架橋助剤(大内新興化学工業社製、バルノックPM)0.8重量部とを加え、オープンロールを用いて50℃で10分間混練し、調製したものを用いた。さらに、平板状ゴム成形体としては、このゴム組成物をプレス成形した、幅25mm、長さ60mm、厚み5mmの平板状ゴム成形体を用いた。
【0047】
<発電への影響>
金属イオン量が多いと発電に悪影響を与えるため、離型剤液の導電率で規定した。基準として、734(μs/cm)未満を◎、734〜7857(μs/cm)を○、7857(μs/cm)をより大きい場合を×と評価した。
【0048】
<セパレータとの接着性>
金属部材であるチタン板(幅25mm、長さ60mm、厚み0.1mm)の表面に、接着剤(ロード・ファー・イースト社製、AP−133)を、その塗布後の厚みが80nmになるよう、スプレー塗布した。そして、前記作製の平板状ゴム成形体(未加硫)の上に、離型剤液を塗布し、その塗布面とチタン板の接着剤面を重ね合せて積層し、150℃で10分間保持することによりゴムを加硫し、金属と加硫ゴムとが接着してなる積層体(接着評価サンプルのテストピース)を作製した。このようにして得られた積層体に対し、JIS K 6256−2(2006)に準拠した90°剥離試験を行った際の、チタン板側の接着界面の目視評価を、下記の評価基準に従い行った。
(評価基準)
○:接着界面にゴムのみが観察された。
△:接着界面にゴムとプライマー(または金属部材)の両方が観察された。
×:接着界面にゴムが観察されず、プライマーまたは金属部材が観察された。
【0049】
<ガスケットの寸法精度>
内周面にニッケル表面処理がなされた燃料電池用ゴムガスケットの成形用金型に、離型剤液を塗布した後、接着剤が塗布された金属チタン製のセパレータ(10cm角×厚み0.1mm)と、前記ゴム組成物からなる未加硫ゴム成形体とを、上記金型内の所定箇所に配置し、150℃で10分間保持することにより、未加硫ゴム成形体を架橋させた。これにより、セパレータの表面中央部に、ゴムガスケット(半円形状、厚み2mm×幅4mm×長さ8cm)を接着形成させた。このものを10個作製し、レーザー顕微鏡(型グレード名:VK−X200、キーエンス社製)によりガスケットの厚みを測定した。そして、その寸法精度、すなわち、{(ガスケットの厚みの最大値−ガスケットの厚みの最小値)/(ガスケットの厚みの設計値(2mm))}×100が、3%未満であるものを○、3%〜5%であるものを△、5%を超えるものを×と評価した。
【0050】
<水洗浄性>
水洗浄性は、離型剤液の水との溶解性で判断した。すなわち、離型剤液を、イオン交換水(水道水が溶媒の離型剤については、水道水)中に、離型剤液の濃度が10重量%となるように混合し(計30ml)、1日放置した。その後、目視観察により、上記離型剤液が透明状態であるものを○、沈殿物があるものを×と評価した。
【0051】
<金型離型性>
前記「ガスケットの寸法精度」の評価の際に用いたサンプルと同様のものを一回作製した。そして、そのときのサンプルの状態を目視観察した。すなわち、サンプルの状態から、ゴム破損やセパレータの変形がみられなかったものを◎、ゴム破損はみられたがセパレータの変形はみられなかったものを○、ゴム破損もセパレータの変形もみられたものを×と評価した。
【0052】
<金型耐久性>
前記「ガスケットの寸法精度」の評価の際に用いたサンプルと同様のものを作製した。その後、金型を、各々の離型剤液に使用の溶媒と同じもの(実施例1ならイオン交換水)で洗浄し、再度、上記サンプルを作製した。このサイクルを繰り返し、100回上記サンプルを作製し終えた後、100個目のサンプルの状態を目視観察した。そして、サンプルの状態から、ゴム破損やセパレータの変形がみられなかったものを◎、ゴム破損はみられたがセパレータの変形はみられなかったものを○、ゴム破損もセパレータの変形もみられたものを×と評価した。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
上記表の結果から、実施例の離型剤液を使用して金型成形したものは、その離型剤液の使用による発電への影響もなく、また、実施例の離型剤液を使用することにより、セパレータとの接着性、ガスケットの寸法精度、水洗浄性、金型離型性、金型耐久性に支障をきたすことがないと認められた。
【0056】
これに対し、比較例1および比較例2の離型剤液は、有機溶剤系であるため、セパレータとの接着性、水洗浄性等に支障が生じた。比較例3では、離型剤液を使用せずに金型成形等を行っているが、金型耐久性に支障が生じた。比較例4〜6では、実施例と同様の離型剤種を用いているが、その離型剤液の導電率が、本願に規定された範囲から外れており、導電率が低すぎるもの(比較例4)は、離型剤の濃度が薄く、離型剤でカバーしきれなくなり金型内周面のニッケルメッキ層が摩耗するため、金型耐久性に支障が生じる結果となった。また、導電率が高すぎるもの(比較例5,6)は、それにより発電への悪影響が生じる結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の燃料電池用ゴムガスケットおよび燃料電池シール体の製造方法では、その成形用金型の内周面に、特定の水系離型剤が塗布される。そして、上記水系離型剤は、燃料電池用ゴムガスケットおよび燃料電池シール体の製造において使用されることに特化したものであるが、他の製品の金型成形時に離型剤として使用することも可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 セル
2 MEA
3 ガス拡散層
4a ガスケット
4b リップ
5 セパレータ
6 接着層
7 ガス流路
図1
図2