特許第6585463号(P6585463)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6585463
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】原子力施設用の水素濃度測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/04 20060101AFI20190919BHJP
   G21C 17/00 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   G01N27/04 F
   G21C17/00 040
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-208691(P2015-208691)
(22)【出願日】2015年10月23日
(65)【公開番号】特開2017-83190(P2017-83190A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】特許業務法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳生 基茂
(72)【発明者】
【氏名】中村 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】羽生 大仁
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 幸基
(72)【発明者】
【氏名】加藤 康裕
【審査官】 小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−042647(JP,A)
【文献】 特開2006−284327(JP,A)
【文献】 特開平09−145655(JP,A)
【文献】 特開昭57−128841(JP,A)
【文献】 中国実用新案第202612744(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00 − G01N 27/24
G21C 17/00 − G21C 17/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素吸蔵により電気抵抗値が変化する水素吸蔵能を有する金属線が、水素透過性を有する保護コーティング層によって被覆された検知部と前記検知部を固定する固定部とを備えた水素濃度測定素子と、
前記水素濃度測定素子を収容可能で、かつ、前記水素濃度測定素子から取り外し可能な構造を有する保護容器であって、前記保護コーティング層と同一材料からなる保護コーティング層を有する保護容器と、
を備えた原子力施設用の水素濃度測定装置
【請求項2】
前記保護コーティング層は、無機物からなる請求項1に記載の原子力施設用の水素濃度測定装置
【請求項3】
前記保護コーティング層は、珪素及びアルミニウムのうち少なくとも1個を含む請求項2に記載の原子力施設用の水素濃度測定装置
【請求項4】
前記保護コーティング層は、CVD(Chemical Vapor Deposition)によって前記金属線に蒸着されてなる請求項1乃至3のうちいずれか一項に記載の原子力施設用の水素濃度測定装置
【請求項5】
記水素濃度測定素子の前記金属線の電気抵抗値から水素濃度を算出する算出手段
さらに備えた請求項1乃至4のうちいずれか一項に記載の原子力施設用の水素濃度測定装置。
【請求項6】
前記水素濃度測定素子は、前記金属線としての第1の金属線が前記保護コーティング層によって被覆された前記検知部を備えると共に、前記水素吸蔵能を有さない第2の金属線が前記保護コーティング層によって被覆されたリファレンス検知部をさらに備え
前記第1の金属線の電気抵抗値と、前記第2の金属線の電気抵抗値とに基づいて水素濃度を算出する算出手段と、
を備えた請求項1乃至4のうちいずれか一項に記載の原子力施設用の水素濃度測定装置。
【請求項7】
前記第2の金属線の電気抵抗値により温度を算出し、前記温度に基づいて、前記第1の金属線の電気抵抗値から、前記第1の金属線の水素吸蔵に起因する成分を分離する請求項に記載の原子力施設用の水素濃度測定装置。
【請求項8】
前記水素濃度測定素子を加熱可能なヒータと、
前記ヒータを制御して前記水素濃度測定素子の温度を200[℃]以上に制御する制御手段と、
をさらに備えた請求項乃至のうちいずれか一項に記載の原子力施設用の水素濃度測定装置。
【請求項9】
前記保護コーティング層は、少なくとも酸素及びヨウ素に起因する副反応の進行防止と、水素の透過性との関係から決まる厚みを備えた請求項1乃至8のうちいずれか一項に記載の原子力施設用の水素濃度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、原子力施設用の水素濃度測定素子及び水素濃度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、水素濃度測定装置には、接触燃焼式及び半導体式などの測定方式を採用した装置がある。
【0003】
接触燃焼式としては、水素と酸素の燃焼を促進するような触媒上での燃焼熱を利用してその温度変化より生じる抵抗計(サーミスタ)の抵抗値の変化により水素濃度を検知する技術がある。半導体式としては、還元性ガスの吸着による酸化スズなどの半導体表面のキャリア密度変化を利用して電気抵抗値の変化を用いる技術がある。
【0004】
また、原子力発電所向けの水素濃度測定技術としては、パラジウムの水素吸蔵による体積膨張に注目し、光ファイバーにより特定波長の光を入射した際の散乱光変化に注目した技術や、水素吸蔵材の電気抵抗値に注目した技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−76605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
原子力発電所の過酷事故時においては、炉型や事故モードなどにより原子炉格納容器内の温度及びガス組成などが異なってくるので、水素濃度測定装置においては様々な環境で動作できる必要がある。
【0007】
水素吸蔵材の電気抵抗値を用いる技術によると、触媒活性が高いパラジウムなどが水素吸蔵材として使用される。そのため、原子炉格納容器内の酸素及びヨウ素などが存在した場合、水素吸蔵材がその影響を受けやすく水素濃度を安定して測定することが困難である。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、水素吸蔵材の電気抵抗値を用いて水素濃度を測定する技術において、水素濃度を表す精度のよい電気抵抗値を出力できる原子力施設用の水素濃度測定素子及び水素濃度測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施形態に係る原子力施設用の水素濃度測定素子は、検知部及び固定部を備えた。検知部は、水素吸蔵により電気抵抗値が変化する水素吸蔵能を有する金属線が、水素透過性を有する保護コーティング層によって被覆された。固定部は、検知部を固定する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態に係る原子力施設用の水素濃度測定素子及び水素濃度測定装置によれば、水素吸蔵材の電気抵抗値を用いて水素濃度を測定する技術において、水素濃度を表す精度のよい電気抵抗値を出力できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係る原子力施設用の水素濃度測定装置が設置される環境を示す概略図。
図2】水素濃度測定素子の構造を示す外観図。
図3】(A),(B)は、検知部の構造を示す図。
図4】水素濃度測定素子を加熱するヒータを示す図。
図5】第2実施形態に係る原子力施設用の水素濃度測定装置が設置される環境を示す概略図。
図6】水素濃度測定素子の構造を示す外観図。
図7】(A),(B)は、リファレンス検知部の構造を示す図。
図8】保護コーティング層が被覆されていない金属線において、水素及び酸素供給時の電気抵抗値の挙動例を示すグラフ。
図9】保護コーティング層が被覆された金属線において、水素及び酸素供給時の電気抵抗値の挙動例を示すグラフ。
図10】(A),(B)は、水素濃度測定素子を収容可能な保護容器を示す図。
図11】水素濃度測定素子が収容された保護容器を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態に係る原子力施設用の水素濃度測定素子及び水素濃度測定装置について、添付図面を参照して説明する。
【0013】
(第1実施形態)
1.構成
図1は、第1実施形態に係る原子力施設用の水素濃度測定装置が設置される環境を示す概略図である。
【0014】
図1は、原子力発電所内であって水素濃度の測定(モニタ)が行われる場所、例えば原子炉格納容器1と、原子炉格納容器1内の水素濃度を測定する水素濃度測定装置10とを示す。
【0015】
原子炉格納容器1は、原子炉(図示しない)及び1次冷却系(図示しない)の設備をすべて格納するものである。
【0016】
水素濃度測定装置10は、水素濃度測定素子11、抵抗器(テスタ)12、制御部13、及びヒータ14(図4に図示)を備える。
【0017】
水素濃度測定素子11は、水素吸蔵により電気抵抗値が変化する水素吸蔵能を有する金属線と、金属線を被覆し、水素透過性を有する保護コーティング層とを備える。水素濃度測定素子11の具体的な構造については、図2及び図3(A),(B)を用いて後述する。
【0018】
抵抗器12は、水素濃度測定素子11の金属線51(図3(A),(B)に図示)に電流を流すことで金属線の電気抵抗値を測定する。抵抗器12としては公知のものが適用されるが、抵抗器12として4端子法以外の電気抵抗値の測定方式(例えば、2端子法、ホイートストンブリッジ)が採用される場合は、それぞれの測定方式に適したものが適用される。
【0019】
制御部13は、CPU(central processing unit)及びメモリなどによって構成される。制御部13は、抵抗器12によって測定された電気抵抗値に基づいて、水素濃度を算出する。例えば、制御部13は、予め取得された水素濃度と電気抵抗値との相関式に基づいて、抵抗器12によって測定された電気抵抗値に対応する水素濃度を算出する。
【0020】
また、制御部13は、水素濃度測定素子11を加熱するためのヒータ14(図4に図示)の動作を制御して、水素濃度測定素子11の温度を制御する。水素吸蔵能を有する金属である水素吸蔵材が一般的に室温付近で用いられた場合、水素を取り込む速度及び水素を放出する速度が十分でないことが知られている。水素濃度測定素子11で用いられる検知部31は、200[℃]以上の温度で用いられることが望ましいため、制御部13は、ヒータ14の動作を制御して、水素濃度測定素子11が200[℃]以上の温度となるように制御する。
【0021】
図2は、水素濃度測定素子11の構造を示す外観図である。
【0022】
図2に示すように、水素濃度測定素子11は、検知部31、固定部32、及び接続部33を備える。
【0023】
検知部31は、固定部32の外表面上にらせん状に巻き付けるように配置される。
【0024】
図3(A),(B)は、検知部31の構造を示す図である。図3(A)は、検知部31の縦断面図である。図3(B)は、検知部31の横断面図である。
【0025】
図3(A),(B)に示すように、検知部31は、金属線51及び保護コーティング層52を備える。
【0026】
金属線51は、パラジウム及びニオブのうち少なくとも1個を含み、水素吸蔵能を有する。水素吸蔵能を有する金属線51の直径は、特に限定されるものではなく、1[μm]以上、かつ、1000[μm]以下程度であればよい。
【0027】
保護コーティング層52は、珪素若しくはアルミニウムの酸化物、窒化物、及び炭化物のうち少なくとも1個を含み、水素の選択透過が可能である無機物からなる。保護コーティング層52の厚みは、5[nm]以上、かつ、200[nm]以下であることが好適である。保護コーティング層52の厚みが5[nm]以上の場合、酸素及びヨウ素などの外部気層由来の化学種に起因する副反応の進行を防止するという効果が顕著に表れる。また、保護コーティング層52の厚みが200[nm]以下の場合、水素の透過性に優れる。
【0028】
ここで、検知部31は、水素吸蔵能を有する金属線51に保護コーティング層52を塗布又は蒸着することで生成される。塗布又は蒸着する方法としては、CVD(Chemical Vapor Deposition)、PVD(Physical Vapor Deposition)、ゾルゲル法、及び含浸法などの一般的な手法が用いられる。また、上記方法で生成された検知部31は、350[℃]以上、かつ、500[℃]以下で熱処理が実施された後に使用されることが一般的に知られている。
【0029】
図2の説明に戻って、固定部32は、セラミックス及びガラスなどの絶縁材料からなり、検知部31の固定(支持)及び絶縁のために用いられる。図2では、固定部32が円筒形状を有する場合を図示するが、固定部32は必ずしも円筒形状である必要はない。つまり、固定部32の全体が同一材料で構成されている必要はない。固定部32が円筒形状を有する場合、固定部32は、ヒータ14(図4に図示)の代替として、又は、ヒータ14と共に、その内部空間にヒータを内包するような構造を採り得る。また、固定部32が円筒形状を有する場合、固定部32は、その内部空間に電気配線を内包するような構造を採り得る。
【0030】
接続部33は、検知部31を固定部32に固定することともに、検知部31の金属線51(図3(A),(B)に図示)の電気抵抗値の測定のための端子として機能する。また、図2では、接続部33が固定部32の側面の外表面に設置されている例を示すが、接続部33は、固定部32の側面の内表面に設置されていてもよい。
【0031】
図4は、水素濃度測定素子11を加熱するヒータを示す図である。
【0032】
図4に示すように、水素濃度測定素子11を加熱するヒータ14は、水素濃度測定素子11の側面の外表面を被覆するように配置される。
【0033】
2.作用
水素濃度測定装置10において、ヒータ14により水素濃度測定素子11の温度が200[℃]以上に制御されている。その状態で、水素濃度測定素子11の接続部33に接続された抵抗器12により、保護コーティング層52で被覆された金属線51の電気抵抗値が逐次測定される。ここでは、金属線51が水素を吸収すると、その電気抵抗値が増加する現象を利用している。予め取得された水素濃度と電気抵抗値の相関式と金属線51の電気抵抗値とに基づいて、制御部13によって水素濃度が逐次算出される。
【0034】
金属線51が保護コーティング層52によって被覆されているので、水素濃度の測定中、金属線51と外部気相との直接接触を避けることが可能となる。よって、金属線51と、酸素及びヨウ素などの外部気相由来の化学種とに起因する副反応の進行を防ぐことが可能である。
【0035】
3.効果
第1実施形態に係る原子力施設用の水素濃度測定素子11によれば、水素吸蔵材の電気抵抗値を用いて水素濃度を測定する技術において、原子力過酷事故時に相当する様な幅広い気相組成で、水素濃度を表す精度のよい電気抵抗値を出力できる。また、第1実施形態に係る原子力施設用の水素濃度測定装置10によれば、原子力過酷事故時に相当する様な幅広い気相組成で、水素濃度を精度よく測定することができる。
【0036】
(第2実施形態)
1.構成
図5は、第2実施形態に係る原子力施設用の水素濃度測定装置が設置される環境を示す概略図である。
【0037】
図5は、原子炉格納容器1の水素濃度を測定する水素濃度測定装置10Aを示す。水素濃度測定装置10Aは、水素濃度測定素子11A、抵抗器12,12A、制御部13A、及びヒータ14(図4に図示)を備える。なお、図5において、図1に示す部材と同一部材には同一符号を付して説明を省略する。
【0038】
抵抗器12Aは、水素濃度測定素子11Aの金属線51A(図7(A),(B)に図示)に電流を流すことで、金属線51Aの電気抵抗値を測定する。
【0039】
制御部13Aは、図1に示す制御部13と同様に、CPU及びメモリなどによって構成される。制御部13Aは、抵抗器12,12Aによってそれぞれ測定された電気抵抗値に基づいて水素濃度を算出する。
【0040】
また、制御部13Aは、図1に示す制御部13と同様に、水素濃度測定素子11Aを加熱するためのヒータ14(図4に図示)の動作を制御して、水素濃度測定素子11Aの温度を制御する。
【0041】
図6は、水素濃度測定素子11Aの構造を示す外観図である。
【0042】
図6に示すように、水素濃度測定素子11Aは、検知部31、固定部32、及び接続部33を備える。また、水素濃度測定素子11Aは、リファレンス検知部31A及び接続部33Aを備える。なお、図6において、図2に示す部材と同一部材には同一符号を付して説明を省略する。
【0043】
リファレンス検知部31Aは、検知部31と同様に、固定部32の外表面上にらせん状に巻き付けるように配置される。リファレンス検知部31Aは、検知部31に接触しないように配置される。なお、図6において、便宜的に、リファレンス検知部31Aが検知部31より細い線で表される。しかしながら、リファレンス検知部31Aの径が検知部31の径より必ずしも小さいことを意味するものではない。
【0044】
接続部33Aは、リファレンス検知部31Aを固定部32に固定することともに、リファレンス検知部31Aの金属線51A(図7(A),(B)に図示)の電気抵抗値の測定のための端子として機能する。また、図6では、接続部33Aが固定部32の側面の外表面に設置されている例を示すが、接続部33Aは、固定部32の側面の内表面に設置されていてもよい。
【0045】
図7(A),(B)は、リファレンス検知部31Aの構造を示す図である。図7(A)は、リファレンス検知部31Aの縦断面図である。図7(B)は、リファレンス検知部31Aの横断面図である。
【0046】
図7(A),(B)に示すように、リファレンス検知部31Aは、金属線51A及び保護コーティング層52Aを備える。
【0047】
金属線51Aは、測温抵抗体に用いられるような白金などの材料であり、水素吸蔵能をもたない。水素吸蔵能をもたない金属線51Aの直径は、図3(A),(B)に示す金属線51の直径と同様に、1[μm]以上、かつ、1000[μm]以下程度であればよい。
【0048】
保護コーティング層52Aは、図3(A),(B)に示す保護コーティング層52と同様に、珪素若しくはアルミニウムの酸化物、窒化物、及び炭化物のうち少なくとも1個を含み、水素の選択透過が可能である無機物からなる。保護コーティング層52Aの厚みも図3(A),(B)に示す保護コーティング層52と同様に、5[nm]以上、かつ、200[nm]以下であることが好適である。なお、保護コーティング層52Aの厚みと金属線51Aの径とからなるリファレンス検知部31Aの径は、図3(A),(B)に示す保護コーティング層52の厚みと金属線51の径とからなる検知部31の径と同一であることがさらに好ましい。
【0049】
2.作用
水素濃度測定装置10Aにおいて、ヒータ14により水素濃度測定素子11Aの温度が200[℃]以上に制御されている。その状態で、水素濃度測定素子11Aの接続部33に接続された抵抗器12により、保護コーティング層52で被覆された金属線51の電気抵抗値が逐次測定される。また、水素濃度測定素子11Aの接続部33Aに接続された抵抗器12Aにより、保護コーティング層52Aで被覆された金属線51Aの電気抵抗値が逐次測定される。金属線51の電気抵抗値と金属線51Aの電気抵抗値とに基づいて、制御部13Aによって水素濃度が逐次算出される。
【0050】
ここで、検知部31の金属線51の電気抵抗値は、水素吸蔵に起因する成分と、温度に起因する成分とを含む。一方で、リファレンス検知部31Aの金属線51Aの電気抵抗値は、水素吸蔵に起因する成分を含まず、温度に起因する電気抵抗値である。そこで、第2実施形態では、リファレンス検知部31Aを採用することで、金属線51の電気抵抗値から温度に起因する成分を分離して除外することで、金属線51の電気抵抗値から水素吸蔵に起因する成分のみを抽出して測定を行うことを目的とする。
【0051】
ここで、リファレンス検知部31Aを採用した場合の作用について具体的に説明する。
【0052】
金属のもつ電気抵抗値は近似的には温度に対して比例して変化することが知られており、温度Tでの電気抵抗値R(T)は、例えば、次の式(1)で表される。
【0053】
R(T)=R0[1+α(T−T0)] …(1)
T0:基準温度
T:測定温度
R0:基準温度T0での電気抵抗値
α:単位温度あたりの電気抵抗率の変化率
【0054】
上記式(1)中のαは金属固有の数値である。また、水素吸蔵能をもたない金属線51Aにおいて予め設定された電気抵抗値R0及び基準温度T0と、金属線51Aにおいて測定された電気抵抗値とを上記式(1)のR(T)に代入すると、測定温度Tが算出される。算出された測定温度Tは、金属線51Aの測定温度T、すなわち、水素吸蔵能を有する金属線51の付近の測定温度Tとみなせる。
【0055】
続いて、水素吸蔵能を有する金属線51において予め設定された電気抵抗値R0及び基準温度T0と、水素吸蔵能をもたない金属線51Aから算出された測定温度Tとを上記式(1)に代入すると、金属線51の電気抵抗値R(T)が算出される。算出された電気抵抗値R(T)は、温度に起因する金属線51の電気抵抗値である。
【0056】
以上のように、金属線51Aの電気抵抗値より金属線51の付近の温度を算出することで、金属線51において測定された電気抵抗値から、温度に起因する成分(算出された電気抵抗値R(T))を除外して、水素吸蔵に起因する成分を分離できる。このような構成とすることで、金属線51において測定された電気抵抗値のうち水素吸蔵に起因する成分と予めの相関式とに基づいて、より高精度の水素濃度を得ることが可能となる。
【0057】
続いて、保護コーティング層52,52Aを採用した場合の作用について具体的に説明する。
【0058】
図8は、保護コーティング層が被覆されていない金属線において、水素及び酸素供給時の電気抵抗値の挙動例を示すグラフである。図9は、保護コーティング層が被覆された金属線において、水素及び酸素供給時の電気抵抗値の挙動例を示すグラフである。
【0059】
図8及び図9の横軸は、時間変化を示し、左縦軸は、使用温度まで加熱した際の電気抵抗値を1としたときの電気抵抗値の割合を示し、右縦軸は、水素濃度測定素子に供給したガス中の水素濃度及び酸素濃度を示す。
【0060】
図8は、200[℃]以上の温度の状態で、水素吸蔵能を有する金属線としてのパラジウムと、水素吸蔵能をもたない金属線としての白金との電気抵抗値の変化を示した結果を示す。
【0061】
図8に示すように、水素及び酸素の共存下では、水素単独で供給した際に生じる電気抵抗値の変化を大きく超える電気抵抗値の変化が生じる。なお、グラフには表されていないが、水素濃度測定素子11の温度を測定したところ、水素と酸素の共存による電気抵抗値の変化が生じた際に温度変化が併せて起きる事象が確認できた。この事象は、水素と酸素が両金属線と接触することで反応し、反応熱により金属線の温度が変化していることを考えることができる。
【0062】
図9は、図8と同等の温度状態で、CVDによりケイ素酸化物の保護コーティング層52が蒸着された、水素吸蔵能を有する金属線51としてのパラジウムと、CVDによりケイ素酸化物の保護コーティング層52Aが蒸着された、水素吸蔵能をもたない金属線51Aとしての白金との電気抵抗値の変化を示した結果を示す。保護コーティング層52,52Aの厚さは、7[nm]であった。図9に示すように、保護コーティング層52,52Aの存在により酸素濃度が増加した際も金属線51Aの電気抵抗値は変化せず、金属線51は水素濃度に応じた電気抵抗値となる。
【0063】
図8及び図9に示す結果により、水素吸蔵能を有する金属線51と水素吸蔵能をもたない金属線51Aにそれぞれケイ素酸化物からなる保護コーティング層52,52Aを蒸着させることで、それぞれの金属線5151A上で起こる副反応を防止できる。
【0064】
なお、図9は、保護コーティング層52,52Aの厚さが7[nm]である場合の電気抵抗値の挙動例を示すが、保護コーティング層52,52Aの厚さが、5[nm]以上、かつ、200[nm]以下の他の条件においても、図9と同等な結果が得られた。
【0065】
3.効果
第2実施形態に係る原子力施設用の水素濃度測定素子11A及び水素濃度測定装置10Aによれば、第1実施形態の効果に加え、温度変化に伴う検知部31の電気抵抗値の変化をリファレンス検知部31Aの電気抵抗値に基づいて補正することができるので、さらに高精度の水素濃度を得ることができる。
【0066】
(変形例)
第1及び第2実施形態の水素濃度測定装置10,10Aは、水素濃度測定素子11,11Aを収容可能な保護容器60をさらに備える。
【0067】
図10(A),(B)は、水素濃度測定素子11,11Aを収容可能な保護容器60を示す図である。図10(A)は、保護容器60の全体の外観図である。図10(B)は、図10(A)に示す保護容器60の全体のうち側壁部分の縦断面図である。
【0068】
図10(A),(B)に示す保護容器60は、内部空間Vを備え、2底面のうち一方が封止された筒状形状を有する。なお、図10(A),(B)では、水素濃度測定素子11,11Aの形状に合わせ、保護容器60が円筒形状の場合を示すがその場合に限定されるものではない。また、保護容器60の側壁は、無機多孔体61と、その内側の保護コーティング層62とを備える。
【0069】
保護コーティング層62は、保護コーティング層52,52Aと同様に、珪素若しくはアルミニウムの酸化物、窒化物、及び炭化物のうち少なくとも1個を含み、水素の選択透過が可能である無機物からなる。保護コーティング層62の厚みも保護コーティング層52,52Aと同様に、5[nm]以上、かつ、200[nm]以下であることが好適である。その際、保護コーティング層62の厚みpと、収納される保護コーティング層52,52Aの厚みqとの和p+qが、5[nm]以上、かつ、200[nm]以下となるようにされてもよい。
【0070】
なお、保護コーティング層62は、無機多孔体61の内側に備えられるものとして図示するが、その場合に限定されるものではない。例えば、保護コーティング層62は、無機多孔体61の外側のみや、無機多孔体61の内側及び外側の両側に備えられてもよい。
【0071】
保護容器60は、内部空間Vを介して、水素濃度測定素子11,11Aを収容可能である。
【0072】
図11は、水素濃度測定素子11,11Aが収容された保護容器60を示す図である。
【0073】
保護容器60の内部空間V(図10(A),(B)に図示)に水素濃度測定素子11,11Aが挿入され、ボルトなどの固定治具(図示しない)で保護容器60に水素濃度測定素子11,11Aが固定されることで、図11に示す状態となる。そして、保護容器60に水素濃度測定素子11,11Aが固定された後、保護容器60の2底面のうち封止されていない方の底面は内部空間Vが気密となるよう、蓋などで塞がれる。
【0074】
このような構成によれば、保護コーティング層52,52Aを有する水素濃度測定素子11,11Aを、保護容器60によってさらに被覆することができ、水素濃度測定素子11,11Aの外部気相との接触を避けることが可能である。
【0075】
また、固定治具が外され、保護容器60の内部空間Vから水素濃度測定素子11,11Aが取り出される。すなわち、水素濃度測定素子11,11Aは、保護容器60から簡便に取り外すことが可能である。
【0076】
さらに、保護コーティング層のメンテナンス時においては、保護コーティング層62を有する保護容器60のガス選択透過性を評価し、保護容器60が特定ガスのみを透過する性能を有することを確認できれば、水素濃度測定素子11,11Aの保護コーティング層の性能点検を省略することもできる。加えて、保護コーティング層のメンテナンス時において、保護容器60のガス選択透過性に問題があった場合は、保護容器60の交換のみで対応可能となる。
【0077】
保護容器60によれば、第1及び第2実施形態の効果に加え、より確実な外部気相との接触を防止でき、かつ、保護コーティング層のメンテナンス性の向上が可能となる。
【0078】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0079】
10,10A…水素濃度測定装置、11,11A…水素濃度測定素子、12,12A…抵抗器、13,13A…制御部、31…検知部、31A…リファレンス検知部、51,51A…金属線、52,52A,62…保護コーティング層、60…保護容器。
図1
図2
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図4
図5
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図9
図10
図11