(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6585502
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】テンパー処理可能な塗装ガラス
(51)【国際特許分類】
C09D 1/02 20060101AFI20190919BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20190919BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20190919BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20190919BHJP
C03C 17/25 20060101ALI20190919BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20190919BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
C09D1/02
C09D7/61
C09D7/63
C09D7/65
C03C17/25 A
B05D7/00 E
B05D7/24 302B
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-523596(P2015-523596)
(86)(22)【出願日】2013年7月25日
(65)【公表番号】特表2015-528044(P2015-528044A)
(43)【公表日】2015年9月24日
(86)【国際出願番号】FR2013051787
(87)【国際公開番号】WO2014016518
(87)【国際公開日】20140130
【審査請求日】2016年6月9日
(31)【優先権主張番号】1257307
(32)【優先日】2012年7月27日
(33)【優先権主張国】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン−ゴバン グラス フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】フレデリク クラボー
(72)【発明者】
【氏名】ルイ ガルニエ
(72)【発明者】
【氏名】バンサン ラシェ
【審査官】
仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第05510188(US,A)
【文献】
米国特許第04514456(US,A)
【文献】
米国特許第06428616(US,B1)
【文献】
米国特許第01941990(US,A)
【文献】
国際公開第2003/045866(WO,A1)
【文献】
特表2002−519300(JP,A)
【文献】
米国特許第05702520(US,A)
【文献】
特表2001−523748(JP,A)
【文献】
特開昭61−176673(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/02
C03C 17/25
B05D 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
面のうちの少なくとも一方のものの一部又は全体にわたって不透明被覆層で被覆された、テンパー処理可能なガラス製又はガラスセラミック製の塗装基材であって、
前記層が、当該基材に直接に適用された無機塗料を乾燥させることにより得られたものであって、当該無機塗料は、
ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム及び/又はケイ酸リチウムを含むアルカリ性ケイ酸塩水性液と、
無機充填剤と、
少なくとも1種の顔料と
を基剤とし、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム及び/又はケイ酸リチウムを10wt%と55wt%の間の量で含有するものであり、
当該層の、反射で測定したL
*成分により定義される明度が20以上であり、且つ
下記式で定義される、テンパー処理前の当該層で被覆された基材とテンパー処理後の当該層で被覆された基材との色差ΔEが、5.0以下であり:
【数1】
(この式中のΔL
*、Δa
*及びΔb
*は、テンパー処理前後の当該被覆された基材について測定されたL
*、a
*及びb
*色座標の差を表す)、
前記無機塗料が、当該無機塗料中の有機生成物の燃焼に起因する黒化作用を制限するように、300℃を上回る温度で酸素を放出することができる添加剤を含み、当該添加剤が、硝酸塩、炭酸塩又はアルカリ性硫酸塩から選ば
れる、
ことを特徴とする、テンパー処理可能なガラス製又はガラスセラミック製塗装基材。
【請求項2】
前記無機塗料が付着促進剤を含まないことを特徴とする、請求項1に記載の基材。
【請求項3】
前記顔料が有機又は無機であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の基材。
【請求項4】
前記無機充填剤が、マグネシウムケイ酸塩、アルミナ、石灰石、カオリン、粘土及び硫酸バリウムから選択されることを特徴とする、請求項1から3までの1項に記載の基材。
【請求項5】
前記マグネシウムケイ酸塩がタルクであることを特徴とする、請求項4に記載の基材。
【請求項6】
前記アルカリ性ケイ酸塩/無機粒子の重量比が1未満であり、当該無機粒子が前記無機充填剤と無機顔料とからなることを特徴とする、請求項3から5までの1項に記載の基材。
【請求項7】
前記無機塗料が、分散剤、消泡剤、増粘剤、安定化剤及び/又は硬化剤を更に含むことを特徴とする、請求項1から6までの1項に記載の基材。
【請求項8】
前記分散剤、消泡剤、増粘剤、安定化剤及び/又は硬化剤が前記塗料の0.01wt%と5wt%の間の量で存在することを特徴とする、請求項7に記載の基材。
【請求項9】
前記硝酸塩がアルカリ性硝酸塩であることを特徴とする、請求項1から8までの1項に記載の基材。
【請求項10】
前記無機塗料が、大きさが5μmより小さい粒子を含むことを特徴とする、請求項1から9までの1項に記載の基材。
【請求項11】
前記無機塗料の層の厚さが少なくとも10μmであることを特徴とする、請求項1から10までの1項に記載の基材。
【請求項12】
請求項1から11までの1項に記載のテンパー処理可能なガラス製又はガラスセラミック製塗装基材を製造する方法であって、
a.当該基材の面のうちの少なくとも一方のものの全体又は一部にわたって、請求項1から12までの1項に記載の無機塗料を基剤とする被覆層を被着させる工程、及び、
b.500℃未満の温度で、単一の工程で前記層を乾燥させる工程、
を含むことを特徴とする、テンパー処理可能な塗装基材の製造方法。
【請求項13】
前記塗料が付着促進剤を含まないことを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、建造物の内装及び/又は外装の分野で使用することを目的とした、塗装されたテンパー処理可能なガラス又はガラスセラミック製の基材と、その製造方法である。塗装されたガラスは、特に、建造物の壁又は家具の前面を装飾することを目的とするものである。
【背景技術】
【0002】
不透明な着色外観を有する塗装ガラスを得るのを可能にする塗装には現在2つの主要タイプがある。第1のものは、主に樹脂と有機又は無機顔料との混合物を含む、有機塗料をガラス基材に塗布するものである。第2のものは、ガラスフリットと、無機顔料と、加熱時に消失する樹脂とから得られたエナメルを、被塗装基材上で溶融させるものである。
【0003】
有機塗料を基剤とする被覆の主な欠点は、このように塗装された基材には熱テンパー処理を施すことができないという事実にある。「熱テンパー処理」という表現は、基材を空気中で数分間600℃を上回る温度まで加熱してから急速冷却することを意味するものと理解される。これらの条件は有機被覆にとってはあまりにも攻撃的であり、この場合それらは分解して単純な化合物(炭素、二酸化炭素など)になる。
【0004】
ガラスの機械強度は熱テンパー処理によってかなり高められる。テンパー処理されたガラスの更なる利点は、割れたときに、鋭利でない多数の小さな破片に砕けることである。従って、有機塗料で塗装されたガラスは、塗料が予めテンパー処理されたガラス板に、ひいては最終寸法を有する板に塗布されるのでない限り、上記の特性(特に安全基準EN 12150−1:2000に準じる)を有することはできない。それと言うのも、このようなガラス板は切断すると割れてしまうからである。寸法がしばしば顧客固有のものである内装設計では大量生産は一般的でないので、有機塗料はとりわけ、テンパー処理されていないガラスと組み合わされ、このようなガラスは機械的特性が不十分である。
【0005】
エナメルの欠点は、基材上に被着した層の機械強度及び耐加水分解性が、溶融前には極めて低いことである。従って、エナメルを塗布されたガラスを搬送、貯蔵、切断、トリミング、又は洗浄することは、それを高温、典型的には600℃まで加熱していない限り、そして被着層が溶融していない限り、不可能である。しかし、ひとたびガラスをテンパー処理したら、追加のデテンパリング工程を行わない限り、これを加工することはできない。従って、エナメルは必然的に、最終寸法を有するパネル上に被着させなければならない。上述のように、このタイプの製品は、寸法がしばしば顧客固有のものである内装デザイン用途には適していない。
【0006】
溶融されていないエナメルの機械抵抗を高めるために、国際公開第2007/104752号パンフレットにエナメル層上に樹脂層を被着した二層システムが記載されている。このシステムは、第二層が被着できるようになる前に第一層を強固にしなければならないので、工業的に多数の工程を必要とする。エナメル層が樹脂層の被着中に劣化するという高いリスクもある。最後に、この二層システムにおける樹脂量は比較的多く、使用された樹脂の全てをテンパー処理中に排除することは難しく、結果として塗装した基材上に黒いあとが出現することがある。そのため、国際公開第2011/095471号パンフレットにこのタイプのシステムのための特別なテンパー処理法が提示されている。
【0007】
溶融されていないエナメルの機械抵抗を改善するために考えられた別の可能性は、樹脂の量を増加させることにある。その一例として、国際公開第2007/135192号又は同第2011/051459号各パンフレットが挙げられる。これらの層の主な問題点は、水の存在下でのガラスに対する付着力が低く、これにより、塗装した基材の慣用のトリミング又は穿孔工程中に着色層が層間剥離することが多いことである。別の潜在的問題は、テンパー処理用炉内に火炎が出現することであり、これにより炉の抵抗加熱器が劣化するおそれがある。
【0008】
これらの2つの技術的解決手段と並行して、国際公開第2006/111359号パンフレットには、ガラス基材上に顔料含有ゾルゲル層を被着することが記載されている。これらのシステムの問題点は不透明性である。それというのも、ゾルゲル層は厚さが数ミクロンを超えると亀裂が入る傾向のあることが判っているからである。しかし、所望の用途に必要となる不透明性は、このような厚さでは得られない。実際のところ、付加的な不透明層を被着することが必要になり、これはテンパー処理前の塗装ガラスのテンパー抵抗及び機械強度の問題を単にすり替えるにすぎない。
【0009】
米国特許第5510188号明細書には、特に顔料とアルカリ性ケイ酸塩溶液と長石とを含む組成物を、ガラスに塗布することが記載されている。この塗料を適用するためには二工程の熱処理が必要となり、最後の硬化工程は500℃と760℃の間の温度で行われる。この高温処理は、所望の抵抗及び被着物の特性を得るために必要となる。
【0010】
エナメルに代わるものを使用するために、欧州特許出願公開第0815176号及び同第0946654号各明細書に、低融点ガラスフリット及び/又は酸化亜鉛粉末が存在することによってガラスに対する良好な密着性を示すアルカリ性ケイ酸塩を基剤とする塗料組成物が記載されている。このタイプの塗料は、550℃を上回る温度まで加熱された後でのみ、完全に硬化して所望の密着性を示す。更に、これらの組成物中に存在するガラスフリットは、高温の熱処理中に溶融すると、添加剤又は有機不純物(界面活性剤や、充填剤及び顔料中に含有される不純物)を捕捉することがある。これらの添加剤又は有機不純物は部分燃焼して黒色の残留物を残すので、それらは前述の特許明細書の場合のように、極めて暗い色の塗料とともに使用することだけに制限される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、搬送可能性、貯蔵可能性、切断可能性、トリミング可能性、洗浄可能性、及びテンパー処理可能性を維持しながら、塗装した基材の高温熱処理を必要とすることなしに、所要の不透明性を有する塗装ガラス又はガラスセラミック基材を開発することが望ましい。また、熱テンパー処理プロセス中に色が極めて僅かしか変化しない、潜在的に明色の塗料を採用する製品を開発することも望ましい。本発明は、このような状況においてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、アルカリ性ケイ酸塩を基剤とする無機塗料を塗布することによって不透明着色塗装ガラスを得ることが可能であり、そしてこれが、色に関する及びテンパー処理時の色の変化に関する、また低温での密着性及び機械強度に関する必要性能を、高温での焼成工程を必要とすることなしにもたらすということを見いだした。
【0013】
本発明は、テンパー処理可能な塗装ガラス基材又は塗装ガラスセラミック基材であり、その面のうちの少なくとも一方のものの一部又は全体にわたって不透明被覆層で被覆された基材であって、当該基材に直接適用された前記層が、10wt%と55wt%の間のケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム及び/又はケイ酸リチウムを含むアルカリ性ケイ酸塩水性液と、無機充填剤と、少なくとも1種の顔料とを基剤とする無機塗料であり、当該層の明度が、反射で測定してL
*成分が20以上であるような、且つテンパー処理前の当該層で被覆された基材とテンパー処理後の当該層で被覆された基材との色差が、
【0014】
【数1】
【0015】
(この式中のΔL
*、Δa
*及びΔb
*は、テンパー処理前後の当該被覆された基材について測定されたL
*、a
*及びb
*色座標の差を表す)
によって定義されるパラメータΔE
*が5.0以下であるようなものであることを特徴とする、テンパー処理可能な塗装したガラス又はガラスセラミック基材である。
【0016】
本発明のもう一つの対象は、このようなテンパー処理可能な塗装した基材を製造する方法である。
【0017】
ガラス基材又はガラスセラミック基材上に被着された被覆層は、好ましくは付着促進剤を含まない、アルカリ性ケイ酸塩を基剤とする水性無機塗料である。この塗料の層は、密着性の向上を可能にする何らかの下層を適用することなしに、基材に直接塗布される。
【0018】
L
*、a
*及びb
*色座標は、D65光源のもとで、CIE 1931標準規格の観測値を用いて計算される。これは、基材側からの反射、すなわち被覆とは反対の面側での反射によって得られる重要な色座標である。L
*成分は、黒に対応する値0から白に対応する値100までの範囲の明度を定義する。それは反射で測定される。a
*及びb
*成分は色域を表す。
【0019】
被覆層の明度は、好ましくは、反射で測定したL
*値が50よりも高いようなものである。
【0020】
このように塗装された基材は、熱テンパー処理を受ける前に所要の特性を有する。従って、それは、被覆層が乾燥した直後に搬送可能、貯蔵可能、切断可能、トリミング可能、且つ洗浄可能である。
【0021】
本発明による基材は特に、テンパー処理されたときに、色が変化しない、あるいは色がわずかしか変化しないという利点を有する。
【0022】
パラメータΔE
*の変化は、好ましくは2未満であり、更に好ましくは1未満である。
【0023】
加えて、被覆層は特に、500℃未満の温度で乾燥させた後、標準規格ISO 2409:2007の格子試験によって測定して2以下、更には1以下の、基材に対する密着性を示す。
【0024】
塗装された基材は、塗装基材が安全性の標準基準規格EN 12150−1:2000を満たすことができるように「テンパー処理可能」である。
【0025】
本発明に使用される無機塗料は、水ガラス又は可溶ガラスとしても知られる、アルカリ性ケイ酸塩を基剤とする水性液である。
【0026】
好ましくは、無機塗料は、10wt%と55wt%の間、好ましくは15wt%と45wt%の間のケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム及び/又はケイ酸リチウムを含む。より好ましくは、アルカリ性ケイ酸塩の量は15wt%と25wt%の間である。この中程度のケイ酸塩量は特に、所望の不透明性及び粘性が得られるのを可能にする。
【0027】
原材料コストの理由から、ケイ酸ナトリウム又はケイ酸カリウムが好ましい。更に好ましくは、塗料は10wt%と55wt%の間、好ましくは15wt%と45wt%の間、更に好ましくは15wt%と25wt%の間のケイ酸カリウムを含む。その理由は、これらの化合物がケイ酸ナトリウムよりも耐加水分解性が高く、ひいてはより耐性が高い被覆が作られるのを可能にするからである。
【0028】
塗料はまた、被覆層に所望の色を与える少なくとも1種の有機又は無機顔料を含む。顔料は、好ましくは粉末形態であり、無機顔料、例えば、所望の色に応じて、チタン、ケイ素、銅、アルミニウム、クロム、コバルト、鉄、マンガン及び/又はバリウムの酸化物や、硫化亜鉛、硫化セリウム及び/又は硫化カドミウム、ニッケル及び/又はクロムのチタン酸塩、あるいはバナジウム酸ビスマス、であることができる。
【0029】
顔料が暗い色相をもたらす性質を有する場合、それらの濃度は制限される。従って、顔料が銅、鉄、ニッケル及び/又はコバルトの酸化物から選択される場合には、それらは無機塗料の20wt%未満であることが好ましい。
【0030】
無機塗料は、無機顔料以外に無機充填剤を含む。これらの充填剤は、タルクなどのマグネシウムケイ酸塩、アルミナ、石灰石、カオリン、粘土、及び硫酸バリウムから選択される。層の組成物中の充填剤量は最大60wt%でよい。
【0031】
有利には、アルカリ性ケイ酸塩の無機粒子に対する重量比は1:1未満であり、当該無機粒子は無機充填剤と無機顔料とからなる。好ましくは、この比は0.8:1未満、更により好ましくは0.66:1未満である。塗料中に存在する無機粒子の量は、存在するアルカリ性ケイ酸塩の量の1.25倍、好ましくは1.5倍に相当する。このようにして、所望の用途に必要な被覆の不透明性を得ることができる。
【0032】
無機塗料は更に、0wt%と5wt%の間、好ましくは3wt%未満の分散剤、消泡剤、増粘剤、安定化剤及び/又は硬化剤を含むことができる。分散剤、消泡剤及び増粘剤は特に、塗料の0.01wt%と5wt%の間、好ましくは0.01wt%と1wt%の間の量で存在することができる。
【0033】
硬化剤は、特にアルミニウムのリン酸塩又は水酸化物でよい。一例としては、Chemische Fabrik Budenheim KG社のFabutit(商標)製品が挙げられる。
【0034】
分散剤としては、例えばEvonic社の化合物Tego 740(商標)が挙げられる。
【0035】
消泡剤としては、例えばEvonic社の化合物Foamex(商標)が挙げられる。
【0036】
増粘剤は、例えばWoellner社の化合物Betolin V30(商標)でよい。
【0037】
安定化剤としては、例えばWoellner社のBetolin Q40(商標)が挙げられる。
【0038】
有利には、無機塗料は、特に350℃を上回る温度まで基材を加熱すると、層の乾燥中又は製品のテンパー処理中に酸素を放出することができる添加剤を含んでもよく、こうしてレオロジー添加剤又は有機粉末中の不純物のために僅かな量で存在し得る有機生成物の燃焼に起因する黒化作用を制限することができる。この添加剤は、硝酸塩、炭酸塩、又はアルカリ性硫酸塩から選択することができる。この添加剤は、高い酸化力を有する有機化合物、例えばオキサレート又はポリラクテートであることができる。存在する場合、この添加剤の量は0.01wt%と5wt%の間、好ましくは0.1wt%と3wt%の間である。好ましくは、酸素を放出することができる添加剤は0.1wt%と3wt%の間の量で存在するアルカリ性硝酸塩である。この添加剤は、現在施行されている環境保健安全基準と極めて有利な適合性を有する。
【0039】
白色を得ようとする、すなわち反射で測定される明度L
*が60以上である被覆を得ようとする場合、酸素を放出することができる添加剤が必然的に存在する。このように、反射で測定される層の明度L
*が60を上回る場合、無機塗料は0.1wt%と3wt%の前記添加剤を含む。
【0040】
塗布層の利点は、地球表面に一般的に見いだされ、環境保健安全(EHS)基準との適合性を有する低廉な物質を使用することである。EHS基準との適合性は必須である。
【0041】
有利には、不透明性を高めるために、無機塗料は大きさが5μmより小さい、好ましくは2μmより小さい、粒子を含む。
【0042】
基材上に被着された被覆層の厚さは少なくとも10μmである。典型的には、層は50μmの厚みである。
【0043】
本発明はまた、塗装したガラス基材又はガラスセラミック基材を製造する方法であって、次の工程、すなわち、
a.当該基材の面のうちの少なくとも一方のものの全体又は一部にわたって、アルカリ性ケイ酸塩水性液と、無機充填剤と、少なくとも1種の顔料とを含み、好ましくは付着促進剤を含まない、無機塗料を基剤とする被覆層を被着させる工程、及び、
b.当該被覆した基材が機械的変形を被らずに切断可能のままであるような温度で、単一の工程で前記層を乾燥させる工程、
を含むことを特徴とする、塗装ガラス基材又はガラスセラミック基材を製造する方法に関する。
【0044】
被覆層は、湿式被着法の技術分野で当業者に知られている任意の技術によって被着させることができる。一例として、スプレー塗布、ロール塗布、カーテン塗布、層流塗布、又はスクリーン印刷が挙げられる。
【0045】
乾燥工程は、好ましくは500℃未満、より好ましくは400℃未満、更には200℃未満の温度で実施される。乾燥時間は一般に15分未満、好ましくは10分未満である。乾燥工程中の温度上昇は、100℃/分未満の勾配、好ましくは70℃/分と90℃/分の間の勾配で行われる。
【0046】
この方法の工程a)及びb)は、良好な機械強度及び所望の美的外観を呈する完全に密着した被覆を有する塗装基材が得られるのを可能にする。
【0047】
塗装基材の製造方法は、基材を安全基準に適合させることが求められる場合には、少なくとも550℃の温度での後続の任意選択的な熱テンパー処理工程を更に含むことができる。
【0048】
本発明による方法で使用される無機塗料は、水ガラス又は可溶ガラスとしても知られるアルカリ性ケイ酸塩を基剤とする水性液である。この塗料は、10wt%と55wt%の間、好ましくは15wt%と45wt%の間、より好ましくは15wt%と25wt%の間のケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム及び/又はケイ酸リチウムを含む。原材料コストの理由から、ケイ酸ナトリウム又はケイ酸カリウムが好ましい。更に好ましくは、塗料は10wt%と55wt%の間、好ましくは15wt%と45wt%の間、更に好ましくは15wt%と25wt%のケイ酸カリウムを含む。塗料はまた、被覆層に所望の色を与える少なくとも1種の有機又は無機顔料も含む。顔料は、好ましくは粉末形態であり、無機顔料、例えば、所望の色に応じて、チタン、ケイ素、銅、アルミニウム、クロム、コバルト、鉄、マンガン及び/又はバリウムの酸化物や、硫化亜鉛、硫化セリウム及び/又は硫化カドミウム、ニッケル及び/又はクロムのチタン酸塩、あるいはバナジウム酸ビスマス、であることができる。
【0049】
無機塗料は、タルクなどのマグネシウムケイ酸塩、アルミナ、石灰石、カオリン、粘土及び硫酸バリウムから選択される無機充填剤を含む。層の組成物中の充填剤量は最大60wt%の範囲にあることができる。
【0050】
有利には、アルカリ性ケイ酸塩の無機粒子に対する重量比は1:1未満であり、当該無機粒子は無機充填剤と無機顔料とからなる。好ましくは、この比は0.8:1未満、更により好ましくは0.66:1未満である。塗料中に存在する無機粒子の量は、存在するアルカリ性ケイ酸塩の量の1.25倍、好ましくは1.5倍に相当する。このようにして、所望の用途に必要な被覆の不透明性を得ることができる。
【0051】
無機塗料は更に、0wt%と5wt%の間、好ましくは3wt%未満の分散剤、消泡剤、増粘剤、安定化剤及び/又は硬化剤を含むことができる。分散剤、消泡剤及び増粘剤は特に、1wt%未満の量で存在することができる。
【0052】
無機塗料は、特に300℃を上回る温度まで基材を加熱すると、層の乾燥中又は製品のテンパー処理中に酸素を放出することができる添加剤を含んでもよく、こうしてレオロジー添加剤又は有機粉末中の不純物のために僅かな量で存在し得る有機生成物の燃焼に起因する黒化作用を制限することができる。この添加剤は、硝酸塩、炭酸塩、又はアルカリ性硫酸塩から選択することができる。この添加剤は、高い酸化力を有する有機化合物、例えばオキサレート又はポリラクテートであってもよい。存在する場合、この添加剤の量は0.01wt%と5wt%の間、好ましくは0.1wt%と3wt%の間である。
【0053】
有利には、不透明性を高めるために、無機塗料は大きさが5μmより小さい、好ましくは2μmより小さい、粒子を含む。
【0054】
以下の例は本発明を例示するものであり、その範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0055】
〔例1〕
Woellner社のK42T(商標)ケイ酸カリウム溶液20wt%と、水28.6wt%及び酸化チタン(顔料)10wt%とを混合することによって、水性無機塗料組成物を調製した。下記添加剤、すなわち、
・7wt%のタルク(Rio Tinto Minerals社のJetfine A1(商標))、
・30wt%のアルミナ(Almatis社のCTC 20(商標))、
・3wt%の硬化剤(Chemische Fabrik Budenheim KG社のFabutit 206(商標))、
・0.1wt%の消泡剤(Evonic社のFoamex 825(商標))、
・0.1wt%の増粘剤(Woellner社のBetolin V30(商標))、
・0.3wt%の分散剤(Evonic社のTego 740(商標))、
・1wt%の硝酸カリウム、
も添加した。
【0056】
こうして調製した組成物を、フィルムコーターによってガラス基材に塗布し、次いで150℃で10分間乾燥させた。
【0057】
得られた層の厚さは約50μmであった。反射で測定されたこの層のL
*は95.7であった。この層は特に硬質であり、スクレロメーターによって4N未満の力を加えたときにガラス側から見える引掻き傷は生じなかった。この被覆層はガラス基材に対する密着性が良好であり、すなわち、標準化された格子試験(ISO 2409:2007)において評点1が得られ、浸漬後密着性試験で剥離は観察されなかった。出願人の会社によって開発されたこの試験は、試料を脱イオン水中に3分間浸漬し、次いで塗料表面を乾いた布で軽くたたいて乾燥させ、次に格子試験のために使用される標準化された粘着テープを貼りそしてこれを取り外すものである。この試験は、塗装ガラスのトリミング工程及び洗浄工程における密着性を評価するのを可能にする。
【0058】
こうして塗装を施した基材は、硬度、色又は密着特性を有意に損なうことなしに、650℃の温度で10分間テンパー処理することができる。具体的には、テンパー処理されていない層とテンパー処理した層との色変化ΔE
*は2.0である。
【0059】
〔例2〕
Woellner社のK42T(商標)ケイ酸カリウム溶液20wt%と、水31.6wt%及び酸化チタン(顔料)10wt%とを混合することによって、水性無機塗料組成物を調製した。下記添加剤、すなわち、
・7wt%のタルク(Rio Tinto Minerals社のJetfine A1(商標))、
・30wt%のアルミナ(Almatis社のCTC 20(商標))、
・0.1wt%の消泡剤(Evonic社のFoamex 825(商標))、
・0.1wt%の増粘剤(Woellner社のBetolin V30(商標))、
・0.3wt%の分散剤(Evonic社のTego 740(商標))、
・1wt%の硝酸カリウム、
も添加した。
【0060】
例1と同様に、こうして調製した組成物をフィルムコーターによってガラス基材に塗布し、次いで150℃で10分間乾燥させた。
【0061】
得られた層の厚さはここでも約50μmであり、反射で測定されたこの層のL
*は96.2であった。スクレロメーターによって48N未満の力を加えたときにガラス側から見える引掻き傷は生じなかった。標準化された格子試験において評点1が得られ、浸漬後密着性試験で剥離は観察されなかった。
【0062】
こうして塗装を施した基材はここでもまた、硬度、色又は密着特性を有意に損なうことなく650℃の温度で10分間テンパー処理することができる。テンパー処理されていない層とテンパー処理した層との色変化ΔE
*は1.7であり、被覆層はテンパー処理後に黒化ゾーンを含まなかった。
【0063】
〔比較例〕
比較のために、AGC社から入手したテンパー処理していない状態の塗装されたガラス基材Lacobel T Cool White(商標)について、同様の試験を行った。エナメル層が多量の樹脂を含有していて、4Nまで引掻きに耐えるのを可能にした。他方において、この層の基材への密着力は弱く、標準化された格子試験の評点は4であり、浸漬後密着性試験において25%が剥離した。更に、テンパー処理されていない層とテンパー処理した層とのΔE
*は6.1であった。
本発明の態様としては、以下を挙げることができる:
《態様1》
面のうちの少なくとも一方のものの一部又は全体にわたって不透明被覆層で被覆された、テンパー処理可能なガラス製又はガラスセラミック製の塗装基材であって、当該基材に直接適用された前記層が、10wt%と55wt%の間のケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム及び/又はケイ酸リチウムを含むアルカリ性ケイ酸塩水性液と、無機充填剤と、少なくとも1種の顔料とを基剤とする無機塗料であり、当該層の明度が、反射で測定したL*成分が20以上であり、且つテンパー処理前の当該層で被覆された基材とテンパー処理後の当該層で被覆された基材との色差が、
【数2】
(この式中のΔL*、Δa*及びΔb*は、テンパー処理前後の当該被覆された基材について測定されたL*、a*及びb*色座標の差を表す)
によって定義されるパラメータΔE*が5.0以下であるようなものであることを特徴とする、テンパー処理可能なガラス製又はガラスセラミック製塗装基材。
《態様2》
前記無機塗料が付着促進剤を含まないことを特徴とする、態様1に記載の基材。
《態様3》
前記顔料が有機又は無機であることを特徴とする、態様1又は2に記載の基材。
《態様4》
前記無機充填剤が、タルクなどのマグネシウムケイ酸塩、アルミナ、石灰石、カオリン、粘土及び硫酸バリウムから選択されることを特徴とする、態様1から3までの1つに記載の基材。
《態様5》
前記アルカリ性ケイ酸塩の前記無機粒子に対する重量比が1:1未満であり、当該無機粒子が前記無機充填剤と無機顔料とからなることを特徴とする、態様3又は4に記載の基材。
《態様6》
前記無機塗料が、分散剤、消泡剤、増粘剤、安定化剤及び/又は硬化剤を更に含むことを特徴とする、態様1から5までの1つに記載の基材。
《態様7》
前記剤が前記塗料の0.01wt%と5wt%の間、好ましくは0.01wt%と1wt%の間の量で存在することを特徴とする、態様6に記載の基材。
《態様8》
前記無機塗料が、300℃を上回る温度で酸素を放出する傾向のある添加剤を含み、当該添加剤が、硝酸塩、炭酸塩又はアルカリ性硫酸塩から選ばれ、あるいは高い酸化力を有する有機化合物、例えばオキサレート又はポリラクテート、から選択されることを特徴とする、態様1から7までの1つに記載の基材。
《態様9》
前記無機塗料が、大きさが5μmより小さい、好ましくは2μm未満より小さい、粒子を含むことを特徴とする、態様1から8までの1つに記載の基材。
《態様10》
前記無機塗料の層の厚さが少なくとも10μm、好ましくは少なくとも50μmであることを特徴とする、態様1から9までの1つに記載の基材。
《態様11》
態様1から10までの1つに記載のテンパー処理可能なガラス製又はガラスセラミック製塗装基材を製造する方法であって、
a.当該基材の面のうちの少なくとも一方のものの全体又は一部にわたって、アルカリ性ケイ酸塩水性液と、無機充填剤と、少なくとも1種の顔料とを含み、好ましくは付着促進剤を含まない、無機塗料を基剤とする被覆層を被着させる工程、及び、
b.当該被覆した基材が機械的変形を被らずに切断可能のままであるような温度で、単一の工程で前記層を乾燥させる工程、
を含むことを特徴とする、テンパー処理可能な塗装基材の製造方法。
《態様12》
前記乾燥させる工程を500℃未満、好ましくは400℃未満、そしてより好ましくは200℃未満の温度で実施することを特徴とする、態様11に記載の方法。