特許第6585507号(P6585507)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6585507アンカー構造体及びアンカー構造体の構築方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6585507
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】アンカー構造体及びアンカー構造体の構築方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20190919BHJP
   E04G 21/12 20060101ALI20190919BHJP
   E21D 11/08 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   E04G23/02 E
   E04G21/12 105Z
   E21D11/08
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-61(P2016-61)
(22)【出願日】2016年1月4日
(65)【公開番号】特開2017-122308(P2017-122308A)
(43)【公開日】2017年7月13日
【審査請求日】2018年11月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 薫
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隼人
【審査官】 兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−052398(JP,A)
【文献】 特開2016−089528(JP,A)
【文献】 特開平10−140850(JP,A)
【文献】 特開2016−191226(JP,A)
【文献】 米国特許第06119413(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E04G 21/12
E21D 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の表面側から裏面側まで貫通した貫通孔と、
前記コンクリート構造物の表面側から裏面側まで貫通するとともに前記貫通孔と連結し、前記貫通孔よりも小さな開口サイズを有する複数のアンカー配置孔と、
前記貫通孔を通過可能であって前記アンカー配置孔を通過不能なサイズを有する定着体と、その定着体が先端部に設けられているアンカー本体とを有する複数のアンカー部材と、
前記複数のアンカー部材のアンカー本体が前記複数のアンカー配置孔にそれぞれ配置され、前記定着体が前記コンクリート構造物の裏面側に係止された状態で、前記貫通孔および前記アンカー配置孔に充填されている充填材を備えたことを特徴とするアンカー構造体。
【請求項2】
前記アンカー本体は、前記貫通孔から前記アンカー配置孔に移動可能なサイズを有していることを特徴とする請求項1に記載のアンカー構造体。
【請求項3】
前記貫通孔には、前記アンカー部材が前記アンカー配置孔から前記貫通孔に移動しないように規制するストッパーが設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のアンカー構造体。
【請求項4】
前記コンクリート構造物の裏面側で前記貫通孔および前記アンカー配置孔を覆い、前記充填材が前記貫通孔および前記アンカー配置孔から漏れないようにするカバー部材が設けられていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のアンカー構造体。
【請求項5】
コンクリート構造物の表面側から裏面側に向けて貫通する貫通孔と、前記コンクリート構造物の表面側から裏面側に向けて貫通するとともに前記貫通孔と連結し、前記貫通孔よりも小さな開口サイズを有する複数のアンカー配置孔と、を形成する工程と、
前記貫通孔を通過可能であって前記アンカー配置孔を通過不能なサイズを有する定着体と、その定着体が先端部に設けられているアンカー本体とを有するアンカー部材を、前記定着体が前記コンクリート構造物の裏面側に達するまで前記貫通孔に挿入する工程と、
前記貫通孔に挿入した前記アンカー部材のアンカー本体を前記アンカー配置孔に移動させ、前記定着体を前記コンクリート構造物の裏面側に係止する工程と、
前記複数のアンカー配置孔の全てに前記アンカー部材を配置した後、前記複数のアンカー部材がずれないように保持した状態で、前記貫通孔および前記アンカー配置孔に充填材を充填する工程と、
を備えたことを特徴とするアンカー構造体の構築方法。
【請求項6】
前記貫通孔に、前記アンカー部材が前記アンカー配置孔から前記貫通孔に移動しないように規制するストッパーを設置する工程を含むことを特徴とする請求項5に記載のアンカー構造体の構築方法。
【請求項7】
前記コンクリート構造物の裏面側で前記貫通孔および前記アンカー配置孔を覆い、前記充填材が前記貫通孔および前記アンカー配置孔から漏れないようにするカバー部材を設置する工程を含むことを特徴とする請求項5又は6に記載のアンカー構造体の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物を補強するのに用いるアンカー構造体及びアンカー構造体の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、既設のコンクリート構造物の耐震補強を図るため、コンクリート構造物に形成した貫通孔に充填材を充填するとともに補強鉄筋などのアンカー部材を挿入し、そのアンカー部材の両端部に断面形状が大きい定着部材を取り付けてなるアンカー構造体を設置する技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−57265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなアンカー構造体でコンクリート構造物の耐震補強・せん断補強を図る場合、コンクリート構造物の厚みに応じてアンカー部材を太くしなければならないことがある。
アンカー部材が太くなり大型化すると、そのアンカー部材の重量が増すことで取り扱い難くなって、例えば高所への設置作業が困難になるという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、コンクリート構造物を補強するのに施工し易いアンカー構造体及びアンカー構造体の構築方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本出願に係るアンカー構造体は、
コンクリート構造物の表面側から裏面側まで貫通した貫通孔と、
前記コンクリート構造物の表面側から裏面側まで貫通するとともに前記貫通孔と連結し、前記貫通孔よりも小さな開口サイズを有する複数のアンカー配置孔と、
前記貫通孔を通過可能であって前記アンカー配置孔を通過不能なサイズを有する定着体と、その定着体が先端部に設けられているアンカー本体とを有する複数のアンカー部材と、
前記複数のアンカー部材のアンカー本体が前記複数のアンカー配置孔にそれぞれ配置され、前記定着体が前記コンクリート構造物の裏面側に係止された状態で、前記アンカー部材と前記貫通孔および前記アンカー配置孔との隙間に充填されている充填材を備えるようにした。
【0007】
かかる構成のアンカー構造体は、コンクリート構造物の表面側からの施工によって、コンクリート構造物に構築することができ、先端部の定着体をコンクリート構造物の裏面側に係止したアンカー部材によってコンクリート構造物を補強することができる。
特に、このアンカー構造体は、複数のアンカー部材からなるアンカー群によってコンクリート構造物を好適に補強することができる。
例えば、直径が「2b」であるアンカー本体を有するアンカー部材が太くて取り扱い難い場合や重くて扱い難い場合には、直径がその半分の“b”であるアンカー本体を有する4本のアンカー部材を用いるようにすれば、太くて重いアンカー部材を用いるよりも比較的取り扱い易いので、その4本のアンカー部材を有するアンカー構造体を容易に施工することができ、そのアンカー構造体でコンクリート構造物を補強することが可能になる。
つまり、比較的細くて軽いアンカー部材は、太くて重いアンカー部材よりも取り扱い易いので、そのような取り扱い易いアンカー部材を複数用いて構築することができるアンカー構造体は施工し易く、好適にコンクリート構造物を補強することができる。
【0008】
また、望ましくは、
前記アンカー本体は、前記貫通孔から前記アンカー配置孔に移動可能なサイズを有するようにする。
こうすることで、先端部の定着体がコンクリート構造物の裏面側に達するまでアンカー部材を貫通孔に挿入した後、貫通孔に挿入したアンカー部材のアンカー本体をアンカー配置孔に移動させて、定着体をコンクリート構造物の裏面側に係止することができる。
【0009】
また、望ましくは、
前記貫通孔には、前記アンカー部材が前記アンカー配置孔から前記貫通孔に移動しないように規制するストッパーが設けられているようにする。
こうすることで、より確実にアンカー部材をアンカー配置孔に配置させることができる。
【0010】
また、望ましくは、
前記コンクリート構造物の裏面側で前記貫通孔および前記アンカー配置孔を覆い、前記充填材が前記貫通孔および前記アンカー配置孔から漏れないようにするカバー部材が設けられているようにする。
こうすることで、より確実に貫通孔およびアンカー配置孔に充填材を充填することができる。
【0011】
また、本出願に係るアンカー構造体の構築方法は、
コンクリート構造物の表面側から裏面側に向けて貫通する貫通孔と、前記コンクリート構造物の表面側から裏面側に向けて貫通するとともに前記貫通孔と連結し、前記貫通孔よりも小さな開口サイズを有する複数のアンカー配置孔と、を形成する工程と、
前記貫通孔を通過可能であって前記アンカー配置孔を通過不能なサイズを有する定着体と、その定着体が先端部に設けられているアンカー本体とを有するアンカー部材を、前記定着体が前記コンクリート構造物の裏面側に達するまで前記貫通孔に挿入する工程と、
前記貫通孔に挿入した前記アンカー部材のアンカー本体を前記アンカー配置孔に移動させ、前記定着体を前記コンクリート構造物の裏面側に係止する工程と、
前記複数のアンカー配置孔の全てに前記アンカー部材を配置した後、前記複数のアンカー部材がずれないように保持した状態で、前記貫通孔および前記アンカー配置孔に充填材を充填する工程と、
を備えたことを特徴とする。
【0012】
かかる構成のアンカー構造体の構築方法によれば、コンクリート構造物の表面側からの施工によって、コンクリート構造物にアンカー構造体を構築することができ、先端部の定着体をコンクリート構造物の裏面側に係止したアンカー部材によってコンクリート構造物を補強することができる。
特に、この方法で構築したアンカー構造体は、複数のアンカー部材からなるアンカー群によってコンクリート構造物を好適に補強することができる。
例えば、太くて重いアンカー部材よりも取り扱い易い、比較的細くて軽いアンカー部材を複数用いる方法によって構築できるアンカー構造体は施工し易く、好適にコンクリート構造物を補強することができる。
【0013】
また、望ましくは、
前記貫通孔に、前記アンカー部材が前記アンカー配置孔から前記貫通孔に移動しないように規制するストッパーを設置する工程を含むようにする。
こうすることで、より確実にアンカー部材をアンカー配置孔に配置させることができる。
【0014】
また、望ましくは、
前記コンクリート構造物の裏面側で前記貫通孔および前記アンカー配置孔を覆い、前記充填材が前記貫通孔および前記アンカー配置孔から漏れないようにするカバー部材を設置する工程を含むようにする。
こうすることで、より確実に貫通孔およびアンカー配置孔に充填材を充填することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、コンクリート構造物を補強するのに施工し易いアンカー構造体及びアンカー構造体の構築方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態のアンカー構造体によって補強したボックスカルバートを示す断面図である。
図2】本実施形態のアンカー構造体を示す断面図である。
図3】本実施形態のアンカー構造体の構築方法の手順に関する説明図(a)(b)である。
図4】本実施形態のアンカー構造体の構築方法の手順に関する説明図(a)(b)である。
図5】本実施形態のアンカー構造体の構築方法の手順に関する説明図である。
図6】本実施形態のアンカー構造体の構築方法の手順に関する説明図(a)(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明に係るアンカー構造体及びアンカー構造体の構築方法の実施形態について詳細に説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0018】
図1は既設のコンクリート構造物であるボックスカルバート1を示す断面図である。
地中に埋設されているボックスカルバート1にはせん断力が作用するので、せん断補強体としてのアンカー構造体100をボックスカルバート1に構築するなどして、その補強が行われる。
【0019】
図1に示すボックスカルバート1の壁体には、アンカー構造体100が構築されており、このアンカー構造体100によってボックスカルバート1は補強されている。
アンカー構造体100は、図1図2に示すように、ボックスカルバート1の表面側から裏面側まで貫通した中央貫通孔11およびアンカー配置孔12(図3参照)と、複数のアンカー配置孔12にそれぞれ配置されている複数のアンカー部材20と、中央貫通孔11およびアンカー配置孔12に充填されている充填材50等を備えて構成されている。
このアンカー構造体100は、地中に埋設されたボックスカルバート1の内側の空間内に作業者が入り、その内側からの施工によってボックスカルバート1に構築されている。
【0020】
中央貫通孔11は、図3(a)(b)に示すように、ボックスカルバート1の壁体に形成されている比較的大口径の貫通孔である。
アンカー配置孔12は、図3(b)に示すように、中央貫通孔11と一部が重なって連結するように、ボックスカルバート1の壁体に形成されている比較的小口径の貫通孔であり、中央貫通孔11よりも小さな開口サイズを有している。
本実施形態では、中央貫通孔11の周囲に4つのアンカー配置孔12が設けられており、各アンカー配置孔12と中央貫通孔11の内部空間は連通している。なお、各アンカー配置孔12と中央貫通孔11は、ボックスカルバート1の壁体の厚さ方向の全域に亘って連結し、連通している。
【0021】
アンカー部材20は、中央貫通孔11を通過可能であってアンカー配置孔12を通過不能なサイズを有する定着体21と、その定着体21が先端部に設けられているアンカー本体22とを有している。
アンカー本体22は円柱状の棒体であり、定着体21はアンカー本体22よりも太い円柱形状を呈している。
このアンカー部材20は、例えば、鋼材あるいはステンレスなどの金属材料からなる部材である。定着体21とアンカー本体22は一体成形されていても、溶接などの強固な接合手法によって接合されていてもよい。また、アンカー部材20は、金属製であることに限らず、樹脂製あるいは炭素繊維製などであってもよい。
本実施形態では、4箇所のアンカー配置孔12に対応し、4本のアンカー部材20を用いる。
【0022】
充填材50は、例えば、モルタルやコンクリートなどであり、流動性を有する状態で中央貫通孔11およびアンカー配置孔12の内部空間に充填された後、硬化する物質を用いることができる。
この充填材50は、複数のアンカー部材20のアンカー本体22が複数のアンカー配置孔12にそれぞれ配置され、各アンカー部材20の定着体21がボックスカルバート1の壁体の裏面側に係止された状態で、中央貫通孔11およびアンカー配置孔12に充填されている。
【0023】
なお、地中に埋設されるボックスカルバート1は、地下道(歩道および車道)として利用される他、下水および排水用管路や、通信ケーブルを収容する通信線用管路など、多岐に亘って利用することが可能なコンクリート構造物である。
また、本実施形態では、ボックスカルバート1の壁体にアンカー構造体100を構築しているが、ボックスカルバート1の床体や天井体にアンカー構造体100を構築してもよい。
【0024】
次に、本実施形態のアンカー構造体100をボックスカルバート1の壁体に構築する手順(アンカー構造体の構築方法)について説明する。
【0025】
まず、図3(a)に示すように、ボックスカルバート1の壁体に、ボックスカルバート1の表面側から裏面側に向けて貫通する円筒状の中央貫通孔11を形成する。
次いで、図3(b)に示すように、中央貫通孔11の周囲の4箇所に、ボックスカルバート1の表面側から裏面側に向けて貫通するとともに中央貫通孔11と一部が重なって連結するアンカー配置孔12を形成する。ここでは、中央貫通孔11の上下左右の4箇所にアンカー配置孔12を形成した。
このアンカー配置孔12も中央貫通孔11と同様に円筒状の貫通孔ではあるが、中央貫通孔11と一部が重なって連結しているため、その一部が欠けたような円筒形状を呈する。また、アンカー配置孔12が形成されたことで、中央貫通孔11もその一部が欠けたような円筒形状を呈する。
なお、中央貫通孔11とアンカー配置孔12を形成する穿孔方向は、ボックスカルバート1の壁体に対し垂直であり、中央貫通孔11とアンカー配置孔12の穿孔方向は互いに平行である。
【0026】
ここで、中央貫通孔11とアンカー配置孔12の口径と、アンカー部材20の定着体21とアンカー本体22の直径との相関について説明する。
図3(b)に示すように、アンカー部材20の定着体21の直径が“a”であり、アンカー部材20のアンカー本体22の直径が“b”であるとき、中央貫通孔11の口径“A”は、b<a<Aであるように形成し、アンカー配置孔12の口径“B”は、b<B<aでああるように形成する。つまり、b<B<a<Aが成立するように中央貫通孔11とアンカー配置孔12を形成する。
さらに、中央貫通孔11とアンカー配置孔12とが交わった連結部分の幅“C”が、b<C<Bとなるように、アンカー配置孔12の位置を調整して形成する。つまり、b<C<B<a<Aが成立するように中央貫通孔11とアンカー配置孔12を形成する。
【0027】
このように、中央貫通孔11の口径“A”と、アンカー配置孔12の口径“B”と、中央貫通孔11とアンカー配置孔12とが交わった連結部分の幅“C”と、アンカー部材20の定着体21の直径“a”と、アンカー部材20のアンカー本体22の直径“b”との大小関係が、「b<C<B<a<A」となっていれば、後述する手順によってアンカー部材20をアンカー配置孔12に配置させることが可能になる。
【0028】
次いで、図4(a)に示すように、先端部の定着体21がボックスカルバート1の裏面側に達するまで、アンカー部材20を中央貫通孔11に挿入する。
次いで、図4(b)に示すように、中央貫通孔11に挿入したアンカー部材20のアンカー本体22をアンカー配置孔12にスライド移動させ、定着体21をボックスカルバート1の裏面側に係止する。
上述したように、アンカー部材20のアンカー本体22の直径“b”が、中央貫通孔11とアンカー配置孔12とが交わった連結部分の幅“C”よりも小さく、アンカー本体22は中央貫通孔11からアンカー配置孔12に移動可能なサイズを有しているので、このスライド移動が可能になっている。
そして、中央貫通孔11に挿入したアンカー部材20のアンカー本体22をアンカー配置孔12にスライド移動させて、定着体21をボックスカルバート1の裏面側に係止する作業を、4箇所のアンカー配置孔12に対して行う。
【0029】
次いで、図5に示すように、4箇所のアンカー配置孔12の全てにアンカー部材20を配置した後、ストッパー30を中央貫通孔11に挿入して設置し、アンカー部材20がアンカー配置孔12から中央貫通孔11に移動しないように規制する。
ストッパー30は、例えばコイル形状を呈する部材であり、その外径が中央貫通孔11の口径“A”と略同じサイズを有している。
アンカー部材20がアンカー配置孔12から中央貫通孔11に移動しないように規制するストッパー30は、このようなコイル形状を呈するものに限らず、その外径サイズが中央貫通孔11の口径“A”と略同じものであれば、例えば複数のリングが繋がれてなる円筒部材などであってもよい。なお、ストッパー30は、金属製の部材であっても樹脂製の部材であってもよい。
【0030】
次いで、図6(a)(b)に示すように、ボックスカルバート1の裏面側で中央貫通孔11およびアンカー配置孔12を覆い、充填材50が中央貫通孔11やアンカー配置孔12から漏れないようにするカバー部材40を設置する。
カバー部材40は、例えば軸部41と、軸部41の先端側に設けられた拡径カバー42を備えている傘状の部材である。
軸部41は、金属製、樹脂製あるいは炭素繊維製の棒状部材である。
拡径カバー42は、不透水性(止水性)と耐圧性と可撓性を有するシート材からなる部材である。この拡径カバー42が窄められた状態でボックスカルバート1の裏面側に配置された後に拡径されて、中央貫通孔11およびアンカー配置孔12を覆うようになっている。なお、窄められている拡径カバー42は、例えば軸部41の基端側で所定の操作を行うことで拡径可能になっている。
ボックスカルバート1の裏面側で中央貫通孔11およびアンカー配置孔12を覆うカバー部材40は、このような傘状の部材であることに限らず、例えば、ボックスカルバート1の裏面側で膨張するように膨らまされて、中央貫通孔11とアンカー配置孔12を塞ぐことができる膨張体を有するものなどであってもよい。
【0031】
次いで、図2に示すように、ボックスカルバート1の表面側で中央貫通孔11およびアンカー配置孔12を覆う固定板60を取り付け、その固定板60に設けられている図示しない注入口から充填材50を注入する。
そして、全てのアンカー配置孔12にアンカー部材20が配置されている状態で中央貫通孔11およびアンカー配置孔12に充填材50を充填し、その充填材50を硬化させることでアンカー構造体100を構築することができる。
【0032】
このように、本実施形態のアンカー構造体100は、ボックスカルバート1の内側片面からの施工によって、ボックスカルバート1の壁体に構築することができ、その構築したアンカー構造体100によってボックスカルバート1を補強することができる。
特に、このアンカー構造体100は、定着体21がボックスカルバート1の裏面側に係止されている複数(本実施形態では4本)のアンカー部材20からなるアンカー群によってボックスカルバート1を好適に補強することができる。
【0033】
本実施形態のアンカー構造体100のように、直径が“b”であるアンカー本体22を有する4本のアンカー部材20からなるアンカー群による補強の強度は、直径が「2b」であるアンカー本体22を有する1本のアンカー部材20による補強の強度と同等であることが、アンカー本体22の断面積比から分かる。
具体的に、直径が“b”であるアンカー本体22(アンカー部材20)の4本分の断面積と、直径が「2b」であるアンカー本体22(アンカー部材20)の1本分の断面積の比は、(b/2)・π×4:b・π=1:1である。
つまり、直径が「2b」であるアンカー本体22を有するアンカー部材20が太くて取り扱い難い場合や重くて扱い難い場合には、直径がその半分の“b”であるアンカー本体22を有する4本のアンカー部材20を用いるようにすれば、太くて重いアンカー部材を用いるよりも比較的取り扱い易いので、その4本のアンカー部材20を有するアンカー構造体100を容易に施工することができ、そのアンカー構造体100でボックスカルバート1を補強することができる。
【0034】
以上のように、複数(本実施形態では4本)のアンカー部材20からなるアンカー群によってボックスカルバート1を補強することができるアンカー構造体100は、太くて重い1本のアンカー部材を用いるものよりも比較的容易に施工することができる。
つまり、本実施形態のアンカー構造体100は、ボックスカルバート1を補強するのに施工し易い構造体である。
【0035】
また、本実施形態では、既設のコンクリート構造物であるボックスカルバート1の壁体を補強する施工例を挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、背面が土砂などで覆われている橋台や橋脚などのコンクリート構造物を補強することにも、本発明を適用することができる。
【0036】
なお、以上の実施の形態においては、中央貫通孔11の周囲の4箇所にアンカー配置孔12を形成するとともに、4本のアンカー部材20を用いたアンカー構造体100を構築したが、本発明はこれに限定されるものではなく、アンカー配置孔12とアンカー部材20の数は任意であり、2箇所以上のアンカー配置孔12と、それに対応する2本以上のアンカー部材20を用いたアンカー構造体100であればよい。
【0037】
また、以上の実施の形態においては、中央貫通孔11を形成した後に4つのアンカー配置孔12を形成したが、本発明はこれに限定されるものではなく、4つのアンカー配置孔12を形成した後に中央貫通孔11を形成してもよい。また、幾つかの(例えば2つの)アンカー配置孔12を形成した後に中央貫通孔11を形成し、その後に残りの(例えば2つの)アンカー配置孔12を形成するようにしてもよい。
【0038】
また、以上の実施の形態においては、アンカー部材20がアンカー配置孔12から中央貫通孔11に移動しないように規制するストッパー30を中央貫通孔11内に設置したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、中央貫通孔11の外側でアンカー部材20を保持してその移動を規制する構成のストッパーを用いるようにしてもよい。
【0039】
また、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0040】
1 ボックスカルバート(コンクリート構造物)
11 中央貫通孔(貫通孔)
12 アンカー配置孔
20 アンカー部材
21 定着体
22 アンカー本体
30 ストッパー
40 カバー部材
50 充填材
60 固定板
100 アンカー構造体
図1
図2
図3
図4
図5
図6