(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6585512
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】変位検出器及び変位の検出方法
(51)【国際特許分類】
G01B 21/32 20060101AFI20190919BHJP
G01B 5/00 20060101ALI20190919BHJP
G01B 5/30 20060101ALI20190919BHJP
G01L 1/00 20060101ALI20190919BHJP
G01L 1/24 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
G01B21/32
G01B5/00 B
G01B5/30
G01L1/00 B
G01L1/24 Z
【請求項の数】34
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2016-10756(P2016-10756)
(22)【出願日】2016年1月22日
(65)【公開番号】特開2017-129530(P2017-129530A)
(43)【公開日】2017年7月27日
【審査請求日】2018年11月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100149261
【弁理士】
【氏名又は名称】大内 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 岳季
(72)【発明者】
【氏名】中村 大輔
(72)【発明者】
【氏名】森井 広樹
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 敬一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 義信
(72)【発明者】
【氏名】森 行正
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 信之
(72)【発明者】
【氏名】近藤 厚男
【審査官】
齋藤 卓司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−014561(JP,A)
【文献】
特開2012−073214(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0083286(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 21/32
G01B 5/00
G01B 5/30
G01L 1/00
G01L 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック製薄肉円板と、
前記セラミック製薄肉円板の外径と同じかそれ以上の外径を有する円環状枠部と、
前記円環状枠部の外径と同じかそれ以上の外径を有する円板状薄肉基板とを有し、
前記円板状薄肉基板、前記円環状枠部及び前記セラミック製薄肉円板が同軸上で、且つ、この順番で厚み方向に積層一体化されていることを特徴とする変位検出器。
【請求項2】
請求項1記載の変位検出器において、
前記円環状枠部と前記円板状薄肉基板が一体的に形成されていることを特徴とする変位検出器。
【請求項3】
請求項1又は2記載の変位検出器において、
前記円環状枠部及び前記円板状薄肉基板の少なくとも一方に貫通孔が形成されていることを特徴とする変位検出器。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の変位検出器において、
前記セラミック製薄肉円板に1つ以上の応力集中部が設けられていることを特徴とする変位検出器。
【請求項5】
請求項4記載の変位検出器において、
前記セラミック製薄肉円板に設けられた前記応力集中部の厚みは、前記セラミック製薄肉円板のうち、前記応力集中部と異なる部位の厚みより薄いことを特徴とする変位検出器。
【請求項6】
請求項4又は5記載の変位検出器において、
前記応力集中部の厚みが0.01mm以上0.5mm以下であることを特徴とする変位検出器。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれか1項に記載の変位検出器において、
前記応力集中部は、1つの本体部と、前記本体部から分岐した複数の分岐部とを有することを特徴とする変位検出器。
【請求項8】
請求項7記載の変位検出器において、
前記本体部は、前記セラミック製薄肉円板の中央に形成され、
前記複数の分岐部は、前記本体部から前記セラミック製薄肉円板の外周に向かって放射状に形成されていることを特徴とする変位検出器。
【請求項9】
請求項7記載の変位検出器において、
前記本体部は、前記セラミック製薄肉円板の外周側に枠状に形成され、
前記複数の分岐部は、前記本体部から前記セラミック製薄肉円板の中央に向かって放射状に形成されていることを特徴とする変位検出器。
【請求項10】
請求項4〜6のいずれか1項に記載の変位検出器において、
複数の前記応力集中部が放射状に配列されていることを特徴とする変位検出器。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の変位検出器において、
前記円板状薄肉基板の表面に着色物質が付与固定化され、
前記セラミック製薄肉円板の外表面の色と、前記着色物質の色とが異なることを特徴とする変位検出器。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の変位検出器において、
前記円板状薄肉基板と前記円環状枠部と前記セラミック製薄肉円板とで区画された密閉空間と、
前記密閉空間に封入された着色物質とを有し、
前記セラミック製薄肉円板の外表面の色と、前記着色物質の色とが異なることを特徴とする変位検出器。
【請求項13】
請求項12記載の変位検出器において、
前記セラミック製薄肉円板の外表面に前記着色物質の定着膜が形成されていることを特徴とする変位検出器。
【請求項14】
請求項13記載の変位検出器において、
前記定着膜の表面に方位を示す指標が表示されていることを特徴とする変位検出器。
【請求項15】
請求項13又は14記載の変位検出器において、
前記定着膜の外表面に透明性の保護層を有することを特徴とする変位検出器。
【請求項16】
請求項11〜15のいずれか1項に記載の変位検出器において、
前記着色物質は、塗装によって形成される塗膜、シート状あるいはテープ状の固定可能なフィルム、液体、粉体、あるいは粉体を液体に分散させたスラリー、あるいは常温で気化し、着色煙を発生する固体あるいは液体であることを特徴とする変位検出器。
【請求項17】
請求項11〜16のいずれか1項に記載の変位検出器において、
前記着色物質は、外部光源からの光で蛍光発色する蛍光体であることを特徴とする変位検出器。
【請求項18】
請求項11〜16のいずれか1項に記載の変位検出器において、
前記着色物質は、外部光源からの光で自発光する蓄光顔料であることを特徴とする変位検出器。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか1項に記載の変位検出器において、
前記円環状枠部の内径が3mm以上200mm以下であることを特徴とする変位検出器。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか1項に記載の変位検出器において、
前記円環状枠部の幅が1mm以上20mm以下、前記円環状枠部の高さ(厚さ)が0.1mm以上2mm以下であることを特徴とする変位検出器。
【請求項21】
請求項1〜20のいずれか1項に記載の変位検出器において、
前記セラミック製薄肉円板の厚さが0.1mm以上0.5mm以下、前記円板状薄肉基板の厚さが0.05mm以上2mm以下であることを特徴とする変位検出器。
【請求項22】
請求項1〜21のいずれか1項に記載の変位検出器において、
前記円板状薄肉基板及び前記円環状枠部の材質が金属であり、
前記セラミック製薄肉円板の材質がジルコニアであることを特徴とする変位検出器。
【請求項23】
請求項1〜22のいずれか1項に記載の変位検出器において、
前記円環状枠部及び前記円板状薄肉基板の材質が鋼材又はステンレス材であることを特徴とする変位検出器。
【請求項24】
請求項1〜23のいずれか1項に記載の変位検出器において、
前記円環状枠部及び前記円板状薄肉基板の材質がアルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、チタン、チタン合金、ニッケル鋼、あるいはニッケル、又はこれらの組み合わせであることを特徴とする変位検出器。
【請求項25】
請求項1〜24のいずれか1項に記載の変位検出器において、
前記円環状枠部及び前記円板状薄肉基板の少なくとも一方に当該変位検出器の外側から内側を貫通する孔が形成されていることを特徴とする変位検出器。
【請求項26】
請求項1〜25のいずれか1項に記載の変位検出器において、
前記円環状枠部の表面、又は前記円板状薄肉基板の表面、又は前記円環状枠部及び前記円板状薄肉基板の各表面に方位を示す指標が表示されていることを特徴とする変位検出器。
【請求項27】
セラミック製薄肉円板と、前記セラミック製薄肉円板の外径と同じかそれ以上の外径を有する円環状枠部と、前記円環状枠部の外径と同じかそれ以上の外径を有する円板状薄肉基板とを有し、前記円板状薄肉基板、前記円環状枠部及び前記セラミック製薄肉円板が同軸上で、且つ、この順番で厚み方向に積層一体化された変位検出器を使用し、
前記変位検出器の前記円板状薄肉基板を被検査対象物に固定し、
前記被検査対象物に発生した変位により、前記変位検出器の前記セラミック製薄肉円板が変形することで発生したクラックの方向に基づいて、前記被検査対象物に発生した変位の方向を検出することを特徴とする変位の検出方法。
【請求項28】
請求項27記載の変位の検出方法において、
前記変位検出器は、前記円板状薄肉基板の表面に着色物質が付与固定化され、
前記被検査対象物に発生した変位によって前記セラミック製薄肉円板にクラックが発生することによって生じた隙間より前記着色物質を直接観察することで、前記クラックの発生及び前記クラックの方向を検出することを特徴とする変位の検出方法。
【請求項29】
請求項27記載の変位の検出方法において、
前記変位検出器は、前記円板状薄肉基板と前記円環状枠部と前記セラミック製薄肉円板とで区画された密閉空間に着色物質が封入され、
前記被検査対象物に発生した変位によって前記セラミック製薄肉円板から染み出た前記着色物質に基づいて、前記クラックの発生及び前記クラックの方向を検出することを特徴とする変位の検出方法。
【請求項30】
請求項29記載の変位の検出方法において、
前記変位検出器は、前記セラミック製薄肉円板の外表面に前記着色物質の定着膜が形成され、
前記被検査対象物に発生した変位によって前記セラミック製薄肉円板から染み出た前記着色物質を前記定着膜に固定化することを特徴とする変位の検出方法。
【請求項31】
請求項30記載の変位の検出方法において、
前記変位検出器は、前記定着膜の表面に透明な保護層を有し、
前記定着膜に固定化された前記着色物質を長期間に亘って保護することを特徴とする変位の検出方法。
【請求項32】
請求項27〜31のいずれか1項に記載の変位の検出方法において、
前記着色物質は、外部光源からの光で蛍光発色する蛍光体であることを特徴とする変位の検出方法。
【請求項33】
請求項27〜31のいずれか1項に記載の変位の検出方法において、
前記着色物質は、外部光源からの光で蓄光し自発光する蓄光顔料であることを特徴とする変位の検出方法。
【請求項34】
請求項27〜33のいずれか1項に記載の変位の検出方法において、
前記円環状枠部の内径が3mm以上200mm以下であることを特徴とする変位の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変位検出器及び変位の検出方法に関し、例えば金属製のフレームや、圧力容器、コンクリート構造物、鉄筋コンクリート構造物等に生じた変位を測定するのに好適な変位検出器及び変位の検出方法に関する。なお、「変位」を「歪」あるいは「歪み」と称したり、併記する場合がある。「歪」及び「歪み」という場合は、現象としての歪みと物理量としての歪量とを含み、明らかに歪量を示す場合は、「歪量」と記す。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物や構造物の機械的歪みや変位を測定する変位検出装置として、特許文献1記載の変位検出装置があり、また、構造物の疲労損傷評価する装置として、特許文献2記載の構造物の疲労損傷評価装置がある。一般的にこのような建築物や構造物はその主たる応力を鋼材で構成された構造体で支えるように建設される。
【0003】
主として建築に用いられる鋼材としては軟鋼(SS400等)が有り、その引張強度426Paに対して、長期間の静荷重では安全率3(140MPa)、片振りの繰返し荷重では安全率5(85MPa)で設計される。また、軟鋼の降伏点(耐力)は245MPaとされている。
【0004】
軟鋼のヤング率が約200GPaであることからそれぞれの応力での弾性変形歪量は0.07%、0.04%、0.12%となり、このような歪量が発生したことを定量的に検出できると構造物の損傷程度を評価する上で有効となる。しかしながら、その歪量は微小であるため、検出するためには以下に記述するような高度で複雑な計測装置が必要であった。
【0005】
特許文献1記載の変位検出装置は、建築物や構造物等の構造部材に取り付けられ、構造部材に発生する歪みや変位量を変倍するテコ機構と、該テコ機構により拡大もしくは縮小された変位量を検出する変位検出器とで構成される。
【0006】
特許文献2記載の疲労損傷評価装置は、評価対象構造物の変形量を検出する変形量検出手段と、該変形量検出手段によって検出された変形量に応じた評価対象構造物の疲労損傷率を検出する疲労損傷率検出手段と、該疲労損傷率検出手段によって検出された疲労損傷率を積算する疲労損傷率積算手段とを具備する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−065508号公報
【特許文献2】特開2002−014014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1記載の変位検出装置の変位検出器が必要であり、この変位検出器として、マイクロスイッチ等のスイッチ類を使用することから、電源や各種センサへの配線が必要であり、検出作業等が面倒である。
【0009】
特許文献2記載の疲労損傷評価装置の変形量検出手段は、機械的構造で済むことから、電源や配線は必要ないが、第1固定板、第2固定板、可動棒及び回動軸で構成することから、構造が複雑である。
【0010】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、高度で複雑で、且つ、高価な電源や電気配線を必要とせず、構造物等の被検査物に生じた変位を安価な装置や目視で確認することができる変位検出器及び変位の検出方法を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、被検査物に許容応力を超える負荷による変位の発生や、発生した変位の方向を容易に検出することができる変位検出器及び変位の検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[1] 第1の本発明に係る変位検出器は、セラミック製薄肉円板と前記セラミック製薄肉円板の外径と同じかそれ以上の外径を有する円環状枠部と、前記円環状枠部の外径と同じかそれ以上の外径を有する円板状薄肉基板とを有し、前記円板状薄肉基板、前記円環状枠部及び前記セラミック製薄肉円板が同軸上で、且つ、この順番で厚み方向に積層一体化されていることを特徴とする。
【0013】
塑性変形すること無しに所定の歪以上の弾性変形域で破壊する材料としては、セラミックスやガラス材料があるが、ガラス材料の場合、雰囲気中の水分の影響で微小なクラックが進展して強度劣化が起こることがあるので、長期間に亘って被検査対象物の変位検出を行うためには、耐久性に優れたセラミックス材料が望ましい。ここで用いられるセラミックスは、被検査対象物の許容応力に相当する変位(歪量)と同等以上の変位(歪量)で破壊することが好ましい。
【0014】
[2] 第1の本発明において、前記円環状枠部と前記円板状薄肉基板が一体的に形成されていることが好ましい。セラミック製薄肉円板の強度(σ:MPa)とヤング率(E:GPa)の比率(σ/E)が0.04%以上であることが好ましい。さらに好ましくは0.1%以上であり、特に好ましくは0.3%以上である。
【0015】
さらに、被検査対象物となる構造体や建物が一定の温度条件で使用される場合は、構造体や建物の熱膨張係数は特に配慮する必要は無いが、屋外に設置された建物や構造物では測定期間中に気温の変化に伴う温度変化が起こる。このような場合は、温度変化の影響を小さくするために、被検査対象物を構成する建物や構造物との熱膨張係数の差が±2ppm/K以下、さらに好ましくは±1ppm/K以下であることが望ましい。このようなセラミックス材料を選定することにより、温度変化の影響無しに屋外に設置された建物や構造物の長期間にわたる変位を検出することが可能となる。例えば被検査対象物が鋼材や鉄筋コンクリートである場合には、セラミック製薄肉円板の材料は熱膨張係数が同等のジルコニアやフォルステライト等を選定すれば、温度変化の影響をほとんど受けることなく変位の検出が可能になる。
【0016】
[3] 第1の本発明において、前記円環状枠部及び前記円板状薄肉基板の少なくとも一方に貫通孔が形成されていることが好ましい。変位検出器ではセラミック製薄肉円板、円環状枠部、円板状薄肉基板から構成される閉空間内の圧力(内圧)と外部の気圧(外圧)とに差があると、内圧が高い場合、セラミックス製薄肉円板が凸形状に変形し、内圧が低い場合、凹形状に変形して変位の検出レベルが変動するおそれがある。このため、内圧と外圧が等しくなるように変位検出器に貫通孔を設けるとよい。貫通孔は、円環状枠部や円板状薄肉基板の強度に影響を与えないような穴径で、円環状枠部の側面や円板状薄肉基板に外部から内部に貫通するように設けるとよい。
【0017】
[4] 第1の本発明において、前記セラミック製薄肉円板に1つ以上の応力集中部が設けられていることが好ましい。これにより、被検査対象物に負荷がかかって、例えば被検査対象物に所定の変位(歪み)が生じると、セラミック製薄肉円板にも所定の変位が生じ、応力集中部が選択的に破壊することになる。また、応力集中部が破壊されているかどうかを確認することで、被検査対象物に所定の変位が発生したかどうかを確認することができる。さらにこの確認は、セラミック製薄肉円板にクラックが生じているかどうかを確認するだけでよいので肉眼でも簡単に行うことができる。従って、第1の本発明に係る変位検出器を用いることで、高価で複雑な電源や電気配線を必要とせず、長期間に亘って被検査対象物に生じた歪みを事後であっても、目視(双眼鏡等を使用しての目視を含む)や簡易的な電気信号の有無等で安価に簡単に検出確認することができる。
【0018】
[5] 第1の本発明において、前記セラミック製薄肉円板に設けられた前記応力集中部の厚みは、前記セラミック製薄肉円板のうち、前記応力集中部と異なる部位の厚みより薄いことが好ましい。これにより、セラミック製薄肉円板に容易に応力集中部を形成することができる。
【0019】
[6] この場合、前記応力集中部の厚みが0.01mm以上0.5mm以下であることが好ましい。
【0020】
[7] また、前記応力集中部は、1つの本体部と、前記本体部から分岐した複数の分岐部とを有することが好ましい。
【0021】
[8] この場合、前記本体部は、前記セラミック製薄肉円板の中央に形成され、前記複数の分岐部は、前記本体部から前記セラミック製薄肉円板の外周に向かって放射状に形成されていてもよい。
【0022】
[9] あるいは、前記本体部は、前記セラミック製薄肉円板の外周側に枠状に形成され、前記複数の分岐部は、前記本体部から前記セラミック製薄肉円板の中央に向かって放射状に形成されていてもよい。
【0023】
[10] また、複数の前記応力集中部が放射状に配列されていてもよい。
【0024】
[11] 第1の本発明において、前記円板状薄肉基板の表面に着色物質が付与固定化され、前記セラミック製薄肉円板の外表面の色と、前記着色物質の色とが異なることが好ましい。前記円板状薄肉基板の表面への着色物質の付与固定化は、例えば塗装や接着等を好ましく採用することができる。
【0025】
この場合、被検査対象物に負荷がかかって、例えば被検査対象物に所定の歪みが生じると、セラミック製薄肉円板にクラックが生じて一部が脱落し、該一部の脱落によって形成された隙間より背面(円板状薄肉基板の表面)の着色物質が直接観察できる状態になる。これにより、被検査対象物に許容応力を超える負荷がかかったことを目視(双眼鏡等を使用しての目視を含む)にて容易に知ることができる。しかも、隙間の形成方向を確認することで、被検査対象物に発生した変位(歪み)の方向を容易に検出することができる。
【0026】
[12] 第1の本発明において、前記円板状薄肉基板と前記円環状枠部と前記セラミック製薄肉円板とで区画された密閉空間と、前記密閉空間に封入された着色物質とを有し、前記セラミック製薄肉円板の外表面の色と、前記着色物質の色とが異なることが好ましい。
【0027】
この場合、被検査対象物に負荷がかかって、例えば被検査対象物に所定の歪みが生じると、セラミック製薄肉円板にクラックが生じ、該クラックから着色物質が染み出ることとなる。従って、セラミック製薄肉円板に着色物質が染み出ているかどうかを確認することで、被検査対象物に許容応力を超える負荷がかかったことを目視(双眼鏡等を使用しての目視を含む)にて容易に知ることができる。しかも、着色物質が染み出ることによって形成されるクラックの方向を確認することで、被検査対象物に発生した変位(歪み)の方向を容易に検出することができる。
【0028】
[13] この場合、前記セラミック製薄肉円板の外表面に前記着色物質の定着膜が形成されていることが好ましい。セラミック製薄肉円板に生じたクラックから染み出た着色物質が定着膜によって安定化及び固定化するため、被検査対象物に許容応力を超える負荷がかかったこと、並びに発生した変位(歪み)の方向を長期間に亘って安定に表示させることができる。
【0029】
[14] さらに、前記定着膜の表面に方位を示す指標が表示されていることが好ましい。この場合、被検査対象物に変位検出器を固定する際に、指標を方位に合わせることで、発生したクラックの方向を一目で確認することが可能となる。
【0030】
[15] また、前記定着膜の外表面に透明性の保護層を有することが好ましい。これにより、定着膜によって定着された着色物質をさらに長期間に亘って安定化させることができる。
【0031】
[16] 前記着色物質は、塗装によって形成される塗膜、シート状あるいはテープ状の固定可能なフィルム、液体、粉体、あるいは粉体を液体に分散させたスラリー、あるいは常温で気化し、着色煙を発生する固体あるいは液体であってもよい。着色物質が液体やスラリー、あるいは常温で気化し、着色煙を発生する固体あるいは液体の場合、変位検出器の円環状枠部の側面や円板状薄肉基板に予め着色物質を注入するための貫通孔を設けておき、変位検出器の組立完了後にこの貫通孔を利用して着色物質を封入することができる。貫通孔は円環状枠部や円板状薄肉基板の強度に影響を与えないような穴径で、封入完了後貫通孔は栓や接着剤で封止することができる。
【0032】
[17] 前記着色物質は、外部光源からの光で蛍光発色する蛍光体であってもよい。
【0033】
[18] 前記着色物質は、外部光源からの光で自発光する蓄光顔料であってもよい。蓄光顔料の場合、クラックの隙間を通して表面に染み出した蓄光顔料が外部光によって励起され、外部光を消した後でも暫くの間自発光するため、暗闇の中でもクラックの有無とその方向を明瞭に認識可能となる。
【0034】
[19] 第1の本発明において、前記円環状枠部の内径が3mm以上200mm以下であることが好ましい。
【0035】
[20] 第1の本発明において、前記円環状枠部の幅が1mm以上20mm以下、前記円環状枠部の高さ(厚さ)が0.1mm以上2mm以下であることが好ましい。前記円環状枠部は前記円板状薄肉基板と同材質で一体的に形成されてもよい。
【0036】
[21] 第1の本発明において、前記セラミック製薄肉円板の厚さが0.1mm以上0.5mm以下、前記円板状薄肉基板の厚さが0.05mm以上2mm以下であることが好ましい。
【0037】
[22] 第1の本発明において、前記円板状薄肉基板及び前記円環状枠部の材質が金属であり、前記セラミック製薄肉円板の材質がジルコニアであることが好ましい。
【0038】
[23] 第1の本発明において、前記円環状枠部及び前記円板状薄肉基板の材質が鋼材又はステンレス材であってもよい。
【0039】
[24] 第1の本発明において、前記円環状枠部及び前記円板状薄肉基板の材質がアルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、チタン、チタン合金、ニッケル鋼、あるいはニッケル、又はこれらの組み合わせであってもよい。
【0040】
[25] 第1の本発明において、前記円環状枠部及び前記円板状薄肉基板の少なくとも一方に当該変位検出器の外側から内側を貫通する孔(貫通孔)が形成されていてもよい。貫通孔の穴径は前記円環状枠部及び前記円板状薄肉基板の強度に影響を与えないような大きさであることが必要で2mm以下であることが好ましい。
【0041】
[26] 第1の本発明において、前記円環状枠部の表面、又は前記円板状薄肉基板の表面、又は前記円環状枠部及び前記円板状薄肉基板の各表面に方位を示す指標が表示されていることが好ましい。
【0042】
[27] 第2の本発明に係る変位の検出方法は、セラミック製薄肉円板と、前記セラミック製薄肉円板の外径と同じかそれ以上の外径を有する円環状枠部と、前記円環状枠部の外径と同じかそれ以上の外径を有する円板状薄肉基板とを有し、前記円板状薄肉基板、前記円環状枠部及び前記セラミック製薄肉円板が同軸上で、且つ、この順番で厚み方向に積層一体化された変位検出器を使用し、前記変位検出器の前記円板状薄肉基板を被検査対象物に固定し、前記被検査対象物に発生した変位により、前記変位検出器の前記セラミック製薄肉円板が変形することで発生したクラックの方向に基づいて、前記被検査対象物に発生した変位の方向を検出することを特徴とする。
【0043】
[28] 第2の本発明において、前記変位検出器は、前記円板状薄肉基板の表面に着色物質が付与固定化され、前記被検査対象物に発生した変位によって前記セラミック製薄肉円板にクラックが生じて一部が脱落し、該一部の脱落によって形成された隙間より背面(円板状薄肉基板の表面)の着色物質が直接観察できる状態になることにより、前記クラックの発生及び前記クラックの方向を検出してもよい。前記円板状薄肉基板の表面への着色物質の付与固定化は、例えば塗装や接着等を好ましく採用することができる。
【0044】
[29] 第2の本発明において、前記変位検出器は、前記円板状薄肉基板と前記円環状枠部と前記セラミック製薄肉円板とで区画された密閉空間に着色物質が封入され、前記被検査対象物に発生した変位によって前記セラミック製薄肉円板から染み出た前記着色物質に基づいて、前記クラックの発生及び前記クラックの方向を検出してもよい。
【0045】
[30] この場合、前記変位検出器は、前記セラミック製薄肉円板の外表面に前記着色物質の定着膜が形成され、前記被検査対象物に発生した変位によって前記セラミック製薄肉円板から染み出た前記着色物質を前記定着膜に固定化してもよい。
【0046】
[31] さらに、前記変位検出器は、前記定着膜の表面に透明な保護層を有し、前記定着膜に固定化された前記着色物質を長期間に亘って保護してもよい。
【0047】
[32] また、前記着色物質は、外部光源からの光で蛍光発色する蛍光体であってもよい。
【0048】
[33] あるいは、前記着色物質は、外部光源からの光で蓄光し自発光する蓄光顔料であってもよい。
【0049】
[34] 第2の本発明において、前記円環状枠部の内径が3mm以上200mm以下であってもよい。
【発明の効果】
【0050】
本発明に係る変位検出器及び変位の検出方法によれば、高価で複雑な電源や電気配線を必要とせず、構造物に生じた歪を安価な装置や目視(双眼鏡等を使用しての目視を含む)で確認することができる。さらに、長期間に亘って使用される建築物や構造物に、予期せざる負荷が発生したときに、許容応力を超えるような変位(歪量)の発生の有無を容易に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】被検査対象物に固定された第1の実施の形態に係る変位検出器(第1変位検出器)を上面から見て示す平面図である。
【
図2】
図1におけるII−II線上の縦断面図である。
【
図4】被検査対象物に固定された第2の実施の形態に係る変位検出器(第2変位検出器)を示す縦断面図である。
【
図6】被検査対象物に固定された第3の実施の形態に係る変位検出器(第3変位検出器)を示す縦断面図である。
【
図8】被検査対象物に固定された第4の実施の形態に係る変位検出器(第4変位検出器)を示す縦断面図である。
【
図10】被検査対象物に固定された第5の実施の形態に係る変位検出器(第5変位検出器)を上面から見て示す平面図である。
【
図11】被検査対象物に固定された第6の実施の形態に係る変位検出器(第6変位検出器)を上面から見て示す平面図である。
【
図12】
図11におけるXII−XII線上の縦断面図である。
【
図13】被検査対象物に固定された第7の実施の形態に係る変位検出器(第7変位検出器)を上面から見て示す平面図である。
【
図14】
図13におけるXIV−XIV線上の縦断面図である。
【
図15】第7変位検出器の作用を示す説明図である。
【
図16】被検査対象物に固定された第8の実施の形態に係る変位検出器(第8変位検出器)を上面から見て示す平面図である。
【
図17】被検査対象物に固定された第9の実施の形態に係る変位検出器(第9変位検出器)を上面から見て示す平面図である。
【
図18】被検査対象物に固定された第10の実施の形態に係る変位検出器(第10変位検出器)を上面から見て示す平面図である。
【
図19】被検査対象物に固定された第11の実施の形態に係る変位検出器(第11変位検出器)を上面から見て示す平面図である。
【
図20】被検査対象物に固定された第12の実施の形態に係る変位検出器(第12変位検出器)を上面から見て示す平面図である。
【
図21】被検査対象物に固定された第13の実施の形態に係る変位検出器(第13変位検出器)を上面から見て示す平面図である。
【
図22】被検査対象物に固定された第14の実施の形態に係る変位検出器(第14変位検出器)を上面から見て示す平面図である。
【
図23】
図22におけるXXIII−XXIII線上の縦断面図である。
【
図24】第14変位検出器の作用を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明に係る変位検出器及び変位の検出方法の実施の形態例を
図1〜
図24を参照しながら説明する。なお、本明細書において、数値範囲を示す「〜」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味として使用される。
【0053】
先ず、第1の実施の形態に係る変位検出器(以下、第1変位検出器10Aと記す)は、
図1及び
図2に示すように、変位を検出する対象物(被検査対象物12)に取り付けられる。
図1及び
図2では、被検査対象物12の上面に第1変位検出器10Aを取り付けた例を示しているが、その他、図示しないが被検査対象物12の下面や側面等に取り付けてもよい。なお、被検査対象物12としては、例えば金属製のフレームや、圧力容器、コンクリート構造物、鉄筋コンクリート構造物等が挙げられる。また、第1変位検出器10Aは、被検査対象物12に例えばボルト締めや、接着剤等を使用して取り付けられる。これらの事項は、以降に説明する第2変位検出器10B〜第14変位検出器10Nについても同様である。
【0054】
そして、第1変位検出器10Aは、
図1及び
図2に示すように、円環状の枠体(円環状枠部14)と、厚さtbの薄いセラミック製の円板状の薄板(セラミック製薄肉円板16)と、外径Dcが円環状枠部14の外径Dbより大きい円板状薄肉基板18とを有する。円板状薄肉基板18、円環状枠部14及びセラミック製薄肉円板16は、同軸上で、且つ、この順番で厚み方向に積層一体化されている。特に、円環状枠部14と円板状薄肉基板18は一体的に形成されて1つの基板構造体20を構成している。
【0055】
円環状枠部14の内径dbは3mm以上が好ましい。円環状枠部14の内径dbが3mm未満であると視認性が低下するためである。また、円環状枠部14の内径dbは200mm以下が好ましい。円環状枠部14の内径dbが200mmを超えると製作の難易度が高まるためである。円環状枠部14の幅Wbはセラミック製薄肉円板16との接着面積を確保するため1mm以上で、変位検出の感度が低下しないよう20mm以下であることが好ましい。円環状枠部14の外径Dbがセラミック製薄肉円板16の外径より大きい場合、円環状枠部14と同軸になるように円環状枠部14にセラミック製薄肉円板16の外周面が入るような段差、好ましくは上記外周面が嵌合する段差を設けてもよい。円環状枠部14の外径Dbは円板状薄肉基板18の外径と同じ大きさでもよいが、円板状薄肉基板18の外径が円環状枠部14の外径より大きい場合で、且つ、円環状枠部14と円板状薄肉基板18が別々に形成されて積層される場合、円環状枠部14と円板状薄肉基板18とが同軸になるように、円板状薄肉基板18に円環状枠部14の外周面が入るような段差、好ましくは上記外周面が嵌合する段差を設けてもよい。
【0056】
円環状枠部14の高さha(厚さ)は0.1mm以上2mm以下、セラミック製薄肉円板16の厚さtbは0.1mm以上0.5mm以下、円板状薄肉基板18の厚さtcは0.05mm以上2mm以下であることが好ましい。
【0057】
円板状薄肉基板18及び円環状枠部14の材質としては金属が挙げられ、被検査対象物12との熱膨張係数の差が±2ppm/K以下、さらに好ましくは±1ppm/K以下である材質を使用することが望ましい。例えば被検査対象物12の材質がコンクリートや鋼材であれば、円板状薄肉基板18及び円環状枠部14の材質を例えば鋼材やステンレス材とし、被検査対象物12の材質がアルミニウム合金であれば、円板状薄肉基板18及び円環状枠部14の材質を例えばアルミニウム合金とすることが好ましい。
【0058】
セラミック製薄肉円板16は、塑性変形することなく弾性変形する材料で構成することが好ましい。この場合、塑性変形すること無しに所定の歪み以上の弾性変形で破壊する材料としては、セラミックスやガラス材料があるが、ガラス材料の場合、雰囲気中の水分の影響で微小なクラックが進展して強度劣化が起こることがあるので、歪量をより正確に検出するためには、強度安定性と耐久性に優れたセラミックス材料が望ましい。ここで用いられるセラミックスは、被検査対象物12の許容応力に相当する歪量と同等以上の歪量で破壊することが好ましい。すなわち、セラミック製薄肉円板16の強度(σ:MPa)とヤング率(E:GPa)の比率(σ/E)が0.04%以上であることが好ましい。さらに好ましくは0.1%以上であり、特に好ましくは0.3%以上である。
【0059】
基板構造体20としては円環状枠部14と円板状薄肉基板18とを金属の同材質にて一体化させた構造を用いることが好ましい。別体で構成してもよいが、接合部分にて剥離や破壊が生じやすくなるからである。一体化された構造であれば、このような不都合はほとんど生じない。円環状枠部14及び円板状薄肉基板18の材質は、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、チタン、チタン合金、ニッケル鋼、あるいはニッケル、又はこれらの組み合わせであってもよい。
【0060】
また、セラミック製薄肉円板16を構成するセラミックスとしては、円環状枠部14及び円板状薄肉基板18又は基板構造体20との熱膨張係数の差が±2ppm/K以下、さらに好ましくは±1ppm/K以下である材質を使用することが望ましい。例えば円環状枠部14及び円板状薄肉基板18又は基板構造体20の材質が鋼材やステンレス材であれば、例えばジルコニアとすることが好ましい。これにより、セラミック製薄肉円板16が円環状枠部14及び円板状薄肉基板18や基板構造体20から剥離することを回避することができる。なお、円環状枠部14とセラミック製薄肉円板16との接合、又は円環状枠部14と円板状薄肉基板18との接合は例えば接着剤等を用いることができる。
【0061】
ここで、第1変位検出器10Aを用いた変位の検出方法について、
図3も参照しながら説明する。
【0062】
図1及び
図2に示すように、第1変位検出器10Aを、被検査対象物12に例えばボルト締めや、接着剤等(図示せず)を使用して取り付ける。
【0063】
その後、被検査対象物12に負荷がかかって、例えば被検査対象物12に所定の変位(歪み)が生じると、第1変位検出器10Aのセラミック製薄肉円板16にも所定の変位(歪み)が生じ、生じた変位によって、セラミック製薄肉円板16が変形し、セラミック製薄肉円板16に応力が発生してクラック22が生じる。
【0064】
その後に被検査対象物12にかかっていた負荷が低減し被検査対象物12に生じていた弾性変形歪みが小さくなったとしても、セラミック製薄肉円板16に生じたクラック22から、被検査対象物12に許容応力を超える負荷がかかったことを容易に知ることができる。また、セラミック製薄肉円板16に生じたクラック22の形状から被検査対象物12に発生した変位(歪み)の方向も容易に検出することができる。
【0065】
次に、第2の実施の形態に係る変位検出器(以下、第2変位検出器10Bと記す)について
図4及び
図5を参照しながら説明する。
【0066】
この第2変位検出器10Bは、
図4に示すように、上述した第1変位検出器10Aとほぼ同様の構成を有するが、円環状枠部14と円板状薄肉基板18表面に着色物質26が付与されている点で異なる。セラミック製薄肉円板16の外表面の色と着色物質26の色とは異なる。着色物質26は、乾燥して固着する塗料や着色物質が塗布されたシート・テープであってもよい。具体的には、着色物質26は、例えば照明用蛍光材料、高輝度の蓄光顔料、硫化物系蓄光顔料、塗料用顔料、不揮発性インク、揮発性インク等のほか、耐熱インク、染料インク、顔料インクを挙げることができる。さらに、円環状枠部14に貫通孔15が形成されている点で第1変位検出器10Aと異なる。貫通孔15は円環状枠部14の側面の外部から内部に向かって貫通し、第2変位検出器10Bの内部と外部の圧力差を無くす効果がある。温度や気圧の変化の大きい屋外での測定時に有効である。貫通孔15の穴径は円環状枠部14の強度に影響を与えないような大きさであることが必要で2mm以下であることが好ましい。
図4及び
図5では、貫通孔15を円環状枠部14に設けた例を示したが、その他、円板状薄肉基板18に設けるようにしてもよい。この場合も、貫通孔15を円板状薄肉基板18の外部から内部に向かって設けることが好ましい。もちろん、貫通孔15を円環状枠部14及び円板状薄肉基板18に設けるようにしてもよい。
【0067】
そして、この第2変位検出器10Bにおいては、
図5に示すように、被検査対象物12に負荷がかかって、例えば被検査対象物12に所定の歪みが生じると、セラミック製薄肉円板16にクラック22が生じて一部が脱落することになる。特に、第2変位検出器10Bでは、上記一部の脱落によって形成された隙間を通して背面(円板状薄肉基板18の表面)の着色物質26を直接観察することができる。従って、セラミック製薄肉円板16に生じた隙間から着色物質26を観察できるかどうかを確認することで、被検査対象物12に許容応力を超える負荷がかかったことを目視(双眼鏡等を使用しての目視を含む)にて容易に知ることができる。しかも、着色物質26に蛍光塗料を使用すれば観察される形状を確認することで、容易にクラック22の形状を把握することが可能となり、被検査対象物12に発生した変位(歪み)の方向を容易に検出することができる。
【0068】
次に、第3の実施の形態に係る変位検出器(以下、第3変位検出器10Cと記す)について
図6及び
図7を参照しながら説明する。
【0069】
この第3変位検出器10Cは、
図6に示すように、上述した第1変位検出器10Aとほぼ同様の構成を有し、円環状枠部14と円板状薄肉基板18が同材質で一体構造を形成して基板構造体20となっているが、円板状薄肉基板18と円環状枠部14(基板構造体20)とセラミック製薄肉円板16とで区画された密閉空間24に着色物質26が封入されている点で異なる。セラミック製薄肉円板16の外表面の色と着色物質26の色とは異なる。着色物質26は、液体、粉体、粉体を液体に分散させたスラリー又は常温で気化し、着色煙(白色を含む)を発生する固体あるいは液体であってもよいし、外部光源からの光で蛍光発色する蛍光体や外部光源からの光を蓄えて自発光する蓄光顔料であってもよい。具体的には、着色物質26は、例えば照明用蛍光材料、高輝度の蓄光顔料、硫化物系蓄光顔料、塗料用顔料、不揮発性インク、揮発性インク等のほか、耐熱インク、染料インク、顔料インクを挙げることができる。
【0070】
第3変位検出器10Cの組み立ては、接着強度の強い例えば熱硬化性接着剤を使用することが好ましい。この場合、第3変位検出器10Cの組み立ての際に、高温の熱処理が必要となるための液体や常温で気化する着色物質26の封入には、予め円環状枠部14や円板状薄肉基板18に貫通孔を形成しておき、第3変位検出器10Cの組立・熱処理後、その貫通孔を利用して、上記液体や着色物質26を封入することが好ましい。
【0071】
そして、この第3変位検出器10Cにおいては、
図7に示すように、被検査対象物12に負荷がかかって、例えば被検査対象物12に所定の歪みが生じると、セラミック製薄肉円板16にクラック22が生じることになるが、特に、第3変位検出器10Cでは、クラック22から着色物質26が染み出ることとなる。従って、セラミック製薄肉円板16に着色物質26が染み出ているかどうかを確認することで、被検査対象物12に許容応力を超える負荷がかかったことを目視(双眼鏡等を使用しての目視を含む)にて容易に知ることができる。しかも、着色物質26が染み出ることによって形成される形状(染み出し形状)を確認することで、容易にクラック22の形状を把握することが可能となり、被検査対象物12に発生した変位(歪み)の方向を容易に検出することができる。
【0072】
次に、第4の実施の形態に係る変位検出器(以下、第4変位検出器10Dと記す)について
図8及び
図9を参照しながら説明する。
【0073】
この第4変位検出器10Dは、上述した第3変位検出器10Cとほぼ同様の構成を有するが、
図8に示すように、セラミック製薄肉円板16の外表面に、着色物質26を定着させるための定着膜28が形成され、該定着膜28の外表面に透明性の保護層30が形成されている点で異なる。
【0074】
この場合、
図9に示すように、セラミック製薄肉円板16に生じたクラック22から染み出た着色物質26が定着膜28によって安定化及び固定化するため、被検査対象物12に許容応力を超える負荷がかかったこと、並びに発生した変位(歪み)の方向を長期間に亘って安定に表示させることができる。しかも、定着膜28の外表面に保護層30を形成するようにしたので、定着膜28によって定着された着色物質26をさらに長期間に亘って安定化させることができる。定着膜28の材質としては、着色物質26が染込んで表側まで浸透するような薄い紙等を挙げることができ、保護層30の材質としては、ペットフィルム、アクリル樹脂フィルム、ポリプロピレンフィルム、ビニールフィルム、塩化ビニールフィルム等を挙げることができる。
【0075】
次に、第5の実施の形態に係る変位検出器(以下、第5変位検出器10Eと記す)について
図10を参照しながら説明する。
【0076】
この第5変位検出器10Eは、上述した第4変位検出器10Dとほぼ同様の構成を有するが、定着膜28(
図8参照)の外表面のうち、円環状枠部14と重なる部分に、方位を示す指標32が表示されている。指標32は、16の方位に対応して、それぞれ方位角が表示されている。
【0077】
従って、被検査対象物12に第5変位検出器10Eを固定する際に、指標32を方位に合わせることで、発生したクラック22の方向を一目で確認することが可能となる。
【0078】
次に、第6の実施の形態に係る変位検出器(以下、第6変位検出器10Fと記す)について
図11及び
図12を参照しながら説明する。
【0079】
この第6変位検出器10Fは、上述した第5変位検出器10Eとほぼ同様の構成を有するが、
図11に示すように、セラミック製薄肉円板16に1つの応力集中部34が設けられている点で異なる。応力集中部34は例えば円形状を有する。
【0080】
応力集中部34は、
図12に示すように、例えばセラミック製薄肉円板16の表面(例えば円板状薄肉基板18と対向する面)の一部を薄膜化し、凹部を形成することによって構成することができる。すなわち、セラミック製薄肉円板16に設けられた応力集中部34の厚みtdは、セラミック製薄肉円板16のうち、応力集中部34と異なる部位の厚みtbより薄い。応力集中部34の厚みtdは0.01mm以上0.5mm以下であることが好ましい。
【0081】
この場合、応力集中部34を平面から見たサイズ、厚みtd等を適宜調整することで、予め設定した変位(所定の変位と記す)にて応力集中部34にクラック22を生じさせることができる。
【0082】
すなわち、被検査対象物12に負荷がかかって、例えば被検査対象物12に所定の変位(歪み)が生じると、セラミック製薄肉円板16にも所定の変位が生じ、応力集中部34が選択的に破壊することになる。これにより、応力集中部34が破壊されているかどうかを確認することで、被検査対象物12に所定の変位が発生したかどうかを確認することができる。
【0083】
次に、第7の実施の形態に係る変位検出器(以下、第7変位検出器10Gと記す)について
図13〜
図15を参照しながら説明する。
【0084】
この第7変位検出器10Gは、
図13及び
図14に示すように、上述した第6変位検出器10Fとほぼ同様の構成を有するが、応力集中部34の形状が異なる。
【0085】
すなわち、応力集中部34は、中央部分に形成された矩形状の1つの本体部34aと、該本体部34aからセラミック製薄肉円板16の外周に向かって四方に分岐した4つの帯状の分岐部34bとを有する。
【0086】
この場合、例えば
図15に示すように、本体部34aの平面から見たサイズ、厚み、並びに分岐部34bの幅、厚み等を適宜調整することで、予め設定した変位(所定の変位と記す)にて応力集中部34にクラック22を生じさせることができる。応力集中部34を設けなかった場合は、クラック22が任意の方向に生じたり、所定の変位が生じてもクラック22が生じないおそれがあるが、複数の分岐部34bを有する応力集中部34を設けることで、被検査対象物12に生じた所定の変位に対応する分岐部34bに沿ってクラック22を生じさせることが容易になる。
【0087】
すなわち、被検査対象物12に負荷がかかって、例えば被検査対象物12に所定の変位(歪み)が生じると、セラミック製薄肉円板16にも所定の変位が生じ、応力集中部34が選択的に破壊することになる。これにより、応力集中部34が破壊されているかどうかを確認することで、被検査対象物12に所定の変位が発生したかどうかを確認することができる。
【0088】
また、定着膜28の外表面のうち、円環状枠部14と重なる部分には、応力集中部34を構成する4つの分岐部34bに対応して、方位を示す指標32が表示されている。すなわち、「北」、「南」、「東」及び「西」の文字が表示されている。
【0089】
従って、被検査対象物12に第7変位検出器10Gを固定する際に、指標32を方位に合わせることで、発生したクラック22の方向を一目で確認することが可能となる。
【0090】
上述した第7変位検出器10Gでは、応力集中部34の本体部34aを矩形状としたが、その他、
図16の第8の実施の形態に係る変位検出器(第8変位検出器10H)に示すように、応力集中部34の本体部34aを円形状としてもよい。もちろん、その他、様々な形状が考えられる。例えば六角形状、八角形状等である。
【0091】
次に、第9の実施の形態に係る変位検出器(以下、第9変位検出器10Iと記す)について
図17を参照しながら説明する。
【0092】
この第9変位検出器10Iは、上述した第7変位検出器10Gとほぼ同様の構成を有するが、以下の点で異なる。
【0093】
すなわち、第9変位検出器10Iは、応力集中部34の本体部34aが八角形状とされ、該本体部34aからセラミック製薄肉円板16の外周に向かって八方に分岐した8つの帯状の分岐部34bを有する。また、定着膜28の外表面のうち、円環状枠部14と重なる部分には、応力集中部34を構成する8つの分岐部34bに対応して、方位を示す指標32が表示されている。すなわち、「北」、「北東」、「東」、「南東」、「南」、「南西」、「西」及び「北西」の文字が表示されている。
【0094】
この場合、応力集中部34として、8つの方位に対応する分岐部34bを設けるようにしたので、被検査対象物12に発生した変位(歪み)の方向をさらに正確に検出することが可能となる。
【0095】
次に、第10の実施の形態に係る変位検出器(以下、第10変位検出器10Jと記す)について
図18を参照しながら説明する。
【0096】
この第10変位検出器10Jは、上述した第6変位検出器10F(
図11参照)とほぼ同様の構成を有するが、応力集中部34の形状が異なる。
【0097】
すなわち、
図18に示すように、応力集中部34は、中央部分に形成された1つの本体部34aと、該本体部34aからセラミック製薄肉円板16の外周に向かって放射状に分岐した12個の分岐部34bとを有する。分岐部34bは、第8変位検出器10H(
図16参照)の分岐部34bとは異なり、湾曲状あるいは円弧状を有する。
【0098】
この場合、被検査対象物12に負荷がかかって、例えば被検査対象物12に所定の変位(歪み)が生じると、セラミック製薄肉円板16にも所定の変位が生じ、応力集中部34が選択的に破壊することになる。すなわち、被検査対象物12に生じた所定の変位に対応する分岐部34bに沿ってクラック22を生じさせることが可能となる。これにより、応力集中部34が破壊されているかどうかを確認することで、被検査対象物12に所定の変位が発生したかどうかを確認することができる。
【0099】
また、定着膜28(
図8参照)の外表面のうち、円環状枠部14と重なる部分には、応力集中部34を構成する12個の分岐部34bに対応して、時刻(短針位置)を用いた方位を示す指標32が表示されている。すなわち、「1」から「12」の文字が表示されている。
【0100】
従って、被検査対象物12に第10変位検出器10Jを固定する際に、指標32を方位に合わせることで、発生したクラック22の方向を一目で確認することが可能となる。
【0101】
次に、第11の実施の形態に係る変位検出器(以下、第11変位検出器10Kと記す)について
図19を参照しながら説明する。
【0102】
この第11変位検出器10Kは、上述した第10変位検出器10Jとほぼ同様の構成を有するが、応力集中部34の形状が異なる。
【0103】
すなわち、
図19に示すように、応力集中部34は、中央部分に形成された1つの本体部34aと、該本体部34aからセラミック製薄肉円板16の外周に向かって放射状に分岐した16個の分岐部34bとを有する。
【0104】
また、定着膜28(
図8参照)の外表面のうち、円環状枠部14と重なる部分には、応力集中部34を構成する16個の分岐部34bに対応して、方位を示す指標32が表示されている。すなわち、「北」、「北北東」、「北東」、「東北東」、「東」、「東南東」、「南東」、「南南東」、「南」、「南南西」、「南西」、「西南西」、「西」、「西北西」、「北西」、「北北西」の文字が表示されている。
【0105】
従って、この場合も、被検査対象物12に第11変位検出器10Kを固定する際に、指標32を方位に合わせることで、発生したクラック22の方向を一目で確認することが可能となる。応力集中部34として、16個の方位に対応する分岐部34bを設けるようにしたので、被検査対象物12に発生した変位(歪み)の方向をさらに正確に検出することが可能となる。
【0106】
次に、第12の実施の形態に係る変位検出器(以下、第12変位検出器10Lと記す)について
図20を参照しながら説明する。
【0107】
この第12変位検出器10Lは、上述した第11変位検出器10Kとほぼ同様の構成を有するが、応力集中部34の形状が異なることと、方位を示す指標32が円板状薄肉基板18の外周部分に表示されている点で異なる。
【0108】
すなわち、
図20に示すように、応力集中部34は、中央部分に形成された1つの本体部34aと、該本体部34aからセラミック製薄肉円板16の外周に向かって放射状に分岐した32個の分岐部34bとを有する。各分岐部34bの形状は、第11変位検出器10Kの場合と異なり、セラミック製薄肉円板16の外周に向かって先鋭状に形成されている。
【0109】
円板状薄肉基板18の外表面のうち、円環状枠部14から露出する外周部分には、第11変位検出器10Kと同様に、方位を示す指標32が表示されている。
【0110】
従って、この場合も、被検査対象物12に第12変位検出器10Lを固定する際に、指標32を方位に合わせることで、発生したクラック22の方向を一目で確認することが可能となる。応力集中部34として、32個の方位に対応する分岐部34bを設けるようにしたので、被検査対象物12に発生した変位(歪み)の方向をさらに正確に検出することが可能となる。もちろん、円板状薄肉基板18への指標32の表示に加えて、定着膜28の外表面のうち、円環状枠部14と重なる部分にも指標32を表示させてもよい。
【0111】
次に、第13の実施の形態に係る変位検出器(以下、第13変位検出器10Mと記す)について
図21を参照しながら説明する。
【0112】
この第13変位検出器10Mは、上述した第10変位検出器10Jとほぼ同様の構成を有するが、複数の応力集中部34が放射状に形成されている点で異なる。
図21の例では、12個の応力集中部34が、セラミック製薄肉円板16のうち、外周寄りに形成されている。各応力集中部34の形状は、方位に沿ってクラック22が発生し易いように、例えば長軸を方位に合わせた楕円形状としている。
【0113】
従って、この場合も、被検査対象物12に第13変位検出器10Mを固定する際に、指標32を方位に合わせることで、発生したクラック22の方向を一目で確認することが可能となる。また、時刻(短針位置)を用いた方位に対応して12個の応力集中部34を設けるようにしたので、被検査対象物12に発生した変位(歪み)の方向を正確に検出することが可能となる。
【0114】
次に、第14の実施の形態に係る変位検出器(以下、第14変位検出器10Nと記す)について
図22〜
図24を参照しながら説明する。
【0115】
この第14変位検出器10Nは、
図22及び
図23に示すように、上述した第1変位検出器10Aとほぼ同様の構成を有するが、セラミック製薄肉円板16に1つの応力集中部34が設けられている点で異なる。また、この第14変位検出器10Nでは、円環状枠部14の外径をセラミック製薄肉円板16の外径より大きく設定している。そのため、セラミック製薄肉円板16と円環状枠部14とが同軸に位置決めできるように、円環状枠部14にセラミック製薄肉円板16の外周面が入る段差、好ましくは上記外周面が嵌合する段差14aを設けている。
【0116】
応力集中部34は、セラミック製薄肉円板16の外周側に枠状に形成された本体部34aと、本体部34aからセラミック製薄肉円板16の中央に向かって放射状に形成された複数の分岐部34bとを有する。
図22では、32個の分岐部34bを形成した例を示す。また、各分岐部34bは、セラミック製薄肉円板16の中央に向かって先鋭状に形成されている。
【0117】
この場合も、例えば
図24に示すように、本体部34aの平面から見たサイズ、厚み、並びに各分岐部34bの幅、厚み等を適宜調整することで、予め設定した変位(所定の変位と記す)にて応力集中部34にクラック22を生じさせることができる。
【0118】
すなわち、被検査対象物12に負荷がかかって、例えば被検査対象物12に所定の変位(歪み)が生じると、セラミック製薄肉円板16にも所定の変位が生じ、応力集中部34が選択的に破壊することになる。すなわち、被検査対象物12に生じた所定の変位に対応する分岐部34bに沿ってクラック22を生じさせることが可能となる。これにより、応力集中部34が破壊されているかどうかを確認することで、被検査対象物12に所定の変位が発生したかどうかを確認することができる。
【0119】
上述した所定の変位(歪み)は、被検査対象物12が許容応力を超えて変形したかどうかを判断する範囲の歪みであり、例えば0.1%や0.2%等が選択される。この場合、被検査対象物12としては、例えば圧力容器、金属製のフレーム(重機のフレーム、プレス機のフレーム、静水圧をかける装置のフレーム等)や、電柱、鉄塔、コンクリート構造物、鉄筋コンクリート構造物等が含まれる。もっとも、応力歪線図で降伏点が明確に現れる被検査対象物12であれば、降伏点を挟んだ前後の範囲で歪量を選択可能である。降伏点が明確に現れない被検査対象物12であれば、0.2%耐力相当の応力発生時の歪量を挟んだ前後の範囲で歪量を選択可能である。
【0120】
所定の歪みとして、降伏点未満の被検査対象物12の弾性変形する範囲の歪みを選択する理由の1つは以下の通りである。すなわち、通常、建造物や構造物に弾性変形する範囲の歪みが生じても、元に戻ることから、歪みが生じていたかどうか、すなわち、負荷がかかっていたかどうかが分かりにくい。そこで、例えば定期的に、第1変位検出器10A等におけるセラミック製薄肉円板16の破壊を確認し、破壊していれば、新しい第1変位検出器10A等に取り換えるという作業を繰り返すことで、0.1%程度の歪みが何回発生したかを知ることができ、被検査対象物12の老朽化の分析に役立てることができる。もちろん、検査する周期を短くすることで、0.1%程度の歪みが発生した回数をより正確に知ることができる。
【0121】
セラミック製薄肉円板16を構成するセラミックスとしては、ジルコニアを含むことが好ましい。また、応力集中部34を設けることにより、被検査対象物12が弾性変形する範囲の歪み、例えば0.1%や0.2%等でセラミック製薄肉円板16を破壊させることができる。しかも、ジルコニアは、熱膨張係数が炭素鋼(軟鋼材)や鉄筋コンクリートの熱膨張係数とほぼ同じであることから、温度変化分を補償することができる。これは、温度変化に影響されることなく、歪みを検出できることにつながり、検出精度の向上を図る上でも有利である。
【0122】
次に、上述した第1変位検出器10A〜第14変位検出器10Nのセラミック製薄肉円板16及び基板構造体20の製造方法について以下に簡単に説明する。第1変位検出器10A〜第14変位検出器10Nを総括していう場合は、単に、変位検出器と記す。
【0123】
先ず、セラミック製薄肉円板16の製造方法は、特に限定されず、ドクターブレード法、押し出し法、ゲルキャスト法、粉末プレス法、インプリント法等、任意の方法であってよい。特に、応力集中部34が形成された複雑な形状に対しては、特に好ましくは、ゲルキャスト法を用いて製造する。好適な実施の形態においては、セラミック粉末、分散媒及びゲル化剤を含むスラリーを注型し、このスラリーをゲル化させることによって成形体を得、この成形体を焼結することで、セラミック製薄肉円板16を得ることができる(特開2001−335371号公報参照)。
【0124】
セラミック製薄肉円板16の材料として特に好ましくは、ジルコニア粉末に対して、3mole%のイットリア(Y
2O
3)助剤を添加した原料を用いる。助剤としては、イットリアが好ましいが、カルシア(CaO)、マグネシア(MgO)等も例示することができる。
【0125】
ゲルキャスト法は、以下の方法が挙げられる。
【0126】
(1) 無機物粉体と共に、ゲル化剤となるポリビニルアルコール、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等のプレポリマーを、分散剤と共に分散媒中に分散してスラリーを調製し、注型後、架橋剤により三次元的に架橋してゲル化させることにより、スラリーを固化させる。
【0127】
(2) 反応性官能基を有する有機分散媒とゲル化剤とを化学結合させることにより、スラリーを固化させる。この方法は、本出願人の特開2001−335371号公報に記載されている方法である。
【0128】
一方、円環状枠部14と円板状薄肉基板18とを有する基板構造体20は、金属等のプレス成形や機械加工等の通常知られた方法で作製可能である。
【0129】
なお、本発明に係る変位検出器及び変位の検出方法は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【符号の説明】
【0130】
10A〜10N…第1変位検出器〜第14変位検出器
12…被検査対象物 14…円環状枠部
15…貫通孔 16…セラミック製薄肉円板
18…円板状薄肉基板 20…基板構造体
22…クラック 24…密閉空間
26…着色物質 28…定着膜
30…保護層 32…指標
34…応力集中部 34a…本体部
34b…分岐部