特許第6585535号(P6585535)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友理工株式会社の特許一覧

特許6585535シリコーンゴム組成物およびシリコーンゴム架橋体
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6585535
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】シリコーンゴム組成物およびシリコーンゴム架橋体
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/04 20060101AFI20190919BHJP
   C08K 9/10 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   C08L83/04
   C08K9/10
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-65046(P2016-65046)
(22)【出願日】2016年3月29日
(65)【公開番号】特開2017-179033(P2017-179033A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年10月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 貴大
(72)【発明者】
【氏名】二村 安紀
(72)【発明者】
【氏名】山岡 竜介
(72)【発明者】
【氏名】深川 繁
(72)【発明者】
【氏名】関 智仁
【審査官】 三原 健治
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−117960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)オルガノポリシロキサン、(b)架橋剤、(c)架橋触媒を内包する樹脂微粒子からなるマイクロカプセル型触媒、を含有し、前記(c)の樹脂が、溶解度パラメータ7.9以上、熱伝導率0.16W/m・K以上、ガラス転移温度40〜145℃であり、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、スチレン系重合体のうちの少なくとも1種以上であり、前記アクリル樹脂がエチルメタクリレートとメチルメタクリレートの共重合体であり、前記スチレン系重合体がスチレンとブタジエンの共重合体、スチレンと無水マレイン酸の共重合体、スチレンとイソプレンの共重合体、水添スチレンブタジエン共重合体、水添スチレンイソプレン共重合体のいずれかであることを特徴とするシリコーンゴム組成物。
【請求項2】
前記(c)の樹脂が、ガラス転移温度40〜85℃であることを特徴とする請求項に記載のシリコーンゴム組成物。
【請求項3】
前記(c)の樹脂が、溶解度パラメータ8.3以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のシリコーンゴム組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のシリコーンゴム組成物の架橋体からなることを特徴とするシリコーンゴム架橋体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンゴム組成物およびシリコーンゴム架橋体に関し、さらに詳しくは、貯蔵安定性および架橋反応性に優れるシリコーンゴム組成物およびこれを用いて得られたシリコーンゴム架橋体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、2には、加熱硬化性有機重合体組成物において、硬化前の保存安定性を確保するために、架橋触媒を含有させた熱可塑性樹脂の微粒子からなる熱可塑性樹脂微粒子触媒を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−159896号公報
【特許文献2】特開平09−67440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
樹脂微粒子触媒をオルガノポリシロキサンと架橋剤の混合物へ配合する場合、樹脂微粒子触媒を構成する樹脂の種類によっては、混合状態で室温付近の長期貯蔵安定性を確保できず、混合物の大幅な粘度上昇や混合物の硬化が進行することが問題であった。また、上記混合物を加熱硬化させる場合、架橋時間が長くなり、架橋反応性が低いことがあった。そして、混合状態での貯蔵安定性および、加熱時の架橋反応性を両立する技術はこれまでなかった。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、混合状態の貯蔵安定性および、加熱時の架橋反応性に優れるシリコーンゴム組成物およびこれを用いて得られたシリコーンゴム架橋体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明に係るシリコーンゴム組成物は、(a)オルガノポリシロキサン、(b)架橋剤、(c)架橋触媒を内包する樹脂微粒子からなるマイクロカプセル型触媒、を含有し、前記(c)の樹脂が、溶解度パラメータ7.9以上、熱伝導率0.16W/m・K以上、ガラス転移温度40〜145℃であることを要旨とするものである。
【0007】
前記(c)の樹脂は、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、スチレン系重合体のうちの少なくとも1種以上であることが好ましい。前記(c)の樹脂は、ガラス転移温度40〜85℃であることが好ましい。前記(c)の樹脂は、溶解度パラメータ8.3以上であることが好ましい。前記(c)の樹脂はアクリル樹脂を含有し、該アクリル樹脂はエチルメタクリレートとメチルメタクリレートの共重合体であることが好ましい。前記(c)の樹脂はスチレン系重合体を含有し、該スチレン系重合体はスチレンとブタジエンの共重合体、スチレンと無水マレイン酸の共重合体であることが好ましい。
【0008】
そして、本発明に係るシリコーンゴム架橋体は、上記のシリコーンゴム組成物の架橋体からなることを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るシリコーンゴム組成物によれば、架橋触媒を内包する樹脂微粒子の樹脂が、溶解度パラメータ7.9以上、熱伝導率0.16W/m・K以上、ガラス転移温度40〜145℃であることで、混合状態での貯蔵安定性および、加熱時の架橋反応性に優れる。
【0010】
この際、(c)の樹脂のガラス転移温度が40〜85℃であると、低温での架橋反応性に優れる。(c)の樹脂の溶解度パラメータが8.3以上であると、混合状態での貯蔵安定性が向上する。(c)の樹脂がアクリル樹脂を含有し、アクリル樹脂がエチルメタクリレートとメチルメタクリレートの共重合体であると、ガラス転移温度が低く、低温加熱時の架橋反応性に優れる。(c)の樹脂がスチレン系重合体を含有し、スチレン系重合体がスチレンとブタジエンの共重合体、スチレンと無水マレイン酸の共重合体であると、熱伝導率が高く、加熱時の架橋反応性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明に係るシリコーンゴム組成物は、(a)オルガノポリシロキサン、(b)架橋剤、(c)架橋触媒を内包する樹脂微粒子からなるマイクロカプセル型触媒を含有する。
【0013】
(a)オルガノポリシロキサンは、(b)架橋剤により架橋される官能基を1分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサンである。(a)オルガノポリシロキサンとしては、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン、水酸基含有オルガノポリシロキサン、(メタ)アクリル基含有オルガノポリシロキサン、イソシアネート含有オルガノポリシロキサン、アミノ基含有オルガノポリシロキサン、エポキシ基含有オルガノポリシロキサンなどが挙げられる。アルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、付加硬化型のシリコーンゴム組成物の主原料として用いられる。アルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、ヒドロシリル架橋剤との付加反応で、ヒドロシリル架橋剤により架橋される。この付加反応は、室温でも進行するが、加熱条件下において促進される。この付加反応による熱硬化を行う温度は、通常、100℃超であり、好ましくは100〜170℃の範囲内である。この付加反応には、ヒドロシリル化触媒としての白金触媒が好適に用いられる。アルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有することが好ましい。
【0014】
オルガノポリシロキサンは、有機基を有する。有機基は、1価の置換または非置換の炭化水素基である。非置換の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ドデシル基などのアルキル基、フェニル基などのアリール基、β−フェニルエチル基、β−フェニルプロピル基などのアラルキル基などが挙げられる。置換の炭化水素基としては、クロロメチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基などが挙げられる。オルガノポリシロキサンとしては、一般的には、有機基としてメチル基を有するものが、合成のしやすさ等から多用される。オルガノポリシロキサンは、直鎖状のものが好ましいが、分岐状もしくは環状のものであっても良い。アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基などが挙げられる。
【0015】
(b)架橋剤は、(a)オルガノポリシロキサンを架橋する架橋剤である。(b)架橋剤としては、ヒドロシリル架橋剤、硫黄架橋剤、過酸化物架橋剤などが挙げられる。ヒドロシリル架橋剤は、付加硬化型のシリコーンゴム組成物の架橋剤として用いられる。ヒドロシリル架橋剤は、その分子構造中にヒドロシリル基(SiH基)を有する。ヒドロシリル架橋剤は、ヒドロシリル基含有オルガノポリシロキサン(オルガノハイドロジェンポリシロキサン)である。分子構造中におけるヒドロシリル基の数としては、特に限定されるものではないが、硬化速度に優れる、安定性に優れるなどの観点から、2〜50の範囲内であることが好ましい。分子構造中にヒドロシリル基を2以上有する場合には、ヒドロシリル基は異なるSiに存在することが好ましい。ポリシロキサンは、鎖状のものでも良いし、環状のものでも良い。ヒドロシリル基含有オルガノポリシロキサンは、1分子中に少なくとも2個のヒドロシリル基を有することが好ましい。ヒドロシリル架橋剤は、取り扱い性に優れるなどの観点から、数平均分子量200〜30000の範囲内であることが好ましい。
【0016】
ヒドロシリル基含有オルガノポリシロキサン(オルガノハイドロジェンポリシロキサン)として、具体的には、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、(CHHSiO1/2単位とSiO4/2単位とから成る共重合体、(CHHSiO1/2単位とSiO4/2単位と(C)SiO3/2単位とから成る共重合体などが挙げられる。
【0017】
(b)架橋剤の配合量は、特に限定されるものではないが、通常、(a)オルガノポリシロキサン100質量部に対して0.1〜40質量部の範囲とされる。
【0018】
(c)の架橋触媒は、(b)架橋剤による(a)オルガノポリシロキサンの架橋反応を促進する触媒である。(c)の架橋触媒としては、ヒドロシリル化触媒としての白金触媒、ルテニウム触媒、ロジウム触媒などが挙げられる。白金触媒としては、微粒子状白金、白金黒、白金担持活性炭、白金担持シリカ、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金のオレフィン錯体、白金のアルケニルシロキサン錯体などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
(c)の樹脂は、(c)の架橋触媒をマイクロカプセル化するためのものであり、(c)の架橋触媒は(c)の樹脂に内包される。架橋触媒を内包する樹脂は微粒子状とされる。微粒子は、少なくとも室温において固体であり、平均粒子径が30μm以下である。平均粒子径は、レーザー顕微鏡により測定される。(c)の樹脂微粒子の平均粒子径は、架橋触媒の分散性を高めるなどの観点から、10μm以下であることが好ましい。より好ましくは5μm以下である。また、作製時の微粒子回収率を高めるなどの観点から、0.1μm以上であることが好ましい。より好ましくは2μm以上である。
【0020】
(c)の樹脂は、溶解度パラメータ(SP値)7.9以上、熱伝導率0.16W/m・K以上、ガラス転移温度(Tg)40〜145℃である。これにより、混合状態での貯蔵安定性および、加熱時の架橋反応性に優れるものとすることができる。溶解度パラメータは、smallの計算法により分子構造から算出することができる。熱伝導率は、ASTM C177に準拠して測定することができる。ガラス転移温度は、DSC(示差走査熱量測定)により測定することができる。
【0021】
(c)の樹脂は、溶解度パラメータ7.9以上とし、シリコーンゴム組成物のベースポリマーであるシリコーンゴムの溶解度パラメータを大きく外れる溶解度パラメータとすることで、シリコーンゴムとの相溶性を下げ、貯蔵中において樹脂微粒子の溶解あるいは膨潤を抑え、内包する架橋触媒の徐放性を抑制し、貯蔵安定性を向上することができる。溶解度パラメータ8.3以上とすることで、シリコーンゴムとの相溶性をさらに下げ、貯蔵安定性を格段に向上することができる。
【0022】
また、(c)の樹脂は、熱伝導率0.16W/m・K以上とし、シリコーンゴム組成物のベースポリマーであるシリコーンゴムの熱伝導率よりも高くすることで、加熱時(反応時)における樹脂の溶融速度を速くして、架橋触媒の拡散性向上による架橋反応性の向上を図ることができる。熱伝導率0.17W/m・K以上、さらには0.20W/m・K以上とすることで、架橋反応性を格段に向上することができる。
【0023】
また、(c)の樹脂は、ガラス転移温度145℃以下とし、加熱温度と樹脂の溶融温度に差を設けることで、加熱時(反応時)における樹脂の溶融開始時間を早め、架橋触媒の拡散量増加による架橋反応性の向上を図ることができる。この場合、ガラス転移温度100℃以下、あるいは85℃以下とすると、例えば120℃の低温架橋反応においても樹脂の溶融開始時間を早くして架橋触媒の拡散量増加による架橋反応性の向上を図ることができるため、低温での架橋反応性にも優れる。ただし、樹脂が室温で軟化溶融し、貯蔵安定性を損なわないために、ガラス転移温度40℃以上とする。より好ましくはガラス転移温度45℃以上、あるいは50℃以上である。
【0024】
(c)の樹脂は、上記物性値を満足するものであれば、熱可塑性樹脂であってもよいし、熱硬化性樹脂であってもよい。これらのうちでは、組成物の圧縮永久歪を悪化させないなどの観点から、熱硬化性樹脂が比較的好ましい。
【0025】
(c)の樹脂としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、スチレン系重合体、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、フェノール樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリビニルアルコール樹脂などが挙げられる。これらは、(c)の樹脂として1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。(c)の樹脂としては、架橋触媒の反応性を阻害しないなどの観点から、樹脂組成中にアミンやアミドなどの窒素化合物、リン、硫黄などの化合物を含まないことがより好ましい。各樹脂は、同種の材料内でそれぞれ溶解度パラメータやガラス転移温度の異なるものを含むことから、(c)の樹脂として各樹脂のいずれか1種を単独で用いる場合でも、物性値の異なる材料を組み合わせて所定の物性値に調整することができる。また、(c)の樹脂として上記樹脂のうちの2種以上を組み合わせて用いる場合でも、物性値の異なる材料を組み合わせて所定の物性値に調整することができる。
【0026】
(c)の樹脂において、アクリル樹脂には、アクリレートをモノマーとして含むポリマーとメタクリレートをモノマーとして含むポリマーの両方が含まれる。また、アクリレートおよびメタクリレートをモノマーとして含むポリマーも含まれる。これらのうちでは、常温で固体状態を維持できるなどの観点から、アクリレートおよびメタクリレートをモノマーとして含むポリマー、メタクリレートのみをモノマーとして含むポリマーがより好ましい。アクリル樹脂は、上記物性値を満足するものであれば、単一のモノマーから合成される単重合体であってもよいし、2種以上のモノマーから合成される共重合体であってもよい。アクリル樹脂としては、ガラス転移温度を100℃以下あるいは85℃以下の低温に調整しやすいなどの観点から、共重合体であることが好ましい。アクリル樹脂のうちでは、ガラス転移温度を85℃以下の低温にすることができるなどの観点から、エチルメタクリレートとメチルメタクリレートの共重合体が特に好ましい。
【0027】
アクリルモノマー、メタクリルモノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレート、シクロアルキル(メタ)アクリレート、ハロゲン化アルキル(メタ)アクリレート、水酸基を有する(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、フェノキシアルキル(メタ)アクリレート、アルコキシアルキレングリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。具体的には、メチル(メタ)アクリレート・エチル(メタ)アクリレート・プロピル(メタ)アクリレート・ブチル(メタ)アクリレート・イソアミル(メタ)アクリレート・2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート・ラウリル(メタ)アクリレート・ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート、クロロエチル(メタ)アクリレート・クロロプロピル(メタ)アクリレート等のハロゲン化アルキル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート・2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート・2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート・3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート・β−ヒドロキシ−β’−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタレート等の水酸基を有する(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート・エトキシエチル(メタ)アクリレート・ブトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、フェノキシエチルアクリレート・ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート等のフェノキシアルキル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート・メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート・メトキシジプロピレングレコール(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキレングリコール(メタ)アクリレート、2、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート・2,2−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート・2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート・3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0028】
また、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレートなどのアルキルジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテルに不飽和カルボン酸や不飽和アルコール等のエチレン性不飽和結合と活性水素を持つ化合物を付加反応させて得られる多価(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の不飽和エポキシ化合物とカルボン酸やアミンのような活性水素を有する化合物を付加反応させて得られる多価(メタ)アクリレート、メチレンビス(メタ)アクリルアミド等の多価(メタ)アクリルアミド、ジビニルベンゼン等の多価ビニル化合物等を挙げることができる。
【0029】
(c)の樹脂において、スチレン系重合体は、上記物性値を満足するものであれば、単一のモノマーから合成される単重合体であってもよいし、2種以上のモノマーから合成される共重合体であってもよい。スチレン系重合体としては、熱伝導率を0.16W/m・K以上に調整しやすいなどの観点から、共重合体であることが好ましい。スチレン系重合体としては、スチレン−無水マレイン酸共重合体(SMA)、スチレン−ブタジエン共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン共重合体(SIS)、水添スチレン−ブタジエン共重合体(SEBS)、水添スチレン−イソプレン共重合体(SEPS)、スチレン−アクリロニトリル共重体(SAN)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重体(ABS)などが挙げられる。
【0030】
(c)マイクロカプセル型触媒は、従来公知の方法で製造することができる。生産性、球状度などの観点から、懸濁重合法、乳化重合法、液中乾燥法などが好ましい。
【0031】
懸濁重合法や乳化重合法により製造する場合、架橋触媒を固体状の芯物質とし、これを溶解しない有機溶媒中に分散させ、この分散液中でモノマーを懸濁重合法や乳化重合法などの重合法により重合させることにより、芯物質の表面を重合体が被覆する。これにより、架橋触媒が樹脂微粒子に内包されてなるマイクロカプセル型触媒が得られる。
【0032】
液中乾燥法により製造する場合、架橋触媒、カプセル化する樹脂を水に不溶の有機溶剤に溶解させ、この溶液を界面活性剤の水溶液へ滴下しエマルジョンを作製する。その後、減圧し有機溶剤を除去した後、ろ過によりカプセル化触媒を得る。
【0033】
(c)マイクロカプセル型触媒における架橋触媒の金属原子含有量は、十分に樹脂に覆われて優れた貯蔵安定性を確保できる観点から、5質量%以下であることが好ましい。より好ましくは0.8質量%以下である。また、優れた触媒活性を確保する観点から、0.01質量%以上であることが好ましい。より好ましくは0.3質量%以上である。
【0034】
組成物における(c)マイクロカプセル型触媒の含有量は、(c)マイクロカプセル型触媒における架橋触媒の含有量にもよるが、(c)マイクロカプセル型触媒における架橋触媒の含有量が上記の所定範囲内である場合には、(a)オルガノポリシロキサン100質量部に対して0.01〜5.0質量部の範囲内とすることができる。また、架橋触媒が金属触媒である場合には、金属量に換算して、通常、(a)オルガノポリシロキサン100質量部に対して1ppm〜1.0質量部の範囲とされる。
【0035】
本発明に係るシリコーンゴム組成物は、上記の(a)〜(c)に加え、必要に応じて、本発明およびシリコーンゴムの物性を阻害しない範囲で、充填剤、架橋促進剤、架橋遅延剤、架橋助剤、スコーチ防止剤、老化防止剤、軟化剤、熱安定剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、防錆剤、導電剤、帯電防止剤などの一般的な添加剤が添加されていても良い。充填剤としては、フュームドシリカ、結晶性シリカ、湿式シリカ、フュームド酸化チタンなどの補強性充填剤が挙げられる。本発明に係るシリコーンゴム組成物は、上記の(a)〜(c)を含む各成分を混合することにより調製することができる。
【0036】
本発明に係るシリコーンゴム組成物は、成形性などの観点から、室温において液状であることが好ましい。このため、少なくとも(a)オルガノポリシロキサンは、室温において液状であることが好ましい。また、(a)オルガノポリシロキサンおよび(b)架橋剤のいずれも室温において液状であることが好ましい。
【0037】
以上の構成の本発明に係るシリコーンゴム組成物によれば、架橋触媒を内包する樹脂微粒子の樹脂が、溶解度パラメータ7.9以上、熱伝導率0.16W/m・K以上、ガラス転移温度40〜145℃であるので、混合状態での貯蔵安定性および加熱時の架橋反応性に優れる。また、上記樹脂のガラス転移温度が40〜85℃であると、低温加熱時の架橋反応性に優れる。また、上記樹脂の溶解度パラメータが8.3以上であると、混合状態での貯蔵安定性が向上する。
【0038】
本発明に係るシリコーンゴム組成物は、熱硬化により、シリコーンゴム架橋体を形成する。本発明に係るシリコーンゴム架橋体は、本発明に係るシリコーンゴム組成物の架橋体からなる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0040】
(実施例1〜10、比較例1〜4)
〔マイクロカプセル型触媒の作製〕
白金触媒のトルエン溶液(白金金属原子として3質量%含有)、微粒子化に用いる各被覆樹脂、トルエンを0.6:5:95の比率(質量比)で混合し、この溶液を界面活性剤の水溶液へ滴下し、エマルションを作製した。その後、トルエンを減圧留去し、ろ過することで、被覆樹脂および白金触媒を含有する微粒子を得た。
【0041】
・白金触媒:塩化白金(IV)酸、株式会社フルヤ金属社製
(被覆樹脂)
・エポキシ樹脂(ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂):DIC製「HP7200H」
・アクリル樹脂1(PMMA):三菱レーヨン製「アクリペット VH」
・アクリル樹脂2(PMMA):三菱レーヨン製「アクリペット MF」
・アクリル樹脂3(エチルメタクリレート−メチルメタクリレート共重合体、EMA):根上工業製「ハイパールM−4501」
・ポリビニルブチラール(PVB):クラレ製「Mowital B30HH」
・スチレン系重合体1(スチレン−ブタジエン共重合体、SBS):DAELIM製 K−RESIN(KR03)
・スチレン系重合体2(スチレン−無水マレイン酸共重合体、SMA):川原油化製「SMA1000レジン」
・ポリカーボネート樹脂1(PC1):三菱ガス化学製「ユーピロンH−3000」
・シリコーン樹脂1(メチルシリコーンレジン、メチルQ):モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン製「YR3370」
・シリコーン樹脂2(フェニルシリコーンレジン、フェニルQ):旭化成WACKER製「BELSIL SPR 45 VP」
・水添テルペン樹脂:ヤスハラケミカル製「CLEARON P150」
・ポリカーボネート樹脂2(PC2):三菱ガス化学製「ユピゼータPCZ200」
・スチレン系重合体3(スチレン−無水マレイン酸共重合体、SMA):川原油化製「SMA2000レジン」
・スチレン系重合体4(ポリスチレン、PS):東洋スチレン製「トーヨースチロールGP HRM12」
・界面活性剤:和光純薬工業製「Triton X−100」
【0042】
〔シリコーンゴム組成物の調製〕
(実施例1〜10、比較例1〜4)
(a)オルガノポリシロキサン100質量部、(c)マイクロカプセル型触媒0.42質量部を配合後、プラネタリーミキサーにて30分混合し、次いで、(b)架橋剤2.69質量部、補強材20質量部、遅延剤0.01質量部を配合後、さらに30分混合し、減圧脱泡して、液状の付加硬化型シリコーンゴム組成物を調製した。
【0043】
・(a)オルガノポリシロキサン:液状シリコーンゴム(Gelest社製、「DMS−V35」、ビニル基含有ジメチルポリシロキサン)
・(b)架橋剤:ヒドロシリル架橋剤(Gelest社製、「HMS−151」、ヒドロシリル基含有ジメチルポリシロキサン)
・(c)マイクロカプセル型触媒
・補強材:フュームドシリカ、日本アエロジル製「AEROSIL RX50」
・遅延剤:アセチレンアルコール、東京化成工業製「1−エチニル−1−シクロヘキサノール」
【0044】
得られたシリコーンゴム組成物について、架橋反応性、貯蔵安定性を評価した。結果については、表1に示す。なお、マイクロカプセル型触媒の被覆樹脂の溶解度パラメータ(SP値)、ガラス転移温度(Tg)、熱伝導率は、以下の方法にて測定した。
【0045】
(溶解度パラメータ(SP値))
smallの計算法により分子構造からSP値を推算した。
計算式:δ=ρΣFi/M(δ:相溶性パラメータ、ρ:樹脂比重、M:樹脂構造単位の分子量、Fi:モル吸引力定数)
【0046】
(ガラス転移温度(Tg))
DSC測定(示査走査熱量測定)によって樹脂のガラス転移点を示す吸熱ピークの温度を確認した。DSC測定は、窒素ガス雰囲気下、昇温速度20℃/分で測定した。
【0047】
(熱伝導率)
ASTM C177に準拠した方法で、京都電子工業社製、プローブ式熱伝導率計「QTM−3」で熱伝導率を測定した。
【0048】
(架橋反応性)
キュラストメーターにより、170℃及び120℃にて測定した。ここで、トルクが最大の90%に達するまでの時間を架橋時間として測定した。架橋時間が高温(170℃)で40秒以内のものを良好「○」、さらに低温(120℃)でも40秒以内のものを特に良好「◎」とした。高温(170℃)で40秒超のものを不良「×」とした。
【0049】
(貯蔵安定性)
シリコーンゴム組成物を調製後、常温常湿で1週間放置した後の粘度(粘度計:東機産業製 TVB−10形粘度計)を測定した。粘度上昇率が50%以下のものを良好「○」、粘度上昇率が30%以下のものを特に良好「◎」とし、粘度上昇率が50%超で硬化したものを不良「×」とした。
【0050】
【表1】
【0051】
比較例1は、マイクロカプセル型触媒の樹脂のSP値が7.9未満であり、貯蔵安定性に劣っている。マイクロカプセル型触媒をオルガノポリシロキサンと架橋剤の混合物へ配合後、即座に混合物の硬化が進行したため、架橋反応性の評価に至らなかった。比較例2、3は、マイクロカプセル型触媒の樹脂のTgが高すぎて、架橋反応性に劣っている。比較例4は、マイクロカプセル型触媒の樹脂の熱伝導率が悪く、架橋反応性に劣っている。これに対し、実施例は、マイクロカプセル型触媒の樹脂のSP値が7.9以上、Tgが145℃以下、熱伝導率が0.16(W/m・K)以上であり、貯蔵安定性および架橋反応性に優れていることが確認できた。そして、実施例9とそれ以外の実施例との比較から、マイクロカプセル型触媒の樹脂のSP値が8.3以上であると、より一層、貯蔵安定性に優れることがわかる。また、実施例2,3,7,8とそれ以外の実施例との比較から、マイクロカプセル型触媒の樹脂のTgが85℃以下であると、より一層、架橋反応性に優れることがわかる。また、実施例2〜4から、アクリル樹脂は共重合体であると、Tgが低下し、架橋反応性が向上することがわかる。また、実施例6と比較例4から、スチレン系重合体は共重合体であると、熱伝導率が向上し、架橋反応性が向上することがわかる。
【0052】
以上、本発明の実施形態、実施例について説明したが、本発明は上記実施形態、実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能なものである。