(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の穴付き透明アルミナ焼結体は、穴の開口縁に含まれるマグネシウム量Mg
Hと透明アルミナ焼結体の内部に含まれるマグネシウム量Mg
Iとの比Mg
H/Mg
Iが1.2以上のものである。
図1及び
図2は、それぞれ本発明の穴付き透明アルミナ焼結体の一実施形態を示す断面図である。
図1の透明アルミナ焼結体10は、厚み方向に貫通した穴12を備えた例であり、
図2の透明アルミナ焼結体20は、厚み方向に窪んだ穴22を備えた例である。穴12,22の開口縁14,24は、透明アルミナ焼結体10,20の表面のうち図中点線の円で囲んだ部分である。透明アルミナ焼結体10,20の内部16,26は、例えば図中1点鎖線の円で囲んだ部分である。
【0013】
本発明の穴付き透明アルミナ焼結体において、穴は、穴付き透明アルミナ焼結体の厚み方向に貫通していてもよいし(
図1参照)、貫通せず窪んでいてもよい(
図2参照)。こうした穴の用途は特に限定するものではないが、貫通穴の場合、例えばボタンやスイッチなどを露出させるために用いてもよいし、ネジやビスなどを挿通させるために用いてもよい。穴の形状は、特に限定するものではなく、例えば丸穴であってもよいし角穴であってもよい。また、本発明の透明アルミナ焼結体は穴加工のみでなく、研削及び切断加工時もクラックが生じにくい。
【0014】
本発明の穴付き透明アルミナ焼結体において、穴の開口縁に含まれるマグネシウム量Mg
Hと透明アルミナ焼結体の内部に含まれるマグネシウム量Mg
Iとの比Mg
H/Mg
Iは1.2以上が好ましく、1.5以上がより好ましい。比Mg
H/Mg
Iが1.2以上であれば、穴の開口縁付近のアルミナの粒径が十分小さくなって高強度化して穴の周辺にクラックが発生しにくくなる。マグネシウム量Mg
H,Mg
Iは、例えば単位面積当たりのマグネシウム量であってもよいし、単位体積当たりのマグネシウム量であってもよい。また、穴付きアルミナ焼結体の断面を研磨したあとの研磨面の面分析を電子線マイクロアナライザ(EPMA)で行ったときの、穴の開口縁のMg−Kα1スペクトル強度をMg
H、穴付きアルミナ焼結体の内部のMg−Kα1スペクトル強度をMg
Iとしてもよい。比Mg
H/Mg
Iの上限は特に限定するものではないが、3.0以下が好ましく、2.0以下がより好ましい。
【0015】
本発明の穴付き透明アルミナ焼結体において、穴の開口縁に含まれる窒素量N
Hと透明アルミナ焼結体の内部に含まれる窒素量N
Iとの比N
H/N
Iは1.1以上が好ましく、1.2以上がより好ましい。比N
H/N
IIが1.1以上であれば、穴の周辺にクラックが一層発生しにくくなる。窒素量N
H,N
Iは、例えば単位面積当たりの窒素量であってもよいし、単位体積当たりの窒素量であってもよい。また、穴付きアルミナ焼結体の断面を研磨したあとの研磨面の面分析を電子線マイクロアナライザ(EPMA)で行ったときの、穴の開口縁のN−Kα1スペクトル強度をN
H、穴付きアルミナ焼結体の内部のN−Kα1スペクトル強度をN
Iとしてもよい。比N
H/N
Iの上限は特に限定するものではないが、2.0以下が好ましく、1.5以下がより好ましい。穴付き透明アルミナ焼結体に含まれる窒素は、例えば焼成時の窒素雰囲気に由来するものである。
【0016】
本発明の穴付き透明アルミナ焼結体は、厚み0.5mmの穴付き透明アルミナ焼結体を用いたときに波長300〜1000nmにおける直線透過率が50%以上のものが好ましく、60%以上のものがより好ましい。直線透過率は、分光光度計(例えばPerkin Elmer製、Lambda900)を用いて測定することができる。なお、試料の厚みを他の厚みに換算する場合には、以下の換算式を利用すればよい。この式は、Scripta Materialia vol.69, pp362-365(2013)から引用した。式中、T1は直線透過率の実測値、T2は換算後の直線透過率、t1は厚みの実測値、t2は換算後の厚み、Rは材料由来の表面反射(アルミナの場合0.14)である。
T2=(1-R)(T1/(1-R))^(t2/t1)
【0017】
本発明の透明アルミナ焼結体の製法は、
(a1)表面に含まれるマグネシウム量Mg
Sと内部に含まれるマグネシウム量Mg
Iとの比Mg
S/Mg
Iが1.2以上である透明アルミナ焼結体を作製する工程と、
(b1)前記透明アルミナ焼結体に穴をあけることにより、上述した穴付き透明アルミナ焼結体を得る工程と、
を含むか、
(a2)焼結すると表面に含まれるマグネシウム量Mg
Sと内部に含まれるマグネシウム量Mg
Iとの比Mg
S/Mg
Iが1.2以上の透明アルミナ焼結体になる穴付き成形体を作製する工程と、
(b2)前記穴付き成形体を焼成することにより、上述した穴付き透明アルミナ焼結体を得る工程と、
を含むものである。
【0018】
図3は、本発明の穴付き透明アルミナ焼結体の製法のうち工程(a1),(b1)を含む一例の説明図であり、
図4は、本発明の穴付き透明アルミナ焼結体の製法のうち工程(a2),(b2)を含む一例の説明図である。
【0019】
工程(a1)では、例えば、板状アルミナ粉末とその板状アルミナ粉末よりも平均粒径が小さい微細アルミナ粉末とを含むアルミナ原料粉末100質量部にMgOを0.005〜0.5質量部添加した成形用原料を成形して成形体とし、該成形体を焼成することにより、比Mg
S/Mg
Iが1.2以上の透明アルミナ焼結体を作製してもよい。
図3(a)から
図3(b)は工程(a1)の一例の説明図であり、ここではプレーンな成形体30を焼成してプレーンな透明アルミナ焼結体40を作製している。
図3(b)の透明アルミナ焼結体40の表面44すなわちハッチングの細かい部分は、マグネシウム濃度の高い領域(マグネシウム量Mg
Sの領域)である。表面44は、透明アルミナ焼結体40の上面、下面及び側面である。透明アルミナ焼結体40の内部46すなわちハッチングの粗い部分は、マグネシウム濃度の低い領域(マグネシウム量Mg
Iの領域)である。
【0020】
板状アルミナ粉末は、アスペクト比が3以上のものが好ましい。最終的に得られるアルミナ焼結体の配向度が高くなるからである。アスペクト比は、平均粒径/平均厚さ、平均粒径は、粒子板面の長軸長の平均値、平均厚さは、粒子の短軸長の平均値である。これらの値は、走査型電子顕微鏡(SEM)で板状アルミナ粉末中の任意の粒子100個を観察して決定することができる。板状アルミナ粒子は、平面視したときの形状が略六角形状である。アルミナ原料粉末は、板状アルミナ粉末と微細アルミナ粉末とを混合した混合アルミナ粉末を用いる。このような原料粉末を用いることで焼成時に、板状アルミナ粉末が種結晶(テンプレート)となり、微細アルミナ粉末がマトリックスとなって、テンプレートがマトリックスを取り込みながらホモエピタキシャル成長する。こうした製法は、TGG法と呼ばれる。TGG法では、板状アルミナ粉末と微細アルミナ粉末との混合割合は、例えば質量比でT:(100−T)(Tは0.001以上、1未満)とすることが好ましい。MgOは、アルミナの焼結時に気孔排出効果のある添加物として知られている。また、MgOを添加した場合、析出する可能性のあるMgAl
2O
4の屈折率はアルミナに近いため、透明性への影響は小さい。
【0021】
成形方法としては、特に限定するものではないが、例えばテープ成形、押出成形、鋳込み成形、射出成形、一軸プレス成形、ゲルキャスト等が挙げられる。焼成としては、常圧焼成でも加圧焼成でもよいが、加圧焼成が好ましい。加圧焼成としては、例えばホットプレス焼成やHIP焼成、プラズマ放電焼成(SPS)などが挙げられる。なお、加圧焼成前に常圧予備焼成を行ってもよい。HIP焼成を行うときにはカプセル法を用いることもできる。ホットプレス焼成の場合の圧力は、50kgf/cm
2以上が好ましく、200kgf/cm
2以上がより好ましい。HIP焼成の場合の圧力は、1000kgf/cm
2以上が好ましく、2000kgf/cm
2以上がより好ましい。焼成雰囲気は特に限定するものではないが、大気、窒素、Ar等の不活性ガス、真空雰囲気下のいずれかが好ましく、窒素、Ar雰囲気下が特に好ましく、窒素雰囲気が最も好ましい。加圧焼成の条件としては、焼成温度(最高温度)を1850〜2050℃に設定し、その温度で1〜10時間キープすることが好ましい。上述した成形体は、板状アルミナ粉末、微細アルミナ粉末及びMgO粉末がほぼ均質に分散されていたとしても、焼成されることによって表面のMg濃度が内部のMg濃度よりも高くなる。なお、MgOの代わりに他のMg成分(例えばMgF
2とかMgNO
3など)を添加してもよい。その場合、Mg成分の質量部をMgOに換算したときに上述した数値範囲になるように添加するのが好ましい。成形体を焼成する場合、焼成中の最高到達温度からの降温時において、所定温度(1000〜1400℃(好ましくは1100〜1300℃)の範囲で設定された温度)まで50kgf/cm
2以上のプレス圧を印加することが好ましい。このようにすることで、得られる焼結体の透明性を高めることができる。また、所定温度未満の温度域では50kgf/cm
2未満の圧力(例えばゼロ)まで除圧することが好ましい。
【0022】
工程(a1)では、成形体として、表面のMg濃度が内部のMg濃度より高いものを用いてもよい。例えば、成形体の表面にMg成分を塗布などでコーティングしてもよい。コーティング方法としては、例えばスプレーコート、ディップコート、インクジェットコート、スピンコート、スクリーン印刷、真空蒸着、スパッタリング、CVDなどが挙げられる。また、テープ成形を採用する場合には、最下層や最上層のテープのMg濃度を他のテープより高くしてもよい。
【0023】
工程(b1)では、工程(a1)で得られた透明アルミナ焼結体に切削加工等で穴をあけることが好ましい。通常、アルミナ焼結体に切削加工で穴をあける場合、穴の周辺にクラックが発生することが多い。しかし、ここでは、透明アルミナ焼結体として比Mg
S/Mg
Iが1.2以上のものを使用する。この透明アルミナ焼結体のうちMg濃度が高い領域(表面)は、Mg濃度が低い領域(内部)に比べてアルミナの粒径が小さくなって高強度化している。そのため、切削加工等で穴をあけたとしても、透明アルミナ焼結体の表面のうち穴の開口縁にクラックが発生しにくい。
図3(b)から
図3(c)は工程(b1)の一例の説明図であり、ここではプレーンな透明アルミナ焼結体40に穴12をあけて穴付き透明アルミナ焼結体10を作製している。得られた穴付き透明アルミナ焼結体10のうち穴12の開口縁14はマグネシウム濃度の高い領域(マグネシウム量Mg
Sの領域)、内部16はマグネシウム濃度の低い領域(マグネシウム量Mg
Iの領域)である。
【0024】
工程(a2)では、焼結すると表面に含まれるマグネシウム量Mg
Sと内部に含まれるマグネシウム量Mg
Iとの比Mg
S/Mg
Iが1.2以上の透明アルミナ焼結体になる成形体を作製するが、例えば工程(a1)で説明した成形体を作製すればよい。この工程(a2)では、穴付き成形体を作製する。例えば、成形体を作製したあと切削加工等により穴をあけて穴付き成形体にしてもよいし、穴付き成形体となるような成形型を用いて穴付き成形体を作製してもよい。
図4(a)から
図4(b)は工程(a2)の一例の説明図であり、前出の成形体30を作製したあと切削加工等により穴32をあけて穴付き成形体34を作製している。
【0025】
工程(b2)では、穴付き成形体を焼成することにより、上述した穴付き透明アルミナ焼結体を得る。このときの焼成条件としては、例えば工程(a1)で説明した焼成条件を採用すればよい。通常、穴付きアルミナ成形体を焼成する場合、穴の開口縁や内壁にクラックが発生することが多い。しかし、ここでは、成形体として、焼成すると表面に含まれるマグネシウム量Mg
Hと内部に含まれるマグネシウム量Mg
Iとの比Mg
H/Mg
Iが1.2以上の透明アルミナ焼結体になるものを用いている。その場合、焼結が進むにつれて穴の開口縁の強度が高くなるため、穴付き透明アルミナ焼結体の穴の周辺にクラックが発生しにくい。
図4(b)から
図4(c)は工程(b2)の一例の説明図であり、穴付き成形体34を焼成して穴付きアルミナ焼結体10を作製している。
図4(c)の穴付き透明アルミナ焼結体10のうち上面、下面、側面や穴12の内壁面(ハッチングの細かい部分、開口縁14を含む)は、マグネシウム濃度の高い領域すなわちマグネシウム量Mg
Sの領域であり、内部16はマグネシウム濃度の低い領域すなわちマグネシウム量Mg
Iの領域である。
【実施例】
【0026】
[実験例1]
1.アルミナ焼結体の作製
(1)板状アルミナ粉末の作製
高純度γ−アルミナ(TM−300D、大明化学製)96質量部と、高純度AlF
3(
関東化学製、鹿特級)4質量部と、種結晶として高純度α−アルミナ(TM−DAR、大明化学製、D50=1μm)0.17質量部とを、溶媒をIPA(イソプロピルアルコール)としてφ2mmのアルミナボールを用いて5時間ポットミルで混合した。得られた混合粉末中のF,H,C,S以外の不純物元素の質量割合の合計は1000ppm以下であった。得られた混合原料粉末300gを純度99.5質量%の高純度アルミナ製のさや(容積750cm
3)に入れ、純度99.5質量%の高純度アルミナ製の蓋をして電気炉内
でエアフロー中、900℃、3時間熱処理した。エアの流量は25000cc/minとした。熱処理後の粉末を大気中、1150℃で40時間アニール処理した後、φ2mmのアルミナボールを用いて4時間粉砕して平均粒径2μm、平均厚み0.2μm、アスペクト比10の板状アルミナ粉末を得た。粒子の平均粒径、平均厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)で板状アルミナ粉末中の任意の粒子100個を観察して決定した。平均粒径は、粒子の長軸長の平均値、平均厚みは、粒子の短軸長の平均値、アスペクト比は平均粒径/平均厚みである。得られた板状アルミナ粉末は、α−アルミナであった。
【0027】
(2)テープ成形
上記(1)で作製した板状アルミナ粉末2.0質量部と、微細なアルミナ粉末(TM−DAR、平均粒径0.1μm、大明化学製)98.0質量部とを混合し、混合アルミナ粉末とした。この混合アルミナ粉末100質量部に対し、酸化マグネシウム(500A、宇部マテリアルズ製)0.035質量部と、バインダーとしてポリビニルブチラール(品番BM−2、積水化学工業製)7.8質量部と、可塑剤としてジ(2−エチルヘキシル)フタレート(黒金化成製)3.9質量部と、分散剤としてトリオレイン酸ソルビタン(レオドールSP−O30、花王製)2質量部と、分散媒として2−エチルヘキサノールとを加えて混合した。分散媒の量は、スラリー粘度が20000cPとなるように調整した。このようにして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によってPETフィルムの上に乾燥後の厚さが20μmとなるようにシート状に成形した。得られたテープを直径50.8mm(2インチ)の円形に切断した後55枚積層し、厚さ10mmのAl板の上に載置した後、パッケージに入れて内部を真空にすることで真空パックとした。この真空パックを85℃の温水中で100kgf/cm
2の圧力にて静水圧プレスを行い、円板状の成形体を得た。
【0028】
(3)焼成
得られた成形体を脱脂炉中に配置し、600℃で10時間の条件で脱脂を行った。得られた脱脂体を黒鉛製の型を用い、ホットプレスにて窒素中、焼成温度(最高到達温度)1975℃で4時間、面圧200kgf/cm
2の条件で焼成し、アルミナ焼結体を得た。なお、焼成温度から降温する際に1200℃までプレス圧を維持し、1200℃未満の温度域ではプレス圧をゼロに開放した。
【0029】
(4)穴あけ加工
得られたアルミナ焼結体(φ50.8mm、厚み0.5mm)の表面に対し、φ10mm、厚み1mmtの円板状ダイヤモンド砥石を回転させながら垂直に押し当て、アルミナ焼結体を貫通するまで研削して10個の穴をあけた。こうした穴付きアルミナ焼結体を10体作製した(穴の数は合計100個)。
【0030】
2.アルミナ焼結体の特性等
(1)直線透過率
前記1.(3)で得られた厚み0.5mmのアルミナ焼結体を、10mm×10mmの大きさに切り出し、φ68mmの金属製定盤の最外周部に90°おきに4個固定し、SiC研磨紙上で、金属製定盤と研磨治具の荷重のみ(合わせて1314g)をかけた状態で#800で10分、#1200で5分ラップ研磨(予備研磨)した。その後、セラミック定盤上でダイヤモンド砥粒を用いたラップ研磨を行った。ラップ研磨は、砥粒サイズ1μmで30分、その後、砥粒サイズ0.5μmで2時間行った。研磨後の10mm×10mm×0.5mm厚の試料をアセトン、エタノール、イオン交換水の順でそれぞれ3分間洗浄した後、分光光度計(Perkin Elmer製、Lambda900)を用いて波長300〜1000nmにおける直線透過率を測定した。実験例1のアルミナ焼結体の波長300〜1000nmにおける直線透過率は80.1%以上であった。
【0031】
(2)Mg
S/Mg
I及びN
S/N
I
前記1.(3)で得られたアルミナ焼結体を、10mm×10mmの大きさに切り出した後、任意の断面をクロスセクションポリッシャ(CP)(日本電子製、IB−09010CP)で研磨した。CPはイオンミリングの範疇に属する。CPを用いたのは、研磨面に脱粒が生じないことと、表面に加工変質層が残留しないからである。研磨面を電子線マイクロアナライザ(EPMA)で、
図5に示す視野A及び視野B(いずれも縦1.5μm、横2.0μm範囲)で面分析を実施した。なお、視野Aをアルミナ焼結体表面の視野、視野Bをアルミナ焼結体内部の視野とする。
視野A:焼成体表面から1μm下の視野
視野B:焼成体表面から10μm下の視野
【0032】
視野Aの面分析で得られたMg−Kα1スペクトル強度をMg
S、視野Bの面分析で得られたMg−Kα1スペクトル強度をMg
IとしたときMg
S/Mg
I=1.7であった。同様に、視野Aの面分析で得られたN−Kα1スペクトル強度をN
S、視野Bの面分析で得られたN−Kα1スペクトル強度をN
IとしたときN
S/N
I=1.3であった。
【0033】
(3)クラック発生の有無
前記1.(4)で得られた穴付きアルミナ焼結体の各穴について、50倍の光学顕微鏡にて、穴の周囲にクラックが発生したか否かを観察し、1個以上クラックが観察された穴の数をカウントした。そうしたところ、クラックの発生した穴の数は100個中ゼロ(0/100)であった。
【0034】
なお、前記2.(1)及び(2)では穴あけ加工を施す前のアルミナ焼結体の直線透過率やMg
S/Mg
I及びN
S/N
I を測定したが、穴あけ加工を施した後もこれらの数値は変わらない。また、穴付きアルミナ焼結体の穴の開口縁は、表面の一部とみることができる。そのため、穴の開口縁のMg−Kα1スペクトル強度をMg
H、N−Kα1スペクトル強度をN
Hとすると、Mg
H=Mg
S、N
H=N
Sとみなすことができる。
【0035】
[実験例2]
実験例1の1.(2)で得られた成形体を10体用意し、実験例1の1.(4)と同様にしてそれぞれにつきφ10mmの穴を10個あけた(穴の数は合計100個)。穴あけ加工後の成形体を実験例1の1.(3)の焼成条件でホットプレス焼成し、穴付きアルミナ焼結体を得た。この穴付きアルミナ焼結体の特性を実験例1と同様にして測定したところ、直線透過率は厚さ0.5mmで80.6%、Mg
S/Mg
Iは1.7、N
S/N
I は1.3、クラックの発生した穴の数は100個中ゼロであった。
【0036】
なお、この場合も、穴付きアルミナ焼結体の穴の開口縁のMg−Kα1スペクトル強度をMg
H、N−Kα1スペクトル強度をN
Hとすると、Mg
H=Mg
S、N
H=N
Sとみなすことができる。
【0037】
[実験例3]
実験例1の1.(2)のテープ成形において板状アルミナ粉末2.5質量部と微細アルミナ粉末97.5質量部とを混合し酸化マグネシウムの添加量を0.05質量部にしたこと、1.(3)の焼成において焼成温度(最高到達温度)を1850℃としたこと以外は、実験例1と同様にして穴付きアルミナ焼結体を作製した。本実験例のアルミナ焼結体の直線透過率は厚さ0.5mmで81.1%、Mg
S/Mg
Iは1.5、N
S/N
Iは1.2であった。また、穴付きアルミナ焼結体のクラックの発生した穴の数は100個中ゼロ(0/100)であった。
【0038】
[実験例4]
実験例3のテープ成形後に得られた成形体を10体用意し、実験例1の1.(4)と同様にしてそれぞれにつきφ10mmの穴を10個あけた(穴の数は合計100個)。穴あけ加工後の成形体を実験例3の焼成条件でホットプレス焼成し、穴付きアルミナ焼結体を得た。この穴付きアルミナ焼結体の特性を実験例1と同様にして測定したところ、直線透過率は厚さ0.5mmで81.3%、Mg
S/Mg
Iは1.5、N
S/N
Iは1.2、クラックの発生した穴の数は100個中ゼロ(0/100)であった。
【0039】
[実験例5]
実験例1の1.(3)の焼成において焼成温度(最高到達温度)を1900℃としたこと以外は、実験例1と同様にして穴付きアルミナ焼結体を作製した。本実験例のアルミナ焼結体の直線透過率は厚さ0.5mmで76.6%、Mg
S/Mg
I=1.3、N
S/N
I=1.1であった。また、穴付きアルミナ焼結体のクラックの発生した穴の数は100個中13個(13/100)であった。
【0040】
[実験例6]
実験例5のテープ成形後に得られた成形体を10体用意し、実験例1の1.(4)と同様にしてそれぞれにつきφ10mmの穴を10個あけた(穴の数は合計100個)。穴あけ加工後の成形体を実験例5の焼成条件でホットプレス焼成し、穴付きアルミナ焼結体を得た。この穴付きアルミナ焼結体の特性を実験例1と同様にして測定したところ、直線透過率は厚さ0.5mmで75.3%、Mg
S/Mg
Iは1.3、N
S/N
Iは1.1、クラックの発生した穴の数は100個中7個(7/100)であった。
【0041】
[実験例7]
実験例1の1.(2)のテープ成形において酸化マグネシウムを無添加としたこと以外は、実験例1と同様にして穴付きアルミナ焼結体を作製した。本実験例のアルミナ焼結体の直線透過率は厚さ0.5mmで75.2%であった。実験例1の2.(2)の電子線マイクロアナライザ測定ではMg
S、Mg
Iはバックグラウンドレベルにしか検出されず、N
S/N
Iは1.1であった。また、穴付きアルミナ焼結体のクラックの発生した穴の数は100個中43個(43/100)であった。
【0042】
[実験例8]
実験例7のテープ成形後に得られた成形体を10体用意し、実験例1の1.(4)と同様にしてそれぞれにつきφ10mmの穴を10個あけた(穴の数は合計100個)。穴あけ加工後の成形体を実験例7の焼成条件でホットプレス焼成し、穴付きアルミナ焼結体を得た。この穴付きアルミナ焼結体の特性を実験例1と同様にして測定したところ、直線透過率は厚さ0.5mmで73.6%、Mg
S、Mg
Iはバックグラウンドレベルにしか検出されず、N
S/N
Iは1.0、クラックの発生した穴の数は100個中29個(29/100)であった。
【0043】
[実験例9]
実験例1の1.(3)の焼成において焼成温度(最高到達温度)に到達したあとキープせずに直ちに降温したこと以外は、実験例1と同様にして穴付きアルミナ焼結体を作製した。本実験例のアルミナ焼結体の直線透過率は厚さ0.5mmで78.9%、Mg
S/Mg
I=1.15、N
S/N
I=1.05であった。また、穴付きアルミナ焼結体のクラックの発生した穴の数は100個中21個(21/100)であった。
【0044】
[実験例10]
実験例9のテープ成形後に得られた成形体を10体用意し、実験例1の1.(4)と同様にしてそれぞれにつきφ10mmの穴を10個あけた(穴の数は合計100個)。穴あけ加工後の成形体を実験例9の焼成条件でホットプレス焼成し、穴付きアルミナ焼結体を得た。この穴付きアルミナ焼結体の特性を実験例1と同様にして測定したところ、直線透過率は厚さ0.5mmで79.5%、Mg
S/Mg
Iは1.15、N
S/N
Iは1.05、クラックの発生した穴の数は100個中14個(14/100)であった。
【0045】
なお、実験例1〜6が本発明の実施例に相当し、実験例7〜10が比較例に相当する。本発明は、上述した実施形態や実験例に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。