(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シラン化合物に由来するアルキル基を表面に有する球状アルミナ粉末であって、赤外分光分析測定によって得られた同一スペクトルデータ内のシラン化合物のアルキル基中のCH3の非対称振動に伴うピーク(2960±5cm-1)とCH2の非対称振動に伴うピーク(2925±5cm-1)の強度比{I(CH3)/I(CH2)}が0.2以上2.0未満であることを特徴とする球状アルミナ粉末。
【背景技術】
【0002】
近年、ICやMPU等の発熱性電子部品の小薄型化・高機能化の進展に伴い、電子部品が搭載された電子機器の発熱量が増大し、効率のよい放熱方法の開発が依然として期待されている。電子機器の放熱は、発熱性電子部品の搭載された基板にヒートシンクを取り付けるか、ヒートシンクを取り付けるスペースを確保することができないときは、直接、電子機器の金属製シャーシに基板を取り付けることなどが行われている。このとき、電気絶縁性と熱伝導性の良好な無機質粉末、例えば窒化ホウ素粉末、窒化アルミニウム粉末、アルミナ粉末等の無機質粉末をシリコーンゴムに充填させて成形したシートや、アスカC硬度が25以下の柔軟性シート、などの放熱部材を介してヒートシンクが取り付けられている(特許文献1)。
【0003】
成形加工後の樹脂組成物における放熱特性の良否は、成形加工後の樹脂組成物の熱伝導性と被着物への密着性(形状追従性)に大きく左右され、また、樹脂組成物に含まれるボイド(空気層)の有無によっても影響される。熱伝導性は無機粉末を高充填することにより確保されるが、無機粉末を樹脂などに高充填した際、成形加工前の樹脂組成物の流動性が非常に低下するため成形加工性が損なわれ、密着性が著しく悪くなる。一方、成形加工前の樹脂組成物の粘度上昇に伴い、内包したボイドが除去しづらくなることから熱伝導性も低下する。そこで、無機粉末の充填率をある程度保持して、成形加工前の樹脂組成物の流動性と高熱伝導性を両立し、成形加工性と密着性を大きく損なわせない手法として、球状アルミナ粉末とアルコキシシラン化合物の使用が提案されている(特許文献2)。
【0004】
また、無機粉末の高充填化は、成形加工前の樹脂組成物の流動性を損なうだけでなく、成形加工後の樹脂組成物において、圧縮永久歪みの増大や引張強度の低下など成形加工後の樹脂組成物における機械的物性の耐熱信頼性を著しく低下させる。機械的物性の耐熱信頼性を向上させる方法として、長鎖アルキル基を有するアルコキシシラン化合物で無機粉末の表面を処理することが提案されている(特許文献3)。
3個の官能基を有するトリアルコキシシラン化合物を使用した球状アルミナ粉末の表面処理においては、トリアルコキシシラン化合物の3個の官能基のうち全ての官能基が無機粉末表面と反応する訳ではなく、一部の未反応の官能基は残留する。残留した未反応の官能基は、温度や湿度の影響により、時間の経過と共に無秩序にトリアルコキシシラン化合物同士の重合が進行すると考えられる。トリアルコキシシラン同士の反応による重合が制御できない場合は、重合したシラン化合物や球状アルミナの影響により、未処理の無機粉末に比べて、成形加工前の樹脂組成物の粘度が上昇して流動性が損なわれるという問題あった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、球状アルミナ粉末と樹脂との親和性を高めることにより、樹脂に高充填した際、低粘度であり、かつ、表面処理後の球状アルミナ粉末の経時に伴う、樹脂組成物の粘度上昇が少ない球状アルミナ粉末を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記の課題を解決するために、以下の手法を採用する。
(1)シラン化合物に由来するアルキル基を表面に有する球状アルミナ粉末であって、赤外分光分析測定によって得られた同一スペクトルデータ内のシラン化合物のアルキル基中のCH3の非対称振動に伴うピーク(2960±5cm
-1)とCH2の非対称振動に伴うピーク(2925±5cm
-1)の強度比{I(CH3)/I(CH2)}が0.2以上2.0未満であることを特徴とする球状アルミナ粉末。
(2)平均粒子径が0.1〜100μm、平均球形度が0.85以上であることを特徴とする前記(1)に記載の球状アルミナ粉末。
(3)前記アルキル基が化学式(1)のシラン化合物と化学式(2)のシラン化合物の両者に由来することを特徴とする(1)又は(2)に記載の球状アルミナ粉末。
CH
3(CH
2)nSiX
3 化学式(1)
X=メトキシ基またはエトキシ基、n=5〜15の整数
(CH
3)
3SiX 化学式(2)
X=メトキシ基またはエトキシ基
(4)全炭素量が0.05〜0.9質量%である前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の球状アルミナ粉末。
(5)前記(1)〜(4)のいずれか一項に記載の球状アルミナ粉末を含有してなることを特徴とする樹脂組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、樹脂に高充填した場合に低粘度であり、かつ表面処理後の球状アルミナ粉末の経時に伴う、樹脂組成物の粘度上昇が少ない球状アルミナ粉末を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、更に詳しく本発明について説明する。
本発明において、球状アルミナ粉末とは平均球形度が0.8以上のアルミナ粉末を指し、平均球形度が0.85以上のアルミナ粉末を用いることが好ましい。平均球形度が0.85以上のアルミナ粉末は、アルミナ粉末を出発原料とする溶射技術(例えば「製綱窯炉に対する溶射補集技術について」製鉄研究1982第310号」)によって容易に製造することができる。この方法において、平均球形度が0.85以上のアルミナ粉末を製造するには、溶射条件を例えばLPG等で形成した火炎の高温域(約2000℃以上)をできる限り大きく形成させ、分散したアルミナ粉末を投入すればよい。平均球形度が0.85よりも著しく小さいと、形状に起因した理由で金型摩耗による金属異物混入のリスクが高くなる他、成形加工前組成物の粘度が高くなるので樹脂組成物中のアルミナ粉末の含有量を高めることができなくなる。
一方、球状アルミナ粉末を高充填する際は、最密充填理論に基づき平均粒子径の異なる粒子を組み合わせて配合する。この場合、平均粒子径が100μmより大きくなると沈降の問題や先に記した金型摩耗に起因する問題が発生しやすくなる。また、平均粒子径が0.1μmより小さくなると凝集しやすく、また、表面処理の効果より比表面積の増大に伴う粘度上昇の方が大きくなり、成形加工性を著しく低下させる。従って、球状アルミナの粒度配合に適した平均粒子径の範囲は0.1〜100μmが好ましく、0.3〜70μmがより好ましく、0.6〜50μmが更により好ましい。本発明に好適に使用できる球状アルミナ粉末としては、電気化学工業社製品(ASFP−20、DAW−05、DAW−10,DAW−45、DAS−45、DAW−70等)を挙げることができる。
【0010】
(1)平均球形度
平均球形度は、シスメックス社製商品名「FPIA−3000」のフロー式粒子像分析装置を用い、以下のようにして測定した。粒子像から粒子の投影面積(A)と周囲長(PM)を測定する。周囲長(PM)に対応する真円の面積を(B)とすると、その粒子の球形度はA/Bとして表示できる。そこで試料粒子の周囲長(PM)と同一の周囲長を持つ真円を想定するとPM=2πr、B=πr
2であるから、B=π×(PM/2π)
2となり、個々の粒子の球形度は、円形度=A/B=A×4π/(PM)
2として算出できる。これを任意に選ばれた100個以上の粒子について測定し、その平均値を2乗したものを平均球形度とした。測定溶液はサンプル0.1gに蒸留水20mlとプロピレングリコール10mlを加え、3分間超音波分散処理を行い調製した。
【0011】
(2)平均粒子径
アルミナ粉末の平均粒子径は、レーザー回折散乱法(ベックマン・コールター社製商品名「モデルLS−230」)によって測定した。本発明において、平均粒子径とは体積基準によるメジアン径(d50)を指す。この装置は、0.04〜2000μmの粒径範囲を116分割(log(μm)=0.04の幅)して粒度分布を測定する機器である。詳細は、「レーザ回折・散乱法粒度分布測定装置 LSシリーズ」(ベックマン・コールター株式会社)、豊田 真弓著「粒度分布を測定する」(ベックマン・コールター株式会社 粒子物性本部 学術チーム)、に記載されている。測定溶液は純水にサンプルを加えホモジナイザーで1分間分散処理を行い、装置の濃度調整ウインドウの表示が45〜55%になるように調製した。
【0012】
(3)シラン化合物
アルキル基を有するシラン化合物によって球状アルミナ粉末を表面処理することにより、シラン化合物に由来するアルキル基を表面に有する球状アルミナ粉末を得ることができる。アルキル基を有するシラン化合物としては、ピーク強度比{I(CH3)/I(CH2)}を所定の範囲に調節することができれば特に制限はないが、例えば化学式(1)と(2)で示されるアルキル系シラン化合物を併用することにより上記ピーク強度比を制御することが可能である。化学式(1)で示されるシラン化合物は、炭素数6〜16(式中のnが5〜15の整数)の長鎖アルキル基を有する3官能のシラン化合物である。化学式(2)で示されるシラン化合物はトリメチルメトキシシラン又はトリメチルエトキシシランである。
化学式(1)のシラン化合物は、例えば、球状アルミナ粉末に対して、外割で0.2〜2質量%、化学式(2)のシランカップリング剤は球状アルミナ粉末に対して、外割で0.1〜6質量%使用することができる。炭素数が6未満のアルキル基の場合、成形加工前の樹脂組成物の粘度を低下させる効果がなくなり、逆に粘度が上昇する恐れがある。また、炭素数が16を超えるアルキル基の場合、液状樹脂成分との相溶性が悪くなり本来の表面処理効果が低下する。
CH
3(CH
2)nSiX
3 ・・・化学式(1)
X=メトキシ基またはエトキシ基、n=5〜15の整数
(CH
3)
3SiX ・・・化学式(2)
X=メトキシ基またはエトキシ基
【0013】
シラン化合物による球状アルミナ粉末の表面処理方法としては、流体ノズルを用いた噴霧方式、せん断力のある攪拌方式、ボールミル、ミキサー等の乾式法や水系又は有機溶剤系等の湿式法を採用することができる。乾式法の場合、球状アルミナ粉末表面との反応を容易にするため、シラン化合物は水または有機溶媒中で化学式(1)と化学式(2)のシラン化合物を加水分解した状態で使用した方が好ましい。また、攪拌混合方式は、球状アルミナ粉末の破壊が起こらない程度にして行うことが肝要である。乾式法における系内温度又は処理後の乾燥温度は、表面処理剤の種類に応じ熱分解しない領域で適宜決定されるが、100〜150℃ で行うのが望ましい。また、乾燥処理後の表面処理された球状アルミナの全炭素量は0.05〜0.9質量%が好ましく、0.1〜0.6質量%がより好ましい。
【0014】
シラン化合物によって表面処理された球状アルミナ粉末に対して赤外吸収スペクトル測定を行うことで、同一IRスペクトルデータ内のシラン化合物のアルキル基中のCH3の非対称振動に伴うピーク(2960±5cm
-1)(I(CH3)と呼ぶ。)とCH2の非対称振動に伴うピーク(2925±5cm
-1)(I(CH2)と呼ぶ。)の強度比{I(CH3)/I(CH2)}を求めることができる。当該ピーク強度比は、表面処理された球状アルミナ粉末の表面におけるシラン化合物に由来するCH2及びCH3の存在比率と相関がある。例えば、化学式(1)のうち炭素数10(n=9)でXがメトキシ基のデシルトリメトキシシランの場合、ピーク強度比{I(CH3)/I(CH2)}は0.2であり、これに対して、デシルトリメトキシシランに対して化学式(2)のXがメトキシ基のトリメチルメトキシシランを添加した系のピーク強度比{I(CH3)/I(CH2)}は、トリメトキシシランの添加によりCH3のピーク強度が増す。このため、例えばデシルトリメトキシシランに対して、トリメチルメトキシシランが等モル量、表面に存在する場合は、ピーク強度比{I(CH3)/I(CH2)}は0.4と大きくなる。
【0015】
(4)IR測定
IR測定は、フーリエ変換赤外分光光度測定装置(パーキンエルマー社 製品名「Spectrum One」を用いて測定した。分解能4cm
-1、積算回数10回の測定条件で、2500〜3500cm
-1の範囲を拡散反射法で測定した。なお、IRスペクトルデータはクベルカームンク変換したデータを使用した。
【0016】
(5)IRスペクトルのピーク強度比の算出
IRスペクトルのピーク強度比は、IR測定により得られたスペクトルデータにおいてCH3の非対称振動に伴うピーク(2960±5cm
-1)とCH2の非対称振動に伴うピーク(2925±cm
-1)の頂点からベースラインまでの距離をピーク強度とし、ピーク強度比{I(CH3)/I(CH2)}を算出した。ベースラインは連続したピーク群の両端で平坦となった2700と3100cm
-1の点を結んだ線である。
本発明に係る球状アルミニウム粉末の一実施形態おいては、赤外分光分析測定によって得られた同一スペクトルデータ内のシラン化合物のアルキル基中のCH3の非対称振動に伴うピーク(2960±5cm
-1)とCH2の非対称振動に伴うピーク(2925±5cm
-1)の強度比{I(CH3)/I(CH2)}が0.2以上2.0未満である。I(CH3)/I(CH2)が当該範囲であることにより、樹脂に高充填した場合に低粘度の樹脂組成物が得られ、また、粘度の経時的な上昇を効果的に抑制できる。I(CH3)/I(CH2)は好ましくは0.3以上1.8以下であり、より好ましくは0.4以上1.5以下であり、更により好ましくは0.5以上1.0以下である。
【0017】
(6)全炭素量
表面処理された球状アルミナ粉末における全炭素量は、炭素/硫黄同時分析計(LECO社製商品名「CS−444LS型」)で炭素量を測定し、検量線法にて定量した。
即ち、炭素含有量が既知の炭素鋼を標準物質として検量線を求めた後、表面処理された球状アルミナ粉末を鉄粉や助燃材であるタングステン粉末と共に、酸素雰囲気下で、表面処理剤が完全に分解し、全炭素がCO
2に変換されるまで酸化燃焼し、生成したCO
2量を赤外検出器で測定して全炭素量を求めた。
【0018】
(7)熱伝導率
ビニル基含有ポリメチルシロキサン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製品YE5822A液)に対して、球状アルミナ粉末、遅延剤、及び架橋剤等(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製品YE5822B液)の順に投入と攪拌を繰り返し行った後、脱泡処理をした。得られたスラリー状試料を、直径28mm、厚さ3mmのくぼみの設けられた金型に流し込み、脱気後、150℃×20分で加熱成形し、室温における熱伝導率を温度傾斜法で測定した。熱伝導率測定装置としてアグネ社製商品名「ARC−TC−1型」を用いて測定した。なお、球状アルミナ粉末を加熱成形可能な最大充填量で充填したときの熱伝導率の値を測定値とする。この際の、ビニル基含有ポリメチルシロキサン、遅延剤、及び架橋剤等の配合比は後掲する表3に例示するように、シリコーンゴムA液10体積部にシリコーンゴムB液1体積部の割合で混合して作製したシリコーンゴム混合液100質量部に対して0.01質量部の遅延剤を加えた液体にアルミナ粉末を加熱成形可能な最大充填量を加え、熱伝導率測定試料とする。加熱成形可能な最大充填量というのは、加熱成形後のシートにボイドが発生しない最大充填量を指す。
【0019】
(8)粘度
球状アルミナ粉末65vol%(88.1wt%)をビニル基含有ポリメチルシロキサン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社 製品YE5822A液)に投入後、撹拌と脱泡処理を行い粘度測定用の試料を調整した。B型粘度計(東機産業社製商品名「TVB−10」)を用い、温度30℃で測定した。
【0020】
本発明の樹脂組成物は、前述した本発明の球状アルミナ粉末が充填されてなるものである。充填量は、用途によって異なるが、60〜80vol%が好ましい。
【0021】
本発明の樹脂組成物には、シリコーン系、アクリル系、ウレタン系などの樹脂、ゴム、又はゲル状物質を用いることができ特に限定されるものではないが、メチル基、フェニル基などの有機基を有する一液型またはニ液型付加反応型液状シリコーンから得られるゴムまたはゲルを用いることが好ましい。例えばモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製の「YE5822A/B」や東レ・ダウコーニング社製の「SE1885A/B」などを挙げることができる。
【0022】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない程度の、硬化剤、硬化促進剤、反応遅延剤、難燃助剤、難燃剤や着色剤、粘着付与剤などの添加剤を配合することができる。
【0023】
本発明の樹脂組成物は、前述した各材料の所定量を撹拌、混合、分散させることにより製造することができる。これらの混合物の混合、撹拌、分散等の装置としては、撹拌、加熱装置を備えたライカイ機、3本ロール、ボールミル、プラネタリーミキサー等を用いることができる。またこれらの装置を適宜組み合わせて使用してもよい。これらの混合物を加熱することにより硬化させる場合、例えば棚乾燥式タイプが用いられ、乾燥条件としては、例えば、70〜120℃の温度範囲で1〜10時間行われる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例と比較例をあげて更に具体的に本発明を説明する。
実施例1
化学式(1)で示されるシラン化合物として表2のシラン化合物の試薬B:デシルトリメトキシラン(東京化成社製試薬)を30質量%、メタノールを25質量%、化学式(2)で示されるシラン化合物としてシラン化合物試薬E:トリメチルメトキシシラン(東京化成社製試薬)を30質量%、及び加水分解用の水15質量%をこの順に混合し、室温で1日攪拌して加水分解液を調整した。次いで、表1の球状アルミナ粉末粗粉A2(平均粒子径:50μm、平均球形度:0.92)と球状アルミナ粉末微粉A4(平均粒子径:5μm、平均球形度:0.91)を質量割合で60:40で混合した球状アルミナ粉体100質量部に対して1.0質量部の加水分解液を添加後、混合機(日本アイリッヒ社製商品名「EL−1」)で約5分間混合攪拌し、室温で1日放置後、130℃で1時間加熱処理を行って実施例1の球状アルミナ粉末試料とした。すなわち、表面処理後の球状アルミナ粉末におけるシラン化合物、メタノール及び水の添加量は、球状アルミナ粉末の質量に対する外割の質量%で示すと、シラン化合物の試薬Bが0.3質量%、メタノールが0.25質量%、水が0.15質量%である。
実施例1の球状アルミナ粉末の全炭素量、IRピーク強度比および樹脂組成物の粘度と熱伝導率は、前に記述した方法により測定した。なお、アルミナ粉末の平均粒子径及び平均球形度は表面処理前後で実質的な変化はない。
【0025】
実施例2、3、4
実施例2では、シラン化合物試薬E:トリメチルメトキシシランの添加量を増加し(球状アルミナ粉末に対して外割で0.50質量%)、メタノールを外割で0.05質量%にした。実施例3では、シラン化合物の試薬B:デシルトリメトキシランの代わりに試薬A:ヘキシルトリメトキシシラン(東京化成社製試薬)を用いた。実施例4では、シラン化合物の試薬B:デシルトリメトキシランの代わりに試薬C:ヘキサデシルトリメトキシシラン(東京化成社製試薬)を用いた。それ以外については、実施例1と同様にして、球状アルミナ粉末の調製及び球状アルミナ粉末の表面処理を行い、樹脂組成物を作製して、評価した。
【0026】
実施例5、6、7、8
実施例5では、球状アルミナ粉末微粉A4の代わりに球状アルミナ粉末微粉A3(平均粒子径:10μm、平均球形度:0.90)を用い、粗粉と微粉の配合を質量割合でA2:A3=55:45とした。実施例6では、超微粉A5(平均粒子径:0.3μm、平均球形度:0.92)を実施例1に対して内割で10質量%添加した。実施例7では、超微粉A6(平均粒子径:0.6μm、平均球形度:0.85)を実施例1に対して内割で10質量%添加した。実施例8では、粗粉A1(平均粒子径:70μm、平均球形度:0.95)と超微粉A5(平均粒子径:0.3μm、平均球形度:0.92)の配合を質量割合でA1:A5=90:10として混合して球状アルミナ粉体を調製した。これ以外については、実施例1と同様にして、球状アルミナ粉末の調製及び球状アルミナ粉末の表面処理を行い、樹脂組成物を作製して、評価した。
【0027】
実施例9、10
実施例9は実施例2の球状アルミナ粗粉A2および微粉A4の代わりに平均球形度が0.85より小さいアルミナ粉末粗粉A7(平均粒子径:50μm、平均球形度:0.75)とアルミナ微粉A8(平均粒子径:10μm、平均球形度:0.70)をそれぞれ用いた。実施例10では、平均粒子径が0.1μm未満の超微粉A9(平均粒子径:0.06μm、平均球形度:0.90)を実施例2に対して内割で10質量%添加した。これ以外については、実施例1と同様にして、球状アルミナ粉末の調製及び球状アルミナ粉末の表面処理を行い、樹脂組成物を作製して、評価した。
【0028】
比較例1、2、3
比較例1は、実施例1の球状アルミナ粉末に対してシラン化合物による表面処理を行わない場合である。比較例2は実施例1のうちシラン化合物試薬Eを用いない場合である。比較例3は実施例1のシラン化合物の試薬B:デシルトリメトキシランの代わりに、化学式2のnが5未満の試薬D(n=2):プロピルトリメトキシシラン(東京化成社製試薬)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、球状アルミナ粉末の調製及び球状アルミナ粉末の表面処理を行い、樹脂組成物を作製して、評価した。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
【表3】
【0032】
【表4】
【0033】
表4のスラリー粘度のうち、処理1日後の粘度は球状アルミナ粉末を先述した加熱処理してから1日後に測定した粘度であり、処理2週間後の粘度は先述した加熱処理後の球状アルミナ粉末を85℃×80%Rhの雰囲気下に2週間保存した後に測定した粘度である。シラン化合物試薬Eを併用した実施例1では処理1日後の粘度と処理2週間後の粘度の差が小さいのに対して、試薬Eを併用していない比較例2では、処理1日後の粘度と処理2週間後の粘度の差が大きく、処理2週間後の粘度が大幅に上昇している。シラン化合物試薬Eを併用したことによるIRピーク強度比{I(CH3)/I(CH2)}の適正化が、球状アルミナ粉末の表面処理後の経時による、樹脂組成物の粘度上昇に対して、顕著に有効であることがわかる。
【0034】
表4の実施例と比較例から明らかなように、本発明の球状アルミナ粉末は、樹脂に高充填して使用した場合、成形加工前の樹脂組成物を低粘度化することができる。また、球状アルミナ粉末を表面処理後の日数が経過した状態で使用しても、樹脂組成物の初期の低粘度効果を維持することができるものである。さらに、成形加工後の樹脂組成物が高熱伝導性を示すものである。