(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
硬化性マトリックス樹脂で含浸された少なくとも2つの補強繊維の層と、隣接する補強繊維層同士の間に形成された少なくとも1つの層間領域とを有する硬化性複合材料であって、前記層間領域は(i)硬化性マトリックス樹脂の中に分散された炭素を主成分とするナノサイズ構造体と、(ii)前記硬化性マトリックス樹脂中に埋め込まれた不溶性ポリマー系強化用粒子とを含有しており、
前記炭素を主成分とするナノサイズ構造体は100nm(0.1μm)より小さい少なくとも一方向の寸法を有しており、層間領域の唯一の導電性成分であり、
前記ポリマー系強化用粒子は前記炭素を主成分とするナノサイズ構造体の最も小さい寸法よりも少なくとも100倍大きい平均粒径(d50)を有しており、前記平均粒径は10〜100μmの範囲であり、
前記ポリマー系強化用粒子は前記複合材料の硬化時に前記層間領域で前記マトリックス樹脂に不溶であり、硬化後に離散粒子として残存し、
硬化時、前記複合材料はZ方向導電率が1S/m超であり、ASTM7136/37に従って測定した30Jでの衝撃後圧縮強度(CAI)が250MPa超であり、EN6033に従って測定したモードI(GIC)の層間破壊靭性が300J/m2超である、
硬化性複合材料。
前記強化用ポリマー系粒子が、前記複合材料中の前記マトリックス樹脂成分の総重量基準で2重量%〜20重量%の含量で前記層間領域に分散されている、請求項1に記載の硬化性複合材料。
前記炭素を主成分とするナノサイズ構造体が、前記複合体材料中の前記マトリックス樹脂成分の総重量基準で0.1重量%〜10重量%の範囲の量で存在する、請求項1または2に記載の硬化性複合材料。
前記ポリマー系強化用粒子が、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリフタルアミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリアリールエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、液晶性ポリマー、これらのコポリマー、及びこれらの誘導体、からなる群から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂を含む不溶性熱可塑性粒子である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の硬化性複合材料。
前記不溶性のポリマー系強化用粒子が、架橋ポリブタジエン、ポリアクリル酸、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、これらのコポリマー、及びこれらの誘導体、からなる群から選択される少なくとも1種のポリマーまたは高分子材料を含む不溶性エラストマー粒子である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の硬化性複合材料。
前記炭素を主成分とするナノサイズ構造体が、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー、カーボンナノロープ、カーボンナノリボン、カーボンナノフィブリル、カーボンナノニードル、カーボンナノシート、カーボンナノロッド、カーボンナノコーン、カーボンナノスクロール(巻物状の形)及びカーボンナノオーム、カーボンブラック、黒鉛ナノプレートレットもしくはナノドット、グラフェン、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の硬化性複合材料。
前記強化用粒子が実質的に球状であり、前記層間領域が前記強化用粒子の直径によって規定される深さを有するように前記層間領域で粒子の単層を形成する、請求項1〜13のいずれか1項に記載の硬化性複合材料。
前記補強繊維を含浸している前記硬化性マトリックス樹脂と、前記層間領域における前記硬化性マトリックス樹脂が、両方のマトリックスに共通の1種以上の熱硬化性樹脂を含む、請求項1〜14のいずれか1項に記載の硬化性複合材料。
前記補強繊維を含浸している前記硬化性マトリックス樹脂が、前記ナノサイズ構造体及び強化用粒子なしの前記層間領域における前記硬化性マトリックス樹脂と実質的に同じである、請求項1〜15のいずれか1項に記載の硬化性複合材料。
前記補強繊維を含浸している前記硬化性マトリックス樹脂及び前記層間領域における前記硬化性マトリックス樹脂が、均一に分散された炭素を主成分とするナノサイズ構造体を含む、請求項1〜16のいずれか1項に記載の硬化性複合材料。
前記ポリマー系強化用粒子が実質的に球形であり、炭素を主成分とするナノサイズ構造体がカーボンナノチューブであり、前記ポリマー系強化用粒子が前記カーボンナノチューブの直径よりも少なくとも100倍大きい平均粒径(d50)を有する、請求項1〜18のいずれか1項に記載の硬化性複合材料。
(a)炭素を主成分とするナノサイズ構造体とポリマー系強化用粒子とを第一の硬化性マトリックス樹脂の中に分散させて硬化性の導電性マトリックス樹脂を形成することと、
(b)前記硬化性の導電性マトリックス樹脂から少なくとも1枚の樹脂フィルムを形成することと、
(c)ポリマー系強化用粒子を含まない第二の硬化性マトリックス樹脂で含浸した補強繊維の層を含む構造体層を形成することと、
(d)前記構造体層の外表面に前記少なくとも1枚の樹脂フィルムを配置することと、
を含む硬化性複合材料の製造方法であって、
前記炭素を主成分とするナノサイズ構造体は100nm(0.1μm)より小さい少なくとも一方向の寸法を有しており、第一の硬化性マトリックス樹脂の唯一の導電性成分であり、
前記ポリマー系強化用粒子は前記炭素を主成分とするナノサイズ構造体の最も小さい寸法よりも少なくとも100倍大きい平均粒径(d50)を有しており、前記平均粒径は10〜100μmの範囲であり、
前記ポリマー系強化用粒子は前記複合材料の硬化時に前記マトリックス樹脂に不溶であり、硬化後に離散粒子として残存する、
硬化性複合材料の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
航空宇宙産業では、航空機複合材構造体のための主な設計ドライバーのうちの2つが特定の衝撃に対する耐性と衝撃後の損傷の伝搬によって生じる重大な不具合に対する耐性とであることが広く受け入れられている。
【0011】
複合材積層体の層間領域には、対処すべき最も困難な破損機構の1つが存在する。このような複合材積層体の層間剥離が複合材料の重要な破損様式である。層間剥離は、2つの積層された層が互いから剥がれる場合に生じる。重要な設計制限要因としては、層間剥離が始まるために必要とされるエネルギー及びそれが伝搬するために必要なエネルギーが挙げられる。
【0012】
複合材構造体の、特に航空機の一次構造体に関しての、耐衝撃性能を向上させる必要性が、層間粒子で強化された新世代の複合材料の開発のきっかけとなった。この技術的な解決手段によって、炭素繊維補強複合材に高い耐衝撃性能が付与されるだけでなく、隣接する層同士の間に電気絶縁性の層間領域も形成され、その結果複合材構造体全体としての導電率が特にZ方向で大幅に低下することになる。「z方向」とは、補強繊維が複合材構造体中に並んでいる平面と直交する方向、または複合材構造体の厚みを通る軸のことをいう。
【0013】
複合材料の導電率は、導電性粒子などの様々な導電性材料を、繊維補強ポリマー複合材料のマトリックス樹脂中に取り込ませることによって、または例えばプリプレグ積層体などの多層複合材構造体の層間領域に取り込ませることによって、改善することができる。例えば、樹脂の導電率を上げるために高い充填量で金属フィラーを添加してもよいが、これは大幅に重量を増加させることになり、また衝撃後圧縮強度(CAI)及びモードI及びIIにおける破壊靭性(G
Ic及びG
IIc)などの耐衝撃性に関連する特性を低下させることになる。そのため、最新の解決方法では複合材料のZ方向導電率を改善することができるものの、それと同時にはその機械特性を改善することができない。改善された衝撃性能を有する硬化複合材料(例えばプリプレグ積層体)は、改善されたCAI及び破壊靭性(G
Ic及びG
IIc)を有するものである。CAIは、複合材料の損傷に耐える能力を測定する。CAIを測定するための試験では、硬化させた複合材料に所定のエネルギーの衝撃を与え、その後に圧縮荷重をかける。衝撃後、圧縮試験の前に損傷面積と窪み深さが測定される。この試験の間、複合材料は弾性不安定現象が生じないように拘束され、複合材料の強度が記録される。
【0014】
破壊靭性は、亀裂を有する材料の破壊に耐える能力を特徴づける特性であり、航空宇宙用途の材料の最も重要な特性の一つである。破壊靭性は、亀裂が存在する場合の、脆性破壊に対する材料の抵抗力を表現する定量的な方法である。
【0015】
破壊靭性は歪みエネルギー解放率(G
c)として定量化することができ、これは新たに形成された割れ表面積単位当たりの、割れの際に散逸するエネルギーである。G
cには、G
Ic(モード1−開口モード)またはG
IIc(モードII−面内せん断)が含まれる。下付き「IC」はモードI亀裂開口を表し、これは亀裂に通常の垂直引張応力の下で形成される。下付き「IIC」は亀裂面と平行かつ亀裂前縁と垂直に作用するせん断応力によって生じるモードII亀裂を表す。層間剥離の開始及び成長は、多くの場合モードIとモードIIの破壊靭性を調べることによって決定される。
【0016】
多層複合材料の層間領域でのカーボンナノ材料と特定のポリマー粒子との組み合わせが、Z方向導電率の改善と、それと同時のCAI及びG
ICの改善とを含む、相乗効果を生むことが発見された。相乗効果は、カーボンナノ材料のプラスの効果と、強化用粒子のプラスの効果とを結び付けることによって見出された。これによって複合材料中のこれらの構成成分の相互作用がこれらそれぞれの効果の足し合わせよりも大きな効果を生じさせる。
【0017】
本明細書では、優れた機械的特性及び高い導電率が必要とされる航空機用途で効果的に使用することができる、硬化性の多機能性複合材料が開示される。硬化した状態では、複合材料の改良された導電率が、落雷などによって生じたものなどの電流を、複合材料から製造された複合材構造体のより広い面積にわたって分散または散逸させるために機能することができ、それによって複合材構造体の局部が壊滅的に損傷する可能性を低減できる。そのため、この多機能性複合材料を使用することは、落雷の直接的な影響を軽減するための、及び上述した複合材料におけるエッジグロー現象を回避するための、有効な解決手段になりうる。また、硬化した複合材料によって、電磁波を遮蔽するという追加的な利益がもたらされる。
【0018】
本開示の1つの態様は、硬化性マトリックス樹脂を、好ましくは熱硬化性樹脂を浸み込ませた、または含浸させた、2つ以上の補強繊維層からなる硬化性複合材料を対象とする。隣接する補強繊維層同士の間の層間領域には、全体にわたって分散されたカーボンナノ材料を有する硬化性マトリックス樹脂と、該マトリックス樹脂中に埋め込まれたポリマー系強化用粒子とが含まれる。カーボンナノ材料は、ポリマー系強化用粒子と比較してはるかに小さいサイズである。ポリマー系強化用粒子は、複合材料を硬化した際にマトリックス樹脂中に実質的に不溶であり、硬化後の層間領域で離散粒子として残存する。ある実施形態では、ポリマー系強化用粒子は膨潤性粒子である。層間領域には、硬化した際にマトリックス樹脂に溶解する可溶性の熱可塑性粒子が存在しないことが好ましい。
【0019】
層間領域の樹脂(ナノ材料及び強化用粒子なし)は、補強繊維を含浸するマトリックス樹脂と同じであっても異なっていてもよい。いくつかの実施形態では、補強繊維を含浸するマトリックス樹脂は、その中に分散されているカーボンナノ材料も含む。
【0020】
図3には、本開示のある実施形態にかかる硬化性複合材料20が概略的に図示されている。複合材料20は、硬化性マトリックス樹脂を浸み込ませたあるいは含浸させた補強繊維の層21、22、23の間に形成された、層間領域20a及び20bを含んでいる。各層間領域20a及び20bは、それらの中に分散されたカーボンナノ材料25を有する硬化性マトリックス樹脂(それぞれ24a、24b)と、該マトリックス樹脂中に埋め込まれたポリマー系強化用粒子26とを含んでいる。層間領域の樹脂組成物(ナノ材料及び強化用粒子なし)24a及び24bは、繊維層21、22、23を含浸しているマトリックス樹脂と同様であっても異なっていてもよい。層間樹脂(24a、24b)が繊維層21、22、23を含浸しているマトリックス樹脂と同様のものである場合、樹脂マトリックスは共通の1種以上の熱可塑性樹脂を含む。ポリマー系強化用粒子26は並んで配置されていてもよく、また全体として粒子の単層を形成していてもよい。この場合、層間領域の深さは粒子の大きさによって決定される。好ましくは、強化用粒子26は同様の大きさ(例えばほぼ同じ直径の球状粒子)であり、層間領域の深さは強化用粒子26の平均直径とほぼ同じか、それよりわずかに大きい。
【0021】
図4には、本開示のある別の実施形態にかかる硬化性複合材料40が概略的に図示されている。複合材料40は、補強繊維の層41、42、43の間に形成された層間領域40a及び40bを含んでおり、層間領域はポリマー系強化用粒子46を含んでいる。補強繊維(41、42、43)とポリマー粒子46は、中に分散されたカーボンナノ材料45を含む硬化性マトリックス樹脂に浸されているあるいはその中に埋め込まれている。
図3で示されている実施形態のように、ポリマー系粒子46は並んで配置されていてもよく、また全体として粒子の単層を形成してもよい。更に、層間領域の深さは粒子の大きさによって決定されてもよい。好ましくは、強化用粒子46は同様の大きさ(例えばほぼ同じ直径の球状粒子)であり、層間領域の深さは強化用粒子46の平均直径とほぼ同じか、それよりわずかに大きい。
【0022】
本明細書に開示された実施形態にかかる硬化複合材料は、硬化時に次の特性を有する:4プローブ試験法に従ったDC条件で測定したZ方向導電率が1S/m(シーメンス毎メートル)超であり、ASTM7136/37に従って測定した30Jでの衝撃後CAIが250MPa超であり、EN6033に従って測定したモードI(G
IC)の層間破壊靭性が300J/m
2超である。
【0023】
カーボンナノ材料
本明細書において、用語「カーボンナノ材料」、または炭素を主成分とするナノサイズ構造体とは、約0.1マイクロメートル(<100ナノメートル)より小さい少なくとも一方向の寸法を有し、分子スケールで五角形もしくは六角形、またはその両方に並んだ炭素原子から完全にまたはほぼ構成されている材料のことをいう。
【0024】
カーボンナノサイズ構造体は、50:1〜5000:1のアスペクト比を有していてもよい。本明細書において、用語「アスペクト比」とは三次元の物体の最も長い寸法対最も短い寸法の比率のことをいう。この用語は、任意の形状及び大きさの構造体に適用可能である。この用語が球状の粒子または実質的に球状の粒子との関連において使用される場合には、当該比率は球状体の最大断面径対最小断面径の比率であろう。例えば、完全に球状の粒子は1:1のアスペクト比を有するであろう。
【0025】
本明細書で意図される目的に好適なカーボンナノサイズ構造体としては、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノロープ、カーボンナノリボン、カーボンナノフィブリル、カーボンナノニードル、カーボンナノシート、カーボンナノロッド、カーボンナノコーン、カーボンナノスクロール(巻物状の形)、カーボンナノオーム、カーボンブラック、黒鉛ナノプレートレットもしくはナノドット、グラフェン、及び他の種類のフラーレン系物質が挙げられるが、これらに限定されない。これらのフラーレン系物質のいずれも部分的にまたは完全に金属コーティングされていてもよい。ナノ粒子は、例えば球体、楕円体、回転楕円体、円盤状、樹状、棒状、円板状、立方体、多角体などを含む、任意の適切な三次元形状であってもよい。
【0026】
好ましいカーボンナノ材料はカーボンナノチューブ(CNT)である。典型的には、CNTは外径が0.4nm〜約100nmの、好ましくは外径が50nm未満の、より好ましくは25nm未満の、筒形螺旋状の構造である。
【0027】
CNTはいずれのキラリティーを有していてもよい。アームチェア型ナノチューブが考えられる。更に、CNTは半導体性のナノチューブであってもよいし、導電性を示す任意の他の種類であってもよい。好適なCNTとしては、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、二層カーボンナノチューブ(DWCNT)、及び多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を挙げることができる。好ましいカーボンナノ材料はMWCNTである。
【0028】
本明細書で意図される目的のためのカーボンナノ材料は、複合材料中の総樹脂含有量の0.1重量%〜10重量%の範囲、好ましくは0.5重量%〜2重量%の間、より好ましくは1重量%〜1.5重量%の間で存在していてもよい。本明細書において、「重量%」とは重量百分率のことをいう。
【0029】
ポリマー系強化用粒子
本明細書の目的に好適なポリマー系強化用粒子としては、熱可塑性粒子またはエラストマー粒子が挙げられる。上で論述したように、好適な強化用粒子は、複合材料の熱硬化性マトリックス樹脂に、その硬化時には実質的に不溶であり、硬化後に硬化したマトリックス樹脂中で離散粒子として残存する粒子である。ある実施形態では、ポリマー系強化用粒子は、硬化時の複合材料の熱硬化性マトリックス樹脂中の膨潤性粒子であってもよい。更に、ポリマー系強化用粒子は、金属などの非ポリマー系コーティングを有さない。
【0030】
強化用粒子は、複合材料中に含まれるマトリックス樹脂全体の重量基準で2%〜20%の含量で、好ましくは5%〜15%の範囲内で、より好ましくは5%〜12%の範囲内で、補強繊維の隣接する層同士の間に形成される層間領域に均一に分散されていることが好ましい。
【0031】
ポリマー系強化用粒子はいずれの三次元形状であってもよいが、これらは実質的に球状であることがこの好ましい。強化用粒子が5:1未満のアスペクト比を有していることも好ましく、好ましくは、アスペクト比は約1:1である。強化用粒子に関連して、用語「アスペクト比」とは、粒子の最大断面寸法対粒子の最少断面寸法に対する比率のことをいう。
【0032】
球状粒子(約1:1のアスペクト比)については、平均粒径はその直径のことをいう。非球状の粒子については、平均粒径は粒子の最大断面寸法のことをいう。
【0033】
本明細書で開示した目的のためには、ポリマー系強化用粒子は、例えば0.002ナノメートルから2000ミクロンの範囲で作動するMalvern Mastersizer 2000を使用するなどの、レーザー回折法によって測定した平均粒径(d50)が100μm未満であってもよく、好ましくは50μm〜90μmの範囲、より好ましくは10μm〜40μmの範囲であってもよい。
【0034】
「d50」は、粒径分布のメジアンを表す、もしくは50%の粒子がその値以下の粒径を有するような、分布における値である。
【0035】
また、ポリマー系強化用粒子は、カーボンナノ構造体と比較してサイズが大きい。ポリマー系強化用粒子の平均粒径(d50)は、カーボンナノ構造体の最小寸法よりも少なくとも100倍大きいことが好ましい。
【0036】
例えば、カーボンナノ構造がカーボンナノチューブの場合、強化用粒子の平均粒径(d50)はカーボンナノチューブの直径よりも少なくとも100倍大きい。
【0037】
ある粒子が不溶か可溶の決定は、これらが存在する具体的な樹脂系中への粒子の溶解性と関係する。樹脂系は1種以上の熱硬化性樹脂、硬化剤、及び/または触媒を含んでいてもよく、また未硬化のもしくは硬化したマトリックス樹脂の特性を修正するための少量の任意選択的な添加剤も含んでいてもよい。
【0038】
粒子が樹脂系に不溶か、部分的に可溶か、または膨潤性かを決定するために、加熱ステージ顕微鏡観察を用いることができる。最初に、平均粒径及び体積を決定するために、乾燥ポリマー粒子の試料(樹脂と混ぜられていないもの)を、顕微鏡観察と、アメリカ国立衛生研究所(米国、メリーランド州ベセスダ)のImageJソフトウエアを使用して分析した画像とによってキャラクタリゼーションする。二番目に、粒子の試料を機械的な混合によって目的のマトリックス樹脂中に分散させる。三番目に、得られた混合物の試料を顕微鏡スライドの上に置き、次いでこれを顕微鏡の加熱ステージ装置の中に置く。その後、試料を望ましい加熱速度で目的とする硬化温度まで加熱し、粒子の大きさ、体積、または形状のあらゆる変化を毎秒10フレームで連続的に記録する。ImageJソフトウエアを用いて大きさ及び体積についての変化を決定するために、球状粒子については通常直径が測定され、非球状粒子の場合は最も長い辺が測定される。全ての加熱ステージ試験は、硬化剤または触媒を含まないマトリックス樹脂への10重量%の粒子添加で行うことができる。
【0039】
強化用粒子に対して上述の加熱ステージ顕微鏡分析を行って、元の「乾燥」粒子と比較して粒子の直径変化または体積変化がゼロまたは5%未満である場合、粒子は不溶性であり膨潤性でないとみなされる。強化用粒子に対して上述の加熱ステージ顕微鏡分析を行って、5%を上回る粒子の直径または体積の増加がみられた場合、粒子は不溶性であるだけでなく「膨潤性」であるとみなされる。膨潤は、粒子の外表面への周囲の樹脂の浸出によって生じる。
【0040】
いくつかの実施形態では、不溶性粒子には、加熱ステージ顕微鏡分析中は溶融するがマトリックス樹脂とは非相溶性であり、その結果冷却時に離散粒子へと再形成される粒子が含まれる。分析の目的のみのためには、不溶性粒子は加熱ステージ顕微鏡分析中に流動していてもよく、また結晶化度も変化してもよい。
【0041】
直径または体積を決定するのが困難な可能性がある場合には、別の分析法を使用してもよい。一方向性プリプレグテープから作られた、樹脂リッチな層間領域のマトリックス樹脂の総重量基準で10%の粒子充填物を含有する16層疑似等方性複合材パネルを、硬化スケジュールに従って製造し、その後、硬化したパネルを顕微鏡で評価するために断面方向に切断する。粒子が硬化後に識別できる離散粒子として残存している場合、粒子は不溶性粒子とみなされる。粒子が層間領域と繊維床を取り囲むマトリックスとの両方に完全に溶解しており、冷却時に離散粒子として識別できない場合、粒子は不溶性の層間粒子とみなされない。
【0042】
エポキシ系マトリックス樹脂に関して、不溶性ポリマー系粒子の組成物には、ポリアミドイミド(PAI)、脂肪族ポリアミド(PA)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)及びポリエーテルケトンケトン(PEKK)等のポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、液晶性ポリマー(LCP)、これらのコポリマー、並びにこれらの誘導体から選択される少なくとも1種のポリマーが含まれていてもよい。いくつかの実施形態では、ポリマー系粒子の組成物は、架橋ポリブタジエン、ポリアクリル酸、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、これらのコポリマー、及びこれらの誘導体(Zeon Chemicals Incから販売されているDuoMod DP5045等)から選択される少なくとも1種のエラストマー系のポリマーあるいは物質を含む。
【0043】
好ましい実施形態では、不溶性粒子は、硬化工程時に溶解せず硬化した複合材料の層間領域中に残存する、不溶性の熱可塑性粒子である。好適な不溶性の熱可塑性粒子の例としては、ポリアミドイミド(PAI)粒子及びポリアミド(PA)粒子(例えばナイロン)、またはポリフタルアミド(PPA)粒子が挙げられ、これらは、その硬化サイクル時にエポキシ樹脂系に不溶である。
【0044】
特定のグレードのポリイミド粒子が不溶性の強化用粒子として好適な場合がある。例えば、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、4,4’−メチレンジアニリン(MDA)、及び2,4−トルエンジアミン(TDA)から合成され、90〜92%の芳香族炭素を含む非フタルイミド炭素分を有するポリイミドである。
【0045】
不溶性の熱可塑性粒子は、高温/ウエット性能の低下を回避するための層間強化剤として有効であることが見出された。これらの熱可塑性樹脂は硬化後でもマトリックス樹脂に不溶のままでいることから、これらは硬化した樹脂に対して改良された靭性、損傷許容性、高温/ウエット性能、加工性、微小亀裂に対する耐性を付与し、また硬化した樹脂の溶媒に対する感受性を低下させる。
【0046】
本明細書で述べる不溶性粒子を製造するための方法としては、任意の順序での乳化、析出、乳化重合、洗浄、乾燥、抽出、製粉、粉砕、凍結粉砕、ジェット粉砕、及び/または粒子ふるい分けが挙げられる。当業者であれば、当該技術分野で公知の任意の様々な方法によってこれらの工程を行えることを理解するであろう。
【0047】
本明細書で意図される目的のために使用される不溶性粒子には、架橋熱可塑性粒子が含まれる。ある実施形態によれば、架橋熱可塑性粒子は、1つ以上の反応性基を有する1種以上の架橋性熱可塑性ポリマーを、この反応性基に対して化学的に反応性である架橋剤と反応させることによって形成される架橋網目から構成されており、この架橋剤は反応性基を介してポリマー鎖を互いに直接架橋する。反応性基はポリマー主鎖の末端基であってもペンダント基であってもよい。この実施形態の直接的架橋反応は、1つ以上の反応性基を用いたポリマー鎖の直接的架橋によるポリマー分子の「結び付け(tying up)」と表現することができる。
【0048】
上述した架橋熱可塑性粒子は、2010年12月2日に公開された米国特許出願公開第2010/0304118号に記載の方法により製造することができ、これは参照により本明細書に包含される。この方法には、反応性官能基を有する熱可塑性ポリマーと、架橋剤と、触媒とを、水に混和しない汎用溶媒に溶解させることが含まれる。その後、非イオン性界面活性剤を使用することによって水中でエマルションを形成し、これによって乳化粒子が形成される。乳化粒子は引き続き乾燥され、ポリマー鎖を化学的に架橋するために硬化される。反応条件と架橋剤の種類は粒子の最終特性を決定するであろう。温度などの反応条件はより架橋を進めさせる。2つ以上の反応部位(すなわち官能基)を有する架橋剤が好ましい。得られる架橋した熱可塑性粒子は、硬化性樹脂に添加することができる、離散的な自由に動く粒子である。
【0049】
架橋されやすい反応性基を有する好適な熱可塑性ポリマーの例としては、ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)及びポリエーテルケトンケトン(PEKK)などのポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリフェニルスルフィド(PPS)、ポリヒドロキシエーテル、スチレン−ブタジエン、ポリアクリレート、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド−イミド、ポリエーテルエーテルスルホン(PEES)、これらのブレンド物、もしくはこれらのコポリマー、PESホモポリマー(住友化学株式会社のSUMIKAEXCEL 5003PまたはSolvayのRadel(登録商標)PES等)、またはPEESホモポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。PESコポリマーの具体例としては、様々な繰り返し単位比のPES/PEESコポリマーが挙げられる。上に列挙した熱可塑性樹脂は、粒子を形成するための単一構成要素として使用することができ、また2種以上の熱可塑性ポリマーが使用される場合には、ハイブリッド構造またはハイブリッド粒子が形成される。
【0050】
別の実施形態では、熱可塑性ポリマーのブレンド物から架橋粒子が形成される。また別の実施形態では、本明細書で述べる架橋粒子は2種以上の熱可塑性ポリマーが使用されているハイブリッド構造から形成されていてもよい。
【0051】
架橋性の熱可塑性ポリマー上の反応性基は、アミン、ヒドロキシル、無水物、グリシジル、カルボン酸、マレイミド、イソシアネート、フェノール、ナジイミド、シアン酸エステル、アセチレン、ビニル、ビニルエステル、ジエン、またはこれらの誘導体のうちの1種以上であってもよい。いくつかの場合においては、ポリマー鎖上の不飽和が架橋点(アクリル酸又はメタクリル酸系のみならず複数の不飽和ゴム、ビニルエステル、または不飽和ポリエステルについて)として機能する場合がある。反応性基の数は1つの鎖あたり最低1つの反応性基とすることができ、いくつかの実施形態では、これは連結したポリマー主鎖を形成するために必要とされる最も小さいフラクションとみなされる。緊密に架橋したポリマーまたは相互貫入網目を製造するためには約1または1より大きい数が好ましい。2より大きい官能性のポリマーは高度に反応したゲルを容易に生成するであろう。
【0052】
熱可塑性ポリマーの末端基/官能性基の化学特性に応じて、多数の反応部位を有する適切な多官能性架橋剤を選択することができる。そのような架橋剤の例は、アルキル化メラミン誘導体(例えばCYMEL(登録商標)303)、酸塩化物(例えば1,3,5ベンゼントリカルボニルトリクロリド)、多官能性エポキシ(例えばARALDITE(登録商標)MY0500、MY721)、カルボン酸(例えばベンゼンテトラカルボン酸)である。
【0053】
別の実施形態では、架橋粒子は相互貫入高分子網目(IPN)からなり、これは独立した架橋網目と絡み合う熱可塑性ポリマー鎖から構成される。IPNは、熱可塑性ポリマーの存在下で、1つ以上の反応性基を有する1種以上の化合物(例えば架橋性モノマーまたはポリマー)を、反応性基に対して化学的に反応性である架橋剤と反応させることによって形成される。反応(これは特定の架橋条件または硬化条件で生じる)によって、化合物が反応性基を介して架橋し、これによって独立した架橋網目が形成される。そのため、熱可塑性ポリマー鎖は分子レベルで独立した架橋網目と絡み合ってIPNを形成する。この手法は分離独立した架橋網目の形成を介した熱可塑性ポリマー鎖の「結び付け」と表現することができ、これによって相互貫入網目が形成される。したがって、この実施形態では、熱可塑性ポリマーはその中に反応性基を有する必要がない。このタイプの架橋粒子は、2010年12月2日に公開された米国特許出願公開第2010/0305239号に記載の方法により製造することができ、これは参照により本明細書に包含される。得られる架橋熱可塑性粒子は硬化性樹脂に添加することができる離散粒子である。
【0054】
例えば、IPNを有する架橋粒子は、(i)熱可塑性ポリマーと、多官能性エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂を架橋することが可能なアミン系硬化剤とを含むエマルションを形成する、(ii)エマルションから溶媒を取り除いて、固体粒子の形態である濃縮物を集める、(iii)粒子を乾燥した後、エポキシ樹脂が架橋するように硬化(例えば加熱)させる、ことによって形成することができる。硬化することによって、架橋エポキシが各粒子の中に熱可塑性ポリマーを有するIPNを形成する。
【0055】
特定の膨潤性の架橋熱可塑性粒子が層間強化用粒子として特に好ましい。これらの架橋熱可塑性粒子は硬化中にエポキシを主成分とする樹脂系の中で膨潤するが、硬化した樹脂の中で離散粒子として残存する。膨潤は、粒子の外表面への周囲の樹脂の浸出によって生じる。
【0056】
これらの膨潤性の架橋熱可塑性粒子は、硬化時にこれらが存在する周囲のマトリックス樹脂と「勾配界面」も形成する。本明細書において、用語「勾配界面」とは各粒子とその周りのマトリックス樹脂との間の勾配のある強固な界面のことをいう。勾配界面は、例えばエポキシなどの熱硬化性樹脂と熱力学的に相溶性がある、設計された架橋熱可塑性粒子を使用することによって得ることができる。マトリックス樹脂は外表面から粒子に入り込みコアに向けて移動することから、架橋熱可塑性粒子のコアにおける熱可塑性ポリマーの濃度は中心で最も高く、粒子の外表面に向けて徐々に低下する。熱可塑性粒子のコアから外表面へ向けての熱可塑性樹脂濃度のこの漸減によって、各熱可塑性粒子と周囲のマトリックス樹脂との間に勾配界面が形成される。そのため、熱硬化性樹脂と熱可塑性粒子との間にははっきりとした線引きあるいは変わり目が存在しない。はっきりとした線引きあるいは変わり目が存在する場合には、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との間の界面は勾配界面を有する複合材料と比較して複合材料中ではるかに弱いものになるであろう。したがって、樹脂が加熱されてその粘度が低下すると粒子の周りの樹脂が粒子の外表面を通って粒子の中へ拡散し、それによって粒子サイズが大きくなることから、これらの架橋熱可塑性粒子は「膨潤性」であるとみなされる。しかし、架橋粒子は樹脂の硬化後、離散的な識別できる粒子として残存するであろう。
【0057】
本明細書に記載の架橋熱可塑性粒子は、エポキシ系樹脂などの熱硬化性樹脂に添加することができる、離散的な自由に動く粒子(すなわち分離された状態)であり、また、これらは樹脂の硬化サイクル時に樹脂に完全に溶解するのを防ぐために化学的に架橋される。更に、これらは熱硬化性樹脂と熱力学的に相溶性であるように設計される。
【0058】
本明細書において、「離散粒子」とは、マトリックス樹脂中で識別でき、走査型電子顕微鏡(SEM)、光学顕微鏡、または微分干渉顕微鏡(DIC)を用いて検出することができる粒子のことをいう。
【0059】
マトリックス樹脂
補強繊維を含浸する/浸み込ませるための硬化性マトリックス樹脂(または樹脂組成物)は、好ましくは1種以上の未硬化の熱硬化性樹脂を含有する、硬化可能なあるいは熱硬化可能な樹脂であり、これにはエポキシ樹脂、イミド(ポリイミドまたはビスマレイミドなど)、ビニルエステル樹脂、シアネートエステル樹脂、イソシアネート変性エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、ベンゾオキサジン、ホルムアミド縮合樹脂(尿素、メラミン、またはフェノールとなど)、ポリエステル、アクリル、ハイブリッド物、ブレンド物、及びこれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。
【0060】
好適なエポキシ樹脂としては、芳香族ジアミン、芳香族モノ1級アミン、アミノフェノール、多価フェノール、多価アルコール、ポリカルボン酸のポリグリシジル誘導体が挙げられる。好適なエポキシ樹脂の例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、及びビスフェノールKなどのビスフェノールのポリグリシジルエーテル、並びにクレゾール及びフェノール系ノボラックのポリグリシジルエーテルが挙げられる。
【0061】
具体的な例は、4,4’−ジアミノジフェニルメタンのテトラグリシジル誘導体(TGDDM)、レゾルシノールジグリシジルエーテル、トリグリシジル−p−アミノフェノール、トリグリシジル−m−アミノフェノール、ブロモビスフェノールFジグリシジルエーテル、ジアミノジフェニルメタンのテトラグリシジル誘導体、トリヒドロキシフェニルメタントリグリシジルエーテル、フェノール−ホルムアルデヒドノボラックのポリグリシジルエーテル、o−クレゾールノボラックのポリグリシジルエーテル、またはテトラフェニルエタンのテトラグリシジルエーテルである。
【0062】
ホストマトリックス樹脂中での使用に適した市販のエポキシ樹脂としては、N,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(例えばHuntsmanのMY9663、MY720、及びMY721);N,N,N’,N’−テトラグリシジル−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソ−プロピルベンゼン(例えばMomentiveのEPON1071); N,N,N’,N’−テトラグリシジル−ビス(4−アミノ−3,5−ジメチルフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン(例えばMomentiveのEPON1072);p−アミノフェノールのトリグリシジルエーテル(例えばHunstmanのMY0510);m−アミノフェノールのトリグリシジルエーテル(例えばHunstmanのMY0610);2,2−ビス(4,4’−ジヒドロキシフェニル)プロパンなどのビスフェノールAのジグリシジルエーテル系材料(例えばDowのDER661、またはMomentiveのEPON828であり、好ましくは25℃で8〜20Pa・sの粘度のノボラック樹脂;フェノールノボラックのジグリシジルエーテル樹脂(例えばDowのDEN431またはDEN438);ジシクロペンタジエン系フェノールノボラック(例えばHuntsmanのTactix556);ジグリシジル1,2−フタレート(例えばGLY CEL A−100);ジヒドロキシジフェニルメタンのジグリシジル誘導体(ビスフェノールF)(例えばHuntsmanのPY306)が挙げられる。他のエポキシ樹脂としては、3’,4’−エポキシシクロヘキシル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(例えばHuntsmanのCY179)などの脂環式化合物が挙げられる。
【0063】
通常、硬化性マトリックス樹脂は、1種以上の熱硬化性樹脂と共に、硬化剤、硬化触媒、コモノマー、レオロジー制御剤、粘着付与剤、無機もしくは有機フィラー、強化剤としての熱可塑性及び/またはエラストマー性ポリマー、安定剤、抑制剤、顔料、染料、難燃剤、反応希釈剤、並びに、硬化前後のマトリックス樹脂の特性を修正するために当業者によく知られている他の添加剤、などの他の添加剤を含む。
【0064】
硬化性樹脂組成物用に好適な強化剤としては、ポリアミド、コポリアミド、ポリイミド、アラミド、ポリケトン、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルスルホン(PEES)、ポリエステル、ポリウレタン、ポリスルホン、ポリスルフィド、ポリフェニレンオキシド(PPO)及び変性PPO、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)及びポリプロピレンオキシド、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリル酸、ポリフェニルスルホン、高性能炭化水素ポリマー、液晶性ポリマー、エラストマー、並びにセグメント化エラストマーの、ホモポリマー、またはこれら単独または組み合わせのコポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
硬化性マトリックス樹脂への硬化剤(類)及び/または触媒(類)の添加は任意選択的であるが、これらを使用すると、必要に応じて硬化速度を上げること及び/または硬化温度を下げることができる。硬化剤は、例えば芳香族もしくは脂肪族のアミンやグアニジン誘導体などの公知の硬化剤から適切に選択される。芳香族アミン硬化剤が好ましく、好ましくは一分子あたり少なくとも2つのアミノ基を有する芳香族アミンであり、特に好ましいのは例えばスルホン基に対してメタ−またはパラ−の位置にアミノ基があるジアミノジフェニルスルホンである。具体的な例は、3,3’−及び4−,4’−ジアミノジフェニルスルホン(DDS);メチレンジアニリン;ビス(4−アミノ−3,5−ジメチルフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン;ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン;4,4’メチレンビス−(2,6−ジエチル)−アニリン(LonzaのMDEA);4,4’メチレンビス−(3−クロロ,2,6−ジエチル)−アニリン(LonzaのMCDEA);4,4’ メチレンビス−(2,6−ジイソプロピル)−アニリン(LonzaのM−DIPA);3,5−ジエチルトルエン−2,4/2,6−ジアミン(LonzaのD−ETDA80);4,4’メチレンビス−(2−イソプロピル−6−メチル)−アニリン(LonzaのM−MIPA);4−クロロフェニル−N,N−ジメチル−尿素(例えばMonuron);3,4−ジクロロフェニル−N,N−ジメチル−尿素(例えばDIURON TM)、及びジシアノジアミド(例えばPacific Anchor ChemicalのAMICURE TM CG 1200)である。
【0066】
好適な硬化剤には無水物、特にはナジック酸無水物、メチルナジック酸無水物、フタル酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸無水物、及びトリメリット酸無水物などのポリカルボン酸無水物も含まれる。
【0067】
層間領域の硬化性マトリックス樹脂は、上述したタイプの1種以上の未硬化熱硬化性樹脂を含む、硬化可能なもしくは熱硬化可能な樹脂でもある。ある実施形態では、層間領域の硬化性マトリックス樹脂は、補強繊維を含む領域のマトリックス樹脂と同じである。他の実施形態では、層間領域の樹脂は補強繊維を含む領域のマトリックス樹脂と異なる。
【0068】
補強繊維
高性能複合材料及びプリプレグを製造するための適切な補強繊維は、高い引張強度、好ましくは500ksi(または3447MPa)より高い引張強度を有する繊維であるが、これらに限定されない。この目的のために有用な繊維としては、炭素繊維、黒鉛繊維、ガラス繊維、及び炭化ケイ素やアルミナやホウ素や石英等から形成される繊維、並びに、例えばポリオレフィンやポリ(ベンゾチアゾール)やポリ(ベンズイミダゾール)やポリアリーレートやポリ(ベンゾオキサゾール)や芳香族ポリアミドやポリアリールエーテル等の有機ポリマーから形成される繊維が挙げられ、このような繊維のうちの2種以上を有する混合物も挙げることができる。好ましくは、繊維はガラス繊維、炭素繊維、及びDuPont Companyから商品名KEVLARとして販売されている繊維などの芳香族ポリアミド繊維、から選択される。補強繊維は、マルチフィラメントで構成された不連続もしくは連続のトウの形態で、連続的な一方向もしくは多方向のテープとして、または織布、非捲縮布、もしくは不織布として、使用されてもよい。織物形態は平織、サテン織、または綾織の様式から選択することができる。非捲縮布は多数の層及び繊維配向を有していてもよい。
【0069】
繊維はサイジングされていてもサイジングされていなくてもよい。繊維は典型的には5〜35重量%、好ましくは少なくとも20重量%の濃度で添加することができる。構造的な用途に関しては、例えばガラスまたは炭素の連続繊維を、特には30〜70体積%、更には50〜70体積%で使用することが好ましい。
【0070】
複合材プリプレグ及び積層体の製造
ある実施形態によれば、補強繊維の含浸の前に(すなわちプリプレグ製造の前に)、特定量のカーボンナノ材料及びポリマー系強化用粒子が硬化性樹脂組成物と混合される。この実施形態では、剥離紙上に粒子含有樹脂組成物をコーティングすることによって最初に樹脂フィルムを製造する。次いで、熱及び圧力によって1枚もしくは2枚のこの樹脂フィルムを補強繊維層の片面もしくは両面に積層して繊維を含浸することによって、特定の繊維面積重量及び樹脂含量を有する繊維補強ポリマー層(またはプリプレグ層)が形成される。強化用粒子のサイズが繊維フィラメント間の空間よりも大きいことから、積層工程時、強化用粒子は濾過されて繊維層の外側に残される。得られるプリプレグ層は、ポリマー系強化用粒子が埋め込まれたマトリックス樹脂の一層または二層に隣接する構造的に繊維で補強された層を含む。その後、中に強化用粒子を含む2つ以上のプリプレグ層が積層工程によって互いに重ねるように積層される際、強化用粒子は2つの隣接する繊維層同士の間の層間領域に位置する。この実施形態では、層間領域におけるマトリックス樹脂(ポリマー系強化用粒子なし)は、構造的に繊維で補強された層に含まれるマトリックス樹脂と同じであり、均一に分散されたカーボンナノ材料を含んでいる。
【0071】
第二の実施形態では、カーボンナノ材料またはポリマー系強化用粒子を含まない硬化性マトリックス樹脂を剥離紙の上にコーティングして樹脂フィルムを形成する。次いで、この樹脂フィルムを繊維層の片面と接触させる。圧力をかけると樹脂フィルムは繊維を含浸し、繊維層の外表面には樹脂が少ししか、あるいは全く残らない。その後、カーボンナノ材料とポリマー系強化用粒子とを含有する硬化性樹脂のフィルムを、樹脂含浸繊維層の露出した外表面に積層する。ナノ材料とポリマー系強化用粒子とを有する硬化性樹脂は、補強繊維を含浸するマトリックス樹脂と同じであっても異なっていてもよい。結果として、粒子を含有する樹脂層は含浸された繊維層の外側にとどまり、繊維を更に含浸することはない。複数のこのような構造体が互いに積層されて、層間領域に位置するカーボンナノ材料とポリマー系強化用粒子とを有する複合材構造体が形成される。
【0072】
第三の実施形態では、カーボンナノ材料を含むがポリマー系強化用粒子を含まない硬化性マトリックス樹脂を剥離紙の上にコーティングして樹脂フィルムを形成する。次いで、この樹脂フィルムを繊維層の片面と接触させる。圧力をかけると樹脂フィルムが繊維を含浸し、繊維層の外表面に少ししか、あるいは全く樹脂が残らない。その後、カーボンナノ材料とポリマー系強化用粒子とを含有する硬化性マトリックス樹脂のフィルムを、樹脂含浸繊維層の露出した外表面に積層する。複数のこのような構造体が互いに積層されて複合材構造体が形成されると、補強繊維を含む層と、強化用層間粒子を含む層間領域とに、カーボンナノ材料が均一に分散される。
【0073】
ある別の実施形態では、
図5に示されるように、カーボンナノ材料または強化用層間粒子を含まない硬化性マトリックス樹脂の2つのフィルム31、32を、繊維層33の対向する2つの面に積層する。樹脂フィルム31、32は繊維を含浸し、繊維層の外表面には樹脂が少ししか、あるいは全く残らず、その結果、樹脂で含浸された繊維層34が得られる。その後、カーボンナノ材料とポリマー系強化用粒子とを含む硬化性マトリックス樹脂の2つのフィルム35、36を、
図6に示されるように樹脂含浸繊維層34の対向する表面と接触させて、サンドイッチ構造を形成する。このような手法は、硬化した積層体中に輪郭のはっきりとした規則正しい層間領域を作りやすい。
【0074】
更に別の実施形態では、
図7に示されるように、カーボンナノ材料を含むがポリマー系強化用粒子を含まない硬化性マトリックス樹脂の2つのフィルム51、52を、繊維層53の対向する2つの面に積層する。樹脂フィルム51、52は繊維を含浸し、繊維層の外表面には樹脂が少ししか、あるいは全く残らず、その結果、樹脂で含浸された繊維層54が得られる。その後、カーボンナノ材料とポリマー系強化用粒子とを含む硬化性マトリックス樹脂の2つのフィルム55、56を、
図8に示されるように樹脂含浸繊維層54の対向する表面と接触させて、サンドイッチ構造を形成する。このような手法は、秩序ある積層体及び積層体中に均一に分散されたカ−ボンナノチューブを与えやすい。
【0075】
本明細書において、用語「プリプレグ」とは、繊維体積の少なくとも一部の中を硬化性樹脂組成物で含浸した繊維のシート又は層のことをいう。航空宇宙用構造体を製造するために使用されるプリプレグは、通常は樹脂で含浸された例えば炭素繊維などの一方向の補強繊維のシートであり、これはよく「テープ」または「一方向テープ」と呼ばれる。プリプレグは、完全に含浸されたプリプレグであっても部分的に含浸されたプリプレグであってもよい。補強繊維を含浸するマトリックス樹脂は部分的に硬化された状態であっても未硬化の状態であってもよい。
【0076】
典型的には、プリプレグは積層が容易な柔軟性または可撓性のある形態であり、三次元構造へと成形され、その後最終的な複合材部品/構造体へと硬化される。この種のプリプレグは特に航空機の翼、胴体、バルクヘッド、及び操縦翼面などの耐力構造部品の製造に好適である。硬化したプリプレグの重要な特性は、軽量でありながらも高い強度及び剛性を有することである。
【0077】
複合材構造体を形成するためには、複数のプリプレグ層を治具上で積層配置で積層して「プリプレグ積層体」を形成する。積層体中のプリプレグ層は互いに対して特定の方向で、例えば0°、±45°、90°等で配置されていてもよい。プリプレグ積層体は、ハンドレイアップ、自動テープ積層(ATL)、改良型繊維配列(AFP)、及びフィラメントワインディングが含まれていてもよい手法によって製造することができるが、これらに限定されない。
【0078】
本明細書に開示の複合材料またはプリプレグ積層体の硬化は、通常最大200℃、好ましくは170℃〜190℃の範囲の高温で行われ、また漏出ガスによる変形の影響を抑えるために、あるいは空隙の形成を抑制するために、高圧を使用して、好適には最大10bar(1MPa)の圧力で、好ましくは3bar(0.3MPa)〜7bar(0.7MPa)の範囲で行われる。好ましくは、最大5℃/分、例えば2℃/分〜3℃/分で加熱することによって硬化温度にされ、最大9時間、好ましくは最大6時間、例えば2時間〜4時間の必要とされる時間、維持される。マトリックス樹脂中に触媒を使用すると、更に低い硬化温度にできる場合がある。圧力を完全に開放し、最大5℃/分、例えば最大3℃/分で冷却することによって温度が下げられる。マトリックス樹脂のガラス転移温度を改善するために、適切な加熱速度を用いて、190℃〜350℃の範囲の温度及び大気圧で後硬化を行ってもよい。
【0079】
用途
本明細書で述べた組成物は、鋳造または成形される構造体材料を製造するために使用することができ、特には、改良された体積導電率を有する、繊維補強された、耐荷重性または耐衝撃性の複合材構造体の製造に特に適している。
【0080】
本明細書で開示した複合材料は、航空宇宙、航空、海上、及び陸上の輸送機、自動車、並びに鉄道を含む輸送用途のための部品の製造に適用することができる。例えば、複合材料は一次及び二次の航空機構造体、宇宙構造物、並びにバリスティック構造体の製造に使用することができる。このような構造部品には複合材翼部構造体も含まれる。本明細書に開示の複合材料は、建物及び構造物の用途だけでなく、他の商業用途でも有用である。特には、複合材料は耐荷重性または耐衝撃性の構造体の製造に特に好適である。
【0081】
実施例
測定方法
開示した組成物は、以下に記載の方法に従って特性評価した。
【0082】
体積導電率−z方向
硬化した複合材積層体表面に対して直交方向の導電率を、ブリッジ法における印加電圧と電流との間の比率として抵抗値を記録するBurster−Resistomat 2316ミリオームメーターによって測定した。2つの試料表面を接触させるために、ケルビン試験プローブを使用した。全ての測定は、標準湿度条件、室温での4線式測定法に従って行った。
【0083】
測定は、EN2565の方法Bに従って準備した欠陥のない準等方性のパネルから採取した試験片に対して行った。約3mmの厚さの正方形試料を特性評価した。
【0084】
下にある炭素繊維をむき出しにして電極を直接接触させるために、一番上の樹脂リッチな層を取り除くことによって複合材試験片表面を準備した。その後、市販の銀ペーストを使用して対向する試験片表面に2つの電極を形成した。
【0085】
1つの材料及び積層体あたり最低5つの試料について試験した。
【0086】
DC導電率は次式にしたがって[S/m]単位で計算される。
R:測定した抵抗[Ohm]
l:試料の厚さ[m]
S:試料の表面積[m
2]
【0087】
機械的特性
30ジュールの衝撃の後の衝撃後圧縮(CAI)を、24層の準等方性積層体を使用して決定した。測定は、EN2565の方法Bに従って準備した欠陥のないパネルから採取し、180℃で2時間硬化させた試験片に対して室温で行った。試験片をASTM7136/37に従って機械加工し、衝撃を与え、試験した。
【0088】
モードIの層間破壊靭性は、平面中央部でクラックスターターとしてのフルオロエチレンポリマー(FEP)フィルムと共に硬化した、16層の一方向積層体を使用して決定した。G
IC測定は、EN6033に従って、欠陥のないパネルから採取した試験片に対して室温で行った。
【0089】
比較例1
複合材料に対するポリマー系強化用粒子の影響
表1に示される処方に従って、ポリマー系強化用粒子(1a、1b、1c、及び1d)を有するマトリックス樹脂と、ポリマー系強化用粒子を含まないマトリックス樹脂(対照1)を準備した。全ての量は、配合物の重量基準の重量パーセント(w/w%)で示されている。
【0090】
表1において、Araldite(登録商標)PY306はHuntsmanから入手可能なビスフェノールFジグリシジルエーテル樹脂であり、Araldite(登録商標)MY0510はHuntsmanから入手可能なp−アミノフェノールのトリグリシジルエーテル樹脂であり、SUMIKAEXCEL 5003Pは住友化学株式会社から入手可能なポリエーテルスルホンポリマーである。粒子Aはガラス転移温度が約340℃で平均粒径が40ミクロンの芳香族ポリイミドであり、Evonikから商品名P84として販売されている。粒子Bは融点が約250℃で平均粒径が35ミクロンのポリフタルアミドであり、Evonikから商品名Vestamid(登録商標)TGP3551として販売されている。粒子CはCytec Industries Incからの、平均粒径が25ミクロンの膨潤性架橋PES−PEES粒子である。粒子DはEvonikから商品名VESTOSINT(登録商標)Z2649として供給されている、平均粒径25ミクロンの脂肪族ナイロン粒子である。
【0091】
マトリックスは、エポキシ成分中に5003Pを分散させ、125℃で約1時間加熱して5003Pを溶解させることによって調製した。得られた混合物を80℃まで冷却し、次いで残りの成分を添加して十分に混合した。
【0092】
その後、樹脂組成物を使用して様々な一方向性(UD)プリプレグを製造した。表1に開示されている各硬化性樹脂組成物を使用して、剥離紙の上に組成物をコーティングすることにより樹脂フィルムを製造した。次に、2枚のこの樹脂フィルムを、熱と圧力によって一方向性炭素繊維(米国、Toho TenaxのIMS65E)の連続層の両面に積層し、UDプリプレグを作製した。得られたそれぞれのプリプレグは、197gsmの平均FAW(繊維面積重量)と、プリプレグ総重量基準で35%w/wの樹脂含量を有していた。試験用複合材積層体は、上で述べたEN2565法に従ってプリプレグから作成した。
【0093】
機械的な結果
試験用複合材積層体に対して機械的な試験を行った。結果は表2に示されている。表2から分かるように、繊維層同士の間に層間ポリイミド、ポリフタルアミド、架橋PES−PEES、またはポリアミドの強化用粒子を有する硬化した複合材積層体では、対照2(強化用粒子なしのベースライン)と比較して損傷許容性(30JでのCAI)及び層間破壊靭性(G
IC)の値が改善された。
【0094】
電気的な結果
硬化した複合材積層体のZ方向体積導電率も測定した。結果は表3に示されている。
【0095】
表2の機械的な結果とは逆に、硬化した複合材積層体中に層間ポリマー系強化用粒子が含まれていると、はっきりとした層間領域がない複合材料(対照2)と比較した場合にZ方向DC導電率が劇的に減少した。この減少は、主にポリマー系強化用粒子の誘電特性によるものである。例えば、ベースラインの系に粒子Cを添加すると、硬化積層体2CのZ方向導電率は未修飾のベースライン(対照2)と比較してほぼ一桁減少した。
【0096】
実施例2
CNT修飾した複合材料に対するポリマー系強化用粒子の影響
炭素純度>98%、平均径15nm、及び平均長約1mmの多層カーボンナノチューブ(MWCNT)1.35重量%〜1.55重量%を分散させることによって、実施例1の表1に開示されているのと同じ硬化性樹脂組成物を修飾した。MWCNT修飾樹脂組成物は表4に示されている。全ての量は配合物の重量基準の重量パーセント(w/w%)で示されている。
【0097】
硬化性マトリックス樹脂は表4の処方に基づいて調製した。その後、マトリックス樹脂を使用して、実施例1に記載の方法と同じ製造方法に従ってUD炭素繊維補強プリプレグを作製した。各プリプレグは、197gsmの平均FAWと、プリプレグ総重量基準で35%w/wの樹脂含量を有していた。試験用複合材積層体は、上で述べたEN2565法に従ってプリプレグから作成した。
【0098】
機械的な結果
試験用複合材積層体に対して機械的な試験を行った。結果は表5に示されている。表5で報告されている機械的な結果は、マトリックス樹脂中にMWCNTと組み合わせてポリマー系強化用粒子を導入すると、MWCNTのみで修飾した別の同じ材料(対照4)またはポリマー系強化用粒子を有さない別の同じ材料(対照2)と比較して、CAI(30J)及びG
ICの値を大幅に改善できることを示している。
【0099】
2つの機械的特性−CAI[30J]及びG
IC−が同時に改良されるのは、MWCNTとポリマー系強化用粒子との間の相乗効果の結果であると考えられる。
【0100】
図9A及び9Bは、ポリマー系強化用粒子なしの積層体にMWCNTを添加しても(対照4)、未修飾の積層体(対照2)と比較して、CAI及びG
ICの性能に関してほとんど改善がみられないことを示している。
【0101】
図10A及び10Bは、ポリマー系強化用粒子を含む積層体にMWCNTを添加すると(積層体4a、4b、4c、及び4d)、MWCNTなしの同じ積層体(積層体2a、2b、2c、及び2d)と比較して、より高いCAI及びG
ICの値になることを示している。
【0102】
図11は、MWCNTとポリフタルアミド粒子(粒子B)とを含む硬化させた積層体4bの断面顕微鏡像である。
図11から分かるように、ポリマー系粒子は、繊維層同士の間で輪郭のはっきりした延性のある層間領域を形成している樹脂リッチ層の中に分散されている。
【0103】
電気的な結果
表7に、層間ポリマー系粒子を有するMWCNT修飾積層体(積層体4a、4b、4c、及び4d)及び層間ポリマー系粒子なしの積層体(対照4)の、平均のZ方向導電率の値が報告されている。
【0104】
硬化の際にマトリックス樹脂(3a)に可溶な粒子Aの添加は、Z方向導電率の値に対して中立的な効果を有することが観察された。
図12は、MWCNTと芳香族ポリイミド粒子(粒子A)とを含む硬化させた積層体4aの断面顕微鏡写真である。
【0105】
驚くべきことに、不溶性粒子(粒子B及びD)、及び膨潤性粒子(粒子C)を添加すると、MWCNTのみで修飾された積層体(対照4)よりもより優れた導電率になった。層間領域に絶縁成分を添加すると、MWCNTなしの対応する積層体(実施例1、表3、積層体2a、2b、2c、及び2d参照)の場合のように、硬化した複合材の体積導電率を大幅に下げると従来予測されていたことから、この結果は驚くべきものである。このような改良が樹脂系中の全体のMWCNT含量を1.55%w/w(対照3)から1.35%w/w(マトリックス樹脂3b、3c、及び3d)へと減らすことによって得られたことは注目に値する。
【0106】
図13は、対照2、2b、2c、2d、対照4、4b、4c、及び4dの積層体のZ方向導電率を示している。
図13に示されているように、不溶性かつ膨潤性の架橋粒子を添加すると未修飾積層体のZ方向導電率が低下した一方で、MWCNTを含む積層体に同じポリマー系強化用粒子を添加するとZ方向導電率の値が改善した。
【0107】
実施例3
CNT修飾した複合材料に対する不溶性エラストマー粒子の影響
表8に示されている処方に従って、不溶性エラストマー粒子を有するマトリックス樹脂(対照5)を調製した。同じ硬化性樹脂組成物を、炭素純度>98%、平均径15nm、平均長約1mmの多層カーボンナノチューブ(MWCNT)1.35重量%を分散させることによって修飾した。MWCNT修飾した樹脂組成物(5a)は表8に示されている。全ての量は配合物の重量基準の重量パーセント(w/w%)で示されている。
【0108】
表8において、Araldite(登録商標)PY306はHuntsmanから入手可能なビスフェノールFジグリシジルエーテル樹脂であり、Araldite(登録商標)MY0510はHuntsmanから入手可能なp−アミノフェノールのトリグリシジルエーテル樹脂であり、SUMIKAEXCEL 5003Pは住友化学株式会社から入手可能なポリエーテルスルホンポリマーである。粒子Eはガラス転移温度が約−5℃で平均粒径が50ミクロンの粉末形態のカルボキシル官能性エラストマーであり、Zeon Chemicals L.P.から商品名DuoMod(登録商標)DP5045として販売されている。
【0109】
樹脂マトリックスは、エポキシ成分中に5003P熱可塑性樹脂を分散させ、125℃で約1時間加熱して5003P熱可塑性樹脂を溶解させることによって調製した。得られた混合物を80℃まで冷却し、次いで残りの成分を添加して十分に混合した。
【0110】
その後、樹脂組成物を使用して様々な一方向性(UD)プリプレグを製造した。表8に開示されている各硬化性樹脂組成物を使用して、剥離紙の上に樹脂組成物をコーティングすることによって樹脂フィルムを製造した。次に、2枚のこの樹脂フィルムを、熱と圧力によって一方向性炭素繊維(米国、Toho TenaxのIMS65E)の連続層の両面に積層し、UDプリプレグを作製した。得られたそれぞれのプリプレグは、197gsmの平均FAW(繊維面積重量)と、プリプレグ総重量基準で35%w/wの樹脂含量を有していた。試験用複合材積層体は、上で述べたEN2565法にしたがってプリプレグから作成した。
【0111】
機械的な結果
粒子E及びMWCNTを有する試験用複合材積層体に対して機械的な試験を行った。結果は表9に示されている。表9に報告されている機械的な結果は、マトリックス樹脂にMWCNTと組み合わせて不溶性エラストマー粒子を添加すると、MWCNTのみで修飾した別の同じ材料(実施例2で開示の対照4、表5)、またはMWCNTもしくはポリマー系強化用粒子なしの材料(比較例1で開示の対照2、表2)と比較して、CAI(30J)及びG
ICの値を大幅に改善できることを示している。
【0112】
2つの機械的特性−CAI[30J]及びG
ICの−が同時に改良されるのは、MWCNTとポリマー系強化用粒子との間の相乗効果の結果であると考えられる。
【0113】
電気的な結果
表10に、対照5及び5aの樹脂組成物による粒子Eを含むプリプレグから作成された試験用複合材積層体の、平均のZ方向導電率の値が報告されている。
【0114】
不溶性エラストマー粒子(粒子E)を含有するがMWCNTを含有しない試験用複合材積層体のZ方向DC導電率は0.56S/mである(対照6)。MWCNTのみを含み層間ポリマー系粒子を含まない試験用複合材積層体のZ方向DC導電率は6.00S/mである(対照4)。驚くべきことに、不溶性粒子(粒子E)を添加すると、MWCNTのみで修飾された積層体(6.00S/m)よりもより優れた導電性能となった(8.25S/m)。層間領域に絶縁成分を添加すると、MWCNTなしの対応する積層体(表10、対照2及び対照6)の場合のように硬化した複合材の体積導電率が大幅に下がると従来予測されていたことから、この結果は驚くべきことである。このような改良が樹脂系中の全体のMWCNT含量を1.55%w/w(対照4)から1.35%w/w(積層体6a)へと減らすことによって得られたことは注目に値する。