(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6585603
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】移送構造物、移送システム、並びにLNG及び/又は電力を移送する方法
(51)【国際特許分類】
B63B 27/34 20060101AFI20190919BHJP
B63B 25/08 20060101ALI20190919BHJP
B63B 21/16 20060101ALI20190919BHJP
B63B 25/16 20060101ALI20190919BHJP
B63J 99/00 20090101ALI20190919BHJP
B63B 21/00 20060101ALI20190919BHJP
F17C 13/00 20060101ALN20190919BHJP
【FI】
B63B27/34
B63B25/08 B
B63B21/16
B63B25/16 Z
B63J99/00 A
B63B21/00 B
!F17C13/00 302F
【請求項の数】27
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-546851(P2016-546851)
(86)(22)【出願日】2015年1月16日
(65)【公表番号】特表2017-504517(P2017-504517A)
(43)【公表日】2017年2月9日
(86)【国際出願番号】EP2015050765
(87)【国際公開番号】WO2015107147
(87)【国際公開日】20150723
【審査請求日】2017年12月1日
(31)【優先権主張番号】20140063
(32)【優先日】2014年1月17日
(33)【優先権主張国】NO
(73)【特許権者】
【識別番号】516210218
【氏名又は名称】コネクト エルエヌゲー アクティーゼルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】100077838
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 憲保
(74)【代理人】
【識別番号】100129023
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 敬
(72)【発明者】
【氏名】クヌトゥセン,ダーヴィドゥ ミカル
(72)【発明者】
【氏名】マグヌソン,スティアン トゥネストヴェイト
(72)【発明者】
【氏名】エイケンス,マグヌス
(72)【発明者】
【氏名】ノールバルグ,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ストラン,シェーティル ショーリ
【審査官】
杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第08286678(US,B2)
【文献】
特開2008−195114(JP,A)
【文献】
特開2006−290263(JP,A)
【文献】
特表2009−530174(JP,A)
【文献】
特開平03−031098(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/008590(WO,A1)
【文献】
米国特許第08104416(US,B1)
【文献】
特表2005−501768(JP,A)
【文献】
特開昭55−044057(JP,A)
【文献】
実開昭54−163493(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 27/34
B63B 21/00
B63B 21/16
B63B 25/08
B63B 25/16
B63J 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮体構造物と浮体施設又は非浮体施設との間で少なくとも1つの移送ラインを通して流体を移送する、及び/又は前記浮体施設又は非浮体施設と前記浮体構造物との間で電力を伝送するのに用いる半潜水式浮体移送構造物であって、
該移送構造物は、該移送構造物に直接取り付けられ、前記浮体構造物に前記移送構造物を解除可能に取り付ける少なくとも1つの取付手段を備え、
前記少なくとも1つの取付手段は、前記少なくとも一つの移送ライン上に前記取付手段を通して前記浮体構造物に働く環境負荷から生じる張力を安全に分散させるものであり、
前記少なくとも1つの取付手段は、
該移送構造物に対して受動的に移動可能に取り付けられ、前記移送構造物が実質的に自由に垂直に移動し、前記浮体構造物に対して水平軸を中心に実質的に自由に回転するのを可能にするように適合され、且つ、前記浮体構造物と前記移送構造物との間での相対的な水平並進と垂直軸を中心とする相対回転とを受動的に実質的に抑制するように更に適合されていることとを特徴とする、移送構造物。
【請求項2】
前記移送構造物は、外部再配置及び位置決め手段によって再配置され位置決めされるように適合されている、請求項1に記載の移送構造物。
【請求項3】
前記移送構造物には、船用の停泊及び係留手段、又は1つ若しくは複数のウインチワイヤー用の取付手段が設けられている、請求項1又は2に記載の移送構造物。
【請求項4】
前記移送構造物は、上甲板デッキと、或る直径を有する複数の表面貫通柱とを備え、該表面貫通柱は、前記直径の少なくとも4倍の距離だけ分離されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の移送構造物。
【請求項5】
前記移送構造物は、上甲板デッキと複数の表面貫通柱とを備え、該柱の下端部にそれぞれの伸縮要素が設けられ、該伸縮要素は、前記柱のそれぞれの長手方向長さが調整可能であるように、上位置と下位置との間で移動可能である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の移送構造物。
【請求項6】
前記柱には、流体用の貯蔵室が設けられ、各貯蔵室は、それらのそれぞれの柱及び伸縮要素によって境界が定められ、それにより、前記貯蔵室の容積は可変であり、前記柱に対する前記伸縮要素の垂直位置によって決まる、請求項5に記載の移送構造物。
【請求項7】
前記貯蔵室には、周囲に対する少なくとも1つの貫通開口部が設けられ、それにより、水が前記貯蔵室に流れ込み、また該貯蔵室から流れ出ることができる、請求項6に記載の移送構造物。
【請求項8】
静水での最大喫水が5メートル未満である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の移送構造物。
【請求項9】
少なくとも1つの空中移送ラインを解除可能に接続することができる接続装置を備え、該接続装置は、前記浮体施設又は非浮体施設と前記移送構造物との間で少なくとも1つの移送ラインに接続されるように更に適合されている、請求項1〜8のいずれか一項に記載の移送構造物。
【請求項10】
前記接続装置は、前記浮体構造物と前記浮体施設若しくは非浮体施設との間で流体を移送するために、前記移送ラインを接続することができるマニホールドであるか、又は、前記接続装置は、前記浮体施設若しくは非浮体施設と前記浮体構造物との間で電力を移送するために、前記移送ラインを接続することができる電気的結合装置である、請求項9に記載の移送構造物。
【請求項11】
浅瀬移送構造物である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の移送構造物。
【請求項12】
非電動式である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の移送構造物。
【請求項13】
浮体構造物と浮体施設又は非浮体施設との間で流体を移送するか又は前記浮体施設又は非浮体施設と浮体構造物との間で電力を移送するのに用いる移送システムであって、
請求項1〜12のいずれか一項に記載の半潜水式浮体移送構造物と、少なくとも1つの移送ライン及び該移送システムが使用されていないときに前記移送ラインを保管する保管手段とを備え、前記少なくとも1つの移送ラインは、前記移送構造物と前記保管手段との間に延在し、前記少なくとも1つの移送ラインは、
前記浮体構造物に移送されたか若しくは前記浮体構造物に移送されている流体用の貯蔵手段、又は、
前記浮体構造物に移送されたか若しくは前記浮体構造物に移送されている流体用のパイプライン、又は、
前記浮体構造物に若しくは該浮体構造物から電力を伝送するための電力供給源、
に更に接続されていることを特徴とする、移送システム。
【請求項14】
前記浮体構造物が回頭運動しないように、浮体構造物を係留することができるマルチブイ係留システムを備える、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
使用されていないときに前記移送構造物を保管するドッキング施設を備える、請求項13又は14に記載のシステム。
【請求項16】
前記ドッキング施設と前記浮体構造物との間に前記半潜水式浮体移送構造物を再配置し、前記浮体構造物への取付け又は該浮体構造物からの取外し中に前記半潜水式浮体移送構造物を制御する船を備える、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記移送ラインは可撓性があり、該移送ライン用の前記保管手段は、前記移送システムが使用されていないときに該移送ラインが巻回される少なくとも1つのリール又は回転台又はバスケットを備える、請求項13〜16のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項18】
前記移送ライン用の前記保管手段は、複数のローラーを備え、前記移送システムが使用されていないとき、前記移送ラインを巻回されることなく前記複数のローラーにおいて保管位置に引き戻すことができる、請求項13〜17のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項19】
前記移送ラインには少なくとも1つの浮力要素が設けられ、それにより該移送ラインは、水上で浮遊するか又は水中に潜水して浮遊する、請求項13〜18のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項20】
前記移送ライン用の前記保管手段は、陸上に、非浮体構造物上に、又は浮体構造物上に位置する、請求項13〜19のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項21】
浮体構造物と浮体施設又は非浮体施設との間で流体を移送し、及び/又は浮体施設又は非浮体施設と浮体構造物との間で電気を伝送する方法であって、
前記浮体構造物が回頭運動しないように、該浮体構造物をマルチブイ係留システムに係留するステップと、
請求項1〜12のいずれか一項に記載の半潜水式浮体移送構造物をドッキング施設から前記係留された浮体構造物に再配置し、その後又は同時に、流体が移送されるか又は電力が伝送される移送ラインを繰り出すステップと、
前記移送構造物に取り付けられた受動的に移動可能な取付手段により、前記浮体構造物の外面に該移送構造物を解除可能に取り付けるステップと、
前記浮体構造物と前記移送構造物との間に少なくとも1つの空中移送ラインを設け、それにより、前記浮体構造物と前記浮体施設若しくは非浮体施設との間で流体を移送することができ、又は前記浮体施設若しくは非浮体施設と前記浮体構造物との間で電力を伝送することができるようにするステップと、
前記浮体構造物及び前記浮体施設又は非浮体施設を接続する前記移送ラインを通して、流体を流し及び/又は電力を伝送するステップと、
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項22】
前記ドッキング施設と前記浮体構造物との間で前記移送構造物を再配置するために、かつ前記浮体構造物に取り付けるか又は該浮体構造物から取り外す前に該移送構造物を位置決めするために、船が使用される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記移送ラインは、前記移送ラインが使用されていないとき、少なくとも1つのリール又は回転台又はバスケットに保管される、請求項21又は22に記載の方法。
【請求項24】
前記移送構造物は、前記移送システムが使用されていないとき、前記ドッキング施設内に保管されるか、又は該ドッキング施設に係索される、請求項21〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記浮体構造物と前記浮体施設又は非浮体施設との間で極低温液体を移送するための請求項1〜12のいずれか一項に記載の移送構造物及び/又は請求項13〜20のいずれか一項に記載の移送システムの使用。
【請求項26】
前記極低温液体がLNGである、請求項25に記載の移送構造物又は移送システムの使用。
【請求項27】
浮体施設又は非浮体施設と浮体構造物との間で電力を伝送するための請求項1〜12のいずれか一項に記載の移送構造物及び/又は請求項13〜20のいずれか一項に記載の移送システムの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LNG船等の浮体構造物と浮体施設又は非浮体施設との間の流体の移送と、浮体施設又は非浮体施設と浮体構造物との間の電力の伝送とに関する。
【0002】
本発明は、浅瀬での使用に特に適し、かつ、極低温用途に対する断熱された移送ダクトの重量が大きいことと好都合なパージ及び予冷の簡便化とに対処できるため、極低温の目的に特に適している。本発明は、環境条件が開放水域ほど過酷ではない完全に保護された水域に対して好適な代替物となるであろう。本発明はまた、大型船を受け入れるために必要な港施設のない目的地に到着したときに追加の電力供給を必要とする可能性がある、クルーズ船等の船との間の電力の伝送に使用することもできる。
【背景技術】
【0003】
現在、船から陸への適度な温度の(temperate)流体の移送は、特に、海底から持ち上げられ船のマニホールドに直接接続され、且つ、水中に沈められた可撓性ホースによって達成される。水と接触している任意のパイプを通る極低温液体の移送では、過度の熱損失及び外部氷層の蓄積を回避するために、パイプを徹底的に断熱する必要があり、それにより、適度な温度の流体を移送するためのパイプより、1メートル当たりの重量が大幅に大きくなる。したがって、極低温用途のためのパイプの取扱いは、船の昇降機器及びマニホールドに対して管理しにくいことが多い。さらに、極低温液体の移送では、大規模な蒸気発生を回避するために、移送ダクトの予冷が必要である。予冷は、移送作業の直前に行わなければならず、移送作業は、費用効果の高い輸送のために、配送船の到着の直後に開始しなければならない。さらに、多くの極低温流体の取扱いでは、いかなる不履行時にも流出のリスクを最小限にするように特別な手段を実施する必要がある。多くの場合、緊急停止システム、緊急切離し結合部及び特別な監視システムが、極低温移送作業に関する重要な統合である。
【0004】
様々なタイプの浮体概念を備える荷積みシステムの使用は、海洋石油産業において広く用いられている。海洋の環境条件は過酷であることが多く、それにより、これらの条件でシステムが稼働するための要件及びコストが著しく増大する。
【0005】
特許文献1では、移送船と輸送船との間の流体移送に対応する、輸送船に解除可能に取り付けることができる係留機器を備える流体移送装置が開示されており、そこでは、係留機器は、輸送船に接続されるように適合された流体導管を支持する。
【0006】
より詳細には、上記流体移送装置は、移送船に搭載され、かつ液圧システムによって制御される位置決めアームと、トラスワーク(truss work)とを備えており、トラスワークは、所望の位置まで動かされているときに6自由度全てに移動することができるように、位置決めアームに取り付けられている。トラスワークには、トラスワークを輸送船の船体に取り付けるために係留パッドが取り付けられている。したがって、トラスワークは、輸送船に取り付けられるとき、位置決めアームによって能動的に制御され、かつ動かされる。さらに、輸送船に係留されるのはトラスワークのみである。移送船は、流体の移送中、輸送船に対して自由に移動し、動的位置決めスラスターシステムによって適所に維持される。こうした動的位置決めシステムにより、船の初期費用及び運営費の両方が著しく増大する。
【0007】
さらに、この展開システムに関連する幾つかの問題がある。展開システムは、移送船の上甲板の重量を増大させる。位置決めアーム及びトラスワークを含む展開システムは、複雑なシステムであり、したがって、初期費用及び運営費の両方を著しく増大させ、運転中、比較的故障しやすい。さらに、流体導管を係留システムで支持するために、係留機器は、浮体構造物の乾舷の非常に上方の部分に取り付けられなければならず、それにより、所与の寸法に対して移送船に対する重量−高さが好ましくないほどに増大する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第8,286,678号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上述した問題を緩和することである。
【0010】
特に、浮体構造物と浮体構造物及び/又は非浮体構造物との間で流体を移送し及び/又は電力を伝送するために使用することができるシステムを提供することが目的である。
【0011】
さらに、風及び天候条件が外洋ほど過酷ではない、完全に保護された水域において、かつ浅瀬において使用するのに適しているシステムを提供することが目的である。
【0012】
さらに、既知の移送システムより構造が単純であり、かつ建築費及び運営費がかからない、流体及び/又は電力を移送するシステムを提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
これらの目的は、請求項1に記載の移送構造物と、請求項13に記載の移送システムと、請求項21に記載の流体を移送する方法と、請求項25及び請求項27にそれぞれ記載の移送構造物の使用及び移送システムの使用とによって達成される。本発明の更なる特徴は、従属請求項に記載されている。
【0014】
浮体構造物と浮体施設又は非浮体施設との間で流体を移送する、及び/又は浮体施設又は非浮体施設と浮体構造物との間で電力を伝送するのに用いる半潜水式浮体移送構造物が提供される。本移送構造物は、浮体構造物に移送構造物を解除可能に取り付ける、移送構造物に取り付けられた少なくとも1つの取付手段を備え、この少なくとも1つの取付手段は、移送構造物に対して受動的に移動可能に取り付けられている。
【0015】
浮体構造物は、LNG(液化天然ガス)等の流体を搬送する遠洋航海船、若しくはクルーズ船等の他の何らかのタイプの船、又はプラットフォームとすることができる。
【0016】
浮体施設又は非浮体施設は、浮体施設である場合、船、例えばタンカーとすることができる施設である。施設は、非浮体式である場合、陸地に、又は例えば、桟橋、若しくは海底に固定される要素を備えた同様の構造物に基づく施設とすることができる。流体を移送するために移送構造物が使用される場合、浮体施設又は非浮体施設は、通常、少なくとも流体用の貯蔵手段、例えば貯蔵タンクと、上記流体の移送作業中に貯蔵手段と移送構造物とを接続する少なくとも1つの移送ライン用の保管手段とを備える。場合によっては流体の移送と組み合わせて、浮体構造物と浮体施設又は非浮体施設との間で電力を伝送するために移送構造物が使用される場合、上記浮体施設又は非浮体施設は、電力供給源、通常は配電網を備え、それに対して、浮体構造物に電力を伝送するために移送ラインを接続することができる。浮体構造物から浮体施設又は非浮体施設への電力の伝送も行うことができる。この場合、浮体構造物は、1つ又は複数の発電機等の電力供給源を備える。
【0017】
好ましくは、移送構造物は、浅瀬移送構造物である。これは、移送構造物が、深さの浅い水中で使用するのに特に適していることを意味する。好ましくは、移送構造物は、静水における最大喫水が5メートル未満である。海岸及び沿岸の海域では、環境条件は一般にはるかに穏やかであり、設備がこれらの条件で作動するための要件及びコストを著しく低減させることができる。したがって、喫水の小さい本発明は、比較的穏やかな環境条件及び浅瀬の用途に非常に適している。
【0018】
受動的に移動可能な取付手段は、取付手段又は移送構造物が、プラットフォームに対して取付手段の位置を能動的に変更するいかなる手段も備えていないように設計されており、すなわち、少なくとも1つの取付手段は、移送構造物に対して受動的に移動可能に移送構造物に取り付けられている。取付手段に作用する外力、すなわち浮体構造物からの外力のみが、移送構造物に対して取付手段の位置を変更する。
【0019】
取付手段は、好ましくは、1つ又は複数の真空パッド及び/又は電磁パッドを含むが、取付手段は、移送作業中に、船の船体等の浮体構造物の側面に移送構造物を解除可能に取り付けるために使用することができる、他の任意の好適な手段を含むことができる。
【0020】
移送プラットフォームはまた、風、波及び海流等、少なくとも1つの移送ラインに作用している環境負荷から発生する、少なくとも1つの移送ラインにおける張力を吸収し、これらの力を、取付手段を通して、少なくとも1つの移送ラインが取り付けられている浮体構造物の船体に安全に分散させるという目的に役立つことができる。
【0021】
したがって、本発明は、例えば液化天然ガス(LNG)、液化石油ガス(LPG)、液化炭酸ガス又は液化窒素等、極低温液体を移送するのに特に有用である。本発明はまた、例えば、液体バルク材料、石油化学製品、電気、水又はガス等、様々な他の媒体を移送するための有効かつ安全な代替物も提供する。
【0022】
さらに、極低温流体の移送の場合、大規模な蒸気の発生を回避するために、移送プラットフォームは、極低温流体の移送が開始する前の移送ダクトの予冷を可能にする。移送構造物の使用は、移送作業の直前に予冷を行うことができることと、配送船の到着の直前に作業を開始することができるということとを意味する。移送プラットフォームはまた、緊急停止システム、緊急切離し結合部及び特別な監視システム等、必要な全ての安全機器の実施も可能にする。
【0023】
好ましくは、受動的に移動可能な取付手段は、移送構造物の自由な相対的垂直並進移動と水平軸を中心とする相対回転とを可能にし、浮体構造物と移送構造物との間の相対的な水平並進と垂直軸を中心とする相対回転とを受動的に抑制する。
【0024】
移送構造物は、外部再配置及び位置決め手段によって再配置されかつ位置決めされるように更に適合されている。移送構造物は、好ましくは非電動式であり、それは、移送構造物が、水中で移送船を再配置するか又は位置決めする推進手段を有していないことを意味する。作業期間と非作業期間との間で移送構造物を再配置し、浮体構造物への取付け又は浮体構造物からの取外しの手続きの間に、浮体構造物に対して移送構造物を位置決めするために、移送構造物には、外部再配置及び位置決め手段が設けられる。例えば、移送構造物には、船用の停泊及び投錨手段、例えば、1つ若しくは複数の防舷材、又は1つ若しくは複数のウインチワイヤー用の取付手段を設けることができる。こうした船は、例えば、タグボート又は小型作業船(workboat)を備えることができる。ウインチが使用される場合、システムには、移送構造物をそのドッキング位置から浮体構造物に引っ張るための、浮体構造物上の1つのウインチと、移送構造物を浮体構造物からそのドッキング位置に引き戻すための、ドッキング位置における別のウインチとを設けることができる。別の選択肢は、移送構造物のウインチと、移送構造物のドッキング位置と係留された浮体構造物又は浮体構造物に隣接するブイとの間にエンドレスループで伸びるウインチワイヤーとを設けることである。代替的に、水深が許す限り、移送構造物には、移送構造物を推進する1つ又は複数のプロペラを設けることができる。
【0025】
移送構造物は、上甲板デッキと、或る直径又は特徴的な直径を有する複数の表面貫通柱とを備えることが好ましい。柱は、上記直径又は特徴的な直径の少なくとも4倍の距離だけ分離されていることが好ましい。移送構造物のこの構成は、波浪強制力(wave excitations:波強制力)に対する応答を低減させることが分かる。移送構造物及び浮体構造物等の2つの独立した浮体構造物を接続するとき、相対移動が小さいことが有利である。相対運動が大きいことにより、接続システムの設計が過度に複雑になり、接続作業が複雑になり、空中ホースに対する要件が大きくなり、したがって、安全性及び運用性の多くの態様が低減する。移送プラットフォームの動きがパイプラインの終端まで伝わるため、プラットフォームの大きい動きによって、パイプラインの疲労寿命が更に低減する。したがって、移送プラットフォームの波浪による応答が小さいことが好ましい。
【0026】
移送構造物は、上甲板デッキと複数の表面貫通柱とを備え、柱の下端部にそれぞれの伸縮要素、例えば突出部を設けてもよく、伸縮要素は、柱のそれぞれの長手方向長さが調整可能であるように、上位置と下位置との間で移動可能である。柱には、流体用の貯蔵室、すなわち空隙が設けられ、各貯蔵室は、それらのそれぞれの柱及び伸縮要素によって境界が定められ、それにより、貯蔵室の容積は可変であり、柱に対する伸縮要素の垂直位置によって決まる。柱に沿って垂直に伸縮要素を配置することができ、これにより、伸縮要素内の空隙空間の可変の容積が提供され、それにより、移送構造物の乾舷高さを変更することなく、移送構造物の喫水を変更することが可能になる。伸縮要素の垂直移動は、液圧ピストン/シリンダー構成で実現することができる。その場合、貯蔵室には、周囲に対する少なくとも1つの貫通開口部が設けられることが好ましく、それにより、水が貯蔵室に流れ込み、また貯蔵室から流れ出ることができる。代替的に、垂直移動は、ポンプを用いて、柱の長さを延長するために空隙内に液体を圧送し、柱の長さを縮小するために空隙から液体を汲み出すことによって実現することができる。空隙から液体が汲み出されるとき、真空効果により、収縮要素が引き上げられることが確実になる。
【0027】
移送構造物は、少なくとも1つの空中移送ラインを解除可能に接続することができる接続装置を備えることが好ましい。接続装置は、浮体施設又は非浮体施設と移送構造物との間で少なくとも1つの移送ラインに接続されるように適合されている。したがって、移送構造物の使用中、流体が、浮体構造物から浮体施設若しくは非浮体施設まで空中移送ライン及び移送ラインを通って流れることができ、又は電力を、陸上施設から浮体構造物まで上記移送ラインを通って伝送することができる。流体の移送又は電気の伝送が行われていないとき、空中移送ラインは、移送構造物又は浮体構造物に保管することができる。
【0028】
浮体構造物と浮体施設又は非浮体施設との間で流体を移送する場合、接続機器はマニホールドとすることができ、浮体構造物と浮体施設又は非浮体施設との間で流体を移送するために、マニホールドに移送ラインを接続することができる。浮体構造物と浮体施設又は非浮体施設との間で電気を伝送する場合、接続機器は電気的結合装置とすることができ、浮体施設又は非浮体施設と浮体構造物との間で電力を移送するために、電気的結合装置に移送ラインを接続することができる。
【0029】
また、浮体構造物と浮体施設又は非浮体施設との間で流体を移送するか又は浮体施設又は非浮体施設と浮体構造物との間で電力を移送するのに用いる移送システムが提供される。この移送システムは、上述の半潜水式浮体移送構造物と、少なくとも1つの移送ライン及び移送システムが使用されていないときに移送ラインを保管する保管手段とを備える。少なくとも1つの移送ラインは、移送構造物と保管手段との間に延在し、少なくとも1つの移送ラインは、
浮体構造物に移送されたか若しくは浮体構造物に移送されている流体用の貯蔵手段、又は、
浮体構造物に移送されたか若しくは浮体構造物に移送されている流体用のパイプライン、又は、
浮体構造物に又は浮体構造物から電力を伝送するための電力供給源、
に接続されている。
【0030】
混雑した港及び港領域において、移送作業の合間に港内から完全に又は部分的に取り除くことができる非永久的な設備が有益である。移送システムは、使用されていないときに邪魔にならないように移動させることができる浮体式可動システムを備え、そのため、局所的な海上交通への妨害が低減し、海底との相互作用による移送パイプの損傷のリスクが最小限になる。
【0031】
上記システムは、浮体構造物が回頭運動しない(non-weathervaning)ように、浮体構造物を係留することができるマルチブイ係留システムを備えることが好ましい。マルチブイ係留システムは、回頭運動(weathervaning)を防止し、したがって、浮体移送ラインの完全性を保護する。マルチブイ係留システムは、局所的な環境条件、入射水深、及び係留システムを使用する浮体構造物のサイズ範囲に応じて、構造及び複雑性を変更することができる。マルチブイ係留システムは、通常、海底条件に応じて、鎖若しくはファイバーロープ又は両方の組合せによって海面ブイに接続された適切な錨を備える。
【0032】
上記移送システムは、使用されていないときに移送構造物を保管するドッキング施設を備えることが好ましい。移送構造物は、移送作業の合間に、例えばドッキングステーション、桟橋又は他の好適な係留手段に係留されることが好ましい。流体の移送作業又は電力の伝送中、移送構造物は、抜錨され、浮体構造物に一時的に取り付けられる。
【0033】
上記システムは、ドッキング施設と浮体構造物との間に半潜水式移送船を再配置し、浮体構造物への取付け又は浮体構造物からの取外し中に移送船を制御する船を備えてもよい。船は、通常、タグボート又は小型作業船であるが、ドッキング施設と浮体構造物との間で移送構造物を再配置することができ、移送構造物の浮体構造物への取付け又は浮体構造物からの取外しのプロセス中に、移送構造物を制御する、任意の好適な船とすることができる。代替的に、ドッキングステーションと係留された浮体構造物との間で移送構造物を引っ張るために、1つ又は複数のウインチを採用することができる。代替的に、水深が許す限り、移送構造物には、移送構造物を推進する1つ又は複数のプロペラを設けることができる。
【0034】
移送ラインは可撓性があることが好ましく、移送ライン用の保管手段は、移送システムが使用されていないときに移送ラインが巻回され得る少なくとも1つのリール又は回転台又はバスケットを備える。代替的に、移送ライン用の保管手段は、複数のローラーを備えてもよく、移送システムが使用されていないとき、移送ラインを巻回されることなく複数のローラーにおいて保管位置に引き戻すことができるように、移送ラインが配置されることができる。移送ラインには少なくとも1つの浮力要素が設けられることが好ましく、それにより移送ラインは、水上で浮遊するか又は水中に潜水して浮遊する。
【0035】
移送ライン用の保管手段は、好ましくは、陸上に、又は非浮体構造物、例えば桟橋に、又は、流体用の貯蔵タンク及び/又は電力の伝送を可能にする移送手段を備えた船等の浮体構造物に、又は移送船自体に配置される。保管手段は、少なくとも1つのリールの形態とすることができ、リールに移送ラインを巻回することができる。保管手段は、移送ラインを巻回することができる回転台若しくはバスケット、又は移送ラインが巻回されることなく、すなわち実質的に直線状態で保管される場合のローラーの形態とすることもできる。
【0036】
また、浮体構造物と浮体施設又は非浮体施設との間で流体を移送し、及び/又は浮体施設又は非浮体施設と浮体構造物との間で電気を伝送する方法であって、
浮体構造物が回頭運動しないように、浮体構造物をマルチブイ係留システムに係留するステップと、
上述の半潜水式浮体移送構造物をドッキング施設から係留された浮体構造物に再配置し、その後又は同時に、流体が移送されるか又は電力が伝送される移送ラインを繰り出すステップと、
移送構造物に取り付けられた受動的に移動可能な取付手段により、浮体構造物の外面に移送構造物を解除可能に取り付けるステップと、
浮体構造物と移送構造物との間に少なくとも1つの空中移送ラインを設け、それにより、浮体構造物と浮体施設若しくは非浮体施設との間で流体を移送することができ、又は浮体施設若しくは非浮体施設と浮体構造物との間で電力を伝送することができるようにするステップと、
浮体構造物及び浮体施設又は非浮体施設を接続する移送ラインを通して、流体を流し及び/又は電力を伝送するステップと、
を含む、方法が提供される。
【0037】
好ましくは、移送構造物が使用されていないときに係留されるドッキング施設と、浮体構造物との間で移送構造物を再配置し、移送構造物の浮体構造物への取付け又は浮体構造物からの取外し中に移送構造物を位置決め及び/又は制御するために、船が使用される。代替的に、1つ又は複数のウインチを用いて、移送構造物をドッキング施設と浮体構造物との間で再配置することができる。
【0038】
移送ラインは、移送システムが使用されていないとき、少なくとも1つのリール又は回転台又はバスケットに保管してもよい。代替的に、移送ラインはローラー上に保管することができ、移送ラインはローラーの上に載る。
【0039】
移送構造物は、移送システムが使用されていないとき、ドッキング施設に係索されることが好ましい。
【0040】
上述した移送構造物及び/又は移送システムは、浮体構造物と浮体施設又は非浮体施設との間で極低温液体、例えばLNGを移送するために使用することができる。上述した移送構造物及び/又は移送システムはまた、浮体施設又は非浮体施設と浮体構造物との間で電力を伝送するためにも有用である。
【0041】
本発明の様々な利点は、本発明の限定しない実施形態の以下の詳細な説明を、添付図面を考慮して読むことにより、当業者には明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】本発明による移送システムのシステム配置の上面図である。
【
図2】本発明による移送システムのシステム配置の側面図である。
【
図3】移送構造物がドッキング施設に投錨されている移送システムの上面図である。
【
図4】本発明による移送構造物の側面図であり、移送構造物の受動的に移動可能な取付手段のあり得る移動を示す図である。
【
図5】本発明による移送構造物の上面図であり、移送構造物の受動的に移動可能な取付手段のあり得る移動を示す図である。
【
図8】伸縮移動を実現するためにピストン/シリンダー構成を含む、本発明による移送構造物の伸縮柱の側面図である。
【
図9】(a)は、伸縮移動を実現するためにポンプを含む、本発明による移送構造物の伸縮柱の側面図である。(b)は、伸縮移動を実現するためにポンプを含む、本発明による移送構造物の伸縮柱の側面図である。(c)は、伸縮移動を実現するためにポンプを含む、本発明による移送構造物の伸縮柱の側面図である。
【
図10】非作業期間中に移送ラインがローラー上に引き戻されている、本発明による移送システムの上面図である。
【
図12】流体又は電気を浮体施設に又は浮体施設から移送しているときの、本発明による移送システムの上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明による移送システムを概略的に示す、
図1、
図2、
図3及び
図12を参照する。浮体構造物1は、典型的にはLNG船であり、複数のブイ7を備えるマルチブイ係留システム42に係留されており、複数のブイ7は、海底に投錨されており、浮体構造物1が、係留システム42に係留される場合に回頭運動をしないように(non-weathervaning)、すなわち風及び波の方向及び/又は海域における海流とは無関係に所与の位置で実質的に維持されるように分散して配置されている。
【0044】
システムは、
図1において係留された浮体構造物1のそばに示す半潜水式浮体移送構造物2を更に備えている。移送構造物2は、好ましくは、移送作業の合間、例えば、ドッキングステーション(docking station)8、桟橋又は他の好適な係留手段に係留される。流体の移送作業又は電力の伝送中、移送構造物2は抜錨され、一時的に浮体構造物1に取り付けられる。
【0045】
移送構造物2と浮体構造物1との間に、少なくとも1つの空中移送ライン(又は空中ホース)3が設けられている。空中移送ライン3は、移送作業の合間は移送構造物2に保管され、移送作業が行われるときに浮体構造物1に接続することができる。代替的に、空中移送ライン3は、浮体構造物に保管され、移送作業が行われるときに移送構造物2に接続することができる。移送作業の後、空中移送ライン3は、再度分離して、移送構造物2又は浮体構造物1に保管することができる。空中移送ライン3は、浮体構造物1と移送構造物2との間の流体又は電力の移送を可能にする。図において、上記施設は、浮体構造物と陸上施設6との間で、流体、例えばLNGのような極低温流体を移送するための陸上施設として示されている。しかしながら、施設は、
図12に示すように、浮体構造物1と浮体施設との間の移送が行われる前又は行われた後に流体を貯蔵することができる、例えば船6の形態の浮体施設とすることができる。
【0046】
空中ホース3は、通常、
図2に示すように、例えば浮体構造物1のクレーン13を利用することによって、S字型で保持される。移送作業の合間、上述したように、浮体構造物1上の適切なクレーン13における到達能力で、容易にアクセスできるように、空中ホース3は、好ましくは、移送構造物2に保管される。
【0047】
流体を移送する場合、移送システムは、図に示すように、移送構造物2と浮体施設又は非浮体施設6との間で流体を移送するための浮体式可撓性パイプ形態の、少なくとも1つの移送ライン4を更に備えている。電力を伝送する場合、移送ライン4及び空中移送ラインは、少なくとも1つの電気ケーブルから構成されるか、又は少なくとも電気ケーブルを備えている。
【0048】
図1〜
図3及び
図12に見ることができるように、移送システムは、作業中でないときに少なくとも1つの移送ライン4を保管する保管手段を更に備えている。保管手段は、
図1〜
図3及び
図12に示すように少なくとも1つのリール5の形態とすることができ、それにより、移送ラインをリール5に巻き揚げることができる。保管手段はまた、移送ライン4を巻回することができる回転台若しくはバスケット、又は巻回することなく移送ラインが保管される場合のローラー41の形態とすることもでき、すなわち、移送ラインは、
図10及び
図11に見ることができるように、実質的に直線状の状態で保管される。
【0049】
上述したように、移送構造物2と保管施設6との間の流体移送を容易にすることは、好ましくは、少なくとも1つの浮体パイプライン4を通して達成される。少なくとも1つの浮体パイプライン4の長さは、移送作業中、浮体構造物1の動的動きを可能にするのに十分な長さである。少なくとも1つの浮体パイプライン4は、好都合には、荷積み作業の合間は陸上のリール若しくは回転台5に又は移送構造物2に保管することができ、そのため、局所的な海上交通の妨害及び衝突の危険の可能性が低減し、疲労寿命が延長され、パイプラインの検査及び制御が簡略化する。浮体パイプライン(複数の場合もある)4は、特に、適度な温度の流体若しくは極低温流体又は両方を移送するように設計することができ、浮力要素、隔離、曲げ補強材28、及び/又は光伝送及び/又は送電の可能性を含む場合もあれば含まない場合もある。
【0050】
保管装置5は、直線状に又は他の方法で好都合に配置することもできるが、一般には、浮体パイプライン(複数の場合もある)4の大部分を、好都合に水中から回収し、好適な指定された場所に一時的に保管することができることを特徴とする。
図2に示すように、少なくとも1つの浮体パイプライン4は、便宜上、少なくとも1つの移送ラインに対する引張力及び摩耗及び引裂きを最小限にするために、海−陸境界部においてローラー9で案内することができる。
【0051】
移送構造物2は、移送作業中、抜錨され浮体構造物1に接続されるため、浮体構造物1のための係留システム42は、浮体構造物1の横方向の動きを浮体パイプライン4の横方向のリーチの範囲内に制限するように配置されなければならない。したがって、回頭運動(weathervaning)を伴う単点係留は選択肢ではない。したがって、移送システムは、回頭運動を防止し、ひいては浮体パイプライン4全体を保護するマルチブイ係留システム42を備えることが好ましい。マルチブイ係留システム42は、局所環境条件、入射水深、及び係留システムを使用する浮体構造物のサイズ範囲に応じて、構造及び複雑性が異なる可能性がある。マルチブイ係留システム42は通常、海底条件に応じて、鎖若しくはファイバーロープ又は両方の組合せによって海面ブイに接続される、適切な錨を備える。
【0052】
移送システムには、浮体構造物1と移送構造物2との間の接続部が更に設けられており、この接続部は、浮体構造物の船体に対して吸引力をもたらす機能がある機械的接続構成を備えている。吸引力の機能は、好ましくは、例えば真空パッドを用いることにより、大気圧より低い圧力によって確立することができる。必要な吸引力を確立する他の選択肢は、電磁吸引力、太綱、太綱と防舷材との組合せ、又は他の好適な手段によるものとすることができる。
【0053】
理論によって拘束されることは望ましくはないが、いかなる著しい波浪においても2つの独立した浮体構造物の接続の設計は、任意の自由度において、2つの構造物の間の相対運動を可能にするか、又は2つの構造物が独立して動くことを抑止する(refusing)か、若しくは部分的に抑止することからもたらされる力及び/又はモーメントに対処することができなければならない。力の集中が、浮体構造物、移送構造物又はその接続システム自体の構造的完全性を損なわないように、いかなる反作用力又はモーメントも十分に分散しなければならない。係留された浮体構造物の動きは、好都合に、線形運動において分離することができ、それは、波浪強制力及び非線形の低速な漂流運動によって制御され、通常は、非線形の波浪強制力と線形の風及び海流の強制力との組合せによって制御される。ここで、線形性及び非線形性とは、強制周波数と運動周波数の関係を指す。波浪強制運動は、通常、振幅が小さく加速度が大きいことを特徴とするが、他方では、低速な漂流運動は、通常、振幅が大きく加速度が小さいことを特徴とする。さらに、波浪強制運動は、垂直な並進運動及び水平軸を中心とする回転によって支配されることが多く、低速な漂流運動は、水平面において並進的にかつ垂直軸を中心に回転的に作用する。相対運動の制限に関する反作用力及びモーメントの振幅は、相対加速度に比例するため、力及びモーメントは、波浪強制力によって支配される自由度に沿って最大となり、2つの浮体構造物が移送作業中に離れるように漂流する可能性がないため、上記接続構成により、好都合に、波浪強制力によって支配される相対運動が実質的に自由に可能とすることができ、一方で、低速な漂流運動に関する自由度は実質的に抑制することができる。
【0054】
図4及び
図5には、浮体構造物1に移送構造物2を解除可能に取り付ける具体的な接続構成を示す。
図4及び
図5に示すように、X軸30が水平面において浮体構造物2に沿うように定義され、Y軸31が水平面において浮体構造物を横切るように定義され、Z軸32が垂直面に沿うように定義されている方向に関して、上記接続構成により、Z方向32における浮体構造物1と移送構造物2との間の実質的に自由な相対運動と、X軸30に対して平行な軸を中心とする実質的に自由な相対回転と、Y軸31に対して平行な軸を中心とする実質的に自由な回転とが可能になり、一方で、Z軸32を中心とする相対回転と、水平面における相対並進運動とは実質的に制限される。
【0055】
接続構成(即ち、接続装置)は、通常、移送構造物2に配置された少なくとも2つの取付ユニット18を備えることができる。取付ユニットの各々は、浮体構造物1の実質的に垂直な側面、例えば、浮体構造物1が船である場合は船体側面に解除可能に取り付けるための少なくとも1つの取付手段、例えば空気パッド若しくは水真空パッド又は電磁パッド19を備えている。パッド19を備える接続構成は、好ましくは、移送構造物と浮体構造物1との間の必要な相対移動を可能にする好適な接続手段により、移送構造物2に直接取り付けられる。1つ又は複数のパッド19は、玉継手及び/又はディスク継手22とばね要素及び/又は減衰要素が組み込まれた線形運動軸受21との有益な組合せを通して、移送構造物2に機械的に接続されている。パッドの各々は、移送構造物に対して6自由度の運動の可能性を有し、
図5において参照符号30、31及び35によってそれぞれ示すような自由度X、Y及びRZにおける動きは、好ましくは、固有のばね剛性及び/又は減衰を有し、
図4及び
図5において参照符号32、33及び34によってそれぞれ示すような自由度Z、RX及びRYにおける動きは、ごくわずかな固有のばね剛性及び減衰を有しており、ここで、「実質的な」及び「ごくわずかな」という用語は、剛体変位、及び設計波浪における波浪強制力による移送構造物2の速度からもたらされる、ばね力及び減衰力と、設計波浪における波からの対応する強制力との関係を指す。ばね要素及び/又は減衰要素20に対して、すなわち、要素20は、ばね要素のみ、ダンパ要素のみ、又はばね要素及びダンパ要素の組合せを備えることができ、ばね要素は、例えば、ガススプリング、又は張力がかけられるか若しくは圧縮された時に放出可能なエネルギーを蓄積することができる弾性材料から構成された機械的ばねから選択することができる。減衰要素は、例えば、ダッシュポット、リニアダンパー又はショックアブゾーバーから選択するか、エラストマー若しくはコイルばね等の機械的材料から作製するか、又はガス、空気若しくは液圧システム等の流体に頼ることができる。
【0056】
上記接続構成により、低速の漂流運動による横方向の面における比較的小さい加速を制限しながら、線形の波浪強制力からの浮体構造物1と移送構造物2との間の比較的大きい相対加速度での自由度での相対運動が可能になり、それにより、発生する接続力及びモーメントが扱いやすいレベルまで低下する。自由な垂直相対運動により、浮体構造物1が積荷を載せているか又は降ろしている場合、浮体構造物1の或る一定の喫水の変化も可能になる。接続構成は、移動構造物2に永久的に設置される。上述した接続構成では、少なくとも1つの取付手段が移送構造物2に対して受動的に移動可能に移送構造物2に取り付けられていることが必要である(それは、少なくとも1つの取付手段に対して外力及び/又はモーメントが作用しているとき、少なくとも1つの取付手段は、その許容された自由度のうちの1つ又は複数でのみ移動することを意味する)ことが強調されるべきである。
【0057】
上述したように、移送システムは移送構造物2も備えている。移送構造物2は、好ましくは、移送構造物としての役割を果たす具体的な目的に関連するいくつかの有利な特性を備えた浮体構造物の設計を有している。以下の段落は、移送構造物2の性能及び特性に関する好ましい要件について簡単に考察する。
【0058】
2つの独立した浮体構造物、すなわち浮体構造物1及び移送構造物2の部分的に制限された接続は、相対運動が大きくなるほどますます困難になる。相対運動が大きいことは、接続作業を複雑にし、移送ダクトの終端に対する疲労を増大させる要因となり、人員の安全性及び快適さを低減させる可能性がある。浮体構造物の動きは、事前に定義され、変更することができないため、移送構造物の動きは、設計波浪において小さく、例えば、0.5メートル未満のヒーブ運動振幅と、5度未満の回転運動振幅とであることが重要である。移送作業は、通常、適度に保護された場所で行われ、有義波高(significant wave height) は例えば1メートル未満であり、波浪エネルギースペクトルピーク周期は例えば5秒未満であり、ここで、有義波高は、波浪における波の上位1/3の波頂高さの統計的平均を意味する。移送作業は、通常、海岸線の近くで行われるため、かつ局所的な海上交通の障害を低減させるために、移送作業の合間に移送構造物をより陸の近くに移動させることが有利である可能性があるため、入射水深は、大部分の場合、移送構造物の喫水に対して制限を与える。さらに、移送構造物は、予測できる全ての傾斜モーメントに耐えるために十分な復原力を有していなければならない。浮体構造物に接続されている間、移送構造物は、その接続構成自体による傾斜モーメント、人員及び機器に加えて、浮体パイプラインの張力による平均相対水速からの水抗力を受ける。プラットフォームもまた、陸から船への運搬中に傾斜モーメントを受ける可能性もある。このため、水抵抗は小さくなければならず、浮体構造物への取付箇所からの垂直距離、構造物の喫水に関連する潜水した構造物の水抵抗合力は小さくなければならない。さらに、コストの観点から、重量を最小限に維持することが重要である。したがって、移送構造物の設計の主な目的は、復原力、軽量又は小さい喫水を著しく損なうことなく、抗力抵抗を最小限に維持して、プラットフォームに対して波浪強制運動を最小限にすることである。
【0059】
流体力学及び物理学の観点からこれは問題があり、それは、上述したパラメーターが、互いに大きく依存するためである。水粒子の運動及び波の下の動的圧力場は、水柱において指数関数的に下降し、そのため、浮体物体の局所的な波浪強制力もまた、深さによって低減する。したがって、浮体構造物の波浪による応答は、概して、喫水の増大によって低減する。流体力学理論から、浮体物体の小さい線形の波浪による運動の応答は、その運動の固有振動数が、考慮される波浪における支配的なエネルギーによる波浪周波数の間隔の十分外側にあるように、潜水形態、構造物重量及び重量の分布によって達成されることが知られている。自由に浮遊する物体の場合、これは、ヒーブでは、水線面積を低減させることによって、ロール/ピッチでは、横方向/長手方向復原力を十分低下させることによって、有効に達成することができる。他のパラメーターを固定して、浮体物体の全ての固有振動数は、重量の低減によって低下する。このため、小さい一次運動は、概して、復原力、重量、喫水又は上記の組合せを犠牲にして達成される。本設計は、本目的に対して上述した基準を最適に満足させる唯一の目的に対して作成された。
【0060】
図6及び
図7は、水面45の下に部分的に潜水している移送構造物2を概念的に示し、ここでは、大部分の他の浮体概念に対して、水線面積対排水量比が小さく、ロール軸又はピッチ軸を中心とする水線面積対第2慣性モーメント比が小さい。3つの表面貫通柱16が、浮力を提供し、全ての関連する上甲板機器とともに上甲板デッキ構造物15を支持する。柱16は、好ましくは、内部距離が例えば1つの柱の直径の7.5倍であるように、水平面に三角配置され、必要な場合は、ブレースを用いて相互接続することができる。柱の断面は、円形若しくは楕円形若しくは多角形とするか、又は他の好都合な形状とすることができる。移送構造物2には、好ましくは、付加質量及び減衰を増大させる手段が設けられる。各柱16は、設計波浪において著しく高い波高のおよそ2倍の喫水において、例えば2メートルの深さにおいて、浮力及び粘性減衰を増大させるために半径方向に突出することができる。
【0061】
図8に示すように、移送構造物2を安定させるために、各柱16の空洞にバラスト36を充填することができる。バラスト36は、水、又は限定されないが、屑鉄、銅鉱石若しくは他の高密度な鉱石を含む他の任意の好適なバラスト材料からなることができる。
【0062】
上甲板デッキ15と複数の表面貫通柱16とを備える移送構造物2は、下端部に、それぞれの伸縮要素、例えば突出部が設けられた柱16を有することができ、伸縮要素は、上位置と下位置との間で移動可能であり、それにより、柱のそれぞれの長手方向長さが調整可能である。突出部17が
図7に示されており、急峻である場合もあれば緩やかである場合もあり、円形断面形状を有する場合もあれば有していない場合もある。移送構造物2の喫水全体は、有利には、設計波浪の著しい波高の2倍〜4倍である。図に示す移送構造物2は、三角形状を有しているが、異なる形状、例えば、正方形又は矩形形状を与えることもでき、その場合、好ましくは4つの柱がある。
【0063】
柱には、例えば、移送構造物の柱の突出部17の空隙空間に、流体用の貯蔵室を設けることができ、各貯蔵室は、貯蔵室の容積が可変であり、柱16に対する伸縮要素の垂直位置によって決まるように、それらのそれぞれの柱及び伸縮要素によって境界が定められている。
図8に示すように、移送構造物の柱の突出部17の空隙空間は、例えば、開口部又は弁37を通して、突出部の空隙空間から周囲の海水に水が自由に移動することにより、例えば、外部の海水と水平に等価な圧力カラムで、海水36を充填することができる。潜水した突出部(複数の場合もある)17は、好ましくは、柱16に沿って垂直に自由に移動することができ、このため、突出部17内の空隙空間の可変容積が可能になり、それにより、乾舷高さを変更することなく移送構造物2の喫水を変更することが可能になる。突出部17の垂直移動は、例えば、
図8に示すように液圧ロッド38を利用することによって達成することができる。代替的に、
図9(a)〜
図9(c)に示すように、突出部17との空間を充填し及び/又は空にするために、ポンプ39を設けることができる。喫水変更構成により、浅瀬での操縦と、両喫水モードでの及び両喫水モードの合間での適切な復原力を維持しながら、移送中の小さい波浪強制応答が可能になる。
【0064】
移送構造物2は、好都合な輸送のために電動化される場合もあればされない場合もある。さらに、移動構造物2には、移送構造物2を押し引きするために取り付けられる太綱11とともに、タグボート又は小型作業船10(
図12を参照)の停泊のための防舷材12を備えた、トラス構造(
図6を参照)を設けることができる。さらに、移送構造物2は、空中ホースと浮体ホース4との間の流体移送を容易にする剛性パイプを支持し、特に、様々なタイプ、構造及び数の弁25、緊急切離し結合部、ドリップトレイ24、ポンプ、ホースクレードル、航海用信号及び照明並びに安全機器を支持することができる。
【0065】
本明細書に記載した特定の設計は、徹底的な実験を通して、幾つかの以前から既知である浮体概念と比較して全ての上述した要件に関して優れた特性を証明した。
【符号の説明】
【0066】
1 LNG船等の第1の浮体構造物
2 移送プラットフォーム
3 空中ホース(複数の場合もある)
4 浮体パイプライン(複数の場合もある)又は移送ライン(複数の場合もある)
5 移送ライン(複数の場合もある)用の保管構成
6 浮体又は非浮体式の保管、受入れ又は輸出施設
7 係留ブイ
8 移送プラットフォーム用のアイドル係留システム又はドッキング施設
9 移送ライン(複数可)用の案内ローラー
10 タグボート又は小型船等の補助船
11 移送プラットフォームへのタグボート又は小型作業船の停泊用の太綱
12 移送プラットフォームへのタグボート、小型作業船等の停泊用の防舷材を備えたトラス構造物
13 空中ホース(複数の場合もある)を接続し支持するためのクレーン
14 第1の浮体構造物マニホールド
15 移送プラットフォーム上甲板デッキ
16 移送プラットフォーム柱
17 減衰及び浮力を増大させる段部
18 取付ユニット
19 船体側面取付用のパッド
20 ばね要素及び/又は減衰要素
21 線形運動軸受
22 ディスク継手又は玉継手
23 索止め、係柱、ボラード等
24 ドリップトレイ
25 弁
26 フランジ
27 移送ライン連結装置
28 移送ライン曲げ補強材
29 レール
30 運動のX方向
31 運動のY方向
32 運動のZ方向
33 X軸を中心とする回転
34 Y軸を中心とする回転
35 Z軸を中心とする回転
36 バラスト水
37 バラスト水入口/出口弁
38 液圧ロッド
39 バラスト水ポンプ
40 貯蔵タンクに接続された剛性パイプ
41 ローラーにおける浮体パイプライン(複数の場合もある)のための保管構成
42 マルチブイ係留システム
45 水面