特許第6585646号(P6585646)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6585646
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】複合粒子
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/25 20060101AFI20190919BHJP
   A61K 8/26 20060101ALI20190919BHJP
   A61K 8/24 20060101ALI20190919BHJP
   A61K 8/29 20060101ALI20190919BHJP
   A61K 8/81 20060101ALI20190919BHJP
   A61Q 13/00 20060101ALI20190919BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   A61K8/25
   A61K8/26
   A61K8/24
   A61K8/29
   A61K8/81
   A61Q13/00
   A61Q19/00
【請求項の数】17
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-36273(P2017-36273)
(22)【出願日】2017年2月28日
(65)【公開番号】特開2018-140962(P2018-140962A)
(43)【公開日】2018年9月13日
【審査請求日】2018年2月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000182236
【氏名又は名称】エネックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】古谷 篤史
【審査官】 駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−286196(JP,A)
【文献】 特開2009−012996(JP,A)
【文献】 特開平10−017846(JP,A)
【文献】 特開2004−075662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00−8/99
A61Q 1/00−90/00
A61K 9/00−9/72
A61K47/00−47/48
A61K38/00−38/58
A61P1/00−43/00
A61K31/00−31/327
A61K31/33−33/44
A61K 9/00−9/72
A61K47/00−47/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質微粒子と、機能性物質と、該機能性物質の保護剤とを含有する複合粒子であって、
前記多孔質微粒子が、孔径が2nmを超え50nm以下の細孔を有する多孔質微粒子であり、
前記機能性物質が、油溶性の物質であり、
前記保護剤が、N−ビニルピロリドンと不飽和オレフィンとの共重合体であり、
前記多孔質微粒子の細孔に前記機能性物質と前記保護剤とが保持されている、
複合粒子。
【請求項2】
前記多孔質微粒子が、無機物質からなる、請求項1記載の複合粒子。
【請求項3】
前記無機物質が、二酸化珪素、珪酸カルシウム、アパタイト、アルミナ、ゼオライト、二酸化チタン、珪酸塩、リン酸塩及び炭酸塩から選ばれる1種又は2種以上の無機物質である、請求項2記載の複合粒子。
【請求項4】
前記多孔質微粒子が、有機物質からなる、請求項1記載の複合粒子。
【請求項5】
前記有機物質が、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポロテトラフルオロエチレン、ポリオキシメチレン、ポリエチレン、ポリウレタン、セルロース、ポリアミド、ポリビニルホルマール、アクリル樹脂、メラミン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂及びこれらの複合物から選ばれる1種又は2種以上の有機物質である、請求項4記載の複合粒子。
【請求項6】
前記機能性物質が、色素、香料、農薬、医薬、酵素、生理活性物質、薬効成分及び美容成分から選ばれる1種又は2種以上の物質である、請求項1〜5の何れか1項記載の複合粒子。
【請求項7】
前記機能性物質が、80℃で液状の物質である、請求項1〜の何れか1項記載の複合粒子。
【請求項8】
前記保護剤が、80℃で液状の物質である、請求項1〜の何れか1項記載の複合粒子。
【請求項9】
前記機能性物質が香料又は美容成分であり、(香料又は美容成分)/(N−ビニルピロリドンと不飽和オレフィンとの共重合体)の質量比が1/99〜99/1である、請求項1〜8の何れか1項記載の複合粒子。
【請求項10】
前記多孔質微粒子が二酸化珪素であり、前記機能性物質が香料又は美容成分であり、二酸化珪素/(香料又は美容成分+N−ビニルピロリドンと不飽和オレフィンとの共重合体)の質量比が40/60〜99/1である、請求項1〜9の何れか1項記載の複合粒子。
【請求項11】
前記多孔質微粒子の細孔に、前記機能性物質と前記保護剤の混合物が保持されている、請求項1〜10の何れか1項記載の複合粒子。
【請求項12】
請求項1〜11の何れか1項記載の複合粒子と、水系媒体とを含有する、機能性組成物。
【請求項13】
水系媒体の除去により複合粒子から機能性物質が放出される、請求項12記載の機能性組成物。
【請求項14】
多孔質微粒子と、機能性物質と、該機能性物質の保護剤とを混合し、前記多孔質微粒子の細孔に前記機能性物質と前記保護剤とを保持させる、請求項1〜11の何れか1項記載の複合粒子の製造方法。
【請求項15】
前記機能性物質と前記保護剤が、それぞれ液状である、請求項14記載の複合粒子の製造方法。
【請求項16】
前記多孔質微粒子と、前記機能性物質と前記保護剤との混合物とを混合する、請求項14又は15記載の複合粒子の製造方法。
【請求項17】
前記多孔質微粒子と、前記機能性物質と、前記保護剤との混合を減圧下に行う、請求項14〜16の何れか1項記載の複合粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合粒子、機能性組成物及び複合粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
香料、医薬、農薬等の機能性物質を、製剤中での安定性を高めるなどのために、多孔質無機粒子に担持して用いることが行われている。
特許文献1には、直径7〜50Åを有する気孔から構成される少なくとも0.1ml/gの気孔容積を有しており、粒子に香料を吸収させてなる疎水性多孔質無機担体粒子が開示されている。
特許文献2には、酸化珪素を主成分としたメソポーラス粉体に香料を保持させた香料保持粉体が開示されている。
特許文献3には、メソポーラス粉末に保湿剤を吸着させた保湿剤吸着粉末が開示されている。
特許文献4には、細胞膜透過性ベクターに結合された生理活性物質を、メソ孔内に内包する徐放用メソポーラスシリカが開示されている。
特許文献5には、個別化された多孔性粒子であって、10μm以下の体積平均直径、及び1m/g以上の比表面積を有すること及び、該粒子の内部に少なくとも存在するところの、少なくとも1の化粧料的に又は医薬的に活性な化合物を含む粒子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−209189号公報
【特許文献2】特開平11−106324号公報
【特許文献3】特開2001−288030号公報
【特許文献4】特開2009−13142号公報
【特許文献5】特開2005−047893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
香料、油剤などの疎水性の機能性物質を粒子に担持させた場合、水系媒体を用いた製剤中では疎水性の機能性物質が流出してしまうことが判明した。
本発明は、機能性物質を担持した複合粒子であって、水系媒体を用いた製剤中では疎水性機能性物質が安定に保持され、製剤から解放された場合は、疎水性機能性物質を徐放することができる複合粒子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、多孔質微粒子と、機能性物質と、該機能性物質の保護剤とを含有する複合粒子であって、前記多孔質微粒子の細孔に前記機能性物質と前記保護剤とが保持されている、複合粒子に関する。
【0006】
また、本発明は、前記本発明の複合粒子と、水系媒体とを含有する、機能性組成物に関する。
【0007】
また、本発明は、多孔質微粒子と、機能性物質と、該機能性物質の保護剤とを混合し、前記多孔質微粒子の細孔に前記機能性物質と前記保護剤とを保持させる、前記本発明の複合粒子の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、機能性物質を担持した複合粒子であって、水系媒体を用いた製剤中では疎水性機能性物質が安定に保持され、製剤から解放された場合は、疎水性機能性物質を徐放することができる複合粒子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1、比較例1の複合粒子の香料残存率を示すグラフ
図2】実施例3、比較例3の複合粒子の香料残存率を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0010】
<複合粒子>
本発明の複合粒子は、多孔質微粒子と、機能性物質と、該機能性物質の保護剤とを含有し、前記多孔質微粒子の細孔に前記機能性物質と前記保護剤とが保持されている。本発明の複合粒子は、いわゆるマイクロカプセルであってよい。
【0011】
多孔質微粒子としては、無機物質からなる多孔質微粒子が挙げられる。無機物質としては、二酸化珪素、珪酸カルシウム、アパタイト、アルミナ、ゼオライト、二酸化チタン、珪酸塩、リン酸塩及び炭酸塩から選ばれる1種又は2種以上の無機物質が挙げられる。また、無機物質は、無機化合物、例えばここに列挙した無機化合物の複合物であってもよい。例えば、無機物質として、多孔質性を有する天然鉱石のような無機化合物の複合物を用いることもできる。
【0012】
また、多孔質微粒子としては、有機物質からなる多孔質微粒子が挙げられる。有機物質としては、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポロテトラフルオロエチレン、ポリオキシメチレン、ポリエチレン、ポリウレタン、セルロース、ポリアミド、ポリビニルホルマール、アクリル樹脂、メラミン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂及びこれらの複合物から選ばれる1種又は2種以上の有機物質が挙げられる。
【0013】
また、多孔質微粒子は、細孔が形成されているものであれば、例えば、交絡した繊維からなる粒子のような、繊維の集合体からなるものであってもよい。繊維は、天然繊維、合成繊維の何れを用いることもできる。
【0014】
多孔質微粒子は、細孔の孔径が2nm以下のもの(例えば、いわゆるマイクロポーラス微粒子)、2nmを超え50nm以下のもの(例えば、いわゆるメソポーラス微粒子)、50nmを超えるもの(例えば、いわゆるマクロポーラス微粒子)が挙げられる。これら微粒子は、それぞれ、公知の方法で製造することができる。多孔質微粒子の孔径は、ガス吸着法又は水銀圧入法により測定されたものである。ガス吸着法での孔径の測定には、例えば、株式会社島津製作所社製の装置アサップ 2420を使用できる。また、水銀圧入法での孔径の測定には、例えば、株式会社島津製作所製の装置オートポアIV 9520を使用できる。一般に、多孔質微粒子は、毛細管現象により、細孔に機能性物質と保護剤とを吸収、保持できる。
【0015】
多孔質微粒子の比表面積は、用途や剤型などを考慮して、10m/g以上、更に30m/g以上、そして、1000m/g以下、更に800m/g以下とすることができる。多孔質微粒子の比表面積は、ガス吸着BET法により測定されたものである。ガス吸着BET法での比表面積の測定には、例えば、株式会社島津製作所製の装置フローソーブIII 2310を使用できる。
【0016】
多孔質微粒子の平均粒径は、用途や剤型などを考慮して、0.2μm以上、更に0.5μm以上、そして、1000μm以下、更に500μm以下とすることができる。多孔質微粒子の平均粒径は、動的光散乱法又はレーザー回折法により測定されたものである。動的光散乱法での平均粒径の測定には、例えば、株式会社堀場製作所製の装置nano Partica SZ−100を使用できる。また、レーザー回折法での平均粒径の測定には、例えば、株式会社堀場製作所製の装置LA−960を使用できる。
【0017】
多孔質微粒子は、無機物質からなるものでは、二酸化珪素、アパタイト、ゼオライトが好ましく、二酸化珪素がより好ましい。二酸化珪素は、サンスフェア Hシリーズ(AGCエスアイテック株式会社)、ニップシール Eシリーズ(東ソー・シリカ株式会社)などの市販品を用いることができる。
【0018】
機能性物質は、例えば、本発明の複合粒子の目的とする機能や効果を担う主体となる物質である。
機能性物質としては、色素、香料、農薬、医薬、酵素、生理活性物質、薬効成分、美容成分、吸着剤、蓄熱剤、吸水剤などが挙げられる。
機能性物質は、色素、香料、農薬、医薬、酵素、生理活性物質、薬効成分及び美容成分から選ばれる1種又は2種以上の物質が好ましい。機能性物質は、香料及び美容成分から選ばれる1種又は2種以上の物質がより好ましい。
【0019】
前記機能性物質は、油溶性の物質であることが好ましい。ここで、機能性物質についての油溶性とは、水に溶けにくく、油に溶けやすい性質であることをいう。本発明により、油溶性の機能性物質を多孔質微粒子に担持させて粉末化できる。
【0020】
機能性物質は、20℃の水に対する溶解度が5g/100ml以下、更に1g/100ml以下、更に0.1g/100ml以下であることが好ましい。また、機能性物質は、オクタノール/水分配係数が1以上、更に2以上、更に3以上であることが好ましい。
【0021】
機能性物質は、80℃、更に60℃、更に40℃、更に20℃、更に5℃で液状であることが好ましい。この温度で固体の物質であっても、加熱や溶媒による希釈により前記温度で液状にできる物質であれば使用することができる。機能性物質の融点は、80℃以下、更に60℃以下、更に40℃以下、更に20℃以下、更に5℃以下であってよい。
【0022】
機能性物質は、25℃で粘度が3000mPa・s以下、更に1000mPa・s以下、更に50mPa・s以下であることが好ましい。
【0023】
機能性物質は、25℃でpHが9以下、更に8以下、更に7以下であることが好ましい。
【0024】
機能性物質のうち、香料は、20℃の水に対する溶解度が5g/100ml以下、更に1g/100ml以下、更に0.1g/100ml以下であることが好ましい。オクタノール/水分配係数が1以上、更に2以上、更に3以上であることが好ましい。
【0025】
具体的には、香料として、天然香料、合成香料が挙げられる。天然香料としては、ラベンダー油、ティートリー油、スィートオレンジ油、レモン油、サイプレス油、フランキンセンス油、ゼラニウム油、グレープフルーツ油、ジュニパー油、アニス油、ウイキョウ油、スペアミント油、セージ油、チョウジ油、ハッカ油、ユーカリ油、ローズマリー油、ローマカミツレ油、センチフォリアバラ油、メボウキ油、ベルガモット油、コショウ油、ショウズク油、エンピツビャクシン油、カミツレ油、セイロンニッケイ油、コウスイガヤ油、オニサルビア油、コリアンダー油、イタリアイトスギ油、ユーカリシトリオドラ油、ニオイテンジクアオイ油、ショウガ油、ヒバ油、ジャスミン油、セイヨウネズ油、ラバンデュラハイブリダ油、バクホウシアシトリオドラ油、レモングラス油、ライム油、アオモジ油、マンダリンオレンジ油、モツヤクジュ油、ビターオレンジ油、ニュウコウジュ油、ダマスクバラ油、パルマローザ油、セイヨウハッカ油、プチグレン油、セイヨウアカマツ油、ローズウッド油、ビャクダン油、ベチベル油、イランイラン油、ユズ油などが挙げられる。合成香料としては、クシモール、ベチベロール、ケイヒアルデヒド、オイゲノール、α/β−サンタロール、α/β−サンタレン、シトロネロール、ゲラニオール、ネロール、リナロール、β−フェニルエチルアルコール、ジャスモン、ジャスミンラクトン、ベンジルアセタート、リモネン、テルビネン、ピネン、シトラール、ヌートカトン、n−デシルアルデヒド、カレン、大環状ラクトン類、アセチルオイゲノール、メントール、メントン、イソメントン、メンチルアセタート、ムスコン、3−メチルシクロペンタデカン−1−オン、アンブレイン、アンブリノール、ジヒドロヨノンなどが挙げられる。これらの複数を含む天然香料、合成香料、調合香料を使用できる。
【0026】
機能性物質のうち、美容成分は、20℃の水に対する溶解度が5g/100ml以下、更に1g/100ml以下、更に0.1g/100ml以下であることが好ましい。オクタノール/水分配係数が1以上、更に2以上、更に3以上であることが好ましい。
【0027】
具体的には、美容成分としては、保湿剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、美白剤、抗シワ剤、抗菌剤が挙げられる。保湿剤の具体的な化合物としては、鉱物油、植物抽出油、動物抽出油、ムコ多糖体、コラーゲン、スフィンゴ脂質、コレステロールなどが挙げられる。抗酸化剤の具体的な化合物としては、ビタミン類、ビタミン誘導体、ポリフェノール類、カロテノイド類などが挙げられる。紫外線吸収剤の具体的な化合物としては、ケイ皮酸誘導体、安息香酸誘導体、ベンゾフェノン誘導体、サリチル酸誘導体、ジベンゾイルメタン誘導体などが挙げられる。美白剤の具体的な化合物としては、ビタミン類、ビタミン誘導体、ポリフェノール類、カロテノイド類、不飽和脂肪酸などが挙げられる。抗シワ剤の具体的な化合物としては、ムコ多糖体、コラーゲン、スフィンゴ脂質、ビタミン類、ビタミン誘導体、ポリフェノール類、カロテノイド類などが挙げられる。抗菌剤の具体的な化合物としては、植物抽出エキス、パラオキシ安息香酸エステルなどが挙げられる。
【0028】
保護剤は、例えば、機能性物質を多孔質微粒子中に固定、保護する機能を有する。
保護剤としては、ポリオレフィン系化合物、ポリビニルピロリドン系化合物、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、有機珪素化合物及び天然有機高分子化合物から選ばれる1種又は2種以上の物質が挙げられる。
【0029】
保護剤としては、ポリビニルピロリドン系化合物が好ましい。ポリビニルピロリドン系化合物は、N−ビニルピロリドンと不飽和オレフィンとの共重合体が挙げられる。具体的には、N−ビニルピロリドンと炭素数8以上40以下の不飽和オレフィンとの共重合体が挙げられる。より具体的には、N−ビニルピロリドンとヘキサデセンとの共重合体が挙げられる。
N−ビニルピロリドンと不飽和オレフィンとの共重合体の重量平均分子量は、4000g/mol〜40000g/mol、更に4000g/mol〜10000g/molであってよい。この重量平均分子量は、ポリスチレンを標準物質とするゲルパーミエーションクロマトグラフにより測定されたものである。
また、N−ビニルピロリドンと不飽和オレフィンとの共重合体は、N−ビニルピロリドン/不飽和オレフィンのモル比が、10/90〜40/60、更に15/85〜35/65、更に15/85〜30/70であってよい。
【0030】
N−ビニルピロリドンと不飽和オレフィンとの共重合体は、アンタロン V−216、アンタロン V−220(共にアイエスピー・ジャパン株式会社)などの市販品を用いることができる。アンタロン V−216は、重量平均分子量7300g/molを有し、約15〜25%のピロリドン単位と約75〜85モル%のヘキサデセン単位を含むN−ビニルピロリドンとヘキサデセンとの共重合体である。アンタロン V−220は、重量平均分子量8600g/molを有し、約20〜30モル%のピロリドン単位と約70〜80モル%のエイコセン単位を含むN−ビニルピロリドンとエイコセンとの共重合体である。
【0031】
保護剤は、80℃、更に70℃、更に60℃、更に50℃、更に40℃で液状の物質であることが好ましい。保護剤の融点は、80℃以下、更に70℃以下、更に60℃以下、更に50℃以下、更に40℃以下であってよい。
【0032】
保護剤は、機能性物質と相溶性の物質であることが好ましい。
【0033】
保護剤は、後述の機能性組成物で用いる水系媒体に溶解しないことが好ましい。更に、保護剤は、水及び/又は炭素数1〜5の低級アルコールに溶解しないことが好ましい。
【0034】
本発明の複合粒子は、多孔質微粒子の細孔に前記機能性物質と前記保護剤とが保持されている。多孔質微粒子の細孔に、機能性物質と保護剤の混合物が保持されていることが好ましい。多孔質微粒子の細孔に、機能性物質と保護剤とが別々に保持されていてもよいが、その場合は、細孔の多孔質微粒子の中心から、機能性物質、次いで保護剤の順で保持されていること、すなわち、細孔の、多孔質微粒子の表面により近い部分に、保護剤が保持されていることが好ましい。保護剤は、多孔質微粒子の表面を被覆していてもよい。
【0035】
機能性物質と保護剤との比率は、用いる化合物を考慮して適宜決定できる。例えば、機能性物質が香料であり、保護剤がN−ビニルピロリドンと不飽和オレフィンとの共重合体である場合、香料/N−ビニルピロリドンと不飽和オレフィンとの共重合体の質量比は、0.1/99.9〜99.9/0.1、更に1/99〜99/1とすることができる。
また、多孔質微粒子と機能性物質と保護剤との比率も、用いる化合物を考慮して適宜決定できる。例えば、多孔質微粒子が二酸化珪素であり、機能性物質が香料であり、保護剤がN−ビニルピロリドンと不飽和オレフィンとの共重合体である場合、二酸化珪素/(香料+N−ビニルピロリドンと不飽和オレフィンとの共重合体)の質量比は、10/90〜99.1/0.1、更に40/60〜99/1とすることができる。
機能性物質が美容成分、例えば保湿剤である場合、香料を美容成分に置き換えて、上記の質量比を採用できる。
【0036】
本発明の複合粒子は、機能性粒子であることができる。本発明の複合粒子は、種々の分野の製剤に配合することができる。
【0037】
本発明の複合粒子の態様として、二酸化珪素からなる多孔質微粒子と、香料及び美容成分から選ばれる1種以上の成分と、N−ビニルピロリドンと不飽和オレフィンとの共重合体とを含有する複合粒子であって、前記多孔質微粒子の細孔に香料及び美容成分から選ばれる1種以上の前記成分と前記共重合体とが保持されている、複合粒子が挙げられる。この複合粒子には、これまでに述べた本発明の複合粒子に関する好ましい態様、並びに後述の機能性組成物及び複合粒子の製造方法に関する好ましい態様を、適宜適用することができる。例えば、この複合粒子における前記成分は、香料及び保湿剤から選ばれる1種以上の成分が挙げられる。
【0038】
<機能性組成物>
本発明の機能性組成物は、前記本発明の複合粒子と、水系媒体とを含有する。
複合粒子についての具体的な成分及び好ましい態様は、本発明の複合粒子と同じである。
水系媒体は、水、アルコール、ジメチルスルホキシド、ジオキサンなどが挙げられる。アルコールは、炭素数1〜5の低級アルコールが挙げられる。水系媒体は、水、炭素数1〜3の低級アルコールが好ましい。本発明の機能性組成物は、水系媒体として、水を含有することが好ましい。また、水系媒体は、水とアルコールの混合媒体であってもよい。該混合媒体では、水/アルコールの質量比は、1/99〜99/1が好ましい。また、水系媒体が、本発明の複合粒子以外の分散質や溶質を含んでいても良い。例えば、水系媒体は、界面活性剤を含む水溶液、乳化剤を含む乳化液などであってもよい。
【0039】
本発明の機能性組成物は、水系媒体を用いても、組成物中で疎水性機能性物質が安定に保持され、水系媒体への流出が抑制される。一方、外部要因により複合粒子から機能性物質を放出できる。例えば、水系媒体の蒸発、濾過などにより複合粒子が組成物から解放された場合は、細孔中の疎水性機能性物質を徐放することができる。本発明の機能性組成物は、水系媒体の除去により複合粒子から機能性物質が放出される。
【0040】
機能性組成物は、機能性物質に応じた機能を有する組成物である。例えば、機能性物質が香料である場合は、賦香用組成物であることができる。機能性組成物は、複合粒子に保持される機能性物質とは異なる機能を有する組成物であってもよい。例えば、賦香用組成物は、賦香可能な化粧料用組成物であってもよい。
機能性組成物の用途としては、化粧料、塗料、医薬、農薬、吸水性樹脂、消臭剤、揮発性有機化合物(VOC)の吸着剤、蓄熱剤などが挙げられる。
また、機能性組成物は、用途に応じて種々の成分を含有することができる。例えば、界面活性剤、乳化剤、粘度調整剤、pH調整剤、乾燥防止剤、防腐剤、金属イオン封鎖剤、着色剤などを含有することができる。
【0041】
<複合粒子の製造方法>
本発明の複合粒子の製造方法は、多孔質微粒子と、機能性物質と、該機能性物質の保護剤とを混合し、前記多孔質微粒子の細孔に前記機能性物質と前記保護剤とを保持させる。これにより、本発明の複合粒子を製造できる。
多孔質微粒子、機能性物質、保護剤についての具体的な成分及び好ましい態様は、本発明の複合粒子と同じである。
【0042】
本発明の製造方法では、多孔質微粒子と、機能性物質と保護剤との混合物とを混合することが好ましい。これにより、多孔質微粒子の細孔に、機能性物質と保護剤の混合物が保持されている複合粒子が製造される。
【0043】
本発明の製造方法では、多孔質微粒子と、機能性物質と、保護剤との混合を減圧下に行うことが好ましい。この方法は、減圧から大気圧に開放した際に、多孔質微粒子の細孔径の中に機能性物質と保護剤がより侵入し、また、密閉減圧することで酸素の量を減らし、機能性物質の酸化を抑制することができる。また、製造工程の短縮化にもつながる。減圧は、−0.04MPa以下の圧力が好ましい。
【0044】
本発明の製造方法では、機能性物質と保護剤が、それぞれ液状であることが好ましい。すなわち、多孔質微粒子と、液状の機能性物質と、液状の保護剤とを混合することが好ましい。また、多孔質微粒子と、液状機能性物質と液状保護剤との液状混合物とを混合することが好ましい。この方法では、これらの成分を撹拌混合、好ましくは減圧下で撹拌混合することで、複合粒子を製造することができる。
得られた複合粒子は、そのまま、あるいは、水系媒体への撹拌混合や分散などの処理を施して、目的とする用途に供することができる。
【実施例】
【0045】
(実施例1)
真空チャンバー内に、平均粒径3μm、比表面積700m/gの二酸化珪素(AGCエスアイテック株式会社、サンスフェアH−33)50質量部を投入した。これとは別に、機能性物質として香料(高砂香料工業株式会社、ROSE T14008470)40質量部と、保護剤としてN−ビニルピロリドンとヘキサデセンとの共重合体(アイエスピー・ジャパン株式会社、アンタロン V−216)10質量部とを混合した液状混合物を用意した。真空チャンバー内を−0.06MPaの減圧下におきながら、前記香料と前記共重合体の液状混合物を加え、二酸化珪素に充分浸透させた後、30分間撹拌して大気圧に戻した。以上より、香料内包多孔質微粒子を得た。
【0046】
(比較例1)
実施例1と同様に、ただし、保護剤である前記共重合体は使用せず、二酸化珪素の量を60質量部、香料の量を40質量部として、香料内包多孔質微粒子を得た。
【0047】
(評価1)
実施例1又は比較例1で得られた香料内包多孔質微粒子1gを容器(20mlスクリュー管瓶)に入れ、水又はエタノール30%水溶液を10ml添加して、容器を密封し、よく振とうして混合した。混合直後(初期)及び40℃で1ヶ月保管した後の外観を目視で観察し、香料の溶出や浮遊を確認した。結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示すように、保護剤を用いた実施例1では、水及びエタノール水溶液への香料の溶出が抑制される。しかも、この溶出抑制効果は、長期間にわたり効果があることが確認できる。
【0050】
(評価2)
実施例1又は比較例1で得られた香料内包多孔質微粒子2gを容器(上部径77.5mm/下部径70.5mmアルミカップ)に入れ、容器に蓋をせず解放した状態で、40℃で所定日数保管した後の香料の残存率を評価した。香料の残存率は、以下の式により求めた。
香料残存率(%)=(保管後の香料内包多孔質微粒子の質量/保管前の香料内包多孔質微粒子の質量)×100
結果を図1に示す。図1に示すように、実施例1及び比較例1の香料内包多孔質微粒子は、ほぼ同等の残存率を示しており、実施例1の香料内包多孔質微粒子において、保護剤が香料の徐放性を阻害していないことがわかる。なお、図1中、「香料」は、香料のみをそのまま容器に入れて評価した結果である。
【0051】
(実施例2)
真空チャンバー内に、平均粒径3μm、比表面積700m/gの二酸化珪素(AGCエスアイテック株式会社、サンスフェアH−33)55質量部を投入した。これとは別に、機能性物質として保湿剤(和光純薬工業株式会社、ホホバ油)40質量部と、保護剤としてN−ビニルピロリドンとヘキサデセンとの共重合体(アイエスピー・ジャパン株式会社、アンタロン V−216)5質量部とを混合した液状混合物を用意した。真空チャンバー内を−0.06MPaの減圧下におきながら、前記保湿剤と前記共重合体の液状混合物を加え、二酸化珪素に充分浸透させた後、30分間撹拌して大気圧に戻した。以上より、保湿剤内包多孔質微粒子を得た。
【0052】
(比較例2)
実施例2と同様に、ただし、保護剤である前記共重合体は使用せず、二酸化珪素の量を60質量部、保湿剤の量を40質量部として、保湿剤内包多孔質微粒子を得た。
【0053】
(評価3)
実施例2又は比較例2で得られた保湿剤内包多孔質微粒子1gを容器(20mlスクリュー管瓶)に入れ、水又はエタノール30%水溶液を10ml添加して、容器を密封し、よく振とうして混合した。混合直後(初期)及び40℃で1ヶ月保管した後の外観を目視で観察し、保湿剤の溶出や浮遊を確認した。結果を表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
表2に示すように、保護剤を用いた実施例2では、水及びエタノール水溶液への保湿剤の溶出が抑制される。しかも、この溶出抑制効果は、長期間にわたり効果があることが確認できる。
【0056】
(評価4)
実施例2又は比較例2で得られた、調製直後の保湿剤内包多孔質微粒子を手の平に取り、別の手の指で擦り、使用感を確認した。結果を表3に示す。
【0057】
【表3】
【0058】
表3に示すように、保護剤を用いた実施例2では、保護剤を使用していない比較例2と同様にしっとりとした使用感が得られ、実施例2の保湿剤内包多孔質微粒子において、保護剤が保湿剤の徐放性を阻害していないことがわかる。
表2に示したように、実施例2の保湿剤内包多孔質微粒子は、水やエタノール水溶液中で1ヶ月保存後に保湿剤の溶出がないことから、保存後に前記使用感の評価をした場合も、表3と同様の結果が得られると考えられる。一方、比較例2の保湿剤内包多孔質微粒子は、水やエタノール水溶液中で1ヶ月保存した場合は保湿剤の溶出があるため、保存後に前記使用感の評価をした場合は、評価結果が劣るものとなり、表3中の二酸化珪素の結果に近くなると考えられる。
なお、表3中、「二酸化珪素」は、二酸化珪素(AGCエスアイテック株式会社、サンスフェアH−33)のみで評価した結果である。
【0059】
(実施例3)
真空チャンバー内に、平均粒径3μm、比表面積700m/gの二酸化珪素(AGCエスアイテック株式会社、サンスフェアH−33)50質量部を投入した。これとは別に、機能性物質として香料(高砂香料工業株式会社、メントールJP)40質量部と、保護剤としてN−ビニルピロリドンとヘキサデセンとの共重合体(アイエスピー・ジャパン株式会社、アンタロン V−216)10質量部とを混合した液状混合物を用意した。真空チャンバー内を−0.06MPaの減圧下におきながら、前記香料と前記共重合体の液状混合物を加え、二酸化珪素に充分浸透させた後、30分間撹拌して大気圧に戻した。以上より、香料内包多孔質微粒子を得た。
【0060】
(比較例3)
実施例3と同様に、ただし、保護剤である前記共重合体は使用せず、二酸化珪素の量を60質量部、香料の量を40質量部として、香料内包多孔質微粒子を得た。
【0061】
(評価5)
実施例3又は比較例3で得られた香料内包多孔質微粒子1gを容器(20mlスクリュー管瓶)に入れ、水又はエタノール30%水溶液を10ml添加して、容器を密封し、よく振とうして混合した。混合直後(初期)及び40℃で1ヶ月保管した後の外観を目視で観察し、香料の溶出や浮遊を確認した。結果を表1に示す。
【0062】
【表4】
【0063】
表4に示すように、保護剤を用いた実施例3では、水及びエタノール水溶液への香料の溶出が抑制される。しかも、この溶出抑制効果は、長期間にわたり効果があることが確認できる。
【0064】
(評価6)
実施例3又は比較例3で得られた香料内包多孔質微粒子2gを容器(上部径77.5mm/下部径70.5mmアルミカップ)に入れ、容器に蓋をせず解放した状態で、40℃で所定日数保管した後の香料の残存率を評価した。香料の残存率は、以下の式により求めた。
香料残存率(%)=(保管後の香料内包多孔質微粒子の質量/保管前の香料内包多孔質微粒子の質量)×100
結果を図2に示す。図2に示すように、実施例3及び比較例3の香料内包多孔質微粒子は、ほぼ同等の残存率を示しており、実施例3の香料内包多孔質微粒子において、保護剤が香料の徐放性を阻害していないことがわかる。なお、図2中、「香料」は、香料のみをそのまま容器に入れて評価した結果である。
図1
図2