【文献】
STANSBURY J W,Cyclopolymerizable Monomers for Use in Dental Resin Composites,J Dent Res,1990年 3月,Vol.69, No.3,Pages.844-848,ISSN 0022-0345, 特に要約,結果と考察
【文献】
STANSBURY J W,Difunctional and Multifunctional Monomers Capable of Cyclopolymerization,Macromolecules,1991年 4月 1日,Vol.24, No.8,Pages.2029-2035,ISSN 0024-9297, 全文
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0013】
本実施形態では歯科用重合性組成物の一構成例について説明する。
【0014】
本実施形態の歯科用重合性組成物は、環化重合することができる(メタ)アクリレートモノマーを含むことができる。
【0015】
上述の様に歯科用重合性組成物は、硬化前には操作性に優れ、硬化後には十分な機械的強度を有することが求められる。このため、本発明の発明者らは、係る特性を有する歯科用重合性組成物について、鋭意検討を行った。そして、歯科用重合性組成物が環化重合することができる(メタ)アクリレートモノマーを含有することで、硬化前についてはペーストが適度な流動性を有し、すなわち操作に適した粘度を有し、硬化後は十分な機械的強度を発現できることを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
本発明の発明者らの検討によれば、環化重合することができる(メタ)アクリレートモノマーを含有する歯科用重合性組成物は、硬化前については、環化重合していないため、粘度の上昇を抑制し、適度な流動性を有するペーストとすることができる。そして、硬化させる際に環化重合の反応により主鎖に環構造が形成されることで、係る環構造に起因して、高い機械的強度を発揮することができる。
【0017】
このため、本実施形態の歯科用重合性組成物は、硬化前は操作性に優れた特性を有し、かつ硬化後は機械的強度が高いという特性を有することができる。
【0018】
本実施形態の歯科用重合性組成物に含まれる、環化重合することができる(メタ)アクリレートモノマーの具体的な構造は特に限定されるものではない。これは、環化重合することができる(メタ)アクリレートモノマーであれば、その具体的な構造に依らず、硬化前は環構造が形成されていないため適度な流動性を有し、硬化後には環構造が形成されているため、機械的強度を高めることができるためである。なお、本実施形態の歯科用重合性組成物に含まれる環化重合することができる(メタ)アクリレートモノマーは1種類に限定されるものではなく、構造の異なる複数の種類のものを同時に含むこともできる。
【0019】
本実施形態の歯科用重合性組成物は、環化重合することができる(メタ)アクリレートモノマーとして、例えば1,6−ジエン−2−カルボン酸(エステル)モノマー、及び/または1,5−ジエン−2−カルボン酸(エステル)モノマーを含むことができる。
【0020】
なお、本実施形態の歯科用重合性組成物は、環化重合することができる(メタ)アクリレートモノマーが、1,6−ジエン−2−カルボン酸(エステル)モノマー、及び/または1,5−ジエン−2−カルボン酸(エステル)モノマーから構成されていてもよい。
【0021】
1,6−ジエン−2−カルボン酸(エステル)モノマーとしては、1,6−ジエン系モノマーの2位の原子にカルボン酸(エステル)の特性基を含む有機基が結合し、2位以外の二重結合原子には置換基を有していない単量体を用いることができる。
【0022】
また、1,5−ジエン−2−カルボン酸(エステル)モノマーとしては、1,5−ジエン系モノマーの2位の原子にカルボン酸(エステル)の特性基を含む有機基が結合し、2位以外の二重結合原子には置換基を有していない単量体を用いることができる。
【0023】
1,6−ジエン−2−カルボン酸(エステル)モノマー、及び1,5−ジエン−2−カルボン酸(エステル)モノマーは、2位のカルボン酸エステル基により1位の二重結合性が共役性となる。このため、重合活性が高く、さらに2位のみカルボン酸エステル基を有することにより、モノマー濃度が高い条件で重合を行ってもゲル化を抑制でき、重合速度を早くすることができる。
【0024】
1,6−ジエン−2−カルボン酸(エステル)モノマーとしては例えば以下の一般式(a)により表される構造のモノマーを好適に用いることができる。また1,5−ジエン−2−カルボン酸(エステル)モノマーとしては例えば以下の一般式(b)により表される構造のモノマーを好適に用いることができる。
【0026】
【化2】
上記一般式(a)、(b)中のR
1、R
2は、水素原子、または炭素数1以上20以下の炭化水素基とすることができる。ここでいう炭化水素基には、ハロゲン原子等で一部が置換された炭化水素基も含むことができる。
【0027】
本実施形態の歯科用重合性組成物が1,6−ジエン−2−カルボン酸(エステル)モノマー、及び1,5−ジエン−2−カルボン酸(エステル)モノマーを同時に含有する場合、上記一般式(a)、(b)中のR
1と、R
2とは同一の構造を有していても良く、異なる構造を有していてもよい。
【0028】
また、上記一般式(a)、(b)中のX
1、Y
1、Z
1、X
2、及びY
2はそれぞれ、アルキレン基、酸素原子、及びイミノ基から選択されたいずれかとすることができる。ただし、X
1、Y
1及びZ
1のうち、少なくとも1つは酸素原子またはイミノ基であることが好ましい。また、X
2及びY
2のうち少なくとも1つは酸素原子またはイミノ基であることが好ましい。
【0029】
上記一般式(a)に示した構造の1,6−ジエン−2−カルボン酸(エステル)モノマーとしては、例えばアリルオキシメチルアクリル酸エステル類や、2−(N−アリルアミノメチル)アクリル酸エステル類を好ましく用いることができる。
【0030】
アリルオキシメチルアクリル酸エステル類として、具体的には例えば、α−アリルオキシメチルアクリル酸メチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸エチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ブチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸t−ブチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸シクロヘキシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ジシクロペンタジエニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸イソボルニル、α−アリルオキシメチルアクリル酸アダマンチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ベンジル等を挙げることができる。
【0031】
また、2−(N−アリルアミノメチル)アクリル酸エステル類としては例えば、2−(N−アリル N−メチルアミノメチル)アクリル酸メチル、2−(N−アリル N−エチルアミノメチル)アクリル酸メチル、2−(N−アリル N−t−ブチルアミノメチル)アクリル酸メチル、2−(N−アリル N−シクロヘキシルアミノメチル)アクリル酸メチル、2−(N−アリル N−フェニルアミノメチル)アクリル酸メチル等を挙げることができる。
【0032】
上記一般式(a)に示した構造の1,6−ジエン−2−カルボン酸(エステル)モノマーとしては特に、アリルオキシメチルアクリル酸エステル類をより好ましく用いることができる。アリルオキシメチルアクリル酸エステル類としては、α−アリルオキシメチルアクリル酸メチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸エチル、α−アリルオキシメチルアクリル酸シクロヘキシル、α−アリルオキシメチルアクリル酸ベンジルから選択された1種類以上をさらに好適に用いることができ、α−アリルオキシメチルアクリル酸メチル(AMA)を特に好適に用いることができる。
【0033】
また、上記一般式(b)で示した構造の1,5−ジエン−2−カルボン酸(エステル)モノマーとしては、例えば、ビニルオキシメチルアクリル酸エステル類や、N−メチル−N−ビニル−2−(メトキシカルボニル)アリルアミン類、2−(N−ビニルアミノメチル)アクリル酸エステル類を好ましく用いることができる。
【0034】
ビニルオキシメチルアクリル酸エステル類として、具体的には例えば、α−ビニルオキシメチルアクリル酸メチル、α−ビニルオキシメチルアクリル酸エチル、α−ビニルオキシメチルアクリル酸ブチル、α−ビニルオキシメチルアクリル酸t−ブチル、α−ビニルオキシメチルアクリル酸シクロへキシル、α−ビニルオキシメチルアクリル酸ジシクロペンタジエニル、α−ビニルオキシメチルアクリル酸イソボルニル、α−ビニルオキシメチルアクリル酸アダマンチル、α−ビニルオキシメチルアクリル酸ベンジル等が挙げられる。
【0035】
また、N−メチル−N−ビニル−2−(メトキシカルボニル)アリルアミン類としては例えば、N−メチル−N−ビニル−2−(メトキシカルボニル)アリルアミン、N−エチル−N−ビニル−2−(メトキシカルボニル)アリルアミン、N−t−ブチル−N−ビニル−2−(メトキシカルボニル)アリルアミン、N−シクロへキシル−N−ビニル−2−(メトキシカルボニル)アリルアミン、N−フェニル−N−ビニル−2−(メトキシカルボニル)アリルアミン等が挙げられる。
【0036】
また、2−(N−ビニルアミノメチル)アクリル酸エステル類としては例えば、2−(N−ビニル N−メチルアミノメチル)アクリル酸メチル、2−(N−ビニル N−エチルアミノメチル)アクリル酸メチル、2−(N−ビニル N−t−ブチルアミノメチル)アクリル酸メチル、2−(N−ビニル N−シクロヘキシルアミノメチル)アクリル酸メチル、2−(N−ビニル N−フェニルアミノメチル)アクリル酸メチル等が挙げられる。
【0037】
上記一般式(b)で示した構造の1,5−ジエン−2−カルボン酸(エステル)モノマーとしては、特に、α−ビニルオキシメチルアクリル酸メチル、α−ビニルオキシメチルアクリル酸エチル、α−ビニルオキシメチルアクリル酸シクロヘキシル、α−ビニルオキシメチルアクリル酸ベンジルをより好ましく用いることができ、α−ビニルオキシメチルアクリル酸メチルをさらに好ましく用いることができる。
【0038】
特に、本実施形態の歯科用重合性組成物は、環化重合することができる(メタ)アクリレートモノマーとして、上記一般式(a)に示した構造の1,6−ジエン−2−カルボン酸(エステル)モノマーを含有することがより好ましい。そして、1,6−ジエン−2−カルボン酸(エステル)モノマーとしては、既述のようにアリルオキシメチルアクリル酸エステル類をより好ましく用いることができる。このため、本実施形態の歯科用重合性組成物は、環化重合することができる(メタ)アクリレートモノマーとして、以下の式(a´)で表される構造を有するモノマーを含有することが特に好ましい。
【0039】
【化3】
式(a´)中、Rは水素原子、または炭素数が1以上20以下の炭化水素基とすることができる。なお、ここでいう炭化水素基には、ハロゲン原子等で一部が置換された炭化水素基も含むことができる。
【0040】
本実施形態の歯科用重合性組成物中の環化重合することができる(メタ)アクリレートモノマーの配合量は特に限定されないが、例えば5重量%以上60重量%以下であることが好ましく、より好ましくは10重量%以上55重量%以下である。
【0041】
ここまで本実施形態の歯科用重合性組成物に含まれる、環化重合することができる(メタ)アクリレートモノマーについて説明してきたが、係る環化重合することができる(メタ)アクリレートモノマーは、重合反応を行うことにより、構造中に環構造を形成することができる。この点について以下に説明する。
【0042】
上記一般式(a)に示した構造の1,6−ジエン−2−カルボン酸(エステル)モノマーの場合、環化重合することで、以下の一般式(A1)及び/または一般式(A2)で示す構造単位を形成することができる。
【0044】
【化5】
また、上記一般式(b)に示した構造の1,5−ジエン−2−カルボン酸(エステル)モノマーの場合、環化重合することで、以下の一般式(B1)及び/または一般式(B2)で示す構造単位を形成することができる。
【0046】
【化7】
本実施形態の歯科用重合性組成物に含まれる、環化重合することができる(メタ)アクリレートモノマーは、例えば一般式(A1)、(A2)、(B1)、(B2)に示したように環化重合により構造中に環構造を形成することができる。このように、硬化する際に構造中に環構造を形成することにより、硬化した歯科用重合性組成物の機械的強度を高められる。
【0047】
本実施形態の歯科用重合性組成物は、環化重合することができる(メタ)アクリレートモノマー以外にも必要に応じて任意の成分を含有することができる。
【0048】
以下、任意の成分の例について説明する。
【0049】
本実施形態の歯科用重合性組成物はさらに、上記の環化重合することができる(メタ)アクリレートモノマー以外の(メタ)アクリレート化合物を含有することもできる。ここでいう、環化重合することができる(メタ)アクリレートモノマー以外の(メタ)アクリレート化合物とは、アクリレートまたはメタクリレートの各種のモノマー、オリゴマー、プレポリマーを意味している。
【0050】
本実施形態の歯科用重合性組成物で使用することが可能な、環化重合することができる(メタ)アクリレートモノマー以外の(メタ)アクリレート化合物として具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジ(メタ)アクリロキシプロパン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらのモノマーあるいはオリゴマーあるいはプレポリマーが好適に使用できる。
【0051】
また、本実施形態の歯科用重合性組成物では、環化重合することができる(メタ)アクリレートモノマー以外の(メタ)アクリレート化合物として、ウレタン結合を持つ(メタ)アクリレートを使用することもできる。ウレタン結合を持つ(メタ)アクリレートとして、ジ−2−(メタ)アクリロキシエチル−2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジカルバメート、1,3,5−トリス[1,3−ビス{(メタ)アクリロイルオキシ}−2−プロポキシカルボニルアミノヘキサン]−1,3,5−(1H,3H,5H)トリアジン−2,4,6−トリオン、2,2−ビス−4−(3−(メタ)アクリルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−フェニルプロパン等があり、その他2,2’−ジ(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンと2−オキシパノンとヘキサメチレンジイソシアネートと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとからなるウレタンオリゴマーの(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールとヘキサメチレンジイソシアネートと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとからなるウレタンオリゴマーの(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは単独または2種類以上を混合して使用することができる。
【0052】
本実施形態の歯科用重合性組成物では、環化重合することができる(メタ)アクリレートモノマー以外の(メタ)アクリレート化合物として、酸基を有する(メタ)アクリレート化合物を使用することもできる。酸基を有する(メタ)アクリレート化合物は本実施形態の歯科用重合性組成物に、歯質や、歯科用修復物の材料であるジルコニア及びアルミナ等のセラミックス、また貴金属を含む合金への接着性を付与する効果がある。
【0053】
酸基を有する(メタ)アクリレート化合物はリン酸基またはカルボキシル基を有する(メタ)アクリレート化合物であることが好ましく、1分子中にリン酸基またはカルボキシル基を1個または複数個有する(メタ)アクリレート化合物を使用できる。
【0054】
リン酸基はカルボキシル基よりも強い酸性を示すことから、歯面のスメアー層の溶解や歯質脱灰の効果が高く、特にエナメル質に対して高い接着性の向上効果を発揮する。リン酸基を有する(メタ)アクリレート化合物としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、ビス[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]ハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルフェニルハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルプロパン−2−ジハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルプロパン−2−フェニルハイドロジェンホスフェート、ビス[5−{2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニル}ヘプチル]ハイドロジェンホスフェート等が挙げられる。中でも10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートが接着性の向上、及び(メタ)アクリレート化合物自体の安定性の点から特に好ましい。これらのリン酸基を有する(メタ)アクリレート化合物は、単独あるいは2種類以上を混合して用いても良い。
【0055】
カルボキシル基を有する(メタ)アクリレート化合物としては、4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸、4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸無水物、4−(メタ)アクリロキシデシルトリメリット酸、4−(メタ)アクリロキシデシルトリメリット酸無水物、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシピロメリット酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルマレイン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸等が挙げられる。中でも4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸,4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸無水物が接着性の向上の点から特に好ましい。
【0056】
本実施形態の歯科用重合性組成物中の環化重合することができる(メタ)アクリレートモノマー及び、環化重合することができる(メタ)アクリレートモノマー以外の(メタ)アクリレート化合物の合計の配合量は特に限定されないが、例えば5重量%以上90重量%以下であることが好ましく、より好ましくは30重量%以上70重量%以下である。
【0057】
本実施形態の歯科用重合性組成物はさらにフィラーを含有することもできる。フィラーを含有することで、歯科用重合性組成物が硬化した際の機械的強度をさらに高めることができる。
【0058】
従来の歯科用重合性組成物にフィラーを添加した場合、硬化前の歯科用重合性組成物の粘度が高くなり、操作性が低下する場合があった。しかしながら、本実施形態の歯科用重合性組成物においては、環化重合することができる(メタ)アクリレートモノマーを用いているため、フィラーを添加した場合であっても、硬化前の歯科用重合性組成物の粘度を適切な範囲に保つことができる。このため、操作性が低下することを抑制することができる。
【0059】
本実施形態の歯科用重合性組成物に用いるフィラーの種類は特に限定されるものではないが、例えば、無水ケイ酸、カルシウムガラス、ストロンチウムガラス、バリウムガラス等のアルカリ土類金属原子を含むガラス、亜鉛ガラス、鉛ガラス、アルミナガラス、カリウムガラス、フルオロアルミノシリケートガラス等のガラス類、合成ゼオライト、リン酸カルシウム、長石、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、炭酸マグネシウム、含水ケイ酸、含水ケイ酸カルシウム、含水ケイ酸アルミニウム、石英等の粉末を好適に用いることができる。
【0060】
なお、これらのフィラーは、本実施形態の歯科用重合性組成物に含まれる(メタ)アクリレート化合物と結合させるために、表面を有機ケイ素化合物を用いてシラン化してから使用することが望ましい。例えば表面処理剤としてγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリ(メトキシエトキシ)シラン等の有機ケイ素化合物を用いて、シラン化してから用いることができる。
【0061】
また、フィラーとしては、上述のフィラーを予め、本実施形態の歯科用重合性組成物に用いる(メタ)アクリレート化合物のモノマーやオリゴマーと混合して硬化させた後、粉砕して作製した有機無機複合フィラーも使用することができる。これらのフィラーは単独または2種類以上を混合して使用することができる。
【0062】
本実施形態の歯科用重合性組成物にフィラーを添加する場合、その配合量は特に限定されるものではなく、用途や、歯科用重合性組成物に要求される機械的強度等に応じて任意に選択することができる。例えば歯科用重合性組成物中にフィラーを20重量%以上90重量%以下の割合で配合することが好ましい。より好ましくは、30重量%以上80重量%以下である。
【0063】
またフィラーの平均粒子径についても特に限定されるものではないが、0.005μm以上100μm以下であることが好ましい。より好ましくは、0.01μm以上50μm以下である。なお、平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒子径を意味する。
【0064】
また、本実施形態の歯科用重合性組成物は、例えば重合開始剤をさらに含むこともできる。(メタ)アクリレートモノマーの重合開始方法は特に限定されるものではなく、例えば、熱や可視光、電磁波(赤外線、紫外線、X線等)、電子線などにより、重合開始に必要なエネルギーを本実施形態の歯科用重合性組成物に供給すればよい。ただし、重合を開始する方法によらず、本実施形態の歯科用重合性組成物が重合開始剤を含有することにより、(メタ)アクリレートモノマーの重合開始に必要なエネルギーを大きく下げることができ、かつ反応制御が容易になる。このため、重合開始剤を含有することが好ましい。
【0065】
重合開始剤としては例えば過酸化物やアゾ化合物等を好ましく用いることができる。具体的には例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシー2−エチルヘキサノエート、アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、過酸化水素、過硫酸塩、過酸化ベンゾイル等から選択された1種類以上を好ましく用いることができる。また、重合開始剤とともに、遷移金属塩や、アミン類などの還元剤をあわせて用いることもできる。
【0066】
本実施形態の歯科用重合性組成物は、自ら硬化する特性を与えるために、さらに光重合開始剤を含むこともできる。例えば、α−ジケトン系化合物、ケタール系化合物、アントラキノン系化合物、チオキサントン系化合物、ベンゾインアルキルエーテル系化合物等が有効である。また、アシルホスフィンオキサイド系化合物等を併用してもよい。
【0067】
α−ジケトン系化合物としては、例えばカンファーキノン、ベンジル、ジアセチル、アセナフテンキノン、9,10−フェナントラキノン等が挙げられる。
【0068】
ケタール系化合物としては、例えば、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジルジ(β−フェニルエチル)ケタール、ベンジルジ(2−メトキシエチル)ケタール等が挙げられる。
【0069】
アントラキノン系化合物としては、例えば、アントラキノン、β−メチルアントラキノン、β−エチルアントラキノン等が挙げられる。
【0070】
またチオキサントン系化合物としては、例えば、2−エチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−ヒドロキシ−3−(3,4−ジメチル−9−オキソ−9H−チオキサンテン−2−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウムクロライド等が挙げられる。
【0071】
ベンゾインアルキルエーテル系化合物としては、例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル等が挙げられる。
【0072】
これらの光重合開始剤の中でも、カンファーキノンや、ベンジルを特に好ましく用いることができる。
【0073】
また、アシルホスフィンオキサイド系化合物としては、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0074】
また、本実施形態の歯科用重合性組成物は例えば増粘剤を含有することもできる。増粘剤を添加することによって、硬化前の歯科用重合性組成物の粘度を、用途に応じて調整し、操作性を特に高めることができる。
【0075】
増粘剤としては無機系増粘剤、有機系増粘剤のいずれを用いてもよい。これらの増粘剤は単独または2種類以上を混合して用いてもよい。
【0076】
無機系増粘剤としては例えば、ヒュームドシリカ、ジルコニア、シリカアルミナ、アルミナ、ガラス、チタニア、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、雲母、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化チタン、リン酸カルシウム等を挙げることができる。
【0077】
また、有機系増粘剤としては例えば、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、デンプン,デンプングリコール酸ナトリウム、デンプンリン酸エステルナトリウム、メチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸,アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、カゼイン、カゼインナトリウム、ポリエチレングリコール、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース,グルテン、ローカストビーンガム、ゼラチン等を挙げることができる。
【0078】
増粘剤の添加量は特に限定されるものではなく、用途等に応じて本実施形態の歯科用重合性組成物の粘度が所望の粘度となるように、任意に選択することができる。
【0079】
本実施形態の歯科用重合性組成物には、さらに、重合禁止剤、酸化防止剤、変色防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、顔料、香料、抗菌剤等を添加してもよい。
【0080】
本実施形態の歯科用重合性組成物によれば、硬化前の操作性に優れ、かつ硬化後の機械的強度に優れた歯科用重合性組成物を提供することができる。
【0081】
ここで歯科用重合性組成物の操作性の指標としては、ちょう度が挙げられる。
【0082】
ちょう度の具体的な試験方法については実施例において詳述するが、例えばセロファン間に歯科用重合性組成物を所定量配置した後、セロファン上に板状体を介して錘を置く。そして、所定時間経過後に板状体と錘を除去した後、拡がった歯科用重合性組成物の長辺と短辺との長さの平均値をちょう度とすることができる。
【0083】
本実施形態の歯科用重合性組成物のちょう度は、50mm以上100mm以下であることが好ましく、60mm以上100mm以下であることがより好ましい。
【0084】
ちょう度は上述の試験方法の概要からもわかるように、歯科用重合性組成物に力を加えた際の、歯科用重合性組成物の拡がりの程度を数値化したものである。そして、ちょう度が50mm以上100mm以下の場合、歯科用重合性組成物は適度な粘度、流動性を有し、操作性に優れた歯科用重合性組成物であるといえるため、好ましい。
【0085】
また、歯科用重合性組成物の硬化後の機械的強度の具体的な試験方法については実施例において詳述するが、三点曲げ試験により評価することができる。
【0086】
本実施形態の歯科用重合性組成物の硬化後の機械的強度は、180MPa以上350MPa以下であることが好ましく、190MPa以上350MPa以下であることがより好ましい。
【0087】
これは180MPa以上の場合には、天然歯と比較しても十分な機械的強度を有しているといえ、天然歯と置換可能な程度に十分な機械的強度を有するといえるからである。ただし、機械的強度を過度に高くする必要はないことから、上述の様に350MPa以下であることが好ましい。
【0088】
ここまで、本実施形態の歯科用重合性組成物について説明したが、本実施形態の歯科用重合性組成物の用途については特に限定されるものではない。例えば、歯の欠損部や、治療のために形成した窩洞部を充填する等の用途や、治療時の固定用の接着剤等として用いることができる。具体的には例えば、コンポジットレジン、硬質レジン、レジンセメント、ボンディング材、動揺歯固定用接着材、即重レジン、レジン強化型グラスアイオノマーセメント、コア材、表面コート剤、テンポラリークラウン(TEK)材、機械加工用レジンブロック、義歯床用レジンブロック等の各種用途に用いることができる。
【0089】
本実施形態の歯科用重合性組成物によれば、硬化前の操作性に優れ、かつ硬化後の機械的強度に優れている。このため、型への充填が容易であり、硬化後の機械的強度を高くすることから、例えば機械加工用レジンブロックに好適に用いることができる。
【0090】
なお、機械加工用レジンブロックとは、インレー、クラウン等の歯科用補綴物をCAD/CAM装置による切削加工で作製する際に用いる歯科用レジンブロックのことを意味する。
【0091】
機械加工用レジンブロックの製造方法について説明する。機械加工用レジンブロックの製造方法は、以下の工程を有することができる。
【0092】
本実施形態の歯科用重合性組成物を所望の形状を有する型に注入する工程。
本実施形態の歯科用重合性組成物を注入した型を、1.0MPa以上8.0MPa以下の範囲で加圧し、昇圧完了とともに60℃以上200℃以下の範囲で加熱する加圧、加熱工程。
【0093】
以上の工程を実施することにより歯科用重合性組成物を重合・硬化させブロック体形状に成型し、機械加工用レジンブロックを得ることができる。
【0094】
ここで、型を構成する材料は、金属以外の材料とすることが好ましく、型としての寸法精度や成型性の観点から合成樹脂を材料とすることがより好ましい。特に型を構成する材料は、熱可塑性樹脂、またはシリコーン樹脂であることがさらに好ましい。これは、型の材料として金属以外の材料を用いることで、製造される機械加工用レジンブロックに亀裂が発生することを大幅に低減することができるからである。
【0095】
なお、型を構成する材料として熱可塑性樹脂を用いる場合、熱可塑性樹脂としては例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリル樹脂等を好ましく用いることができる。
【0096】
また、型は多孔質体等の構造物であってもよい。例えばセラミックス等から構成される連通性の多孔質体に合成樹脂を注入あるいは含浸させる場合において、本実施形態の歯科用重合性組成物は重合前の組成物の粘度が低いため、該合成樹脂として本実施形態の歯科用重合性組成物を好適に用いることができる。
【0097】
型の形状は特に限定されるものではなく、作製する機械加工用レジンブロックに対応した形状を有することができる。機械加工用レジンブロックの形状は特に限定されるものではなく、例えば直方体または円柱体を有することができる。ただし、機械加工用レジンブロックの形状を、予めインレーやクラウンの形状に近似させた形状にしておくと切削加工時の切削量を少なく抑えることができて好ましい。このため、作製する機械加工用レジンブロックの形状をインレー等の形状に近似させた形状とすることもでき、この場合、作製する機械加工用レジンブロックの形状に合わせて型の形状を選択することができる。
【0098】
なお、加圧・加熱工程における加圧力については、加圧力を1.0MPa以上とすることで、成型体中に気泡が混入することを十分に抑制し、チッピングの原因となるような気泡の発生を抑制できる。また、加圧力が8.0MPaを超えても歯科用レジンブロックの性能自体に影響はないが、加圧力を上げることによる更なる効果の向上は認められずかつ高圧を維持するのが難しくなるため、8.0MPa以下とすることが好ましい。
【0099】
加圧・加熱工程において加圧する際には、オートクレーブ等の耐圧性を有する加熱炉内に気体を供給することで加圧することができる。この際、用いる気体は特に限定されるものではないが、不活性ガスを用いることが好ましく、例えば窒素ガスを好ましく用いることができる。このとき、気体を加熱炉内に供給する前に、予め該加熱炉内を加圧用の気体により置換しておくことが好ましい。
【0100】
加圧・加熱工程における加熱温度については、加熱温度を60℃以上とすることで、モノマーの重合を十分に促進することができ、未重合のモノマーが残留することを抑制できる。ただし、重合時間が長くなることを回避して生産性を向上させる観点から80℃以上とすることが好ましい。一方、200℃を超える場合は、加圧及び加熱を行うために用いるオートクレーブ等の装置に使用するパッキンの材質が制限される場合があるため、200℃以下とすることが好ましい。
【0101】
加圧・加熱工程を行う時間は特に限定されず、例えば、作製する機械加工用レジンブロックのサイズ等に応じて任意に選択できるが、例えば加圧及び加熱をあわせて10分以上90分以下実施することが好ましい。すなわち、昇圧、及び昇温を行い、所定の圧力、及び温度に到達してから、10分以上90分以下保持することが好ましい。これは、10分以上90分以下加圧及び加熱を実施することで、品質と生産性とを両立できるからである。
【0102】
以上のような条件で機械加工用レジンブロックを製造することにより、成型性がよく、亀裂や気泡が少ない機械加工用レジンブロックを得ることができる。特に、本実施形態の歯科用重合性組成物を硬化させて形成しているため、機械的強度に優れた機械加工用レジンブロックとすることができる。
【0103】
得られた機械加工用レジンブロックは、患者の口腔から採取した印象の形状を元に作製された三次元座標データに基づいて、NC制御された加工機等により切削加工することでインレーやクラウンとすることができる。
【0104】
なお、ここでは機械加工用レジンブロックの場合について、本実施形態の歯科用重合性組成物の使用例を具体的に説明したが、本実施形態の歯科用重合性組成物の用途は係る形態に限定されるものではない。既述のように本実施形態の歯科用重合性組成物は各種用途に用いることができ、各種用途の用法に応じて使用することができる。
【実施例】
【0105】
以下に具体的な実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0106】
まず、以下の実施例、比較例で作製したペースト状の歯科用重合性組成物の評価方法について説明する。
(1)ちょう度
以下の実施例、比較例で作製したペースト状の歯科用重合性組成物をシリンジに充填し、セロファンの上に歯科用重合性組成物を0.5ml押し出した。
【0107】
押し出した歯科用重合性組成物の上に静かにセロファンを被せた後、総重量840gとしたカバーガラスと錘を静かに乗せ、60秒間静置した。60秒経過後ただちにカバーガラスと錘を外し、拡がったペーストの長辺と短辺の長さを測定し、長辺の長さと、短辺の長さとの平均値をちょう度とした。
(2)成型性
以下の実施例、比較例で作製したペースト状の歯科用重合性組成物をシリンジに充填し、12mm×14mm×20mmのポリプロピレン型に注入した。
【0108】
歯科用重合性組成物が満たされた型をオートクレーブ(株式会社協真エンジニアリング製)内に固定した。そして、濃度99.9%の窒素を0.3MPaとなるまで、該オートクレーブ内に導入した後、排気することで、オートクレーブ内を置換した。同様にして、上記の1回を含めてオートクレーブ内を合計3回窒素で置換してオートクレーブ内の酸素濃度を1.0%未満とした。
【0109】
上記置換の操作が終了後、オートクレーブ内に濃度99.9%の窒素をさらに供給して1.0MPaまで昇圧し、昇圧完了と同時に炉内を110℃に昇温させ1時間重合硬化させた。1時間経過後、圧力を大気圧まで降下させ、炉内が60℃以下に冷めてから型を取り出し、重合した歯科用レジンブロックを当該型から抜き取った。
【0110】
成型した歯科用レジンブロックに空隙がなく型の内面形状に沿っており、形状が適正であるか確認した。そして、成型した歯科用レジンブロックに空隙がなく、型の内面形状に沿っており、形状が適正な場合には良好と評価した。また、空隙が生じている場合には空隙ありと評価した。
(3)機械的強度
成型性の評価において成型した歯科用レジンブロックを1.2mm×4.0mm×14.0mmに切断し、表面を耐水研磨紙1000番で均一化してから曲げ強さ試験装置(オートグラフ、株式会社島津製作所製)に取り付けた。そして、クロスヘッドスピード1mm/min.、支点間距離12mmの条件で三点曲げ強さを測定し、測定結果を機械的強度とした。
[実施例1]
表1に示す配合となるように原料を秤量、混練し、ペースト状の歯科用重合性組成物を作製した。
【0111】
具体的には(メタ)アクリレートモノマーと、フィラーと、重合開始剤とを秤量、混練して、ペースト状の歯科用重合性組成物を作製した。
【0112】
なお、(メタ)アクリレートモノマーとして、UDMA(ジ−2−メタクリロキシエチル−2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジカルバメート)を25重量%と、AMA(α−アリルオキシメチルアクリル酸メチル)を12重量%とを用いた。
【0113】
また、フィラーとしては、MPTS6質量%処理バリウムガラスを60重量%用いた。
【0114】
ここで、MPTSとはγ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランを意味している。そして、MPTS6質量%処理バリウムガラスのフィラーとは、バリウムガラス粉末を、シランカップリング剤であるγ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランがバリウムガラス粉末に対して6質量%になるように処理したフィラーであることを意味している。
【0115】
また、用いたフィラーは表1に示すように平均粒子径が0.4μmであった。平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒子径を意味する。なお、表1中、実施例1で用いたフィラー以外についても平均粒子径を示しているが、これらの平均粒子径は上述の説明と同様に、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒子径を意味する。
【0116】
そして、重合開始剤としてはBPO(過酸化ベンゾイル)を1重量%用いた。
【0117】
得られた歯科用重合性組成物について上述の方法により評価を行った。
【0118】
結果を表1に示す。
[実施例2〜実施例8]
原料の配合割合を表1に示した割合とした点以外は、実施例1と同様にしてペースト状の歯科用重合性組成物を作製し、評価を行った。
【0119】
結果を表1に示す。
【0120】
なお、表1中の配合材料についての数値の単位は重量%である。
【0121】
また、表1中で(メタ)アクリレートモノマーに関して用いた略称はそれぞれ次の化学物質を意味する。
UDMA:ジ−2−メタクリロキシエチル−2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジカルバメート
Bis−GMA:ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート
NPG:ネオペンチルグリコールジメタクリレート
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
AMA:α−アリルオキシメチルアクリル酸メチル
上記した(メタ)アクリレートモノマーのうち、AMAが環化重合することができる(メタ)アクリレートモノマーに当たる。
【0122】
また、重合開始剤として用いたBPOとは、過酸化ベンゾイルを示している。
【0123】
さらに、表1中、フィラーとして有機無機複合充填材と記載しているのは以下の手順により作製したフィラーを意味している。
【0124】
UDMAと3Gとを1:1の重量比で混合し、さらにアゾイソブチロニトリルを添加して混合液を調製した。なお、アゾイソブチロニトリルは、得られる混合液中の配合量が1重量%となるように添加した。
【0125】
得られた混合液と、平均粒子径2μmのバリウムガラス粉末を1:1の重量比で混合し、110℃で熱硬化させた。硬化後の重合物を平均粒子径10μmに粉砕し、これを有機無機複合充填材とした。
【0126】
また、表1中のMPTS6質量%処理ストロンチウムガラスとは、ストロンチウムガラス粉末を、シランカップリング剤であるγ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランがストロンチウムガラス粉末に対して6質量%となるように処理したフィラーであることを意味している。
[比較例1〜比較例3]
原料の配合割合を表1に示した割合とした点以外は、実施例1と同様にしてペースト状の歯科用重合性組成物を作製し、評価を行った。
【0127】
結果を表1に示す。
【0128】
【表1】
環化重合することができるAMAが配合された実施例1〜実施例8は、ちょう度、成型性、機械的強度のすべてが良好であった。すなわち、硬化前の操作性に優れ、かつ硬化後の機械的強度に優れた歯科用重合性組成物となっていることが確認できた。
【0129】
これに対して、比較例1は機械的強度が226MPaと良好な値を示したが、ちょう度が35mmと低い値であり流動性が低いことが確認できた。すなわち、硬化前の操作性に劣ることが確認できた。さらに、成型後の歯科用レジンブロックの表面に空隙が確認された。
【0130】
また、比較例2は、ちょう度が55mmと良好な値を示し成型性も良好であったが、機械的強度が153MPaと低い値であり、硬化後の機械的強度に劣ることが確認できた。
【0131】
比較例3は、ちょう度、機械的強度が低く、成型後のブロック表面に空隙の発生が確認された。すなわち、硬化前の操作性、及び硬化後の機械的強度について劣っていることが確認された。
【0132】
これは、比較例1〜比較例3においては、環化重合することができる(メタ)アクリレートモノマーが配合されていないため、硬化前の操作性と、硬化後の機械的強度を両立した歯科用重合性組成物とすることができなかったためと考えられる。
【0133】
以上に歯科用重合性組成物を、実施形態、実施例等で説明したが、本発明は上記実施形態、実施例等に限定されない。特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【0134】
本出願は、2015年8月11日に日本国特許庁に出願された特願2015−158918号に基づく優先権を主張するものであり、特願2015−158918号の全内容を本国際出願に援用する。