【発明が解決しようとする課題】
【0004】
表面EMG技術は、筋組織により発生する非常に小さな電気変動の検出、処理及び記録を含む。これらの信号は、たった数マイクロボルト(μV)の大きさしかないほど低く、従って、測定システムから又は人間の身体自身の何れかによる他のより有力なノイズ発生源からの干渉を受けることになる。
【0005】
表面EMGの1つの応用は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)又は他の呼吸器疾患の患者の神経呼吸ドライブ(NRD)を評価するのに使用される、胸部の傍胸骨部(parasternal region)における呼吸活動を決定することである。呼吸活動は、傍胸骨肋間筋(parasternal intercostal muscle)からの筋電図測定値を用いて計算される。
【0006】
国際特許出願公開番号WO 2013/045920 A1は、対応する患者観察方法及び観察装置を開示している。神経呼吸ドライブ(NRD)は、第2肋間腔の傍胸骨の筋電図の測定値を得ることにより測定される。信号は、従来の電極及び増幅器を使用して取得される。EMG信号を改善するために、フィルタリングアルゴリズムを適用して、EMG信号から筋電図(EMG)アーチファクトを取り除くことが提案されている。ベースラインノイズを取り除くために、生の信号にハイパスフィルターが適用され、及び呼吸アーチファクトを取り除くために、12Hzから20Hzまでの間の追加のバンドパスフィルタリングが行われる。
【0007】
Murphy他著、"Neural respiratory drive as a physiological biomarker to monitor change during acute exacerbations of COPD", p. 602-608, Thorax 2011も第2肋間腔の傍胸骨の筋電図(EMG)の活動を測定することにより、神経呼吸ドライブ(NRD)を観察することを教えている。解析は、二乗平均平方根(RMS)のEMG信号を使用している。呼吸の吸気相と呼気相とを特定するために、鼻カニューレは、差圧トランスデューサ(Validyne DP45, Validyne, Northridge, California USA)に接続される。
【0008】
Murphy他著はさらに、他の胸壁の筋肉からの汚染を取り除けないことを教えている。従って、患者の位置及び電極の位置は、データの取得中、第2肋間腔の傍胸骨筋の吸気EMG信号への寄与を最大する、及び他の筋肉の活動を最小にするように注意深く観察される。その上、Murphy他著は、ニードル電極の技術が傍胸骨筋の活動を分離するのに使用されることを教えている。
【0009】
米国特許出願公開第US 2012/0095742 A2は、機能的な周期的活動をリアルタイムで検出するための信号を処理するためのシステム及び方法を開示している。患者の上における取得手段、例えばEMG電極の位置は、2つの取得手段からの2つの信号間の相関スコアに基づいて確認される。
【0010】
それに対応して、国際特許出願公開番号WO 2015/089668 A1は、患者の吸気筋の活動を確認するための方法及びシステム、並びにこれらを使用している機械的換気システムを開示している。
【0011】
米国特許番号US 6,588,423 B1は、筋電活動に応じて換気補助を始動させるための方法及び装置を開示している。論理トリガー回路は、筋電信号、呼吸流量信号及び呼吸圧信号に関連して換気補助を始動させ、患者の呼吸を支援する。筋電信号の大きさは、所与のしきい値と比較され、この筋電信号の大きさがこのしきい値よりも高いとき、換気補助が始動する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の目的は、筋電図測定システムをさらに改善することである。特に、呼吸するために補助筋(accessory muscle)の使用が増えているCOPD患者の呼吸過程(breathing process)をより詳細に解析することが有利である。
【0013】
本発明の第1の態様において、少なくとも1つの他の筋肉の活動の最中に、呼吸努力の測定に関係する、人間又は動物の身体おける標的筋肉の活動を示す筋電図信号を処理するための処理装置が示される。この処理装置は、
−前記身体上の第1の場所において前記標的筋肉及び前記他の筋肉から得られる第1の筋電図信号を受信するために第1のインタフェース、
−前記身体上の第2の場所において前記他の筋肉から得られる第2の筋電図信号を受信するための第2のインタフェース、並びに
−前記第1の筋電図信号と前記第2の筋電図信号とに基づいて類似性信号を決定するための解析ユニット
を有し、前記解析ユニットはさらに、
−前記第1及び第2の筋電図信号から得られる前記類似性信号が第1の既定のしきい値より下にある場合、呼吸相を吸気相と決定する、及び/又は
−前記第1及び第2の筋電図信号から得られる前記類似性信号が第2の既定のしきい値を超えている場合、呼吸相を呼気相と決定する
ように構成される。
【0014】
本発明の他の態様において、少なくとも1つの他の筋肉の活動の最中に、呼吸努力の測定に関係する、人間又は動物の身体における標的筋肉の活動を示す筋電図信号を処理するための方法が示される。この方法は、
−前記身体上の第1の場所において前記標的筋肉及び前記他の筋肉から得られる第1の筋電図信号を受信するステップ、
−前記身体上の第2の場所において前記他の筋肉から得られる第2の筋電図信号を受信するステップ、
−前記第1の筋電図信号と前記第2の筋電図信号とに基づいて類似性信号を決定するステップ、並びに
−前記第1及び第2の筋電図信号から得られる前記類似性信号が第1の既定のしきい値より下にある場合、呼吸相を吸気相と決定するステップ、及び/又は
−前記第1及び第2の筋電図信号から得られる前記類似性信号が第2の既定のしきい値を超えている場合、呼吸相を呼気相と決定するステップ
を有する。
【0015】
本発明の他の態様において、少なくとも1つの他の筋肉の活動の最中に、呼吸努力の測定に関係する、人間又は動物の身体における標的筋肉の活動を示す筋電図信号を処理するための他の処理装置が示される。この処理装置は、
−前記身体上の第1の場所において前記標的筋肉及び前記他の筋肉から得られる第1の筋電図信号を受信するために第1のインタフェース、
−前記身体上の第2の場所において前記他の筋肉から得られる第2の筋電図信号を受信するための第2のインタフェース、
−前記第1の筋電図信号と前記第2の筋電図信号とに基づいて類似性信号を決定するための解析ユニット
を有し、前記解析ユニットはさらに、前記類似性信号に基づいて、呼吸相を示す呼吸相信号を供給するように構成される、及び前記処理装置はさらに、前記呼吸相信号及び前記第1の筋電図信号に基づいて呼吸努力を決定するように構成される。
【0016】
本発明の他の対応において、少なくとも1つの他の筋肉の活動の最中に、呼吸努力の測定に関係する、人間又は動物の身体における標的筋肉の活動を示す筋電図信号を処理するための方法が示される。この方法は、
−前記身体上の第1の場所において前記標的筋肉及び前記他の筋肉から得られる第1の筋電図信号を受信するステップ、
−前記身体上の第2の場所において前記他の筋肉から得られる第2の筋電図信号を受信するステップ
−前記第1の筋電図信号と前記第2の筋電図信号とに基づいて類似性信号を決定するステップ、
−前記類似性信号に基づいて、呼吸相を示す呼吸相信号を供給するステップ、及び
−前記呼吸相信号及び前記第1の筋電図信号に基づいて呼吸努力を決定するステップ
を有する。
【0017】
本発明の他の態様において、少なくとも1つの他の筋肉の活動の最中に、呼吸努力の測定に関係する、人間又は動物の身体における標的筋肉の活動を示す筋電図信号を処理するための他の方法が示される。この方法は、
−第1肋間腔において前記標的筋肉及び前記他の筋肉から得られる第1の筋電図信号を受信するステップ、
−第2肋間腔において前記他の筋肉から得られる第2の筋電図信号を受信するステップ、並びに
−前記第1の筋電図信号及び前記第2の筋電図信号に基づいて類似性信号を決定するステップ
を有する。
【0018】
本発明の他の態様において、上述した処理装置の1つを有する筋電図測定装置を有する筋電図測定システムが示される。このシステムはさらに、第1の筋電図信号を得るための第1の対の電極と、第2の筋電図信号を得るための第2の対の電極とを有し、前記第1の対の電極は、前記処理装置の第1のインタフェースに前記第1の筋電図信号を供給するために、筋電図測定装置の第1の入力部に接続可能であり、前記第2の対の電極は、前記処理装置の第2のインタフェースに前記第2の筋電図信号を供給するために、筋電図測定装置の第2の入力部に接続可能である。
【0019】
本発明の他の態様において、コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行されるとき、前記コンピュータに本明細書に開示される方法の1つにあるステップを実行させるためのプログラムコード手段を有するコンピュータプログラム、並びに処理装置により実施されるとき、本明細書に開示される方法の1つを行うコンピュータプログラム製品を記憶している非一時的なコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供する。
【0020】
本発明の好ましい実施例は、従属請求項に規定される。請求される方法は、請求される装置と及び従属請求項に規定されるのと類似及び/又は同一の好ましい実施例を持つと理解されるべきである。
【0021】
本明細書に示される解決法は、筋電図測定システムをさらに改善するための可能性を提供する。特に、提案される解決法の態様は、特に、呼吸するために補助筋の使用が増えているCOPD患者の呼吸過程をより詳細に解析する可能性を提供する。
【0022】
従来技術は、第2肋間腔で得られる筋電図信号を測定すること、すなわち、第2助軟骨(second costal cartilgae)と第3助軟骨との間にあり、肋骨を前に延ばす傍胸骨筋の測定を提案している。しかしながら、表面EMG測定は、所望する傍胸骨肋間部の活動だけでなく、実際は傍胸骨部に置かれる少なくとも3つの主な筋肉、すなわち傍胸骨肋間筋(特に吸気中に関与する内肋間筋の軟骨間部(interchondral part))、胸横筋(transversus thoracis muscle)(呼気の補助筋)及び大胸筋の混合活動の測定値を供給する。大胸筋は、例えば姿勢の変化のような胴体及び腕の運動中に激しく活性化されることができ、これはEMG測定における動きアーチファクトをもたらす。上手くリラックスしていない場合、例えば姿勢を維持するのに過剰に使用される場合、大胸筋は、前記測定値において望まない筋緊張性質の活動も生じさせる。強制的な吸気中に採用される場合、場合により、前記測定値において相性質の活動も生じさせる。
【0023】
従来技術(Murphy他著)は、患者に静止及びリラックスを保つように指示し、それが大胸筋の寄与を減らし、さらに侵襲性のニードル電極の技術が傍胸骨筋の活動を分離するのに使用されることを教えている。侵襲性のEMGは、信号品質に関して素晴らしい結果を与える一方、ニードルを被験者の身体内に加えることは、非常に不便であり、特に在宅医療の場には実用的ではない。
【0024】
発明者は、従来の筋電図信号に加え、身体上の第2の場所において第2の筋電図信号がで得られるという別の方法に従っている。第1の筋電図信号は、標的筋肉及び他の筋肉から得られるのに対し、第2の筋電図信号は、標的筋肉から信号を供給しない身体上の第2の場所における前記他の筋肉から得られる。言い換えると、第2の筋電図信号は、他の筋肉から得られるが、第1の筋電図信号の標的筋肉からは得られない。容認されるクロストークによる、標的筋肉による残留する寄与があることに注意すべきである。第2の筋電図信号の測定値を取り入れることにより、異なる筋肉の活動、特に標的筋肉としての傍胸骨肋間筋の活動、及び他の筋肉としての胸横筋の活動が区別されることができる。
【0025】
本発明は、ある肋間筋又は肋間筋部、例えば第2肋間腔の傍胸骨筋の神経及びその結果として活動は、例えば第3肋間腔の傍胸骨筋とは無関係であるもう1つの肋間筋又は肋間筋部、若しくは第2肋間腔におけるもう1つの肋間筋又は肋間筋部の活動とは本質的に無関係であるという認識に基づいている。第2肋間腔の傍胸骨筋及び第3肋間腔の傍胸骨筋は、健康な被験者において、呼吸を補助するために同期して収縮するが、COPD患者はさらに一層収縮するので、一目見ただけで、そのような無関係性が直観で分かるものではない。それにもかかわらず、運動単位活動電位は本質的に無関係であり、これらは無作為に/任意で重ねられることが分かっている。
【0026】
しかしながら、胸横筋及び大胸筋のような他の筋肉は、胸骨に沿って複数の肋間腔にわたり広がっている。結果として、少なくとも1つの肋間筋が標的筋肉として第1の場所でのみ測定され、2つの場所に広がる少なくとも1つの他の筋肉が両方の場所で測定されるような、身体上の少なくとも2つの場所において筋肉の活動が測定される場合、これら2つの測定値の類似性は、類似性信号として時間と共に決定される。標的筋肉だけが活動している又は主に標的筋肉が活動している場合、身体上の第1の場所において標的筋肉及び他の筋肉から得られる第1の筋電図信号と、他の筋肉から得られる第2の筋電図信号との間の相関性は低く、しかしながら、他の筋肉が活動している場合、前記第1及び第2の筋電図信号間の相関性は高くなる。追加の筋電図信号は故に、異なる筋肉の活動の種類を区別するための追加の情報を提供する。類似性は、呼吸相を示す及び/又は緊張筋の活動を示すことができる。例えば、傍胸骨肋間筋の活動は、胸横筋の活動と区別されることができる。このことに基づいて、吸気活動と呼気活動とを区別することが可能である。ある実施例において、内肋間筋は、呼気の筋肉と見なされることができ、外肋間筋は、吸気の筋肉と見なされることができる。もう1つの例として、傍胸骨肋間筋の活動は、大胸筋の活動と区別されることができる。このことに基づいて、相の活動と緊張性の活動とを区別することができる。
【0027】
従って、解析ユニットは、第1及び第2の筋電図信号から得られる類似性信号が第1の既定のしきい値より低い場合、呼吸相を吸気相と決定する、及び/又は第1及び第2の筋電図信号から得られる類似性信号が第2の既定のしきい値を超えている場合、呼吸相を呼気相と決定するように構成される。第1の既定のしきい値及び第2の既定のしきい値は同じ又は異なることができる。肋間筋に起因する吸気努力は、例えば第1の場所として第2肋間腔及び第2の場所として第3肋間腔で得られる、夫々の筋肉の別個の神経支配による実質的に無相関又は独立した信号を供給することが分かっている。筋電図信号は故に、類似性信号の低い値として示される低相関性を示す。胸横筋の活動に起因する呼気努力は、この胸横筋が第2及び第3肋間腔の下で伸びているので、相関した信号を生じさせる。筋電図信号は故に、類似性信号の高い値として示される高相関性を示す。従って、吸気努力と呼気努力との区別が可能である。
【0028】
本明細書に用いられるように、"筋電図信号"という言葉は、筋肉の活動を示す電位又は電圧信号を指している。筋電図信号は、基準電位に対して1つの電極のシングルエンド(single ended)の測定値として得られる。しかしながら、有利なことに、一対のEMG電極、特に表面EMG電極を用いて差分測定が行われる。特に、表面EMG測定にとって、筋電図信号は、1つ以上の下層の筋肉の活動電位の重ね合わせを示すことができる。
【0029】
本明細書に用いられるように、"筋肉"という言葉は、単一の筋肉を指しているが、同じ筋肉の種類に属する1組の筋肉又は同じ機能を取り組んでいる1組の筋肉を指すこともできる。例えば、肋間筋を参照するとき、これは、胸骨の近くにある肋間筋、例えば傍胸骨筋を含むことができるが、しかし、胸骨から離れている肋間筋、例えば外肋間筋又は内肋間筋の骨間部も含むことができる。さらに、肋間筋は、第2肋間腔に置かれるが、第3肋間腔に置かれることもできる。簡潔にするために、肋間筋を参照する。
【0030】
本明細書に用いられるように、"類似性信号"という言葉は、第1の筋電図信号と第2の筋電図信号との類似性を示す信号を指している。この類似性信号は、第1の筋電図信号がどのくらい第2の筋電図信号に関連しているかを示し、例えスケーリング係数があったとしても、これは符号反転(sign-flip)を含むことができる。このような類似性は、例えば第1及び第2の筋電図信号間における相互相関又はコヒーレンス、特にスペクトルコヒーレンスを用いて計算されることができる。これにより、第1及び第2の筋電図信号間の関係の解析は、時間と共に行われることができる。
【0031】
本明細書に用いられるように、"呼吸努力"という言葉は、換気の要求又は発現、すなわち呼吸の欲求を維持するために、例えばCOPDのような呼吸疾患で苦しむ患者により特に行われなければならない努力を指している。特に、呼吸努力は、呼吸を補助するための呼吸筋の活動、例えば傍胸骨肋間筋又は胸横筋の活動を表している。呼吸筋の活動は、筋肉の緊張性活動とは対照的に、相の活動とも呼ばれる。
【0032】
ある実施例において、標的筋肉は、肋間筋、特に傍胸骨肋間筋とすることができる。他の筋肉は、胸横筋又は大胸筋とすることができる。傍胸骨肋間筋は、吸気を補助するために活性化され得ることが分かっている。傍胸骨内肋間筋の活動レベルは故に、吸気中の呼吸努力の強度を示している。肋間筋の活動の評価は、COPD患者の日々の悪化又は改善を示すインジケータとしても役立つことができる。他方、三角胸横筋(triangularis sterni muscle)とも呼ばれる胸横筋は、受動的ではない呼気のために活性化され得る。呼気流の制限を経験しているCOPD患者は、吸気相の前に、できるだけ多くの空気を患者の肺から押し出したいので、強制的な呼気のために胸横筋が採用される。次いで、大胸筋は、姿勢の維持と同じく、被験者の胴体及び/又は腕の動きに関係し、本質的に呼吸には関係していない。有利なことに、患者は、動きアーチファクトを避ける及び測定される緊張性活動を出来るだけ低く保つために、測定中、静止したままでいる及び筋肉をリラックスすることが指示される。例えば加速度計からの追加の感覚測定値は、動きアーチファクトを特定するのにも使用され、そのような場合、例えば呼吸努力の評価測定を省略するのに使用することもできる。場合により、大胸筋は、強制的な吸気中に関与することもある。
【0033】
ある実施例において、類似性信号は、第1の筋電図信号及び第2の筋電図信号の(相互)相関又はスペクトルコヒーレンスを示している。第1の筋電図信号及び第2の筋電図信号の類似性は、呼吸周期の異なる相の間、異なる筋肉が関与しているので、被験者の呼吸相を示すことができる。健康な被験者の安静時において、呼吸は主に横隔膜により行われる。呼吸疾患、例えばCOPDの患者において、吸気は、段々と傍胸骨肋間筋により及び追加の補助筋により補助される。第2肋間腔にある肋間筋及び第3肋間腔にある肋間筋は別々に神経支配されるので、対応する活動電位は、第1肋間腔で得られる第1の筋電図信号及び第3肋間腔で得られる第2の筋電図測定値に対し実質的に独立している。他方、第2及び第3肋間腔を超えて伸びる、胸横筋とも呼ばれる、下層の三角胸横筋は、第2肋間筋における第1の筋電図信号及び第3肋間腔における第2の筋電図信号の両方に存在している相関する信号を生じる。故に、第1及び第2の筋電図信号は、夫々の肋間筋が吸気中に活動しているとき、類似ではない(相関されない)のに対し、胸横筋が受動的ではない呼気中に活動しているとき、第1及び第2の筋電図信号は類似又は相関される。
【0034】
ある実施例において、第1の筋電図信号及び第2の筋電図信号の少なくとも一方は、肋間腔で得られる。有利なことに、第1の筋電図信号は、肋間腔の1つで得られ、第2の筋電図信号は、もう1つの肋間腔で得られる。
【0035】
ある実施例において、第1の筋電図信号は、第2肋間腔で得られる、及び/又は第2の筋電図信号は、第3肋間腔で得られる。第2肋間腔は、第2助軟骨(second costal cartilage)又は肋骨と第3助軟骨又は肋骨との間にある肋間腔を指している。第3肋間腔は、第3助軟骨又は肋骨と第4助軟骨又は肋骨との間にある肋間腔を指している。故に、第1の筋電図信号は、下層の胸横筋と同じく、第2助軟骨と第3助軟骨との間にある傍胸骨肋間筋の信号読取値を供給するのに対し、第2の筋電図信号は、下層の胸横筋と同じく、第3助軟骨と第4助軟骨との間にある助軟骨肋間筋の信号読取値を供給する。故に、異なる肋間筋は、第1及び第2の筋電図信号に寄与するのに対し、同じ胸横筋又は筋肉の集合は、第1及び第2の筋電図信号に寄与している。
【0036】
ある実施例において、第1の筋電図信号は、身体上の第1の場所における他の筋肉及び標的筋肉の第1のインスタンス(instance)から得られることができる、並びに第2の筋電図信号は、身体上の第2の場所における前記他の筋肉及び標的筋肉の第2のインスタンスから得られる。標的筋肉は、例えば傍胸骨肋間筋のような筋肉の集合を指している。標的筋肉のインスタンスは、これらの筋肉が見つけられる別々の場所を指している。例えば、標的筋肉の第1のインスタンスは、第2肋間腔の傍胸骨筋、すなわち第2肋間腔にある傍胸骨肋間筋であるのに対し、標的筋肉の第2のインスタンスは、第3肋間筋の傍胸骨筋、すなわち第3肋間腔にある傍胸骨肋間筋である。しかしながら、第1及び第2の筋電図信号は、例えば胸横筋のような同じ他の筋肉又は筋肉の集合とすることができる。他の例において、標的筋肉の第1のインスタンスは、第2肋間腔の傍胸骨筋、すなわち第2肋間腔にある胸骨の近くに置かれる肋間筋とすることができるのに対し、標的筋肉の第2のインスタンスは、第2肋間腔に置かれるが、胸骨に近くない、すなわち胸骨から離れているもう1つの筋肉又は筋肉部位、例えば軟骨間部分を除く内肋骨若しくは外肋骨とすることができる。この実施例において、他の筋肉は、これらの場所にわたり広がり、第1及び第2の場所の両方で測定される大胸筋とすることができる。大胸筋の活動は、第1の筋電図信号及び第2の筋電図信号の両方に存在している。この筋肉の活動は、第1及び第2の場所に対する相関信号をもたらすのに対し、傍胸骨肋間筋の活動は、第1及び第2の場所に対する無相関信号をもたらすと仮定される。故に、大胸筋は姿勢を維持する又は姿勢を変えるために採用されているかどうか、類似性信号が身体の動きを含む緊張性/姿勢の活動を示すことができる。大胸筋が例として用いられているが、本開示はそれに限定されない。
【0037】
ある実施例において、解析ユニットは、類似性信号に基づいて、呼吸相を決定するように構成される。
【0038】
ある実施例において、解析ユニットはさらに、類似性信号に基づいて、呼吸相を示す呼吸相信号を供給するように構成される。処理装置はさらに、呼吸相信号及び第1の筋電図信号に基づいて、呼吸努力を決定するように構成される。この実施例の利点は、決定された呼吸相が後続する信号処理ステージに供給され得ることである。他の利点は、呼吸周期の異なる相に対する呼吸努力が決定され得ることである。それにより、患者の呼吸問題はより詳細に解析されることができ、これは後の治療にとって有益である。
【0039】
有利なことに、前記処理装置は、吸気相中の吸気努力を決定する、及び/又は呼気相中の呼気努力を決定するように構成される。他の改良版において、処理装置は、吸気相中の第1の筋電図信号の信号エネルギーに基づいて吸気努力を決定する、及び/又は呼気相中の第1の筋電図信号の信号エネルギーに基づいて呼気努力を決定するように構成される。前記決定は、EMG信号のRMS(二乗平均平方根)値に基づいている。例えば、第2の筋電図信号も肋間腔における測定場所から生じているならば、対応する解析は、第2の筋電図信号に基づいて行われることも可能である。この実施例の利点は、患者の吸気及び/又は呼気努力は、例えばこれらの値を患者の悪化の状態を示すしきい値と比較するために数値化されることができる。
【0040】
ある実施例において、処理装置は、類似性信号に基づいて、他の筋肉の活動を第1の筋電図信号から取り除くように構成される。有利なことに、例えば緊張性活動の場合、例えば他の筋肉として大胸筋の活動に起因する第1及び第2の筋電図信号の高い相関性により示される、姿勢を維持する又は姿勢を変えることが存在しているかで、他の筋肉の活動が取り除かれることができる。最も基本的な構成において、他の筋肉の活動は、第1の筋電図信号の期間を無効化することにより取り除かれることができる。例えば、第1の筋電図信号は、他の筋肉の時間局在化した活動が類似性信号に基づいて決定されるとき、ゼロに設定されることができる。故に、第1の筋電図信号の乱れていない信号部分が他の信号処理に使用されることができる。
【0041】
ある実施例において、処理装置は、元々は第1の筋電図信号及び第2の筋電図信号の両方に存在している従属的信号を第1の筋電図信号から取り除くように構成される。この実施例の利点は、例えば姿勢を維持するために(弛緩されない)大胸筋により生じる相当な緊張性活動である寄与が削除され得ることである。大胸筋に起因する電圧信号は、下層の肋間筋よりもかなり大きな振幅を持つEMG読取値を提供すると推測される。この方法の利点は、別の方法で隠された信号が示されることである。有利なことに、この方法は、別の信号を得るために、第2の筋電図信号が単に第1の筋電図信号から差し引かれる単なる差分測定に勝る。適応フィルターは、第2の筋電図信号を適応フィルターの基準信号として使用することにより、必要及び不要な信号の混合から不要な信号を取り除くのに使用されることができる。適応ノイズキャンセリングの原理は、B. Widrow他著、"Adaptive Noise Cancelling: Principles and Applications", Proc. IEEE, Vol.63, 1975, pp. 1692-1716により説明される。
【0042】
本発明のさらにもう1つの態様において、上述した処理装置と共に使用するための電極パッチが示される。この電極パッチは、胸部上の少なくとも2つの異なる場所に、表面筋電図測定のための少なくとも2つの組の電極を有し、ここで第1の組の電極は、胸骨を除く、第1肋間腔で第1の筋電図信号を測定するための第1の対の電極を有する、及び第2の組の電極は、胸骨を除く、第2肋間腔で第2の筋電図信号を測定するための第2の対の電極を有する。有利なことに、第1の対の電極は、第1電極及び第2電極を有し、第2の対の電極は、第3電極及び第4電極を有する。電極パッチの第1電極及び第2電極は、第2肋間腔、すなわち胸骨の両側にある第2及び第3助軟骨の間において第1の筋電図信号を測定するために配されるのに対し、電極パッチの第3電極及び第4電極は、第3肋間腔、すなわち胸骨の両側にある第3及び第4助軟骨の間において第2の筋電図信号を測定するために配される。他の例において、電極パッチの第1電極及び第2電極は、胸骨を除く、第2肋間腔、すなわち胸骨の両側の第2及び第3助軟骨間において第1の筋電図信号を測定するために配されるのに対し、電極パッチの第3電極及び第4電極は、第2肋間腔、すなわち胸骨の両側の第2及び第3助軟骨の間であるが、胸骨から離れて、第2の筋電図信号を測定するために配される。これは、大胸筋の活動を決定するのに有利である。
【0043】
単一パッチにおける電極のこの特定の配列の利点は、このパッチが電極の配置を容易にすることである。幾何学的寸法に関する患者の多様性に関して、電極の場所の配列は、解剖学的特徴に関して規定される。互いに対する電極の既定の配置も電極を誤った場所に置く危険性を減らす。これにより、電極の配置は、高度に訓練を受けた医療専門家により、必ずしも行われる必要はなく、例えば家庭医療設備においてユーザにより行われることもできる。