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特許6585825呼吸活動に関する筋電図信号を処理するための処理装置及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6585825
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】呼吸活動に関する筋電図信号を処理するための処理装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/0488 20060101AFI20190919BHJP
   A61B 5/113 20060101ALI20190919BHJP
   A61B 5/04 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   A61B5/04 330
   A61B5/113
   A61B5/04ZDM
【請求項の数】14
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-506593(P2018-506593)
(86)(22)【出願日】2016年8月1日
(65)【公表番号】特表2018-527069(P2018-527069A)
(43)【公表日】2018年9月20日
(86)【国際出願番号】EP2016068261
(87)【国際公開番号】WO2017025363
(87)【国際公開日】20170216
【審査請求日】2019年5月23日
(31)【優先権主張番号】15180614.8
(32)【優先日】2015年8月11日
(33)【優先権主張国】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】KONINKLIJKE PHILIPS N.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100122769
【弁理士】
【氏名又は名称】笛田 秀仙
(74)【代理人】
【識別番号】100163809
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 貴裕
(74)【代理人】
【識別番号】100145654
【弁理士】
【氏名又は名称】矢ヶ部 喜行
(72)【発明者】
【氏名】デルクス レネ マルティヌス マリア
(72)【発明者】
【氏名】ファン デ ラール ヤコブ
(72)【発明者】
【氏名】デニッセン アドリアヌス ヨハンネス マリア
(72)【発明者】
【氏名】デヴォ サンドリーヌ マガリ ローラ
【審査官】 清水 裕勝
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0095742(US,A1)
【文献】 国際公開第2013/045920(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/089668(WO,A1)
【文献】 特表2002−504405(JP,A)
【文献】 Patrick B Murphy, et al.,Neural respiratory drive as a physiological biomarker to monitor change during acute exacerbations of COPD,Thorax,英国,2011年 5月19日,66,pp.602-608
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/04−5/053
A61B 5/06−5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの他の筋肉の活動の最中に、呼吸努力の測定に関係する、人間又は動物の身体における標的筋肉の活動を示す筋電図信号を処理するための処理装置において、前記処理装置は、
前記身体上の第1の場所において前記標的筋肉及び前記他の筋肉から得られる第1の筋電図信号を受信するための第1のインタフェース、
前記身体上の第2の場所において前記他の筋肉から得られる第2の筋電図信号を受信するための第2のインタフェース、及び
前記第1の筋電図信号と前記第2の筋電図信号との間の類似性を類似性信号として決定するための解析ユニット
を有し、前記解析ユニットはさらに、
前記類似性信号が第1の既定のしきい値より低い場合、呼吸相を吸気相と決定する、及び/又は
前記類似性信号が第2の既定のしきい値を超えている場合、呼吸相を呼気相と決定する
ように構成される処理装置。
【請求項2】
前記標的筋肉は傍胸骨肋間筋である、及び/又は前記他の筋肉は胸横筋及び大胸筋の少なくとも一方である、請求項1に記載の処理装置。
【請求項3】
前記類似性信号は、前記第1の筋電図信号と前記第2の筋電図信号との相関性又はスペクトルコヒーレンスを示す、請求項1に記載の処理装置。
【請求項4】
前記第1の筋電図信号及び前記第2の筋電図信号の少なくとも一方は、肋間腔において得られる、請求項1に記載の処理装置。
【請求項5】
前記第1の筋電図信号は、第2肋間腔において得られる、及び/又は前記第2の筋電図信号は、第3肋間腔において得られる、請求項1に記載の処理装置。
【請求項6】
前記第1の筋電図信号は、前記身体上の前記第1の場所において前記他の筋肉及び前記標的筋肉の第1のインスタンスから得られる、並びに
前記第2の筋電図信号は、前記身体上の前記第2の場所において前記他の筋肉及び前記標的筋肉の第2のインスタンスから得られる、
請求項1に記載の処理装置。
【請求項7】
前記解析ユニットはさらに、前記類似性信号に基づいて、呼吸相を示す呼吸相信号を供給するように構成される、及び
前記処理装置はさらに、前記呼吸相信号及び前記第1の筋電図信号に基づいて、呼吸努力を決定するように構成される、
請求項1に記載の処理装置。
【請求項8】
前記処理装置は、吸気相中の前記第1の筋電図信号の信号エネルギーに基づいて吸気努力を決定する、及び/又は呼気相中の前記第1の筋電図信号の信号エネルギーに基づいて呼気努力を決定するように構成される、請求項7に記載の処理装置。
【請求項9】
前記処理装置は、前記類似性信号に基づいて、前記第1の筋電図信号から前記他の筋肉の活動を取り除くように構成される、請求項1に記載の処理装置。
【請求項10】
請求項1に記載の処理装置を有する筋電図測定装置、及び
胸部上の少なくとも2つの異なる場所において表面筋電図測定のための少なくとも2つの組の電極を有する電極パッチ
を有する筋電図測定システムにおいて、
前記2つの組の電極の第1の組は、胸骨を除く、第1の肋間腔において第1の筋電図信号を測定するために配される第1の対の電極を有する、及び
前記2つの組の電極の第2の組は、胸骨を除く、第2の肋間腔において第2の筋電図信号を測定するために配される第2の対の電極を有する
筋電図測定システム。
【請求項11】
請求項1に記載の処理装置を有する筋電図測定装置、
前記第1の筋電図信号を得るための第1の対の電極であり、前記処理装置の前記第1のインタフェースに前記第1の筋電図信号を供給するために、前記筋電図測定装置の第1の入力部に接続可能である、第1の対の電極、及び
前記第2の筋電図信号を得るための第2の対の電極であり、前記処理装置の前記第2のインタフェースに前記第2の筋電図信号を供給するために、前記筋電図測定装置の第2の入力部に接続可能である、第2の対の電極
を有する、筋電図測定システム。
【請求項12】
少なくとも1つの他の筋肉の活動の最中に、呼吸努力の測定に関係する、人間又は動物の身体における標的筋肉の活動を示す筋電図信号を処理するためのコンピュータの作動方法において、前記作動方法は、
前記身体上の第1の場所において前記標的筋肉及び前記他の筋肉から得られる第1の筋電図信号を受信するステップ、
前記身体上の第2の場所において前記他の筋肉から得られる第2の筋電図信号を受信するステップ、
前記第1の筋電図信号と前記第2の筋電図信号との間の類似性を類似性信号として決定するステップ、並びに
前記類似性信号が第1の既定のしきい値より低い場合、呼吸相を吸気相と決定する、及び/又は
前記類似性信号が第2の既定のしきい値を超えている場合、呼吸相を呼気相と決定するステップ
を有する作動方法。
【請求項13】
前記類似性信号に基づいて、前記呼吸相を示す呼吸相信号を供給するステップ、並びに
前記呼吸相信号及び前記第1の筋電図信号に基づいて呼吸努力を決定するステップ
をさらに有する請求項12に記載の作動方法。
【請求項14】
コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行されるとき、前記コンピュータに請求項12乃至13の何れか一項に記載の作動方法のステップを実行させるためのプログラムコード手段を有するコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療技術の分野に関係し、特に、被験者の胸部上の肋間筋から得られる表面筋電図測定値に基づいて、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者における呼吸活動を決定することに関する。本発明は、筋電図信号を処理するための処理装置及び方法、並びに前記方法を実行するための対応するコンピュータプログラムにも関する。
【背景技術】
【0002】
筋電図(EMG)は、筋肉の活動を決定するための技術である。筋電図測定システムは、筋細胞が電気的又は神経学的に活性化されるとき、これら筋細胞により発生する電位を検出する。差分測定(differential measurement)のための電極又は対の電極は、標的筋肉に当てられ、この筋肉の活動を示す電圧信号を得る。
【0003】
信号は、筋肉内で直接測定される(侵襲性EMG)又は筋肉より上の皮膚上で測定される(表面EMG)かの何れかである。侵襲性EMGに対しては、ニードル電極が関心のある筋組織内に直接挿入される。表面EMGに対しては、非侵襲性技術として、電極が被験者の皮膚に当てられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
表面EMG技術は、筋組織により発生する非常に小さな電気変動の検出、処理及び記録を含む。これらの信号は、たった数マイクロボルト(μV)の大きさしかないほど低く、従って、測定システムから又は人間の身体自身の何れかによる他のより有力なノイズ発生源からの干渉を受けることになる。
【0005】
表面EMGの1つの応用は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)又は他の呼吸器疾患の患者の神経呼吸ドライブ(NRD)を評価するのに使用される、胸部の傍胸骨部(parasternal region)における呼吸活動を決定することである。呼吸活動は、傍胸骨肋間筋(parasternal intercostal muscle)からの筋電図測定値を用いて計算される。
【0006】
国際特許出願公開番号WO 2013/045920 A1は、対応する患者観察方法及び観察装置を開示している。神経呼吸ドライブ(NRD)は、第2肋間腔の傍胸骨の筋電図の測定値を得ることにより測定される。信号は、従来の電極及び増幅器を使用して取得される。EMG信号を改善するために、フィルタリングアルゴリズムを適用して、EMG信号から筋電図(EMG)アーチファクトを取り除くことが提案されている。ベースラインノイズを取り除くために、生の信号にハイパスフィルターが適用され、及び呼吸アーチファクトを取り除くために、12Hzから20Hzまでの間の追加のバンドパスフィルタリングが行われる。
【0007】
Murphy他著、"Neural respiratory drive as a physiological biomarker to monitor change during acute exacerbations of COPD", p. 602-608, Thorax 2011も第2肋間腔の傍胸骨の筋電図(EMG)の活動を測定することにより、神経呼吸ドライブ(NRD)を観察することを教えている。解析は、二乗平均平方根(RMS)のEMG信号を使用している。呼吸の吸気相と呼気相とを特定するために、鼻カニューレは、差圧トランスデューサ(Validyne DP45, Validyne, Northridge, California USA)に接続される。
【0008】
Murphy他著はさらに、他の胸壁の筋肉からの汚染を取り除けないことを教えている。従って、患者の位置及び電極の位置は、データの取得中、第2肋間腔の傍胸骨筋の吸気EMG信号への寄与を最大する、及び他の筋肉の活動を最小にするように注意深く観察される。その上、Murphy他著は、ニードル電極の技術が傍胸骨筋の活動を分離するのに使用されることを教えている。
【0009】
米国特許出願公開第US 2012/0095742 A2は、機能的な周期的活動をリアルタイムで検出するための信号を処理するためのシステム及び方法を開示している。患者の上における取得手段、例えばEMG電極の位置は、2つの取得手段からの2つの信号間の相関スコアに基づいて確認される。
【0010】
それに対応して、国際特許出願公開番号WO 2015/089668 A1は、患者の吸気筋の活動を確認するための方法及びシステム、並びにこれらを使用している機械的換気システムを開示している。
【0011】
米国特許番号US 6,588,423 B1は、筋電活動に応じて換気補助を始動させるための方法及び装置を開示している。論理トリガー回路は、筋電信号、呼吸流量信号及び呼吸圧信号に関連して換気補助を始動させ、患者の呼吸を支援する。筋電信号の大きさは、所与のしきい値と比較され、この筋電信号の大きさがこのしきい値よりも高いとき、換気補助が始動する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の目的は、筋電図測定システムをさらに改善することである。特に、呼吸するために補助筋(accessory muscle)の使用が増えているCOPD患者の呼吸過程(breathing process)をより詳細に解析することが有利である。
【0013】
本発明の第1の態様において、少なくとも1つの他の筋肉の活動の最中に、呼吸努力の測定に関係する、人間又は動物の身体おける標的筋肉の活動を示す筋電図信号を処理するための処理装置が示される。この処理装置は、
−前記身体上の第1の場所において前記標的筋肉及び前記他の筋肉から得られる第1の筋電図信号を受信するために第1のインタフェース、
−前記身体上の第2の場所において前記他の筋肉から得られる第2の筋電図信号を受信するための第2のインタフェース、並びに
−前記第1の筋電図信号と前記第2の筋電図信号とに基づいて類似性信号を決定するための解析ユニット
を有し、前記解析ユニットはさらに、
−前記第1及び第2の筋電図信号から得られる前記類似性信号が第1の既定のしきい値より下にある場合、呼吸相を吸気相と決定する、及び/又は
−前記第1及び第2の筋電図信号から得られる前記類似性信号が第2の既定のしきい値を超えている場合、呼吸相を呼気相と決定する
ように構成される。
【0014】
本発明の他の態様において、少なくとも1つの他の筋肉の活動の最中に、呼吸努力の測定に関係する、人間又は動物の身体における標的筋肉の活動を示す筋電図信号を処理するための方法が示される。この方法は、
−前記身体上の第1の場所において前記標的筋肉及び前記他の筋肉から得られる第1の筋電図信号を受信するステップ、
−前記身体上の第2の場所において前記他の筋肉から得られる第2の筋電図信号を受信するステップ、
−前記第1の筋電図信号と前記第2の筋電図信号とに基づいて類似性信号を決定するステップ、並びに
−前記第1及び第2の筋電図信号から得られる前記類似性信号が第1の既定のしきい値より下にある場合、呼吸相を吸気相と決定するステップ、及び/又は
−前記第1及び第2の筋電図信号から得られる前記類似性信号が第2の既定のしきい値を超えている場合、呼吸相を呼気相と決定するステップ
を有する。
【0015】
本発明の他の態様において、少なくとも1つの他の筋肉の活動の最中に、呼吸努力の測定に関係する、人間又は動物の身体における標的筋肉の活動を示す筋電図信号を処理するための他の処理装置が示される。この処理装置は、
−前記身体上の第1の場所において前記標的筋肉及び前記他の筋肉から得られる第1の筋電図信号を受信するために第1のインタフェース、
−前記身体上の第2の場所において前記他の筋肉から得られる第2の筋電図信号を受信するための第2のインタフェース、
−前記第1の筋電図信号と前記第2の筋電図信号とに基づいて類似性信号を決定するための解析ユニット
を有し、前記解析ユニットはさらに、前記類似性信号に基づいて、呼吸相を示す呼吸相信号を供給するように構成される、及び前記処理装置はさらに、前記呼吸相信号及び前記第1の筋電図信号に基づいて呼吸努力を決定するように構成される。
【0016】
本発明の他の対応において、少なくとも1つの他の筋肉の活動の最中に、呼吸努力の測定に関係する、人間又は動物の身体における標的筋肉の活動を示す筋電図信号を処理するための方法が示される。この方法は、
−前記身体上の第1の場所において前記標的筋肉及び前記他の筋肉から得られる第1の筋電図信号を受信するステップ、
−前記身体上の第2の場所において前記他の筋肉から得られる第2の筋電図信号を受信するステップ
−前記第1の筋電図信号と前記第2の筋電図信号とに基づいて類似性信号を決定するステップ、
−前記類似性信号に基づいて、呼吸相を示す呼吸相信号を供給するステップ、及び
−前記呼吸相信号及び前記第1の筋電図信号に基づいて呼吸努力を決定するステップ
を有する。
【0017】
本発明の他の態様において、少なくとも1つの他の筋肉の活動の最中に、呼吸努力の測定に関係する、人間又は動物の身体における標的筋肉の活動を示す筋電図信号を処理するための他の方法が示される。この方法は、
−第1肋間腔において前記標的筋肉及び前記他の筋肉から得られる第1の筋電図信号を受信するステップ、
−第2肋間腔において前記他の筋肉から得られる第2の筋電図信号を受信するステップ、並びに
−前記第1の筋電図信号及び前記第2の筋電図信号に基づいて類似性信号を決定するステップ
を有する。
【0018】
本発明の他の態様において、上述した処理装置の1つを有する筋電図測定装置を有する筋電図測定システムが示される。このシステムはさらに、第1の筋電図信号を得るための第1の対の電極と、第2の筋電図信号を得るための第2の対の電極とを有し、前記第1の対の電極は、前記処理装置の第1のインタフェースに前記第1の筋電図信号を供給するために、筋電図測定装置の第1の入力部に接続可能であり、前記第2の対の電極は、前記処理装置の第2のインタフェースに前記第2の筋電図信号を供給するために、筋電図測定装置の第2の入力部に接続可能である。
【0019】
本発明の他の態様において、コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行されるとき、前記コンピュータに本明細書に開示される方法の1つにあるステップを実行させるためのプログラムコード手段を有するコンピュータプログラム、並びに処理装置により実施されるとき、本明細書に開示される方法の1つを行うコンピュータプログラム製品を記憶している非一時的なコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供する。
【0020】
本発明の好ましい実施例は、従属請求項に規定される。請求される方法は、請求される装置と及び従属請求項に規定されるのと類似及び/又は同一の好ましい実施例を持つと理解されるべきである。
【0021】
本明細書に示される解決法は、筋電図測定システムをさらに改善するための可能性を提供する。特に、提案される解決法の態様は、特に、呼吸するために補助筋の使用が増えているCOPD患者の呼吸過程をより詳細に解析する可能性を提供する。
【0022】
従来技術は、第2肋間腔で得られる筋電図信号を測定すること、すなわち、第2助軟骨(second costal cartilgae)と第3助軟骨との間にあり、肋骨を前に延ばす傍胸骨筋の測定を提案している。しかしながら、表面EMG測定は、所望する傍胸骨肋間部の活動だけでなく、実際は傍胸骨部に置かれる少なくとも3つの主な筋肉、すなわち傍胸骨肋間筋(特に吸気中に関与する内肋間筋の軟骨間部(interchondral part))、胸横筋(transversus thoracis muscle)(呼気の補助筋)及び大胸筋の混合活動の測定値を供給する。大胸筋は、例えば姿勢の変化のような胴体及び腕の運動中に激しく活性化されることができ、これはEMG測定における動きアーチファクトをもたらす。上手くリラックスしていない場合、例えば姿勢を維持するのに過剰に使用される場合、大胸筋は、前記測定値において望まない筋緊張性質の活動も生じさせる。強制的な吸気中に採用される場合、場合により、前記測定値において相性質の活動も生じさせる。
【0023】
従来技術(Murphy他著)は、患者に静止及びリラックスを保つように指示し、それが大胸筋の寄与を減らし、さらに侵襲性のニードル電極の技術が傍胸骨筋の活動を分離するのに使用されることを教えている。侵襲性のEMGは、信号品質に関して素晴らしい結果を与える一方、ニードルを被験者の身体内に加えることは、非常に不便であり、特に在宅医療の場には実用的ではない。
【0024】
発明者は、従来の筋電図信号に加え、身体上の第2の場所において第2の筋電図信号がで得られるという別の方法に従っている。第1の筋電図信号は、標的筋肉及び他の筋肉から得られるのに対し、第2の筋電図信号は、標的筋肉から信号を供給しない身体上の第2の場所における前記他の筋肉から得られる。言い換えると、第2の筋電図信号は、他の筋肉から得られるが、第1の筋電図信号の標的筋肉からは得られない。容認されるクロストークによる、標的筋肉による残留する寄与があることに注意すべきである。第2の筋電図信号の測定値を取り入れることにより、異なる筋肉の活動、特に標的筋肉としての傍胸骨肋間筋の活動、及び他の筋肉としての胸横筋の活動が区別されることができる。
【0025】
本発明は、ある肋間筋又は肋間筋部、例えば第2肋間腔の傍胸骨筋の神経及びその結果として活動は、例えば第3肋間腔の傍胸骨筋とは無関係であるもう1つの肋間筋又は肋間筋部、若しくは第2肋間腔におけるもう1つの肋間筋又は肋間筋部の活動とは本質的に無関係であるという認識に基づいている。第2肋間腔の傍胸骨筋及び第3肋間腔の傍胸骨筋は、健康な被験者において、呼吸を補助するために同期して収縮するが、COPD患者はさらに一層収縮するので、一目見ただけで、そのような無関係性が直観で分かるものではない。それにもかかわらず、運動単位活動電位は本質的に無関係であり、これらは無作為に/任意で重ねられることが分かっている。
【0026】
しかしながら、胸横筋及び大胸筋のような他の筋肉は、胸骨に沿って複数の肋間腔にわたり広がっている。結果として、少なくとも1つの肋間筋が標的筋肉として第1の場所でのみ測定され、2つの場所に広がる少なくとも1つの他の筋肉が両方の場所で測定されるような、身体上の少なくとも2つの場所において筋肉の活動が測定される場合、これら2つの測定値の類似性は、類似性信号として時間と共に決定される。標的筋肉だけが活動している又は主に標的筋肉が活動している場合、身体上の第1の場所において標的筋肉及び他の筋肉から得られる第1の筋電図信号と、他の筋肉から得られる第2の筋電図信号との間の相関性は低く、しかしながら、他の筋肉が活動している場合、前記第1及び第2の筋電図信号間の相関性は高くなる。追加の筋電図信号は故に、異なる筋肉の活動の種類を区別するための追加の情報を提供する。類似性は、呼吸相を示す及び/又は緊張筋の活動を示すことができる。例えば、傍胸骨肋間筋の活動は、胸横筋の活動と区別されることができる。このことに基づいて、吸気活動と呼気活動とを区別することが可能である。ある実施例において、内肋間筋は、呼気の筋肉と見なされることができ、外肋間筋は、吸気の筋肉と見なされることができる。もう1つの例として、傍胸骨肋間筋の活動は、大胸筋の活動と区別されることができる。このことに基づいて、相の活動と緊張性の活動とを区別することができる。
【0027】
従って、解析ユニットは、第1及び第2の筋電図信号から得られる類似性信号が第1の既定のしきい値より低い場合、呼吸相を吸気相と決定する、及び/又は第1及び第2の筋電図信号から得られる類似性信号が第2の既定のしきい値を超えている場合、呼吸相を呼気相と決定するように構成される。第1の既定のしきい値及び第2の既定のしきい値は同じ又は異なることができる。肋間筋に起因する吸気努力は、例えば第1の場所として第2肋間腔及び第2の場所として第3肋間腔で得られる、夫々の筋肉の別個の神経支配による実質的に無相関又は独立した信号を供給することが分かっている。筋電図信号は故に、類似性信号の低い値として示される低相関性を示す。胸横筋の活動に起因する呼気努力は、この胸横筋が第2及び第3肋間腔の下で伸びているので、相関した信号を生じさせる。筋電図信号は故に、類似性信号の高い値として示される高相関性を示す。従って、吸気努力と呼気努力との区別が可能である。
【0028】
本明細書に用いられるように、"筋電図信号"という言葉は、筋肉の活動を示す電位又は電圧信号を指している。筋電図信号は、基準電位に対して1つの電極のシングルエンド(single ended)の測定値として得られる。しかしながら、有利なことに、一対のEMG電極、特に表面EMG電極を用いて差分測定が行われる。特に、表面EMG測定にとって、筋電図信号は、1つ以上の下層の筋肉の活動電位の重ね合わせを示すことができる。
【0029】
本明細書に用いられるように、"筋肉"という言葉は、単一の筋肉を指しているが、同じ筋肉の種類に属する1組の筋肉又は同じ機能を取り組んでいる1組の筋肉を指すこともできる。例えば、肋間筋を参照するとき、これは、胸骨の近くにある肋間筋、例えば傍胸骨筋を含むことができるが、しかし、胸骨から離れている肋間筋、例えば外肋間筋又は内肋間筋の骨間部も含むことができる。さらに、肋間筋は、第2肋間腔に置かれるが、第3肋間腔に置かれることもできる。簡潔にするために、肋間筋を参照する。
【0030】
本明細書に用いられるように、"類似性信号"という言葉は、第1の筋電図信号と第2の筋電図信号との類似性を示す信号を指している。この類似性信号は、第1の筋電図信号がどのくらい第2の筋電図信号に関連しているかを示し、例えスケーリング係数があったとしても、これは符号反転(sign-flip)を含むことができる。このような類似性は、例えば第1及び第2の筋電図信号間における相互相関又はコヒーレンス、特にスペクトルコヒーレンスを用いて計算されることができる。これにより、第1及び第2の筋電図信号間の関係の解析は、時間と共に行われることができる。
【0031】
本明細書に用いられるように、"呼吸努力"という言葉は、換気の要求又は発現、すなわち呼吸の欲求を維持するために、例えばCOPDのような呼吸疾患で苦しむ患者により特に行われなければならない努力を指している。特に、呼吸努力は、呼吸を補助するための呼吸筋の活動、例えば傍胸骨肋間筋又は胸横筋の活動を表している。呼吸筋の活動は、筋肉の緊張性活動とは対照的に、相の活動とも呼ばれる。
【0032】
ある実施例において、標的筋肉は、肋間筋、特に傍胸骨肋間筋とすることができる。他の筋肉は、胸横筋又は大胸筋とすることができる。傍胸骨肋間筋は、吸気を補助するために活性化され得ることが分かっている。傍胸骨内肋間筋の活動レベルは故に、吸気中の呼吸努力の強度を示している。肋間筋の活動の評価は、COPD患者の日々の悪化又は改善を示すインジケータとしても役立つことができる。他方、三角胸横筋(triangularis sterni muscle)とも呼ばれる胸横筋は、受動的ではない呼気のために活性化され得る。呼気流の制限を経験しているCOPD患者は、吸気相の前に、できるだけ多くの空気を患者の肺から押し出したいので、強制的な呼気のために胸横筋が採用される。次いで、大胸筋は、姿勢の維持と同じく、被験者の胴体及び/又は腕の動きに関係し、本質的に呼吸には関係していない。有利なことに、患者は、動きアーチファクトを避ける及び測定される緊張性活動を出来るだけ低く保つために、測定中、静止したままでいる及び筋肉をリラックスすることが指示される。例えば加速度計からの追加の感覚測定値は、動きアーチファクトを特定するのにも使用され、そのような場合、例えば呼吸努力の評価測定を省略するのに使用することもできる。場合により、大胸筋は、強制的な吸気中に関与することもある。
【0033】
ある実施例において、類似性信号は、第1の筋電図信号及び第2の筋電図信号の(相互)相関又はスペクトルコヒーレンスを示している。第1の筋電図信号及び第2の筋電図信号の類似性は、呼吸周期の異なる相の間、異なる筋肉が関与しているので、被験者の呼吸相を示すことができる。健康な被験者の安静時において、呼吸は主に横隔膜により行われる。呼吸疾患、例えばCOPDの患者において、吸気は、段々と傍胸骨肋間筋により及び追加の補助筋により補助される。第2肋間腔にある肋間筋及び第3肋間腔にある肋間筋は別々に神経支配されるので、対応する活動電位は、第1肋間腔で得られる第1の筋電図信号及び第3肋間腔で得られる第2の筋電図測定値に対し実質的に独立している。他方、第2及び第3肋間腔を超えて伸びる、胸横筋とも呼ばれる、下層の三角胸横筋は、第2肋間筋における第1の筋電図信号及び第3肋間腔における第2の筋電図信号の両方に存在している相関する信号を生じる。故に、第1及び第2の筋電図信号は、夫々の肋間筋が吸気中に活動しているとき、類似ではない(相関されない)のに対し、胸横筋が受動的ではない呼気中に活動しているとき、第1及び第2の筋電図信号は類似又は相関される。
【0034】
ある実施例において、第1の筋電図信号及び第2の筋電図信号の少なくとも一方は、肋間腔で得られる。有利なことに、第1の筋電図信号は、肋間腔の1つで得られ、第2の筋電図信号は、もう1つの肋間腔で得られる。
【0035】
ある実施例において、第1の筋電図信号は、第2肋間腔で得られる、及び/又は第2の筋電図信号は、第3肋間腔で得られる。第2肋間腔は、第2助軟骨(second costal cartilage)又は肋骨と第3助軟骨又は肋骨との間にある肋間腔を指している。第3肋間腔は、第3助軟骨又は肋骨と第4助軟骨又は肋骨との間にある肋間腔を指している。故に、第1の筋電図信号は、下層の胸横筋と同じく、第2助軟骨と第3助軟骨との間にある傍胸骨肋間筋の信号読取値を供給するのに対し、第2の筋電図信号は、下層の胸横筋と同じく、第3助軟骨と第4助軟骨との間にある助軟骨肋間筋の信号読取値を供給する。故に、異なる肋間筋は、第1及び第2の筋電図信号に寄与するのに対し、同じ胸横筋又は筋肉の集合は、第1及び第2の筋電図信号に寄与している。
【0036】
ある実施例において、第1の筋電図信号は、身体上の第1の場所における他の筋肉及び標的筋肉の第1のインスタンス(instance)から得られることができる、並びに第2の筋電図信号は、身体上の第2の場所における前記他の筋肉及び標的筋肉の第2のインスタンスから得られる。標的筋肉は、例えば傍胸骨肋間筋のような筋肉の集合を指している。標的筋肉のインスタンスは、これらの筋肉が見つけられる別々の場所を指している。例えば、標的筋肉の第1のインスタンスは、第2肋間腔の傍胸骨筋、すなわち第2肋間腔にある傍胸骨肋間筋であるのに対し、標的筋肉の第2のインスタンスは、第3肋間筋の傍胸骨筋、すなわち第3肋間腔にある傍胸骨肋間筋である。しかしながら、第1及び第2の筋電図信号は、例えば胸横筋のような同じ他の筋肉又は筋肉の集合とすることができる。他の例において、標的筋肉の第1のインスタンスは、第2肋間腔の傍胸骨筋、すなわち第2肋間腔にある胸骨の近くに置かれる肋間筋とすることができるのに対し、標的筋肉の第2のインスタンスは、第2肋間腔に置かれるが、胸骨に近くない、すなわち胸骨から離れているもう1つの筋肉又は筋肉部位、例えば軟骨間部分を除く内肋骨若しくは外肋骨とすることができる。この実施例において、他の筋肉は、これらの場所にわたり広がり、第1及び第2の場所の両方で測定される大胸筋とすることができる。大胸筋の活動は、第1の筋電図信号及び第2の筋電図信号の両方に存在している。この筋肉の活動は、第1及び第2の場所に対する相関信号をもたらすのに対し、傍胸骨肋間筋の活動は、第1及び第2の場所に対する無相関信号をもたらすと仮定される。故に、大胸筋は姿勢を維持する又は姿勢を変えるために採用されているかどうか、類似性信号が身体の動きを含む緊張性/姿勢の活動を示すことができる。大胸筋が例として用いられているが、本開示はそれに限定されない。
【0037】
ある実施例において、解析ユニットは、類似性信号に基づいて、呼吸相を決定するように構成される。
【0038】
ある実施例において、解析ユニットはさらに、類似性信号に基づいて、呼吸相を示す呼吸相信号を供給するように構成される。処理装置はさらに、呼吸相信号及び第1の筋電図信号に基づいて、呼吸努力を決定するように構成される。この実施例の利点は、決定された呼吸相が後続する信号処理ステージに供給され得ることである。他の利点は、呼吸周期の異なる相に対する呼吸努力が決定され得ることである。それにより、患者の呼吸問題はより詳細に解析されることができ、これは後の治療にとって有益である。
【0039】
有利なことに、前記処理装置は、吸気相中の吸気努力を決定する、及び/又は呼気相中の呼気努力を決定するように構成される。他の改良版において、処理装置は、吸気相中の第1の筋電図信号の信号エネルギーに基づいて吸気努力を決定する、及び/又は呼気相中の第1の筋電図信号の信号エネルギーに基づいて呼気努力を決定するように構成される。前記決定は、EMG信号のRMS(二乗平均平方根)値に基づいている。例えば、第2の筋電図信号も肋間腔における測定場所から生じているならば、対応する解析は、第2の筋電図信号に基づいて行われることも可能である。この実施例の利点は、患者の吸気及び/又は呼気努力は、例えばこれらの値を患者の悪化の状態を示すしきい値と比較するために数値化されることができる。
【0040】
ある実施例において、処理装置は、類似性信号に基づいて、他の筋肉の活動を第1の筋電図信号から取り除くように構成される。有利なことに、例えば緊張性活動の場合、例えば他の筋肉として大胸筋の活動に起因する第1及び第2の筋電図信号の高い相関性により示される、姿勢を維持する又は姿勢を変えることが存在しているかで、他の筋肉の活動が取り除かれることができる。最も基本的な構成において、他の筋肉の活動は、第1の筋電図信号の期間を無効化することにより取り除かれることができる。例えば、第1の筋電図信号は、他の筋肉の時間局在化した活動が類似性信号に基づいて決定されるとき、ゼロに設定されることができる。故に、第1の筋電図信号の乱れていない信号部分が他の信号処理に使用されることができる。
【0041】
ある実施例において、処理装置は、元々は第1の筋電図信号及び第2の筋電図信号の両方に存在している従属的信号を第1の筋電図信号から取り除くように構成される。この実施例の利点は、例えば姿勢を維持するために(弛緩されない)大胸筋により生じる相当な緊張性活動である寄与が削除され得ることである。大胸筋に起因する電圧信号は、下層の肋間筋よりもかなり大きな振幅を持つEMG読取値を提供すると推測される。この方法の利点は、別の方法で隠された信号が示されることである。有利なことに、この方法は、別の信号を得るために、第2の筋電図信号が単に第1の筋電図信号から差し引かれる単なる差分測定に勝る。適応フィルターは、第2の筋電図信号を適応フィルターの基準信号として使用することにより、必要及び不要な信号の混合から不要な信号を取り除くのに使用されることができる。適応ノイズキャンセリングの原理は、B. Widrow他著、"Adaptive Noise Cancelling: Principles and Applications", Proc. IEEE, Vol.63, 1975, pp. 1692-1716により説明される。
【0042】
本発明のさらにもう1つの態様において、上述した処理装置と共に使用するための電極パッチが示される。この電極パッチは、胸部上の少なくとも2つの異なる場所に、表面筋電図測定のための少なくとも2つの組の電極を有し、ここで第1の組の電極は、胸骨を除く、第1肋間腔で第1の筋電図信号を測定するための第1の対の電極を有する、及び第2の組の電極は、胸骨を除く、第2肋間腔で第2の筋電図信号を測定するための第2の対の電極を有する。有利なことに、第1の対の電極は、第1電極及び第2電極を有し、第2の対の電極は、第3電極及び第4電極を有する。電極パッチの第1電極及び第2電極は、第2肋間腔、すなわち胸骨の両側にある第2及び第3助軟骨の間において第1の筋電図信号を測定するために配されるのに対し、電極パッチの第3電極及び第4電極は、第3肋間腔、すなわち胸骨の両側にある第3及び第4助軟骨の間において第2の筋電図信号を測定するために配される。他の例において、電極パッチの第1電極及び第2電極は、胸骨を除く、第2肋間腔、すなわち胸骨の両側の第2及び第3助軟骨間において第1の筋電図信号を測定するために配されるのに対し、電極パッチの第3電極及び第4電極は、第2肋間腔、すなわち胸骨の両側の第2及び第3助軟骨の間であるが、胸骨から離れて、第2の筋電図信号を測定するために配される。これは、大胸筋の活動を決定するのに有利である。
【0043】
単一パッチにおける電極のこの特定の配列の利点は、このパッチが電極の配置を容易にすることである。幾何学的寸法に関する患者の多様性に関して、電極の場所の配列は、解剖学的特徴に関して規定される。互いに対する電極の既定の配置も電極を誤った場所に置く危険性を減らす。これにより、電極の配置は、高度に訓練を受けた医療専門家により、必ずしも行われる必要はなく、例えば家庭医療設備においてユーザにより行われることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
本発明のこれら及び他の態様は、以下に説明される実施例から明らかであり、これら実施例を参照して説明される。
図1】被験者に適用される本発明の態様に従う筋電図測定システムを示す。
図2】生の筋電図信号、RMS筋電図信号及び呼吸流量の例示的なグラフを示す。
図3】本発明の態様に従う筋電図信号を処理するための方法のフローチャートを示す。
図4】傍胸骨肋間筋の神経支配の解剖学的な概略図を示す。
図5】肋間筋と胸横筋との関係を例示するための胸郭の解剖学的な概略図を示す。
図6】第1の筋電図信号及び第2の筋電図信号の例示的なグラフを示す。
図7A】例示的な第1の筋電図信号の他のグラフを示す。
図7B】例示的な第2の筋電図信号の他のグラフを示す。
図8】咳をしているとき及び安静呼吸中の第1の筋電図信号と第2の筋電図信号との間におけるスペクトルコヒーレンスを示す例示的な類似性信号を示す。
図9】他のEMG電極構成を用いた解剖学的な略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0045】
図1は、被験者の身体に適用される筋電図測定システムの実施例を示す。この筋電図測定システムは、図1において参照番号1を用いて全体として示されている。
【0046】
本実施例における筋電図測定システムは、筋電図信号を処理するため、特に、少なくとも1つの他の筋肉の活動の最中に、傍胸骨肋間筋の活動による呼吸努力の測定に関係する、人間又は動物の身体における標的筋肉の活動を示す筋電図信号を処理するための処理装置20を有する筋電図測定装置10を有する。
【0047】
処理装置20は、身体上の第1の場所において前記標的筋肉及び前記他の筋肉から得られる第1の筋電図信号21を受信するための第1のインタフェース23、身体上の第2の場所において前記標的筋肉及び前記他の筋肉のもう1つの場合(instance)から得られる第2の筋電図信号22を受信するための第2のインタフェース24、並びに前記第1の筋電図信号21及び前記第2の筋電図信号22に基づいて類似性信号を決定するための解析ユニットを有する。限定ではない本実施例において、前記標的筋肉は傍胸骨肋間筋であり、前記他の筋肉は胸横筋であり、身体上の第1の場所は、第2肋骨102と第3肋骨103との間にある第2肋間腔105(図5)であり、及び身体上の第2の場所は、第3肋骨103と第4肋骨104との間にある第3肋間腔106(図5)である。
【0048】
少なくとも1つの他の筋肉の活動の最中に、呼吸努力の測定に関係する、人間又は動物の身体における標的筋肉の活動を示す筋電図信号を処理するための対応する方法が図3に示されている。第1のステップS1において、身体上の第1の場所において標的筋肉及び他の筋肉から得られる第1の筋電図信号が受信される。第2のステップS2において、身体上の第2の場所において前記他の筋肉から得られる第2の筋電図信号が受信される。第3のステップS3において、前記第1の筋電図信号及び前記第2の筋電図信号に基づいて類似性信号が決定される。任意の第4のステップS4において、前記類似性信号に基づいて呼吸相が決定される。例えば、第1及び第2の筋電図信号から得られる類似性信号が第1の既定のしきい値より下である場合、呼吸相は吸気相として決定されることができる、及び/又は第1及び第2の筋電図信号から得られる類似性信号が第2の既定のしきい値を超えている場合、呼吸相は呼気相として決定されることができる。
【0049】
筋電図測定システム1はさらに、第1の筋電図信号21を得るための第1の対の電極3A、3B、及び第2の筋電図信号22を得るための第2の対の電極4A、4Bを有し、前記第1の対の電極は、処理装置20の第1のインタフェース23に第1の筋電図信号を供給するために、筋電図測定装置10の第1の入力部11に接続可能であり、前記第2の対の電極は、処理装置20の第2のインタフェース24に第2の筋電図信号を供給するために、筋電図測定装置10の第2の入力部12に接続可能である。
【0050】
これら第1及び第2の対の電極3A、3B、4A、4Bは、被験者100の胸部上の皮膚に当てるための電極パッチ2により設けられる。故に、電極パッチ2は、被験者の胸部上の、ここでは被験者100の胸骨に沿った少なくとも2つの異なる場所における、差分表面筋電図測定のための2つの組の電極3A、3B及び4A、4Bを有する。第1の組の電極は故に、第1肋間腔、ここでは第2助軟骨(costal cartilage)又は肋骨102と第3肋骨103との間にある肋間腔において第1の筋電図信号21を測定するための第1の対の電極3A、3Bを有する。第1の対の電極の第1電極3A及び第2電極3Bは、対の電極リード線5A,5Bを介して筋電図測定装置10の第1の入力部11に接続される。それに対応して、前記第2の対の電極の第3電極4A及び第4電極4Bは、対の電極リード線6A、6Bを介して筋電図測定装置10の第2の入力部12に接続される。
【0051】
筋電図測定装置10はさらに、被験者100の身体上の電気的に中性の場所、特に骨隆起(bony prominence)に基準電極又は接地電極とも呼ばれる任意の別の電極8に接続するための接地インタフェース16も任意で有することができる。
【0052】
筋電図測定装置はさらに、出力ユニット18も有する。この出力ユニット18は例えば、表示ユニットのようなヒューマンマシンインタフェース(HMI)とすることも可能であり、又は例えば病院情報システム(HIS)、電子健康記録(EHR)、処理装置20の信号処理の結果を供給するため及び/又は筋電図信号を視覚化するためのコンピュータ若しくはスマートフォンのような他の装置と有線又はワイヤレス通信するための通信インタフェースとすることも可能である。
【0053】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)及び他の呼吸器疾患を患う患者において、例えば第2肋骨102と第3肋骨103との間にある第2肋間腔に位置決められる電極を用いた、表面EMGから測定される傍胸骨筋の活動の評価は、呼吸筋の負荷と呼吸筋の能力との間におけるバランスのインジケータとして、患者の呼吸努力の強度、タイミング及び期間を推定するのに有用である。COPD患者においてしばしば観察される筋肉の負荷と筋肉の能力との間におけるアンバランスさは、幾つかの影響により生じている。例えば、呼吸筋のポンプ負荷は、増大する抵抗、弾性及びしきい負荷により増大する。筋肉の能力は、肺の過膨張及び横隔膜麻痺(functional diaphragm weakness)により低下する。第2肋間腔において傍胸骨で有利に測定され、吸気中に起こるRMS EMGは、神経呼吸ドライブ(NRD)に関係していることが分かっている。COPD患者において、急性増悪時に観察されるような肺の過膨張を増大させる場合、呼吸筋の負荷と能力との間におけるバランスの変化が存在し、これは、NRDの増大に至る低い能力と高い負荷とにより反映される。
【0054】
図1に示されるように、第2肋間腔105における呼吸筋の活動は、胸骨101の両側、すなわち傍胸骨の場所に対称的に置かれる2つのEMG電極3A、3Bを介して測定される。これら2つの電極は、単一のEMG電極パッチ2に取り付けられることができ、このパッチは、電極の配置も容易にする。第2肋間腔105における電極は主に、吸気中の傍胸骨筋の活性化による吸気呼吸努力を測定することが分かっている。
【0055】
2つのEMG電極3A、3Bを介して、第2肋間腔105において測定される、吸気中の傍胸骨筋の筋電図(EMG)の最大出力の測定(measure)は、何日にもわたり何回もの測定が行われるとき、COPD患者の毎日の悪化/改善のインジケータとして、及び退院後の再入院の予測因子としても使用され得ることもさらに分かっている。例えば1分のような既定の時間にわたり平均化される最大吸気のRMS EMG活動である、RMS EMGにおける最大吸気が使用されることができる。毎日の電極配置の相違、皮下脂肪組織の厚さの違い、及び大胸筋の厚さの違いを調整するために、いわゆる"スニフ(sniff)"の読み取り値を用いて正規化が行われる。スニフの読み取り中、患者は、較正のために(患者が行うのと同じ強さの)素早い強制的な吸気スニフとして1つ以上のスニフ演習を行うよう指示される。
【0056】
故に、そのようなEMGベースの測定は、患者の呼吸機能及び呼吸補助の安全、並びに早期退院の標的マーカーとして使用されることができる。患者が例えば1ヶ月のような既定の時間期間内に同じ問題で病院に再入院する場合、病院は患者の余分な費用を支払わなければならないので、これは米国及び英国の病院にとって特に適切である。
【0057】
第2肋間腔におけるEMG信号の測定は、心臓活動が混入されることも分かっている。故に、心臓活動による混入を取り除くための既知の技術、すなわちEEG(心電図)除去技術は、心臓活動のないEMGを示すだけの信号を得るのに利用される。筋電図測定装置10は、例えば動きアーチファクトが起きる場合の測定を避けるために、動き信号を受信するための他のインタフェース17を任意で有することができる。動き信号は、任意の加速度計を用いて得られる。任意で、筋電図測定装置が患者の身体に取り付けられる場合、加速度計は筋電図測定装置10に含められることができる。その代わりに、加速度計がEMG電極パッチに含められることができる。
【0058】
図1の筋電図測定装置10を再び参照すると、入力部11は、電極パッチ2の電極3A、3Bの電極リード線5A、5Bに接続するための第1コネクタ13A及び第2コネクタ13Bを有する。それにより、これら電極は、例えば差動増幅器14、特にその出力部に差分筋電図信号21を供給する高インピーダンスの差動増幅器に接続される。それに応じて、第2の筋電図信号22を供給するための筋電図測定装置10の第2の入力部12が構成される。
【0059】
図2は、生の筋電図信号31、RMS筋電図信号32及び呼吸流量33からなる例示的なグラフを例示している。
【0060】
図2の一番上のグラフは、傍胸骨のEMG測定値EMGparaの生のEMG信号31を示す。縦軸は、EMG電圧(μV)を示し、一方横軸は、時間t(秒)を示す。描かれる信号のトレースは、被験者100の第2傍胸骨肋間腔105に配される1つの対のEMG電極3A、3Bを用いて、差分EMG測定値として得られる第1の筋電図信号21を示す。
【0061】
図2の真ん中のグラフは、二乗平均平方根(RMS)筋電図信号32を示す。縦軸は、一番上のグラフに対応するRMS値を示し、一方横軸は再び時間t(秒)を示す。傍胸骨測定に対し、この値は、Murphy他により説明されるようなRMSparaとしても呼ばれる。
【0062】
図2の一番下のグラフは、呼吸活動に対する基準として、鼻/口カニューレを用いて測定された差圧信号Q 33のグラフを示す。縦軸は、圧力信号Qを示し、一方横軸は時間t(秒)を示す。
【0063】
図2の一番上のグラフに示されるように、生のEMG信号は、呼吸が原因による影響だけでなく、参照番号34により例示的に示されるような心臓活動からのクロストークも有する。そのような心臓活動は、ECG除去技術により取り除かれることができる。ECG除去は、処理装置20による処理ステップとして有利に行なわれることができる。
【0064】
ここで図2の一番下のグラフを参照すると、全呼吸周期がTで示される。この呼吸周期はさらに、呼気が生じている第1の期間P1と、吸気が生じているP2及びP3を含む第2の期間とに分割されることができる。
【0065】
図2の下2つのグラフから分かるように、RMSpara32及びQ信号33は、呼気相P1並びに吸気相P2及びP3の間、完全に同期した特性を示していない。
【0066】
測定はCOPD患者に関係している。傍胸骨肋間筋による吸気努力に加え、トレース31、32に示されるように呼気努力も測定される。特に、呼気相P1中、RMSpara信号32において何らかの筋肉活動が高まっていることが分かる。さらに、図2は、実際の吸気相P2及びP3より前にEMG活動が既に大幅に増大していることを示している。これはP4により示される。吸気筋の採用(recruitement)と解釈されるものは、鼻における実際の圧力降下及びまさに吸気を示す空気流の生成の前に始まる。第1の考えられる説明は、COPD患者は、空気流を生成することができる前に、固有の呼気終末陽圧(EPPE)に打ち勝たなければならないことである。しかしながら、P1中のRMSpara信号32においてエネルギーの増大が示すように見えるので、RMSpara信号32において強制的な呼気活動の重ね合わせを持つ、寄与の混合が存在している。故に、第2肋間腔105に置かれる単一の対の電極3A、3BからのEMG測定値31に基づいて吸気と呼気とが簡単に区別され得ない。
【0067】
言い換えると、第1の筋電図信号31は、第2肋間腔の傍胸骨筋105の活動を表すだけでなく、異なる筋肉の活動の混合、特に、全吸気中で活性である傍胸骨筋の吸気相の活動と、受動的ではない呼気中に活性化される可能性がある胸横筋である呼気相の活動と、姿勢の変化、姿勢の維持等の間に活性化される例えば大胸筋の緊張性活動との混合を実際に供給している。大胸筋の寄与は、この筋肉は自主的に制御され得るので、患者に静止したままでいる及びできるだけリラックスするように指示することにより減らすことができる。
【0068】
故に、(a)吸気の呼吸努力を捕えるために、吸気相P2及びP3と呼気相P1とを区別する、並びに(b)例えば緊張性又は相の活動のようなEMG活動の発生源及び性質を決定する必要がある。各筋肉は特定の生理的機能を持っているので、異なる種類の筋肉間、特に傍胸骨の場所におけるEMG信号からの関連情報を引き出すために、胸横筋の活動に対する傍胸骨筋の活動を区別する必要がある。それにより、特にCOPD患者又は他の慢性疾患に対する呼吸機能の1つ以上の標的マーカーが決定されることができる。
【0069】
EMG活動は明らかに傍胸骨肋間筋に起因していると考えるために、従来技術は、傍胸骨筋の活動を分離させる(isolate)ためにニードル電極技術の使用を提案している。従来技術とは対照的に、発明者は、第2の筋電図信号22の使用を提案している。第2の筋電図信号は、呼吸過程において関与する異なる筋肉の活動の種類を区別するのに使用されることができることは分かっている。
【0070】
図1を再び参照すると、ある実施例において、第1の対の表面EMG電極3A、3Bに加え、第2の筋電図信号22を得るための第2の対の表面電極4A、4Bが設けられる。EMG装置10の処理機器20は故に、身体100上の第2の場所106において得られる第2の筋電図信号22を受信するための第2のインタフェース24を有する。
【0071】
所与の例において、第2の対のEMG電極4A、4Bは、第3肋骨103と第4肋骨104との間にある第3肋間腔106に位置決められる。一見すると、第3の肋間腔106が気呼吸努力中に関与する傍胸骨肋間筋も含んでいるため、第2の筋電図信号22は、第1の筋電図信号21に似た動きをすると思われる。しかしながら、第3肋骨103から第4肋骨104に伸びている傍胸骨筋は、第2肋骨102から第3肋骨103に伸びている、第2肋間腔105にある傍胸骨肋間筋に比べ、独立して神経支配されることが分かっている。
【0072】
図4は、第2の肋間腔105における身体100の胸部の解剖学的な概略図を身体の横断面で示す。図4は、胸骨101及び脊椎111の骨構造を示す。肋間筋に関し、図4は、外肋間筋121、内肋間筋122及び最内肋間筋123を示し、これらは合わせて肋間筋120と呼ばれる。各々別の肋間腔にある傍胸骨筋の特性は、これら傍胸骨筋が夫々の肋間神経124により別々に神経支配されることである。故に、発明者は、この事実が関与する異なる筋肉を区別するのに利用され得ると認識した。各夫々の肋間腔にある肋間筋は別々に神経支配されているという事実により、測定される電気活動が傍胸骨肋間筋だけから生じているとき、対応する第1及び第2の筋電図信号は相関関係がない信号を示す。図4に示される解剖学的な概略図において、胸横筋は参照番号126で示され、大胸筋は参照番号128で示される。
【0073】
図4はさらに、第1の対の電極の第1電極3Aが第1の筋電図信号を得るための表面電極として身体の皮膚上に当てられている電極パッチ2の例示的な実施例を示す。第1の筋電図信号は、図4に見られるような下層の筋肉、すなわち大胸筋128、肋間筋120及び胸横筋126の活動を示していることが容易に考えられる。故に、第1の筋電図信号は、第2肋間腔105におけるEMG信号から簡単に分離され得ないこれらの信号の重ね合わせを有する。
【0074】
図5は、体の内側から見たような身体100の胸郭の解剖学的な概略図を示す。第1の筋電図信号21を得るための第1の対の電極3A、3B及び第2の筋電図信号22を得るための第2の対の電極4A、4Bの場所の画像が丸で示されている。図5から分かるように、大胸筋128の寄与はないと仮定すると、第1の筋電図信号21は、第2肋骨102と第3肋骨103との間にある第2肋間腔105からの肋間筋120Aの寄与を有する。それに対応じて、第2の筋電図信号22は、第3肋骨103と第4肋骨104との間にある第3肋間腔106からの肋間筋120Bの寄与を有するが、第2肋間腔からではない。対称的に、胸横筋126は、両方の対の電極の電極3A、4A及び3B、4Bにわたって広がっている。故に、第2肋間腔105及び第3肋間腔106における2つの差分測定は、胸横筋126の活動を示す相関信号を示す。
【0075】
胸横筋の一番上の筋束は、胸骨101の下部から第2肋骨102まで(略)垂直に伸びている。胸横筋は、肋間神経により神経支配される傍胸骨筋と全く同じである。
【0076】
図6、7A及び7Bは、第1及び第2の筋電図信号21、22の例示的なグラフを示している。解析ユニット20は、第1の筋電図信号21及び第2の筋電図信号22を受信し、これらの信号に基づいて、これら2つの信号の類似性を類似信号26の形式で決定する。それにより、解析ユニット20は、上に説明されるように、傍胸骨肋間筋からの吸気筋肉と胸横筋からの呼気筋肉とを区別することができる。
【0077】
図6は、上記の類似性の解析が、吸気活動から咳、すなわち強制的な呼気活動を区別するのに使用される一例を示す。咳は、胸横筋により生じることが知られている。図6は、最大の咳活動62そして、咳活動の減衰63が続く、咳活動の始まり61を示す。実線は、第1の差分測定信号として第1の対の電極3A、3Bを用いて得られる第1の筋電図信号21に対応し、破線は、第2の差分測定信号として第2の対の電極4A、4Bを用いて得られる第2の筋電図信号22に対応する。見られるように、咳の最大活動中、特に低周波数において2つの信号は高い相関性がある。他方、咳の始まり及び減衰は低い相関性を示す。
【0078】
図7A及び7Bは、安静呼吸中の第1の筋電図信号21及び第2の筋電図信号22のトレースを示す。より良好なグラフ表示のために、図7A及び7Bにおける信号をよりはっきりと区別するために、夫々の信号に垂直オフセットが加えられている。しかしながら、両方の信号は、ゼロ平均のベースライン値を用いて考察されるべきである。図7Aは、ゲーティング(gating)によりECGが取り除かれた後の信号を示し、ここで心臓活動中の信号部は、参照番号34により示されるように取り除かれている。故に、心臓活動を示すQRS群34は取り除かれている。図7Bにおいて、図7Aの特定の選択範囲は示されている。
【0079】
図8を参照すると、本例において、解析ユニット20は、第1の筋電図信号21と第2の筋電図信号22との間におけるコヒーレンスを計算するように構成される。図8において、縦軸は、コヒーレンス因子Cを示し、一方横軸は周波数fを示す。咳信号及び安静呼吸信号の両方に対し計算されたコヒーレンスが図8に示され、ここで参照番号81で示される曲線は、咳事象62に対応し、一方、低いコヒーレンスの曲線82は、安静呼吸の期間に対応する。
【0080】
図8から分かるように、咳をしている間、対の電極3A、3Bからの信号間の相関性、及び対の電極4A、4Bからの信号間の相関性は、低周波数に存在するだけでなく、高周波数にも多くの相関性を示している。
【0081】
図1を再び参照すると、処理装置20はさらに、任意の第2の解析ユニット27を有してもよい。第2の解析ユニット27は、前記解析ユニットから類似性信号26を受信する。第2の解析ユニット27は、この類似性信号26に基づいて、呼吸相を決定するように構成される。第2の解析ユニットは、第1及び第2の筋電図信号から得られた類似性信号が第1の既定のしきい値よりも低い場合、呼吸相を吸気相と決定する、及び/又は第1及び第2の筋電図信号から得られた類似性信号が第2の既定のしきい値を超えている場合、呼吸相を呼気相と決定するように構成される。
【0082】
第2の解析ユニット27はさらに、類似性信号に基づいて、呼吸相を示す呼吸相信号を供給するように構成され、及び処理装置は故に、前記呼吸相信号と前記第1の筋電図信号とに基づいて呼吸努力を決定するようにさらに構成されてもよい。特に、処理装置は、吸気相中の第1の筋電図信号の信号エネルギーに基づいて吸気努力を決定する、及び/又は呼気相中の第1の筋電図信号の信号エネルギーに基づいて呼気努力を決定するように構成されてもよい。
【0083】
第1の筋電図信号及び第2の筋電図信号に基づいて類似性信号を決定するのに加えて又はその代わりに、処理装置は、第1の筋電図信号及び第2の筋電図信号の両方に元々存在している依存的信号(dependent signal)を第1の筋電図信号から取り除くために構成されてもよい。故に、きれいにされた第1の筋電図信号が供給される。例えば、このきれいにされた第1の筋電図信号は、第2の肋間腔105における傍胸骨肋間筋の活動を示し、ここで筋電図信号は、大胸筋の活動の活性化から除去される。
【0084】
図9は、他のEMG電極構成を用いた解剖学的な概略図を示す。第1の筋電図信号21を得るための第1の対の電極3A、3B、及び第2の筋電図信号22を得るための第2の対の電極4A、4Bの場所の画像は、丸で示されている。この実施例において、第1の対の電極の第1電極3A及び第2電極3Bは、第1の筋電図信号21を得るために、第2肋骨102と第3肋骨103との間にある第2肋間腔105において胸骨に近い両側で傍胸骨に当てられる。第2の対の電極の第3電極4A及び第4電極4Bも、第2の筋電図信号22を得るために、第2肋間腔105において胸骨の両側であるが、胸骨から離れて当てられる。
【0085】
この実施例において、第2の傍胸骨肋間筋120は、標的筋肉であるのに対し、大胸筋128は他の筋肉である。第1及び第2の対の電極は、夫々の標的筋肉及び他の筋肉に応じて、別々の場所に当てられることもできる。例えば、第2の対の電極の第3電極及び/又は第4電極は、これら電極が前記他の筋肉、ここでは大胸筋からEMG信号の寄与を受けている限り、別の場所、例えば別の肋間腔に当てられることもできる。図9に示されるように、第2の対の電極は、小胸筋129からの寄与を測定してもよい。従って、小胸筋は任意で評価されることもできる。
【0086】
大胸筋128は、第1及び第2の対の電極にわたり広がっているので、大胸筋の活動は、第1の筋電図信号21及び第2の筋電図信号22の両方に見られる。故に、第1の筋電図信号21と第2の筋電図信号22との類似性を示す類似性信号26は、大胸筋の活動を示すことがある。大胸筋は通例、身体を動かしている間は活動している。上手くリラックスできない場合、大胸筋は何らかの緊張性活動も生じている。故に、類似性信号は身体の動き及び/又は緊張性活動を示すことがある。
【0087】
有利なことに、そのような身体の動きの検出と一致する第1の筋電図信号の期間は処分される。故に、例えば類似性信号が既定のしきい値を超えている場合、神経呼吸ドライブ又は呼吸努力は評価されない。図1を参照すると、処理装置20は、類似性信号26を受信する、及びこの類似性信号26に基づいて、第1の筋電図信号21から前記他の筋肉の活動を取り除くように構成される第2の解析ユニット27を有する。処理装置20は、前記他の筋肉の活動が検出されるとき、第1の筋電図信号の信号部を取り除いてもよい。代替例において、検出後に較正又は補償が適用されることができる。
【0088】
他の実施例において、図1の筋電図測定装置10は、電極パッチ2に直接付けられることができる。代わりに、筋電図測定装置10は、この装置上でクリックされ、その後、胸骨101の中心であり、第2及び第3肋間腔105、106の高さで患者に取り付けられる4つの(使い捨ての)電極を含んでもよい。
【0089】
有利なことに、例えば呼吸努力又はNRD値のような生理学的パラメータ、及び/又は咳の努力は、連続して観察される、及び出力ユニット18により例えば患者モニター又はスマートフォンのようなハブに有線又はワイヤレスで送られることができる。これらに基づいて、臨床的な評価が行われることができる。任意で、生理学的パラメータが患者の起こり得る危険及び/又は悪化を特定するしきい値を超える場合、例えば出力ユニット18によりスマートアラームが生成されることができる。
【0090】
要するに、筋電図信号を処理するのに有利な方法が示されている。ここで開示される技術的な解決法は、筋電図測定システムをさらに向上させるための可能性を提供している。特に、提案した解決法の態様は、呼吸過程を、特に傍胸骨肋間筋を含む呼吸筋、及び例えば呼吸を補助するための胸横筋のような補助筋の使用が増えているCOPD患者の呼吸過程をより詳細に解析するための可能性を提供する。
【0091】
他の態様は、以下の項に説明される。
【0092】
第1項:少なくとも1つの他の筋肉(126、128)の活動の最中に、呼吸努力の測定に関係する、人間又は動物の身体(100)における標的筋肉(120)の活動を示す筋電図信号を処理するための処理装置(20)は、前記身体(100)上の第1の場所において前記標的筋肉(120)及び前記他の筋肉(126、128)から得られる第1の筋電図信号(21)を受信するための第1のインタフェース(23)、前記身体(100)上の第2の場所において前記他の筋肉(126、128)から得られる第2の筋電図信号(22)を受信するための第2のインタフェース(24)、及び前記第1の筋電図信号(21)と前記第2の筋電図信号(22)とに基づいて類似性信号(26)を決定するための解析ユニット、を有する。
【0093】
第2項:前記標的筋肉(120)は、傍胸骨肋間筋である及び/又は前記他の筋肉は、胸横筋(126)及び大胸筋(128)の少なくとも一方である、第1項に記載の処理装置。
【0094】
第3項:前記類似性信号(26)は、第1の筋電図信号(21)と第2の筋電図信号(22)との相関性又はスペクトルコヒーレンスを示す、第1項に記載の処理装置。
【0095】
第4項:前記第1の筋電図信号(21)及び前記第2の筋電図信号(22)の少なくとも一方は、肋間腔(105、106)で得られる、第1項に記載の処理装置。
【0096】
第5項:前記第1の筋電図信号(21)は、前記第2肋間腔(105)で得られる、及び/又は前記第2の筋電図信号(22)は、前記第3肋間腔(106)で得られる、第1項に記載の処理装置。
【0097】
第6項:前記第1の筋電図信号(21)は、前記身体上の第1の場所における前記他の筋肉(126、128)及び前記標的筋肉(120A)の第1のインスタンスから得られる、及び前記第2の筋電図信号(22)は、前記身体上の第2の場所における前記他の筋肉(126、128)及び前記標的筋肉(120B)の第2のインスタンスから得られる、第1項に記載の処理装置。
【0098】
第7項:前記解析ユニット(25)は、前記類似性信号(26)に基づいて、呼吸相を決定するよう構成される、第1項に記載の処理装置。
【0099】
第8項:前記解析ユニット(25)は、前記第1及び第2の筋電図信号(21、22)から得られる前記類似性信号(26)が第1の既定のしきい値より下にある場合、呼吸相を吸気相(P2、P3)と決定する、及び/又は前記第1及び第2の筋電図信号(21、22)から得られる前記類似性信号(26)が第2の既定のしきい値を超えている場合、呼吸相を呼気相(P1)と決定するように構成される、第1項に記載の処理装置。
【0100】
第9項:前記解析ユニット(25)はさらに、前記類似性信号(26)に基づいて、前記呼吸相を示す呼吸相信号を供給するように構成される、並びに前記処理装置(20)はさらに、前記呼吸相信号及び前記第1の筋電図信号に基づいて呼吸努力を決定するように構成される、第7項に記載の処理装置。
【0101】
第10項:吸気相中の前記第1の筋電図信号(21)の信号エネルギーに基づいて、吸気努力を決定する、及び/又は呼気相中の前記第1の筋電図信号(21)の信号エネルギーに基づいて、呼気努力を決定するように構成される、第9項に記載の処理装置
【0102】
第11項:前記処理装置は、前記類似性信号(26)に基づいて、前記他の筋肉(126、128)の活動を前記第1の筋電図信号(21)から取り除くように構成される、第1項に記載の処理装置。
【0103】
第12項:第1項に記載の処理装置(20)と共に使用するための電極パッチにおいて、前記電極パッチは、胸部上の少なくとも2つの異なる場所において表面筋電図測定のための少なくとも2つの組の電極(3A、3B、4A、4B)を有し、第1の組の電極は、胸骨(101)を除く、第1の肋間腔(105)において第1の筋電図信号(21)を測定するために配される第1の対の電極(3A、3B)を有する、及び第2の組の電極は、胸骨(101)を除く、第2の肋間腔(106)において第2の筋電図信号(22)を測定するために配される第2の対の電極(4A、4B)を有する、電極パッチ。
【0104】
第13項:第1項に記載の処理装置を有する筋電図測定装置(10)、前記第1の筋電図信号(21)を得るための第1の対の電極(3A、3B)、及び第2の筋電図信号(22)を得るための第2の対の電極(4A、4B)を有する筋電図測定システム(1)であり、前記第1の対の電極は、前記処理装置(20)の第1のインタフェース(23)に前記第1の筋電図信号(21)を供給するために、前記筋電図測定装置(10)の第1の入力部(11)に接続可能であり、前記第2の対の電極は、前記処理装置(20)の第2のインタフェース(24)に前記第2の筋電図信号(22)を供給するために、前記筋電図測定装置(10)の第2の入力部(24)に接続可能である、筋電図測定システム。
【0105】
第14項:少なくとも1つの他の筋肉(126、128)の活動の最中に、呼吸努力の測定に関係する、人間又は動物の身体(100)における標的筋肉(120)の活動を示す筋電図信号を処理するための方法において、前記方法は、前記身体(100)上の第1の場所において前記標的筋肉(120)及び前記他の筋肉(126、128)から得られる第1の筋電図信号(21)を受信するステップ、前記身体(100)上の第2の場所において前記他の筋肉(126、128)から得られる第2の筋電図信号(22)を受信するステップ、並びに前記第1の筋電図信号(21)と前記第2の筋電図信号(22)とに基づいて類似性信号(26)を決定するステップ、を有する方法。
【0106】
第15項:コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行されるとき、前記コンピュータに第14項に記載の方法のステップを実行させるためのプログラムコード手段を有するコンピュータプログラム。
【0107】
本発明は、図面及び上記記載において詳細に例示及び説明されている一方、そのような例示及び説明は、説明的又は例示的であり、限定的ではない、つまり、本発明は開示される実施例に限定されないと考えるべきである。開示される実施例に対する他の変形例は、図面、本開示及び付随する特許請求の範囲を検討することにより、請求される本発明を実施する当業者により理解される及び生じることができる。
【0108】
請求項において、"有する"という言葉は、他の要素又はステップを排除するものではなく、複数あることを述べなくても、それらが複数あることを排除するものではない。単一の要素又は他のユニットが請求項に列挙される幾つかのアイテムの機能を果たしてもよい。ある方法は互いに異なる従属請求項に挙げられているという単なる事実は、これらの方法の組み合わせが有利に使用されることができないことを示してはいない。
【0109】
コンピュータプログラムは、例えば他のハードウェアと一緒に若しくはその一部として供給される光学記憶媒体又はソリッドステート媒体のような適切な媒体上に記憶/配布されてもよいが、例えばインターネット又は他の有線若しくはワイヤレスの電話通信システムを介して他の形式で配布されてもよい。
【0110】
請求項における如何なる参照符号もその範囲を限定すると考えるべきではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9