(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記樹脂成形体が、チオウレタン系、エピスルフィド系、(メタ)アクリレート系、ナイロン系又はポリウレア系の樹脂で形成されているとともに、前記熱硬化性の機能性樹脂層が前記樹脂成形体に重合密着されていることを特徴とする請求項5記載の光学要素。
【背景技術】
【0006】
光学要素の眼鏡素材(レンズ)に求められる性能(機能)として、調光性能(フォトクロミズム)、紫外線吸収性能(特定波長吸収性能)などがある。この眼鏡素材が調光性能や特定波長吸収性能を備えるには、フォトクロミック剤、特定波長吸収剤などの機能性薬剤を眼鏡素材に含有させる必要がある。しかし、眼鏡素材に機能性薬剤を混合させて含有させると、それらの機能性薬剤の消費量が増大しコスト高になる。このため、基材とは別に機能性樹脂層を形成して、機能性薬剤の低減を図ることが行われている。そして、その対策の一つとして、眼鏡基材と機能性樹脂層とを接着剤層を介して一体化することが考えられる(特許文献2参照)。
【0007】
しかし、接着剤層を介していては、製造工数が嵩んだり、接着剤層が光学特性やレンズ外観(色むら等)に影響を与えるおそれがある。
【0008】
これに対して、特許文献1には、機能性樹脂層を注型成形により重合密着させて有機ガラス基材に一体化する樹脂レンズ(光学要素)の製造方法が提案されている[0005]。
【0009】
しかし、特許文献1では、同文献の表3「重合密着テスト」に示される如く、基材レンズ:チオウレタン系(ne=1.60)、機能性樹脂層:メチルメタクリレート系樹脂(PMMA)(ne=1.55)との組み合わせでは、密着性を得難い。また、基材レンズ:エピスルフィド樹脂系(ne=1.74)、機能性樹脂層:チオウレタン系(ne=1.60)との含硫黄樹脂相互の組み合わせの場合においても、十分な密着性を得難いことを本願発明者らは確認している(特許文献2[0008],[0009]及び後述の[表3]参照)。
【0010】
なお、本願基礎出願1・2(特願2016-255420号(28/12/16)、PCT/JP2017/6188(20/02/17))の先願に係り、当該基礎出願の後に出願公開された特許文献3が存在する。本文献では、機能性樹脂の原料としてメタアクリレート(M(Ac))系樹脂(熱硬化性)の組成物を用い、該組成物の重合性成分として、OH基含有アルキル(M)Acモノマーと、他の(M)Acモノマーに含有させたものが提案されている(要約等)。
【0011】
特許文献4にはチオウレタン系樹脂組成物において、得られる樹脂の光学物性を含む諸物性の調節やモノマーの取り扱い性の調整を目的として樹脂改質剤を添加することができると記載され[0038]、該樹脂改質剤としてアルコール化合物を使用でき、アルコール化合物としてはグリコール類及びそれらのオリゴマーが挙げられている[0062]、[0063]。また、同文献[0088]に「フォトクロミック性の付与などを目的として、目的に応じた色素を用い」との記載がある。しかし、当該記載および上記アルコール類の改質剤としての添加は、本願発明の機能性樹脂層における調光特性(戻り速さ)を改善する(増大させる)ためのアルコール類(PAO)の添加を開示若しくは示唆するものではない。
【0012】
すなわち、本発明と関連するPPGやEOPOについては、エチレングリコール(EG)やプロピレングリコール(PG)の二量体や三量体が例示されているのみで、本発明における様な中・高分子量(例えば、分子量800以上の長いエーテル鎖を有する)のものは、例示されておらず、さらには、EOPO共重合体で高分子量のものが、調光特性(戻り速さ)さらには重合密着性の見地から望ましいことは、何ら、開示若しくは示唆されていない。
【0013】
そして、特許文献2,3は、いずれも、本願発明における如く、機能性樹脂層の原料に高分子量のジオール(特定POAや特定Mn(数平均分子量)のPPG)、機械的特性および外観を阻害せずに調光性(戻り速さ)さらには重合密着性を改善することについては、黙している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態について説明する。実施形態の光学要素は、樹脂成形体である有機ガラス基材11の片面又は両面(図例では凸面側片面)に、機能性樹脂層15をレンズ基材(有機ガラス基材)11に重合密着(架橋接着)して一体化した眼鏡レンズ(光学要素)である(特許文献1等参照)。しかし、本発明は、当該構成に限られず、機能性樹脂層15をレンズ基材11に接着剤層を介して一体化する構成も含む。
【0020】
なお、機能性樹脂層15は、通常、有機ガラス基材11より薄く略均一な層厚を有するものである。また、有機ガラス基材11の表面(凸面)への用途に限定されず、有機ガラス基材11の裏面(凹面)又は両面(凸面及び凹面)に対しても適用することが可能である。
【0021】
(1)上記有機ガラス基材11としては、ポリカーボネート(PC)系、ポリウレタン系、ポリウレア系、脂肪族アリルカーボネート(CR)系、芳香族アリルカーボネート系、ポリチオウレタン系、エピスルフィド系、(メタ)アクリレート系、透明ポリアミド(透明ナイロン)系、ノルボルネン系、ポリイミド系、ポリオレフィン系などの合成樹脂を使用することができる。
【0022】
具体的には、MR−6,MR−8,MR−20,MR−60,MR−95(三井化学株式会社製チオウレタン系樹脂、ne:1.60)、MR−7,MR−10(三井化学株式会社製チオウレタン系樹脂、ne:1.67)、MR−174(三井化学株式会社製エピスルフィド系樹脂、ne:1.74)、NK−11P,LS106S,LS420(日本清水産業株式会社製(メタ)アクリレート系樹脂、ne:1.56)、ユーピロンCLS3400(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製ポリカーボネート系樹脂、ne:1.59)、グリルアミドTR XE3805(エムスケミー・ジャパン株式会社製ナイロン系樹脂、ne:1.53)、NXT(トライベックス社(ICRX NXT社)製ポリウレア系樹脂、ne:1.53)などの各登録商標名で上市されているものを好適に使用することができる。
【0023】
光学要素の原料組成物として、機能性薬剤は、基本的には機能性樹脂層15に添加するが、有機ガラス基材11にも、適宜、機能性薬剤(フォトクロミック剤、紫外線防止剤、劣化防止剤、ブルーイング剤等)を添加してもよい。
【0024】
(2)次に機能性樹脂層15について述べる。
【0025】
機能性樹脂層15は、チオウレタン系樹脂原料の架橋体(重合体)で形成する。そして、該原料の活性水素成分は、SH成分とともにOH成分を含み、該OH成分がフォトクロミック剤(調光剤)の戻り速さ増大促進剤としてのポリアルキレンオキシド(PAO)を含有するものである。
【0026】
有機ガラス基材11にも、適宜、フォトクロミック剤、紫外線吸収剤、劣化防止剤、ブルーイング剤等を添加してもよい。
【0027】
機能性樹脂層の形成樹脂として、チオウレタン系樹脂を採用した理由は、下記の通りである。
【0028】
例えばウレタン樹脂の場合はチオウレタン樹脂に比して表面硬度が小さく熱変形温度も低い。このため、ハードコートの形成に際して温度を余り高くできず、かつ、表面硬度の増大を余り望めない。すなわち、機能性樹脂層の表面に耐擦傷性に優れたハードコートを得難い。
【0029】
また、特許文献3では、機能性樹脂を(M)Ac系樹脂で形成しているが、もろいという欠点があり、穴あけ加工時に割れが発生することがあった。
【0030】
チオウレタン系樹脂とは、ウレタン結合(-NHCOO-)の酸素原子の少なくとも1個が硫黄原子に入れ替わった結合(-NHCOS-、-NHCSO-、-NHCSS-)を有するポリマー(樹脂)を意味する。
【0031】
該樹脂原料(ポリマー構成原料)は、機能的には、シアナート成分と活性水素成分とからなり、該活性水素成分は、SH成分とOH成分を含む。
【0032】
ここでシアナート成分としては、通常、反応性、入手のしやすさから、二価NCOとするが三価・四価NCOさらには、二価〜四価のNCSであってもよい。
【0033】
また、活性水素成分は、イソシアナート成分を二価NCOとするときは、通常、三・四価SHを主成分とするものとする。これらの三・四価SHは、炭素鎖の一部に硫黄を導入したスルフィド・ポリスルフィド・チオカルボニル(チオケトン)誘導体を母体化合物とするものであってもよい。
【0034】
これらのシアナート成分及びSH成分は、芳香族系であってもよいが、耐黄変性の見地からは、飽和脂肪族系・脂環式系が望ましい。
【0035】
具体的なシアナート成分としては、例えば、特許文献4の[0039]〜[0044]に、NCS成分として同[0045]〜[0050]に、それぞれ記載されている。
【0036】
これらのうちで、同[0051]に記載の如く、2,5-又は2,6-(イソシアナートメチル)ビシクロ[2,2,1]ヘプタン(通称、ノルボルネンジイソシアナート:略号NBDI)、m−キシリレンジイソシアナート(略号MXDI)、ヘキサメチレンジイソシアナート(略号:HDI)、水添フェニルメタンジイソシアナート(略号:水添MDI)、1,3-又は1.4-ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン等(いずれも2官能)が望ましい。
【0037】
具体的なSH成分としては、例えば、同[0052]〜[0060]に記載されている。
【0038】
これらのうちで、ペンタエリトリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)(略号PEMP)、4,7-,5,7-又は4,8-ビス(メルカプトメチル)-3,6,9-トリチアウンデカン-1,11-ジチオール(略号BMTU)(以上、4官能)及び4-メルカプトメチル-3,6-ジチア-1,8-オクタンジチオール(略号MDOD)(3官能)等が望ましい。特に、4官能のものが、架橋密度が高い(硬質)ものを得やすくて望ましい。
【0039】
ここで、チオウレタン樹脂のポリマー基本組成におけるNCO/SHは、1.01〜1.3、さらには1.05〜1.2がのぞましい。NCO/SHが過小であると、紫外線照射時の着色ムラ、及び密着性、レンズの歪みに影響がでる。またNCO/SHが過大であると、耐光性劣化の原因になる。
【0040】
本発明の特徴である機能性樹脂層を形成するチオウレタン系樹脂の活性水素成分を、SH成分とともに副成分として構成する0H成分として添加するPAOは、フォトクロミック剤を含有に起因する白濁現象を抑制しながら、調光速度(戻り速さ)を増大させ、さらには重合密着性を増大させる作用を奏するものなら特に限定されない(後述の試験例参照)。すなわち、本発明の基礎出願1・2に記載されている、各種PAO(ビスフェノールAやペンタエリスリトールのEO乃至PO付加体を含む。)を使用可能である。さらには、一価のポリエーテル、例えば、メチル封鎖ポリエーテルやアリル化ポリエーテルも使用可能である。後述の如く、調光性(戻り速さ)には、ポリエーテル鎖(POE)の鎖長が影響していると考えられるためである。
【0041】
これらのうちで、下記に示す構成のPAOが戻り速さの増大作用が大きく、かつ、前記白濁現象の抑制作用、さらには、重合密着性に優れており望ましい。後述の試験例から相対的にPAOが高分子量の方がまたEOPOブロック共重合体がこれらの作用が大きい。このことから、エーテル鎖(特に無極性のエチレンエーテル)の長さや、OH反応性(PEOの一級OHでPPOは二級OHがほとんどである。)がこれらの作用に影響があることが伺える。
【0042】
PAOとしては、下記構造式で示されるEOPOブロック共重合体(EOPO(B))(1)又はランダム共重合体(EOPO(R))(2)で、Mn:1.5千以上〜2万以下が望ましい。2万超も使用できる可能性を有するが市販品がなく、かつ、粘度が増大し易く、薄肉(例えば1mm以下)の機能性樹脂層を注型成形する場合において、ハンドリング性や成形性に問題が発生するおそれがある。
【0043】
HO−(C
2H
4O)
n1−(C
3H
6O)
m―(C
2H
4O)
n2−H・・・(1)
HO−(C
2H
4O)
n1−ran-(C
3H
6O)
n2−H ・・・(2)
なお、適宜、他のポリオール、例えば、ビスフェノールAにPOやEOを付加重合させたフェノール骨格ポリアルキレングリコールや、更に低分子量のポリアルキレングリコールを併用することもできる。
【0044】
ここで、EOPO(B)の数平均分子量(Mn)1.5千以上、望ましくは3千以上、更に望ましくは10千以上とする。Mn:1.5千未満では戻り速さ(戻り速さ=照射15分後透過率/照射停止2分後透過率)を1.1倍以上増大し難い(試験例No.10)。
【0045】
高分子量であるほど、所定の戻り速さのレンズを得るのに、添加量を少なくすることができる。(
図2参照)。このため、機能性樹脂層の基本組成におけるNCO/(SH+OH)に対する変動が少なくかつ重合体組成も基本組成からの変動も少なく、安定した品質の樹脂組成設計が可能となる。
【0046】
すなわち、PAOのMnが大きいほど、PAO無添加のチオウレタン系樹脂に比して、10%以上の戻り速さ:0.50以下、望ましくは0.30以下の調光性を少量の添加で得やすい(
図2・3)。さらに、12千以上のものを15部以上添加すると、さらなる重合密着性の増大が期待できる(〔表1〕試験例No.3)
また、このときのPAOの添加量は、EO換算添加量(=PAO添加量×EO含有%)で、1.5〜17部、望ましくは2〜15部とする(表1、
図4参照)。なお、
図4は、EOPO(B)についての試験結果であるが、EOPO(R)でも同様の試験結果が予測される(表2参照)。
【0047】
ここで、EOPO共重合体のEO含量は、30%以上、さらには35%以上が望ましい。30%以下では機能性樹脂層に白濁が発生するおそれがある(表1参照)。
【0048】
なお、PPG(Mn:1千)の場合は、EO含量が0%であるが、添加量が少量では、白濁が発生する([表3]試験例No.26)。さらに、PEG(Mn:1千)の場合は、EO含量が100%であるが、20部の添加でも白濁する([表3]試験例No.30)。これらの理由は、不明であり、試験結果から帰納されるものである。
【0049】
次に、本発明の光学要素の製造方法の望ましい態様について説明する。
【0050】
機能性樹脂層15を設けるキャビティ21は、有機ガラス基材11を第1モールド13とし、第1モールド13の外側に一定の隙間が形成されるように第2モールド17を配するとともに、第1モールド13と第2モールド17の周面隙間をテーピング19等でシールして形成する。第2モールド17として有機ガラス基材11の成形に使用したものと同一のモールドを使用することによって、機能性樹脂層15は一定の厚みを有することができる。
【0051】
機能性樹脂層15を設けるキャビティ21の隙間は、機能性樹脂の流動特性や機能性樹脂層15に要求される機能性によって設定する。通常、0.2〜2.5mm、0.3〜1.5mm、さらには0.4〜1.0mmとすることが好ましい。薄すぎると粘度の高い材料を使用する場合樹脂注入が困難となり成形不良が発生したり、厚すぎると機能性樹脂の硬化ムラから脈理(striae)が発生したりするおそれがある。ここで、「脈理」とは、「透明プラスチックの欠点で、プラスチック本体とは屈折率が異なり表面又は内部に見える糸状のすじ」のことである(小川伸著「英和プラスチック工業辞典」工業調査会1973年発行)。
【0052】
なお、光学要素は、有機ガラス基材11の機能性樹脂層15を備える側に偏光フィルムを配設し、有機ガラス基材11と機能性樹脂層15との間に偏光フィルムを備えた、偏光特性を有する光学要素とすることもできる。偏光フィルムは、ポリビニルアルコールから構成されるものが好ましい。ポリビニルアルコールが、機能性樹脂層15に含有されるイソシアナート化合物によって、有機ガラス基材11と偏光フィルムと機能性樹脂層15の密着性が確保されるからである。偏光フィルムの厚みは、10〜50μmであることが好ましい。偏光フィルムが、偏光特性を有しつつ、光学要素の曲面に追従する伸び性を有するためである。
【0053】
また、機能性樹脂層15が形成された有機ガラス基材11(光学要素)には、一般的に行われているハードコート加工、防曇処理加工、反射防止加工、撥水処理加工、帯電防止加工などの汎用の表面処理を適宜施すことができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0055】
(1)有機ガラス基材の成形:
凸面側モールドと凹面側モールドとを隙間を有して対面させて粘着テープでシールをして、有機ガラス基材成形用のキャビティを有する成形型を作成した。なお、該キャビティの仕様は、中心隙間:1mm、外径:86mm、凸面曲率:125mm、凹面曲率:84mmとした。
【0056】
有機ガラス基材11は下記のものを使用した。
(i)〜(iii)については、下記各屈折率の樹脂原料(市販品)を処方にしたがって調製し、該樹脂原料を上記成形型に注入し、下記各条件で加熱硬化させて調製した。また、 (iv)〜(vi)については、市販成形品を使用した。
【0057】
(i)チオウレタン系樹脂 ・・・ne:1.60、120℃×2h
(ii)エピスルフィド系樹脂 ・・・ne:1.74、120℃×2h
(iii)メタアクリレート系樹脂・・・ne:1.56、80℃×1h
(iv)ナイロン系樹脂 ・・・ne:1.53 市販インジェクション成形品
(v)ポリカーボネート系樹脂・・・ne:1.59 市販インジェクション成形品
(vi)ポリウレア系樹脂 ・・・ne:1.53 市販注型成形品
(2)機能性樹脂層の成形
機能性樹脂層15を形成するチオウレタン系樹脂の各組成を表1〜3に示す。
【0058】
各表における略号と化合物名の関係は下記の通りである。
【0059】
<NCO成分>
・NBDI:(2,5)-ビス(イソシアナートメチル)ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、
分子量208(2価、NCO当量:104)
・HDI:ヘキサメチレンジイソシアナート、
分子量168(2価、NCO当量:84)
・H12MDI:シクロヘキシルメタン-4,4´-ジイソシアナート、
分子量262(2価、NCO当量:132)
・MXDI:メタキシレンジイソシアナート、
分子量188(2価、NCO当量;94)
<SH成分>
・PEMP:ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネ−ト)、
分子量:488(4価、SH当量:122)
・BMTU:4,7(5,7又は4,8)−ビス(メルカプトメチル)−3,6,9−トリチアウンデカン−1,11−ジチオール、
分子量366(4価、SH当量:91.5)
<OH成分>
表示のブロック共重合体又はランダム共重合体については、Mnの平均分子量とともに、EO%を併記した。
【0060】
機能性薬剤にはフォトクロミック剤と特定波長吸収剤を使用した。フォトクロミック剤には、市販のスピロピラン系、スピロオキサジン系をブレンドして使用した。特定波長吸収剤には、吸収ピーク波長(585nm)の市販品を使用した。
【0061】
機能性樹脂原料は、表示の処方に従いNCO成分、SH成分およびOH成分を合計量100部となるように混合し、該樹脂(重合体)成分100部に対し、前記フォトクロミック剤:0.05部、特定波長吸収剤その他添加剤(分子量調整剤、硬化剤など)0.015部とを混合し、窒素ガス雰囲気下で15℃に温度調節しながら1時間混合撹拌した。
【0062】
続いて、真空ポンプを用いて液温度15℃、133Paで撹拌しながら1時間脱気後、1μmのフィルターでろ過して機能性樹脂層15を形成する各機能性樹脂原料を調製した。
【0063】
なお、表1・3においては、基礎出願(特願2016-255420、PCT/JP2017/6188)における対応組成の番号を付してある。
【0064】
機能性樹脂層15の有機ガラス基材(レンズ基材)11への注型成形は、
図1に示すように、有機ガラス基材11に成形型のキャビティ21を形成し、機能性樹脂層15を成形する機能性樹脂原料を注入し、加熱硬化させることによって成形した。
【0065】
なお、上記キャビティ21の設計隙間は、中心部、外周部共に0.8mmの均一隙間とした。
【0066】
こうして、有機ガラス基材11に機能性樹脂層15が重合密着して調製したセミレンズ(半製品)は、凹面と外周とを切削・研磨して、直径70mmの製品レンズ(試験片)とした。
【0067】
(3)評価試験
上記で調製した各試験片について、フォトクロミズムを計測するとともに、各基材と機能性樹脂層との密着性、レンズ外観について評価試験を行った。
【0068】
<調光性(戻り速さ)>
調光性は、有機ガラス基材をチオウレタン系樹脂で成形し実施例・比較例の各試験片レンズに紫外線照射・遮断をして試験を行った。
【0069】
紫外線照射は、FL4.BLB(東芝ライテック株式会社製ブラックライト蛍光ランプ、紫外線出力0.25W、紫外線放射強度2.7μW/cm
2)を試験体の光学要素の光軸上の20cm離れた位置から照射した。分光平均透過率は、以下の装置及び規格に準拠して求め、380〜780nmの光についての平均透過率を求めた。なお、測定位置は、光学要素の幾何中心とした。
【0070】
・装置:分光光度計U−4100(株式会社日立ハイテクサイエンス製)
・規格:屈折補正用眼鏡レンズの透過率の仕様及び試験方法(JIS T 7333:2005(ISO/DIS 8980-3:2002))
そして、調光性は、照射15分後及び照射遮断後2分後の各分光平均透過率を測定して、「戻り速さ=照射15分後透過率/照射停止2分後透過率」として評価した。すなわち、該戻り速さの数値が、低いほどフォトクロミズ特性が良好であるといえる。通常、戻り速さ:0.50以下、さらには0.30以下が望ましいとされる(
図2〜4参照)。
【0071】
<機能性樹脂層の白濁の程度>
試験片レンズを目視判定し白濁の程度を、下記基準で評価するとともに、白濁の程度を定量評価するために初期透化率も測定した。なお、フォトクロミック剤無添加の場合のレンズの透過率は略86〜87%であった。
【0072】
濃:ほとんど透視できない。
【0073】
淡:透視できるが白濁していることがわかる。
【0074】
僅:よく見ると白濁していることが分かる。
【0075】
<脈理の有無>
脈理の有無は、目視でその有無を確認した。
【0076】
なお、表中には記載しなかったが、望ましい実施例である試験例No.3及びNo.15において、機能性樹脂層の厚みを3mmとした場合、いずれも脈理が発生した。
【0077】
<密着性>
密着性は、強制剥離試験を行って評価した。強制剥離試験は、機能性樹脂層15と有機ガラス基材11との界面にあたるレンズの外周面(コバ面)にナイロン糸を掛ける溝(ナイロール溝)を設け、ナイロール溝にマイナスドライバーを差し込んで、ナイロール溝を強制的に拡開させるようにし両被着体(機能性樹脂層とレンズ基材)の密着性を評価した。評価基準は下記の通りとした。
◎:界面剥離なし(被着体が破壊)。
〇:界面剥離外周部のみ。
×:界面剥離中心部まで。
<試験結果および考察>
これらの試験結果を、機能性樹脂材料がEOPO(B)については表1、EOPO(R)については表2、PPG(PPO)、PEG(PEO)及びPAO無添加の参照例については表3にそれぞれ示す。
【0078】
なお、各表には、試験片の初期透過率を併記するとともに、無添加の参照例との戻り速さ比を併記した。そして、各表の結果から、下記のことが分かる。以下の記載において、「No.xx」は、試験例No.を意味する。
【0079】
高分子量である方が、戻り速さの増大比が大きくなる。例えば、戻り速さの増大比において、EOPO(B)1の場合2部添加と、EOPO(B)4の20部添加と略同等である(No.1とNo.11)。
【0080】
また、同じく、EO含量が30%以下の場合、機能性樹脂層に濃乃至淡の白濁が発生して、戻り速さ比が1未満となる(No.12、13)。
【0081】
Mnが1万以上のMn:13千のEOPO(B)1と18.5千のEOPO(R)1とを対比すると、添加量が少ない場合(2部)は、両者のMnの差は顕著に表れないのに対し(No.1とNo14)、添加量が多くなると、両者のMnの差が顕著に表れる(No.3とNo.15)。
【0082】
NCO成分とSH成分の組み合わせは、戻り速さの観点からは、NBDIとPEMP若しくはBMTU又はHDIとPEMPの組み合わせが、H12MDI若しくはMXDIとPEMPとの組み合わせより望ましい(表2試験例No.14〜19とNo.20〜23)。
【0083】
また、PPG400やPPG2000さらにはPEG1000では、機能性樹脂層に白濁が発生して戻り速さ比1未満となる(No.28〜30)。また、PPG1000でも、添加量8部以上でないと戻り速さ増大作用がない(No.24〜27)。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
そして、これらの表からデータを抽出して、戻り速さ(y軸)と、各添加部数におけるMn(x軸)との、Mn10千とMn13千における添加部数(x軸)との、EOPO(B)におけるEO換算添加量(x軸)との相関関係を、それぞれ
図2、
図3及び
図4に示す。
【0088】
図2〜4から下記のことが伺える。
【0089】
図2から、EOPO(B)のMnが大きいほど戻り速さが得やすく、特に、3千以上、さらには1万以上が、戻り速さの速いものが得やすいことが伺える。
【0090】
図3から、EOPO(B)の添加量が多いほど戻り速さを増大させやすく、特に、4部以上が望ましいことが伺える。ただし、添加量の増大は、機能性樹脂層の基本ポリマーの物性に影響与えやすく、望ましくなく、多くとも20部以下、さらには7〜15部程度が望ましい。
【0091】
図4から、EOPO(B)の換算EO添加量が多いほど戻り速さを増大させやすく、具体的には、1.5部以上でその効果が顕著となることが伺える。
【0092】
すなわち、機能性趣旨層の戻り速さは、エーテル鎖(特にPEO)の長さ及びその含有量に影響されることが伺える。
【0093】
なお、機能性樹脂層とレンズ基材との密着性については、レンズ基材がチオウレタン系樹脂の場合を例に採ったが、他の樹脂、エピスルフィド系、(メタ)アクリレート系、ナイロン系又はポリウレア系であっても、基礎出願2の表2-1〜表2-6に示したのと、同様に良好な架橋密着性を有することを本発明者らは、確認している。