(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6585883
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】非発酵ビール様飲料
(51)【国際特許分類】
A23L 2/00 20060101AFI20190919BHJP
A23L 2/56 20060101ALI20190919BHJP
C12G 3/04 20190101ALI20190919BHJP
【FI】
A23L2/00 B
A23L2/56
C12G3/04
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-143433(P2014-143433)
(22)【出願日】2014年7月11日
(65)【公開番号】特開2016-19468(P2016-19468A)
(43)【公開日】2016年2月4日
【審査請求日】2017年4月7日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】金山 尚子
(72)【発明者】
【氏名】水谷 浩平
(72)【発明者】
【氏名】岸本 徹
(72)【発明者】
【氏名】野場 重都
【審査官】
小田 浩代
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2007/139181(WO,A1)
【文献】
特開2013−188221(JP,A)
【文献】
特開2006−191910(JP,A)
【文献】
特開2005−013166(JP,A)
【文献】
特開2011−142901(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/079778(WO,A1)
【文献】
CLAPPERTON, J. F.,FATTY ACIDS CONTRIBUTING TO CAPRYLIC FLAVOUR IN BEER. THE USE OF PROFILE AND THRESHOLD DATA IN FLAVO,Journal of the Institute of Brewing,1978年,84(2),pp. 107-112,Abstract, INTRODUCTIONの第2段落, TABLE III
【文献】
CLAPPERTON, J. F. and BROWN, D. G. W.,CAPRYLIC FLAVOUR AS A FEATURE OF BEER FLAVOUR,Journal of the Institute of Brewing,1978年,84(2),pp. 90-92,Abstract, TABLE 1
【文献】
TAYLOR, G. T. and KIRSOP, B. H.,THE ORIGIN OF THE MEDIUM CHAIN LENGTH FATTY ACIDS PRESENT IN BEER,Journal of the Institute of Brewing,1977年,83(4),pp. 241-243,INTRODUCTIONの第1段落, 第10-12行, TABLE 1-3の(a)Beer, EXPERIMENTAL
【文献】
SANDRA, P. and VERZELE, M.,ANALYSIS OF LONG-CHAIN FATTY ACIDS IN BEER,Journal of the Institute of Brewing,1975年,81(4),pp. 302-306,INTRODUCTIONの第1段落, TABLE 1
【文献】
KANEDA, H. et al.,Effect of Pitching Yeast and Wort Preparation on Flavor Stability of Beer,Journal of Fermentation and Bioengineering,1992年,73(6),pp. 456-460,MATERIALS AND METHODS, TABLE 1, 5, 6
【文献】
1・1 食品香料の一般的概念,特許庁公報 周知・慣用技術集(香料)第II部 食品用香料,日本国特許庁,2000年,pp. 1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G 1/00−3/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA/WPIDS/CAPlus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オクタン酸、デカン酸、9−デセン酸、ノナン酸及びテトラデカン酸を含有する非発酵ビール様飲料であって、
前記非発酵ビール様飲料に含まれる脂肪酸の種類及び濃度が以下のi)〜v)である、非発酵ビール様飲料。
i)オクタン酸 0.5〜10ppm
ii)デカン酸 0.05〜5ppm
iii)9−デセン酸 0.025〜10ppm
iv)ノナン酸 0.1〜3ppm
v)テトラデカン酸 0.1〜3ppm
【請求項2】
前記非発酵ビール様飲料に含まれる脂肪酸の種類及び濃度が以下のi)〜v)である、請求項1に記載の非発酵ビール様飲料。
i)オクタン酸 1〜4ppm
ii)デカン酸 0.1〜1ppm
iii)9−デセン酸 0.05〜5ppm
iv)ノナン酸 0.1〜3ppm
v)テトラデカン酸 0.1〜3ppm
【請求項3】
ノンアルコール飲料である、請求項1又は2に記載の非発酵ビール様飲料。
【請求項4】
エキス分が2.5質量%以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の非発酵ビール様飲料。
【請求項5】
糖質濃度が0.5g/100ml未満である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の非発酵ビール様飲料。
【請求項6】
プリン体濃度が1mg/100ml以下である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の非発酵ビール様飲料。
【請求項7】
エネルギー量が5kcal/100ml未満である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の非発酵ビール様飲料。
【請求項8】
非発酵ビール様飲料にオクタン酸、デカン酸、9−デセン酸、ノナン酸及びテトラデカン酸を含有させる工程を包含する非発酵ビール様飲料の製造方法であって、
前記非発酵ビール様飲料に含まれる脂肪酸の種類及び濃度が以下のi)〜v)である、非発酵ビール様飲料の製造方法。
i)オクタン酸 0.5〜10ppm
ii)デカン酸 0.05〜5ppm
iii)9−デセン酸 0.025〜10ppm
iv)ノナン酸 0.1〜3ppm
v)テトラデカン酸 0.1〜3ppm
【請求項9】
前記非発酵ビール様飲料に含まれる脂肪酸の種類及び濃度が以下のi)〜v)である、請求項8に記載の非発酵ビール様飲料の製造方法。
i)オクタン酸 1〜4ppm
ii)デカン酸 0.1〜1ppm
iii)9−デセン酸 0.05〜5ppm
iv)ノナン酸 0.1〜3ppm
v)テトラデカン酸 0.1〜3ppm
【請求項10】
非発酵ビール様飲料にオクタン酸、デカン酸、9−デセン酸、ノナン酸及びテトラデカン酸を含有させる工程を包含する非発酵ビール様飲料のビールらしい複雑味を増強する方法であって、
前記非発酵ビール様飲料に含まれる脂肪酸の種類及び濃度が以下のi)〜v)である、方法。
i)オクタン酸 0.5〜10ppm
ii)デカン酸 0.05〜5ppm
iii)9−デセン酸 0.025〜10ppm
iv)ノナン酸 0.1〜3ppm
v)テトラデカン酸 0.1〜3ppm
【請求項11】
前記非発酵ビール様飲料に含まれる脂肪酸の種類及び濃度が以下のi)〜v)である、請求項10に記載の方法。
i)オクタン酸 1〜4ppm
ii)デカン酸 0.1〜1ppm
iii)9−デセン酸 0.05〜5ppm
iv)ノナン酸 0.1〜3ppm
v)テトラデカン酸 0.1〜3ppm
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビール様飲料に関し、特に、味質が改善されたビール様飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の低価格志向を背景に、麦芽使用比率が低い、または、麦芽を使用しない低麦芽ビール様飲料が数多く市販されている。また、特別な発酵装置を必要とせず、安価に製造できることから、製造過程で発酵を行わない非発酵ビール様飲料も需要を伸ばしている。低麦芽ビール様飲料、又は非発酵ビール様飲料では、本格的なビールの風味やコク感が失われることが多い。
【0003】
一方、消費者の健康志向から、ビール様飲料における糖やカロリー量、さらにはプリン体量への関心が高まっている。中でもプリン体は肝臓で代謝されて尿酸となるが、血液中の尿酸値が一定値以上となると高尿酸血症になり、さらに結晶化した尿酸が関節にたまると痛風になる。このようなことから、従来のビール等が有する旨味等を保持した、低糖・低カロリー量である発酵麦芽飲料に加えて、プリン体の含有量が低いビール様飲料に対する消費者の要求が高まっている。
【0004】
ビール様飲料が有する穀物感及び複雑味は原料である麦芽に起因するが、麦汁又は麦芽エキスにはプリン体が多く含まれている。それゆえ、プリン体の含有量を低く抑えるためには麦汁又は麦芽エキスの使用量も制限する必要があり、プリン体の含有量が低いビール風味アルコール飲料では、ビール風味アルコール飲料に求められる穀物感及び複雑味が不足する。
【0005】
糖質やプリン体の含有量を低減させたビール様アルコール飲料は、その製造工程において活性炭処理等の方法により、糖質やプリン体の除去を行うことがある。その過程で、ビールらしい味を維持するために本来必要な成分まで除去されてしまい、味のバランスが崩れる。
【0006】
また、ビール様ノンアルコール飲料は一般的にアルコール発酵工程を経ずに製造されるため、ビールと対比すると、ビールらしいコク感や飲み応えが不足する。
【0007】
特に味質に着目した場合、低価格志向のビール様飲料、及び低カロリー、低アルコール、低糖質、糖質ゼロ、低プリン体、プリン体ゼロ又はノンアルコール等の機能系のビール様飲料は、味が水っぽく、たよりなく感じる。より具体的には、味の厚み、ボディー感、複雑味が不足している。そのため、嗜好性の面において消費者の要求に十分に答えられていない現状がある。
【0008】
特許文献1には、ホップに由来する香味成分を含有する飲料の製造方法であって、低級脂肪酸又はそのエステルを添加することを含む飲料の製造方法が記載されている。特許文献1の飲料の製造方法では、ホップに由来する香味成分を含有する飲料に低級脂肪酸又はそのエステルを添加することにより、モノテルペンアルコールの香味が増強される。
【0009】
しかしながら、モノテルペンアルコールは香気成分であり、モノテルペンアルコールの香味を増強しても、ビール様飲料の味の厚み、ボディー感、複雑味は十分に増強されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2012−34659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、ビールらしい味の厚み、ボディー感、複雑味が増強されたビール様飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は炭素数8〜14の脂肪酸を含有させることにより得られるビール様飲料を提供する。
【0013】
ある一形態においては、炭素数8〜14の脂肪酸が、オクタン酸、デカン酸、9−デセン酸、ノナン酸及びテトラデカン酸からなる群より選択される少なくとも一種である。
【0014】
ある一形態においては、ビール様飲料に含まれる脂肪酸の種類及び濃度が以下のi)〜v)の群から選択される少なくとも一つである。
i)オクタン酸 0.2〜20ppm
ii)デカン酸 0.02〜20ppm
iii)9−デセン酸 0.01〜20ppm
iv)ノナン酸 0.05〜5ppm
v)テトラデカン酸 0.05〜5ppm
【0015】
また、本発明は炭素数10〜14の脂肪酸を含有させることにより得られるビール様飲料を提供する。
【0016】
ある一形態においては、ビール様飲料に含まれる脂肪酸の種類及び濃度が以下のi)〜iii)の群から選択される少なくとも一つである。
i)デカン酸 0.02〜20ppm
ii)9−デセン酸 0.01〜20ppm
iii)テトラデカン酸 0.05〜5ppm
【0017】
ある一形態においては、ビール様飲料は非発酵ビール様飲料である。
【0018】
ある一形態においては、ビール様飲料のエキス分が2.5質量%以下である。
【0019】
ある一形態においては、ビール様飲料の糖質濃度が0.5g/100ml未満である。
【0020】
ある一形態においては、ビール様飲料のプリン体濃度が1mg/100ml以下である。
【0021】
ある一形態においては、ビール様飲料のエネルギー量が5kcal/100ml未満である。
【0022】
また、本発明は、炭素数8〜14の脂肪酸を含有させる工程を包含するビール様飲料の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ビールらしい味の厚み、ボディー感、複雑味が増強されたビール様飲料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
中鎖脂肪酸又は比較的炭素数が少ない長鎖脂肪酸をビール様飲料に含有させた場合、ビール様飲料の味質が改善されることが判明した。上記脂肪酸は、例えば、炭素数8〜14の脂肪酸である。また、例えば、上記脂肪酸は炭素数8〜10の脂肪酸である。また、例えば、上記脂肪酸は炭素数9〜14の脂肪酸である。また、例えば、上記脂肪酸は炭素数10〜14の脂肪酸である。中鎖脂肪酸又は比較的炭素数が少ない長鎖脂肪酸はそれぞれ単独で使用されてよく、又は複数種類を組み合わせて使用されてもよい。
【0025】
炭素数8〜14の脂肪酸には、例えば、オクタン酸、エチルヘキサン酸、メチルヘプタン酸、オクテン酸、オキソオクタン酸、ノナン酸、メチルオクタン酸、ノネン酸、トリメチルヘキサン酸、エチルヘプタン酸、デカン酸、デセン酸、シトロネル酸、エチルオクタン酸、エチルオクテン酸、ゲラン酸、メチルノナン酸、オキソデカン酸、ウンデカン酸、ウンデセン酸、ドデカン酸、ドデセン酸、オキソドデカン酸、トリデカン酸、トリデセン酸、テトラデカン酸、テトラデセン酸、等が含まれる。炭素数8〜14の脂肪酸を複数種類組み合わせて使用する場合の好ましい組み合わせとしては、オクタン酸、デカン酸、9−デセン酸、ノナン酸又はテトラデカン酸等が挙げられる。炭素数9〜14の脂肪酸を複数種類組み合わせて使用する場合の好ましい組み合わせとしては、9−デセン酸、ノナン酸及びテトラデカン酸が挙げられる。炭素数10〜14の脂肪酸を複数種類組み合わせて使用する場合の好ましい組み合わせとしては、9−デセン酸及びテトラデカン酸が挙げられる。炭素数8〜10の脂肪酸を複数種類組み合わせて使用する場合の好ましい組み合わせとしては、オクタン酸及びデカン酸が挙げられる。
【0026】
上記脂肪酸の種類及び使用量は添加効果を考慮して適宜決定される。好ましい脂肪酸及び添加量は、ビール様飲料中の含有量が次に示す濃度になる量である。
【0028】
炭素数8〜14の脂肪酸の含有量が上記範囲未満であるとビールらしい味の厚み、ボディー感、複雑味を増強する効果が不十分になり、上記範囲を超えると過剰なコク感や香味が付与され、風味全体のバランスを崩す懸念がある。尚、改善とは一般的な消費者の嗜好に合うように改変することをいい、具体的には、ビールらしい風味、及びビール特有の穀物感及びコク感、味の厚み、ボディー感、複雑味を増強することをいう。
【0029】
ビール様飲料とは、発酵の有無にかかわらずビールらしい風味を有する飲料の全てを指していう。例えば、ビール様飲料には、上述のビール様アルコール飲料、ビール、発泡酒、雑酒、リキュール類、スピリッツ類、低アルコール飲料、ノンアルコール飲料などであって、ビールらしい風味を有するものが含まれる。
【0030】
中でも、味質を改善する対象として好ましいビール様飲料は、デンプン原料中麦芽使用比率が低いビール様飲料、または、デンプン原料として麦芽を使用しないビール様飲料である。このようなビール様飲料はビール特有の風味やコク感が弱いからである。例えば、発酵工程を経て製造されるビール様アルコール飲料であっても、麦芽の使用比率が低い、または、麦芽を使用しない場合は、同様である。例えば、麦芽を25重量%(w/w)以下、特に20重量%以下又は15重量%以下の量で含有する穀物類をデンプン原料として用いて製造されたビール様飲料はビール特有の風味やコク感に乏しいものが多い。
【0031】
また、ビール様低糖質アルコール飲料、ビール様低プリン体アルコール飲料、ビール様低カロリーアルコール飲料及びビール様低アルコール飲料等のいわゆる機能系のビール様アルコール飲料も味質を改善する対象として好ましいビール様飲料である。これらは、低糖質化、低カロリー化、低プリン体化又は低アルコール化される課程で適切な味質を実現するのに必要な風味物質が除去されてしまい、コク感又はビールらしい風味が減少していることが多いからである。
【0032】
更に、ビール様飲料はアルコール発酵工程を経ずに製造されるものがある。これらの非発酵ビール様飲料はコク感及びビールらしい風味に乏しい。それゆえ、非発酵ビール様飲料も味質を改善する対象として好ましい。非発酵ビール様飲料は、アルコール飲料であってもよいし、ノンアルコール飲料であってもよい。
【0033】
ある一形態においては、味質を改善する対象であるビール様飲料は、エキス分が2.5重量%以下、好ましくは1.5重量%以下、より好ましくは0.64重量%以下である。エキス分とは、飲料中に含まれる不揮発性固形分の濃度を指し、主に炭水化物や蛋白質等が主成分である。エキス分の含有量を低減することにより、糖質の低減を図ることができる。
【0034】
ある一形態においては、味質を改善する対象であるビール様飲料は、糖質の含有量が0.5g/100ml未満である。糖質とは、食物繊維ではない炭水化物をいう。糖質の含有量を低減することで、肥満、糖尿病等の糖質の摂取に起因した健康に対する悪影響が生じ難くなる。
【0035】
ある一形態においては、味質を改善する対象であるビール様飲料は、プリン体の含有量が1mg/100ml以下、好ましくは0.5mg/100ml以下、より好ましくは0.08mg/100ml以下である。プリン体とは、プリン骨格を有する化合物の総称をいう。プリン体の含有量を低減することで、高尿酸血症、痛風等のプリン体の摂取に起因した健康に対する悪影響が生じ難くなる。
【0036】
ある一形態においては、味質を改善する対象であるビール様飲料は、エネルギーの含有量が5kcal/100ml未満である。エネルギーの含有量を低減することで、カロリー摂取過多に起因する健康に対する悪影響が生じ難くなる。
【0037】
味質を改善しようとするビール様飲料に炭素数8〜14の脂肪酸を添加する場合、そのタイミングに制限はなく、ビール様飲料の製造工程における適当な工程で添加することができる。例えば、発泡酒に添加する場合には、麦汁煮沸後の冷却工程、発酵工程又は熟成工程等任意の工程でよいが、添加する工程が前工程であればあるほど、炭素数8〜14の脂肪酸濃度の消長が考えられるため、後発酵工程の終了後が望ましい。また、リキュール類に添加する場合には、税法上、主発酵終了前に添加する必要があるため、主発酵開始前及び主発酵終了直前に添加することが望ましい。また、非発酵飲料に添加する場合には、ろ過後に添加することが望ましい。
【0038】
以下の実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例】
【0039】
実施例1
脂肪酸単独添加
原料用アルコールを55ml/L、酸味料を1.5g/L、ホップエキスを0.1g/L、アミノ酸を0.1g/L、アセスルファムKを0.011g/L、カラメル色素を0.5g/L、起泡剤を0.1g/L、香料を2g/L、難消化性デキストリンを19g/Lとなるように水へ混合した。この混合物に対し、0.230MPaとなるように炭酸ガス付けを行い、非発酵ビール様アルコール飲料を製造した。
【0040】
実施例1で準備した非発酵ビール様アルコール飲料に炭素数8〜14の脂肪酸を単独で添加し、表1〜5に示す濃度に調整した。そして、得られた非発酵ビール様アルコール飲料を5名の専門評価者が、味の厚み及びそれに寄与するビールらしい複雑味について6段階で採点した。評価基準は次の通りである。評価点は5名による採点の平均値とした。結果を表1〜5に示す。
【0041】
評価基準
【0042】
[表1]
添加脂肪酸:オクタン酸
【0043】
[表2]
添加脂肪酸:デカン酸
【0044】
[表3]
添加脂肪酸:9−デセン酸
【0045】
[表4]
添加脂肪酸:ノナン酸
【0046】
[表5]
添加脂肪酸:テトラデカン酸
【0047】
以上の結果により、炭素数8〜14の脂肪酸を単独で適量含有させることにより、非発酵ビール様アルコール飲料の味の厚み、ビールらしい複雑味を増強できることが示された。
【0048】
実施例2
脂肪酸複数添加
実施例1で製造した非発酵ビール様アルコール飲料に炭素数8〜14の脂肪酸を複数組み合わせて添加し、表6に示す濃度(ppm)に調整した。
【0049】
[表6]
【0050】
そして、得られた非発酵ビール様アルコール飲料(試料1〜4)を5名の専門評価者が、味の厚み及びそれに寄与するビールらしい複雑味について5段階で採点した。評価基準は、次の通りである。評価点は5名による採点の平均値とした。結果を表7に示す。
【0051】
評価基準
【0052】
[表7]
【0053】
以上の結果により、炭素数8〜14の脂肪酸を複数組み合わせて含有させることにより、非発酵ビール様アルコール飲料の味の厚み、ビールらしい複雑味を増強できることが示された。
【0054】
実施例3〜5
脂肪酸複数添加
市販のビール様ノンアルコール飲料(アサヒビール社製「ドライゼロ」(商品名))を準備した(実施例3)。
【0055】
市販の糖質ゼロの発泡酒(アサヒビール社製「スタイルフリー」(商品名))を準備した(実施例4)。
【0056】
市販のプリン体オフのビール様アルコール飲料(アサヒビール社製「アサヒオフ」(商品名))を準備した(実施例5)。
【0057】
実施例1で示した非発酵ビール様アルコール飲料の代わりにドライゼロ、スタイルフリー、アサヒオフをそれぞれ使用すること以外は実施例2と同様にしてビール様飲料を製造し、評価した。結果を表8〜10に示す。
【0058】
[表8]
実施例3(添加対象:ドライゼロ)
【0059】
[表9]
実施例4(添加対象:スタイルフリー)
【0060】
[表10]
実施例5(添加対象:アサヒオフ)
【0061】
実施例3〜5の結果により、炭素数8〜14の脂肪酸を複数組み合わせて含有させることにより、ビール様ノンアルコール飲料及び発酵ビール様アルコール飲料の味の厚み、ビールらしい複雑味を増強できることが示された。
【0062】
実施例6〜8
脂肪酸複数添加
市販のビール様ノンアルコール飲料(アサヒビール社製「ドライゼロ」(商品名))を準備した(実施例6)。
【0063】
市販の糖質ゼロの発泡酒(アサヒビール社製「スタイルフリー」(商品名))を準備した(実施例7)。
【0064】
市販のプリン体オフのビール様アルコール飲料(アサヒビール社製「アサヒオフ」(商品名))を準備した(実施例8)。
【0065】
準備したビール様飲料に炭素数10〜14の脂肪酸を複数組み合わせて添加し、表11に示す濃度(ppm)に調整した。
【0066】
[表11]
【0067】
そして、得られたビール様飲料を3名の専門評価者が、味の厚み及びそれに寄与するビールらしい複雑味について5段階で採点した。評価基準は実施例2と同様である。評価点は3名による採点の平均値とした。結果を表12〜14に示す。
【0068】
[表12]
実施例6(添加対象:ドライゼロ)
【0069】
[表13]
実施例7(添加対象:スタイルフリー)
【0070】
[表14]
実施例8(添加対象:アサヒオフ)
【0071】
実施例6〜8の結果により、炭素数10〜14の脂肪酸を複数組み合わせて含有させることにより、ビール様ノンアルコール飲料及び発酵ビール様アルコール飲料の味の厚み、ビールらしい複雑味を増強できることが示された。
【0072】
比較例
イソ吉草酸添加
市販の糖質ゼロの発泡酒(アサヒビール社製「スタイルフリー」(商品名))を準備し、これにイソ吉草((CH
3)
2CHCH
2COOH)を添加し、表15に示す濃度に調整した。そして、得られた発酵ビール様アルコール飲料を5名の専門評価者が、味の厚み及びそれに寄与するビールらしい複雑味、香味強度及び不快臭について、5段階で採点した。評価基準は、次の通りである。評価点は5名による採点の平均値とした。結果を表15に示す。
【0073】
評価基準
【0074】
[表15]
【0075】
以上の結果により、次の事項が明らかになった。
イソ吉草酸の添加では、「味の厚み・ビールらしい複雑味」の変化は認められなかった。
イソ吉草酸の添加により、飲料の香味の強度の増加は認められた。
一方で、添加量が増えるにつれ、イソ吉草酸自身の不快臭が付与される傾向が認められた。