(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この種のリアクトルでは、その通電時に発生する漏れ磁束によってリアクトル本体の周囲に配置された金属部品が発熱する現象がある。特に、2つのU字形コア4a,4bからなる環状コアに、同一方向に巻回した複数のコイル6−1,6−2を装着したリアクトルにおいては、通常、
図18(a)に示すように、環状コアの四隅に磁束密度の高い部分ができるため、環状コアの四隅に配置した金属製の支持金具や固定部材が発熱し、高温になる問題があった。金属製の部材の温度が誘導加熱により上昇すると、その周辺の樹脂が溶解してしまい、リアクトル本体とケースとの固定が損なわれたり、コイル6−1,6−2と環状コアとの間の絶縁劣化が生じるおそれがあった。
【0007】
磁束密度の高い環状コアの四隅に固定部を配置した従来技術では、金属部品の発熱を抑えるために、固定部を環状コアから離れた位置に設けることで、漏れ磁束の影響を防止していた。そのため、固定部が環状コアの外側に張り出すことになり、リアクトルの小型化を阻む要因になっていた。
【0008】
本発明は、前記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたものである。本発明の目的は、リアクトル本体とケースなどの他の部材を固定する固定部に含まれている金属部品が漏れ磁束により発熱することを低減したリアクトルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明のリアクトルは、次のような構成を有することを特徴とする。
(a) 環状コアとその周囲に装着された複数のコイルを有するリアクトル本体。
(b) 前記リアクトル本体を他の部材に固定するための金属部品。
(c) 前記リアクトル本体が、
前記リアクトル本体を
前記他の部材に固定するための複数の固定部を備えている。
(
d) 前記複数の固定部が、
前記リアクトル本体と
前記他の部材とを可動的に固定する第1の固定部と、
前記リアクトル本体と
前記他の部材とを定位置で固定する第2の固定部から構成されている。
(
e) 前記リアクトル本体が、長辺と短辺を有する形状であって、対向する2つの短辺に前記第1の固定部がそれぞれ設けられ、対向する2つの長辺に前記第2の固定部がそれぞれ設けられている。
(
f) 前記複数の固定部の少なくとも1つに前記金属部品が配置されている。
(
g)
前記リアクトル本体の外周における磁束密度が
前記2つの長辺側の空間よりも前記2つの
短辺側の空間において低くなるように、
前記複数のコイルは、各コイルから発生した磁束が相殺方向となる状態で前記環状コアに装着されている。
(
h) この磁束密度が低い
前記2つの短辺側の空間に、前記金属部品及び前記第1の固定部が配置されている。
【0011】
(
2)前記環状コアが、対向する2つのヨーク部と、対向する2つの外脚と、前記一対の外脚の間に架設された中脚を備えると良い。
【0013】
(
3)前記中脚の両側に配置された
前記外脚にそれぞれ巻回された個々のコイルは、前記中脚の両側において対向する
前記外脚の一方に巻回された第1のコイルと、対向する
前記外脚の他
方に巻回された第2のコイルを1本の導体から構成した連結コイルであると良い。また、対向する
前記外脚の一方にのみコイルを装着しても良い。
【0015】
(
4)前記第2の固定部が、前記2つの第1の固定部間の中央部、若しくは中央部から所定の位置に設けられていると良い。
【0016】
(
5)前記第1の固定部に設けられた金属部品が、基部を樹脂成型品に固定した支持金具であり、前記支持金具の一部に弾性部を形成したものであると良い。
【0017】
(
6)前記他の部材が、その内部に
前記リアクトル本体を収納するケースであって、前記固定部により
前記リアクトル本体と
前記ケースとが固定されていると良い。
【0018】
(
7)前記中脚が、I字形で構成されて、前記外脚とは別体として構成されており、前記外脚及び前記ヨーク部がU字形に構成されており、前記第2の固定部が、前記中脚に対して設けられていると良い。
【0019】
(
8)前記環状コアが、互いに対向する第1の外脚及び第2の外脚と、互いに対向する第3の外脚及び第4の外脚と、前記第1の外脚及び前記第3の外脚の端部を接続する第1のヨーク部と、前記第2の外脚及び前記第4の外脚の端部を接続する第2のヨーク部と、を備え、前記複数のコイルは、互いの磁束が相殺方向に発生するように、前記第1の外脚及び前記第2の外脚にそれぞれ装着された第1のコイル及び第2のコイルと、互いの磁束が相殺方向に発生するように、前記第3の外脚及び前記第4の外脚にそれぞれ装着された第3のコイル及び第4のコイルと、から構成されると良い。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、磁束密度が低い部分に金属部品を配置することにより、金属部品の発熱が低減される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[1.第1実施形態]
[1.1 構成]
以下、本発明の第1実施形態について、図面を参照して説明する。
図1及び
図2に示すように、本実施形態のリアクトルは、上面が開口したアルミニウムなどの金属製のケース2と、その内部に収納されたリアクトル本体1と、ケース2とリアクトル本体1との間に注入固化された充填材3とを有する。
【0023】
(1)リアクトル本体
リアクトル本体1は、
図3に示す通り、2つのU字形コア4a,4bと2つのI字形コア5a,5bを組み合わせて成るθ状の環状コアと、環状コアの脚部に巻回された2つの連結コイル6a,6bとを備える。リアクトル本体1は、短辺方向と長辺方向の直交する2つの方向を有する直方体をしており、その外周には、短辺方向と長辺方向のそれぞれにおいて、リアクトル本体を挟んで位置する2つの空間が形成されている。
【0024】
(2)コア
図4に示すとおり、環状コアは、U字形コア4a,4bの両端部とI字形コア5a,5bの左右の端部を突き合わせ、その間にスペーサ8を配置して接着すると共に、対向するI字形コア5a,5bの中央突起部7a,7b間に所定のギャップ10が形成されるように組み合わせる。これにより、環状コアには、対向する一対のヨーク部と、ヨーク部と平行に設けられた中央の中脚と、中脚の両側にそれぞれ設けられた一対のコイル6a,6b装着用の脚部(以下、外脚という)が形成されている。本実施形態のU字形コア4a,4b及びI字形コア5a,5bとしてはダストコアを使用するが、その他フェライトコアやケイ素鋼を積層した積層コアを用いることができる。また、スペーサ8を用いることなく、U字形コア4a,4bの両端部とI字形コア5a,5bの左右の端部を直接突き合わせても良い。ギャップ10も、エアギャップでも、スペーサを設けたギャップでも良い。
【0025】
(3)コイル
図1及び
図2に示すように、2つの連結コイル6a,6bは、U字形コア14a,14bの外脚を構成する部分に、中脚を挟んでその両側にそれぞれ装着されている。各連結コイル6a,6bは、
図9に示すように、1本の導体を使用して第1と第2のコイル6a−1,6b−2または6b−1,6b−2を形成したもので、環状コアに装着した状態では、1本の導体が一方の外脚の外周に巻回されて第1のコイル6a−1,6b−1を形成し、その外脚に対向する反対側の外脚に第2のコイル6a−2,6b−2が巻回された形状を呈している。そのため、
図1及び
図2に示すように、1つのコイル6a,6bの巻き始めの端部61と巻き終わりの端部62が、中脚の両側に一つずつ設けられている。コイル6a,6bの巻き始めの端部61と巻き終わりの端部62には、それぞれバスバーが溶接され、そのバスバーの端部にリアクトルの外部配線が接続される。2つのコイル6a−1,6b−2または6b−1,6b−2の連結部63は、コイルの巻軸方向と垂直な面において、平角線が同一平面上で連結されている。
【0026】
コイル6a,6bとしては、各種の導体を巻回したものを使用することができるが、本実施形態では、平角線の導体をエッジワイズ巻きしたエッジワイズコイルを使用する。各コイル6a,6bの端部は、一方を中脚側に他方をヨーク部側に設けても良いし、2つのコイル6a,6bの両方を中脚側かヨーク部側のいずれかに設けても良い。
【0027】
2つのコイル6a,6bは、そこから発生する直流磁束が互いに打ち消される方向で巻回されている。2つのコイル6a,6bから発生する直流磁束が互いに打ち消される方向で巻回するため、本実施形態では、コイルに通電する電流の方向を同一とし、コイルの巻回方向を逆にしたが、コイルの巻回方向は同一として、通電する電流の方向を反対にしても良い。各コイル6a,6bは、樹脂成型品に埋設されたU字形コア4a,4bとI字形コア5a,5bをθ状に接着する際に、予め筒状に巻回したコイル6a,6bを外脚に嵌め込むことにより、コアに巻回されている。
【0028】
2つのコイル6a,6bから発生する直流磁束が互いに打ち消される方向で巻回され、2つのコイル6a,6bは、リアクトル本体1の外周における磁束密度が、リアクトル本体1の長辺方向において、リアクトル本体1を挟んで位置する2つの空間において低くなるように、環状コアに装着されている。すなわち、環状コアには中脚が形成されていることから、リアクトルの通電時には、環状コアの短辺であるヨーク部の周辺において磁束密度が低くなっている。
【0029】
(4)樹脂成型品
U字形コア4a,4bとI字形コア5a,5bは、それぞれ専用の樹脂成型品13a,13bまたは14内部に埋設されている。各コアは、それぞれの樹脂成型品の金型内にセットされた状態で、金型中に樹脂を注入・固化することにより、樹脂成型品と一体的に形成されている。樹脂成型品は、各コアとコイル6a,6bを絶縁する部材であると共に、リアクトル本体1をケース2に固定するための支持金具を固定した部材でもある。樹脂成型品の主材料としては、例えば、不飽和ポリエステル系樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、BMC(バルクモールディングコンパウンド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PBT(ポリブチレンテレフタラート)等を用いることができる。
【0030】
図3及び
図6に示すとおり、U字形コア用の樹脂成型品13a,13bは、U字形コア4a,4bの左右の脚部を覆うコイル装着部15と、U字形コア4a,4bのヨーク部を覆うヨーク被覆部16とを備える。コイル装着部15におけるU字形コア4a,4bとI字形コア5a,5bとの接合面に相当する部分にはU字形コア4a,4bの端面が露出する開口部19が設けられ、この開口部19の周囲にはI字形コア用の樹脂成型品14に設けられたリブ21を挿入するための凹部17が設けられている。
【0031】
ヨーク被覆部16の上部におけるリアクトル本体1の幅方向中央部には、リアクトル本体1をケース2に固定するための板状の支持金具18の基部が固定されている。板状の支持金具18の基部は、U字形コア用の樹脂成型品13a,13bの成型加工時に、U字形コア4a,4bと共に金型内にセットされ、モールド成型される。この支持金具18が、請求項に記載した金属部品に相当する。
【0032】
図3及び
図7に示すとおり、I字形コア用の樹脂成型品14は、2つのI字形コア5a,5bの全体を被覆すると共に、2つのI字形コア5a,5bをその間にギャップ10が形成されるように保持するものである。そのため、
図8の断面図のとおり、樹脂成型品14内部には、ギャップ10の寸法に合わせた厚みの隔壁20が形成され、この隔壁20を挟んで2つのI字形コア5a,5bが対向している。この樹脂成型品14におけるU字形コア4a,4b側の端面は、内部のI字形コア5a,5bの端面が露出する開口部22になっている。この開口部22の周囲には、U字形コア用の樹脂成型品13a,13bに設けた凹部17に嵌合するリブ21が形成されている。
【0033】
図3及び
図5に示すとおり、I字形コア用の樹脂成型品14の中脚と反対側には、リアクトル本体1をケースその他の部材に固定する際に、固定用のボルト26を挿入するカラー23が埋設されている。このカラー23は、U字形コア用の樹脂成型品13a,13bの成型加工時に、U字形コア4a,4bと共に金型内にセットされ、モールド成型される。
【0034】
U字形コア用の樹脂成型品13a,13bとI字形コア用の樹脂成型品14は、各コアの突き合わせ部分を除き各コアの周囲を被覆するものであるが、各コアや支持金具を金型内に位置決めするための治具を使用する必要がある。そのため、
図5乃至
図7に示すとおり、樹脂成型品13a,13b,14において、治具に相当する部分には樹脂が存在しない開口部24が形成され、その部分に各コアの表面が露出している。
【0035】
図16に示すとおり、I字形コア用の樹脂成型品14の底部には、位置決め用の突起30a,30bが設けられている。この突起30a,30bは、樹脂成型品14におけるコイル装着部15を避けた部分に設けられ、コイル6a,6bをコアに装着した状態でも、リアクトル本体1の底部に突出している。この突起30a,30bは、リアクトル本体1をケース2内に収納する場合、ケース2の底部に設けられた凹部(図示せず)に嵌め込まれ、リアクトル本体1とケース2との位置決めを行う。
【0036】
(5)支持金具
図17に示すとおり、リアクトル本体1は、支持金具18とボルト26を備えた第1の固定部Aと、カラー23とボルト26を備えた第2の固定部Bによって、ケース2に固定されている。第1の固定部Aと第2の固定部Bは、2つの外脚の中央部外方と、2つのヨーク部の中央部外方に設けられている。第1の固定部Aの位置は、環状コアの外周面の外側の空間の中で、磁束密度が低い部分である。
【0037】
すなわち、
図10(a)(b)に示す通り、対向する外脚間の距離Aと前記ギャップの長さBとの比であるギャップ長比B/Aと、外脚の断面積Cと中脚の断面積Dとの比である断面積比D/Cを種々の値に変化させて、リアクトルの外周面から10mm離れた
図10(c)8箇所のポイントにおける漏れ磁束を測定した。本実施形態のリアクトルは対称形に構成されているので、代表値である(1)〜(3)の漏れ磁束の測定結果を
図11及び
図12に示す。図示の通り、(1)(2)(4)(5)(6)(8)のポイントが漏れ磁束が少ないことが確認された。そこで、支持金具18を有する第1の固定部Aを(1)と(5)のポイントに配置する。これにより、リアクトル本体1をケース2に対して可動的に固定するために、大型の金属部品からなる支持金具18を用いた第1の固定部が、磁束密度の低い部分に配置される。
【0038】
本実施形態において、
図17に示すように、リアクトル本体1は、長辺と短辺を有する長方形であって、対向する2つの短辺に前記第1の固定部Aがそれぞれ設けられ、対向する2つの長辺に第2の固定部Bがそれぞれ設けられている。この場合、リアクトル本体1の運転時の発熱により発生するリアクトル本体1とケース2の線膨張差は、リアクトル本体1の長辺の方が短辺より大きくなる。本実施形態では、第1の固定部Aを短辺の中央部に設けた支持金具18の弾力的な変形により、長辺の方向に発生する大きな線膨張差を吸収する。第2の固定部Bは、長辺の中央部に設けられているが、カラー23とボルト26とによりリアクトル本体1とケース2とを定位置で固定し、リアクトル本体1とケース2との線膨張差を吸収するものではない。リアクトルの発熱時に短辺方向に発生する線膨張差が少ないため、リアクトル本体1とケース2とを定位置で固定することが可能である。
【0039】
第2の固定部Bは、その両側に配置される第1の固定部Aが均等に線膨張差を吸収できるので、長辺の中央付近に設けることが望ましい。第2の固定部が長辺のあまり片側に寄ると一方の第1の固定部Aのみが線膨張差を吸収することになるので、中央でなくても良いが、ある程度は中央に近い部分に設けることが望ましい。具体的には、第2の固定部の位置は、複数の第1の固定部が分担する線膨張差の負担割合に応じで決定される所定の位置に設ける。例えば、2つの第1の固定部がそれぞれ吸収することのできる線膨張差のバランス、例えば7:3とか6:4などによって決まる位置とする。
【0040】
図13は、第1の固定部Aにおいて、可動支持金具18と固定部材であるボルト26により、リアクトル本体1をケース2に固定する状態を示す。
図14に示すように、可動支持金具18は、リアクトル本体1の対向する2つの短辺の中央に設けられ、リアクトル本体1の幅方向に延びる基部と、その基部からケース2側に突出した2つのアーム181,182を備えている。基部は樹脂成型品に固定されており、その先端部が樹脂成型品からケース2側に突出している。
【0041】
2つのアーム181,182には、リアクトル本体1の長手方向にケース2側に向かって突出した第1の湾曲部183と、リアクトル本体1の長手方向にリアクトル本体1側に向かって凹んだ第2の湾曲部184とを連続して形成した略S字形の弾性部が設けられている。2つのアーム181,182の先端は連結部185により接続され、その連結部185に可動支持金具18とケース2との固定部材の挿入孔186が設けられている。可動支持金具18の基部と連結部185は、リアクトル本体1の水平断面に対して平行な板状部材であり、U字形コア用の樹脂成型品13a,13bに固定した可動支持金具18の基部に対して、連結部185はリアクトル本体1の上下方向を基準として下方に位置している。これにより、可動支持金具18のS字状の弾性部は、ケース2の上縁に設けられたねじ穴27の位置に合わせて、縦型に配置される。ケース2とリアクトル本体1との位置関係によっては、連結部185をリアクトル本体1の上下方向を基準として上方に位置させることも可能である。
【0042】
図5及び
図15に示すようには、第2の固定部Bは、I字形コア用の樹脂成型品14に設けられた挿入孔と、この挿入孔内に埋設されたカラー23と、このカラー23の内部に挿入されるボルト26を有する。このボルト26をケース2の上縁に設けられたねじ穴27に締結することにより、リアクトル本体1がケース2と相対的に移動することなく固定される。
【0043】
図17に示すとおり、第2の固定部Bは、リアクトル本体1の対向する2つの長辺中央部に設けられ、第1の固定部Aはリアクトル本体1の対向する2つの短辺の中央に設けられている。そのため、リアクトル本体1をケース2に移動不能に固定する第2の固定部Bから、その両側に設けられて、リアクトル本体1をケース2に可動的に固定する第1の固定部Aまでの距離が等しい。その結果、本実施形態では、第2の固定部Bを中心として、両側の第1の固定部Aに対してリアクトル本体1とケース2の線膨張差が等しく現れる。
【0044】
(6)他の部材
リアクトル本体1を固定する他の部材であるケース2は、
図1及び
図2に示す通り、上面に開口を有する箱型に形成されており、リアクトル本体1の大きさに合わせた寸法の収容空間を有する。ケース2の上部には、リアクトル本体1をケース2に固定するためのボルト26を締結するためのねじ穴27が設けられている。ケース2は熱伝導性の高い金属で形成され、リアクトル本体1を収容するとともにリアクトル本体1から発生する熱の放熱部材としての機能を有する。熱伝導性の高い金属としては、アルミニウムやマグネシウムを用いることができる。また、必ずしも金属である必要はなく、熱伝導性に優れた樹脂や、樹脂の一部に金属製の放熱板を固定したものを使用することも可能である。
【0045】
(7)充填材
リアクトル本体1とケース2との隙間には、充填材3が充填、固化されている。充填材3としては、固化しても多少の弾力性を有する樹脂を使用することが望ましい。例えば、酸化アルミニウムや窒化アルミニウム等の放熱用の材料を混入したエポキシ系、ポリアクリレート系、シリコーン系の樹脂製ポッティング剤をその硬化度を調整することで使用できる。
【0046】
[1.2 製造方法]
前記のような構成を有する本実施形態のリアクトルは次のようにして製造する。
まず、樹脂成型品の金型内にU字形コア4a,4bまたはI字形コア5a,5bと、その支持金具をセットし、その後、金型内に樹脂を注入し、固化することで、U字形コア用の樹脂成型品13a,13bとI字形コア用の樹脂成型品14を作製する。
【0047】
次いで、
図5に示すように、それぞれ樹脂成型品内部にコアと支持金具が埋設された2つのU字形コア4a,4bとI字形コア5a,5bを、その外脚をコイル6a,6bの内側に挿入しながら、全体をθ状に接合することより、リアクトル本体1を作製する。その場合、樹脂成型品から露出している各コアの端面の間にスペーサ8を配設してこれらを接着剤により固定すると共に、I字形コア用の樹脂成型品14の端部に設けたリブ21を、U字形コア用の樹脂成型品13a,13bの端部に設けた凹部17の外側に嵌め込む。これにより、各樹脂成型品及びコアの正確な位置決めが可能になる。
【0048】
このようにして作製されたリアクトル本体1を、I字形コア用の樹脂成型品14に設けたカラー23内にボルト26を挿入し、ケース2のねじ穴27に締結することで、リアクトル本体1の中央部分をケース2に対して移動することがないように固定する。また、U字形コア用の樹脂成型品13a,13bに設けた弾性部を有する可動支持金具18に設けた挿入孔186にボルト26を挿入し、そのボルト26をケース2のねじ穴27に締結することで、リアクトル本体1の両端部をケース2に対して可動的に固定する。この場合、可動的とは通常のリアクトルの使用時においては、リアクトル本体1とケース2は移動することなく固定されているが、通電時の発熱などによりリアクトル本体1とケース2との間に線膨張差が生じた場合には、ケース2に対してリアクトル本体1が移動して、線膨張差を吸収できる程度の強さで固定されていることを言う。
【0049】
リアクトル本体1とケース2を固定する場合に、両者間に製造上の公差などにより、リアクトル本体1中央部と両端部とで平面度差があっても、第1の固定部Aの支持金具に設けたS字状の弾性部が、リアクトル本体1の長手方向と上下方向の2つの方向に変形することで、平面度差を吸収することができる。
【0050】
このようにしてリアクトル本体1とケース2とを固定した後は、両者の隙間に充填材3を注入し、固化させる。これにより、リアクトル本体1をケース2に対してより強固に固定することが可能になると共に、両者の隙間に塵埃が入り込むことを防止することができると共に、リアクトル本体1の絶縁性も確保できる。更に、充填材3として熱伝導性の高いフィラーを混合したものを使用した場合には、リアクトル本体1の発熱をケース2に対して効率良く放熱することができる。
【0051】
[1.3 効果]
上記のような構成を有する本実施形態のリアクトルの効果は、以下のとおりである。
【0052】
(1)2つのコイル6a,6bは、そのコイル6a,6bから発生する直流磁束が互いに打ち消される方向で巻回されており、しかも、環状コアには中脚が設けられていることから、リアクトル本体1で発生する磁束の流れは、
図18(b)に示すように、コイル毎に分割され、環状コアの内側を通過するので、漏れ磁束を低下することが可能になる。しかも、本実施形態では、2つのコイルに加えて、更に中脚を設けたことにより、発生した磁束が中脚を流れることになり、環状コア外部への漏れ磁束がより効果的に低減され、ヨーク部の中央部近傍において最も低くなる。そのため、可動的に固定するために大きな支持金具18を有する第1の固定部Aは、リアクトル本体から漏出する磁束密度の低い部分に配置されることになり、第1の固定部Aに含まれる金属部品、すなわち、支持金具18やボルト26を通過する磁束が低減され、漏れ磁束に起因する金属部品の発熱が低減される。その結果、本実施形態によれば、金属部品が約280度C以上に発熱することがなく、金属部品と接する樹脂が溶解することがない利点がある。
【0053】
(2)定位置で固定する第2の固定部Bについては、固定部において弾性変形が要求されることがないため、支持金具18のような大きな金属部品を使用することがなく、単にカラー23のみを使用している。そのため、第1の固定部Aに比較して磁束密度が高いとしても、金属部品を通過する磁束量が少なく、発熱もわずかである。その結果、第2の固定部Bに金属部品を使用しても、その発熱でリアクトルの絶縁不良などの渉外が発生するおそれはない。特に、定位置で固定する第2の固定部Bについては、金属製のカラーを使用することなく、樹脂成型品14に単にボルト26の挿入孔を設けるだけでも、リアクトル本体1とケース2とを固定することもできるので、その部分の発熱をより低減することもできる。
【0054】
(3)本実施形態では、中脚の両側に連結コイル6a,6bを装着したことにより、
図18(b)に示すように、外脚の中央部外側の部分においても、
図18(a)の従来技術に比較して、磁束密度が低下している。従って、四角形をしたリアクトル本体1の長辺及び短辺の中央部分に第1の固定部と第2の固定部を配置した場合に、各固定部に含まれる金属部品の発熱を低減することができる。
【0055】
(4)金属部品の発熱により、周囲の樹脂製品が劣化したり溶融したりすることがなくなり、リアクトルの長寿命化や信頼性の向上が可能となる。
【0056】
(5)リアクトル本体近傍の磁束密度が低い部分に金属製品を有する固定部を配置することにより、磁束密度の高い環状コアの四隅に配置する場合に比較して、固定部の位置を環状コアに近接させることができる。その結果、固定部を含めたリアクトル全体の小型化が可能になる。
【0057】
(6)金属製品の発熱が低減することで、発熱に伴うケースとリアクトル本体間の線膨張差により固定部に加わるストレスが低減されるので、固定部を構成する支持金具やボルトなどを小型で、軽量なものとすることができる。
【0058】
(7)各コイル6a,6bを中脚の両側にそれぞれ配置したため、各コイル6a,6bで発生した磁束が中脚を通過することになり、中脚両端の外側である外脚の中央部に磁束密度の低い箇所が発生する。その磁束密度の低い箇所に第1の固定部Aを配置することにより、第1の固定部Aを環状コアに近接配置することが可能になる。
【0059】
(8)支持金具を、リアクトル本体1の長手方向の両端部の幅方向中央に設け、その基部を樹脂成型品に固定すると共に、その先端部を樹脂成型品からケース2側に突出させたので、支持金具をケース2とリアクトル本体1のデッドスペースに配置していたような制限がなくなる。その結果、支持金具の形状や寸法の自由度が向上し、一カ所の支持金具により、リアクトル本体1とケース2との線膨張差及び平面度差を吸収することができる。また、支持金具における樹脂成型品表面との境界部分(支持金具の口元部)の形状も、樹脂成型品に応力が集中しない幅の広い板状のものとすることが可能になり、樹脂成型品のひび割れ防止も可能となる。
【0060】
(9)リアクトル本体1をケース2内に収納したことにより、リアクトル外部への漏れ磁束が効果的に低減され、リアクトル本体1とケース2を固定する部材以外にリアクトル近傍に他の金属製品を配置した場合でも、漏れ磁束による他の金属部品の発熱を低減できる。
【0061】
[2. 他の実施形態]
本発明は、以上の実施形態に限定されるものではない。以上の実施形態は例として提示したものであって、その他の様々な形態で実施されることが可能である。発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲、要旨、その均等の範囲に含まれる。以下、その一例を示す。
【0062】
(1)上記実施形態では、I字形の中間コアを備えたθ字状の環状コアを使用したが、コアの形状はこれに限らない。たとえば、2つのJ字形やF字形の分割コアと中脚を構成するI字形コアを組み合わせたθ字状の環状コアや、2つのE字形の分割コアを備えたθ字状の環状コアにも適用可能である。中脚が1つに限らず、複数の中脚を有する環状コアについても、本発明は適用できる。その場合、外脚と中脚の交差部分におけるすべての磁束密度が低い箇所に固定部を設ける必要はなく、リアクトル本体とケースを固定するに必要且つ十分な箇所にのみ固定部を設ければ良い。ヨーク部を直線状でなく、円弧あるいは長円形に湾曲したり、山型に屈曲した形状としても良く、中脚もヨーク部と平行に設けることなく、斜めに配置しても良い。
【0063】
(2)また、U字形コア4aとU字形コア4bとの間に段差が設けられた構成であっても良い。この場合、I字形コア5a、5bの中央部分に段差が設けられていて、I字形コアの上面は横方向から見てクランク形状となり、両端がU字形コア4aとU字形コア4bと接続されている。U字形コア4aを含む平面と、U字形コア4bを含む平面とは、垂直方向にずれた異なる平面である。当該構成であっても、それぞれのコイルにおいて、一方の巻線部の周囲に発生する磁束と、他方の巻線部の周囲に発生する磁束とが互いに打ち消し合うよう作用し、磁気結合型リアクトルとして十分に機能する。
【0064】
(3)
図19は、環状コアの一例を示すもので、
図19(a)は、U字形コアの代わりに、ヨーク部及び外脚をI字形コアによって構成したものである。
図19(b)は、対向する外脚を構成する各I字形コアの内側に、中脚を構成するI字形コアをその先端が対向するようにそれぞれ接合し、中脚を構成する各I字形コアの先端の間に前記ギャップを形成したものである。また、
図19(b)の代わりに、U字形コアとI字形コアを組み合わせて形成した環状コアの内側に、中脚を構成するI字形コアを接合して、θ形の環状コアを構成しても良い。
【0065】
(4)磁束がリアクトル本体1の四隅に集中することなく、リアクトル本体の長手方向の中央部及び両端部中央に集中しないようなコアとコイルの構成であれば、中脚を持たないリアクトルについても本発明を適用することは可能である。中脚がある場合でも、ギャップ寸法に制限はなく、エアギャップを設けたもの、スペースにより所定のギャップを形成したもの、全くギャップを有しないものでも良い。ギャップの位置は必ずしも中脚の中央でなくても良く、どちらかの外脚に偏倚していても良いし、斜め方向にギャップを形成しても良い。
【0066】
(5)コアに巻回するコイルの形状も適宜変更可能であり、θ状のコアの左右の脚部にそれぞれコイルを巻回するものや、θ状のコアのヨーク部分にコイルを巻回しても良い。円形あるいは角形のループ状のコアを使用した場合には、左右の脚部のそれぞれにコイルを巻回しても良いし、2つの脚部の一方のみにコイルを巻回し、他方はコイルを装着しなくても良い。また、コイルをコアに装着する方法としては、樹脂成型品に線材を巻回してコイルとしても良いし、予め巻回したコイルを樹脂成型品にはめ込んでも良い。
【0067】
(6)コイルは連結コイルに限定されるものではなく、独立した4つのコイルを外脚に装着しても良い。複数のコイルは、必ずしも環状コアに対して対称形に装着する必要はなく、
図19(c)のように、コイルの数や巻き数を非対称形としても良い。その場合、漏れ磁束のパターンが非対称形になるが、リアクトルの周囲に配置する金属部品などの位置を考慮することで、その発熱を防止することができる。
【0068】
(7)
図20(a)〜(c)に示すように、対向する外脚の一方にのみ複数のコイルを装着することも可能である。この場合も、
図19(a)〜(c)に示した場合と同様に、中脚の両側に装着するコイル6a,6bの巻回数を同一としたり、中脚を構成するコアを外脚の内面に接合したり、コイルの数や巻き数を非対称形としても良い。
【0069】
(8)第1の固定部Aと第2の固定部Bは、必ずしも2つずつ設ける必要はない。対向する2つの外脚と、一方のヨーク部の3箇所に固定部を設けても、一方の外脚と対向する2つのヨーク部に固定部を設けても良い。本実施形態では、(1)(2)(4)(5)(6)(8)のポイントが漏れ磁束が少ないことが確認されているので、(1)と(5)のポイントに加えて、(2)(4)(6)(8)の幾つかの部分に大きな金属部品を必要とする第1の固定部Aを設けることが好ましい。巻回するコイルの数や巻回位置、環状コアの外脚とヨーク部の長さや断面積のバランス、中脚の数や断面積によっても磁束密度が低い箇所が図示の実施形態のように対称形に現れないことも多い。その場合でも、ケースとリアクトル本体とを固定するのに支障がない場合には、本発明を適用することは可能である。また、(1)と(5)のポイントに固定部を設けることなく、(2)(4)(6)(8)のいずれかに固定部を設けても良い。
【0070】
(9)樹脂成型品としては、内部にコアをインサート成型するものの他に、中空になった筒状あるいは箱状の樹脂成型品のみを予め作製し、その内部にコアを嵌合するものや接着剤で固定するものも使用できる。また、分割コアの接合後において、環状になったコアを樹脂成型品内部にインサート成型したり、組み込むこともできる。
【0071】
(10)支持金具としては、複数のアームを有するもの以外に、全体が幅の広い1枚の板状部材から構成されたものを使用できる。弾性部の形状は、図示のような縦型のS字状に限らず、長手方向に余裕がある場合には、S字状の弾性部を水平に配置することもできる。また、線膨張差と平面度差の一方の変位のみを吸収するものであっても良く、S字状のような複数の湾曲部の組み合わせでなくても良い。線膨張差と平面度差を無視できるような場合には、すべての固定部において弾性部を使用することなく、ケースとリアクトル本体を移動することがないように固定することもできる。リアクトル本体とケースとの線膨張差や平面度差が大きい場合にはすべての固定部が弾性部を持つものでも良い。
【0072】
(11)固定部材の挿入孔は、1箇所に限らず複数設けることもできる。固定部材としては、ボルトなどのねじ止めに限定されず、溶着、接着、リベット、ピンの圧入、固定部材に設けた突起をケースの孔に圧入するなど、種々の構成を採用できる。
【0073】
(12)第2の固定部Bにより、リアクトル本体1をケース2に固定するには、樹脂成型品内部に埋設したカラー23以外に、弾性部を持たない板状の支持金具の基部を樹脂成型品に固定し、樹脂成型品から突出した部分に固定部材の挿入孔や固定部材との係合部を設けたものを使用できる。また、カラー23を使用する代わりに、樹脂成型品に単なる挿入孔のみを設け、そこにボルトを挿入しても良い。
【0074】
(13)図示の実施形態は、リアクトル本体1を上面開口型のケース2内に収納したが、リアクトル本体を固定する他の部材の形状はこれに限定されるものではない。板状あるいはテーブル状の部材の表面にリアクトル本体を固定するリアクトル、複数の部材によってリアクトル本体を挟持するリアクトル、リアクトル本体を複数の部材によって吊り下げる構成のリアクトルにも、本発明を適用することは可能である。リアクトル本体を固定する他の部材の材質は、放熱性に優れたアルミニウムなどの金属、合成樹脂、金属と合成樹脂の複合材料など、種々のものを使用することができる。
【0075】
(14)本発明の金属部品とは、アルミニウムやステンレス鋼などの金属のみで構成された部品に限定されるものではなく、金属複合セラミックスや金属複合樹脂のように、その組成中に漏れ磁束により発熱する金属を含む部品全般を含むものである。また、金属部品はすべてが金属から構成される必要はなく、その一部を樹脂によって構成することも可能である。金属部品である支持金具は、その基部を樹脂成型品に埋設して固定するものに限定されない。支持金具の基部を樹脂成型品の表面にボルト締め、接着剤などの手段で固定することもできる。支持金具の基部を平面方向に埋設する以外に、支持金具の基部を垂直に屈曲させて樹脂成型品内部に埋設することもできる。