(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6585905
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】静脈弁不全を治療するための血管装置
(51)【国際特許分類】
A61F 2/06 20130101AFI20190919BHJP
A61F 2/95 20130101ALI20190919BHJP
【FI】
A61F2/06
A61F2/95
【請求項の数】15
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-49373(P2015-49373)
(22)【出願日】2015年3月12日
(65)【公開番号】特開2015-173987(P2015-173987A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2018年2月23日
(31)【優先権主張番号】61/953,828
(32)【優先日】2014年3月15日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】14/616,675
(32)【優先日】2015年2月7日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514318507
【氏名又は名称】レックス メディカル リミテッド パートナーシップ
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ エフ マックグーキン ジュニア
【審査官】
細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2010/0217385(US,A1)
【文献】
特表2009−519731(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/100382(WO,A2)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0217381(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/06
A61F 2/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
静脈弁不全を治療するための血管装置であって。該血管装置は、
第1の上流側部分および第2の下流側部分を有する細長い部材と、
前記第1の上流側部分に設けられ、第1の細長い挿入位置から第2の拡張位置に移動可能である第1の保持部分と、
前記第2の下流側部分に設けられ、第1の細長い挿入位置から第2の拡張位置に移動可能である第2の保持部分と、
前記第1の上流側部分と前記第2の下流側部分との間に位置決めされた中間のループ状部分と、
前記中間のループ状部分によって支持され、血流を可能にする開放位置と、血流を阻止する閉鎖位置との間で移動可能である弁と、を含み、
前記中間のループ状部分は、血管の内径に応じて異なる径のループに調節可能であり、
前記弁を保持するために前記中間のループ状部分から延び前記中間のループ状部分に対して摺動可能である部材をさらに含む、
ことを特徴とする血管装置。
【請求項2】
前記部材は、前記弁の上方部分に連結されるように構成されている、ことを特徴とする請求項1に記載の血管装置。
【請求項3】
前記第1の保持部分は、ループ状部分である、ことを特徴とする請求項1または2に記載の血管装置。
【請求項4】
前記第2の保持部分は、ループ状部分である、ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の血管装置。
【請求項5】
前記第1の保持部分は、第1のループ状部分および第2のループ状部分を含む、ことを特徴とする請求項1または2に記載の血管装置。
【請求項6】
前記第2の保持部分は、第1のループ状部分および第2のループ状部分を含む、ことを特徴とする請求項1または5に記載の血管装置。
【請求項7】
前記第1の保持部分および/または前記第2の保持部分のループは、前記細長い部材の長手方向軸線と実質的に垂直である、ことを特徴とする請求項3ないし6のいずれか1項に記載の血管装置。
【請求項8】
前記中間のループ状部分上に取り付けられたカラーをさらに含む、ことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の血管装置。
【請求項9】
前記弁を保持するために前記中間のループ状部分から延びるもう1つの部材をさらに含む、ことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の血管装置。
【請求項10】
前記もう1つの部材は、前記中間のループ状部分に固定的に取り付けられている、ことを特徴とする請求項9に記載の血管装置。
【請求項11】
前記部材は、前記カラーに対して摺動可能である、ことを特徴とする請求項8に記載の血管装置。
【請求項12】
前記細長い部材、前記中間のループ状部分、前記第1の保持部分、および前記第2の保持部分は、単一のワイヤから形成されている、ことを特徴とする請求項1−11のいずれか1項に記載の血管装置。
【請求項13】
前記弁は、実質的に円錐形状である、ことを特徴とする請求項1−12のいずれか1項に記載の血管装置。
【請求項14】
前記血管装置の回収のために前記細長い部材の前記上流側部分および前記下流側部分の一方または両方に設けられた回収構造をさらに含む、ことを特徴とする請求項1−13のいずれか1項に記載の血管装置。
【請求項15】
前記第1の保持部分および前記第2の保持部分は、前記細長い部材の一方の側で半径方向に延びている、ことを特徴とする請求項1−14のいずれか1項に記載の血管装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、出典を明示することによってその内容全体が本願の開示の一部とされる2014年3月15日に出願された仮出願第61/953,828号からの優先権を主張する。
【0002】
本願は、血管装置、さらに詳しくは、静脈弁不全を治療するための弁を備えた血管装置に関する。
【背景技術】
【0003】
身体中の静脈は、血液を心臓に輸送し、動脈は、心臓から血液を運び去る。静脈は、心臓に向かう血流を可能にするように開放し、逆流を防止するように閉鎖する血管の内壁に環状に沿って配置された小葉(膜)の形態の一方向弁構造を有する。すなわち、血液が静脈を通して流れるとき、圧力が弁膜を血流の方向に撓むように押し離し、血管の内壁に向けて移動させ、弁膜の間に血流のための開口部を作り出す。しかしながら、弁膜は、通常は反対方向には曲がらず、したがって、圧力が緩められた後に閉鎖位置に戻ると、反対すなわち逆方向の血流を防止する。膜構造は、正しく機能するときに、先端が互いに接触して血液の逆流を阻止するように互いに半径方向内方に向かって延びる。
【0004】
静脈弁不全の状態では、弁膜は、肥厚して可撓性を失うことで正しく機能せず、それによって、血液の逆流を阻止するように先端が互いに十分接触することを可能にするのに十分に半径方向内方に延びることができなくなる。血液の逆流により、残りの他の弁上に静水圧が蓄積し、血液の重みによって、血管の壁が拡張される。逆流(reflux)と通常呼ばれるかかる血液の逆流は、静脈瘤を生じさせ、患者に多大の不快感と痛みを引き起こす。かかる血液の逆流はまた、治療されないままにされると、皮膚および皮下組織の静脈うっ血潰瘍を引き起こす。一次および二次という概して2種類の静脈弁不全がある。一次静脈弁不全は、代表的には、静脈が弁膜に対して大きすぎ、その結果、弁膜が互いに接触することができず、逆流を防止できないという生まれつきの状態である。より多く見られる二次静脈弁不全は、ゲルおよび瘢痕による血塊によって弁膜の形状が変化し、すなわち、弁膜が肥厚して「切り株状」形状になることである。静脈弁不全は、脚の伏在静脈のような表在性静脈系、または、膝の裏から鼠蹊部に沿って延びる大腿静脈および膝窩静脈のような深部静脈系において生じ得る。
【0005】
静脈弁不全の普通の治療方法は、外圧を静脈に印加して、静脈壁を半径方向内方に押して弁膜を強制的に近置させるように患者の脚の周囲に弾性ストッキングを配置することである。ときとして成功はするけれども、きついストッキングは、特に暖かい気候では、弁膜を近置状態に維持するためにストッキングを常に着用しなければならないので極めて不快である。弾性ストッキングはまた、患者の身体的外観に悪影響を及ぼし、それによって、潜在的に精神的な悪影響を有する。この身体的/精神的不快感により、しばしば、患者はストッキングを取り外し、それによって、十分な治療を妨げてしまう。
【0006】
ストッキングの不快感を回避するために、もう1つの治療方法が開発された。この方法は、身体の内部に、静脈のまわりに直接カフを移植することを必要とする大手術を伴う。この手術は、大きな切開部を必要とし、それにより、患者の回復時間を長引かせ、瘢痕を残し、手術に固有のリスク、例えば感覚麻痺を伴う。
【0007】
もう1つの侵襲性の手術方法は、弁形成術と呼ばれる弁膜の選択的な修復を伴う。1つの方法では、縫合糸を使用して弁尖の自由縁を接触させる。この処置は、複雑であり、上記の大手術と同じ不利益を有する。
【0008】
出典を明示することによってその内容全体が本願の開示の一部とされる共通に譲渡された米国特許第6,695,878号および米国特許第6,527,800号は、外側ストッキングも内部カフも必要とすることなく、静脈弁不全を最小侵襲的に治療するための方法および装置を開示している。かかる装置は、外側ストッキングの身体的および精神的不快感を回避し、また、外科的に移植されるカフのリスク、複雑さ、および費用を回避する。この装置は、最小侵襲的に、すなわち、血管内的に(intravascularly)有利に挿入され、弁膜を効果的に近置させるように機能する。この装置は、初めに、血管に向けて拡張して血管壁を掴み、次いで収縮して、弁膜が機能的な位置に互いに近くに引かれるように血管壁を半径方向内方に持ってくる。
【0009】
出典を明示することによってその内容全体が本願の開示の一部とされる共通に譲渡された米国特許第6,676,698号の血管装置は、先の米国特許第6,695,878号および米国特許第6,527,800号の装置を利用するが、傷ついており、または、機能しない可能性のある患者の既存の弁膜に依存するのではなく、患者の弁膜の代替としての置換弁を含む。かくして、有利には、静脈弁不全は、血管壁を内方に持ってきて、患者の弁を置換することによって最小侵襲的に治療することができる。
【0010】
共通に譲渡された米国特許第8,834,551号は、静脈弁不全を治療するために血管壁を半径方向内方に持ってくるためのもう1つの装置を開示しており、この装置は、弁の遠位端に延びる保持アームを有する。共通に譲渡された米国特許公報第2013-0289710号は、保持部材を解放することにより、ストラットに血管壁を内方に引かせるもう1つの血管装置を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の装置は、血管壁を近置させるのにいくつかの利点を有するけれども、いくつかの適用では、かかる近置は困難であることがあり、血管壁の径が変化するときに十分な近置が達成されないことがある。既存の血管壁間隔に依存するが、異なる寸法の血管に合わせて調節可能であり、置換弁を提供する静脈弁不全を治療するための装置の必要性がある。かかる調節性は、患者の弁に代替し、患者の弁を模する弁を移植するための異なる寸法の血管のための単一の装置の使用を有利に可能にするであろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、1つの観点では、近位部分および遠位部分を有し、畳まれた細長い挿入位置からより大きな断面寸法を有する拡張位置に移動可能である本体を含む血管装置を提供する。この本体は、近位のループ状部分と、遠位のループ状部分と、中間の弁支持ループ状部分と、を含む。中間のループ状部分は、弁を支持し、弁は、血流を可能にする開放位置と、血流を阻止する閉鎖位置との間で移動可能である。中間のループ状部分は、挿入される血管の寸法に応じて異なるループ径に調節可能である。
【0013】
もう1つの観点によれば、本発明は、第1の上流側部分および第2の下流側部分を有する細長い部材を含む静脈弁不全を治療するための血管装置を提供する。第1の上流側部分に設けられた第1の保持部分は、第1の細長い挿入位置から第2の拡張位置に移動可能である。第2の下流側部分に設けられた第2の保持部分は、第1の細長い挿入位置から第2の拡張位置に移動可能である。中間のループ状部分が、第1の上流側部分と第2の下流側部分との間に位置決めされている。弁は、中間のループ状部分によって支持され、血流を可能にする開放位置と、血流を阻止する閉鎖位置との間で移動可能である。中間のループ状部分は、血管の内径に応じて異なる径のループに調節可能である。
【0014】
いくつかの実施形態では、第1の保持部分は、ループ状部分であり、および/または、第2の保持部分は、ループ状部分である。いくつかの実施形態では、第1の保持部分は、第1のループ状部分および第2のループ状部分を含み、および/または、第2の保持部分は、第1のループ状部分および第2のループ状部分を含む。いくつかの実施形態では、第1の保持部分および第2の保持部分のループは、細長い部材の長手方向軸線と実質的に垂直である。いくつかの実施形態では、第1の保持部分および第2の保持部分は、細長い部材の一方の側でのみ延びている。
【0015】
いくつかの実施形態では、カラーが、中間のループ状部分上に取り付けられている。いくつかの実施形態では、第1の部材および第2の部材が、弁を保持するために中間のループ状部分から延びている。いくつかの実施形態では、第2の部材は、中間のループ状部分に対して摺動可能であり、いくつかの実施形態では、中間のループ部分上に取り付けられた第1のカラーに取り付けられ、第2のカラー内で摺動可能である。いくつかの実施形態では、第1の部材は、中間のループ状部分に固定的に取り付けられている。
【0016】
いくつかの実施形態では、細長い部材、中間のループ状部分、第1の保持部材、および第2の保持部材は、単一のワイヤから形成されている。
【0017】
弁は、いくつかの実施形態では、実質的に円錐形状であるのがよい。
【0018】
いくつかの実施形態では、血管装置は、血管装置の回収のために細長い部材の上流側部分および/または下流側部分に設けられた回収構造をさらに含む。
【0019】
もう1つの観点によれば、本発明は、静脈弁不全を治療するための方法であって、
細長い部分と、細長い部分から半径方向に延びる下流側のループ状部分、上流側のループ状部分、および中間のループ状部分と、中間のループ状部分に取り付けられた弁とを含む血管装置を準備し、
目標血管内に送達装置を挿入し、送達装置内の挿入位置に血管装置を挿入し、挿入位置で、下流側状部分、上流側部分、および中間のループ状部分は、低減された横断寸法を有し、
送達装置から血管装置を露出させ、血管装置を露出させることにより、下流側部分、上流部分、および中間のループ状部分は、拡張位置に移動することが可能になり、中間のループ状部分は、血管の内壁に係合し、血管の径に合わせて自動的に調節される、ことを特徴とする静脈弁不全を治療するための方法を提供する。
【0020】
いくつかの実施形態では、弁の径は、弁に取り付けられ、中間のループ状部分に摺動可能に連結された半径方向支持体によって調節される。いくつかの実施形態では、カラーが、中間のループ状部分上に取り付けられ、半径方向支持体は、カラー内で摺動可能である。
【0021】
添付図面を参照して本開示の好ましい実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】明確化のために置換弁が除去されて示された本発明の血管装置の第1の実施形態の斜視図である。
【
図2】置換弁を備えて示された
図1の血管装置の斜視図ある。
【
図3】第1の間隙を構成する第1の位置で示された
図1の血管装置の弁支持体の中間部分の平面図である。
【
図4】
図3の間隙を備えて示された
図1の血管装置の弁支持体の中間部分の斜視図である。
【
図5】血管装置がより小さい径の血管に配置されるときの第2のより小さい間隙を示す
図3と同様な平面図である。
【
図6】
図5の間隙を備えて示された
図1の血管装置の弁支持体の中間部分の斜視図である。
【
図7A】
図2の血管装置の送達のために患者の弁膜の上流側に逆行で挿入されている送達管を示す図である。
【
図7B】
図2の血管装置を部分的に露出させる送達管の後退を示す
図7Aと同様な図である。
【
図7C】送達管の完全な後退および患者の弁膜の下流側での血管装置の完全な配備を示す図である。
【
図7D】血管の壁によりより小さい径に移動した血管装置を示す
図7Cと同様な図である。
【
図7E】血流を可能にする開放位置にある弁を示す
図7Dと同様な図である。
【
図7F】血流を阻止する閉鎖位置にある弁を示す
図7Eと同様な図である。
【
図7G】血管からの回収のために血管装置の回収構造に係合される回収装置の導入を示す
図7Eと同様な図である。
【
図7H】血管からの回収のために血管装置の回収構造に係合される回収装置の導入を示す
図7Eと同様な図である。
【
図8】患者の弁膜の上流側での
図2の血管装置の配置を示す図である。
【
図9】本発明の血管装置の代替実施形態を示す図である。
【
図10】膝窩静脈内への逆行挿入のために頸静脈を通して挿入される送達カテーテルを示す本発明の血管装置の1つの挿入方法を示す図である。
【
図11】膝窩静脈への逆行接近のために右大腿静脈を通して挿入される送達カテーテルを示す本発明の血管装置のもう1つの挿入方法を示す図である。
【
図12】送達カテーテルが、右膝窩静脈内への逆行挿入のために腸骨静脈をまわって前進させるように左大腿静脈を通して挿入される対側性アプローチを示す本発明の血管装置のさらにもう1つの挿入方法を示す図である。
【
図13A】送達装置が膝窩静脈に逆行挿入される、血管壁が断面で示された
図2の血管装置のための送達装置を示す側面図である。
【
図13B】送達装置が膝窩静脈に順行挿入される、血管壁が断面で示された
図2の血管装置のための送達装置を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
同じ参照番号は、いくつかの図を通して同様なまたは同じ構成要素を同定する添付図面を詳細に参照すると、装置は、参照癌号10によって全体的に指示されており、最小侵襲のための挿入位置と、患者の弁に代替する弁を提供するために血管内に配置されるときの拡張位置と、を有する。血管装置10は、弁膜が除去された後に患者の弁膜に代替して使用することができ、または、弁膜を外科的に除去する必要なくして患者の既存の機能しない弁膜の上流側または下流側に配置することができる。
【0024】
図1および
図2は、拡張形状の本発明の第1の実施形態の血管装置10を示し、
図1は、明確化のために置換弁が取り付けられていない状態で示されている。
【0025】
血管装置10は、弁支持体12および置換弁48を含む。弁支持体12は好ましくは、記憶された形状で、
図1および
図2で示された形状を取るように、ニッケル−チタン合金、例えば、ニチノール(Nitinol)のような形状記憶材料で構成されている。この形状記憶材料は、特徴的には、オーステナイト状態で剛性を示し、マルテンサイト状態でより可撓性を示す。
【0026】
いくつかの実施形態では、送達カテーテルからの通過を容易にするために、形状記憶装置は、送達シースまたは送達カテーテル内で、転移温度以下に維持されるように生理食塩水によって冷却されて、畳まれ(collapsed)形状に維持される。冷却生理食塩水は、温度依存装置が送達シース内でマルテンサイト状態にあるので、温度依存装置を比較的軟質の状態に維持する。これは、装置が剛性の、すなわち、オーステナイト状態にあるならば装置とシースの内壁との間に摩擦接触が生じるであろうことに鑑みると、弁支持体12がシースから出ることを容易にする。弁支持体12がシースから目標部位に解放されるときに、弁支持体12は体温によって温められ、それによって、この温度変化に応じて、オーステナイト拡張状態に移行する。他の実施形態では、弁支持体は、送達シース(カテーテル)内でマルテンサイト状態に維持され、送達管から露出されたときに、形状記憶されたオーステナイト状態に戻る。
【0027】
弁支持体12は、上流側部分15、下流側部分16、および、下流側部分16と上流側部分15との間に位置決めされた中間部分18を有する。
図7Aは、送達管(カテーテル)またはシース60内で畳まれ(collapsed)位置にある血管装置10を示し、この畳まれ位置は、目標血管への血管装置10の最小侵襲性挿入を可能にする。図示されているように、畳まれ低輪郭位置では、血管装置10は細長く、送達シース60の長手方向軸線と実質的に整合し、シース60の遠位開口部62から露出されたときに、血管装置10は、その拡張位置に移動する。
【0028】
ここで使用されているように、順行(antegrade)は、当業界では知られているように、血流の方向を指し、逆行(retrograde)は、血流の方向とは逆の方向を指す。上流側および下流側は、慣用されているように、ここでは、上流から下流に流れる血流の方向に対比されるように使用されている。
【0029】
血管装置10の弁支持体12は、好ましくは、形状記憶ワイヤから形成されている。第1の主ワイヤ20は、血管内で血管装置10のための保持を提供する。第1の主ワイヤ20はまた、置換弁48のための支持を提供する。第2のワイヤおよび第3のワイヤ51、52は、それぞれ、置換弁48を支持するのを助け、以下で詳細に説明するように弁の調節性を可能にする。
【0030】
拡張された状態(形状)では、上流側部分15には、少なくとも1つのワイヤループが形成され、示された実施形態では、2つのループ30、32が形成される。ワイヤループまたはリング30、32は、ワイヤ20の細長い部分34から半径方向に延びており、好ましくは、示されているようにワイヤ20の一方の側だけで延びている。もう1つのワイヤについて述べると、ワイヤ20は、血管内で長手方向に延びる細長い部分34を有し、ループ30、32は、細長い部分34の長手方向軸線に対して一方向に延びている。ループ30、32は、ループ30、32が血管壁の周囲に周方向に係合し、ループ30、32を通る開口部が血流を可能にするように、細長い部分34の長手方向軸線と実質的に垂直であるように示されている。すなわち、ループ30、32の中心を通る線は、細長い部分34の長手方向軸線と実質的に平行になるであろう。別の例として、ループ30、32は、細長い部分34の長手方向軸線に対して鋭角をなしてもよい。
【0031】
拡張された状態(形状)では、下流側部分16には、少なくとも1つのワイヤループが形成され、示された実施形態では、2つのループ40、42が形成される。ワイヤループまたはリング40、42は、ワイヤ20の細長い部分35から半径方向に延びており、好ましくは、示されているようにワイヤ20の一方の側だけで延びている。すなわち、ワイヤループ40、42は、好ましくは、細長いワイヤ部分35の同じ側で、かつ、ワイヤループ30、32と同じ側に延びている。ループ40、42は、ループ40、42が血管壁の周囲に周方向に係合し、ループ40、42を通る開口部が血流を可能にするように、細長い部分35の長手方向軸線と実質的に垂直であるように示されている。すなわち、ループ40、42の中心を通る線は、細長い部分35の長手方向軸線と実質的に平行になり、また、ワイヤループ30、32の中心を通るであろう。別の例として、ループ40、42は、細長い部分35の長手方向軸線に対して鋭角をなしてもよい。
【0032】
好ましい実施形態では、細長いワイヤは、ループ30、32、40、および42がワイヤ20で一体的に形成されるように一体ワイヤ(monolithic wire)である。しかしながら、代替実施形態では、取り付けられた、例えば、溶接された別個のワイヤを利用して弁支持体12を形成してもよいことを理解すべきである。
【0033】
2つのワイヤループが、上流側部分15および下流側部分16に示されているけれども、上流側部分または下流側部分16に、異なる数のワイヤループを配置してもよい。例えば、
図9の実施形態では、血管装置70は、複数の螺旋状ワイヤループを含む弁支持体72を有し、上流側部分76に多数のワイヤループ74があり、上流側部分80に多数のワイヤループ78がある。他のすべての点では、弁支持体72および置換弁75は、
図2の弁支持体12および弁48と同一であり、したがって、構造と機能は
図2におけるのと同じであり、挿入法は、本明細書で示し、説明されているのと同じであるので、簡潔化のために、さらに詳細には説明しない。
【0034】
回収構造36が、主ワイヤ20の上流側先端上またはこれに隣接して位置決めされている。同様に、回収構造36に代替して、または、回収構造36に加えて、回収構造46が、主ワイヤ20の下流側先端上またはこれに隣接して位置決めされている。回収構造36、46は、血管装置10を除去するために、スネア(snare)またはグラスパー(grasper)のような除去ツールによって掴むことができるボール、フック、あるいは、その他の構造を含むのがよい。いくつかの実施形態では、血管装置10の両側に回収構造を設けることによって、順行方向または逆行方向のいずれにも有利に除去することができる。
【0035】
弁支持体12の中間部分18は、弁48のための支持体として機能する弁取付け部分を含む。
図1に示されているように、ワイヤ20は、まる360°ループして支持ループ50を形成する。支持ループまたはリング50には、ワイヤ51、52が取り付けられている。ワイヤ51、52もまた、好ましくは、形状記憶材料で作られており、畳まれた(collapsed)送達位置(状態)では、ワイヤ30に沿って長手方向に延びる。ワイヤ51の第1の端59は、弁48の上側部分に固定的に取り付けられ、第2の反対側の端56は、カラー54に固定的に取り付けられる。かくして、ワイヤ51は、弁38を弁支持体12に取り付けるのを助ける。ワイヤ52は、弁48の上側部分に固定的に取り付けられる第1の端58と、カラー62を通して延び、カラー54に取り付けられる第2の反対側の端60とをする。支持ループ50の径が血管の径に一致するように変化するときに、ワイヤ52は、カラー62内で摺動し、それによって、弁48の径を調節する。すなわち、血管装置10が血管内に配置されるときに、支持ループ50の径は、変化、例えば、縮径することができ、ワイヤ52は摺動して、弁48を、より小さい径位置に引くことができる。これは、弁48の所望の形状を維持するのを助ける。支持ループ50および弁48のこのような調節で、血管装置10は、異なる寸法の血管内で使用することができる。
【0036】
この調節性は、
図3−6を比較することによって理解することができる。
図3および
図4では、ワイヤ20の支持ループ50は、細長いワイヤ20の反対方向の部分21、23の間に間隙G1を形成する第1の径D1を有する。
図5および
図6は、血管装置10がより小さい血管内に配置される場合に起こることを示している。図示されているように、ワイヤ20の支持ループ50は、内方に移動して、
図3の径D1よりも小さい径D2を形成する。同様に、細長いワイヤ20の反対方向の部分21、23の間に形成される間隙G2は、
図4の間隙G1よりも小さい。ワイヤ52の摺動による弁寸法の変化が、
図7Cおよび
図7Dを比較することによって理解することができる。より小さい寸法の血管内に配置された場合には、支持ループ50は、
図7Cの矢印の方向により小さい径に移動され、ワイヤ52は、カラー62内で摺動して、
図7Dに示されているように、より小さい径に弁48を引く。
【0037】
ワイヤまたはストラット51、52は、弁48に沿って弁48の外部で長手方向に延び、次いで、弁48を取り付けるために、弁48の長手方向軸線に対して実質的に横方向に延びる半径方向部分を形成するように、角度をなして、例えば、約90°の角度で内方に曲がるのがよいが、他の角度も考えられる。弁48は、いくつかの実施形態では、弁をストラットまたはワイヤ51、52に取り付けるために、ワイヤ51、52の半径方向部分の通過を受け入れる2つの間隔を隔てて配置された開口部を含むのがよい。この係合により、ワイヤは弁48に固定され、それによって、弁48は、保持されながら、開放位置と閉鎖位置との間で移動可能になる。他の実施形態では、ワイヤ51、52は、半径方向部分を有さず、上流側の端でおよび/またはワイヤ51、52の長さの一部または全部に沿って弁に取り付けられている。
【0038】
種々のタイプの弁を利用することができる。示した実施形態では、弁48は、支持ループ50に取り付けられたベース17を備えた実質的に円錐形の弁であり、下流側の端にスリット弁19を有する。このように、スリット弁19は、
図7Eに示されているように、血流の力が弁を開放して、血流の通過を可能にするまで、閉鎖される(
図7F)。例えば、ダックビル弁、または、出典を明示することによってその開示内容全体が本願の一部とされる米国特許第6,676,698号に開示されている弁を含む他のタイプの弁も考えられる。例えば、弁は、弁のまわりに周方向に配置された複数の膜(leaflets)またはペダル(pedals)を含むのがよい。膜は、閉鎖位置で互いに向かって内方に折り重なって血流を妨げる。収縮中の血圧は、膜を開放位置に押し離すことができる。弁開口部は随意的に、血管装置の中心軸線からオフセットしていてもよい。
【0039】
膝窩静脈または伏在静脈の静脈弁不全を治療するための本発明の血管装置のいくつかの異なる挿入方法がある。利用することができるかかる挿入方法には、米国特許第6,676,698号に開示されている方法が含まれ、米国特許第6,676,698号は、例えば、患者の脚の膝窩静脈内への配置であって、弁膜の上流側に血管装置を配備(deploy)するために弁膜に隣接して前進させる配置を示している。送達カテーテルは、弁膜の(血流の方向を基準にして定義される)ちょうど上流側に血管装置を配備するために先端が弁の下流側に延びる順行式に送達されるものとして説明されている。
【0040】
本発明の弁装置は、送達シース90および右頸静脈J(
図10)を通して挿入することができ、ここから、逆行式に、すなわち、血流の方向と逆に、上および下大静脈を通り、腸骨静脈を越え、大腿静脈を通り、弁膜を通って膝窩静脈内に前進される。かくして、送達装置は、弁膜領域を通って弁膜のすぐ上流側に、あるいは、弁膜のすぐ下流側に延びることができる。本発明の血管装置は、代替的には、送達シース92を通して右大腿静脈F(
図11)内に導入することができ、ここから、逆行式に膝窩静脈Pに前進される。対側アプローチでは、本発明の血管装置は、送達シース94および左大腿静脈G(
図12)を通して挿入され、ここから、腸骨静脈をまわり、右大腿静脈を通って、膝窩静脈P内に前進される。
【0041】
使用に際して、1つの方法では、シースの遠位先端部が、血管Vの血管壁から環状に延びる弁膜Lを越えて、すなわち、弁膜Lの下流側に延びるように(
図7A)、在来のガイドワイヤ上(図示せず)でカテーテルまたは送達シースを挿入する。わかるように、弁膜の間に間隙があるので、弁膜は逆流を防止するように正しく近づくことができないため、弁は、正しく機能することができない。さらに、弁の機能不全により、逆流する血液の重みと圧力により血管壁が外側へ押されるので、血管壁は、拡張されるようになることがある。
【0042】
一旦、シース60の位置を、静脈撮影法、血管内超音波手段、あるいは、その他の方法によって確認すると、シース60を、血管装置10に対して後退させ(
図17B)、血管装置10を、支持体12が
図7Cの記憶された拡張形状に戻るように、露出させる。血管装置10を露出させるために、装置10の端に向けて送達シース60内でプッシャを遠位方向に前進させるか、あるいは、送達シース60を後退させるか、あるいは、プッシャと送達シースの両方を互いに対して移動させるのがよい。装置70は、装置10と同じ仕方で挿入することができ、したがって、装置10の挿入への言及は、装置70の挿入をも考えていることに留意されたい。
【0043】
ループ30、32、40、42が血管壁に係合して、血管内に装置を取り付けるために十分な半径方向圧力を印加するように、装置を、血管の径よりも大きな径に拡張させる。置換弁48は、血管内に残り、開いたり、閉じたりして、それぞれ、弁を通る血流を可能にし、弁を通る血流を阻止する。すると、弁支持体12、例えば、ループ50と弁の中間が、血管の径に合うように調節することができる。
図7Cおよび
図7Eでは、装置10は、患者の弁膜Lの上流側に配置される。
【0044】
血管装置10(および70)は、弁膜の(血流の方向に対して)上流側に配置することもできる。送達カテーテルを、上流側位置で、装置10(70)の下流側送達を可能にするように弁膜に隣接するが弁膜を越えないように前進させる点を除いて、送達カテーテルを、上述したのと同じ逆行式に挿入することができる。置換弁48(75)は、弁膜が患者に残されていれば弁膜の上流側に、あるいは、弁膜が以前除去された血管の領域の上流側に、配置されるであろう。かくして、本発明の置換弁を、(
図13Aおよび
図13Bにあるように)患者の弁膜が除去される全置換として、あるいは、(
図7C−
図7Hにあるように)機能不全の弁膜を残した弁膜の上流側または下流側に配置することができる。
図13Aは、膝窩静脈内に逆行で挿入される送達装置60を示し、
図13Bは、膝窩静脈内に順行で挿入される送達装置60を示している。
【0045】
血管装置10は、挿入輪郭を最小にするように構成される。これを達成するために、装置の構成要素は、送達中、長手方向軸線に沿って整合される。
【0046】
形状記憶の代替として、ステンレス鋼製またはポリマー製血管支持体を利用することもできよう。
【0047】
弁48は、図示されるように円錐形であり、種々の技術によって血管装置10のワイヤ20に取り付けられる。米国特許第6,676,698号に記載されているような他のタイプの弁を使用することができる。
【0048】
上述したように、血管装置は、膝窩静脈、大腿静脈、あるいはその他の静脈に配置することができる。2以上の血管装置を静脈に配置することも考えられる。
【0049】
装置10(70)を再位置決めする、または除去することが望まれる場合には、送達カテーテル60、または、別の導入器シース内にスネア(snare)66を挿入することができる。スネア66は、
図7Hに示されているように、血管装置10の回収構造46のまわりに締め付けられる。別の例として、装置10の再位置決めまたは除去を可能にするために、スネアは、他の方向から挿入され、回収構造36上に締め付けられてもよい。
【0050】
上記の弁は、縫い付け、成型、あるいはその他の技術によって血管装置に取り付けることができる。弁は、PET、PTFE、ポリカーボネート、ポリウレタン、豚の腸の粘膜下層、コラーゲン、およびその他の生体材料で構成することができる。弁および/または血管装置表面は、抗血小板または抗トロンビン/抗凝血材料、2b/2aコーティング、レセプタ、ヘパリンコーティング、内皮細胞コーティング等で随意にコーティングすることができる。
【0051】
上述した説明は多くの特定の実施形態を含んでいるけれども、かかる特定の実施形態は、本開示の範囲を制限するものと解釈すべきではなく、好ましい実施形態の例示にすぎないと解釈すべきである。当業者は、添付の特許請求の範囲によって規定される本開示の範囲および精神内にある多くの他の可能な変形を考えるであろう。
【符号の説明】
【0052】
10、70 血管装置
12、72 弁支持体
48、75 置換弁