【文献】
J.E.K.Schawe et al.,“Stochastic temperature modulation:A new technique in temperature-modulated DSC”,Thermochimica Acta,NL,ELSEVIER,2006年,Vol.446,pp.147-155
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
単一のTGA測定中に測定される時間および温度の関数(m(t,T))として前記試料の前記質量変化から前記運動学的パラメータを決定するステップを含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
[0002]熱重量分析(TGA)は、温度と時間の関数として試料の質量の変化(増加と損失)を測定する熱分析の技法である。TGA実験は、通常、温度プログラムにかけられる試料の質量の測定により行われる。既知のTGA温度プログラムは、等温であり得、一定の加熱速度を有することができ、またはこの加熱速度は、質量変化の関数に関連し得る。最新の温度プログラムは、例えば、Mettler−Toledo社によるTGA機器において実現される。TGA測定は、試料材料の熱的安定性などの試料材料の特性ならびにその組成についての情報を与えることができる。
【0003】
[0003]1969年にFlynnにより最初に導入された熱重量測定から運動学的データを得る手法(JH Flynn,The historical development of applied nonisothermal kinetics,in:Schwenker,RF,Garn,PD(Eds.),Thermal Analysis,Vol.2,New York:Academic Press;1969:1111〜1126)は、温度変調式熱重量分析(TMTGA)法であり、TMTGA方法は、試料を正弦波状またはステップ状の温度の変化を有するプログラムにかけることを含んだ。TMTGA実験用のこの温度プログラムは、変調振幅T
aを有する温度を含み、結果として得られるTMTGA曲線から見かけの平均活性化エネルギーE
αなどの運動学的データを得ることを可能にする。試料の見かけの活性化エネルギーE
αは、試料の特性、その純度、および品質である重要なパラメータである。
【0004】
[0004]E
αは、
【0005】
【数1】
【0006】
ただし、r:=dα/dtとして、等変換原理に基づいて変調振幅T
aの温度間隔の中で得ることができ、
ここで、E
αは、温度T
1とT
2の間の変換αの見かけの平均活性化エネルギーであり、r(T
i)は、温度T
iにおける反応速度である。試料は温度プログラムにかけられ、したがって、少なくとも特定のモデルが選ばれない限りモデル独立と表現されるが、この式は、引き起こされる反応の種類から独立していると考えることができる。試料が温度プログラムにかけられる間に引き起こされる反応は、これより、読むのを簡単にするために、「反応」と呼ばれることになる。
【0007】
[0005]温度T
1は温度変調の最大温度を表し、温度T
2は、度変調の最小温度を表す。
平均温度として、
【0008】
【数2】
【0009】
をとると、それは、
【0010】
【数3】
【0011】
および
【0012】
【数4】
【0013】
に従う。
[0006]米国特許第6,113,261A号および米国特許第6,336,741B1号は、例えば、線形温度プログラムに重畳された正弦変調などの周期的温度変調を利用するTMTGA方法の同様の手法を開示する。見かけの活性化エネルギーは、ここで、
【0014】
【数5】
【0015】
として決定され、ただし、式(2)は式(1)の単に算術上の再配置である。速い反応速度での単一の変調サイクル中の大きい質量損失または減少は、非線形の影響を生じさせると共に、ln r(T
1)−ln r(T
2)の決定に関してさらなる数的誤差を生じさせる。したがって、測定は、温度変調の振幅T
aが測定信号が線形応答理論により説明されると共にフーリエ解析により分離することができるように小さく選択されるので、線形温度プログラムによる基礎を成す加熱が変調期間中に無視できるように実行される。
【0016】
[0007]現在の既知のTMTGA構成の主な欠点は、これらは、周期的温度変調の適用に限定されることである。これは、これらの周期的TMTGA方法を反応に適用するときに特に明らかになり、これは、低い感度を示し、したがって反応の開始時および反応の終わり近くに反応速度r(t)の低い強度だけを示す。低い反応速度の組合せにおける低い強度は、数的結果の雑音を劇的に増大させる。さらに、単一の変調サイクル中の大きい質量減少は最大反応速度の近くで生じ得、これは、変調温度の一期間内の大きい変換により数的誤差およびデータの欠如を引き起こす可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
[0008]したがって、より広く適用可能であり、実験の不確かさに対してロバストであり、特に周期的温度変調に制限されない温度変調式熱重量分析(TMTGA)方法を開発することが有利である。
【課題を解決するための手段】
【0020】
[0009]そのような試料を分析するTMTGA方法は、いくつかのステップを含む。前記試料は、熱重量分析(TGA)機器内の測定位置上に配置され、このTGA機器は、炉ハウジング内に配置された炉と、天秤ハウジング内に配置された負荷受け部を有する電子天秤であって、前記負荷受け部が前記炉ハウジングの中に延び、前記測定位置が前記炉ハウジング内の前記負荷受け部の一端に配置される電子天秤と、前記天秤および/または前記炉を制御する制御ユニットとを備えている。次いで、前記試料は、前記炉の前記温度を変える前記制御ユニットにより与えられる温度プログラムにかけられ、前記試料が時間の関数としての前記温度プログラムに従いつつ、前記試料の前記質量変化(m(T,t))が前記電子天秤を用いて測定される。前記試料の少なくとも1つの運動学的パラメータは、前記質量変化を分析することにより決定することができる。好ましくは、前記TMTGA方法に使用される前記温度プログラム(T(t))は、前記試料温度を制御するための温度時間設定値を与える確率的および/または事象制御的な温度プログラムであると共に、
【0021】
【数6】
【0022】
に従って変調の特性時間(τ)で温度摂動(δT(t))により重畳された基礎を成す温度変化
【0023】
【数7】
【0024】
を含む。
[0010]確率的および/または事象制御的な温度プログラムの使用は、前記変調関数の強度だけでなくむしろ前記変調関数の前記過程が分析できるという利点を有する。前記分析に使用される前記多数の利用可能なデータは 前記結果の精度をかなり高める。
【0025】
[0011]この方法は、測定位置および/または試料の近くに配置された温度センサを用いて試料温度を時間の関数として決定するステップをさらに含むことができる。時間の関数としての実際の試料温度の情報は、試料の少なくとも1つの運動学的パラメータの決定を向上するために使用することができる。さらに、前記実際の試料温度は、前記試料温度が前記温度プログラムにより与えられる前記温度設定値に密接に従うことを確実にするように前記炉温度を制御することにより、前記試料への前記温度プログラムの適用を制御するために使用することができる。
【0026】
[0012]一実施形態については、前記確率的な温度摂動の前記変調の特性時間は、無作為に変動する。
[0013]前記確率的な温度摂動は、複数のパルス列を含むことができ、各パルス列が前記変調の特性時間(τ)を表すパルス長を有しており、乱数発生器が所与の2つの制限(τ
min,τ
max)の間のパルスのパルス長を発生する。
【0027】
[0014]確率的な温度摂動の別な例は、前記確率的な温度摂動の前記強度(T
a)を変えることを含むことができる。
[0015]前記TMTGA方法のさらなる実施形態は、TGA実験中の質量の変化(dm/dt)、変換 (α)、および/またはその導関数に関連して前記変調の特性時間(τ)および/または前記温度変調強度(T
a)を変調させることにより変調できる前記事象制御的な温度摂動を含む。
【0028】
[0016]ここで、前記試料内で起こる熱的事象は、前記試料に適用された前記温度摂動に影響を及ぼし、例えば、温度摂動の変調時間に適合し、前記変調時間がより長くなる一方で前記試料反応は低い反応速度を示し、変調時間がより短くなる一方で上記反応は高い反応速度を示すようになっている。
【0029】
[0017]さらなる実施形態では、前記確率的および/または事象制御的な温度摂動は、前記温度プログラムの前記基礎を成す加熱速度
【0030】
【数8】
【0031】
を適合させることをさらに含むことができる。
[0018]さらなる実施形態では、前記確率的および/または事象制御的な温度プログラムは、前記試料温度を制御するための非周期的温度時間データをさらに与えることができる。非周期的温度時間データまたは設定値は、前記試料内の前記熱的事象の選択的励起に制限されることなく試料の分析を可能にする。
【0032】
[0019]さらなる実施形態では、前記運動学的パラメータは、単一のTGA測定中に測定される時間および温度の関数(m(t,T))として前記試料の前記質量変化から決定することができる。これは、上記測定は少量の試料を必要とするだけであり、例えば、非常に少量でもっぱら存在するまたはもっぱら非常に少量で製造できる実験の試料ならびに希少または貴重な試料に適用することもできるので有利である。
【0033】
[0020]さらなる実施形態では、前記TMTGA方法は、前記試料のTGA試験測定から前記温度摂動(δT(t))の前記パラメータを決定するステップと、それに続く前記先に決定されたパラメータで前記温度摂動を含む温度プログラムを用いて前記TGA機器で少なくとも1つのような試料を測定することによりTMTGA測定を実行するステップと、前記TMTGA測定から前記試料の少なくとも1つの運動学的パラメータを決定するステップとをさらに含む。これは、特定の試料タイプ用のTMTGA方法がその試料タイプの将来の試料に開発および使用できるので、例えばプロセスまたは製造環境内の繰り返し生じる試料の測定にとって有利である。
【0034】
[0021]好ましくは、前記見かけの活性化エネルギー(E
α)は、試料の運動学的パラメータとしてこの方法を用いて決定される。試料の見かけの活性化エネルギーは、前記試料の特性、その純度、および品質である重要なパラメータである。
【0035】
[0022]別の態様は、上記の方法を実施するための熱重量分析(TGA)機器に関する。前記TGA機器は、炉ハウジング内に配置された炉と、天秤ハウジング内に配置された負荷受け部を有する電子天秤であって、前記負荷受け部が前記炉ハウジングの中に延びると共に、前記炉ハウジング内の前記負荷受け部の一端に配置される試料を受け入れるための測定位置を備える電子天秤と、前記炉の前記温度を制御する温度プログラムを有する前記天秤および/または前記炉を制御する制御ユニットとを備え、前記試料が前記温度プログラムに従っている間に、前記電子天秤が前記試料の前記質量の変化を時間および温度の関数として測定し、前記制御ユニットが、時間および温度に関する前記試料の質量の変化を分析することにより前記試料の少なくとも1つの運動学的パラメータを決定する手段をさらに備える。前記温度プログラム(T(t))は、前記試料温度を制御するための温度時間設定値を与える確率的および/または事象制御的な温度プログラムであると共に、
【0036】
【数9】
【0037】
に従って変調の特性時間(τ)で温度摂動(δT(t))により重畳された基礎を成す温度変化
【0038】
【数10】
【0039】
を含む。
[0023]好ましくは、温度センサは、前記測定位置の前記近くに配置されて前記試料温度を測定する。それにより、前記実際の試料温度は、前記炉の前記温度だけでなく、監視することができ、これにより記温度プログラムにかけられているときに前記試料のより正確な温度制御を可能にする。
【0040】
[0024]前記少なくとも1つの運動学的パラメータは、前記試料の前記見かけの活性化エネルギー(E
α)であることが好ましい。
[0025]以下、本発明を、下記の図を参照してより詳細に説明する。同じ要素は、同じまたは類似した参照符号で示される。
【発明を実施するための形態】
【0042】
[0026]
図1は、天秤ハウジング2内に配置された電子天秤1を備えると共に、炉ハウジング4に到達する負荷受け部3を備えたTGA機器の構成を概略的に示す。TGA機器は、炉および/または電子天秤を制御する(ここにだけ示される)制御ユニット9をさらに備える。TGA機器は、当業界でよく知られており、ここでは単に概略的に説明される。TGA機器は、例えば、Mettler−Toledoから市販されている。
【0043】
[0027]ここに示されるように、負荷受け部3は、炉ハウジング4内に配置された負荷受け部3の端部に配置された少なくとも1つの測定位置を備えることができ、または少なくとも1つの測定位置を備えたTGAセンサ5は、負荷受け部3の前記端部に接続することができる。少なくとも1つの試料6は、炉ハウジング4内の前記少なくとも1つの測定位置上に配置することができる。試料6は、測定位置に直接配置することができるか、または適切なるつぼ内に収容することができる。天秤ハウジング2は、炉ハウジング4から実質的に熱的に分離される。TGAセンサ5は、炉ハウジング4中で、温度プログラムに従って熱を試料6に適用するヒータを備えた炉8内に配置される。制御ユニット9により制御される炉8の温度は、温度センサ7により検出することができる。この機器は、試料の実際の温度を検出する測定位置の近くにまたは好ましくはそれに接触する少なくともさらなる温度センサをさらに備えることができる。試料温度を測定する温度センサは、例えば、(ここに示されるように)TGAセンサ5に取り付けることができ、またはTAGセンサ5の一部であり得る。
【0044】
[0028]測定は、炉ハウジング4内の少なくとも1つの測定位置上に少なくとも1つの試料6を配置し、炉8のヒータにより発生させられる温度プログラムに試料6をかけることにより実行される。次いで、試料6の何らかの質量変化は、天秤1により検出される。この結果は、例えば、質量温度図に表示することができる。
【0045】
[0029]TGA実験における 試料質量mは、
m=m
0(1−Δμ
rα(T,t)) (3)
により説明することができ、
ただし、m
0は初期質量であり、α(T,t)は温度と時間の関数としての反応の変換であり、Δμ
r=Δm/m
0は検査の反応中の特定の質量変化である。反応中の質量変化全体はΔmであり、試料質量が反応中に減少させられるときにΔm,Δμ
r<0であり、したがって試料質量が反応中に増加させられるときにΔm,Δμ
r>0である。
【0046】
[0030]式(3)の時間微分は、以下のDTG曲線として知られており、
【0048】
ただし、反応速度としてr:=dα/dtである。
[0031]本発明によるTMTGA実験に適した変調温度プログラムT(t)は、十分に小さい温度摂動δT(t)により重畳された低い基礎を成す加熱速度
【0050】
を含む。前記変調温度プログラムT(t)は、
【0052】
のように表すことができ、ただし、T
0は測定開始時の開始温度であり、
【0054】
は基礎を成す温度である。
[0032]TMTGA実験に適した機器は、前記変調温度を変調温度プログラムとして試料に適用する手段とをさらに備えることができ、機器は、結果として得られたTGAおよび/またはTMTGA曲線を検出し分析する手段をさらに備えることができる。
【0055】
[0033]反応速度r(T,t)の温度依存性(式(4)参照)は、
【0063】
での反応速度rの温度の 微分である。
[0034]温度摂動δT(t)は、任意の変調関数y(t)により
δT(t)=T
a・y(t) (7)
と表現することができ、ただし、T
aは、摂動の強度である。
【0064】
[0035]以下において、主として、任意の周期的または非周期的な関数が変調関数y(t)として使用できることが示される。周期的関数の例は、さらに他の正弦関数、矩形関数(box function)、三角関数、および鋸歯関数を含む。
【0065】
[0036]非周期的変調関数y(t)の例は、確率的パルス列などの確率的変調関数を含む。確率的パルス列は、例えば、国特許第6,551,835B1号、およびJEK Schaweら、Stochastic temperature modulation: A new technique in temperature−modulated DSC,Thermochim.Acta 2006,446:147〜155の温度変調示差走査熱量測定(TMDSC)に関連して開示されている。
【0066】
[0037]事象制御的な変調関数y(t)の使用が特に有利であり、事象制御的な変調関数y(t)の挙動は、変調温度プログラムにかけられる試料に起こる熱的事象により制御される。
【0067】
[0038]TMTGA実験の全質量損失速度dm/dtは、式(6)および式(7)から
【0069】
として得ることができ、ただし、(dm
a/dt)・y(t)は、質量損失速度の変調された成分であり、基礎を成す質量損失速度は、
【0071】
であり、質量損失速度の変調成分の強度(または振幅)は、
【0073】
であり、質量変化速度の変調された成分は、
【0075】
である。
[0039]これらの導関数を考慮に入れると、ここで、上述の変調関数、特に、確率的または事象制御的な変調関数のいずれかを利用する見かけの活性化エネルギーE
αを決定することが可能である。
【0076】
[0040]化学反応の反応速度論は、
r=f(α)・k(T) (12)
によりしばしば表され、
ただし、f(α)は温度非依存性の変換関数であり、k(T)は速度定数である。
【0077】
[0041]速度定数k(T)は、通常、アレニウスの式により表され、k
0は頻度因子を示し、Eは活性化エネルギーを示す。
【0079】
[0042]変換関数は、温度非依存性であり、反応モデルを含む。いわゆるモデルフリー反応速度論の場合、明白な反応モデルが必要とされることはない。代わりに、反応速度は、変換依存性の見かけの活性化エネルギーE(α)により説明される。
【0084】
の間の温度間隔におけるEの平均値である。f(α)の温度非依存性(等変換原理)、ならびに
【0086】
に基づくE
αの変換非依存性を考慮に入れると、次に、式(12)の温度の微分∂r/dTは、
【0088】
のように表すことができ、ただし、E
αは、基礎を成す温度
【0090】
における変換の見かけの活性化エネルギーである。
[0044]周期的外乱または変調関数の場合、見かけの活性化エネルギーE
αの表現は、次に、
【0092】
のように、式(9)および式(10)の周期的成分の強度だけを考慮に入れつつ、
式(14)を式(10)に挿入することにより得ることができる。
[0045]周期的な場合については、見かけの活性化エネルギー曲線E
αは、変調された質量損失強度dm
a/dtと基礎を成す質量損失速度
【0094】
の比により主に与えられる。式(15)は正弦変調関数などの周期的変調関数についての式(2)よりも正確な結果をもたらし、純粋に周期的変調関数の使いやすさを制限する温度変調強度T
aがあまりに大きくない限り、線形手法は十分であることを示している。
【0095】
[0046]特に、データ評価の観点では、変調関数の強度だけよりも変調関数の過程が分析されるべきである。多数の利用可能なデータは、より適切なデータ評価手法のための道を開く。
【0096】
[0047]そのような測定のために見かけの活性化エネルギーE
αを評価するために、式(15)は関連した強度の代わりに質量損失速度δ(dm(t)/dt)および温度 δT(t)の変調された成分を導入することにより一般化されなければならず、
【0098】
である。
[0048]次に、活性化エネルギーは、式(16)を解くことにより、式(2)とは対照的に、ほとんど連続的に活性化エネルギー関数E(α(t))として直接得ることができ、例えば、大きい変調強度および/または変調関数の過程の評価を可能にする。
【0099】
[0049]実験的には、見かけの活性化エネルギー曲線は、変調された質量損失速度と基礎を成す質量損失速度の強度比に主に関連している。上で詳述したように、TMTGA方法は、式(16)により、特に、確率的または事象制御的な変調関数を用いて分析される試料の見かけの作用エネルギーを決定するために、上記の変調関数のいずれかを用いて実行することができる。
【0100】
[0050]TMTGA実験に非周期的変調関数を使用することは特に有利である。主に、非周期的変調関数は、例えば一連の温度のランプまたはステップなどの任意の種類の形状、あるいは確率的期間および/または正弦関数の振幅変動を有することができる。
【0101】
[0051]非周期的変調関数を用いた全ての測定は、SDTAセンサを有するMETTLER TOLEDOのTGA/DSC1機器を用いて実行され、このセンサは、試料温度および熱流れのデータをさらに与える。適合性の理由ため、全ての実験は、約30mgの質量のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)試料上で約2K/分の基礎を成す加熱速度
【0103】
を用いて実行された。この結果は、モデルフリー反応速度論手法を用いて従来のTGA測定と比較され、これは、METTLER TOLEDOのSTAReソフトウェアにおいて実装される。
【0104】
[0052]確率的変調
[0053]変調関数は、主に、例えばステップ、ランプ等などの任意の形状に基づいていることができ、これは、変調の特性時間τにより説明することができる。確率的変調については、非周期的変調の例としては、変調の特性時間τは、時間と共に不作為に変動する。
【0105】
[0054]ここで、複数のパルス列を含む変調関数は、2つの限界τ
minとτ
maxの間で乱数発生器により発生させられる変調の特性時間としてパルス長τを有する例示的な変調関数として論じられる。下限τ
minは、炉から試料の中への熱伝達の時定数により与えられ、上限τ
maxは、熱的事象が起こる力学により与えられる。
【0106】
[0055]実験については、変調時間制限は、τ
min=90秒おおよびτ
max=150秒であるように選択された。プログラムされたステップの高さ(変調関数の強度)は、T
a=±2.5Kであり、基礎を成す加熱速度は、
【0108】
であった。
図2に示された結果として得られる試料温度曲線から、より短いパルスについては試料温度が定常状態に達しないことは明らかである。
[0056]測定した試料温度および質量損失曲線から関数δTおよび
【0110】
を決定する最も簡単なやり方は、以下より詳細に説明されるような数値微分、平滑化、および減法を含む。
[0057]非周期的変調関数の例として確率的変調関数を用いてTMTGA測定から得た、結果として得られた見かけの活性化エネルギー曲線は、
図3に示されている。0.2の未満の変換範囲内の活性化エネルギー曲線の比較的大きい変動は、2.5K前後の比較的小さい温度変動T
a,progにより引き起こされる。T
a,progのより高い値は、この範囲内の測定感度を増大させる。
【0111】
[0058]結果は、より安定した数学的手法の適用により式(16)を解くことによってさらに改善することができる。そのような数学的な手法は、さらに他のもの、すなわち、フーリエ変換またはZ変換などの積分変換、相関分析 および/またはパラメータ評価法に基づいた信号分析技法を含む。適切な信号分析技法は、例えば、J.E.K.Schaweら、Thermochim. Acta 2006;446:147〜155に開示されている。
【0112】
[0059]事象制御的な変調
[0060]既知の正弦手法と共に上で論じた確率的手法は、遅い反応の温度範囲内の質量変化速度δ(dm(t)/dt)の変調成分の小さい強度は、小さい変換および大きい変換で活性化エネルギーの高い変動をもたらすという不利を有する。この影響を最小にするまたはそれを無くしさえするために、高い変調強度T
aおよび大きい特性変調時間τを用いた変調関数を使用することが望ましい。大きいT
aは、強度δ(dm(t)/dt)を増大させる。τの増大は、より多くのデータを評価する可能性のために、見かけの活性化エネルギーの決定のために式(16)を用いるときに雑音をさらに増大させる。
【0113】
[0061]さらに、特性変調時間τ中の基礎を成す質量変化速度は、最大反応速度前後の温度で比較的大きく、これにより式(2)、式(15)、または式(16)のいずれかにより決定されたE
αに大きい数字の誤差をもたらす。これは、τを最小にすることにより克服することができ、それにより基礎を成す信号成分および変調信号成分の分離を改善する。さらに、T
aは減じられるべきであり、というのも、さもなければδ(dm(t)/dt)が線形応答条件に反する可能性があるからである。
【0114】
[0062]最適な測定の場合、τおよびT
aは、遅い反応速度の領域内で大きくすべきであり、高い反応速度の領域内で小さくすべきである。
[0063]このことは、熱的事象の挙動はパラメータτおよび温度摂動δT(t)のT
aを制御することを意味する。温度摂動の変化の基準は、変換および/またはその導関数の時間または温度の依存性から得ることができる。事象制御的な変調関数については、試料温度パルスの本来の形状は、例えば、τおよびT
aを同時に変更させるように使用することができる。
【0115】
[0064]
図4は、プログラム温度パルスの試料温度応答を示す。ピークの側面は、指数的な挙動を示す。パルス長がτ
maxで長い場合、試料温度は、ほとんど定常状態T
a≒T
a,progに達する。パルス長を短くすることにより、到達する最大温度が減少する。τ
minでは、T
a≒T
a,progである。したがって、τ
minとτ
maxの間の範囲内のパルス長τの有効な選択時、パルス強度T
aは、それに応じて変化する。これは、熱的事象の特性によってτが制御される場合、パルス長、および変調関数のパルス高さは、同時に制御されることを意味する。
【0116】
[0065]使用される測定装置によれば、2つの制限は、τ
min=20秒およびτ
max=180秒であるように選択された。
[0066]τの事象制御は、反応速度r=dα/dtまたは反応速度の時間微分v=dr/dtを用いることで扱うことができる。ここで、vは、温度のジャンプ直後に使用され、プログラムされたパルス強度|v/T
a,prog|により正規化される。vは、プログラム温度における温度ジャンプ後の最初の約10秒間に質量変化から推測することができる。
【0118】
ここで、Δtは約5秒の時間間隔であり、m
0は初期試料質量であり、Δm
1は温度ジャンプ後の最初の約5秒の間の測定した試料質量を線形フィッティングすることにより計算された傾斜であり、Δm
2はジャンプ後の約5秒から10秒間の期間にわたる関連した値である。サイクル時間の基準は、
【0120】
であり得る。
定数c
minおよびc
maxは、τがτ
minとτ
maxの間で変化する範囲を定める。予備実験は、c
min=0.12ms
2K
−1およびc
max=0.60ms
2K
−1が|v/T
a,prog|について適切な制限であることを示す。パルス側面の指数的な傾斜のため、τは、これらの制限の間で対数的に変更されるべきである。パラメータaおよびbは、間隔限界での状態からa=−30.8秒およびb=−228.9秒であるように決定されており、すなわち、
【0125】
は、それぞれ、2.5Kおよび2K/分であるように選択された。
[0067]
図5は、本実験についての測定した変調関数δTの一部分を示すと共に、測定した質量損失速度(dm/dt)(t)(DTG Curve)が、
図6に表示される。結果として得られた見かけの活性化エネルギー曲線が、
図7にプロットされている。この曲線は、他の方法に比べて小さい変換で、活性化エネルギー曲線の小さい変動を示す。見かけの活性化エネルギーは、0.7より上での変換でほとんど一定である。
【0126】
[0068]結果として得られた活性化エネルギーは、非周期的温度変調に関連して論じたように、コンピューティング手法を最適化することにより再びさらに改善され得る。
[0069]
図5、
図6、および
図7に提示された結果は、事象制御的な変調が評価誤差を最小にすることを明らかに示す。
【0127】
[0070]式(18)を用いたE
αの決定は、例えば、上で説明したようにSDTAセンサを含む構成でそれが可能であるので、直接測定により試料温度を決定することによりさらに改善することができる。
【0128】
[0071]変調関数による温度変動は反応の過程の小さい外乱であるとの仮定に基づいて、新しい単純化されたTMTGA方法が開発された。本発明による方法は、変換の関数として直接、反応の見かけの活性化エネルギーを決定するために使用することができる。この関数は、異なる状況下の反応の過程を予測するために使用することもできると共に、この関数は、実験の不確かさに関してとてもロバストであることが示され得る。
【0129】
[0072]さらに、本発明による方法は、温度変調のタイプから独立している。温度変調は、変調サイクル中の温度変化、および記温度変化の特性変調時間τに関して制限される。周期的温度変調関数の場合、τは前記関数の周期である。
【0130】
[0073]τの下限は、TGA実験における熱伝達条件に関連している。τは、炉温度の変調により試料温度が変化するように十分大きくなければならない。一方、τは、反応の過程中に十分な温度変化があるように十分小さくなければならない。信号対雑音比は、長い変調時間τを用いて大幅sに改善することができる。
【0131】
[0074]反応速度がそのとき低いので、反応時間の実質的に全体をTMTGA方法に含むために、長い変調時間τは、反応の開始時および反応の終わり近くに使用されるべきである。有利には、これは、上述したように試料の熱的事象により制御される変調関数を用いて実現することができ、これにより結果として得られた見かけの活性化エネルギーの精度をそれぞれ高め、活性化エネルギー関数を大幅に増大させる。
【0132】
[0075]上で詳細に説明したように、非周期的変調関数を使用することは、測定したTMTGA曲線からおよび/または例えば確率的TMDSCに関連して使用された技法などの他のより進んだ信号評価技法により直接、関連したデータ、例えば
【0138】
およびT
aの決定を可能にする。結果の精度は、改良された評価技法を用いることでさらに改善することができる。
[0076]さらに、基礎を成す加熱速度
【0140】
は、結果として得られた分解能を高めるために、最大反応速度の領域内で特に変更または制御することができる。
[0077]事象(または試料)制御式温度変調技法は、それが、分解能および感度の最適化により単一の測定で活性化エネルギー曲線の品質を大幅に改善することができるので特に有利である。
[形態1]
試料(6)を分析する温度変調式熱重量分析(TMTGA)方法であって、
・ 炉ハウジング(4)内に配置された炉(8)と、天秤ハウジング(2)内に配置された負荷受け部(3)を有する電子天秤(1)であって、前記負荷受け部(3)が前記炉ハウジング(4)の中に延びると共に、測定位置が前記炉ハウジング(4)内の前記負荷受け部(3)の一端に配置される電子天秤(1)と、前記天秤(1)および/または前記炉(8)を制御する制御ユニット(9)とを備えた熱重量分析(TGA)機器内の前記測定位置上に前記試料(6)を配置するステップと、
・ 前記炉の前記温度を変える前記制御ユニット(9)により与えられる温度プログラムに前記試料をかけるステップと、
・ 時間の関数として前記温度プログラムに従いつつ、前記電子天秤(1)を用いて前記試料の質量変化(m(T,t))を測定するステップと、
・ 前記質量変化を分析することにより前記試料の少なくとも1つの運動学的パラメータを決定するステップと
を含む温度変調式熱重量分析(TMTGA)方法において、
前記温度プログラム(T(t))は、試料温度を制御するための温度時間設定値を与える確率的および/または事象制御的な温度プログラムであると共に、
【数44】
に従って変調の特性時間(τ)で温度摂動(δT(t))により重畳された基礎を成す温度変化
【数45】
を含むことを特徴とする温度変調式熱重量分析(TMTGA)方法。
[形態2]
前記測定位置の近くに配置された温度センサを用いて前記試料温度を時間の関数として決定するステップをさらに含むことを特徴とする形態1に記載の方法。
[形態3]
前記確率的な温度摂動の前記変調の特性時間(τ)は、無作為に変動することを特徴とする形態1または2に記載の方法。
[形態4]
前記確率的な温度摂動は複数のパルス列を含み、それぞれが前記変調の特性時間(τ)を表すパルス長を有しており、乱数発生器が所与の2つの制限(τ
min,τ
max)の間のパルスのパルス長を発生することを特徴とする形態1ないし3のいずれか一項に記載の方法。
[形態5]
前記確率的な温度摂動の強度(T
a)は、変えられることを特徴とする形態1ないし3のいずれか一項に記載の方法。
[形態6]
前記事象制御的な温度摂動は、TGA実験中の質量の変化(dm/dt)、変換(α)、および/またはその導関数に関連して、前記変調の特性時間(τ)および/または前記温度変調強度(T
a)を変調させることにより変調されることを特徴とする形態1に記載の方法。
[形態7]
前記温度プログラムは、前記温度プログラムの基礎を成す加熱速度
【数46】
を適合させるステップをさらに含むことを特徴とする形態1ないし6のいずれか一項に記載の方法。
[形態8]
前記確率的および/または事象制御的な温度プログラムは、前記試料温度を制御するための非周期的温度時間データを与えることを特徴とする形態1ないし7のいずれか一項に記載の方法。
[形態9]
単一のTGA測定中に測定される時間および温度の関数(m(t,T))として前記試料の前記質量変化から前記運動学的パラメータを決定するステップを含むことを特徴とする形態1ないし8のいずれか一項に記載の方法。
[形態10]
・ 前記試料のTGA試験測定から前記温度摂動(δT(t))のパラメータを決定するステップと、
・ 前記先に決定されたパラメータで前記温度摂動を含む温度プログラムを用いて前記TGA機器で少なくとも1つのような試料を測定することによりTMTGA測定を実行するステップと、
・ 前記TMTGA測定から前記試料の少なくとも1つの運動学的パラメータを決定するステップと
をさらに含むことを特徴とする形態1ないし9のいずれか一項に記載の方法。
[形態11]
見かけの活性化エネルギー(E
α)を運動学的パラメータとして決定するステップを含むことを特徴とする形態1ないし10のいずれか一項に記載の方法。
[形態12]
炉ハウジング(4)内に配置された炉(8)と、
天秤ハウジング(2)内に配置された負荷受け部(3)を有する電子天秤(1)であって、前記負荷受け部(3)が前記炉ハウジング(4)の中に延びると共に、前記炉ハウジング(4)内の前記負荷受け部(3)の一端に配置される試料(6)を受け入れるための測定位置を備える電子天秤(1)と、
前記炉(8)の温度を制御する温度プログラムを有する前記電子天秤(1)および/または前記炉(8)を制御する制御ユニット(9)とを備え、
前記試料が前記温度プログラムに従っている間に、前記電子天秤(1)が前記試料(6)の質量の変化を時間および温度の関数として測定し、
前記制御ユニット(9)が、時間および温度に関する前記試料の質量の変化を分析することにより前記試料の少なくとも1つの運動学的パラメータを決定する手段を備えた、形態1から11のいずれか一項に記載の方法を実行する熱重量分析(TGA)機器において、
前記温度プログラム(T(t))は、試料温度を制御するための温度時間設定値を与える確率的および/または事象制御的な温度プログラムであると共に、
【数47】
に従って変調の特性時間(τ)で温度摂動(δT(t))により重畳された基礎を成す温度変化
【数48】
を含むことを特徴とする熱重量分析(TGA)機器。
[形態13]
温度センサは、前記測定位置の近くに配置されて前記試料温度を測定することを特徴とする形態12に記載の機器。
[形態14]
前記少なくとも1つの運動学的パラメータは、見かけの活性化エネルギー(E
α)であることを特徴とする形態12または13に記載の機器。