特許第6585919号(P6585919)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6585919ファレノプシスの栽培方法およびそれに用いる光源装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6585919
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】ファレノプシスの栽培方法およびそれに用いる光源装置
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20190919BHJP
   A01G 22/60 20180101ALI20190919BHJP
【FI】
   A01G7/00 601C
   A01G22/60
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-89838(P2015-89838)
(22)【出願日】2015年4月24日
(65)【公開番号】特開2016-202108(P2016-202108A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2018年4月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598096991
【氏名又は名称】学校法人東京農業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】特許業務法人 山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古藤 澄久
(72)【発明者】
【氏名】雨木 若慶
(72)【発明者】
【氏名】加藤 春幸
【審査官】 竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−057972(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/070435(WO,A1)
【文献】 特開2010−259374(JP,A)
【文献】 特開2005−046072(JP,A)
【文献】 特開2011−155948(JP,A)
【文献】 特開平05−034052(JP,A)
【文献】 特開2010−004869(JP,A)
【文献】 特開平03−251118(JP,A)
【文献】 特開2013−059348(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0293993(US,A1)
【文献】 中国特許第102726303(CN,B)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
A01G 22/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開花抑制して生長、株が成熟後のファレノプシスに対し、所定の温度条件及び光条件で開花誘導を行うステップを含むファレノプシスの栽培方法であって、
前記開花誘導を行うステップでは、波長400nm〜800nmの光を含み、当該光に含まれる波長400nm〜500nmの青色光のピーク値約450nmの強度に対し、波長580nm〜700nmの赤色光のピーク値約610nmの強度が2倍以上である光を50μmol・m−2・s−1以上照射して補光を行うことを特徴とするファレノプシスの栽培方法。
【請求項2】
開花抑制して生長、株が成熟後のファレノプシスに対し、所定の温度条件及び光条件で開花誘導を行うステップを含むファレノプシスの栽培方法であって、
前記開花誘導を行うステップでは、波長400nm〜800nmの光を含み、当該光に含まれる波長400nm〜500nmの青色光の相対強度に対し、波長500nm〜600nmの光の相対強度が大きい光を50μmol・m−2・s−1以上照射して補光を行うことを特徴とするファレノプシスの栽培方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のファレノプシスの栽培方法であって、前記波長400nm〜800nmの光の色温度が2700K前後であることを特徴とするファレノプシスの栽培方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のファレノプシスの栽培方法であって、前記開花誘導を行うステップの後に、波長400nm〜500nmの青色光の強度を、前記開花誘導を行うステップよりも大きくして、葉色を調整するステップを有することを特徴とするファレノプシスの栽培方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のファレノプシスの栽培方法に用いる光源装置であって、波長400nm〜500nmの光を発するLED素子と、当該LED素子が発する光によって波長580nm〜700nmの赤色光を発する蛍光体と、を備え、前記蛍光体がCaAlSiN:Euであり、波長400nm〜500nmの青色光のピーク値約450nmの強度に対し、波長580nm〜700nmの赤色光のピーク値約610nmの強度が2倍以上の光を発することを特徴とする光源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はファレノプシス(胡蝶蘭)の栽培方法に関し、特に開花誘導に適した補光方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ファレノプシスは、胡蝶蘭とも呼ばれる洋蘭の一種であり、適切な温度管理によって通年生産されている。ファレノプスシスの栽培は、通常、苗から生長期及び開花誘導期を経て、出荷前調整期に至る。生長期は、25℃〜30℃の比較的高温環境で開花抑制され、その後、18℃〜25℃の比較的涼温下で開花誘導される。
【0003】
光については、直射日光などの強い光は温室内の温度上昇や葉やけ等の原因になるため、生長期、開花誘導期ともに遮光資材によってある程度遮光(減光)した状態で栽培を行っているが、そのままでは日射条件の変動に伴い光量不足となり、生産期間が長くなり、花の数が少ない、花径が小さいなどの問題があった。光量不足を補うために、放電灯による補光が試みられたが、放電灯を用いた補光は温度上昇を伴うため、夏季に冷房によって温室温度を低く保つ際の妨げとなっていた。
【0004】
一方、温度の上昇を抑制した光源としてLEDが知られており、このLEDからの光を植物栽培の補光として用いることも種々提案されている。例えば、特許文献1には、花の色に応じて、太陽光に占める波長450nm〜470nmの青色光の割合を変化させて花弁の色を制御する蘭の栽培方法が提案されている。また特許文献2には、蘭を対象とするものではないが、波長700〜800nmの遠赤色光、600〜700nmの赤色光及び400〜500nmの青色光の混合光を照射する栽培方法が開示されている。その他、光源側の工夫として、LED光源を利用して青色域と赤色域の光量割合を調整可能な発光装置なども提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−46072号公報
【特許文献2】特開2011−101616号公報
【特許文献3】特開2014−75607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
蘭栽培において、開花抑制期、開花誘導期及び調整期のそれぞれで最適な補光を行うためには、それぞれの補光の条件を検討する必要があるが、従来技術では蘭の生長時期に合わせた適切な補光について報告はない。
【0007】
本発明は、ファレノプシスの栽培の各ステージにおいて最適な補光を行い、高品質で多数の花をつけたファレノプシスを栽培する方法を提供すること、及び開花誘導の期間を短縮することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ファレノプシスの生長過程において適切な補光の波長について研究を進めた結果、開花抑制期と開花誘導期に影響を与える光の波長が異なること、また従来技術のように、単に青色光や赤色光などのように比較的波長範囲の狭いLED光源からの光を組み合わせた混合光を用いただけでは、ファレノプシスの開花に不十分であり、これら波長範囲の間や波長範囲から外れる波長の光の存在がファレノプシスの生長過程に影響を持つことを見出した。本発明はこのような知見に基づいてなされたものである。
【0009】
即ち、本発明のファレノプシスの栽培方法は、開花抑制後のファレノプシスに対し、所定の温度条件及び光条件で開花誘導を行うステップを含む光であって、開花誘導を行うステップは、波長400nm〜800nmの光を含み、当該光に含まれる波長400nm〜500nmの青色光の強度に対し、波長580nm〜700nmの赤色光の強度が同等以上である光を用いて補光を行う。
【0010】
本発明のファレノプシスの栽培方法において、好適には、開花誘導ステップにおける補光は、波長400nm〜800nmの光を50μmol・m−2・s−1以上照射する。
【0011】
なお補光とは、冬季や曇雨天による太陽光の不足分を補ったり、夜間に太陽光の代わりに光合成を行わせるために行う照明であり、日長を調節するための電照とは異なる。
【0012】
また本発明の光源装置は、上記ファレノプシスの栽培方法に用いるものであり、波長400nm〜500nmの光を発するLED素子と、当該LED素子が発する光によって波長580nm〜700nmの赤色光を発する蛍光体と、を備えた光源装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来よりも短い開花誘導期間で、花数が多く且つ各花のサイズが大きいファレノプシスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ファレノプシスの栽培方法の工程を説明する図
図2】開花誘導ステップの補光に用いる光のスペクトルを示す図
図3】ファレノプシスの栽培を行う温室の構造を示す図
図4】ファレノプシスの栽培方法に用いる光源装置の一例を示す図
図5】(a)、(b)は、それぞれ光源装置の構造を示す図
図6】実験例2に用いた青色光と赤色光のスペクトルを示す図
図7】実験例2の平均花茎数の変化を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のファレノプシスの栽培方法の実施形態を説明する。
【0016】
ファレノプシスは、一般に苗の状態から入手可能であり、苗から製品として出荷されるまでが本実施形態の栽培方法の対象であり、温度及び光が調整された室内或いは温室内で行われる。
【0017】
図1に示すように、ファレノプシスの苗は、1鉢に1本を植えた状態で、所定の温度に保たれた生長用温室に置かれ、開花を抑制した条件で栽培する。開花を抑制する条件としては、温度条件が主であり、例えば比較的温度が高い25℃〜30℃に保たれる。光は寒冷紗等で直射日光を遮断した状態で、白色LEDなどで補光する。減光の割合は特に限定されるものではないが、50%〜83%程度、好ましくは65〜75%程度である。補光に用いる光の波長は、400〜800nmの範囲に広く分布する白色光を用いることができるが、青色光の割合が比較的多いことが好ましい。青色光の割合を多くすることで、葉の良好な生長を促すことができる。補光時間(照射時間)は、日中、及び日没後から日の出までの太陽光がない時間帯で一定の暗闇期間を除く期間とする。季節によっても異なるが、例えば6:00から22:00まで補光する。
【0018】
生長期は、葉枚数が5.5枚〜6枚まで行われ、その間、植物の生長に伴い、鉢を替えたり、必要に応じて株分けなどを行う。生長期の期間は、栽培の開始時期によっても異なるが、通常1.5ヶ月〜2ヶ月である。
【0019】
茎及び葉が十分に育った状態になった時点で、鉢を開花誘導のための温室に移動する。或いは生長用温室の条件を開花誘導用の条件に変更する。開花誘導は、主に温度と光の波長を調整して行われる。具体的には、温度は生長期よりも低い温度、20℃〜25℃に保たれる。寒冷紗等で太陽光を50%〜83%程度、好ましくは65〜75%程度減光した状態で、補光することは生長期と同様であるが、波長400nm〜500nmの青色光の強度に対し、波長580nm〜700nmの赤色光の強度が同等以上である、波長400nm〜800nmの光を用いる。
【0020】
一般に複数のLEDからの光を混合した光や、所謂白色LEDとして知られているLEDからの光は、例えば波長400nm〜500nmの青色光のピークと、波長610前後のややブロードな光のピークとが含まれるが、500nm〜600nmの範囲の光(緑色光)は含まれていないか、含まれていても非常に少ない。そして緑色光は植物の生長や開花には殆ど影響のない波長と考えられてきた。しかし本発明者らの研究では、補光に用いる光が波長500nm〜600nmの範囲の光を含む場合と殆ど含まない場合とでは、ファレノプシス(植物の生長や開花)の様子が異なり、他の波長とともに波長500nm〜600nmの範囲の光も含むことで、栽培の全期間にわたって花茎数が増加することがわかった。このため本発明のファレノプシスの栽培方法では、波長400nm〜800nmの広い範囲に跨るスペクトルを持つ光を補光に用いる。
【0021】
また波長580nm〜700nmの赤色光の割合が多い光を補光することで、ファレノプシスの開花が促進される。具体的には波長580nm〜700nmの赤色光の強度は、波長400nm〜500nmの青色光の強度に対し同等以上、好ましくは2倍以上である。本発明の一例では光の色温度は2700K前後であり、所謂電球色を呈するものであった。通常の白色LEDの色温度は5000K、正午の太陽光の色温度は5300K程度であり、これらに比べ本発明の一例の補光に用いた光の色温度は大幅に低いものであった。
【0022】
上述した条件を満たす光源装置としては、波長420nm〜490nmに単色性ピークを持つ青色発光LEDと、その光を吸収して、長波長の光を発する蛍光体との組み合わせが好適である。蛍光体には、Y3Al512:Ce3+などの黄色発光蛍光体、Y3(Al,Ga)512:Ce3+などの緑色発光蛍光体、CaAlSiN3:Euなどの赤色発光蛍光体が知られており、これらを適宜組み合わせて用いることができる。特に波長580nm〜700nmの赤色光の強度を高めるためには、赤色発光蛍光体の割合が多いことが好ましい。
【0023】
一例として、青色発光LEDに赤色発光蛍光体を組み合わせた発光装置の光のスペクトルを図2に示す。この発光装置の発光スペクトル201には、青色発光LEDの発光スペクトルと蛍光体の発光スペクトルとが含まれ、図示するように、蛍光体の発光スペクトルはブロードな特性を示し波長500nm〜700nmを超える広い範囲に及び、青色LEDのスペクトルとの間の波長の光もある程度の強度を保たれている。このようなスペクトルの光で補光することで、高い開花誘導効果が得られる。なお、参考例として、YAG系蛍光体を用いた白色LEDの発光スペクトル202を、同じく図2に示す。白色LEDの発光スペクトルも、LED由来の発光スペクトルと蛍光体由来の発光スペクトルを含むが、約450nmをピークとするLED由来の光の割合が多く、また蛍光体由来の発光スペクトルはブロードではあるが、ピークは発光スペクトル201のピークよりも短波長側にあり、開花誘導への影響が大きい波長約550〜750nmの光が少ない。
【0024】
補光の照射時間は、開花抑制期と同様で、日中及び日没から日の出までの時間帯で所定の暗闇期間を除く時間帯であり、照射量は、好ましくは50μmol・m−2・s−1以上、より好ましくは100μmol・m−2・s−1以上とする。50μmol・m−2・s−1以上とすることにより、補光をしない場合の開花誘導期間に比べ、数日〜10日程度、開花誘導期間を短縮できる。
【0025】
開花誘導ステップは、1輪目が開花するまで継続する。開花誘導ステップの後に、鉢を出荷前調整のための温室に移動する。出荷前調整は、ファレノプシスの栽培において必須ではないが、開花誘導ステップ後の開花を進めながら、葉の色を濃くして品質を高めるために行う。
【0026】
出荷前調整ステップで補光に用いる光としては、波長400nm〜500nmの青色光の強度が、開花誘導ステップに用いた光における同波長範囲の青色光の強度よりも強いものを用いることが好ましい。具体的には、青色発光LEDとYAG系などの黄色蛍光体を組み合わせた白色LED、或いは、波長450nm〜550nm程度の光を発する青色LEDを用いることができる。照射量は、開花誘導ステップと同等かそれより少なくてもよく、50μmol・m−2・s−1〜100μmol・m−2・s−1程度が好ましい。
【0027】
温度は、18℃〜25℃の範囲が好ましい。
【0028】
赤色光の割合が多い光で補光した開花誘導ステップでは、葉の色が薄くなる傾向があるが、調整ステップで適切な波長の光で補光を行うことで葉の色を濃くし高品質のファレノプシスを生産することができる。
【0029】
次に本発明の栽培方法で用いる温室の構造例と光源の配置を説明する。
温室は従来のファレノプシスの栽培に用いるものと同様であり、主な構成として、図3に示すように、カバー31と、カバー31を固定するとともに温室の構造をなす支持体33と、鉢を置く台35と、を有し、温室内の温度を調節するための冷暖房装置や温度計などの温調装置(不図示)が設置されている。カバー31とともに、温室全体を覆う寒冷紗(不図示)が配置される。通常、温室内には、作業者が通るための通路が設けられており、支持体33は通路を挟んで複数配置される。その他、必要に応じて、湿度調整、灌水や施肥のための設備が設けられている。
【0030】
支持体33は、複数本の垂直な柱、これら柱を上方、中間部及び下部で連結する横部材、上方の連結部と下部或いは中間部の連結部とを連結する斜交い部材などからなり、上方の横部材に光源装置40が固定されている。光源装置40は、一つの横部材に対し、所定の間隔で複数固定され、その下に所定の間隔で配置された鉢(ファレノプシス)50に均等に光が照射されるようになっている。
【0031】
各光源装置40は、図4に示すように、フレーム41内に複数(図では9個)のLED発光装置43を配置したもので、電源45に接続されている。LED発光装置43は、図5(a)に示すように、それぞれの光出射面が同一面にあるように配置してもよいし、図5(b)に示すように、角度を持って配置してもよい。一つのLED発光装置が複数の鉢を照射する場合には、光出射面に角度を持たせることで、全ての鉢に照射される光量の均一化を図ることができる。光源装置40の電源45は、タイマー等でオンオフを制御するようにしてもよいし、太陽光の光量をセンサで検出し、それに応じて出力を変化させる制御部49により制御してもよい。
【0032】
上記構造の温室内は、温調装置によって生長期(開花抑制期)或いは開花誘導期に合わせて所定の温度に保たれている。日の出から日没までは適度に減光された太陽光と、所定の強度の補光が照射される。日没後は所定時間、補光を継続した後、停止し暗闇期間とする。一定の暗闇期間経過後、補光を開始する。以上の補光サイクルが出荷前調整に入るまで繰り返される。
【0033】
なお図4及び図5に示す温室構造と光源装置の構成は一例であって、本発明のファレノプシスの栽培方法を限定するものではない。例えば、同様の栽培条件を満たすことができる空間であれば、室内外を問わない。また鉢を多段に配置することも可能である。
【0034】
本発明のファレノプシスの栽培方法によれば、花数が多く、花や葉の品質が優れたファレノプシスを比較的短時間で生産することができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明のファレノプシスの栽培方法を確定するためになされた実験例を説明する。
【0036】
<実験例1>
ファレノプシス(Phalenopsis amabilis)苗を完全閉鎖型の異なる光質の人工光下で栽培し、生長・開花に及ぼす栽培光の光質の影響を調査した。栽培は10月から1月までの約4ヶ月行った。
【0037】
<<栽培条件>>
光源:蛍光灯(白色光)、青色LED、緑色LED、黄色LED、赤色LED、遠赤色LED、白LED/遠赤色LED
照射時間:16時間(但し蛍光灯区は24時間)
照射強度:約100μmol・m−2・s−1
栽培温度:21℃〜24℃
1栽培区当たりの株数:3株
【0038】
結果を表1に示す。
【表1】
【0039】
表1に示したように、CAM型植物であるファレノプシスは、連続照明を行った蛍光灯光区では光合成代謝が円滑に進まないことにより花茎が枯死し、連続照明ではなく自然日照に付加する形の補光が適切であることが確認された。
【0040】
また、開花は、青色光区、赤色光区、及び遠赤色光区で正常に見られ、開花にはこれらの光(いずれか)が必要であることが確認された。赤色光区と青色光区を比べると、赤色光区では花数が多く花茎の発生が早いのに対し、青色光区では花茎の発生が遅れた。一方、青色光区の花茎は、花柄着生角度が小さく、支柱なしでも直立し、草姿が良好であったが、赤色光区では花茎の伸長方向は水平方向に向かう傾向が見られた。
【0041】
<実験例2>
実験例1の結果を踏まえ、寒冷紗による50%減光下で、青色光と赤色光の割合が異なる複数の異なる光質で補光して、ファレノプシス(品種:V3)を栽培し、花茎発生の様子を調査した。栽培期間は6月から12月までの7か月とした。
【0042】
<<栽培条件>>
光源:白色LED、青色LED、赤色LED、電球色LED、無(補光無)
照射時間:6:00〜22:00
照射強度:約100μmol・m−2・s−1
栽培温度:17℃〜35℃
1栽培区当たりの株数:4株
【0043】
なお白色LED(CWLED)及び電球色LED(WWLED)は、それぞれ、図2に示す発光スペクトル202、201を示す光源であり、いずれも青色から赤色まで広い波長範囲の光を含むが、前者は青色光の割合が後者より多い。赤色LED(RLED)及び青色LED(BLED)は、それぞれ、図6に示すような発光スペクトル203、204を示す。
【0044】
各栽培区における平均花茎数の時間的な変化(増加)のグラフを図7に示す。花茎数は、青色LED204区(BLED)及び無補光区に比べ、赤色光を含む栽培区(赤色LED203区(RLED)、白色LED202区(CWLED)及び電球色LED201区(WWLED))の方が多かった。赤色光を含む3つの栽培区のうち、赤色LED203区及び白色LED202区は、ある時点で花茎の形成が止まってしまうのに対し、電球色LED201区は花茎の形成が持続し、全期間を通して最も多くの花茎を形成した。
【0045】
これらの結果から、花茎の形成については、赤色光だけを用いるよりも、それ以外の波長の光を含む電球色の光を用いることがよいこと、また広い波長範囲の光を含む場合では赤色光の割合が多い方が優れていること、が確認された。
【0046】
花茎の形成の相違を、白色LED202区及び電球色LED201区と無補光区とで比較した結果を表2に示す。
【表2】
【0047】
<実験例3>
さらに実験例2の結果を踏まえ、生長期と開花誘導期の2つの栽培期間で補光の条件を異ならせて、ファレノプシスを栽培した。いずれの栽培期間でも照射時間及び照射強度は、同じ照射時間(6:00〜22:00)、照射強度(約100μmol・m−2・s−1)とした。
【0048】
<<生長期の栽培条件>>
光源:全栽培区:無補光
栽培温度:25℃〜30℃
栽培期間:3ヶ月〜6ヶ月
<<開花誘導期の栽培条件>>
光源:第1区:202、第2区:201、第3区:無(補光無)
照射強度:約100μmol・m−2・s−1
栽培温度:20℃〜25℃
栽培期間:9月〜12月の約4ヶ月
【0049】
その結果を表3に示す。
【表3】
【0050】
表2,3に示す結果からわかるように、白色LED202区及び電球色LED201区のいずれも、無補光に比べ開花数が多く、補光の効果が確認され、特に電球色LED201区で優れた効果が確認された。
【符号の説明】
【0051】
31・・・カバー、33・・・支持体、35・・・台、40・・・光源装置、43・・・LED発光装置、45・・・電源、49・・・制御部(切替器)。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7