特許第6585921号(P6585921)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6585921-合成樹脂製シート状部材 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6585921
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】合成樹脂製シート状部材
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20190919BHJP
   A47J 47/00 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   B32B27/32 102
   B32B27/32 E
   A47J47/00 A
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-91849(P2015-91849)
(22)【出願日】2015年4月28日
(65)【公開番号】特開2016-203589(P2016-203589A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2018年4月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】390020019
【氏名又は名称】レック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075948
【弁理士】
【氏名又は名称】日比谷 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100181928
【弁理士】
【氏名又は名称】日比谷 洋平
(72)【発明者】
【氏名】北村 秀一
(72)【発明者】
【氏名】石井 和規
【審査官】 深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−030974(JP,A)
【文献】 特開昭64−053838(JP,A)
【文献】 特開2011−110353(JP,A)
【文献】 特開2000−263724(JP,A)
【文献】 特開平07−148894(JP,A)
【文献】 特開2003−210341(JP,A)
【文献】 特開2014−073226(JP,A)
【文献】 特開平08−332154(JP,A)
【文献】 特開2001−342313(JP,A)
【文献】 特開平02−274535(JP,A)
【文献】 特開平08−230120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
A47J 39/00−39/02、47/00−47/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄肉のまな板の大きさに成形した合成樹脂製シート状部材であって、ポリプロピレンから成るコア層の上下両面に、ポリメチルペンテンにポリプロピレンを混入した同じ厚さの表面層をそれぞれ積層し、前記表面層の一方の面に滑り止め用の凹凸部を形成したことを特徴とする合成樹脂製シート状部材。
【請求項2】
前記表面層はポリメチルペンテン100重量部に対し、ポリプロピレン20〜100重量部としたことを特徴とする請求項に記載の合成樹脂製シート状部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、まな板等に用いられ、色素や臭いが移り難く、加熱に対して変形し難い薄肉の合成樹脂製シート状部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、食材をカットする際には、まな板を使用し、このまな板上に食材を載置し、包丁を用いて切断している。そして、近年では特許文献1に開示されるまな板のように、薄板状の合成樹脂製シート状部材から成るまな板が多用されている。
【0003】
合成樹脂製シート状部材から成るまな板のうちで、ポリエチレンやポリプロピレン製のまな板については、油を吸収し易い性質から、人参、カボチャ、カレーのルー等の色素の強い食材をカットした場合には、まな板に赤、オレンジ、黄色の色素が付着し易い。また、カレー、ニンニク等の臭いの強い食材を用いた場合にも臭いがまな板に付着し易くなる。
【0004】
また、特許文献2には、異なる素材の層を加圧加熱成型で接合したまな板が開示されている。
【0005】
更には、合成樹脂製シート状部材から成るコップ等の容器が広く使われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実用新案登録第3180421号公報
【特許文献2】特開2002−282141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のポリエチレンやポリプロピレン製のまな板において、付着した色素や臭いは洗浄しても十分に洗い流すことは困難であり、外観上、衛生上の問題を有している。そして、次に使用する食材に色素や臭いが移り易いという問題もある。
【0008】
また、特許文献2に開示されている2層構造のまな板では、コア層であるポリエチレン層の厚みが十分でない場合では、食洗機等の高温槽で洗浄したりすると、2種類の樹脂の伸縮率の差により反りやクラック等が発生し、使用し難くなる虞れがある。
【0009】
この反りやクラックは、上述の合成樹脂製シート状部材から成るコップ等の容器においても、電子レンジでの加熱や食洗機等の高温槽で洗浄した際に発生する。
【0010】
本発明の目的は、上述の課題を解消し、まな板や容器等に用いられ、色素や臭いが移り難く、高温を加えても変形がし難い薄肉の合成樹脂製シート状部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明に係る合成樹脂製シート状部材は、薄肉のまな板の大きさに成形した合成樹脂製シート状部材であって、ポリプロピレンから成るコア層の上下両面に、ポリメチルペンテンにポリプロピレンを混入した同じ厚さの表面層をそれぞれ積層し、前記表面層の一方の面に滑り止め用の凹凸部を形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る合成樹脂製シート状部材によれば、コア層の両表面に、色素や臭いが付着し難いポリメチルペンテンによる表面層を設けることにより、色素や臭いが付着し難くなる。
【0013】
更に、上下層をポリメチルペンテン層とする3層構造にすることで、高熱時にコア層に対する上下の表面層の反りが相殺されるので、全体として反り等の変形が生じ難くなる。
【0014】
また、コア層として、ポリメチルペンテンよりも安価な例えばポリプロピレンを主原料とすることで、安価に製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施例の合成樹脂製シート状部材の断面図である。
図2】まな板の斜視図である。
図3】まな板を裏返した状態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を図示の実施例に基づいて詳細に説明する。
図1は本実施例の薄肉の合成樹脂製シート状部材1の断面図を示しており、この合成樹脂製シート状部材1は、例えば、厚さ1.2mm程度のポリプロピレン(PP)等から成る矩形状のコア層2の上下両面に、縦横同寸法で、厚さが0.2mm程度のポリメチルペンテン(PMP)にポリプロピレンを含有する表面層3a、3bが積層されている。なお、コア層2の厚さは0.5mm〜15mmの範囲で適宜のものを採用することが可能である。
【0017】
図2は合成樹脂製シート状部材1から成るまな板4を示しており、合成樹脂製シート状部材1を例えば横幅360mm、縦幅260mm程度のまな板の大きさで成形することで、まな板4として使用することができる。
【0018】
更に、まな板4には、図3の斜視図に示すように、裏面である表面層3bの表面に滑り止め用の凹凸部3cを形成することも可能である。また、まな板4の表面層3a、3bの厚さは、仮に包丁を表面層3a、3bに切り込んでも、コア層2まで達しない程度の厚みの範囲で、適宜の値を採用する。
【0019】
コア層2は使用中の変形に耐え得る程度の強度が必要なため、厚さは1.0mm以上が好ましい。コア層2を1.2mm程度とした薄い合成樹脂製シート状部材1を用いて、通常のまな板等の上に載置した状態で使用するまな板4を成形し、コア層2を15mm程度とした厚い合成樹脂製シート状部材1を用いて、単体で使用するまな板4を成形することもできる。
【0020】
ポリメチルペンテンは表面張力がフッ素樹脂に近く、剥離性に優れた合成樹脂である。従って、表面層3a、3bにポリメチルペンテンを含有する合成樹脂材を用いたことより、表面層3a、3b上で食材をカットしても、汚れ等が付着し難く、また付着しても剥離が容易である。このため、耐着色性、耐臭着性に優れ、従来のポリプロピレン製のまな板よりも色素や臭いが付着し難くなる。
【0021】
また、ポリメチルペンテンはポリプロピレンに比べて軽量であるという特徴も備えていると共に耐熱性にも優れており、食洗機等の高温槽で洗浄時に、表面層であるポリメチルペンテン層の変形は少ない。
【0022】
合成樹脂製シート状部材1の製造方法は、中心となる薄板状のポリプロピレン層と、上下の薄板状の表面層3a、3bを重ねた後に、加圧しながら押出成型を行うことで成型する。この押出成型したシート状部材を適宜の外形に切断を行う。なお、押出成型により成型することが好適であるが、他の方法により一体に製造してもよい。
【0023】
このようにコア層2をポリプロピレン層、上下の表面層3a、3bをポリメチルペンテン層とする3層構造にすることで、高熱時にコア層2に対する上層の表面層3aとコア層との反りと下層の表面層3bとの反りとが相殺する。従って、反り等の変形が生じ難くなると同時に、ポリメチルペンテンより安価なポリプロピレンを主原料とするコア層2を用いることで、安価に製造することが可能である。
【0024】
そして、合成樹脂製シート状部材1から成るまな板4は、厚さ1.6mm程度と薄く、台所の台板又は通常の木製又は樹脂製のまな板の上に載置して使用する。この際に、まな板4の表面層3bには凹凸部3cが設けられていることにより、天板等に対して滑り難くなる。
【0025】
なお、コア層2のポリプロピレンは単独組成物ではなく、後述するように他の樹脂を混合することもできる。
【0026】
合成樹脂製シート状部材1について耐着色性、耐臭着性について次のような実験を行った。
【0027】
[実験例]ポリメチルペンテン100質量部に対してポリプロピレン40質量部を含有している組成物10質量部の板状体を内側層とし、ポリプロピレン100質量部を含有している組成物90質量部の板状体を外側層として板材に押出成型を行った。
【0028】
[比較例1]ポリプロピレン100質量部で押出成型を行い、板材とした。
[比較例2]ポリメチルペンテン100質量部で押出成型を行い、板材とした。
[比較例3]ポリメチルペンテン10質量部の板状体を内側層とし、ポリプロピレン90質量部の板状体を外側層として板材に押出成型を行った。
【0029】
次に、このようにして得られた板材に各種食材を載置し、500Wの電子レンジで2分間食材を加熱し、8時間放冷した。
【0030】
このサイクルを1サイクルとして5サイクル行った。食材を取り除いた後に、色移り、臭い残りについて官能評価を行い、表1の結果を得た。◎は色移り、臭い残りがない状態、×は色移り、臭い残りがある状態、※は内側層と外側層とが層間剥離を起こして、評価を行うことができなかったことを示している。
【0031】
【表1】
【0032】
表1の結果から、表面層としてポリメチルペンテン層を設けることにより、色移り、臭い移りは共に生じ難く、良好であることが分かる。また、実験例は比較例3のような層間剥離を起こさないことが確認された。
【0033】
比較例3のデータからも、ポリプロピレン層はポリメチルペンテン層とは相溶しないことが分かる。従って本実施例では、コア層2と表面層3a、3bの密着性を容易にするために、表面層3a、3bは例えばポリメチルペンテンが100重量部に対して、ポリプロピレンを20〜100重量部を混合することが好適である。
【0034】
なお、表面層3a、3bにおけるポリメチルペンテンの比率が低いと、耐着色性、耐臭着性の機能が低くなることから、表面層3a、3bのポリメチルペンテンとポリプロピレンの比率において、ポリメチルペンテンの比率は少なくとも50%以上であることが望ましい。
【0035】
このように、表面層3a、3bとして、ポリメチルペンテンとポリプロピレンを混合した樹脂を用いることにより、ポリプロピレンから成るコア層2とが剥離することなく接合することが可能となる。
【0036】
なお、コア層2としてポリプロピレンではなくとも、或いはポリプロピレンに他の樹脂を混合してもよいが、表面層3a、3bと相溶させるために、表面層3a、3bにはコア層2の材料を含有させることが必要である。
【0037】
このように、コア層2の両面に上下対称に同じ厚さの同組成の表面層3a、3bを設けたことにより、たとえ食洗機等の高温槽内で高温の湯で洗浄したとしても、伸縮率の差は相殺されて、合成樹脂製シート状部材1から成るまな板4が反ったり表面層3a、3bにクラックが生じ難くなる。
【0038】
本実施例においては、コア層2の厚さと、表面層3a、3bの厚さが、熱により変形を及ぼす厚さの割合とした薄肉の合成樹脂製シート状部材1を対象としており、同じ材料、同じ厚さの表面層3a、3bをコア層2の両表面に積層することにより変形を相殺している。
【0039】
また本実施例では、まな板4の凹凸部3cを片側の表面層3b上に設けたが、まな板4を載置する台板等に滑り止め措置が施されていれば、凹凸部3cを設ける必要はない。この場合には、両表面層3a、3bを共にまな板の表面として使用できるので、耐使用期間を伸ばすことが可能である。
【0040】
また、合成樹脂製シート状部材1をプレス成型、真空成型することでタッパー等の容器に加工することもできる。合成樹脂製シート状部材1から成る容器は、まな板4と同様に食洗機等の高温槽内で高温の湯で洗浄したり、電子レンジで長時間加熱したとしても表面が反ったり、クラックが生ずることは少ない。
【符号の説明】
【0041】
1 合成樹脂製シート状部材
2 コア層
3a、3b 表面層
3c 凹凸部
4 まな板
図1
図2
図3