特許第6585990号(P6585990)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6585990データキャリア及び非接触識別情報管理システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6585990
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】データキャリア及び非接触識別情報管理システム
(51)【国際特許分類】
   G06K 19/073 20060101AFI20190919BHJP
   G06K 19/077 20060101ALI20190919BHJP
   G06K 19/02 20060101ALI20190919BHJP
   G06K 7/10 20060101ALI20190919BHJP
   H01Q 7/00 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   G06K19/073 027
   G06K19/073 045
   G06K19/077 264
   G06K19/02
   G06K7/10 200
   G06K7/10 232
   H01Q7/00
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-201457(P2015-201457)
(22)【出願日】2015年10月9日
(65)【公開番号】特開2017-73088(P2017-73088A)
(43)【公開日】2017年4月13日
【審査請求日】2018年9月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597019609
【氏名又は名称】株式会社 シーディエヌ
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松下 香織
(72)【発明者】
【氏名】松下 大雅
(72)【発明者】
【氏名】野田 龍三
(72)【発明者】
【氏名】松尾 和顕
(72)【発明者】
【氏名】長友 一則
【審査官】 甲斐 哲雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−168090(JP,A)
【文献】 特表2006−501541(JP,A)
【文献】 特開2002−149073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06K 19/00−19/18
G06K 7/10
H01Q 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻回する線路の少なくとも一部が軟磁性材料であるアンテナコイルと、前記アンテナコイルに接続され、識別情報を保持可能なICチップと、前記アンテナコイルの軟磁性材料の近傍に着脱可能な磁石を備え、
所定の動作距離を超えて前記軟磁性材料から前記磁石が離れている非近接状態の場合、電磁波を受けた前記アンテナコイルが、誘導電流により前記ICチップを起動できず、
前記動作距離以内に前記軟磁性材料から磁石が近接している近接状態の場合、電磁波を受けた前記アンテナコイルが、誘導電流により前記ICチップを起動できることを特徴とする、データキャリア。
【請求項2】
前記軟磁性材料は、少なくとも鉄を含む合金であることを特徴とする請求項1に記載のデータキャリア。
【請求項3】
前記軟磁性材料は、さらにニッケルを含むFeNi合金であることを特徴とする請求項2に記載のデータキャリア。
【請求項4】
前記FeNi合金は、70質量%以上のNiを含むことを特徴とする請求項3に記載のデータキャリア。
【請求項5】
前記線路は、前記軟磁性材料の第1線路と、前記軟磁性材料より比抵抗の小さい非磁性の導電性材料の第2線路を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のデータキャリア。
【請求項6】
前記アンテナコイルが巻回される基板をさらに備え、
前記近接状態において、前記基板の一方の面に垂直な方向において前記線路と重なり合わない位置に、着脱可能な磁石を備えることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のデータキャリア。
【請求項7】
第1アンテナコイル、前記第1アンテナコイルに接続され、識別情報を保持可能なICチップと、を有するデータキャリアと、
第2アンテナコイルを有するアンテナを介して電磁誘導方式により前記データキャリアが保持する識別情報を読み書きするリーダライタを備え、
前記第1アンテナコイルは、巻回する線路の少なくとも一部が軟磁性材料であり、
前記軟磁性材料に磁界を印加する通信許可手段を備え、前記通信許可手段が前記軟磁性材料に磁界を印加している場合のみ、前記第2アンテナコイルからの電磁波を受けた前記第1アンテナコイルが、誘導電流により前記ICチップを起動できることを特徴とする非接触識別情報管理システム。
【請求項8】
前記軟磁性材料は、少なくとも鉄を含む合金であることを特徴とする請求項に記載の非接触識別情報管理システム。
【請求項9】
前記軟磁性材料は、さらにニッケルを含むFeNi合金であることを特徴とする請求項に記載の非接触識別情報管理システム。
【請求項10】
前記FeNi合金は、70質量%以上のNiを含むことを特徴とする請求項に記載の非接触識別情報管理システム。
【請求項11】
前記通信許可手段は、磁石であることを特徴とする請求項から10のいずれか1項に記載の非接触識別情報管理システム。
【請求項12】
前記通信許可手段は、通電した導電体の誘導磁界であることを特徴とする請求項から11のいずれか1項に記載の非接触識別情報管理システム。
【請求項13】
前記アンテナを介して電磁誘導方式により前記データキャリアが保持する識別情報読み書きをする周波数帯域は、3MHz以上30MHz以下の短波帯であることを特徴とする請求項から12のいずれか1項に記載の非接触識別情報管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データキャリア及び非接触識別情報管理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、無線周波数識別(RFID:Radio Frequency−IDentification)システムが普及している。RFIDシステムは、人や物品等に取り付けられるデータキャリアと、このデータキャリアとの間で電磁誘導方式により電波を送受信してデータキャリアの内部メモリにアクセスし、情報の読み書き(リード/ライト)をするリーダライタと、このリーダライタを制御する電子計算機とを備えて構成されている。なお、データキャリアは、その形状や大きさ等に応じてRFIDタグ(非接触ICタグ)、非接触ICカード等と呼ばれる(以下、総称して、ICタグと呼ぶ)。
【0003】
RFIDシステムは、人や物品等に取り付けられる非接触型のICタグを、電磁波を放出するリーダライタなどの情報取得装置にかざすことで、ICタグ内に内蔵されたICチップに記憶してあるデータから識別情報を入手できる。RFIDシステムは、電磁波による情報交信で人や物品等の識別、追加情報の書き込み等ができるため、人や物品等の所在管理、製品の物流、加工工程の履歴の情報管理等に使用可能である。そのため、RFIDシステムは、例えば各種の交通機関の定期券、企業の建物等における人の入出管理、商品の在庫管理、物流管理等に用いることができることから、物流分野及び流通分野等で実用化されている。
【0004】
特許文献1には、スライドスイッチ、押圧スイッチ、脱着可能な切替チップ等で構成され、強制的にカード外部との通信の切断を行う切断手段を備え、使用目的に応じて切断手段により強制的にカード外部との通信の切断をすることにより、非接触ICカードが保持しているデータの漏洩を防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−168089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、スライドスイッチ、押圧スイッチ、脱着可能な切替チップ等の機構部分が複雑であることから、データキャリアの故障発生が増加する可能性がある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、信頼性を高めて、選択的にデータの漏洩を抑制するデータキャリア及び非接触識別情報管理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明のデータキャリアは、少なくともアンテナコイルを有するデータキャリアであって、前記アンテナコイルは、巻回する線路の少なくとも一部が軟磁性材料であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明において、前記軟磁性材料は、少なくとも鉄を含む合金であることを特徴とすることが好ましい。
【0010】
また、本発明において、前記軟磁性材料は、さらにニッケルを含むFeNi合金であることを特徴とすることが好ましい。
【0011】
また、本発明において、前記FeNi合金は、70質量%以上のNi含むことを特徴とすることが好ましい。
【0012】
また、本発明において、前記線路は、前記軟磁性材料の第1線路と、前記軟磁性材料より比抵抗の小さい非磁性の導電性材料の第2線路を含むことを特徴とすることが好ましい。
【0013】
また、本発明において、前記アンテナコイルの軟磁性材料の近傍に着脱可能な磁石を備えることを特徴とすることが好ましい。
【0014】
また、本発明において、前記アンテナコイルが巻回される基板をさらに備え、前記基板の一方の面に垂直な方向において前記線路と重なり合わない位置に、着脱可能な磁石を備えることを特徴とすることが好ましい。
【0015】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の非接触識別情報管理システムは、第1アンテナコイルを有するデータキャリアと、第2アンテナコイルを有するアンテナを介して電磁誘導方式により前記データキャリアが保持する識別情報を読み書きするリーダライタを備え、前記第1アンテナコイル又は前記第2アンテナコイルは、巻回する線路の少なくとも一部が軟磁性材料であり、前記軟磁性材料に磁界を印加する通信許可手段を備えることを特徴とする。
【0016】
また、本発明において、前記軟磁性材料は、少なくとも鉄を含む合金であることを特徴とすることが好ましい。
【0017】
また、本発明において、前記軟磁性材料は、さらにニッケルを含むFeNi合金であることを特徴とすることが好ましい。
【0018】
また、本発明において、前記FeNi合金は、70質量%以上のNiを含むことが好ましい。
【0019】
また、本発明において、前記通信許可手段は、磁石であることが好ましい。
【0020】
また、本発明において、前記通信許可手段は、通電した導電体の誘導磁界であることが好ましい。
【0021】
また、本発明において、前記アンテナを介して電磁誘導方式により前記データキャリアが保持する識別情報を読み書きをする周波数帯域は、3MHz以上30MHz以下の短波帯であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、信頼性を高めて、選択的にデータの漏洩を抑制するデータキャリア及び非接触識別情報管理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、実施形態1に係るデータキャリアを備える非接触識別情報管理システムを模式的に示す説明図である。
図2図2は、実施形態1に係るデータキャリアを模式的に示す平面図である。
図3図3は、実施形態1に係るアンテナを模式的に示す平面図である。
図4図4は、実施形態1に係るデータキャリアを模式的に示す断面図である。
図5図5は、実施形態2に係るデータキャリアを模式的に示す平面図である。
図6図6は、実施形態2に係るデータキャリアを模式的に示す断面図である。
図7図7は、実施形態3に係るデータキャリアを備える非接触識別情報管理システムを模式的に示す説明図である。
図8図8は、実施形態4に係るデータキャリアを備える非接触識別情報管理システムを模式的に示す説明図である。
図9図9は、実施形態5に係るデータキャリアを備える非接触識別情報管理システムを模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るデータキャリア及び非接触識別情報管理システムを実施するための形態(以下、実施形態という)を図面に基づいて詳細に説明する。なお、下記実施形態により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0025】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係るデータキャリアを備える非接触識別情報管理システムを模式的に示す説明図である。図2は、実施形態1に係るデータキャリアを模式的に示す平面図である。図3は、実施形態1に係るアンテナを模式的に示す平面図である。図4は、実施形態1に係るデータキャリアを模式的に示す断面図である。図1に示すように、非接触識別情報管理システム100は、データキャリア10と、アンテナ30を介して電磁誘導方式によりデータキャリア10が保持する識別情報を読み書きするリーダライタ40と、通信許可手段である磁石50を備える。図1において、磁石50がデータキャリア10に相対的に近づく方向を接近方向Son、磁石50がデータキャリア10に相対的に離反する方向を離反方向Soffとする。
【0026】
データキャリア10は、後述するように識別情報を保持可能なICチップ22と、アンテナコイル23と、を備える。アンテナコイル33を備えるアンテナ30は、リーダライタ40と接続されている。リーダライタ40は、制御装置41と、記憶部42と、変調増幅部43と、復調増幅44とを備える。制御装置41は、CPU(:Central Processing Unit)、ROM(:Read Only Memory)、RAM(:Random Access Memory)等を備え、RAM、フラッシュメモリ、ハードディスクドライブ等の記憶部42と協働してICチップ22の識別情報の読み書きの機能を実現することができる。
【0027】
変調増幅部43は、制御装置41の識別情報の読み書きの指示をアンテナコイル33で電磁波とできるように変調増幅する。アンテナコイル33は、13.56MHzの電磁波TXを送出する。電磁波TXを受けたアンテナコイル23は、誘導電流によりICチップ22を起動し、電磁波TXに含まれる制御信号に応じて、識別情報を読み書きする。ICチップ22は、識別情報を応答し、アンテナコイル23は、電磁波RXをアンテナコイル33へ送出する。
【0028】
アンテナコイル33は、電磁波RXを受信し、復調増幅部44へ入力する。復調増幅部44は、電磁波RXに含まれる識別情報を復調増幅し取り出し、制御装置41が記憶部42へ記憶する。このように、データキャリア10と、アンテナコイル33を有するアンテナ30を介して電磁誘導方式によりデータキャリア10が保持する識別情報を読み書きをする周波数帯域は、3MHz以上30MHz以下の短波帯(例えば、13.56MHz)である。
【0029】
実施形態1の非接触識別情報管理システム100は、磁石50がデータキャリア10に相対的に接近する接近方向Sonに所定距離(以下、動作距離という。)以上近くなる、近接状態の場合にのみ、電磁波TXを受けたアンテナコイル23は、誘導電流によりICチップ22を起動できる。磁石50とデータキャリア10とが離反方向Soffに動作距離を超えて離れている、非近接状態の場合、ICチップ22が保持している識別情報の漏洩を抑制できる。このため、実施形態1の非接触識別情報管理システム100は、磁石50の位置が、アンテナコイル23と近接状態にある場合は通信許可とし、アンテナコイル23と非近接状態にある場合は通信不許可を選択することができる。
【0030】
図2に示すように、データキャリア10は、基板シート11と、非接触データキャリア要素(ICインレット)12と、を含む。ICインレット12は、アンテナコイル23を含む電子回路21と、識別情報を保持可能なICチップ22と、を備える。基板シート11は、ICインレット12を保持する支持体として機能する。基板シート11は、ICインレット12を安定に保持することができる支持体としての機能を有する限り、特に限定されるものではなく、透明又は不透明でもよい。基板シート11の材料は、樹脂材料であって絶縁性を有している。電子回路21は、アンテナコイル23と、該アンテナコイル23に接続している端子部24、25と、さらに端子部24、25と間隔を空けて配置されている端子部26、27と、端子部26、27を連結するリード線28と、端子部24と端子部27を接続するジャンパ線29と、アンテナコイル23とジャンパ線29とを絶縁する絶縁層20とを有する。
【0031】
これに対して、図3に示すように、アンテナ30は、基板シート34と、アンテナコイル33と、アンテナコイル33の端部に位置する端子部31、32を備える。基板シート34の材料は、樹脂材料であって絶縁性を有している。アンテナコイル33及び端子部31、32の材料は、銅、銀などの導電性の材料であり、基板シート34の一方の面上に平面コイルを形成している。
【0032】
図4に示すようにデータキャリア10は、基板シート11上のICチップ22及びアンテナコイル23が形成された一方の形成面11aを保護する保護シート13を備えている。基板シート11と保護シート13とは、絶縁層14を介して対向するように、固定されている。
【0033】
図2及び図4に示すように、実施形態1のデータキャリアは、基板シート11の一方の面(形成面11a)に垂直な方向においてアンテナコイル23の線路と重なり合わない位置に、着脱可能な磁石50を備える。具体的には、アンテナコイル23の巻回された最外周otよりも外側領域に重なるように、磁石50は、保護シート13に嵌め込まれている。このような配置とすることで、磁石50自体が電磁波TX又は電磁波RXの遮蔽物となる可能性を抑制できる。例えば、データキャリア10は、保護シート13の端面に凹部13Aを設け、磁石50を挿入可能な機構を備えている。この構造により、磁石50がアンテナコイル23に磁界を与えることができる。なお、アンテナコイル23の巻回された最外周otよりも外側領域に重なるように、磁石50は、保護シート13の上に粘着材で貼り付けられてもよい。
【0034】
アンテナコイル23として巻回される線路の少なくとも一部の線路又は全部は、軟磁性材料の金属線又は金属膜のパターンである。アンテナコイル23は、軟磁性材料の金属箔、蒸着膜、スパッタリングによる薄膜等で形成できる。又は、アンテナコイル23は、軟磁性材料の金属の粒子をバインダー又は溶媒に分散させた導電性ペースト、導電性インクを巻回して固着するパターンとしてもよい。軟磁性材料は、硬磁性材料よりも、外部から磁場を印加したときに磁場の方向に物質中の磁気双極子が容易に向く性質を有している。逆に、硬磁性材料、つまり永久磁石は、外部から磁場を印加したときに磁場の方向に物質中の磁気双極子が向きにくく、特定の方向に磁気双極子が揃ったままとなっている。本実施形態のアンテナコイル23の線路の少なくとも一部の材料は、鉄(Fe)とニッケル(Ni)とを含むFeNi合金である。アンテナコイル23の線路の少なくとも一部の材料は、70質量%以上のNiを含み、残部がFeであることが好ましい。アンテナコイル23の材料は、78質量%のNiを含み、残部がFeであることがより好ましい。70質量%以上85質量%以下のNiを含むことで、アンテナコイル23の線路の少なくとも一部は、高透磁率及び磁化特性に優れるようになる。FeNi合金は、銅(Cu)を0質量%以上6質量%以下、モリブテン(Mo)を0質量%以上6質量%以下含んでいてもよい。また、FeNi合金は、不可避の不純物を含んでもよく、軟磁性を示せば、他の元素を含んでいてもよい。
【0035】
本実施形態のアンテナコイル23の線路の少なくとも一部の材料は、これに限られず、42質量%以上49質量%以下のNiを含み、残部がFeであるFeNi合金であってもよい。また、本実施形態のアンテナコイル23の線路の少なくとも一部の材料は、FeBSi合金、FeCoBSi合金、FeSiAl合金であってもよい。
【0036】
磁石50は、硬磁性材料、つまり永久磁石であって、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石、フェライト磁石、アルニコ磁石を用いることができる。磁石50と、アンテナコイルの軟磁性材料との相対距離が動作距離以下となった場合、軟磁性材料を磁気飽和させる磁界を与えることができる。
【0037】
ここで、アンテナコイル23に流れる誘導電流の電流密度は、表皮効果の影響を受ける。アンテナコイル23の軟磁性材料の電流密度は、表皮深さdが大きいほど、大きくなる。アンテナコイル23の軟磁性材料の電気抵抗率をρ、アンテナコイル23に誘起する誘導電流の角周波数をω(=2πf)、アンテナコイル23の絶対透磁率をμとすると、表皮深さdは下記式(1)で求めることができる。
【0038】
d=(2ρ/(ωμ))1/2・・・(1)
【0039】
磁石50がアンテナコイル23に相対的に離反する離反方向Soffに所定の距離(以下、動作距離という。)を超えて離れている、非近接状態の場合、アンテナコイル23の軟磁性材料は、磁気飽和していない。アンテナコイル23の軟磁性材料は、絶対透磁率μが大きいので、上述した表皮深さdは小さくなる。このため、アンテナコイル23に流れる交流電流の電流密度が小さく、アンテナコイル23のインピーダンス成分が大きくなる。この場合、ICチップ22の電力が足りず、ICチップ22は起動できない。
【0040】
磁石50がアンテナコイル23に相対的に接近する接近方向Sonに動作距離以上近い、近接状態の場合、アンテナコイル23の軟磁性材料は、磁気飽和しており、アンテナコイル23の絶対透磁率μが空気の透磁率(透磁率=1)に近くなる。このため、動作距離を超えて磁石50がアンテナコイル23に相対的に離れている場合に比較して、磁石50とアンテナコイル23との距離が動作距離以下の場合、上述した表皮深さdは大きくなる。このため、アンテナコイル23に流れる交流電流の電流密度が増加し、アンテナコイル23のインピーダンス成分が小さくなる。この場合、アンテナコイル23のインピーダンス成分が所定の閾値以下となり、ICチップ22に誘導電流が流れ動作できるようになる。
【0041】
以上説明したように、実施形態1のデータキャリア10は、少なくともアンテナコイル23を有し、アンテナコイル23は、巻回する線路の少なくとも一部が軟磁性材料で形成されている。アンテナコイル23と、磁石50とが上述した近接状態にある場合、アンテナコイル23の軟磁性材料は、磁石50の磁界により磁気飽和している。このため、実施形態1の近接スイッチは、機械的なスイッチと比べ、故障確率が抑制され、信頼性が高い。また、NiFe合金のキュリー点は460℃であり、100℃を大きく超える環境温度で、所定の磁気特性を維持することができる。このため、実施形態1のデータキャリアは、100℃を超える環境温度であっても、安定して、磁石50とアンテナコイル23との近接状態に応じて通信許可、通信不許可を選択することができる。
【0042】
軟磁性材料は、鉄とニッケルとを含むFeNi合金であるため、磁化特性が高く、周波数fに対する周波数応答性を高くすることができる。
【0043】
軟磁性材料は、FeNi合金であって、70質量%以上のNiを含む。これにより、絶対透磁率が高く、非近接状態と近接状態との表皮深さdの変化の差分を大きくすることができる。
【0044】
図2に示すアンテナコイル23として巻回される線路は、一部の線路23mを軟磁性材料の第1線路とし、線路23m以外の線路は、軟磁性材料とは比抵抗の小さい非磁性の導電性材料の第2線路とするようにしてもよい。第2線路の材料は、銅、アルミニウム等の材料である。なお、アンテナコイル23の線路は、線路23mを必ず誘導電流が通るようにしてある。このため、通信許可手段である磁石50の影響を及ぼす範囲を線路23mの範囲に限定し、磁石50の磁界の影響が電磁波TX及び電磁波RXと干渉する可能性を抑制することができる。そして、第2線路の材料は、非磁性材料であるので、磁石50の磁界の影響を受けにくい。
【0045】
非接触識別情報管理システム100は、アンテナコイル23の軟磁性材料の近傍に着脱可能な磁石50を備えるだけで、磁石50を取り付けた場合は通信を許可し、磁石50を外した場合は、通信を不許可にできる。
【0046】
(実施形態2)
図5は、実施形態2に係るデータキャリアを模式的に示す平面図である。図6は、実施形態2に係るデータキャリアを模式的に示す断面図である。なお、上述した実施形態で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0047】
図5図6に示すように、実施形態2のデータキャリアは、基板シート11の一方の面(形成面11a)に垂直な方向においてアンテナコイル23の線路と重なり合わない位置に、着脱可能な磁石50を備える。具体的には、アンテナコイル23の巻回された内周itよりも内側領域に重なるように、磁石50は、保護シート13の上に貼り付けられている。このような配置とすることで、磁石50自体が電磁波TX及び電磁波RXの遮蔽物となる可能性を抑制できる。そして、アンテナコイル23の巻回される線路の全部が上述した軟磁性材料である場合でも、磁石50がアンテナコイル23の全周に磁界を与え磁気飽和させることができる。
【0048】
以上説明したように、実施形態2の非接触識別情報管理システム100は、アンテナコイル23を有するデータキャリア10と、アンテナコイル33を有するアンテナ30とが電磁誘導方式によりデータキャリア10が保持する識別情報を読み書きするリーダライタ40を備え、アンテナコイル23は、巻回する線路の少なくとも一部の線路が軟磁性材料で形成され、軟磁性材料に磁界を印加する通信許可手段の磁石50を備える。実施形態2の非接触識別情報管理システム100は、アンテナコイル23の軟磁性材料の近傍に着脱可能な磁石50を備えるだけで、磁石50を取り付けた場合は通信を許可し、磁石50を外した場合は、通信を不許可にできる。
【0049】
(実施形態3)
図7は、実施形態3に係るデータキャリアを備える非接触識別情報管理システムを模式的に示す説明図である。なお、上述した実施形態で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0050】
図7に示すように、非接触識別情報管理システム100は、データキャリア10と、アンテナ30を介して電磁誘導方式によりデータキャリア10が保持する識別情報を読み書きするリーダライタ40と、通信許可手段である磁石50を備える。
【0051】
実施形態3の非接触識別情報管理システムは、アンテナ30のアンテナコイル33が、巻回される線路の少なくとも一部の線路を上述した軟磁性材料で形成している。
【0052】
実施形態3の非接触識別情報管理システムは、磁石50とアンテナ30とが接近方向Sonに相対的に接近して動作距離以上近くなる、近接状態の場合にのみ、電磁波TXを送信できる。電磁波TXを受けたアンテナコイル23は、誘導電流によりICチップ22を起動できる。磁石50とアンテナ30とが離反方向Soffに動作距離を超えて相対的に離れている、非近接状態の場合、アンテナ30は電磁波TXを送信できず、ICチップ22が保持している識別情報の漏洩を抑制できる。このため、実施形態3の非接触識別情報管理システム100は、磁石50の位置が、アンテナコイル33と近接状態にある場合は通信許可とし、アンテナコイル23と非近接状態にある場合は通信不許可を選択することができる。
【0053】
(実施形態4)
図8は、実施形態4に係るデータキャリアを備える非接触識別情報管理システムを模式的に示す説明図である。なお、上述した実施形態で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0054】
実施形態4に係る通信許可手段は、通電した導電体51の誘導磁界である。実施形態4に係る通信許可手段は、軟磁性体のコアを使った電磁石でもよい。実施形態4の非接触識別情報管理システム100は、通電した導電体51の位置が、アンテナコイル23と近接状態にある場合は通信許可とし、アンテナコイル23と非近接状態にある場合は通信不許可を選択することができる。
【0055】
(実施形態5)
図9は、実施形態5に係るデータキャリアを備える非接触識別情報管理システムを模式的に示す説明図である。なお、上述した実施形態で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0056】
実施形態4に係る通信許可手段は、通電した導電体の電線52の誘導磁界である。
【0057】
非接触識別情報管理システム100は、アンテナコイル23の軟磁性材料の近傍に電線52を備えるだけで、電線52に電流が流れた場合は通信を許可する。非接触識別情報管理システム100は、電線52に電流が流れなくなった場合又は被着した設備が取り外され、電線52の誘導磁界により軟磁性材料が磁気飽和しなくなった場合は、通信を不許可にできる。制御装置41は、通信装置45を介して管理装置46へ、通信不許可の状態を通知できる。
【0058】
(評価例)
次に、上述した実施形態1の評価例を実施例1から実施例3により具体的に説明する。ただし、本発明は、これらの実施例によって、何ら限定されるものではない。絶対透磁率
は、比透磁率と真空の透磁率(4π×10−7H/m)との積で求めることができる。
【0059】
実施例1のアンテナコイル23の材料として、直径90μmのワイヤー状のFe7916Siをコイル状に巻回したものを用意して、磁石を近づけた。磁石を近づける前の非近接状態(表1では磁石無と表記)では、13.54MHzでの交流に対するインピーダンス成分Zは、3.96Ωであった。磁石を近づけた近接状態(表1では磁石有と表記)では、周波数13.54MHzの交流電流に対するインピーダンス成分Zは、3.16Ωであった。非近接状態(表1では磁石無と表記)と磁石を近づけた近接状態(表1では磁石有と表記)では、変化率が20%あった。
【0060】
実施例2のアンテナコイル23の材料として、直径90μmのワイヤー状のFe67Co1814Siをコイル状に巻回したものを用意して、磁石を近づけた。磁石を近づける前の非近接状態(表1では磁石無と表記)では、13.54MHzでの交流に対するインピーダンス成分Zは、3.46Ωであった。磁石を近づけた近接状態(表1では磁石有と表記)では、周波数13.54MHzの交流電流に対するインピーダンス成分Zは、2.88Ωであった。非近接状態(表1では磁石無と表記)と磁石を近づけた近接状態(表1では磁石有と表記)では、変化率が17%あった。
【0061】
実施例3のアンテナコイル23の材料として、直径90μmのワイヤー状のFe22Ni78をコイル状に巻回したものを用意して、磁石を近づけた。磁石を近づける前の非近接状態(表1では磁石無と表記)では、13.54MHzでの交流に対するインピーダンス成分Zは、100Ωであった。磁石を近づけた近接状態(表1では磁石有と表記)では、周波数13.54MHzの交流電流に対するインピーダンス成分Zは、72Ωであった。非近接状態(表1では磁石無と表記)と磁石を近づけた近接状態(表1では磁石有と表記)では、変化率が28%あった。以上の実施例1から実施例3を表1として記載する。
【0062】
【表1】
【0063】
以上説明したように、アンテナコイル23は、アンテナコイル23の少なくとも一部の線路に加わる磁界の変化に応じたインピーダンス成分に基づいて、アンテナコイル23又はアンテナコイル33の誘導電流を可変できることが分かる。即ち、アンテナコイル23に磁石を近接状態又は非近接状態にすることで、データキャリアをスイッチング可能にできることを示しており、信頼性を高めて、選択的にデータの漏洩を抑制するデータキャリア及び非接触識別情報管理システムを提供することが可能なことも示している。
【符号の説明】
【0064】
10 データキャリア
11 基板シート
11a 形成面
12 ICインレット
13A 凹部
13 保護シート
14 絶縁層
20 絶縁層
21 電子回路
22 ICチップ
23 アンテナコイル
23m 線路
24 端子部
26 端子部
27 端子部
28 リード線
29 ジャンパ線
30 アンテナ
31 端子部
33 アンテナコイル
34 基板シート
40 リーダライタ
41 制御装置
42 記憶部
43 変調増幅部
44 復調増幅部
45 通信装置
46 管理装置
50 磁石
51 導電体
52 電線
100 非接触識別情報管理システム
Soff 離反方向
Son 接近方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9