特許第6586070号(P6586070)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6586070核酸を含有する細胞または別の生体材料を分析する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6586070
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】核酸を含有する細胞または別の生体材料を分析する方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/04 20060101AFI20190919BHJP
   G01N 21/78 20060101ALI20190919BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20190919BHJP
   G01N 33/58 20060101ALI20190919BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   C12Q1/04
   G01N21/78 C
   G01N21/64 Z
   G01N33/58 Z
   G01N33/50 P
【請求項の数】11
【外国語出願】
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2016-209377(P2016-209377)
(22)【出願日】2016年10月26日
(62)【分割の表示】特願2013-503178(P2013-503178)の分割
【原出願日】2011年4月8日
(65)【公開番号】特開2017-112988(P2017-112988A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2016年10月28日
(31)【優先権主張番号】1005939.2
(32)【優先日】2010年4月9日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】507002136
【氏名又は名称】バイオステータス・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ポール・ジェームズ・スミス
(72)【発明者】
【氏名】レイチェル・ジェイ・エリントン
(72)【発明者】
【氏名】ローレンス・ヒルトン・パターソン
【審査官】 千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−531587(JP,A)
【文献】 特開昭52−114784(JP,A)
【文献】 特開平09−118832(JP,A)
【文献】 特許第6033767(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の化合物:
【化1】
[式中、AはC2〜8アルキレン基であり;R1、R2、R3、およびR4は、水素、C1〜4アルキル、C2〜4ジヒドロキシアルキル(ここで、窒素原子に結合している炭素原子はヒドロキシル基を保有せず、2個のヒドロキシル基によって置換されている炭素原子は存在しない)から独立して選択され、またはR2およびR3は一緒に、R2およびR3が結合している窒素原子とともに複素環式環を形成しているC2〜6アルキレン基を形成しており;
X1、X2およびX3は、水素、ヒドロキシル、NR1-A-NR2R3R4+(Zm-)1/m、ハロゲノアミノ、C1〜4アルコキシまたはC2〜8アルカノイルオキシから独立して選択され;
(Zm-)1/mは、電荷mのアニオンである]
または基NR1が四級化されている誘導体と、
少なくとも第2の蛍光色素または発光化合物との混合物を含む組成物であって、
前記第2の蛍光色素または発光化合物が、式(II)の化合物:
【化2】
[式中、Aは、C2〜8アルキレン基であり;R1、R2およびR3は、水素、C1〜4アルキル、C2〜4ジヒドロキシアルキル(ここで、窒素原子に結合している炭素原子はヒドロキシル基を保有せず、2個のヒドロキシル基によって置換されている炭素原子は存在しない)から独立して選択され、またはR2およびR3は一緒に、R2およびR3が結合している窒素原子とともに複素環式環を形成しているC2〜6アルキレン基を形成しており;
X1、X2およびX3は、水素、ヒドロキシル、NR1-A-NR2R3、ハロゲノアミノ、C1〜4アルコキシまたはC2〜8アルカノイルオキシから独立して選択される]
またはそのN-オキシド誘導体
である、組成物。
【請求項2】
式(I)の化合物において、X1、X2およびX3のうちの少なくとも1つが、NR1-A-NR2R3R4+(Zm-)1/mである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
式(I)の化合物において、X1およびX3ではなくX2が、NR1-A-NR2R3R4+(Zm-)1/mである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
X1およびX3が両方ともヒドロキシルである、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
X1およびX3が両方とも水素である、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
R1が水素である、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
R2、R3およびR4がC1〜4アルキルである、請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
R2、R3およびR4がメチルである、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
Aが(CH2)2である、請求項1から8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
式(II)の化合物が、1,5アミノ置換アントラキノンである、請求項1から9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
式(II)の化合物が、式(IIA)の化合物:
【化3】
である、請求項1から10のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞または別の生体材料を分析する方法、インタクト細胞とインタクトではない細胞とを識別する方法、そのための検出システム、ならびにさらに特定の新規な化合物ならびにこれらの化合物および核酸を含む蛍光複合体に関する。本発明は、細胞および別の生体材料の分析において幅広い用途を有し、これは、排他的ではないが、あるクラスの細胞不透過性蛍光色素およびそれらの使用に特に関連している。
【背景技術】
【0002】
非固定細胞試料中の細胞の完全性の識別ならびに固定および透過処理した細胞試料中の核物質の染色を含む、標本の細胞濃度および生存可能性の決定のための方法は、生命科学においておよびヘルスケア産業において一般的に使用されている。
【0003】
細胞死(例えば、壊死またはアポトーシス)の素因を与える、それに先行する、およびそれに随伴する、形態学的変化、生化学的変化および分子変化と関連するプロセスを特定する能力は、生命科学において広範囲に及んで関心を持たれている。事前の固定に供されていない細胞試料におけるそのようなプロセスの細胞レベル研究を可能にする、フローサイトメトリーおよび顕微鏡法プラットホームにおいて容易に配備される分子プローブ技術は、特に魅力的である(Darzynkiewicz, Juanら1997)。いくつかの蛍光色素ベースの染色プロトコールが、真核細胞および細菌の生存可能性のフローサイトメトリーおよび顕微鏡分析のために開発されている。
【0004】
生細胞対死細胞分析は、以前には、インタクトまたは代謝的に活性な細胞が、有色色素または蛍光色素の1つまたは複数が細胞の区画中に浸透するのを排除する能力を利用していた。高等真核生物において、この特性が主として原形質膜の完全性に関し、一方、下等真核生物、原核生物系および植物においては、細胞壁組成および破壊もまた、色素浸透および挙動に影響を及ぼす可能性がある。生細胞状態から死細胞状態への移行期が記載されているが、異なるタイプの細胞間では、急速さと、関与するプロセスの形態とが高頻度で異なる。生きている、インタクトまたは生存可能な細胞とは、ある程度の代謝機能および原形質膜の完全性の両方を保持する細胞であると理解され、これは必ずしも増殖力を意味しない。細胞死プロセスにおける臨界点は、膜の再構成の別のプロセスではなく原形質膜完全性の喪失であって、この結果、細胞が、それらの特定の特性に応じて、細胞の内部環境と外部環境の間における分子の増強されたまたはより自由な通過を示す潜在能力が生じる。細胞死の間の膜の再構成の例は、細胞表面へのAnnexin V分子の増強された結合によって与えられるが、細胞不透過性色素による陽性染色と関連した細胞死におけるより後の段階に相当する破壊された膜を有する細胞に対するAnnexin Vの結合とは区別される必要がある。
【0005】
損なわれた膜完全性を提示する細胞は、生存不能なまたはインタクトではない細胞と記載することができ、膜破壊の特徴を示す死細胞、透過処理した細胞または瀕死の細胞を含むと理解される。この臨界移行点は、生細胞不透過性色素の増強された流入によって特定することができ、細胞死の機能的定義および分析方法を提供する。好ましくはそのような色素は、残りの細胞内構造に結合する潜在能力を有し、したがって集団内の細胞のインタクトではない部分の範囲内に優先的に蓄積するであろう。細胞死の間および残屑として高頻度で特定される多数の断片への細胞単位の最終的な分解の間、残りの核酸を有する構造が比較的長期間保持されることが理解される。
【0006】
生体染色剤を使用して、細胞集団を検出する、したがって選択することができる。このことは、損なわれていない生細胞の機能性の保持を必要とするアッセイにおいて特に有利である。1つのアプローチは、細胞透過性の非蛍光性の基質の、インタクト細胞内に優先的に保持される強蛍光性の生成物への細胞内変換(例えば、細胞内非特異的エステラーゼ活性による二酢酸フルオレセイン代謝)によって決定し、それにより生存可能な部分を陽性に特定することができる、活性な細胞代謝の検出によって生存可能性を陽性に評価することである。そのような場合、完全性が損なわれている細胞の排除は、アッセイから得られる情報の有効性を増強するように働く。一方、生細胞不透過性染色剤は、死滅した、またはアポトーシスまたは細胞死のより後の段階にある、膜が損なわれている細胞に流入する。細胞不透過性のDNA結合色素の場合、色素流入およびその後の細胞内の残りの核酸との相互作用によって、所与の細胞の膜の損なわれている状態がわかる。そのような場合、細胞内色素と残りの核酸、好ましくはDNAとの「複合体」は、報告原理である。この場合、試薬はそれらの細胞から排除されず、今度は複合体形成のためにアクセスすることができ、したがって、生存可能性についての陰性染色および損なわれている細胞についての陽性染色を提供する。
【0007】
細胞試料はまた、固定方法を使用して加工処理されて、生命科学において使用される広範囲の技術の一部としての細胞特徴の分析を可能にし得ることが理解される。固定方法および細胞透過処理方法は様々であってもよいが、生細胞不透過性色素の流入を可能にする膜変化を高頻度でもたらす。
【0008】
色素流入は、好ましくは、細胞内核酸に対する色素の高親和性結合と関連した蛍光シグナルの取得によって示され、結合時の蛍光増強によって援助されると常に考えられる。
【0009】
細胞不透過性の(および細胞透過性の)蛍光色素は、核酸に不定に結合し、生物科学において広く使用され、市販用の供給業者から容易に利用可能である分子プローブの大きな群である。これらの作用物質の求められる特徴は、以下を含む:核酸選択性、励起および発光特徴、量子収率、結合時の蛍光増強能、水性環境における性能、損なわれていない細胞からの排除の程度(生存可能性についての陰性染色および細胞死についての陽性染色を提供する)またはインタクト細胞アッセイのためのインタクト細胞中への浸透の急速さ。特定の色素の選択は、アッセイに組み込まれる別のフルオロフォアとのスペクトルの重なりの程度および選択的なまたは最適な励起のための好都合な光源の利用可能性によってしばしば決定される。
【0010】
細胞死のプロセスは、長い時間枠(分から日)にわたる細胞特性の逐次的な変化の取得を高頻度で伴うため、所与の色素の継続的な存在がアッセイ内の生存可能性の喪失の報告に影響を及ぼさないような、無視できる毒性を有する細胞不透過性色素が必要である。そのような非毒性の細胞不透過性色素は、長期アッセイにおける生存可能性の喪失の連続的なモニタリングのために好ましい。
【0011】
透過性および非透過性の色素による細胞クロマチンの蛍光染色特性の程度は、様々なレベルの構造完全性を有する細胞において、複雑であり、容易には予測されない(Wlodkowic, Skommerら2007)ことが認識されている。細胞死プロセスを受けている細胞はまた、そうでなければ細胞不透過性である指示薬色素の細胞流入を許容しており、とりわけクロマチンコンフォメーションにおける細胞構造の変化も受けている。吸収カチオン性色素によるアポトーシス核の過染色は高頻度で観察され、一方、アポトーシス細胞核はしばしば、多くのDNA蛍光色素では不鮮明なようである。カチオン性色素に対する初期のアポトーシス細胞のクロマチンの増強された親和性は、DNAの分解ではなくコンフォメーションのゆるみと関連している(Erenpreisa, Freivaldsら1997)と現在は理解されている。後期のアポトーシス細胞において、分解されたDNAの非常に高密度のパッケージングは、色素のさらなる凝集を促進し(Erenpreisa, Freivaldsら1997)、蛍光特性に影響を及ぼす(Erenpreisa, Freivaldsら1997)。
【0012】
したがって核酸標的化色素による細胞の蛍光染色は、細胞状態、透過特性、色素結合特異性、色素結合様式および色素間相互作用の複雑なマトリックスである。細胞ベースのアッセイにおけるそのような問題を補うために、伝統的なアプローチは、強い蛍光増強および高量子収率色素を好んできた。広範囲の細胞不透過性色素が、核酸染色において適用されている。最も高頻度で使用される例は、ヨウ化プロピジウム(PI)である。
【0013】
強度蛍光PIシグナルは、単純で高感度の検出という利点を有するが、この蛍光色素がマルチカラー分析に組み込まれる場合は不利点が存在する。さらに、PIは、UVA(例えば365nm)波長において、および青色光(例えば488nm)波長によって励起される能力を有し、蛍光分析物または蛍光プローブによって検出される分析物を区別するために特異な励起が使用されている場合、その適用を複雑にする。PIは、細胞染色の好都合な分析のための有色サインを有さない。特に、「スピルオーバー(spill over)」の原因であるPIについて分析されているピーク発光領域に隣接した可視スペクトルの一部において集められたシグナルに対して補正が適用されなければならない。加えて、PIの蛍光発光は、蛍光分析物、または蛍光プローブによって検出される分析物から生じている発光が区別される必要があり得るスペクトルの領域を占めることがある。PIは、赤色領域およびそれ以上(例えば620nmを超える波長)において放射する生細胞不透過性色素としてのいくつかのスペクトルの利点を提供する。
【0014】
DNAに結合しているPIの強い蛍光強度は、細胞部分集団の特定のための広いダイナミックレンジを提供する、対数目盛における、細胞集団から取得される蛍光シグナルの分析を高頻度で必要とすることが理解される。
【0015】
US 5,057,413は、放射される蛍光の量に基づく、DNAに対する優先性が損傷細胞とインタクト細胞とを区別する細胞透過性核酸色素LDS-751の使用を教示している。別の例において、インタクト細胞と死細胞との区別は、白血球マーカー(CD45)の発現のフローサイトメトリーによる白血病/リンパ腫評価において、色素7-AAD(低いインタクト細胞透過特性を有する)を使用して可能となり、非特異的な染色の落とし穴を回避する(Shenkin, Babuら2007)。さらに別の例において、米国特許出願20070082377は、膜染色剤である蛍光プローブ、および活性なカスパーゼ酵素に結合する細胞透過性のアポトーシス検出プローブである蛍光プローブもまた利用するマルチパラメーターアッセイにおける構成要素として、細胞不透過性のDNA色素7-AADの使用を開示している。そのようなアプローチは、死細胞または壊死細胞(生体染色7-AADを使用して検出される;この染色剤がDNAに結合またはインターカレートすると、例えば、核酸への結合時の蛍光増強のプロセスによって検出可能となる)と、変化したカスパーゼ活性によって特徴付けられるアポトーシス細胞との区別を可能にする。
【0016】
細胞透過性色素および細胞不透過性色素を利用する「二重色素」アッセイが知られている(Giao, Wilksら、2009;Biggerstaff, Le Puilら、2006;Lehtinen, Nuutilaら2004;WlodkowicおよびSkommer、2007a;WlodkowicおよびSkommer、2007b)。使用される色素は、個々の性能について常に最適化され、細胞が透過特徴を正確に報告することができるように相互作用を効率的に回避しようとする。上記で論じた二重色素アレイはそれぞれ、用いられる厳密なシステムと関連した様々な不利点および好ましくない特性を有する。しかしながら、例外なく、直接結合する細胞透過性核酸染色剤はまた、損なわれているまたは破壊された膜を有する細胞中の核酸も染色するはずであるという、二重色素アッセイにおける根本的な問題もまた存在する。
【0017】
上述した細胞透過性色素および細胞不透過性色素から得られるシグナルのダイナミックレンジは、好都合な分析方法を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】US 5,057,413
【特許文献2】米国特許出願20070082377
【特許文献3】国際公開WO91/05824
【特許文献4】WO99/65992
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Paul J. Smith、Marie Wiltshire、Sharon Davies、Suet-Feung Chin、Anthony K. Campbell、およびRachel J. Errington(2002). DNA damage-induced[Zn2+]i transients: correlation with cell cycle arrest and apoptosis in lymphoma cells. Am J Physiol Cell Physiol 283(2): 609〜622
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
加えて、細胞および別の生体材料の分析のための蛍光色素の有用な特性を改善することが継続して必要である。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、その実施形態の少なくともいくつかにおいて、上述した問題および必要性に対処する。特に、本発明は、その実施形態の少なくともいくつかにおいて、改善された細胞不透過性色素を提供し、細胞不透過性色素および細胞透過性色素を使用した生/死細胞識別のために使用することができる改善されたシステムをさらに提供する。いくつかの実施形態において、本発明は、遠赤外(例えば660nmを超える波長または690nmを超える波長)における好ましい発光を有し、橙色/赤色スペクトル領域(例えば530を超え620nm未満の波長)における減少した発光を有する細胞不透過性色素を提供する。
【0022】
本発明の第1の態様によれば、式(I)の化合物:
【0023】
【化1】
【0024】
[式中、Aは、C2〜8アルキレン基であり;R1、R2、R3、およびR4は、水素、C1〜4アルキル、C2〜4ジヒドロキシアルキル(ここで、窒素原子に結合している炭素原子はヒドロキシル基を保有せず、2個のヒドロキシル基によって置換されている炭素原子は存在しない)から独立して選択され、またはR2およびR3は一緒に、R2およびR3が結合している窒素原子とともに複素環式環を形成しているC2〜6アルキレン基を形成しており;
X1、X2およびX3は、水素、ヒドロキシル、NR1-A-NR2R3R4+(Zm-)1/m、ハロゲノアミノ、C1〜4アルコキシまたはC2〜8アルカノイルオキシから独立して選択され;
(Zm-)1/mは、電荷mのアニオンである]
または基NR1が四級化されている誘導体が提供される。
【0025】
好ましくは、mは1である。
【0026】
細胞および別の生体材料を分析するための色素として使用される場合、非常に多くの利点がこれらの化合物の少なくともいくつかと関連している。利点は、以下を含む:
・細胞ベースのアッセイにおいて、一般に使用される等張緩衝液条件と適合性の濃度の範囲でのアッセイへの即時の組み込みのための水溶性。
・マルチプルアッセイ内で、再現可能な配備および好都合な保管のための、化学的純度および安定性。
・ほとんどまたは全くスペクトルの重なりのない可視範囲の蛍光を用いるマルチパラメーターアッセイへの即時の組み込みのための赤色/遠赤外蛍光特性、または赤色蛍光との容易な使用のための、橙色蛍光
・有核細胞の分析を必要とする用途のための、高親和性核酸結合特性。
・既知の程度の蛍光発光の強度とDNA結合の程度との間の化学量論比を可能にするために、核酸への結合時に蛍光を増強しないこと。
・結合している分子の局在化した濃度に起因する、核の結合時の増加したシグナルに対する、結合していない色素のバックグラウンド蛍光の相対的な低減を提供するための低い内因性蛍光。
・膜が損なわれているまたは色素分子を排除することができない細胞の選択的および陽性染色のための、細胞不透過特性。
・イメージングまたはフローサイトメトリーまたは別の検出プラットホームによる蛍光発光の検出による、すべての有核細胞のための直接DNA染色剤として使用するための、固定細胞における核識別特性。
・色素が、増殖の阻害などの有害な作用を有さずに、生物学的適用の間、長期間にわたって細胞とともに同時インキュベートすることができるような、インタクト細胞に対する低毒性。
・多様な期間にわたる細胞の細胞不透過性色素とのインキュベーションおよび細胞染色を検出するための同じ集団の一時的なサンプリングによってモニターされる細胞の完全性の喪失の時間依存的な分析を可能にする、上記の特性の組み合わせ。
【0027】
本発明は、とりわけ蛍光色素として使用されてもよい、四級化されたアミノアルキルアミノアントラキノン化合物を提供する。四級化されたアミノアルキルアミノ置換基は、少なくとも1位に存在する。さらに四級化されたアミノアルキルアミノ置換基は、4位、5位、もしくは8位、またはこれらの組み合わせに存在してもよい。国際公開WO91/05824およびWO99/65992(その両方の全体の内容が、参照により本明細書に組み込まれる)は、本発明の化合物の合成の前駆体として使用することができる様々な種類のアミノアルキルアミノアントラキノン化合物を開示している。
【0028】
好ましくは、X1、X2およびX3のうちの少なくとも1つは、NR1-A-NR2R3R4+(Zm-)1/mである。特に好ましい実施形態において、X2(X1およびX3ではない)が、NR1-A-NR2R3R4+(Zm-)1/m、すなわち、四級化されたアミノアルキルアミノ基で1位、5位が置換されているアントラキノンである。
【0029】
別の好ましいクラスの化合物において、X1(X2およびX3ではない)が、NR1-A-NR2R3R4+(Zm-)1/m、すなわち、1位、4位に四級化されたアミノアルキルアミノ置換基を有するアントラキノンである。1,8置換されている類似体もまた可能である。
【0030】
有利には、X1およびX3は両方ともヒドロキシルである。
【0031】
別の好ましい実施形態において、X1およびX3は両方とも水素である。
【0032】
好ましくは、R1は水素であるが、この位置のアミノ部分が第三級アミンである化合物を利用することが可能である。これらの実施形態において、R1はC1〜4アルキルであることが好ましい。
【0033】
R2、R3およびR4は、C1〜4アルキルであることが好ましい。有利には、R2、R3およびR4は、メチルである。
【0034】
好ましい実施形態において、Aは(CH2)2である。
【0035】
特に好ましい実施形態において、化合物は、式(IA)のものである:
【0036】
【化2】
【0037】
別の好ましい化合物は、式(IB)である:
【0038】
【化3】
【0039】
本発明の化合物の具体的な例は、ヨウ化物などの適した対アニオンと組み合わせて下記に列挙されている化合物によって提供される。
1-{[2-(トリメチルアミノ)エチル]アミノ}アントラセン-9,10-ジオン
1-{[2-(トリメチルアミノ)エチル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオン
1,8-ビス{[2-(トリメチルアミノ)エチル]アミノ}アントラセン-9,10-ジオン
1,8-ビス{[2-(トリメチルアミノ)エチル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオン
1,4-ビス{[2-(トリメチルアミノ)エチル]アミノ}アントラセン-9,10-ジオン
1,4-ビス{[2-(トリメチルアミノ)エチル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオン
1-{[2-(トリエチルアミノ)エチル]アミノ}アントラセン-9,10-ジオン
1-{[2-(トリエチルアミノ)エチル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオン
1,5-ビス{[2-(トリエチルアミノ)エチル]アミノ}アントラセン-9,10-ジオン
1,5-ビス{[2-(トリエチルアミノ)エチル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオン
1,4-ビス{[2-(トリエチルアミノ)エチル]アミノ}アントラセン-9,10-ジオン
1,4-ビス{[2-(トリエチルアミノ)エチル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオン
1,8-ビス{[2-(トリエチルアミノ)エチル]アミノ}アントラセン-9,10-ジオン
1,8-ビス{[2-(トリエチルアミノ)エチル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオン
1-{[2-(トリメチルアミノ)プロピル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオンヨージド
1,8-ビス{[2-(トリメチルアミノ)プロピル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオン
1,5-ビス{[2-(トリメチルアミノ)プロピル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオン
1,4-ビス{[2-(トリメチルアミノ)プロピル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオン
1-{[2-(トリエチルアミノ)プロピル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオン
1,5-ビス{[2-(トリエチルアミノ)プロピル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオン
1,4-ビス{[2-(トリエチルアミノ)プロピル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオン
1,8-ビス{[2-(トリエチルアミノ)プロピル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオン
1,5-ビス{[2-(トリエチルアミノ)ブチル]アミノ}アントラセン-9,10-ジオン
1,4-ビス{[2-(トリエチルアミノ)ブチル]アミノ}アントラセン-9,10-ジオン
1,8-ビス{[2-(トリエチルアミノ)ブチル]アミノ}アントラセン-9,10-ジオン
1,5-ビス{[2-(トリエチルアミノ)ブチル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオン
1,4-ビス{[2-(トリエチルアミノ)ブチル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオン
1,8-ビス{[2-(トリエチルアミノ)ブチル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオン
【0040】
本発明の化合物は、任意の適した対アニオンを含み得る。対アニオンの例は、リン酸および硫酸などの無機酸、ならびに酢酸、アスコルビン酸、安息香酸、クエン酸、フマル酸、グルコン酸、イセチオン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、コハク酸、スルファミン酸および酒石酸などの有機酸から得られる、塩化物、臭化物およびヨウ化物などのハロゲン化物、生理学的に許容されるアニオンである。
【0041】
本発明の化合物は、式(I)の化合物のアミノアルキルアミノ前駆体化合物の四級化によって好都合に調製することができる。四級化プロセスは、前駆体のアルキル化(例えば、ハロゲン化アルキル試薬を使用して)または適した有機または無機酸を使用した酸付加塩の形成を経由する四級化を含むことができる。国際公開WO91/05824およびWO99/65992に関連して以前に論じられたアミノアルキルアミノアントラキノン化合物は、四級化ステップの適した前駆体化合物として機能することができる。四級化されて本発明の化合物を生成する前駆体化合物の合成のための別の経路は、当業者に容易に明らかであるだろう。
【0042】
本発明は、上記に定義されている式(I)の化合物を、生理学的に許容される希釈剤または担体とともに含む組成物に及ぶ。
【0043】
本発明の第2の態様によれば、核酸および式(I)の化合物:
【0044】
【化4】
【0045】
[式中、Aは、C2〜8アルキレン基であり;R1、R2、R3、およびR4は、水素、C1〜4アルキル、C2〜4ジヒドロキシアルキル(ここで、窒素原子に結合している炭素原子はヒドロキシル基を保有せず、2個のヒドロキシル基によって置換されている炭素原子は存在しない)から独立して選択され、またはR2およびR3は一緒に、R2およびR3が結合している窒素原子とともに複素環式環を形成しているC2〜6アルキレン基を形成しており;
X1、X2およびX3は、水素、ヒドロキシル、NR1-A-NR2R3R4+(Zm-)1/m、ハロゲノアミノ、C1〜4アルコキシまたはC2〜8アルカノイルオキシから独立して選択され;
(Zm-)1/mは、電荷mのアニオンである]
または基NR1が四級化されている誘導体を含む蛍光複合体が提供される。
【0046】
核酸は、DNAであってもよく、DNAは、細胞中に存在してもよい。DNAは、インタクトではない細胞中に存在してもよい。
【0047】
本発明の第3の態様によれば、核酸を含有する細胞または別の生体材料の試料を分析する方法であって、
a)式(I)の化合物:
【0048】
【化5】
【0049】
[式中、Aは、C2〜8アルキレン基であり;R1、R2、R3、およびR4は、水素、C1〜4アルキル、C2〜4ジヒドロキシアルキル(ここで、窒素原子に結合している炭素原子はヒドロキシル基を保有せず、2個のヒドロキシル基によって置換されている炭素原子は存在しない)から独立して選択され、またはR2およびR3は一緒に、R2およびR3が結合している窒素原子とともに複素環式環を形成しているC2〜6アルキレン基を形成しており;
X1、X2およびX3は、水素、ヒドロキシル、NR1-A-NR2R3R4+(Zm-)1/m、ハロゲノアミノ、C1〜4アルコキシまたはC2〜8アルカノイルオキシから独立して選択され;
(Zm-)1/mは、電荷mのアニオンである]
または基NR1が四級化されている誘導体を含有する生物学的に適合性の溶液を調製するステップ;
b)細胞または別の生体材料の試料を生物学的に適合性の溶液で処理するステップ;および
c)式(I)の化合物による電磁放射線の吸収と関連した分光学的特性を検出するステップ
を含む方法が提供される。
【0050】
有利には、式(I)の化合物による電磁放射線の吸収と関連した分光学的特性は蛍光であり、ステップc)は、式(I)の化合物を電磁放射線で励起するステップ、および放射された蛍光シグナルを検出するステップを含む。事前に定めたスペクトル領域中の蛍光強度が測定されてもよいが、蛍光寿命の測定などの別の検出スキームが使用されてもよい。
【0051】
代替として、式(I)の化合物による電磁放射線の吸収と関連した分光学的特性は色度特性であってもよい。
【0052】
有利には、方法は、細胞の試料における細胞核の識別のために使用されてもよく、ここで、ステップb)を実施して、式(I)の化合物による細胞核中での核酸の結合を引き起こし、細胞核の識別は、ステップc)において検出される分光学的特性に少なくとも一部基づく。
【0053】
ステップb)を実施して、細胞の試料を式(I)の化合物で染色してもよい。有利には、方法は、細胞死発生がモニターされる方法であってよく、ここで、ステップb)を、アッセイ期間の前またはその期間中に実施し、それによってアッセイ期間中の細胞死発生の連続的なまたは高頻度の読み出しを可能にする。式(IA)の化合物は、これらの方法において使用するために特に好ましい。このアプローチは、不透過性の本発明の化合物の非毒性を利用する。このことは、式(I)の化合物を細胞混合物とともに含み、その結果、式(I)の化合物が試験の間に存在することが可能であることを意味する。細胞が死ぬ(例えば、アッセイにおける試験化合物の影響から)とき、細胞は、式(I)の化合物で染色される。式(I)の化合物は、細胞死を引き起こす可能性がある任意の処理の前、処理中または処理後に添加されてもよい。このことは、連続的に行われ得る試験の間のサンプリングを許容する。
【0054】
ステップc)は、フローサイトメトリーによって個々の細胞によって放射される蛍光を検出すること、蛍光顕微鏡法による細胞内局在の検出、または任意の別の適した種類の蛍光に基づく検出技術を含んでもよい。イメージング技術が用いられてもよい。蛍光強度、偏光、蛍光寿命、蛍光スペクトル、および標本または分析されている試料内のそのような性質の空間的配置を含むが排他的ではない蛍光シグナルの分析のために、様々なイメージングシステムが用いられてもよいことが理解される。
【0055】
特定の好ましい実施形態において、固定または透過処理した細胞が分析され、ここで、細胞の試料は、固定剤または透過剤での処理によって固定される。固定および透過処理した細胞における細胞核の識別および染色は、特に好ましい実施形態である。
【0056】
別の好ましい実施形態において、ステップb)は、試料を少なくとも1種の別の蛍光色素または発光化合物で処理するステップをさらに含み、ステップc)は、蛍光色素または発光化合物による電磁放射線の吸収と関連した分光学的特性を検出するステップをさらに含む。
【0057】
別の蛍光色素または発光化合物と関連したステップb)およびc)は、式(I)の化合物と関連したステップb)およびc)と同時に、または別々に実施されてもよい。
【0058】
特に好ましい実施形態において、方法は、インタクト細胞とインタクトではない細胞とを識別し、ここで、式(I)の化合物は細胞不透過性であり、ステップb)は、試料を、細胞透過性である第2の蛍光色素または発光化合物で処理するステップをさらに含み、ステップc)は、第2の蛍光色素または発光化合物による電磁放射線の吸収と関連した分光学的特性を検出するステップをさらに含み、式(I)の化合物による電磁放射線の吸収と関連した分光学的特性の検出は、インタクトではない細胞の存在と相関し、第2の蛍光色素または発光化合物による電磁放射線の吸収と関連した分光学的特性の検出は、インタクト細胞の存在と相関する。
【0059】
インタクトではない細胞は、死細胞、および損なわれているまたは破壊された膜を有する損傷細胞を含むと理解される。
【0060】
有利には、第2の蛍光色素または発光化合物は、識別される細胞中の核酸および/または別の巨大分子材料に対する、式(I)の化合物のものより低い結合能(これは必ずではないが好ましくは、結合親和性に関連する)を有し、結果として式(I)の化合物の存在下において、識別される細胞中の核酸および/または別の巨大分子材料に対する結合についてより低い効率で競合し、その結果、第2の蛍光色素または発光化合物は、インタクトではない細胞に対する結合から実質的に排除される、または式(I)の化合物によって遮蔽される。
【0061】
損傷細胞中の式(I)の化合物による第2の蛍光色素または発光化合物の好ましい完全な排除は、蛍光発光の二重分析に基づいた最適な識別を提供する。さらに、第2の蛍光色素または発光化合物からの蛍光シグナルは、式(I)の化合物で最適に標識された損傷細胞において効率的に消去されるが、また、第2の蛍光色素または発光化合物の比に対する式(I)の化合物の比を単に変化させることによって、弱めたレベルで検出可能でもあり、上述したような範囲の共染色条件によって達成される蛍光のレシオメトリック分析を提供することができる。好ましくは、第2の蛍光色素または発光化合物のモル比に対する式(I)の化合物の化合物のモル比は、1:10および10:1、より好ましくは3:20の範囲であるだろう。好ましくは、第2の蛍光色素または発光化合物の存在を排他的に報告するインタクト細胞の染色は、全色素結合に関連する細胞量および有核細胞について陽性の蛍光を識別するものとしての細胞内核酸の存在を含むが排他的ではない細胞状態の決定において、価値のあるさらなる情報を提供する。細胞の量の変化の好ましい指示は、好ましくは長期の増殖阻害または細胞周期停止を受けている細胞の分析において、細胞分裂に介入することなく代謝が進行し続けている細胞間で区別が行われることを許容する。
【0062】
好ましくは、第2の蛍光色素または発光化合物は、式(II)の化合物:
【0063】
【化6】
【0064】
またはそのN-オキシド誘導体;
[式中、Aは、C2〜8アルキレン基であり;R1、R2、およびR3は、水素、C1〜4アルキル、C2〜4ジヒドロキシアルキル(ここで、窒素原子に結合している炭素原子はヒドロキシル基を保有せず、2個のヒドロキシル基によって置換されている炭素原子は存在しない)から独立して選択され、またはR2およびR3は一緒に、R2およびR3が結合している窒素原子とともに複素環式環を形成しているC2〜6アルキレン基を形成しており;
X1、X2およびX3は、水素、ヒドロキシル、NR1-A-NR2R3、ハロゲノアミノ、C1〜4アルキルオキシまたはC2〜8アルカノイルオキシから独立して選択される]である。
【0065】
好ましい実施形態において、式(II)の化合物は、1,5アミノ置換アントラキノンであり、すなわち、X2はNR1-A-NR2R3であるが、X1およびX3はそうではない。
【0066】
このクラスの1,5アミノ置換アントラキノンの特に好ましい実施形態は、式(IIA)の化合物である。
【0067】
【化7】
【0068】
有利には、潜在的に細胞毒性である、または別様に細胞死を誘導することができる作用物質の細胞の試料に対する作用をモニターするために、インタクト細胞とインタクトではない細胞との識別は、細胞の試料が作用物質に曝露された後に行われる。
【0069】
さらに好ましい実施形態において、ステップb)は、試料を、少なくとも第3の蛍光色素または発光化合物で処理するステップをさらに含み、ステップc)は、電磁放射線の吸収と関連した分光学的特性を、少なくとも第3の蛍光色素または発光化合物によって検出するステップおよび前記分光学的特性を、インタクト細胞および/またはインタクトではない細胞の特徴または特性と相関させるステップをさらに含む。
【0070】
第3の蛍光色素または発光化合物の検出される分光学的特性は、式(I)の化合物の検出される分光学的特性と同様であり、かつ第2の蛍光色素または発光化合物の検出される分光学的特性とは違っていてもよく、ここで、第3の蛍光色素または発光化合物の検出される分光学的特性は、インタクト細胞の特徴または特性と相関する。
【0071】
第3の蛍光色素または発光化合物の検出される分光学的特性は、第2の蛍光色素または発光化合物の検出される分光学的特性と同様であり、かつ式(I)の化合物の検出される分光学的特性とは違っていてもよく、ここで、第3の蛍光色素または発光化合物の検出される分光学的特性は、インタクトではない細胞の特徴または特性と相関する。
【0072】
好ましくは、ステップc)において検出される分光学的特性は、電磁スペクトルの事前に定めた領域中の放射される蛍光であり、ステップc)は、式(I)の化合物、第2の、および任意選択により第3の、および任意のさらなる蛍光色素または発光化合物を電磁放射線で励起するステップを含む。
【0073】
有利には、式(I)の化合物、第2のおよび任意選択により第3の蛍光色素または発光化合物は、単一の電磁放射線源によって同時励起される。
【0074】
有利には、第3の蛍光色素または発光化合物の放射される蛍光は、i)好ましくは赤色および/または近赤外領域内の、式(I)の化合物の放射される蛍光のものと同様であり、ii)第2の蛍光色素または発光化合物の放射される蛍光のものとは違っている、電磁スペクトルの事前に定めた領域内にある。第3の蛍光色素は、Qdot705nm放射ナノ結晶であってもよい。
【0075】
有利には、第3の蛍光色素または発光化合物の放射される蛍光は、i)好ましくは橙色領域内の、第2の蛍光色素または発光化合物の放射される蛍光のものと同様であり、ii)式(I)の化合物の放射される蛍光のものとは違っている、電磁スペクトルの事前に定めた領域内にある。
【0076】
方法が、インタクト細胞とインタクトではない細胞とを識別する実施形態において、ステップc)は、フローサイトメトリーを使用して、および/または蛍光顕微鏡法を使用して実施されて、蛍光発光の細胞局在に関する情報を提供してもよい。蛍光強度、偏光、蛍光寿命、蛍光スペクトル、および標本または分析されている試料内のそのような性質の空間的配置を含むが排他的ではない蛍光シグナルの分析のために、様々なイメージングシステムが用いられてもよいことが理解される。
【0077】
ステップc)は、細胞からの光散乱の測定をさらに含んでもよい。しかしながら、有用な結果は、光散乱測定が実施されることを必要とせずに同様に得ることができる。
【0078】
測定は、時間分解されたデータを取得するために、例えば、細胞の完全性の発生した変化を調査するために、または第2のおよび/または第3の蛍光色素または発光化合物の存在と相関する特性によって決定される、識別されるインタクト細胞の変化を調査するために、ある期間にわたって行われてもよい。
【0079】
本発明の第4の態様によれば、インタクト細胞とインタクトではない細胞とを識別する方法であって、
a)細胞不透過性の蛍光色素または発光化合物を含有する生物学的に適合性の溶液を調製するステップ;
b)識別される細胞中の核酸および/または別の巨大分子材料に対する、細胞不透過性の蛍光色素または発光化合物の結合能よりも低い結合能(これは必ずではないが好ましくは、結合親和性に関連する)を有し、結果として、細胞不透過性の蛍光色素または発光化合物の存在下において、識別される細胞中の核酸および/または別の巨大分子材料に対する結合についてより低い効率で競合し、その結果、細胞透過性の蛍光色素または発光化合物が、インタクトではない細胞に対する結合から実質的に排除される、または細胞不透過性の蛍光色素または発光化合物によって遮蔽される、細胞透過性の蛍光色素または発光化合物を含有する生物学的に適合性の溶液を調製するステップ;
c)細胞の試料を、生物学的に適合性の1種または複数の溶液で処理するステップ;および
d)細胞不透過性の蛍光色素または発光化合物による電磁放射線の吸収と関連した分光学的特性を検出し、それをインタクトではない細胞の存在と相関させ、細胞透過性の蛍光色素または発光化合物による電磁放射線の吸収と関連した分光学的特性を検出し、それをインタクト細胞の存在と相関させるステップ
を含む方法が提供される。
【0080】
上記で論じた細胞透過性色素に加えて、以下の色素が、細胞透過性の蛍光色素または発光化合物として使用されてもよい(「数字/数字」は、最大励起対最大発光についての波長をnmで示す):
SYTOX色素より低い親和性を有し、生細胞に流入することができる細胞透過性のシアニン色素(SYTO核酸染色剤)、排他的ではないが好ましくは、SYTO(登録商標)40青色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)59赤色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)60赤色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)61赤色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)62赤色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)63赤色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)64赤色蛍光核酸染色剤、SYTOX(登録商標)青色核酸染色剤、SYTO(登録商標)40青色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)41青色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)42青色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)45青色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)80橙色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)81橙色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)82橙色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)83橙色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)84橙色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)85橙色蛍光核酸染色剤、SYTOX(登録商標)橙色核酸染色剤、SYTO(登録商標)10緑色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)9緑色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)BC緑色蛍光核酸染色剤、SYTOX(登録商標)青色死細胞染色剤、SYTOX(登録商標)緑色核酸染色剤、SYTO(登録商標)21緑色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)24緑色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)25緑色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)11緑色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)12緑色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)13緑色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)14緑色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)16緑色蛍光核酸染色剤、およびSYTO(登録商標)17赤色蛍光核酸染色剤。
DAPI:UV励起可能なDNA結合蛍光色素4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール、二塩酸塩(DAPI)(Ex358/Em46)または4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール、ジラクテート(DAPI、ジラクテート)
副溝結合Hoechst色素、排他的ではないが好ましくはHoechst 34580、青色蛍光(Ex352/Em461)AT選択的、副溝結合dsDNA選択的蛍光色素である五水和物としてのHoechst 33258(ビス-ベンズイミド)、青色蛍光(Ex350/Em461)AT選択的、副溝結合dsDNA選択的結合性の三塩酸塩、三水和物としてのHoechst 33342
核酸染色剤であるLDS751:(Ex543/Em712)(DNA)(Ex590/Em607)(RNA)
7-アミノアクチノマイシンD(7-AAD;Ex546/Em647)
RNAで赤色寄りの発光およびDNAでは緑色寄りの発光による細胞の異染色を示すアクリジンオレンジ
【0081】
上記で論じた細胞不透過性色素に加えて、以下の色素が、細胞不透過性の蛍光色素または発光化合物として使用されてもよい(「数字/数字」は、最大励起対最大発光についての波長をnmで示す):
TOTOファミリーシアニン二量体色素のシアニン二量体、排他的ではないが好ましくはTOTO(登録商標)-1ヨウ化物(514/533)、TO-PRO(登録商標)-1ヨウ化物(515/531)、TOTO(登録商標)-3ヨウ化物(642/660)
TO-PROファミリーの色素のシアニン単量体、排他的ではないが好ましくはYO-PRO-1(Ex491/Em509)、TO-PRO-(Ex515/Em531)、TO-PRO(登録商標)-3ヨウ化物(642/661)、TO-PRO(登録商標)-5ヨウ化物(745/770)、YOYO(登録商標)-1ヨウ化物(491/509)、YO-PRO(登録商標)-1ヨウ化物(491/509)、YOYO(登録商標)-3ヨウ化物(612/631)、YO-PRO(登録商標)-3ヨウ化物(612/631)。
核酸SYTOX色素、排他的ではないが好ましくはSYTOX青色(Ex445/Em470)、SYTOX緑色(Ex504/Em523)およびSYTOX橙色(Ex547/Em570)。
ヨウ化プロピジウム(PI;Ex530/Em625)および細胞不透過性臭化エチジウム(EthBr;Ex518/Em605)
7-アミノアクチノマイシンD(7-AAD;Ex546/Em647)
RNAで赤色寄りの発光およびDNAでは緑色寄りの発光による細胞のアクリジンオレンジ異染色。
【0082】
蛍光強度、偏光、蛍光寿命、蛍光スペクトルを含むが排他的ではない本発明を使用して得られる異なる蛍光シグナルの分析のために、様々な検出システムが用いられてもよいことが理解される。細胞イメージング方法は、標本内または分析されている試料のそのような性質の空間的配置および動態分析をさらに提供してもよいことがさらに理解される。
【0083】
本発明の第5の態様によれば、本発明の第3または第4の態様による方法において使用するための検出システムであって、
方法において使用される蛍光色素および発光化合物を励起するための1つまたは複数の電磁放射線源;
蛍光色素および発光化合物による電磁放射線の吸収と関連した分光学的特性を検出するための複数の検出器;および
検出される分光学的特性をインタクト細胞およびインタクトではない細胞の存在と相関させ、それによってインタクト細胞とインタクトではない細胞とを識別するように適合された検出器分析システム
を含むシステムが提供される。
【0084】
好ましくは、検出器は蛍光検出器である。
【0085】
非常に有利には、検出システムは、蛍光色素および発光化合物を同時励起するための単一の電磁放射線源を有してもよい。
【0086】
非常に有利には、複数の検出器は、蛍光色素および発光化合物のすべての分光学的特性を検出する検出器の対の形態である。
【0087】
本発明は、多様な範囲の細胞タイプおよび用途における細胞完全性の調査に適用され得る。細胞または細胞タイプが本明細書において言及される場合、細胞または細胞タイプは生きている真核細胞であることが好ましい。本発明は、すべての細胞タイプと併せて使用することができる。細胞は、以下の細胞タイプから制限なく選択することができる:
生検標本(例えば、細針吸引物による)として、組織外植片として、初代培養物(例えば、ヒト皮膚線維芽細胞)として、形質転換細胞系(例えば、SV40形質転換線維芽細胞)として、不死化細胞系(例えば、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素[hTERT]によって不死化された細胞系)として、または樹立腫瘍細胞系として得られる、ヒト細胞および哺乳動物細胞を含む動物細胞。
植物細胞および細菌細胞。
治療上、診断上および分析上興味深い特定の部位および疾患を表すもの、好ましくは、基質上での付着性増殖を示すことができるもの、例えば:脳がん、膀胱がん、乳がん、結腸および直腸がん、子宮内膜がん、腎臓がん(腎細胞)、白血病、肺がん、メラノーマ、膵臓がん、前立腺がん、皮膚がん(非メラノーマ)、甲状腺がんを含むヒト腫瘍細胞系。また、米国国立がん研究所(US National Cancer Institute)腫瘍細胞系パネルNCI-60(参照:http://dtp.nci.nih.gov/docs/misc/common_files/cell_list.html)において示されているものなどの、薬物スクリーニング方法論の目的のために常法に従って利用可能であるヒト腫瘍細胞系:
【0088】
【表1】
【0089】
生体異物分子の輸送体(例えば、肺がん系H522M、A549およびEKVXにおいて発現しているABCA3薬物輸送体)などの特定の分子的実体のそれらの機能的発現について選択されるヒト腫瘍細胞系、および遺伝子導入研究におけるそれらの好都合な性能について選択されるヒト腫瘍細胞(例えば、U2-OSヒト骨肉腫細胞)。
機能的ゲノミクス研究において使用される哺乳動物細胞系(例えば、NIH 3T3マウス細胞系)
脊椎動物の単細胞形態(例えば、ゼブラフィッシュであるダニオ(ブラキダニオ)・レリオ(Danio[Brachydanio]rerio)の解離した細胞調製物から得られる胚、幼生形態または細胞の構成要素)。
ADME/Tox(吸収、分布、代謝、排出/毒性)スクリーニングプロトコールにおいて使用される細胞系(例えば、HepG2などの肝細胞由来の細胞系)。
ヒトまたはマウス供給源から得られる胚性幹細胞。
成体幹細胞
中枢神経系のニューロンおよび/または支持細胞(例えば星状細胞、希突起膠細胞、小膠細胞およびシュワン細胞)。
抗体を分泌するハイブリッドを含む不死体細胞ハイブリッド(例えば、ハイブリドーマ)。
非幹細胞に対する幹細胞
有核細胞血液成分
老化細胞、非老化細胞、付着性細胞、非付着性細胞、静止細胞および非静止細胞。
【0090】
用途は、以下の分野の調査から制限なく選択することができる:
細胞における生理的変化による細胞完全性の変化(例えば、増殖期における分化または変化)。
疾患プロセスに反応する細胞における変化による細胞完全性の変化。
細菌およびウイルスを含む感染性病原体によって誘導される細胞完全性の変化
寄生体によって誘導される細胞完全性の変化。
物理的作用物質(例えば、電離および非電離放射線)に反応する細胞における変化による細胞完全性の変化。
光学活性な物理的作用物質(例えば、量子井戸を持つナノ粒子剤)または染色色素の組み込みによる細胞完全性の変化。
以下の目的のための、既知のまたは未知の生物活性剤に反応する細胞における変化による細胞完全性の変化:
毒素(例えば、重金属汚染)の環境センシングのためのモニターとしての細胞完全性の変化。
電子顕微鏡法または別の高解像度イメージングアプローチを使用する明確な分析のための、粒子の毒性負荷を保有する細胞が蛍光色素と同時局在することができるという利点を有するナノ粒子剤毒性の細胞完全性の変化。
毒素の検出(例えば、バイオセーフティーのためのエンドトキシンセンシング)のための細胞完全性の変化。
安全性モニタリング目的および迅速な診断のための、毒性のまたは有害な作用物質の検出のための細胞完全性の変化。
発酵プロセスの進行(例えば、醸造用途における酵母生活環)をモニターするための細胞完全性の変化。
バイオ医薬品調製プロセスの進行(例えば、サイトカイン生成)をモニターするための細胞完全性の変化。
細胞死(アポトーシスまたは壊死)と関連した状態移行を見分けるための細胞完全性の変化。
生理的および病理学的系における細胞周期進行の分析のための、細胞完全性の変化。
薬物スクリーニングまたは発見の目的のための薬力学的反応の分析。
内部プログラムの影響下での、または摂動剤(例えば、細胞骨格またはクロマチン調節剤)により強制される状態変化を受けるときの細胞構造および機能を調節する細胞のシステムの研究のための細胞完全性の変化
[参考文献]
【0091】
本発明を上記に記載したが、本発明は、上記に、または以下の記載、図面または特許請求の範囲において記載されている特徴の任意の発明の組み合わせに及ぶ。例えば、本発明の一態様の要素は、本発明の別の態様の要素と一緒に組み込まれてもよい。
【0092】
本発明による化合物、蛍光複合体、方法および検出システムの実施形態を、添付の図面を参照して以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0093】
図1】(a)いくつかの色素(b)式(IIA)の化合物(c)式(IA)の化合物についての励起および蛍光スペクトルの略図である。
図2】(a)生細胞および(b)死細胞と併せて本発明の細胞透過性色素および細胞不透過性色素の組み合わせを使用して得られる蛍光の略図である。
図3】本発明の細胞透過性/細胞不透過性色素の組み合わせに基づく、様々なマルチカラー色素の組み合わせについての蛍光スペクトルの略図であり、詳細には(a)は、生細胞における3パラメータ2色検出スキームを示し、(b)は、死細胞についての3パラメータ2色検出スキームを示し、(c)は、マルチカラー検出スキームを示す。
図4】式(IA)の化合物およびAnnexin Vの組み合わせを使用した検出システムから得られる蛍光の略図である。
図5】式(IA)の化合物/化合物(IIA)色素の組み合わせを使用した検出システムを介して得られる蛍光の略図である。
図6】2色3蛍光色素検出システムから得られる蛍光の略図である。
図7】3色4蛍光色素検出システムから得られる蛍光の略図である。
図8】式(IA)の化合物についての吸光度および発光スペクトルを示す図である。
図9】(a)対数目盛においてPI蛍光強度を示すヨウ化プロピジウム(PI)、(b)線形目盛において式(IA)の化合物蛍光強度を示す式(IA)の化合物、(c)対数目盛において式(IA)の化合物蛍光強度を示す式(IA)の化合物と組み合わせて、Annexin V-FITCを使用した実験から得られる蛍光を示す図である。
図10】式(IA)の化合物を使用した、固定したU-2OSヒト骨肉腫細胞の顕著な核染色を示す図である。
図11】式(IA)の化合物を使用した、膜が損なわれている細胞の染色を示す図である。
図12】式(IA)の化合物の低毒性を明らかにする、ヒトB細胞リンパ腫細胞のインキュベーションの作用を示す図である。
図13】スタウロスポリンに反応するヒトJurkat細胞死における初期段階細胞死ならびに対応するミトコンドリアおよび原形質膜完全性の喪失を示す図である。
図14】同時標的化した蛍光プローブ化合物(IA)(死細胞)および化合物(IIA)(生細胞)による細胞状態の組み合わせ追跡を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0094】
本発明は、透過性色素および不透過性色素の組み合わせを使用した、生細胞および死細胞を標識する手段を提供する。色素のこの組み合わせは、透過性色素の検出は、生細胞の存在と関連することができ、細胞不透過性色素の検出は、死細胞の存在と関連することができるという意味において、実質的に相互に排他的であり得る。この原理を、下記のTable 1(表2)に示す。
【0095】
【表2】
【0096】
Table 1. 細胞透過性/細胞不透過性色素の検出による生細胞/死細胞の陽性標識。
【0097】
したがって、本発明は、色素間で「チャネル間(cross channel)」干渉がほとんどまたは全くないため、生細胞を細胞透過性色素からの蛍光と関連させること、および死細胞を細胞不透過性色素からの蛍光と関連させることを可能にする。このことは、非常に多くの有利な2色2蛍光色素実験を実施する機会をもたらすことが理解されるであろう。そのうえ、本発明者らは、このタイプの色素の組み合わせがまた、1つまたは複数のさらなる蛍光色素を使用した様々な有利な実験を実施するためのプラットホームも提供することに気付いた。Table 2(表3)は、このタイプの検出システムの例を、式(IIA)の化合物/式(IA)の化合物の特定の細胞透過性/細胞不透過性色素の組み合わせに関して、限定することなく示す。
【0098】
【表3】
【0099】
Table 2. 細胞透過性/細胞不透過性色素の組み合わせと一緒に使用して、陽性または陰性染色パターンを予測することができる蛍光プローブの例。
【0100】
これらの可能な検出システムおよび別のものを、図1〜9に関して以下により詳細に説明する。図1は、式(IIA)の化合物(B)(518/615nmにおけるEx/Emピーク)、および式(IA)の化合物(A)(620/660nmにおけるEx/Emピーク)の励起および蛍光スペクトルを概略的に(すなわち、略図によって)示す。したがって、式(IIA)の化合物蛍光は概して、可視スペクトルの橙色部分内にあるが、化合物(IA)蛍光は概して、可視スペクトルの遠赤外部分内にある。図1bは、式(IIA)の化合物単独の蛍光スペクトルを示す。式(IIA)の化合物は細胞透過性色素であり、したがって、蛍光サインBが、生細胞または死細胞と関係するであろうことが予期される。図1cは、化合物(IA)単独の蛍光サインAを示す。化合物(IA)は細胞不透過性色素であり、したがって、蛍光サインAは、死細胞または瀕死のおよび生きていない細胞と関係して観察されるのみであるだろう。図2aは、生細胞と併せて、細胞透過性色素(式(IIA)の化合物など)および細胞不透過性色素(化合物(IA)など)の特定の組み合わせが使用される場合に得られる蛍光を示す。おそらく予期されるように、観察されるのは、細胞透過性色素と関連した蛍光サインBのみである。図2bは、式(IIA)の化合物/化合物(IA)の組み合わせなどの細胞透過性/細胞不透過性色素の特定の組み合わせが使用される場合に、本発明によってもたらされる全く予期しない作用を示す。観察される蛍光の顕著な寄与は、式(IIA)の化合物色素から発することが予期され得る。しかしながら、死細胞で、式(IIA)の化合物色素からほとんどまたは全く蛍光が観察されないことが見出された。それどころか、観察される蛍光のすべてまたは事実上すべては、細胞不透過性色素である化合物(IA)によるものである。したがって、化合物(IA)色素は、式(IIA)の化合物シグナルを消光するようである。非常に驚くべきことに、式(IIA)の化合物シグナルのこの消光は、細胞核内のみでなく細胞の全体にわたって起こるようである。任意の特定の理論に拘束されるつもりはないが、本発明によってもたらされる驚くべき消光作用は、死細胞中の核酸およびことによると別の巨大分子材料に対する、細胞不透過性色素のものよりも高い結合親和性を有する細胞不透過性色素によるものである可能性があると考えられる。しかしながら、別の機構が役割を果たす可能性がある。結論として、1つのスペクトル領域Aにおける蛍光が死細胞と関連し、別のスペクトル領域Bにおける蛍光が生細胞と関連する、細胞の状態を示すための「信号灯(traffic light)」システムを提供することが可能である。
【0101】
このシステムの1つの有用な重要性は、スペクトル領域AおよびBにおいて2色検出を使用して第3の検出チャネルを提供することが可能であることである。図3は、特定の細胞透過性/細胞不透過性色素の組み合わせ式(IIA)の化合物/化合物(IA)に関して、3チャネル2色検出システムがどのように提供されるかのいくつかの例を示す。図3aは、スペクトル範囲AおよびBを使用して生細胞において検出される蛍光を示す。範囲Bにおける蛍光は、前述の通り、式(IIA)の化合物からの発光と関連する。このスキームにおいて、式(IIA)の化合物は、化合物(IA)および、好ましくはQdot705nm放射ナノ結晶などのインタクト細胞と関連する、さらなる赤色色素または発光剤と組み合わせて使用される。このシステムは、陽性の式(IIA)の化合物シグナルを提供する細胞が、化合物(IA)のために赤色においてシグナルを示さず、生細胞として陽性に特定することができるということを利用する。本発明は、橙色で式(IIA)の化合物蛍光によってこのように「タグ付け」された生細胞が、化合物(IA)発光からの干渉のない赤色領域Aにおいて潜在的な検出チャネルを有することを包含する。図3bは、式(IIA)の化合物蛍光からの干渉が実質的にない橙色領域Bにおいて、死細胞における潜在的な検出チャネルが存在することを利用する検出スキームを表す。図3bにおいて示されているように、赤色スペクトル領域Aにおける化合物(IA)蛍光の存在は、細胞を死細胞として効率的に「タグ付け」する。第2の橙色色素が使用されるなら、図3bにおいて示されているものなどの蛍光スペクトルを得ることができ、ここで、第2の橙色色素を使用して、死細胞についてのさらなる情報を提供することができる。このタイプの3蛍光色素2色検出システムを利用することは、比較的単純な検出システムを使用して大量の情報を抽出することができるため、非常に好都合である。しかしながら、本発明は、電磁スペクトルの2つを超える領域における蛍光を利用するマルチカラー色素の組み合わせの使用を含む。図3cは、スペクトル領域AおよびBとは異なるスペクトル領域において蛍光を発する1つまたは複数の色素が使用される汎用のマルチカラー色素蛍光スキームを表す。
【0102】
図4は、緑色スペクトル領域において蛍光を発するAnnexin V-FITCなどのAnnexin Vアッセイと組み合わせて化合物(IA)を利用する検出システムから得られ得る結果を示す。色素のこの組み合わせは、アポトーシスと関係した細胞死の段階の増強された識別を提供する。図4において示されているように、弱い化合物(IA)/弱いAnnexin Vシグナルは、正常な細胞の指標となる。アポトーシス細胞は、弱い化合物(IA)シグナルと組み合わせた増加したAnnexin Vシグナルによって示される。細胞死の開始は、強いAnnexin Vシグナルと制限された化合物(IA)シグナルの両方の存在によって示される。追加の識別は、細胞残屑の指標となる、弱いAnnexin Vシグナルおよび強い化合物(IA)シグナルを含むチャネルによって提供される。
【0103】
図5は、図4において示されているものと同じ一般的なタイプのプロットであり、これはこの場合、式(IIA)の化合物/化合物(IA)色素の組み合わせを利用する検出システムにおける蛍光強度を示す。この場合もやはり、あるレベルの識別が、細胞死までの細胞の進行において観察される。より詳細には、弱い化合物(IA)蛍光シグナルが報告される場合、3つの違う「チャネル」を特定することができる。弱い化合物(IA)シグナルと組み合わせた式(IIA)の化合物についての橙色での陽性シグナルは、正常な細胞の指標となるが、増強された式(IIA)の化合物シグナルは、停止した細胞の指標となる。化合物(IA)および式(IIA)の化合物の両方についての陰性シグナルは、細胞残屑の指標となることに留意されたい。陰性の式(IIA)の化合物シグナルと組み合わせた陽性の化合物(IA)シグナルは、死細胞の指標となる。潜在的に、利用可能な2つのさらなるチャネル、すなわち、強い赤色シグナルと、強い橙色または増強された橙色シグナルのいずれかとの組み合わせが存在することを、図5の考察から当業者は認識するであろう。強いまたは増強された橙色シグナルは生細胞の存在と関連するため、これらの橙色シグナルと組み合わせた強い化合物(IA)シグナルを得ることは不可能である。その代わり、Qdot705nm放射ナノ結晶などの赤色領域において蛍光を発する第3の蛍光色素を利用して、2色3蛍光色素分析システムを提供することが可能である。そのようなシステムでの利点は、例えばArイオンレーザーからの488nm放射線を使用して、単一のレーザー色を使用してすべての3つの蛍光色素を励起してもよいことである。
【0104】
図6は、図5において示されているものと同じ一般的なタイプのプロットであり、化合物(IA)および式(IIA)の化合物と組み合わせてQdot705nm放射ナノ結晶を使用した2色3蛍光色素分析システムを表す。Qdotナノ結晶からの赤色スペクトル領域における蛍光が、生細胞からの化合物(IA)蛍光の非存在のおかげで利用可能となる2つのチャネルにおいて観察されることが分かる。
【0105】
図7は、式(IIA)の化合物/化合物(IA)細胞透過性/細胞不透過性色素の組み合わせに基づく3色システムから得ることができる結果を示す。この実施形態において、式(IIA)の化合物蛍光の検出によって陽性に標識される生細胞をプローブするために、スペクトルの赤色領域において蛍光を発するQdot705nm放射ナノ結晶などの第3の蛍光色素が使用される。加えて、Annexin V-FITCなどの第4の蛍光色素もまた使用され、検出は、スペクトルの緑色領域において行われる。この検出構成は、2レーザー3色4蛍光色素分析技術と特徴付けることができる。図7において示されているように、そのようなシステムから得られ得る結果は、3軸システムを使用して表現して、3色範囲において得られる蛍光を表すことができる。したがって、得られる結果はデータの3次元体積の点から理解することができ、これは正常な状態からアポトーシスおよび細胞死までの細胞の推移において、増強されたレベルの識別を提供する。詳細には、弱い化合物(IA)シグナルと、増強された式(IIA)の化合物シグナルと、強いAnnexin V-FITCシグナルとの組み合わせは、停止した細胞およびアポトーシス細胞の両方の指標となり、一方、強い化合物(IA)シグナルと、弱い式(IIA)の化合物シグナルと、強いAnnexin V-FITCシグナルとの組み合わせは、死細胞の指標となる。このシステムは、細胞プロセスに関する相当量の情報を提供することができることが分かる。すべての細胞は、図7に表されている検出体積中に存在することに留意するべきである。結果を解釈するために、適したマルチカラー分析を実施することができる。異なるまたはさらなるレベルの識別および情報を提供するために、蛍光色素の別の組み合わせが使用されてもよい。原理上は、さらなる情報を提供するために、さらなる蛍光色素がなお利用されてもよい。さらなる蛍光色素は、異なるスペクトルまたは領域において蛍光を発して、追加の色チャネルを提供することができ、またはことによると、橙色または緑色スペクトル領域において蛍光を発する蛍光色素が使用されてもよく、ただし、そのような追加の蛍光色素の検出特徴は式(IIA)の化合物またはAnnexin V-FITC検出チャネルを妨げない。細胞変化プロセスを追跡するために、緑色および/また
はシアン色素が使用されてもよい。
【実施例1】
【0106】
式(IIA)の化合物[1,5-ビス{[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミノ}アントラセン-9,10-ジオン]および式(IB)の化合物[1,5-ビス{N-[2-(トリメチルアミノ)エチル]アミノ}アントラセン-9,10-ジオンヨウ化物]の合成
1,5-ビス{[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミノ}アントラセン-9,10-ジオンを、WO99/65992の実施例1に従って合成した。クロロホルム(2mL)を、1,5-ビス{[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミノ}アントラセン-9,10-ジオン(58mg、0.152mmol)に添加した。暗紫色溶液に、MeCN(1ml)、続いてヨウ化メチル(95μl、1.524mmol)を添加した。10分間の撹拌後、沈殿物が形成する。4時間の撹拌後、揮発性物質を蒸発させた。残渣をクロロホルム(5ml)から摩砕し、濾過によって回収し、ジクロロメタン(20ml)およびジエチルエーテル(10ml)で洗浄した。暗いピンク色の固体が単離された(0.09g、0.135mmol、89%収率)。1H NMR(400MHz, d6-DMSO) δ: 9.69(2H, t)、7.72(2H, dd)、7.52(2H, dd)、7.30(2H, dd)、3.91(4H, q)、3.62(4H, t)、3.18(18H, s)
【実施例2】
【0107】
式(IA)の化合物[1,5-ビス{[2-(トリメチルアミノ)エチル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオンヨウ化物]の合成
1,5-ビス{[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオンを、WO99/65992の実施例1に従って合成した。クロロホルム(2mL)を、1,5-ビス{[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオン(44mg、0.107mmol)に添加した。暗紫色溶液に、MeCN(2ml)、続いてヨウ化メチル(66.6μl、1.067mmol)を添加した。1分間の撹拌後、沈殿物が形成する。4時間の撹拌後、揮発性物質を蒸発させた。残渣をクロロホルム(5ml)から摩砕し、濾過によって回収し、ジクロロメタン(20ml)およびジエチルエーテル(10ml)で洗浄した。暗青色固体が単離された。収率=173-012(0.05g, 0.068mmol, 63.9%収率) 1H NMR(400MHz, d6-DMSO) δ: 13.97(2H, s)、9.77(2H, br t)、7.49(2H, d)、7.40(2H, d)、3.96(4H, br q)、4.09(4H, t)、3.19(18H, s)
【実施例3】
【0108】
化合物(IA)のスペクトル特性
化合物(IA)を、実施例2に記載されている原理を使用して合成し、緩衝液中の5mM化合物(IA)希釈のストック溶液として+4℃で保存した。吸光度スペクトルを、分光計およびPBS中に溶解させた作用物質の20μM溶液を使用して得、および1cm光路石英シリカキュベットにおいて測定した。1cm光路長セミマイクロ石英キュベットにおける20μM化合物(IA)の溶液についての蛍光スペクトルを、633、589、534、488nmでの励起によって決定した。蛍光測定は、Perkin Elmer LS50分光蛍光計においてスリット幅を10nmに設定して行った。分光蛍光計は、赤色感受性の光電子倍増管(タイプR928;浜松ホトニクス株式会社(Hamamatsu Photonics KK)、日本)を備えていた。データを蓄積し、スプレッドシートにエクスポートして、緩衝液対照について補正し、発光最大を決定した。結果を、図8に示す。化合物(IA)の488nm(フローサイトメトリーにおいて)から647nmまでの波長(Exλmax 646nm)による励起は、最適に及ばなくてもよい。典型的には、細胞イメージングでは、励起は633nmまたは647nmのいずれかの波長で実施される。発光スペクトルは、励起波長と無関係であり、すなわち、すべての発光スペクトルは、励起波長に関係なく同一である。
【実施例4】
【0109】
細胞死の誘導のためのAnnexin Vアッセイにおける生細胞と死細胞とを区別するための化合物(IA)の細胞不透過特性の適用
この実施例は、細胞毒性薬物(VP-16)に曝露させたヒトB細胞リンパ腫(DoHH2)細胞中の原形質膜のホスファチジルセリン分子の内部(細胞質の)小葉からの移動と関連する、より後の段階の細胞死に関する。アポトーシスの用量依存的な誘導の検出を、フローサイトメトリーを使用して実施した。
【0110】
本発明者らは、選択的励起を使用することによる、別の一般に使用される蛍光色素のもの由来の深紅色蛍光プローブを使用することのスペクトルの利点を含めて、エトポシド(VP-16)によって誘導されたアポトーシスの結果として膜透過性が増強された細胞に起因する生存不能な部分を決定する細胞生存可能性マーカーとしての、化合物(IA)の適用を実証しようとした。
【0111】
化合物IAは、ヨウ化プロピジウムと同様の精度で生存不能な部分を検出することができた。この部分は、エトポシドの用量増加に対して用量依存的な増加を示した。タイミングを調節した取り込みを行い、化合物(IA)標識を最適化した。用量変更もまた実施して、化合物(IA)の最適な濃度を決定した。
【0112】
試薬
VP-16(VP-16-213;VEPESID;エトポシド)は、34mMストック溶液(Bristol Meyers Pharmaceuticals、Syracuse、NY)として提供され、4℃で保存した。フルオレセインコンジュゲートアネキシンV(アネキシンV-FITC)は、Pharmingen(Becton Dickinson UK、Oxford、UK)から購入した。ヨウ化プロピジウム(PI)は、H2O中の1mg/ml溶液(Molecular Probes Europe、Leiden、オランダ)として得た。化合物(IA)は、水中に5mM溶液として配合し、4℃で保存した。
【0113】
細胞培養および薬物処理:ヒト濾胞性Bリンパ腫細胞系をこの研究において使用した。DoHH2は、JC Kluin-Nelemans博士[Leiden、オランダ]の好意により提供され、DoHH2は、5%FCSおよび100U ml-1ペニシリン、100μg ml-1ストレプトマイシン、および2mMグルタミンを添加したRPMI1640中で常法に従って維持した。細胞を、37℃で5%CO2/95%空気の加湿した雰囲気中で培養した、5×104細胞ml-1の開始濃度で、1週間に2回継代した。細胞を、様々なVP-16用量(0〜2.5μM)に曝露させて、アポトーシスを誘導した[Paul J. Smith、Marie Wiltshire、Sharon Davies、Suet-Feung Chin、Anthony K. Campbell、およびRachel J. Errington(2002). DNA damage-induced[Zn2+]i transients: correlation with cell cycle arrest and apoptosis in lymphoma cells. Am J Physiol Cell Physiol 283(2): 609〜622]。ヒトJurkat細胞を同様にして培養した。
【0114】
Annexin-V標識のための試料調製;アポトーシス変化を受けている細胞に対するAnnexin V-FITC表面結合の検出ために試料を調製し、PIまたは化合物(IA)で共染色して原形質膜完全性の喪失を検出した。試料を、Vermesらに従って調製した。手短に述べると、細胞試料(4×105細胞/ml)を冷PBSで洗浄し、1×結合緩衝液(10mM Hepes/NaOH、pH7.4、140mM NaCl、2.5mM CaCl2)中に2×105細胞/mlの濃度で再懸濁した。この溶液100μlを、試料毎にポリスチレン丸底フローチューブ(Falcon)に移し、これにAnnexin V-FITC5μlおよび10μlのPI(50μg/mlストック)を要求に応じて添加した。対照試料は、必要に応じて疑似処理した。試料を穏やかにボルテックスにかけ、次いで暗所で15分間、室温でインキュベートした。1×結合緩衝液400μlを、各チューブに添加し、フローサイトメトリーによる分析の前に試料を最長で1時間氷上に保持した。
【0115】
フローサイトメトリー:488nmおよびマルチラインUV(351〜355nm)出力を有するCoherent Enterprise IIアルゴンイオンレーザー(Coherent, Inc.、Santa Clara、CA)を備えたFACS Vantageフローサイトメーター(Becton Dickinson Immunocytometry Systems、San Jose、CA)を使用した。Enterprise IIレーザー出力は30mWに制御した(マルチラインUV出力においてモニターした)。CELLQuestソフトウェア(Becton Dickinson Immunocytometry Systems)を、シグナル取得および分析のために使用した。前方散乱(FSC)および側方散乱(SSC)を線形モードにおいて取得した。488nm励起から得られるFITCおよびPI蛍光シグナルを、光学フィルターによってスペクトルで選択される発光を検出する光電子倍増管で対数モードにおいて検出した;488nm励起から得られる化合物(IA)シグナルは、対数または線形モードにおいて検出したが、光学システムに好都合に組み込まれた第3のレーザーを使用して633nmでの励起に続いても検出することができる。488nmでの励起から得られる式(IIA)の化合物シグナルを、対数または線形モードの両方において検出した。前方および側方散乱ならびに蛍光についてのシグナルを、マスターシグナルとして前方光散乱パラメータを使用して10,000細胞について回収した。当技術分野において容易に理解されるように、蛍光シグナルのパルス分析および蛍光補正設定を変更して、マルチ蛍光組み合わせにおける細胞部分集合の認識を改善した。データは、平均蛍光強度(FI)値として表し、図9において示す。
【実施例5】
【0116】
蛍光顕微鏡法によって検出される、式(IA)の化合物による固定したU-2OSヒト骨肉腫細胞の顕著な核染色。
本発明者らは、核のDNAを効率的に標的化する化合物(IA)の特性を求めた。
【0117】
細胞培養:ヒト骨肉腫細胞U-2OS(ATCC HTB-96)細胞(付着性)を、10%ウシ胎児血清(FCS)、1mMグルタミン、および抗生物質を添加したMcCoy’s 5a培地中で培養し、37℃で空気中5%CO2の雰囲気中でインキュベートした。蛍光イメージング実験のために、細胞を、1×105細胞ml-1の密度で単層としてカバーグラス底のチャンバー(Nunc、2 Well Lab-Tek II、Fisher Scientific)において増殖させた。
【0118】
イメージング:24時間後、次いで細胞をPBS中で4%パラホルムアルデヒドで15〜30分間室温で固定した。洗浄ステップは必要とされない。任意の処理の後に、最後の染色手順であるために適切なように化合物(IA)を使用した。化合物(IA)を、付着性細胞の0.5ml PBS上層中に20μMで直接添加した。細胞を、広視野の蛍光顕微鏡法を使用して直接検鏡した。チャンバーを、Axiovert100顕微鏡(Carl Zeiss、Welwyn Garden City、UK、および40×、1.3NA油浸系アポクロマートレンズを使用)に置いた。蛍光画像(Ex:620/60nm;Em700/75nm)は、ORCA-ER CCDカメラ(Hamamatsu、Reading、UK)およびMetaMorph(MDS、USA)取得ソフトウェアを使用して取り込んだ。細胞は、核において高レベルの化合物(IA)の局在化を示した。核の化合物(IA)染色を、核を表す単純な閾値アルゴリズムを使用してセグメント化し、それぞれの核(対象物)局在化のバイナリまたはマスク情報を提供した。もとの化合物(IA)核の局在化およびセグメント化後を示す。結果を図10において示す。
【実施例6】
【0119】
式(IA)の化合物による膜が損なわれている細胞の染色は、インタクト細胞の陰性染色による特定を可能にする。
この実施例は、フローサイトメトリーによって分析されるヒトJurkat細胞集団におけるスタウロスポリンによる細胞死誘導の分析を示す。本発明者らは、スタウロスポリンにより誘導された細胞死の結果として膜透過性が増強された細胞に起因する生存不能な部分を決定する細胞生存可能性マーカーとしての、化合物(IA)の適用を実証しようとした。
【0120】
細胞培養および薬物処理:Jurkat細胞系をこの研究において使用した。Jurkat培養物を、10%FCSおよび100U ml-1ペニシリン、100μg ml-1ストレプトマイシン、および2mMグルタミンを添加したRPMI1640中で常法に従って維持した。細胞を、37℃で5%CO2/95%空気の加湿した雰囲気中で培養した5×104細胞ml-1の開始濃度で、1週間に2回継代した。細胞をフラスコ当たり5mlで、0.5×105細胞/mlに設定した。細胞を、0および2μMスタウロスポリンに24時間、標準的な培養条件下で曝露させて、細胞死を誘導した。5mMストックから化合物(IA)(3μM)を、各試料に添加し、フローサイトメトリーによって分析した。
【0121】
フローサイトメトリー:488nmおよびマルチラインUV(351〜355nm)出力を有するCoherent Enterprise IIアルゴンイオンレーザー(Coherent, Inc.、Santa Clara、CA)を備えたFACS Vantageフローサイトメーター(Becton Dickinson Immunocytometry Systems、San Jose、CA)を使用した。Enterprise IIレーザー出力を、30mWに制御した(マルチラインUV出力においてモニターした)。CELLQuestソフトウェア(Becton Dickinson Immunocytometry Systems)を、シグナル取得および分析のために使用した。前方散乱(FSC)および側方散乱(SSC)を線形モードにおいて取得した。488nm励起から得られる化合物(IA)蛍光シグナルを、FL3 695LPで対数モードにおいて検出した。前方および側方散乱および蛍光についてのシグナルを、マスターシグナルとして前方光散乱パラメータを使用して10,000細胞について回収した。データは、細胞の大きさを示すための前方散乱シグナルに対する化合物(IA)についての等高線図蛍光強度(695LP)として表示する。結果を、図11において示す。
【実施例7】
【0122】
所与の処理と関連した細胞死の発生を決定するための長期生細胞インキュベーション研究への組み込みのために有利な特性を示す、細胞不透過性色素の低毒性を明らかにする、式(IA)の化合物によるヒトB細胞リンパ腫(SU-DHL-4)細胞のインキュベーションの作用。
細胞培養および処理:ヒト濾胞性Bリンパ腫細胞系をこの研究において使用した。SU-DHL-4を、10%FCSおよび100 U ml-1ペニシリン、100μg ml-1ストレプトマイシン、および2mMグルタミンを添加したRPMI1640中で常法に従って維持した。細胞を、37℃で5%CO2/95%空気の加湿した雰囲気中で培養した5×104細胞ml-1の開始濃度で、1週間に2回継代した。細胞をフラスコ当たり5mlで、0.5×105細胞/mlに設定した。各培養物を、3つの化合物(IA)用量(0, 3および10μM)のうちの1つに、標準的な培養条件下で96時間、継続的に曝露させた。時間(t)0、24、48、72および96時間で、細胞密度を、各フラスコの0.4ml試料のCoulter計数によって決定した。データは、所与の濃度の化合物(IA)について時間(時間)に対する相対的細胞数(Nt/N0)(695LP)の増加として表示する。結果を、図12に示す。
【実施例8】
【0123】
アポトーシス誘導剤スタウロスポリンに反応するミトコンドリア膜潜在能の喪失と関連したヒトJurkat細胞死における初期段階。
インタクト細胞と損傷細胞とを区別する手段を提供するための、アッセイへの同時組み込みのための利点を有する、細胞の完全性の喪失の報告における、対象とする特性を有する別の蛍光試薬を使用した、典型的なマルチパラメータ分析への好ましい細胞不透過性色素(式(IA))の化合物の組み込み。
【0124】
この実施例において、色素JC-1(5,5’,6,6’-テトラクロロ-1,1’,3,3’-テトラエチルベンゾイミダゾール-カルボシアニンヨウ化物)は、ミトコンドリア膜中に組み込まれる親油性蛍光カチオンであり、膜中でこの色素は、ミトコンドリアの生理的維持の膜潜在能のために凝集物を形成し得る。凝集は、JC-1の蛍光特性を変更し、緑色から橙色蛍光への変化をもたらす。フローサイトメトリーまたはイメージングを使用して、橙色蛍光の減少および緑色蛍光の増加をモニターし、アポトーシス細胞が非アポトーシス細胞と区別されることを可能にした。ここで、赤色を有するが橙色蛍光特性を有さない好ましい細胞不透過性色素のさらなる組み込みにより、膜完全性の喪失と関連した細胞死の後期段階に既にある細胞の同時特定が可能となり、以前には到達不可能だった細胞死の段階のより微細な解明を提供する。
【0125】
細胞培養および薬物処理: Jurkat細胞系をこの研究において使用した。Jurkat培養物を、10%FCSおよび100U ml-1ペニシリン、100μg ml-1ストレプトマイシン、および2mMグルタミンを添加したRPMI1640中で常法に従って維持した。細胞を、37℃で5%CO2/95%空気の加湿した雰囲気中で培養した5×104細胞ml-1の開始濃度で、1週間に2回継代した。アッセイのために、細胞を、1ウェル当たり1mlで、0.5×105細胞/mlに設定した。細胞を、0(対照条件)および1μMスタウロスポリンに4時間曝露させた。細胞を洗浄し、JC-1(RPM)に曝露させた。5mMストックから化合物(IA)(3μM)を、各試料に添加した。これらを次いで、フローサイトメトリーによって分析するか、またはNunc、2Well Lab-Tek II(Fisher Scientific)に置き、3チャネル共焦点顕微鏡法によって分析した。
【0126】
スタウロスポリン処理した細胞のマルチパラメータフローサイトメトリー。FACS Vantageフローサイトメーター(例えば上記のような)。前方散乱(FSC)および側方散乱(SSC)を線形モードにおいて取得した。JC-1の2パラメータ蛍光シグナルは、488nm励起から得られ、対数モードにおいて検出した。緑色J-単量体は、FL1(530/30nm発光)を使用して検出した;橙色J-凝集物は、FL2(585/42nm発光)を使用して検出した。488nm励起からまた得られる化合物(IA)蛍光シグナルを、695LPでFL3で対数モードにおいて検出した。前方および側方散乱および蛍光についてのシグナルを、マスターシグナルとして前方光散乱パラメータを使用して10,000細胞について回収した。結果を図13に示す(A〜C)。JC-1データは、J-単量体についての蛍光強度(530/30nm)に対するJ-凝集物についての等高線図蛍光強度(585/42nm)として表示する。これらをさらにセグメント化し、強いミトコンドリア膜潜在能(上部の領域)を有する細胞および低いミトコンドリアの潜在能(下部の領域)を有する細胞を得る。細胞生存可能性を、化合物(IA)によるこれらの2つの部分において同時に表す。上部の領域は、主に生細胞からなり、下部の領域は生存不能な細胞および生細胞の両方からなり、化合物(IA)機能性は、これらの小部分(初期(化合物(IA)陰性)および後期アポトーシス(化合物(IA)陽性および透過性)を表し得る。
【0127】
スタウロスポリン処理した細胞のマルチパラメータイメージング。スキャニング装置は、プランアポ60×/1.4NA油浸レンズを使用した、Nikon Eclipse TE300倒立顕微鏡と連結したBioRad Radiance MPシステム(BioRad Microscience、Hemel Hempstead、UK)であった。3チャネル3次元(3D)(x,y,z)画像を、共焦点構成(ピンホールを閉じる)を使用して回収した。すべてのチャネル緑色(J-単量体、488nmでの励起、500〜530nmでの発光);橙色(J-凝集物、488nmでの励起、590/70での発光);および赤色(化合物(IA))(生存不能な細胞マーカー、637nmでの励起、660LPでの発光)を同時に回収した。3D画像シーケンスを処理して単一の最大値投影像にし、すべての3チャネルを、J-単量体、J-凝集物およびDNA核細胞として表示した。結果を、図13(D)において示す。
【0128】
本発明者らは、好ましい細胞不透過性色素と第2の好ましい細胞透過性色素との標的競合によるシグナル消光の概念を利用するマルチ蛍光色素適用の利用を求めた。スペクトルの分離は、任意の所与細胞内で1つの色素のみから生じる排他的シグナルを提供し、したがって、当分野の範囲内で容易に理解される多色分析のより高いレベルでの既存のマルチ蛍光色素アッセイへのそれらの単純な統合を可能にする。
【実施例9】
【0129】
細胞状態の組み合わせ追跡。生存可能な/停止した(化合物(IIA)陽性)および損傷した(化合物(IA)陽性)細胞を明らかにするアッセイを得るための、VP-16で処理したDoHH2培養物における部分集団が同時標識されないことを実証するための、式(IA)の化合物に加えて化合物(IIA)による細胞集団の標識。
細胞培養および薬物処理:ヒト濾胞性Bリンパ腫細胞系をこの研究において使用した。DoHH2を、5%FCSおよび100U ml-1ペニシリン、100μg ml-1ストレプトマイシン、および2mMグルタミンを添加したRPMI1640中で常法に従って維持した。細胞を、37℃で5%CO2/95%空気の加湿した雰囲気中で培養した5×104細胞ml-1の開始濃度で、1週間に2回継代した。細胞を5×105細胞/mlに設定し、VP-16用量(0.25μM)に曝露させてアポトーシスを誘導した。20μM化合物(IIA)および4μM化合物(IA)を、1mlの細胞に添加し、標準的な培養条件下で10分間インキュベートした。試料をフローサイトメトリーによって分析した。
【0130】
FACS Vantageフローサイトメーター(例えば上記のような)を使用した。488nm励起から得られる化合物(IIA)および化合物(IA)蛍光シグナルを、化合物(IIA)(585/42nmフィルター)についてFL2で線形モードにおいて検出した;488nmから得られる化合物(IA)シグナルを、695LPフィルターでFL3およびFL1/2 560nm SP二色性SPで線形モードにおいて検出し、散乱特性を決定した。前方および側方散乱および蛍光についてのシグナルを、マスターシグナルとして前方光散乱パラメータを使用して10,000細胞について回収した。データは、等高線図として表し、図14において示す。側方対前方散乱の等高線図は、2つの細胞集団を表す。化合物(IIA)および化合物(IA)の添加は、これらの培養物の機能的状態をもたらす。まず、すべての細胞を、これらの2つの同時標的化フルオロフォアを使用してアッセイにおいて評価する。化合物(IA)はインタクトではない細胞部分を特定し、一方、化合物(IIA)陽性細胞は、生細胞(生存可能な)部分に相当する。この生存可能な部分は、停止した(G2)集団の発生をさらに表す2つの集団を有することに留意されたい。さらに、化合物(IIA)部分は、より高い前方散乱特性(すなわち細胞の大きさ)を有する特有の部分に相当し、一方、化合物(IA)集団は、より低い平均前方散乱特性を表示した。
図1
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