【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、その実施形態の少なくともいくつかにおいて、上述した問題および必要性に対処する。特に、本発明は、その実施形態の少なくともいくつかにおいて、改善された細胞不透過性色素を提供し、細胞不透過性色素および細胞透過性色素を使用した生/死細胞識別のために使用することができる改善されたシステムをさらに提供する。いくつかの実施形態において、本発明は、遠赤外(例えば660nmを超える波長または690nmを超える波長)における好ましい発光を有し、橙色/赤色スペクトル領域(例えば530を超え620nm未満の波長)における減少した発光を有する細胞不透過性色素を提供する。
【0022】
本発明の第1の態様によれば、式(I)の化合物:
【0023】
【化1】
【0024】
[式中、Aは、C
2〜8アルキレン基であり;R
1、R
2、R
3、およびR
4は、水素、C
1〜4アルキル、C
2〜4ジヒドロキシアルキル(ここで、窒素原子に結合している炭素原子はヒドロキシル基を保有せず、2個のヒドロキシル基によって置換されている炭素原子は存在しない)から独立して選択され、またはR
2およびR
3は一緒に、R
2およびR
3が結合している窒素原子とともに複素環式環を形成しているC
2〜6アルキレン基を形成しており;
X
1、X
2およびX
3は、水素、ヒドロキシル、NR
1-A-NR
2R
3R
4+(Z
m-)
1/m、ハロゲノアミノ、C
1〜4アルコキシまたはC
2〜8アルカノイルオキシから独立して選択され;
(Z
m-)
1/mは、電荷mのアニオンである]
または基NR
1が四級化されている誘導体が提供される。
【0025】
好ましくは、mは1である。
【0026】
細胞および別の生体材料を分析するための色素として使用される場合、非常に多くの利点がこれらの化合物の少なくともいくつかと関連している。利点は、以下を含む:
・細胞ベースのアッセイにおいて、一般に使用される等張緩衝液条件と適合性の濃度の範囲でのアッセイへの即時の組み込みのための水溶性。
・マルチプルアッセイ内で、再現可能な配備および好都合な保管のための、化学的純度および安定性。
・ほとんどまたは全くスペクトルの重なりのない可視範囲の蛍光を用いるマルチパラメーターアッセイへの即時の組み込みのための赤色/遠赤外蛍光特性、または赤色蛍光との容易な使用のための、橙色蛍光
・有核細胞の分析を必要とする用途のための、高親和性核酸結合特性。
・既知の程度の蛍光発光の強度とDNA結合の程度との間の化学量論比を可能にするために、核酸への結合時に蛍光を増強しないこと。
・結合している分子の局在化した濃度に起因する、核の結合時の増加したシグナルに対する、結合していない色素のバックグラウンド蛍光の相対的な低減を提供するための低い内因性蛍光。
・膜が損なわれているまたは色素分子を排除することができない細胞の選択的および陽性染色のための、細胞不透過特性。
・イメージングまたはフローサイトメトリーまたは別の検出プラットホームによる蛍光発光の検出による、すべての有核細胞のための直接DNA染色剤として使用するための、固定細胞における核識別特性。
・色素が、増殖の阻害などの有害な作用を有さずに、生物学的適用の間、長期間にわたって細胞とともに同時インキュベートすることができるような、インタクト細胞に対する低毒性。
・多様な期間にわたる細胞の細胞不透過性色素とのインキュベーションおよび細胞染色を検出するための同じ集団の一時的なサンプリングによってモニターされる細胞の完全性の喪失の時間依存的な分析を可能にする、上記の特性の組み合わせ。
【0027】
本発明は、とりわけ蛍光色素として使用されてもよい、四級化されたアミノアルキルアミノアントラキノン化合物を提供する。四級化されたアミノアルキルアミノ置換基は、少なくとも1位に存在する。さらに四級化されたアミノアルキルアミノ置換基は、4位、5位、もしくは8位、またはこれらの組み合わせに存在してもよい。国際公開WO91/05824およびWO99/65992(その両方の全体の内容が、参照により本明細書に組み込まれる)は、本発明の化合物の合成の前駆体として使用することができる様々な種類のアミノアルキルアミノアントラキノン化合物を開示している。
【0028】
好ましくは、X
1、X
2およびX
3のうちの少なくとも1つは、NR
1-A-NR
2R
3R
4+(Z
m-)
1/mである。特に好ましい実施形態において、X
2(X
1およびX
3ではない)が、NR
1-A-NR
2R
3R
4+(Z
m-)
1/m、すなわち、四級化されたアミノアルキルアミノ基で1位、5位が置換されているアントラキノンである。
【0029】
別の好ましいクラスの化合物において、X
1(X
2およびX
3ではない)が、NR
1-A-NR
2R
3R
4+(Z
m-)
1/m、すなわち、1位、4位に四級化されたアミノアルキルアミノ置換基を有するアントラキノンである。1,8置換されている類似体もまた可能である。
【0030】
有利には、X
1およびX
3は両方ともヒドロキシルである。
【0031】
別の好ましい実施形態において、X
1およびX
3は両方とも水素である。
【0032】
好ましくは、R
1は水素であるが、この位置のアミノ部分が第三級アミンである化合物を利用することが可能である。これらの実施形態において、R
1はC
1〜4アルキルであることが好ましい。
【0033】
R
2、R
3およびR
4は、C
1〜4アルキルであることが好ましい。有利には、R
2、R
3およびR
4は、メチルである。
【0034】
好ましい実施形態において、Aは(CH
2)
2である。
【0035】
特に好ましい実施形態において、化合物は、式(IA)のものである:
【0036】
【化2】
【0037】
別の好ましい化合物は、式(IB)である:
【0038】
【化3】
【0039】
本発明の化合物の具体的な例は、ヨウ化物などの適した対アニオンと組み合わせて下記に列挙されている化合物によって提供される。
1-{[2-(トリメチルアミノ)エチル]アミノ}アントラセン-9,10-ジオン
1-{[2-(トリメチルアミノ)エチル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオン
1,8-ビス{[2-(トリメチルアミノ)エチル]アミノ}アントラセン-9,10-ジオン
1,8-ビス{[2-(トリメチルアミノ)エチル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオン
1,4-ビス{[2-(トリメチルアミノ)エチル]アミノ}アントラセン-9,10-ジオン
1,4-ビス{[2-(トリメチルアミノ)エチル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオン
1-{[2-(トリエチルアミノ)エチル]アミノ}アントラセン-9,10-ジオン
1-{[2-(トリエチルアミノ)エチル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオン
1,5-ビス{[2-(トリエチルアミノ)エチル]アミノ}アントラセン-9,10-ジオン
1,5-ビス{[2-(トリエチルアミノ)エチル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオン
1,4-ビス{[2-(トリエチルアミノ)エチル]アミノ}アントラセン-9,10-ジオン
1,4-ビス{[2-(トリエチルアミノ)エチル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオン
1,8-ビス{[2-(トリエチルアミノ)エチル]アミノ}アントラセン-9,10-ジオン
1,8-ビス{[2-(トリエチルアミノ)エチル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオン
1-{[2-(トリメチルアミノ)プロピル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオンヨージド
1,8-ビス{[2-(トリメチルアミノ)プロピル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオン
1,5-ビス{[2-(トリメチルアミノ)プロピル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオン
1,4-ビス{[2-(トリメチルアミノ)プロピル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオン
1-{[2-(トリエチルアミノ)プロピル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオン
1,5-ビス{[2-(トリエチルアミノ)プロピル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオン
1,4-ビス{[2-(トリエチルアミノ)プロピル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオン
1,8-ビス{[2-(トリエチルアミノ)プロピル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオン
1,5-ビス{[2-(トリエチルアミノ)ブチル]アミノ}アントラセン-9,10-ジオン
1,4-ビス{[2-(トリエチルアミノ)ブチル]アミノ}アントラセン-9,10-ジオン
1,8-ビス{[2-(トリエチルアミノ)ブチル]アミノ}アントラセン-9,10-ジオン
1,5-ビス{[2-(トリエチルアミノ)ブチル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオン
1,4-ビス{[2-(トリエチルアミノ)ブチル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオン
1,8-ビス{[2-(トリエチルアミノ)ブチル]アミノ}-5,8-ジヒドロキシアントラセン-9,10-ジオン
【0040】
本発明の化合物は、任意の適した対アニオンを含み得る。対アニオンの例は、リン酸および硫酸などの無機酸、ならびに酢酸、アスコルビン酸、安息香酸、クエン酸、フマル酸、グルコン酸、イセチオン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、コハク酸、スルファミン酸および酒石酸などの有機酸から得られる、塩化物、臭化物およびヨウ化物などのハロゲン化物、生理学的に許容されるアニオンである。
【0041】
本発明の化合物は、式(I)の化合物のアミノアルキルアミノ前駆体化合物の四級化によって好都合に調製することができる。四級化プロセスは、前駆体のアルキル化(例えば、ハロゲン化アルキル試薬を使用して)または適した有機または無機酸を使用した酸付加塩の形成を経由する四級化を含むことができる。国際公開WO91/05824およびWO99/65992に関連して以前に論じられたアミノアルキルアミノアントラキノン化合物は、四級化ステップの適した前駆体化合物として機能することができる。四級化されて本発明の化合物を生成する前駆体化合物の合成のための別の経路は、当業者に容易に明らかであるだろう。
【0042】
本発明は、上記に定義されている式(I)の化合物を、生理学的に許容される希釈剤または担体とともに含む組成物に及ぶ。
【0043】
本発明の第2の態様によれば、核酸および式(I)の化合物:
【0044】
【化4】
【0045】
[式中、Aは、C
2〜8アルキレン基であり;R
1、R
2、R
3、およびR
4は、水素、C
1〜4アルキル、C
2〜4ジヒドロキシアルキル(ここで、窒素原子に結合している炭素原子はヒドロキシル基を保有せず、2個のヒドロキシル基によって置換されている炭素原子は存在しない)から独立して選択され、またはR
2およびR
3は一緒に、R
2およびR
3が結合している窒素原子とともに複素環式環を形成しているC
2〜6アルキレン基を形成しており;
X
1、X
2およびX
3は、水素、ヒドロキシル、NR
1-A-NR
2R
3R
4+(Z
m-)
1/m、ハロゲノアミノ、C
1〜4アルコキシまたはC
2〜8アルカノイルオキシから独立して選択され;
(Z
m-)
1/mは、電荷mのアニオンである]
または基NR
1が四級化されている誘導体を含む蛍光複合体が提供される。
【0046】
核酸は、DNAであってもよく、DNAは、細胞中に存在してもよい。DNAは、インタクトではない細胞中に存在してもよい。
【0047】
本発明の第3の態様によれば、核酸を含有する細胞または別の生体材料の試料を分析する方法であって、
a)式(I)の化合物:
【0048】
【化5】
【0049】
[式中、Aは、C
2〜8アルキレン基であり;R
1、R
2、R
3、およびR
4は、水素、C
1〜4アルキル、C
2〜4ジヒドロキシアルキル(ここで、窒素原子に結合している炭素原子はヒドロキシル基を保有せず、2個のヒドロキシル基によって置換されている炭素原子は存在しない)から独立して選択され、またはR
2およびR
3は一緒に、R
2およびR
3が結合している窒素原子とともに複素環式環を形成しているC
2〜6アルキレン基を形成しており;
X
1、X
2およびX
3は、水素、ヒドロキシル、NR
1-A-NR
2R
3R
4+(Z
m-)
1/m、ハロゲノアミノ、C
1〜4アルコキシまたはC
2〜8アルカノイルオキシから独立して選択され;
(Z
m-)
1/mは、電荷mのアニオンである]
または基NR
1が四級化されている誘導体を含有する生物学的に適合性の溶液を調製するステップ;
b)細胞または別の生体材料の試料を生物学的に適合性の溶液で処理するステップ;および
c)式(I)の化合物による電磁放射線の吸収と関連した分光学的特性を検出するステップ
を含む方法が提供される。
【0050】
有利には、式(I)の化合物による電磁放射線の吸収と関連した分光学的特性は蛍光であり、ステップc)は、式(I)の化合物を電磁放射線で励起するステップ、および放射された蛍光シグナルを検出するステップを含む。事前に定めたスペクトル領域中の蛍光強度が測定されてもよいが、蛍光寿命の測定などの別の検出スキームが使用されてもよい。
【0051】
代替として、式(I)の化合物による電磁放射線の吸収と関連した分光学的特性は色度特性であってもよい。
【0052】
有利には、方法は、細胞の試料における細胞核の識別のために使用されてもよく、ここで、ステップb)を実施して、式(I)の化合物による細胞核中での核酸の結合を引き起こし、細胞核の識別は、ステップc)において検出される分光学的特性に少なくとも一部基づく。
【0053】
ステップb)を実施して、細胞の試料を式(I)の化合物で染色してもよい。有利には、方法は、細胞死発生がモニターされる方法であってよく、ここで、ステップb)を、アッセイ期間の前またはその期間中に実施し、それによってアッセイ期間中の細胞死発生の連続的なまたは高頻度の読み出しを可能にする。式(IA)の化合物は、これらの方法において使用するために特に好ましい。このアプローチは、不透過性の本発明の化合物の非毒性を利用する。このことは、式(I)の化合物を細胞混合物とともに含み、その結果、式(I)の化合物が試験の間に存在することが可能であることを意味する。細胞が死ぬ(例えば、アッセイにおける試験化合物の影響から)とき、細胞は、式(I)の化合物で染色される。式(I)の化合物は、細胞死を引き起こす可能性がある任意の処理の前、処理中または処理後に添加されてもよい。このことは、連続的に行われ得る試験の間のサンプリングを許容する。
【0054】
ステップc)は、フローサイトメトリーによって個々の細胞によって放射される蛍光を検出すること、蛍光顕微鏡法による細胞内局在の検出、または任意の別の適した種類の蛍光に基づく検出技術を含んでもよい。イメージング技術が用いられてもよい。蛍光強度、偏光、蛍光寿命、蛍光スペクトル、および標本または分析されている試料内のそのような性質の空間的配置を含むが排他的ではない蛍光シグナルの分析のために、様々なイメージングシステムが用いられてもよいことが理解される。
【0055】
特定の好ましい実施形態において、固定または透過処理した細胞が分析され、ここで、細胞の試料は、固定剤または透過剤での処理によって固定される。固定および透過処理した細胞における細胞核の識別および染色は、特に好ましい実施形態である。
【0056】
別の好ましい実施形態において、ステップb)は、試料を少なくとも1種の別の蛍光色素または発光化合物で処理するステップをさらに含み、ステップc)は、蛍光色素または発光化合物による電磁放射線の吸収と関連した分光学的特性を検出するステップをさらに含む。
【0057】
別の蛍光色素または発光化合物と関連したステップb)およびc)は、式(I)の化合物と関連したステップb)およびc)と同時に、または別々に実施されてもよい。
【0058】
特に好ましい実施形態において、方法は、インタクト細胞とインタクトではない細胞とを識別し、ここで、式(I)の化合物は細胞不透過性であり、ステップb)は、試料を、細胞透過性である第2の蛍光色素または発光化合物で処理するステップをさらに含み、ステップc)は、第2の蛍光色素または発光化合物による電磁放射線の吸収と関連した分光学的特性を検出するステップをさらに含み、式(I)の化合物による電磁放射線の吸収と関連した分光学的特性の検出は、インタクトではない細胞の存在と相関し、第2の蛍光色素または発光化合物による電磁放射線の吸収と関連した分光学的特性の検出は、インタクト細胞の存在と相関する。
【0059】
インタクトではない細胞は、死細胞、および損なわれているまたは破壊された膜を有する損傷細胞を含むと理解される。
【0060】
有利には、第2の蛍光色素または発光化合物は、識別される細胞中の核酸および/または別の巨大分子材料に対する、式(I)の化合物のものより低い結合能(これは必ずではないが好ましくは、結合親和性に関連する)を有し、結果として式(I)の化合物の存在下において、識別される細胞中の核酸および/または別の巨大分子材料に対する結合についてより低い効率で競合し、その結果、第2の蛍光色素または発光化合物は、インタクトではない細胞に対する結合から実質的に排除される、または式(I)の化合物によって遮蔽される。
【0061】
損傷細胞中の式(I)の化合物による第2の蛍光色素または発光化合物の好ましい完全な排除は、蛍光発光の二重分析に基づいた最適な識別を提供する。さらに、第2の蛍光色素または発光化合物からの蛍光シグナルは、式(I)の化合物で最適に標識された損傷細胞において効率的に消去されるが、また、第2の蛍光色素または発光化合物の比に対する式(I)の化合物の比を単に変化させることによって、弱めたレベルで検出可能でもあり、上述したような範囲の共染色条件によって達成される蛍光のレシオメトリック分析を提供することができる。好ましくは、第2の蛍光色素または発光化合物のモル比に対する式(I)の化合物の化合物のモル比は、1:10および10:1、より好ましくは3:20の範囲であるだろう。好ましくは、第2の蛍光色素または発光化合物の存在を排他的に報告するインタクト細胞の染色は、全色素結合に関連する細胞量および有核細胞について陽性の蛍光を識別するものとしての細胞内核酸の存在を含むが排他的ではない細胞状態の決定において、価値のあるさらなる情報を提供する。細胞の量の変化の好ましい指示は、好ましくは長期の増殖阻害または細胞周期停止を受けている細胞の分析において、細胞分裂に介入することなく代謝が進行し続けている細胞間で区別が行われることを許容する。
【0062】
好ましくは、第2の蛍光色素または発光化合物は、式(II)の化合物:
【0063】
【化6】
【0064】
またはそのN-オキシド誘導体;
[式中、Aは、C
2〜8アルキレン基であり;R
1、R
2、およびR
3は、水素、C
1〜4アルキル、C
2〜4ジヒドロキシアルキル(ここで、窒素原子に結合している炭素原子はヒドロキシル基を保有せず、2個のヒドロキシル基によって置換されている炭素原子は存在しない)から独立して選択され、またはR
2およびR
3は一緒に、R
2およびR
3が結合している窒素原子とともに複素環式環を形成しているC
2〜6アルキレン基を形成しており;
X
1、X
2およびX
3は、水素、ヒドロキシル、NR
1-A-NR
2R
3、ハロゲノアミノ、C
1〜4アルキルオキシまたはC
2〜8アルカノイルオキシから独立して選択される]である。
【0065】
好ましい実施形態において、式(II)の化合物は、1,5アミノ置換アントラキノンであり、すなわち、X
2はNR
1-A-NR
2R
3であるが、X
1およびX
3はそうではない。
【0066】
このクラスの1,5アミノ置換アントラキノンの特に好ましい実施形態は、式(IIA)の化合物である。
【0067】
【化7】
【0068】
有利には、潜在的に細胞毒性である、または別様に細胞死を誘導することができる作用物質の細胞の試料に対する作用をモニターするために、インタクト細胞とインタクトではない細胞との識別は、細胞の試料が作用物質に曝露された後に行われる。
【0069】
さらに好ましい実施形態において、ステップb)は、試料を、少なくとも第3の蛍光色素または発光化合物で処理するステップをさらに含み、ステップc)は、電磁放射線の吸収と関連した分光学的特性を、少なくとも第3の蛍光色素または発光化合物によって検出するステップおよび前記分光学的特性を、インタクト細胞および/またはインタクトではない細胞の特徴または特性と相関させるステップをさらに含む。
【0070】
第3の蛍光色素または発光化合物の検出される分光学的特性は、式(I)の化合物の検出される分光学的特性と同様であり、かつ第2の蛍光色素または発光化合物の検出される分光学的特性とは違っていてもよく、ここで、第3の蛍光色素または発光化合物の検出される分光学的特性は、インタクト細胞の特徴または特性と相関する。
【0071】
第3の蛍光色素または発光化合物の検出される分光学的特性は、第2の蛍光色素または発光化合物の検出される分光学的特性と同様であり、かつ式(I)の化合物の検出される分光学的特性とは違っていてもよく、ここで、第3の蛍光色素または発光化合物の検出される分光学的特性は、インタクトではない細胞の特徴または特性と相関する。
【0072】
好ましくは、ステップc)において検出される分光学的特性は、電磁スペクトルの事前に定めた領域中の放射される蛍光であり、ステップc)は、式(I)の化合物、第2の、および任意選択により第3の、および任意のさらなる蛍光色素または発光化合物を電磁放射線で励起するステップを含む。
【0073】
有利には、式(I)の化合物、第2のおよび任意選択により第3の蛍光色素または発光化合物は、単一の電磁放射線源によって同時励起される。
【0074】
有利には、第3の蛍光色素または発光化合物の放射される蛍光は、i)好ましくは赤色および/または近赤外領域内の、式(I)の化合物の放射される蛍光のものと同様であり、ii)第2の蛍光色素または発光化合物の放射される蛍光のものとは違っている、電磁スペクトルの事前に定めた領域内にある。第3の蛍光色素は、Qdot705nm放射ナノ結晶であってもよい。
【0075】
有利には、第3の蛍光色素または発光化合物の放射される蛍光は、i)好ましくは橙色領域内の、第2の蛍光色素または発光化合物の放射される蛍光のものと同様であり、ii)式(I)の化合物の放射される蛍光のものとは違っている、電磁スペクトルの事前に定めた領域内にある。
【0076】
方法が、インタクト細胞とインタクトではない細胞とを識別する実施形態において、ステップc)は、フローサイトメトリーを使用して、および/または蛍光顕微鏡法を使用して実施されて、蛍光発光の細胞局在に関する情報を提供してもよい。蛍光強度、偏光、蛍光寿命、蛍光スペクトル、および標本または分析されている試料内のそのような性質の空間的配置を含むが排他的ではない蛍光シグナルの分析のために、様々なイメージングシステムが用いられてもよいことが理解される。
【0077】
ステップc)は、細胞からの光散乱の測定をさらに含んでもよい。しかしながら、有用な結果は、光散乱測定が実施されることを必要とせずに同様に得ることができる。
【0078】
測定は、時間分解されたデータを取得するために、例えば、細胞の完全性の発生した変化を調査するために、または第2のおよび/または第3の蛍光色素または発光化合物の存在と相関する特性によって決定される、識別されるインタクト細胞の変化を調査するために、ある期間にわたって行われてもよい。
【0079】
本発明の第4の態様によれば、インタクト細胞とインタクトではない細胞とを識別する方法であって、
a)細胞不透過性の蛍光色素または発光化合物を含有する生物学的に適合性の溶液を調製するステップ;
b)識別される細胞中の核酸および/または別の巨大分子材料に対する、細胞不透過性の蛍光色素または発光化合物の結合能よりも低い結合能(これは必ずではないが好ましくは、結合親和性に関連する)を有し、結果として、細胞不透過性の蛍光色素または発光化合物の存在下において、識別される細胞中の核酸および/または別の巨大分子材料に対する結合についてより低い効率で競合し、その結果、細胞透過性の蛍光色素または発光化合物が、インタクトではない細胞に対する結合から実質的に排除される、または細胞不透過性の蛍光色素または発光化合物によって遮蔽される、細胞透過性の蛍光色素または発光化合物を含有する生物学的に適合性の溶液を調製するステップ;
c)細胞の試料を、生物学的に適合性の1種または複数の溶液で処理するステップ;および
d)細胞不透過性の蛍光色素または発光化合物による電磁放射線の吸収と関連した分光学的特性を検出し、それをインタクトではない細胞の存在と相関させ、細胞透過性の蛍光色素または発光化合物による電磁放射線の吸収と関連した分光学的特性を検出し、それをインタクト細胞の存在と相関させるステップ
を含む方法が提供される。
【0080】
上記で論じた細胞透過性色素に加えて、以下の色素が、細胞透過性の蛍光色素または発光化合物として使用されてもよい(「数字/数字」は、最大励起対最大発光についての波長をnmで示す):
SYTOX色素より低い親和性を有し、生細胞に流入することができる細胞透過性のシアニン色素(SYTO核酸染色剤)、排他的ではないが好ましくは、SYTO(登録商標)40青色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)59赤色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)60赤色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)61赤色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)62赤色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)63赤色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)64赤色蛍光核酸染色剤、SYTOX(登録商標)青色核酸染色剤、SYTO(登録商標)40青色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)41青色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)42青色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)45青色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)80橙色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)81橙色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)82橙色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)83橙色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)84橙色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)85橙色蛍光核酸染色剤、SYTOX(登録商標)橙色核酸染色剤、SYTO(登録商標)10緑色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)9緑色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)BC緑色蛍光核酸染色剤、SYTOX(登録商標)青色死細胞染色剤、SYTOX(登録商標)緑色核酸染色剤、SYTO(登録商標)21緑色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)24緑色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)25緑色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)11緑色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)12緑色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)13緑色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)14緑色蛍光核酸染色剤、SYTO(登録商標)16緑色蛍光核酸染色剤、およびSYTO(登録商標)17赤色蛍光核酸染色剤。
DAPI:UV励起可能なDNA結合蛍光色素4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール、二塩酸塩(DAPI)(Ex358/Em46)または4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール、ジラクテート(DAPI、ジラクテート)
副溝結合Hoechst色素、排他的ではないが好ましくはHoechst 34580、青色蛍光(Ex352/Em461)AT選択的、副溝結合dsDNA選択的蛍光色素である五水和物としてのHoechst 33258(ビス-ベンズイミド)、青色蛍光(Ex350/Em461)AT選択的、副溝結合dsDNA選択的結合性の三塩酸塩、三水和物としてのHoechst 33342
核酸染色剤であるLDS751:(Ex543/Em712)(DNA)(Ex590/Em607)(RNA)
7-アミノアクチノマイシンD(7-AAD;Ex546/Em647)
RNAで赤色寄りの発光およびDNAでは緑色寄りの発光による細胞の異染色を示すアクリジンオレンジ
【0081】
上記で論じた細胞不透過性色素に加えて、以下の色素が、細胞不透過性の蛍光色素または発光化合物として使用されてもよい(「数字/数字」は、最大励起対最大発光についての波長をnmで示す):
TOTOファミリーシアニン二量体色素のシアニン二量体、排他的ではないが好ましくはTOTO(登録商標)-1ヨウ化物(514/533)、TO-PRO(登録商標)-1ヨウ化物(515/531)、TOTO(登録商標)-3ヨウ化物(642/660)
TO-PROファミリーの色素のシアニン単量体、排他的ではないが好ましくはYO-PRO-1(Ex491/Em509)、TO-PRO-(Ex515/Em531)、TO-PRO(登録商標)-3ヨウ化物(642/661)、TO-PRO(登録商標)-5ヨウ化物(745/770)、YOYO(登録商標)-1ヨウ化物(491/509)、YO-PRO(登録商標)-1ヨウ化物(491/509)、YOYO(登録商標)-3ヨウ化物(612/631)、YO-PRO(登録商標)-3ヨウ化物(612/631)。
核酸SYTOX色素、排他的ではないが好ましくはSYTOX青色(Ex445/Em470)、SYTOX緑色(Ex504/Em523)およびSYTOX橙色(Ex547/Em570)。
ヨウ化プロピジウム(PI;Ex530/Em625)および細胞不透過性臭化エチジウム(EthBr;Ex518/Em605)
7-アミノアクチノマイシンD(7-AAD;Ex546/Em647)
RNAで赤色寄りの発光およびDNAでは緑色寄りの発光による細胞のアクリジンオレンジ異染色。
【0082】
蛍光強度、偏光、蛍光寿命、蛍光スペクトルを含むが排他的ではない本発明を使用して得られる異なる蛍光シグナルの分析のために、様々な検出システムが用いられてもよいことが理解される。細胞イメージング方法は、標本内または分析されている試料のそのような性質の空間的配置および動態分析をさらに提供してもよいことがさらに理解される。
【0083】
本発明の第5の態様によれば、本発明の第3または第4の態様による方法において使用するための検出システムであって、
方法において使用される蛍光色素および発光化合物を励起するための1つまたは複数の電磁放射線源;
蛍光色素および発光化合物による電磁放射線の吸収と関連した分光学的特性を検出するための複数の検出器;および
検出される分光学的特性をインタクト細胞およびインタクトではない細胞の存在と相関させ、それによってインタクト細胞とインタクトではない細胞とを識別するように適合された検出器分析システム
を含むシステムが提供される。
【0084】
好ましくは、検出器は蛍光検出器である。
【0085】
非常に有利には、検出システムは、蛍光色素および発光化合物を同時励起するための単一の電磁放射線源を有してもよい。
【0086】
非常に有利には、複数の検出器は、蛍光色素および発光化合物のすべての分光学的特性を検出する検出器の対の形態である。
【0087】
本発明は、多様な範囲の細胞タイプおよび用途における細胞完全性の調査に適用され得る。細胞または細胞タイプが本明細書において言及される場合、細胞または細胞タイプは生きている真核細胞であることが好ましい。本発明は、すべての細胞タイプと併せて使用することができる。細胞は、以下の細胞タイプから制限なく選択することができる:
生検標本(例えば、細針吸引物による)として、組織外植片として、初代培養物(例えば、ヒト皮膚線維芽細胞)として、形質転換細胞系(例えば、SV40形質転換線維芽細胞)として、不死化細胞系(例えば、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素[hTERT]によって不死化された細胞系)として、または樹立腫瘍細胞系として得られる、ヒト細胞および哺乳動物細胞を含む動物細胞。
植物細胞および細菌細胞。
治療上、診断上および分析上興味深い特定の部位および疾患を表すもの、好ましくは、基質上での付着性増殖を示すことができるもの、例えば:脳がん、膀胱がん、乳がん、結腸および直腸がん、子宮内膜がん、腎臓がん(腎細胞)、白血病、肺がん、メラノーマ、膵臓がん、前立腺がん、皮膚がん(非メラノーマ)、甲状腺がんを含むヒト腫瘍細胞系。また、米国国立がん研究所(US National Cancer Institute)腫瘍細胞系パネルNCI-60(参照:http://dtp.nci.nih.gov/docs/misc/common_files/cell_list.html)において示されているものなどの、薬物スクリーニング方法論の目的のために常法に従って利用可能であるヒト腫瘍細胞系:
【0088】
【表1】
【0089】
生体異物分子の輸送体(例えば、肺がん系H522M、A549およびEKVXにおいて発現しているABCA3薬物輸送体)などの特定の分子的実体のそれらの機能的発現について選択されるヒト腫瘍細胞系、および遺伝子導入研究におけるそれらの好都合な性能について選択されるヒト腫瘍細胞(例えば、U2-OSヒト骨肉腫細胞)。
機能的ゲノミクス研究において使用される哺乳動物細胞系(例えば、NIH 3T3マウス細胞系)
脊椎動物の単細胞形態(例えば、ゼブラフィッシュであるダニオ(ブラキダニオ)・レリオ(Danio[Brachydanio]rerio)の解離した細胞調製物から得られる胚、幼生形態または細胞の構成要素)。
ADME/Tox(吸収、分布、代謝、排出/毒性)スクリーニングプロトコールにおいて使用される細胞系(例えば、HepG2などの肝細胞由来の細胞系)。
ヒトまたはマウス供給源から得られる胚性幹細胞。
成体幹細胞
中枢神経系のニューロンおよび/または支持細胞(例えば星状細胞、希突起膠細胞、小膠細胞およびシュワン細胞)。
抗体を分泌するハイブリッドを含む不死体細胞ハイブリッド(例えば、ハイブリドーマ)。
非幹細胞に対する幹細胞
有核細胞血液成分
老化細胞、非老化細胞、付着性細胞、非付着性細胞、静止細胞および非静止細胞。
【0090】
用途は、以下の分野の調査から制限なく選択することができる:
細胞における生理的変化による細胞完全性の変化(例えば、増殖期における分化または変化)。
疾患プロセスに反応する細胞における変化による細胞完全性の変化。
細菌およびウイルスを含む感染性病原体によって誘導される細胞完全性の変化
寄生体によって誘導される細胞完全性の変化。
物理的作用物質(例えば、電離および非電離放射線)に反応する細胞における変化による細胞完全性の変化。
光学活性な物理的作用物質(例えば、量子井戸を持つナノ粒子剤)または染色色素の組み込みによる細胞完全性の変化。
以下の目的のための、既知のまたは未知の生物活性剤に反応する細胞における変化による細胞完全性の変化:
毒素(例えば、重金属汚染)の環境センシングのためのモニターとしての細胞完全性の変化。
電子顕微鏡法または別の高解像度イメージングアプローチを使用する明確な分析のための、粒子の毒性負荷を保有する細胞が蛍光色素と同時局在することができるという利点を有するナノ粒子剤毒性の細胞完全性の変化。
毒素の検出(例えば、バイオセーフティーのためのエンドトキシンセンシング)のための細胞完全性の変化。
安全性モニタリング目的および迅速な診断のための、毒性のまたは有害な作用物質の検出のための細胞完全性の変化。
発酵プロセスの進行(例えば、醸造用途における酵母生活環)をモニターするための細胞完全性の変化。
バイオ医薬品調製プロセスの進行(例えば、サイトカイン生成)をモニターするための細胞完全性の変化。
細胞死(アポトーシスまたは壊死)と関連した状態移行を見分けるための細胞完全性の変化。
生理的および病理学的系における細胞周期進行の分析のための、細胞完全性の変化。
薬物スクリーニングまたは発見の目的のための薬力学的反応の分析。
内部プログラムの影響下での、または摂動剤(例えば、細胞骨格またはクロマチン調節剤)により強制される状態変化を受けるときの細胞構造および機能を調節する細胞のシステムの研究のための細胞完全性の変化
[参考文献]
【0091】
本発明を上記に記載したが、本発明は、上記に、または以下の記載、図面または特許請求の範囲において記載されている特徴の任意の発明の組み合わせに及ぶ。例えば、本発明の一態様の要素は、本発明の別の態様の要素と一緒に組み込まれてもよい。
【0092】
本発明による化合物、蛍光複合体、方法および検出システムの実施形態を、添付の図面を参照して以下に説明する。