(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
両親媒性ブロックポリマーAが、20〜300個のサルコシン単位を含む親水性ブロックと、10〜100個の乳酸単位を含む疎水性ブロックとを有するものである、請求項1又は2に記載の分子集合体。
長鎖疎水性基を有する化合物が、ポリ乳酸、ポリ乳酸・ポリサルコシンコポリマー、又はジメトキシトリチルオキシ−ヘキシルジチオヘキサンである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の分子集合体。
ポリ乳酸又はポリ乳酸・ポリサルコシンコポリマーのポリ乳酸が、10〜60個の乳酸単位からなり、ポリサルコシンが、0〜100個のサルコシン単位からなるものである、請求項4に記載の分子集合体。
遺伝子発現抑制効果を有するRNAが、siRNA、shRNA、miRNA、アンチセンスRNA、アプタマーRNA、又はリボザイムである、請求項6に記載の分子集合体。
siRNAが、ATP−binding cassette transporter G2(ABCG2)遺伝子をノックダウンし、その発現を抑制するsiRNA、若しくはフェロケラターゼ遺伝子をノックダウンし、その活性を阻害するsiRNAであるか、又はその両者併用物である、請求項7に記載の分子集合体。
450nm〜1300nmの波長を有する光で機能する光増感剤が、フルオレセイン系色素、インドシアニン色素等のシアニン系色素、ローダミン系色素、ポルフィリン系色素、Alexa Fluor(登録商標)546、Alexa Fluor(登録商標)633、Alexa Fluor(登録商標)750、DY750、DY751、DY780、エオシン、ローズベンガル、IRDye(登録商標)800CW、又はカルボキシフルオレセイン(FAM)である、請求項13に記載の分子集合体。
請求項17に記載の予防剤又は治療剤、及びそれに含まれる分子集合体中の光増感剤を励起させるための励起光を照射する手段を備えた装置を含む、癌の予防又は治療システム。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の分子集合体は、サルコシン単位を含む親水性ブロックと乳酸単位を含む疎水性ブロックとを有する両親媒性ブロックポリマーA、修飾RNA、細胞膜結合性化合物、及び前記一以上の成分に結合していてもよい光増感剤を含むものである。
【0034】
本発明の分子集合体は、通常、両親媒性ブロックポリマーAの凝集若しくは自己組織化により、又は自己集合的な配向会合により主として形成される構造体である。該分子集合体の形態は、特に限定されず、ミセル状、ベシクル状などの粒子状、ラメラ構造、ロッド状、その他分子の凝集形態のあらゆるものを含む。通常は、粒子状である。また、本発明の分子集合体の好ましい形態は、ミセルである。
【0035】
1.両親媒性ブロックポリマーA
両親媒性ブロックポリマーAは、サルコシン単位を含む親水性ブロックと乳酸単位を含む疎水性ブロックとが直鎖状に結合した直鎖型でも、乳酸単位を含む一つの疎水性ブロックにサルコシン単位を含む親水性ブロックが3つに分岐結合した分岐型でもよい。親水性ブロックと疎水性ブロックとは、通常、リンカー部位により連結されている。
【0036】
両親媒性ブロックポリマーAは公知であり、例えば、特許文献3〜5に製造方法も含めて記載されている。かかる特許文献等に記載された両親媒性ブロックポリマーAを用いることができる。特許文献3〜5に記載された全内容は参照され、本明細書に組み入れられる。
【0037】
1.1 親水性ブロック
本発明において、両親媒性ブロックポリマーAの親水性ブロックが有する「親水性」という物性の程度は特に限定されないが、少なくとも、親水性ブロックの全体が、後述の疎水性ブロックに対して相対的に親水性が強い性質をいう。或いは、親水性ブロックが疎水性ブロックとコポリマーを形成することによって、コポリマー分子全体として両親媒性を実現することが可能となる程度の親水性をいう。さらに或いは、両親媒性ブロックポリマーAが溶媒中で自己組織化して、自己集合体、好ましくは粒子状の自己集合体を形成することが可能となる程度の親水性をいう。
【0038】
両親媒性ブロックポリマーA中の親水性ブロックは、ポリサルコシン鎖を有する。
サルコシン(N−メチルグリシン)は水溶性が高く、また、サルコシンのポリマーはN置換アミドを有することから通常のアミド基に比べてシス−トランス異性化が可能であり、さらに、C
α炭素まわりの立体障害が少ないことから、高い柔軟性を有するものである。このような構造を構成ブロックとして用いることは、該ブロックに高い親水性の基本特性、又は、高い親水性と高い柔軟性とを併せ持つ基本特性が備わる点で非常に有用である。
【0039】
親水性ブロックにおいて、構成単位の種類及び比率は、ブロック全体が上述したような親水性となるように当業者が適宜決定することができる。例えば、親水性ブロックに含まれるサルコシン単位の合計は、通常、20〜300個とすることができる。好ましくは30〜200個程度、より好ましくは50〜100個程度である。
【0040】
また、サルコシン単位を含む親水性ブロックが3つに分岐し、乳酸単位を含む疎水性ブロックと結合した両親媒性ブロックポリマーAの場合、1つの分岐当たりのサルコシン単位数の平均は、例えば、10〜100とすることができ、好ましくは20〜50程度である。親水性ブロックに含まれるサルコシン単位数がこのような範囲であると、分岐型両親媒性ブロックポリマーAが粒子状の分子集合体を形成することができる。また、親水性ブロックに含まれるサルコシン単位数がこのような範囲であると、分子集合体を形成した場合に、形成された分子集合体が安定なものとなる。
【0041】
親水性ブロックは、上述したような親水性を損なわない限り、サルコシン単位以外の構成単位を1種又は2種以上有してもよい。サルコシン以外の構成単位として、例えば、アミノ酸が挙げられる。アミノ酸は、天然アミノ酸、非天然アミノ酸のいずれでもよい。またアミノ酸は、α−アミノ酸、β−アミノ酸、γ−アミノ酸のいずれでもよいが、好ましくはα−アミノ酸であり、例えば、セリン、スレオニン、リシン、アスパラギン酸、グルタミン酸等が挙げられる。
【0042】
サルコシン単位以外の構成単位の割合は、親水性ブロックを構成する全構成単位に対して、通常10モル%以下であり、好ましくは5モル%以下、より好ましくは2モル%以下、更に好ましくは1モル%以下、最も好ましくは0モル%である。本発明においては、親水性ブロックは、サルコシン単位のみからなることが好ましい。
【0043】
親水性ブロックにおいては、全てのサルコシン単位が連続していてもよく、非連続であってもよいが、両親媒性ブロックポリマーA全体として上述の基本特性を損なわないように分子設計されたものであることが好ましい。
【0044】
1.2 疎水性ブロック
本発明において、疎水性ブロックが有する「疎水性」という物性の具体的な程度は特に限定されないが、少なくとも、疎水性ブロックが、上記の親水性ブロックの全体に対して相対的に疎水性が強い領域であり、親水性ブロックとコポリマーを形成することによって、コポリマー分子全体として両親媒性を実現することが可能となる程度の疎水性を有していればよい。或いは、両親媒性ブロックポリマーAが溶媒中で自己組織化して、自己集合体、好ましくは粒子状の自己集合体を形成することが可能となる程度の疎水性を有していればよい。
【0045】
両親媒性ブロックポリマーA中の疎水性ブロックは、ポリ乳酸鎖を有する。
ポリ乳酸は、優れた生体適合性及び安定性を有するものである。このため、このようなポリ乳酸を構成ブロックとした両親媒性物質から形成される分子集合体は、生体、特に人体への応用性という点で非常に有用である。また、ポリ乳酸は、優れた生分解性を有することから代謝が早く、生体内において腫瘍組織以外への組織への集積性が低い。このため、このようなポリ乳酸を構成ブロックとする両親媒性物質から得られる分子集合体は、腫瘍組織への特異的な集積性という点で有用である。
【0046】
また、ポリ乳酸は、低沸点溶媒への溶解性に優れるものであることから、このようなポリ乳酸を構成ブロックとした両親媒性物質から分子集合体を得る際に、有害な高沸点溶媒の使用を回避することが可能である。このため、本発明の分子集合体は、生体への安全性という点で有用である。
【0047】
疎水性ブロックに含まれるポリ乳酸鎖は、通常分岐していないもの(直鎖状)である。疎水性ブロックにおいて構成単位の種類及び比率は、ブロック全体が上述したような疎水性となるように、当業者によって適宜決定されるものである。疎水性ブロックに含まれる乳酸単位の数は、通常、10〜100個であり、好ましくは20〜80個程度、より好ましくは25〜50個程度、更に好ましくは25〜35個程度である。疎水性ブロックに含まれる乳酸単位数が上記範囲であると、両親媒性ブロックポリマーAによって形成される分子集合体が安定なものとなる。
【0048】
疎水性ブロックは、上述したような疎水性を損なわない限り、乳酸単位以外の構成単位を1種又は2種以上を有してもよい。乳酸単位以外の構成単位として、例えば、乳酸以外のヒドロキシル酸、アミノ酸(疎水性アミノ酸及びその他のアミノ酸を含む)を挙げることができる。ヒドロキシル酸として、例えば、グリコール酸、ヒドロキシイソ酪酸が挙げられる。アミノ酸は、天然アミノ酸、非天然アミノ酸のいずれでもよい。またアミノ酸は、α−アミノ酸、β−アミノ酸、γ−アミノ酸のいずれでもよいが、好ましくはα−アミノ酸である。また、アミノ酸は、例えば疎水性アミノ酸が好ましく、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、チロシン、トリプトファン等が挙げられる。
【0049】
乳酸単位以外の構成単位の割合は、疎水性ブロックを構成する全構成単位に対して、通常10モル%以下であり、好ましくは5モル%以下、より好ましくは2モル%以下、更に好ましくは1モル%以下、最も好ましくは0モル%である。本発明においては、疎水性ブロックは、乳酸単位のみからなることが好ましい。
【0050】
疎水性ブロックにおいては、全ての乳酸単位が連続していてもよく、非連続であってもよいが、両親媒性ブロックポリマーA全体として上述の基本特性を損なわないように分子設計されたものであることが好ましい。
【0051】
疎水性ブロックに含まれるポリ乳酸鎖(A−PLA)は、L−乳酸単位から構成されているポリL−乳酸鎖であっても、D−乳酸単位から構成されているポリD−乳酸鎖であっても、L−乳酸単位とD−乳酸単位の両者から構成されるポリDL−乳酸鎖であってもよい。当業者が目的等に応じて適宜選択することができる。ポリDL−乳酸鎖の場合、L−乳酸単位とD−乳酸単位との重合の順番は特に限定されない。L−乳酸単位とD−乳酸単位とが1個又は2個ずつ交互に重合されていてもよく、ランダムに重合されていてもよく、ブロック重合されていてもよい。
【0052】
RNAを修飾するポリ乳酸又はポリ乳酸・ポリサルコシンコポリマーのポリ乳酸鎖(R−PLA)との立体的相互作用による分子集合体の安定化をより期待する場合には、A−PLAの立体配置をR−PLAと逆の立体配置にすることができる。即ち、R−PLAがL−乳酸単位から構成される場合には、A−PLAはD−乳酸単位とし、また、R−PLAがD−乳酸単位から構成されている場合には、A−PLAはL−乳酸単位とすることができる。
【0053】
ここで、L−乳酸単位から構成されるポリL−乳酸鎖とは、A−PLAを構成する全乳酸単位を基準として、通常90モル%以上、好ましくは95モル%以上、より好ましくは98モル%以上、特に好ましくは100モル%がL−乳酸単位であることを意味する。
【0054】
D−乳酸単位から構成されているポリD−乳酸鎖とは、A−PLAを構成する全乳酸単位を基準として、通常90モル%以上、好ましくは95モル%以上、より好ましくは98モル%以上、特に好ましくは100モル%がD−乳酸単位であることを意味する。
【0055】
1.3 その他
両親媒性ブロックポリマーAは、分子中に薬剤等を有さないことが好ましいが、本発明の効果を損なわない限り、薬剤等を有することもできる。かかる薬剤等は特に限定されないが、例えば、後述する光増感剤が挙げられる。
【0056】
2.修飾RNA
本発明の分子集合体は、長鎖疎水性基を有する化合物により修飾されているRNAを含む。
上記化合物は、長鎖疎水性基を有していれば、それ以外に長鎖親水性基などを有していてもよい。長鎖疎水性基としては、例えば、ポリ乳酸鎖(R−PLA)、ジヘキシルジスルフィドのように、ジスルフィド結合を間に介する炭素数10〜16(好ましくは炭素数12)の直鎖状炭化水素(好ましくは直鎖状飽和炭化水素)を有する基(例、ジメトキシトリチルオキシ−ヘキシルジチオヘキシル(DMT−C6−SS−C6基)を挙げることができ、長鎖親水性基をも有するものとしては、例えばポリ乳酸・ポリサルコシンコポリマー鎖(R−PLA−Sar)を挙げることができる。
ポリ乳酸鎖、DMT−C6−SS−C6基などの長鎖疎水性基は疎水性を示し、通常、分子集合体の疎水コア部に位置し、ポリサルコシン鎖などの長鎖親水性基やRNAは親水性を示し、親水シェル部に位置する。これによって、当該修飾RNAは、本発明の分子集合体に安定に包含される。当該修飾RNAも本発明に含まれる。
【0057】
2.1 RNA
RNAとしては、遺伝子発現抑制効果等の機能を有していれば特に限定されないが、細胞質内のmRNAに作用しその機能を阻害することができる機能性RNAが好ましい。このようなRNAとしては、例えば、siRNA(small interfering RNA)、shRNA(short hairpin RNA)、miRNA(microRNA)、アンチセンスRNA、アプタマーRNA、リボザイムを挙げることができる。これらを1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0058】
siRNAの例として、ATP−binding cassette transporter G2(ABCG2)遺伝子をノックダウンし、その発現を抑制するsiRNA、具体的には、例えば、配列番号10で表されるセンス鎖と配列番号11で表されるアンチセンス鎖からなる二本鎖核酸(ABCG2 siRNA)、フェロケラターゼ遺伝子をノックダウンし、その活性を阻害するsiRNA、具体的には、例えば、配列番号12で表されるセンス鎖と配列番号13で表されるアンチセンス鎖からなる二本鎖核酸(Ferrochelatase siRNA)を挙げることができる。これらsiRNAは、プロトポルフィリンIX(PpIX)の減少を阻止することができるものである。PpIXは、例えば、5−アミノレブリン酸(ALA)の投与により、ヘム合成経路の代謝物として癌細胞に選択的に蓄積し、これに光を照射すると活性酸素種が生成され、それによって癌細胞が死滅する。それ故、ALAを用いた光線力学的療法(PDT)では、癌細胞内におけるPpIXの蓄積が重要となる。一方、ABCG2はPpIXを能動的に細胞外へ排出するトランスポーターであり、フェロケラターゼはPpIXに二価鉄を挿入してヘムに変換するため、細胞内のPpIXを抑制的に作用する酵素である。従って、これらABCG2やフェロケラターゼの発現ないし活性を抑制阻害するsiRNAは、癌細胞に蓄積したPpIXの減少を効果的に阻止することができることから、ALAを用いた光線力学的療法(PDT)による癌治療薬となり得る。
また、本発明においては、ABCG2遺伝子をノックダウンし、その発現を抑制するsiRNA、及びフェロケラターゼ遺伝子をノックダウンし、その活性を阻害するsiRNAの2つのsiRNAを任意の割合(例えば、1:1)で併用することが好ましい。
【0059】
RNAは、通常、ポリ乳酸鎖(R−PLA)又はポリ乳酸・ポリサルコシンコポリマー鎖(R−PLA−Sar)に結合している。RNAは、R−PLA又はR−PLA−Sarの末端構成単位に結合していてもよく、末端以外の構成単位に結合していてもよいが、末端構成単位に結合していることが好ましい。また、RNAがR−PLA−Sarに結合している場合は、サルコシン構成単位の末端に結合していることが好ましい。
RNAとR−PLA又はR−PLA−Sarとは、マレイミド基などの反応性基を介して直接結合していてもよいが、反応性基に加え通常は適当なリンカーを介して結合される。このようなリンカーとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリペプチド、脂肪族ポリエステル、多糖類を挙げることができる。ポリペプチドの具体例としては、ポリグリシン、ポリβアラニンを挙げることができ、脂肪族ポリエステルの具体例としては、ポリカプロラクトン、ポリグルコール酸を挙げることができる。
【0060】
RNAの結合部位は、特に限定されないが、3’末端又は5’末端が適当である。この中、3’末端が好ましい。siRNAのような二本鎖RNAの場合には、センス鎖とR−PLA又はR−PLA・Sarとが結合することが好ましく、センス鎖の3’末端とR−PLA又はR−PLA・Sarの末端とが結合することがより好ましい。R−PLA−Sarの場合には、センス鎖の3’末端とR−PLA−Sarのサルコシン構成単位の末端とが結合することがより好ましい。
【0061】
2.2 長鎖疎水性基を有する化合物
本発明に係るRNAは、長鎖疎水性基を有する化合物により修飾されている。かかる化合物として、具体的には、例えば、ポリ乳酸鎖(R−PLA)又はポリ乳酸・ポリサルコシンコポリマー鎖(R−PLA−Sar)などを有する高分子や、ジメトキシトリチルオキシ−ヘキシルジチオヘキサンを挙げることができる。
上記の中、ポリ乳酸鎖(R−PLA)又はポリ乳酸・ポリサルコシンコポリマー鎖(R−PLA−Sar)のポリ乳酸鎖は、L−乳酸単位から構成されているポリL−乳酸鎖であっても、D−乳酸単位から構成されているポリD−乳酸鎖であっても、L−乳酸単位とD−乳酸単位の両者から構成されるポリDL−乳酸鎖であってもよい。当業者が目的等に応じて適宜選択することができる。ポリDL−乳酸鎖の場合、L−乳酸単位とD−乳酸単位との重合の順番は特に限定されない。L−乳酸単位とD−乳酸単位とが1個又は2個ずつ交互に重合されていてもよく、ランダムに重合されていてもよく、ブロック重合されていてもよい。
【0062】
前述した両親媒性ブロックポリマーAとの立体的相互作用による分子集合体の安定化をより期待する場合には、R−PLA又はR−PLA−Sarのポリ乳酸鎖の立体配置を両親媒性ブロックポリマーAのポリ乳酸鎖(A−PLA)と逆の立体配置にすることができる。即ち、A−PLAがL−乳酸単位から構成される場合には、R−PLA又はR−PLA−Sarのポリ乳酸鎖はD−乳酸単位とし、また、A−PLAがD−乳酸単位から構成されている場合には、R−PLA又はR−PLA−Sarのポリ乳酸鎖はL−乳酸単位とすることができる。
【0063】
ここで、D−乳酸単位から構成されているポリD−乳酸鎖とは、R−PLA又はR−PLA−Sarのポリ乳酸鎖を構成する全乳酸単位を基準として、通常90モル%以上、好ましくは95モル%以上、より好ましくは98モル%以上、特に好ましくは100モル%がD−乳酸単位であることを意味する。
【0064】
また、L−乳酸単位から構成されているポリL−乳酸鎖とは、R−PLA又はR−PLA−Sarのポリ乳酸鎖を構成する全乳酸単位を基準として、通常90モル%以上、好ましくは95モル%以上、より好ましくは98モル%以上、特に好ましくは100モル%がL−乳酸単位であることを意味する。
【0065】
RNAを修飾するポリ乳酸鎖(R−PLA)及びポリ乳酸・ポリサルコシンコポリマー鎖(R−PLA−Sar)のポリ乳酸鎖の乳酸単位数は、いずれも通常10〜60個、好ましくは25〜45個程度、より好ましくは25〜35個程度である。また、修飾RNA中のポリ乳酸鎖を構成する乳酸単位数は、両親媒性ブロックポリマーA中の疎水性ブロックを構成する乳酸単位数に対して、0.8〜1.2倍程度とすることが好ましく、0.9〜1.1倍程度とすることがより好ましく、0.95〜1.04倍程度とすることが更に好ましい。
【0066】
RNAを修飾するポリ乳酸・ポリサルコシンコポリマー鎖(R−PLA−Sar)のポリサルコシン鎖のサルコシン単位数は、通常0〜100個(0の場合は、乳酸単位のみからなる)、好ましくは20〜80個程度、より好ましくは40〜60個程度である。また、修飾RNA中のポリサルコシン鎖を構成するサルコシン単位数は、両親媒性ブロックポリマーA中の親水性ブロックを構成するサルコシン単位数(但し、3分岐型両親媒性ブロックポリマーAの場合は、その1/3単位数)に対して、0〜1.0倍程度とすることが好ましく、0.2〜0.8倍程度とすることがより好ましく、0.4〜0.6倍程度とすることが更に好ましい。
【0067】
この範囲内で、RNAを修飾するポリ乳酸鎖(R−PLA)全体の長さが上述の両親媒性ブロックポリマーAの疎水性ブロックの長さを超えないように分子設計することが好ましい。また、ポリ乳酸・ポリサルコシンコポリマー鎖(R−PLA−Sar)全体の長さが上述の両親媒性ブロックポリマーAの長さを超えないように分子設計することが好ましい。
【0068】
RNAを修飾するポリ乳酸鎖(R−PLA)及びポリ乳酸・ポリサルコシンコポリマー鎖(R−PLA−Sar)は、乳酸単位及びサルコシン単位以外の構成単位を1種又は2種以上を有してもよい。そのような構成単位として、例えば、乳酸以外のヒドロキシル酸、アミノ酸を挙げることができる。ヒドロキシル酸として、例えば、グリコール酸、ヒドロキシイソ酪酸が挙げられる。アミノ酸は、天然アミノ酸、非天然アミノ酸のいずれでもよい。またアミノ酸は、α−アミノ酸、β−アミノ酸、γ−アミノ酸のいずれでもよいが、好ましくはα−アミノ酸である。
【0069】
乳酸・サルコシン単位以外の構成単位の割合は、ポリマーを構成する全構成単位に対して、通常10モル%以下であり、好ましくは5モル%以下、より好ましくは2モル%以下、更に好ましくは1モル%以下、最も好ましくは0モル%である。本発明においては、乳酸単位又は乳酸単位とサルコシン単位のみからなることが好ましい。
【0070】
ポリ乳酸鎖、ポリサルコシン鎖においては、全ての乳酸単位又はサルコシン単位が連続していてもよく、非連続であってもよいが、いずれも連続していることが好ましい。
【0071】
2.3 長鎖疎水性基を有する化合物鎖の合成法
RNAを修飾する、長鎖疎水性基を有する化合物の合成方法は特に限定されない。市販試薬から常法により合成することができる。
また、当該化合物の中、ポリ乳酸やポリ乳酸・ポリサルコシンコポリマーについては、両親媒性ブロックポリマーAに関する合成方法に準じて合成することができる。具体的には、例えば、下記の製法を挙げることができる。
【0072】
ポリ乳酸・ポリサルコシンコポリマー鎖のポリサルコシン鎖の合成は、公知のペプチド合成法により行うことができる。例えば、アミンなどの塩基を開始剤として、サルコシン単位を形成できる単量体(以下、サルコシン単量体ともいう)を重合することによって行うことができる。サルコシン単量体として、例えば、サルコシン、N−カルボキシサルコシン無水物(サルコシン−NCA)が挙げられ、好ましくはN−カルボキシサルコシン無水物である。アミンなどの塩基を開始剤として、N−カルボキシサルコシン無水物を開環重合すること等によって行うことが好ましい。
【0073】
ポリ乳酸鎖、及びポリ乳酸・ポリサルコシンコポリマー鎖のポリ乳酸鎖の合成は、例えば、公知のポリエステル合成法により行うことができる。例えば、アミンなどの塩基を開始剤として、乳酸単位を形成できる単量体(以下、乳酸単量体ともいう)を重合することによって行うことができる。乳酸単量体として、例えば、乳酸、ラクチドが挙げられ、好ましくはラクチドである。アミンなどの塩基を開始剤として、ラクチドを開環重合すること等によって行うことが好ましい。ラクチドは、ポリ乳酸鎖の所望の立体化学(光学純度)を考慮して当業者が適宜決定することができる。例えば、L−ラクチド、又はD−ラクチドから適宜選択し、ポリ乳酸鎖の所望の立体化学(光学純度)に応じて当業者が適宜使用量を決定することができる。
【0074】
ポリサルコシン鎖及びポリ乳酸鎖の鎖長の調整は、重合反応における開始剤及び各単量体の仕込み比を調整することによって行うことができる。また、鎖長は、例えば
1H NMRによって確認することができる。
【0075】
ポリ乳酸・ポリサルコシンコポリマー鎖の合成は、例えば、ポリサルコシン鎖とポリ乳酸鎖とを連結させるリンカー試薬を合成し、それを開始剤として、サルコシン単位体の付加又はサルコシン単量体の重合反応によるポリサルコシン鎖の伸長、及び乳酸単量体の重合反応によるポリ乳酸鎖の伸長を行うことによって行うことができる。
【0076】
また例えば、サルコシン単量体をリンカー試薬に付加させた後に、又は、ポリサルコシン鎖を予め重合反応により調製し、リンカー試薬に付加させた後に、該サルコシン又はポリサルコシン鎖が付加したリンカー試薬に乳酸単量体を重合反応させてポリ乳酸鎖を伸長させることにより、ポリ乳酸・ポリサルコシンコポリマー鎖を合成することができる。
【0077】
さらに別の態様においては、例えば、ポリサルコシン鎖、又はポリサルコシン鎖及びポリ乳酸鎖の両方を予め用意しておき、別途合成されたリンカー試薬を用いてそれらブロックを連結させることにより、ポリ乳酸・ポリサルコシンコポリマー鎖を合成することができる。
【0078】
リンカー試薬は、乳酸単量体又はポリ乳酸鎖と結合可能な官能基(例えば、水酸基、アミノ基等)を1個有し、且つ、サルコシン単量体又はポリサルコシンと結合可能な官能基(例えば、アミノ基)を1個有する化合物であればよく、特に限定されるものではない。
【0079】
乳酸単量体又はポリ乳酸鎖と結合可能な官能基と、サルコシン単量体又はポリサルコシンと結合可能な官能基とは、必要に応じて、それぞれ保護基によって保護されていてもよい。この場合、それぞれの保護基としては、必要に応じて選択的に脱離させることが可能なものが当業者によって適宜選択される。
【0080】
2.4 その他
当該修飾RNAは、本発明の効果を損なわない限り、例えば、その分子内に後述する光増感剤を有することができる。かかる光増感剤は、RNA上に結合していてもよく、RNAを修飾する化合物上に結合していてもよい。
【0081】
本発明の分子集合体における修飾RNAの含有量は、用いるRNAの種類や、両親媒性ブロックポリマーA、RNAを修飾する化合物、細胞膜結合性化合物、光増感剤の種類や量等によって異なり適宜選択すればよいが、例えば、両親媒性ブロックポリマーAを基準(100モル%)として、通常、1〜20モル%の範囲内であり、好ましくは3〜15モル%、より好ましくは5〜10モル%である。
【0082】
2.5 修飾RNAの調製法
当該修飾RNAの調製(製造)方法、即ち、RNAに長鎖疎水性基を有する化合物を修飾する方法は特に限定されない。RNAの種類等に応じて、適宜常法により調製することができる。
【0083】
例えば、RNAの末端とポリ乳酸又はポリ乳酸・ポリサルコシンコポリマーの末端とを結合して、当該修飾RNAを調製する場合、RNAの末端にチオール基を導入し、一方、ポリ乳酸又はポリ乳酸・ポリサルコシンコポリマーの末端にマレイミド基を導入して、当該チオール基とマレイミド基との付加反応により、当該修飾RNAを調製することができる。具体的には、例えば、siRNAについて、次のように調製することができる。
【0084】
siRNAのセンス鎖3’末端とチオール化合物とを反応させ、3’末端の核酸塩基がチオール化されたセンスRNAを合成する。かかるセンスRNAと相補的なアンチセンスRNAとを常法によりアニーリングし、センス鎖3’末端にチオール基を有するsiRNAを調製する。一方、ポリ乳酸又はポリ乳酸・ポリサルコシンコポリマーとマレイミド試薬とを反応させ、末端にマレイミド基を有するポリ乳酸又はポリ乳酸・ポリサルコシンコポリマーを調製する。このようにして得られた、センス鎖3’末端にチオール基を有するsiRNAと末端にマレイミド基を有するポリ乳酸又はポリ乳酸・ポリサルコシンコポリマーとを常法により付加反応させることにより、当該修飾RNAを調製することができる。
【0085】
上記チオール化合物としては、RNAの末端にチオール基を導入することができるものであれば特に限定されないが、例えば、核酸塩基にチオール基を持つヌクレオチド、核酸塩基にアミノ基を持つヌクレオチド、核酸塩基にカルボキシル基を持つヌクレオチドを挙げることができ、具体的には、例えば、6−チオグアノシン、6−アミノグアノシン、6−カルボキシルグアノシンなどを含むヌクレオチドを挙げることができる。
【0086】
上記マレイミド試薬としては、ポリ乳酸又はポリ乳酸・ポリサルコシンコポリマーの末端にマレイミド基を導入できるものであれば特に限定されないが、例えば、N−(4−マレイミドブチリルオキシ)スクシンイミド(GMBS)、N−(4−マレイミドブチリルオキシ)スルホスクシンイミド(GMBS)ナトリウム塩 (sulfo−GMBS)、N−(6−マレイミドカプロイルオキシ)スクシンイミド(EMCS)、N−(6−マレイミドカプロイルオキシ)スルホスクシンイミド(GMBS)ナトリウム塩 (sulfo−EMCS)を挙げることができる。
【0087】
溶媒、反応温度、反応時間などは、RNAの種類や各種試薬の種類等に応じて、適宜設定することができる。
siRNA以外の当該修飾RNAについても、上記修飾siRNAの合成方法に準じて、合成することができる。
【0088】
3.細胞膜結合性化合物
本発明の分子集合体は、細胞膜結合性化合物を含む。本発明の分子集合体がミセル等の粒子状の場合、かかる細胞膜結合性化合物は、その粒子の外側に一部でも突出する鎖長を有するものが好ましい。
【0089】
3.1 細胞膜結合性化合物
本発明に係る「細胞膜結合性化合物」は、細胞膜に結合し、場合によっては自身を細胞内に取り込ませる働きを有するものである。細胞膜結合性化合物は、通常、ペプチド、糖鎖、抗体である。その代表例として、細胞膜透過性ペプチド(CPP)を挙げることができる。CPPは、アルギニンなどの塩基性アミノ酸(カチオン性アミノ酸)に富んだペプチドであったり、塩基性でかつ疎水性アミノ酸を含む両親媒性ペプチドであったり、またほとんどが疎水性アミノ酸で若干の塩基性アミノ酸を含むペプチドである場合もある。
【0090】
CPPは、一般的には、主に細胞のエンドサイトーシス経路を経て細胞内に取り込まれると考えられている。膜透過性ドメイン(Protein Transduction Domain:PTD)と称されることもある。
【0091】
本発明においては、細胞膜に結合しうる機能を有する化合物であれば特に限定されないが、CPPが好ましい。かかるCPPも特に限定されない。野生型のアミノ酸配列を有するものであってもよいし、細胞内に侵入する能力を有する範囲で、野生型のアミノ酸配列に対して置換、欠失、付加を施した変異型のアミノ酸配列を有するものであってもよい。また、両親媒性のCPP又は疎水性のCPPが好ましい。これらは両親媒性ブロックポリマーAと共に分子集合体を形成しやすいからである。
【0092】
CPPの具体例としては、ヒト免疫不全ウイルスI型(HIV−1)に由来する融合タンパク質gp41に含まれる、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するMPGペプチド、HIV−1に由来するTrans−activator of transcription protein(Tatタンパク質)に含まれる、配列番号2で示されるポリペプチド、フロックハウスウイルス(FHV)に由来する配列番号3で示されるポリペプチド、配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するCTP512(Cytoplasmic Transduction Peptide)、配列番号5で示されるアミノ酸配列を有するPepペプチド、配列番号14で示されるアミノ酸配列を有するDPV3ペプチド、配列番号15で示されるアミノ酸配列を有するPTD4ペプチド、配列番号16で示されるアミノ酸配列を有するPep1ペプチド、配列番号17で示されるアミノ酸配列を有するEB1ペプチド、Revペプチド、ネコヘルペスウイルスCoatタンパク質由来ペプチド、ポリアルギニン、CADYペプチドを挙げることができる。この中、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するMPGペプチドが好ましい。これらを1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0093】
配列番号1:GALFLGFLGAAGSTMGAWSQPKKKRKV
配列番号2:YGRKKRRQRRRG
配列番号3:RRRRNRTRRNRRRVR
配列番号4:YGRRARRRRRRR
配列番号5:KETWWETWWTE
配列番号14:RKKRRRESRKKRRRESC
配列番号15:YARAAARQARAC
配列番号16:KETWWETWWTEWSQPKKKRKVC
配列番号17:LIRLWSHLIHIWFQNRRLKWKKKC
【0094】
MPGペプチドは両親媒性ペプチドであるが、両親媒性ペプチドでないPepペプチド等であっても、例えば、WSQアミノ酸配列(リンカー)を介して疎水性配列を有することにより、両親媒性ペプチドとすることができる。
【0095】
3.2 細胞膜結合性化合物の含有量、その他
本発明の分子集合体における細胞膜結合性化合物の含有量は、用いる細胞膜結合性化合物の種類や、両親媒性ブロックポリマーA、修飾RNA、光増感剤の種類や量等によって異なり適宜選択すればよいが、例えば、両親媒性ブロックポリマーAを基準(100モル%)として、通常、1〜50モル%の範囲内であり、好ましくは5〜25モル%、より好ましくは10〜20モル%である。
【0096】
本発明に係る細胞膜結合性化合物は、本発明の効果を損なわない限り、その分子内に後述する光増感剤を有することができ、また光増感剤を有することが好ましい。
【0097】
4.光増感剤
本発明の分子集合体は、光増感剤を含む。
4.1 光増感剤
本発明に係る「光増感剤」は、例えば、光(近赤外光やそれに近い波長の光)を照射することにより、細胞内に取り込まれエンドソームに局在化していた分子集合体を細胞質中に拡散させることができる機能を有するものである。かかる拡散メカニズムは、光の照射により励起された光増感剤が一重項酸素を発生させ、これがエンドソーム膜を不安定化させる(破壊する)ためであると推測される。
【0098】
励起光の波長としては、例えば、450〜1300nmの波長領域を挙げることができる。好ましくは500〜1200nm、より好ましくは700〜1000nmの近赤外光の波長領域である。極大励起波長がこれらの領域にある光増感剤を用いることができる。この中、近赤外光は、生体中のヘモグロビンや水による吸収を回避して、生体組織を透過しやすい特性を有する。
【0099】
本発明に係る光増感剤は、上記機能を有し、上記波長領域において極大励起波長を有するものであれば特に限定されない。このような光増感剤は、様々なものが知られており、また市販されており、適当な市販品を用いることができる。例えば、フルオレセイン系色素、インドシアニン色素等のシアニン系色素、ローダミン系色素、ポルフィリン系色素、量子ドットが挙げられる。具体的には、例えば、DY750(DYOMICS GmbH社製)、DY751(DYOMICS GmbH社製)、DY780(DYOMICS GmbH社製)、Alexa Fluor(登録商標)633(Invitrogen社製)、Alexa Fluor(登録商標)750(Invitrogen社製)、Alexa Fluor(登録商標)546(Invitrogen社製)、IRDye(登録商標)800CW(LI−COR社製)、エオシン(Eosin)、ローズベンガル(Rosebengal)、インドシアニングリーン(ICG)等のインドシアニン系色素、Cy(登録商標)7、DY776、Alexa FLuor(登録商標)790、カルボキシフルオレセイン(FAM)を挙げることができる。この中、DY750、Alexa Fluor(登録商標)546、Alexa Fluor(登録商標)633、DY751、DY780、エオシン(Eosin)、ローズベンガル(Rosebengal)、ポルフィリン系色素が好ましい。
【0100】
4.2 光増感剤と細胞膜結合性化合物との結合
本発明に係る光増感剤は、単独でも本発明の分子集合体中に存在しうるが、一般に水溶性の光増感剤が多いことから、分子集合体に有効に包含させるためにも、前述の通り、本発明の分子集合体を構成する他の一以上の成分の分子内に存在することが好ましい。中でも、細胞膜結合性化合物の分子内に存在させることが好ましい。細胞膜結合性化合物(CPP等)の分子内に存在させることにより、細胞膜結合性化合物による細胞膜への結合と、光増感剤による細胞質中への拡散とが相乗的に発揮されることが期待される。
【0101】
細胞膜結合性化合物と光増感剤との結合は、常法により行うことができる。例えば、細胞膜結合性化合物がCPPペプチドの場合、CPP中唯一のシステインをN末端付近又はC末端付近に配置しておき、一方、光増感剤には当該システインのチオール基と選択的に反応する(CPPの他のアミノ酸残基とは反応しない)マレイミド基を導入しておき、これらチオール・マレイミド間の結合反応を介して行うことができる。マレイミド基導入のためのマレイミド試薬としては、修飾RNAの調製に用いられる前記マレイミド試薬と同様のものを挙げることができる。
【0102】
また、市販の「マレイミド基の付いた光増感剤」を用いて、同様にCPPと結合することもできる。例えば、マレイミド基の付いた光増感剤と末端1箇所にシステインを含むCPPとを混ぜ合わせたのちに、ゲル濾過スピンカラムなどで未反応の光増感剤を除去することにより、光増感剤とCPPとを結合させることができる。
【0103】
4.3 光増感剤の含有量
本発明の分子集合体における光増感剤の含有量は、用いる光増感剤の種類や、両親媒性ブロックポリマーA、修飾RNA、細胞膜結合性化合物の種類や量、他の成分との結合有無等によって異なり適宜選択すればよいが、例えば、両親媒性ブロックポリマーAを基準(100モル%)として、通常、1〜20モル%の範囲内であり、好ましくは1〜10モル%、より好ましくは1〜5モル%である。
【0104】
5.分子集合体
5.1 分子集合体
本発明の分子集合体は、両親媒性ブロックポリマーAの凝集により、或いは自己集合的な配向により構成される構造体である。本発明では、内側(コア部)が疎水性ブロック、外側(シェル部)が親水性ブロックとなるように構成されたミセル形状の分子集合体(ポリ乳酸系両親媒性ポリマーミセル)を用いることが好ましい。また、細胞膜結合性化合物の一部が外側に突出しているミセル形状の分子集合体が好ましい。
【0105】
5.2 粒子径
本発明の分子集合体の粒子径は、使用する両親媒性ブロックポリマーA、修飾RNA、細胞膜結合性化合物、及び光増感剤の種類、割合等により適宜調整することができるが、例えば、10〜100nmとすることができる。好ましくは10〜50nm、より好ましくは10〜30nmである。
ここで「粒子径」とは、粒子分布で最も出現頻度の高い粒径、すなわち中心粒径をいう。
【0106】
例えば、好ましいEPR効果を得るためには、分子集合体の粒子径を30nm以下とすることが好ましく、より好ましくは30nm未満とする。
【0107】
本発明の分子集合体の大きさを測定するための方法は特に限定されるものではなく、当業者によって適宜選択されるものである。例えば、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)又は原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM)による観察法や、動的光散乱(Dynamic Light Scattering;DLS)法等により測定することができる。
【0108】
5.3 分子集合体の作製
本発明の分子集合体の作製方法は特に限定されず、所望する分子集合体の大きさ、特性、担持させる機能性構造の種類、性質、含有量等に応じて、当業者が適宜選択することができる。必要に応じ、下記のように分子集合体を形成した後に、得られた分子集合体に対して、公知の方法によって表面修飾を行っても良い。なお、粒子が形成されたことの確認は、通常、電子顕微鏡観察によって行うことができる。
【0109】
5.3.1 フィルム法
本発明における両親媒性ブロックポリマーAは低沸点溶媒への溶解性を有するため、例えば、いわゆるフィルム法を用いて本発明の分子集合体を調製することができる。
【0110】
フィルム法は、例えば、次の工程を含む。
ガラスビーズが入っていてもよい容器中に、両親媒性ブロックポリマーAや修飾RNA等の分子集合体構成成分を有機溶媒中に含む溶液を用意する工程(以下、「工程(a1)」ともいう)、
上記溶液から上記有機溶媒を除去し、上記容器の内壁に上記両親媒性ブロックポリマーA等を含むフィルムを得る工程(以下、「工程(a2)」ともいう)、及び
上記容器中に水又は水溶液を加え、超音波処理又は加温処理を行い、上記フィルムを分子集合体に変換して分子集合体の分散液を得る工程(以下、「工程(a3)」ともいう)
工程(a1)〜工程(a3)は、通常この順に行われる。上記工程(a1)〜工程(a3)を含む調製方法は、本発明の分子集合体の調製方法として好適に用いられる。
【0111】
さらに、フィルム法は、分子集合体の分散液を凍結乾燥処理に供する工程を含んでも良い。
【0112】
工程(a1)で用いられる容器は特に限定されず、例えば、ガラス容器等を用いることができる。容器の形状等も特に限定されない。
両親媒性ブロックポリマーA等を有機溶媒中に含む溶液の調製方法は特に限定されず、有機溶媒に両親媒性ブロックポリマーA等を混合することによって調製してもよく、両親媒性ブロックポリマーAをあらかじめフィルムの状態でストックしておき、分子集合体を調製する際に、その他の構成成分を含む溶液を加えて該フィルムを溶解することによって調製してもよい。
【0113】
有機溶媒中の両親媒性ブロックポリマーAの濃度は、その種類や他の成分の種類等によって異なるが、例えば、10%(w/v)以下とすることが好ましく、1%(w/v)以下とすることがより好ましい。当該濃度の下限は、例えば、0.1%(w/v)とすることが好ましい。
【0114】
本発明に係る修飾RNAの有機溶媒中の濃度は、例えば、5%(w/v)以下とすることが好ましく、2.5%(w/v)以下とすることがより好ましい。当該濃度の下限は、例えば、0.1%(w/v)とすることが好ましい。また、当該濃度が、両親媒性ブロックポリマーAを基準として、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下、さらに好ましくは2モル%以下、特に好ましくは1モル%以下となるようにすることが好ましい。
【0115】
細胞膜結合性化合物ないし光増感剤が結合した細胞膜結合性化合物の有機溶媒中の濃度は、例えば、1%(w/v)以下とすることが好ましく、0.5%(w/v)以下とすることがより好ましい。当該濃度の下限は、例えば、0.01%(w/v)とすることが好ましい。また、当該濃度が、両親媒性ブロックポリマーAを基準として、好ましくは1モル%以下、より好ましくは0.5モル%以下、さらに好ましくは0.2モル%以下、特に好ましくは0.1モル%以下となるようにすることが好ましい。
【0116】
光増感剤の有機溶媒中の濃度は、例えば、1%(w/v)以下とすることが好ましく、0.5%(w/v)以下とすることがより好ましい。当該濃度の下限は、例えば、0.1%(w/v)とすることが好ましい。また、当該濃度が、両親媒性ブロックポリマーAを基準として、好ましくは1モル%以下、より好ましくは0.5モル%以下、さらに好ましくは0.2モル%以下、特に好ましくは0.1モル%以下となるようにすることが好ましい。
【0117】
フィルム法に用いる有機溶媒としては、上述した低沸点溶媒を用いることが好ましい。具体的には、クロロホルム、ジエチルエーテル、アセトニトリル、メタノール、エタノール、アセトン、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、ヘキサン等が挙げられる。また、このような溶媒を2種以上混合した混合溶媒を用いてもよい。このような低沸点溶媒を使用することによって、溶媒の除去が非常に簡単になる。
【0118】
工程(a2)における溶媒の除去の方法としては特に限定されず、使用する有機溶媒の沸点等に応じ、当業者が適宜決定すればよい。例えば、減圧下における溶媒除去、自然乾燥による溶媒除去等により除去することができる。
【0119】
有機溶媒が除去された後は、容器内壁に両親媒性ブロックポリマーA等を含むフィルムが形成される。工程(a3)において、このフィルムが張り付いた容器中に、水又は水溶液を加える。水又は水溶液としては特に限定されず、例えば、分子集合体の用途に応じて適宜選択することができる。生化学的ないし薬学的に許容することができるものを当業者が適宜選択すればよい。このような水又は水溶液として、例えば、注射用蒸留水、生理食塩水、緩衝液等が挙げられる。水又は水溶液の添加量は、例えば、工程(a1)で使用した両親媒性ブロックポリマーAに対して、質量比で通常10〜1000、好ましくは10〜100である。
【0120】
水又は水溶液が加えられた後、超音波処理又は加温処理を行う。通常、超音波又は加温によりフィルムが容器内壁から剥がれる過程で分子集合体が形成される。加温処理は、例えば70℃〜100℃、5分間〜60分間の条件下で行うことができる。超音波処理は、例えば、室温〜100℃で2〜60分程度行うことが好ましい。超音波処理又は加温処理終了時には、分子集合体が前記の水又は水溶液中に分散された分散液が容器中に調製される。また、工程(a3)におけるフィルムの剥離の際、超音波処理及び加温処理を併せて行ってもよい。
【0121】
5.3.2 インジェクション法
本発明の分子集合体は、いわゆるインジェクション法により調製することもできる。インジェクション法は、以下の工程を含むことが好ましい。
容器中に、両親媒性ブロックポリマーAや修飾RNA等の分子集合体構成成分を有機溶媒中に含む溶液を用意する工程(以下、「工程(b1)」ともいう)、
上記溶液を水又は水溶液中に分散させる工程(以下、「工程(b2)」ともいう)、及び
上記有機溶媒を除去する工程(以下、「工程(b3)」ともいう)。
上記工程(b1)〜(b3)は、通常この順に行われる。
【0122】
上記工程(b1)〜工程(b3)を含む調製方法は、本発明の分子集合体の調製方法として好適に用いられる。
【0123】
上記工程を含む調製方法により調製される分子集合体は、本発明の好ましい実施態様の1つである。インジェクション法においては、さらに、有機溶媒を除去する工程の前に、適宜精製処理工程を行ってもよい。
【0124】
インジェクション法に用いられる容器は特に限定されず、例えば、試験管等を用いることができる。工程(b1)において用いられる有機溶媒としては、例えばトリフルオシド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。両親媒性ブロックポリマーA等を有機溶媒中に含む溶液の調製方法は特に限定されず、上述したフィルム法における溶液の調製方法と同様の方法を採用することができる。
【0125】
工程(b2)における水又は水溶液としては特に限定されず、例えば、精製水、注射用蒸留水、生理食塩水、緩衝液等が挙げられる。水又は水溶液は、両親媒性ブロックポリマーA等を有機溶媒中に含む溶液に対して、通常、5〜100倍(体積比)使用する。両親媒性ブロックポリマーA等を有機溶媒中に含む溶液を、水又は水溶液中に分散させる方法は特に限定されず、例えば、ミキサー等により行うことができる。
【0126】
工程(b3)においては、両親媒性ブロックポリマーA等を含む有機溶媒が分散している水又は水溶液から、該有機溶媒を除去する。工程(b3)において有機溶媒を除去する方法は特に限定されず、上述した方法等により行うことができる。
精製処理としては、例えばゲルろ過クロマトグラフィー、フィルタリング、超遠心等の処理が挙げられる。これらを組み合わせて行うこともできる。
【0127】
フィルム法、インジェクション法等の方法により得られた分子集合体の分散液は、直接生体に投与することができるものである。また、分散液の状態で用時まで保存することもできる。
また、得られた分散液を凍結乾燥処理してもよい。凍結乾燥処理の方法は特に限定されず、公知の方法により行うことができる。例えば、上記のようにして得られた分子集合体の分散液を液体窒素等によって凍結させ、減圧下で昇華させることによって行うことができる。これにより、分子集合体の凍結乾燥処理物が得られる。すなわち、分子集合体を凍結乾燥処理物として保存することが可能になる。必要に応じ、この凍結乾燥物に水又は水溶液を加えて、分子集合体の分散液を得ることによって、分子集合体を使用に供することができる。水又は水溶液としては特に限定されず、例えば、分子集合体の用途に応じて適宜選択することができる。生化学的ないし薬学的に許容することができるものを当業者が適宜選択すればよい。このような水又は水溶液として、例えば、注射用蒸留水、生理食塩水、緩衝液等が挙げられる。
【0128】
6.腫瘍細胞質内へのRNA送達システム
本発明は、本発明の分子集合体を用いた、腫瘍細胞質内へのRNA送達システムも包含する。
【0129】
6.1 分子集合体の投与対象
本発明のRNA送達システムは、通常、上記分子集合体を動物(生体)内に投与することを含む。分子集合体を投与することができる動物は特に限定されないが、例えば、ヒト又は非ヒト動物が挙げられる。非ヒト動物としては特に限定されないが、ヒト以外の哺乳類、具体的には例えば、霊長類、齧歯類(マウス、ラット等)、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ヒツジ、及びウマ等が挙げられる。
【0130】
上記分子集合体は、悪性腫瘍部位等への特異的集積性に優れるものである。本発明の分子集合体は、EPR (Enhanced Permeability and Retention) 効果により悪性腫瘍部位の組織へ集積するため、その集積性は悪性腫瘍部位の組織の種類によらない。本発明の分子集合体の投与対象として、悪性腫瘍部位を有する動物又は悪性腫瘍部位を有する可能性がある動物が好適である。
本発明の分子集合体を投与する標的となりうる腫瘍は特に限定されず、例えば、肝臓がん、すい臓がん、肺がん、子宮頸がん、乳がん、大腸がん等の固形癌が挙げられる。
【0131】
6.2 投与
動物(生体内)への投与の方法としては特に限定されず、当業者が適宜決定することができる。投与の方法としては、全身投与又は局所投与のいずれでもよい。分子集合体の投与は、注射(針有型、針無型)、内服、外用のいずれの方法によっても行うことができる。投与経路は、予防又は治療に効果的な経路を選択することが好ましい。例えば、全身的に投与する場合は、経口投与の他、静脈内注射、皮下注射、筋肉内注射等の非経口投与により投与される。局所的に投与する場合は、例えば、皮膚、粘膜、肺、気管支、鼻腔、鼻粘膜、眼等に投与される。好ましくは、非経口投与、より好ましくは静脈内注射により投与される。
【0132】
本発明の分子集合体の投与量は特に限定されず、分子集合体が有するRNAの種類、標的部位等に応じて適宜選択することができる。
【0133】
6.3 腫瘍細胞質内へのRNA送達
本発明の分子集合体を生体内に投与後、当該分子集合体が標的部位(腫瘍患部)に到達した適当な時期に、例えば、当該分子集合体に内包されている光増感剤が励起する波長の光を患部組織に適当な時間、適当なエネルギーを照射することにより、修飾RNAを腫瘍細胞質内へ拡散送達することができる。修飾RNAが腫瘍細胞質内に送達されることにより、当該RNAがmRNA等に作用し、その機能(遺伝子発現抑制機能)が発揮され、患部組織の腫瘍細胞を死滅させることができる。
修飾RNAのRNAが、ABCG2遺伝子をノックダウンし、その発現を抑制するsiRNAや、フェロケラターゼ遺伝子をノックダウンし、その活性を阻害するsiRNA、あるいはその両者併用物である場合、ALAを用いた光線力学的療法(ALA−PDT)において、当該siRNAの作用により癌細胞に蓄積したPpIXの減少が阻止され、PpIXへの光照射で発生した活性酸素種により、効果的に腫瘍細胞を死滅させることができる。
【0134】
修飾RNAの細胞質内への移行は、次のようなメカニズムによると考えられる。生体内に投与された分子集合体は、エンドサイトーシスによりエンドソーム内に取り込まれ、光刺激により分子集合体中の光増感剤が機能を発揮し、エンドソーム膜と分子集合体(ミセル構造)が破壊され、修飾RNA等が細胞質内へ移行すると考えられる(
図1参照)。
【0135】
光の照射時間は、光増感剤の種類や含有量、波長、腫瘍の種類や状態、位置などにより異なるが、通常、1秒〜600秒である。好ましくは1秒〜100秒、より好ましくは1秒〜60秒である。これらの時間内に、通常1〜300J/cm2のエネルギーを患部に与えられればよい。
【0136】
7.癌の予防剤・治療剤、癌の予防・治療システム、癌の予防方法・治療方法
本発明の分子集合体は、機能性RNAを有し、腫瘍組織の細胞質内へ有効に移行することから、癌の予防又は治療に用いられる医薬(ミセル製剤)として有用である。
【0137】
本発明の予防剤又は治療剤は、本発明の効果を損なわない限り、医薬分野で通常使用される担体等を含む医薬組成物であってもよい。このような医薬組成物は、例えば、分子集合体及び担体を混合等して、公知の製剤の製造方法により製造することができる。医薬組成物の剤形は特に限定されず、非経口投与のための製剤として、例えば、注射剤、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、貼付剤、リニメント剤、座薬、噴霧剤、吸入剤、スプレー剤、点眼剤、点鼻剤が挙げられる。経口投与のための製剤としては、例えば、粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤が挙げられる。好ましくは、非経口投与のための製剤であり、中でも、注射剤が好ましい。例えば上述した分子集合体の分散液は、そのまま注射剤として使用することができるものである。
【0138】
本発明として、上記予防剤又は治療剤、及びそれに含まれる分子集合体中の光増感剤を励起させるための光を照射する手段を備えた装置を含む、癌の予防又は治療システムも挙げることができる。
本発明の予防剤又は治療剤に含まれる分子集合体中の光増感剤を励起させるための励起光を照射する手段としては、例えば、光線力学治療(PDT)用の光源装置(例えば、パナソニック ヘルスケア株式会社製PDT半導体レーザー)などの医療用半導体レーザー装置(例えば、オリンパス社製UDL−15)を挙げることができる。具体的には、例えば、ダイレーザー、エキシマレーザーなどを励起光とした色素レーザー、パルス波エキシマダイレーザー、波長可変レーザー、半導体レーザーを挙げることができる。また、ハロゲンランプ、キセノンランプ、蛍光ランプ、LEDなどを内蔵した光源装置も挙げることができる。
本発明に係る癌の予防又は治療システムにおいては、例えば、腫瘍の位置を解析する手段や光源の照射位置を腫瘍に合わせる手段を含んでいてもよい。具体的には、赤外線観察カメラシステム(浜松ホトニクス社製 PDE−NEO C10935−20)などを挙げることができる。
【0139】
上記予防剤又は治療剤は生体内に投与することができ、また投与後、例えば、投与した光増感剤の励起光を適当な時間照射することにより、癌を予防又は治療することができる。投与することができる動物、標的となる癌(腫瘍)、光の照射時間などは前記と同じである。癌の予防又は治療には、癌の細胞の増殖阻止、転移阻止なども含まれる。本発明は、上記予防剤又は治療剤を生体内に投与すること、及び投与した予防剤又は治療剤に含まれる分子集合体中の光増感剤を励起させるための光を照射することを含む、癌の予防方法又は治療方法も包含する。
【実施例】
【0140】
以下に本発明をより詳細に説明するために実施例、試験例等を示すが、本発明はこれら実施例等に何ら限定されるものではない。
【0141】
[合成例1:ポリ乳酸・ポリサルコシンコポリマー修飾RNAの合成]
本発明に係るポリ乳酸・ポリサルコシンコポリマー修飾RNAとして、PLLA30−PS56−siRNA(平均鎖長30merのポリ乳酸と平均鎖長56merのポリサルコシンの連なったブロックコポリマーに、siRNAのつながったもの)の合成を行った(
図2参照)。
【0142】
(1)マレイミド基が結合したポリ乳酸・ポリサルコシンコポリマーの作製
ポリサルコシン鎖側の末端にマレイミド基を持つポリ乳酸・ポリサルコシンコポリマー(PLLA−PS−マレイミド)を次の方法により作製した。
NH−PS56−PLLA30 100mgを乾燥したジメチルホルムアミド(DMF)2.5mLに溶解した後、N−succimidyl 3−Maleimidopropyonate 21.3mg(5当量)およびDiisopropylethylamine 5.45μL(2当量)加え、室温で7時間撹拌した。DMFを留去した後、得られた白色沈殿を酢酸エチルで3回洗浄し、PLLA30−PS56−マレイミドを得た(収量:59.1mg)。
【0143】
【化1】
【0144】
(2)PLLA30−PS56−siRNAの合成
PLLA30−PS56(ポリマー)とsiRNAとが1:1のものを、表1の反応組成で、容量20μLにて合成した。siRNAは、anti−GFP(抗緑色蛍光タンパク質)配列のsiRNA(下記配列番号6と7)であって、そのセンス鎖3’末端にチオール基を、アンチセンス鎖3’末端にFAM蛍光色素を持つものである。かかるセンス鎖とアンチセンス鎖は、株式会社日本バイオサービスから購入した。
PLLA30−PS56−siRNAの合成に先立ち、上記センス鎖とアンチセンス鎖を20μMずつの濃度で混ぜ、20mMのTris−HCl及び2mMのMg(OAc)2を含む水溶液中でアニーリング(85℃で2分間加熱後に徐冷)することにより二重鎖のsiRNAを形成させておいた。
【0145】
センス鎖(配列番号6):
5’−GGCUACGUCCAGGAGCGCAdTdT−3’
アンチセンス鎖(配列番号7):
5’−UGCGCUCCUGGACGUAGCCdTdT−3’
【0146】
【表1】
【0147】
反応効率を高めるためにsiRNAに対する様々なPLLA30−PS56−マレイミドの配合比(1:2,1:5,1:10)で3時間,25℃で反応させ、反応物を0.7μL程度泳動し、8%Urea PAGEで確認した。その結果を
図3に示す。
【0148】
図3の上にシフトしたバンドが、ポリマーと共有結合したRNAを示している。その結果、反応効率は、RNA:ポリマー=1:5くらいのとき最も高かった。この反応物を8%Urea PAGEをして切り出し・抽出したところ、
図4の丸2のバンドの通り、目的物を精製できたことが確認された。
【0149】
[合成例2:ジメトキシトリチルオキシ−ヘキシルジチオヘキサン(DMT−C6−SS−C6)修飾RNAの合成]
DMT-C6-SS-C6基を5’末端に付加したsiRNA(anti−EGFP配列)センス鎖、及びsiRNA(anti−EGFP配列)アンチセンス鎖を、株式会社日本バイオサービスから購入した。当該センス鎖およびアンチセンス鎖のRNA配列は、配列番号6と7と同じである。DMT-C6-SS-C6基の構造は下記の通りであり、これがセンス鎖の5’末端リン酸基の酸素原子に付いている。DMT-C6-SS-C6-修飾センス鎖とアンチセンス鎖をアニーリングするために、下記表2の組成の溶液を調製した。その溶液をPCR装置より85℃で1分間加熱し、1℃/sで徐冷した。
【0150】
【化2】
【0151】
【表2】
【0152】
[合成例3:光増感剤が結合した細胞膜結合性化合物の合成]
(1)細胞膜結合性化合物の作製
細胞膜結合性化合物である下記2種のCPPペプチドをFmoc固相合成法により作製した。いずれもN末端又はC末端にシステインを結合した。システインのチオール基と、光増感剤が有するマレイミド基とを介して、CPPペプチドに光増感剤を結合させるためである。
【0153】
配列名C−MPGdNLS(配列番号8):
CGALFLGFLGAAGSTMGAWSQPKSKRKV
配列名MPGΔNLS−C(配列番号9):
GALFLGFLGAAGSTMGAWSQPKSKRKVGC
【0154】
(2)光増感剤が結合した結合細胞膜結合性化合物の合成
上記2種のCPPペプチドに、チオール―マレイミド結合を介して、マレイミド基を持つ光増感剤(Alexa Fluor(登録商標)546、又はDY750)を付加することにより合成した。
【0155】
合成は、表3の組成の溶液を調製し、2時間、25℃でインキュベーションすることにより行った。そして、その溶液をHPLC装置(PU970,PU−980,DG−980−50,LG−980−02,821−FP,Jasco社製)で精製した。カラムにはC18カラムを用い、溶媒にはアセトニトリルと0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)aqを用い、40分間でアセトニトリル0→100%のグラジエントにより精製した。精製した光増感剤修飾ペプチドは、その後、エバポレーターを用いて溶媒を除去し、MilliQ水に溶かした。得られたものは、HPLC−CHIP/QTOF質量分析装置(G6520 G4240,Agilent Technologies社製)により分子量の一致を確認した。
【0156】
【表3】
【0157】
[試験例1:RNAi効果の確認]
Lipofectamine 2000 transfection reagent(Life technologies社製)を用いて、EGFP(高感度緑色蛍光タンパク質)を安定発現するChinese hamster ovary(CHO)細胞に、合成例1で合成したポリ乳酸・ポリサルコシンコポリマー修飾siRNA(ポリマー修飾siRNA)の導入を行った。
【0158】
96wellプレートのウェル上で培養とRNA導入を行い、導入後20時間後に培地を除き、PBS100μLで洗浄し、トリプシン20μLで処理した。5分間処理後、F12培地100μL加え、懸濁して1.5mLチューブに移した。4℃,5000rpmで5分間遠心し、上清を除去し、PBS250μLで再懸濁した。その溶液をフローサイトメトリー法により測定した。その結果を
図5に示す。
【0159】
Anti−EGFP配列のポリマー修飾siRNAを細胞内に導入した場合、コントロールを100%とすると40%弱まで発現が抑制されており、確かにRNAi効果(EGFPノックダウン)が観測された。一方、EGFPを標的としないネガティブコントロールのポリマー修飾siRNAを細胞内に導入した場合には、有意なRNAi効果は観測されなかった。このことから、ポリ乳酸・ポリサルコシンコポリマーで修飾したsiRNA(本発明に係る修飾siRNA)は確かに生理活性を持つことが明らかである。
【0160】
[試験例2:RNAi効果の確認]
試験例1と同様にして、合成例2で合成したDMT-C6-SS-C6-修飾siRNAのRNAi効果を観測した。その結果を
図6に示す。
図6に示す通り、EGFP−CHO細胞におけるEGFPのノックダウンを指標として、当該DMT-C6-SS-C6-修飾siRNAを投与した際には高効率なRNAi効果が観測された。
【0161】
[試験例3:5−アミノレブリン酸(ALA)を用いた光線力学的療法(PDT)において有用なsiRNAのRNAi効果の確認]
(1)6wellプレートのウェル上で、Lipofectamine RNAiMax transfection reagent (Life technologies社製)を用いて、ヒト悪性中皮腫細胞株(211H)又はヒト膵臓腺がん細胞株(CFPAC1)に、ATP-binding cassette transporter G2(ABCG2)遺伝子をノックダウンするABCG2 siRNA(配列番号10と配列番号11からなる二本鎖核酸)、フェロケラターゼ(Ferrochelatase, FECH)遺伝子をノックダウンするFECH siRNA(配列番号12と配列番号13からなる二本鎖核酸)の導入を行った。ABCG2 siRNAは最終濃度が100nmol/L、FECH siRNAは最終濃度が20nmol/Lになるように添加した。
【0162】
(2)6wellプレートのウェル上でRNA導入と培養を行い、導入から0時間後、24時間後、48時間後に細胞を回収しPBS1mLで洗浄した。細胞懸濁液を遠心(4℃、3500rpmで5分間)したのち上清を除去し、RIPA(Radio-Immunoprecipitation assay)バッファー(組成、50 mmol/ Tris-HCl (pH8.0), 150 mmol/L sodium chloride, 0.5% (w/v) sodium deoxycholate, 0.1% (w/v) sodium dodecyl sulfate, 1% (w/v) NP-40)で細胞を溶解した。各試料は、1mg/mLの濃度になるようにSDSサンプルバッファーを加え、100℃で5分間加熱した。なお、タンパク質濃度はBCA protein assay kit (Pierce 社製)を用いてウシ血清アルブミンによる標準曲線から測定した。
【0163】
(3)各試料はウェスタンブロット法により下記の操作で解析した。
タンパク質量として20μgを10%のポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動した。そのゲルに存在するタンパク質は、トランスファー装置を用いてPVDF膜に転写した。そのPVDF膜は、5%(w/v)スキムミルクを含むTBS−T(150 mmol/L sodium chloride, 0.05%(v/v)Tween 20, 10 mmol/L Tris-HCl, pH 7.4)溶液で1時間ブロッキングを行った。抗ABCG2抗体(Cell signaling Technology 社製)、抗FECH抗体(Cell signaling Technology 社製)、抗actin抗体(Millipore社製)は、5%(w/v)スキムミルク−TBS−T溶液で希釈し、PVDF膜を浸して4℃で一晩反応させた。PVDF膜はTBS−T溶液で洗浄(5分間、3回)し、5%(w/v)スキムミルク−TBS−T溶液で希釈したhorse radish peroxidase(HRP)を標識した抗ウサギ抗体又は抗マウス抗体を、室温で2時間反応させた。PVDF膜をTBS−Tで洗浄(5分間、3回)した後、Clarity Western ECL substrate (BioRad社製)を用いてHyperfilm ECL化学発光用フィルム(GE社製)に感光させ、目的とする各タンパク質を可視化させ解析した。なお、ABCG2及びフェロケラターゼは、特異的抗体を用いてそれぞれ検出した。Actinは、内在性コントロールとして使用した。その結果を
図7に示す。
【0164】
図7に示す通り、211H細胞とCFPAC1細胞の両細胞において、RNA導入後48時間でABCG2発現量の減少が観察された。一方、フェロケラターゼ(FECH)の発現量は、24時間で強く減少し、48時間後には検出されないほど顕著な抑制効果が観察された。この結果は、用いたsiRNAが確かにRNAi効果を持つことを示している。
【0165】
[試験例4:siRNA導入によるALA誘導の細胞内プロトポルフィリンIX(PpIX)蓄積量の増大の確認]
RNAの導入は、試験例3(1)と同様にして行った。
RNA導入から48時間後、培地に5−アミノレブリン酸(ALA)を最終濃度0.5mmol/Lとなるように添加した。培養3時間後に培地を除き、トリプシン溶液を用いて細胞を回収しPBS1mLで洗浄した。細胞懸濁液を遠心(4℃、3500rpmで5分間)したのち上清を除去し、PBS0.5mLで再懸濁した。その細胞懸濁液をフローサイトメトリー法により解析した。その結果を
図8に示す。
【0166】
図8において、ヒストグラムのピークが右にシフトするほど細胞内プロトポルフィリンIX(PpIX)量の増大を意味する。
図8が示す通り、両細胞において、ALA処理(コントロール(+)ALA線)は細胞内にPpIXを蓄積させたが、siRNAを導入した細胞ではより多くのPpIXの蓄積が観察された。特に、ABCG2 siRNAとフェロケラターゼsiRNAの両方を導入した細胞(ABCG2+FECH線)は顕著なPpIX蓄積が観察され、これらのsiRNAが細胞内PpIXの蓄積に有効であることが明らかである。
【0167】
[試験例5:ALA−PDTにおけるsiRNA導入細胞における細胞生存率の低下の確認]
RNAの導入は、試験例3(1)と同様にして行った。
RNA導入から48時間後、培地に5−アミノレブリン酸(ALA)を最終濃度0.5mmol/Lとなるように添加した。培養3時間後にNa−Liランプを装備したTheraBeam VR630 (Ushio Lighting社製)を用いて、細胞に光(波長:630nmを中心とする530nmから700nm、出力:29mW/cm
2)を10分間照射した。その後、さらに24時間培養した。培地にMTT溶液を0.0125mg/mLとなるように添加し30分間培養を続けた。培地を除去し細胞をPBS1mLで洗浄しPBSを除去した後、ジメチルスルホキシド1mLを添加し細胞内に生成したホルマザンを可溶化した。その溶液を96wellプレートに100μLずつ移し、マイクロプレートリーダーで吸光度(570nm)を測定し、細胞生存率を算出した。なお、ネガティブコントロールの細胞生存率を100%とした。その結果を
図9に示す。
【0168】
図9が示す通り、両細胞において、ALA処理をした細胞はいずれも細胞生存率が低下したが、siRNAを導入した細胞ではさらに生存率が低下していた。その中でもABCG2 siRNAとフェロケラターゼsiRNAの両方を導入した細胞(ABCG2+FECH)は、顕著な生存率の低下が観察された。これら生存率の結果は、
図8で観察された細胞内PpIXの蓄積量とよく一致していた。
【0169】
以上により、使用したsiRNAは、5−アミノレブリン酸(ALA)を用いた光線力学的療法(PDT)の効率化に有効であることが明らかである。
【0170】
[試験例6:RNAの細胞内侵入の確認]
(1)本発明の分子集合体の調製
ポリ乳酸―ポリサルコシン(両親媒性ブロックポリマーA)からなる高分子ミセルへの本発明に係る修飾siRNAの組み込みと精製は、以下の操作により行った。
【0171】
20nmoLのPLLA30−PS70と、100pmoLの修飾siRNA(合成例1)、250pmoLの細胞膜結合性化合物(2種のCPPペプチド(1:1)、Alexa Fluor(登録商標)546又はDY750修飾体、合成例3)のクロロホルム溶液(100μL)を小型試験管(ダーラム管)内で乾燥させ、フィルムを形成させたのち、1時間減圧乾燥を行った。そして、20μLのMilliQ水を加え85℃で15分間加熱した。その溶液を450nmフィルターに通した後、300kDa限外濾過フィルターに通して精製を行った。
【0172】
450nmのフィルターを通り抜け、300kDaの限外濾過膜にトラップされたので、得られたものはナノサイズの粒子であることが推測された。
上記のように製造された本発明の分子集合体ミセルにおいては、そのミセルの外側(シェル部)に細胞膜結合性化合物の一部が突出している。
【0173】
(2)本発明の分子集合体による、RNAの細胞内侵入の確認
修飾RNAと細胞膜結合性化合物(CPPペプチド)とを含む分子集合体(
図10)が細胞内に侵入することを以下のようにして確認した。
【0174】
前日に96wellプレートにChinese hamster overy(CHO)細胞を2.0×10
4個撒いた。翌日、T buffer[20mM HEPES−KOH (pH7.4),115mM NaCl,5.4mM KCl,1.8mM CaCl2,0.8 mM MgCl2 and 13.8mM Glucose]を溶媒とし、CPPペプチド(Alexa Fluor(登録商標)546又はDY750修飾体、合成例3)の濃度が1μMになるよう調製したサンプル50μLをwellに加え、2時間インキュベーションした。
【0175】
その後、T bufferで2回洗浄し、T bufferを100μL添加して画像を撮影した。まず各位相差像を撮り、励起光を照射する前に各FAM像とAlexa546像を撮影した。続いて、Alexa546に対しては、蛍光顕微鏡Olympus IX51を用い、530−550nmの励起光を、x20対物レンズを通して11秒間照射し、2分間放置して、FAM像とAlexa546像を撮影した。DY750に対しては、epitex社のLEDライトL750−66−60により5分間照射後、FAM像を撮影した。その結果を
図11及び
図12に示す。修飾siRNAはFAMで標識されており、FAM像は修飾siRNAの局在を示す。
【0176】
図11に示す通り、分子集合体に刺さり込んだAlexa546標識ペプチド及び修飾RNAは、2時間の細胞処理後に、それぞれ細胞内に侵入し、主として(エンドソームと考えられる)小胞内に局在した(光照射前の写真参照)。このとき、Alexa546には光増感剤としての機能も有しており、その励起光を11秒間照射したのちには、エンドソームから脱出し細胞質へと拡散した(光照射後の写真参照)。また、DY750に係る
図12からも、光照射後において修飾siRNAが細胞質内に拡がっていることが明らかである(光照射後のFAM写真像参照)。
【0177】
すなわち、このポリマー修飾RNAは、同様なポリマーにより形成された両親媒性ブロックポリマーAに容易に組み込むことができ、細胞質内に送達された。
従って、本発明の分子集合体は、細胞質内へRNAを送達できることが明らかである。
【0178】
[試験例7:RNAの細胞内侵入の確認]
(1)本発明の分子集合体の調製
ポリ乳酸−ポリサルコシン(両親媒性ブロックポリマーA)からなる高分子ミセルへのDMT-C6-SS-C6-修飾siRNAの組み込みは以下のように行った。
【0179】
20nmoLのPLLA30−PS70と、10pmoLのDMT-C6-SS-C6-修飾siRNA、250pmoLの細胞膜結合性化合物(2種のCPPペプチド(1:1)、DY750修飾体)のクロロホルム溶液(100μL)を小型試験管(ダーラム管)内で調合し、乾燥させ、フィルムを形成させたのち、1時間減圧乾燥を行った。その後の操作は試験例3(1)と同じである。
【0180】
(2)本発明の分子集合体による、RNAの細胞内侵入の確認
この分子集合体による、RNAの細胞内侵入の確認は試験例3(2)と同様にして行った。
その結果、FAMで標識された修飾siRNAの局在は、光照射の前後で、
図13に示すようになった。修飾RNAは、2時間の細胞処理後に、それぞれ細胞内に侵入し、主として(エンドソームと考えられる)小胞内に局在した(光照射前の写真参照)。光照射後には修飾siRNAが細胞質内に拡がっていることが明らかである(光照射後のFAM写真像参照)。
【0181】
[試験例8:細胞膜結合性化合物の効果の確認]
(1)用いた細胞膜結合性化合物と光増感剤
当該実験に用いた細胞膜結合性化合物は下記4種のCPPペプチドであり、いずれもFmoc固相合成法により作製した。
【0182】
配列名DPV3(配列番号14):RKKRRRESRKKRRRESC
配列名PTD4(配列番号15):YARAAARQARAC
配列名Pep1(配列番号16):KETWWETWWTEWSQPKKKRKVC
配列名EB1(配列番号17):LIRLWSHLIHIWFQNRRLKWKKKC
【0183】
当該実験に用いた光増感剤は、インドシアニングリーン(ICG)に34のポリ乳酸からなるPLLA34を結合させたものである(ICG−PLLA34)。これは、特許第5531332号の実施例1に準じて作製したNH2−PLLA34にICG−NHSを付加する形で同特許の実施例5に準じて合成した。
【0184】
(2)CPPペプチド含有分子集合体の調製
32のポリ乳酸からなるPLLA32と25のポリサルコシンからなるPS25がPLLA32に3つ分岐して結合したPLLA32−(PS25)3(分岐型両親媒性ブロックポリマーA)からなる高分子ミセルへの細胞膜結合性化合物の組み込みと精製は、以下の操作により行った。
【0185】
100nmoLのPLLA32−(PS25)3、合成例1(1)で作製した10nmolのPLLA30−PS56−Maleimideおよび2nmolのICG−PLLA34のクロロホルム溶液(112μL)を試験管内で乾燥させ、フィルムを形成させたのち、20分間減圧乾燥を行った。これに50μLの生理食塩水を加え水和させた。
その後、DPV3、PTD4、Pep1またはEB1(配列番号14〜17)のCPPペプチドを30nmol加え、全液量を100μLとし、室温で12時間以上振盪し反応させた。そして、50kDaの限外濾過フィルターに移し、生理食塩水で全液量を500μLとした後、12000×Gで10分間遠心した。遠心後の溶液に再度生理食塩水を加えて全液量を500μLとし再度同条件で遠心を行い、同工程をもう一度繰り返した後、限外濾過フィルターを逆にして、室温、1000×Gで3分間遠心し溶液を回収した。回収した溶液は、生理食塩水で全液量を50μLとし、以下の実験に供した。
【0186】
(3)細胞内取り込み率の評価
CPPペプチドを含む分子集合体が細胞内に侵入することを以下のようにして確認した。実験は上述の4種のCPPペプチドを含む分子集合体サンプルで行った。対照としてCPPペプチドを含まないサンプルを使用した。
【0187】
前日に96wellプレートにChinese hamster overy(CHO)細胞を2.0×10
4個撒いた。翌日、142μLのT buffer[20mM HEPES−KOH (pH7.4),115mM NaCl,5.4mM KCl,1.8mM CaCl2,0.8 mM MgCl2 and 13.8mM Glucose]と、上述のサンプル8μLをwellに加え、37℃、5%CO
2下で2時間インキュベーションした。その後、培地を交換し、IVISスペクトラム(パーキンエルマー社製)で撮像した。
【0188】
撮像は、IVISを用い、745nmの励起光を照射し、840nmの波長、露光時間10秒でICG像の蛍光強度を測定した。
【0189】
次に、各々のウェルにCell counting kit−8(同仁化学社製)を10μLずつ加え、37℃、5%CO
2下でインキュベートした後、プレートリーダーで450nmの吸光度を測定し、生細胞数を求めた。そして、IVISでの蛍光強度をプレートリーダーでの生細胞数で除し、対照の結果で標準化することにより、当該CPPペプチドの細胞内取り込み率を評価した。その結果を
図14に示す。
図14に示す通り、特にPep1ペプチドとEB1ペプチドの取り込み率が高かった。