【文献】
Study on channel model for frequencies from 0.5 to 100 GHz (Release 14),3GPP TR38.901 V14.0.0,2017年 3月,p.36 (7.5-22),URL,https://www.3gpp.org/ftp/Specs/archive/38_series/38.901
【文献】
上橋 俊介,小川 恭孝,西村 寿彦,大鐘 武雄,時変動マルチユーザMIMO環境における2段階の圧縮センシングを用いたチャネル予測,電子情報通信学会技術研究報告,2016年 2月24日,Vol.115 No.472,pp.357-362
【文献】
奥村 香菜子,小川 恭孝,西村 寿彦,大鐘 武雄,インパルス応答推定に基づくチャネル予測手法に関する検討,電子情報通信学会技術研究報告,2016年 6月15日,Vol.116,No.110,pp.81-86
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
1つの移動体端末に対する通信に複数Kのキャリアを用いるマルチキャリア変調方式、複数Sの送信アンテナ、複数Uの受信アンテナを用いるMIMO方式および前記複数Sの送信アンテナによる放射ビーム特性を設定するビームフォーミング処理方式を採用するシステムを試験対象とし、前記複数Sの送信アンテナからN個の散乱体を含む伝搬環境を経て前記複数Uの受信アンテナを通して受信される受信信号を生成して前記試験対象に与えるMIMO方式システムの試験装置において、
前記試験対象に伝達するためのRレイヤ分のデータ信号列に対して、それぞれ前記複数Kのキャリア毎の周波数領域の変調信号を(R×K)系列分生成するレイヤ周波数領域信号生成部(31)と、
前記複数Sの送信アンテナと前記データ信号列のレイヤの数で特定される(S×R)系列分のビームフォーミング特性に、前記複数Sの送信アンテナが送出する信号が該複数Sの送信アンテナの特性に従って散乱体1つ当りM本の素波として出力されて対応する散乱体に到達するまでの伝搬路を模擬する特性を乗じて、ビームフォーミング特性が付与された伝搬路の特性を求める第1の伝搬路演算部(41)と、
前記第1の伝搬路演算部の演算結果に対し、前記複数Uの受信アンテナが前記試験対象とともに移動することで生じるドップラ周波数シフトを付与するための位相特性を乗じて、前記試験対象の移動状況を加味した伝搬路の特性を求める第2の伝搬路演算部(42)と、
前記第2の伝搬路演算部の演算結果に対し、前記複数Uの受信アンテナの受信特性を表す受信アンテナ特性を乗じて、前記複数Uの受信アンテナの受信特性を加味した伝搬路の特性を求める第3の伝搬路演算部(43)と、
前記第3の伝搬路演算部の演算結果のうち、前記複数Uの受信アンテナ毎にドップラ周波数シフトが共通とみなせる前記素波を複数まとめて1単位とするとともに、それぞれドップラ周波数が異なるL単位分の伝搬路の特性に対してフーリエ変換処理を行い、前記複数Kのキャリア間隔毎の周波数領域での伝搬路の特性を求めるフーリエ変換部(44)と、
前記フーリエ変換部の演算結果に対して、前記レイヤ周波数領域信号生成部で生成された(R×K)系列分の変調信号を乗算して、前記複数Sの送信アンテナから前記複数Uの受信アンテナまでの擬似的な伝搬路を経由した周波数領域の伝搬信号を前記複数Kのキャリア当り(U×L)系列で生成する伝搬信号演算部(51)と、
前記伝搬信号演算部で得られる前記複数Kのキャリア当り(U×L)系列の伝搬信号に対し、該各系列に対応するドップラ周波数で回転する窓関数の乗算による信号切出しに相当する周波数領域での処理として、前記窓関数の周波数特性の畳み込み演算を行ない、前記複数Kのキャリア当り(U×L)系列の伝搬信号の抽出処理を行なう窓関数演算部(52)と、
前記窓関数演算部の演算結果に対し、前記複数Uの受信アンテナ毎にL単位の信号の加算処理を行い、前記複数Kのキャリア当りU系列の伝搬信号を生成するパス信号加算部(53)と、
前記パス信号加算部の演算結果に対してフーリエ逆変換処理を行ない、前記複数Uの受信アンテナでそれぞれ受信される時間領域の信号を生成する時間領域信号生成部(54)と、
前記時間領域信号生成部が生成した時間領域の信号を、前記窓関数の長さ分ずらして加算して、前記複数Uの受信アンテナを通して受信される連続した受信信号を生成するシフト加算部(55)とを備えたことを特徴とするMIMO方式システムの試験装置。
1つの移動体端末に対する通信に複数Kのキャリアを用いるマルチキャリア変調方式、複数Sの送信アンテナ、複数Uの受信アンテナを用いるMIMO方式および前記複数Sの送信アンテナによる放射ビーム特性を設定するビームフォーミング処理方式を採用するシステムを試験対象とし、前記複数Sの送信アンテナからN個の散乱体を含む伝搬環境を経て前記試験対象が有する前記複数Uの受信アンテナに至る擬似的な伝搬路を想定し、該伝搬路を経由して前記複数Uの受信アンテナにそれぞれ入射するための入射波を生成して、電波暗室内でU'本のプローブアンテナを通して前記試験対象に前記入射波を与えるMIMO方式システムの試験装置において、
前記試験対象に伝達するためのRレイヤ分のデータ信号列に対して、それぞれ前記複数Kのキャリア毎の周波数領域の変調信号を(R×K)系列分生成するレイヤ周波数領域信号生成部(31)と、
前記複数Sの送信アンテナと前記データ信号列のレイヤの数で特定される(S×R)系列分のビームフォーミング特性に、前記複数Sの送信アンテナが送出する信号が該複数Sの送信アンテナの特性に従って散乱体1つ当りM本の素波として出力されて対応する散乱体に到達するまでの伝搬路を模擬する特性を乗じて、ビームフォーミング特性が付与された伝搬路の特性を求める第1の伝搬路演算部(41)と、
前記第1の伝搬路演算部の演算結果に対し、前記試験対象が移動することによって生じるドップラ周波数シフトを付与するための位相特性を乗じて、前記試験対象の移動状況を加味した伝搬路の特性を求める第2の伝搬路演算部(42)と、
前記第2の伝搬路演算部の演算結果のうち、前記試験対象からみた電波の到来方向が同一とみなせる前記素波を複数まとめて1単位とするとともに、それぞれ到来方向が異なるL単位分の伝搬路の特性に対してフーリエ変換処理を行い、前記複数Kのキャリア間隔毎の周波数領域での伝搬路の特性を求めるフーリエ変換部(44′)と、
前記フーリエ変換部の演算結果に対して、前記レイヤ周波数領域信号生成部で生成された(R×K)系列分の変調信号を乗算して、前記複数Sの送信アンテナから前記試験対象が有する前記複数Uの受信アンテナの入射経路までの擬似的な伝搬路を経由した周波数領域の伝搬信号を前記複数Kのキャリア当りL系列で生成する伝搬信号演算部(51′)と、
前記伝搬信号演算部で得られたL系列の前記伝搬信号に対し、該各系列に対応するドップラ周波数で回転する窓関数の乗算による信号切出しに相当する周波数領域での処理として、前記窓関数の周波数特性の畳み込み演算を行ない、前記複数Kのキャリア当りL系列の伝搬信号の抽出処理を行なう窓関数演算部(52′)と、
前記窓関数演算部の演算結果に対し、前記U'本のプローブアンテナ毎にL単位の信号の重みづけ合成処理を行い、前記複数Kのキャリア当りU'系列の伝搬信号を生成する重み付け演算部(53′)と、
前記重み付け演算部の演算結果に対してフーリエ逆変換処理を行ない、前記U'本のプローブアンテナから出力するための時間領域の信号を生成する時間領域信号生成部(54′)と、
前記時間領域信号生成部が生成した時間領域の信号を、前記窓関数の長さ分ずらして加算して、前記U'本のプローブアンテナからそれぞれ出力されて前記試験対象に向けて入射する連続した入射波を生成するシフト加算部(55′)とを備えたことを特徴とするMIMO方式システムの試験装置。
1つの移動体端末に対する通信に複数Kのキャリアを用いるマルチキャリア変調方式、複数Sの送信アンテナ、複数Uの受信アンテナを用いるMIMO方式および前記複数Sの送信アンテナによる放射ビーム特性を設定するビームフォーミング処理方式を採用するシステムを試験対象とし、前記複数Sの送信アンテナからN個の散乱体を含む伝搬環境を経て前記複数Uの受信アンテナに至る擬似的な伝搬路を想定し、該伝搬路を経由して前記複数Uの受信アンテナを通して受信される受信信号を生成して前記試験対象に与えるMIMO方式システムの試験方法において、
前記試験対象に伝達するためのRレイヤ分のデータ信号列に対して、それぞれ前記複数Kのキャリア毎の周波数領域の変調信号を(R×K)系列分生成する段階と、
前記複数Sの送信アンテナと前記データ信号列のレイヤの数で特定される(S×R)系列分のビームフォーミング特性に、前記複数Sの送信アンテナが送出する信号が該複数Sの送信アンテナの特性に従って散乱体1つ当りM本の素波として出力されて対応する散乱体に到達するまでの伝搬路を模擬する特性を乗じて、ビームフォーミング特性が付与された伝搬路の特性を求める段階と、
前記ビームフォーミング特性が付与された伝搬路の特性に対し、前記複数Uの受信アンテナが前記試験対象とともに移動することで生じるドップラ周波数シフトを付与するための位相特性を乗じて、前記試験対象の移動状況を加味した伝搬路の特性を求める段階と、
前記試験対象の移動状況を加味した伝搬路の特性に対し、前記複数Uの受信アンテナの受信特性を表す受信アンテナ特性を乗じて、前記複数Uの受信アンテナの受信特性を加味した伝搬路の特性を求める段階と、
前記複数Uの受信アンテナの受信特性を加味した伝搬路の特性の演算結果のうち、前記複数Uの受信アンテナ毎にドップラ周波数シフトが共通とみなせる前記素波を複数まとめて1単位とするとともに、それぞれドップラ周波数が異なるL単位分の伝搬路の特性に対してフーリエ変換処理を行い、前記複数Kのキャリア間隔毎の周波数領域での伝搬路の特性を求める段階と、
前記複数Kのキャリア間隔毎の周波数領域での伝搬路の特性に対して、前記生成された(R×K)系列分の変調信号を乗算して、前記複数Sの送信アンテナから前記複数Uの受信アンテナまでの擬似的な伝搬路を経由した周波数領域の伝搬信号を前記複数Kのキャリア当り(U×L)系列で生成する段階と、
前記複数Kのキャリア当り(U×L)系列で生成された周波数領域の伝搬信号に対し、該各系列に対応するドップラ周波数で回転する窓関数の乗算による信号切出しに相当する周波数領域での処理として、前記窓関数の周波数特性の畳み込み演算を行ない、前記複数Kのキャリア当り(U×L)系列の伝搬信号の抽出処理を行なう段階と、
前記窓関数の周波数特性の畳み込み演算により抽出された前記複数Kのキャリア当り(U×L)系列の伝搬信号に対し、前記複数Uの受信アンテナ毎にL単位の信号の加算処理を行い、前記複数Kのキャリア当りU系列の伝搬信号を生成する段階と、
前記加算処理により生成された前記複数Kのキャリア当りU系列の伝搬信号に対してフーリエ逆変換処理を行ない、前記複数Uの受信アンテナでそれぞれ受信される時間領域の信号を生成する段階と、
前記生成した時間領域の信号を、前記窓関数の長さ分ずらして加算して、前記複数Uの受信アンテナを通して受信される連続した受信信号を生成する段階とを含むことを特徴とするMIMO方式システムの試験方法。
1つの移動体端末に対する通信に複数Kのキャリアを用いるマルチキャリア変調方式、複数Sの送信アンテナ、複数Uの受信アンテナを用いるMIMO方式および前記複数Sの送信アンテナによる放射ビーム特性を設定するビームフォーミング処理方式を採用するシステムを試験対象とし、前記複数Sの送信アンテナからN個の散乱体を含む伝搬環境を経て前記試験対象が有する前記複数Uの受信アンテナに至る擬似的な伝搬路を想定し、該伝搬路を経由して前記複数Uの受信アンテナにそれぞれ入射するための入射波を生成して、電波暗室内でU'本のプローブアンテナを通して前記試験対象に前記入射波を与えるMIMO方式システムの試験方法において、
前記試験対象に伝達するためのRレイヤ分のデータ信号列に対して、それぞれ前記複数Kのキャリア毎の周波数領域の変調信号を(R×K)系列分生成する段階と、
前記複数Sの送信アンテナと前記データ信号列のレイヤの数で特定される(S×R)系列分のビームフォーミング特性に、前記複数Sの送信アンテナが送出する信号が該複数Sの送信アンテナの特性に従って散乱体1つ当りM本の素波として出力されて対応する散乱体に到達するまでの伝搬路を模擬する特性を乗じて、ビームフォーミング特性が付与された伝搬路の特性を求める段階と、
前記ビームフォーミング特性が付与された伝搬路の特性に対し、前記試験対象が移動することにより生じるドップラ周波数シフトを付与するための位相特性を乗じて、前記試験対象の移動状況を加味した伝搬路の特性を求める段階と、
前記試験対象の移動状況を加味した伝搬路の特性のうち、前記試験対象からみた電波の到来方向が同一とみなせる前記素波を複数まとめて1単位とするとともに、それぞれ到来方向が異なるL単位分の伝搬路の特性に対してフーリエ変換処理を行い、前記複数Kのキャリア間隔毎の周波数領域での伝搬路の特性を求める段階と、
前記複数Kのキャリア間隔毎の周波数領域での伝搬路の特性に対して、前記生成された(R×K)系列分の変調信号を乗算して、前記複数Sの送信アンテナから前記試験対象が有する前記複数Uの受信アンテナの入射経路までの擬似的な伝搬路を経由した周波数領域の伝搬信号を前記複数Kのキャリア当りL系列で生成する段階と、
前記複数Kのキャリア当りL系列で生成された伝搬信号に対し、該各系列に対応するドップラ周波数で回転する窓関数の乗算による信号切出しに相当する周波数領域での処理として、前記窓関数の周波数特性の畳み込み演算を行ない、前記複数Kのキャリア当りL系列の伝搬信号の抽出処理を行なう段階と、
前記窓関数の周波数特性の畳み込み演算により抽出された伝搬信号に対し、前記U'本のプローブアンテナ毎にL単位の信号の重みづけ合成処理を行い、前記複数Kのキャリア当りU'系列の伝搬信号を生成する段階と、
前記重み付け処理の演算結果に対してフーリエ逆変換処理を行ない、前記U'本のプローブアンテナから出力するための時間領域の信号を生成する段階と、
前記生成した時間領域の信号を、前記窓関数の長さ分ずらして加算して、前記U'本のプローブアンテナからそれぞれ出力されて前記試験対象に向けて入射する連続した入射波を生成する段階とを含むことを特徴とするMIMO方式システムの試験方法。
【背景技術】
【0002】
MIMO方式は、
図10に示すように、端末側へのダウンリンク信号Stx1 〜StxS を、S本(この例ではS=4とする)の基地局側アンテナ(以下、送信アンテナ)Atx1 〜AtxS から送信し、U本(この例ではU=2とする)の端末側アンテナ(以下、受信アンテナ)Arx1 〜ArxU で受信させる。
【0003】
したがって、各送信アンテナと各受信アンテナの間にS×Uの伝搬路(チャネル)が想定され、また各チャネルについて異なる複数L(例えばL=4)のパスが想定される。パスを含めた各チャネルの伝搬特性をH(1,1,1〜L)〜H(S,U,1〜L)とすると、MIMO方式に対応した移動体端末やそれに用いる回路等を試験する場合には、ダウンリンク信号に対し、各チャネルの伝搬特性およびパスについての損失、遅延、ドップラシフト等の特性を加味した演算処理を行い、最終的にU本の受信アンテナArx1 〜ArxU から出力される受信信号Srx1 〜SrxU を生成して試験対象1に与える必要がある。
【0004】
一方、近年では変調方式として、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)、UFMC(Universal Filtered Multicarrier)、GFDM(Generalized Frequency Division Multiplexing)、FBMC(Filtered Bank Multi-Carrier)等のマルチキャリア変調方式による高速な信号伝達が実現されており、このマルチキャリア変調方式とMIMO方式との組合せにより、さらに高速な情報通信が可能なMIMO方式システムが実現され、そのシステムを試験する装置が必要となる。
【0005】
また、次の世代(第5世代)の通信方式では、より高い周波数帯を用いることが提案されている。このように通信に使用する周波数帯が高くなると、アンテナ個々のサイズを小さく構成できるため、多数のアンテナ素子を縦横に配列したアレーアンテナ構造を採用して、それらのアンテナ素子に与えるダウンリンク信号の位相制御により、通信対象の移動体端末の存在する方向に効率的に電波を放射させる、所謂ビームフォーミングが可能となる。したがって、このような次世代の移動体端末を試験対象とする試験装置においては、アレー化された多数のアンテナについてのビームフォーミングの演算処理が必要となる。
【0006】
図11は、マルチキャリア変調方式、MIMO方式およびアレーアンテナによるビームフォーミング処理を組合せたシステムを試験するための試験装置の構成例を示している。
【0007】
この試験装置10は、マルチキャリア変調方式のうち、複数Kのサブキャリアを用いて端末との通信を行なうOFDMに対応したものであり、レイヤ周波数領域信号生成部11において、試験対象に伝達しようとするR系列の伝送データ(レイヤあるいはストリームと呼ばれる)に対してそれぞれ複数Kのサブキャリア毎の変調信号(コンスタレーションデータ)Ssym(1,1)〜Ssym(1,K)、Ssym(2,1)〜Ssym(2,K)、……、Ssym(R,1)〜Ssym(R,K)を生成出力する。この変調信号Ssym は、OFDMシンボル毎に、周波数軸上にK個のコンスタレーションデータを並べたデータをR系列分含む周波数領域の信号である。
【0008】
これらの変調信号Ssym はビームフォーミング処理部12に入力され、S本の送信アンテナから出射される電波のビーム特性が所望特性となるように演算処理され、1送信アンテナ当り複数Kのサブキャリア毎のビームフォーミング処理信号Sbf(1,1)〜Sbf(1,K)、Sbf(2,1)〜Sbf(2,K)、……、Sbf(S,1)〜Sbf(S,K)に変換される。なお、以下の説明では、図面も含めて、j個一組の信号Sx(i,1)〜Sx(i,j)をSx(i,1〜j)と略記する場合がある。
【0009】
これらのビームフォーミング処理信号Sbf は、S組の時間領域信号生成部13(1)〜13(S)に入力される。各時間領域信号生成部13(i)(i=1〜S)は、K個1組のビームフォーミング処理信号Sbf(i,1〜K)に対して、フーリエ逆変換(IFFT)処理、サイクリックプレフィクス(CP)付加処理、帯域制限処理等を行い、OFDM方式で規定された時間軸上の信号に変換する。
【0010】
これによって、各時間領域信号生成部13(1)〜13(S)からは、S本の送信アンテナAtx1 〜AtxS に与えるための送信信号(ダウンリンク信号)Stx1 〜StxS が出力されることになる。
【0011】
これらの送信信号Stx1 〜StxS は、S×Uチャネルの伝搬路の特性を模擬する伝搬路シミュレータ20に入力される。
【0012】
伝搬路シミュレータ20は、S本の送信アンテナとU本の受信アンテナの間に形成されるS×Uのチャネルと、それら各チャネルについてそれぞれ複数Lのパスとを想定し、これらS×U×Lの各パスに所望の遅延とフェージングを付加し、U本の受信アンテナがそれぞれ受ける受信信号を仮想的に生成するものである。
【0013】
この伝搬路シミュレータ20は、無線通信における受信レベル変動の分布を表すレイリーフェージングを与えるものであり、S系列の送信信号Stx1 〜StxS それぞれに設定される複数Lのパスに対し、所定の遅延を与えて出力する遅延設定部21と、ドップラシフト、MIMO相関の情報が付与されたレイリー分布の伝搬路の特性を求めるフェージング設定部22と、遅延設定部21から出力される全パス分の遅延処理信号Stx(1,1,1〜L)、Stx(2,1,1〜L)、……、Stx(S,U,1〜L)と、フェージング設定部22で得られた伝搬特性H(1,1,1〜L)、H(2,1,1〜L)、……、H(S,U,1〜L)とを用いた積和演算(行列の乗算)により、S×U×Lの仮想的な伝搬路を経由してU本の受信アンテナで受信される受信信号Srx1 〜SrxU を生成する演算部23とを有している。
【0014】
ここで、遅延設定部21は、例えばメモリによる1サンプル単位の遅延とリサンプルフィルタによる1サンプル以下の遅延の組み合わせで、各パスに所望の遅延を付与している。
【0015】
また、演算部23の演算処理は、例えば、
Srx1=ΣH(1,1,i)・Stx(1,1,i)+ΣH(2,1,i)・Stx(2,1,i)+……
+ΣH(S,1,i)・Stx(S,1,i)
Srx2=ΣH(1,2,i)・Stx(1,2,i)+ΣH(2,2,i)・Stx(2,2,i)+……
+ΣH(S,2,i)・Stx(S,2,i)
……
SrxU=ΣH(1,U,i)・Stx(1,U,i)+ΣH(2,U,i)・Stx(2,U,i)+……
+ΣH(S,U,i)・Stx(S,U,i)
となる。ただし、記号Σは、i=1〜Lまでの総和を表す。
【0016】
このようにして得られた受信信号Srx1 〜SrxU を試験対象1に与えることで、試験装置側で設定した送受信アンテナ間の伝搬路の状態に対する試験対象1の動作を試験することができる。
【0017】
なお、伝搬路シミュレータは含まれていないが、上記したようにマルチキャリア変調方式とMIMO方式とを組合せたシステムを試験するため試験装置は、例えば次の特許文献1に開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上記構成の試験装置のように、ビームフォーミング処理を行なうシステムではアレー化された送信アンテナの数Sが例えば128のように非常に大きくなるため、それに伴って、フーリエ逆変換処理をS系列分並列的に行なう時間領域信号生成部13が128組必要となり、回路規模が非常に大きくなってしまう。
【0020】
また、伝搬路シミュレータ20の遅延設定部21は、前記したように、メモリとリサンプルフィルタの組合せにより任意の遅延を付与するハードウエア構成を要するため、上記のように128系列の信号に対してそれぞれ設定した複数Lのパスに任意の遅延を付与するためには、やはりその回路規模が非常に大きくなり、装置が大型化し、製造コストおよび消費電力が大きくなってしまう。
【0021】
本発明は、上記問題を解決し、マルチキャリア変調方式、MIMO方式およびビームフォーミング処理を組合せたシステムで送信アンテナ数が多い場合でも、小さな回路規模、少ない消費電力で実現できる試験装置および試験方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0022】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1のMIMO方式システムの試験装置は、
1つの移動体端末に対する通信に複数Kのキャリアを用いるマルチキャリア変調方式、複数Sの送信アンテナ、複数Uの受信アンテナを用いるMIMO方式および前記複数Sの送信アンテナによる放射ビーム特性を設定するビームフォーミング処理方式を採用するシステムを試験対象とし、前記複数Sの送信アンテナからN個の散乱体を含む伝搬環境を経て前記複数Uの受信アンテナを通して受信される受信信号を生成して前記試験対象に与えるMIMO方式システムの試験装置において、
前記試験対象に伝達するためのRレイヤ分のデータ信号列に対して、それぞれ前記複数Kのキャリア毎の周波数領域の変調信号を
(R×K
)系列分生成するレイヤ周波数領域信号生成部(31)と、
前記
複数Sの送信アンテナと前記
データ信号列のレイヤの数で特定される
(S×R
)系列分のビームフォーミング特性に、前記
複数Sの送信アンテナが送出する信号が該
複数Sの送信アンテナの特性に従って散乱体1つ当りM本の素波として出力されて対応する散乱体に到達するまでの伝搬路を模擬する特性を乗じて、ビームフォーミング特性が付与された伝搬路の特性を求める第1の伝搬路演算部(41)と、
前記第1の伝搬路演算部の演算結果に対し、前記
複数Uの受信アンテナが前記試験対象とともに移動することで生じるドップラ周波数シフトを付与するための位相特性を乗じて、前記試験対象の移動状況を加味した伝搬路の特性を求める第2の伝搬路演算部(42)と、
前記第2の伝搬路演算部の演算結果に対し、前記
複数Uの受信アンテナの受信特性を表す受信アンテナ特性を乗じて、前記
複数Uの受信アンテナの受信特性を加味した伝搬路の特性を求める第3の伝搬路演算部(43)と、
前記第3の伝搬路演算部の演算結果のうち、前記
複数Uの受信アンテナ毎にドップラ周波数シフトが共通とみなせる前記素波を複数まとめて1単位とするとともに、それぞれドップラ周波数が異なるL単位分の伝搬路の特性に対してフーリエ変換処理を行い、前記
複数Kのキャリア間隔毎の周波数領域での伝搬路の特性を求めるフーリエ変換部(44)と、
前記フーリエ変換部の演算結果に対して、前記レイヤ周波数領域信号生成部で生成された
(R×K
)系列分の変調信号を乗算して、前記複数
Sの送信アンテナから前記複数
Uの受信アンテナまでの擬似的な伝搬路を経由した周波数領域の伝搬信号を前記
複数Kのキャリア当り
(U×L
)系列で生成する伝搬信号演算部(51)と、
前記伝搬信号演算部で得られる前記
複数Kのキャリア当り
(U×L
)系列の伝搬信号に対し、該各系列に対応するドップラ周波数で回転する窓関数の乗算による信号切出しに相当する周波数領域での処理として、前記窓関数の周波数特性の畳み込み演算を行ない、前記
複数Kのキャリア当り
(U×L
)系列の伝搬信号の抽出処理を行なう窓関数演算部(52)と、
前記窓関数演算部の演算結果に対し、前記
複数Uの受信アンテナ毎にL単位の信号の加算処理を行い、前記
複数Kのキャリア当りU系列の伝搬信号を生成するパス信号加算部(53)と、
前記パス信号加算部の演算結果に対してフーリエ逆変換処理を行ない、前記
複数Uの受信アンテナでそれぞれ受信される時間領域の信号を生成する時間領域信号生成部(54)と、
前記時間領域信号生成部が生成した時間領域の信号を、前記窓関数の長さ分ずらして加算して、前記
複数Uの受信アンテナを通して受信される連続した受信信号を生成するシフト加算部(55)とを備えたことを特徴とする。
【0023】
また、本発明の請求項2のMIMO方式システムの試験装置は、
1つの移動体端末に対する通信に複数Kのキャリアを用いるマルチキャリア変調方式、複数Sの送信アンテナ、複数Uの受信アンテナを用いるMIMO方式および前記複数Sの送信アンテナによる放射ビーム特性を設定するビームフォーミング処理方式を採用するシステムを試験対象とし、前記複数Sの送信アンテナからN個の散乱体を含む伝搬環境を経て前記試験対象が有する前記複数Uの受信アンテナに至る擬似的な伝搬路を想定し、該伝搬路を経由して前記複数Uの受信アンテナにそれぞれ入射するための入射波を生成して、電波暗室内でU'本のプローブアンテナを通して前記試験対象に前記入射波を与えるMIMO方式システムの試験装置において、
前記試験対象に伝達するためのRレイヤ分のデータ信号列に対して、それぞれ前記複数Kのキャリア毎の周波数領域の変調信号を
(R×K
)系列分生成するレイヤ周波数領域信号生成部(31)と、
前記
複数Sの送信アンテナと前記
データ信号列のレイヤの数で特定される
(S×R
)系列分のビームフォーミング特性に、前記
複数Sの送信アンテナが送出する信号が該
複数Sの送信アンテナの特性に従って散乱体1つ当りM本の素波として出力されて対応する散乱体に到達するまでの伝搬路を模擬する特性を乗じて、ビームフォーミング特性が付与された伝搬路の特性を求める第1の伝搬路演算部(41)と、
前記第1の伝搬路演算部の演算結果に対し、前記試験対象が移動することによって生じるドップラ周波数シフトを付与するための位相特性を乗じて、前記試験対象の移動状況を加味した伝搬路の特性を求める第2の伝搬路演算部(42)と、
前記第2の伝搬路演算部の演算結果のうち、前記試験対象からみた電波の到来方向が同一とみなせる前記素波を複数まとめて1単位とするとともに、それぞれ到来方向が異なるL単位分の伝搬路の特性に対してフーリエ変換処理を行い、前記
複数Kのキャリア間隔毎の周波数領域での伝搬路の特性を求めるフーリエ変換部(44′)と、
前記フーリエ変換部の演算結果に対して、前記レイヤ周波数領域信号生成部で生成された
(R×K
)系列分の変調信号を乗算して、前記複数
Sの送信アンテナから前記試験対象が有する前記複数
Uの受信アンテナの入射経路までの擬似的な伝搬路を経由した周波数領域の伝搬信号を前記
複数Kのキャリア当りL系列で生成する伝搬信号演算部(51′)と、
前記伝搬信号演算部で得られたL系列の前記伝搬信号に対し、該各系列に対応するドップラ周波数で回転する窓関数の乗算による信号切出しに相当する周波数領域での処理として、前記窓関数の周波数特性の畳み込み演算を行ない、前記
複数Kのキャリア当りL系列の伝搬信号の抽出処理を行なう窓関数演算部(52′)と、
前記窓関数演算部の演算結果に対し、前記
U'本のプローブアンテナ毎にL単位の信号の重みづけ合成処理を行い、前記
複数Kのキャリア当りU'系列の伝搬信号を生成する重み付け演算部(53′)と、
前記重み付け演算部の演算結果に対してフーリエ逆変換処理を行ない、前記
U'本のプローブアンテナから出力するための時間領域の信号を生成する時間領域信号生成部(54′)と、
前記時間領域信号生成部が生成した時間領域の信号を、前記窓関数の長さ分ずらして加算して、前記
U'本のプローブアンテナからそれぞれ出力されて前記試験対象に向けて入射する連続した入射波を生成するシフト加算部(55′)とを備えたことを特徴とする。
【0024】
また、本発明の請求項3のMIMO方式システムの試験装置は、請求項1または請求項2記載のMIMO方式システムの試験装置において、
前記フーリエ変換部が、
前記L単位分の伝搬路の特性に対するフーリエ変換演算処理を行なうフーリエ変換演算手段(44a)と、
前記フーリエ変換演算手段の演算結果に対する周波数軸方向の補間処理を行う補間手段(44c)とを含むこと
を特徴とする。
【0025】
また、本発明の請求項4のMIMO方式システムの試験方法は、
1つの移動体端末に対する通信に複数Kのキャリアを用いるマルチキャリア変調方式、複数Sの送信アンテナ、複数Uの受信アンテナを用いるMIMO方式および前記複数Sの送信アンテナによる放射ビーム特性を設定するビームフォーミング処理方式を採用するシステムを試験対象とし、前記複数Sの送信アンテナからN個の散乱体を含む伝搬環境を経て前記複数Uの受信アンテナに至る擬似的な伝搬路を想定し、該伝搬路を経由して前記複数Uの受信アンテナを通して受信される受信信号を生成して前記試験対象に与えるMIMO方式システムの試験方法において、
前記試験対象に伝達するためのRレイヤ分のデータ信号列に対して、それぞれ前記複数Kのキャリア毎の周波数領域の変調信号を
(R×K
)系列分生成する段階と、
前記
複数Sの送信アンテナと前記
データ信号列のレイヤの数で特定される
(S×R
)系列分のビームフォーミング特性に、前記
複数Sの送信アンテナが送出する信号が該
複数Sの送信アンテナの特性に従って散乱体1つ当りM本の素波として出力されて対応する散乱体に到達するまでの伝搬路を模擬する特性を乗じて、ビームフォーミング特性が付与された伝搬路の特性を求める段階と、
前記ビームフォーミング特性が付与された伝搬路の特性に対し、前記
複数Uの受信アンテナが前記試験対象とともに移動することで生じるドップラ周波数シフトを付与するための位相特性を乗じて、前記試験対象の移動状況を加味した伝搬路の特性を求める段階と、
前記試験対象の移動状況を加味した伝搬路の特性に対し、前記
複数Uの受信アンテナの受信特性を表す受信アンテナ特性を乗じて、前記
複数Uの受信アンテナの受信特性を加味した伝搬路の特性を求める段階と、
前記
複数Uの受信アンテナの受信特性を加味した伝搬路の特性の演算結果のうち、前記
複数Uの受信アンテナ毎にドップラ周波数シフトが共通とみなせる前記素波を複数まとめて1単位とするとともに、それぞれドップラ周波数が異なるL単位分の伝搬路の特性に対してフーリエ変換処理を行い、前記
複数Kのキャリア間隔毎の周波数領域での伝搬路の特性を求める段階と、
前記
複数Kのキャリア間隔毎の周波数領域での伝搬路の特性に対して、前記生成された
(R×K
)系列分の変調信号を乗算して、前記複数
Sの送信アンテナから前記複数
Uの受信アンテナまでの擬似的な伝搬路を経由した周波数領域の伝搬信号を前記
複数Kのキャリア当り
(U×L
)系列で生成する段階と、
前記
複数Kのキャリア当り
(U×L
)系列で生成された周波数領域の伝搬信号に対し、該各系列に対応するドップラ周波数で回転する窓関数の乗算による信号切出しに相当する周波数領域での処理として、前記窓関数の周波数特性の畳み込み演算を行ない、前記
複数Kのキャリア当り
(U×L
)系列の伝搬信号の抽出処理を行なう段階と、
前記窓関数の周波数特性の畳み込み演算により抽出された前記
複数Kのキャリア当り
(U×L
)系列の伝搬信号に対し、前記
複数Uの受信アンテナ毎にL単位の信号の加算処理を行い、前記
複数Kのキャリア当りU系列の伝搬信号を生成する段階と、
前記加算処理により生成された前記
複数Kのキャリア当りU系列の伝搬信号に対してフーリエ逆変換処理を行ない、前記
複数Uの受信アンテナでそれぞれ受信される時間領域の信号を生成する段階と、
前記生成した時間領域の信号を、前記窓関数の長さ分ずらして加算して、前記
複数Uの受信アンテナを通して受信される連続した受信信号を生成する段階とを含むことを特徴とする。
【0026】
また、本発明の請求項5のMIMO方式システムの試験方法は、
1つの移動体端末に対する通信に複数Kのキャリアを用いるマルチキャリア変調方式、複数Sの送信アンテナ、複数Uの受信アンテナを用いるMIMO方式および前記複数Sの送信アンテナによる放射ビーム特性を設定するビームフォーミング処理方式を採用するシステムを試験対象とし、前記複数Sの送信アンテナからN個の散乱体を含む伝搬環境を経て前記試験対象が有する前記複数Uの受信アンテナに至る擬似的な伝搬路を想定し、該伝搬路を経由して前記複数Uの受信アンテナにそれぞれ入射するための入射波を生成して、電波暗室内でU'本のプローブアンテナを通して前記試験対象に前記入射波を与えるMIMO方式システムの試験方法において、
前記試験対象に伝達するためのRレイヤ分のデータ信号列に対して、それぞれ前記複数Kのキャリア毎の周波数領域の変調信号を
(R×K
)系列分生成する段階と、
前記
複数Sの送信アンテナと前記
データ信号列のレイヤの数で特定される
(S×R
)系列分のビームフォーミング特性に、前記
複数Sの送信アンテナが送出する信号が該
複数Sの送信アンテナの特性に従って散乱体1つ当りM本の素波として出力されて対応する散乱体に到達するまでの伝搬路を模擬する特性を乗じて、ビームフォーミング特性が付与された伝搬路の特性を求める段階と、
前記ビームフォーミング特性が付与された伝搬路の特性に対し、前記試験対象が移動することにより生じるドップラ周波数シフトを付与するための位相特性を乗じて、前記試験対象の移動状況を加味した伝搬路の特性を求める段階と、
前記試験対象の移動状況を加味した伝搬路の特性のうち、前記試験対象からみた電波の到来方向が同一とみなせる前記素波を複数まとめて1単位とするとともに、それぞれ到来方向が異なるL単位分の伝搬路の特性に対してフーリエ変換処理を行い、前記
複数Kのキャリア間隔毎の周波数領域での伝搬路の特性を求める段階と、
前記
複数Kのキャリア間隔毎の周波数領域での伝搬路の特性に対して、前記生成された
(R×K
)系列分の変調信号を乗算して、前記複数
Sの送信アンテナから前記試験対象が有する前記複数
Uの受信アンテナの入射経路までの擬似的な伝搬路を経由した周波数領域の伝搬信号を前記
複数Kのキャリア当りL系列で生成する段階と、
前記
複数Kのキャリア当りL系列で生成された伝搬信号に対し、該各系列に対応するドップラ周波数で回転する窓関数の乗算による信号切出しに相当する周波数領域での処理として、前記窓関数の周波数特性の畳み込み演算を行ない、前記
複数Kのキャリア当りL系列の伝搬信号の抽出処理を行なう段階と、
前記窓関数の周波数特性の畳み込み演算により抽出された伝搬信号に対し、前記
U'本のプローブアンテナ毎にL単位の信号の重みづけ合成処理を行い、前記
複数Kのキャリア当りU'系列の伝搬信号を生成する段階と、
前記重み付け処理の演算結果に対してフーリエ逆変換処理を行ない、前記
U'本のプローブアンテナから出力するための時間領域の信号を生成する段階と、
前記生成した時間領域の信号を、前記窓関数の長さ分ずらして加算して、前記
U'本のプローブアンテナからそれぞれ出力されて前記試験対象に向けて入射する連続した入射波を生成する段階とを含むことを特徴とする。
【0027】
また、本発明の請求項6のMIMO方式システムの試験方法は、請求項4または請求項5記載のMIMO方式システムの試験方法において、
前記
複数Kのキャリア間隔毎の周波数領域での伝搬路の特性を求める段階は、
前記L単位分の伝搬路の特性に対するフーリエ変換演算処理を行なう段階と、
該フーリエ変換演算処理の演算結果に対する周波数軸方向の補間処理を行う段階とを含むこと
を特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
このように、本発明の請求項1、4では、Rレイヤのデータ信号列についてそれぞれキャリア毎の変調信号を生成する一方で、ビームフォーミング特性と送信アンテナ特性とで決まる散乱体を含めた伝搬路の特性に、試験対象の移動に伴うドップラ周波数シフトの特性と受信アンテナの特性とを加味して、送信アンテナから各受信アンテナまでの伝搬路の特性を求め、これをドップラ周波数シフトが共通とみなせる伝搬路ごとにまとめてレイリー分布に従うフェージング特性を付与し、フーリエ変換処理により、キャリア間隔毎の周波数領域の伝搬路の特性を求める。そして、この伝搬路の特性とキャリア毎の変調信号との演算により、ドップラ周波数シフトが共通とみなせる伝搬路ごとの所望の伝搬路特性とビームフォーミング特性が付与された周波数領域での伝搬信号を生成し、この伝搬信号に対し、各系列に対応するドップラ周波数で回転する時間領域での窓関数の乗算による信号切出しに相当する周波数領域での処理として、窓関数の周波数特性の畳み込み演算を行ない、それぞれドップラ周波数が異なる系列を受信アンテナごとに加算して、これをフーリエ逆変換処理して時間領域の信号を生成し、これを窓関数の長さ分ずらして加算することで、各受信アンテナでそれぞれ受信される連続した受信信号を生成している。
【0029】
また、本発明の請求項2、5では、Rレイヤのデータ信号列についてそれぞれキャリア毎の変調信号を生成する一方で、ビームフォーミング特性と送信アンテナ特性とで決まる散乱体を含めた伝搬路の特性に、試験対象の移動に伴うドップラ周波数シフトの特性を加味して、送信アンテナから散乱体(クラスタ)までの伝搬路の特性を求め、これを到来方向が同一とみなせる伝搬路ごとにまとめてレイリー分布に従うフェージング特性を付与し、フーリエ変換処理により、到来方向が同一とみなせる伝搬路ごとの周波数領域の伝搬路の特性を求める。そして、この伝搬路の特性とキャリア毎の変調信号との演算により、到来方向が同一とみなせる伝搬経路ごとの所望の伝搬路特性とビームフォーミング特性が付与された周波数領域での伝搬信号を生成し、この伝搬信号に対し、各系列に対応するドップラ周波数で回転する時間領域での窓関数の乗算による信号切出しに相当する周波数領域での処理として、窓関数の周波数特性の畳み込み演算を行ない、それぞれの到来方向が異なる系列に重み付けを施し、各プローブアンテナから送信する信号に変換して、これをフーリエ逆変換処理して時間領域の信号を生成し、これを窓関数の長さ分ずらして加算することで、電波暗室内の各プローブアンテナからそれぞれ出力されて試験対象が有する各受信アンテナに向けて入射するための連続した入射波を生成している。
【0030】
このように、本発明では、伝搬路の特性と変調信号との乗算処理を周波数領域において行ない、その演算結果から時間領域信号を生成しているので、従来方式のように、送信アンテナ毎の周波数領域の信号をフーリエ逆変換して時間領域の信号に変換してから伝搬路特性を付与する場合に比べて、フーリエ逆変換を行なう回路および伝搬路特性を生成する回路の規模を格段に小さくすることができる。
【0031】
特に、伝搬路の特性を求める演算において、ビームフォーミング特性と散乱体を考慮した送信アンテナ特性との演算を優先的に行なっているので、それ以降のドップラ周波数シフトの演算や受信アンテナ特性の演算の処理では、送信アンテナ数に依存した演算処理がなくなるため、次の世代(第5世代)の通信方式で提案されているように、基地局側(送信側)がアレーアンテナのような多数のアンテナ素子を用いるシステムを試験する場合、後続の演算処理の規模を格段に小さくでき、極めて有効である。
【0032】
ただし、本発明では、散乱体を考慮し、ドップラ周波シフト(到来方向)が共通とみなせるパスの伝搬路特性を周波数領域に変換するためのフーリエ変換処理が必要となるが、このフーリエ変換処理では、時間領域における各パスの遅延量は、周波数領域では各パスの周波数成分の回転速度に対応するため、従来時間領域で行なっていたメモリとリサンプルフィルタの組合せにより各パスに遅延を付与するハードウエアは、フーリエ変換における回転処理に置き換えられることになり、両者のハードウエアの規模を比較して本発明の方が格段に有利となる。
【0033】
また、請求項3、6では、フーリエ変換によりキャリア間隔毎の周波数領域での伝搬路の特性を求めるための構成として、L単位分の伝搬路の特性に対するフーリエ変換演算処理と、その演算結果に対する周波数軸方向の補間処理との2段階処理を用いているので、フーリエ変換の周波数領域でのサンプリング間隔を、例えば、時間領域の伝搬路特性の最大遅延量で決まる必要最低限の間隔とし、その後で周波数領域での伝搬路特性を補間する2段階のパイプライン処理とすることが可能となり、各処理にかけられる時間が延び、共通回路リソースを複数回使い回すことで、フーリエ変換における回路規模を小さくすることができる。
【0034】
また、回路規模を抑えつつも、従来の時間領域で処理する伝搬路シミュレータの処理結果を精度よく再現できる構成となっている。
【0035】
即ち、IFFT処理間隔といった比較的粗い時間間隔ごとの伝搬路特性を時間領域で計算して、それをフーリエ変換することでIFFT時間間隔ごとの伝搬路の周波数特性を求める。その特性をデータに乗算するだけでは、IFFT時間間隔の中での伝搬路特性を一定値で近似することになるが、本発明では、ドップラ周波数シフト(あるいは到来方向)が共通とみなすことができる経路ごとのデータに周波数領域でドップラシフト分の周波数シフトを与えているため、IFFT時間間隔の中での伝搬路特性を時間変化するものにすることができる。従来の時間領域で処理する伝搬路シミュレータと比較した再現性の精度は、ドップラ周波数シフト(あるいは到来方向)を共通とみなす近似の度合いに応じて調整することができる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明するが、具体的な構成を説明する前に、本発明の試験装置の原理について説明する。
【0038】
本発明は、前記したOFDM、UFMC、GFDM、FBMCなどのマルチキャリア変調方式で、S×U MIMO(S>U)を実施する場合の伝搬路シミュレータとして適用できるものであり、3D−MIMO/Massive−MIMOのように、送信アンテナ数が受信アンテナ数に比べて非常に多い場合に特に有効である。以降では、変調方式としては、主にOFDMを念頭に置いて説明する。
【0039】
本発明では、次式(1)のように、時間スパンTcの中で差が無視できる程度のドップラ周波数の差Δf
dを同一とみなして周波数領域でMIMO伝搬路処理を施すというものである。
【0040】
Tc≪1/Δf
d ……(1)
ただし、Δf
dは、同一とみなすことができるドップラ周波数の上限と下限の差である。
【0041】
例えば、OFDMの場合には、次式(2)のように、1OFDMシンボル長Tsym(=有効データ長+サイクリックプレフィクス長)をP分割した長さTcが式(1)を満たすようにする(P分割は必ずしも等分割でなくても良い)。
【0042】
Tc=Tsym/P (P=1,2,3,……) ……(2)
【0043】
図1は時間領域におけるP=2の例を示すものであり、
図1の(a)に示すOFDMの信号列に対して、
図1の(b1)〜(b4)のように、1シンボル長Tsym をTc=Tsym/2で2分割するような矩形窓関数を乗算して切り取った波形に対し、マルチパス伝搬処理、フィルタ処理などを施した波形を
図1の(c1)〜(c4)のようにTc分ずれた状態で得て、加算処理することで最終的な送信信号を得る。
【0044】
実際に用いるローカライゼーション(信号切出し)用の窓関数の長さTc′は、対応する周波数特性の広がりを抑えるために端部を丸めることによって、Tcより若干大きくしてもよく、この窓関数のタイミングを順次Tcずつずらしながら乗算した波形のそれぞれに、MIMOチャネルのマルチパス伝搬路処理、フィルタ処理などを施す。また、分割された一つ一つの波形の時間長は、マルチパスの遅延時間分およびフィルタ処理による広がり分TdだけTc′よりも長くなる。それらをTcずつずらしながら加算した波形を処理結果とする考え方である。処理結果の波形は、S×U MIMO伝搬路の場合には、U系統分計算される。
【0045】
図2は、ローカライゼーション用の窓関数(区間長:Tc′)の詳細を示すもので、例えば、1OFDMシンボルを複数個に分割する場合などに利用可能である。ナイキスト基準を満たすような特性になっており、この窓関数をTcずつずらした区間が連続的につながるような特性である。この時間領域における窓関数のロールオフが大きいほど、周波数領域での広がりが抑えられて、後述する窓関数演算部52におけるフィルタのタップ数を抑えることができる。
【0046】
また、変調方式がFBMCで、1シンボル情報が広がった
図3のような窓関数の時間長(V・Tc)(Vはオーバラッピングファクタ)において、ドップラ周波数差が十分小さいとみなせる範囲の経路のドップラ周波数シフト分を同一として処理して、本発明を適用することができる。
【0047】
窓関数演算により変調信号に対するドップラ周波数シフトを付与する場合には、CP+有効データの長さ分(またはそれを分割した長さ分)の窓関数の周波数特性のサンプル位置を周波数方向にシフトした関数を畳み込むことで、変調信号に対するドップラ周波数シフトを実現できる(
図4は、その窓関数の周波数特性であり、その周波数軸上でのサンプル位置をドップラ周波数シフト分だけずらした図)。
【0048】
上記処理は時間軸上で想定したものであるが、本発明は、最後の加算処理以外を周波数領域で等価な処理を実施するとともに、従来ではレイヤ信号に対して行なっているビームフォーミング処理と等価な処理を伝搬路の特性に対して行なうことにより、試験装置全体の回路規模を縮小している。
【0049】
次に、本発明の試験装置が行なう演算処理について説明する。
テクニカルレポート3GPP TR38.900には、第5世代のシステムシミュレーションで使用されている、U個中の受信アンテナ番号u、S個中の送信アンテナ番号s、N個中のクラスタ(散乱体)番号n、各クラスタで散乱するM個中の素波(Rayと表記される場合もある)番号mの伝搬路モデル(クラスタモデル)の非見通し波伝搬路係数H
NLOSは、次式(5)で定義されている。
【0051】
上式(5)において、Pnはn番目のクラスタから出射される電波のパワー、F
rx,u,θ(…)、F
rx,u,φ(…)は、受信アンテナの垂直偏波成分および水平偏波成分に対する特性、exp(jΦ
θθ)、exp(jΦ
φφ)は偏波が変化しない成分の位相係数、exp(jΦ
θφ)、exp(jΦ
φθ)は偏波が変化する成分の位相係数であり、√k
−1はその割合を示す。また、F
tx,u,θ(…)、F
tx,u,φ(…)は、送信アンテナの垂直偏波成分および水平偏波成分に対する特性、exp{j2π(r
Trx,n,m・d
rx,u )/λ
0}、exp{j2π(r
Ttx,n,m・d
tx,s )/λ
0}は、受信アンテナおよび送信アンテナの位置に依存する位相のずれを示し、exp{j2π(r
Trx,n,m・v)t/λ
0}は、ドップラ効果による周波数のずれを示している。
【0052】
なお、上記式で、上に記号^が付されたr
Trx,n,m は、受信機側のn番目のクラスタで散乱したm番目の素波の受信アンテナへの到来方向の単位ベクトルを示し、上に記号^が付されたr
Ttx,n,m は送信機側のn番目のクラスタで散乱されるm番目の素波の送信アンテナからの到来方向の単位ベクトルを示し、上に記号−が付されたd
rx,u は受信アンテナ素子uの位置ベクトルを示し、上に記号−が付されたd
tx,s は送信アンテナ素子sの位置ベクトルを示し、上に記号−が付されたvは、移動速度ベクトルを示す。
【0053】
ここで、上記式(6)を構成する要素を次のように定義する。
(a)送信アンテナ特性と、送信アンテナから放射されてn番目のクラスタで散乱されるm番目の素波の伝搬経路による位相回転とを組合せた要素f
rx,s,n,m を次のように定義する。
【0055】
(b)n番目のクラスタで散乱されるm番目の素波の位相と、その素波に与えられるドップラ周波数シフトとを組合せた要素H
n,m を次のように定義する。
【0057】
(c)受信アンテナ特性と、n番目のクラスタで散乱されるm番目の素波が受信アンテナで受信されるまでの位相回転とを組合せた要素f
rx,u,n,m を次のように定義する。
【0061】
ここで、ξ
tx,s,n の縦にM個並んだ行列要素のf
rx,s,n,m には、式(6)のように、偏波(水平偏波と垂直偏波)の項が縦に2つ並んだ行列が含まれるため、ξ
tx,s,n 全体としては2M×1行列となる。また、Ψ
n の対角行列要素のH
n,m には、式(7)のように、偏波の項が縦横に2ずつ並んだ行列が含まれるため、Ψ
n 全体としては2M×2M行列となる。また、Ξ
rx,u,n の対角行列要素のf
rx,u,n,m には、式(8)のように、偏波の項が縦に2つ並んだ行列の転置が含まれるため、f
rx,u,n,m 全体としてはM×2M行列となる。。
【0062】
上記のように定義した上で、送信アンテナから試験対象の受信アンテナあるいは受信アンテナとフロントエンドまでを含めた伝搬路を模擬し、試験対象のアンテナ端子あるいは中間周波信号入力端子に対してケーブルを介して試験用信号を与える試験環境を想定した場合、u番目の受信アンテナのサブキャリアデータkに対して乗算すべき周波数領域における伝搬路の特性を表すL×R行列の式は、次式(12)で表される。
【0064】
上記式(12)において、w
1,1 〜w
S,R を要素とするS×R行列は、ビームフォーミング特性を示す行列であり、式(12)を構成する5つの行列を簡略化し、
Ω≡[ζ][Ξ][Ψ][ξ][w]
と表すと、そのうち4つの行列[Ξ]、[Ψ]、[ξ]、[w]の演算により、送信アンテナから受信アンテナに至る伝搬経路の時間領域の特性が得られ、これをドップラ周波数が共通とみなせるもの同士をまとめて、フーリエ変換処理を行なうための行列[ζ]の演算を加えることにより、レイリー分布特性が付与された伝搬路の周波数領域での特性が得られる。
【0065】
なお、[ζ
ijk]は、L×(N・M)の行列であり、
i={1,2,…,L}
j={1,2,…,N・M}=(全クラスタに含まれる素波のインデックス)
【0066】
ζ
ijk は、以下のように表される。
【0068】
ここで、式(13)の{angle……angle(i)}は、試験対象からn番目のクラスタのm番目の素波を見た方向をL通りの方向に量子化するとi番目の方向であるときに「1」、それ以外のとき「0」となる比較演算であるとする。また、τ
n,m は、n番目のクラスタのm番目の素波から試験対象までの伝搬遅延、Δf
0 は、伝搬路の特性を周波数領域に変換するためのフーリエ変換処理結果の周波数方向のサンプル間隔(時間領域の遅延の広がりからエリアシングが生じないと判断される必要十分な間隔)であり、e
−j2π… は、周波数インデックスk
0によって回転することで、時間領域におけるτ
n,m 分の遅延を与えるものである。
【0069】
また、K0 は、フーリエ変換処理後の補間処理において、K個のサブキャリアで構成されるOFDM変調帯域をB分割したときの各帯域毎のサブキャリア数K/Bそれぞれの周波数における特性を計算する際に必要となる範囲をカバーするのに必要な数とする。つまり、K/Bの周波数幅に対応するΔf
0 間隔のサンプル数よりも、前後に補間処理のインパルス応答の半分ずつ程度長い範囲をカバーする数とする。つまり、{n,m}方向がi番目のドップラ周波数と見なせる場合には、その成分に対応する要素に遅延に相当する回転を与えてi行目に足しこむことを表している。ここで、Bは、OFDM変調帯域をB分割した帯域ごとにビームフォーミング特性を別にすることを考えたものである。全サブキャリアKに渡って全て共通のビームフォーミングを施す場合にはB=1とする。
【0070】
本発明は、上記式(12)に基づいて試験に必要な信号を生成するものである。以下、その実施形態を説明する。
図5は、本発明の実施形態の試験装置30の構成を示している。
【0071】
試験装置30は、1つの移動体端末に対する通信に複数Kのキャリアを用いるマルチキャリア変調方式で且つ送信アンテナ数S、受信アンテナ数UのMIMO方式およびアンテナ数Sの送信アンテナによる放射ビーム特性を設定するビームフォーミング処理方式を採用するシステムを試験対象とし、送信アンテナと受信アンテナの間にS×Uのチャネルと各チャネルにそれぞれ複数Lのパス(送受信のアンテナ間にN個の散乱体が存在する伝搬環境で、各散乱体から散乱されたM個ずつの素波が入射し、それをL通りにまとめたものと仮定)を含む擬似的な伝搬路を想定し、その伝搬路を経由してU個の受信アンテナで受信される受信信号を生成して試験対象に与えるMIMO方式システムの試験装置である。なお、以下の説明は、マルチキャリア変調方式がOFDMの場合とし、OFDMでは端末との通信に用いる複数のキャリアを「サブキャリア」と呼んでいるので、以下の説明でもこの「サブキャリア」と記す。
【0072】
この試験装置30は、レイヤ周波数領域信号生成部31、伝搬路特性演算部40、伝搬信号演算部51、窓関数演算部52、パス信号加算部53、時間領域信号生成部54、シフト加算部55を有している。
【0073】
レイヤ周波数領域信号生成部31は、試験対象に伝達しようとするR系列の伝送データ(レイヤあるい
はストリームと呼ばれる)に対してそれぞれ複数Kのサブキャリア毎の変調信号(コンスタレーションデータ)Ssym(1,1)〜Ssym(1,K)、Ssym(2,1)〜Ssym(2,K)、……、Ssym(R,1)〜Ssym(R,K)を生成出力する。この変調信号は、OFDMシンボル毎に、周波数軸上にK個のコンスタレーションデータを並べたデータをR系列分含む周波数領域の信号である。なお、レイヤ数Rは、原理上、試験対象の受信アンテナ数U以下の値である。
【0074】
ここで、そのコンスタレーションデータを、次のようにSsym,r,kという記号の複素数で表すことにする。
【0075】
Ssym,r,k ……(14)
sym :OFDMシンボル番号
r={1,2,3,……,R}:送信レイヤ番号インデックス
k={1,2,3,……,K}:サブキャリア番号インデックス
【0076】
なお、
図5では、信号Ssym,r,kのインデックスが分かりやすいように、Ssym(r,k)の形で表す(他の信号についても同様)。
【0077】
また、コンスタレーション
データが配置される間隔(サブキャリア間隔)をfscとする。fscはOFDMシンボル長Tsym(=有効データ長+サイクリックプレフィクス長)と次の関係にある。
有効データ長=1/fsc ……(15)
Tsym=(1/fsc)+サイクリックプレフィクス長 ……(16)
【0078】
一方、送信アンテナから散乱体を含む伝搬環境を経て受信アンテナに至る伝搬路についての周波数領域での特性を求める伝搬路特性演算部40は、各受信アンテナに到来する電波のドップラ周波数(L種類に量子化)が同一とみなすことができる複数の素波の集まりとしてのレイリーノイズ生成処理およびビームフォーミング等価処理を、FFT単位の時間間隔ごとに実施するものであり、第1の伝搬路演算部41〜第3の伝搬路演算部43により構成される。これら各演算部の処理はFFT単位の時間ごとのパイプライン処理として実装できる。
【0079】
第1の伝搬路演算部41は、レイヤ毎に複数の送信アンテナから放射されるビームの特性を表すビームフォーミングのデータと、送信アンテナから送信アンテナ特性に従って出力されて、散乱体1つ当りM本の素波が散乱体に到達するまでの伝搬路を模擬する伝搬路特性のデータとに基づいて、送信アンテナから散乱体に至る伝搬路にビームフォーミング特性が付与された特性を求める。なお、この実施例では、送信アンテナから出力された信号を、互いに直交する二つの偏波成分(水
平偏波と垂直偏波)に区別して説明するが、単一の直線偏波であってもよい。
【0080】
この第1の伝搬路演算部41は、具体的には、
図5に示しているように、ビームフォーミング設定手段41a、送信アンテナ特性設定手段41bおよび演算手段41cにより構成される。ビームフォーミング設定手段41aは、OFDM変調波帯域をB分割して、それぞれの分割帯域毎にビームフォーミング特性が異なる可能性を考慮し、送信アンテナ数Sとレイヤ数Rの行列要素からなるビームフォーミング行列をB組設定できるようになっている。OFDM変調波帯域を分割しない場合、B=1とする。
【0081】
ビームフォーミング設定手段41aおよび送信アンテナ特性設定手段41bに設定されるデータは、前記式(12)で示したS×R行列の[w]と、前記したように2つの偏波成分を含む2M×1行列の要素ξ
tx,s,m がN×S行列並んで、全体として2・N・M×S行列で構成される[ξ]の要素であり、それらの行列に対する演算手段41cの行列乗算(積和演算)により、二つの偏波成分についてそれぞれ(N・M)×R行列のデータがB通りずつ生成されることになる。これを
図5では、(2NM*R)*Bで示している。
【0082】
したがって、この第1の伝搬路演算部41の演算結果[A1]には、送信アンテナ数Sに依存した系列数が無くなり、第5世代として提案されているように送信アンテナ数が極めて多い(例えば128等)システムであっても、後続の演算処理を小規模な構成で短期間に行なうことができる。なお、送信アンテナ数S以外の要素の数値例について言えば、受信アンテナ数U=2、レイヤー数R=2、散乱体数N=24、素波数M=20等である。
【0083】
なお、通常の送信機では、ビームフォーミング処理は送信データに対して施すが、フェージングを含むシミュレータの処理としては、伝搬路特性側との演算を先にしてS個の経路を持つ演算部の数を減らす。つまり、この部分の演算量は送信アンテナ数Sに比例したものになるが、この実施形態のように、ビームフォーミング特性と伝搬路特性側との演算を最初に実行することで、S個の経路を持つ演算部をこの演算部のみとすることができる。この演算処理は、FFTを実施する時間間隔という比較的長い時間で演算すれば良く、乗算器を時分割で何度も使うことを考えると、実装上の乗算器数は小さくて済む。
【0084】
第2の伝搬路演算部42は、第1の伝搬路演算部41の演算結果[A1]に対し、受信アンテナを含めて試験対象が移動することにより生じるドップラ周波数シフトを付与した伝搬路の特性を求める。この第2の伝搬路演算部42は、ドップラ周波数シフトにより回転する位相のデータを要素とする前記行列[Ψ]を与えるドップラシフト特性設定手段42aと、第1の伝搬路演算部41の演算結果[A1]に対して、ドップラシフト特性設定手段42aにより設定された行列[Ψ]の積和演算を行なう演算手段42bにより構成されている。
【0085】
ここで、前記したように、第1の伝搬路演算部41の演算結果[A1]=[ξ][w]は、二つの偏波成分を含めてB通りの(2・N・M)×R行列であり、ドップラシフト特性設定手段42aにより設定される行列[Ψ]は、前記したように、2M×2M行列の要素H
n,m がN×N行列並んで、全体として(2・N・M)×(2・N・M)の対角行列であるので、その演算結果[A2]は、B通りの(2・N・M)×R行列となる。
【0086】
また、第3の伝搬路演算部43は、第2の伝搬路演算部42で得られた演算結果[A2]に対し、二つの偏波成分に対する受信アンテナの受信特性
を表す受信アンテナ特性を付与して受信アンテナを含めた伝搬路の特性を求める。この第3の伝搬路演算部43は、受信アンテナ特性のデータを要素とする前記行列[Ξ]を与える受信アンテナ特性設定手段43aと、第2の伝搬路演算部42の演算結果[A2]に対して、受信アンテナ特性設定手段43aにより設定された行列[Ξ]の積和演算を行なう演算手段43bにより構成されている。
【0087】
ここで、受信アンテナ特性設定手段43aにより設定された行列[Ξ]は、前記したように、M×2M行列の要素f
rx,u,n,mがN×N行列並んでいるが、それが全受信アンテナ分U個あり、全体として(U・N・M)×(2・N・M)の対角行列であるので、演算手段43bによる行列[Ξ]、[A2]の演算結果[A3]は、2つの偏波成分が受信アンテナで合成されたことにより、B通りのU・N・M×R行列で示される。
【0088】
このようにして得られた伝搬路の特性[A3]=[Ξ][Ψ][ξ][w]は、各送信アンテナから所望のビームフォーミング特性が付与されて放射され、N個全ての散乱体からそれぞれM個ずつの経路で所望のドップラ周波数シフトが付与された状態で各受信アンテナに到来して受信されるまでの伝搬路の特性を示している。
【0089】
この伝搬路の特性は、フーリエ変換部44に与えられる。フーリエ変換部44は、第3の伝搬路演算部43で得られた伝搬路の特性のうち、各受信アンテナ毎にドップラ周波数シフトが共通とみなせる経路をまとめて1単位とすることでレイリー分布に従うフェージング特性を付与するとともに、全体をL単位にグループ化した伝搬路の特性に対して、フーリエ変換処理を行ない、サブキャリア間隔毎の周波数領域での伝搬路の特性に変換する。
【0090】
これを実現するために、フーリエ変換部44には、ドップラ周波数シフトが共通とみなせるもの同士をまとめてフーリエ変換処理を行なうフーリエ変換演算手段44aと、その演算に用いるパラメータを設定するための係数設定手段44bと、フーリエ変換演算手段44aの演算結果に対して補間処理を行なう補間手段44cとを有している。
【0091】
フーリエ変換演算手段44aは、係数設定手段44bに設定されたパラメータを用いて、演算結果[A3]に対する前記[ζ]の演算処理を行なう。前記したように、[A3]はB通りのU・N・M×R行列であり、[ζ]は、U個の受信アンテナそれぞれにL×(N・M)行列であるから、その演算結果[A4]は、U・L×R×K0行列のB通りとなる。
【0092】
なお、係数設定手段44bには、上記フーリエ変換処理に必要な係数、Pn、M、τ
n,m 、AoA
n,m(Angle of Arrival:クラスタnの素波mが到来する角度方向の情報)等が予め設定される。
【0093】
上記したように、フーリエ変換部44は、演算結果[A3]をU本の各受信アンテナから見たときのドップラ周波数(L種類に量子化)が同一とみなすことができる素波(Ray)同士をまとめて、伝搬路の時間拡がりから決まる(時間領域の遅延拡がりからエリアシングが生じないと判断される)必要十分なサンプリング間隔周波数領域信号に変換する。つまり、Uアンテナ毎に、時間領域での素波(N・M個)の遅延に対応した回転を与え、同一のドップラ周波数とみなせる素波同士を加算するものであり、その処理結果は、U・L×R行列で、K0通りとなる(K0は周波数方向のサンプル数)。ここで、LおよびK0を小さくすることで、現実的な回路リソースに圧縮することができる。遅延を周波数領域における回転として実施することで、従来より行なわれている「サンプル遅延+リサンプルフィルタ」によって直接IQデータに遅延を施す方式よりも、回路規模を小さくすることができる。
【0094】
補間手段44cは、フーリエ変換演算手段44aで得られたフーリエ変換結果[A4]を、周波数軸方向に補間して、サンプル間隔がOFDM信号のサブキャリア間隔となるようにする。この補間処理により、周波数領域におけるU・L×R×K行列の伝搬路特性[A5]が得られる。
【0095】
上記のように、このフーリエ変換部44は、フーリエ変換演算手段44aと補間手段44cを有しているので、フーリエ変換の処理を実施する際の周波数領域でのサンプリング間隔を、例えば、時間領域の伝搬路特性の最大遅延量で決まる必要最低限の間隔とし、その演算結果に対し、補間手段44cにより周波数領域での伝搬路特性を補間するという2段階のパイプライン処理が可能となり、各処理にかけられる時間が延び、共通回路リソースを複数回使い回すことで、フーリエ変換における回路規模を小さくすることができる。なお、フーリエ変換演算手段44aの周波数領域でのサンプリング間隔をより小さくして補間手段44cによる補間処理を省略する構成も可能である。
【0096】
伝搬信号演算部51は、フーリエ変換部44で求められた伝搬路特性[A5]を、レイヤ周波数領域信号生成部31で生成されたR×K系列分の変調信号Ssymに乗算して、サブキャリア当りU×L系列の伝搬信号SAsym(u,l,k)を生成する。なお、伝搬信号SAsym(u,l,k)および後述する各伝搬信号SBsym(…)〜SEsym(…)について図面ではSA(…)〜SE(…)と表記する。
【0097】
窓関数演算部52は、伝搬信号演算部51により生成されたキャリア当りU×L系列の伝搬信号SAsym(u,l,k)に対し、各系列に対応するドップラ周波数で回転する窓関数の乗算による信号切出しに相当する周波数領域での処理として、前記窓関数の周波数特性の畳み込み演算を行ない、キャリア当りU×L系列の伝搬信号SBの抽出処理を行なう。
【0098】
つまり、(U・L)個の経路ごとに、各経路に対応するドップラ周波数で回転する窓関数を時間領域で掛け算することに対応する、周波数領域での補間畳み込み演算を行なう。ただし、窓関数の時間長は、各経路内のドップラ周波数が同一とみなせる複数の素波(Ray)間の位相関係の変化が無視できる程度の時間長とする必要がある。窓関数の時間長はOFDMのCP長+有効データ長とするのが最もシンプルである。この演算の処理結果は、Dscを補間レートとすると、U・L×K・Dscとなる。このように窓関数演算部52によりOFDMのサブキャリアデータそのものにドップラ周波数シフトを付加することで、フェージングモデルを忠実に再現することができる。
【0099】
構造的には、変調波そのもののドップラ効果による周波数ずれは、窓関数を時間領域で掛け算することに対応する周波数領域での畳み込みで使用されるフィルタ係数として、ドップラ周波数分だけずれたポイントがサンプルされたものを利用することで変調波信号の周波数シフト(周波数領域でのリサンプル)を実現する。
【0100】
ここで、窓関数演算部52の基本的な処理について説明すると、時間領域で区間長Tc′のローカライゼーション用の窓関数fw
τ(τは時間軸方向のインデックス)を乗算するのと等価な処理として、ローカライゼーション用の窓関数のフーリエ変換(Coe
p,i)[iは周波数方向の係数インデックス、pは1OFDMシンボル中の窓関数の番号]を周波数領域で畳み込み処理する。
【0101】
ここでは、長さTsym の1OFDMシンボルをP分割したp番目(p=1,2,3,……,P)の区間長Tc′のローカライゼーション用の窓関数の乗算計算について以下のように数式化する。ただし、(Tc′+Td)と1/fsc(レイヤ周波数領域信号生成部31の出力のサブキャリア間隔fscでIFFTを実施するときの時間領域のサイクル)の大小関係に応じて、処理後の周波数領域上でのサンプリング間隔が決まる。
【0102】
(a) (Tc′+Td)>1/fscの場合
周波数領域でのサンプリング間隔を細かくすることで、時間長(Tc′+Td)の波形が時間領域でのエイリアシング(オーバーラップ)を生じないようにする。つまり、次式(18)、(19)に示しているように、(Tc′+Td)<1/(fsc/Dsc)を満たすように、畳み込み処理結果の周波数領域でのサンプリング間隔が1/Dsc倍となるように補間処理をする。(元のサブキャリア同士の間にDsc−1個のゼロを置いてから畳み込みによるフィルタ処理を実施することに相当する処理である。)
【0104】
ここで、式(18)の記号Σは、i=−TapNum/2〜TapNum/2までの総和を表す。また、window(i)はタップ長がDsc・(TapNum +1)の窓関数でDFT(fw
τ)の周波数領域での広がりを制限するものであるとする。DFT(fw
τ)は、時間スパン1/(fsc/Dsc)に渡る離散的フーリエ変換である。fw
τは例えば
図2に示すような窓関数であり、その中心が時間0に位置しており、Tc・(1/2+p−1)だけ波形を遅らせるとpに対応する位置に移動するような波形であるとする。
【0105】
また、式(19)のe
Zは、時間領域でTc・(1/2+p−1)だけ波形を遅らせるのに相当する周波数領域上での回転を与える項である。また、式(19)の、Resample()は、窓関数のDFT結果を(u,l)に対応するドップラ周波数分だけシフトするようにリサンプルし、全体の位相を前後のIDFT結果が連続波形となるように(sym,p)に従って回転させる演算子であるとする。
【0106】
また、式(18)において、k’は補間処理後の周波数インデックスを表しているが、
k’={Dsc・(0−<K/2>),Dsc・(1−<K/2>),…,Dsc・(K−1−
<K/2>)}
の位置にそれぞれk={1,2,3,……K}の伝搬信号SAsym(u,l,k)が対応する関係にある。なお、式(18)の括弧記号<A>は、Aを越えない最大の整数を表す(以下、同様)。
【0107】
また、式(18)の記号%は剰余演算子であり、gは、k’をDscで割った時の余りである。ただし、式(18)は、
−Dsc・(<K/2>+TapNum/2)≦k’≦Dsc・(<K/2>+TapNum/2)
の範囲で計算する必要があり、i<0およびi>Kの範囲でSAsym(u,l,i)=0とする。
【0108】
(b) (Tc′+Td)<1/fscの場合
次式(20)、(21)に示すように、畳み込み処理結果のサンプリング間隔は、伝搬信号演算部51の出力と変わらないように畳み込み処理する(補間無し)。
【0110】
ここで、式(20)の記号Σは、i=−TapNum/2〜TapNum/2までの総和を表す。また、window(i)はタップ長が(TapNum+1)の窓関数でDFT(fw
τ)の周波数領域での広がりを制限するものであるとする。DFT(fw
τ)は、時間スパン1/fscに渡る離散的フーリエ変換である。fw
τは例えば
図2に示す窓関数であり、その中心が時間0に位置しており、Tc・(1/2+p−1)だけ波形を遅らせるとpに対応する位置に移動するような波形であるとする。
【0111】
また、式(21)のe
Z’は、時間領域でTc・(1/2+p−1)だけ波形を遅らせるのに相当する周波数領域上での回転を与える項である。また、式(20)の、Resample()は、窓関数のDFT結果を(u,l)に対応するドップラ周波数分だけシフトするようにリサンプルし、全体の位相を前後のIDFT結果が連続波形となるように(sym,p)に従って回転させる演算子であるとする。
【0112】
また、式(20)において、k’は周波数インデックスを表しているが、
k’={−<K/2>,1−<K/2>,…,K−1−<K/2>}
の位置にそれぞれk={1,2,3,……K}の伝搬信号SAsym(u,l,k)が対応する関係にある。ただし、式(20)は、
−(<K/2>+TapNum/2)≦k’≦(<K/2>+TapNum/2)
の範囲で計算する必要があり、i<0およびi>Kの範囲でSAsym(u,l,i)=0とする。
【0113】
上記説明では、ドップラ周波数シフトについて述べていないが、前記したように、ドップラ周波数シフトを考慮した場合、変調波そのもののドップラ効果による周波数ずれは、窓関数を時間領域で掛け算することに対応する周波数領域での畳み込みで使用されるフィルタ係数として、
図4の窓関数周波数特性として示したように、ドップラ周波数分だけずれたポイントがサンプルされたものを利用することで変調波信号の周波数シフト(周波数領域でのリサンプル)を実現している。
【0114】
パス信号加算部53は、窓関数演算部52で抽出されたU×L系列の伝搬信号SBsym(u,l,k')を用いて、U個の受信アンテナ毎に異なるドップラ周波数シフトを施したL経路の信号を加算する演算を行う。
【0115】
パス信号加算部53の演算結果SCsym(u,l,k')は、時間領域信号生成部54に入力される。時間領域信号生成部54は、
図6に示すように、帯域制限フィルタ54aおよびフーリエ逆変換演算手段54bを有しており、パス信号加算部53で得られた演算結果に対してフーリエ逆変換処理を行ない、各受信アンテナに与える時間領域の受信信号を生成する。
【0116】
帯域制限フィルタ54aは、次式(22)に示すように、入力信号SCsym(u,l,k')に対し、帯域制限フィルタの特性(BandFil
k')の周波数領域における乗算を実施して、帯域制限を行なう。なお、この帯域制限処理は省略することも可能である。
SDsym(u,p,k')=SCsym(u,l,k')・BandFil
k' ……(22)
【0117】
フーリエ逆変換演算手段54bは、次式(23)のように、帯域制限された周波数領域の信号SDsym(u,p,k')あるいはパス信号加算部53の出力信号SCsym(u,l,k')に対して、高速フーリエ逆変換IFFTを行なうことで時間領域の信号SEsym(u,p,τ)に変換する。
【0118】
SEsym(u,p)τ=IFFT{SDsym(u,p,k')} ……(23)
ただし、τ={1,2,3,……,Nfft}は時間のインデックスであるとする。NfftはFFTポイント数とする。
【0119】
さらに、k'が、
Dsc・(<K/2>+TapNum/2)<k'<Nfft−Dsc・(<K/2>+TapNum/2)
にある場合、SDsym(u,p,k')=0であり、SDsym(u,p,k')は、Nfftを周期として周期的とする。即ち、整数iについて、SDsym(u,p,k')=SDsym(u,p,k'+i・Nfft)が成り立つものとする。
【0120】
なお、時間領域信号生成部54において、帯域制限フィルタ54aの処理をフーリエ逆変換演算手段54bの処理の後に時間領域で行なうことも可能であるが、その場合、フーリエ逆変換の処理で得られた時間領域の信号に対して畳み込み演算処理を行なう必要がある。これに対し、本実施形態のように、帯域制限フィルタ54aをフーリエ逆変換演算手段54bの前段に設けておけば、フィルタ処理を周波数領域での乗算処理で済ませることができ、畳み込み演算に比べて格段に少ない演算量で処理を実行でき、帯域制限フィルタを設ける場合であっても高速処理できる。
【0121】
シフト加算部55は、時間領域信号生成部54が生成した時間領域の受信信号SEsym(u,p)を、前記窓関数の長さ分ずらして加算して、各受信アンテナで受信された連続する受信信号Sout を生成する。つまり、上式(23)の処理結果を、
図1に示したように時間Tcずつずらしながら加算することで1系列分の連続した受信信号を得る。これをU系列分並列的に行なうことで、次式(24)で表されるU系列分の連続した受信信号Sout を生成できる。ただし、式(24)で、fs は時間領域におけるサンプリング周波数である。
【0123】
このように、実施形態の試験装置30は、伝搬路の特性と変調信号との乗算処理を周波数領域において行ない、その演算結果にドップラ周波数シフトを考慮した周波数領域での窓関数演算によるリサンプル処理を行い、その演算結果から時間領域信号を生成しているので、従来方式のように、送信アンテナ毎の周波数領域の信号をフーリエ逆変換して時間領域の信号に変換してから伝搬路特性を付与する場合に比べて、フーリエ逆変換を行なう回路および伝搬路特性を生成する回路の規模を格段に小さくすることができる。
【0124】
特に、伝搬路の特性を求める演算において、ビームフォーミング特性と散乱体を考慮した送信アンテナ特性との演算を優先的に行なっているので、それ以降のドップラ周波数シフト、受信アンテナ特性およびレイリー分布を付与する演算処理では、送信アンテナ数に依存した演算処理がなくなるため、次の世代(第5世代)の通信方式で提案されているように、基地局側(送信側)がアレーアンテナのような多数のアンテナを用いるシステムを試験する場合、後続の演算処理の規模を格段に小さくでき、極めて有効である。
【0125】
例えば、S=128、U=2、レイヤ数R=2、サブキャリア数Kの場合、従来方式では、時間領域信号生成のために、K個一組の信号を128(=S)組分並列的にフーリエ逆変換する必要があるが、本実施形態では、Dsc・K個一組の信号を2(=U)組分並列的にフーリエ逆変換すればよい。ここで、補間レートDscが1(補間無しの場合)であれば乗算回数を、U/Sに縮小できる。
【0126】
また、補間する場合には、乗算回数を、
(S・2
Q′・log
22
Q′)/(U・2
Q・log
22
Q)
に縮小することができ、Dsc・S<Uであれば、従来回路より少ない乗算回数で実現できる。ただし、Qは、(2
Q−1)<K≦2
Qを満たす整数、Q′は、(2
Q′−1)<Dsc・K≦2
Q′を満たす整数であり、IFFTポイント数である。
【0127】
また、本実施形態の場合、伝搬路の特性を周波数領域に変換するためのフーリエ変換処理が必要となるが、このフーリエ変換処理では、時間領域における各パスの遅延量は、周波数領域では各パスの周波数成分の回転速度に対応するため、従来時間領域で行なっていたメモリとリサンプルフィルタの組合せにより各パスに遅延を付与するハードウエアは、フーリエ変換における回転処理に置き換えられることになり、両者のハードウエアの規模を比較して本実施形態の方が格段に有利である。
【0128】
前記実施形態は、送信アンテナから受信アンテナまでを含む伝搬路を想定して、
図7のように、受信アンテナの出力(RF信号)を受けるためのU個のポートPort1 〜PortU にケーブル2を介して試験用信号(RF信号)Srx1 〜SrxU をそれぞれ与えて試験対象1の動作試験を行なうケーブル接続環境の例であるが、試験装置30の実際の構成として、前記したシフト加算までの処理をアンテナで送受信する電波の無線周波数帯で行なうことは困難なので、前記したシフト加算までの処理をベースバンドで行い、得られたベースバンド信号を図示しない周波数変換部により無線周波数帯の信号(RF信号)に変換して、ケーブル2を介して試験対象1に与える構成となる。
【0129】
また、ケーブル接続環境の別の例として、試験対象1のポートPort1 〜PortU が、フロントエンドから出力される中間周波数帯の信号(IF信号)を受けるポートである場合には、前記したように、シフト加算までの処理で得られたベースバンド信号を図示しない周波数変換部により中間周波数帯の信号(IF信号)に変換して、ケーブル2を介して各ポートPort1〜PortUに与えればよい。この場合、受信アンテナの特性にフロントエンドの周波数特性等も含めることが可能となり、フロントエンドの特性も含めた伝搬路を模擬した試験が行なえる。なお、試験用信号を無線周波数帯で出力する場合も中間周波数帯で出力する場合も、周波数帯がシフトしているだけで基本的には同等であり、受信アンテナで受信される受信信号とみなせる。
【0130】
また、上記のようなケーブル接続環境の試験だけでなく、例えば、
図8のように、内部に受信アンテナArx1 〜ArxU を有する移動体端末本体のような試験対象1に対して電波による試験を行なう、所謂OTA(Over−The−Air)環境試験の場合には、電波暗室5内に、試験対象1とU’個のプローブアンテナProbe1 〜ProbeU' を配置し、試験用信号Srx1 〜SrxU' が与えられたプローブアンテナProbe1 〜ProbeU' と試験対象1との間で電波を送受信して試験を行なう。
【0131】
このようなOTA環境試験の場合には、
図9に示す構成の試験装置30′で対応することができる。この試験装置30′の伝搬路特性演算部40′は、受信アンテナを含めた試験対象を試験することを考慮して、前記実施形態の試験装置30の伝搬路特性演算部40に対して、二つの偏波成分に対する受信アンテナの受信特性を付与するための第3の伝搬路演算部43が省かれ、パス信号加算部53の代わりに重み付け演算部53′が用いられているが、その他の構成については前記実施形態と基本的に同等である。
【0132】
この構成例では、第2の伝搬路演算部42の演算結果[A2]には、二つの偏波成分それぞれについての演算結果が含まれており、これを直接受けるフーリエ変換部44′では、第2の伝搬路演算部42の演算結果[A2]を、試験対象から見たときの到来方向(L方向に量子化)が同一とみなすことができる入射波を水平、垂直の偏波面(2面)ごとにそれぞれまとめて、伝搬路インパルス応答の時間拡がりから決まる必要十分なサンプリング間隔の周波数領域の特性に変換する。
【0133】
つまり、偏波面毎に、時間領域での素波(N・M個)の遅延に対応した回転を与え、同一の到来方向とみなせる入射波同士を加えるものであり、その処理結果は、2・L×R行列×K0(K0は周波数方向のサンプル数)となり、前記同様に、LおよびK0を小さくすることで、現実的な回路リソースに圧縮することができる。
【0134】
フーリエ変換部44′のフーリエ変換演算手段44aの演算結果[A4′]を受ける補間手段44cにおいても、二つの偏波成分毎に周波数方向の補間処理を行なうため、その処理結果[A5′]は、2・L×R行列×Kとなる。前記実施形態で説明したように、フーリエ変換演算手段44aのサンプリング間隔を大きくして補間処理を行なう方式と、フーリエ変換演算手段44aのサンプリング間隔を小さくして補間処理を省く方式のいずれの構成も可能であるが、前者の方式の方が回路規模を小さくする観点で有利である。
【0135】
また、伝搬信号演算部51′の演算では、サブキャリア当りS×R系列の変調信号Ssym に対して、フーリエ変換部44′の演算結果[A5′]の行列を乗算するので、その演算で得られる伝搬信号SAsym は、2つの偏波成分についてそれぞれサブキャリア当りL系列となり、窓関数演算部52′の演算で得られる伝搬信号SBsym も、2つの偏波成分についてそれぞれサブキャリア当りL系列(補間レートDsc=1と仮定)となる。
【0136】
この窓関数演算部52′は、前記実施形態と同様に、周波数領域での補間畳み込み演算を行なうが、窓関数の時間長は、各経路内の到来方向が同一とみなせる複数の素波間の位相関係の変化が無視できる程度の時間長とする必要がある。
【0137】
また、重み付け演算部53′では、各プローブアンテナについてL経路の信号に重みづけ加算演算を行う、即ち、窓関数演算部52′の演算結果に対して、L個の到来方向の信号をU'個(水平・垂直偏波合わせて2・U'個)のOTA用プローブアンテナから出力する際の重みの乗算(偏波面ごとのU'×L行列乗算)を行なう。したがって、その演算結果SCsym は、2つの偏波成分についてそれぞれキャリア当りU'系列となる。
【0138】
なお、この重み付けの演算処理は、シフト加算部55′の処理結果に対して実施することもできる。一般に、U'>Lであるため、その場合はIFFT数は減るが、行列演算を実施するのに使うことができる乗算時間は時間領域のサンプル間隔となるため、行列乗算に必要な乗算器数がリソース使いまわし時間減少により増える効果と、IFFT数が減る効果のバランスで有利な方で実装すればよい。また、この重み付け演算処理をデジタル処理で行なわずに、最後にアナログ的に実施することもできる。
【0139】
さらに、時間領域信号生成部54′の演算結果SEsym およびシフト加算部55′の演算結果Sout についても、2つの偏波成分についてそれぞれU'系列となる。
【0140】
この実施形態の試験装置30′の場合、シフト加算部55′で生成した2つの偏波成分についてU'系列の入射波を、実際の無線通信で使用するアナログの周波数帯に変換して、
図8に示したように、電波暗室5内で、OTA環境試験に用いられるプローブアンテナProbe1 〜ProbeU' を介して二つの偏波成分を移動体端末本体などの受信アンテナを有する試験対象1に送信して試験を行なうことになる。
【0141】
この試験装置30′の場合も、前記実施形態と同様に、伝搬路の特性と変調信号との乗算処理を周波数領域において行ない、その演算結果にドップラ周波数シフトを考慮した周波数領域での窓関数演算によるリサンプル処理を行い、その演算結果から時間領域信号を生成しているので、従来方式のように、送信アンテナ毎の周波数領域の信号をフーリエ逆変換して時間領域の信号に変換してから伝搬路特性を付与する場合に比べて、フーリエ逆変換を行なう回路および伝搬路特性を生成する回路の規模を格段に小さくすることができる。
【0142】
特に、伝搬路の特性を求める演算において、ビームフォーミング特性と散乱体を考慮した送信アンテナ特性との演算を優先的に行なっているので、それ以降のドップラ周波数シフトおよびレイリー分布を付与する演算処理では、送信アンテナ数に依存した演算処理がなくなるため、次の世代(第5世代)の通信方式で提案されているように、基地局側(送信側)がアレーアンテナのような多数のアンテナを用いるシステムを試験する場合、後続の演算処理の規模を格段に小さくでき、極めて有効である。
【0143】
前記実施形態では、送信アンテナから出射される電波に二つの直交する偏波成分が含まれる場合について説明したが、送信アンテナから出射される電波を、単一の直線偏波成分としてもよい。この場合、各伝搬路演算部の演算は単一の直線偏波成分に対して行なえばよい。
【0144】
上記説明は、マルチキャリア変調方式がOFDMの場合で説明したが、他のマルチキャリア変調方式のUFMC、GFDM、FBMC等を用いたMIMOシステムについても本発明を同様に適用できる。
【0145】
特に、第4世代Evolutionおよび第5世代の携帯電話方式で利用されることが期待される3D−MIMO/Massive−MIMOにおいては、基地局の送信アンテナ数の方が、移動体端末の受信アンテナ数よりも圧倒的に多い状況となっており、本発明が非常に有効である。