(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記粘着制御部は、前記切替監視速度が前記切替閾値よりも大きい値の制動トルク減少閾値未満になると、前記電気ブレーキ装置の制動トルクを減少させる制動トルク制御部を有している、請求項1に記載の鉄道車両のブレーキ制御装置。
前記ブレーキ切替部は、前記切替監視速度が前記切替閾値よりも小さい強制切替閾値未満になると、前記設定部により前記不許可状態が設定されていても、強制的に前記電気ブレーキ装置の作動から前記機械ブレーキ装置の作動に切り替える、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の鉄道車両のブレーキ制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係るブレーキ制御装置10を備えた鉄道車両1の概略図である。
図1に示すように、鉄道車両1は、輪軸2、減速機3、電気ブレーキ装置4、空気ブレーキ装置5、輪軸速度センサ6、パンタグラフ7、及び、ブレーキ制御装置10を備える。輪軸2は、鉄道車両1に複数設けられている。輪軸2は、レールR上を摩擦力により転がる一対の車輪2aと、一対の車輪2aに固定される車軸2bとを有する。車軸2bには減速機3が動力伝達可能に接続され、減速機3には電気ブレーキ装置4が動力伝達可能に接続される。電気ブレーキ装置4は、減速機3に動力伝達可能に接続された電動機8と、電動機8を制御するインバータ9とを有する。
【0012】
インバータ9は、電気ブレーキ時には、電動機8を発電機として機能させ、車軸2bから減速機3を介して伝わる輪軸2の回転慣性力により電動機8に発電させることで、輪軸2に制動トルクを付与する。即ち、電気ブレーキ装置4は、輪軸2の回転運動エネルギーを電気エネルギーに変換することにより、輪軸2を減速させるブレーキであり、発電ブレーキと回生ブレーキとを含む概念である。なお、車両加速時には、インバータ9は、架線Lからパンタグラフ7を介して集電した電力により電動機8に回転駆動力を発生させ、その回転駆動力が減速機3を介して車軸2bに伝達される。
【0013】
空気ブレーキ装置5は、機械ブレーキ装置の一例である。機械ブレーキは、駆動力(例えば、空気圧又は電動力)により輪軸2を機械的に摩擦制動するブレーキであり、踏面ブレーキとディスクブレーキとを含む概念である。空気ブレーキ装置5は、図示しないコンプレッサからの空気圧を駆動源として制輪子5aを車輪2aの踏面に押し付け、輪軸2に制動圧を付与する。ブレーキ制御装置10は、運転者のからのブレーキ指令を受信すると、輪軸速度センサ6からの信号を参照しながら、電気ブレーキ装置4及び空気ブレーキ装置5を制御する。なお、電気ブレーキ装置4、空気ブレーキ装置5及び輪軸速度センサ6は、複数の輪軸2の各々に対応するようにそれぞれ複数設けられるが、それらの電気ブレーキ装置4、空気ブレーキ装置5及び輪軸速度センサ6は、1つのブレーキ制御装置10に接続される。また、ブレーキ制御装置10は、電気ブレーキ装置4を制御する装置と空気ブレーキ装置5を制御する装置とに分けて、両装置間を通信可能に接続した構成としてもよい。
【0014】
図2は、
図1に示すブレーキ制御装置10のブロック図である。
図2に示すように、ブレーキ制御装置10は、空転滑走制御部11、切替条件判定部12、ブレーキ切替部13、切替許可条件判定部14、設定部15、制動トルク減少条件判定部16、制動トルク制御部17、及び、強制切替条件判定部18を備える。切替許可条件判定部14、設定部15、制動トルク減少条件判定部16及び制動トルク制御部17は、粘着制御部19を構成する。空転滑走制御部11は、例えば、後述する滑り度SL1が所定の滑り閾値SHを超えたときに、電気ブレーキ装置4又は空気ブレーキ装置5の制動力を低減する制動力低減制御を開始し、滑り度SL1が滑り閾値SH1未満となったときに、制動力低減制御を終了する(例えば、SH≧SH1)。なお、空転滑走制御部11による制御は、例えば、特開2014−117147号公報に記載された制御とすればよい。
【0015】
切替条件判定部12は、輪軸速度から得られる切替監視速度が所定の切替閾値P3未満であるとの切替条件が成立したか否かを判定する。具体的には、切替条件判定部12は、複数の輪軸2のうち輪軸速度(回転角速度と車輪半径との積)が最大である輪軸2の輪軸速度V(切替監視速度)が切替閾値P3未満であるとの切替条件が成立したか否かを判定する。ブレーキ切替部13は、電気ブレーキ装置4の作動中に切替条件判定部12により切替条件が成立したと判定されたとき、電気ブレーキ装置4の作動から空気ブレーキ装置5の作動に切り替える。
【0016】
切替許可条件判定部14は、車輪2aがレールに対して所定の粘着状態にあるとの第1条件と、第1条件の成立時における輪軸速度Vから切替閾値P3を引いた値VDが所定の許可閾値P2未満であるとの第2条件との両方の条件からなる切替許可条件が成立したか否かを判定する。設定部15は、切替許可条件判定部14により切替許可条件が成立したと判定されたとき、切替条件の成立時のブレーキ切替部13による切替えを許可する許可状態を設定し、切替許可条件が成立していないと判定されたとき、切替条件の成立時のブレーキ切替部13による切替えを許可しない不許可状態を設定する。
【0017】
制動トルク減少条件判定部16は、輪軸速度Vが切替閾値P3よりも大きい値の所定の制動トルク減少閾値P1未満であるとの制動トルク減少条件が成立したか否かを判定する。制動トルク制御部17は、制動トルク減少条件判定部16により制動トルク減少条件が成立したと判定されたとき、電気ブレーキ装置4の制動トルクを減少させる。即ち、粘着制御部19は、切替条件の成立時のブレーキ切替部13による切替えの際に車輪2aをレールRに対して粘着させるように、電気ブレーキ装置4及びブレーキ切替部13を制御する。
【0018】
強制切替条件判定部18は、輪軸速度Vが切替閾値P3よりも小さい値の所定の強制切替閾値P4未満であるとの強制切替条件が成立したか否かを判定する。ブレーキ切替部13は、強制切替条件判定部18により強制切替条件が成立したと判定されたとき、設定部15により不許可状態が設定されていても、強制的に電気ブレーキ装置4の作動から空気ブレーキ装置5の作動に切り替える。
【0019】
図3は、滑り率と粘着力との関係を説明するグラフである。
図3に示すように、滑り度の一例である滑り率は、対地速度(車両速度)から輪軸速度を引いた値を対地速度で割った値として定義される。粘着力は、車輪とレールとの間に作用する摩擦力を意味する。粘着力は、滑り率がゼロから増加していくとともに増加し、滑り率がある限界を超えると減少に転じる。粘着力が最大になる点を粘着限界といい、滑り率が粘着限界よりも小さい領域を微小滑り領域(粘着状態)といい、滑り率が粘着限界よりも大きい領域を巨視滑り領域(滑走状態)という。
【0020】
滑り率が微小滑り領域にあるときは、粘着力は主に静摩擦力であり、滑り率が増加しても粘着限界に達するまでは粘着力が増加する。しかし、滑り率が巨視すべり領域に入ると、粘着力は主に動摩擦力となり、滑り率が増加するにつれて粘着力が減少して滑走が引き起こされる。そのため、滑走を誘発するような突発的な事象が生じるときには、滑り率が粘着限界の近傍、好ましくは微小滑り領域にあることが望まれる。なお、本実施形態の鉄道車両1には、実際の対地速度を取得する装置が設けられていないため、滑り率を算出するためには、輪軸速度Vから対地速度を推定する必要がある。
【0021】
図4は、推定対地速度を説明するグラフである。
図4中の実線は、鉄道車両1の複数の輪軸2のうち輪軸速度が最大である輪軸2の輪軸速度Vを表し、
図4中の破線は、その輪軸速度Vから推定された推定対地速度を表し、
図4中の二点鎖線は、実際の対地速度を表す。具体的には、輪軸速度Vの減速度が、所定の制限値を超えた場合(即ち、急激に減速した場合)には、輪軸速度Vの値の代わりに前記制限値を超える直前の減速度を用いて補間した速度値を推定対地速度とし、輪軸速度Vの減速度が前記制限値未満となった場合には、輪軸速度V自体を推定対地速度とする。そのため、推定対地速度には、輪軸速度Vの滑りによる変動の影響が残っており、推定対地速度は、実際の対地速度よりも変動が大きくなる。
【0022】
図5は、
図1に示すブレーキ制御装置10の制御を説明するフローチャートである。
図6は、
図1に示すブレーキ制御装置10の制御時における輪軸速度V、電気ブレーキの制動トルク及び空気ブレーキの制動圧のタイミングチャートである。なお、
図6中の実線は、複数の輪軸2のうち輪軸速度が最大である輪軸2の輪軸速度V(切替監視速度)を表し、
図6中の二点鎖線は、実際の対地速度を表している。以下では、
図2及び6を参照しつつ、
図5のフローチャートの流れに沿ってブレーキ制御装置10の制御内容を説明する。
【0023】
ブレーキ制御装置10は、運転者からブレーキ指令を受信したか否かを判定する(ステップS1)。ブレーキ指令を受信していないと判定された場合には、ステップS1に戻る。ブレーキ指令を受信したと判定された場合には、ブレーキ制御装置10は、空転滑走制御部11による空転滑走制御がONになっているか否かを判定する(ステップS2)。空転滑走制御がONになっていないと判定された場合には、ステップS1に戻る。ステップS2では、一例として、滑り度SL1が所定の滑り閾値SHを超えているか否かを判定する。
【0024】
ここで、滑り度は、レールRに対する車輪2aの滑り具合を表す指標である。例えば、滑り度は、対地速度(車両速度)から輪軸速度を引いた値を対地速度で割った値である滑り率として定義されるとよい。或いは、滑り度は、輪軸2の減速度として定義されてもよい。或いは、対地速度から輪軸速度を引いた値を対地速度で割った値である滑り率と、輪軸2の減速度との両方を、滑り度として用いてもよい。
【0025】
本実施形態では、ステップS2において、対地速度から輪軸速度を引いた値を対地速度で割った値である滑り率SL1aが滑り閾値SHaを超えたとの第1滑り条件と、輪軸2の減速度SL1b(加速度と正負が逆の値)が滑り閾値SHbを超えたとの第2滑り条件との少なくとも一方の条件が成立したときに、空転滑走制御がONになっていると判定される。その際、実際の対地速度を取得する装置がないため、滑り率SL1aを算出するにあたり、実際の対地速度の代わりに推定対地速度を用いる。即ち、滑り率SL1aは、推定対地速度から輪軸速度Vを引いた値を推定対地速度で割った値として定義される。(以下、前記第1滑り条件と前記第2滑り条件との少なくとも一方の条件が成立した状態を、滑り度SL1が滑り閾値SHを超えた、と称する。)
【0026】
空転滑走制御部11は、一例として、滑り度SL1が滑り閾値SHを超えると制動トルクの目標値を通常目標値よりも減少させ、滑り度SL1が滑り閾値SH1未満になると制動トルクを通常目標値に向けて増加させるように電気ブレーキ装置4を制御することで、車輪2aの滑走を抑制するように制動トルクを調節する(例えば、SH≧SH1)。例えば、
図6に示すように、輪軸速度Vが対地速度から乖離して滑り度SL1が滑り閾値SHを超えると(時刻t1)、電気ブレーキ装置4の制動トルクが減少させられて輪軸速度Vが対地速度に近づいていく。その後、滑り度SL1が滑り閾値SH1未満になると(時刻t2)、電気ブレーキ装置4の制動トルクの目標値が通常目標値に戻される。但し、滑り率SL1aの算出には、実際の対地速度の代わりに推定対地速度(
図4)が用いられるため、輪軸速度Vが実際の対地速度(
図6の二点鎖線)から大きく乖離しないと推定対地速度との差が十分に生じず、空転滑走制御部11による制動トルクの減少が開始されない。
【0027】
ステップS2で空転滑走制御がONになっていると判定された場合には、前記した空転滑走制御に並行し、強制切替条件判定部18は、輪軸速度Vが強制切替閾値P4を超えているか否かを判定する(ステップS3)。輪軸速度Vが強制切替閾値P4を超えていないと判定された場合には、ブレーキ切替部13は、強制的に電気ブレーキ装置4の作動から空気ブレーキ装置5の作動に切り替える(ステップS11)。輪軸速度Vが強制切替閾値P4を超えていると判定された場合には、制動トルク減少条件判定部16は、輪軸速度Vが制動トルク減少閾値P1未満であるとの制動トルク減少条件が成立したか否かを判定する(ステップS4)。ここで、制動トルク減少閾値P1は、切替閾値P3の値の1.0倍以上2.5倍以下の値であることが好ましく、切替閾値P3の値の1.1倍以上2.0倍以下の値であることが更に好ましい。これにより、輪軸速度Vが切替閾値P3に近づいた状態で制動トルク減少条件の成否を判定できる。
【0028】
制動トルク減少条件が成立していないと判定された場合には、ステップS4に戻る。制動トルク減少条件が成立していると判定された場合には、強制切替条件判定部18は、輪軸速度Vが強制切替閾値P4を超えているか否かを判定する(ステップS5)。輪軸速度Vが強制切替閾値P4を超えていないと判定された場合には、ブレーキ切替部13は、強制的に電気ブレーキ装置4の作動から空気ブレーキ装置5の作動に切り替える(ステップS11)。輪軸速度Vが制動トルク減少閾値P1未満で且つ強制切替閾値P4を超えていると判定された場合には、制動トルク減少条件判定部16は、滑り度SL1が滑り閾値SH以上であるか否かを判定する(ステップS6)。
【0029】
滑り度SL1が滑り閾値SH以上であると判定された場合には、制動トルク制御部17は、電気ブレーキ装置4の制動トルクの目標値を通常目標値よりも減少させる(ステップS7)。例えば、
図6に示すように、輪軸速度Vが制動トルク減少閾値P1よりも大きい状態から減少していって制動トルク減少閾値P1を下回ると(時刻t3)、電気ブレーキ装置4の制動トルクが減少させられて輪軸速度Vが対地速度に近づいていく。滑り度SL1が滑り閾値SH以上ではないと判定された場合には、空転滑走制御により良好なブレーキが実現できていると判断し、制動効率向上のためにステップS7に行かずにステップS5に戻る。
【0030】
ステップS7の後は、切替許可条件判定部14は、車輪2aがレールRに対して所定の粘着状態にあるとの第1条件が成立したか否かを判定する(ステップS8)。当該所定の粘着状態は、車輪2aのレールRに対する滑り度SL1が少なくとも粘着限界に対応する滑り度よりも小さい状態を意味する。
図6に示すように、本実施形態では、切替許可条件判定部14は、ブレーキ指令により鉄道車両1が減速している際に、輪軸速度V(粘着監視速度)の変化率(加速度)が正値から負値に変化したことが検知されたときに(時刻t4)、車輪2aが所定の粘着状態にあると判定する。
【0031】
車輪2aが所定の粘着状態にあるとの第1条件が成立していないと判定された場合には、ステップS5に戻る。即ち、切替許可条件判定部14は、第1条件が成立していないことで切替許可条件が成立していないと判定し、設定部15に、切替条件成立時のブレーキ切替部13による切替えを許可しない不許可状態を設定させる(例えば、切替許可フラグを無効にする。)。車輪2aが所定の粘着状態にあるとの第1条件が成立していると判定された場合には、切替許可条件判定部14は、輪軸速度Vから切替閾値P3を引いた値VDが許可閾値P2未満であるとの第2条件が成立したか否かを判定する(ステップS9)。
【0032】
ここで、許可閾値P2は、切替閾値P3の値の0.01倍以上1.5倍以下の値であることが好ましく、切替閾値P3の値の0.05倍以上1.0倍以下の値であることが更に好ましい。これにより、第2条件が成立すると、第1条件が成立してから速やかに輪軸速度Vが切替閾値P3に達することができる。なお、ステップS9では、輪軸速度Vから切替閾値P3を引いた値VDが許可閾値P2未満であることを第2条件としたが、第2条件は、輪軸速度Vが所定の閾値(例えば、P2+P3)未満であるとの条件と言い換えてもよい。
【0033】
値VDが許可閾値P2未満であるとの第2条件が成立していないと判定された場合には、ステップS3に戻る。即ち、切替許可条件判定部14は、第2条件が成立していないことで切替許可条件が成立していないと判定し、設定部15に、切替条件成立時のブレーキ切替部13による切替えを許可しない不許可状態を設定させる(例えば、切替許可フラグを無効にする。)。
【0034】
値VDが許可閾値P2未満であるとの第2条件が成立していると判定された場合には、切替許可条件判定部14は、第1条件及び前記第2条件の両方が成立したことで切替許可条件が成立したと判定し、設定部15に、切替条件成立時のブレーキ切替部13による切替えを許可する許可状態を設定させる(例えば、切替許可フラグを有効にする。)。その後、切替条件判定部12は、輪軸速度V(切替監視速度)が所定の切替閾値P3未満であるとの切替条件が成立したか否かを判定する(ステップS10)。輪軸速度Vが所定の切替閾値P3未満であるとの切替条件が成立していないと判定された場合には、ステップS10に戻る。輪軸速度Vが所定の切替閾値P3未満であるとの切替条件が成立していると判定された場合には、ブレーキ切替部13は、電気ブレーキ装置4の作動から空気ブレーキ装置5の作動に切り替える(ステップS11)。
【0035】
図6に示すように、本実施形態では、ブレーキ切替部13は、切替条件判定部12により切替条件が成立したと判定されたときに(時刻t5)、空気ブレーキ装置5に作動を開始させる指令を出すとともに、当該判定時から所定の遅れ時間Δtの経過後に電気ブレーキ装置4に作動を終了させる指令を出す。即ち、空気ブレーキ装置5に作動指令が出されて空気ブレーキ装置5による制動力の発生が開始する時点(時刻t5)から電気ブレーキ装置4による制動力の発生が終了する時点(時刻t6)までの期間は、電気ブレーキ装置4の作動と空気ブレーキ装置5と作動とがオーバーラップし、電気ブレーキ装置4による制動力と空気ブレーキ装置5による制動力とが混在する。そのため、この期間(時刻t5から時刻t6までの期間)は、車輪2aに付与される制動力が瞬間的に増加することになるが、切替許可条件が成立していることで(ステップS8及びS9)、空気ブレーキ装置5による制動力の発生が開始する時点(時刻t5)において車輪2aの滑り度が粘着限界の近傍または粘着限界よりも小さいと考えられ、車輪2aがロックすることなく実際の対地速度が速やかにゼロになる。
【0036】
以上に説明した構成によれば、切替条件の成立時のブレーキ切替部13による切替えの際に車輪2aをレールRに対して粘着させるように、電気ブレーキ装置4及びブレーキ切替部13を制御するので、電気ブレーキ装置4の作動から空気ブレーキ装置5の作動に切り替えられることで滑走が促進されてしまうことが防止される。よって、ブレーキ切替えによる滑走の拡大を防止して制動距離を短縮することができる。
【0037】
具体的には、輪軸速度Vが、切替閾値P3よりも少し大きい値の制動トルク減少閾値P1未満であるとの制動トルク減少条件が成立したとき、即ち、輪軸速度Vが切替閾値P3に近づいたときに、電気ブレーキ装置4の制動トルクが減少させられるので、ブレーキ切替時において車輪2aが粘着状態になるように導くことができる。
【0038】
また、車輪2aがレールRに対して所定の粘着状態にあるとの条件を含む切替許可条件が成立していないとき、切替条件の成立時のブレーキ切替部13による切替えを許可しない不許可状態が設定されるので、車輪2aが所定の粘着状態にないときに電気ブレーキ装置4の作動から空気ブレーキ装置5の作動に切り替えられて滑走が促進されてしまうことを防止できる。また、切替許可条件が成立したときには、切替条件の成立時のブレーキ切替部13による切替えを許可する許可状態が設定されるので、車輪2aが所定の粘着状態にあるときには、速やかに電気ブレーキ装置4の作動から空気ブレーキ装置5の作動に切り替えられ、車輪2aを迅速に停止させることができる。
【0039】
また、輪軸速度Vの変化率(加速度)が正値から負値に変化したときに(時刻t4)、車輪2aが所定の粘着状態にあると判定するので、粘着状態の判定に対地速度の情報が不要となり、実際の対地速度を計測する装置を鉄道車両1に搭載する必要をなくすことができる。また、切替許可条件は、輪軸速度Vから切替閾値P3を引いた値VDが許可閾値P2未満であるとの条件も含むので、切替許可条件が成立した時点(時刻t4)から切替条件が成立する時点(時刻t5)までの期間が短くなり、当該期間内に滑り度が粘着限界を超えることを防止することができる。
【0040】
また、輪軸速度Vが、切替閾値P3よりも小さい値の強制切替閾値P4未満であるとの強制切替条件が成立したとき、設定部15により不許可状態が設定されていても、強制的にブレーキ切替えが行われるので、対地速度が低速域に達することで電気ブレーキ装置4による制動トルクが弱まったときに、電気ブレーキ装置4の作動から空気ブレーキ装置5の作動に切り替られない状況が発生することを確実に防止することができる。
【0041】
(第2実施形態)
図7は、第2実施形態に係るブレーキ制御装置110のブロック図である。なお、第1実施形態と共通する構成については同一符号を付して詳細な説明を省略する。
図7に示すように、本実施形態の鉄道車両は、車両の走行速度である実際の対地速度を計測する対地速度計測器120を備える。対地速度計測器120は、車輪2aの滑走の影響を受けずに車両走行速度が取得できるものであれば種々の公知の手段が適用可能である。例えば、対地速度計測器120は、GPSによる車両の位置情報の時系列データを微分して対地速度を求めるものとしてもよい。あるいは、対地速度計測器120は、車両に搭載した加速度センサから得られる加速度情報の時系列データを積分して対地速度を求めるものとしてもよい。
【0042】
ブレーキ制御装置110は、空転滑走制御部111、切替条件判定部12、ブレーキ切替部13、切替許可条件判定部114、設定部15、及び、強制切替条件判定部18を備える。空転滑走制御部111は、滑り度SL2が所定の滑り閾値SHを超えたときに、電気ブレーキ装置4又は空気ブレーキ装置5の制動力を低減する制動力低減制御を開始し、滑り度SL2が所定の滑り閾値SH1未満となったときに、制動力低減制御を終了する。本実施形態では、車両に対地速度計測器120が設けられているため、滑り度SL2として滑り率SL2aを算出するにあたり、推定対地速度ではなく実際の対地速度を用いる。即ち、滑り率SL2aは、対地速度から輪軸速度Vを引いた値を対地速度で割った値として定義する。
【0043】
切替許可条件判定部114は、車輪2aがレールRに対して所定の粘着状態にあるとの切替許可条件が成立したか否かを判定する。切替許可条件判定部114は、車輪2aのレールRに対する滑り度SL2が滑り閾値SH未満であるとき、車輪2aがレールRに対して前記粘着状態にあると判定する。なお、切替条件判定部12、ブレーキ切替部13、設定部15、及び、強制切替条件判定部18は、第1実施形態のものと同様である。即ち、切替許可条件判定部114及び設定部が粘着制御部119を構成し、粘着制御部119は、切替条件の成立時のブレーキ切替部13による切替えの際に車輪2aをレールRに対して粘着させるようにブレーキ切替部13を制御する。
【0044】
図8は、
図7に示すブレーキ制御装置110の制御を説明するフローチャートである。
図9は、
図7に示すブレーキ制御装置110の制御時における輪軸速度V、電気ブレーキ装置4の制動トルク及び空気ブレーキ装置5の制動圧のタイミングチャートである。なお、
図9中の実線は、複数の輪軸2のうち輪軸速度が最大である輪軸2の輪軸速度V(切替監視速度)を表している。以下では、
図7及び9を参照しつつ、
図8のフローチャートの流れに沿ってブレーキ制御装置110の制御内容を説明する。
【0045】
ブレーキ制御装置110は、運転者からブレーキ指令を受信したか否かを判定する(ステップS101)。ブレーキ指令を受信していないと判定された場合には、ステップS101に戻る。ブレーキ指令を受信したと判定された場合には、ブレーキ制御装置110は、空転滑走制御がONになっているか否かを判定する(ステップS102)。ステップS102では、一例として、滑り度SL2が滑り閾値SHを超えているか否かを判定する。空転滑走制御がONになっていないと判定された場合には、ステップS101に戻る。空転滑走制御がONになっていると判定された場合には、空転滑走制御部111による空転滑走制御が実行される(ステップS103)。
【0046】
空転滑走制御部111は、一例として、滑り度SL2が滑り閾値SHを超えると制動トルクの目標値を通常目標値よりも減少させ、滑り度SL2が滑り閾値SH1を超えなくなると制動トルクを通常目標値に向けて増加させるように電気ブレーキ装置4を制御することで、車輪2aの滑走を抑制するように制動トルクを調節する(例えば、SH≧SH1)。例えば、
図9に示すように、輪軸速度Vが対地速度から乖離して滑り度SL2が滑り閾値SHを超えると(時刻t1及びt3)、電気ブレーキ装置4の制動トルクが減少させられて輪軸速度Vが対地速度に近づいていく。その後、滑り度SL2が滑り閾値SH1未満になると(時刻t2及びt4)、電気ブレーキ装置4の制動トルクの目標値が通常目標値に戻される。このとき、滑り度SL2として滑り率SL2aを算出するにあたり、推定対地速度ではなく実際の対地速度が用いられるため、輪軸速度Vの実際の対地速度(
図9の二点鎖線)に対する乖離が
図6に比べて大きくなくても、空転滑走制御部111による制動トルクの減少が開始される。
【0047】
ステップS102で空転滑走制御がONになっていると判定された場合には、前記した空転滑走制御に並行し、強制切替条件判定部18は、輪軸速度Vが強制切替閾値P4を超えているか否かを判定する(ステップS103)。輪軸速度Vが強制切替閾値P4を超えていないと判定された場合には、ブレーキ切替部13は、強制的に電気ブレーキ装置4の作動から空気ブレーキ装置5の作動に切り替える(ステップS106)。輪軸速度Vが強制切替閾値P4を超えていると判定された場合には、切替条件判定部12は、輪軸速度V(切替監視速度)が切替閾値P3未満であるとの切替条件が成立したか否かを判定する(ステップS104)。輪軸速度Vが所定の切替閾値P3未満であるとの切替条件が成立していないと判定された場合には、ステップS103に戻る。
【0048】
輪軸速度Vが所定の切替閾値P3未満であるとの切替条件が成立していると判定された場合には(時刻t5)、切替許可条件判定部114は、車輪2aがレールRに対して所定の粘着状態にあるとの切替許可条件が成立したか否かを判定する(ステップS105)。当該所定の粘着状態は、車輪2aのレールRに対する滑り率SL2aが少なくとも粘着限界に対応する滑り率よりも小さい状態を意味する。具体的には、切替許可条件は、滑り率SL2aが所定の滑り閾値SH1a未満であるとの条件である。
【0049】
この切替条件が成立していると判定された時点で、滑り率SL2aが滑り閾値SH1a未満であれば、ブレーキ切替部13が、電気ブレーキ装置4の作動から空気ブレーキ装置5の作動に切り替える(ステップS106)。
図9では、切替条件が成立していると判定された時点で(時刻t5)、滑り率SL2aが滑り閾値SH1a未満ではない例を示しているため、ステップS103に戻る。即ち、切替許可条件判定部114は、滑り率SL2aが滑り閾値SH1a未満ではないことで切替許可条件が成立していないと判定し、設定部15に、切替条件成立時のブレーキ切替部13による切替えを許可しない不許可状態を設定させる(例えば、切替許可フラグを無効にする。)。
【0050】
その後に、
図9の時刻t6の時点にて、輪軸速度Vが強制切替閾値P4を超えていると判定され(ステップS103)、輪軸速度Vが所定の切替閾値P3未満であるとの切替条件が成立していると判定され(ステップS104)、かつ、滑り率SL2aが滑り閾値SH1a未満であり切替許可条件が成立していると判定されるため(ステップS105)、設定部15が、切替条件成立時のブレーキ切替部13による切替えを許可する許可状態を設定するとともに(例えば、切替許可フラグを有効にする)、ブレーキ切替部13が、電気ブレーキ装置4の作動から空気ブレーキ装置5の作動に切り替える(ステップS106)。
【0051】
具体的には、
図9に示すように、ブレーキ切替部13は、時刻t6の時点にて、電気ブレーキ装置4の作動を終了させる指令を出すとともに、空気ブレーキ装置5の作動を開始させる指令を出す。このとき、電気ブレーキ装置4に作動終了の指令が出された時点(時刻t6)から電気ブレーキ装置4による制動力の発生が終了する時点(時刻t7)までの期間は、電気ブレーキ装置4の作動と空気ブレーキ装置5と作動とがオーバーラップし、電気ブレーキ装置4による制動力と空気ブレーキ装置5による制動力とが混在する。そのため、この期間(時刻t6から時刻t7までの期間)は、車輪2aに付与される制動力が瞬間的に増加することになるが、切替許可条件が成立していることで(ステップS105)、空気ブレーキ装置5による制動力の発生が開始する時点(時刻t6)において車輪2aの滑り率が粘着限界よりも小さいため、車輪2aがロックすることなく実際の対地速度が速やかにゼロになる。
【0052】
以上に説明した構成によれば、第1実施形態と同様に、ブレーキ切替えによる滑走の拡大を防止して制動距離を短縮することができる。また、切替許可条件は、輪軸速度Vが所定の切替閾値P3未満であるとの切替条件が成立したときに判定されるので、ブレーキ切替部13が電気ブレーキ装置4の作動から空気ブレーキ装置5の作動に切り替える時点において車軸2bが粘着状態であることを簡単に確保することができる。
【0053】
なお、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲でその構成を変更、追加、又は削除することができる。前記各実施形態は互いに任意に組み合わせてもよく、例えば1つの実施形態中の一部の構成又は方法を他の実施形態に適用してもよい。前述した実施形態では、切替監視速度は、粘着監視速度と同じもの(輪軸速度V)としたが、異なるものとしてもよい。例えば、前述した実施形態では、制動トルク減少閾値P1、許可閾値P2、切替閾値P3及び強制切替閾値P4と比較する切替監視速度は、複数の輪軸2のうち輪軸速度が最大である輪軸2の輪軸速度Vとしたが、輪軸速度が最大でない輪軸の輪軸速度としてもよいし、推定対地速度としてもよい。即ち、切替監視速度は、輪軸速度自体でもよいし、輪軸速度に対応して変化するパラメータであってもよい。また、ステップS8では、粘着判定を行うための粘着監視速度も、複数の輪軸2のうち輪軸速度が最大である輪軸2の輪軸速度Vとしたが、輪軸速度が最大でない輪軸の輪軸速度としてもよいし、推定対地速度としてもよい。即ち、粘着監視速度も、輪軸速度自体でもよいし、輪軸速度に対応して変化するパラメータであってもよい。
【0054】
また、第1実施形態のステップS8において、輪軸速度Vの変化率(加速度)が正値から負値に変化したことが検知されたときに車輪2aがレールRに対して所定の粘着状態にあると判定したが、対地速度計測器を設け、ステップS8において、滑り率が所定の滑り閾値未満であることが検知されたときに車輪2aがレールRに対して所定の粘着状態にあると判定してもよい。また、第1実施形態において、切替許可条件判定部14及び設定部15を廃止し、
図5のフローチャートにおけるステップS8及びS9を廃止した形態に変更してもよい。即ち、
図5のフローチャートにおいて、制動トルク制御部17が電気ブレーキ装置4の制動トルクの目標値を通常目標値よりも減少させた後(ステップS7)、ブレーキ切替えの許可判定(ステップS8及びS9)を行わず、輪軸速度Vが切替閾値P3未満であるとの切替条件が成立したら(ステップS10)、ブレーキ切替えを行うようにしてもよい(ステップS11)。