特許第6586241号(P6586241)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6586241
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】負圧弁を備える液体封入式マウント
(51)【国際特許分類】
   F16F 13/10 20060101AFI20190919BHJP
【FI】
   F16F13/10 K
   F16F13/10 J
【請求項の数】8
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-538621(P2018-538621)
(86)(22)【出願日】2017年1月23日
(65)【公表番号】特表2019-502882(P2019-502882A)
(43)【公表日】2019年1月31日
(86)【国際出願番号】EP2017051343
(87)【国際公開番号】WO2017129531
(87)【国際公開日】20170803
【審査請求日】2018年7月23日
(31)【優先権主張番号】102016101203.3
(32)【優先日】2016年1月25日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】516171768
【氏名又は名称】ビブラコースティック ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクター・ハフトゥング
【氏名又は名称原語表記】VIBRACOUSTIC GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】ウォルフガング ベックマン
(72)【発明者】
【氏名】ガムゼ ユルドゥルム
【審査官】 杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第02960543(EP,A1)
【文献】 特開2012−189166(JP,A)
【文献】 特開2012−215214(JP,A)
【文献】 特開2013−228004(JP,A)
【文献】 特開2015−102168(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車両の原動機を車体に取り付けるための液体封入式マウント(10)、または、その他の液体封入式マウント(10)であって、
マウントコア(12)を支持し、作動室(13)を取り囲み、かつ外側リング(25)に支持される荷重支持ばね(11)と、
中間プレート(14)と、
中間プレート(14)によって作動室(13)から隔てられ、補償ダイヤフラム(15)によって画成される補償室(17)とを備え、
補償室(17)および作動室(13)は、制振液が充填され、中間プレート(14)に設けられた制振流路(16)を通じて、互いに、流体が流通可能に接続され、
中間プレート(14)は、上側オリフィス板(18)、下側オリフィス板(19)、および上側オリフィス板(18)と下側オリフィス板(19)との間に配置されたダイヤフラム(20)を有し、
ダイヤフラム(20)は、内周(22)、外周(23)、および少なくとも1つの弁開口(24)を有し、
少なくとも1つの弁開口(24)は、全体が、前記内周(22)と前記外周(23)との間に配置されており、
ダイヤフラム(20)は、軸方向の遊びを有するようにして、上側オリフィス板(18)と下側オリフィス板(19)との間に固定されているので、作動室(13)内に負圧が生じている場合に、浮き上がるとともに撓むことを特徴とする液体封入式マウント(10)。
【請求項2】
下側オリフィス板(19)は、ダイヤフラム(20)を受け入れるための受入部(26)を有し、受入部(26)は、オリフィス形成部(27)および材料部(28)を備えることを特徴とする請求項1に記載の液体封入式マウント(10)。
【請求項3】
材料部(28)は、ダイヤフラム(20)の弁開口(24)に噛み合うように構成された少なくとも1つの突起(29)を有することを特徴とする請求項2に記載の液体封入式マウント(10)。
【請求項4】
下側オリフィス板(19)は、少なくとも1つのセンタリングピン(30)を有し、上側オリフィス板(18)は、少なくとも1つのセンタリング開口(31)を有し、少なくとも1つのセンタリングピン(30)は、少なくとも1つのセンタリング開口(31)に挿入されるように構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の液体封入式マウント(10)。
【請求項5】
弁開口(24)は、細長い穴として形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の液体封入式マウント(10)。
【請求項6】
弁開口(24)の長手方向軸線(L)は、径方向からずれていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の液体封入式マウント(10)。
【請求項7】
ダイヤフラム(20)は弾性材料からなることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の液体封入式マウント(10)。
【請求項8】
ダイヤフラム(20)は、小突起が形成された表面構造有することを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の液体封入式マウント(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体封入式マウントに関し、特には、自動車両の原動機を車体に取り付けるための液体封入式マウントであって、マウントコアを支持し、作動室を取り囲み、かつ外側リングに支持される荷重支持ばねと、中間プレートと、中間プレートによって作動室から隔てられ、補償ダイヤフラムによって画成(取り囲まれて範囲が画定)される補償室とを備え、補償室および作動室は、制振液を充填され、中間プレートに設けられた制振流路を通じて互いに流体が流通可能に接続され、中間プレートは、上側オリフィス板、下側オリフィス板、および上側オリフィス板と下側オリフィス板との間に配置されたダイヤフラムを有し、ダイヤフラムは、内周、外周、および少なくとも1つの弁開口を有する、液体封入式マウントに関する。
【背景技術】
【0002】
そのような油圧式制振マウントは、特に自動車両の原動機を車体から支持するために使用され、道路の起伏に起因する振動を減衰させると共に、音響振動を絶縁する。道路の起伏により生じる振動は、液圧システムによって減衰され、この液圧システムは、作動室と、補償室と、それら2つの隔室を互いに接続する制振(振動減衰)流路とによって形成される。液圧システムの動作形態は、以下のように説明することができる。荷重支持ばねの動きによって作動室が拡大または縮小され、作動室内の液体が、制振流路を通して補償室内に押し流される。制振流路内で往復運動する液体が制振作用を生じる。補償室に対して作動室内に負圧が生じている場合には、液体は、補償室から作動室内に逆流する。
【0003】
独国特許出願第11 2013 002 243 T5号に、仕切部材を備えた防振装置が開示されている。この仕切部材は、中央部に正圧(過圧逃がし)弁を備えるダイヤフラムを含む。正圧弁を備える中央部は、ダイヤフラムの本体部よりも薄肉に形成されており、その中央に正圧(過圧逃がし)穴を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、既知のタイプのデバイスを、大きな振幅時の望ましくないノイズの発生に関して改良することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題は、請求項1に記載の液体封入式マウントによって解決される。本発明の有利な実施形態は、従属請求項の主題事項である。
【0006】
本発明によるデバイスにおいて、ダイヤフラムは、少なくとも1つの弁開口を有し、弁開口は、全体が、内周と外周との間に配置されている。弁開口は、全体が、ダイヤフラム材料によって縁取られている。
【0007】
ダイヤフラムは、少なくとも1つの弁開口が下側オリフィス板の材料の上に位置するように下側オリフィス板内に配置することができる。この構成では、中間プレートは、ダイヤフラムおよびオリフィス板と共に、一方向弁(逆止弁)を構成する。補償室に対して作動室内に正圧が生じている場合には、ダイヤフラムは下側オリフィス板に押し付けられる。その場合、制振液は、制振流路のみを通って作動室から補償室に流れる。
【0008】
しかし、補償室に対して作動室内に負圧が生じている場合には、ダイヤフラムに吸引効果が作用し、ダイヤフラムは、上側オリフィス板に向けて撓む。したがって、ダイヤフラムと下側オリフィス板との間に流路が形成される。その場合、制振液は、補償室から、下側オリフィス板のオリフィス形成部、ダイヤフラムの弁開口、および上側オリフィス板のオリフィス形成部を通って作動室に逆流しうる。このようにして、作動室内で大きな正圧が発生しなくなる。大きな振幅の際、既知の中間プレートに比べて大きい弁開口を通じて、比較的、かなり多量の制振液を流すことができる。したがって、キャビテーションおよびそれに関連する望ましくないノイズの発生が大幅に低減される。
【0009】
有利には、下側オリフィス板は、ダイヤフラムを受け入れるための受入部を有し、受入部は、オリフィス形成部および材料部を備える。したがって、ダイヤフラムは、受入部に受け入れられうるのであり、下側オリフィス板に対して径方向にずれ動かないようになっている。
【0010】
有利には、材料部は、ダイヤフラムの弁開口と噛み合うように構成された少なくとも1つの突起を有する。したがって、ダイヤフラムは、受入部中にて回転もしないようになっており、受入部中にて、所定位置に固定されている。
【0011】
有利には、下側オリフィス板は、少なくとも1つのセンタリングピンを有し、上側オリフィス板は、少なくとも1つのセンタリング開口を有し、この少なくとも1つのセンタリングピンは、少なくとも1つのセンタリング開口に挿入されるように構成されている。したがって、下側オリフィス板と上側オリフィス板とを繋ぎ合わせ、ずれ動きや回転を防ぐことができる。
【0012】
有利には、弁開口は、細長い穴として形成される。このような構成は、多量の制振液の通過をさらに可能にし、したがって、大きな振幅時の弁挙動を改良する。
【0013】
有利には、弁開口の長手方向軸線は、径方向からずれている。
【0014】
有利には、ダイヤフラムは、軸方向遊びを有して上側オリフィス板と下側オリフィス板との間に固定され、それにより、ダイヤフラムはより容易に浮き上がる、または撓むことができる。
【0015】
有利には、ダイヤフラムは弾性材料からなる。
【0016】
有利には、ダイヤフラムは表面構造を有し、この表面構造は、好ましくは小突起を有するようにして形成されている。
【0017】
以下、図面に概略的に示されている例示的実施形態を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】中間プレートを備える液体封入式マウントの断面図である。
図2】中間プレートのダイヤフラムの平面図である。
図3】下側オリフィス板の平面図である。
図4図3の切断線に沿った下側オリフィス板の断面図である。
図5】上側オリフィス板の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に、自動車エンジン(不図示)を車体(不図示)に取り付けるための液体封入式マウント10を示す。液体封入式マウント10は、エラストマー材料からなる荷重支持ばね11を有し、荷重支持ばね11は、加硫により組み込まれたマウントコア12を支持する。エンジン(不図示)は、マウントコア12に取り付けられている。マウントコア12には、ねじ接続具21が埋め込まれている。
【0020】
荷重支持ばね11は、外側リング25に支持され、作動室13を画成(取り囲んで範囲を画定)しており、作動室13は、中間プレート14によって補償室17から隔てられている。補償室17は、補償ダイヤフラム15(ロールベローズ(roll bellows)とも呼ばれる)によって画成されている。これらの隔室13、17は、液圧作動液が充填されており、中間プレート14に設けられた制振流路16を通じて、互いに、液体が流通可能に接続されている。
【0021】
中間プレート14は、上側オリフィス板18および下側オリフィス板19を有する。上側オリフィス板18および下側オリフィス板19は合成樹脂からなる。上側オリフィス板18と下側オリフィス板19との間に、ダイヤフラム20が受け入れられている。
【0022】
図2に、本発明による液体封入式マウント10のダイヤフラム20の平面図を示す。この例では、ダイヤフラム20は環状に構成され、内周22および外周23を有する。さらに、ダイヤフラム20は弁開口24を有し、この弁開口24は、全体が、内周22と、外周23との間に配置されている。したがって、弁開口は、全体が、ダイヤフラム20の材料によって縁取られて画成されている。
【0023】
この例では、弁開口24は、細長い穴の形状である。弁開口24の長手方向軸線Lは、ダイヤフラム20の径方向からずれている。すなわち、長手方向軸線Lの延長線は、ダイヤフラム20の中心を通らない。
【0024】
ダイヤフラム20は、弾性材料からなり、凹凸が付いた表面構造(不図示)を有する。
【0025】
図3に、下側オリフィス板19の平面図を示す。図4には、図3の切断線に沿った下側オリフィス板19の断面図を示す。下側オリフィス板19は、ダイヤフラム20を受け入れるための受入部26を有する。この例では、受入部26は、下側オリフィス板19の環状の凹部として構成されている。したがって、受入部26は、図2の環状ダイヤフラム20を受け入れることができるように構成されている。
【0026】
受入部26は、オリフィス形成部27および材料部28を有する。オリフィス形成部27は、環状の受入部26に沿って並ぶ複数の抜き部(cut-out)によって形成されている。オリフィス形成部27は、組立てられた状態において補償室17への通路を形成する。
【0027】
材料部28では、受入部26は抜き部(cut-out)を有さない。受入部26は、下側オリフィス板19の材料によって下側が閉じられている。材料部28は2つの突起29を有する。突起29は、ダイヤフラム20の弁開口24と噛み合うことができるように形成されている。したがって、中間プレート14は、次のように組付けられる。すなわち、ダイヤフラム20が下側オリフィス板19の受入部26に配置されるにあたり、突起29が弁開口24に正しく嵌まるように、組付けられる。
【0028】
さらに、下側オリフィス板19は、作動室13に面する側に、3つのセンタリングピン30を有する。この例では、センタリングピン30は、下側オリフィス板19の中心の周りに描かれる円軌道に沿って等間隔に、すなわちそれぞれ120°ずらして配置される。
【0029】
図5に、本発明による上側オリフィス板18を示す。この例では、上側オリフィス板18は、3つのセンタリング開口31を有し、センタリング開口31は、下側オリフィス板19の3つのセンタリングピン30を挿入することができるように構成されて設けられている。したがって、下側オリフィス板19は、上側オリフィス板18を受け入れる。その際、下側オリフィス板19と上側オリフィス板18との間にダイヤフラム20が受け入れられる。さらに、上側オリフィス板18はオリフィス形成部を有し、オリフィス形成部は、組立てられた状態において作動室13への通路を形成する。
【0030】
下側オリフィス板19、上側オリフィス板18、およびダイヤフラム20からなる中間プレート14が、液体封入式マウント10に組付けられた際、中間プレート14は、作動室13を補償室17から隔てる。その際、ダイヤフラム20は、弁開口24が下側オリフィス板19の材料の上に位置するように下側オリフィス板19に配置される。この構成では、中間プレート14は一方向弁を構成する。補償室17に対して作動室13内に正圧が生じている場合には、ダイヤフラム20は下側オリフィス板19に押し付けられる。その場合、制振液が、制振流路16を通って作動室13から補償室17に流れる。
【0031】
補償室17に対して作動室13内に負圧が生じている場合には、上側オリフィス板18のオリフィス形成部を通じてダイヤフラム20に負圧が作用し、ダイヤフラム20は浮き上がって撓む。それにより、ダイヤフラム20と下側オリフィス板19との間に、制振液が逆流するための流路が形成される。その場合、制振液は、補償室17から、下側オリフィス板19のオリフィス形成部、ダイヤフラム20の弁開口24、および上側オリフィス板18のオリフィス形成部を通って作動室13に逆流することができる。
【符号の説明】
【0032】
10 液体封入式マウント
11 荷重支持ばね
12 マウントコア
13 作動室
14 中間プレート
15 補償ダイヤフラム
16 制振流路
17 補償室
18 上側オリフィス板
19 下側オリフィス板
20 ダイヤフラム
21 ねじ接続具
22 内周
23 外周
24 弁開口
25 外側リング
26 受入部
27 オリフィス形成部
28 材料部
29 突起
30 センタリングピン
31 センタリング開口
L 長手方向軸線
図1
図2
図3
図4
図5