(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
金属製の外輪部材と、該外輪部材に対して同軸回転可能に支持される内輪部材とを備える自動車用ハブ軸受装置に用いられ、前記内輪部材に嵌合されるスリンガと、前記外輪部材に嵌合される芯金と、該芯金に固着されたシールリップ部材とが組み合わさって前記外輪部材及び内輪部材間の車体側の隙間を密封する密封装置であって、
前記スリンガは、前記内輪部材に嵌合される円筒部と、該円筒部の一端部に連成されたフランジ部とを有し、
前記シールリップ部材は、前記フランジ部に弾接する複数のアキシャルリップを有し、
前記芯金は、前記外輪部材に嵌合される芯金円筒部と、該芯金円筒部の一端部から径方向内側に延出形成された内向鍔部と、該芯金円筒部の他端部から前記外輪部材の車体側の端面を覆うように径方向外側に延出形成された外向鍔部とを有し、
前記外向鍔部の外径側端部は、前記シールリップ部材の端部が回り込んで形成された巻き部で一体に覆われており、
前記巻き部は、前記外向鍔部の車輪側面に及ぶ回り込み部を有し、当該回り込み部の厚みは0.30〜0.40mmに設定され、
前記スリンガにおける前記フランジ部の車体側面に磁気エンコーダが固着一体とされ、
前記フランジ部及び前記磁気エンコーダの外径側端部は、前記芯金における前記外向鍔部の内径側端部に径方向に対向するように位置付けられていることを特徴とする密封装置。
金属製の外輪部材と、該外輪部材に対して同軸回転可能に支持される内輪部材とを備える自動車用ハブ軸受装置に用いられ、前記内輪部材に嵌合されるスリンガと、前記外輪部材に嵌合される芯金と、該芯金に固着されたシールリップ部材とが組み合わさって前記外輪部材及び内輪部材間の車体側の隙間を密封する密封装置であって、
前記スリンガは、前記内輪部材に嵌合される円筒部と、該円筒部の一端部に連成されたフランジ部とを有し、
前記シールリップ部材は、前記フランジ部に弾接する複数のアキシャルリップを有し、
前記芯金は、前記外輪部材に嵌合される芯金円筒部と、該芯金円筒部の一端部から径方向内側に延出形成された内向鍔部と、該芯金円筒部の他端部から前記外輪部材の車体側の端面を覆うように径方向外側に延出形成された外向鍔部とを有し、
前記外向鍔部の外径側端部は、前記シールリップ部材の端部が回り込んで形成された巻き部で一体に覆われており、
前記巻き部は、前記外向鍔部の車輪側面に及ぶ回り込み部を有し、当該回り込み部はさらに前記外輪部材の車体側端面に圧縮状態で弾接する環状の突条部を有し、当該突条部の前記回り込み部からの出幅は0.15〜0.25mmに設定され、
前記スリンガにおける前記フランジ部の車体側面に磁気エンコーダが固着一体とされ、
前記フランジ部及び前記磁気エンコーダの外径側端部は、前記芯金における前記外向鍔部の内径側端部に径方向に対向するように位置付けられていることを特徴とする密封装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、外輪部材の車輪側部分は泥水等に晒され易い部位であるが、特許文献2に示される軸受装置においては、外輪部材に対する泥水等の付着を防止する手段が講じられておらず、そのため、外輪部材の車輪側部分が錆び易くなる。このような錆の発生は、外輪部材と芯金の嵌合部にも及び、この嵌合部の嵌合強度を弱め、さらに、錆(腐食)が進行すると、錆びた部分が剥がれ飛散し、シールリップにダメージを与えることになるため、密封装置のシール機能が低下する要因となることもある。また、前記のような自動車用のハブ軸受装置においては、車輪をハブフランジから外したとき、外輪部材の車輪側部分が露見し、発錆した外輪の車輪側部分がユーザの目に晒され、見栄えが悪くなる。特許文献1及び特許文献3においては、外輪部材の車輪側端面が、芯金及び芯金に固着されたゴム材からなるシール部材で覆われている例が開示されており、この例の場合は、前記懸念が生じ難い。
【0005】
一方、外輪部材の車体側部分に関しても、泥水等のアタックを受けるが、近年寒冷地等を走行する車が増えており、より発錆し易い環境となっているため、懸念が新たに生じることとなった。また、近時、自動車を高圧洗車することもあり、このような高圧洗車による噴射水が外輪部材の車体側部分にも及ぶことがあり、この部分の発錆の懸念も新たに生じることが予想される。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、自動車用ハブ軸受装置における外輪部材の車体側端部の発錆を効果的に抑制することができる新規な密封装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る密封装置は、金属製の外輪部材と、該外輪部材に対して同軸回転可能に支持される内輪部材とを備える自動車用ハブ軸受装置に用いられ、前記内輪部材に嵌合されるスリンガと、前記外輪部材に嵌合される芯金と、該芯金に固着されたシールリップ部材とが組み合わさって前記外輪部材及び内輪部材間の車体側の隙間を密封する密封装置であって、前記スリンガは、前記内輪部材に嵌合される円筒部と、該円筒部の一端部に連成されたフランジ部とを有し、前記シールリップ部材は、前記フランジ部に弾接する複数のアキシャルリップを有し、前記芯金は、前記外輪部材に嵌合される芯金円筒部と、該芯金円筒部の一端部から径方向内側に延出形成された内向鍔部と、該芯金円筒部の他端部から前記外輪部材の車体側の端面を覆うように径方向外側に延出形成された外向鍔部とを有し、前記外向鍔部の外径側端部は、前記シールリップ部材の端部が回り込んで形成された巻き部で一体に覆われており、前記巻き部は、前記外向鍔部の車輪側面に及ぶ回り込み部を有し、当該回り込み部の厚みは0.30〜0.40mmに設定され
、前記スリンガにおける前記フランジ部の車体側面に磁気エンコーダが固着一体とされ、前記フランジ部及び前記磁気エンコーダの外径側端部は、前記芯金における前記外向鍔部の内径側端部に径方向に対向するように位置付けられていることを特徴とする。
【0008】
本発明の密封装置によれば、シールリップ部材がスリンガのフランジ部に弾接する複数のアキシャルリップを有しているから、外部から前記車体側の隙間を経て外輪部材及び内輪部材間の軸受空間内への泥水等の浸入が防止される。また、芯金の外向鍔部が外輪部材の車体側端面を覆うように形成され、しかも、外向鍔部の外径側端部は、前記シールリップ部材の端部が回り込んで形成された巻き部で一体に覆われているから、外輪部材の車体側端面が泥水等や噴射水に晒されず、この部分の発錆が抑制され、また、見栄えが低下することも抑制される。
【0009】
第2の発明に係る密封装置は、金属製の外輪部材と、該外輪部材に対して同軸回転可能に支持される内輪部材とを備える自動車用ハブ軸受装置に用いられ、前記内輪部材に嵌合されるスリンガと、前記外輪部材に嵌合される芯金と、該芯金に固着されたシールリップ部材とが組み合わさって前記外輪部材及び内輪部材間の車体側の隙間を密封する密封装置であって、前記スリンガは、前記内輪部材に嵌合される円筒部と、該円筒部の一端部に連成されたフランジ部とを有し、前記シールリップ部材は、前記フランジ部に弾接する複数のアキシャルリップを有し、前記芯金は、前記外輪部材に嵌合される芯金円筒部と、該芯金円筒部の一端部から径方向内側に延出形成された内向鍔部と、該芯金円筒部の他端部から前記外輪部材の車体側の端面を覆うように径方向外側に延出形成された外向鍔部とを有し、前記外向鍔部の外径側端部は、前記シールリップ部材の端部が回り込んで形成された巻き部で一体に覆われており、前記巻き部は、前記外向鍔部の車輪側面に及ぶ回り込み部を有し、当該回り込み部はさらに前記外輪
部材の車体側端面に圧縮状態で弾接する環状の突条部を有し、当該突条部の前記回り込み部からの出幅は0.15〜0.25mmに設定され
、前記スリンガにおける前記フランジ部の車体側面に磁気エンコーダが固着一体とされ、前記フランジ部及び前記磁気エンコーダの外径側端部は、前記芯金における前記外向鍔部の内径側端部に径方向に対向するように位置付けられていることを特徴とする。
本発明の密封装置によれば、巻き部と環状の突条部とにより、外輪部材の車体側端面が泥水等に晒されることがより確実に防止され、外輪部材の車体側端面の発錆の懸念がより少なくなる。
【0010】
本発明の密封装置において、前記巻き部は、前記外輪部材の外周面よりも外径側に突出する突部を有しているものとしても良い。
本発明の密封装置によれば、外輪部材がナックルハウジングに内嵌支持される場合、突部が芯金の外向鍔部の外径側端部とナックルハウジングの内周面との間に圧縮状態で介在することになるから、外輪部材とナックルハウジングとの嵌合部への泥水等の浸入が防止される。したがって、外輪部材とナックルハウジングとの嵌合部の発錆等も防止される。
【0011】
本発明の密封装置において、前記芯金は、前記外向鍔部の外径側端部から軸方向に沿って車体側に延出された外径側円筒部を有し、前記シールリップ部材は前記外径側円筒部の延出端を回り込むよう当該外径側円筒部を覆い前記巻き部に連続するように形成されているものとしても良い。
本発明の密封装置によれば、外径側円筒部とこれを覆うシールリップ部材とが車体側に向け庇状に突出することになるから、外輪部材の車体側端部に対する泥水等のアタックがより効果的に防止され、外輪部材における車体側端部の発錆の抑制がより確実になされる。また、密封装置内への泥水等の実質的な浸入経路が長くなり、当該密封装置のシール機能がより効果的に発揮される。
【0012】
本発明の密封装置において、前記巻き部は、前記外向鍔部の外径側端部から軸方向に沿って車体側に向け延出された円筒状庇状部を有しているものとしても良い。
本発明の密封装置によれば、円筒状庇状部によって、外輪部材の車体側端部に対する泥水等のアタックがより効果的に防止され、外輪部材における車体側端部の発錆の抑制がより確実になされる。また、密封装置内への泥水等の実質的な浸入経路が長くなり、当該密封装置のシール機能がより効果的に発揮される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の密封装置によれば、自動車用ハブ軸受装置の外輪部材と内輪部材とにより形成される軸受空間の車体側部の密封が的確になされるとともに、外輪部材の車体側端部の発錆を効果的に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図1は、自動車の車輪(不図示)を軸回転可能に支持する自動車用ハブ軸受装置1を示す。この自動車用ハブ軸受装置1は、大略的に、外輪部材2と、ハブ輪3と、ハブ輪3の車体側に嵌合一体とされる内輪4と、外輪部材2とハブ輪3及び内輪4との間に介装される2列の転動体(ボール)6…とを含んで構成される。この例では、ハブ輪3及び内輪4が内輪部材5を構成する。外輪部材2は、自動車の車体(不図示)に固定される。また、ハブ輪3にはドライブシャフト7が同軸的にスプライン嵌合され、ドライブシャフト7は等速ジョイント8を介して不図示の駆動源(駆動伝達部)に連結される。ドライブシャフト7はナット9によって、ハブ輪3と一体化され、ハブ輪3のドライブシャフト7からの抜脱が防止されている。内輪部材5(ハブ輪3及び内輪4)は、外輪部材2に対して、軸L回りに同軸回転可能とされ、外輪部材2と、内輪部材5とにより、相対的に回転する2部材が構成され、該2部材間に環状空間Sが形成される。環状空間S内には、2列の転動体6…が、リテーナ6aに保持された状態で、外輪部材2の軌道輪2a、ハブ輪3及び内輪4の軌道輪3a,4aを転動可能に介装されている。ハブ輪3は、円筒形状のハブ輪本体30と、ハブ輪本体30より立上基部31を介して径方向外側に延出するよう形成されたハブフランジ32とを有し、ハブフランジ32にボルト33及び不図示のナットによって車輪が取付固定される。以下において、軸L方向に沿って車輪に向く側(
図1において左側を向く側)を車輪側、車体に向く側(同右側を向く側)を車体側と言う。
【0016】
環状空間Sは、軸受空間を形成し、この環状空間(以下、軸受空間と言う)Sの軸L方向に沿った両端部であって、外輪部材2及びハブ輪3(内輪部材5)間の隙間S0と、外輪部材2及び内輪4(内輪部材5)間の隙間S1には、ベアリングシール10,11がそれぞれ装着され、軸受空間Sの軸L方向に沿った両端部が密封される。これによって、軸受空間S内への泥水等の浸入や軸受空間S内に充填される潤滑剤(グリース等)の外部への漏出が防止される。図例のような自動車用ハブ軸受装置1の外輪部材2及び内輪部材5には、加工性等の点でステンレス鋼のような不錆性金属材が用いられることは少なく、一般に泥水等に晒されると錆び易い金属材が用いられる。
【0017】
ベアリングシール10,11のうち、車体側のベアリングシール11が本発明に係る密封装置に相当する。本発明に係る密封装置の実施の形態について、
図2〜
図8をも参照して説明する。
図2は本発明に係る密封装置の第一の実施形態を示し、本実施形態のベアリングシール(密封装置)11は、外輪部材2と内輪部材5とを有する軸受装置1に装着される。当該ベアリングシール11は、内輪部材5(内輪4)に外嵌されるスリンガ12と、外輪2に内嵌される芯金13と、芯金13に固着されたシールリップ部材14とが組み合わさって構成される。スリンガ12は、内輪4の外径面4bに外嵌される円筒部121と、円筒部121の車体側端部(一端部)121aから外径側に連成されたフランジ部122とを有している。シールリップ部材14は、スリンガ12におけるフランジ部122の車輪側面122aに弾接する2個のアキシャルリップ141,142と、円筒部121の外径面121bに弾接する1個のラジアルリップ143とを有している。アキシャルリップ141,142及びラジアルリップ143の2点鎖線で示す部分は、弾接に伴う弾性変形前の原形状を示している。芯金13は、外輪部材2の内径面2bに内嵌される芯金円筒部131と、芯金円筒部131の車輪側端部(一端部)131aから径方向内側に延出形成された内向鍔部132と、芯金円筒部の車体側端部(他端部)
131bから外輪部材2の車体側の端面2cを覆うように径方向外側に延出形成された外向鍔部133とを有している。
【0018】
シールリップ部材14はゴム材からなり、芯金13の後記する部位にシールリップ基部140を介して加硫成型により一体に固着される。シールリップ基部140は、芯金13における内向鍔部132の車輪側面132aの一部から内径側端部132bを回り込み車体側面132cの全体を覆うように芯金に固着一体とされる。シールリップ基部140は、さらに連続して、芯金円筒部131の内周面131cから外向鍔部133の車体側面133aを覆い、これに連続して、外向鍔部133の外径側端部133bを回り込むように芯金13に固着一体とされる。アキシャルリップ141,142及びラジアルリップ143は、このシールリップ基部140からそれぞれスリンガ12のフランジ部122及び円筒部121に向け延出されるよう環状に形成されている。また、シールリップ基部140の外径側端部(シールリップ部材14の端部)は、前記のように外向鍔部133の外径側端部133bを回り込んで、外向鍔部133の車輪側面133cに及んで一体に形成された巻き部144とされている。巻き部144における外向鍔部133の車輪側面133cに及ぶ回り込み部144aは、芯金13の外輪部材2に対する嵌合状態では、外向鍔部13の車輪側面133cと外輪部材2の車体側面2cとの間に圧縮状態で介在する。また、シールリップ基部140における外向鍔部133の車輪側面133aを覆う部分の表面140aには、図示を省略するが、当該ベアリングシール11の品番、製造元等の情報(不図示)が刻印される。このような刻印は、シールリップ部材14の芯金13に対する加硫成型の際に金型によって同時に附されるもので、以下で述べる他の実施形態のベアリングシール11にも適用可能である。
【0019】
本実施形態のベアリングシール11においては、スリンガ12におけるフランジ部122の車体側面122bに、磁性粉を含むゴム材からなる磁気エンコーダ15が、加硫接着により固着一体とされている。磁気エンコーダ15は、その車体側面15aに、周方向に沿って多数のN極、S極が交互に着磁されている。車体(不図示)には磁気センサ16が磁気エンコーダ15に対峙するよう設置され、磁気エンコーダ15の回転に伴う磁気変化を磁気センサ16により検出することにより、ドライブシャフト7(車輪)の回転検出機構が構成される。
【0020】
前記のように構成されるベアリングシール11が組み込まれた自動車用ハブ軸受装置1において、ドライブシャフト7が軸Lの回りに回転すると、内輪部材5は外輪部材2に対してドライブシャフト7と一体で同軸回転する。この時、アキシャルリップ141,142及びラジアルリップ143は、それぞれ、スリンガ12のフランジ部122及び円筒部121に弾接した状態で相対摺接する。したがって、軸受装置1の稼働中、外部からベアリングシール11を経て車体側からの軸受空間S内への泥水等の浸入が防止される。また、軸受空間S内に充填されている潤滑剤(グリース等)の車体側における軸受装置1外への漏出が防止される。そして、外輪部材2の車体側端面2cは、芯金13の外向鍔部133及びシールリップ部材14のシールリップ基部140によって覆われているから、泥水等のアタックを受けず、発錆の懸念がない。しかも、巻き部144の回り込み部144aが、外輪部材2の車体側端面2cと外向鍔部133の車輪側面133cとの間に圧縮状態で介在するから、外輪部材2の車体側端面2cと外向鍔部133の車輪側面133cとの間に泥水等が浸入することがない。加えて、巻き部144を含んでシールリップ基部140が芯金13に一体に固着されているから、高圧洗車による噴射水に晒されても巻き部144を含むシールリップ基部140がめくり上がり或いは破断することがなく、外輪部材2の車体側端面2cが芯金13及びシールリップ基部140によって覆われた状態に長く維持される。これによって、外輪部材2の車体側端面2cの発錆が抑制され、また、見栄えが低下することも抑制される。さらに、外輪部材2と芯金13との嵌合部に錆が進行することも抑制される。このように外輪部材2の車体側端面2cの発錆や前記嵌合部への錆の進行が抑制されることにより、錆びた部分が剥がれて飛散し、アキシャルリップ141,142等にダメージを与えるようなことも生じ難くなる。さらに、外向鍔部133が回り込み部144aを介して外輪部材2の車体側端面2cと密着することにより、外輪部材2と芯金13との間における泥水等の浸入経路が実質的に長くなり、この部分を経た軸受空間S内への錆の進行が遅くなる。
【0021】
本実施形態において、シールリップ基部140の最外径(巻き部144の外径)dと、外輪2の外径d1との関係が、d=d1±5mmとなるように設計されることが望ましい。また、外輪部材2の車体側端面2cと外向鍔部133の車輪側面133cとの間に介在する回り込み部144aの圧縮前の厚みd2は、0.30〜0.40mm程度に設定される。d2が0.30mmより小さい場合は、外輪部材2の荷重変形に伴い芯金13の外向鍔部133が外輪部材2の車体側端面2cから離れるように変形することがあり、そのため外輪部材2の車体側端面2cとの密着性が悪くなり、この部分のシール性が低下する傾向となるからである。また、d2が0.40mmより大きい場合、シールリップ基部140の前記表面140aに工具を宛がい、芯金13をシールリップ基部140とともに外輪部材2の内径面2bに圧入嵌合させる際、圧入力の一部が回り込み部144aに吸収され、圧入が充分になされなくことが懸念されるからである。さらに、シールリップ基部140における外向鍔部133の車体側面133aを覆う部分の厚みd3は、0.25〜0.80mm程度に設定される。d3が0.25mmより小さい場合は、前記圧入時にこの部分の外輪部材2の荷重変形に伴い、この部分のシールリップ基部140が破断する恐れが生じるからである。また、d3が0.80mmより大きい場合、前記圧入時に、圧入力の一部がシールリップ基部140に吸収され、圧入が充分になされなくことが懸念されるからである。
【0022】
図3は本発明に係る密封装置の第二の実施形態を示す。本実施形態のベアリングシール(密封装置)11では、芯金13における外向鍔部133が途中から外径側端部133bに至る薄肉部133dを有している。この薄肉部133dは車輪側面133cが車体側に凹むよう段差状に形成されている。シールリップ部材14における巻き部144の回り込み部144aは、この薄肉部133dと外輪部材2の車体側端面2cとの間に介在するよう形成され、さらに、回り込み部144aは外輪部材2の車体側端面2cに弾接する環状の突条部144bを車体側端面2cに対向するように有している。芯金13の外輪部材2に対する嵌合状態では、この突条部144bが回り込み部144aとともに外向鍔部133の薄肉部133dと外輪部材2の車体側端面2cとの間に圧縮状態で介在する。
図3における2点鎖線で示す突条部144bは、圧縮変形前の原形状を示す。また、この嵌合状態では、薄肉部133dを除く外向鍔部133の車輪側面133cは、外輪部材2の車体側端面2cに当接する。
【0023】
本実施形態のベアリングシール11においては、巻き部144の回り込み部144aと突条部144bとが、外向鍔部133の薄肉部133dと外輪部材2の車体側端面2cとの間に圧縮状態で介在することにより、外輪部材2の車体側端面2cが泥水等に晒されることがより確実に防止され、外輪部材2の車体側端面2cの発錆の懸念がより少なくなる。また、本実施形態においても、巻き部144を含んでシールリップ基部140が、芯金13に一体に固
着されているから、高圧洗車による噴射水に晒されても巻き部144を含むシールリップ基部140がめくり上がり或いは破断することがない。これによって、外輪部材2の車体側端面2cが芯金13及びシールリップ基部140によって覆われた状態に長く維持される。突条部144bにおける回り込み部144aから外輪部材2の車体側端面2c側への出幅(突出高さ)d4は、0.15〜0.25mmに設定される。d4が0.15mmより小さい場合、前記と同様に外輪部材2の荷重変形に伴い芯金13の外向鍔部133が外輪部材2の車体側端面2cから離れるように変形することがあり、そのため外輪部材2の車体側端面2cとの密着性が悪くなり、突条部144bによるシール性が低下する傾向となるからである。また、d4が0.25mmより大きい場合は、前記圧入時に、圧入力の一部が突条部144bに吸収され、圧入が充分になされなくことが懸念されるからである。
その他の構成は第一の実施形態と同様であるから、共通部分に同一の符号を付し、その作用・効果等の説明は割愛する。
【0024】
図4は本発明に係る密封装置の第三の実施形態を示す。本実施形態のベアリングシール(密封装置)11では、第二の実施形態と同様に、芯金13における外向鍔部133が途中から外径側端部133bに至る段差状の薄肉部133dを有している。また、シールリップ部材14における巻き部144の回り込み部144aは、この薄肉部133dと外輪部材2の車体側端面2cとの間に介在するよう形成されている。加えて、巻き部144は、外輪部材2の外周面2dよりも外径側に突出する環状の突部144cを有している。本実施形態のベアリングシール11における外輪部材2は、ナックルハウジング17に嵌合支持されるように構成されている。芯金13の外輪部材2に対する嵌合状態では、第二の実施形態と同様に、回り込み部144aが薄肉部133dと外輪部材2の車体側端面2cとの間に圧縮状態で介在するとともに、薄肉部133dを除く外向鍔部133の車輪側面133cは、外輪部材2の車体側端面2cに当接する。そして、この嵌合状態では、突部144cが、求心方向に圧縮された状態で、ナックルハウジング17の内径面17aと外向鍔部133の外径側端部133bとの間に圧縮状態で介在する。
図4における2点鎖線で示す突部144cは、圧縮変形前の原形状を示す。
【0025】
本実施形態のベアリングシール11においては、巻き部144の回り込み部144aが、薄肉部133dと外輪部材2の車体側端面2cとの間に圧縮状態で介在することにより、外輪部材2の車体側端面2cが泥水等に晒されることがより確実に防止され、外輪部材2の車体側端面2cの発錆の懸念がより少なくなる。また、突部144cが、求心方向に圧縮された状態で、ナックルハウジング17の内径面17aと外向鍔部133の外径側端部133bとの間に圧縮状態で介在するから、ナックルハウジング17の内径面17aと外輪部材2の外周面との間への泥水等の浸入が阻止される。さらに、本実施形態においても、巻き部144を含んでシールリップ基部140が、芯金13に一体に固
着されているから、高圧洗車による噴射水に晒されても巻き部144を含むシールリップ基部140がめくり上がり或いは破断することがない。これによって、外輪部材2の車体側端面2cが芯金13及びシールリップ基部140によって覆われた状態に長く維持される。
その他の構成は第一及び第二の実施形態と同様であるから、共通部分に同一の符号を付し、その作用・効果等の説明は割愛する。
【0026】
図5は、本発明に係る密封装置の第四の実施形態を示す。本実施形態のベアリングシール(密封装置)11では、第一の実施形態のベアリングシール11に加えて、芯金13が、外向鍔部13の外径側端部133bから軸L方向に沿って車体側に延出された外径側円筒部134を有している。シールリップ部材14は外径側円筒部134の延出端134aを回り込むよう当該外径側円筒部134を覆い、巻き部144に連続するように形成されている。シールリップ部材14における外向鍔部133の車体側面133aから外径側円筒部134の延出端134aを覆う部分は厚肉とされ、その表面は車体側に向け漸次拡径するテーパ形状部140bとされている。さらに、シールリップ部材14は、スリンガ12における円筒部121の外径面121bに弾接するもう1個のラジアルリップ145を有している。2個のラジアルリップ143,145は、その先端部が互いに逆方向に向くように形成されている。
【0027】
本実施形態のベアリングシール11においては、ラジアルリップ143,145が2個あることにより、軸受空間S内への泥水等の浸入及び軸受空間S内に充填された潤滑剤の漏出等の防止機能がより強化される。また、外向鍔部13の外径側端部133bから軸L方向に沿って車体側に延出された外径側円筒部134を有し、シールリップ部材14がこの外径側円筒部134の全面に固着一体に覆われているから、外部からのベアリングシール11内への泥水等の浸入防止がより効果的になされる。特に、庇状に延出された外径側円筒部134とこれを覆うシールリップ部材14とにより、実質的に泥水等の浸入経路が長くなり、ベアリングシール11内への泥水等の浸入防止効果が高められる。さらに、テーパ形状部140bに付着した泥水等は、テーパ形状部140bを伝って流下するとともに車体側に向かって流れ、そのまま軸受装置1外に排出されるから、ベアリングシール11内へ浸入しようとする泥水等の量が少なくなる。そして、巻き部144の回り込み部144aが、外向鍔部133の車輪側端面133cと外輪部材2の車体側端面2cとの間に圧縮状態で介在することとにより、外輪部材2の車体側端面2cが泥水等に晒されることがより確実に防止され、外輪部材2の車体側端面2cの発錆の懸念がより少なくなる。本実施形態においても、巻き部144を含んでシールリップ基部140が、芯金13に一体に固
着されているから、高圧洗車による噴射水に晒されても巻き部144を含むシールリップ基部140がめくり上がり或いは破断することがない。これによって、外輪部材2の車体側端面2cが芯金13及びシールリップ基部140によって覆われた状態に長く維持される。
その他の構成は第一の実施形態と同様であるから、共通部分に同一の符号を付し、ここでもその作用・効果等の説明は割愛する。
【0028】
図6は、本発明に係る密封装置の第五の実施形態を示す。本実施形態のベアリングシール(密封装置)11では、第一の実施形態のベアリングシール11に加えて、巻き部144が、芯金13における外向鍔部133の外径側端部133bから軸L方向に沿って車体側に向け延出された円筒状庇状部146を有している。また、シールリップ部材14は、第四の実施形態と同様に、2個のラジアルリップ143,145を有している。さらに、スリンガ12が、フランジ部122の外径側端部122cから車体側に延びる第2円筒部123と、この第2円筒部123の車体側端部123aから外径側に延びる第2フランジ部124とを有している。加えて、シールリップ基部140は、外向鍔部133の車体側面133aを覆う部分から車体側に延びて第2フランジ部124の車輪側面124aに弾接するリップ部147を有している。
【0029】
本実施形態のベアリングシール11においては、ラジアルリップ143,145が2個あることにより、第四の実施形態と同様に、軸受空間S内への泥水等の浸入及び軸受空間S内に充填された潤滑剤の漏出等の防止機能がより強化される。そして、巻き部144が、軸L方向に沿って車体側に向け延出された円筒状庇状部146を有していることにより、実質的な泥水等の浸入経路が長くなり、これによって、外部からのベアリングシール11内への泥水等の浸入防止がより効果的になされる。さらに、シールリップ基部140が、第2フランジ部124の車輪側面124aに弾接するリップ部147を有していることにより、ベアリングシール11内への泥水等の浸入がより確実に防止される。本実施形態においても、円筒状庇状部146を有する巻き部144を含んでシールリップ基部140が、芯金13に一体に固
着されているから、高圧洗車による噴射水に晒されても巻き部144を含むシールリップ基部140がめくり上がり或いは破断することがない。これによって、外輪部材2の車体側端面2cが芯金13及びシールリップ基部140によって覆われた状態に長く維持される。
その他の構成は第一及び第四の実施形態と同様であるから、共通部分に同一の符号を付し、ここでもその作用・効果等の説明は割愛する。
【0030】
図7は、第一の実施形態の変形例を示す。この例のベアリングシール(密封装置)11では、シールリップ基部140における外向鍔部133の車体側面133aを覆う部分が、芯金円筒部131の他端部131bから外径側に向け厚肉部148とされている。この厚肉部148の表面は、その途中から車輪側に向け漸次拡径するテーパ形状部140cとされている。このようなテーパ形状部140cを有することにより、当該テーパ形状部140cに付着した泥水等は、ベアリングシール11内に流入することなく、テーパ形状部140cを伝って流下し軸受装置1外に排出されるので、軸受空間S内への泥水等の浸入防止が効果的になされる。
その他の構成は第一及の実施形態と同様であるから、共通部分に同一の符号を付し、ここでもその作用・効果等の説明は割愛する。
【0031】
図8は、第一の実施形態の別の変形例を示す。この例のベアリングシール(密封装置)11では、第一の実施形態における磁気エンコーダ15を有さず、したがって、
図1に示すような磁気センサ16が車体側に設置されず、ドライブシャフト7(車輪)の回転検出機構を構成するものではない。本実施形態のベアリングシール11のその他の構成は第一の実施形態と同様であり、したがって、第一の実施形態のベアリングシール11と同様の機能を奏する。第二〜第五の実施形態のベアリングシール11においても、磁気エンコーダを有さないものを変形例として採用することはもとより可能である。したがって、これら変形例も対応する実施形態と同様の機能を奏する。
【0032】
なお、前記実施形態における芯金13及びこれに固着されるシールリップ部材14の形態は図例のものに限定されず、外輪部材2の車体側端面2cを覆うように構成されるものであれば、他の形態も採用可能である。また、アキシャルリップ、ラジアルリップの数も、例示のものに限定されず、求められる密封性等に応じて、適宜設計的に選択採用される。さらに、スリンガ12の形態も、内輪部材5に嵌合される円筒部121及び円筒部121の一端部から連成されるフランジ部122を有するものであれば、他の形態も採用可能である。さらに、本発明に係る密封装置が適用される自動車用ハブ軸受装置1も、
図1に示した形態のものに限らず、他の形態の自動車用ハブ軸受装置であっても良い。加えて、
図1では、駆動輪用の軸受装置を示しているが、従動輪用の軸受装置であっても良い。