(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6586280
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】超音波探傷子、超音波探傷装置及び超音波探傷方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/24 20060101AFI20190919BHJP
G01N 29/265 20060101ALI20190919BHJP
G01N 29/28 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
G01N29/24
G01N29/265
G01N29/28
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-64972(P2015-64972)
(22)【出願日】2015年3月26日
(65)【公開番号】特開2016-183926(P2016-183926A)
(43)【公開日】2016年10月20日
【審査請求日】2018年2月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】川浪 精一
(72)【発明者】
【氏名】清水 正嗣
(72)【発明者】
【氏名】松本 真太郎
【審査官】
佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−229064(JP,A)
【文献】
特開2010−223608(JP,A)
【文献】
特開平08−201569(JP,A)
【文献】
特開平07−301588(JP,A)
【文献】
特開平02−120659(JP,A)
【文献】
特開2005−233874(JP,A)
【文献】
特開平01−097856(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0235749(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01N 29/00−29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1配管と第2配管との配管溶接部の損傷部を探傷する超音波探傷子であって、
前記配管溶接部に向けて超高周波超音波を発振する超音波振動子と、
前記配管溶接部との接触面に配置され、前記配管溶接部に前記超高周波超音波を伝搬させる遅延材とを具備し、
前記遅延材が、石英ガラスからなり、
前記超高周波超音波の波長が、20MHz以上であり、
損傷率が50%〜70%となるクリープ損傷中期から後期に至る初期の密集ボイドによるクリープ損傷を検出することを特徴とする、超音波探傷子。
【請求項2】
前記超音波振動子は、前記配管溶接部に向けて超高周波超音波を発振して送信波として送信する送信用超音波振動子と、前記配管溶接部で反射された前記送信波を受信波として受信する受信用超音波振動子とを含む、請求項1に記載の超音波探傷子。
【請求項3】
前記遅延材は、前記配管溶接部との接触面に対する所定の傾斜角度の第1傾斜面を有する第1遅延材と、前記第1遅延材の第1傾斜面に対する交差する傾斜角度の第2傾斜面を有する第2遅延材と、を含み、
前記送信用超音波振動子は、前記第1遅延材の第1傾斜面に略直交する方向に前記送信波を送信し、前記受信用超音波振動子は、前記第2傾斜面に略直交する方向から前記受信波を受信する、請求項2に記載の超音波探傷子。
【請求項4】
前記超音波振動子は、前記配管溶接部に対する方向に向けて反った形状を有する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の超音波探傷子。
【請求項5】
直径が5mm以下である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の超音波探傷子。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の超音波探傷子と、
前記超音波探傷子の所定方向に移動させる移動制御部と、
前記超音波探傷子の位置情報を取得する位置情報取得部と、
前記超音波探傷子によって受信した受信信号を取得し、取得した前記受信信号に基づいて前記配管溶接部の損傷部を特定する信号処理部と、を具備し、
前記信号処理部は、前記位置情報取得部によって取得された所定時間毎の前記超音波探傷子の位置情報及び前記所定時間毎に前記超音波探傷子から取得された前記受信信号に基づいて、前記配管溶接部の損傷部からの伝搬時間に応じて前記受信信号を揃えて合成する開口合成処理により、前記受信信号を増幅して前記損傷部を特定することを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項7】
第1配管及び第2配管との配管溶接部を移動する請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の超音波探傷子の所定時間毎の位置情報、及び前記所定時間毎に前記超音波探傷子で前記配管溶接部から受信した受信信号を取得するステップと、
取得した前記位置情報及び前記受信信号に基づいて、前記配管溶接部の損傷部からの伝搬時間に応じて前記受信信号を揃えて合成する開口合成処理により、前記受信信号を増幅して前記損傷部を特定するステップとを含むことを特徴とする超音波探傷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探傷子、超音波探傷装置及び超音波探傷方法に関し、例えば、火力発電所などで用いられる高クロム鋼配管などのクリープ損傷の原因となるボイドを好適に検出可能な超音波探傷子、超音波探傷装置及び超音波探傷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、非線形超音波(UT)による火力発電所のボイラ配管の溶接部のクリープ損傷評価方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。このクリープ損傷評価方法では、所定の送信周波数の送信波を検査対象となるボイラ配管に送信し、ボイラ配管からの受信波に対して周波数フィルタにより高調波及び分調波を検出する。これにより、従来よりボイラ配管のクリープ損傷による直径数μmから数10μmのボイドの検出に用いられているフェーズドアレイ超音波よりも高い精度でボイドの検出が可能となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】非破壊検査:journal of N.D.I 58(9), 397-402, 2009-09-01
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1に記載のクリープ損傷評価方法では、受信波の高調波及び分調波を検出するので、受信波の中心周波数に対して受信信号の信号レベルが弱くなる場合がある。そのため、従来のクリープ損傷評価方法では、ボイラ配管を切断して配管断面で検査を行う必要があり、ボイラ配管の外側からの非破壊検査でも高い精度でクリープ損傷を検出できる技術が望まれている。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、配管溶接部のクリープ損傷を非破壊検査により高精度で検出可能な超音波探傷子、超音波探傷装置及び超音波探傷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の超音波探傷子は、第1配管及び第2配管との配管溶接部の超音波探傷子であって、前記配管溶接部に向けて超高周波超音波を発振する超音波振動子と、前記配管溶接部との接触面に配置され、前記配管溶接部に前記超高周波超音波を伝搬させる遅延材とを具備することを特徴とする。
【0007】
この超音波探傷子によれば、超音波振動子から発振された超高周波超音波を遅延材を介して減衰して配管溶接部の損傷部に送信するので、配管溶接部の表面での超高周波超音波の反射を低減できるので、ボイラ配管を破壊することなく、通常の超音波検査では検出が困難な損傷率が50%〜70%となるクリープ損傷中期から後期に至る初期の密集ボイドによるクリープ損傷の検出が可能となる。この結果、超音波探傷子は、高クロム鋼配管で重要となるクリープ損傷による漏洩及び噴破の防止可能となり、非破壊検査により早い段階で損傷を検出することが可能となる。
【0008】
本発明の超音波探傷子においては、前記超音波振動子は、前記配管溶接部に向けて超高周波超音波を発振して送信波として送信する送信用超音波振動子と、前記配管溶接部で反射された前記送信波を受信波として受信する受信用超音波振動子とを含むことが好ましい。この構成により、超音波探傷子は、送信と受信とを異なる超音波振動子で行うので、損傷部の検出精度が向上する。
【0009】
本発明の超音波探傷子においては、前記遅延材は、前記配管溶接部との接触面に対する所定の傾斜角度の第1傾斜面を有する第1遅延材と、前記第1遅延材の第1傾斜面に対する交差する傾斜角度の第2傾斜面を有する第2遅延材と、を含み、前記送信用超音波振動子は、前記第1遅延材の第1傾斜面に略直交する方向に前記送信波を送信し、前記受信用超音波振動子は、前記第2傾斜面に略直交する方向から前記受信波を受信することが好ましい。この構成により、超音波探傷子は、配管溶接部の表面における超高周波超音波の表面反射を低減することが可能となるので、配管溶接部における超音波探傷子の直下の領域の検査不可能領域を低減することが可能となる。
【0010】
本発明の超音波探傷子においては、前記超音波振動子は、前記配管溶接部に対する方向に向けて反った形状を有することが好ましい。この構成により、超音波振動子は、超高周波超音波が拡散されて配管溶接部に向けて送信されるので、開口合成処理の精度が向上する。
【0011】
本発明の超音波探傷子においては、前記遅延材が、樹脂材料からなることが好ましい。この構成により、遅延材の減衰率が小さくなるので、透過前後の超高周波超音波の高周波成分が保たれ、クリープ損傷の検出精度が向上する。
【0012】
本発明の超音波探傷子においては、前記遅延材が、石英ガラスからなることが好ましい。この構成により、遅延材の減衰率が小さくなるので、透過前後の超高周波超音波の高周波成分が保たれ、配管溶接部のクリープ損傷の中期から後期に至る損傷率が50%以上70%以下の初期の密集ボイドによるクリープ損傷の検出が可能となる。
【0013】
本発明の超音波探傷子においては、前記超高周波超音波の波長が、20MHz以上であることが好ましい。この構成により、超音波探傷子は、配管溶接部内に送信される超高周波超音波の分解能が向上するので、配管溶接部内の微小ボイドを検出でき、高い精度でクリープ損傷を検出することが可能となる。
【0014】
本発明の超音波探傷子においては、直径が5mm以下であることが好ましい。この構成により、超音波探傷子は、配管接合部の表面への追従性が良くなるので、検出精度が向上する。
【0015】
本発明の超音波探傷装置は、上記超音波探傷子と、前記超音波探傷子の所定方向に移動させる移動制御部と、前記超音波探傷子の位置情報を取得する位置情報取得部と、前記超音波探傷子によって受信した受信信号を取得し、取得した前記受信信号に基づいて前記配管溶接部の損傷部を特定する信号処理部と、を具備し、前記信号処理部は、前記位置情報取得部によって取得された所定時間毎の前記超音波探傷子の位置情報及び前記所定時間毎に前記超音波探傷子から取得された前記受信信号に基づいて、前記配管溶接部の損傷部からの伝搬時間に応じて前記受信信号を揃えて合成する開口合成処理により、前記受信信号を増幅して前記損傷部を特定することを特徴とする。
【0016】
この超音波探傷装置によれば、超音波振動子から発振された超高周波超音波を遅延材を介して減衰して配管溶接部の損傷部に送信するので、配管溶接部の表面での超高周波超音波の反射を低減できるので、ボイラ配管を破壊することなく、通常の超音波検査では検出が困難な損傷率が50%〜70%となるクリープ損傷中期から後期に至る初期の密集ボイドによるクリープ損傷の検出が可能となる。しかも、信号処理部が損傷部からの伝搬時間に応じて受信信号を揃えて合成するので、超音波探傷子を小型化した場合であっても、高い分解能を得ることが可能となる。これらの結果、超音波探傷装置は、高クロム鋼配管で重要となるクリープ損傷による漏洩及び噴破の防止可能となり、非破壊検査により早い段階で損傷を検出することが可能となる。
【0017】
本発明の超音波探傷方法は、第1配管及び第2配管との配管溶接部を移動する上記超音波探傷子の所定時間毎の位置情報、及び前記所定時間毎に前記超音波探傷子で前記配管溶接部から受信した受信信号を取得するステップと、取得した前記位置情報及び前記受信信号に基づいて、前記配管溶接部の損傷部からの伝搬時間に応じて前記受信信号を揃えて合成する開口合成処理により、前記受信信号を増幅して前記損傷部を特定するステップとを含むことを特徴とする。
【0018】
この超音波探傷方法によれば、超音波探傷子によって受信した損傷部からの反射波の伝搬時間に応じて受信信号を揃えて合成するので、超音波探傷子を小型化した場合であっても、高い分解能を得ることが可能となる。これらの結果、超音波探傷方法は、高クロム鋼配管で重要となるクリープ損傷による漏洩及び噴破の防止可能となり、非破壊検査により早い段階で損傷を検出することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、配管溶接部のクリープ損傷を非破壊検査により高精度で検出可能な超音波探傷子、超音波探傷装置及び超音波探傷方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の一実施の形態に係る超音波探傷子の模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施の形態に係る超音波探傷子によるクリープ損傷の検出の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施の形態に係る超音波振動子の他の例を示す図である。
【
図4A】
図4Aは、遅延材を透過前の広帯域の超高周波超音波の周波数と信号強度との関係を示す図である。
【
図4B】
図4Bは、遅延材を透過後の広帯域の超高周波超音波の周波数と信号強度との関係を示す図である。
【
図5】
図5は、狭帯域の超高周波超音波Uの周波数と信号強度との関係を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施の形態に係る超音波探傷子の他の例を示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の一実施の形態に係る超音波探傷装置の概略図である。
【
図8】
図8は、本発明の一実施の形態に係る超音波探傷装置の信号処理部における開口合成処理の原理説明図である。
【
図9】
図9は、本発明の一実施の形態に係る超音波探傷装置の信号処理部による開口合成処理の説明図である。
【
図10】
図10は、本発明の一実施の形態に係る超音波探傷装置の信号処理部による開口合成処理の説明図である。
【
図11】
図11は、本発明の一実施の形態に係る超音波探傷装置の信号処理部による開口合成処理の説明図である。
【
図12】
図12は、本発明の一実施の形態に係る超音波探傷装置の信号処理部による開口合成処理の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の各実施の形態に限定されるものではなく、適宜変更して実施可能である。また、以下の各実施の形態は適宜組み合わせて実施可能である。また、各実施の形態において共通する構成要素には同一の符号を付し、説明の重複を避ける。
【0022】
図1は、本発明の一実施の形態に係る超音波探傷子1の一例を示す模式図である。
図1に示すように、本実施の形態に係る超音波探傷子1は、検査対象となる火力発電用プラントのボイラ配管及び化学プラントの熱交換器用配管などにおける9Cr鋼や12Cr鋼などの高クロム鋼第1配管Aと第2配管Bとの配管溶接部Cにおけるクリープ損傷によるボイドの検出に用いられるものである。この超音波探傷子1は、配管溶接部Cに向けて超高周波超音波を発振する超音波振動子11と、配管溶接部Cとの接触面1aに配置され、配管溶接部Cに向けて超高周波超音波Uを伝搬させる遅延材12とを具備する。
【0023】
図2は、超音波探傷子1によるクリープ損傷の検出の一例を示す図である。
図2に示すように、超音波探傷子1は、接触面1aを配管溶接部Cに直接接触させて移動させながら超高周波超音波Uを順次送信することにより、配管溶接部C内のクリープ損傷を検出する。この超音波探傷子1は、例えば、直径dが5mm以下である。このように、超音波探傷子1を小型化することにより、配管接合部Cの表面への追従性が良くなるので、検出精度が向上する。また、詳細については後述する超音波探傷子1を用いた配管溶接部Cからの受信信号の開口合成処理を容易に行うことも可能となる。
【0024】
超音波振動子11は、遅延材12上に配置され、超高周波超音波Uを発振して配管溶接部Cに向けて送信する。また、超音波振動子11は、配管溶接部C内のボイドなどの損傷部Dによって反射された超高周波超音波Uを受信する。本実施の形態では、超音波振動子11は、波長が20MHz以上の超高周波超音波を配管溶接部Cに向けて送信する。このように、短波長の超高周波超音波を用いることにより、配管溶接部C内に送信される超高周波超音波Uの分解能が向上するので、配管溶接部C内の微小ボイドを検出でき、高い精度でクリープ損傷を検出することが可能となる。なお、超高周波超音波Uの波長は、配管溶接部C内の微小ボイドが検出できればよく、必ずしも20MHz以上に制限されるものではない。
【0025】
図3は、本実施の形態に係る超音波振動子1の他の例を示す模式図である。
図3に示すように、
図3に示す超音波振動子11Aは、配管溶接部Cとの接触面1aに対する方向に反った形状を有する。このように、超音波振動子11Aに曲率を持たせることにより、超高周波超音波Uが拡散されて配管溶接部Cに向けて送信されるので、詳細については後述する開口合成処理の精度が向上する。
【0026】
遅延材12は、超音波振動子11から送信された超高周波超音波Uを減衰して伝搬し、超音波探傷子1と配管溶接部Cとの接触面Caで反射される反射波URを低減する。遅延材12としては、接触面Caにおける反射波URを低減できるものであれば特に制限はなく、例えば、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂及びポリエーテルアミド樹脂などの樹脂材料、石英ガラスなどの各種ガラスを用いることができる。これらの中でも、遅延材12としては、減衰率が高く、超高周波超音波Uを適正な周波数に減衰できる観点から、石英ガラスが好ましい。石英ガラスを用いることにより、遅延材12の透過前後の超高周波超音波Uの高周波成分が保たれるので、配管溶接部Cのクリープ損傷の中期から後期に至る損傷率が50%以上70%以下の初期の密集ボイドによるクリープ損傷の検出が可能となる。
【0027】
図4Aは、遅延材12を透過前の広帯域の超高周波超音波Uの周波数と信号強度との関係を示す図であり、
図4Bは、遅延材12を透過後の広帯域の超高周波超音波Uの周波数と信号強度との関係を示す図であり、
図5は、狭帯域の超高周波超音波Uの周波数と信号強度との関係を示す図である。
【0028】
図4A及び
図4Bに示すように、広帯域(例えば、周波数の70%以上)の超高周波超音波Uは、遅延材12内で減衰されて遅延材12の透過前後で中心周波数が低周波数側にシフトする。このため、超音波振動子11として発振する超高周波超音波Uの帯域幅が広い圧電素子を用いた場合には、超音波探傷子1から配管溶接部Cに向けて送信される超高周波超音波Uの中心周波数は、圧電素子から発振される超高周波超音波Uの中心周波数より低くなる。このため、超音波振動子11としては、
図5に示すように、発振される超高周波超音波Uが狭帯域(例えば、周波数の50%以下)の圧電素子を用いることが好ましい。これにより、遅延材12の透過前後での超高周波超音波Uの減衰に伴う中心周波数の低周波数へのシフトを防ぐことができるので、配管溶接部C内のボイドを効率良く検出することができる。このような圧電素子としては、例えば、PZT(チタンジルコン酸鉛)及びPVDF(ポリフッ化ビニリデン)などの高周波用のものが挙げられる。なお、超高周波超音波Uの圧電素子として広帯域の圧電素子を用いる場合には、圧電素子に共振周波数を高周波成分のみとする空芯コイルを接続してもよい。
【0029】
図6は、本実施の形態に係る超音波探傷子の他の例を示す図である。
図6に示すように、本実施の形態に係る超音波探傷子2は、配管接合部Cに向けて超高周波超音波Uを送信する送信部2Aと、送信部2Aから送信されて配管接合部Cの損傷部Dで反射された超高周波超音波Uの反射波URを受信する受信部2Bとを有する。
【0030】
送信部2Aは、配管溶接部Cに向けて超高周波超音波Uを発振して送信波として送信する送信用超音波振動子21Aと、配管溶接部Cとの接触面1aに対する所定の傾斜角度θ1の第1傾斜面22Aaを有する第1遅延材22Aと、を有する。送信用超音波振動子21A及び第1遅延材22Aとしては、上述した超音波振動子11及び遅延材12と同様のものを用いることができる。
【0031】
受信部2Bは、送信用超音波振動子21Aから送信され、配管溶接部Cで反射された送信波を受信波として受信する受信用超音波振動子21Bと、配管溶接部Cとの接触面1aに対する所定の傾斜角度θ2の第2傾斜面22Baを有する第2遅延材22Bとを有する。第2傾斜面22Baは、第1遅延材22Aの第1傾斜面22Aaに対して交差する傾斜角度θ2を有する。受信用超音波振動子21B及び第2遅延材22Bとしては、上述した超音波振動子11及び遅延材12と同様のものを用いることができる。
【0032】
このように、送信用超音波振動子21Aから超高周波超音波Uを配管溶接部Cとの接触面1aから斜めに配管溶接部Cに送信することにより、配管溶接部Cの表面における超高周波超音波Uの表面反射を低減することが可能となるので、配管溶接部Cにおける超音波探傷子2の直下の領域の検査不可能領域を低減することが可能となる。
【0033】
以上説明したように、上記実施の形態によれば、超音波振動子11から発振された超高周波超音波Uを遅延材12を介して減衰して配管溶接部Cの損傷部Dに送信する。これにより、超音波探傷子1は、水浸法を用いる場合と比較して配管溶接部Cの表面での超高周波超音波Uの反射を低減できるので、ボイラ配管を破壊することなく、通常の超音波検査では検出が困難な損傷率が50%〜70%となるクリープ損傷中期から後期に至る初期の密集ボイドによるクリープ損傷の検出が可能となる。この結果、高クロム鋼配管で重要となるクリープ損傷による漏洩及び噴破の防止可能となり、非破壊検査により早い段階で損傷を検出することが可能となる。
【0034】
次に、上記実施の形態に係る超音波探傷子1を備えた超音波探傷装置30について説明する。
図7は、本実施の形態に係る超音波探傷装置30の概略図である。
図7に示すように、超音波探傷装置30は、リング状ガイドレール31に接続された上記実施の形態に係る超音波探傷子1と、超音波探傷子1の位置情報を取得する位置情報取得部32と、超音波探傷子1を所定方向に移動させる移動制御部33と、超音波探傷子1によって受信された配管溶接部Cで反射された超高周波超音波Uの受信信号を取得し、取得した受信信号を信号処理して配管溶接部Cの損傷部Dを特定する信号処理部34と、信号処理部34で処理された結果に基づいて配管溶接部Cにおける損傷部Dの位置を表示する表示部35とを備える。
【0035】
位置情報取得部32は、超音波探傷子1の内部に設置された位置センサに基づいて超音波探傷子1の配管接続部Cにおける位置情報を取得する。また、位置情報取得部32は、取得した超音波探傷子1の位置情報を移動制御部33及び信号制御部34に出力する。
【0036】
移動制御部33は、位置情報取得部32から入力された超音波探傷子1の位置情報に基づいて、超音波探傷子1の配管接続部Cにおける周方向及び径方向の移動量を算出し、算出した移動量に基づいて超音波探傷子1の移動を制御する。移動量制御部33は、算出した超音波探傷子1の移動量に基づいて、リング状ガイドレール31を介して超音波探傷子1の移動を制御する。
【0037】
信号処理部34は、位置情報取得部32によって取得された所定時間毎の超音波探傷子1の位置情報と、所定時間毎に超音波探傷子1から取得された受信信号とに基づいて、配管溶接部Cの損傷部Dからの伝搬時間に応じて受信信号を揃えて合成する開口合成処理により、受信信号を増幅して損傷部Dを特定する。
【0038】
図8は、信号処理部34における開口合成処理の原理説明図である。
図8に示すように、開口合成処理では、信号処理部34は、超音波探傷子1が配管溶接部Cを移動しながら走査して得られた複数箇所の反射波UR
1UR
2・・・UR
iから算出された損傷部Dに基づく受信信号S
1S
2・・・S
iの位相を調整した後、合成処理することにより、損傷部Dに基づく信号が増幅された増幅信号Sを得る。これにより、超音波振動子の直径を小型化して超音波探傷子1を小型化した場合であっても、複数の超音波探傷子1の増幅信号Sを得ることにより、直径が大きな超音波振動子を備えた超音波探傷子1と同等の分解能を得ることが可能となる。
【0039】
次に、
図9から
図12を参照して、信号処理部34による開口合成処理について詳細に説明する。
図9から
図12は、信号処理部34による開口合成処理の説明図である。
図9に示すように、まず、信号処理部34は、超音波探傷子1の配管処理部Cの各地点X
1X
2・・・X
iにおける移動距離(X
1−X
i)をそれぞれ算出する。次に、信号処理部34は、各地点X
1X
2・・・X
iにおける超高周波超音波Uの反射源である損傷部Dとの間の超高周波超音波Uの伝搬時間t
1t
2・・・t
iをそれぞれ算出する。
【0040】
図10に示すように、次に、信号処理部34は、測定開始地点から各地点X
1X
2・・・X
iまでの移動距離と、各地点X
1X
2・・・X
iから損傷部Dまでの伝搬時間t
1t
2・・・t
iに基づいて、各地点X
1X
2・・・X
iから損傷部Dまでの伝搬時間t
1t
2・・・t
iに応じてそれぞれ位相が異なる受信信号S
1S
2・・・S
iを算出する。
【0041】
図11に示すように、次に、信号処理部34は、相互に損傷部Dまでの信号強度の位相が異なる各地点X
1X
2・・・X
iにおける受信信号S
1S
2・・・S
iについて、伝搬時間t
1t
2・・・t
iを所定時間tに変換して各地点X
1X
2・・・X
iにおける受信信号S
1S
2・・・S
iの位相を揃える。
【0042】
次に、信号処理部34は、各地点X
1X
2・・・X
iにおける受信信号S
1S
2・・・S
iを合成して所定地点Xnの受信信号Sとする。これにより、
図12に示すように、地点X
1X
2・・・X
iでそれぞれ検出された受信信号S
1S
2・・・S
iに含まれる損傷部Dに基づく信号強度を増幅して分解能を向上させることが可能となる。
【0043】
開口合成処理における超音波探傷子1からの受信信号の採取間隔(ピッチ)は、配管溶接部Cに向けて送信する超高周波超音波Uの波長以下(例えば、超高周波超音波の波長が20MHzの場合には、0.3mmの移動毎)とすることが好ましい。これにより、開口合成処理における受信信号の合成処理時に1波長分のズレによる重ね合せの誤差(ゴーストエコー)を防ぐことが可能となる。
【符号の説明】
【0044】
1 超音波探傷子
11,11A,21A,21B 超音波振動子
12,22A,22B 遅延材
30 超音波探傷装置
31 リング状ガイドレール
32 位置情報取得部
33 移動制御部
34 信号処理部
35 表示部
A 第1配管
B 第2配管
C 配管溶接部
D 損傷部