(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記本体と、前記蓋体との間には、所定の間隔を存して内側メタルパッキンと外側メタルパッキンとを備え、当該内側メタルパッキンと外側メタルパッキンの間を真空、又は、これらメタルパッキン間に不活性ガスを充填する請求項7又は請求項8に記載のマグネシウム精製装置。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体素子の製造においては、高純度材料の需要が高まっている。例えば、青色レーザーダイオード等の半導体素子の製造には、材料として用いるマグネシウム金属材料に含まれる不純物の量が品質に大きく影響するため、高純度のマグネシウム金属が必要となる。マグネシウム金属材料に含まれる不純物は、一般に、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、硫黄(S)、リン(P)、アルミニウム(Al)、塩素(Cl)、ナトリウム(Na)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、カルシウム(Ca)、アンチモン(Sb)、カリウム(K)、フッ素(F)、ヒ素(As)、クロム(Cr)、銀(Ag)、ビスマス(Bi)、ガリウム(Ga)、リチウム(Li)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、ホウ素(B)が含まれている。これ以外にもマグネシウム金属材料には、亜鉛(Zn)が含まれているが、当該マグネシウム金属材料を半導体材料として用いる場合には、100ppm以下の亜鉛は、使用に問題とされないため、100ppm以下の亜鉛は、不純物として扱われないことが多い。
【0003】
マグネシウム金属材料に含まれる不純物を低減し、マグネシウム金属の高純度化を図るため、従来では、種々のマグネシウム精製方法が採用されていた。マグネシウム精製方法には、例えば、ゾーンメルティング法や、電気精錬法、熱還元法、蒸留法などを挙げることができる。
【0004】
例えば、特許文献1には、「マグネシウム原料を真空蒸留してマグネシウムを精製する方法であって、原料るつぼに装入された原料マグネシウムを温度600〜800℃、真空度1×10
−2〜1×10
−3Torrで真空蒸留することにより、蒸発させたマグネシウムを該原料るつぼ上方で凝縮させ該原料るつぼ下方の回収鋳型に回収してインゴットとし、さらに前記凝縮後のガスを該回収鋳型の下方で冷却して固化することを特徴とするマグネシウムの精製方法」が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、「真空雰囲気中において、原料るつぼ内の原料マグネシウムを加熱しマグネシウムの蒸気を発生させる第1工程、該蒸気と通気孔が穿設され複数枚重設された凝縮用通気路板によって形成された凝縮用通気路内に導き該蒸気の一部を凝縮させ不純物含有量が高濃度の凝縮溶体を生成させる第2工程、該凝縮用通気路を通過した該蒸気を固化用るつぼ内に導き冷却し該蒸気中から高純度のマグネシウムを固化させる第3工程及び前記凝縮溶体を前記原料るつぼ内に繰り返す第4工程を有することを特徴とする金属精製方法」が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示されたマグネシウムを精製する方法では、いずれも原料マグネシウムが収容された原料るつぼをヒーター(電気炉)で加熱し、マグネシウムの蒸気を発生させる。この際、原料マグネシウムは、ヒーターにより加熱された原料るつぼからの熱伝導と一部の輻射熱とにより加熱されるため、当該原料マグネシウムを設定温度にまで加熱するために、多大な時間を要し、精製効率が悪いという問題がある。
【0008】
また、ヒーターにより外部から原料るつぼの内方に向けて熱を伝導させて加熱する方法では、当該原料るつぼ内の原料マグネシウムを均一に加熱することが困難であり、局所的に設定温度よりも高く加熱される場合がある。この場合、マグネシウム以外にも原料マグネシウムに含まれていた不純物も蒸発し、原料るつぼ上方で凝縮させたマグネシウムに当該不純物が混入する場合がある。
【0009】
さらには、上述したような特許文献1及び特許文献2では、精製により得られた高純度マグネシウムは、回収鋳型や固化用るつぼ内に収容される。ゆえに、精製マグネシウムを取り出す際に不純物の混入による汚染のおそれがあった。
【0010】
ゆえに、市場からは、より短時間で、効率的に高純度のマグネシウムを精製することを可能とするマグネシウムの精製方法やマグネシウム精製装置の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本件発明者等は、鋭意研究の結果、本発明に係るマグネシウムの精製方法やマグネシウム精製装置を採用することで、短時間で、効率的に高純度のマグネシウム精製を可能とした。
【0012】
すなわち、本発明に係るマグネシウムの精製方法は、真空昇華法により原料マグネシウムからマグネシウムを精製する方法であって、
10Pa〜1×10−1Paの真空中で、誘導加熱法により当該原料マグネシウムを
430℃〜550℃に加熱し、当該原料マグネシウムから離して配設された蒸着部の表面において、加熱により昇華したマグネシウムを蒸着させて精製マグネシウムを得ることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るマグネシウムの精製方法は、前記凝縮部におけるマグネシウムの蒸着温度を330℃〜410℃とすることが好ましい。
【0014】
本発明に係るマグネシウム精製装置は、真空昇華法により原料マグネシウムからマグネシウムを精製するマグネシウム精製装置であって、内部を真空とし、原料マグネシウムを収容する真空容器と、当該真空容器内の原料マグネシウムを当該真空容器の外部から誘導加熱してマグネシウムを昇華させる誘導加熱コイルと、当該真空容器内に、当該原料マグネシウムと離して配置され、当該真空容器内に拡散したマグネシウムを蒸着させる蒸着部とを備え
、当該蒸着部は、圧縮空気を用いた蒸着部温度調整手段によりマグネシウムの蒸着温度に調整することを特徴とする。
【0015】
本発明に係るマグネシウム精製装置は、前記原料マグネシウムが、前記真空容器の内壁面と離間して収容されることが好ましい。
【0016】
また、本発明に係るマグネシウム精製装置は、前記真空容器内の真空度を10Pa〜1×10
−1Paとし、前記誘導加熱コイルにより、前記原料マグネシウム及び前記真空容器自体を430℃〜550℃とすることが好ましい。
【0017】
また、本発明に係るマグネシウム精製装置は、前記蒸着部が、前記蒸着部温度調整手段により330℃〜410℃に調整されることが好ましい。
【0018】
また、本発明に係るマグネシウム精製装置は、前記真空容器が、開口を有すると共に内部に前記原料マグネシウムを収容する原料収容部を備えた本体と、当該本体の開口を開閉可能に閉塞する蓋体とを有し、当該蓋体が、本体内部に面する前記蒸着部を備えることが好ましい。
【0019】
さらに、本発明に係るマグネシウム精製装置は、前記真空容器が、前記蒸着部の周縁部を断熱部材を介して囲繞し、当該蒸着部に蒸着する精製マグネシウムの成長方向に延びる筒状ガイドを備えることが好ましい。
【0020】
また、本発明に係るマグネシウム精製装置は、前記本体と、前記蓋体との間に、所定の間隔を存して内側メタルパッキンと外側メタルパッキンとを備え、当該内側メタルパッキンと外側メタルパッキンの間を真空、又は、これらメタルパッキン間に不活性ガスを充填することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るマグネシウム精製方法は、誘導加熱法によって原料マグネシウムを加熱することにより、当該原料マグネシウムは真空容器を介することなく直接加熱される。よって、従来のように原料マグネシウムを収容する真空容器をヒータにより加熱し、当該真空容器からの熱伝導により原料マグネシウムを加熱する場合と異なり、本願発明によれば、誘導加熱法による原料マグネシウムの均一な加熱が可能となる。よって、本願発明は、原料マグネシウムが局所的に高温に加熱されることを抑制することができるため、マグネシウム以外にも原料マグネシウムに含まれていた不純物が、蒸着部に精製マグネシウムと共に蒸着してしまう不都合を回避することができる。また、誘導加熱法による加熱は、直接原料マグネシウム自体を加熱することができるため、より短時間で原料マグネシウムを目的とする温度に加熱することができる。従って、本願発明によれば、より短時間で、効率的に高純度のマグネシウム精製を実現することができる。
【0022】
また、本発明に係るマグネシウム精製装置は、上述したマグネシウム精製方法による効果に加えて、原料マグネシウムを真空容器の内壁面と離間して収容することにより、当該原料マグネシウム自体の誘導加熱による温度制御を安定して行うことが可能となる。よって、原料マグネシウムに含まれる不純物の蒸発を効果的に抑制することができる。
【0023】
さらに、本発明に係るマグネシウム精製装置は、圧縮空気を用いた蒸着部温度調整手段により蒸着部の温度をマグネシウムの蒸着温度に調整するため、温度調整手段として液体や油等を用いる必要がなくなり、作業性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明に係る「マグネシウムの精製方法」と「マグネシウム精製装置」について説明する。
【0026】
<本発明に係るマグネシウムの精製方法の形態>
本発明に係るマグネシウムの精製方法は、原料マグネシウムを真空中で昇華させることによりマグネシウムを精製する方法である。本発明におけるマグネシウムの精製方法では、
10Pa〜1×10−1Paの真空中で、誘導加熱法により原料マグネシウムを
430℃〜550℃に加熱し、当該原料マグネシウムから離して配設された蒸着部の表面において、加熱により昇華したマグネシウムを蒸着させて精製マグネシウムを得ることを特徴とする。
【0027】
本発明において原料マグネシウムは、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、硫黄(S)、リン(P)、アルミニウム(Al)、塩素(Cl)、ナトリウム(Na)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、カルシウム(Ca)、アンチモン(Sb)、カリウム(K)、フッ素(F)、ヒ素(As)、クロム(Cr)、銀(Ag)、ビスマス(Bi)、ガリウム(Ga)、リチウム(Li)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、ホウ素(B)等の不純物の総含有量が1000ppm以下の高純度マグネシウムを用いることが好ましい。本発明は、不純物の総含有量が1000ppm以下の高純度マグネシウムをさらに精製してより純度の高いマグネシウムを精製する方法に適しているからである。なお、原料マグネシウムには、亜鉛(Zn)が含まれているが、精製されたマグネシウムを半導体材料として用いる場合には、当該亜鉛は、100ppm以下であれば、不純物として扱われない場合が多い。よって、ここでは、100ppm以下の亜鉛については不純物としては扱わないものとする。
【0028】
当該原料マグネシウムの精製を行う真空条件としては、10Pa〜1×10
−1Paであることが好ましい。真空雰囲気中に残存する気体は空気であっても良いが、より好ましくは、アルゴン等の不活性ガスであることが好ましい。真空雰囲気の形成方法について特に限定はないが、空気又は不活性ガスが充填された真空容器内から真空ポンプ等により空気又は不活性ガスを吸引して上述した真空条件の真空雰囲気を形成することが好ましい。
【0029】
そして、本発明におけるマグネシウムの精製方法では、当該真空条件下において、マグネシウム金属の昇華温度よりも高い430℃〜550℃の温度に原料マグネシウムを加熱し、当該原料マグネシウムに含まれるマグネシウムを昇華させることが好ましい。
【0030】
当該加熱の方法は、上述したように誘導加熱法を採用し、誘導加熱コイルによって原料マグネシウムに渦電流を誘導して原料マグネシウムを自己発熱させる。この際、原料マグネシウムが収容される真空容器は、蒸着部以外の部分に加熱により昇華したマグネシウムが蒸着することを防止するため、原料マグネシウムと共に誘導加熱コイルによって真空容器自体も誘導加熱することが好ましい。
【0031】
誘導加熱コイルに供給する電流の周波数や供給電力を調整することにより、原料マグネシウムを当該真空条件下におけるマグネシウム金属の昇華温度よりも高い430℃〜550℃に加熱することが好ましい。よって、原料マグネシウムに含まれるマグネシウムよりも蒸気圧が低い不純物は、蒸発することなく原料マグネシウムに残留させることができる。ゆえに、マグネシウムよりも蒸気圧が低い不純物であるリチウム(Li)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、ガリウム(Ga)、ホウ素(B)、銀(Ag)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、銅(Cu)、ケイ素(Si)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、カルシウム(Ca)等を原料マグネシウムに残留させて、昇華したマグネシウムと分離させることができる。
【0032】
そして、本発明に係るマグネシウムの精製方法では、原料マグネシウムが収容される真空容器内には、当該原料マグネシウムから離して蒸着部を配設する。この蒸着部は、誘導加熱コイルにより加熱によって昇華され、真空雰囲気中に拡散したマグネシウムを蒸着させるものであり、真空容器の内壁面よりも低い所定の蒸着温度に温度制御される。
【0033】
具体的には、当該蒸着部におけるマグネシウムの蒸着温度は、上述した真空条件下においてマグネシウムを蒸着可能とする330℃〜410℃とすることが好ましい。当該蒸着部をマグネシウムが蒸着可能とする温度に調整することにより、原料マグネシウムに含まれるマグネシウムよりも蒸気圧が高い不純物が当該蒸着部に蒸着される不都合を抑制することができる。よって、マグネシウムよりも蒸気圧が高い不純物である亜鉛(Zn)、ナトリウム(Na)、ヒ素(As)、カリウム(K)、リン(P)、硫黄(S)、塩素(Cl)、フッ素(F)等が蒸着部に付着することを抑制して、蒸着部に付着したマグネシウムと分離させることができる。
【0034】
蒸着部には、既に蒸着されたマグネシウムの表面にさらに真空雰囲気中に拡散したマグネシウムが蒸着することにより、高純度に精製されたマグネシウムが次第に成長していく。
【0035】
この際、本発明に係るマグネシウムの精製方法では、誘導加熱法によって原料マグネシウムを加熱することにより、当該原料マグネシウムは真空容器を介することなく直接加熱される。よって、従来のように原料マグネシウムを収容する真空容器をヒータにより加熱し、当該真空容器からの熱伝導により原料マグネシウムを加熱する場合と異なり、誘導加熱法では、原料マグネシウムの均一な加熱が可能となる。よって、本願発明のマグネシウムの精製方法によれば、原料マグネシウムが局所的に高温に加熱されることを抑制することができるため、マグネシウム以外にも原料マグネシウムに含まれていた不純物が、蒸着部に精製マグネシウムと共に蒸着してしまう不都合を回避することができる。また、誘導加熱法により原料マグネシウムの加熱は、真空容器からの熱伝導による加熱とは異なり、直接原料マグネシウム自体を加熱することができるため、より短時間で原料マグネシウムを目的とする温度に加熱することができる。従って、本願発明のマグネシウムの精製方法によれば、より短時間で、効率的に高純度のマグネシウム精製を実現することができる。
【0036】
<本発明に係るマグネシウム精製装置の形態>
次に、本発明のマグネシウム精製装置について説明する。本発明に係るマグネシウム精製装置は、真空昇華法により原料マグネシウムからマグネシウムを精製するものであって、内部を真空とし、原料マグネシウムを収容する真空容器と、当該真空容器内の原料マグネシウムを当該真空容器の外部から誘導加熱してマグネシウムを昇華させる誘導加熱コイルと、当該真空容器内に、当該原料マグネシウムと離して配置され、当該真空容器内に拡散したマグネシウムを蒸着させる蒸着部とを備え
、当該蒸着部は、圧縮空気を用いた蒸着部温度調整手段によりマグネシウムの蒸着温度に調整することを特徴とする。以下、本発明のマグネシウム精製装置の具体的実施の形態について
図1〜
図4を参照して説明する。まずはじめに
図1のマグネシウム精製装置1の概略断面図を参照して、本実施の形態に係るマグネシウム精製装置1の概略構成について説明する。
【0037】
本実施の形態に係るマグネシウム精製装置1は、開口を有する本体11と、当該本体11の当該開口を開閉自在に閉塞する蓋体12とを備えた真空容器10と、当該真空容器10内部を真空雰囲気とする真空手段13とを有する。
【0038】
真空容器10を構成する本体
11は、SUS304製の有底筒状を呈しており、下部に原料マグネシウム2を収容する原料収容部21を備える。そして、当該原料収容部21に相当する本体
11下部には、当該本体
11下部に外周に対向して、原料マグネシウム2を誘導加熱する誘導加熱コイル22が巻回されている。当該誘導加熱コイル22は、図示しない電源装置に接続され、当該電源装置により、所定の周波数の電流が印加される。
【0039】
本体
11に形成される原料収容部21には、原料マグネシウム2を当該原料収容部21内に吊り下げて保持するための原料保持機構23が設けられている。当該原料保持機構23は、原料収容部21の上方に位置して当該本体
11内に固定された吊下支持部24と、当該吊下支持部24から原料収容部21内に垂下された原料保持部25とからなる。原料保持部25に原料マグネシウム2を保持した状態で、吊下支持部24が当該原料保持部25を保持することにより、原料マグネシウム2は原料収容部21内に吊り下げ保持される。
【0040】
本発明では、当該原料保持機構23により原料収容部21内に保持される原料マグネシウム2は、真空容器10の本体11の内壁面と離間して収容されることが好ましい。なぜなら、当該誘導加熱コイル22への通電によって、誘導加熱された真空容器10から原料マグネシウム2に伝達熱が加わり、原料マグネシウムが局所的に高温に加熱されることを効果的に抑制するためである。ただし、誘導加熱コイル22による原料マグネシウム2の誘導加熱効率を考慮すると、より真空容器10に巻回された誘導加熱コイル22に近接することが好ましい。よって、原料マグネシウム2と真空容器10の内壁面とは0.5mm〜3mm離間して配置することが好ましい。
【0041】
本実施の形態では、本体
11は、原料収容部21内に収容された原料マグネシウム2の温度を検出するための原料マグネシウム温度センサ(原料マグネシウム温度検出手段)26を備えている。誘導加熱コイル22は、当該原料マグネシウム温度センサ26の検出温度に基づいて原料マグネシウム2を430℃〜550℃の範囲内の任意の設定温度に加熱する。
【0042】
また、真空容器10は、誘導加熱コイル22による誘導加熱コイル22により加熱されるが、真空容器10の目的としない内壁面に昇華マグネシウムが蒸着することを抑止するため、当該加熱能力を補助する補助ヒータ27を設けても良い。図示してはいないが、真空容器10の外面にも、同様の目的で補助ヒータを設けても良い。
【0043】
真空容器10を構成する蓋体12は、SUS304製の板状部材であり、蓋体12の内面側には、真空容器10内部に面して、当該真空容器10内に拡散したマグネシウムを蒸着させる蒸着部30を備える。本実施の形態において、蒸着部30は、本体
11の下部に配置された原料収容部21の上方に位置して、当該原料収容部21内に収容される原料マグネシウムと離間して配置される。蒸着部30は蒸着部温度調整手段によりマグネシウムの蒸着温度に調整される。本件発明において、蒸着部30の温度制御を行う蒸着部温度調整手段は、圧縮空気を用いることが好ましい。当該圧縮空気は、液体や油等を用いる必要がなく、扱いやすいため、精製作業やメンテナンス性が容易だからである。以下に、圧縮空気を蒸着部温度調整手段として用いた蒸着部30について、
図2の部分拡大図及び
図3の分解断面図を参照して説明する。なお、本実施の形態では、当該蒸着部30は、蓋体12に3つ設けられており、
図1の断面図には2つの蒸着部30が図示されている。
【0044】
本実施の形態における蒸着部30は、有底筒状を呈した温度調整容器33と、当該温度調整容器33内部形状に沿った外部形状を有する柱状の圧力調整部材34とを有し、当該温度調整容器33の内周面と圧力調整部材34の外周面との間に圧縮空気を滞留させて、マグネシウムの蒸着面となる温度調整容器33の外部底面、もしくは、当該温度調整容器33の外部底面に密着して配設される蒸着板31をマグネシウムの蒸着温度に調整する。このとき、温度調整容器33の内径寸法は、圧力調整部材34の外形寸法よりも少許大きく形成されていることが好ましい。なぜならば、圧力調整部材34を介して温度調整容器33内に圧入された圧縮空気を当該温度調整容器の内周と圧力調整部材34の外周との間から外部に適度に逃がすことを可能とする。また、マグネシウムの蒸着面は、温度調整容器33の外部底面により構成しても良いが、蒸着し成長した精製マグネシウム3の取り出しやすさを考慮すると、当該温度調整容器33の外部底面に密着配設した蒸着板31の真空容器10内側の面をマグネシウムの蒸着面とすることが好ましい。
【0045】
本実施の形態における温度調整容器33は、内部に圧力調整部材34を収容した状態で、蓋体12に貫通形成された蒸着部取付孔12Aに外部から貫挿して装着される。圧力調整部材34は、温度調整容器33内に収容された状態で、外部と温度調整容器33内とを連通し、圧縮空気を外部から導入する圧縮空気導入ノズル36を挿着するためのノズル挿着孔35が形成されている。当該圧力調整部材34に形成されたノズル
挿着孔35の温度調整容器33底面側の面には、圧縮空気導入ノズル36を介して導入された圧縮空気を滞留させるための凹所37が形成されている。当該凹所37は、ノズル36の断面積よりも大きく形成されている。
【0046】
また、この圧力調整部材34には、有底の温度センサ挿入穴38が形成されている。当該温度センサ挿入穴38は、マグネシウムの蒸着面となる温度調整容器33底面、もしくは、当該底面に密着配設される蒸着板31の温度に近似する圧力調整部材34底面の温度を検出するための蒸着部温度センサ(蒸着部温度検出手段)39が挿入保持される。圧縮空気導入ノズル36を介して当該温度調整容器33内に供給される圧縮空気の供給量は、当該蒸着部温度センサ39の検出温度に基づいて調整され、マグネシウムの蒸着面の温度がマグネシウムの蒸着温度、例えば、330℃〜410℃の範囲内の任意の蒸着温度となるように加熱される。
【0047】
本実施の形態では、温度調整部材34は、温度調整容器33内に収容された状態で、固定板40をねじ止めにより蓋体12に固定する。当該構成により、温度調整部材34が圧縮空気の導入により温度調整容器33から抜け出ることを防止することができ、安全に使用することができる。当該固定板40には、圧縮空気導入ノズル36の挿着箇所及び蒸着部温度センサ39の挿着箇所に連通孔41が形成されていると共に、温度調整容器33と圧力調整部材34との間から排出された圧縮空気を外部に排出するための連通孔42が形成されている。
【0048】
本実施の形態では、蒸着部30のマグネシウムの蒸着面となる温度調整容器33の外部底面、もしくは、当該温度調整容器33の外部底面に密着して配設される蒸着板31には、当該マグネシウムの蒸着面において蒸着し成長する精製マグネシウム3の精製方向に延びる筒状ガイド46を備えている。当該筒状ガイド46は、
図2に示すように、蓋体12の内面に当接し、温度調整容器33の一部が当該筒状ガイド46内に進入した状態で真空容器10に取り付けられる。マグネシウムの蒸着面となる温度調整容器33の外部底面の周縁部、もしくは、当該温度調整容器33の外部底面に密着して配設される蒸着板31の周縁部と、当該筒状ガイド46との間には、熱切りを行うための断熱リング(断熱部材)45が介設されることが好ましい。筒状ガイド46にマグネシウムが蒸着することを抑制するためである。
【0049】
また、本実施の形態におけるマグネシウム精製装置1は、真空容器10内の原料収容部21において原料マグネシウム2から昇華されたマグネシウムを当該筒状ガイド46内に誘導すべく、当該真空容器10内は、筒状ガイド46の原料収容部21側の開口部以外を区画板47により区画することが好ましい。
【0050】
次に、上述した本体11と蓋体12とからなる真空容器10の真空構造について説明する。当該真空容器10は、当該真空容器10内に真空雰囲気を形成する真空手段としての真空ポンプ13を備える。本発明におけるマグネシウム精製装置は、真空容器10内の真空度を真空ポンプ13によって10Pa〜1×10
−1Paとすることが好ましい。真空雰囲気中に残存する気体は、空気であっても良いが、アルゴンなどの不活性ガスであることが好ましい。本実施の形態では、真空容器10内に真空雰囲気を形成する方法として真空ポンプ13を用いて、真空容器10内に満たされた気体を吸引して所定の真空度まで負圧にして維持する方法を採用しているが、特にこれに限定されない。
【0051】
また、当該真空容器10内の真空雰囲気を維持すべく、真空容器10を構成する本体11と蓋体12とは、所定の間隔を存して、銅などの金属により構成される内側メタルパッキンと外側メタルパッキンとを備えた封止構造を採用することが好ましい。具体的には、
図4に示す
図1の円S拡大図のように、本体11の開口縁にフランジ部11Aを備え、フランジ部11Aの蓋体12と重ね合わせる端面に2条のパッキン収容溝14、15を形成し、内側に位置するパッキン収容溝14に内側メタルパッキン16を配設し、外側に位置するパッキン収容溝15に外側メタルパッキン17を配設する。これら内側に位置するパッキン収容溝14と外側に位置するパッキン収容溝15との間には、両パッキン収容溝14、15との間の気体を吸引する酸化防止用真空ポンプ19(真空手段)が接続される酸化防止通路18が形成されている。なお、酸化防止用の手段としては、当該酸化防止用真空ポンプ19に限定されるものではなく、両パッキン収容溝14、15との間にアルゴン等の不活性ガスを充填する不活性ガス充填手段を用いても良い。これらの構成を採用することにより、両パッキン収容溝14、15に収容されるメタルパッキン16、17が酸化される不都合を大幅に抑制することが可能となり、メタルパッキンの長寿命化を図ることができる。
【0052】
次に、本実施の形態に係るマグネシウム精製装置1のマグネシウム精製動作について説明する。まずはじめに、真空容器10の原料収容部21内に原料マグネシウム2を収容する。当該原料マグネシウム2は、原料保持部25に保持した状態で、真空容器10の内壁面との間を例えば1mm離して収容する。そして、真空容器10の本体11の上面開口を蓋体12にて閉塞し、例えば、ねじなどにより固定する。そして、真空ポンプ13によって、真空容器10内の真空度を10Pa〜1×10
−1Paの範囲内の任意の真空度に調整する。
【0053】
その後、誘導加熱コイル22に所定の周波数の電流を印加し、真空容器10の原料収容部21内に収容された原料マグネシウム2の誘導加熱を行う。この際、原料マグネシウム2は、上述したように、原料マグネシウム温度センサ26の検出温度に基づいて、誘導加熱コイル22により430℃〜550℃の範囲内の任意の設定温度に加熱される。このとき、真空容器10自体も誘導加熱コイル22によって誘導加熱されるが、さらに補助ヒータ27の加熱能力を補助的に使用し、当該真空容器10自体をマグネシウム原料の加熱温度以上のいずれかの設定温度に加熱する。
【0054】
当該原料マグネシウム2がマグネシウムの昇華温度以上の温度に誘導加熱されることによって、原料マグネシウム2に含まれるマグネシウムが昇華する。昇華したマグネシウムは、
図1中、黒丸で示す。このとき、原料マグネシウム2に含まれるマグネシウムよりも蒸気圧の低い物質は、原料マグネシウムに残留する。マグネシウムよりも蒸気圧の低い不純物としては、リチウム(Li)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、ホウ素(B)ガリウム(Ga)、銀(Ag)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、銅(Cu)、ケイ素(Si)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、カルシウム(Ca)等を挙げることができる。
【0055】
原料マグネシウム2から昇華したマグネシウムは、真空容器10内に拡散する。この際、真空容器10自体は、誘導加熱コイル22及び補助ヒータ
27によってマグネシウムの蒸着温度よりも高い温度に設定されており、原料収容部21の上方に配設された蒸着部30は、圧縮空気によってマグネシウムが蒸着可能とする330℃〜410℃の範囲内の任意の温度に設定されている。そのため、真空容器10内に拡散したマグネシウムは、真空容器10の内壁面に付着することなく、原料収容部21の上方に配設された蒸着部30に蒸着する。本実施の形態では、真空容器10内に拡散したマグネシウムは、真空容器10内に配設された筒状ガイド46に誘導されて、温度調整容器33の外部底面に密着して配設された蒸着板31に蒸着する。蒸着板31の表面に蒸着した精製マグネシウム
3は、蒸着板31の表面温度付近の温度であるため、当該蒸着板31の表面に蒸着したマグネシウムの表面にも次々にマグネシウムが堆積していき、蒸着板31には、つらら状に精製マグネシウム
3が成長していく。
【0056】
このとき、原料マグネシウム2に含まれる不純物のうち、マグネシウムよりも蒸気圧の高い物質は、マグネシウムと共に加熱されることにより、真空容器10内に蒸発していく。しかし、蒸着部30(蒸
着板31)の温度は、上述したように、330℃〜410℃の高い温度に設定されているため、不純物が蒸着部30に蒸着し、精製マグネシウム
3の純度が低下することを抑制することができる。マグネシウムよりも蒸気圧の高い不純物としては、亜鉛(Zn)、ナトリウム(Na)、ヒ素(As)、カリウム(K)、リン(P)、硫黄(S)、塩素(Cl)、フッ素(F)を挙げることができる。
【0057】
このように、本発明に係るマグネシウム精製装置では、誘導加熱法によって原料マグネシウム2を加熱することにより、当該原料マグネシウム2は真空容器10を介することなく直接加熱することができる。よって、従来のように原料マグネシウム2を収容する真空容器10をヒータにより加熱し、当該真空容器10からの熱伝導により原料マグネシウム2を加熱する場合と異なり、原料マグネシウム2自体を均一に加熱することができる。
【0058】
従って、原料マグネシウム2から蒸発した原料マグネシウムに含まれていた不純物が、局所的に高温に加熱されて蒸発することにより、蒸着部30に精製マグネシウム3と共に蒸着してしまう不都合を回避することができる。また、誘導加熱法により原料マグネシウム2の加熱は、真空容器10からの熱伝導による加熱とは異なり、直接原料マグネシウム2自体を加熱することができるため、より短時間で原料マグネシウム2を目的とする温度に加熱することができる。ゆえに、より短時間で、効率的に高純度のマグネシウム精製を実現することができる。
【0059】
また、本実施の形態におけるマグネシウム精製装置1は、原料マグネシウム2を真空容器10の内壁面と離間して収容することにより、当該原料マグネシウム2自体の誘導加熱による温度制御を安定して行うことが可能となる。よって、原料マグネシウム2が部分的に高温度に加熱されることにより、当該原料マグネシウム2に含まれる不純物の蒸発を効果的に抑制することができる。
【0060】
さらに、本実施の形態におけるマグネシウム精製装置1は、圧縮空気を用いて蒸着部30の温度をマグネシウムの蒸着温度に調整するため、温度調整手段として液体や油等を用いる必要がなくなり、作業性の向上を図ることができる。
【0061】
また、本実施の形態において蒸着部30に蒸着された精製マグネシウム
3を取り出す場合には、蓋体12を開放し、蒸着部30の温度調整容器33の底面に配設された蒸着板31を取り外すことにより、精製マグネシウム
3を取り出す。この際、蒸着板31は、単なるプレート状の部材であるため、容易に精製マグネシウムを取り出すことができ、取出の際に不純物が混入する不都合を効果的に回避することが可能となる。
【0062】
なお、上述した本実施の形態では、真空容器10内の下部に原料マグネシウム2を配置し、真空容器10の上部に蒸着部30を配置しているが、本件発明はこれに限定されるものではなく、原料マグネシウム2と精製マグネシウム3を蒸着させる蒸着部30を離して配置するものであればよいものとする。