【実施例】
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、実施例において、組成等は特段の記載がない限り質量基準である。
【0060】
また、反応液のガスクロマトグラフィー分析は、n−ドデカンを内標とし、下記の条件で行なった。
分析機器:GC−14A(株式会社島津製作所製)
検出機器:FID(水素炎イオン化型検出器)
使用カラム:TC−1(内径0.25mm、長さ60m、膜厚0.25μm)
分析条件:インジェクション温度:250℃、カラム温度:40℃で5分保持後、10℃/分で昇温し、70℃で22分、200℃で10分、280℃で9分それぞれ保持、ディテクター温度:250℃
【0061】
得られた樹脂の物性等は、以下の方法により求めた。
(1)分子量測定
分子量(重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn及びZ平均分子量Mz)及び分子量分布(Mw/Mn)は、高速GPC装置(東ソー株式会社製、HLC−8320GPC)を用い、ポリスチレン換算値として求めた〔溶離液:テトラヒドロフラン、カラム:東ソー株式会社製G4000HXL、G3000HXL、G2000HXL(2本)を直列に連結して使用、検出器:RI、標準試料:ポリスチレン〕。
【0062】
(2)軟化点測定
JIS K−2207(1991)に従って、環球法で測定した。
【0063】
(3)曇り点測定
水素添加樹脂とエチレン酢酸ビニル共重合体(三井デュポン社製、商品名「エバフレックスEVA−210」)とを、50/50(質量比)で混合溶解させ、JIS K−2269「石油製品曇り点試験方法」に準拠して測定した。曇り点が低いほど、水素添加樹脂とエチレン酢酸ビニル共重合体の相溶性が高いことを示す。
【0064】
(4)芳香族含有率
1H−NMRスペクトルの測定結果から算出した。
【0065】
(5)色相(ハーゼン色数)
50質量%トルエン溶液とし、比色計(ティントメーター社製、ロビボンド・PFX195)を用いて測定した。
【0066】
(6)収率
熱重合における樹脂の収率は、以下の式により算出した。
収率(質量%)=〔樹脂収量(g)/全仕込み量(g)〕×100
ここで、全仕込み量は、反応容器に投入したジシクロペンタジエン留分及びスチレンの総量であり、溶媒を用いた場合は溶媒も含む。
【0067】
実施例1:水素添加樹脂の製造例(1)
(予備反応工程)
内容積10Lの攪拌機付きオートクレーブに、表1で示される組成のジシクロペンタジエン留分X(ジシクロペンタジエン濃度:75質量%)2593gを仕込み、系内を窒素で置換した。その後500rpmで撹拌しながら、4℃/分の速度で180℃まで昇温した。180℃に保持した状態で、スチレン970gと上記ジシクロペンタジエン留分X1439gの混合液を2時間かけて滴下した。
【0068】
滴下終了時の反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、スチレンの転化率は58%、フェニルノルボルネンの選択率は100%であり、スチレン由来の重合物は全く生成していないことが確認された。
【0069】
(重合工程)
滴下終了後の反応液を1.8℃/分の速度で260℃まで昇温した。その後、引き続き260℃で2時間加熱し、重合反応を行った。これにより、重合反応物1を得た。
【0070】
重合反応物1の一部を分取し、ロータリーエバポレーターを用いて、温度230℃、窒素気流下で10分間処理し、未反応モノマーを除去した。次いで温度230℃、圧力6.7kPaA(Aは絶対圧力であることを示す。以下同様である。)で15分間処理し、低分子量体を一部除去して樹脂P1を得た。樹脂P1の性状を表2に示す。
【0071】
(水素添加工程)
重合工程で得られた重合反応物1を用いて、ニッケル系触媒による水素添加を行い、水素添加樹脂Q1を得た。即ち、内容積1Lの攪拌機付きオートクレーブに、重合反応物1を500g、ニッケル担持シリカ・アルミナ触媒を0.75g仕込み、系内を窒素で置換し、温度230℃、水素圧力3MPaGで1.5時間、水素添加反応を行った。
【0072】
水素添加反応後、ロータリーエバポレーターを用いて、温度230℃、窒素気流下で10分間処理し、未反応モノマーを除去した。次いで温度230℃、圧力6.7kPaAで10分間処理し、低分子量体を一部除去して水素添加樹脂Q1を得た。水素添加樹脂Q1の性状を表3に示す。
【0073】
比較例1:水素添加樹脂の製造例(2)
予備反応工程におけるフェニルノルボルネンの選択率が90%未満の場合(反応温度が高い場合)の比較例を示す。
(予備反応工程)
温度210℃で反応を行った点以外は、実施例1と同条件で予備反応を行った。滴下終了時の反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、スチレンの転化率は82%、フェニルノルボルネンの選択率は82%であり、フェニルノルボルネンの生成量は実施例1より多くなったものの、選択率の低下が確認された。
【0074】
(重合工程)
次いで、実施例1と同様に重合反応を行い、重合反応物2を得た。重合反応物2の一部を分取し、ロータリーエバポレーターを用いて、温度230℃、窒素気流下で10分間処理し、未反応モノマーを除去した。次いで温度230℃、圧力6.7kPaAで5分間処理し、低分子量体を一部除去して樹脂P2を得た。樹脂P2の性状を表2に示す。
【0075】
得られた樹脂P2のZ平均分子量(Mz)及び分子量分布(Mw/Mn)は、原料として同じジシクロペンタジエン留分Xを用いた実施例1に比べて非常に大きくなっており、予備反応工程においてフェニルノルボルネンの生成量が多くても、選択率が90%に満たない場合は、樹脂の高分子量化・多分散化が起こることが示された。
【0076】
(水素添加工程)
重合工程で得られた重合反応物2を用いて、ニッケル系触媒による水素添加を行い、水素添加樹脂Q2を得た。即ち、内容積1Lの攪拌機付きオートクレーブに、重合反応物2を500g、ニッケル担持シリカ・アルミナ触媒を0.75g仕込み、系内を窒素で置換し、温度230℃、水素圧力3MPaGで3時間、水素添加反応を行った。
【0077】
水素添加反応後、ロータリーエバポレーターを用いて、温度230℃、窒素気流下で10分間処理し、未反応モノマーを除去した。次いで温度230℃、圧力6.7kPaAで8分間処理し、低分子量体を一部除去して水素添加樹脂Q2を得た。水素添加樹脂Q2の性状を表3に示す。
【0078】
得られた水素添加樹脂Q2の色相及び相溶性(曇り点)は、水素添加樹脂Q1に比べ大きく劣るものであった。
【0079】
比較例2:水素添加樹脂の製造例(3)
従来の滴下重合法(すなわち、加熱した溶媒中にモノマー溶液を滴下して重合する方法)による比較例を示す。
(滴下重合工程)
内容積10Lの攪拌機付きオートクレーブに、キシレン300gを仕込み、系内を窒素で置換した。その後500rpmで撹拌しながら、4℃/分の速度で240℃まで昇温した。240℃に保持した状態で、スチレン478gと上記ジシクロペンタジエン留分X2022gの混合液を2時間かけて滴下して重合反応を行った。
【0080】
滴下終了後、反応液を1.8℃/分の速度で260℃まで昇温し、引き続き260℃で2時間加熱して、重合反応を促進させた。これにより、重合反応物3を得た。
【0081】
重合反応物3の一部を分取し、ロータリーエバポレーターを用いて、温度230℃、窒素気流下で10分間処理し、未反応モノマーを除去した。次いで温度230℃、圧力6.7kPaAで3分間処理し、低分子量体を一部除去して樹脂P3を得た。樹脂P3の性状を表2に示す。
【0082】
得られた樹脂P3のZ平均分子量(Mz)及び分子量分布(Mw/Mn)は、原料として同じジシクロペンタジエン留分Xを用いた実施例1と同程度であった。
【0083】
(水素添加工程)
滴下重合工程で得られた重合反応物3を用いて、ニッケル系触媒による水素添加を行い、水素添加樹脂Q3を得た。即ち、内容積1Lの攪拌機付きオートクレーブに、重合反応物3を500g、ニッケル担持シリカ・アルミナ触媒を0.75g仕込み、系内を窒素で置換し、温度230℃、水素圧力3MPaGで1.5時間、水素添加反応を行った。
【0084】
水素添加反応後、ロータリーエバポレーターを用いて、温度230℃、窒素気流下で10分間処理し、未反応モノマーを除去した。次いで温度230℃、圧力6.7kPaAで10分間処理し、低分子量体を一部除去して水素添加樹脂Q3を得た。水素添加樹脂Q3の性状を表3に示す。
【0085】
得られた水素添加樹脂Q3の色相及び相溶性(曇り点)は、同条件で水素添加した実施例1に比べて劣るものであった。
【0086】
実施例2:水素添加樹脂の製造例(4)
(水素添加工程)
実施例1と同じ重合反応物1を用いて、パラジウム系触媒による水素添加を行い、水素添加樹脂Q4を得た。即ち、内容積1Lの攪拌機付きオートクレーブに、重合反応物1を500g、パラジウム担持アルミナ触媒を1.5g仕込み、系内を窒素で置換し、温度265℃、水素圧力5MPaGで5時間、水素添加反応を行った。
【0087】
水素添加反応後、ロータリーエバポレーターを用いて、温度230℃、窒素気流下で10分間処理し、未反応モノマーを除去した。次いで温度230℃、圧力6.7kPaAで8分間処理し、低分子量体を一部除去して水素添加樹脂Q4を得た。水素添加樹脂Q4の性状を表3に示す。
【0088】
実施例3:水素添加樹脂の製造例(5)
(予備反応工程)
内容積10Lの攪拌機付きオートクレーブに、表1で示される組成のジシクロペンタジエン留分Y(ジシクロペンタジエン濃度:71質量%)3600gを仕込み、系内を窒素で置換した。その後500rpmで撹拌しながら、4℃/分の速度で180℃まで昇温した。180℃に保持した状態で、スチレン1014gと、上記ジシクロペンタジエン留分Y986gの混合液を2時間かけて滴下した。
【0089】
(重合工程)
滴下終了後、1.8℃/分の速度で260℃まで昇温した。その後、引き続き260℃で2時間加熱し、重合反応を行った。これにより、重合反応物4を得た。
【0090】
重合反応物4を、ロータリーエバポレーターを用いて、温度230℃、窒素気流下で10分間処理し、未反応モノマーを除去した。次いで温度230℃、圧力6.7kPaAで8分間処理し、低分子量体を一部除去して樹脂P4を得た。樹脂P4の性状を表2に示す。
【0091】
(水素添加工程)
得られた樹脂P4を用いて、パラジウム系触媒を用いた2段連続水添を行ない、水素添加樹脂Q5を得た。即ち、樹脂P4をエチルシクロヘキサンに溶解して樹脂濃度20質量%の樹脂溶液を調製し、パラジウム担持アルミナ触媒を充填した固定床流通反応装置(気液並流、下降流型)に通液して、温度120℃、水素圧力1MPaG、LHSV5.6[h
-1]にて水素添加反応を行った。更に同様の固定床流通反応装置を用い、温度220℃、水素圧力1MPaG、LHSV10.9[h
-1]にて水素添加反応を行った。
【0092】
水素添加反応後、反応液を取り出し、ロータリーエバポレーターを用いて、温度180℃、窒素気流下で20分間処理し、溶媒を除去した。次いで温度180℃、圧力6.7kPaAで10分間処理し、低分子量体を一部除去して水素添加樹脂Q5を得た。水素添加樹脂Q5の性状を表3に示す。
【0093】
実施例4:水素添加樹脂の製造例(6)
(予備反応工程)
内容積5Lの攪拌機付きオートクレーブに、表1で示される組成のジシクロペンタジエン留分Z(ジシクロペンタジエン濃度:60質量%)1800gを仕込み、系内を窒素で置換した。その後500rpmで撹拌しながら、4℃/分の速度で180℃まで昇温した。180℃に保持した状態で、スチレン445.2gと、上記ジシクロペンタジエン留分Z554.8gの混合液を、180℃を保持した状態で2時間かけて滴下した。
【0094】
(重合工程)
滴下終了後、1.8℃/分の速度で260℃まで昇温した。その後引き続き260℃で2時間、重合反応を行った。これにより、重合反応物5を得た。
【0095】
重合反応物5の一部を分取し、ロータリーエバポレーターを用いて、温度230℃、窒素気流下で10分間処理し、未反応モノマーを除去した。次いで温度230℃、圧力6.7kPaAで12分間処理し、低分子量体を一部除去して樹脂P5を得た。樹脂P5の性状を表2に示す。
【0096】
(水素添加工程)
重合工程で得られた重合反応物5を用いて、パラジウム系触媒による水素添加を行い、水素添加樹脂Q6を得た。即ち、内容積1Lの攪拌機付きオートクレーブに、重合反応物5を500g、パラジウム担持アルミナ触媒を1.5g仕込み、系内を窒素で置換し、温度255℃、水素圧力5MPaGで5時間、水素添加反応を行った。
【0097】
水素添加反応後、ロータリーエバポレーターを用いて、温度230℃、窒素気流下で10分間処理し、未反応モノマーを除去した。次いで温度230℃、圧力6.7kPaAで8分間処理し、低分子量体を一部除去して水素添加樹脂Q6を得た。水素添加樹脂Q6の性状を表3に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
【表3】
【0101】
実施例1〜4に示されるように、本発明の製造方法によれば、溶媒を用いることなく、熱重合における高分子量化や多分散化を抑制することができ、また、未精製のジシクロペンタジエン留分を用いた場合においても、色相及び相溶性に優れた水素添加石油樹脂が得られる。
【0102】
従って、本発明の製造方法によれば、粘着付与剤として好適な水素添加石油樹脂を低コストで製造することができる。