(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態にかかるLC共振アンテナについて、添付図面を参照しつつ説明する。本実施形態に係るLC共振アンテナは、例えば、RFIDタグや、通信機器等の物品に組み込まれる小型のアンテナである。
【0024】
なお、本実施形態では、LC共振アンテナが、ICチップ自体に一体形成されているオンチップアンテナのブースターアンテナ或いはICチップとコイルから成る給電コイルのブースターアンテナであることを前提に、以下の説明を行うこととする。
【0025】
LC共振アンテナ1は、
図1、及び
図2に示すように、シートを積層した誘電体層2と、該誘電体層2に設けられた共振回路(採番しない)とを有する。
【0026】
誘電体層2は、
図2に示すように、一方の面にキャパシタ40を構成する電極板400を形成し且つ他方の面に矩形状の金属層8を形成した第一のシートSH1と、一方の面にキャパシタ40を構成する別の電極板400を形成した第二のシートSH2と、一方の面にインダクタ30を形成した第三のシートSH3と、インダクタ30を覆うための第四のシートSH4と、環状の(本実施形態では角環状)の第五のシートSH5とを積層し、熱圧着し、焼結させることによって作製されている。本実施形態では、第二のシートSH2に形成した電極板400を第一電極板401と称し、第一のシートSH1に形成した電極板400を第二電極板402と称する。
【0027】
また、第一のシートSH1の厚み方向を基準にして説明を行うと、誘電体層2は、第一のシートSH1の前記一方の面に対して、第二のシートSH2、第三のシートSH3、第四のシートSH4、第五のシートSH5、を順に前記厚み方向で積層しており、第二電極板402には第二シートSH2の前記一方の面とは反対側の他方の面を重ね、該第二シートSH2の第一電極板401には第三のシートSH3の前記一方の面とは反対側の他方の面を重ねている。
【0028】
なお、本実施形態においては、第一のシートSH1をベース層6、第二電極板402と第二のシートSH2と第一電極板401とをキャパシタ層4、第三のシートSH3とインダクタ30とをインダクタ層3、第四のシートSH4をカバー層5、第五のシートSH5をパッケージング層7と称して以下の説明を行うこととする。また、本実施形態では、インダクタ層3とキャパシタ層4とが重なり合う方向を積層方向と称し、該積層方向に対して直交する方向を面方向と称して以下の説明を行うこととする。
【0029】
なお、第一から第五のシートSH1〜SH5のそれぞれは、単一のシートで構成されていてもよいし、複数のシートを積層することにより構成されていてもよい。
【0030】
図2に示すように、インダクタ層3は、コイル状(本実施形態では渦状)の前記インダクタ30と、前記インダクタ30が形成されるインダクタ形成層31とで構成されている。インダクタ形成層31は、第三のシートSH3である。
【0031】
前記積層方向におけるインダクタ形成層31の一方の層面には、インダクタ30が形成されている。前記積層方向におけるインダクタ形成層31の他方の層面は、キャパシタ層4に対向している。なお、本実施形態では、インダクタ形成層31における前記一方の層面をインダクタ形成面と称して符号「310」を付し、前記他方の層面を対向面と称して以下の説明を行うこととする。
【0032】
また、インダクタ形成層31には、
図3(d)に示すように、前記積層方向において貫通する一対のビア(以下、第一ビアと称する)310a,310bが形成されている。
一対の第一ビア310a,310bは、それぞれの形成位置からインダクタ30のコイル中心までの距離が異なっている。なお、本実施形態では、コイル中心から離れている方の第一ビアを外周側第一ビア310aと称し、コイル中心に近い方の第一ビアを内周側第一ビア310bと称する。
【0033】
インダクタ30は、例えば、金、銀、銅、又はこれらの合金の何れかを主成分とする導電材料(本実施形態では導電ペースト)を用いてインダクタ形成面310に薄膜状に形成したパターンによって構成されている。なお、インダクタ30は、例えば、スクリーン印刷でインダクタ形成面310に印刷されていればよい。また、他の印刷方法(凹版、凸版、インクジェット)で形成しても良いし、印刷以外の手段で所定のパターン形状が得られるならどのような手段でパターン形成しても良い。
【0034】
インダクタ30は、インダクタ形成面310に設定される当該インダクタ30の設置スペースのうち、外周縁に沿う環状領域内で渦状に形成された導体ラインによって構成されている。そのため、設置スペースの中央部側(環状領域よりも内側)は、インダクタ30(導体パターン)が形成されていない非形成領域S(
図4参照)となっている。
【0035】
本実施形態において、インダクタ30の外周側の一端部(外周接続端部)300は、外周側第一ビア310aに対応する位置に形成されており、インダクタ30の内周側の一端部(内周接続端部)301は、内周側第一ビア310bに対応する位置に形成されている。
【0036】
また、インダクタ30を構成する導体ラインには、外周側第一ビア310aに対応する位置から直線状に延びる(本実施形態では、インダクタ形成層31の外周端の一辺に沿って直線状に延びる)外周ライン部302と、該外周ライン部302から延び且つ内側に向かうように渦を巻く中間ライン部303と、該中間ライン部303の先端から内周側第一ビア310bに向かって直線状に延びる内周ライン部304とが含まれている。
【0037】
なお、本実施形態に係る導体ラインには、内周ライン部304の先端に連続するように形成された内側接点部305がさらに含まれており、該内側接点部305が内周側第一ビア310bと対応する位置に形成されている。そのため、本実施形態においては、外周接続端部300が外周ライン部302の長手方向における一端部で構成されており、内周接続端部301が内側接点部305で構成されている。
【0038】
非形成領域Sについてイメージ図を挙げて説明する。非形成領域Sは、
図4に示すように、内周ライン部304の内側の端辺(線幅方向における内側の端辺)を基準として該端辺と同方向に延びる仮想線を仮想直線VLとし、該仮想直線VLと中間ライン部303の内側の端辺とが最初に交差する点を交点Pとした場合に、内周ライン部304の内側の端辺、該内周ライン部304の内側の端辺と中間ライン部303の内側の端辺との交点から前記交点Pまでの部分、そして、前記仮想直線VLによって区画される領域のことである。なお、非形成領域Sには、内側接点部305が部分的に入り込んでいるが、この部分は非形成領域Sとしている。
【0039】
ここで、本実施形態に係るインダクタ層3には、インダクタ形成面310を覆うカバー層5が積層されている。カバー層5には、インダクタ形成面310に対向する層面であるカバー面と、
図3(c)に示すように、前記積層方向において該カバー面とは反対側の層面である基準面50とが含まれており、誘電体層2の外面の一部が基準面50で構成されている。なお、基準面50とは、インダクタ層3に対してキャパシタ層4と前記積層方向における反対側に位置する平面のうち、前記積層方向においてインダクタ3に最も近い平面のことであり、本実施形態においては、カバー層5の外面(上面)のうち、後述する周壁層70に取り囲まれている平面のことである。
【0040】
キャパシタ層4は、
図2に示すように、前記積層方向においてインダクタ形成層31のインダクタ形成面310の反対側の一面(対向面)に積層されている。また、本実施形態に係るキャパシタ層4は、一対の電極板400と、該一対の電極板400の間に介在する中間層410とを有する。そのため、本実施形態では、一対の電極板400間の距離が中間層410の厚み(前記積層方向における厚み)によって決定されている。なお、中間層410は、第二のシートSH2で構成されている。
【0041】
一対の電極板400のうち、インダクタ層3側に配置される電極板400(以下、第一電極板401と称する)は、平らな薄板状に形成されており、前記積層方向において、インダクタ層3と中間層410とに挟み込まれている。
【0042】
また、第一電極板401は、
図3(e)に示すように、平面視形状が矩形状の第一極板部401aで構成されている。
【0043】
さらに、第一極板部401aは、平面視において、前記設置スペースと重なる位置に設けられている。より具体的に説明すると、第一極板部401aは、平面視において、非形成領域の全域と、環状領域の一部又は全部とに重なる位置に設けられている。
【0044】
また、第一極板部401aは、平面視において内周側第一ビア310bと重なる位置に(積層方向において内周側第一ビア310bと対応する位置に)配置されており、内周側第一ビア310bを介して内周接続端部301と第一極板部401aとが電気的に接続されている。
【0045】
中間層410を介して第一電極板401と前記積層方向で並ぶように配置される電極板400(以下、第二電極板402と称する)は、平らな薄板状に形成されている。また、第二電極板402は、
図2に示すように、前記積層方向において中間層410と後述するベース層6とに挟み込まれている。
【0046】
本実施形態に係る第二電極板402は、
図3(f)に示すように、平面視形状が矩形状の第二極板部402aと、該第二極板部402aの外縁から外方に向けて延出する接続用延出部402bとを有する。
【0047】
第二極板部402aは、前記面方向における面積が第一極板部401aの面積よりも広くなっており、平面視においては、第一極板部401aの外周端が全周に亘って第二極板部402aの外周端よりも内側に位置している。なお、第二極板部402aの外周端は、全周に亘って第一極板部401aの外周端よりも内側に位置していてもよい。
【0048】
接続用延出部402bは、平面視において外周側第一ビア310aと重なる位置に(積層方向において外周側第一ビア310aと対応する位置に)配置されている。
【0049】
中間層410には、前記積層方向において外周側第一ビア310a及び接続用延出部402bと対応する位置にビア(以下、第二ビアと称する)410aが形成されている(
図3(e)参照)。そのため、本実施形態では、外周側第一ビア310aと第二ビア410aとを介してインダクタ30の外周接続端部300と第二電極板402の接続用延出部402bとが電気的に接続されている。
【0050】
これにより、本実施形態に係るLC共振アンテナ1では、内周接続端部301と第一電極板401とを電気的に接続し、且つ外周接続端部300と第二電極板402とを電気的に接続することによって、インダクタ30とキャパシタ40とを電気的に接続した共振回路を構成している。
【0051】
また、本実施形態では、平面視における第一電極板401と第二電極板402との重なり面積が、インダクタ30の開口面積、すなわち、非形成領域の面積よりも大きく、且つ前記面方向における誘電体層2の面積よりも小さくなっている。
【0052】
さらに、本実施形態では、キャパシタ層4における中間層410の他方の層面(中間層410のインダクタ層3側とは反対側の層面)に対してベース層6が積層されている。
【0053】
このように、誘電体層2は、シートとしてのインダクタ層3、キャパシタ層4、カバー層5、ベース層6を積層することで構成されている。
【0054】
また、
図2に示すように、インダクタ層3のインダクタ形成層31や、キャパシタ層4の中間層410、カバー層5の厚みは、それぞれ異なっており、これに伴い、前記積層方向におけるインダクタ30とキャパシタ40(具体的には、キャパシタ40の第一電極板401)との間の距離D1、一対の電極板400の間の距離D2、インダクタ30と基準面50との間の距離D3もそれぞれ異なる距離となっている。
【0055】
さらに、本実施形態においては、前記積層方向における基準面50とインダクタ30との距離D3が、前記積層方向におけるインダクタ30と第一電極板401(一対の電極板400のうちの前記積層方向においてインダクタ30側に配置される電極板400)との距離D1よりも小さく、さらに、前記積層方向におけるインダクタ30と第一電極板401との距離D1が、第一電極板401と第二電極板402との間の距離D2(すなわち、キャパシタ40の電極板間距離)よりも大きくなっている。
【0056】
本実施形態に係るLC共振アンテナ1は、誘電体層2に加えて、インダクタ層3の基準面50に積層されたパッケージング層7と、ベース層6に積層された金属層8とをさらに備えている。
【0057】
パッケージング層7は、
図2及び
図3(a)から
図3(c)に示すようにカバー層5の基準面50上に積層される環状の周壁層70を有する。
【0058】
本実施形態では、周壁層70の内周面700と、カバー層5の基準面50のうちの周壁層70の開口に対応する領域により、一つの設置用凹部701が形成されている。
【0059】
なお、本実施形態では、基準面50に二つの周壁層70が積層されているが、基準面50には、一つの周壁層70が積層されていてもよいし、三つ以上の周壁層70が積層されていてもよい。
【0060】
設置用凹部701は、ICチップCを設置するための空間であり、例えば、基準面50にICチップCを載置した後に、設置用凹部701に樹脂を充填することで、ICチップCとLC共振アンテナ1とを一体にすることができる。なお、ICチップCは、ICチップとコイルから成る給電コイルであっても良い。
【0061】
金属層8は、
図2及び
図3(g)に示すように、前記積層方向においてベース層6に重ねられている。また、金属層8は、底面視形状が矩形状であり、前記面方向における面積が第二極板部402a又は第一極板部401aの面積よりも広くなるように形成されている。
【0062】
本実施形態に係るLC共振アンテナ1は、平面視において、第二極板部402aの外周端が全周に亘って金属層8の外周端よりも内側に位置するように構成されている。
【0063】
本実施形態に係るLC共振アンテナ1の構成は、以上の通りである。続いて、本実施形態に係るLC共振アンテナ1の製造方法を説明する。
【0064】
誘電体層2を構成するシートとなるシート材は、テープにスラリーを塗布して乾燥させることによって作製される。
【0065】
スラリーは、セラミック粉末、ガラス粉末(低融点ガラスフリット)、有機バインダー、有機溶剤を撹拌して作製されるものである。
【0066】
なお、シート材は、全体に亘って厚みが一定となるように作製されるため、誘電体層2を構成するシートの厚みごとに個々のシート材を作製する。
【0067】
シート材は乾燥させた後、テープを剥離して除去し、そして、シート材から所定の大きさのシートを切り出す。なお、本実施形態では、シート材から切り出したシートをグリーンシートと称する。
【0068】
続いて、インダクタ層3用のグリーンシートには、外周側第一ビア310a、内周側第一ビア310bとする貫通孔をパンチングまたはレーザーによって形成する。そして、中間層410とするグリーンシートには、第二ビア410aとする貫通孔をパンチングまたはレーザーによって形成する。
【0069】
さらに、インダクタ層3用のグリーンシートには、導電ペーストを用いたスクリーン印刷によって、インダクタ30の形状に合わせたパターンが形成される。このとき、外周側第一ビア310a、内周側第一ビア310bに導電ペーストを充填する。そして、パターンを構成する導電ペースト、及び外周側第一ビア310a、内周側第一ビア310bに充填した導電ペーストを乾燥させる。
【0070】
中間層410用のグリーンシートには、導電ペーストで第一電極板401を印刷し、第二ビア410aには導電ペーストを充填する。そして、第一電極板401を構成する導電ペースト、及び第二ビア410aに充填した導電ペーストを乾燥させる。
【0071】
そして、ベース層6用のグリーンシートの一方の面には、導電ペーストで第二電極板402を印刷し、他方の面には、金属層8を印刷する。
【0072】
なお、インダクタ層3用のグリーンシートには、LC共振アンテナ1複数個分のインダクタパターンと、外周側第一ビア310a、内周側第一ビア310bとが形成される。
【0073】
また、中間層410用のグリーンシートには、LC共振アンテナ1複数個分の第一電極板401と、第二ビア410aとが形成される。同様に、ベース層6用のグリーンシートには、LC共振アンテナ1複数個分の第二電極板402、金属層8が印刷される。
【0074】
誘電体層2を構成する各シートを作製した後、各シートを所定の順に積層し、この状態で各シートを熱圧着することによって一つの積層体を作製し、さらに、該積層体を焼結させることで焼結体を作製する。
【0075】
焼結におけるプロセスは、まず積層体に含まれる有機物をガラス成分の軟化点以下の温度、例えば500℃前後で除去した後、ガラス成分や配線部で使用した導電材料の融点によって決定した温度、例えば800〜1050℃で焼成する。
【0076】
焼結体の表面で剥き出しになった導電部(本実施形態では金属層8)には、Ni(ニッケル)の無電解メッキを施し、続いてAu(金)の無電解メッキを施す。
【0077】
そして、一つの焼結体に対して形成されている複数のLC共振アンテナ1をダイサーにより一つずつ切り出す。このようにして、LC共振アンテナ1が製造される。
【0078】
なお、LC共振アンテナ1の製造時においては、シートの厚みが変化すると、ばらつきを抑制したい電極板間距離D2や、前記距離D1、D3も変化するため、各製造工程を経た後のシートの厚みを所望の厚みにするための制御が重要である。
【0079】
例えば、シート同士を熱圧着する工程(熱圧着工程)や、シートを焼結する工程(焼結工程)では、収縮等の影響でシートの厚みが変化し、また、インダクタ30や、第一電極板401、第二電極板402、金属層8を印刷する工程(印刷工程)では、導体パターンの形状や、寸法、ビアの位置等の影響によりシートの厚みが変化する。
【0080】
そのため、本実施形態では、シート材を作製する工程、すなわち、テープにスラリーを塗布する工程(塗布工程)において、熱圧着工程、焼結工程、印刷工程でのシートの厚みの変化を考慮してテープに塗布するスラリーの厚みを調整することにより、製造したLC共振アンテナ1の各シートの厚み(すなわち、前記距離D1,D2,D3)が所望する寸法となるようにしている。より具体的には、スラリーはドクターブレード法によりテープに塗布され、その際のブレードの刃先の高さを調整することによりシートの厚みを調整することができる。
【0081】
なお、後工程においても、厚みの変化が安定して常に同じ値の変化になるように、各後工程の製造条件を制御することが好ましい。
【0082】
以上のように、本実施形態に係るLC共振アンテナ1によれば、キャパシタ層4が前記積層方向においてインダクタ層3に対して積層されるため、電極板400を設置する領域をインダクタ30に対して積層方向で並ぶ領域に確保することができる。そのため、電極板400(第一電極板401、第二電極板402)を設置する領域では、電極板400のサイズを大きく設定することができ、キャパシタ40の容量を変えないことを前提とすれば、小さいサイズの電極板400に対して一対の電極板400の重なり面積を広げることができる分、一対の電極板400間の距離D2(電極板間距離)を大きくとることができる。
【0083】
また、本実施形態に係るLC共振アンテナ1では、電極板400のサイズを大きく設定できるため、キャパシタ40を一対(2枚)の電極板400のみで構成することが可能となる。
【0084】
このように、前記LC共振アンテナ1は、電極板400の枚数を2枚に減らした構造とすることにより、電極板400間の距離のばらつきがキャパシタ40の容量のばらつきに与える影響を小さくすることができる。
【0085】
従って、LC共振アンテナ1は、電極板400間の距離のばらつきによるキャパシタ40の容量のばらつきを抑えることができるという優れた効果を奏し得る。これにより、LC共振アンテナ1の共振周波数の個体差を小さくすることができるため、通信特性の揃ったLC共振アンテナを製造することが可能になる。
【0086】
また、本実施形態に係るLC共振アンテナ1では、前記インダクタ30と前記一対の電極板400のうちの前記積層方向において前記インダクタ30側に配置される電極板400との距離D1が、前記積層方向における前記一対の電極板400間の距離D2よりも大きくなっているため、キャパシタ40が前記積層方向においてインダクタ30から離れた位置に配置される。
【0087】
そのため、インダクタ30から発生する磁束がキャパシタ40によって遮られ難くなり、磁束の通りが良くなる。
【0088】
さらに、本実施形態に係るLC共振アンテナ1では、前記積層方向における前記基準面50と前記インダクタ30との距離D3が、前記積層方向における前記インダクタ30と前記インダクタ30側に配置される電極板400との距離D1よりも小さく、且つ前記積層方向における前記インダクタ30と前記インダクタ30側に配置される電極板400との距離D1が、前記一対の電極板400の間の距離D2よりも大きくなっている。
【0089】
すなわち、インダクタ30の位置が、誘電体層2の外面に含まれる基準面50側(非形成領域を通過する磁束が進む方向に沿ってインダクタ30を誘電体層2の外面側)に寄り、且つキャパシタ40の第一電極板401から離れるため、誘電体層2の外部における強度が高い磁束を放射できるエリアが拡がるとともに、インダクタ30から発生した磁束がキャパシタ40の第一電極板401によって遮られ難くなる。
【0090】
このように、前記LC共振アンテナ1は、基準面50と第一電極板401の間の限られた範囲内においてインダクタ30の位置を基準面50側に寄せることで、誘電体層2の外部のエリアにおける磁束の強度を高めるとともに、インダクタ30から発生した磁束の強度低下を抑えることができるため、通信の安定性を高めることができる。
【0091】
なお、本実施形態のように、LC共振アンテナ1をブースターアンテナとして用いる場合は、該LC共振アンテナ1と結合する給電コイルを磁束強度の高いエリアに配置すると、LC共振アンテナ1と該給電コイルとの結合が強まるため、通信時のエネルギーロスを抑制でき、その結果、通信距離が伸びるという効果が得られる。
【0092】
そして、本実施形態に係るLC共振アンテナ1では、前記一対の電極板400の重なり面積が、前記インダクタ30の開口面積よりも大きく、且つ前記軸線方向に直交する面方向における前記誘電体層2の面積よりも小さくなっているため、キャパシタ40の容量を変えないことを前提とすれば、一対の電極板400の重なり面積を広げた分、一対の電極板400間の距離D2を大きくとることができる。
【0093】
従って、一対の電極板400の間隔のばらつきに伴うキャパシタ40の容量のばらつきを抑え易くすることができる。
【0094】
なお、本発明のLC共振アンテナは、上記一実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変更を行うことは勿論である。
【0095】
上記実施形態では、オンチップアンテナのブースターアンテナ或いはICチップとコイルから成る給電コイルのブースターアンテナであることを前提としてLC共振アンテナの説明を行ったが、これに限定されるものではなく、LC共振アンテナは、例えば、アンテナが一体形成されていないICチップのメインアンテナとしてもよい。この場合、キャパシタ40にはICチップが直接的に接続される。
【0096】
上記実施形態では、インダクタ30が渦状に形成されていたが、この構成に限定されない。例えば、インダクタ30は、螺旋状であってもよい。なお、螺旋状のインダクタ30を構成する場合は、例えば、導電材料により別々の層の層面に形成した複数のパターンを互いに接続すればよい。
【0097】
上記実施形態において、特に言及しなかったが、インダクタ30や、キャパシタ40の第一電極板401、第二電極板402の前記面方向におけるサイズは、適宜変更可能である。なお、
図5に示すLC共振アンテナ1では、インダクタ30のサイズを大きくし、キャパシタ40の第一電極板401、第二電極板402のサイズを小さくしている。
【0098】
上記実施形態では、平面視における第一電極板401と第二電極板402との重なり面積が、インダクタ30の開口面積、すなわち、非形成領域の面積よりも大きくなっていたが、例えば、前記重なり面積をインダクタ30の開口面積以下としてもよい。但し、前記重なり面積が大きい方が、第一電極板401と第二電極板402との距離(電極板間距離)を大きくとることができる。
【0099】
上記実施形態において、カバー層5にはパッケージング層7が積層されていたが、カバー層5にはパッケージング層7が積層されていなくてもよい。なお、カバー層5にパッケージング層7を積層している方がICチップCとLC共振アンテナ1とを一体形成し易くなる。
【0100】
上記実施形態において、誘電体層2(ベース層6)には金属層8が積層されていたが、ベース層6には金属層8が積層されていなくてもよい。なお、LC共振アンテナ1を金属層8が含まれている構造とする場合、予め金属による共振周波数への影響を考慮して共振回路を設計することができるため、金属製の構造物等にLC共振アンテナ1を取り付けても共振周波数が変化してしまうことを防止することができる。
【実施例】
【0101】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。
【0102】
(実施例1)
図5に示すLC共振アンテナ1と同様の構造のLC共振アンテナ1を実施例1として用意した。また、実施例1は、設置用凹部701にオンチップアンテナを備えたICチップCを設置した後に樹脂を充填し、ブースターアンテナとして構成した。なお、インダクタ30と、キャパシタ40の電極板400の材質は銅であり、誘電体層2、パッケージング層7の誘電率は、7.7である。
【0103】
(実施例2)
また、
図6に示すように、上記実施例1の金属層8を金属Mに貼り付けたものを実施例2として用意した。
【0104】
(比較例)
図7に示すように、インダクタ30とキャパシタ40とを前記面方向において完全にずれた位置に設けたLC共振アンテナ1において、設置用凹部701に、オンチップアンテナを備えたICチップCを設置し樹脂を充填したものを比較例とした。なお、比較例のLC共振アンテナ1は、金属Mには貼り付けていない。
【0105】
また、比較例のキャパシタ層4では、4枚の電極板400を前記積層方向で並べて配置されており、パッケージング層7の一部をキャパシタ層4として構成している。さらに、比較例では、ベース層6がインダクタ形成層31を兼ねるように構成されている。
【0106】
実施例1,2及び比較例のインダクタ30、キャパシタ40の詳細な寸法は、下表1の通りである。
【0107】
【表1】
【0108】
なお、実施例1,2及び比較例におけるインダクタ形成層31、ベース層6、カバー層5、パッケージング層7の厚みは下表2の通りである。
【0109】
【表2】
【0110】
(共振周波数のばらつき測定試験)
実施例1に係るLC共振アンテナ1を40個、比較例に係るLC共振アンテナ1を80個用意し、各LC共振アンテナ1の共振周波数を測定し、共振周波数のばらつき度合いを確認した。40個の実施例1に係るLC共振アンテナ1の測定結果を
図8に示し、80個の比較例に係るLC共振アンテナ1の測定結果を
図9に示す。
【0111】
(試験結果)
図8、
図9に示すように、実施例1に係るLC共振アンテナ1よりも、比較例に係るLC共振アンテナ1の方が共振周波数に大きな個体差が生じていることから、電極板400の極板間隔を広くとって、電極板400の枚数を少なくすると、共振周波数に生じる個体差、すなわち、キャパシタ40の容量のばらつきを抑えることができることが分かる。
【0112】
(設置対象物の違いによる共振周波数への影響測定試験)
実施例1,2に係るLC共振アンテナ1をそれぞれ40個ずつ用意し、各LC共振アンテナ1の共振周波数を測定した。そして、40個分の実施例1のLC共振アンテナ1の共振周波数の平均値と、40個分の実施例2のLC共振アンテナ1の共振周波数の平均値とを求めた。
【0113】
(試験結果)
実施例1のLC共振アンテナ1の共振周波数の平均値は921.0MHzであり、実施例2のLC共振アンテナ1の共振周波数の平均値は919.0MHzであった。この試験結果から、実施例1,2のLC共振アンテナ1のように、金属層8を備えていれば、取付対象物が金属であっても共振周波数に影響(変化)が少なく、取付対象物が金属である場合と非金属である場合とで共振周波数が変わってしまうことを抑制できることが分かる。
【0114】
(実施例3〜22)
続いて、インダクタ30とキャパシタ40の距離D1と磁束の通り易さとの関係性を確認すべく、実施例3〜22を用意した。実施例3〜22は、
図5に示す構造のLC共振アンテナ1から金属層8を除いたものである。
【0115】
実施例3〜9は、何れも前記積層方向における一対の電極板400間の距離D2が0.06mmとなるように構成されている。また、実施例3〜9は、前記積層方向におけるインダクタ30と第一電極板401との距離D1が個々に異なっており、実施例3の前記距離D1が最も小さく、実施例9の前記距離D1が最も大きくなっている。
【0116】
なお、実施例3〜9の各実施例において、一方の電極板400(第一電極板401)と他方の電極板400(第二電極板402)とは、互いに同じサイズとなっている。また、実施例3〜9では、通信周波数が920MHzとなるように電極板400の縦幅Cyを調整しているため、実施例毎に電極板400の縦幅Cyが異なっている。
【0117】
実施例3〜9の前記距離D1、D2及び電極板400の横幅Cx,縦幅Cyの一覧を下表3に示す。
【0118】
【表3】
【0119】
実施例10〜17は、何れも前記積層方向における一対の電極板400間の距離D2が0.05mmとなるように構成されている。また、実施例10〜17は、前記積層方向におけるインダクタ30と第一電極板401との距離D1が個々に異なっており、実施例10の前記距離D1が最も小さく、実施例17の前記距離D1が最も大きくなっている。
【0120】
なお、実施例10〜17の各実施例においても、一方の電極板400(第一電極板401)と他方の電極板400(第二電極板402)とは互いに同じサイズとなるように形成されている。また、実施例10〜17では、通信周波数が920MHzとなるように各電極板400の縦幅Cyを調整しているため、実施例毎に電極板400の縦幅Cyが異なっている。
【0121】
実施例10〜17の前記距離D1、D2及び電極板400の横幅Cx,縦幅Cyの一覧を下表4に示す。
【0122】
【表4】
【0123】
実施例18〜22は、何れも前記積層方向における一対の電極板400間の距離D2が0.04mmとなるように構成されている。また、実施例18〜22は、前記積層方向におけるインダクタ30と第一電極板401との距離D1が個々に異なっており、実施例18の前記距離D1が最も小さく、実施例22の前記距離D1が最も大きくなっている。
【0124】
なお、実施例18〜22の各実施例においても、一方の電極板400(第一電極板401)と他方の電極板400(第二電極板402)とは互いに同じサイズとなるように形成されている。また、実施例18〜22では、通信周波数が920MHzとなるように各電極板400の縦幅Cyを調整しているため、実施例毎に電極板400の縦幅Cyが異なっている。
【0125】
実施例18〜22の前記距離D1、D2及び電極板400の横幅Cx,縦幅Cyの一覧を下表5に示す。
【0126】
【表5】
【0127】
(電磁界シミュレーションに基づく通信距離の評価)
実施例3〜22のLC共振アンテナ1について、電磁界シミュレーションにより磁場分布を算出し、この磁場分布を基にして通信距離を算出した。
図10に示すように、前記電極板間距離D2が0.06mmの場合(実施例3〜9の場合)、0.05mmの場合(実施例10〜17の場合)、0.04mmの場合(実施例18〜22の場合)、何れの場合においても、前記距離D1が広がるにつれて通信距離も伸びていることから、前記距離D1が広がるとインダクタ30から発生する磁束がキャパシタ40によって遮られ難くなるため、磁束の通りが良くなる分、通信距離も伸びることが分かる。