特許第6586536号(P6586536)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6586536
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】セルスタック装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0271 20160101AFI20190919BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20190919BHJP
   H01M 8/028 20160101ALI20190919BHJP
   H01M 8/0276 20160101ALI20190919BHJP
   H01M 8/0273 20160101ALI20190919BHJP
   H01M 8/2485 20160101ALI20190919BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20190919BHJP
【FI】
   H01M8/0271
   H01M8/12 101
   H01M8/028
   H01M8/0276
   H01M8/0273
   H01M8/2485
   H01M8/12 102A
   H01M8/04 Z
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2019-33548(P2019-33548)
(22)【出願日】2019年2月27日
【審査請求日】2019年2月27日
(31)【優先権主張番号】特願2018-205278(P2018-205278)
(32)【優先日】2018年10月31日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 俊之
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕己
(72)【発明者】
【氏名】大森 誠
【審査官】 橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−049324(JP,A)
【文献】 特開2017−045701(JP,A)
【文献】 特開2000−331692(JP,A)
【文献】 特開2016−115629(JP,A)
【文献】 特開2009−129852(JP,A)
【文献】 特開2016−39049(JP,A)
【文献】 特開2017−98145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M8/00−8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガス及び酸化剤ガスによって発電するセルスタック装置であって、
各々が固体電解質、並びに前記固体電解質を挟むように設けられた燃料極及び空気極、を有し、互いに積層される複数の燃料電池セルと、
前記セルスタック装置を構成する部材の隙間を密閉するシール部材と、
を備え、
前記シール部材は、
ガスに露出する露出面を含む第1領域と、
ガスに露出する露出面を含まず、前記第1領域の気孔率よりも気孔率が低い第2領域と、
を有する、セルスタック装置。
【請求項2】
前記シール部材は、枠状である、請求項1に記載のセルスタック装置。
【請求項3】
前記シール部材は、前記燃料極と前記空気極との間を隔離する、請求項1または2に記
載のセルスタック装置。
【請求項4】
前記シール部材は、前記セルスタック装置の内部と外部とを隔離する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のセルスタック装置。
【請求項5】
前記第1領域は、前記露出面からの距離が50μm以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のセルスタック装置。
【請求項6】
前記第1領域の気孔径は、0.1μm以上20μm以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のセルスタック装置。
【請求項7】
前記第2領域の気孔率に対する前記第1領域の気孔率の比が1.25以上200以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のセルスタック装置。
【請求項8】
前記シール部材における前記露出面からの最大距離に対する、前記第1領域における前記露出面からの最大距離の比が0.00050以上0.10以下である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のセルスタック装置。
【請求項9】
前記第1領域と前記第2領域との境界の少なくとも一部は、前記露出面に沿った面である、請求項1〜8のいずれか1項に記載のセルスタック装置。
【請求項10】
前記シール部材は、板状部材に挟まれており、
前記第1領域と前記第2領域の境界の少なくとも一部は、前記板状部材の少なくとも一方の側端面の外側に位置している、請求項1〜9のいずれか1項に記載のセルスタック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルスタック装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
平板状の固体電解質と、固体電解質を挟むように設けられた燃料極及び空気極と、を有する燃料電池セルが複数積層された平板形のセルスタック装置が知られている(例えば特許文献1)。特許文献1には、燃料ガスと酸化剤ガスとが存在する区画を区分するセパレータが、封止材を用いて燃料電池セルに取り付けられていることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−49324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の封止材に、応力が加えられると、クラックが発生する場合がある。そこで、本発明の課題は、シール部材におけるクラックを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のある側面に係るセルスタック装置は、燃料ガス及び酸化剤ガスによって発電するセルスタック装置である。セルスタック装置は、複数の燃料電池セルと、シール部材と、を備えている。複数の燃料電池セルの各々は、固体電解質、並びに固体電解質を挟むように設けられた燃料極及び空気極を有する。複数の燃料電池セルは、互いに積層される。シール部材は、セルスタック装置を構成する部材の隙間を密閉する。シール部材は、第1領域と、第2領域と、を有する。第1領域は、ガスに露出する露出面を含む。第2領域は、第1領域の気孔率よりも気孔率が低い。
【0006】
この構成によれば、シール部材は、ガスに露出する側の第1領域と、ガスに露出しない第2領域とを有する。第1領域は、第2領域よりも気孔率が大きい。これにより、応力が加えられる露出面近傍の第1領域の変形性を向上できる。また、シール部材において応力が加えられる露出面から離隔した第2領域の気孔率は小さい。このため、第2領域によって、シール部材の強度低下を抑制できる。したがって、第1領域の応力緩和と、第2領域の強度低下の抑制とによって、シール部材におけるクラックを抑制できる。
【0007】
好ましくは、シール部材は、枠状である。
【0008】
好ましくは、シール部材は、燃料極と空気極との間を隔離する。
【0009】
好ましくは、シール部材は、セルスタック装置の内部と外部とを隔離する。
【0010】
好ましくは、第1領域は、露出面からの距離が50μm以下である。
【0011】
好ましくは、第1領域の気孔径は、0.1μm以上20μm以下である。
【0012】
好ましくは、第2領域の気孔率に対する第1領域の気孔率の比が1.25以上200以下である。
【0013】
好ましくは、シール部材における露出面からの最大距離に対する、第1領域における露出面からの最大距離の比が0.00050以上0.1以下である。
【0014】
好ましくは、第1領域と前記第2領域との境界の少なくとも一部は、露出面に沿った面である。
【0015】
好ましくは、シール部材は、板状部材に挟まれている。第1領域と第2領域の境界の少なくとも一部は、板状部材の少なくとも一方の側端面の外側に位置している。
【0016】
好ましくは、シール部材において、第1領域よりも第2領域が大きい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、シール部材におけるクラックを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】セルスタック装置の斜視図。
図2】セルスタック装置の断面図。
図3】セルスタックの拡大断面図。
図4】シール部材の詳細を示す拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るセルスタック装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0020】
図1及び図2に示すように、セルスタック装置1は、複数の燃料電池セル10と、締結部材21〜28と、セパレータ30と、シール部材100と、を備えている。セルスタック装置1は、複数の燃料電池セルが複数積層された構造を有している。すなわち、セルスタック装置1は、いわゆる平板形のセルスタック構造である。
【0021】
締結部材21〜28は、複数の燃料電池セル10を締結する。締結部材の4本には、積層方向(z軸)に沿って酸化剤ガスまたは燃料ガスが流れる流路が形成されている。本実施形態では、締結部材23は燃料ガス供給管として用いられ、締結部材27は燃料ガス排出管として用いられ、締結部材25は酸化剤ガス供給管として用いられ、締結部材21は酸化剤ガス排出管として用いられる。
【0022】
[燃料電池セル]
図2に示すように、燃料電池セル10は、固体電解質11と、空気極12と、燃料極13と、を有している。燃料電池セル10は、平面視(z軸方向視)において、矩形状である。なお、燃料電池セル10は、固体酸化物形燃料電池として構成されている。
【0023】
固体電解質11は、平板状であり、主面が積層方向(z軸方向)を向いている。空気極12は、固体電解質11の一方の主面に配置されている。燃料極13は、固体電解質11の他方の主面に配置されている。すなわち、固体電解質11は、空気極12と燃料極13とによって挟まれている。なお、本実施形態では、固体電解質11の上面に空気極12が配置され、固体電解質11の下面に燃料極13が配置されている。
【0024】
燃料電池セル10の厚さ(z軸方向の寸法)は全体に渡って実質的に均一である。例えば、燃料電池セル10の厚さは、100〜2100μm程度である。本実施形態では、燃料極13は、固体電解質11及び空気極12の各々よりも厚く構成されている。このため、燃料極13は、固体電解質11及び空気極12を支持するように構成されている。
【0025】
具体的には、燃料極13の厚さは50〜2000μmとすることができ、固体電解質11の厚さは1〜50μmとすることができ、空気極12の厚さは50〜200μmとすることができる。
【0026】
固体電解質11は、例えば、YSZを含む緻密質材料で構成される。空気極12は、例えば、LSM(La(Sr)MnO:ランタンストロンチウムマンガナイト)、LSCF((La,Sr)(Co,Fe)O:ランタンストロンチウムコバルトフェライト)などを含む多孔質材料で構成される。燃料極13は、例えば、NiとYSZとを含む多孔質材料で構成される。固体電解質11の気孔率は0〜10%程度とすることができ、空気極12の気孔率は15〜55%程度とすることができ、燃料極13の気孔率は15〜55%程度とすることができる。固体電解質11の熱膨張率は、9〜11ppm/Kであり、空気極12の熱膨張率は11〜17ppm/Kであり、燃料極13の熱膨張率は、11〜14ppm/Kとすることができる。
【0027】
[セパレータ]
セパレータ30は、燃料電池セル10に接続される。詳細には、セパレータ30は、固体電解質11とシール部材100により接合されている。セパレータ30は、固体電解質11の周縁部と接続されている。セパレータ30は、燃料ガスが流れる空間と酸化剤ガスが流れる空間とを区画する。このため、セパレータ30は、酸化剤ガスと燃料ガスとの混合を防止する機能を有している。
【0028】
セパレータ30は、枠状である。セパレータは、例えば、金属で構成される。セパレータ30は、好ましくは、フェライト系ステンレス、オーステナイト系ステンレス、あるいはNi系耐熱合金(例えば、インコネル600及びハステロイ等)で構成されている。セパレータ30の厚みは、例えば10〜1000μmとすることができる。セパレータの熱膨張率は、例えば11〜18ppm/K程度とすることができる。
【0029】
[インターコネクタ]
インターコネクタ40は、燃料電池セル10間の導通を確保する。また、インターコネクタ40は、燃料電池セル10間でのガスの混合を防止する。インターコネクタ40は、板状であり、x軸方向及びy軸方向に延びる。インターコネクタ40は、例えば、金属で構成される。
【0030】
なお、図2に示すように、最上層及び最下層には、インターコネクタ40の代わりに、保持板41が配置されてもよい。
【0031】
[集電体]
集電体50は、燃料電池セル10の空気極12及び燃料極13と、インターコネクタ40との間の導通を確保する。集電体50は、例えば、インターコネクタ40から空気極12に向けて突出する複数の突出部である。また集電体50は、例えば、インターコネクタ40から燃料極13に向けて突出する複数の突出部である。各突出部は、互いに間隔をあけて配置されている。各突出部の間は、ガス流路を構成する。例えば、集電体50は、y軸方向に間隔をあけて配置され、x軸方向に延びている。集電体は、例えば、金属で構成される。
【0032】
[シール部材]
シール部材100は、セルスタック装置1を構成する部材の隙間を密閉する。シール部材100は、例えば、板状部材に挟まれている。セルスタック装置1において、シール部材100は、複数設けられている。シール部材100は、例えば、図2及び図3に示すように、第1シール部材110及び第2シール部材120を含む。
【0033】
詳細には、第1シール部材110は、空気極12と燃料極13との間を隔離している。すなわち、第1シール部材110は、燃料ガスが流れる空間と、酸化剤ガスが流れる空間とを区画している。第1シール部材110は、例えば、固体電解質11とセパレータ30とを接合する接合材である。
【0034】
第2シール部材120は、複数の部材の隙間を密閉した結果、セルスタック装置1の内部空間と外部空間とを区画している。すなわち、第2シール部材120は、セルスタック装置1の内部と外部とを隔離している。第2シール部材120は、例えば、空気極12に供給する酸化剤ガスの流路、及び燃料極13に供給する燃料ガスの流路を構成する部材に設けられた接合材である。第2シール部材120は、例えば、セパレータ30、インターコネクタ40及び締結部材23、27を接合する接合材である。
【0035】
また、シール部材は、第3シール部材(図示せず)をさらに含んでもよい。第3シール部材は、例えばセパレータ30とインターコネクタ40とを接合する接合材である。詳細には、第3シール部材は、セパレータ30とインターコネクタ40とを、他の部材を用いずに単独で、または、他の部材が配置された状態で、接合する。他の部材は、例えばセパレータ30とインターコネクタ40との間を絶縁するための絶縁材、コンプレッションシール材などである。なお、セパレータ30とインターコネクタ40とが他の部材で封止されている場合には、第3シール部材は、省略されてもよい。
【0036】
第1及び第2シール部材110、120は、ガスと接する。第1及び第2シール部材110、120は、枠状である。すなわち、第1及び第2シール部材110、120は、連続した一体の環状である。
【0037】
図3及び図4に示すように、シール部材100は、第1領域101と、第2領域102とを有している。第1領域101は、ガスに露出する露出面100aを含む。詳細には、第1領域101は、酸化剤ガス、燃料ガスなどのガスに露出する露出面100aを含む。すなわち、第1領域101は、気相に面している露出面100aから内部に向けて延びる。第2領域102は、シール部材100において第1領域101を除く残部である。第2領域102は、ガスに露出していない。第1領域101と第2領域102との境界Bの少なくとも一部は、露出面100aに沿った面である。本実施形態の境界Bの一部は、露出面100aに沿っている。
【0038】
図4に示すように、第1領域101は、露出面100aからの距離L1が例えば50μm以下の領域である。すなわち、第1領域101と第2領域102との境界Bは、露出面100aからの距離L1が50μm以下の位置である。第1領域101は、露出面100aからの距離L1が好ましくは0μmを超えて50μm以下、より好ましくは2μm以上45μm以下、最も好ましくは5μm以上40μm以下の領域である。なお、「露出面からの距離L1」は、露出面100aのそれぞれの位置における接線に垂直な直線の長さである。
【0039】
第1領域101と第2領域102の境界Bの少なくとも一部は、シール部材100を挟む板状部材の少なくとも一方の側端面の外側に位置している。例えば、図4では、シール部材100はセパレータ30及び固体電解質11に挟まれており、第1領域101と第2領域102との境界Bの少なくとも一部は、固体電解質11の側端面よりも外側に位置している。
【0040】
第2領域102の気孔率は、第1領域101の気孔率よりも低い。このため、第1領域101は、高い変形性を有し、第2領域102は、高い強度及びシール性を有している。詳細には、還元過程、温度分布が生じる際などに、燃料電池セル10に反りが発生することにより、シール部材100に応力が加えられる。この変形による応力を、第1領域101が変形することにより緩和できる。第1領域101の応力緩和の効果を維持しつつ、第2領域102により、シール部材100全体の強度低下を抑制できる。
【0041】
第1領域101の気孔率は、好ましくは5.0%以上25%以下であり、より好ましくは5.0%以上20%以下である。5.0%以上であると、変形性がより向上し、応力を緩和する効果がより得られる。一方、25%以下であると、強度低下の影響を抑制できる。
【0042】
第2領域102の気孔率は、好ましくは0.10%以上4.0%以下であり、より好ましくは0.10%以上3.0%以下である。4.0%以下であると、良好なシール性を確保できる。第2領域102の気孔率についてはシール性の観点でより小さいほど好ましいが、作製容易性の観点から0.10%以上が好ましい。
【0043】
上記「気孔率」は、FE−SEMの断面画像を画像解析により気孔部分を数値化することで測定される値である。具体的には、FE−SEMで1000〜20000倍に拡大した画像をMVTec社製の画像解析ソフトHALCONによって解析する。解析後の断面画像上でシール部材を構成する材料部分と気孔部分とのそれぞれの面積占有率を求め、気孔部分の面積占有率を気孔率として定義する。断面画像は、第1領域101及び第2領域102ともに各10視野について撮影して気孔率を数値化し、その平均値を第1領域101及び第2領域102の気孔率とする。
【0044】
第2領域102の気孔率に対する第1領域101の気孔率の比(第1領域101の気孔率/第2領域102の気孔率)は、好ましくは1.20以上25000以下であり、より好ましくは1.25以上200以下であり、より一層好ましくは1.60以上100以下である。上記範囲内とすることで、シール性と応力緩和との効果を両立することができる。
【0045】
第1領域101の気孔径は、例えば0.1μm以上20μmであり、好ましくは0.1μm以上10μm以下であり、より好ましくは0.2μm以上8μm以下である。0.1μm以上であると、変形性が向上し、応力をより緩和する効果が得られる。20μm以下であると、強度低下の影響を抑制できる。
【0046】
上記「気孔径」は、FE−SEMの断面画像の画像解析により求めた気孔の円相当径の値である。ここで、円相当径とは、断面の画像解析により求められる測定対象(粒子や気孔)の面積値を有する円の直径である。気孔率の算出と同様に、断面画像は10視野について撮影して気孔径を数値化する。各視野の平均気孔径を算出し、10視野の平均気孔径をさらに平均したものを気孔径として定義する。ただし、平均気孔径の算出の際には、0.01μm以下の気孔径のものを除く。
【0047】
なお、第1領域101及び第2領域102の気孔率及び気孔径は、例えば、熱処理前に添加される有機成分を含有する造孔材の大きさ及び量(体積割合)を調整することによって制御できる。
【0048】
シール部材100における露出面100aからの最大距離Lに対する第1領域101を区画する露出面100aからの距離L1の比(L1/L)は、例えば0.5未満である。第2領域の最大距離(L−L1)は、距離L1よりも大きい。つまり、シール部材100において、第1領域101よりも第2領域102は、大きい。
【0049】
比(L1/L)は、好ましくは0.00008以上0.5未満であり、より好ましくは0.00050以上0.10以下であり、より一層好ましくは0.00050以上0.03以下である。上記範囲内とすることで、強度と応力緩和との効果を両立することができる。
【0050】
燃料電池セル10の幅方向に沿った断面(z軸方向視)において、シール部材100の面積に対する第1領域101の面積の比(第1領域101の面積/シール部材100の面積)は、好ましくは0.0002以上0.5未満であり、より好ましくは0.002以上0.3以下である。上記範囲内とすることで、強度と応力緩和との効果を両立することができる。
【0051】
なお、第1領域101及び第2領域102の距離及び面積は、第1領域101及び第2領域102となるべき材料を塗布する量及び範囲を調整することによって制御できる。
【0052】
第1領域101と第2領域102とを構成する材料は、同じであってもよく、異なっていてもよい。また、第1領域101は、単一の材料で構成されてもよく、複数の材料で構成されてもよい。同様に、第2領域102は、単一の材料で構成されてもよく、複数の材料で構成されてもよい。
【0053】
シール部材100は、例えば、結晶化ガラスである。結晶化ガラスとしては、例えば、SiO−B系、SiO−CaO系、またはSiO−MgO系が採用され得る。なお、本明細書では、結晶化ガラスとは、全体積に対する「結晶相が占める体積」の割合(結晶化度)が60%以上であり、全体積に対する「非晶質相及び不純物が占める体積」の割合が40%未満のガラスを指す。なお、シール部材100の材料として、非晶質ガラス、ろう材、またはセラミックス等が採用されてもよい。具体的には、シール部材100は、SiO−MgO−B−Al系及びSiO−MgO−Al−ZnO系よりなる群から選ばれる少なくとも一種である。
【0054】
ここで、第1領域101及び第2領域102は、さらに気孔率の異なる複数の部分を有していてもよい。この場合、シール部材100は、露出面100aに向けて気孔率が増加することが好ましい。つまり、シール部材100の気孔率は、露出面100aに向けて常に同じまたは増加している。
【0055】
セルスタック装置1において、絶縁を確保するための絶縁材(図示せず)が適宜配置される。絶縁材は、例えば、セパレータ30とインターコネクタ40との間、燃料ガス及び酸化剤ガスの流路となる締結部材21、23、25、27などに対して配置される。
【0056】
以上のように構成されたセルスタック装置1は、次のようにして発電する。空気極12に酸化剤ガスを流すとともに、燃料極13に燃料ガス(水素ガス等)を流す。そして、このセルスタック装置1を外部の負荷に接続すると、空気極12において下記(1)式に示す電気化学反応が起こり、燃料極13において下記(2)式に示す電気化学反応が起こり、電流が流れる。
(1/2)・O+2e→O2− …(1)
+O2−→HO+2e …(2)
【0057】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0058】
上述した実施形態では、シール部材100として、第1シール部材110及び第2シール部材120を例に挙げて説明したが、これに限定されない。本発明のシール部材は、セルスタック装置1において設けられる任意のシール部材に適用できる。
【0059】
また、上述した実施形態では、シール部材100の全てが、第1領域101及び第2領域102を備えているが、これに限定されない。少なくとも1つのシール部材100が第1領域101及び第2領域102を備えていればよい。
【0060】
また、上述した実施形態の第1領域101は、ガスに露出した露出面100aから内部に延びるが、これに限定されない。第1領域101は、シール部材100の表面においてガスに露出していない非露出面から、内部に延びてもよい。すなわち、第1領域101が、非露出面を有してもよい。
【0061】
[実施例1]
本実施例では、第1領域101の気孔率よりも気孔率が低い第2領域102を有するシール部材100の効果について調べた。
【0062】
(サンプルNo.1〜23)
固体電解質と枠状のセパレータとを接合する種々のシール部材100を備える、図1図4に示すセルスタック装置を準備した。燃料電池セル10の積層方向(z軸方向)に沿った断面において、第1シール部材110の気孔率を測定した。第1領域101における露出面100aからの最大距離L1、及び第1シール部材110における露出面100aからの最大距離Lを下記の表1に記載する。なお、第1シール部材110は、結晶化ガラスで構成されていた。サンプルNo.2〜5、7〜10、12〜15、17〜23において、第1シール部材110となるべき材料に有機成分を含有する造孔材を種々の量で添加した後、熱処理によって第1シール部材110を形成した。
【0063】
第1シール部材110において、第1領域101の気孔率は5.0%であり、第2領域102の気孔率は0.10%であった。なお、「気孔率」は、FE−SEMの断面画像を画像解析により気孔部分を数値化することで測定した。具体的には、FE−SEMで1000〜20000倍に拡大した画像をMVTec社製の画像解析ソフトHALCONによって解析した。解析後の断面画像上でガラス材料部分と気孔部分とのそれぞれの面積占有率を求め、気孔部分の面積占有率を気孔率として定義した。断面画像は、第1領域101及び第2領域102ともに各10視野について撮影して気孔率を数値化し、その平均値を第1領域101及び第2領域102の気孔率とした。
【0064】
また、第1領域101の気孔径は、0.1μmであった。なお、「気孔径」は、FE−SEMの断面画像の画像解析により求めた気孔の円相当径の値である。円相当径とは、断面の画像解析により求められる測定対象(粒子及び気孔)の面積値を有する円の直径である。気孔率の算出と同様に、断面画像は10視野について撮影して気孔径を数値化した。各視野の平均気孔径を算出し、10視野の平均気孔径をさらに平均したものを気孔径として定義した。
【0065】
サンプルNo.1〜23のセルスタック装置について、熱サイクル試験により、ガスリーク量及びクラックの有無を調べた。具体的には、各セルスタック装置を電気炉内に設置し、室温から800℃まで昇降温速度400℃/hrでの上げ下げを10回繰り返した後、電気炉から取り出して、ガスリーク量とクラック発生の有無とを調べた。その結果を下記の表1に記載する。
【0066】
表1において、ガスリーク量については、空気極から燃料極へリークするガスの流量を測定した。詳細には、セルスタック装置1の酸化剤ガス排出管出口端部及び燃料ガス排出管入口端部を封止した上で、酸化剤ガス供給管よりアルゴンガスを供給し、燃料ガス供給管の出口端部に設けた流量計によりガスリーク量を測定した。クラック有無の確認については、セルスタック装置を解体して第1シール部材110の表面に浸透探傷剤を塗布し、マイクロスコープで観察することにより行った。
【表1】
【0067】
表1に示すように、気孔率の大きい第1領域を有していないサンプルNo.1、6、11及び16は、ほとんど変形できない。このため、熱サイクル試験時にセパレータ30及び燃料電池セル10の少なくとも一方が変形することによって第1シール部材110に応力が加えられたので、露出面100aからクラックが発生した。その結果、内部空間に導入されたアルゴンガスが漏れ出してしまった。
【0068】
一方、気孔率の大きい第1領域101を有するサンプルNo.2〜5、7〜10、12〜15、17〜23は、変形が可能であった。このため、熱サイクル試験時の応力によってセパレータ30及び燃料電池セル10が変形しても、第1シール部材110に発生する応力を緩和できた。つまり、サンプルNo.2〜5、7〜10、12〜15、17〜23では、第1領域101の変形による応力緩和が有効に機能することで、第1シール部材110におけるクラックを抑制できた。その結果、ガスリークが発生しないことを確認した。
【0069】
また、第1領域101が50μmを超えるサンプルNo.5、10、15、20及び21は、露出面100aからの距離L1が50μmであるサンプルNo.4、9、14及び19と比べて、変形性は同程度である。このことから、距離L1が50μmを超えても、変形性を大きく向上できないことがわかる。したがって、気孔率が相対的に大きい第1領域101が露出面100aから0μmを超えて50μm以下であると、シール部材100の高い変形性を発現できるので、還元過程及び温度分布環境下での燃料電池セル10及びセパレータ30の反りに有効である。
【0070】
さらに、サンプルNo.5、10、15、20及び21は、変形性は高いものの、最大距離Lが同じシール部材と比較すると第2領域102が小さくなるので、シール部材全体としての強度低下を生じ、微小なクラックが生じた。なお、微小なクラックなので、ガスリークは生じなかった。
【0071】
また、比(L1/L)が0.00050未満のサンプルNo.22は、第1領域101が小さかったので変形性がやや低下し、微小なクラックが生じた。比(L1/L)が0.10を超えるサンプルNo.5及び21は、第2領域102が小さくなるので、シール部材全体としての強度低下を生じ、微小なクラックが生じた。
【0072】
このように、サンプルNo.2〜5、7〜10、12〜15、17〜23は、シール部材において、変形性を確保するための第1領域101と、強度を確保する第2領域102とを備えているので、クラックを防止できた。特に、L1が50μm以下で、かつ比(L1/L)が0.00050以上0.10以下のサンプルNo.2〜4、7〜9、12〜14、17〜19、23は、第1領域101による変形性と第2領域102による強度とによって、クラック発生を非常に抑制できた。
【0073】
なお、サンプルNo.2〜5、7〜10、12〜15、17〜23のシール部材100において、第1領域101と第2領域102との境界の少なくとも一部は、気相に面した露出面100aに沿った面であった。
【0074】
以上より、第1領域101の気孔率よりも気孔率が低い第2領域102を有するシール部材100を備えることにより、高い変形性と、高い強度とを両立できるので、クラックを抑制できることが確認できた。
【0075】
[実施例2]
本実施例では、実施例1と同様のセルスタック装置において、第1領域101及び第2領域102の気孔率を制御することの効果について、調べた。なお、表2におけるガスリーク量及びクラック有無について、実施例1と同様の熱サイクル試験で評価した。
【表2】
【0076】
表2に示すように、第1領域101の気孔率が5.0%未満のサンプルNo.24及び43は、ガスリークは生じなかったが、第1領域101による変形性が小さかったので、微小なクラックが発生した。第2領域102の気孔率が4.0%を超えるサンプルNo.42は、ガスリークは生じなかったが、第2領域102による強度が小さかったので、微小なクラックが生じた。
【0077】
また、第2領域320の気孔率に対する第1領域310の気孔率の比が1.25未満のサンプルNo.43は、ガスリークは生じなかったが、第1領域101による変形性が小さかったので、微小なクラックが発生した。また、第2領域320の気孔率に対する第1領域310の気孔率の比が200を超えるサンプルNo.28は、ガスリークは生じなかったが、第2領域102による強度が小さかったので、微小なクラックが生じた。
【0078】
特に、第1領域の気孔率が5.0%以上であり、第2領域102の気孔率が4.0%以下であり、第2領域320の気孔率に対する第1領域310の気孔率の比が1.25以上200以下のサンプルNo.25〜27、29〜41は、第1領域101の変形性を高めるとともに、第2領域102の強度を高めることによる効果をより発現できる。
【0079】
[実施例3]
本実施例では、実施例1と同様のセルスタック装置において、第1領域101の気孔径を制御することの効果について、調べた。なお、下記の表3におけるガスリーク量及びクラック有無について、実施例1と同様に評価した。
【表3】
【0080】
表3に示すように、第1領域101の気孔径が0.1μm以上20μm以下のサンプルNo.45〜49は、この範囲外のサンプルNo.44及び50に比べて、クラック発生を抑制できた。このため、第1領域101の変形性を高めることによる効果をより発現できる。
【0081】
なお、サンプルNo.44及び50のセルスタック装置は、第1領域101を有していたので、微小なクラックは発生したものの、ガスリークは生じなかった。
【0082】
ここで、上記実施例1〜3では、結晶化ガラスで構成された第1シール部材110について、説明した。非晶質ガラスで構成された第1シール部材110及びろう材で構成された第1シール材についても、同様の結果であった。
【0083】
また、上記実施例1〜3では、燃料極と空気極との間を隔離する第1シール部材について、説明した。セルスタック装置の内部と外部とを隔離する第2シール部材についても、同様の結果であった。なお、第2シール部材のガスリーク量の測定は、以下の通りであった。セルスタック装置1の酸化剤ガス排出管出口端部と、燃料ガス排出管の入口及び出口端部とを封止した。酸化剤ガス供給管の入口端部に、流量計を設けた。この状態で、酸化剤ガス供給管より、所定圧力までアルゴンガスを供給した。所定圧力に達した時点で、リークがない場合には、流量計に表示される流量は下限値未満となり、リークがある場合には、流量計に流量値が表示された。これにより、セルスタック装置内部の酸化剤ガス流路と外部との隙間を密閉する第2シール部材のガスリークの有無を確認した。同様の手順により、燃料極側についても、セルスタック装置内部の燃料ガス流路と外部との隙間を密閉する第2シール部材のガスリークの有無を確認した。
【符号の説明】
【0084】
1 セルスタック装置
10 燃料電池セル
30 セパレータ
100 シール部材
100a 露出面
101 第1領域
102 第2領域
【要約】
【課題】シール部材におけるクラックを抑制する。
【解決手段】セルスタック装置は、燃料ガス及び酸化剤ガスによって発電するセルスタック装置1である。セルスタック装置1は、複数の燃料電池セル10と、シール部材100とを備えている。燃料電池セル10の各々は、固体電解質11、並びに固体電解質11を挟むように設けられた燃料極13及び空気極12を有する。複数の燃料電池セル10は、互いに積層されている。シール部材100は、セルスタック装置1を構成する部材の隙間を密閉する。シール部材100は、第1領域101と、第2領域102とを有する。第1領域101は、ガスに露出する露出面100aを含む。第2領域102は、第1領域101の気孔率よりも気孔率が低い。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4