【文献】
Li Zhoubo, et al.,Image-based material decomposition with a general volume constraint for photon-counting CT,Progress in Biomedical Optics and Imaging, SPIE,2015年 3月18日,vol. 9412,94120T-1 - 94120T-8
【文献】
Xu Qiaofeng, et al.,Sparsity-Regularized Image Reconstruction of Decomposed K-Edge Data in Spectral CT,Physics in Medicine and Biology,2014年 5月21日,vol.59, no.10,N65-N79
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記全体的関数は、前記複数の物質についての前記複数の光電減衰係数および前記複数の物質についての前記複数のコンプトン散乱減衰係数を含む関数に従って決定される全変動項を含む、請求項1記載の装置。
前記全変動項は、前記複数の物質にわたる総和を含み、該総和は、前記複数の物質についての各光電係数が前記複数の物質についての対応するコンプトン散乱係数に加えられたものを含む、請求項3記載の装置。
前記全体的関数は、前記画像位置における前記光電全減衰係数;前記画像位置における前記コンプトン散乱全減衰係数;前記複数の物質についての前記複数の光電減衰係数;および前記複数の物質についての前記複数のコンプトン散乱減衰係数を含む関数に従って決定される疎性項を含む、請求項1ないし4のうちいずれか一項記載の装置。
前記疎性項は、前記画像位置における前記光電全減衰係数が前記複数の物質のうちのある物質についての光電減衰係数から減算されたものを含み、前記疎性項は、前記画像位置における前記コンプトン散乱全減衰係数が前記複数の物質のうちの前記物質についてのコンプトン散乱減衰係数から減算されたものを含む、請求項5記載の装置。
前記全体的関数は:前記画像位置における前記光電全減衰係数;前記画像位置における前記コンプトン散乱全減衰係数;前記複数の物質についての前記複数の光電減衰係数;および前記複数の物質についての前記複数のコンプトン散乱減衰係数を含む関数に従って決定されるデータ忠実度項を含む、請求項1ないし7のうちいずれか一項記載の装置。
前記データ忠実度項は、前記複数の物質のうちのある物質についての光電減衰係数にその物質の体積分率を乗算したものの、前記物質の全部についての総和を含み、この総和は、前記画像位置における前記光電全減衰係数から減算され;前記データ忠実度項は、前記複数の物質のうちのある物質についてのコンプトン散乱減衰係数にその物質の体積分率を乗算したものの、前記物質の全部についての総和を含み、この総和は、前記画像位置における前記コンプトン散乱全減衰係数から減算される、請求項8記載の装置。
前記処理部は、前記オブジェクトの前記少なくとも一つの分光X線画像の分解から前記オブジェクトの前記少なくとも一つの画像を生成するよう構成される、請求項1ないし9のうちいずれか一項記載の装置。
請求項12記載の方法を実行するよう請求項1ないし10のうちいずれか一項記載の装置および/または請求項11記載のシステムを制御するためのコンピュータ・プログラム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
オブジェクトの複数物質分解のための改善された装置を有することが有利であろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、独立請求項の主題により解決される。さらなる実施形態は従属請求項に組み込まれる。本発明の以下の記述される側面および例は、オブジェクトの複数物質分解、オブジェクトの複数物質分解のためのシステム、オブジェクトの複数物質分解のための方法ならびにコンピュータ・プログラム要素およびコンピュータ可読媒体についても当てはまることを注意しておくべきである。
【0010】
第一の側面によれば、オブジェクトの複数物質分解のための装置であって:
・入力部と;
・処理部と;
・出力部とを有するものが提供される。
【0011】
入力部は、処理部に、オブジェクトの少なくとも一つの画像を提供するよう構成される。前記少なくとも一つの画像は、オブジェクトの少なくとも一つのデュアル・エネルギー分光X線画像から導出される。前記少なくとも一つの画像は、光電全減衰係数画像およびコンプトン散乱全減衰係数画像を含む。入力部は、少なくとも四つの物質を含む複数の物質についての複数の光電減衰係数を処理部に提供するよう構成され、各光電減衰係数は対応する物質に関連付けられている。入力部はまた、前記複数の物質についての複数のコンプトン散乱減衰係数を処理部に提供するよう構成され、各コンプトン散乱減衰係数は対応する物質に関連付けられている。処理部は、前記少なくとも一つの画像における画像位置において全体積制約条件を、その画像位置における前記複数の物質の個々の体積の和の関数として設定するよう構成される。処理部はまた、全体的関数に従って前記画像位置における前記複数の物質の体積分率を決定するよう構成される。該全体的関数は:前記光電全減衰係数画像から取られた前記画像位置における光電全減衰係数、前記コンプトン散乱全減衰係数画像から取られた前記画像位置におけるコンプトン散乱全減衰係数;前記複数の物質についての前記複数の光電減衰係数;前記複数の物質についての前記複数のコンプトン散乱減衰係数;および前記全体積制約条件を含む。前記全体的関数を解くために逐次反復式の最小化アルゴリズムが使われる。出力部は、前記複数の物質の体積分率を表わすデータを出力するよう構成される。
【0012】
このようにして、デュアル・エネルギー・コンピュータ断層撮影画像法が、四つ以上の物質への物質分解のための備えを提供するために使用できる。換言すれば、オブジェクトは、四つ以上の異なる物質種別によって表現されることができ、デュアル・エネルギー計算機断層撮影画像法が、オブジェクトの、それぞれ異なる物質種別によって特徴付けられる四つ以上の画像を提供するために使用されることができる。
【0013】
換言すれば、デュアル・エネルギー計算機断層撮影画像法が、物質の辞書および体積保存制約条件との組み合わせにおいて使用されることができ、全変動正則化(total variation regularization)および疎分解機構(sparse decomposition mechanism)が、四つ以上の物質への物質分解のための備えを提供するために最適化問題を解くために利用されることができる。
【0014】
これを別の言い方をすれば、デュアル・エネルギー画像法が、高速で、自動的で、正確で、堅牢な複数物質分解を実行するために使用できる。
【0015】
一例では、前記全体的関数は、前記複数の物質についての前記複数の光電減衰係数および前記複数の物質についての前記複数のコンプトン散乱減衰係数を含む関数に従って決定される全変動(Total Variation)項を含む。
【0016】
一例では、前記全変動項は、前記複数の物質のうちのある物質についての光電係数がその物質についてのコンプトン散乱係数に加えられたものを含む。
【0017】
一例では、前記全変動項は、前記複数の物質にわたる総和を含む。該総和は、前記複数の物質についての各光電係数が前記複数の物質についての対応するコンプトン散乱係数に加えられたものを含む。
【0018】
一例では、前記全体的関数は、前記画像位置における前記光電全減衰係数;前記画像位置における前記コンプトン散乱全減衰係数;前記複数の物質についての前記複数の光電減衰係数;および前記複数の物質についての前記複数のコンプトン散乱減衰係数を含む関数に従って決定される疎性(Sparsity)項を含む。
【0019】
一例では、前記疎性項は、前記画像位置における前記光電全減衰係数が前記複数の物質のうちのある物質についての光電減衰係数から減算されたものを含み、前記疎性項は、前記画像位置における前記コンプトン散乱全減衰係数が前記複数の物質のうちの前記物質についてのコンプトン散乱減衰係数から減算されたものを含む。
【0020】
一例では、前記疎性項は、前記物質のうちの少なくとも一つの、期待される体積分率についての情報を含む。
【0021】
一例では、前記全体的関数は:前記画像位置における前記光電全減衰係数;前記画像位置における前記コンプトン散乱全減衰係数;前記複数の物質についての前記複数の光電減衰係数;および前記複数の物質についての前記複数のコンプトン散乱減衰係数を含む関数に従って決定されるデータ忠実度(data fidelity)項を含む。
【0022】
一例では、前記データ忠実度項は、前記複数の物質のうちのある物質についての光電減衰係数にその物質の体積分率を乗算したものの、前記物質の全部についての総和を含む。この総和は、前記画像位置における前記光電全減衰係数から減算される。また、前記データ忠実度項は、前記複数の物質のうちのある物質についてのコンプトン散乱減衰係数にその物質の体積分率を乗算したものの、前記物質の全部についての総和を含む。この総和は、前記画像位置における前記コンプトン散乱全減衰係数から減算される。
【0023】
一例では、処理部は、オブジェクトの前記少なくとも一つの分光X線画像の分解からオブジェクトの前記少なくとも一つの画像を生成するよう構成される。
【0024】
換言すれば、デュアル・エネルギーX線画像は、所定のエネルギーについての各ピクセル位置における光電減衰係数を含む一つの画像と、前記所定のエネルギーについての各ピクセル位置におけるコンプトン散乱減衰係数を含む第二の画像とに分解される。これを別の言い方をすれば、デュアル・エネルギー・データが、諸画像ピクセル位置における光電全断面積およびコンプトン散乱全断面積の重み付けされたバージョンの形で基底関数を決定するために使われる。
【0025】
第二の側面によれば、オブジェクトの複数物質分解のための医療システムであって:
・画像取得部と;
・第一の側面に基づくオブジェクトの複数物質分解のための装置とを有するものが提供される。
【0026】
画像取得部は、オブジェクトの前記少なくとも一つのデュアル・エネルギー分光X線画像を取得するよう構成される。前記処理部は、複数の画像位置における前記複数の物質の体積分率を決定するよう構成される。前記出力部は、前記複数の物質の前記複数の体積分率に基づいてオブジェクトの少なくとも一つの画像を出力するよう構成される。
【0027】
第三の側面によれば、オブジェクトの複数物質分解のための方法であって:
a)オブジェクトの少なくとも一つの画像を提供する段階であって、前記少なくとも一つの画像は、オブジェクトの少なくとも一つのデュアル・エネルギー分光X線画像から導出され、前記少なくとも一つの画像は、光電全減衰係数画像およびコンプトン散乱全減衰係数画像を含む、段階と;
b)複数の物質についての複数の光電減衰係数を提供する段階であって、各光電減衰係数は対応する物質に関連付けられている、段階と;
c)前記複数の物質についての複数のコンプトン散乱減衰係数を提供する段階であって、各コンプトン散乱減衰係数は対応する物質に関連付けられている、段階と;
d)前記少なくとも一つの画像における画像位置において全体積制約条件を、その画像位置における前記複数の物質の個々の体積の和の関数として設定する段階と;
e)全体的関数に従って前記画像位置における前記複数の物質の体積分率を決定する段階であって、該全体的関数は:前記光電全減衰係数画像から取られた前記画像位置における光電全減衰係数、前記コンプトン散乱全減衰係数画像から取られた前記画像位置におけるコンプトン散乱全減衰係数;前記複数の物質についての前記複数の光電減衰係数;前記複数の物質についての前記複数のコンプトン散乱減衰係数;および前記全体積制約条件を含み、前記全体的関数を解くために逐次反復式の最小化アルゴリズムが使われる、段階と;
f)前記複数の物質の体積分率を表わすデータを出力する段階と含み、前記複数の物質は少なくとも四つの物質を含む、
方法が提供される。このようにして、前記アルゴリズムは、身体部分およびファントムのようなオブジェクトの撮像に適用されることができる。
【0028】
もう一つの側面によれば、先述した装置を制御するコンピュータ・プログラム要素が提供される。該コンピュータ・プログラム要素は、前記処理部によって実行されると、先述した方法段階を実行するよう適応される。
【0029】
もう一つの側面によれば、先述したコンピュータ要素を記憶しているコンピュータ可読媒体が提供される。
【0030】
上記の側面のいずれかによって提供される恩恵は、他の側面のすべてに等しく当てはまり、逆も成り立つ。
【0031】
上記の側面および例は、以下に記載される実施形態から明白となり、それを参照することで明快にされるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は、オブジェクトの複数物質分解のための装置10の例を示している。装置10は、入力部20と、処理部30と、出力部40とを有する。入力部20は、処理部30に、オブジェクトの少なくとも一つの画像50を提供するよう構成される。前記少なくとも一つの画像50は、オブジェクトの少なくとも一つの分光X線画像60から導出される。前記少なくとも一つの画像50は、光電全減衰係数画像52およびコンプトン散乱全減衰係数画像54を含む。入力部20はまた、複数の物質80についての複数の光電減衰係数70を処理部30に提供するよう構成され、各光電減衰係数は対応する物質に関連付けられている。入力部20はまた、前記複数の物質80についての複数のコンプトン散乱減衰係数90を処理部30に提供するよう構成され、各コンプトン散乱減衰係数は対応する物質に関連付けられている。処理部30は、前記少なくとも一つの画像50における画像位置56において全体積制約条件100を、その画像位置における前記複数の物質の個々の体積の和の関数として設定するよう構成される。処理部30はまた、全体的関数に従って前記画像位置における前記複数の物質の体積分率120を決定するよう構成される。該全体的関数は:前記光電全減衰係数画像52から取られた前記画像位置56における光電全減衰係数52a、前記コンプトン散乱全減衰係数画像54から取られた前記画像位置56におけるコンプトン散乱全減衰係数54a;前記複数の物質80についての前記複数の光電減衰係数70;前記複数の物質80についての前記複数のコンプトン散乱減衰係数90;および前記全体積制約条件100を含む。出力部40は、前記複数の物質80の体積分率120を表わすデータを出力するよう構成される。
【0034】
一例では、前記光電全減衰係数画像は、各ピクセル位置(ボクセル)において、そのピクセル位置についての有効物質についての有効光電減衰係数を含む画像である。有効物質は、この減衰係数をもつであろう物質である。換言すれば、あるピクセル位置における実際の構成要素物質が、あたかもそれらの混合した物質が一つの物質であるかのように有効減衰係数を与える。同じことは、コンプトン散乱画像についてもいえる。
【0035】
一例では、本装置は、断層合成撮像または画像表示において使用できる。このように、一例では、本装置は、X線断層合成に適用されることができる。
【0036】
一例では、本装置は、断層合成撮像または画像表示において使用できる。一例では、本装置は、デジタル断層合成撮像または画像表示に適用されることができる。
【0037】
一例では、本装置は、通常の減衰X線撮像に適用されることができ、よってオブジェクトにおける四つ以上の物質の撮像のための備えを提供するとともに、得られた画像におけるビームハードニング効果を緩和することができる。
【0038】
一例では、前記少なくとも一つの画像は、エネルギー分解光子計数検出器を使って取得された少なくとも一つの分光X線画像から導出される。換言すれば、同時に二つ以上のエネルギーで動作するX線源が、デュアル・エネルギー画像の取得を同時に提供するために使用されることができる。一例では、デュアル源構成および/または高速kVp切り換えスキャン構成が、前記デュアル・エネルギー画像を取得することにおいて使用される。ここで、二つのエネルギーにおける画像は同時に取得される必要はない。
【0039】
換言すれば、前記少なくとも一つの画像が少なくとも一つの分光X線画像から導出されるので、本装置は、以前に取得された分光画像に関する後処理モードにおいて使用されることができる。
【0040】
一例では、前記全体積制約条件は、項
【数1】
を含む。すなわち、構成要素物質の体積の和が混合物の和と等価であるという想定がされる。
【0041】
一例では、前記複数の物質は少なくとも四つの物質を含む。
【0042】
一例では、前記オブジェクトは人間の被験者の身体部分のような身体部分である。一例では、前記オブジェクトは、非破壊試験の間の機械部品検査などにおいて検査されているまたは検査された非生物オブジェクトまたは空港もしくは港において検査されている荷物である。
【0043】
一例によれば、前記全体的関数は、前記複数の物質80についての前記複数の光電減衰係数70および前記複数の物質80についての前記複数のコンプトン散乱減衰係数90を含む関数に従って決定される全変動(Total Variation)項を含む。
【0044】
一例によれば、前記全変動項は、前記複数の物質80のうちのある物質82についての光電係数72がその物質82についてのコンプトン散乱係数92に加えられたものを含む。
【0045】
一例では、複数の物質n(80とも称される)のうちの物質i(82とも称される)についての光電係数はp
i(72とも称される)と書かれ、物質iについてのコンプトン散乱係数はs
i(92とも称される)と書かれ、全変動項は重み因子w
ig=p
i+s
iをもつ。一例では、全変動項は、
【数2】
と表わされる、最小化されるべき体積分率の粗さペナルティーを含む。Miは物質iの体積分率である。
【0046】
一例によれば、全変動項は、前記複数の物質にわたる総和を含む。該総和は、前記複数の物質80についての各光電係数70が前記複数の物質についての対応するコンプトン散乱係数90に加えられたものを含む。
【0047】
一例では、全変動項は、総和
【数3】
を含む。
【0048】
一例によれば、全体的関数は、前記画像位置56における前記光電全減衰係数52a;前記画像位置56における前記コンプトン散乱全減衰係数54a;前記複数の物質80についての前記複数の光電減衰係数70;および前記複数の物質80についての前記複数のコンプトン散乱減衰係数を含む関数に従って決定される疎性(Sparsity)項を含む。
【0049】
一例によれば、前記疎性項は、前記画像位置56における前記光電全減衰係数52aが前記複数の物質80のうちのある物質82についての光電減衰係数から減算されたものを含む。前記疎性項はまた、前記画像位置56における前記コンプトン散乱全減衰係数54aが前記複数の物質80のうちの前記物質82についてのコンプトン散乱減衰係数92から減算されたものを含む。
【0050】
(複数の物質nのうちの)物質iについての光電係数はp
iと書かれ、物質iについてのコンプトン散乱係数はs
iと書かれ、画像位置における光電全減衰係数はP(52aとも称される)と書かれ、画像位置におけるコンプトン散乱全減衰係数はS(54aとも称される)と書かれ、前記疎性項は重み因子
【数4】
を含む。
【0051】
一例では、前記疎性項は、項
【数5】
を含む。ここで、Miは物質iの体積分率である。このように、所定の物質辞書(またはライブラリまたはデータ・ストア)からの諸物質の疎な組み合わせをもつ解が提供されることができる。
【0052】
一例によれば、前記疎性項は、前記物質のうちの少なくとも一つの、期待される体積分率についての情報を含む。
【0053】
一例では、物質重みw
iは、アルゴリズムに事前情報を導入するために使用されることができる。たとえば、スキャンされるオブジェクトにおける物質iの期待される体積についての事前の知識がある場合、物質重みw
iはそれに応じて調整されることができる。
【0054】
一例によれば、前記全体的関数は:前記画像位置56における前記光電全減衰係数52a;前記画像位置56における前記コンプトン散乱全減衰係数54a;前記複数の物質80についての前記複数の光電減衰係数70;および前記複数の物質80についての前記複数のコンプトン散乱減衰係数90を含む関数に従って決定されるデータ忠実度(data fidelity)項を含む。
【0055】
一例によれば、前記データ忠実度項は、前記複数の物質80のうちのある物質についての光電減衰係数70にその物質の体積分率を乗算したものの、前記物質80の全部についての総和を含む。この総和は、前記画像位置56における前記光電全減衰係数52aから減算される。前記データ忠実度項はまた、前記複数の物質80のうちのある物質についてのコンプトン散乱減衰係数90にその物質の体積分率を乗算したものの、前記物質80の全部についての総和を含む。この総和は、前記画像位置における前記コンプトン散乱全減衰係数54aから減算される。
【0056】
一例では、スペクトル基底分解(spectral basis decomposition)を使って導出された一対のスペクトル基底画像がある。それら二つの画像は光電画像およびコンプトン散乱画像であり、前記画像位置(ピクセル位置)における全光電係数はPと称され、前記画像位置における全コンプトン散乱係数はSと称される。さらに、n個の物質の辞書が与えられる。ここで、辞書における物質iについて、p
iおよびs
iは、それぞれ分光画像およびコンプトン散乱画像におけるその物質の減衰係数である。この例では、全体的関数は、次の合同最適化問題を使って解かれる:
【数6】
ここで、M
iは物質iの体積分率マップ、すなわちスキャンされたオブジェクトの諸物質の混合における物質iの体積分率であり;w
igはTV重み因子(たとえばw
ig=p
i+s
i)であり、w
iは疎性および事前情報重み因子(sparsity and prior information weight factor)
【数7】
であり;β、λおよびαは、関数の項の間での種々のトレードオフを提供するよう調整されうる制御パラメータであり;
【数8】
はアダマール積であり、t
iは物質iについての上側閾値である。
【0057】
一例によれば、前記全体的関数を解くために、逐次反復式の最小化アルゴリズムが使用される。
【0058】
一例では、汎関数の値が常に減少する逐次反復式の交互最小化(alternating minimization)アルゴリズムが利用される。このアルゴリズムは次のように述べられる。
【0059】
次の交互の物質マップ更新を逐次反復する:
【数9】
ここで、Dは方向の集合{E,N,W,S,U,D}であり;iは体積(少なくとも一つの画像)中の現在のボクセル(画像位置)のインデックスであり、方向「E」の重みは次のように与えられる:
【数10】
ここで、εは小さな数、たとえばε=0.001であり、d
x、d
yおよびd
zはボクセル(画像位置)寸法である。
他の方向についての重みが同様の仕方で導出される。
【数11】
【0060】
一例によれば、処理部は、オブジェクトの前記少なくとも一つの分光X線画像の分解からオブジェクトの前記少なくとも一つの画像を生成するよう構成される。
【0061】
図2は、オブジェクトの複数物質分解のための医療システム200を示している。システム200は、画像取得部210と、
図1を参照して記述したオブジェクトの複数物質分解のための装置10とを有する。画像取得部210は、オブジェクトの前記少なくとも一つの分光X線画像60を取得するよう構成される。処理部20は、複数の画像位置における前記複数の物質の体積分率を決定するよう構成される。出力部40は、前記複数の物質の前記複数の体積分率に基づいてオブジェクトの少なくとも一つの画像を出力するよう構成される。
【0062】
一例では、前記画像取得部はX線撮像装置、たとえば断層合成装置を有する。
【0063】
図3は、オブジェクトの複数物質分解のための方法300をその基本段階において示している。方法300は:
段階a)とも称される提供段階310において、オブジェクトの少なくとも一つの画像が提供される。前記少なくとも一つの画像は、オブジェクトの少なくとも一つの分光X線画像から導出され、前記少なくとも一つの画像は、光電全減衰係数画像およびコンプトン散乱全減衰係数画像を含む;
段階b)とも称される提供段階320では、複数の物質についての複数の光電減衰係数が提供され、各光電減衰係数は対応する物質に関連付けられている;
段階c)とも称される提供段階330では、前記複数の物質についての複数のコンプトン散乱減衰係数が提供される。各コンプトン散乱減衰係数は対応する物質に関連付けられている;
段階d)とも称される設定段階340では、前記少なくとも一つの画像における画像位置において全体積制約条件が、その画像位置における前記複数の物質の個々の体積の和の関数として設定される;
段階e)とも称される決定段階350では、全体的関数に従って前記画像位置における前記複数の物質の体積分率が決定される。該全体的関数は:前記光電全減衰係数画像から取られた前記画像位置における光電全減衰係数、前記コンプトン散乱全減衰係数画像から取られた前記画像位置におけるコンプトン散乱全減衰係数;前記複数の物質についての前記複数の光電減衰係数;前記複数の物質についての前記複数のコンプトン散乱減衰係数;および前記全体積制約条件を含む;
段階f)とも称される出力段階360では、前記複数の物質の体積分率を表わすデータが出力される。
【0064】
オブジェクトの複数物質分解のための装置、システムおよび方法の例が、ここで、
図4との関連でより詳細に記述される。
【0065】
図4は、オブジェクトの複数物質分解のためのシステム200の例を示している。この例において、オブジェクトは、人間または動物の身体部分であり、全身であることができる。しかしながら、当業者は、オブジェクトがたとえば、空港または港において検査される荷物または非破壊試験の間に検査されるコンポーネントであることができることを理解するであろう。システム200は、X線計算機断層撮影スキャナーのような画像取得ユニット210を含む。システム200は、分光投影データを生成し、その分光データを基底集合に分解するよう構成される。画像取得ユニット210は、取得ユニット210の中心に示される検査領域を横切る放射を放出するX線管のような一つまたは複数のX線源を含む。X線源は、異なる電圧で動作する、可能性としては異なる電圧の間で切り替わる二つのX線源、あるいは二つの電圧(たとえば80および100kVまたは100および120kV)の間で切り替わるX線源であることができる。X線源は、ある範囲のエネルギーにわたって広帯域のX線放射を放出する源であることができる。X線源と反対側の検出器が、検査領域を通過する放射を検出する。検出器は、単数または複数の源が、異なる時に異なる電圧で動作するときに、各電圧について投影データを生成することができ、あるいはエネルギー分解検出器が、同時に動作する二つのX線源についてまたは広帯域X線源についての異なるエネルギーにおける分光投影データを同時に取得するために使用されることができる。そのようなエネルギー分解二層検出器が
図5に示されている。患者がテーブル上に横たわることができる。テーブルは検査領域中に移動する。一つまたは複数の身体部分の、実際には必要なら全身の、分光投影データが生成/取得されることができる。投影データは、少なくとも一つの投影画像(少なくとも一つの分光X線画像)60として表現されることができる。画像取得ユニット内または別個のワークステーション内に収容されている分解ユニットが、前記少なくとも一つの分光X線画像60または分光データを、少なくとも一つの基底画像50、たとえば光電減衰画像52とコンプトン減衰係数画像54;水およびヨウ素成分;水およびカルシウム成分;またはアセタール・ホモポリマー樹脂、たとえばDelrin(登録商標)とスズ成分;および/または他の基底画像に分解する。このように、少なくとも一つの分光画像60が通信ケーブルを介して画像取得ユニットからワークステーションに渡されることができ、これは、前記少なくとも一つの画像50を導出するために使われる。あるいは、前記少なくとも一つの画像50は、前記少なくとも一つの分光画像60から、画像取得ユニット210内で生成され、通信ケーブルを介してワークステーションに渡される。ワークステーションは、さまざまな物質についての、画像取得ユニットの動作の諸エネルギーにおける、コンプトン散乱および光電係数のライブラリ(辞書)へのアクセスをもつ。さらに、身体部分内における特定の物質またはいくつかの異なる物質の期待される寄与に関係する情報が、ワークステーションに入力されることができる。ここで、この事前の知識が、物質分解を実行するときに使用されることができる。たとえば、操作者は、オブジェクトの一部の、あるいは実にオブジェクト全体の体積の半分が特定の物質でできていることを事実として知っていることがありうる。
図1を参照して述べたような複数物質分解のための装置10は、部分的には画像取得ユニット210およびワークステーション内に収容される。つまり、装置10の部分の全部が画像取得ユニット内に収容されることができ、あるいは該装置のいくつかの部分が画像取得ユニット内にあり、いくつかの部分がワークステーション内にあることができ、あるいは完全にワークステーション内に収容されることができる。装置10は、基底画像52および54を取り、散乱減衰係数値のライブラリを、何らかの事前情報および体積制約条件情報とともに使い、これらの画像は各ボクセルにおいて処理されて、身体部分画像内のそれらのボクセル(体積ピクセル)において身体を複数の物質に分解する。当該画像内に二つ以上の物質が示されている一つまたは複数の画像の、異なる物質種別の四つ以上の別個の画像のような分解された画像は、ワークステーション上で呈示されることができ、および/または外部に送信されることができる。
【0066】
図5は、二層検出器アレイを示している。これは、各層の異なる有効分光感度によって分光情報を得るために使われる二つのシンチレーターのスタックである。該アレイの一つのピクセルを拡大図で示している。検出器ピクセルは、上下に重ねられた二つのシンチレーターから構成され、X線は上から入射する。低エネルギーX線は上のシンチレーターに吸収され、吸収がより長い波長の放射の放出につながり、それがそのシンチレーターの側方に位置するフォトダイオードによって検出される。下のシンチレーターは高エネルギーX線を吸収し、やはり再放出された、より長い波長の放射が、そのシンチレーターに付随する第二のフォトダイオードによって検出される。
【0067】
下記は、オブジェクトの複数物質分解のための装置、システムおよび方法内で使用される複数物質分解のために使われるアルゴリズムおよびモデルの詳細な記述である。上記で論じたように、オブジェクトは、人間または動物の身体部分または身体部分の一部であることができるが、非生物オブジェクトであることもでき、アルゴリズムはファントムに対して使用されることができる。
【0068】
〈アルゴリズム入力〉
上記で論じたように、前記セグメンテーション・アルゴリズムへの入力は、現行の一般的なDEスキャン手法の任意のもの、たとえばデュアル源構成、高速kVp切り換えスキャンまたは二層検出器構成を使って取得できる。
【0069】
〈MMDモデル〉
想起しておくと、分光基底分解を使って導出された一対の分光基底画像PおよびS、たとえば光電画像およびコンプトン散乱画像が提供される。分光基底分解についてのさらなる情報は、非特許文献4に見出せる。さらに、物質の辞書が与えられる。ここで、辞書における物質iについて、p
iおよびs
iはそれぞれ光電画像およびコンプトン散乱画像におけるその物質の減衰係数である。この状況について、MMDは、次の合同最適化問題を使ってモデル化される。
【数12】
ここで、M
iは物質iの体積分率マップ、すなわちスキャンされるオブジェクトの物質の混合における物質iの体積分率であり;w
igはTV重み因子(たとえばw
ig=p
i+s
i)であり、w
iは疎性および事前情報重み因子(sparsity and prior information weight factor)
【数13】
であり;β、λおよびαは、関数の項の間での種々のトレードオフを提供するよう調整される制御パラメータであり;
【数14】
はアダマール積であり、t
iは物質iについての上限閾値である。
【0070】
この最適化問題において、重み付けされたTV項
【数15】
は、最小化されるべき、物質体積分率の粗さペナルティーを表わす。項
【数16】
はデータ忠実度項である。項
【数17】
は体積保存制約条件である。すなわち、構成成分物質の体積の和が、混合物の体積と等価であると想定する。L
1ノルム項
【数18】
は、あらかじめ決定された物質辞書(またはライブラリ)からの物質の疎な組み合わせをもつ解につながる。さらに、物質重みw
iはアルゴリズムに事前情報を導入するために使用されることができる。つまり、スキャンされるオブジェクトにおける物質iの期待される体積についての事前の知識がある場合には、物質重みw
iがしかるべく調整されることができる。
【0071】
〈交互最小化アルゴリズム〉
上記の式における上記の最適化問題について、汎関数の値が常に減少する、逐次反復式の交互最小化アルゴリズムが開発される。
【0072】
このアルゴリズムは次のように述べられる。
【0073】
次の交互の物質マップ更新を逐次反復する:
【数19】
ここで、Dは方向の集合{E,N,W,S,U,D}であり;iは体積中の現在のボクセルのインデックスであり、方向「E」の重みは次のように与えられる:
【数20】
ここで、εは小さな数、たとえばε=0.001であり、d
x、d
yおよびd
zはボクセル寸法である。
他の方向についての重みが同様の仕方で導出される。
【数21】
【0074】
〈アルゴリズム出力〉
アルゴリズム出力は、各物質iについての体積分率マップM
i、すなわち、スキャンされたオブジェクトの諸物質の混合における物質iの体積分率である。さらに、p
iM
iおよびs
iM
iはそれぞれ光電画像およびコンプトン散乱画像への物質iの減衰係数寄与である。
【0075】
もう一つの例示的実施形態では、適切なシステム上で上記の実施形態のうちの一つに基づく方法の方法段階を実行するよう構成されていることを特徴とする、コンピュータ・プログラムまたはコンピュータ・プログラム要素が提供される。
【0076】
よって、コンピュータ・プログラム要素は、やはり実施形態の一部であってもよいコンピュータ・ユニットに記憶されてもよい。このコンピューティング・ユニットは、上記の方法の段階を実行するまたは該実行を誘起するよう構成されてもよい。さらに、上記の装置および/またはシステムのコンポーネントを動作させるよう構成されてもよい。コンピューティング・ユニットは、自動的に動作するおよび/またはユーザーの命令を実行するよう適応されることができる。コンピュータ・プログラムは、データ・プロセッサの作業メモリにロードされてもよい。このようにデータ・プロセッサは、上記の実施形態のうちの一つに基づく方法を実行するために備えがされてもよい。
【0077】
本発明のこの例示的実施形態は、最初から本発明を使うコンピュータ・プログラムおよび更新により既存のプログラムを本発明を使うプログラムに変えるコンピュータ・プログラムの両方をカバーする。
【0078】
さらに、コンピュータ・プログラム要素は、上記の方法の例示的実施形態の手順を充足するために必要な段階すべてを提供することができてもよい。
【0079】
本発明のさらなる例示的実施形態によれば、コンピュータ可読媒体、たとえばCD-ROMが提示される。該コンピュータ可読媒体には、コンピュータ・プログラム要素が記憶されており、該コンピュータ・プログラム要素は前節に記述されている。
【0080】
コンピュータ・プログラムは、他のハードウェアと一緒にまたは他のハードウェアの一部として供給される光記憶媒体または半導体媒体のような好適な媒体上で記憶および/または頒布されてもよいが、インターネットまたは他の有線もしくは無線の遠隔通信システムを介してなど、他の形で頒布されてもよい。
【0081】
しかしながら、コンピュータ・プログラムはワールド・ワイド・ウェブのようなネットワーク上で呈示されてもよく、そのようなネットワークからデータ・プロセッサの作業メモリにダウンロードされることができる。本発明のさらなる例示的実施形態によれば、本発明の先述した実施形態の一つに基づく方法を実行するよう構成されているコンピュータ・プログラム要素をダウンロードのために利用可能にするための媒体が提供される。
【0082】
本発明の実施形態は種々の主題を参照して記述されていることを注意しておくべきである。特に、いくつかの実施形態は方法型の請求項を参照して記述され、他の実施形態は装置型の請求項を参照して記述される。しかしながら、当業者は、上記および下記の記述から、特に断わりのない限り、ある型の主題に属する特徴の任意の組み合わせに加えて、異なる主題に関する特徴の間の他の任意の組み合わせも本願で開示されていると考えられることを理解するであろう。しかしながら、特徴の単なる寄せ集め以上の相乗効果を提供するすべての特徴が組み合わされることができる。
【0083】
本発明は図面および以上の記述において詳細に図示され、記述されているが、そのような図示および記述は制約ではなく例解または例示するものと考えられるべきである。本発明は開示されている実施形態に限定されるものではない。開示されている実施形態に対する他の変形が、図面、本開示および付属の請求項の吟味から、特許請求される発明を実施する際に当業者によって理解され、実施されることができる。
【0084】
請求項において、「有する/含む」の語は他の要素やステップを排除するものではない。単数表現は複数を排除するものではない。単一のプロセッサまたは他のユニットが請求項において記述されているいくつかの項目の機能を充足してもよい。ある種の施策が互いに異なる従属請求項において記載されているというだけの事実が、これらの施策の組み合わせが有利に使用できないことを示すものではない。請求項に参照符号があったとしても、範囲を限定するものと解釈するべきではない。
本発明は、オブジェクトの複数物質分解のための装置に関する。オブジェクトの少なくとも一つの画像を提供する(310)ことが記載される。前記少なくとも一つの画像は、オブジェクトの少なくとも一つの分光X線画像から導出され、前記少なくとも一つの画像は、光電全減衰係数画像およびコンプトン散乱全減衰係数画像を含む。複数の物質について複数の光電減衰係数が提供され(320)、各光電減衰係数は対応する物質に関連付けられている。前記複数の物質について複数のコンプトン散乱減衰係数が提供され(330)、各コンプトン散乱減衰係数は対応する物質に関連付けられている。前記少なくとも一つの画像におけるある画像位置における全体積制約条件が、その画像位置における前記複数の物質の個々の体積の和の関数として設定される(340)。全体的関数に従って前記画像位置における前記複数の物質の体積分率が決定され(350)、該全体的関数は:前記光電全減衰係数画像から取られた前記画像位置における光電全減衰係数、前記コンプトン散乱全減衰係数画像から取られた前記画像位置におけるコンプトン散乱全減衰係数;前記複数の物質についての前記複数の光電減衰係数;前記複数の物質についての前記複数のコンプトン散乱減衰係数;および前記全体積制約条件を含む。前記複数の物質の体積分率を表わすデータが出力される(360)。