(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の正規化手段は、前記心拍信号の強度のデータについて所定時間の移動平均値を求め、前記心拍強度のデータを前記移動平均値によって除した値を100倍することによって前記第1の正規化処理を行うこと
を特徴とする請求項1記載の睡眠段階判定装置。
前記第2の正規化手段は、前記心拍信号の強度の全区間のデータについて所定時間の移動平均値を求め、さらに前記移動平均値の平均値を求め、前記平均値で前記移動平均値を除した値を100倍することによって前記第2の正規化処理を行うこと
を特徴とする請求項1記載の睡眠段階判定装置。
前記第3の正規化手段は、前記第1の正規化心拍強度の全区間のデータについて最大値及び最小値を求め、これら最大値と最小値との差分を所定幅とするように調整することによって前記第3の正規化処理を行うこと
を特徴とする請求項1記載の睡眠段階判定装置。
【背景技術】
【0002】
睡眠は健康のバロメータであるといわれ、快適な睡眠をして気分のよい目覚めができれば、目覚めた際に颯爽とした気分となり健康を実感することは、日常において多く経験する。一方、不眠症や不眠傾向にある場合や、深夜労働等のために昼夜の生活が逆転した睡眠を強いられる場合等においては、その目覚めの後の気分は芳しくないことが多い。すなわち、意識的であるか無意識的であるかにかかわらず、睡眠の状態がその後の覚醒時の気分や行動に影響を及ぼし、ひいては覚醒後の活動の質を定めることになる。
【0003】
このように、睡眠は、人間の身体活動及び心的活動に重要な影響を及ぼす要素であり、良好な睡眠をとることができれば身体的及び心的に健康的な日常活動が保証されるといってよい。快適な睡眠をとることができれば心的には安定した状態となり、また、精神的に安定していれば快適な睡眠をとることができることが知られている。したがって、個人の健康状態について調べる際に、睡眠をその判定指標とすることが多く、睡眠と健康とが密接に関連していることはよく知られているところである。健康と睡眠の深さ及びその質が翌日の気分や気力と密接に関連しており、精神的なストレスや体調が不良である場合には、眠りの深さや睡眠段階の推移パターンに変化が起こり、快適な睡眠が得られない。
【0004】
健康な睡眠では、入眠した後にレム睡眠段階とノンレム睡眠段階とが所定間隔で繰り返し現れるが、体調を崩しているときや、精神的なストレスがかかっているときには、そのリズムが乱れることが知られている。したがって、夜間の睡眠中の睡眠段階とその発生パターンとを監視することにより、利用者の精神的なストレスや体調の不良を知ることが可能となる。
【0005】
特に高齢者は、眠りが浅い等の睡眠の不調を訴える人が多く、睡眠の質が問題となる。睡眠の質を知るためには睡眠段階の推移を知ることによって改善する対処法や措置を見出すことが可能となる。
【0006】
従来から、睡眠段階を知る方法としては、睡眠深度の国際判定基準である睡眠ポリソムノグラフ(PSG)を用いる方法が一般的である。PSGを用いる方法では、睡眠中の脳神経系の活動を、脳波、表面筋電位、眼球運動等から推定することにより、睡眠に関する多くの情報を得ることができる。
【0007】
しかしながら、PSGを用いる方法では、利用者の顔や身体に多くの電極を装着して測定を行うために、利用者に多くの違和感を与えてしまい、自然な睡眠を得ることが困難であり、さらに、電極の装着も多くの時間を要して極めて煩わしいという問題がある。また、PSGを用いる方法では、第1夜効果として通常の睡眠と異なる環境下で測定された1日目のデータは採用できない上、利用者がそのような環境に慣れるまでに数日から1週間の日時を要するという問題がある。したがって、利用者に与えられる身体的及び肉体的な負担が非常に大きなものとなることから日常的に連続使用することは困難であり、せいぜい数日間にわたる測定が限界である。さらに、この測定は、病院等の特定の施設において取り扱いに習熟した専門家が実施する必要があり、測定に使用する機器も高価であることから、必要とする費用が多額となる。したがって、PSGは、利用者が病院や在宅にて恒常的に使用するには実用的でなく、ましてや日常の健康管理に使用することは困難であるため、睡眠障害に対して有効な治療法となり得る一方で、そのような患者等に適用すること自体が困難であるという矛盾を備えている。
【0008】
そこで、PSGを用いずに、容易に睡眠段階を把握するための方法が提案されている。例えば、腕時計型や布団に敷設するタイプの振動強度測定装置等を用いて心拍信号を測定することによって睡眠段階を判定する方法が知られている。しかしながら、利用者の健康管理用途のためには、少なくとも覚醒/レム睡眠段階、浅いノンレム睡眠段階、及び、深いノンレム睡眠段階という3段階の睡眠段階を把握する必要があるが、この方法においては、覚醒及び睡眠という2段階しか把握することができない。
【0009】
これに対して、特許文献1には、予め設定された時間の窓関数を用いて、心拍数や脈拍数等の生体情報の時系列の時間変化の増減傾向を表すトレンド曲線を算出し、このトレンド曲線に基づいて睡眠状態を判定する睡眠状態判定方法が開示されている。この方法は、覚醒段階、レム睡眠段階、浅いノンレム睡眠段階、及び、深いノンレム睡眠段階の4段階の睡眠段階を判定することができることから、健康管理に用いることは可能である。
【0010】
また、本願発明者も、特許文献2乃至特許文献5等において、睡眠段階を把握する技術を開示している。具体的には、特許文献2には、検出した生体信号を所定の範囲に入るようにゲイン制御を行い、このゲイン値に反比例する信号強度を算出し、この信号強度のばらつきを示す信号強度分散値又はこの信号強度分散値から導出される値を指標値として睡眠段階を判定する技術が開示されている。また、特許文献3には、検出した心拍信号から心拍強度信号を算出し、算出した心拍強度信号の一定時間内のデータの分散値を算出し、この分散値の値から交感神経の活動を把握する技術が開示されている。さらに、特許文献4には、検出した心拍信号のR−R間隔の信号を高速フーリエ変換して求めたパラメータと、心拍信号から算出した信号強度の分散との少なくともいずれか一方を用いて脳波の周波数解析によるδ波成分比率を求め、求めた脳波のδ波成分比率を用いて睡眠段階を判定する技術が開示されている。さらにまた、特許文献5には、心拍信号のR−R間隔の信号を高速フーリエ変換して求めたパワースペクトル密度の極大値から睡眠段階を判定する技術が開示されている。
【0011】
さらに、心拍信号等の生体信号は、その振幅(強度)が利用者や測定装置によって様々であり、個人による差異と測定装置による差異とが生じる。したがって、普遍的な測定を行って睡眠段階判定の精度を高めるためには、算出した心拍信号の強度について個人差や装置差をなくして一般化する必要があり、そのために正規化することが望ましいことが知られている(例えば、特許文献6等参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
社会が複雑化・高度化するにつれて、その状況に対応しようとすることによって起きるストレスが原因で不眠症を訴える人が増加している。現在、不眠症及び不眠の傾向が顕著な人は国民の約20〜30%存在するといわれており、社会構造の変化及び経済活動における競争激化の影響で、24時間就業による交代勤務等のストレスを受けやすい勤務態勢が増加し、睡眠に起因する身体的及び心的不調はますます増加すると考えられる。
【0014】
このような背景のもと、PSGによる国際睡眠深度判定基準と整合をとりながらも、無拘束で計測が可能な技術が待望されている。ここで、PSGによる睡眠段階は、脳波、眼球運動、筋電図等に基づいて、上述した覚醒段階、レム睡眠段階、浅いノンレム睡眠段階、及び、深いノンレム睡眠段階にわけられるが、浅いノンレム睡眠段階及び深いノンレム睡眠段階は、それぞれ、さらに2段階にわけられる。健康成人の安定した睡眠においては、覚醒段階が1〜3%、第1のノンレム睡眠段階が数%、第2のノンレム睡眠段階が50%、第3及び第4のノンレム睡眠段階が20〜30%、レム睡眠段階が20〜30%の比率であり、レム睡眠が約90分周期で現れることが目安として知られている。
【0015】
上述した特許文献1乃至特許文献5をはじめとする従来の技術においては、このような複数段階からなるノンレム睡眠段階を含めて国際睡眠深度判定基準と整合をとった睡眠段階判定を行うものはなかった。
【0016】
また、上述したように、普遍的な測定によって睡眠段階を判定するためには、心拍信号等の生体信号の強度を適切に正規化する必要があるが、特許文献6をはじめとする従来の技術においては、正規化を行うための具体的な手法が開示されていなかった。
【0017】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、利用者にとって身体的及び心的負担を何ら負うことなく、且つ、安価であって利用者が日常的に使用でき、また、適切な正規化手法を採用し、国際睡眠深度判定基準との整合をとりながら睡眠段階を高精度に判定することができる睡眠段階判定装置及び睡眠段階判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
すなわち、上述した目的を達成する本発明にかかる睡眠段階判定装置は、睡眠時に無侵襲且つ無拘束で検出した心拍信号に基づいて利用者の睡眠段階を判定する睡眠段階判定装置において、前記利用者の心拍信号を無侵襲且つ無拘束で検出する心拍信号検出手段と、前記心拍信号検出手段によって検出された心拍信号に対して利得制御を行うことによってピーク値を一定に制御し、そのときの利得の値を用いて算出した心拍信号の強度に対して第1の正規化処理を施す第1の正規化手段と、前記心拍信号の強度に対して第2の正規化処理を施す第2の正規化手段と、前記第1の正規化手段によって得られた
第1の正規化心拍強度に対して第3の正規化処理を施す第3の正規化手段と、前記第1の正規化手段及び前記第3の正規化手段のそれぞれによって得られた前記第1の正規化心拍強度及び第3の正規化心拍強度のデータについての所定時間のデータのばらつきを示す分散値を算出する分散値算出手段と、前記第2の正規化手段によって得られた
第2の正規化心拍強度と、前記分散値算出手段によって算出された前記第1の正規化心拍強度の分散値及び前記第3の正規化心拍強度の分散値とに基づいて前記利用者の睡眠段階を判定する睡眠段階判定手段とを備え、前記睡眠段階判定手段は、前記第2の正規化手段によって得られた前記第2の正規化心拍強度と、前記分散値算出手段によって算出された前記第3の正規化心拍強度の分散値とに基づいて覚醒段階の判定を行い、前記第2の正規化手段によって得られた前記第2の正規化心拍強度と、前記分散値算出手段によって算出された前記第3の正規化心拍強度の分散値とに基づいてレム睡眠段階の判定を行い、前記分散値算出手段によって算出された前記第1の正規化心拍強度の分散値と、前記第2の正規化手段によって得られた前記第2の正規化心拍強度とに基づいて深いノンレム睡眠段階の判定を行い、覚醒段階であると判定した区間のデータと、レム睡眠段階であると判定した区間のデータと、深いノンレム睡眠段階であると判定した区間のデータとを全睡眠時間のデータから差し引いた残りの区間を浅いノンレム睡眠段階の区間であると判定することを特徴としている。
【0019】
また、上述した目的を達成する本発明にかかる睡眠段階判定方法は、睡眠時に無侵襲且つ無拘束で検出した心拍信号に基づいて利用者の睡眠段階を判定する睡眠段階判定方法において、所定の心拍信号検出手段によって前記利用者の心拍信号を無侵襲且つ無拘束で検出する心拍信号検出工程と、信号処理を行うプロセッサが、前記心拍信号検出工程にて検出された心拍信号に対して利得制御を行うことによってピーク値を一定に制御し、そのときの利得の値を用いて算出した心拍信号の強度に対して第1の正規化処理を施す第1の正規化工程と、前記プロセッサが、前記心拍信号の強度に対して第2の正規化処理を施す第2の正規化工程と、前記プロセッサが、前記第1の正規化工程にて得られた
第1の正規化心拍強度に対して第3の正規化処理を施す第3の正規化工程と、前記プロセッサが、前記第1の正規化工程及び前記第3の正規化工程のそれぞれによって得られた前記第1の正規化心拍強度及び第3の正規化心拍強度のデータについての所定時間のデータのばらつきを示す分散値を算出する分散値算出工程と、前記プロセッサが、前記第2の正規化工程にて得られた
第2の正規化心拍強度と、前記分散値算出工程にて算出された前記第1の正規化心拍強度の分散値及び前記第3の正規化心拍強度の分散値とに基づいて前記利用者の睡眠段階を判定する睡眠段階判定工程とを備え、前記プロセッサが、前記睡眠段階判定工程において、前記第2の正規化工程にて得られた前記第2の正規化心拍強度と、前記分散値算出工程にて算出された前記第3の正規化心拍強度の分散値とに基づいて覚醒段階の判定を行い、前記第2の正規化工程にて得られた前記第2の正規化心拍強度と、前記分散値算出工程にて算出された前記第3の正規化心拍強度の分散値とに基づいてレム睡眠段階の判定を行い、前記分散値算出工程にて算出された前記第1の正規化心拍強度の分散値と、前記第2の正規化工程にて得られた前記第2の正規化心拍強度とに基づいて深いノンレム睡眠段階の判定を行い、覚醒段階であると判定した区間のデータと、レム睡眠段階であると判定した区間のデータと、深いノンレム睡眠段階であると判定した区間のデータとを全睡眠時間のデータから差し引いた残りの区間を浅いノンレム睡眠段階の区間であると判定することを特徴としている。
【0020】
このような本発明にかかる睡眠段階判定装置及び睡眠段階判定方法は、無侵襲且つ無拘束で検出した心拍信号の強度のデータについて3種類の正規化処理を行って睡眠段階を判定する。
【発明の効果】
【0021】
本発明においては、無侵襲且つ無拘束で心拍信号を検出することから、利用者にとって身体的及び心的負担を何ら負うことなく、且つ、安価であって利用者が日常的に使用でき、また、適切な正規化手法を採用することによって個人差や装置差をなくすことができ、国際睡眠深度判定基準との整合をとりながら睡眠段階を高精度に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施の形態として示す睡眠段階判定装置の構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態として示す睡眠段階判定装置の構成を示す図であり、
図1において矢視方向からみたときの一部断面図である。
【
図4】第1の正規化心拍強度の時系列波形を示す図である。
【
図5】第2の正規化心拍強度の時系列波形を示す図である。
【
図6】第3の正規化心拍強度の時系列波形を示す図である。
【
図7】第1の正規化心拍強度の分散値の時系列波形を示す図である。
【
図8】第3の正規化心拍強度の分散値の時系列波形を示す図である。
【
図9】心拍強度の時系列波形を示す図であり、覚醒段階の判定について説明するための図である。
【
図10】第3の正規化心拍強度の時系列波形を示す図であり、覚醒段階の判定について説明するための図である。
【
図11】第3の正規化心拍強度の分散値の時系列波形を示す図であり、覚醒段階の判定について説明するための図である。
【
図12】第2の正規化心拍強度の時系列波形を示す図であり、覚醒段階の判定について説明するための図である。
【
図13】本発明による手法によって求めた各睡眠段階の判定結果を示す図であり、覚醒段階の判定について説明するための図である。
【
図14】
図13と対比するために使用されたPSGによる判定結果を示す図である。
【
図15】信号強度の分散値の時系列波形を示す図である。
【
図16】
図15に対応するLF値の時系列波形を示す図である。
【
図17】第3の正規化心拍強度の分散値の時系列波形を示す図であり、レム睡眠段階の判定について説明するための図である。
【
図18】
図17に示す分散値の長期移動平均値の時系列波形を示す図である。
【
図19】第2の正規化心拍強度の時系列波形を示す図であり、レム睡眠段階の判定について説明するための図である。
【
図20】
図18と対比するために使用されたPSGによる判定結果を示す図である。
【
図21】脳波分析によるδ波成分の時系列波形を示す図である。
【
図22】第1の正規化心拍強度の分散値の時系列波形を示す図であり、深いノンレム睡眠段階の判定について説明するための図である。
【
図23】深いノンレム睡眠段階の判定における2次判定処理について説明するための図である。
【
図24】第2の正規化心拍強度の時系列波形を示す図であり、深いノンレム睡眠段階の判定について説明するための図である。
【
図25】本発明による手法によって求めた各睡眠段階の判定結果を示す図である。
【
図26】他の生体信号検出部の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
この実施の形態は、睡眠段階を判定する睡眠段階判定装置である。特に、この睡眠段階判定装置は、睡眠ポリソムノグラフ(PSG)による国際睡眠深度判定基準との整合がとれた睡眠段階の高精度判定を可能とするものである。
【0025】
図1に、本発明の実施の形態として示す睡眠段階判定装置の処理をブロックとして表した構成を示し、
図2に、
図1において矢視方向からみたときの一部断面図を示している。すなわち、睡眠段階判定装置は、寝台21上に横臥している利用者の生体信号を検出する生体信号検出部1と、この生体信号検出部1によって検出された生体信号を増幅する信号増幅部2と、この信号増幅部2によって増幅された生体信号に対してフィルタリング処理を施すフィルタ部3と、このフィルタ部3を通過した心拍信号に対して自動的に利得制御を行う自動利得制御部4と、心拍信号の強度HIを算出する信号強度算出部5と、この信号強度算出部5によって算出された心拍強度HIに対して第1の正規化処理を施す第1の正規化部6と、心拍強度HIに対して第2の正規化処理を施す第2の正規化部7と、第1の正規化部6によって得られた第1の正規化心拍強度HIN1に対して第3の正規化処理を施す第3の正規化部8と、第1の正規化部6及び第3の正規化部8のそれぞれによって得られた第1の正規化心拍強度HIN1及び第3の正規化心拍強度HIN3の分散値HIND1及びHIND3を算出する分散値算出部9と、第2の正規化部7によって得られた第2の正規化心拍強度HIN2と分散値算出部9によって算出された心拍強度の分散値HIND1及びHIND3とに基づいて利用者の睡眠段階を判定する睡眠段階判定部10とを備える。なお、これら各部のうち、少なくとも、信号強度算出部5、第1の正規化部6、第2の正規化部7、第3の正規化部8、分散値算出部9及び睡眠段階判定部10は、例えば、信号処理を行うコンピュータにおけるCPU(Central Processing Unit)やメモリ等のハードウェアを用いて実行可能なプログラムとして実装したり、コンピュータに装着可能な拡張ボードに搭載されたDSP(Digital Processing Unit)等の専用プロセッサを用いて実装したりすることができる。
【0026】
生体信号検出部1は、利用者の微細な生体信号を検出する無侵襲且つ無拘束センサである。具体的には、生体信号検出部1は、圧力検出チューブ1aと、この圧力検出チューブ1aの内部に収容されている空気の微小な圧力変動を検出するセンサである微差圧センサ1bとから構成され、無侵襲且つ無拘束な生体信号の検出手段を構成している。
【0027】
圧力検出チューブ1aとしては、生体信号の圧力変動範囲に対応して内部の圧力が変動するように適度な弾力を有するものを使用する。また、圧力検出チューブ1aとしては、圧力変化を適切な応答速度で微差圧センサ1bに伝達するために、チューブの中空部の容積を適切に選択する必要がある。圧力検出チューブ1aが適度な弾性と中空部容積とを同時に満足できない場合には、圧力検出チューブ1aの中空部に適切な太さの芯線をチューブ長さ全体にわたって装填し、中空部の容積を適切にとることができる。
【0028】
このような圧力検出チューブ1aは、寝台21上に敷設された硬質シート22上に配置される。睡眠段階判定装置においては、厚さ5mm程度の硬質シート22上に弾性を有するクッションシート23が敷設されており、圧力検出チューブ1aの上に利用者が横臥することになる。なお、圧力検出チューブ1aは、クッションシート23等に組み込んだ構成とすることにより、圧力検出チューブ1aの位置を安定させる構造としてもよい。
【0029】
微差圧センサ1bは、微小な圧力の変動を検出するセンサである。本実施の形態においては、微差圧センサ1bとして、低周波用のコンデンサマイクロフォンタイプのものを使用するが、これに限定されるものではなく、適切な分解能とダイナミックレンジとを有するものであればよい。本実施の形態において使用した低周波用のコンデンサマイクロフォンは、一般の音響用マイクロフォンが低周波領域に対して配慮されていないのに引き替え、受圧面の後方にチャンバーを設けることによって低周波領域の特性を大幅に向上させたものであり、圧力検出チューブ1a内の微小圧力変動を検出するのに好適なものである。また、このコンデンサマイクロフォンは、微小な差圧を計測するのに優れており、0.2Paの分解能と約50Paのダイナミックレンジとを有し、通常使用されるセラミックを利用した微差圧センサと比較して数倍の性能を持つものであり、生体信号が体表面に通して圧力検出チューブ1aに加えた微小な圧力を検出するのに好適なものである。また、周波数特性は、0.1Hz〜30Hzの間で略平坦な出力値を示し、心拍及び呼吸等の微小な生体信号を検出するのに適している。
【0030】
本実施の形態においては、一方が利用者の胸部の部位の生体信号を検出し、他方が利用者の臀部の部位を検出するように、2組の圧力検出チューブ1aが設けられており、利用者の就寝の姿勢にかかわらず生体信号を検出するように構成されている。なお、睡眠段階判定装置においては、胸部の部位又は臀部の部位の一方のみに圧力検出チューブ1aを配置する構成としてもよい。このような生体信号検出部1によって検出された生体信号は、信号増幅部2に供給される。睡眠段階判定装置は、このような無侵襲且つ無拘束で生体信号を検出する構成とすることにより、日常生活において容易に使用することができ、特に高齢者の使用に極めて好適である。
【0031】
信号増幅部2は、後の処理工程で処理できるように生体信号検出部1によって検出された信号を増幅し、さらに、明らかに異常なレベルの信号を除去する等して適切な信号整形処理を行う。この信号増幅部2によって増幅された生体信号は、フィルタ部3に供給される。
【0032】
フィルタ部3は、信号増幅部2によって増幅された生体信号から不要な信号をバンドパスフィルタ等によって除去することにより、心拍信号を抽出する。すなわち、生体信号検出部1によって検出された生体信号は、人体から発する様々な振動が混ざり合った信号であり、その中に心拍信号の他、寝返り等による体動信号等の様々な信号が含まれている。このうち、心拍信号は、心臓のポンプ機能に基づく圧力の変化(すなわち血圧)が振動となって生体信号に含まれるものである。睡眠段階判定装置においては、これをフィルタ部3によって抽出することにより、心拍信号として認識する。このフィルタ部3を通過した心拍信号は、自動利得制御部4に供給される。なお、心拍信号のサンプル周期は、4ミリ秒としている。
【0033】
自動利得制御部4は、フィルタ部3の出力が所定の信号レベルの範囲内に入るように自動的に利得制御を行ういわゆるAGC回路である。この自動利得制御部4による利得制御は、例えば信号のピーク値が所定の上限閾値を超えた場合に出力信号の振幅が小さくなるように利得を設定するとともに、ピーク値が所定の下限閾値を下回った場合に振幅が大きくなるように利得を設定している。自動利得制御部4は、このような利得制御を行った際の利得の値(係数)を信号強度算出部5に供給する。
【0034】
信号強度算出部5は、自動利得制御部4において心拍信号に対して施した利得制御の係数に基づいて、心拍信号の強度を算出する。上述した自動利得制御部4から得られる利得の値は、信号の大きさが大きいときには小さく、また、信号の大きさが小さいときは大きく設定されることから、利得の値とは反比例の関係で信号強度が表されることになる。信号強度算出部5は、算出した心拍強度HIのデータについて個人差や装置差をなくして一般化するために、心拍強度HIのデータを第1の正規化部6及び第2の正規化部7に供給する。
【0035】
第1の正規化部6は、信号強度算出部5によって算出された心拍強度HIのデータを、その振幅が所定の測定レンジにおさまるように正規化する。具体的には、第1の正規化部6は、例えば
図3に示すような信号強度算出部5によって検出された心拍強度HIのデータについて、直近の150秒間の移動平均値を求め、心拍強度HIのデータを移動平均値によって除した値を100倍することによって正規化を行い、
図4に示すような第1の正規化心拍強度HIN1のデータを求める。第1の正規化部6は、このような処理を、1秒ずつデータをずらしながら行う。なお、この第1の正規化心拍強度HIN1は、深いノンレム睡眠段階の判定に用いられる。第1の正規化部6は、正規化した第1の正規化心拍強度HIN1のデータを第3の正規化部8及び分散値算出部9に供給する。
【0036】
第2の正規化部7は、信号強度算出部5によって算出された心拍強度HIのデータを、その振幅が所定の測定レンジにおさまるように正規化する。具体的には、第2の正規化部7は、心拍強度HIの全区間のデータについて、60秒間の移動平均値を求め、さらにその移動平均値の平均値を求め、その平均値で移動平均値を除した値を100倍することによって正規化を行い、
図5に示すような第2の正規化心拍強度HIN2のデータを求める。第2の正規化部7は、このような処理を、1秒ずつデータをずらしながら行う。なお、この第2の正規化心拍強度HIN2は、覚醒段階、レム睡眠段階及び深いノンレム睡眠段階の判定に用いられる。第2の正規化部7は、正規化した第2の正規化心拍強度HIN2のデータを睡眠段階判定部10に供給する。
【0037】
第3の正規化部8は、第1の正規化部6によって得られた第1の正規化心拍強度HIN1のデータを、その振幅が所定の測定レンジにおさまるように正規化する。具体的には、第3の正規化部8は、第1の正規化心拍強度HIN1の全区間のデータについて、最大値及び最小値を求め、これら最大値と最小値との差分を60%幅とするように調整し、
図6に示すような第3の正規化心拍強度HIN3のデータを求める。なお、この第3の正規化心拍強度HIN3は、覚醒段階及びレム睡眠段階の判定に用いられるが、入眠初期の1時間のデータと離床時に生じる大きな振幅の信号については除外される。第3の正規化部8は、第3の正規化部8は、正規化した第3の正規化心拍強度HIN3のデータを分散値算出部9に供給する。
【0038】
分散値算出部9は、第1の正規化部6及び第3の正規化部8のそれぞれによって得られた第1の正規化心拍強度HIN1及び第3の正規化心拍強度HIN3のデータについて、所定時間のデータのばらつきを示す分散値HIND1及びHIND3を算出する。なお、本実施の形態においては、ある時点において、その時点までの一定時間内にサンプリングしたデータのばらつきを示す指標を分散値と称するものとすると、そのデータの標準偏差を分散値として採用している。具体的には、分散値算出部9は、信号強度のデータが1秒毎に測定されているものとすると、一連の信号強度のデータのうち、例えば60秒間のデータの分散値を算出する。この場合、ある時点から遡及して60秒間のデータ、すなわち、60個の心拍強度データの分散値を算出し、その後、次の1秒後から遡及して60秒間のデータの分散値を算出する、といった処理を繰り返し行う。この結果、分散値算出部9は、信号強度のばらつき(分散値)についての1秒間隔の時系列データを得ることができる。例えば、分散値算出部9は、
図4に示した第1の正規化心拍強度HIN1については、
図7に示すような分散値HIND1のデータを求め、
図6に示した第3の正規化心拍強度HIN3については、
図8に示すような分散値HIND3のデータを求める。分散値算出部9は、このようにして得られた時系列データを睡眠段階判定部10に供給する。
【0039】
睡眠段階判定部10は、第2の正規化心拍強度HIN2と心拍強度の分散値HIND1及びHIND3との時系列データに基づいて、睡眠中の利用者の睡眠段階、すなわち、覚醒段階、レム睡眠段階、浅いノンレム睡眠段階及び深いノンレム睡眠段階の4段階の種別を判定する。なお、体動がある場合には、信号が大きく振れ且つその信号強度の分散値HINDも大きくなる。そこで、睡眠段階判定部10は、このような異常値の影響を除去するため、所定値を超える信号強度の分散値HINDをその所定値で置換する等の異常値処理を行う。そして、睡眠段階判定部10は、判定した睡眠段階情報を出力し、図示しない表示装置に表示させたり、印刷装置によって印刷させたり、記憶装置にデータとして記憶させたりする。なお、この睡眠段階判定部10による処理は、後に詳述するものとする。
【0040】
このような睡眠段階判定装置は、生体信号検出部1によって生体信号を取り込んで検出した生体信号を信号増幅部2によって増幅し、フィルタ部3によって不要な信号をバンドパスフィルタ等によって除去することにより、心拍信号を検出する。そして、睡眠段階判定装置においては、自動利得制御部4による利得制御を行いながら信号強度算出部5によって心拍信号の強度HIを算出し、算出した心拍信号の強度について第1の正規化部6、第2の正規化部7及び第3の正規化部8による正規化を行い、得られた正規化心拍強度HIN2と、正規化心拍強度HIN1及びHIN3のデータについて分散値算出部9によって算出された分散値HIND1及びHIND3とに基づいて、睡眠段階判定部10による睡眠段階の判定を行う。
【0041】
このような睡眠段階判定装置は、睡眠段階判定部10により、最初に覚醒段階の判定を行った後、レム睡眠段階の判定を行い、さらに深いノンレム睡眠段階の判定を行う。睡眠段階判定装置は、深いノンレム睡眠段階の判定において後述する判定修正処理を行い、その結果に応じてレム睡眠段階の判定結果も修正する。そして、睡眠段階判定装置は、覚醒段階、レム睡眠段階及び深いノンレム睡眠段階の区間を決定すると、覚醒段階であると判定された区間のデータと、レム睡眠段階であると判定された区間のデータと、深いノンレム睡眠段階であると判定された区間のデータとを全睡眠時間のデータから差し引いた残りの区間を浅いノンレム睡眠段階の区間であると判定する。睡眠段階判定装置は、睡眠段階判定部10により、各段階の判定を以下のように行う。
【0042】
まず、覚醒段階の判定について説明する。
【0043】
睡眠段階判定部10は、第2の正規化心拍強度HIN2と、第3の正規化心拍強度HIN3の分散値HIND3とに基づいて覚醒段階を判定する。この利点は、覚醒判定の閾値を一定にすることができることにある。具体的には、睡眠段階判定部10は、第3の正規化心拍強度HIN3の分散値HIND3の8%を覚醒段階の判定に使用する共通の閾値とする。すなわち、分散値HIND3がこの閾値8%以上となる区間を覚醒段階の候補とする。
【0044】
より具体的には、睡眠段階判定部10は、分散値HIND3≧W1(=8%)であり且つ第2の正規化心拍強度HIN2≧100−W2(=4%)の場合には、その状態の検出時間が10秒、その状態の継続時間が100秒、その状態の発生間隔時間が700秒である場合に覚醒段階と判定する。一方、睡眠段階判定部10は、分散値HIND3≧W1(=8%)であり且つ第2の正規化心拍強度HIN2<100−W2の場合には、その状態の検出時間が10秒、その状態の継続時間が100秒である場合に覚醒段階と判定する。すなわち、睡眠段階判定部10は、第2の正規化心拍強度HIN2≧100−W2の場合のように、複数の波形を一群ととらえてその区間を覚醒段階と判定するのに対して、第2の正規化心拍強度HIN2<100−W2の場合には、発生間隔時間を使用せず、個々の単独波形に基づいて覚醒段階を判定する。この処理について具体的な信号例を用いて説明すると、以下のようになる。
【0045】
図9に示すような心拍強度HIの時系列データを考えると、
図10に示すような第3の正規化心拍強度HIN3が得られ、この分散値HIND3は、
図11に示すようになる。また、第2の正規化心拍強度HIN2は、
図12に示すようになる。これらのデータに基づいて、上述した条件にあてはまる区間を覚醒段階と判定すると、
図13に示すような判定結果が得られる。なお、PSGによる判定結果は、
図14に示すようになり、
図13に示す判定結果と近い結果が得られた。
【0046】
つぎに、レム睡眠段階の判定について説明する。
【0047】
レム睡眠段階は、自律神経成分と心拍信号のピーク間隔との相互相関が約80%以上であり、心拍強度の分散値と心拍信号のピーク間隔から求めた交感神経成分との関連があることを利用して判定を行う。なお、心拍信号のピーク間隔信号とは、心拍信号の強さがピークとなる付近の波形(R波)の間隔を変数とする信号であり、心拍変動解析においては、R波の隣り合うピークの間隔を表すR−R間隔信号としてよく使用されるものである。また、このピーク間隔信号と自律神経成分との関係は、ピーク間隔信号に対して高速フーリエ変換等の周波数解析を施して算出されたパワースペクトル密度が自律神経系の状態によって異なる様相を示すことに基づいている。すなわち、ピーク間隔信号のパワースペクトル密度は、略0.05Hz〜0.15Hzの帯域と、略0.2Hz〜0.35Hzの帯域とに顕著な極大値が現れるが、略0.05Hz〜0.15Hzの帯域おける極大値をLF値と称し、略0.2Hz〜0.35Hzの帯域における極大値をHF値と称するものとすると、これらHF値及びLF値は、自律神経の活動状況を示すパラメータであり、LF値が大きく且つHF値が小さい場合には、交感神経系が活発で緊張時であることを示し、LF値が小さく且つHF値が大きい場合には、副交感神経系活動が活発であることを示す。睡眠中は心拍数が減少するが、これは緊張時に活発となる交感神経系活動が低下し、弛緩時に活発となる副交感神経系活動が増加することによるものである。すなわち、睡眠の深さの状態によってHF値及びLF値は顕著に変動することになる。具体的には、
図15に示すような信号強度の分散値のデータに対応するLF値のデータは、
図16に示すようになり、高い関連性を有し、11000秒及び16000秒近傍において交感神経系活動及び心拍強度の分散値がいずれも活発になっている。かかる時系列データに対して長期移動平均処理を行うと、交感神経系活動及び心拍強度の分散値が活発な区間は極大値となる。睡眠段階判定部10は、この区間がレム睡眠段階に相当することを利用して判定する。
【0048】
すなわち、睡眠段階判定部10は、第2の正規化心拍強度HIN2と、第3の正規化心拍強度HIN3の分散値HIND3とに基づいてレム睡眠段階を判定する。
【0049】
具体的には、睡眠段階判定部10は、第3の正規化心拍強度HIN3の分散値HIND3に基づいて、睡眠状態の変化と体動によって急激に変化する区間(第3の正規化心拍強度HIN3の分散値HIND3が7%以上変化する区間)を特定し、これを除去する。具体的には、睡眠段階判定部10は、第3の正規化心拍強度HIN3の分散値HIND3の最大値の位置を求め、その50秒前から最大値までの区間を50秒前の値に置換する。また、睡眠段階判定部10は、最大値の位置から50秒後までの区間を50秒後の値に置換する。そして、睡眠段階判定部10は、置換後の値が平均値よりも下がる場合には、第3の正規化心拍強度HIN3の分散値HIND3の平均値とすることにより、睡眠状態の変化と体動によって急激に変化する区間を除去する。睡眠段階判定部10は、かかる処理を行わないと、後述する極大値が多数出現してしまい、レム睡眠段階の特定が困難となる。
【0050】
続いて、睡眠段階判定部10は、第3の正規化心拍強度HIN3の分散値HIND3の長期移動平均値R0(600秒)を求め、この極大値を求める。そして、睡眠段階判定部10は、求めた極大値のうち、睡眠状態の変化から生じる極大値は除き、レム睡眠段階と判定する。すなわち、睡眠段階判定部10は、極大値近傍の部分及び極大値の部分が第2の正規化心拍強度HIN2≧100−W2(=4%)となる区間をレム睡眠と判定する。なお、睡眠段階判定部10は、極大値を100%としたとき、第2の正規化心拍強度HIN2の長期移動平均値がR1(90%)となるまでの区間をレム睡眠段階と判定する。また、レム睡眠段階は、極大値のうち、第3の正規化心拍強度HIN3の分散値HIND3の長期移動平均値の平均値以上の区間をレム睡眠段階と判定する。この処理について具体的な信号例を用いて説明すると、以下のようになる。
【0051】
図17に示すような第3の正規化心拍強度HIN3の分散値HIND3の時系列データを考えると、このままでは極大値が多数出現してレム睡眠段階の特定が困難であることから、睡眠段階判定部10は、睡眠状態の変化と体動によって急激に変化する区間を除去し、
図18に示すようなデータを得る。そして、睡眠段階判定部10は、
図18に示すように、分散値HIND3の長期移動平均値R0(600秒)を求め、その極大値を求める。この場合、600秒の長期移動平均値R0全体の平均値3.6以上となるA〜Fが極大値の候補となる。このうち、候補Bは、
図19に示すように、第2の正規化心拍強度HIN2<100−W2となるため除かれる。なお、PSGによる判定結果は、
図20に示すようになり、
図18に示す判定結果と近い結果が得られた。
【0052】
つぎに、深いノンレム睡眠段階の判定について説明する。
【0053】
睡眠段階判定部10は、第1の正規化心拍強度HIN1の分散値HIND1と、第2の正規化心拍強度HIN2とに基づいて深いノンレム睡眠段階を判定する。
【0054】
具体的には、睡眠段階判定部10は、1次判定処理として、深いノンレム睡眠段階の仮区間(最大区間)を求める。まず、睡眠段階判定部10は、深いノンレム睡眠段階の閾値として、第1の正規化心拍強度HIN1の分散値HIND1の全区間のデータの平均値AVHIDの所定割合を閾値とする。具体的には、睡眠段階判定部10は、分散値HIND1の全区間のデータの平均値AVHIDが4.2とすると、その75%である3.1を閾値とし、この閾値以下の区間を深いノンレム睡眠段階と判定する。ただし、睡眠段階判定部10は、この閾値以上の区間であっても、ノイズを除去した後の分散値HIND1の平均値AVHIDについては+1%の4.1%を閾値とする。そして、睡眠段階判定部10は、かかる閾値条件に加え、その状態の継続時間が40秒以内であり且つその状態となった後600秒経過後の区間を深いノンレム睡眠段階と判定する。すなわち、睡眠段階判定部10は、閾値条件を満たしてから600秒間の区間については浅いノンレム睡眠段階と判定する。これは、
図21に示すように、20%以上が深いノンレム睡眠段階とされる脳波分析によるδ波成分において立ち上がり時間が約600秒要していることを考慮したものである。例えば、
図22に示すような分散値HIND1の時系列データを考えると、A〜Gが深いノンレム睡眠段階の候補となる。
【0055】
つぎに、睡眠段階判定部10は、2次判定処理として、第2の正規化心拍強度HIN2に基づいて、1次判定処理の結果の修正処理を行う。具体的には、睡眠段階判定部10は、
図23に示すように、d1=7%、d2=2%としたとき、第2の正規化心拍強度HIN2から求められるMAVHINSE(=MAVHIN(深いノンレム睡眠段階の始端)−MAVHIN+1(深いノンレム睡眠段階の終端)<2%の場合には、0<MAVHINSE<2の区間については浅いノンレム睡眠段階と判定し、MAVHINSE≦0の区間についてはレム睡眠段階と判定する。また、睡眠段階判定部10は、MAVHINSE≧2%の場合には、深いノンレム睡眠段階と判定する。したがって、睡眠段階判定部10は、
図22に示した分散値HIND1の時系列データに対応する第2の正規化心拍強度HIN2の時系列データが
図24に示すものであるとすると、候補A〜Gのうち、2次判定条件を満足する候補A,C,D,Fを深いノンレム睡眠段階と判定する。
【0056】
睡眠段階判定部10は、このような処理を行うことにより、覚醒段階、レム睡眠段階及び深いノンレム睡眠段階の区間を判定することができる。そして、睡眠段階判定部10は、残りの区間を浅いノンレム睡眠段階と判定する。一例として、本発明による手法によって各睡眠段階を求めたところ、
図25に示すような結果が得られた。これに対応するPSGによる判定結果との比較を行ったところ、次表1に示すようになり、良好に一致した結果が得られた。
【0058】
以上説明したように、本発明の実施の形態として示す睡眠段階判定装置においては、心拍強度について適切な正規化処理を行って得られた心拍強度の分散値に基づいて各睡眠段階を判定することから、個人差や装置差がない普遍的な測定を行うことができ、国際睡眠深度判定基準との整合をとりながら睡眠段階を高精度に判定することができる。
【0059】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではない。
【0060】
例えば、上述した実施の形態では、心拍信号を検出する方法として、利用者の身体の下に敷設した無拘束の生体信号検出部1によって得られた生体信号から心拍信号を抽出する方法を示したが、本発明は、継続的に心拍信号又は心拍信号と同等の信号が得られる検出手段であれば適用可能である。例えば、本発明は、手首や上腕部等の身体に装着するタイプの心拍計や脈拍計であってデータを連続的に記録することが可能なものであれば生体信号検出部1として適用可能である。
【0061】
また、生体信号検出部1としては、上述した中空チューブを用いる代わりに、
図26に示すようなエアマット式の検出手段を用いてもよい。すなわち、
図26に示す生体信号検出部30は、内部に空気を封入したエアマット30aの一端にエアチューブ30bが接続され、さらに、このエアチューブ30bに微差圧センサ30cが接続されて構成される。なお、微差圧センサ30cは、中空チューブを用いた生体信号検出部1の場合において説明したものと同様のものを用いることができる。
【0062】
さらに、上述した実施の形態では、心拍強度のばらつきを示す分散値として標準偏差を採用したが、本発明は、例えば、分散、偏差平方和、所定範囲等の統計量を採用してもよい。
【0063】
このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であることはいうまでもない。