特許第6586584号(P6586584)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6586584
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】自転車用変速機構
(51)【国際特許分類】
   B62M 9/08 20060101AFI20191001BHJP
   B62M 9/00 20060101ALI20191001BHJP
   F16H 9/12 20060101ALI20191001BHJP
   F16G 5/20 20060101ALI20191001BHJP
   F16H 55/38 20060101ALN20191001BHJP
【FI】
   B62M9/08 A
   B62M9/00 B
   F16H9/12 B
   F16G5/20 B
   !F16H55/38 Z
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-55773(P2018-55773)
(22)【出願日】2018年3月23日
(65)【公開番号】特開2019-166951(P2019-166951A)
(43)【公開日】2019年10月3日
【審査請求日】2018年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】511008713
【氏名又は名称】岡田 泰一
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】岡田 泰一
【審査官】 中島 昭浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−183995(JP,A)
【文献】 特開2011−073488(JP,A)
【文献】 特開2009−250337(JP,A)
【文献】 特開昭55−145084(JP,A)
【文献】 特開昭61−074970(JP,A)
【文献】 特開2002−059885(JP,A)
【文献】 特開昭55−123582(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2013−0136320(KR,A)
【文献】 実開平05−047596(JP,U)
【文献】 実公昭33−005526(JP,Y1)
【文献】 実開昭59−029448(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62M 9/00 − 9/148
B62M 25/06
F16H 9/00 − 9/26
F16G 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸と一体に正逆回転可能な駆動側回転体と、
後輪に取り付けられるフリーホイールを中央に有し、正転時には上記フリーホイールを介して上記後輪を回転させる一方、逆転時には上記フリーホイールによって上記後輪に対して相対的に回転するよう構成された従動側回転体と、
上記駆動側回転体と上記従動側回転体とに周回移動可能に巻き掛けられた無端状ベルトとを備え
記従動側回転体に対する上記無端状ベルトの巻き掛ける位置を各回転体の径方向に変更させることによって両回転体の回転速度の比率を変えるよう構成された自転車用変速機構であって、
上記従動側回転体は、各中心軸が回転軸心に一致するとともに当該回転軸心に沿う接近離間動作によって上記無端状ベルトの巻き掛ける位置が径方向に沿って移動するよう構成された一対の従動ディスクを有するディスク体と、
上記両従動ディスクを上記回転軸心に沿って互いに離間させるよう付勢する付勢部材と、
上記回転軸心周りに上記フリーホイールと一体に回転する歯車体と、
上記ディスク体の外面側に設けられ、当該ディスク体が正転する際には上記歯車体の各歯部のいずれか1つに係合して上記歯車体を上記ディスク体と一体に回転させる一方、上記ディスク体を上記歯車体に対して逆転させる際には上記歯車体の各歯部を乗り越えるよう構成された爪部材とを備え、
上記歯車体には、上記回転軸心に沿う方向に変位しながら当該回転軸心周りの周方向に滑らかに連続的に延びる環状傾斜面が形成され、該環状傾斜面には、上記爪部材の側面が摺接可能に上記付勢部材の付勢力によって押し付けられていることを特徴とする自転車用変速機構。
【請求項2】
請求項1に記載の自転車用変速機構において、
上記駆動側回転体は、上記クランク軸の中心線に一致する中心軸周りの周方向に等間隔に設けられた複数の貫通孔を有する第1駆動ディスクと、
該第1駆動ディスクに対向配置され、上記各貫通孔に対応する位置で、且つ、上記第1駆動ディスク側に段差状に張り出すとともに上記駆動側回転体の逆転方向に延びる複数の延出板部を有する第2駆動ディスクと、
上記各延出板部が上記各貫通孔を通過するよう上記第1駆動ディスクに対して上記第2駆動ディスクを接近させ、且つ、上記第1駆動ディスクに対して上記第2駆動ディスクを上記駆動側回転体の逆転方向に回転させることによって互いに対向する位置となった上記延出板部の延出端側と上記第1駆動ディスクとの間にそれぞれ配設された複数のコイルバネとを備え、
上記無端状ベルトは、上記第1及び第2駆動ディスクの間に巻き掛けられ、上記コイルバネの付勢力に抗して上記第1駆動ディスク及び上記第2駆動ディスクが互いに離間すると、巻き掛ける位置が径方向内側に移動する一方、上記コイルバネの付勢力によって上記第1駆動ディスク及び上記第2駆動ディスクが互いに接近すると、巻き掛ける位置が径方向外側に移動するよう構成されていることを特徴とする自転車用変速機構。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の自転車用変速機構において、
上記無端状ベルトは、可撓性部材で形成された一体加工品であり、ベルト内側の面がベルト外側の面よりも小さい四角錐台形状をなすとともに環状に連なる多数のベルト歯部と、該各ベルト歯部の間を橋絡する多数の橋絡部とを備え、
該橋絡部におけるベルト幅方向両側に位置する両側面は、上記ベルト歯部におけるベルト幅方向両側に位置する両側面よりもベルト幅方向内側に位置しており、且つ、ベルト内側の面が上記ベルト歯部におけるベルト内側の面よりもベルト外側に位置する形状をなしていることを特徴とする自転車用変速機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自転車用変速機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、特許文献1に開示されている自転車用変速機構は、クランク軸と一体に回転可能な略円盤状をなす駆動側回転体と、後輪に回転一体に取り付けられた従動側回転体とを備え、駆動側回転体と従動側回転体とには、断面略V字状をなす無端状ベルトが周回移動可能に巻き掛けられている。駆動側回転体は、クランク軸の中心線に沿って対向する第1及び第2駆動ディスクを備え、該第1及び第2駆動ディスクは互いに接近離間可能になっている。そして、無端状ベルトは、第1及び第2駆動ディスクの間に巻き掛けられ、第1及び第2駆動ディスクが互いに離間すると、巻き掛ける位置が径方向内側に移動する一方、第1及び第2駆動ディスクが互いに接近すると、巻き掛ける位置が径方向外側に移動するよう構成され、これにより、両回転体の回転速度の比率が変わるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−183995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1では、ハンドルに取り付けられた操作レバーを操作することによって変速機構を作動させている。
【0005】
しかし、変速機構を操作する操作レバーがハンドルに取り付けられていると、乗員がハンドルから手を離して操作レバーを操作するか、或いは、ハンドルを把持しながら親指等で操作レバーを操作する必要があり、変速機構の操作に気をとられてハンドル操作を誤ってしまうおそれがある。
【0006】
また、特許文献1の操作レバーは、手で回転させることによって変速機構を作動させるようになっていて、操作が煩雑であるという問題もある。
【0007】
さらに、自転車の一般的な変速機構として、多段式外装変速機と多段式内装変速機とがそれぞれ存在するが、両者ともに構造が複雑で製作が困難であるだけでなく、重量及びコストが嵩むという問題があった。
【0008】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、乗員がハンドル操作を誤ることなく変速機構を作動させることができ、しかも、操作が簡単であるとともに製作がし易く、さらには、軽量で、且つ、低コストな自転車用変速機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、クランクの回動方向を反転させることで変速機構が作動するよう工夫を凝らしたことを特徴とする。
【0010】
具体的には、クランク軸と一体に正逆回転可能な駆動側回転体と、後輪に取り付けられるフリーホイールを中央に有し、正転時には上記フリーホイールを介して上記後輪を回転させる一方、逆転時には上記フリーホイールによって上記後輪に対して相対的に回転するよう構成された従動側回転体と、上記駆動側回転体と上記従動側回転体とに周回移動可能に巻き掛けられた無端状ベルトとを備え、上記従動側回転体に対する上記無端状ベルトの巻き掛ける位置を各回転体の径方向に変更させることによって両回転体の回転速度の比率を変えるよう構成された自転車用変速機構において、次のような解決手段を講じた。
【0011】
すなわち、第1の発明では、上記従動側回転体は、各中心軸が回転軸心に一致するとともに当該回転軸心に沿う接近離間動作によって上記無端状ベルトの巻き掛ける位置が径方向に沿って移動するよう構成された一対の従動ディスクを有するディスク体と、上記両従動ディスクを上記回転軸心に沿って互いに離間させるよう付勢する付勢部材と、上記回転軸心周りに上記フリーホイールと一体に回転する歯車体と、上記ディスク体の外面側に設けられ、当該ディスク体が正転する際には上記歯車体の各歯部のいずれか1つに係合して上記歯車体を上記ディスク体と一体に回転させる一方、上記ディスク体を上記歯車体に対して逆転させる際には上記歯車体の各歯部を乗り越えるよう構成された爪部材とを備え、上記歯車体には、上記回転軸心に沿う方向に変位しながら当該回転軸心周りの周方向に滑らかに連続的に延びる環状傾斜面が形成され、該環状傾斜面には、上記爪部材の側面が摺接可能に上記付勢部材の付勢力によって押し付けられていることを特徴とする。
【0012】
第2の発明では、第1の発明において、上記駆動側回転体は、上記クランク軸の中心線に一致する中心軸周りの周方向に等間隔に設けられた複数の貫通孔を有する第1駆動ディスクと、該第1駆動ディスクに対向配置され、上記各貫通孔に対応する位置で、且つ、上記第1駆動ディスク側に段差状に張り出すとともに上記駆動側回転体の逆転方向に延びる複数の延出板部を有する第2駆動ディスクと、上記各延出板部が上記各貫通孔を通過するよう上記第1駆動ディスクに対して上記第2駆動ディスクを接近させ、且つ、上記第1駆動ディスクに対して上記第2駆動ディスクを上記駆動側回転体の逆転方向に回転させることによって互いに対向する位置となった上記延出板部の延出端側と上記第1駆動ディスクとの間にそれぞれ配設された複数のコイルバネとを備え、上記無端状ベルトは、上記第1及び第2駆動ディスクの間に巻き掛けられ、上記コイルバネの付勢力に抗して上記第1駆動ディスク及び上記第2駆動ディスクが互いに離間すると、巻き掛ける位置が径方向内側に移動する一方、上記コイルバネの付勢力によって上記第1駆動ディスク及び上記第2駆動ディスクが互いに接近すると、巻き掛ける位置が径方向外側に移動するよう構成されていることを特徴とする。
【0013】
第3の発明では、第1又は第2の発明において、上記無端状ベルトは、可撓性部材で形成された一体加工品であり、ベルト内側の面がベルト外側の面よりも小さい四角錐台形状をなすとともに環状に連なる多数のベルト歯部と、該各ベルト歯部の間を橋絡する多数の橋絡部とを備え、該橋絡部におけるベルト幅方向両側に位置する両側面は、上記ベルト歯部におけるベルト幅方向両側に位置する両側面よりもベルト幅方向内側に位置しており、且つ、ベルト内側の面が上記ベルト歯部におけるベルト内側の面よりもベルト外側に位置する形状をなしていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明では、乗員がペダルを漕ぐと、駆動側回転体が正転するとともにその駆動側回転体の正転動作に連動して無端状ベルトを介して従動側回転体のディスク体が正転する。すると、爪部材が歯車体の各歯部における1つに係合するので、歯車体とディスク体とが一体に回転し、自転車を前進させることができる。一方、自転車を前進させる方向とは反対側にクランクが回動するよう乗員がペダルを漕ぐと、駆動側回転体が逆転するとともにその駆動側回転体の逆転動作に連動して無端状ベルトを介して従動側回転体のディスク体も逆転する。すると、歯車体に対してディスク体が相対的に逆転し始め、ディスク体に設けられた爪部材が歯車体における各歯部の1つを乗り越える。その際、爪部材の側面に接する環状傾斜面が回転軸心周りの周方向に進むにつれて次第に回転軸心に沿う方向に変位しているので、付勢部材の付勢力によって環状傾斜面に押し付けられた爪部材が環状傾斜面に摺接しながら移動するとともにそれに伴って両従動ディスクが回転軸心に沿って接近又は離間する。そうすると、従動側回転体において無端状ベルトの巻き掛ける位置が径方向に変更され、駆動側回転体と従動側回転体の回転速度の比率を変更させることができる。尚、歯車体における各歯部を爪部材が1つずつ乗り越えるようクランクを反対側に回動させることによって、変速機構の作動を段階的に変更させることができる。このように、乗員は変速機構を操作するのにハンドルから手や指を離す必要が無いので、変速機構の操作に気をとられてハンドル操作を誤るといったことを防ぐことができる。また、乗員が自転車を前進させるために漕ぐペダルの向きを反対にするだけで変速機構が作動するので、変速操作を簡単に行うことができる。また、従来の如き変速機構に比べて構造が簡単で製作が容易であるとともに、部品点数を減らすことができるので、軽量で、且つ、低コストな機構にすることができる。
【0015】
第2の発明では、従動側回転体における無端状ベルトの巻き掛かる位置が径方向に変わったときに、駆動側回転体に対して無端状ベルトにより加わる力が変動して第1及び第2駆動ディスクが互いに接近又は離間するようになる。したがって、変速機構を作動させた場合であっても無端状ベルトを常に張った状態にすることができる。また、第1駆動ディスク、第2駆動ディスク及びコイルバネの3つの種類の部品を少なくとも用意すれば駆動側回転体を組み立てることができるので、部品点数を少なくしてコストを低く抑えることができる。
【0016】
第3の発明では、無端状ベルトが可撓性を有するので、駆動側回転体及び従動側回転体にそれぞれ挟み込まれた状態で当該駆動側回転体と従動側回転体とにしっかりと密着する。また、駆動側回転体及び従動側回転体が回転する際に、駆動側回転体及び従動側回転体の各突条部が橋絡部の側面と当該橋絡部に隣り合う両ベルト歯部とで形成される溝部分に引っ掛かるようになる。このように、本発明の無端状ベルトは、周回移動する際に駆動側回転体及び従動側回転体に対して確実に滑らないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る自転車用変速機構の正面図である。
図2】本発明の実施形態に係る自転車用変速機構における従動側回転体の正面図である。
図3】一部断面が示された図2のIII矢視図である。
図4図3の状態から変速機構が作動した状態を示す図である。
図5図4のV−V線における断面図である。
図6】従動側回転体の分解側面図である。
図7】本発明の実施形態に係る自転車用変速機構における駆動側回転体の正面図である。
図8図7のVIII−VIII線における断面図である。
図9】駆動側回転体における第1駆動ディスクの正面図である。
図10】駆動側回転体における第2駆動ディスクの正面図である。
図11】駆動側回転体を組み立てている途中の状態を示す正面図である。
図12図1のXII−XII線における断面図である。
図13図1のXIII−XIII線における断面図である。
図14図1のXIV矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る自転車用変速機構1を示す。該自転車用変速機構1は、自転車10の駆動部分を構成しており、後輪(図示せず)に取り付けられる略円板状の従動側回転体2と、クランク14に繋がるクランク軸13と一体に正逆回転可能な略円盤状の駆動側回転体3と、該駆動側回転体3と上記従動側回転体2とに周回移動可能に巻き掛けられたゴム製の無端状ベルト4とを備えている。
【0020】
従動側回転体2は、図2乃至図6に示すように、筒中心線が後輪の回転軸心R1に一致する略円筒状の歯車体5を備えている。
【0021】
歯車体5の内方には、後輪に取り付けられるフリーホイール11が固定され、歯車体5は、回転軸心R1周りにフリーホイール11と一体に回転するようになっている。
【0022】
すなわち、歯車体5は、正転時にはフリーホイール11を介して後輪を回転させる一方、逆転時には、フリーホイール11によって後輪に対して相対的に回転するようになっている。
【0023】
歯車体5の外周面には、回転軸心R1に沿って延びる突条をなす歯部5aが回転軸心R1周りに環状に複数並設されている。
【0024】
該歯部5aは、歯車体5の逆転方向に進むにつれて次第に回転軸心R1から離れるように傾斜して延びる摺接面5bと、該摺接面5bの延出端から回転軸心R1に向かって真っ直ぐに延びて隣り合う歯部5aにおける摺接面5bの基端に繋がる係止面5cとを備えている。
【0025】
歯車体5の外周面における両端側には、図3及び図4に示すように、回転軸心R1周りに延びる一対の環状突条部51が設けられている。
【0026】
該各環状突条部51の互いに対向する側には、回転軸心R1に沿う方向に変位しながら当該回転軸心R1周りの周方向に滑らかに連続的に延びる環状傾斜面51aがそれぞれ形成され、該両環状傾斜面51aは、回転軸心R1に沿う方向に対称の形状をなしている。
【0027】
歯車体5の中途部には、各中心軸が回転軸心R1に一致するディスク体6が配設され、該ディスク体6は、互いに対向する一対の従動ディスク61を備えている。
【0028】
該各従動ディスク61の中央部分には、歯車体5がスライド可能に嵌挿される円形のスライド孔61aが貫通形成され、両従動ディスク61は、歯車体5に対して回転軸心R1に沿ってスライドすることによって互いに接近離間可能になっている。
【0029】
従動ディスク61の外周側半分には、図2及び図5に示すように、略扇形状に貫通する複数の窓部61bが中心軸周りに等間隔に形成されている。
【0030】
各従動ディスク61の互いに対向する内側面には、当該従動ディスク61の中心から放射状に延びる複数の突条部61cが形成され、該突条部61cは、図3及び図4に示すように、回転軸心R1から離れるにつれて突出高さが次第に低くなるように緩やかに傾斜した形状をなしている。
【0031】
各従動ディスク61の各突条部61cは、ディスク体6の周方向に交互に位置している。したがって、両従動ディスク61が互いに接近すると、一方の従動ディスク61における各突条部61cの間に他方の従動ディスク61における各突条部61cが入り込むようになっている。また、ディスク体6を正面視で見ると、図2に示すように、一方の従動ディスク61の各窓部61bに他方の従動ディスク61の各突条部61cが見えるようになっている。
【0032】
各従動ディスク61の外側面には、図3及び図4に示すように、回転軸心R1と直交する方向に延びる規制ユニット63が取り付けられている。
【0033】
該規制ユニット63は、回転軸心R1側に開口する中空部64aを内部に有する収容ケース64を備え、中空部64aには、スプリング65と略棒状をなす爪部材66とが順に収容されている。
【0034】
該爪部材66は、回転軸心R1と直交する方向にスライド可能に中空部64aに収容されていて、スプリング65によって回転軸心R1側に付勢されてその先端部分が中空部64aの開口部分から飛び出して各歯部5aの1つに接触している。
【0035】
そして、爪部材66は、ディスク体6が正転(図2のX1方向)する際には歯車体5の各歯部5aのいずれか1つの係止面5cに係合して歯車体5をディスク体6と一体に回転させる一方、ディスク体6を歯車体5に対して逆転(図2のX2方向)させる際には、爪部材66の先端部分が摺接面5bに摺接しながら歯部5aを乗り越えるよう構成されている。
【0036】
歯車体5の中途部には、第1コイルバネ7(付勢部材)が巻装され、該第1コイルバネ7は、両従動ディスク61の間に位置している。
【0037】
第1コイルバネ7は、両従動ディスク61を回転軸心R1に沿って互いに離間させるように付勢していて、これにより、各爪部材66における中空部64aの開口部分から飛び出す先端部分の側面が各環状傾斜面51aに摺接可能に押し付けられている。
【0038】
駆動側回転体3は、図7乃至図11に示すように、クランク軸13の中心線に沿って対向する第1駆動ディスク8及び第2駆動ディスク9と、6つの第2コイルバネ12とを備え、第1駆動ディスク8及び第2駆動ディスク9は、プレス成形により形成されている。
【0039】
第1駆動ディスク8の外周側には、図8に示すように、第2駆動ディスク9から離間する方向に段差状に変形する環状段差部8fが形成されている。
【0040】
一方、第1駆動ディスク8の中央には、図9に示すように、円形の開口部8aが形成され、該開口部8aと環状段差部8fと間には、略長方形状をなす6つの貫通孔8bが中心軸周りに等間隔に形成されている。
【0041】
第1駆動ディスク8における各貫通孔8bの間には、第2駆動ディスク9側に段差状に窪む第1円形段差部8cがそれぞれ形成され、各第1円形段差部8cの中央には、ネジ挿通孔8dが貫通形成されている。
【0042】
また、環状段差部8fの第2駆動ディスク9に対向する面には、第1駆動ディスク8の中心から放射状に延びる突条をなす複数の突条部8eが形成され、該突条部8eは、断面が略三角形状をなすとともに、図8に示すように、第1駆動ディスク8の中心から離れるにつれて突出高さが次第に低くなる傾斜した形状をなしている。
【0043】
第2駆動ディスク9の中央には、図10に示すように、円形の開口部9aが形成されている。
【0044】
第2駆動ディスク9の第1駆動ディスク8に対向する面における外周縁側には、第2駆動ディスク9の中心から放射状に延びる突条をなす複数の突条部9eが形成され、該突条部9eは、断面が略三角形状をなすとともに、図8に示すように、第2駆動ディスク9の中心から離れるにつれて突出高さが次第に低くなるように緩やかに傾斜した形状をなしている。
【0045】
第2駆動ディスク9の内周縁における各貫通孔8bに対応する位置には、図10に示すように、正面視で略L字状をなす6つの延出板部9bが第2駆動ディスク9の周方向に等間隔に、且つ、当該第2駆動ディスク9の中心線側に飛び出すように設けられている。
【0046】
延出板部9bは、第1駆動ディスク8側に段差状に張り出すとともに駆動側回転体3の逆転方向に延びる形状をなしていて、その外形は、第1駆動ディスク8と第2駆動ディスク9とを接近させた際、貫通孔8bに挿通可能な寸法になっている。
【0047】
延出板部9bの先端側には、当該延出板部9bが段差状に張り出す方向と同方向に段差状に窪む第2円形段差部9cが形成され、第2円形段差部9cの中央には、ネジ孔9dが貫通形成されている。
【0048】
各第2コイルバネ12は、図11に示すように、各延出板部9bが各貫通孔8bをそれぞれ通過するように第1駆動ディスク8に対して第2駆動ディスク9を接近させ、且つ、第1駆動ディスク8に対して第2駆動ディスク9を駆動側回転体3の逆転方向(図11のY1方向)に回転させることによって互いに対向する位置となった第1円形段差部8cと第2円形段差部9cとの間にそれぞれ配設されている。
【0049】
そして、第1円形段差部8cと第2円形段差部9cとの間に第2コイルバネ12を配設した状態でネジB1をネジ挿通孔8dに挿通させるとともにネジ孔9dに螺合させることによって第1駆動ディスク8、第2駆動ディスク9及び各第2コイルバネ12が一体になり、図8に示すように、各第2コイルバネ12の付勢力によって第1駆動ディスク8と第2駆動ディスク9とが互いに密着するとともに、各第2コイルバネ12の付勢力に抗して第1駆動ディスク8及び第2駆動ディスク9を互いに接近させることができるようになっている。
【0050】
無端状ベルト4は、図1図12乃至図14に示すように、ベルト内側の面がベルト外側の面よりも小さい略四角推台形状をなすベルト歯部4aが環状に多数連なる形状をなしており、各ベルト歯部4aの間には、当該各ベルト歯部4aを橋絡する橋絡部4bが形成されている。
【0051】
該橋絡部4bにおけるベルト幅方向両側に位置する両側面は、図12乃至図14に示すように、各ベルト歯部4aにおけるベルト幅方向両側に位置する両側面よりもベルト幅方向内側に位置しており、且つ、ベルト内側の面が各ベルト歯部4aにおけるベルト内側の面よりもベルト外側に位置する形状をなしている。
【0052】
そして、無端状ベルト4は、従動側回転体2における両従動ディスク61間に巻き掛けられるとともに、駆動側回転体3の第1駆動ディスク8及び第2駆動ディスク9の間に巻き掛けられていて、駆動側回転体3が正転するように乗員が図示しないペダルを漕いでクランク14を一方側に回動させると、第1駆動ディスク8の各突条部8e及び第2駆動ディスク9の各突条部9eが無端状ベルト4に引っ掛かって当該無端状ベルト4を一方側に周回移動させるとともに、当該無端状ベルト4の一方側への周回移動動作によって無端状ベルト4が各従動ディスク61の各突条部61cに引っ掛かって従動側回転体2を正転させる。すると、爪部材66が歯車体5の各歯部5aにおける1つの係止面5cに係合するので、歯車体5とディスク体6とが一体に回転し、自転車10が前進するようになっている。
【0053】
一方、自転車10を前進させる方向とは反対側にクランク14が回動するよう乗員が図示しないペダルを漕ぐと、駆動側回転体3が逆転するとともにその駆動側回転体3の逆転動作に連動して無端状ベルト4を介して従動側回転体2のディスク体6も逆転する。このとき、ディスク体6を歯車体5に対して逆転させるようにすると、爪部材66の先端部分が歯車体5における歯部5aの摺接面5bに摺接しながらディスク体6が歯車体5に対して相対的に逆転して、爪部材66が歯部5aを乗り越える。その際、爪部材66の側面に接する環状傾斜面51aが回転軸心R1周りの周方向に進むにつれて次第に回転軸心R1に沿う方向に変位しているので、第1コイルバネ7の付勢力によって環状傾斜面51aに押し付けられた爪部材66が環状傾斜面51aに摺接しながら移動するとともにそれに伴って両従動ディスク61が回転軸心R1に沿って離間するか、或いは、第1コイルバネ7の付勢力に抗して回転軸心R1に沿って接近する。そうすると、従動側回転体2において無端状ベルト4の巻き掛ける位置が各突条部61cに案内されて径方向に変更される。
【0054】
つまり、従動側回転体2は、両従動ディスク61の回転軸心R1に沿う接近離間動作によって無端状ベルト4の巻き掛ける位置が径方向に沿って移動するよう構成されている。
【0055】
また、従動側回転体2における無端状ベルト4の巻き掛かる位置が径方向に変わると、駆動側回転体3に対して無端状ベルト4により加わる力が変動することによって第1及び第2駆動ディスクが各第2コイルバネ12の付勢力によって互いに接近するか、或いは、各第2コイルバネ12の付勢力に抗して離間する。そうすると、各第2コイルバネ12の付勢力に抗して第1駆動ディスク8及び第2駆動ディスク9が互いに離間する場合には、駆動側回転体3における無端状ベルト4の巻き掛ける位置が径方向内側に移動する一方、各第2コイルバネ12の付勢力によって第1駆動ディスク8及び第2駆動ディスク9が互いに接近する場合には、駆動側回転体3における無端状ベルト4の巻き掛ける位置が径方向外側に移動する。つまり、駆動側回転体3において無端状ベルト4の巻き掛ける位置が径方向に変更される。したがって、変速機構1を作動させた場合であっても無端状ベルト4を常に張った状態にすることができる。
【0056】
このように、本発明の自転車用変速機構1は、従動側回転体2を逆転させて当該従動側回転体2における無端状ベルト4の巻き掛ける径方向の位置の変更と駆動側回転体3における無端状ベルト4の巻き掛ける径方向の位置の変更とを行わせることで従動側回転体2及び駆動側回転体3の回転速度の比率を変更させることができるよう構成されている。
【0057】
そして、歯車体5における各歯部5aを爪部材66が1つずつ乗り越えるようクランク14を反対側に回動させることによって、変速機構1の作動を段階的に変更させることができるよう構成されている。
【0058】
以上より、本発明の実施形態によると、乗員は変速機構1を操作するのにハンドルから手や指を離す必要が無いので、変速機構1の操作に気をとられてハンドル操作を誤るといったことを防ぐことができる。
【0059】
また、乗員が自転車10を前進させるために漕ぐペダルの向きを反対にするだけで変速機構1が作動するので、変速操作を簡単に行うことができる。
【0060】
さらに、従来の如き変速機構に比べて構造が簡単で製作が容易であるとともに、部品点数を減らすことができるので、軽量で、且つ、低コストな機構にすることができる。
【0061】
それに加えて、駆動側回転体3は、第1駆動ディスク8、第2駆動ディスク9及び第2コイルバネ12の少なくとも3つの種類の部品を用意すれば駆動側回転体3を組み立てることができるので、部品点数を少なくしてコストを低く抑えることができる。
【0062】
そして、無端状ベルト4が可撓性を有するので、従動側回転体2及び駆動側回転体3にそれぞれ挟み込まれた状態で当該従動側回転体2と駆動側回転体3とにしっかりと密着する。また、従動側回転体2及び駆動側回転体3が回転する際に、従動側回転体2及び駆動側回転体3の各突条部61c、8e、9eが橋絡部4bの側面と当該橋絡部4bに隣り合う両ベルト歯部4aとで形成される溝部分に引っ掛かるようになる。このように、本発明の無端状ベルト4は、周回移動する際に従動側回転体2及び駆動側回転体3に対して確実に滑らないようにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、自転車用変速機構に適している。
【符号の説明】
【0064】
1 自転車用変速機構
2 従動側回転体
3 駆動側回転体
4 無端状ベルト
4a ベルト歯部
4b 橋絡部
5 歯車体
5a 歯部
6 ディスク体
7 第1コイルバネ(付勢部材)
8 第1駆動ディスク
8b 貫通孔
8e 突条部
9 第2駆動ディスク
9a 延出板部
9e 突条部
10 自転車
11 フリーホイール
12 第2コイルバネ
13 クランク軸
51a 環状傾斜面
61 従動ディスク
61c 突条部
66 爪部材
R1 回転軸心
図1
図2
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