(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記基準導体は、誘電体材料により構成された板の一方の面に設けられ、前記給電線路は、当該板の他方の面に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のアンテナ。
前記アンテナ素子は、パッチアンテナであって、前記基準導体は、当該パッチアンテナの地板を兼ねることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアンテナ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。使用する図面は、本実施の形態を説明するために使用するものであり、実際の大きさを現すものではない。
アンテナは、可逆性により、電波を送信(放射)及び受信することができる。以下では、電波を送信する場合を説明するが、電波を受信する場合にも適用される。電波を受信する場合は、信号の流れの方向を逆にすればよい。
【0013】
(アンテナ1)
図1は、本実施の形態が適用されるアンテナ1の全体構成の一例を示す正面側からの斜視図である。
図1では、アンテナ1を後述するアレイアンテナ20側(正面側)から見た斜視図である。なお、アンテナ1の内部を明瞭に示すために、後述する筐体50を破線で示している。
アンテナ1は、アレイアンテナ20と、給電回路30と、接続ケーブル40―1、接続ケーブル40―2(区別しない場合は、接続ケーブル40と表記する。)と、筐体50と、信号が入出力されるコネクタ60−1、60−2(区別しない場合は、コネクタ60と表記する。)とを備える。なお、コネクタ60−1側に設けられる接続ケーブル40−1は、給電回路30の裏になるため表記していない。
給電回路30を給電基板と表記することがある。
コネクタ60−1、60−2には、同軸ケーブルが接続される。
【0014】
アレイアンテナ20は、例えば、4つのパッチアンテナ21−1〜21−4(区別しない場合は、パッチアンテナ21と表記する。)を備える。4つのパッチアンテナ21−1〜21−4は、水平方向に2つ、垂直方向に2つ配列されている。
パッチアンテナ21の形状は、一例として、正方形であって、平行な二辺が垂直方向と水平方向とを向いている。
パッチアンテナ21は、アンテナ素子の一例である。
【0015】
ここでは、パッチアンテナ21−1に示すように、直交する二辺にそれぞれ給電点22a、22bを備える。そして、給電点22aには、垂直偏波の信号が、給電点22bには、水平偏波の信号が供給される。符号を付すことを省略するが、他のパッチアンテナ21−2、21−3、21−4についても同様である。
すなわち、アレイアンテナ20は、偏波共用アンテナである。
【0016】
給電回路30は、後述するコネクタ60−1に接続された同軸ケーブル(不図示)からの垂直偏波の信号と、コネクタ60−2に接続された同軸ケーブル(不図示)からの水平偏波の信号とを、パッチアンテナ21−1〜21−4のそれぞれに分配する。
給電回路30は、パッチアンテナ21−1〜21−4側に、接地電位(GND)などの基準電位に設定された基準導体31を備える。そして、給電回路30は、パッチアンテナ21−1〜21−4側と反対側に、垂直偏波の信号及び水平偏波の信号を分配するとともに、給電する給電線路32を備える(後述する
図4参照)。後述するように、給電線路32と基準導体31とは、マイクロストリップラインを構成する。
そして、給電回路30は、絶縁材料で構成された支柱を介して、筐体に固定されている。
【0017】
基準導体31は、パッチアンテナ21における地板(導体板)として機能する。よって、パッチアンテナ21と基準導体31との距離(間隔)は、パッチアンテナ21、すなわち、アレイアンテナ20の放射特性によって設定される。
基準導体31が、パッチアンテナ21の地板(導体板)及びマイクロストリップラインである給電線路32の基準導体を兼ねることで、アンテナ1が小型化される。
なお、導電性材料で構成された地板(導体板)を基準導体31と別に設けてもよい。
【0018】
そして、アンテナ1は、給電回路30の縁辺部に、給電回路30からアレイアンテナ20の反対側に張り出すように設けられた張出導体33−1〜33−4(区別しない場合は、張出導体33と表記する。)を備える。張出導体33は、導電性材料で構成され、基準導体31と直流的に接続されている。例えば、張出導体33は、銅で構成された断面L字の部材であって、給電回路30の縁辺部において、L字の一面に当たる部分が基準導体31にはんだなどにより固定される。すなわち、張出導体33は、基準導体31と直流的に接続されている。
【0019】
そして、アンテナ1は、給電回路30の張出導体33の外側に、誘電体材料で構成された絶縁性の絶縁フィルム34を備える(
図4(b)、
図5参照)。絶縁フィルム34は、張出導体33と後述する筐体50の側面部52とが、直流的に接続される(接触する)ことを抑制するもの(絶縁するもの)であればよい。なお、張出導体33と筐体50の側面部52とが直接接触しなければ、すなわち、空気で隔てられていれば、絶縁フィルム34を備えることを要しない。絶縁フィルム34には、例えば、絶縁テープが使用できる。
【0020】
コネクタ60から供給される信号及び基準電位が、接続ケーブル40を介して、給電回路30に供給される。
【0021】
筐体50は、導電性材料で構成され、底面部51と、底面部51の縁辺から立ち上がる側面部52−1〜52−4(区別しない場合は、側面部52と表記する。)とを備える。そして、筐体50は、アンテナ1の給電回路30側を覆う。この際、側面部52は、給電回路30の張出導体33を内側にして、張出導体33と対向する。後述するように、側面部52は張出導体33と近接して設けられることが好ましい。このため、張出導体33の表面に、絶縁フィルム34を設けて、側面部52と張出導体33とが直流的に結合する(接触する)ことを抑制する。
なお、絶縁フィルム34は、張出導体33に設ける代わりに、筐体50の側面部52の内側に設けてもよい。
ここで、絶縁フィルム34は、絶縁部材の一例である。
【0022】
また、
図1とは逆に、張出導体33が筐体50の側面部52の外側になるようにしてもよい。この場合、絶縁フィルム34を設ける場所は、上記とは逆になる。
【0023】
さらに、筐体50を絶縁性材料で構成し、内側又は外側に導電性材料で構成された膜を設けてもよい。この場合であっても、筐体50は、導電性材料で構成されているとする。
【0024】
図2は、本実施の形態が適用されるアンテナ1の全体構成の一例を示す裏面側からの斜視図である。
図2では、筐体50をずらした状態を示している。
図2において、アレイアンテナ20は、給電回路30の裏側になっていて見えない。
そして、給電回路30の筐体50側の面には、給電線路32(後述する
図4参照)が設けられている。
【0025】
筐体50には、コネクタ60−1、60−2が設けられている。また、筐体50には、アンテナ1を壁面などに取付けるための部材が設けられてもよい。
【0026】
アンテナ1は、パッチアンテナ21を用いることで、厚さを薄くできる。すなわち、アンテナ1は、平面アンテナとなる。設置場所に制限のある場所では、厚さが薄い平面アンテナが好ましい。
なお、パッチアンテナ21の代わりにダイポールアンテナなど他のアンテナ素子を用いてもよい。
【0027】
(アレイアンテナ20)
図3は、アレイアンテナ20の一例を示す図である。
図3(a)は、平面図、
図3(b)は、
図3(a)のIIIB−IIIB線での断面図である。
アレイアンテナ20のパッチアンテナ21は、
図3(b)に示すように、例えば、誘電体材料で構成された板状の基体23上に設けられた導電性材料の膜(層)で構成されている。なお、パッチアンテナ21の地板は、給電回路30の基準導体31であるので、
図3(a)、(b)では、パッチアンテナ21の素子部分をパッチアンテナ21とする。
【0028】
基体23は、ガラスエポキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、セラミクスなどの誘電体材料で構成された板である。なお、基体23の誘電体材料は、高周波領域における損失が小さいものが好ましい。
導電性材料の膜(層)は、銅、アルミニウムなどであって、パッチアンテナ21として予め定められた形状(ここでは正方形)に、エッチングなどにより加工される。
なお、パッチアンテナ21の表面側には、シリコーンなどの絶縁性の保護層が設けられてもよい。
【0029】
そして、パッチアンテナ21の直交する二つの辺には、給電回路30から垂直偏波の信号が給電される給電点22aと水平偏波の信号が給電される給電点22bとが設けられる。そして、給電点22a、22bのそれぞれに対応して、給電回路30から延びた給電線(ワイヤ)37a、37b(後述する
図4(a)参照。
図3(b)では、給電線37aを示す。)が貫通する貫通孔24a、24bが、基体23に設けられている。
なお、給電点22a、22b、貫通孔24a、24bは、パッチアンテナ21−1にのみ表記するが、他のパッチアンテナ21−2〜21−4においても同様である。
【0030】
図3(b)では、給電点22a及び貫通孔24aを示している。なお、
図3(b)に示すように、基体23のパッチアンテナ21が設けられていない側には、何も設けられていない。
【0031】
なお、基体23を用いず、金属板等の電導性材料の板などでパッチアンテナ21を構成してもよい。
【0032】
図4は、給電回路30の一例を示す図である。
図4(a)は、平面図、
図4(b)は、
図4(a)のIVB−IVB線での断面図である。
図4(a)に示す平面図は、
図2に示したように、筐体50側から見た平面図である。よって、給電線路32が見える。
また、
図4には、張出導体33及び絶縁フィルム34を合わせて示している。
【0033】
給電回路30の給電線路32は、例えば、誘電体材料で構成された板状の基体35上に設けられた導電性材料の膜(層)で構成されている。そして、給電回路30の基準導体31は、基体35の給電線路32とは反対側の面に設けられた導電性材料の膜(層)で構成されている。すなわち、給電線路32と基準導体31とは、基体35を介したマイクロストリップラインを構成する。
【0034】
基体35は、基体23と同様に、ガラスエポキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、セラミックなどの誘電体(絶縁体)材料で構成された板である。
基準導体31及び給電線路32は、パッチアンテナ21と同様に、基体35の両面に設けられた銅、アルミニウムなどの導電性材料の膜(層)が、エッチングなどによりに加工されて構成される。
なお、基体35の基準導体31側及び/又は給電線路32側に、シリコーンなどの絶縁性の保護層が設けられてもよい。
【0035】
ここでは、基体35を用いたが、基体35を用いずに、導電性材料の板(金属板、金属線)で、基準導体31と給電線路32とを構成してもよい。この場合、給電線路32と基準導体31とは、空気を介したマイクロストリップラインを構成する。
【0036】
そして、給電回路30は、接続ケーブル40−1を介してコネクタ60−1と接続される給電点36−1と、接続ケーブル40−2(
図1参照)を介してコネクタ60−2と接続される給電点36−2とを備える。すなわち、給電点36−1には、垂直偏波の信号が、給電点36−2には、水平偏波の信号が供給される。
【0037】
さらに、給電回路30は、アレイアンテナ20のそれぞれのパッチアンテナ21の給電点22a、22bに対応する位置に、給電線37a、37bを備える。給電線37a、37bは、基体35を貫いて設けられている。
そして、
図3(a)に示したように、アレイアンテナ20の基体23に設けられた貫通孔24a、24bを通って、パッチアンテナ21の給電点22a、22bに接続される。
【0038】
給電線路32を説明する。給電点36−1に接続された給電線路32aは、給電線路32bと給電線路32cとに分岐する。そして、分岐した給電線路32bは、給電線路32dと給電線路32eとに分岐する。また、分岐した給電線路32cは、給電線路32fと給電線路32gとに分岐する。
給電線路32dは、パッチアンテナ21−1の給電線37aに接続され、給電線路32eは、パッチアンテナ21−2の給電線37aに接続される。給電線路32fは、パッチアンテナ21−3の給電線37aに接続され、給電線路32gは、パッチアンテナ21−4の給電線37aに接続される。
給電点36−2に接続された給電線路32も同様である。よって、説明を省略する。
【0039】
なお、給電点36−1からパッチアンテナ21の給電線37aまでの線路長(経路長)は、パッチアンテナ21(パッチアンテナ21−1〜21−4)間において同じになるように設定されている。給電点36−2からパッチアンテナ21の給電線37bまでの経路長も同様である。
すなわち、パッチアンテナ21−1〜21−4には、垂直偏波の信号及び水平偏波の信号が同相で送信される。
【0040】
そして、給電回路30の基準導体31は、給電線37a、37bが基体35を貫く部分を除いて、基体35の全面を覆うように設けられている。
【0041】
そして、
図4(b)に示すように、給電回路30の縁辺部には、断面がL字状の張出導体33が設けられている。そして、張出導体33(
図4(b)では、張出導体33−2、33−4)は、張出導体33が基準導体31と接する部分(
図4(b)の領域α、βなど)で、はんだなどにより基準導体31に取付けられている。
さらに、張出導体33の外側には、絶縁フィルム34が設けられている。
【0042】
図5は、アンテナ1の断面図である。
図5に示す断面図は、
図3(b)と
図4(b)との組み合わせである。すなわち、
図5における最も下側に、筐体50が配置される。その上側に、給電回路30が配置される。そして、最も上に、アレイアンテナ20が配置される。
【0043】
そして、給電回路30の給電線37a、37bが、アレイアンテナ20側に基体23の貫通孔24a、24bを貫通し、アレイアンテナ20におけるそれぞれのパッチアンテナ21の給電点22a、22bに接続される。なお、
図5は
図4(a)のIVB−IVB線での断面図であるので、
図5には、給電線37a、給電点22a、貫通孔24aのみが表記されている。
【0044】
さらに、給電回路30に取付けられた張出導体33−2が、その外側の絶縁フィルム34を介して、筐体50の側面部52−2と対向している。同様に、張出導体33−4が、絶縁フィルム34を介して、筐体50の側面部52−4と対向している。他の張出導体33−1、33−3も同様に、絶縁フィルム34を介して、筐体50の側面部52−1〜52−4と対向している。
【0045】
なお、アンテナ1は、
図5に破線で示すように、アレイアンテナ20の上側に、無給電素子アレイ70を備えていてもよい。無給電素子アレイ70は、パッチアンテナ21−1〜21−4のそれぞれに対応して、4つの無給電素子71を備える。なお、
図5では、パッチアンテナ21−1、21−2及びパッチアンテナ21−1、21−2に対応する無給電素子71−1、72−2を示している。無給電素子71は、パッチアンテナ21と同様に製作される。なお、無給電素子71には、直接特定の電位は供給されない。
【0046】
さらに、アンテナ1は、
図5に破線で示すように、アレイアンテナ20の上側に、パッチアンテナ21、無給電素子71を覆うように、レドーム80を備えてもよい。
レドーム80は、樹脂やFRP(繊維強化プラスチック)等の、電波を透過し易い低誘電率で低誘電損失の材料で構成される。
【0047】
図6は、アンテナ1の指向性を示す図である。
図6(a)は、本実施の形態が適用されるアンテナ1の水平面内の指向性(実施例)、
図6(b)は、本実施の形態が適用されないアンテナ1の水平面内の指向性(比較例)である。縦軸が、放射強度(dB)、横軸が、放射角(°)である。ここで、放射角とは、アレイアンテナ20の中心に立てた垂線に対する角度である。
そして、
図6(a)、(b)に示す実施例及び比較例とも、4GHz帯での実験結果である。
【0048】
図6(a)に示す本実施の形態が適用されるアンテナ1(実施例)は、張出導体33及び絶縁フィルム34を備えるアンテナである。そして、張出導体33の張り出した長さ(基体35と直交する方向の長さ)は中心波長λ
0の1/8(1/8λ
0)に設定されている。
図6(b)に示す本実施の形態が適用されないアンテナ1(比較例)は、張出導体33及び絶縁フィルム34を備えないアンテナである。すなわち、給電回路30の基準導体31が、筐体50の側面部52の近傍まで延びているが、接触していない状態である。
【0049】
図6(a)に示すアンテナ1(実施例)は、
図6(b)に示すアンテナ1(比較例)に比べ、放射角0°近傍(おおよそ±60°の範囲)において対称性がよいとともに、サイドローブの放射強度が低く抑えられている。
【0050】
これは、筐体50と給電回路30の基準導体31とにより構成される空間が、張出導体33を介してシールドされたことによると考えられる。すなわち、給電回路30から発生する不要な電波の輻射が、このシールドされた空間に閉じ込められ、アレイアンテナ20側に漏れ出すことが抑制されている。よって、アレイアンテナ20は、不要な電波の輻射の影響を受けにくい。すなわち、
図6(a)に示した、放射角0°に対して対称性のよい放射特性は、アレイアンテナ20の本来の放射特性(アレイファクタ)であって、給電回路30からの不要な電波の輻射の影響が抑制されているためである。同様に、サイドローブの放射強度に低く抑えられている。
【0051】
一方、
図6(b)に示したアンテナ1(比較例)では、張出導体33を用いていないため、筐体50と給電回路30の基準導体31とにより構成される空間のシールド性が悪い。このため、給電回路30から発生する不要な電波の輻射が、アンテナ1の特性に影響し、対称性を乱すとともに、サイドローブの放射強度を大きくしている。
なお、対称性の乱れは、給電回路30において、給電線路32の配置によると考えられる。すなわち、給電線路32は、信号を分配するように基体35上に設けられる。この際、給電線路32の折れ曲がり部分は、曲率半径が小さいほど、放射強度が大きい不要な電波の輻射を生じやすい。また、基体35の外縁に近い部分では、給電線路32を取り巻く電気力線が、基準導体31に収束せず、基準導体31から漏れやすい。すなわち、基体35の外縁に近い部分に設けられる給電線路32は、基体35の外縁に近いほど不要な電波の輻射を生じやすい。そして、これらの不要な電波の輻射は、周波数が高いほど、放射強度が大きい。
【0052】
しかし、アンテナ1を小型にするには、折れ曲がり部分の曲率半径が小さく、且つ、基体35の外縁の近傍に給電線路32を設けることになる。そして、アンテナ1に用いられる周波数は、高くなっている。
【0053】
そこで、本実施の形態では、導電性材料で構成された筐体50と、給電回路30の基準導体31とで、不要な電波の輻射である電磁波を閉じ込める空間(シールド空間)を構成している。
一般に、電磁波を閉じ込めるシールド空間は、導電性材料である金属板を、ねじやはんだなどでつなぎ合わせて構成される。しかし、複数の金属板をつなぎ合わせた場合、つなぎ合わせた部分において電位が不連続となりやすい。このため、多数のねじやはんだにより金属板を緊密につなぎ合わせることが必要となる。
小さな電子装置などでは、多数のねじやはんだで金属板を緊密につなぎ合わせてもよいが、アンテナ1など、装置が大きくなると、多数のねじやはんだで金属板を緊密につなぎ合わせようとすると、コストが上がってしまう。
【0054】
また、筐体50の底面部51から立ち上がる導体板を、給電線路32の周囲を覆うように衝立状に設けて、チョークとすることが考えられる。チョークとは、不要な電波の中心波長λ
0に対して1/4λ
0の長さの導体板を配置し、往復で1/2λ
0とすることで電波を打消させて電波の伝搬を抑制するものである。しかし、導体板の長さとして、1/4λ
0が必要なことから、筐体50の厚さが、1/4λ
0以上となってしまう。
【0055】
次に、筐体50の底面部51に向かって張り出した張出導体33の長さhとシールド効果との関係について説明する。
図7は、張出導体33によるシールド効果の測定に用いた構成例を示す図である。
図7(a)は、測定用回路90側から見た平面図、
図7(b)は、
図7(a)のVIIB−VIIB線での断面図である。
図7(a)、(b)に示すように、シールド効果の測定に用いた構成例は、測定用回路90と、筐体50とを備える。測定用回路90は、給電回路30と同様に、誘電体材料で構成された板状の基体93上に導電性材料の膜で構成された測定用線路92と、測定用線路92とは反対側の面に設けられた導電性材料で構成された基準導体91とを備える。なお、
図7(a)では、測定用線路92は、基体93の裏面側に設けられているため破線で表記する。測定用線路92と基準導体91とは、マイクロストリップラインを構成する。マイクロストリップラインにおいては、90度の折れ曲がりが存在するラインパターンにおける放射電力は、周波数が高くなるにしたがって大きくなる。そこで、本構成例では測定用線路92を曲がりくねった形状(メアンダ状)にしている。なお、測定用線路92の一端部を給電点とした。測定用線路92の他端部は、開放されている。給電点は、基体93の一つの辺の中央部に設けられている。なお、基体93の給電点と反対側の辺の筐体50の外側を測定点とした。
基準導体91の周囲には、給電回路30と同様に、張出導体33を設けている。張出導体33は、筐体50の底面部51から立ち上がる側面部52と、隙間gで対峙する。ここでは、隙間gを0.5mmとした。すなわち、筐体50と測定用回路90の基準導体91とは、直流的に絶縁された状態となっている。しかしながら、張出導体33と、筐体50の側面部52とは容量結合された状態となっているためシールド効果が期待できる。ここでは、張出導体33の長さhを10mmとした。
【0056】
図8は、シールド効果の測定例を示す図である。
図7(a)に示す測定用回路90の給電点から測定用線路92対して、1GHzから17GHzまでの帯域の信号を給電した。そして、
図7(a)に示す測定点において、筐体50の外部に漏れる電力を1GHz間隔で測定した。
図8において、縦軸は、張出導体33を設けない場合を基準(図中の0dB)とした減衰量(dB)、横軸は周波数(GHz)である。
測定したすべての周波数において減衰量が−10dB以上となり、容量結合によりシールド効果が得られていることが分かる。特に効果が見られるのは、8GHzであるが、4GHzから13GHz、波長λで換算すると張出導体33の長さhが0.13λから0.43λの広い範囲にわたって−20dB以上の減衰量が得られている。なお、8GHzにおいて、特にシールド効果が見られる理由は、張出導体33の長さが波長λに対して1/4λの整数倍の長さに近づくことで、張出導体33がチョークとしても機能するからである。
なお、本測定例では張出導体33の長さhを10mmとしたため、1/4λとなる周波数は、7.5GHzである。
【0057】
本構造では容量結合によりシールドされているため、基本的には波長に対して張出導体33の長さhが長くなるほどシールド効果が大きくなると思われる。しかし、
図8に示すように、実際には周波数がある周波数(例えば12GHz)より高くなると減衰量が減る傾向になっている。これは、容量結合の結合量が少なくなることにより、張出導体33と筐体50の側面部52との隙間(隙間g)から電波が漏れるためと考えられる。
【0058】
したがって、より高い周波数で使用する場合は、張出導体33と筐体50の側面部52との隙間gを狭くすればよい。また、シールド効果を最大限に発揮させるためには、張出導体33の長さhを、使用する波長λの1/4λの整数倍になるようにすればよい。つまり、使用する周波数によって、張出導体33の長さhと、張出導体33と筐体50の側面部52との隙間gとを変更すればよい。
【0059】
アンテナ1においては、給電回路30から発生する不要な電波の輻射がアレイアンテナ20側に漏れて、アレイアンテナ20の特性に悪影響を与えることが抑制されればよい。
すなわち、アンテナ1では、送信する周波数において、不要な電波の輻射が抑制されればよく、直流的に接続されたシールド空間を要しない。そこで、本実施の形態では、筐体50と給電回路30の基準導体31とを容量結合した構造とした。
【0060】
なお、容量結合で構成したシールド空間の場合、容量結合の結合量が大きいことが好ましい。本実施の形態においては、筐体50と給電回路30の基準導体31との間の結合量(静電容量)が大きいことが好ましい。そこで、筐体50の側面部52と給電回路30の基準導体31との間に、基体35から直交する方向に張り出した張出導体33を設け、結合量(静電容量)を調整している。すなわち、
図6(a)のアンテナ1(実施例)と
図6(b)のアンテナ1(比較例)とで、放射特性が異なるのは、給電回路30の基準導体31との間の結合量の差によるものと考えられる。
よって、張出導体33は、筐体50と基準導体31との容量結合の程度、すなわち、アンテナ1の放射特性により設けなくともよい。
図6(a)のアンテナ1(実施例)及び
図8に示すように、張出導体33を用いたとしても、張出導体33の長さhは、1/8λ
0程度であってもよく、チョークの場合(1/4λ
0)に比べて短くできる。
【0061】
なお、絶縁フィルム34は、容量結合のために設けられているのではなく、筐体50と給電回路30の基準導体31に設けた張出導体33とが、振動などにより接触することを抑制するためである。よって、筐体50と張出導体33とが、接触するおそれがなければ、絶縁フィルム34を設けなくともよい。
【0062】
アレイアンテナ20側に給電回路30から輻射された不要な電波が回り込まなければ、アンテナ1の特性に悪影響が生じない。筐体50を用いず、給電回路30における基準導体31の縁辺部(例えば、基準導体31を囲む4辺)に、張出導体33を設けた構成としてもよい。このようにすれば、給電回路30から輻射された不要な電波が、アンテナ1の少なくとも正面側の回り込むことが抑制される。これによっても、給電回路30からの不要な電波の輻射による電磁波によるアンテナ1の放射特性に対する悪影響が抑制される。
【0063】
また、張出導体33の張り出した先に電導性材料からなる板を設け、張出導体33と板とを容量結合させてもよい。また、張出導体33の板に対向する部分を、断面がL字状になるようにして、容量結合の結合量を調整してもよい。
この場合、電導性材料からなる板が、筐体の一例である。
【0064】
以上説明したように、張出導体33は、断面がL字状の電導性材料の一面を基準導体31の縁辺部にはんだなどで取り付けた。しかし、基体35を用いずに、給電線路32及び基準導体31を電導性材料の板で構成する場合には、基準導体31の縁辺を折り曲げて張出導体33としてもよい。
また、ポリイミドなどで構成されたフレキシブル基板を用いて、基準導体31と給電線路32とを構成する場合には、フレキシブル基板を折り曲げて、張出導体33とすればよい。
【0065】
さらに、本実施の形態では、筐体50と給電回路30の基準導体31とを直流的に接続しない。よって、異種の金属を接触させた際に発生する相互変調歪(IM)によるノイズの発生も生じない。
【0066】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。